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研 究
イオ ン照 射 に よ るサ フ ァ イ アの亀 裂 の癒 着 と
非 晶 質 層 の耐 亀 裂 性*
Tatsumi Hioki, Akio Itoh, Shoji Noda, Haruo Doi, Junichi Kawamoto and Osami
Sapphire plates whose strength was degraded previously by Vickers indentation were irradiated with
300 keV Ni+ or 400 keV Mn+ ions, and the strength recovery was studied as a function of ion dose. Also
the strength degradation by Vickers indentation in sapphire plates irradiated previously with 400 keV Mn+
ions to the dose of 5•~ 1017 ions/cm2 was studied to evaluate the resistivity to the crack initiation due to point
contact stresses.
The strength of sapphire plates which were degraded previously to about 50% of the original strength
was recovered to about 90% of the original strength of the sapphire by Ni+ or Mn+ ions irradiation of the dose
of 5 •~ 1017 ions/cm2.
The crack initiation by Vickers indentation was largely retarded by ion irradiation to the sapphire
specimen. The retardation was attributed to the presence of amorphous layer made by Mn+ ions irradi-
イオ ン照 射 に よ りセ ラ ミック スの 強 度 が 増大 す る理 由
I 緒 言
は,表 面 層 に生 じる圧 縮 応 力 に よ る もの と考 え られ て い
セ ラ ミックス の脆 さを克 服 す る こ とは,セ ラ ミ ックス る3,4,7,9).しか し表 面 に 生 じる圧 縮 応 力 だ け で は 説 明 出
を使 う とい う立場 で 最 も大 き な問 題 で あ る.セ ラ ミッ ク 来 な い,む しろ別 の機 構 の存 在 を 示 唆 す る結 果 もえ られ
ス は脆 さ のた め に,表 面 の小 さ な欠 陥(∼50μm)か ら破 て い る7).ま た破 壊 靱性KICが 著 し く増 大 す る理 由 と し
ク スの 信頼 性 を小 さな もの に して い る. 果 を よ り明 確 な形 で評 価 す るに は,ビ ッカ ース 圧 子圧 入
この よ うな セ ラ ミッ クスの 困 難 を克 服 す るた め に,セ 法 によ り人 工傷 を 付 与 す る方 法 を用 い るの が 適 切 で あ る.
ラ ミック スの 破壊 靱 性 を 向上 させ る 努 力 が 行 わ れ て い す な わ ち人 工傷 を 付 与 した セ ラ ミ ック スに イ オ ン照 射 し,
欠 陥 の破 壊 に対 す る 感受 性 を 小 さ くす る こ と,あ るい は ッカ ー ス圧 子を 圧 入 し,強 度 変 化 の 測 定 に よ りイ オ ン照
セ ラ ミッ クスの 表 面 改質 を 試 み て来 た2∼8).そ の 結 果 ,
N+,Ar+,Ni+イ オ ンの照 射 によ り,サ フ ァイ ア2,3,7),
* 昭 和62年2月 第18回 高 温材 料 技 術 講 習会 に て一 部 発 表
SiC4),ZrO28)の 曲げ 強 度 が増 大 す る ことを 見 い 出 した. , 昭
和62年7月29日 受 理.
ま たサ フ ァイア にNi+イ オ ンを照 射 す る と,破 壊 靱 性 ** 豊 田 中央 研 究 所(株) ,〒480-11 愛 知 県 愛知 郡 長久 手 町大 字
が著 しく増 大 した7). 長 湫 字 横 道41-1.
1988 年 6 月 (57 )
27 2 日置 辰 視,伊 藤 明生,野 田 正 治,土 井 晴 夫,川 本 淳一,上 垣 外 修 己
重Pに よ って 制 御 され る.
II 実 験 方 法
圧 子圧 入 は空 気 中で 行 い,荷 重 印加 時 間 は30秒 と した.
II−1 試 料 圧 子 圧 入 は 試 験片 の 中央 部 に行 い,圧 入 後圧 子圧 入 部 分
試 験 片 と して はAI2O3単 結 晶(サ フ ァイ ア)を 使 用 に 引張 応 力 が働 くよ う に して,3点 曲 げ 強度 を 測定 した.
した.(0001)面 に平 行 に 切 断 し,ダ イ ヤモ ン ドペ ー ス ト 強度 測 定 時 の 荷 重 印加 速 度 は0.05mm/minと した.
で 鏡面 に仕 上 げ た後,加 工 歪 を取 る た め に1500℃ で5 II-3 亀 裂 の修 復 およ び 耐 亀裂 性 の評 価
時 間 の熱 処理 を行 った 。 試 験片 の大 き さ は,厚 さ1mm, イ オ ン照 射 に よ る亀 裂 の 修 復 の評 価 は,ビ ッカ ー ス圧
幅7mm,長 さ25mmで あ った. 子 を 圧 入 して 人 工 傷 を 付 与 し た サ フ ァイ アの 表面 に,
試 験 片 へ の イ オ ンの 照 射 は,日 新 ハ イ ボル テ ー ジ社 製 Mn+イ オ ンあ るい はNi+イ オ ンを低 温(∼100K)あ る
の400kVイ オ ン注 入 装 置(NH400RM)を 使 用 した. い は高 温(∼523K)で 照 射 し,イ オ ン照射 後3点 曲 げ強
照 射 イ オ ン と し て は,Ni+,Mn+イ オ ンを 使 用 した. 度 を 測 定 す る こ と によ って 行 った.
Table1に 照 射 イ オ ンの 種 類 加 速 エネ ル ギ ー,飛 程 を イ オ ン照射 した サ フ ァ イア の 耐亀 裂 性 の 評価 は,Mn+
示 す.イ オ ン照 射 は3×1014∼5×1017イ オ ン/cm2の 範 イ オ ンを 低 温で5×1017イ オ ン/cm2照 射 した サ フ ァイア
囲で 行 った 。 イ オ ン照 射 時 の 試 料 温度 は,∼100K(低 に,各 種 圧 子荷 重 で ビ ッカ ー ス圧 子 を 圧入 して人 工傷 を
温 照 射),∼523K(高 温照 射)で 行 った 。 ま た ビー ム電 付 与 し,そ の 後3点 曲 げ 強 度 を測 定 す る こと によ って 行
流 密度 は ≦5μA/cm2と した. った.な お これ に先 立 ち,MI1+イ オ ンを低 温 で3×1014
II-2 人 工 傷 の付 与 と曲 げ 試 験 ∼5×1017イ オ ン/cm2の 範 囲 で照 射 した サ フ ァイア に,
ビ ッカ ース 圧 子 を サ フ ァイ アに 圧入 す る と,Fig.1に 0.49Nの ビ ッカー ス 圧 子 を圧 入 して,亀 裂 の長 さ(2c)
見 られ るよ うに,圧 痕 の4隅 を 通 る亀 裂 が 生 じる.こ の と圧 痕径(2a)の 比 を 求 め,ま た ヌ ー プ硬 度を 調 べ,サ
亀 裂 は,Fig.1に 見 られ る よ う に,半 径Cで 特徴づ け フ ァイ ア の靱性 と硬 度 の 照 射 量依 存性 を 調 べ た.
られ る半 円形 の 亀裂 で あ る.亀 裂Cの 大 き さ は,圧 子 荷
III 実 験 結 果
Table 1 Conditions of ion irradiation.
III-1 人 工 傷 の付 与 と曲 げ 強度
Fig.2に サ フ ァイ アに ビ ッカ ー ス圧 子 を圧 入 した 時 に
σfとPと の 間 に は σf∞P-1/3の 関係 が成 立す る こ とが
( 58 ) 「
粉 体 お よ び粉 末 冶 金」 第35巻 第 4 号
イオ ン照 射 によ る サ フ ァイ アの 亀 裂 の癒 着 と非 晶 質 層 の 耐亀 裂 性 27 3
変 化 させ る ことが 可 能 で,こ れ に よ り曲 げ強 度 を 制 御 出
来 る ことが わ か る.
III-2 人 工 傷 を付 与 した サ フ ァ イア の 曲 げ強 度 に 及 ぼ す
イ ォ ン照 射 の 効 果
III-2-1 圧 子荷 重0.49Nで 人 工 傷 を 付 与 した 場合
Fig.3に0.49Nの 圧 子 荷 重で 圧 子 圧 入 した サ フ ァイ
高 温で 照 射 した 場 合 は,曲 げ強 度 の増 加 は,1×1017イ
オ ン/cm2の 照 射量 で も23%で あ った.し か しイオ ン照
Fig. 4 Step height between irradiated and unirradiated
射 量 が5×1017イ オ ン/cm2に な る と,高 温 で 照 射 して sapphire areas as a function of ion dose for the
も低 温 で照 射 した場 合 と同 程 度 に,曲 げ 強 度 が増 大 した. specimen irradiated with 300 keV Ni + or 400 keV
Mn+ ions at 100 or 523 K.
この時 の値 は,未 圧 子 圧 入 サ フ ァイ アの 値 の86%で あ っ
た。 るい はMパ イ オ ンを 低 温 お よび 高 温 で 照 射 した時 に,
サ フ ァイ アのC面 に300keVのNi+イ オ ンを 低 温 で 照 射 部 と未 照 射部 との 間 に生 じた段 差 を 示 す.Fig.4に
2×1015,イ オ ン/cm2以 上 照 射 す る と,非 晶質 化 が起 こ
見 られ る よ う に,Ni+イ オ ンを 低 温 で 照 射 す る と,照 射
る7>.非 晶質化 の起 こる照 射 量 は イオ ン照 射 によ って, 量 が2×1015イ オ ン/cm2以 上 で 段 差 が急 激 に大 き くな
初 め飛 程近 傍 に生 じた 格 子損 傷 が 蓄 積 し,構 造 が 完 全 に り,イ オ ン照 射 量 と共 に さ らに増 大 した.高 温 でNi+イ
ラ ンダ ム にな る照 射 量 で あ る.こ の 照 射量 を 越 え る と, オ ンあ るい はMn+イ オ ンを 照 射 した 場 合 は,照 射 量 が
表 面 に垂 直 方 向 に体 積 膨 脹 が生 じ,蓄 積 され て い た 残 留 1×1017イ オ ン/cm2で も段 差 は現 れ な か った.す なわ ち
応 力 は解 放 され る。 そ れ に伴 って 照 射部 と未 照 射 部 との 高 温 でN鈷 イオ ンあ る い はMn+イ オ ンを照 射 した 時 に
間 に段差 の生 じる のが 見 られ る 。Fig.4にNi+イ オ ンあ は,照 射 量 が1×1017イ オ ン/cm2で も非 晶質 化 しな い
こ とを示 して い る。 照 射 量 が5×1017イ オ ン/cm2に な
る と,Mn+イ オ ンを 高 温 で照 射 した 時 も,低 温 で 照 射
した 時 も大 きな 段 差 を示 した 。
Fig.3とFig.4を 比 較 す る と,人 工傷 を付 与 した サ フ
ァイ ア の イ オ ン照 射 に よ る強 度 の 回 復 は,非 晶質 化 に 伴
う段 差 が十 分 大 き くな る イ オ ン照 射 量 で生 じて い る こ と
がわ か る.
III-2-2 各 種 の圧 子荷 重 で 人 工 傷 を付 与 した 場 合
Fig.5に 各種 の圧 子 荷 重 で人 工傷 を付 与 した サ フ ァイ
ア に400keVのMn+イ オ ンを 低 温 で,5×1017イ オ ン/
cm2照 射 した 時 の 曲 げ強 度 を示 す.図 に見 られ る よ うに,
圧 子 荷 重0.49Nで 人 工傷 を付 与 した 場 合 は,曲 げ 強度
は先 に も述 べ た よ う に大 き く回復 した。 しか し圧 子荷 重
が0.98N以 上 にな る と,強 度 の増 加 は20%程 度 で あ っ
た。 各 圧 子 荷重 の圧 子 圧 入 で サ フ ァイ アの表 面 に生 じる
亀 裂 の大 き さは,圧 子荷 重 が0。49Nでc-7μm,0.98N
でc=12μm,1.96Nでc=20μmで あ った 。 した が っ
Fig. 3 Recovery of the strength of sapphire damaged with て,400keVのMn+イ オ ンを 低 温 で,5×1017イ オ ン/
indentation of vickers indenter (0.49 N) by irradi- cm2照 射 した時,曲 げ 強度 が大 き く回 復 す る人 工 傷 の 大
ation of 300 keV Ni + ions or 400 keV Mn + ions at
100 K or 523 K respectively as a function of ion き さは,7μm程 度以 下 で あ り,人 工 傷 の大 きさ が12μm
dose. に な る と,強 度 の 回 復 は小 さ くな る.し か し400keVの
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27 4 日置 辰視, 伊 藤 明生, 野 田 正 治, 土井 晴 夫 , 川本 淳 一, 上 垣 外 修 己
(a) (b)
破 壊 す る こ と は な か っ た が,Photo.2(b)は たま た ま圧
痕 か ら 破 壊 し た 試 験 片 の 破 断 面 のSEM写 真 で あ る.こ
の 時 の 破 壊 応 力 は0.94GPaで あ っ た.Photo.2(a)に 見
Fig. 5 Recovery of the strength of sapphire damaged with
indentations of vickers indenter of various loads by ら れ る よ う に,イ オ ン照 射 前 の 破 断 面 に は,ラ ジ ア ル/
irradiation of 400 keV Mn+, ions to a dose of メ デ ィ ア ン ク ラ ッ ク の 跡 と ラテ ラ ル ク ラ ッ ク が 観 察 さ れ
5 X 1017 ions/cm2 as a function of indenter load.
た.イ オ ン照 射 した 試 料 の 破 断 面 に は,Photo.2(b)に
見 ら れ る よ う に 最 表 面 か ら2μm程 度 の,内 部 の破 断 の
Mn+イ オ ンの 照 射 に よ って 生 じた 非 晶 質 層 の 厚 み が0:4
様 子 と は 異 な る 層 が 見 ら れ た.こ の 層 は亀 裂 の癒 着 を示
μm(RBS/チ ャネ リ ング に よ り測 定)で あ る こ とを 考 え
して い る も の と 考 え ら れ る.亀 裂 の 癒 着 は,非 晶質 化 に
る と,非 常 に 大 き な 亀 裂 に 影 響 を 与 え て い る と 言 え る.
よ っ て 亀 裂 の 壁 が 垂 直 方 向 に 膨 脹 し,亀 裂 が閉 じた と こ
III-2-3 SEM観 察
ろ に イ オ ン照 射 さ れ る こ と に よ っ て 原 子 混 合 が 生 じて 起
Photo.1に 圧 子 荷 重0.98Nで サ フ ァイ ア の表 面 に ビ
こ る と 考 え られ る.こ の 癒 着 した と 見 られ る 層 の 厚 さ は,
ッカ ー ス 圧 子 を 圧 入 した 時 の 圧 痕 と400keVのMn+イ
非 晶 質 層 の 厚 さ0.4μmと 比 べ る と か な り大 き い.
オ ン を5×1017イ オ ン/cm2照 射 した 後 のSEM観 察写真
III-3 Mn+イ オ ンを 照 射 した サ フ ァイ アの 耐 亀裂 性
を 示 す.写 真 に 見 ら れ る よ う に,未 照 射 の サ フ ァイ ア の
III-3- 1 ヌ ー プ 硬 度,と ビ ッ カ ー ス 亀 裂 の 長 さ(2c)と
表 面 の 圧 痕 の ま わ り に 見 え て い た 亀 裂 は,イ オ ン照 射 に
圧 痕 径(2α)の 比
よ っ て 消 滅 し,圧 痕 の 凹 み も小 さ く な っ て い る こ と が わ
Fig.6に400keVのMn+イ オ ン を 低 温 で,3×1014∼
か る.
Photo.2に 圧 子 荷 重0.49Nで 圧 子圧 入 した サ フ ァイ
射 した サ フ ァ イ ア の 破 断 面 のSEM観 察 写 真(Photo.2
vickers indent on sapphire (001) by 400 keV Fig. 6 Relative knoop hardness (0.24 N) and the ratio of
Mn+ ions irradiation. (a) Before irradiation, the radial crack radius to the indentation half-
(b) after the irradiation to a dose of 5x 1017 diagonal (c/a) formed by vickers indentation as
ions/cm2 at,•`,100 K. a function of Mn+ ions irradiated with 400 keV.
( 60 ) 「粉 体 お よび 粉 末 冶金 」 第35巻 第 4 号
イ オ ン照 射 に よ る サ フ ァイ ア の亀 裂 の 癒 着 と非 晶質 層 の耐 亀 裂 性 27 5
1988 年 6 月 ( 61 )
27 6 日置 辰 視,伊 藤 明 生,野 田 正 治,土 井 晴夫,川 本 淳 一,上 垣 外修 己
面 層 の圧 縮 応 力 だ け で は説 明が 困 難 な 場合 があ る4,7,13)。 は小 さ い と考 え られ る 。
伴 って 残 留 応 力 が 解 放 さ れ る と強 度 は 低 下 す る 。 しか し 圧 子 荷 重 が0.98N,1.96Nで 圧 子圧 入 した サ フ ァイ ア
さ らに イ オ ン照 射 す る と強度 は増 大 した 。 この傾 向 は, の曲 げ 強 度 は,Mn+イ オ ンの 低 温で の照 射 に よ って そ
( 62 ) 「
粉 体 お よ び粉 末 冶 金 」第35巻 第 4 号
イオ ン照 射 に よ るサ フ ァイ ア の亀 裂 の 癒 着 と非 晶質 層 の 耐 亀裂 性 27 7
ァイ アの 強度 を半 減 させ る程 度 の厳 しさの 範 囲 で あ る と 1) 新 原: セ ラ ミ ッ ク ス,21(1986),581.
会 告 会 告
第26回 粉 体 に 関 す る 討 論 会 講 演 募 集 第8回 電 子 材 料 研 究 討 論 会 講 演 募 集
第26回 粉 体 に 関す る討 論会
江見 準 Tel0762(61)2101 内線316
1988 年 6 月 ( 63 )