「材 料 」 (J. Soc. Mat. Sci., Japan), Vol.43, No.493, pp.

1245-1250
, Oct. 1994

論 文

最近 の球状 黒鉛鋳 鉄 の疲労 強度 に及 ぼす黒鉛 と

人工微小 欠 陥の影響 †
遠 藤 正 浩＊ 王 司 兵 ＊＊

Effects of Graphite and Artificial Small Defect on the

Fatigue Strength of Current Ductile Cast Irons

by

Masahiro ENDO* and Xi-Bing WANG**

The fatigue strength of ductile cast irons is strongly influenced by small defects such as graphite,

casting defects, etc. In order to investigate quantitatively the effects of these small defects, rotating

bending fatigue tests of specimens containing an artificial small defect (hole or notch) as well as

smooth specimens were performed on FCD400 and FCD700. The effect of the interaction between

cracks or between a crack and a hole was discussed based on fracture mechanics.

The microscopic observation of the surface and interior of specimens revealed that the fatigue

limit is the threshold stress for propagation of a small crack emanating from a graphite or an artificial

defect. Graphites distributed in the structure of current high-quality ductile cast irons are well sepa-

rated so that the fatigue limit can be modelled regardless of interaction of graphites. Consequently, the

fatigue limit is predicted by the Murakami and Endo's equation, which has been applied to many fati-

gue problems of metals containing a single defect or crack, in terms of •ãarea for a maximum

graphite or defect and the Vickers hardness Hv of matrix.

Key words: Fatigue strength, Current ductile cast irons, Graphites, Small defects, Interaction,

Fracture mechanics, Geometrical parameter, Maximum size of defects

1 緒 言 張 応 力 方 向 に 垂 直 な平 面 に投 影 した面 積 の 平 方 根 と し
球 状 黒 鉛 鋳鉄 の組 織 内 に は無 数 の 黒 鉛 が微 小 欠 陥 と て 定 義 さ れ る.式(1)の 予 測 誤 差 は,√area<1000

して存 在 して お り,そ の疲 労 強 度 は,同 じ基 地硬 さを μm, Hv=70∼720の 範 囲 で は ほ とん ど10%以 内であ

持 つ 欠 陥 が な い鉄 鋼 材 料 の疲 労 強 度 よ りか な り低 い. る こ とが,100以 上 の実 験 デ ー タに基 づ き示 され てい

黒 鉛 以外 に も鋳 造 欠 陥 の よ う な微 小 欠 陥 が しば しば 有 る.

害 に作 用 して疲 労 強 度 を低 下 させ 強 度 の ば らつ きを 大 本 研 究 は,黒 鉛 に よ る干 渉効 果 の破 壊 力 学 的 考 察 と
き くす る.し たが っ て,疲 労 強 度 を予 測 す るた め に は, 疲 労 限 度 現 象 の 微 視 的観 察 に 基 づ き,式(1)を 用いて
これ らの微 小 欠 陥 の影 響 を定 量 的 に評 価 す る必 要 が あ 欠 陥材 と平 滑 材 の 統 一 的 な 疲 労 限 度予 測 法 を提 示 す る
る. こ と を 目的 と して い る.√areaパ ラ メ ー タモ デ ル は

村 上,遠1),2)藤
は2次 元 お よ び3次 元 の欠 陥 また は き裂 最 近 多 くの研4)∼13)究
者 に よ って 球状 黒 鉛鋳鉄 に も適 用 さ れ
の 影 響 を定 量 的 に 評価 す る た め の モ デ ル と して,応 力 て きて い る.し か し,球 状 黒 鉛 鋳 鉄 は内在 す る無 数 の

解 析 に基 づ き√areaパ ラ メ ー タモ デ ル を提 唱 し多 く 黒 鉛 が 互 い に接 近 して い る ので,式(1)の 使用 に当っ

の疲 労 問 題 に適 用 した3).その モ デ ル の成 功 した応 用 の て は 疲労 限度 に及 ぼす 黒 鉛 の 干 渉 の 影 響 につ い て議 論

ひ とつ と して は,微 小 な 表 面 欠 陥 あ る い は き裂 を有 す して お く必要 が あ る.鳥 山 ら13)は

先 に,接 近 した 欠 陥 の
る金 属 材 料 の疲 労 限 度 を予 測 す る次 の 簡便 な式 の提 案 干 渉 を考 慮 した √areaの 値 の 算 定 法 を提 案 し,こ れ
が挙 げ られ る. を1960年 代 に生 産 され た球 状 黒 鈴 鋳 鉄 に適 用 して そ の
σw=1.43(Hv+120)/(√area)1/6 (1) 有 効 性 を示 した.し か し,そ の後30年 の技 術 の進 歩 に
こ こ に σw(MPa)は 応 力 比R=-1の 場合 の疲 労 限 よ っ て最 近 の良 質 な球 状 黒 鉛鋳 鉄 の黒 鉛 は,寸 法 が 小

度,Hvは 基 地 の ビ ッ カ ー ス硬 さ,√area(μm)は 幾 さ くな り互 い に よ く分 離 して 分布 して い る3).したが っ

何 学 的 パ ラ メ ー タで あ り,欠 陥 また は き裂 を最 大 引 て,最 近 の材 料 につ い て 黒 鉛 の 干 渉効 果 を再 検 討 して

† 原稿 受 理 平 成5年12月6日 Received Dec. 6, 1993

＊ 正 会 員 福 岡大 学 工 学 部 機 械 工 学 科 〒814-80福 岡 市 城 南 区 七 隈, Dept. of Mech. Eng., Fukuoka Univ., Jonan-ku, Fukuoka, 814-80

＊ ＊ 福 岡大 学 大 学 院 〒814-80福 岡 市 城 南 区 七 隈, Graduate Student, Fukuoka Univ., Jonan-ku, Fukuoka, 814-80

1246
Table
お くこ と は十 分 意 義 が あ る と考 え られ る.
2 き裂 間 また は き裂 と孔 の 間の 干 渉 効 果 に
つ い て の破 壊 力学 的検 討
球 状 黒 鉛 鋳 鉄 内 部 に 分布 して い る無 数 の黒 鉛 は応 力
集 中源 と して 作 用 して き裂 発 生起 点 とな りやす く,ま
た互 い に干 渉 して 疲 労 強 度 に影 響 を及 ぼす と考 え られ
る.
鳥 山 ら13)は,干
渉 す る3次 元 表面 き裂 の応 力 解 析 結 果
に基 づ き,欠 陥 が 接 近 して い る際 の √areaを
る 評 価基 準 を提 案 した.そ の 基 準 は次 の よ う に な る:
「二 つ の 欠 陥 が 接 近 して存 在 す る と きに は 両 者 の 間 に
小 さい方 の欠 陥 が 入 る空 間が あ れ ば 干 渉 効果 が小 さ く,
疲 労 限度 評 価 の点 か ら は単 独 穴 の 効 果 を考 えれ ば よい.
しか し,両 者 の 間 の空 間が 狭 く,小 さい 方 の 欠 陥 が入
らな い 程 度 で あ れ ば,そ の二 つ の 欠 陥 は初 期 か ら連結
して い る と して √areaを 評 価 す べ きで あ る.」
Fig. 1は,等 しい 表 面 寸 法 を持 つ き裂 と き裂 また は
き裂 と孔 の 間 の 干 渉 効 果 を き裂 先 端 の 応 力 拡 大 係 数
KIに 注 目 して示 した もの で あ る14).き
裂 と欠 陥 が 直 径
と等 しい距 離 に接 近 して い る(e=2a) 2次 元 の場 合 に
は,干 渉 に よ る応 力 拡 大 係 数 の 増 加 は5%程
る.Fig. 1で は き裂(ま た は 孔)の 表 面 寸 法 が 等 し い
場 合 の み示 したが,表 面 寸 法 が 異 な る場合 に つ い て検
討 した結 果 に よれ ば,小 さい 方 の き裂(ま た は孔)の
表 面 寸 法程 度接 近 して も き裂 先 端 の 応 力 拡 大係 数 の増
Fig.1. Interaction
of defectsor cracks
(Elastic
analysis).
遠 藤 正 浩,王 司 兵
I. Chemical composition (wt.%)
加 は5%よ り小 さい.す な わ ち,表 面 寸 法 が 等 し く
な っ たFig. 1の 場 合 に最 も厳 しい こ と にな る.3次 元
の 場合 は2次 元 の場 合 よ りさ ら に干 渉 が 小 さ くな り,
Fig. 1の 半 円 き裂 の 場 合 は 半 径 と等 しい 距 離(e=a)
まで 接 近 して よ うや くKIの 値 の増 加 は約5%と な る.
以 上 の議 論 を総 合 す る と,種 々 の き裂 間 また は き裂 と
欠 陥 に対 して上 述 した鳥 山 らの評 価 基 準 は十 分 安 全 側
にあ り,そ の 手 続 き も単 純 な の で実 用 的 と考 え られ る.
算定す た だ し,球 状 黒 鉛鋳 鉄 の黒 鉛 や他 の欠 陥 は3次 元 で あ
り,最 近 の材 料 で は黒 鉛 が よ く分 離 して い るの で,干
渉 効 果 は小 さい こ とが予 想 され る.し たが っ て,鳥 山
らの 評 価 基 準 につ い て は,新 しい材 料 を用 い て再 検 討
して み る必 要 が あ る.
3 材 料,試 験 片 お よ び 実験 方 法
本 研 究 で 用 い た 材 料 はFCD400とFCD700で あ る.
材 料 の化 学 成 分 をTable I,機 械 的 性 質 をTable IIに
示 す*1.Fig.2に 試験 片 の 横 断 面 の 微 視 組 織 を示 す.い
ず れ の材 料 も,黒 鉛 は互 い に よ く分 離 して 分 布 して お
り黒 鉛 の連 結 は ほ とん どな く,黒 鉛 以 外 の 欠 陥 も小 さ
くそ の 数 も少 なか っ た.FCD400 (A)と(B)は 別 の 時 期
度で あ に製 作 した もの で あ るが,Table IIに 示 され る よ う に,
機 械 的 性 質 に つ い て は ほ とん ど同 じ材 料 で あ る.
平 滑 材 は,Fig. 3に 示 す 形 状 に機 械 加 工 後,バ フ研
磨 を行 っ た.人 工 欠 陥 材 は,Fig. 3の 平 滑 部 中 央 の 表
面 にFig. 4に 示 され る ドリル 穴(直 径:100∼500μm)
ま た は 円周 切 欠 き(深 さ:30∼200μm)を 機械加工 し
た.疲 労 試 験 前 に,す べ て の 試 験 片 は電 解 研 磨 で 約2
μm表 面 層 を除 去 した.
疲 労 試 験 機 は 回 転 数3400rpm (57Hz)の 回転 曲げ
試 験機 を用 い た.疲 労 限 度 は試 験 片 が107回 の繰 返 し
に耐 え た 最大 の公 称 曲 げ応 力 と定 義 した.疲 労 限 度 を
求 め る際 の 試験 応 力 の最 小 きざ み幅 は5MPaと した.
Table II. Mechanical properties.
＊1硬 さの測定値 は黒鉛の影響 によ り大 きくば らつ くので,本 研究 で
は,マ イ クロビ ッカース硬度計(お も り25gr)を 用い て試験 片
横 断面上で黒鉛 を避 けて100点測定 を行い,測 定値の上限値を基地
硬 さと定義 した.
 最近の球状黒鉛鋳鉄の疲労強度 に及 ぼす黒鉛 と人工微小欠陥の影響 1247

Fig. 2. Microstructures.

の 周 辺(3mm×2mm)の 様 子 で あ る.試 験 応 力 が(a)

疲 労 限 度 の 応力:σ=σw0=205MPaの 場 合 と(b)疲 労
限 度 の約5%下 の応 力:σ=195MPaの 場 合 につ い て
示 して い る.矢 印 は停 留 き裂 の位 置 を示 す.疲 労 限度
に お い て,き 裂 は全 体 の 約7%の 黒 鉛 か ら発 生 して
Fig. 3. Smooth specimen for rotating
bending fatigue test. お り,そ の ほ とん どは 起 点 の 黒 鉛 周 辺 で 停 留 し,Fig.
6(a)の よ う な他 の 黒 鉛 と の 連 結 は少 な か っ た .加 藤

ら18)は,FCD600材 の 回転 曲 げ疲 労 限 度 に お い て,停

留 き裂 が 全 表 面 黒 鉛 の 約5%に 発 生 して い た こ と を
報 告 して い る.ま た,広 瀬 ら17)はFCD600相 当材の板
曲 げ疲 労 試 験 を行 い,疲 労 限度 以下 の応 力 で は,き 裂
は黒 鉛 か ら発 生 した 後 す ぐ停 留 し,き 裂 の連 結 は観 察
され なか った と報 告 して い る.球 状 黒 鉛 鋳 鉄 にお い て,
Fig. 4. Artificial
small defectsand the
estimationequations of √area. 大 きい 寸 法 の 疲 労 き裂 に つ い て は,き 裂 と黒 鉛 との 連

結 が 破 壊 まで の 伝 ぱや 下 限界 特 性 に影 響 す る こ とが 多
107回 の繰 返 し に耐 え た試 験 片 は,き 裂 が 観 察 しや く報 告 され て17),20)∼23)い
るの で,黒 鉛 の 干渉 は気 に な る か も知
す い よう に若 干 の 電 解 研 磨 を行 った 後,光 学 顕微 鏡 で れ な い.し か し,観 察 結 果 に よれ ば,疲 労 限度 以 下 の

停留 き裂 の形 状,寸 法,分 布 を調 査 した.一 部 の平 滑 応 力 にお い て 発 生 した微 小 な停 留 き裂 に 限 っ て は黒 鉛

材 は,機 械 研 磨 と電 解 研 磨 を併 用 しな が ら表 面 を徐 々 の 干 渉 の 影 響 はそ れ 程 大 き くな い こ とが予 想 さ れ る.
に取 除 き,内 部 の停 留 き裂 の 形 態 を観 察 した. こ こで,疲 労 限 度 に関 連 した 重要 な現 象,す な わ ち,
4 実 験 結 果 と考 察 き裂 の発 生,伝 ぱ,停 留 そ して 試験 片 の破 断 のす べ て
4・1 試 験 片 表 面 と内 部 観 察 に 基 づ く疲 労 限度 の モ
デル 化
球 状 黒 鉛 鋳 鉄 の 平 滑 材 お よび ドリル 穴 ま た は切 欠 き
を持 つ 試 験 片 の疲 労 限 度 に お い て は,黒 鉛,穴 縁,

切 欠 き底 に停 留 き裂 が 観 察 さ れ る こ とが 知 られ て い
る4),6),7),10),15)∼20).今
回 使用 した 材 料 で も同 様 の 観 察 結 果 を得 た.試

験片 表 面 に おい て は,し ば しば 停 留 き裂 の み が観 察 さ
れ,き 裂 の発 生 起 点 で あ る黒 鉛 が 観 察 され な い こ とが
あ っ た が,Fig. 5に 示 す よ うに,表 面 を わず か に研 磨
す る と表 面 直下 に 隠れ て いた 黒 鉛 が 確 認 され た.以 上
の観 察結 果 は,平 滑 材 を含 め た す べ て の 試験 片 の疲 労

限 度 が,微 小 欠 陥(黒 鉛,そ の 他 の 欠 陥)に 発 生 した き

裂 の伝 ぱ 限界 条 件 で 決 ま って い る こ と を意 味 して い る. Fig. 5. Subsurface configuration of a nonpropagating

Fig. 6は,FCD400 (B)平 滑 材 表 面 の100mm2の 領 crack observed at the fatigue limit of a smooth

域 内 で観 察 され た最 大 表 面 長 さ を有 す る停 留 き裂 とそ specimen. FCD400 (B), σw0=205MPa.

1248 遠 藤 正 浩,王 司 兵

は疲 労 限度 周 辺 の 狭 い応 力 幅 の な か で起 こっ て い る こ 4・2 疲 労 限度 に 及 ぼ す 人工 微 小 欠 陥 の 影 響
と に注 目す べ き で あ る.疲 労 限度 よ り5%高 い応 力 Table IIIに ,平 滑 材 と人 工 欠 陥 材 の 回 転 曲 げ疲 労
で は,ほ とん ど の 試 験 片 は破 断 し,逆 に わず か5% 試 験 の 結 果 を示 す,ド リル穴 お よび 円周切 欠 きの
低 い応 力 で は,Fig. 6(b)に 示 す よ うに発 生 す る き裂 の √areaの 値 は,Fig. 4に 示 され て い る式2),3)を
用 いて計
数 は 全 黒 鉛 の 約3%に 減 少 し,長 さ も短 か くな り, 算 した.Fig. 7に,疲 労 限 度 σwと√areaの 関係 を
連 結 はほ とん ど観 察 さ れ な い.そ して,さ ら に10% 示 す.穴 と切 欠 きの大 きな形 状 の違 い に もか か わ らず ,
低 い応 力 で は,き 裂 の 数 は極 端 に 少 な くな る.こ の 現 人 工 欠 陥 材 の 実 験 結 果 は ひ とつ の パ ラ メ ー タ√area
象 はす で に微 小 な 人 工 の 単独 穴 や切 欠 きを もつ 各 種 材 で統 一 的 に整 理 さ れ て い る.人 工 欠 陥 に よ って 応 力 が
料 の実 験 の 中で は 経 験 的 に 知 られ て お り,高 強 度,高 集 中 す る体 積(危 険体 積)を 同 じ√areaの 値 を持 つ
硬 度 材 料 に な るほ ど応力 幅 は狭 くな る傾 向が あ る. ドリル 穴 と円周 切 欠 きで 比 較 す れ ば,円 周切 欠 きの方
そ こで,本 研 究 に お い て は,疲 労 限度 にお け る停 留 が は る か に大 きい.し か し,本 実 験 結 果 で は,危 険体
き裂 の 挙 動 を次 の よ う に モ デ ル 化 す る:「疲 労 限 度 で 積 の大 小 に よ らず√areaの 値 の み に よっ て疲 労 限 度
は,微 小 欠 陥 か ら生 じた き裂 は そ の近 傍 で伝 ぱ を停 止 が 決 定 され て い る.こ れ は基 地 組 織 の 場 所 に よ る強 度
して他 の 黒 鉛 との 干 渉 は な い.」 停 留 き裂 と複 数 黒 鉛 の ば らつ きが小 さ い こ と を意 味 す る もの で あ る.ま た,
の連 結現 象 が疲 労 限 度 にお い て実 際 に観 察 された 基 地 の ビ ッカ ース 硬 さHvの 値 を用 い て 式(1)か ら計
(Fig. 6)に もか か わ らず,こ の単 純 化 さ れ た疲 労 限 度 算 した予 測 曲線 は実 験 デ ー タ に よ く一 致 して お り,
のモ デ ルで は黒 鉛 の 干 渉 が 無視 され て い る.し か し, √areaパ ラ メ ー タモ デ ル が 球 状 黒 鉛 鋳 鉄 の よ うな 多
こ の仮 定 した 現 象 に 近 い現 象 は真 の疲 労 限度 よ りわ ず 欠 陥材 料 の疲 労 限度 応 力 の予 測 に適 用 可 能 で あ る こ と
か に低 いあ る応 力 にお い て 起 こ る はず で あ り,本 モ デ を示 して い る.
ル に基 づ き疲 労 限 度 を予 測 す る こ とに無 理 は な い と考 4・3 平 滑 材 の 疲 労 限 度 に及 ぼす 黒 鉛 の影 響
え られ る.こ の モ デ ル で は,欠 陥 は互 い に独 立 して 存 他 の 欠 陥 の寸 法(√area)が 組 織 内 の黒 鉛 の 寸 法 よ
在 して い る と仮 定 で きる の で,単 独 欠 陥 で そ の有 効 性 り小 さけ れ ば,疲 労 限度 は黒 鉛 に よ って 決 ま る こ とが
が実 証 され て き た√areaパ ラ メ ー タモ デ ル の適 用 が 予 想 され る.Fig. 7に お い て,あ る 限界 の√areaの
可 能 とな る.そ こ で,以 下 で は√areaを 黒 鉛 とそ の 値 以 下 の 人 工 欠 陥 を もつ 試 験 片 の疲 労 限 度 が 平 滑 材 の
他 の欠 陥 の幾 何 学 的 パ ラ メ ー タ と して採 用 し,ま た式 疲 労 限 度 に 等 し くな る の は,こ の予 想 を裏 付 け る もの
(1)を 疲 労 限 度 を予 測 す る式 と して 用 い,そ れ らの 有 と考 え られ る.
効 性 につ い て検 討 す る. 先 に述 べ た 疲 労 限 度 の モ デ ル に 従 い,黒 鉛 間の干

(a) Maxunum nonpropagating crack (top) observed at the (b) Maximum nonpropagating crack (top) observed at the

fatigue limit in an inspection area of 100mm2 and its 95% stress of fatigue limit in an inspection area of

surroundings (Bottom). σ=σw0=205MPa. 100mm2 and its surroundings (bottom). σ=∼0.95σw0

=195MPa.

Fig. 6. Distributionand sizeof nonpropagating cracks observed at a stress

near fatiguelimit(Replicasof specimen surfaces).
 最近の球状黒鉛鋳鉄の疲 労強度 に及 ぼす黒鉛 と人工微小欠陥の影響 1249

Table III. Experimental results.

(a) Fatigue limits of smooth specimens, σw0(MPa).

(b) Fatigue limits of artificial defect specimens, σw(MPa).

Fig. 8. Distributions of maximum values √areamax

for single graphites and √areamaxi for graphites-

interacting domains. Probability graph of extreme

values.

No data is obtainedfor FCD400 (B).

た50個 の 各視 野 内 に存 在 す る最 大 黒 鉛 につ い て 測 定 し
た 値 で あ る.一 視 野 の 面 積 はS0=1.00mm2と した.
Fig. 8に お け る各 プ ロ ッ ト点 は 良好 な 直 線 性 を示 し,

黒 鉛 の√areaの 最 大 値 分 布 は極 値 統 計 に従 って い る
と思 われ る.Fig. 8か ら,使 用 した3種 の材 料 内 の 単

独 黒 鉛 に対 し て得 られ た√areamaxの 分布 には大 き
な差 が な い こ とが分 か る.
試 験 片 一 本 当 りの高 応 力 を 受 け る表 面 積 は,d=12
mmとd=10mmの 試 験片 に対 し てお の お のS=754
mm2とS=628mm2で あ る(Fig. 3参 照).N本 の試

験 片 に 対 す る √areamaxの 期 待 値 は,再 帰 期 間T
=NS/S0を 用 い てFig. 8の 直 線 の 外 そ うに よっ て 予

測 さ れ る3).N=1と10に 対 し て予 測 した値 をTable

IVに 示 して い る.√areamaxの 期 待 値 は,Fig. 2に

Fig. 7. Relationship between fatigue 見 られ る よ うな 黒 鉛 の √areaの 平 均 値 よ りか な り大

limit σwand √area. き い こ と に 注 意 す べ き で あ る.こ の予 測 した

√area maxの 寸 法 の 最 大 黒 鉛 が 自 由 表 面 直 下 に存 在
渉 効 果 が 無 視 で き る ほ ど 小 さ い と 仮 定 す れ ば,試 験 す る最 も有 害 な場 合 を想 定 す れ ば,平 滑 材 の疲 労 限 度
片 表 面 層 に 存 在 す る 黒 鉛 の 中 で 最 大 の√area の ば らつ きの下 限値 が,√areaの 代 りに√areamax

(√areamax)の 値 を有 す る 黒 鉛 が 平 滑 材 の 回 転 曲 げ疲 の 値 を式(1)に 代 入 して予 測 され る はず で あ る3).ここ

労 限 度 の 決 定 に重 要 な役 割 を果 た す こ とが 想 像 さ れ で 式(1)のHvに は 各 材 料 の 基 地 硬 さ を代 入 す る.
る.組 織 内 に 存 在 す る 最 大 黒 鉛 の 寸 法(√areamax)を Table IVは,予 測 した 下 限値 σw0と実 験 値 σw0expの

直接 測 定 す る こ とは不 可 能 で あ るが,代 りに極 値 統 計24) 値 の比 較 を示 して い る.σw0の 値 は実 験 値 σw0expよ り

を用 い て そ の期 待 値 を 間 接 的 に 予 測 す る こ とが で き 若 干 近 い 値 で あ り,黒 鉛 の 干 渉効 果 を無 視 して仮 定 し
る3),4),6),7). た疲 労 限 度 の モ デ ル が 実 際 の 疲 労 限 度 を予 測 す る際 の
Fig. 8に, FCD400 (A), (B)お よ びFCD700の よ い近 似 で あ った こ と を意 味 して い る.す な わ ち,本
√areamaxの 値 の 累 積 頻 度 分 布 を 白 印 で 示 し て い る. 研 究 で 使 用 した よ うな 最 近 の 良 質 な(黒 鉛 が小 さ く互
√areamaxは,試 験 片 の 横 断 面 か ら無 作 為 に選 ば れ い に よ く分 離 して い る)材 料 の疲 労 限度 は黒 鉛 や微 小
1250 遠 藤 正 浩,王 司 兵

Table IV. Comparison of predicted fatigue に よ っ て 決 ま っ て い る こ と が 明 ら か に な っ た.本 研 究

limits with the experimental values.
で 用 い た よ う な 良 質 な 球 状 黒 鉛 鋳 鉄 は 黒 鉛 が よ く分 離

し て 分 布 し て お り,黒 鉛 に よ る 干 渉 効 果 は 小 さ い こ と

が 試 験 片 表 面 と 内 部 の 微 視 的 観 察 と 破 壊 力 学 的 考 察 に

基 づ き 明 ら か に な っ た.結 局,疲 労 限 度 は,基 地 の

ビ ッ カ ー ス 硬 さHvと 干 渉 効 果 を 無 視 し て 予 測 し た 最

大 黒 鉛 ま た は 微 小 欠 陥 の √areaの 値 を 村 上,遠 藤 の

提 案 し た 式 に 代 入 し て う ま く 予 測 で き る.

(平 成5年9月21日 日本 材 料 学 会 第7回 破 壊 力 学 シ ンポ ジ ウム に て 講

演)

参 考 文 献

σw0exp: Fatigue limits experimentally determined by ∼5 smooth 1) 村 上 敬 宜,遠 藤 正 浩,日 本 機 械 学 会 論 文 集, A-49, 127
specimens.
(1983).
√areamax, σw0: Values predicted from single graphites.
2) 村 上 敬 宜,遠 藤 正 浩,材 料, 35, 911 (1986).
√areamaxi, σw0i: Values predicted taking interaction into
consideration. 3) 村 上 敬 宜,“ 金 属 疲 労:微 小 欠 陥 と 介 在 物 の 影 響 ”

(1993)養 賢 堂

欠 陥 を単 独 欠 陥 と して見 積 った √areaの 値 と基 地 硬 4) 遠 藤 正 浩,材 料, 38, 1139 (1989).

5) 酒 井 達 雄,古 郷 佐 八 郎,鈴 木 幹 彦,材 料, 38, 1268

さHvの 値 を 用 い て,疲 労 試 験 を 行 う こ と な く式(1)
(1989).
か ら予 測 さ れ る. 6) M. Endo, Proc. Fatigue '90, Honolulu, Hawaii, USA,

鳥 山 ら13)は
先 に述 べ た評 価 基 準 を1960年 代 に生 産 され 1357 (1990).

7) M. Endo, “Impact of Improved Material Quality on

た 球状 黒 鉛 鋳 鉄 に対 して適 用 して,黒 鉛 の 干 渉 効 果 が
Properties, Product Performance, and Design” MD-
無 視 で きな い こ とを示 した.一 方,こ の基 準 を本 材料 Vol.28, 125 (1991) ASME
に 適 用 し て,黒 鉛 の干 渉 領 域 に つ い て 測 定 した 8) 杉 山 好 弘,浅 見 克 敏,松 岡 忍,日 本 機 械 学 会 論 文 集,

√area maxiの 値 の 累 積 頻 度 分 布 をFig. 8に 黒 印 で 示 A-58, 2287 (1992).

9) 矢 野 健 太 郎,小 田 哲,小 出 隆 夫,五 家 政 人,尾 崎 龍 夫,

す.Table IVに,√areamaxiの 期 待 値 を式(1)に 代
日 本 機 械 学 会 論 文 集, C-58, 206 (1992).
入 して 計 算 した疲 労 限 度 の 下 限 値 の 期 待 値 σw0iと実 10) M. Endo and X. Wang, “Strength of Ductile Cast Iron

験 値 σw0expの値 の 比 較 を 示 す.本 研 究 で 用 い た よ う and Other Cast Metals '93”, 109 (1993) JSME-MMD.

な黒 鉛 の分 離 が よ く達 成 され た 球状 黒 鈴 鋳 鉄 に対 して 11) Y. Ochi, A. Ishii, S. Sasaki, T. Ogata and Y. Konishi,

Strength of Ductile Cast Iron and Other Cast Metals
は,こ の基 準 は黒 鉛 の 干 渉 を過 大 に評価 して若 干 保 守 '93”
, 154 (1993) JSME-MMD.
的 な予 測 結 果 を与 え る よ うで あ る. 12) M. Kaneko, T. Nakamura, K. Jinbo and F. Nagai,

Fig. 8に お い て,FCD400 (B)の√areamaxiの 分布 Strength of Ductile Cast Iron and Other Cast Metals
'93”
, 184 (1993) JSME-MMD.
が 他 に 比べ て右 寄 り とな っ て お り,干 渉 効 果 が 大 きい
13) 鳥 山 寿 之,村 上 敬 宜,材 料, 42, 1160 (1993).
こ と を示 して い る.FCD400 (A)と(B)の 機 械 的 性 質
14) Y. Murakami (Ed.) “Stress Intensity Factors Hand-
(Table II)と 単独 黒 鉛 に対 す る√areamaxの 値 の分 book” 2 (1987) Pergamon Press

布(Fig. 8の 白印)が ほ と ん ど同 じで あ るに もか か わ 15) 西 谷 弘 信,村 上 敬 宜,機 械 の 研 究, 25, 543 (1973).

16) 祖 父 江 昌 久,鋳 物, 51, 159 (1979).

らず,FCD400 (B)の 疲 労 限 度 の 実 験 値 σw0expの方 が
17) 広 瀬 幸 雄,黒 部 利 次,津 田 政 明,西 本 茂 戸 造,河 合 茂 治,
若 干 低 くな っ た 原 因 の 一 つ は黒 鉛 の 干 渉 効 果 の 違 い 日 本 材 料 強 度 学 会, 16, 156 (1981).

(Fig. 8の 黒 印)に あ る と思 わ れ る.こ の よ う に,単 18) 加 藤 容 三,中 野 典 彦,日 本 機 械 学 会 論 文 集, A-50,

1565 (1984).
独 黒 鉛 の分 布 と鳥 山 らの 評 価 基準 に基 づ く分布 の比 較
19) P. Clement, J.P. Angeli and A. Pineau, Fatigue Engng.
は,黒 鉛 の干 渉 効 果 の 程 度 を定 量 的 に知 るた め の 一つ
Mater. Struct., 7, 251 (1984).
の 尺 度 に な る と考 え られ る. 20) 西 谷 弘 信,田 中 哲 志,日 本 機 械 学 会 論 文 集, A-51,

5 結 言 1442 (1985).

21) 塩 田 俊 雄,小 松 真 一 郎,鋳 物, 54, 434 (1982).

球 状 黒 鉛 鋳 鉄 の平 滑 材 と人 工 微 小 欠 陥(穴 と切 欠
22) 小 川 武 史,小 林 英 男,小 出 孝 道,中 沢 一,米 沢 英 二,
き)を 有 す る試験 片 の 回転 曲 げ疲 労 試 験 を行 い,疲 労
日 本 機 械 学 会 論 文 集, A-51, 1660 (1985).
限度 に及 ぼ す 黒 鉛 また は微 小 欠 陥 お よび基 地 組 織 の影 23) A.J. Padkin, M.F. Bereton and W.J. Plumbridge, Ma-

響 につ い て 検 討 した. ter. Sci. Tech., 3, 217 (1987).

24) E.J. Gumbel, “Statistics of Extremes” (1957) Columbia

平 滑 材 も含 め た す べ て の 試 験 片 の疲 労 限 度 は,黒 鉛
Univ. Press
あ る い は人 工 欠 陥 か ら生 じた 微 小 き裂 の伝 ぱ 限界 条 件