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1.
あとがき
湖国の住民と淡水魚のつながりは深いものがあります。 もともと海に面していない本県
では、古来琵琶湖の魚は貴重なたんぱく源でしたが,それは今日においても変わりがあり
ません。 湖の周囲に散在する漁村では,周年を通じて淡水魚の市がたち, 川魚専門の魚屋
がみられるのも湖国ならではの光景でしょう。 家庭では四季を通じて, その折々, 旬にあ
る淡水魚が刺身や煮つけ, その他さまざまの料理で食膳をにぎわせています。
さて,このように日頃馴染みの深い琵琶湖の魚を紹介する目的で当館が開館されて、 今年
でちょうど 20 年目を迎えます。 現在では県内外の淡水魚に外国産のものも加えて常時 100
種前後の淡水魚を展示していますが, 当然のことながら, 今日に至るまでには紆余曲折さ
まざまなできごとがありました。 たとえば, 琵琶湖の湖底平原に潜んでいるわが国最大の
ナマズであるビワコオオナマズを現在のようにわずか数平方メートルに満たないコンクリ
ート製の池で飼育できるようになるには, このナマズの気性の荒さと皮膚の弱さを十分認
識する必要がありましたし, わが国ではじめてアユモドキを大量繁殖し得たうらには,過
去幾度かの失敗と知識の積み重ねがありました。 その他数えあげればきりがありません。
今日, 全国至るところで, 絶滅に瀕する淡水魚があとを断ちません。 1974 年にはタナゴ
の仲間であるイタセンパラとミヤコタナゴが,翌 1975 年にはアユモドキ (ドジョウ科) と
ネコギギギギ科) が相次いで国の天然記念物に指定されました。 淡水というごく限られ
た水域では改修工事や各種汚水の流入といった人為作用がただちにそこに棲息する生物に
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2.
好ましくない影響を与えることは当然のなりゆきと言えるでしょう。 本館では早くから展
示魚を天然水域からの採集のみに頼っている状態に危惧を抱き,今まで機会あるごとにさ
まざまの淡水魚,中でも希少種とされるものの繁殖に精力的に取り組んでまいりました。
イタセンパラ, アユモドキ, オヤニラミ,ホトケドジョウ,ヒナモロコなど枚挙にいとま
ありません。 この中にはイタセンパラ,ホトケドジョウ,ヒナモロコなどのように,繁殖
がほぼ軌道にのったものもありますが、 多くのものについては今後の研究に委ねられてい
ます。 全国の河川や湖沼からこれ以上絶滅に瀕する魚を出さないためには, 魚たちの棲息
環境の保全こそが緊急かつ重要な課題ですが、同時に一方ではすべての淡水魚の繁殖法を
確立しておくことも大切なことと考えられます。
さて、本書を御一読いただければ, 琵琶湖の魚について分布から生態まで, 一応の知識
を得られるようになっていますが, 読まれた方には,できれば個々の魚を直接自分の目で
観察されることをお勧めいたします。 注意深く観察すればするほど, 魚たちは我々に新た
な発見の喜びを与えてくれるに違いありません。
最後になりましたが,本書の刊行にあたりましては関係機関の御助力を得ましたことを
ここに厚く御礼申しあげますとともに,特に東海大学講師中村守純博士にはなみなみなら
ぬお世話になり感謝の念にたえません。
滋賀県立琵琶湖文化館長
片岡 長五郎

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