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Chat Heureux

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猫の国
広い宇宙に幾千とある星々の中のひとつ、とても小さな惑星のお話をすることにしましょう。
この小さな惑星には七つの国が存在しています。
そのうちの一つが猫の国です。
豊かな資源、恵まれた天候、山や森の緑はみずみずしく生い茂り、とても住みやすい土地だといえるでしょう。
そして、この国を統治する王はとても賢く、大衆の声に耳を傾ける優しい心を持っています。国民から広く愛さ
れ、彼自身も国民をまるで家族のように愛しています。
そんな王にも一つ悩みがありました。
王には二人の息子がいます。
第 一 王 子 で あ る Lianに は 将 来 の こ と を 見 据 え て 国 の 運 営 の 一 部 、主 に 貿 易 関 係 の 仕 事 を 任 せ て い ま す 。若 く 、好
奇心旺盛な王子に経験を積ませるためです。
気量の良い王子は少しずつ才覚をあらわし、類い稀な容姿を武器に他国との交渉を幾つか成功させました。
王は彼の仕事ぶりに大変満足していましたが、王子のするべきことはそれだけではないのです。
将来のためにパートナーを見つけ、世継ぎを授かること。
王子はもちろんそのことについてよく理解していました。しかし、働くことを生き甲斐にしている王子は、あま
り王宮には寄りつかず、頻繁に舞い込む見合いの申し出を断り続けていたのです。
幸 い に も 、第 二 王 子 が す で に 結 婚 し て い る た め 、家 系 が 途 絶 え る こ と は な い と 王 は 考 え て い ま す が 、で き れ ば Lian
王子にも結婚して欲しいと願っていました。
さて、約二ヶ月ぶりに 王子が帰国しました。
Lian
疲 れ 切 っ て い た 王 子 は 丸 一 日 寝 込 ん で い ま し た が 、カ ー テ ン の 隙 間 か ら 差 し 込 む 光 の 眩 し さ で 目 を 覚 ま し ま し た 。
身支度をしてダイニングルームに入ると、数人の使用人が忙しなく動き回っており、王が既に食事を始めていま
す。
「 、座りなさい」
Lian
手招きをする王の背後に見知らぬ少年が立っています。
王子はそれを一瞥し、豪華な食事が並ぶダイニングテーブルのいつもの席に座りました。
「長旅で疲れただろう、昨晩はよく眠れたか」
「はい、お父様、体も心もすっかり回復しました」
「それは良かった、さあ、食べなさい」
船旅をしている間は質素な食事をしているため、王好みのこってりしたメニューは寝起きの王子には少し堪えま
した。

( からは別の朝食を頼もう… )
心 の 中 で 小 さ な 溜 め 息 を つ き ま す が 、 頭 の 中 に は 「 ま あ ま あ 、 お 痩 せ に な ら れ て …」 と 心 配 そ う に し て い た 馴 染
みの使用人の顔が思い浮かびました。
彼女は王子が長旅を終えて帰るといつもこうなのです。心配しなくてもすぐに元通りになる、と言い聞かせても
「まあ、私たちから仕事を奪うのですか」と大袈裟に驚いて王子を言いくるめるのが常でした。
あまり感情を表に出さない王子は、そんな彼女たちを愛し、彼女たちの前でだけ、その表情を和らげることがで
きます。
ふと視線を上げると、王の背後に立っている少年と目が合いました。まだそこに立っていたのか、と少し驚きま
したが、恥ずかしそうに俯く少年をじっと見つめます。
あどけなさの残る顔立ち、柔らかそうな白い肌、ふっくらとした唇。
ピンと伸びた背筋から、きっと育ちは良いのだろうと想像しました。
「 お 父 様 、 と こ ろ で 、 そ の 少 年 は …」
「ああ、そうだった、実に静かな子だな、忘れていたよ」
「新しい使用人ですか?随分と若いですね」
王に促され、少年は王子のすぐそばに立ちました。
「私の友人の子だ、貿易を学ばせたいと寄越してきた」
「 そ れ は 、 つ ま り …」
王子は言い淀みました。もしかしたら不当な扱いを受けることになるのではないか、と思ったからです。学ばせ
る、というのは建前で、結局使用人のように扱われ、親への信用を失い生きる希望を無くす少年たちを何度か見
てきました。つまり、それは、人手を欲する王室への貢物のようなものでした。
「お前の身の回りの世話をしてもらう」
「それは、使用人のすることです」
「助手が欲しいとぼやいてはいなかったか?使い物になれば次から連れて行けばいい」
「 し か し …」
「さて、私は忙しいからな、続きはまた今度にしよう」
王がダイニングルームを出ていくと、深々とお辞儀をしていた少年が顔を上げました。
借りてきた猫のように大人しく、息を詰めている様子に、王子は戸惑っています。
突き返すわけにはいかない。そうなればきっと、この子の居場所はないだろう。
王子は同情していました。
「 …名 前 は ? 」
「 と申します」
Kuea
「 で は 、 Kuea
、私の世話はしなくていい」
「 あ の …で も 、 陛 下 が …」
「使用人の仕事をしていては勉学に差し障るだろう」
は困惑しました。
Kuea
噂で聞いた話では、王室は公爵家の男子を迎え入れては生きる屍にしているのだ、と。
何 を 言 っ て い る の か Kuea に は 分 か り ま せ ん で し た が 、人 々 の 様 子 か ら と て も 恐 ろ し い こ と な の だ と 理 解 し て い ま
した。
王子の言葉から察するに、使用人の仕事をせずに勉強ばかりさせられ、そして生きる屍という何か得体の知れな
い も の に な っ て し ま う の で は … 。 Kueaはそう考え、王子に何と言えばいいのか悩みました。
考え事をしている の ム ッ と 突 き 出 さ れ た 唇 。王 子 は 、そ れ に 触 り た い 衝 動 を 抑 え 込 み な が ら 、し ば ら く 待 ち
Kuea
ました。
「 Kuea
、何を考えている?」
「 あ …申 し 訳 あ り ま せ ん 」
「そんなに堅苦しくする必要はない、主従関係にはなりたくないから、私を兄だと思えばいい」
王子はそう言って立ち上がると「王宮の案内は済んでいるか?」と の背中をそっと押しました。
Kuea
隣 に 立 っ て み る と 、と て も 背 が 高 く 、よ う や く 王 子 の 瞳 を し っ か り と 見 る こ と が で き た Kueaはその穏やかさに心
を撫で下ろしました。聞いていた話とは随分違うようです。
が 住 ん で い た 街 の 者 た ち は 、王 子 は と て も 厳 し く ま る で 刃 物 の よ う だ と か 、王 宮 の 使 用 人 は 誰 も 口 を き く こ
Kuea
とを許されないとか、それはもう身の毛もよ立つような話ばかりを吹き込んでいました。
と て も 素 直 な Kuea はそれを真に受け、きっと初日から叱咤されるのだと思い込んでいたのです。
「今日はそれだけにしよう」
「一日で終わりますか?」
「使わない部屋は私も知らないから、他の誰かに聞くといい」
と て も 広 い 王 宮 内 を 見 て 回 る 間 、時 々 出 く わ し た 使 用 人 と 挨 拶 を し な が ら Kuea
は少しずつ王子の人となりを理解
していきました。
王子は使用人たちにとても愛されています。
は身分をわきまえていましたが、いつか王子と親しくなれたらいいなと、心の片隅で願いました。
Kuea
翌朝、王子はカーテンを開ける音で目を覚ましました。
まばゆい光に包まれ、頭まで布団を被ります。
時折、寝坊した王子は使用人に無理やり起こされているので、今回もそうだと思ったのです。
しかし、いつもなら聞こえてくる使用人の騒がしい声はしませんでした。不思議に思った王子が布団から顔を覗
か せ る と 、 目 の 前 に は Kuea
の 顔 が …。
「 …体 調 が 優 れ ま せ ん か ? 」
Hia
は王子がなかなか起き上がらないので、心配して様子を伺っていたのです。
Kuea
予想外の出来事に目を丸くした王子は、布団で顔を半分隠したまま頭を振りました。
「朝食はこちらに」
「 … Nu…」
「 あ っ 、 驚 か せ て し ま い ま し た か ? 何 か お 手 伝 い を し た く て …」
朝 早 く 目 が 覚 め た Kuea
は 、す で に 仕 事 を 始 め て い た 使 用 人 に 挨 拶 を し た あ と 、自 分 に 何 か 手 伝 え る こ と は な い か
と申し出ました。使用人たちはゲストにそのような事をさせるわけにはいかないと思いましたが、昨日の様子を
見 て い た バ ト ラ ー が Kuea
に朝食を持たせました。
早く馴染めるように気を利かせたのでしょう。
バトラーは王子を長い間見守っているため、二人の様子を見て、何か感じるものがあったのかもしれません。
ノックをして寝室に入り、カーテンを開けるように言いました。
「世話はしなくていいと言ったのに」
「 Hiaの た め に 何 か し た く て …ダ メ で す か ? 」
「 …勉 学 を 疎 か に し な い と 約 束 で き る な ら 」
「 は い 、 Hia

嬉 し そ う に 笑 う Kuea を 見 つ め て い る 王 子 は 、ま る で 心 を 奪 わ れ て い る よ う で す 。扉 を ノ ッ ク す る 音 に 驚 き 飛 び 上
がるまで二人は見つめ合っていました。
入 っ て き た 使 用 人 に 呼 ば れ た Kuea は「 し っ か り 召 し 上 が っ て く だ さ い ね 」と 王 子 に 念 を 押 し 、寝 室 を 出 て 行 き ま
した。
ひとり残された王子。
まだ温かいオムレツを口に運びました。
長い船旅で疲れているせいかもしれない。気づいていなかったが、もしかしたら人肌恋しいのかもしれない。
咀嚼をしながら、まだ輪郭がぼんやりしているその感情に名前をつけようとしています。
王子には長い間パートナーがいません。
学生だった頃は、地位が高く容姿端麗、性格も穏やかでしたから、周囲の女学生達は王子に夢中。それはもう引
く手数多でした。その数多の女学生達の中で王子の心を射止めたのは、どこにでもいるようなごく平凡な女性。
控 え め な 性 格 の 彼 女 と 一 緒 に 読 書 を し た り 川 辺 を 歩 き な が ら お 喋 り し た り … 。そ れ が 王 子 に と っ て は 非 日 常 的 で 、
とても楽しかったのです。
ただ、彼女の家系は身分が低く、交際を許されることはありませんでした。学校を卒業すると同時に彼女との関
係は強制的に断ち切られ、王子は酷く傷つきました。
その後、王子は王室で貿易の仕事を学び始めますが、出向く先々で出会う女性達に心惹かれることはまだありま
せん。きっと彼女を忘れていないのでしょう。
また、仕事が忙しく、数ヶ月の間は王宮に帰ってこないことが多いため、見合いの話もめっきり減りました。
そういう理由で、王子には長い間パートナーがいないのです。
に 抱 い て い る 感 情 が 何 な の か …王 子 は 身 支 度 を し て い る 間 も ず っ と 考 え て い ま し た 。
Kuea

( え切らないままでは に良くない態度をとってしまうかもしれない
Kuea )
僅かな気掛かりと喉の渇きを感じました。
王 子 が グ ズ グ ズ し て い る 間 、 Kuea
は使用人に連れられ、中庭に出ていました。
そ こ に は 駆 け 回 る 一 匹 の 犬 と 、 Kuea
と同じような年頃の少年がいます。少年は を見つけ、嬉しそうに駆け
Kuea
寄ってきました。
「 !」
Kuea
「 … え っ と 、 は い 、 Kuea
と申します」
「話は聞いていたよ、初めまして、僕は 」
KonDiaw
は 第 二 王 子 で あ る Yi
KonDiaw のパートナーです。
二人はすぐに打ち解け、時間を忘れてお喋りに花を咲かせました。
「 Kuea
が来てくれて本当に嬉しいよ」
「いつも犬と遊んでいるの?」
「 う ん 、 HiaYi
は忙しいから話し相手が欲しかったんだ」
「犬とは話せないしね」
「 あ っ 、 HiaLian
が 来 て る …じ ゃ あ ま た 後 で 」
とハグをして別れた後、浮かれた足取りで王子の元へ駆け寄った
Diaw はその顔つきを見て慌てて頭を下げ
Kuea
ました。
いつの間にか一時間も経っていたようです。
「なかなか戻ってこないから探していた」
「ごめんなさい」
「随分仲良くなったみたいだな」
「 Hia
、 朝 は Diaw
と話してもいいですか?」
「もちろん」
二人はこれからの日々のスケジュールについて話し合いました。
は朝、王子のお世話をしてから
Kuea と会い、基本的には午後から貿易の勉強をします。王子は公式の行事
Diaw
や 執 務 が あ れ ば そ れ を 優 先 し 、 で き る 限 り Kueaの勉学をサポートするようにします。
王 子 は Kuea の 将 来 の た め に も 、勉 学 を 疎 か に し な い よ う に と 言 い ま し た が 、空 い て い る 時 間 を 使 っ て 王 子 の お 世
話をしたいと言って聞かないので困りました。
は頑固な性格のようです。
Kuea
なんとか折り合いをつけながら少しずつその生活にも慣れてきた頃、 が中庭で声を荒げていたので、
Diaw Kuea
は何事かと慌てて駆けつけました。
「 ど う し た の 、 Diaw

「 、どうしよう、
Kuea が吠えたから」
Nong
は 興 奮 し た 様 子 の 犬 を 抱 え た ま ま 、地 面 を 指 差 し て い ま す 。 草 を か き 分 け て み る と 、 そ こ に は 小 鳥 が う ず く
Diaw
まっていました。
上には小さな木箱があり、そこから落ちたのかもしれません。
「まだ飛べないのかもしれない、巣箱に返してみようか」
「 う ん …」
すっかり落ち込んでいる の背中を優しく撫でて「大丈夫だよ」と
Diaw は微笑みました。
Kuea
それから脚立を持ってきて、拾い上げた小鳥を木箱の中へそっと返しました。中はもぬけの殻です。他の雛たち
は巣立っていったのでしょうか。
きっとこの雛も巣立とうとしていたに違いありません。その最中、犬に吠えられて驚いて落ちてしまったのだと
推測できます。
「 Kuea、気をつけて、そっとね、ゆっくり降りてきて」
「 大 丈 夫 、 Diaw
、ちゃんと押さえててよね」
下 に い る Diaw に話しかけていると、その背後に王子が歩いてきているのを見つけました。
慌 て た Kuea は 慎 重 に 一 段 ず つ 降 り て い ま し た が 、も う 少 し と い う と こ ろ で 足 を 滑 ら せ て し ま い ま す 。あ っ と 思 っ
た瞬間、 の手は脚立を離れ、身体は地面に投げ出されました。
Kuea
ぎ ゅ っ と 閉 じ て い た 目 を 開 く と 、 Diawが 心 配 そ う に Kuea を抱き起こしました。思っていたほど痛くはありませ
ん 。 何 故 な ら 、 王 子 が Kuea の下敷きになっていたからです。
「 Hia…! 」
「ああ、大丈夫、何ともないから」
「 ご め ん な さ い …」
「 そ れ よ り Kuea、怪我は?」
「 Hia、手、擦りむいてる」
右 手 の 甲 に 擦 り 傷 が で き て い ま し た 。そ っ と 手 を 取 っ て み る と 、王 子 は 顔 を し か め 、痛 が る 素 振 り を 見 せ ま し た 。
を受けとめて倒れた時、咄嗟に地面に手をついてしまったのでしょう。
Kuea
が連れてきた使用人たちに支えられながら、王子は医務室へ向かいました。
Diaw
診 断 は 全 治 一 週 間 程 度 の 捻 挫 。手 首 に 巻 い た 包 帯 が 痛 々 し く 、 Kuea
は申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
夜は王子の着替えと食事を率先して手伝い、ぎこちないながらも、 は王子のお世話を精一杯頑張りました。
Kuea
こうすることでしか償えないと思ったからです。
「今夜の入浴は控えた方がいいそうです」
「 Kuea
、私の世話はもういいから寝なさい」
「身体を拭きますね」
また言うことを聞かない に困り果てた王子は、仕方なくベッドに座りました。
Kuea
「右手だけだから、それくらいは自分でできる」
「 で も Kuea
は 、 Hia
に 酷 い こ と を …」
「酷いこと?」
「 Hiaを下敷きにして、怪我までさせてしまいました」
「まるで右手を失ったような口ぶりだな」
「 明 日 か ら 公 務 が で き な い …」
「数日ならなんとでもなる」
王子はその落ち込みぶりを見て、どうにかして励ましたかったのですが、何を言っても駄目でした。
躊躇いながら、ゆっくり、ひとつずつ、シャツのボタンが外れていく様を二人は黙って見つめています。
最 後 の ひ と つ が 外 れ た 時 、王 子 は Kuea
に 顔 を 寄 せ ま し た 。ハ ッ と し て 身 を ひ く Kuea
の 腕 を 掴 み 、引 き 寄 せ ま す 。
「ほら、脱がせて」
揶 揄 わ れ て い る の だ と 気 づ い た Kuea は恥ずかしくて堪りませんでしたが、なんとかシャツを脱がせました。
鍛 え ら れ た 逞 し い 身 体 が 露 わ に な り 、 さ ら に 顔 を 赤 く 染 め る Kuea
を王子はじっと見つめています。
は 怖 く て 顔 を 上 げ る こ と が で き ま せ ん 。王 子 が ど ん な 目 で 自 分 を 見 つ め て い る か 、そ の 目 を 見 な く て も 分 か
Kuea
ったからです。
濡れたタオルで腕や胸、背中まで上半身は余すことなく、痛くないようにゆっくり肌を拭いました。
「もういいよ、ありがとう」
「 あ の …」
「これ以上はしなくていい」
「でも、まだ」
「 Nu…」
優 し く 包 み 込 む よ う な 声 色 に び っ く り し て 顔 を 上 げ た Kuea
はようやく王子と視線を合わせました。
王 子 の 大 き な 手 の ひ ら が Kuea の手の甲に触れ、落ち着かせるように何度も撫でています。
は 視 線 を 逸 ら す こ と が で き ず に い ま し た 。少 し 鼓 動 が 早 く な る の を 感 じ ま し た が 、す ぐ そ ば に あ る 王 子 の 深
Kuea
く澄んだ瞳に見惚れていました。
「お願いだから今は言うことを聞いてほしい」
王 子 は Kueaが 意 地 に な っ て い る の だ と 思 い ま し た 。い く ら 介 抱 と は い え 、嫌 な 思 い を さ せ た り 、傷 つ け る よ う な
ことがあってはいけない。できればこのまま引き下がってほしい、と願いました。
そうでなければ、王子自身も自制ができそうになかったからです。
に 対 し て 恋 愛 感 情 を 抱 い て い る こ と に 薄 々 気 づ き は じ め て い た 王 子 は 、日 に 日 に 輪 郭 を は っ き り さ せ て い く
Kuea
自分の感情をなんとか抑え込んでいました。
触れたい、抱きしめたい、と思うことも増え、今この瞬間も心臓が張り裂けそうなほど興奮しています。
「 Hia
…」
「分かったなら、もう遅いから部屋に戻りなさい」
「あ、」
王 子 の 手 が 離 れ て い く と 、 Kuea
は 名 残 惜 し さ を 感 じ ま し た 。火 照 る 身 体 と 高 鳴 る 鼓 動 を 落 ち 着 か せ る た め に 、 ひ
とつふたつ深呼吸をして持ったままだったタオルを握りしめます。
寝 室 を 出 よ う と し た Kueaを王子が引き留めました。
「 、待って」
Nu
も し か し た ら Kuea
に誤解されているかもしれない。
そう思った王子は、不安で居ても立っても居られず、改めてお世話してくれたことへの感謝の気持ちを伝えまし
た。決して拒絶しているのではないことを分かってほしかったのです。
は王子の言葉を聞くとそっと微笑んで頷きました。
Kuea
王子が気遣ってくれたことはもちろん理解していましたし、とても情に満ちたお方なのだと感心しました。
「もう行きますね」
扉 を 開 け よ う と 王 子 に 背 を 向 け た Kueaは 頭 に 何 か が 触 れ た の を 感 じ ま し た 。そ れ は 頭 頂 部 の 髪 を わ し ゃ わ し ゃ と
掻 き 乱 し 、耳 の 付 け 根 を く す ぐ っ た の で す 。王 子 が イ タ ズ ラ し て い る と 気 づ い た Kuea は 肩 を す く め 、慌 て て 部 屋
を出ました。
扉の向こうから聞こえる笑い声と「おやすみ」と言う優しい声。
まだ見たことのない王子の笑顔を想像しながら、火照る頬を両手で押さえつけました。嬉しい気持ちと恥ずかし
い気持ちが交錯して、心臓が破裂しそうです。
なかなか気持ちが落ち着かない は、使用人が通りがかるまでしばらくしゃがみ込んでいました。
Kuea
が 扉 の 向 こ う に ま だ い る こ と を 知 ら な い 王 子 は 、ベ ッ ド に 身 を 投 げ 出 し て 、自 分 の 軽 率 な 行 動 を 悔 や ん で い
Kuea
ました。
一歩間違えば大怪我をしていたかもしれない。そうなれば公務にも支障がでて、周りに迷惑がかかっていたかも
しれない。
あ の 時 、王 子 は 正 常 な 思 考 を 失 っ て い ま し た 。嫌 な 予 感 が し た の で す 。中 庭 に 脚 立 を 運 ん で い る Kuea を見つけた
王子はすぐに駆け出しました。それはもう、すれ違った使用人が驚くほど慌てて。
の髪の毛の感触を思い出しながら王子はため息をつきました。
Kuea
誰かを好きになるのは久しぶりですし、また過去と同じように辛い想いをすることを恐れています。
で も …、 今 度 こ そ 前 に 進 め る か も し れ な い 。
王 子 に と っ て Kuea
は特別な存在になっていました。
初めて会った時から惹かれていたのですから、きっと一目惚れだったに違いありません。
王子は に想いを馳せながら、目を閉じました。
Kuea
いばらの森
「まるで地上に舞い降りた天使のようね」
小さなステージをうっとりと見つめながら、女性が囁きました。隣に座っている男性も同じように心地の良い歌
声に聞き入っています。
ここは城下町のはずれにある酒場。
街一番のおしどり夫婦が酒を振る舞い、毎日のように常連客で賑わっています。
そして今日は格別客入りの多い日です。週に一度だけ誰でも好きに演奏することができる、ステージの開放日。
小さな頃から歌うことが好きだった は 、店 主 に 気 に 入 ら れ て こ の ス テ ー ジ で よ く 歌 っ て い ま す 。酒 場 で す か
Kuea
ら 、 両 親 は 初 め は 少 し 抵 抗 を 感 じ ま し た が 、 Kuea
の 才 能 を 伸 ば す た め に も … と 好 き に さ せ る こ と に し ま し た 。や
が て 成 長 し 、声 変 わ り を 終 え た Kuea の 歌 声 は 驚 く ほ ど 美 し く 、天 使 の よ う だ と 称 さ れ る よ う に な り ま し た 。そ の
澄んだ歌声を求めて通い詰める者さえいるほどです。
二曲目を歌い終えて拍手を浴びていた は、店主に呼ばれてステージ前のテーブルに向かいました。
Kuea
そ こ に は Diaw
も い ま す 。 恥 ず か し く て 、 嬉 し そ う に ま だ 拍 手 を し て い る Diaw
の手を掴んでそっとやめさせまし
た。
それから周囲の数人の客に手を合わせます。
「 、すごいよ、こんな才能があったなんて」
Kuea
「ありがとう」
店 主 や 常 連 客 か ら も 賛 辞 を 受 け る Kueaを 見 守 り な が ら Diawもまるで自分のことのように喜んでいました。
に酒場に行こうと誘われた時は不安でいっぱいでしたが、今は幸せな気持ちで満たされています。
Kuea
ここにいる人たちはとても気さくで楽しくて、まるで古くからの知り合いのように思えるくらいでした。
そ ん な 様 子 の Diaw を 見 つ め な が ら Kueaも嬉しそうに笑っています。
つ い 最 近 ま で 王 宮 の 外 で 自 由 に 暮 ら し て い た Kueaは 今 の 生 活 を 少 し 窮 屈 に 感 じ る 時 が あ り ま す 。 Diaw
がどう感
じているかは分かりませんが、たまには息抜きやハメを外すことも必要なんだということを知って欲しかったの
です。
「 ね ぇ 、 Kuea、またここに来たいな」
「良かった、気に入ってくれて」
「誰かさんには何て言った?」
「 城 下 町 に 行 く っ て …そ れ だ け 」
王 子 に は も ち ろ ん 外 出 す る こ と は 伝 え て い ま し た 。 Diaw
Lian と一緒に城下町に行ってくる、と。
酒場に行くだなんて言えるはずがありませんでした。少し過保護なところがある王子は、きっと危険だと言って
行かせてくれなかったでしょう。
「二人だけの秘密だね」
「うん、指切りしよう」
「 HiaLian
にバレないように、ちゃんと口裏合わせしておかないと」
門限にさえ気をつければ大丈夫。
はしっかり心に留めておきました。
Kuea
しばらくして、馴染みの客がやってきました。
今 日 は 仕 事 が 立 て 込 ん で い て 間 に 合 わ な か っ た と 落 ち 込 ん で い る 男 性 に 頼 み 込 ま れ 、 Kuea
は再びステージに上が
ります。
予定にはありませんでしたが、歌い慣れているメロウな曲をゆったりと歌い始めました。
歌 い な が ら 思 い 浮 か べ る の は 、 王 子 の 顔 …。
の王子への気持ちは日に日に膨らんでいました。
Kuea
王子が を 庇 っ て 怪 我 を し た あ の 日 か ら 一 週 間 、身 の 回 り の 世 話 を で き る だ け た く さ ん し ま し た 。身 体 を 拭 い
Kuea
た の は 後 に も 先 に も 一 度 だ け で し た が 、 Kueaは あ の 時 の こ と が 忘 れ ら れ ま せ ん 。夜 、一 人 き り に な る と 、う っ か
り思い出してベッドの上でジタバタすることがよくあります。
王 子 に 変 わ っ た 様 子 は 見 ら れ ま せ ん が 、そ れ が 逆 に Kuea を 恥 ず か し く さ せ る の で す 。意 識 し て い る の が 自 分 だ け
だと感じるから。
一 曲 歌 い 終 え る と 、 Diaw
が慌てた様子でステージの近くに駆けてきました。腕時計を指さしています。
はハッとしました。
Kuea
「門限!」
「もう間に合わない! 、早く行こう!」
Kuea
ステージ上で周囲に手を合わせて小さくお辞儀をしたあと、マイクを置いて、二人は慌てて酒場を飛び出しまし
た。
このままでは門限に間に合いません。
は 急 に 立 ち 止 ま り 、 Diaw
Kuea の腕を掴んで引っ張りました。
「 Diaw
、近道しよう」
「近道?」
「 …い ば ら の 森 を 、 抜 け る 」
言うや否や走り出した に引っ張られ、
Kuea も後に続きます。
Diaw
数 十 秒 後 、 急 に 思 い 出 し た か の よ う に 「 い ば ら の 森 ? ! 」 と Diaw
が叫びました。
「 ダ メ だ よ 、 Kuea、 危 険 す ぎ る …! 」
「大丈夫、一度だけ入ったことがある」
「 で も 、 HiaYiに 近 づ く な っ て 言 わ れ て る し 、 Kuea も HiaLianにバレたらきっと怒られるよ!」
「 門 限 に 間 に 合 わ な く て も ど う せ 怒 ら れ る ん だ か ら 一 緒 だ よ ! Diaw
、もう覚悟を決めて!」
二人は、いばらの森をすぐ目の前にして立ち止まりました。立ち入り禁止の看板がいくつも見えます。森の中の
様子は暗くてよく分かりません。不気味なほど真っ暗で、中からは何か分からない生き物の鳴き声が聞こえてき
ます。
は震える
Kuea の手を握って、携帯電話のライトを点けました。
Diaw
も 同 じ よ う に ラ イ ト を 点 け 、 不 安 そ う な 面 持 ち で Kuea
Diaw に寄り添います。
「 …よ し 、 行 こ う 」
「 怖 い よ … Kuea
、手を離さないで」
「うん、握ってるから安心して」
は Diaw
Kuea のためにも、頑張って平静を装いました。本当は怖くてたまりませんでしたが、自分を鼓舞し、ゆ
っくり森の中へ入っていきます。
いばらの森には一度入ったことがあるとはいえ、あの時は明るい時間でしたし、追いかけてきた両親にすぐ見つ
かって、こっぴどく叱られました。
そ う い う わ け で 、森 の 中 が ど う な っ て い る の か 、 Kuea
も よ く 知 ら な い の で す 。勢 い だ け で 来 て し ま っ た こ と を 早 々
に後悔していました。
「 ね ぇ 、 Kuea、本当にこの道?このまま進んでいいの?」
「 大 丈 夫 …道 が 開 け て る か ら 合 っ て る は ず 」
「 暗 く て 何 も 見 え な い …」
十 分 ほ ど 歩 い た と こ ろ で 、 Kuea
は 携 帯 電 話 の ラ イ ト を 急 に 消 し ま し た 。 Diaw
の ラ イ ト も 慌 て て 消 し 、話 そ う と し
た Diaw の口を手で塞ぎました。
「 し っ …… 何 か い る 」
の耳はピンと立ち上がり、周囲の音がよく聞こえるように忙しなく動いています。
Kuea
何 か 物 音 で も し た の で し ょ う か 。 Diaw
に は 分 か り ま せ ん で し た が 、ふ と 遠 く の ほ う に 灯 り の よ う な も の が あ る の
に 気 が つ き ま し た 。 Kueaを揺さぶり、それを指さします。
「 あ れ …何 だ ろ う 」
「 本 当 だ 、 何 で あ ん な と こ ろ に …」
二人がそれに気を取られていると、急に背後でガサっと大きな音がしました。
そ の 直 後 、 二 人 は そ れ ぞ れ 口 元 に 布 の よ う な も の を 押 し 当 て ら れ 、 気 絶 し て し ま っ た の で す …。
遡ること数時間前…
が Diaw
Kuea を連れて城下町へ出かけた後、しばらくして王宮は急激に慌ただしくなりました。
どうやら王宮の敷地の裏手にある、いばらの森で不審な動きがあったようです。
森と敷地の間には常に厳重な警備がしかれていて、何かあればすぐに対処できるよう手筈が整えられています。
今回はよほど大ごとなのか警備隊に加え、護衛隊も出動することになりました。
「何事だ?なぜ護衛隊まで?」
「 そ れ が …犬 族 が 潜 伏 し て い る の で は な い か と 噂 が あ り ま し て …」
「犬族?」
「はい、城下町で犬族を見た者がいたようです」
「 そ う か …心 配 だ な 」
犬族はとても野蛮で、猫族とは長年敵対関係にあります。
シ ャ ウ ル ー )=
Chat Heureux( 猫 の 国 で 犬 族 が 捉 え ら れ た の は 三 年 前 が 最 後 で す 。そ の 後 は め っ き り 途 絶 え て い ま し
たが、いつかまた侵入されるのではないかと警戒は続いていました。
その三年前の攻防を王子はよく覚えています。王子自身も国を守るために加勢したからです。
もし犬族が潜伏しているという噂が本当だとしたら、その時の経験と知識が役に立つかもしれません。王子は護
衛隊に同行することを決断しました。
武器庫へ行くとすぐに王子を見つけた護衛隊長がそばへ駆け寄ってきました。
「王子、護衛隊も間もなく発ちます」
「分かっている、私も行こう」
「ありがとうございます、第二部隊が門で待機しておりますので合流してください」
「ここは任せる」
「はい、王子、どうかご無事で」
護衛隊長と別れた後、防具と武器を身につけた王子は馬に乗り、第二部隊と合流しました。
王子と第二部隊は城下町側から、いばらの森の中へ入ることになっています。ルートや隊列を確認しながら、不
安そうにしている隊員たちに声をかけました。まだ訓練しか経験したことのない若手の隊員もいるようです。
王子には彼らの気持ちがよく分かります。
三年前、王子は自分の無力さを痛感しました。商談で遠出をすることの多い王子は護身のために剣術を習得して
いましたが、実際の戦いでは恐怖ばかりが勝り、思うように剣を振るうことができなかったのです。
これでは護身すらできないと情けなく思った王子は、その後、護衛隊長に訓練を頼み込みました。何度も挫けそ
うになっては隊長に励まされ、そしていつしか、互角に勝負できるところにまで登り詰めたのです。それが今の
王子の自信へ繋がっています。
言いようのない緊張感を引き連れたまま馬を走らせていた王子と護衛隊は、城下町のはずれに到着しました。
先着していた警備隊が酒場の近くで町民と話をしています。王子がそこへ近寄ると、警備隊長は青ざめた顔をし
ていました。どこか様子が変です。
「どうした、現状を報告しろ」
「 王 子 …実 は …大 変 申 し 上 げ に く い の で す が …」
町民の話によると、数十分前に、いばらの森へ入って行った者が二人いたそう。しかもそれが と
Kuea だと
Diaw
言うのです。
王子は懐中時計で時間を確認しました。
まさか、二人であるはずがない。
もう門限は過ぎているから、当然帰っているはず。
高鳴る鼓動を落ち着かせるため、拳を握りしめました。
「隊長、二人が帰っているかどうか確認してくれるか」
警備隊長はすぐにトランシーバーで王宮にいる隊員へ連絡をとりました。
王 子 は 生 き た 心 地 が し ま せ ん で し た 。 も し 本 当 に 二 人 が 森 へ 入 っ て い た と し た ら …犬 族 が 潜 伏 し て い た と し た ら
…取 り 返 し の つ か な い こ と に な っ て し ま う か も し れ ま せ ん 。
「お二人はまだ戻っていないようです」
「 Kuea
…ど う し て こ ん な と こ ろ に …」
「王子、お気を確かに、お二人の姿を確認するまでは諦めてはいけません」
「 …あ あ 、 分 か っ て い る 」
気を引き締め直した王子は、再び馬に乗り、警備隊と護衛隊と共に暗闇の中へ入っていきました。
いばらの森はその名の通り、棘のある小木が群生しているため、とても危険で人が立ち入ることは滅多にありま
せん。日中は日が差し込みますが、夜になると不気味なほど真っ暗です。おまけに何故かコンパスが使い物にな
らず、方角すら分からなくなるのです。
一度迷い込んだら二度と出られない。
そう言い伝えられるほど中は入り組んでいて、もちろん地図など存在しません。人々は不気味がり、今までろく
に探索がなされてこなかったからです。
隊列を組んだままゆっくり進んでいく王子達は、恐怖に押し潰されそうになっていました。
どこを目指して進めばいいのか分かりません。
た だ ひ た す ら に 開 け た 道 を 進 ん で い ま す …。
何 か 冷 た い も の が 肌 を な ぞ っ て い る よ う な 感 じ が し て 、そ の 気 持 ち 悪 さ に Kuea
は 目 を 覚 ま し ま し た 。ま だ 意 識 が
はっきりしません。
虚な瞳が少しずつ周囲の様子を映し始めました。
小さな話し声が聞こえています。何を話しているかは分かりませんでしたが、言葉が分かるということは、同じ
種族です。
何かが近づいてくると気づいた時、急に目の前にランタンを近づけられ、あまりの眩しさに顔を背けました。
「おぉ、起きてるなぁ、どうだ?気分は?高揚してるか?」
「 … う ぅ …… だ 、 れ … 」
「誰だって?そんなこと気にしてる場合か?」
目 の 前 が チ カ チ カ し て い た の が 落 ち 着 く と 、 Kuea
は よ う や く 自 分 の 置 か れ た 状 況 に 気 が つ き ま し た 。手 を 後 ろ で
縛られ、拘束されています。
も同じ状態で、すぐ近くに横たわっていました。
Diaw
逃 げ 出 さ な き ゃ い け な い 、と 瞬 時 に 思 い ま し た が 、頭 が 上 手 く 働 き ま せ ん 。 Kueaは目の前にいる男を威嚇しよう
と低く唸り、牙を見せました。
男は驚いたふりをして大袈裟にひっくり返っています。
少し離れたところでそれを見て笑っていた眼鏡の男が「おかしいな、なんで意識がはっきりしてる?」と首を傾
げました。
「薬の配合間違えたんじゃねーのか、元気に威嚇してやがるぞ、この猫」
「そんなはずない、俺は間違えない」
「 お 前 の そ の 自 信 は ど っ か ら く る ん だ か …ん ? 待 て よ ? こ っ ち に は 効 い た み た い だ な 」
男 が Diaw に近づきました。
ラ ン タ ン に 照 ら さ れ た Diaw
の額や首筋は汗で濡れています。呼吸が荒く、とても苦しそうです。
男が頬を軽く叩いても抵抗する様子がありません。
「俺はな、オリに五年もぶち込まれてたんだよ、あっちのヤツは何年だったか、まあいい、それでようやく逃げ
おおせたんだが、そんなところにお前らがのこのこやってきたというわけだ」
「こいつはオリで何人も食ってた」
「食うっていうのはさ、肉とか魚とかそういうんじゃないんだよ、分かるだろ?ケツの話だよ」
「もっとオブラートに包んでやれよ、どう見たってバージンだろ、可愛い顔してるぜ」
「こういう時のために配合してあった薬をお前らに嗅がせたんだがなぁ、どう配合を間違えたんだか」
「だから俺は間違えてない、これは体質の問題だ」
「まあいい、こいつを食う」
喋 り 続 け て い た 男 は Diawの ふ く ら は ぎ に ナ イ フ を 押 し 当 て 、 ゆ っ く り 滑 ら せ ま し た 。 Kuea
の様子をじっと観察
しながら、下から上へ、ゆっくりと。
は 男 の 目 論 み に 気 が つ い て い ま す 。言 い な り に な る の は 嫌 で し た が 、 Diaw
Kuea を傷つけられるくらいなら自分が
犠牲になったほうがマシだと思いました。
男 の 手 が Diaw
の 尻 を 撫 で た 時 、 Kuea
はついに「ダメ!」と声を荒げました。
「 だ め 、 …手 を 出 さ な い で 」
「お前に何ができるんだ?縛られてるお前に、お友達を助けることができるのか?」
「 …代 わ り に な る か ら 、 そ の 子 に は 手 を 出 す な 」
「 あ ぁ 、 涙 が 出 そ う だ …お 前 は 友 達 想 い の 優 し い 猫 だ よ 」
男 は 泣 く ふ り を し な が ら Kueaの前に戻ってきました。
いつの間にか集まってきていた他の男たちもヤジを飛ばしたり楽しそうに笑ったりしています。
は 悔 し く て た ま り ま せ ん で し た 。こ の 縄 を 解 く こ と が で き れ ば 、痩 せ 細 っ た 小 さ な 男 く ら い す ぐ に 殴 り 倒 せ
Kuea
るのに。
「 俺 は お 前 み た い な 元 気 の い い 猫 が 好 き な ん だ よ 、 抵 抗 さ れ れ ば さ れ る ほ ど 興 奮 す る …あ っ ち の 小 さ い 猫 よ り も
いたぶり甲斐がありそうだしな」
土で薄汚れた白いシャツのボタンが勢いよく引きちぎられた瞬間、周囲がワッと沸きました。
近 づ い て き た 男 た ち が 物 珍 し そ う に Kuea
を覗き込んでいます。
「こりゃあ、うまそうだな」
「女みたいに白い肌だ」
「おい、お前ら、もうちょっと離れてろ、邪魔するんじゃない、時間をかけて虐めてやる」
男のざらざらした指先が の肌に触れました。思っていたよりも優しく触れてくる指先が、
Kuea の敏感な部
Kuea
分を弄ぶようにその周りをくるくると刺激しています。
そ の 刺 激 は 、む ず む ず し て く す ぐ っ た い よ う な 、よ く 分 か ら な い 感 覚 を 生 み 出 し 、 は耐えきれずに小さく息
Kuea
を吐き出しました。
「どうだ?感じてるか?気持ちいいか?」
「 う ぅ …」
「ちょっと待ってろ」
男は下半身を覆っていた布を外そうとしましたが、その時、急に辺りが騒がしくなりました。
ま る で 蜘 蛛 の 子 を 散 ら す よ う に 男 た ち は 逃 げ 出 し 、 Kueaを襲っていた男も急に戦闘態勢になっています。
何が起こったのでしょうか。
数 発 の 銃 声 に 驚 い て 、 縛 ら れ た ま ま だ っ た Kuea は 何 と か Diaw
のそばに移動しました。
茂みの向こうを走り過ぎていく何頭もの馬。
あちこちで叫び声や怒鳴る声がしているので、きっと悪党たちが次々に捕えられているのでしょう。目の前にい
る 男 を 除 い て …。
両手にナイフを持って振り回している男の視線の先を見ると、そこには王子が剣を構えて立っていました。
「 …! 」
Hia
は 咄 嗟 に 王 子 を 呼 び 、 王 子 も Kuea
Kuea がそこにいることに気がついたようです。
一瞬にして黒く艶やかな被毛が大きく膨れ上がり、低く地響きのような唸り声が周囲に響きわたりました。
あまりの覇気に、男は地面に這いつくばりそうなほど圧倒されています。今にも逃げ出しそうですが、それでも
負けじと威嚇を続けます。
王子は距離を詰め、再び男に剣を突きつけました。
「投降しろ、さもなければ、お前の命はない」
男は悔しそうに叫んだあと、今度こそ逃げ出しました。王子の後ろに控えていた隊員たちがその後を追います。
正 気 を 取 り 戻 し て い た Diaw
と Kuea
は寄り添い合いながら一部始終を見ていました。二人とも覇気を浴びて縮こ
まっていましたが、駆けつけた王子が縄を解くとすぐに互いを抱きしめました。
「 Diaw
…ご め ん 、 ご め ん ね 」
「ううん、いいんだよ、助かったんだから」
張 り 詰 め て い た 糸 が 切 れ た の か 、 Kuea
は 泣 き な が ら 何 度 も 謝 り ま し た 。 Diaw
に は Kuea
を責める気など全くあり
ま せ ん 。 ぼ ん や り す る 意 識 の 中 で 、 Kuea
が自分を守ろうとしてくれていた姿を見ていたからです。
その様子を見守っていた王子は、胸を打たれ、一粒の涙を零しました。
警備隊と護衛隊が縄で縛り上げた猫族を連れ、続々とその場を去っていきます。
も護衛隊に抱えられて馬に乗せられました。
Diaw
王子は泣き疲れてぼんやりしている の 乱 れ た 着 衣 を 直 し て 、長 い た め 息 を つ き ま し た 。そ う し な け れ ば 、こ
Kuea
み 上 げ て く る 怒 り を 抑 え る こ と が で き そ う に な か っ た か ら で す 。あ の 男 が Kueaに 何 を し た の か 。シ ャ ツ の ボ タ ン
が弾け飛んでいるのを見れば、安易に想像ができます。想像してはいけないと分かっていても、王子の頭の中は
良からぬ妄想でいっぱいになっていました。
「… …ご め ん な さ い 」
Hia
黙っている王子が険しい顔をしているので、 は強く叱られるのだと覚悟をして謝りました。
Kuea
「 こ ん な こ と に な る な ん て 、 思 っ て な く て …」
「 NuKuea…」
王 子 は 言 葉 を 詰 ま ら せ 、 た だ Kueaを見つめています。
言いたいことは山ほどありますが、言葉がでてきません。開いた口をまた閉じてしまいます。
は ま だ 何 も 言 わ な い 王 子 を 不 思 議 に 思 い ま し た 。何 か を 言 い た そ う に し て い る の に 、理 性 が 邪 魔 を し て い る
Kuea
のかもしれません。
言葉を待っている間、 は 王 子 の 頬 に 涙 が 流 れ た 跡 を 見 つ け ま し た 。そ の 跡 に そ っ と 触 れ 、拭 う よ う に 撫 で る
Kuea
と 、 王 子 は 目 を 閉 じ て Kuea の手に自分の手を重ねました。まだ眉間に皺が寄っています。
は王子の頭を引き寄せ、額を合わせました。
Kuea
幼い頃、母親がしてくれたように。
触れ合ったところから、感情がじわりと熱を帯びてお互いの体の中に流れ込んでいくような感覚がします。
それはとても温かく、二人の張り詰めた心を優しくほぐしていきました。
し ば ら く し て 、 少 し 離 れ た と こ ろ で 二 人 を 見 守 っ て い た Diawが 遠 慮 が ち に Kuea を呼びました。そろそろ王宮へ
帰らなくてはいけません。
を後ろに乗せ、王子はゆっくり馬を歩かせました。
Kuea
辺りは静まり返り、聞こえてくるのは、馬の蹄の音と、風に吹かれて揺れる木の葉の音だけ。
少し肌寒く感じます。
背 中 に 頭 を 乗 せ て 寄 り か か っ て い る Kueaの 体 温 を 感 じ な が ら 、王 子 は 何 か で き る こ と は な い か と 考 え て い ま し た 。
は疲弊しているに違いありません。身体だけでなく心にも傷を負ったはずです。
Kuea
今 は た だ 、 抱 き し め て 傷 を 癒 し て あ げ た い 。 Kuea
が望むなら朝まで一緒にいてあげたいと思いました。
い ば ら の 森 に 立 ち 入 っ た 理 由 に つ い て は 、 Kuea
が自分から話す気になるまでは問い詰めたりしないつもりです。
それでも王子は の危険な行動を咎めなければなりません。
Kuea
の 世 話 を す る の は 王 子 の 役 目 で す か ら 、 Kuea
Kuea が 自 ら 蒔 い た 種 と は い え 、危 険 な 目 に あ わ せ た こ と に 少 な か ら
ず責任を感じています。
少しまばらになってきた棘だらけの木々の向こうに王宮の灯りを見つけ、王子は手綱を握り直して気を引き締め
ました。
さて、出口はもうすぐです。
薄暗く不気味な、いばらの森についてはこれから探索を進めていかなくてはいけません。
子 猫 が ま た 迷 い 込 ま な い よ う に …。
みちびきの光
王 子 が Kuea
の寝室の前をうろうろしています。
その横を通り過ぎて行く使用人たちは一様に見て見ぬふりをしていましたが、寝室から出てきた使用人にようや
く声をかけられました。
「王子、何をなさっているのですか?」
行ったり来たりしていた王子は足を止め、気まずそうにしています。
「 あ …い や 、 」
「明日はこちらに朝食をお持ちいたしますね」
二人の使用人は、不敵な笑みを浮かべて王子に会釈をしました。
彼 女 た ち は 王 子 が 時 々 Kueaの 寝 室 で 眠 っ て い る こ と を 知 っ て い ま す 。 Kueaのお世話をしている使用人たちの間で
はもっぱらの噂です。
王 子 は 少 し 早 く 起 き て 自 分 の 寝 室 に 戻 っ て い る よ う で す が 、た ま に 寝 坊 し て 一 緒 に い る の を 目 撃 さ れ て い ま し た 。
何とか誤魔化そうと言い訳をして動揺している王子を使用人たちは微笑ましく見守っています。
視 線 を 泳 が せ て 狼 狽 え て い る 王 子 は 、部 屋 の 奥 か ら 聞 こ え る 声 に 気 づ い て ハ ッ と し ま し た 。 Kuea
が呼んでいるよ
うです。
王子と はハグをして、顔を見合わせました。
Kuea
「 NuKuea、傷の具合は?」
「もうすっかり良くなりました」
「 手 首 の 痣 は …、 ま だ 少 し 残 っ て い る な 」
手 首 に う っ す ら と 残 っ て い る 縄 の 痕 を 指 先 で 撫 で な が ら 、先 程 、偶 然 見 て し ま っ た Kuea の後ろ姿を思い起こしま
した。
細 く 締 ま っ た ウ エ ス ト …白 く 滑 ら か な 肌 …、
むき出しになった綺麗な頸…
い つ も は 、こ の 時 間 に は も う Kuea は ベ ッ ド の 中 に い る の で す が 、今 日 は ま だ 使 用 人 た ち が 傷 の 手 当 て を し て い た
ようで、着替えているところに王子が来てしまったのです。
扉 を 開 け た と こ ろ で 驚 い て 動 け な く な っ て い る 王 子 に 気 づ い た Kueaは 、背 を 向 け て 、持 っ て い た パ ジ ャ マ で 慌 て
て胸元を隠しました。
事 態 に 気 づ い た 使 用 人 が「 さ ぁ 、王 子 、そ ん な と こ ろ に 立 っ て い て は Kuea 様 が 困 り ま す か ら 」と 、王 子 を 追 い 出
したのです。
「 …? 」
Hia
物 思 い に 耽 っ て い る 王 子 が 何 を 考 え て い る の か 、 Kuea
は何となく気づいています。
困 惑 し て い る の は Kuea も同じです。王子に着替えている姿を見られて、恥ずかしくて咄嗟に背を向けましたが、
今思えばそれは変なことだったかもしれません。
きっと王子のあの熱い眼差しのせいでしょう。身体の内側まで見られているようで、胸がドキドキして、居ても
立っても居られなくなるのです。
「 あ ぁ …す ま な い 、 ベ ッ ド に 入 ろ う 」
「 は い 、 Hia

「明日は朝寝坊できるな」
「 ふ ふ …、 言 い 訳 し な く て 済 み ま す ね 」
王子は隣に横たわる の柔らかな髪を撫でながら、眠りにつくのを待ちました。
Kuea
王子が と初めて同じベッドで眠ったのは、いばらの森で事件があった、あの夜。
Kuea
身 体 に つ い た 汚 れ を 綺 麗 に 落 と し て 傷 の 手 当 て も し た 後 、疲 れ て 眠 っ て し ま っ た Kueaを 寝 室 ま で 運 び 、王 子 は 悩
みました。夜中に目を覚まして一人だったら不安になるかもしれない、と。
それから時々、二人は一緒に眠るようになりました。
眠 た く な る と 甘 え る よ う に 擦 り 寄 っ て く る Kueaを 寝 か し つ け る の は 、王 子 に と っ て は 罰 ゲ ー ム の よ う な も の で す 。
理性を保てないかもしれない…
王 子 は 誘 惑 と 戦 い な が ら 、 Kueaの天使のような寝顔を見守っていたのでした。
「 Hia
…」
「ん?眠れない?」
「 Kuea
の 傷 が 癒 え た ら …も う 、 夜 は 来 て く れ な い の … ? 」
控えめに見上げる瞳が王子の答えを待っています。まるで試されているようです。
し ば ら く そ の 瞳 を 見 つ め て い ま し た が 、何 と 答 え た ら い い の か 分 か ら ず 、 Kuea
の額にそっと口づけました。 Kuea
はそれが気に入らなかったのか、口を突き出してムスッとしています。
「 、拗ねないで」
Nu
「 Hia
が答えてくれるまで、 は眠りません」
Kuea
「 …困 っ た な 」
は 頑 固 な の で 、こ う な る と も う 言 う こ と は 聞 き ま せ ん 。彼 が 求 め て い る 言 葉 を 差 し 出 す こ と は 難 し く あ り ま
Kuea
せんでしたが、王子はまだそれを口に出すことを躊躇っていました。
「ほら、 、もう寝よう」
Nu
は ま た ム ス ッ と し て 王 子 か ら 少 し だ け 離 れ ま し た 。よ う や く 眠 る 気 に な っ た の で し ょ う か 。頭 ま で す っ ぽ り
Kuea
布団をかぶって、静かになりました。
「 …お や す み 」
静かすぎると感じるのは、二人の間に、いつもは無い距離があるからかもしれません。
な か な か 寝 つ け ず 、じ っ と し て い た 王 子 は 、 Kuea
が も う 眠 っ た よ う だ っ た の で 、息 苦 し く な い よ う に そ っ と 布 団
を掛け直してあげました。
微かに聞こえてくる寝息。
あどけなさの残る無防備な寝顔。
長い間、気持ちを抑え込んでいた王子はもう我慢の限界を迎えていました。
「 …」
Nu
抱 き し め た い …キ ス し た い …
強 い 欲 望 に 思 考 を 支 配 さ れ 、額 と 鼻 先 に 軽 く 口 づ け ま し た 。 は ぐ っ す り 眠 っ て い る よ う で す 。反 応 は あ り ま
Kuea
せん。
今度は、ぎこちなく唇に口づけました。
少し湿っていて、ふわふわしていて、気持ちいい…
またそれを味わいたくて二度、三度と唇を重ねました。
幸福を感じたのは束の間…
自 分 の し た こ と に 罪 悪 感 を 覚 え 、 Kueaを起こさないようにそっとベッドを出ました。
…こ ん な こ と 、 し て は い け な か っ た 。
ただの自己満足だ。
を傷つけたかもしれない。
Kuea
王子はその場にいるのが辛くなって、静かに寝室を出ていきました。
明 日 、 ど ん な 顔 を し て Kuea に 会 え ば い い の で し ょ う か …王 子 は 後 悔 し て い ま し た 。
翌朝、いつもより大幅に遅れて目を覚ました王子は、慌てて顔を洗い、着替えをしました。
昨 夜 は 自 分 の 寝 室 に 戻 っ た 後 、 眠 た く な る ま で ベ ッ ド で 書 類 の 整 理 を し て …よ う や く 眠 り に つ い た の は 、 空 が 白
み始めた頃。
午前中は公務の予定が無かったので、使用人たちも気を利かせて寝かせておいてくれたのでしょう。
サイドテーブルに置かれたままだった朝食はすっかり冷めています。小さなクロワッサンをひとつだけ口に放り
込んで、残りはキッチンへ持って行きました。
「 お は よ う …」
「あら、王子、やっとお目覚めになったのですね」
「 頭 が 重 い ん だ …ぼ ん や り す る 」
「 昨 夜 は Kuea 様のところでお休みにならなかったのですか?」
「あぁ、残していた仕事があったのを思い出した」
「 ま ぁ …そ れ で か し ら …」
「 は何か言っていたか?」
NuKuea
「 そ れ よ り も 王 子 、 ハ ー ブ テ ィ ー を Kuea
様に持って行ってさしあげてください」
「うん」
「ローズマリーとセージのブレンドティーですよ。王子の頭もスッキリするはずです」
ポ ッ ト と 二 つ の カ ッ プ を 載 せ た ト レ イ を 持 た さ れ 、王 子 は 書 庫 に 向 か い ま し た 。王 子 が 寝 坊 し た の で は一人
Kuea
で書庫にいるようです。
も し Kuea に昨夜のことを気づかれていたら、王子は正直に謝ろうと思っていました。
た だ …何 と 言 え ば い い の で し ょ う か 。
気の迷い?魔が差した?それとも…
たくさんの書物が保管されている書庫はとても広く、大きな天窓に施されたステンドグラスが日の光を浴びてキ
ラキラとまるで宝石のように輝いています。
窓 際 に あ る テ ー ブ ル に ト レ イ を 置 き 、書 棚 を 一 列 ず つ 覗 き 込 み な が ら Kuea
を 探 し ま し た 。父 親 を 探 し て 書 庫 を 走
り回っていた幼い頃を思い出して、懐かしい気持ちになります。王宮で暮らす人たちにとってここは特別で、心
安らげる場所なのです。
「 」
NuKuea
一 番 奥 に あ る 書 棚 で よ う や く 見 つ け た Kuea
は 両 手 い っ ぱ い に 書 物 を 抱 え て い ま し た 。ひ と ま ず 王 子 は そ れ を 半 分
もらって、近くにあった台車に乗せました。諸国の歴史書だけでなく言語に関する資料まであります。とても勉
強熱心なようです。
「 お は よ う ご ざ い ま す 、 Hia

「すまない、寝坊してしまった」
「ぐっすり眠っていたので、起こさなかったんです」
ど う や ら 朝 食 を 寝 室 に 運 ん で く れ た の は Kuea
だ っ た よ う で す 。食 べ 残 し て し ま っ た そ れ を 頭 の 片 隅 に 思 い 浮 か べ
て、王子は居心地が悪そうにしています。
少 し 気 ま ず い 雰 囲 気 を 打 ち 消 す よ う に 、 Kuea
がクスクスと笑いました。
「鏡を見なかったんですか?」
「ん?」
「 寝 癖 、 ひ ど い で す よ 、 ほ ら …そ こ の 」
顔を洗った時はぼんやりしていたし、気づかなかったのかもしれない…
い つ も 身 だ し な み に 気 を 遣 っ て い る 王 子 は 、自 分 の 失 態 に 動 揺 し ま し た が 、 Kuea
が手を伸ばしているのに気づい
て「どこ?」と頭を傾けました。
「 直 ら な い …ふ ふ っ 」
「 、笑ったな?」
Nu
「 あ ! Hia…! や め て ! 」
脇腹をくすぐられて、書棚の前で逃げ場のなくなった は息を切らしています。王子が
Kuea の腰を抱き寄せ
Kuea
ても、抵抗はしませんでした。
い け な い と 分 か っ て い る の に 、 Kuea
を近くに感じると、考えるよりも先に体が動いてしまうのです。
王子は自分を落ち着かせるために深呼吸をしました。
「 、 昨 日 の こ と …謝 り た い ん だ 」
Nu
は何も言わずに、王子をじっと見つめています。
Kuea
会話が途切れてしまいました。まだ何と言えばいいのか頭の中で整理ができていなかったせいで、言葉がでてき
ません。
少 し 言 い づ ら そ う に し て い る の を 察 し た の か 、 Kuea
は背伸びをして王子の頬に軽く口づけました。
王子は予想外の行動に驚いて目を丸くしています。
「 は …嬉 し か っ た 」
Kuea
そ う 言 っ て 、 Kueaは顔を手で覆ってしまいました。
勇気を出して正直に言ってみたものの、急に恥ずかしくなってしまったのです。耳の先まで真っ赤になっている
のが自分でも分かるほど顔が火照っています。
そ の 様 子 を 口 元 を 緩 ま せ な が ら 見 て い た 王 子 は 「 嬉 し か っ た の ? 」 と Kuea
の耳元で囁きました。
「 … Hia…見 な い で 」
「どうして?もっとよく見せて」
「 恥 ず か し い …」
互いの息を感じるほど近くに顔を寄せ、目を閉じました。
そっと触れ合った唇が、ちゅっ、と音を立てて離れ、二人の気持ちを高揚させます。
ずっとこうしたかった…
キスの合間に囁く王子の声や吐息はとても甘く、それだけで崩れ落ちそうでしたが、首筋や背中に触れる指先に
も 熱 を 感 じ て Kuea
は身体を震わせました。
頭の先からつま先まで全身が王子を欲してぐらぐらと煮えたぎっています。
「 … Nu
、」
「 ん 、 …っ 、 …」
Hia
ジ ャ ケ ッ ト が 引 っ 張 ら れ て い る 感 じ が し て 目 を 開 け た 王 子 は Kuea
の異変に気づきました。
興 奮 し す ぎ た の で し ょ う か …少 し 獣 化 し て し ま っ た よ う で す 。
唇 を 離 す と 、 Kueaはまだ物足りないのか、追いかけるように唇を寄せてきました。
「 …落 ち 着 い て 、 毛 が 逆 立 っ て る 」
Nu
よ う や く 自 分 が 獣 化 し て い る こ と に 気 が つ い た Kueaは慌てふためいています。
ほ と ん ど の 国 民 は 日 常 生 活 で 獣 化 す る こ と が 滅 多 に な い た め 、コ ン ト ロ ー ル す る 術 を 知 り ま せ ん 。 Kuea
のように
獣 化 し や す い 体 質 の 場 合 は 、特 別 に 国 か ら 指 導 を 受 け ま す が 、 Kueaはまだ自分がその対象だと気づいていなかっ
たようです。
王 子 は 混 乱 し て い る Kuea を後ろから抱きしめて、頸に生えた真っ白な毛に鼻先をうずめました。
ふわふわしていて、とても良い香りがします。
「 …ど う し よ う …」
Hia
「大丈夫、こうしていれば落ち着くから」
冷 静 を 装 っ て い る 王 子 も 、自 分 の 欲 望 を 制 御 す る 必 要 が あ り ま し た 。 Kueaのように獣化しやすい体質ではありま
せんが、お互いを傷つけないようにするためには、いずれ訓練をしなければなりません。
そ れ ま で は 安 易 に Kuea を 興 奮 さ せ な い よ う に し な け れ ば …と 王 子 は 顔 を し か め ま し た 。
落 ち 着 き を 取 り 戻 し た Kuea
の手を引いて、窓際のテーブルまで戻ってきました。
まだほんのり温かいハーブティー。
ふわっと穏やかに香りが立ちます。
王子はうやむやになった昨夜の話を再び持ち掛けました。
は 、王 子 が 布 団 を 掛 け 直 し た 時 、ま だ 微 睡 ん で い る 最 中 だ っ た の で 、 近 づ い て く る 気 配 を 感 じ て 寝 た フ リ を
Kuea
していたようです。
「 起 き て た の ? Hiaが 、 そ の …」
「はい」
「 な ん で …」
「 Kueaが嫌な思いをしてたらどうしようって、心配で眠れなかったんですか?」
「うん」
「 そ ん な 心 配 い ら な か っ た の に …」
王子は の手を取って指先を絡めました。
Kuea
夢 中 に な っ て 何 度 も し た キ ス の せ い で 少 し 赤 く な っ た 唇 を 王 子 の 視 線 が 捉 え て い ま す 。 Kuea
は恥ずかしくなって、
隠すようにカップを口元に寄せました。
「 Kueaも …昨 日 は 、 あ ま り 眠 れ な く て 」
「 そ れ は 、 Hiaがキスしたから?」
「 そ ん な こ と 聞 か な い で …」
「 も っ と し て 欲 し か っ た ? Nu
、 Hiaが欲しくて眠れなかったの?」
は 絡 め て い た 指 先 を 振 り 解 い て 、 王 子 の 太 も も を 軽 く 叩 き ま し た 。 さ っ き ま で 、あ ん な に し お ら し く し て い
Kuea
たのに…
結 局 、 Kuea
はその問いには答えませんでした。
その通りだったからです。
王子が寝室を出て行った後、それが夢なのか現実なのか、何度も頬をつねったり叩いたりして確かめました。
触れた唇の感触があまりにも生々しくはっきり残っているので、それが現実なのだと分かってはいましたが、信
じることができなかったのです。
王 子 が Kuea にキスするなんて…
そ れ で も 一 度 し て し ま え ば 、 も っ と し た い 、 あ ん な こ と も こ ん な こ と も し た い と 欲 張 っ て し ま う …生 き 物 と い う
の は あ ま り に も 強 欲 で す 。 Kueaは悶々としてしばらく眠ることができませんでした。
そ の こ と を 思 い 返 す と 、ま だ ド キ ド キ し て し ま う の で 、 Kuea
は話を逸らすために天窓のステンドグラスを見上げ
ました。
「 キ ラ キ ラ し て る …」
「 う ん 、 Hia
も子供の頃はよくあそこに寝転がって日が暮れるまで眺めていたよ。時間によって日が差す角度が
変わるから、ずっと見ていても飽きないんだ」
「 寝 室 に あ る ラ ン プ も 、 す ご く 綺 麗 で …好 き で す 」
今 は Kuea
が寝室として使っているゲストルームにもステンドグラスのランプがあります。
派手なものではなく、とてもシンプルで、それでも灯りをつけると幻想的な輝きで室内を美しく照らしてくれま
す。
「 あ れ は Hia が初めて貿易の仕事で国外に出た時に買ったものなんだ」
「 Kueaもいつか行ってみたいです」
「 海 を 渡 る ん だ よ ? Nuは海が怖くない?」
「 海 …? 」
「 外 の 世 界 に は 見 た こ と の な い も の が た く さ ん あ る ん だ 。 Hia
は Nu
にもたくさんのことを経験させてあげたいと
思 っ て い る 。 危 険 が つ き も の だ け ど ね …」
「 も剣術を学びたい!」
Kuea
王 子 は Kuea の手をとって、そこに自分の手を重ねました。
近 い 将 来 、 Kueaと 一 緒 に 国 外 へ 出 る こ と は 想 定 し て い ま す 。し か し 、多 く の か け が え の な い 経 験 と 引 き 換 え に 常
に 危 険 と 隣 り 合 わ せ で も あ り ま す 。猫 の 国 は 比 較 的 、治 安 が 良 い で す が 、も ち ろ ん そ う で な い 国 も あ り ま す か ら 、
最低でも護身術程度のことは習得しなければなりません。
で も 、 王 子 は ど ち ら か と い う と 、 Kueaのことを護りたいのです。
彼はまだ広い世界を知らない純粋無垢な可愛い子猫。
好奇心旺盛ですから、きっと自ら進んで危険に飛び込んで行くでしょう。
「 …」
Hia
「 Nuは Hia の大切な右腕だから、危険なことはしてほしくないんだ」
「 …そ れ だ け ? 」
「ん?」
「 大 切 な 右 腕 、 だ け じ ゃ …い や で す 」
ねだるように見上げる瞳が、王子のリミッターを外そうとしています。それはもう、いとも簡単に。
の 上 目 遣 い に め っ ぽ う 弱 い 王 子 は 、そ れ と な く 顔 を 背 け ま し た 。 Kuea
Kuea が 身 を 乗 り 出 し て「 Hia
?どうしたの?
こっち見て」と笑っています。とても楽しそうです。
まだまだ精神鍛錬がたりない…
王子は頭の中に鬼のような形相をした護衛隊長の顔を思い浮かべました。
近頃、新しく手掛け始めた貿易事業のルート開拓のため、王子は多忙を極めていました。そんな王子をサポート
す る た め に Kuea も 慌 た だ し く 駆 け 回 っ て い ま す 。王 子 の 右 腕 と し て 少 し ず つ 経 験 を 積 み 、そ の 役 割 も す っ か り 板
についてきたようです。
ある日、机の上にある文献を持ってきてほしいと頼まれた は王子の書斎を訪ねていました。
Kuea
壁 面 が た く さ ん の 書 物 で 埋 め 尽 く さ れ た 書 斎 は 、何 度 入 っ て も 圧 迫 感 が あ り ま す 。 Kueaは早く用事を済ませよう
と、机の上に何冊か積まれている書物を手に取りました。
自 国 や 他 国 の 史 書 、古 い 書 物 な ど に 混 ざ っ て 、児 童 書 の よ う な も の が あ り ま す 。 Kuea も幼い頃に何度か読んでい
たので、懐かしいと思い、書物を開きました。
その時、何かがひらりと舞い落ちました。
書物の間に挟んであったのでしょうか。それは一枚の写真でした。
「 …と 、 誰 だ ろ う ? 」
Hia
も っ と よ く 見 よ う と 顔 を 写 真 に 近 づ け た 時 、扉 が 開 く 音 が し て 、 Kuea
は慌ててその写真をポケットに押し込みま
した。それから、手にしていた児童書も慌てて机の上に…
「 Nu」
「 は い 、 Hia

「すまない、散らかしたままだったのを忘れていた」
「 あ 、 …た ぶ ん 、 こ れ で す か ? 」
は咄嗟に目の前にあった書物を手に取って王子に差し出しました。
Kuea
王 子 は 嬉 し そ う に 頷 い て 、 Kuea
の頭を優しく撫でました。どうやらそれが探していた文献だったようです。
は王子に微笑み返しながら、ポケットに押し込んだ写真のことで頭がいっぱいでした。
Kuea
学生服を着て花束を抱え、楽しそうに笑い合う二人…
卒業式の写真かもしれません。
こ の 女 性 が 誰 な の か 、 Kueaに は 見 当 も つ き ま せ ん で し た が 、女 性 の 腰 に 添 え ら れ た 王 子 の 手 を 見 て 、 親 密 な 関 係
だったのではないかと推測しました。
は そ の 女 性 の こ と が 気 に な っ て 、何 度 も 彼 女 の 笑 顔 を 頭 の 中 に 思 い 浮 か べ て は 、も や も や し て い ま す 。写 真
Kuea
を勝手に持ち出してしまったのはもちろん故意ではありません。でも、王子に手渡す勇気もなく、書斎に戻す隙
もありませんでした。重要な書類なども保管されている書斎は、夜には鍵が掛けられてしまうからです。
は 、 夜 、 ベ ッ ド に 寝 転 が り な が ら 、 Diaw
Kuea に 「 SOS!」とメッセージを送りました。
翌 日 、 Kueaは Diaw を連れて、城下町の酒場を訪れていました。密会場所としてすっかり定着した酒場は、今日
もとても賑わっています。
二 人 は 王 宮 で も 毎 日 会 っ て い ま す が 、最 近 は 王 子 が Kuea
に べ っ た り 張 り つ い て い る の で 、聞 か れ た く な い 話 を す
るためには外出する必要がありました。
「えっ? ?」
HiaLian

Diaw が勝手に拝借してきた写真をしげしげと眺め、目を丸くしています。
Kuea
「 Kuea、なんでこの写真を持ってるの?」
「 う っ か り ポ ケ ッ ト に …そ れ で 、 返 す タ イ ミ ン グ を 失 っ て …」
「 ふ ー ん …こ の 女 性 の こ と が 気 に な っ て 、 昨 日 は よ く 眠 れ な か っ た ん で し ょ ? 」
は 眠 そ う に 欠 伸 を し て い る Kuea
Diaw を肘で突いて揶揄いました。
王 子 と Kueaの 関 係 に 気 が つ い た の は 、 い ば ら の 森 で 事 件 が あ っ た あ の 夜 で す 。 そ れ ま で に Kuea
からそういう浮
ついた話は聞いていませんでしたが、二人がお互いに強い感情を抱いていることは直感で分かりました。
そ れ か ら 、 Kueaと Diaw は城下町に買い物に来るたびに酒場に寄り、恋バナをするようになったのです。
は 良 き 相 談 相 手 と し て 、 惚 気 話 や 愚 痴 を 聞 い て は Kuea
Diaw を揶揄って楽しんでいます。
「 の元カノの話は
HiaLian か ら 聞 い た こ と が あ る け ど …」
HiaYi
は Yi
Diaw 王子とその話をした時のことを思い返しました。確か、学生時代の友人の集まりについて来るように
言 わ れ 、 渋 々 同 行 し た 時 の こ と で す 。 Diaw
に は も ち ろ ん 知 り 合 い は い ま せ ん か ら 、 何 も す る こ と が な く 、ふ ら ふ
ら し て い た と こ ろ に 、 Yi
王子と今でも親交があるという男性が声をかけてきました。その男性と 王子、
Yi Diaw
の 三 人 で Lian王子のうわさ話をして盛り上がったのです。
その時話した 王子の友人が酒場に来ているのを、
Yi が偶然見つけました。
Diaw
「 Phi、お久しぶりです」
「 久 し ぶ り だ ね 、 … こ ん に ち は 、 N'Kuea

「 初 め ま し て … Phi、僕のことを知っているんですか?」
「もちろんだよ、僕はこの酒場の跡取りだからね、小さい時から君のことはよく知っているよ」
男性は酒場のオーナーの息子だったようです。彼が情報通なのも頷けます。
さっそく写真を見せ、女性のことを聞くと「懐かしい!とても素敵な写真だね」と嬉しそうに笑いました。
「 こ の 子 の こ と は よ く 覚 え て い る よ 、 王 子 の 恋 人 だ っ た か ら …特 別 な 子 な ん だ 」
彼女は城下町の一般的な家庭の出身。清楚でとても可愛らしい女性でしたが、目立つタイプではありませんでし
た 。身 分 の 違 い を 気 に せ ず 愛 し 合 う 二 人 は 、ひ と つ 学 年 が 下 だ っ た Yi
王子たちの間でも有名なカップルだったよ
うです。
「彼女には歳の離れた妹がいてね、たまに二人で絵本や小さい子向けの物語を読んでいたよ。その姿はとても可
愛 ら し く て …僕 は 彼 ら の こ と が 本 当 に 好 き だ っ た 」
男性は小さなため息をつき、グラスに並々と注いだ酒を一気に飲み干しました。
途端に暗くなる表情…
何か良くない思い出があるのでしょうか。
が身を乗り出して「二人は別れたんですよね?」と口を挟みました。
Diaw
「僕たちは、当然彼らが結婚するものだと思っていたよ。でも、やっぱり身分の差っていうのは、どれだけ二人
が 愛 し 合 っ て い て も 、 越 え ら れ な い 壁 な ん だ ろ う ね …」
「王様が、二人の交際を許さなかったんですか?」
「 あ ぁ …王 が 、 二 人 を 引 き 離 し た ん だ 」
少し酔っ払った様子の男性は、急に の顔をじっと見つめました。勘繰るように目を細めています。
Kuea
「 N'Kuea
… 君 を 見 て る と 、お ば さ ん を 思 い 出 す ん だ 。彼 女 は と て も 美 人 で 、城 下 町 で 知 ら な い 人 は い な か っ た よ 。
残念ながら随分前に亡くなったんだけどね」
そう言って、いくつか額縁が掛けてある壁を見上げました。
「あれがおばさんだよ」と男性が指差した写真には何人か写っていましたが、 と
Kuea は お
Diaw " ばさん が
" どの
人なのかすぐに気づき、アッと声を上げました。
確 か に Kuea
によく似ています。
「その隣にいるのが王なんだ、誰も気づかないけど」

" ばさん の
" 隣に立っている人物は、スラッとしていてとても端正な顔立ちをしています。ふくよかでヒゲがモ
ジャモジャしている今の王様とは似ても似つきません。
二人は驚いて顔を見合わせました。
「 ね ぇ 、 Kuea、本当に王様かな?」
「 分 か ら な い … で も 、 少 し Hiaに似てるかも」
「 王 と お ば さ ん は 、た ぶ ん 恋 人 だ っ た と 思 う ん だ 。お 腹 に 赤 ち ゃ ん が い る 頃 は お ば さ ん を よ く 訪 ね て き て い た よ 。
僕は当時まだ子供だったけど、なんとなくそんな気がしたんだよね」
「 赤 ち ゃ ん ? じ ゃ あ 、 も し か し て 、 王 様 の …子 供 …」
は言いかけて、ハッとしました。
Diaw
慌てて振り返って の肩を抱き寄せましたが、なだめるようにその肩をさすっても、
Kuea Kueaはぴくりともしま
せ ん 。 Kuea
も Diaw
と 同 じ こ と を 考 え て い る の で し ょ う 。王 様 と 、 Kuea
に似ている お
" ばさん と" 、 Kuea
の関係を…
「 、君は今、王のところにいるんだろう?もしかして、ようやく君の面倒を見る気になったのかな?」
N'Kuea
あ ま り に 無 神 経 な 言 葉 に 、 Diaw
は勢いよく立ち上がりました。ガタン、と大きな音を立てて倒れた椅子を見て、
男性はびっくりしています。
男 性 は 酔 っ て い ま す し 、悪 気 が あ っ た わ け で も あ り ま せ ん 。た だ 、今 の 二 人 の 関 係 を 知 る Diaw
に は 、と て も 残 酷
な真実に思えました。
も し Kuea が 本 当 に 王 様 の 子 供 だ っ た と し た ら 、 王 子 と Kuea
は母親違いの兄弟ということになるのです。
三人はそれ以上何かを言うことはなく、その辺りだけが静寂に包まれていました。
王 宮 ま で の 帰 り 道 を 、 Kueaはひたすら泣き続けていました。何を聞いても答えようとしません。

Diaw が 公 爵 家 の 息 子 だ と い う 話 を 聞 い て い た の で 、 混 乱 し て い ま し た 。 Yi
Kuea 王子の友人がしていた話はあ
く ま で 推 測 で 根 拠 も 証 拠 も あ り ま せ ん が 、あ の お" ばさん の " 写 真 と Kuea の 様 子 か ら し て 、も し か し た ら … と 思 っ
てもいます。
「 Kuea、大丈夫だよ、王子のところに行こう?」
「 う ぅ …っ 」
嫌 が る Kuea を 連 れ て 王 子 を 探 し ま し た が 、寝 室 に も 書 斎 に も い ま せ ん 。こ の 広 い 王 宮 の 中 を 無 闇 矢 鱈 に 歩 き 回 っ
た せ い で Diaw は疲れ果ててしまいました。
そ の 上 、 少 し 目 を 離 し た 隙 に Kuea がいなくなってしまったのです…
「もう!なんでいないの!二人とも!」
「 KonDiaw
?」
「 ヒ ッ …! 」
見つからない王子にイラついていた は急に後ろから声をかけられて飛び跳ねました。
Diaw
「 HiaLian
…! 」
「帰っていたのか、… は?」
NuKuea
は 城 下 町 で あ っ た こ と を 正 直 に 話 す こ と に し ま し た 。王 様 や 王 子 に も 関 わ る こ と で す か ら 、ど こ ま で 話 し て
Diaw
いいのか分からず、生い立ちについて信じられない話を聞いたとだけ…
王 子 は 、 Kuea
が い な く な っ て 不 安 そ う に し て い る Diaw に見つけたら連絡すると伝えて帰らせることにしました。
嫌な予感がします。
を見送った後、心当たりのある場所に急いで向かいました。
Diaw
月 明 か り に 照 ら さ れ 、キ ラ キ ラ と 輝 く ス テ ン ド グ ラ ス 。天 窓 の 下 に い る の白く艶やかな毛並みも美しく光り
Kuea
輝いています。
書庫はとても静かで、啜り泣く声だけが辺りに響いていました。
「 …」
Nu
を抱きしめて、王子は目を閉じています。
Kuea
つらいことがあるなら、全て分け合いたい…
気 持 ち が 晴 れ な く て も 、 Nu
に は Hia
がついてるって安心して欲しいから…
そ う 強 く 想 い な が ら 、 Kuea
が落ち着くまで背中を撫でてあげました。
し ば ら く し て 、王 子 の 気 持 ち が 伝 わ っ た の か 、 Kuea
は 伏 せ て い た 顔 を 上 げ ま し た 。涙 で ぐ し ゃ ぐ し ゃ に な っ た 顔 。
王子は手が濡れるのも気にせず、その涙を丁寧に拭っています。
「 … Hia
…」
「 Nu
、大丈夫、ゆっくりでいいから話してくれる?」
は Yi
Kuea 王子の友人から聞いた話を、涙を堪えながら少しずつ話し始めました。
王様と お " ばさん の " 関係、

" ばさん と " Kuea がよく似ていたこと、
そ し て …お 腹 に い た 赤 ち ゃ ん の こ と を 。
そ の こ と に つ い て 、 Kuea
には心当たりがありました。
は 公 爵 家 の 一 人 息 子 で す 。両 親 は と て も 優 し く 、 Kuea
Kuea が 健 康 に 育 つ こ と を 一 番 に 考 え 、常 に 尽 く し て く れ て
います。
が王宮へ来る少し前のことでした。
Kuea
両 親 が 王 室 に 提 出 す る 個 人 情 報 な ど の 書 類 を 揃 え て い て 、た ま た ま そ れ を 見 た Kuea
は自分が養子だということを
知りました。そして、ある衝撃的な話を聞かされたのです。
両 親 は Kuea の こ と を 愛 し て く れ て い ま す 。 そ の こ と は よ く 分 か っ て い ま す し 、 Kuea
も両親のことをとても愛し
ています。両親から本当の親が亡くなっていることや引き取った経緯を聞いた時は、驚きはしましたが、取り乱
すほどではありませんでした。
「 は 、 … っ 、 も う Hia
Kuea と 一 緒 に い ら れ な い の …? 」
「 ど う し て ? Hiaと Nu はずっと一緒だよ」
「 こ ん な に 愛 し て る の に …」
「 …大 丈 夫 だ か ら 、 も う 泣 か な い で 」
Nu
「 Kueaと Hia は 、 …兄 弟 、 な ん だ よ ! も う 一 緒 に は い ら れ な い ! 」
王 子 は 急 に 声 を 荒 げ た Kuea
の言葉を聞いてハッとしました。 は、兄弟だからもう恋人同士にはなれないと
Kuea
言っているのです。だから結ばれることはない、と。
「 も
Hia を 愛 し て る …心 の 底 か ら …誰 に も 邪 魔 は さ せ な い し 、 ず っ と 一 緒 に い る 」
Nu
「 … 王 様 は 、 そ ん な こ と 許 し て く れ な い … Hia
が一番よく分かってるはずだよ」
王 子 は Kuea
が 何 の こ と を 言 っ て い る の か 気 が つ き ま し た 。恋 人 と 引 き 離 さ れ た 辛 い 過 去 … そ れ を 思 い 出 し て 、シ
ョックを受けました。
と引き離されるくらいなら、家を捨てて、二人で生きる道を選びたい。
Kuea
あの時と同じように王に屈したくなかったのです。
混乱した王子は、後先考えず、とにかくここから出なければいけない、と思いました。
「 、上着を持ってくるから裏門で待っていて」
Kuea
「 … ど こ に 行 く の ? Kuea
Hia を 一 人 に し な い で …」
すがりつく を落ち着かせるようにキスをして、もう一度、裏門に行くように言いました。
Kuea
外は静まり返っていて、人の気配はありません。
王 子 は 二 人 分 の 上 着 と 、 馬 を 連 れ 、 裏 門 で 待 っ て い た Kuea と無事に合流しました。
こ れ か ら ど こ に 行 こ う と し て い る の か 、 何 を す る つ も り な の か … Kuea
はとても不安そうです。
「 、 こ れ か ら ど ん な こ と が 待 っ て い る か 分 か ら な い …そ れ で も
Kuea について来てくれる?」
Hia
「 は い … Hia

「愛してる」
「 Kueaも、愛しています」
二人はキスをして、額を合わせました。
恐れや不安、緊張、愛、強い意志、全てを共有するように互いの体温が溶け合う感覚がします。
二人が一緒なら、どんなことも乗り越えていけそうな気さえしました。
例え、二人が望んでいない結末になったとしても…
いつまでも、あなたと
昔々、まだ猫族が獣の姿をしていた頃、猫の国の最南端にある岬に、ヒトの姿をした男が瀕死の状態で流れ着き
ました。
猫族は違う種族と出会うのが初めてだったため死にかけていた男を殺そうとしましたが、当時、国を治めていた
女王によってその男は生きたまま捕らえられたのです。
とても好奇心が旺盛な女王は、その男と話をするために献身的に手当てをしました。
そして二人はいつしか心を通わせるようになり、多くの星々が流れ落ちる夜、初めて言葉を交わしました。
種族が違えば、もちろん言葉も違います。不思議に思うかもしれませんが、その男は女王と額を合わせ、ただ目
を閉じただけでした。
女王は「触れ合った瞬間、強い力を感じた」と。
相 手 と 触 れ 合 う こ と で 波 動 を 通 し て 、 喜 び 、 怒 り 、 哀 し み 、 不 安 、 快 楽 …様 々 な 感 情 を 共 有 す る こ と が で き る 未
知の力。
男は女王を信頼し、他の猫族にも同じように力を分け与えました。
すると猫族は少しずつ変化を遂げ、姿や言葉がヒトに近づいていったのです。
小さな島国である猫の国は当時、衰退に苦しんでいたため、その変化を受け入れ、新たな歴史を築いていくこと
にしました。

" と" 称えられるようになったその男は女王と生涯を共にし、国を繁栄させ、そして今、この豊かな国があるの
です。
その男が流れ着いた岬は 神 " の聖地 と " 呼ばれ、今でも多くの信仰者や観光客が集う場所として愛されています。
王宮から五時間ほど馬を走らせた場所、 神
" の聖地 と
" 呼ばれる岬の近くに二人はたどり着いていました。
道中で二時間ほど休憩したため、すでに太陽が昇り、朝が早い海辺の町では多くの人が活動を始めています。
遠く離れた町を訪れるのが初めてだった は 、目 に 映 る 全 て の も の が 新 鮮 な よ う で す 。キ ョ ロ キ ョ ロ と 辺 り を
Kuea
見渡しています。
「 、歩きながら食べよう」
Nu
王子は露店で買った果物をひとつ手渡しました。
「 こ れ は …? 」
「 Hiaも子どもの頃によく食べたんだ、びっくりするほど美味しいから食べてごらん」
とても水々しく、甘い香りがする果物。
恐 る 恐 る ひ と 口 か じ り つ い た Kuea
は、その美味しさに驚いて小さく飛び跳ねています。
王 子 は Kuea の笑顔を見て、ほっとしました。
昨夜、王宮を飛び出した時はどうなることかと思っていましたが、少し落ち着きを取り戻したようです。
「 … Hia
、ごめんなさい」
「ん?」
「 Kueaの た め に …」
「気にしなくていい」
「 で も …」
「 Nu、 神" の聖地 を " 知ってる?」
まだ何か言おうとしていた の言葉を遮って、王子は海辺の方を指さしました。
Kuea
猫族の始まりの場所。
も ち ろ ん 、 Kuea
はそれを知っています。
この国でそれを知らない猫族はいません。
は岬を実際に見るのが初めてだったので、すぐに走り出しました。まるで小さな子どものようです。
Kuea
その姿を横目に、王子は来た道を振り返りました。少し離れたところに護衛隊長の姿が見えます。
王 子 は Kueaを門で待たせている間、馬小屋へ行くついでに武器庫へ立ち寄っていました。
若い頃、何度も無断で外出していた王子は度々、護衛隊長にこっぴどく叱られ、必ず護衛を一人は連れて行くよ
うにうるさく言われているからです。
今の状況も彼を通して王室に伝わっています。よくあることなので、王室はさほど混乱していないでしょう。
町 か ら 岬 ま で は 少 し 距 離 が あ る た め 、走 り 疲 れ た Kuea
を 馬 に 乗 せ て 、そ の 後 は 海 を 眺 め な が ら ゆ っ く り 海 沿 い の
道を進むことにしました。
吹きつける少し湿った海風と潮の香り。
久しぶりの休暇を楽しんでいるような気分です。二人は雑談をしながら岬へ向かいました。
しばらくすると、小さなテントがいくつか見えてきました。岬に到着したようです。
首 を 傾 げ て い た Kuea
が「何だろう、これ」と言って近くにあった掲示板を指さしました。
「 …そ う か 、 み ん な そ れ を 見 に き て る ん だ な 」
「 Hia
、流星群って何ですか?」
「空からたくさんの星が降ってくるんだ」
流れ星が降る夜、ここで願い事をすると必ず成就する。
そ ん な 言 い 伝 え も あ り 、美 し い 星 空 を 満 喫 で き る こ の 岬 は 、流 星 群 が 見 ら れ る 時 期 に な る と 観 光 客 で 賑 わ い ま す 。
「見たい?」
「見たい!」
「とっておきの場所があるからそこに行こう」
「 は い 、 Hia

岬を越えてもう少し歩いたところにある王族の私有地。とても静かで綺麗なビーチは、王族が各地に所有してい
る土地の中で王子の一番のお気に入りです。
若い頃、一人になりたい時や考え事をしたい時、幾度となくこの別荘を訪れていました。
今 回 も こ こ に 来 る こ と が 目 的 で し た が 、王 子 は と一緒に流星群を見ることで何かが起きるかも知れないと考
Kuea
えました。
別荘に着くと、年配の管理人が二人を出迎えてくれました。
王子は管理人との再会をとても喜んでいます。
「 Lian
王子、いつぶりでしょうね、あなたにお会いするのは」
「すまない、目が回るほど忙しいんだ」
「 そ れ は そ れ は …素 晴 ら し い こ と で す 」
「今夜は流星群が見られるそうだな」
「もちろんここからでもよく見えますから、ゆっくりお過ごしになってください」
王 子 は 管 理 人 に Kuea
を 紹 介 し 、二 人 は 別 荘 で 少 し 遅 め の 昼 食 を と り ま し た 。そ れ か ら シ ャ ワ ー を 浴 び て 、夜 に 備
えて仮眠をとることにしました。
二 時 間 ほ ど 眠 っ た 後 、王 子 が 目 を 覚 ま す と 、隣 に い る は ず の Kuea
の 姿 が あ り ま せ ん 。慌 て て 別 荘 の 中 を 探 し ま し
たが、どこにもいませんでした。
外に出ると、もう日が陰り始めていて、空にもいくつか星が見え始めています。
人ひとりいない広大な海を見て急に不安に駆られた王子は、あてもなく浜辺を歩き始めました。
外の空気を吸いに出たのかもしれない。
少し散歩しているのかも。あるいは、貝殻を拾って遊んでいるのかも。
いろいろな推測をしながら、頭に浮かぶ嫌な予感を打ち消して、それでも、本当にいなくなっていたら?と考え
ずにはいられませんでした。
しばらく歩いていると、大きな流木に座っている の姿が見えました。
Kuea
「 !」
NuKuea
声 に 気 づ い た Kuea が手を振っています。
王 子 は 砂 浜 に 足 を と ら れ な が ら 走 り 、 近 づ い て き た Kuea
に勢いよく抱きつきました。
「 ?どうしたの?」と優しく話しかける
Hia の手が、王子の背中をゆっくり撫でています。首筋に顔を埋め
Kuea
て 荒 く 呼 吸 を し て い る 王 子 は 、 い っ そ う 強 く Kuea を抱きしめました。
「 …い な く な っ た の か と 思 っ た 」
「眠れなくて散歩してただけだよ」
「 う ん …」
落 ち 着 き を 取 り 戻 し た 王 子 は 、 乱 れ た 髪 の 毛 を 手 櫛 で 整 え て く れ て い る Kuea
の顔をじっと見つめています。
誰 か を こ ん な に 深 く 愛 す る の は 初 め て か も し れ な い 。 き っ と も う Kuea がいない世界では生きていけない。
王 子 は 、 締 め つ け ら れ る よ う な 胸 の 痛 み を 堪 え て Kuea に顔を寄せました。
額を合わせて、目を閉じ、心を落ち着かせます。
この土地が持つ力のせいかも知れません。いつもよりお互いの感情を強く感じるような気がします。
テ レ パ シ ー は 、波 長 が 合 う 者 同 士 で な い と 機 能 し な い た め 、王 子 も Kueaも家族以外にこの力を使ったことはあり
ま せ ん で し た 。 Kuea
の よ う な 一 般 の 国 民 に い た っ て は 、そ れ が テ レ パ シ ー だ と い う こ と を 知 ら ず に い る 者 も 多 く
います。
王子も幼い頃はよく両親と遊び半分でテレパシーを使うことがありましたが、大人になってからはその回数も減
り 、 Kueaに 出 会 う ま で そ の 存 在 を 忘 れ て い た ほ ど で し た 。テ レ パ シ ー を 使 う た び 、二 人 は 深 く 繋 が り 、絆 も 強 く
なっているようです。
咳払いのような音が聞こえて、二人は我に返りました。
の向こう側に、管理人の姿が見えます。
Kuea
「 い や …す み ま せ ん な 、 王 子 …邪 魔 を す る つ も り は な か っ た ん で す が 」
は管理人から岬の言い伝えを教えてもらっていたようです。
Kuea
「女王様と神様は違う種族なのに、愛し合っていたのかな」
「 Nu、誰かを愛するのに種族は関係ないんだよ」
「 そ う だ け ど …想 像 で き な く て …猫 と 人 間 の …」
「二人の間に子どもはできたのか?」
「はい、それがヒトの姿をしている猫族の始まりだと言われています」
そして、現代で獣化やテレパシーを使える者は、当時、神様から力を分け与えられた王族と一部の猫族の末裔だ
と管理人は言いました。
「力が強ければ強いほど王族の血も強い?」
「 ど う で し ょ う …王 族 で も 力 の 弱 い 者 は お り ま す の で …私 は ほ と ん ど 力 を 使 っ た こ と は あ り ま せ ん 」
「 獣 化 で き る 者 は 戦 力 と し て 貴 重 な ん だ が …そ の 数 が 年 々 減 っ て い る と 聞 い て い る 」
「 眠 っ て い る 力 を 呼 び 起 こ す 方 法 が あ れ ば よ い の で す が …」
「 呼 び 起 こ す …」
王 子 は 黙 り 込 ん で い る Kuea
の横顔を見つめました。
最近、自分の中で何か変化が起きているような気がしていた王子は、この地に来てからその違和感をさらに強め
ていました。
の力とこの地が持つ力がそうさせているのだとしたら、打開策が見つかるかも知れません。
Kuea
「 Kueaは …や っ ぱ り …」
「 ?」
Nu
「 … Kuea
は、王族だから力があるの?」
「 Nuのお母さんも力を使えるなら、それはきっとお母さん譲りだよ」
「でも、可能性はありますよね?」
泣 き そ う な 顔 を し て い る Kuea
に詰め寄られて、管理人は驚いています。
王 子 は Kuea の肩を抱き寄せました。堪えきれなくなってついに泣き出してしまった は、きっと、昨夜から
Kuea
ずっと気丈に振る舞っていただけだったのかもしれません。
王子は、管理人に事の経緯を話しました。
二 人 が 兄 弟 か も し れ な い こ と 、 そ れ か ら 、 深 く 愛 し 合 っ て い る こ と を …。
「 Lian
王 子 、 あ な た は … Kuea
様と一生を添い遂げる覚悟があるのですね?」
「あぁ、そうだ」
「では、お二人に聞いていただきたい話があります」
「話?」
「少し長くなりますが、星が降り始める前には終わるでしょう」
管理人は微笑んで、泣き止んでいた の肩にそっと手を添えました。
Kuea
私 が こ の 別 荘 の 管 理 人 と し て 赴 任 し た の は 、 そ う で す ね …も う 何 十 年 も 前 の こ と で す 。
こ の ビ ー チ は 今 も 昔 も 変 わ ら ず 美 し い ま ま …。
王子が大人になるまでは、王もよくこのビーチにおいでになっていたのですよ。あなたと同じように、色々な悩
みを抱えていたのです。
最 後 に こ こ で お 会 い し た の は …確 か 、 二 十 年 ほ ど 前 だ っ た で し ょ う か 。 あ の 時 の こ と は 、 よ く 憶 え て い ま す 。
王 は 酷 く 落 ち 込 ん で い て …一 人 で は 抱 え き れ な か っ た の か も し れ ま せ ん 。 震 え る 声 で 私 に 打 ち 明 け て く れ た の で
す。
親友が亡くなった、と。
感染病が原因だったそうです。感染してから、それはもうあっという間の出来事で、王がその知らせを聞いて駆
けつけた時には、すでに息絶える寸前でした。
弱々しい小さな声で、彼は王にこう懇願したのです。
生 ま れ て く る 子 を 少 し の 間 で も い い か ら 見 守 っ て い て ほ し い 、 と …。
王は、分かっているからもう何も言うな、と彼の痩せ細った手を優しく握って沈黙しました。
死 に 際 に は 会 え な い だ ろ う …も う こ れ で 最 期 か も し れ な い …。 そ う 思 う と 涙 が 止 ま ら な か っ た の で す 。
頬を伝う涙を拭ってくれた彼の手の感触を、一生忘れることはないだろうと王はおっしゃっていました。
そして、妻との間に授かった子が産まれてくる前日に、彼は亡くなりました。
し か し 悲 し み は そ れ だ け で は 終 わ ら な か っ た の で す 。 神 は な ん と 残 酷 な の で し ょ う …。
彼の妻も出産した後、出血が止まらず、亡くなってしまったのです。
その知らせを聞いた王は、産まれた子を引き取って連れ帰りましたが、当時の国王に許しを得ることができませ
んでした。
王は悩みに悩んだ末、長い間子どもを授かることができずにいた公爵家にその子を引き渡すことにしました。
彼 ら な ら き っ と 親 友 の 子 を 大 切 に し て く れ る は ず …。
そう信じるしか道はなかったのです。
自分の手で育てることはできないかもしれませんが、ご友人が願った通り、見守ってあげることはできるはずで
す。たまに顔を見に行くことくらいなら、許されるでしょう。もうこれ以上、ご自身を責めるのは、おやめにな
ってください。それが最善の道だったのでしょう。
私は王にそう申し上げました。
王は涙を流しながら、悔しい、と呟いて、それでも最後は精悍な面持ちで王宮にお戻りになりました。
「王はご友人から子どもの名前について相談を受けていたようで、その名前をつけてほしいと公爵家に命じられ
たそうですよ」
一連の話を聞いて薄々察しのついていた二人は、急かすように前のめりになりました。
「 Kuea様 、 立 派 に な ら れ て …私 は あ な た に お 会 い で き る の を 楽 し み に し て お り ま し た 」
「その子どもは、 なのか?」
NuKuea
「 は い 、 実 は 今 朝 、 王 か ら 直 接 お 電 話 を 頂 戴 し ま し て … Kuea
様 に 伝 え て ほ し い と …」
王 子 が Kuea と 一 緒 に 岬 に い る こ と は 、護 衛 隊 長 か ら 王 室 に 伝 わ っ て い る で し ょ う か ら 、王 も こ の 機 会 を 利 用 し よ
うと思ったのかもしれません。
二 人 は 驚 い た 様 子 で 見 つ め 合 っ て い ま し た が 、 Kuea
の丸くなった大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちるのを
見 て 、 王 子 は Kuea を強く抱きしめました。
「 Nu…」
「 兄 弟 じ ゃ 、 な か っ た の …? 本 当 に ? 」
これからも一緒にいられる。
そう確信した瞬間、たくさんの思い出がまるで走馬灯のように頭の中を駆け巡りました。
初めて会った時、
初めて笑顔が可愛いと思った時、
初めて守りたいと思った時、
初めて抱きしめた時、
初めてキスをした時。
二人で過ごしたかけがえのない時間も、この先に待っている幸せな日々も手放さなくていいんだと思うと、嬉し
いのに、胸が痛い。
涙を堪えるために、王子は空を見上げて深くため息をつきました。
澄 ん だ 空 気 を 胸 い っ ぱ い に 吸 い 込 ん で 、し ば ら く 泣 き 続 け て い た Kuea
を 引 き ず る よ う に し て 立 ち 上 が り 、管 理 人
に会釈をします。
「 こ ん な に 遅 い 時 間 ま で …す ま な か っ た な 」
「間に合ってよかったです、もうそろそろ星が降り始める時間ですよ」
「ありがとう」
別 荘 に 戻 っ て も Kuea はまだ目を濡らしていました。
少し強引に手を引いて向かったのは、シャワールーム。
服を脱がそうとした手を振り払って「やだ、いい、自分でする」と駄々をこねています。
仕 方 な く 脱 が せ る の を や め る と 、 Kuea
は俯いたまま、もじもじしました。
「自分でしないの?」
「 …す る 」
「 Nu、早くしないと流星群が」
「あっちに行ってて」
「 Hiaも シ ャ ワ ー 浴 び た い …ベ タ ベ タ し て る か ら 」
「 じ ゃ あ 、 Kueaは後でいいです」
「何で?一緒に浴びたらすぐ終わるでしょ」
「 だ っ て …恥 ず か し い か ら …」
王子はすぐにバスルームの照明を消しました。
差し込んでくる月明かりに照らされ、思ったよりもお互いの姿がよく見えます。
「 こ れ で い い ? 」 と 囁 い て Kueaの 腰 を 抱 き 寄 せ る と 、 Kuea もキスをねだるように王子のうなじに手を回して引
き寄せました。
もつれるようにして服を脱がせ合って、互いの存在を確かめるように体に触れ、見つめ合い、額を合わせます。
は 体 を 震 わ せ ま し た 。 王 子 の 燃 え る よ う な 情 欲 が 、 波 動 を 通 し て Kuea
Kuea の中に流れ込んできます。
「 …」
Hia
それだけで崩れ落ちそうになった を支えながら、王子は噛みつくように唇を重ねました。
Kuea
バ ス ロ ー ブ を 羽 織 っ た Kuea は、濡れた髪のままバスルームを飛び出して行ってしまいました。
とても静かで電気のついていない薄暗い部屋。
ロ フ ト に あ る ベ ッ ド に ダ イ ブ し て 仰 向 け に な っ た Kuea
は「 わ ぁ … 」と 小 さ く 感 嘆 し ま し た 。ガ ラ ス 張 り に な っ て
いる天井の向こうに満点の星空が広がっています。
そのあまりの美しさは息を呑むほどです。
今 ま で 見 た 景 色 の 中 で 一 番 綺 麗 …。
まるで夢でも見ているような気分になります。
を 夢 見 心 地 に さ せ て い る の は 、こ の 星 空 の せ い だ け で は あ り ま せ ん 。つ い さ っ き ま で バ ス ル ー ム で 王 子 と し
Kuea
て い た こ と を 思 い 出 し て 、 Kueaは恥ずかしくてたまらなくなりました。
王子とこういう関係になるなんて、想像してもいませんでした。願っても叶うようなことではないからです。初
め て 会 っ た 時 か ら ず っ と 憧 れ て い た 存 在 。 優 し く て 、 か っ こ よ く て 、 強 く て …誰 も が 好 き に な る 絵 に 描 い た よ う
な王子様。
それに、とてもロマンチックで、数えきれないほどたくさんの愛を囁いてくれました。それはもう赤面するほど
恥ずかしいセリフばかり。
本 当 に Kuea で良かったの?
そ う 思 う こ と も あ る け ど 、 王 子 の 一 途 な 愛 は 、 そ ん な 不 安 を 一 蹴 し て 、 い つ で も Kuea
を笑顔にしてくれます。
マットレスに体が沈み込むのを感じて足元に視線を向けると、王子がベッドに乗り上げているのが見えました。
腰にバスタオルを巻いただけの姿。
薄暗い部屋で、鍛え上げられた体が月明かりに照らされています。
王 子 は 乾 い た 唇 を 舌 で 舐 め ま し た 。獲 物 を 狩 る 獣 の よ う な 目 つ き で 見 つ め ら れ 、恥 ず か し く て 直 視 で き な い Kuea
は、慌てて顔を手で隠しました。
「また恥ずかしくなったの?」
「 Hia…」
「 さ っ き み た い に 触 っ て 、 Hia
の、」
言いかけた言葉を遮るように、 は顔を隠したまま大袈裟に頭を横に振りました。
Kuea
王子は の 体 に 覆 い 被 さ っ て 、手 の 甲 に 何 度 も 口 づ け て い ま す 。自 分 か ら 顔 を 見 せ て く れ る の を 待 っ て い る の
Kuea
です。
その思惑通り根負けした は、王子の首に腕を回して、襟足の髪をくしゃりと軽く掴みました。
Kuea
「 … Hia
、重い」
「離してくれたら降りるよ」
「やだ」
王 子 は 小 さ く 笑 っ て Kuea の唇に視線を落としました。
熟した果実のように赤く艶めく唇。
じ わ じ わ と 身 体 の 奥 で 覚 醒 し 始 め た 本 能 を 抑 え 込 み な が ら そ っ と 唇 を 重 ね る と 、 Kuea
も薄く唇を開きました。
バ ス ロ ー ブ を は だ け さ せ て 触 れ て く る 王 子 の 手 が 、 Kueaの少し反り返った腰のあたりを優しく撫でています。
「 あ 、 …っ 、 …」
Hia
小さな不安と期待で震えている に王子は「怖い?」と囁きました。
Kuea
「 …う う ん 、 大 丈 夫 」
「怖くなったら我慢しないで言って」
「 は い … Hia

王 子 は Kuea のピンク色をした可愛らしい乳首を口に含むとちゅっちゅっと音を立てて吸い始めました。
舌 先 で つ つ い た り 、 舐 め た り …。
ま る で 小 さ な 子 ど も の よ う な 姿 に と き め い て い た Kuea
は 、王 子 が 視 線 を 上 げ た 時 、小 さ な 刺 激 を 感 じ て「 ん … ! 」
と声を上げました。
ム ズ ム ズ す る よ う な 、 気 持 ち い い よ う な 、 言 い よ う の な い 不 思 議 な 感 覚 が Kuea
を困惑させます。
反対側の乳首も指先でつままれて、我慢できなくなった はとうとう王子の腕を掴んで押し返しました。
Kuea
「やだ?」
「 う ぅ …そ う じ ゃ な い 、 け ど …変 な 感 じ …す る 」
「 Nuも触ってみて」
手を引かれて、少し躊躇いがちに王子の股間に触れた指先が膨らみをぎこちなく撫でさすります。
タオル越しに感じる形と熱。
これが身体の中に入ると思うと少し怖い気もしましたが、それよりも好奇心の方が勝まさっていました。
タ オ ル の ふ ち に 指 を 掛 け て 引 っ 張 る と 王 子 も 同 じ よ う に Kueaのバスローブの紐を解きます。
荒 く 呼 吸 を し て い る 王 子 は 、 Kuea
に う な じ を 優 し く 揉 み ほ ぐ さ れ て「 Nu
の ほ う が 落 ち 着 い て る 」と 苦 笑 し ま し た 。
「獣化制御訓練の成果を見せる時がきたな」
「 そ ん な 言 い 方 し な い で よ 、 ま る で …」
「 こ の 日 の た め に …じ ゃ な か っ た ? 」
恋 人 に な っ た 二 人 は 一 緒 に 過 ご す 時 間 を 増 や し 、な る べ く 一 緒 に 眠 る よ う に し て 、何 が き っ か け で 獣 化 す る の か 、
そのトリガーを探してコントロールできるように訓練していました。
初 め て キ ス し た 時 の よ う に 、 Kueaは 性 的 な 刺 激 に 弱 い よ う で 、何 度 も 獣 化 し て は パ ニ ッ ク に な っ て ベ ッ ド か ら 転
がり落ちたりして、悔しい思いをしています。
「 …今 日 は 失 敗 し な い 」
「 Nu、深呼吸して」
「 す ぅ …ふ ぅ …」
王 子 は 、 言 わ れ た 通 り 目 を 閉 じ て 深 呼 吸 し て い る Kuea に口づけて、薄く開いた唇の間から舌を押し込みました。
そ れ か ら 、 二 人 の ペ ニ ス を Kuea に握らせてその上から手を重ねます。
ぐちゅぐちゅ、と体液が混ざり合う音。
指を絡ませて上下に動かしながら、二人は唇の端から唾液が垂れるのも気にせず、激しく舌を絡め合いました。
思考がぼんやりして気持ちいい…
ただ快楽に溺れていたい…
この瞬間をずっと味わっていたい…
このまま触れ合っていたい…
イキたくない…
そ れ で も 限 界 が 近 づ い て き て 息 苦 し く な っ て き た 頃 、 キ ス の 合 間 に Kuea
が「だめ」と小さく呟きました。
互いの唾液でべたべたになった唇から何度も吐き出されるその言葉。
王子は真っ赤になった唇をぼんやり眺めながら、少しずつ浅くなっていく の呼吸に耳を傾けていました。
Kuea
「 だ め 、 っ …も う 、 …あ っ あ …っ 」
「 い い よ … Nu、先にイって」
「 や 、 い や っ 、 Hia
…… ! あ っ ! あ あ っ ! 」
び ゅ る っ 、と Kuea の 胸 の 上 に 吐 き 出 さ れ た 精 液 。指 で 滑 ら せ て 、吸 わ れ す ぎ た せ い か ぷ っ く り し て い る 乳 首 に 擦
り つ け る と 、 射 精 し た ば か り で 体 が 敏 感 に な っ て い る Kuea
はびくびく震えながらのけ反りました。
「んーっ!!!」
「 ご め ん 、 Nu
、もう我慢できない」
「 あ っ 、 あ …ぁ …」
王子はベッドの脇に置いてあったローションを指に纏わせて の後孔に挿し入れました。
Kuea
すぐに指を二本から三本に増やして中を掻き混ぜます。
「 ひ っ …! う ぅ 」
「痛い?」
は顔を真っ赤にしながら頭を横に振りました。
Kuea
バスルームで中に仕込んだローションがとろりと溢れ出してきています。
本当はもっと丁寧にしてあげたかったのに。
王 子 は も う 我 慢 の 限 界 を 迎 え て い ま し た 。こ の ま ま だ と コ ン ト ロ ー ル を 失 い そ う な 気 が し て 、焦 っ て い る の で す 。
「 …、 だ い じ ょ う ぶ 、 も う …早 く 、 っ 」
Hia
両 脚 を 抱 え て 苦 し そ う に 目 を 潤 ま せ て い る Kuea
を見下ろしながら、王子はペニスを押しつけました。
ふぅ、ふぅ、と荒く呼吸をしながら、ゆっくり中に入っていきます。
中はとても狭くて、熱くて、内壁が絡みつくように行く手を阻んでいて、奥までたどり着いた時には二人とも汗
だくになっていました。
「 … 気 持 ち い い ? Hia
…」
「正直に言うと、つらい、よ」
「 気 持 ち 良 く な い の …? 」
「 そ う じ ゃ な い …イ キ た い 気 持 ち と 、 イ キ た く な い 気 持 ち が せ め ぎ 合 っ て る 感 じ 」
「 ふ ふ …」
汗 で 額 に 張 り 付 い た 前 髪 を 指 先 で そ っ と よ け る と 、王 子 は 嬉 し そ う に 目 を 細 め ま し た 。そ れ か ら 、同 じ よ う に Kuea
の乱れた前髪を直してくれます。
「 Nu
…」
「うん」
の 反 応 を 見 な が ら ゆ っ く り ペ ニ ス を 引 き 抜 い て 、 ま た 押 し 込 ん で …。
Kuea
静 か な 部 屋 に 、 肌 が ぶ つ か り 合 う 音 と 、 Kueaの艶やかな声が響いています。
「ああっ!あっ、あ!んっ!」
「 … っ 、 Nu
…… っ く 、 ぅ 」
は 自 身 の ペ ニ ス を 片 手 で し ご き な が ら 、王 子 の 頭 を 抱 き 寄 せ ま し た 。首 筋 に 触 れ る 熱 い 吐 息 と 、肌 の 上 を 這
Kuea
う生温かい舌の感触。
犬歯がぷつりと突き刺さったのを感じて体を震わせました。
食べられる。こわい。
体の奥のほうからじわりと何かが湧き上がってくるような気がします。これはたぶん、獣化のトリガー。
こわい、でも、気持ちいい。
相 反 す る 感 情 に 支 配 さ れ て 、 Kuea
は 王 子 に 抱 き つ き ま し た 。視 線 の 先 に あ る 自 分 の 手 に 毛 が 生 え て 、 爪 が 伸 び て
いるのが見えます。
「 あ ぁ っ ! だ め 、 だ め …っ ! 」
「 う ぅ 、 っ …イ ク …! 」
「ああぁあっ!!」
が目を覚ました時、心配そうな目をしている王子が覗き込んでいるのが見えました。
Kuea
少しの間、眠っていたようです。
王 子 が 体 中 に 丁 寧 に 口 づ け て く れ て い る の で 、疲 れ て 動 け な い Kuea
は そ れ を 受 け 入 れ な が ら 、満 点 の 星 空 を 見 上
げました。いくつか星が流れ落ちています。
流星群の夜、願い事をすると必ず成就すると言われたのを思い出して、再び目を閉じました。
「 、 大 丈 夫 …? 寝 た の ? 」
Nu
王子が優しく問いかけていますが、願い事をするのに夢中になっている は返事をしません。
Kuea
欲張りなので、いくつも願い事をしました。
何 を お 願 い し た の か は 、 Kuea
だけが知っています。
柔 ら か な 布 団 の 中 で 目 を 覚 ま し た Kueaは、まだ眠いのか、ぼんやりしています。
その視線の先にはコーヒーをカップに注ぐ王子の姿。背中に爪痕がくっきり残っているのが見えます。
は 布 団 の 中 で ジ タ バ タ し ま し た 。油 断 す る と す ぐ に 頭 の 中 が 茹 っ て し ま い そ う に な り ま す 。体 も 心 も 全 て を
Kuea
さ ら け 出 し て ひ と つ に な っ た 夜 。囁 か れ た い く つ も の 甘 い 言 葉 。断 片 的 な 記 憶 が Kuea を何度も恥ずかしい気持ち
にさせます。
頭 の 中 の 邪 念 を 消 そ う と 着 替 え 始 め た Kueaは 、い つ の 間 に か 近 く に 来 て い た 王 子 に 後 ろ か ら 抱 き し め ら れ ま し た 。
「おはようございます、 」
Hia
「 お は よ う …」
頭をぐりぐり押しつけてくる王子のまるで甘えるような仕草に思わず胸がキュンとします。
「 Hia
… も う 着 替 え な い と …何 で ま だ シ ャ ツ 着 て な い の ? 」
「見てほしくて」
「何を?」
「背中の傷」
少 し 気 ま ず そ う に し て い る Kuea
は 、王 子 に「 嬉 し い よ 」と 言 わ れ て 、そ っ ぽ を 向 き ま し た 。王 子 が そ れ は も う 幸
せそうに笑うので、恥ずかしくてその場から逃げ出したくなったからです。
着替えを済ませた二人は、食事をしながら話し合いました。
は 王 宮 に 帰 る こ と を 承 諾 し 、し ば ら く し て 訪 ね て 来 た 管 理 人 に お 別 れ の 挨 拶 を し ま し た 。管 理 人 と ハ グ を し
Kuea
て い る Kueaはとても名残惜しそうにしています。
「 Kuea様 、 こ れ を …」
「 わ ぁ …綺 麗 」
「 こ の 土 地 の パ ワ ー が 込 め ら れ て お り ま す の で 、離 れ た 場 所 で も こ れ を 持 っ て い れ ば き っ と 願 い が 叶 う で し ょ う 」
管理人から流星群をモチーフにしたネックレスをお土産としてもらいました。岬の観光グッズとして売られてい
て、とても人気があります。
それを、さっそく王子が着けてあげました。
「 Kuea
様は、何かお願い事を?」
「はい、たくさんしました」
「 Nu
、いつの間に願い事をしたんだ?」
「 Hia
は?しなかったんですか?」
か ら か わ れ て い る と 気 づ い た の か 、王 子 は 、に こ に こ し て い る Kuea
を 小 突 い た あ と 、不 思 議 そ う に し て い る 管 理
人に「いつの間にか寝てたんだ」と言って、愛想笑いをしました。
本当に仲の良い二人の様子を見て、管理人はホッとしています。これにて、お役御免です。
は「また来ますね」と手を振って、管理人もとても嬉しそうにそれに応えました。
Kuea
無 事 、 王 宮 に 戻 る と 、 心 配 し て い た Diaw が出迎えてくれて、二人はまるで長い間会っていなかったかのように、
ひしと抱き合い、再会を喜びました。
王 の と こ ろ へ 行 か な け れ ば な ら な か っ た の で 、 事 の 顛 末 を 話 す 約 束 を し て 、 Kuea
は王の書斎へ。
王 子 は 少 し 心 配 そ う に し て い ま し た が 、 Kuea
が 二 人 で 話 が し た い と 言 う の で 、自 分 の 書 斎 で 待 つ こ と に し ま し た 。
遊んでいる暇はありません。不在にしていた間の仕事が山積みになっています。
「 Kuea、無事に帰ってきてくれて良かった」
「 申 し 訳 ご ざ い ま せ ん で し た …皆 さ ん に ご 迷 惑 を …」
「 話 は 聞 い た だ ろ う が …私 も 君 に は 申 し 訳 な い こ と を し た と 思 っ て い る 。 い つ 言 い 出 そ う か 悩 ん で い た ん だ …」
王は引き出しから1枚の写真を取り出しました。それは、酒場に飾られていた写真と同じものです。
の 実 母 の 隣 に は 王 が 立 っ て い ま す 。そ し て 、王 は 実 母 を 挟 ん で そ の 反 対 側 に 立 っ て い る 男 性 を 指 さ し ま し た 。
Kuea
「これが の実の父親だ」
Kuea
男性はとても優しそうな顔立ちをしています。
「 彼 が 私 に 望 ん だ 通 り 、 君 を 近 く で 見 守 っ て い た か っ た ん だ が …許 し て く れ 。 こ ん な に 時 間 が 経 っ て し ま っ た 。
ま だ 今 か ら で も 遅 く な い だ ろ う か …彼 と の 約 束 を 果 た し た い 」
「 …は い 」
あ ぁ 、な ん と 義 理 深 い お 方 な の だ ろ う … と 感 心 し た Kuea
は 、涙 が 出 そ う に な っ た の を ぐ っ と 堪 え て 微 笑 み ま し た 。
本当の両親に対してはまだ実感がありませんが、育ててくれた両親や、ずっと気にかけてくれていた王には深く
感謝しています。
王 は「 近 い う ち に お 墓 参 り に 行 こ う 」と 言 っ て 、堪 え き れ ず に 涙 を こ ぼ し て 微 笑 む の背中を優しく撫でまし
Kuea
た。
一年後…
庭 に あ る 花 畑 で Kuea
と Diaw
が顔を寄せ合っています。
に抱きかかえられた幼い子どもが、くりくりした丸い目で二人を見上げて笑いました。
Kuea
なんと微笑ましい光景でしょう。
それを離れたところで見守っている王子は魂が抜けたようにぼんやりしています。
「 は ぁ … 天 使 だ …… 」
「そうだろう?なんたって俺の子だからな」
「 …」
Nu
「 お い ! 見 て く れ ! NuKuea
じ ゃ な く て 我 が 子 を …! 」
王子と
Yi は子どもを授かりました。
KonDiaw
そ れ は も う ま る で 天 使 の よ う に 可 愛 い の で す が 、 王 子 の 目 に は Kuea
しか映っていません。
は小さな天使に夢中。お世話をしたくてたまらないようです。構ってもらえないことが増えていた王子は、
Kuea
し つ こ く す る と Kuea に怒られるので、我慢することを覚えました。
王子が抜け殻になっているのは、そのせいだけではありません。
二人が 神 " の聖地 か " ら戻った後、岬で得たヒントを元に、王国の戦力と防衛力を高めるため新たな隊を発足しま
し た 。入 隊 し た い 者 を 募 り 、 Kuea
が 持 つ 力 に よ っ て 眠 っ て い る 未 知 の 力 を 呼 び 起 こ す こ と に 成 功 し た の で す 。テ
レパシーや獣化の訓練を続ける事で、また何か新たな発見があるかもしれません。きっといつか、国に大きく貢
献することになるでしょう。
王子は少し気怠さを感じて、先に一人で寝室に戻りました。またすぐ仕事に戻らなければなりませんでしたが、
気力が湧かずにぼんやりしています。
しばらくして、かすかに扉を叩く音が聞こえました。
王子は眠ってはいませんでしたが、瞼が重くて目を開けることができないので、誰かが寝室に入ってくる気配だ
けを感じています。
その誰かは、遠慮することなくベッドに乗り上げ、王子の額に手を乗せました。
ひんやりしていて気持ちいい。
すぐに離れていった手が今度は胸の上に置かれました。じわりと体の中に伝わってきた温もりがやがて全身に広
がって、体が少しずつ軽くなっていきます。
驚 い て 目 を 開 け た 王 子 の 頬 を 撫 で な が ら Kueaが優しく微笑みました。
思い出すのは、母親に添い寝をしてもらっていた幼い頃。
ゆ っ く り 瞬 き を し て 小 さ く 息 を 吐 い た 王 子 に「 気 分 が 良 く な り ま し た か ? 」と 問 い か け た Kuea
は 、軽 く 頬 に 口 づ
けました。
「 … Nu

「 Hia、頑張りすぎないで」
「 う ん …」
の胸元で静かに揺れる流れ星。
Kuea
そ れ を 愛 お し そ う に 指 先 で 撫 で る 王 子 と 同 じ よ う に 、 Kueaも王子の胸元で輝く全く同じネックレスにそっと触れ
ま し た 。 こ れ は 王 子 が 幼 い 頃 、 王 が 買 い 与 え た も の で す 。 王 子 は そ の 存 在 を す っ か り 忘 れ て い ま し た が 、 Kuea

書斎を整理していた時に見つけました。偶然とはいえ、お揃いになったことを王子はたいそう喜んでいます。
それは二人にとって、とても特別なものになりました。

" の聖地 で " 過ごしたあの夜は、まるで昨日のことのようにはっきりと思い出せます。
「そろそろ教えてくれる?」
「ん?」
「あの日の、願いごと」
「まだ気になってるの?」
「教えてくれるまでずっと聞き続けるから」
「 じ ゃ あ 、 Hia
がおじいちゃんになったら、ね」
それを聞いて嬉しそうに笑う王子は、 のシャツのボタンをひとつ外して鎖骨のあたりに口づけました。
Kuea
「 Hia…ま だ お 昼 だ よ ? 仕 事 し よ う ? 」
「 Nuが Hiaを元気にしたせいだな」
「 も う … Kuea
は 仕 事 し た い の に …」
「パートナーとの時間も大事にして」
「はいはい」
は 目 の 前 に あ る 王 子 の ふ わ ふ わ し た 耳 を マ ッ サ ー ジ す る よ う に 揉 み な が ら「 も う 叶 っ て る よ 」と 小 さ く 呟 き
Kuea
ました。
王 子 が Kuea
のあの日の願い事を知ることになるのは、本当に何十年も先の話かもしれません。
二人はきっと、この先何十年、末永くいつまでも幸せに暮らすことでしょう。
そ し て Chat Heureux(
シャウルー が
) 、いっそう繁栄し、豊かな国になることを願って…
これにて、猫の国のお話は、おしまい。
end.
あとがき
1話の投稿から約8ヶ月が経ってしまい、楽しみにしてくださっていた方々には本当にお待たせして申し訳なか
ったと思っています…
4 5- 年のブランクがあったうえに、猫設定を全く活かしきれず皆さんの想像力をお借りして… 苦 ( 笑するしかな
い )
それでも最終話まで読んでくださって、ありがとうございました!
最 終 話 い か が で し た で し ょ う か …夜 の 営 み の シ ー ン が 雰 囲 気 を ぶ ち 壊 し て い な い か 不 安 で す …そ し て 、 短 く て と
て も ぬ る い 出 来 に な っ て し ま い 、 初 夜 っ て こ ん な に 難 し い の か …と 。
感想などコメントやメッセージでいただけると嬉しいです。
さて、このシリーズはこれで完結となりますが、次のシリーズがもう始動していて、短編になると思います。た
ぶん。
の衣装さん本当にすごいと思います…
ZNN
ファンタジーパロの宝庫だよ…
ある程度ストックできたらツイッターの鍵垢に少しずつ投稿して溜まったら支部にまとめて投稿しようと思って
います。
気になる方はぜひ鍵垢にフォロリクしてくださいね!
それでは、あとがきまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
また次のシリーズでお会いしましょう。
元サイト

Chat Heureux
著者名 em
発行日 2023 年 5 月 28 日
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文献 pixiv

この本は pixiv にて公開されたものを書籍化したものです。


二次転載などはご遠慮ください。

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