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2010 年 5 月 15 日(土)九州産業大学・国際交流センター主催「異文化交流会」

遠くへ――〈異国〉で学ぶとは

藤田尚志(国際文化学部講師)

1.自己紹介(専門分野、どのような理由で、いつごろ、どこに、どのくらいいたのか)
哲学(特にフランス哲学)。フランス・リール第三大学で博士論文を書くために、2000 年夏か
ら 2006 年夏までの 7 年間、フランスの北(ノール)地方の中心都市、リールにいた。
なぜ「フランス」?アンチ「お仏蘭西」、アンチ森有正――なぜ「北」?

(1)留学ではなく「流学」(©スピルマン先生)、さすらう心の大切さ
大阪→京都(仏・グルノーブル、リヨン)→東京→仏・リール→東京→福岡…

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(2)北フランスの特徴(主要言語・宗教・産業など):フランスの夕張

最悪のイメージ:寒い、薄暗
い、汚い、惨め、貧しい、労
働者の町…。が、しかし。

リール:近年復興。利便性
のよさから(ロンドン、ブリュ
ッセルの中継点)、徐々に
観光都市化。フランスの人
口 6300 万 の う ち 、 パ リ
(1000 万)、リヨン、マルセイ
ユに次いで、4 番目の都市
(100 万)。

学生の街リール 1999 年、国立統計経済研究所(INSEE)


によると、リールはパリ、リヨン、そしてトゥールーズに続いて、
フランスで 4 番目に多い 85000 人の学生を抱える街。2003 年
にはリール首都圏は、144000 人以上の学生(そのうち 98000
人が大学の学生、29000 人が BTS、IUT、IUP のセミ・プロフ
ェッショナルの学生、そして 17000 人がグランゼコールの学生)
を数える。

リール出身の有名人
・シャルル・ドゴール:元大統領・政治家・軍人
・フィリップ・ノワレ:俳優(『イル・ポスティーノ』)などなど。

Charles De Gaulle

(3)文化的な違い(一般論として)
①自国と他地域の文化の違いの中で、最も驚いたところ 時間に不正確、ストが多い、治安
が悪い(襲われないが、物が壊れてる)、そして「連帯」。ドアを開けて待っていてくれる。
衣・食・住:風呂嫌いの香水好き――楽しいと長い!(北仏はビール、飲む量の違い)――
コンビニがない!、車の汚さ、「乞食」との関係――階級関係(テレビ)。
②自国とその地域の価値観や人生観の相違 とことん楽しむ!政治もお祭り(選挙オッズ)
③当該国の大学生の考え方や生活など。授業料が(日本に較べて)とにかく安い。サークル、
クラブがない。

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2.実体験:北フランスで学んだ 7 年間
(1)到着:トゥールでの語学研修(事前準備の重要性)――「北フランスは曇りが多いけれど、
人々の心の中に太陽が宿っているのよ」――リール、フランスの夕張?
(2)遊ぶ:目的をはっきり決めてとことん遊ぶ。映画!旅行!でも遊び過ぎない。
(3)勉学・ことば:二丁拳銃(辞書とメモ)――外国語上達法(真剣に、楽しく)――研究はサッ
カーと同じ(日本人FWの不在)――質問する勇気:「プールに飛び込むのと同じ。一回飛び
込むともう冷たくない」(©スピルマン先生)――相手の土俵で戦って勝つ

★西洋人と付き合うには:日本の西洋人(相手に困らない)、西洋の日本人(こちらから積極
的にいかないとダメ)。★西洋人との付き合い方:自分を卑下しない、相手に媚びない
「私~ができます」→「まあ、そうなんだろうな」
「私~があまりできないので」→「そう言うくらいだから、よほどできないんだ」
《私は、立ち去ろうとするミセス・ケレハーを引き留め、「あなたは日本人学校に勤めながら、
われわれ日本人の風俗習慣をまるで理解しようとしないではないか。生徒たちが何をどのよう
に考えているのか、まったく学ぼうとしないではないか」と言ってみた。そして、返ってきた彼女
の答えに、突如私は啓示に打たれたようにヨーロッパ人との喧嘩の仕方を学んだのである。彼
女は次のようにはっきりと言った。「私は日本人の風俗習慣を完璧に理解している」と。
《私がミセス・ケレハーと対決する場合決して認めてはならなかったこと、それは「私が英語が
できない」ということだったのである。あなたは本当にそう思っているかとか、失礼ではないかと
かいって彼女に追いすがっても、彼女はますます冷静に自分の言を弁護するだけである。私は、
彼女に「あなたは英語ができないのだから、ジミーを批判する資格はない」と言われた瞬間に、
はっきり「ノー」と言わねばならなかったのである。
《つまり、攻撃された瞬間に真実に取りすがってはならないのであり、相手に自分の弱みを一
切見せてはならないのである。タテマエをどこまでも大真面目に、相手に一分の隙も与えずに
貫くとき、私は勝利しないかもしれないが、決して敗北はしない。屈辱感に身を震わすこともな
い。》(中島義道『ウィーン愛憎――ヨーロッパ精神との格闘』、中公新書、1990 年、22-23 頁)

★〈異国〉人と対等に付き合うには:魅せる力
女子ゴルフ世界ランク連続 157 週(三年間)一位で電撃的に引退を表明したロレーナ・オチョア(28)
の引退会見(2010 年 4 月 24 日)。
「ハロー、エブリワン!」23 日、本拠地メキシコシティで開かれたオチョアの引退会見
はいつも通りの温かい挨拶で始まった。「今日は私にとって特別な日。私はこの時を
ずっと待っていたし、この日を夢見ていた」。
―2、3年前のような圧倒的な強さだったら引退決定はあったか。
「トップになり、トップであり続けることが夢だった。結婚することもわたしの人生設計
だと言ってきた。唯一の答えは、今が(引退の)時機だということだ」(共同)

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日本人としての誇り 《その人を師匠と勝手に決め、指揮棒を振っている大きなポスターを部屋に
張って「いつか僕も」と指揮者を目指して勉強したという。▼テレビ朝日の「題名のない音楽会」で
も知られる佐渡裕さん。若いころ毎日ポスターを眺めてあこがれた人は、2人いた。小沢征爾さん
と故レナード・バーンスタインさんだ。▼25歳で米国に行った。2人から直接教えてもらえるタング
ルウッド音楽祭のオーディションに応募し、パスしていた。自己流で指揮棒を振った。小沢さんは
言った。「あんた、面白いっすよ」。▼小沢さんを通してバーンスタインさんの弟子になった佐渡さ
んは日本人としての誇りも教わった。教わるまでは、どうせなら日本ではなくクラシック音楽を生ん
だ欧州文化のなかで生まれたかった、と思ったこともあったそうだ。▼世界屈指のオーケストラ、ベ
ルリン・フィルは来春の定期公演に佐渡さんを迎える。日本人指揮者の起用は最近では小沢さん
以来。師を意識したひのき舞台となる。》(2010 年 5 月 14 日の『西日本新聞』朝刊「春秋」より)

★異人としての誇り 『プロフェッショナル~仕事の流儀』の#39「指揮者・大野和士:崖っぷち
の向こうに喝采がある」と#40「コンピュータ研究者・石井裕:出過ぎた杭は誰にも打てない」

3.文化紹介:大ヒット映画『ようこそ北国へ』に見る、国内〈異国〉体験
Bienvenue chez les Ch’tis (un film de Dany Boon, 2008)
観客動員数 2000 万人突破(フランスの人口は 6300 万)
「北フランスで生活した異邦人は二度泣く。着いたときと、離れるとき」(« Quand un étranger
vient vivre dans ch’nord, il brait deux fois : quand il arrive et quand il repart... »)

5 分で喋れる「シュティミ」(ch’timi : フランス北地方の方言)ミニ講座
原則(1)「サ・シィ(si)・ス・セ・ソ」は「シャ・シ(chi)・シュ・シェ・ショ」になる。
原則(2)「シャ・シ(chi)・シュ・シェ・ショ」は「カ・キ・ク・ケ・コ」と発音する。
P « C’est pas meublé ? »(ここは家具付きじゃないのか?)
A« L’ancien directeur, il est parti avec. »(前の局長が持って行ったんでしょうね)
P « Pourquoi ? »(どうして?)
A « Pac’que ch’est p’t’ être les chiens. »(たぶん犬のところへ(chez les chiens)
←たぶん彼のものだったんでしょう(c’est les siens))
P « Quels chiens ? »(犬って何だ?→彼のって何が?)
A « Les meubes. »(家具ですよ)
P « Je comprends pas, là. »(分からんな)

おわりに――遠くへ
空港や大学の「にぎわう孤独」(ドゥルーズ)――海外で学ぶ意味。〈異国〉で学ぶとは自分
を魅力的な〈異人〉にすること、さすらう心を持ち続けること。
すべての「~のために」的思考の彼方に赴く精神を学ぶことが何より重要。

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