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生物科学2

第12回:地球環境と生物2
本日の講義内容

• 大絶滅

• 生物多様性

• 生物の環境への適応
大絶滅
 大量絶滅 (Mass extinction)
• 最近の5億4000万年で少なくとも5回の大量絶滅 (ビッグファイ
ブ)と小規模な絶滅が発生していることが分かっている
• オルドビス紀末 (OS境界), デボン紀末 (FF境界), ペルム紀末 (PT
境界), 三畳期末 (TJ境界), 白亜紀末 (KT境界, KPg境界)
• ビッグファイブには通常原生代末期 (エディアカラ期) の大量絶
滅は含めない
大絶滅
 ビッグファイブ
• オルドビス紀末 (OS境界)
厳しい氷河期が訪れ低緯度の陸地まで氷河に覆われ、海面の急激な低下によっ
て大陸棚の生息域の大きくが減少し、熱帯の動物群は温度の低下によって打撃
を受けた. 最大で全生物種の84%が絶滅
• デボン紀末(後期) (FF境界)
サンゴ礁域を中心とした海洋生物が絶滅しており、海水中の酸素濃度の低下、
富栄養化によるサンゴ礁の減少などの環境の激変の繰り返しが原因と考えられ
ている. 最大で全生物種の79%が絶滅
• ペルム紀末 (PT境界)
史上最大級のマグマの噴出による海洋での酸素の欠乏・大気の有毒化が生じ、
史上最大の大量絶滅となった. 最大で全生物種の96%が絶滅
• 三畳期末 (TJ境界)
ペルム紀末の大量絶滅と同様に大規模な火山噴火によるものと考えられており、
これによる大気組成の変化、温暖化によって絶滅したと考えられている. 最大
で全生物種の79%が絶滅
• 白亜紀末 (KT境界, KPg境界)
巨大隕石の衝突に伴う環境の激変によって恐竜を初めとした大型生物が絶滅し
た. 最大で全生物種の70%が絶滅
大絶滅
 ペルム紀末 (PT境界) における大量絶滅
• 当時の陸地は、超大陸パンゲアとしてただ一つの地塊にまとまっ
ていた
• 広大な大陸の周囲で全ての海洋プレートが大陸プレートの下に沈
み込んでいたと考えられ、それら全てはコールドプルームとなっ
てマントルの下層に沈み込んでいった
• そして、それらに対応したスーパープルーム (ホットプルーム)
がパンゲアの地下から突き上げたと考えられる
突き上げるスーパープルーム

地球大進化 4. 大量絶滅
大絶滅
 ペルム紀末 (PT境界) における大量絶滅
• パンゲアの東部 (現在のシベリア) で大規模な割れ目噴火が生じ、
大量の溶岩が噴出した
• その痕跡が現在にもシベリアに残されており、シベリア洪水玄武
岩 (溶岩が冷えて固まったもの) の岩石層が幾重にも水平に重
なった構造が残されている
• その結果、大量の火山灰やエアロゾルが大気中に放出され、また
火山ガス中の二酸化炭素が大気中に蓄積し、二酸化炭素の温室効
果による地球規模での温暖化が進行したと考えられる
現在のシベリアを襲った
巨大な割れ目噴火 溶岩が繰り返し流れた跡

地球大進化 4. 大量絶滅
大絶滅
 ペルム紀末 (PT境界) における大量絶滅
• 急激な温暖化が進行した結果、海中に存在するメタンハイドレー
ト (メタンが水分子に囲まれた結晶体) の大規模な融解が誘発さ
れ、更なる温室効果ガスであるメタンの作用によって温室効果が
加速した
• この超温暖化の結果、地球上の動植物は壊滅的なダメージを受け

• 海中においても超温暖化の結果、海洋の大循環が停止し、海中の
深刻な酸素欠乏 (海洋無酸素事変・スーパーアノキシア) を引き
起こし、海中の生物もその多くが死滅した
大絶滅
 ペルム紀末 (PT境界) における大量絶滅: まとめ
1. コールドプルームが沈み込む
2. コールドプルームに押し出されるようにスーパープルームが上昇
する
3. 大規模火山活動が生じ、大量の火山ガスと粉じんの長期間の放出
4・5. 急激な温暖化・有毒ガス・酸性雨・太陽光遮断などの環境の
激変や海洋におけるスーパーアノキシアによる生物の大量絶滅

地球大進化 4. 大量絶滅
大絶滅
 白亜紀末 (KT, KPg境界) における大量絶滅
• 1980年に、KT境界層からイリジウム ユカタン半島に存在するクレーター
などの特殊な金属元素が大量に発見
された
• イリジウムは本来地球表面に存在せ
ず隕石などに多く含まれることが知
られており、このためKT境界で巨大
な隕石が地球に衝突したことが考え
られた
• 当初、隕石の衝突場所は分からな
かったが、1990年にメキシコのユカ
タン半島の地下に直径が100キロ
メートルを越える巨大クレーター (チ
クシュルーブクレーター) が発見され、
そのクレーターはまさに約6500万年
前頃にできたことが判明した

地球大進化 4. 大量絶滅
大絶滅
 白亜紀末 (KT, KPg境界) における大量絶滅
• 6600万年前 (季節は6月頃) に現在 隕石衝突時の様子
のメキシコ・ユカタン半島に、直径
10 kmにも及ぶ巨大隕石が音速の
50倍以上の速度で衝突した
• そのエネルギーは現存する全核弾頭
の10万倍以上であったと考えられ、
爆風、巨大津波が周辺を襲った

地球大進化 4. 大量絶滅
大絶滅
 白亜紀末 (KT, KPg境界) における大量絶滅
• 数兆トンもの岩石の塵が吹き上げられ、太陽光線は遮られ平均気
温は十数度低下し、「衝突の冬」と呼ばれる寒冷期が訪れ、植物
の光合成が劇的に減少し、植物を食べる生物 (草食恐竜など) の
死滅と、それに続く肉食生物の死滅が生じたと考えられている
• しかし、衝突から10年以上経つと、塵が晴れて大気が浄化される
と今度は衝突時の森林火災などによって放出された二酸化炭素に
よって温室効果が生じ、長規模な温暖化が続いた
• これらの環境の激変によって生物の大量絶滅が生じた
大絶滅
 大量絶滅と進化の関係
絶滅が生命の多様性に与える影響
• 大量絶滅の後には、空席に
なったニッチを埋めるべく生 絶滅あり:36種 絶滅無し:21種
き延びた生物による急激な適
応放散が生じる
• 事実、KT境界における恐竜絶
滅後の新生代では、それまで
小型動物が中心であったほ乳
類において、急速に多様化・
大型化が進んだ
• 生態系におけるニッチには限
りがあり、絶滅が生じない場
合にはやがて生物種の数が飽
和してしまい新たな種は生ま
れないが、絶滅がある場合に
は生物の数は飽和せず新しい
種の誕生の機会は常にある
大絶滅
 第6番目の大量絶滅
• 20世紀の100年間は、地球史上かつてない率で生物種が絶滅して
いる時代
• 生物種の絶滅をもたらす要因の多くは人為的なものであり、羽
毛・毛皮・肉・油脂を求めて (もしくは単なる娯楽) の乱獲、熱
帯林の乱伐、環境開発による生態系の劣化、大気汚染、水質汚染
などの公害などが要因である

→多くの生物種の絶滅が生物多様性の減少に繋がる

マイヤーズ (N. Myers) によると、白亜紀末の大量絶滅の速度に比して、


1900~1975 年 は 1,000~100,000 倍 、 そ し て 1975~2000 年 で は
40,000,000倍もの速度であると推定されている。数値の妥当性は不明であ
るが、20世紀に入ってから、乱獲、熱帯雨林の過度な焼き畑農業、大規模伐
採など、人為的な活動により野生生物の絶滅速度が飛躍的に高まっているこ
とは間違いないだろう。
大絶滅
 第6番目の大量絶滅
• 更新世における人為的な生物の絶滅
更新世における巨大ほ乳類の絶滅には大いに人類の影響があった
ディプロトドン
グリプトドン

巨大な甲羅をもつ当時南米に
存在に存在したアルマジロの オーストラリアに存在した巨
近縁種. 甲羅や肉を狙われて 大な有袋類. オーストラリア
刈り尽くされたと考えられる に進出したアボリジニの祖先
によって絶滅させられた
大絶滅
 第6番目の大量絶滅
• 近代における人為的な生物の絶滅

リョコウバト フクロオオカミ

鳥類史上最も多くの数がいたとされた 家畜を襲うため害獣とされ、懸賞金
が、美味であった肉を求めて、乱獲さ がかけられて虐殺された. 1936年、
れ20世紀初頭に絶滅 絶滅
大絶滅
 第6番目の大量絶滅
• 現代における人為的な生物の絶滅

カモノハシガエル ヨウスコウカワイルカ

母蛙の胃の中で孵化・変態す 揚子江に生育する固有種. 揚子江の


る. カエルツボカビ症によって 汚染による環境の激変で個体数が減
1983年、絶滅 少. 2006年、絶滅
目撃情報はあるが確実な証拠はない
大絶滅
 絶滅の渦
• 環境開発などによって、偶然生物集団の個体数が少なく
なったとき、それがきっかけとなって多くの絶滅促進効果
が連動して、絶滅リスクが上昇していく
小さな集団では繁殖力
の低下が見られる
即ち、偶然子供が生ま
れない、子の性がどち
らかに偏る、といった
ことが多くなる

小さな集団では遺伝的浮動の効
果が大きくなり、自然選択によ 絶滅の渦
る有害遺伝子の排除効果は薄れ 有害形質をもたらす劣
るため、このような有害遺伝子 性対立遺伝子がホモ接
がゲノムに固定されていく 合となって、表現型と
して現れやすくなる
大絶滅
 絶滅の渦

ある生物種が生息する広大な森林が道路や市街地で区切られることで、
その生物種が孤立した小さな林の集まりに細分化され、それぞれの局所
個体群として孤立させられるような状況がしばしば生じる。このような
生物種は、将来的に絶滅する危険性 (絶滅リスク) が高くなる。理由と
して、個体数が減少すると、人口学的確率性が高まる、近交弱勢が生じ
やすくなる、遺伝的浮動によって、弱有害突然変異遺伝子のゲノム蓄積
が生じる、といった3つの要因が生じて、更に個体数が減少していく。
言い換えると、分断化し集団が減少した局所個体群において、様々な絶
滅促進効果が連動してかかり始め、サイクルが生物の絶滅まで進行する
ことになる。このような作用を、絶滅の渦と呼ぶ。
本日の講義内容

• 大絶滅

• 生物多様性

• 生物の環境への適応
生物多様性
 生物多様性
• 生物多様性とは、地球を含める生態系に、多様な生物が存
在していることを指す
• 何故、生物多様性が必要なのか?
• 生態系は一つの種だけで築くことができず、様々な生物種
の及ぼす絶妙なバランスの上に成り立っている
• 生態系は複雑なシステムであり、ある生物種が絶滅するこ
とで、そのバランスが崩れ生態系自身が破壊されてしまう
ことに繋がりかねない
• そうなると、生態系サービス (生態系の働きのうち人間社
会にとっての便益につながるもの) を受け取ることができ
なくなる
• 生態系サービスを将来に渡って長く享受していくためには、
生態系のバランスの維持が必要で有り、生物多様性の保全
が必須である
生物多様性
 各種の生態系サービス

生態学入門 第二版
生物多様性
 生物多様性
• 生物多様性には3つの要素があり、それぞれ種多様性・遺
伝的多様性・生態系多様性である
生物多様性
 生物多様性
• 種多様性
ある地域における種の豊富さのことを意味するが、単に種
数だけでなく種ごとの個体数が片寄っていないことも重要
である

• 生態系多様性
生態系の栄養段階の多層性や食物連鎖のリンク数の多さ、
など生態系構造の複雑さ、及びある地域での森林、草原、
湖沼などの異なる生態系がどれくらい複雑に組み合わさっ
ているかを評価

• 遺伝的多様性
各遺伝子座におけるヘテロ接合体頻度の多様さを意味する.
ボトルネック効果などによって、対立遺伝子の頻度に大き
な偏りがある場合、遺伝的多様性は低いとみなされる
生物多様性
 生物多様性の保全
• 生物の多様性を保全する際には、絶滅の危険性の高い種 (絶滅危惧種:
threatened species、またはendangered species) を指定したり、ある
地域に特有の生態系や生物群集を指定して保全している
• レッドリスト:絶滅の危険度をいくつかに区分し、ある地域に生息する野
生生物に対して、その区分に該当する種・亜種・個体群を一覧にしたもの
• レッドデータブック:レッドリストに加えて、形態、繁殖などの生態、生
息環境、絶滅の要因及びその保全対策などをまとめたもの. 保全策の指針
書にもなっている
• 国際自然保護連合 (IUCN) では、数年おきに世界中の絶滅危惧種をまとめ
たレッドデータブックを発行している
• 2009年では、17000種が絶滅危惧種として分類されている
生物多様性
 生物多様性の保全

生態系の視点から見ても、生物種の絶滅は生物多様性を低下
させ、生態系サービスの低下をもたらしかねないため、絶滅
危惧種には特に保全などの配慮が必要となる。
レッドデータブックを作成する目的としては、象徴的な生物
種 (トキ、コウノトリ、ヤンバルクイナなど) を代表として、
生物多様性の危機の度合いを一般人に伝え、生態系の保全を
社会的に動機づけることにもある。
生物多様性
• 絶滅危惧カテゴリー
IUCN (国際自然保護連合)
環境省レッドリスト カテゴリー レッドリスト カテゴリー
絶滅 我が国では既に絶滅したと考えられる種 EX, Extinct

野生絶滅 飼育・栽培下、あるいは自然分布域の明らかに外側 EW, Extinct in the Wild


で野生化した状態でのみ存続している種
絶滅危惧I類 絶滅の危機に瀕している種 CR + EN
Threatened

絶滅危惧IA類 ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極め CR, Critically Endangered


て高い種

絶滅危惧IB類 IA類ほどではないが、近い将来における野生での EN, Endangered


絶滅の危険性が高い種

絶滅危惧II類 絶滅の危険が増大している種 VU, Vulnerable

準絶滅危惧 現時点での絶滅危険度は小さいが、生育条件の変化 NT, Near Threatened


によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
生物多様性
• 絶滅危惧カテゴリー

絶滅の危険度については、個体数の減少速度、生息面積の広さ、全個体
数と繁殖個体群の分布、成熟個体数、絶滅確率などの定量的な基準に
よって、絶滅危惧種 (threatened species, endangered species) を危
機的絶滅寸前 (CR: critical, 環境相基準では絶滅危惧IA類)、絶滅寸前
(EN: endangered, 同じく絶滅危惧IB類)、危急 (VU: vulnerable, 同
じく絶滅危惧II類) の3段階に区分けされている。例えば、IUCNの
2001年版の基準によると、CRは10年または3世代以内に50%以上の確
率で絶滅する種に区分けされ、緊急の保全策をとらないといけない、と
される。同様に、20年もしくは5世代以内に絶滅する確率が20%以上あ
る種をENと区分し、100年後に絶滅している確率が10%以上ある種を
VUと区分する、と提案している。これより軽度な危険度を有する種は、
準 絶 滅 危 惧 種 (NT: near threatened), 経 度 懸 念 (LC: least
concerned) となる。
生物多様性
 世界のレッドリスト

生態学入門 第二版
生物多様性
 生物多様性の保全
• 生物多様性の保全のために、ある一つの種を保護すること
で、その種が属する群集の大部分が同時に守られるような
種の候補として、キーストーン種とアンブレラ種が挙げら
れる
• キーストーン種は、少ない生物量であっても生態系へ大き
な影響を与える生物種のことを意味する
• 「北太平洋岩礁潮間帯でのヒトデ」や「北太平洋沿岸の
ラッコ」などが知られる
• アワビやウニを食べてしまうラッコを害獣として駆除した
結果、ウニが大繁殖し、海藻であるジャイアントケルプが
食い荒らされ生物群集に大きな影響が出た
• ラッコを保護することにより、海藻が生い茂り、そこに棲
む魚や上位捕食者も数多く生息できるようになった
生物多様性
 生物多様性の保全
• 一方、キーストーン種は生態系の仕組みをするには重要だ
が、保全や管理に関する政策決定にあたっては、アンブレ
ラ種に着目するべきという考えもある
• アンブレラ種とは、その種の保全が他の多くの生物を保全
することにもなるという生物種 (傘のように他の生物種を
覆っていて、その傘が無事であれば中に入っている生物種
も保全される)
• クマやクロサイ、トラなどの大型ほ乳類やフクロウ、ワシ
などの猛禽類など、広大な生息地を必要とする生物種がア
ンブレラ種の候補として扱われる

石のアーチを安定させる
ために上々に打ち込む楔
状の石をキーストーンと
呼ぶ
生物多様性
 生物多様性の保全
• この生物多様性の保持を目指す上では、生態系の保全が重
要であり、生物多様性の保全を目指す国際プロジェクトが
実行されている
• 1991年には生物多様性保全の研究を進める国際プロジェク
ト (DIVERSITAS) が組織化され、また2010年10月には名
古屋でCOP10 (生物多様性条約第10回締約国会議) が開催
された
本日の講義内容

• 大絶滅

• 生物多様性

• 生物の環境への適応
生物の環境への適応(復習)
独立栄養生物:緑色植物、化学合成細菌(生産者)
緑色植物は、光合成によって光エネルギー
生物群集 を化学エネルギー(有機物)にする

従属栄養生物:動物(消費者)、細菌類・菌類(分解者)
消費者は生産者がつくった有機物をエネル
ギー源として生活する
反作用
一次消費者:植物や植物プランクトンを食べる草食
環境形成作用
生態系 動物や動物プランクトン
二次消費者:一次消費者を補食する動物
n 次消費者:n-1次消費者を補食する動物
作用

大気、土壌、水、代謝の材料(CO2、O2、栄養塩類など)
無機的環境
エネルギー(光。無機物中の化学エネルギー、熱など)
生物の環境への適応
• 生物の適応
• 共通の祖先をもつ生物群は、適応放散の結果、様々な環境に
適応した形態や機能を持つようになった

• それは近縁の種においても例外ではない
生物の環境への適応
 ベルクマンの法則 (独、カール・ベルクマン、1847年)

• 恒温動物の同種・近縁種では、寒冷な地域に住
む個体は温暖な地域に住む個体よりも体が大形
になる

• それは、体積当たりの体表面積が小さくなり放
熱量が少なくなるため

• 身体の体積は大きさの3乗に比例するのに対して、
表面積は2乗に比例するため、身体が大きければ
大きいほど体積に対する表面積が小さくなる
生物の環境への適応
 ベルクマンの法則(1847年)
クマの亜種

寒冷地 温暖地

トラの亜種
シベリアトラ (寒冷地)
全長 350 cm
体重 306 kg

スマトラトラ (温暖地)
全長 255 cm
体重 140 kg
生物の環境への適応
 アレンの法則 (英、J. A. アレン、1877年)

• 恒温動物の同種・近縁種では、寒冷な地域に住
むものほど耳、首、尾、肢などの突出部分が小
さくなる

• 一方で、温暖な地域では身体の突出部が大きく
なり、放熱量が増えることで体温維持が容易に
なっている
生物の環境への適応
 アレンの法則(1877年)
キツネの亜種

寒冷地 温暖地
ウサギの亜種

寒冷地 温暖地
生物の環境への適応
 フォスターの法則・島嶼化 (1964年)
• 地理的に孤立した島では、利用可能な生息域や
資源が制限されるため、生物が他の地域の同
種・近種よりも巨大化・矮小化する

• 大型の動物では、小さな個体の方が代謝量の減
少・性成熟の短期化などの点で有利であり、体
格が減少するように選択圧が働く

• 小さな動物では、捕食者が元々少ないことで、
体格を小さくして捕食者の目を逃れる必要が無
いため、大型化する (小型動物から中型動物へ)
生物の環境への適応
 フォスターの法則・島嶼化 (1964年)
ホモ・フローレシエンシス ミクロヒメカメレオン

• インドネシア・フロレス島で発見さ • 世界最小の爬虫類 (のみならず、最小の有羊膜類)


れた、史上最小のヒト属. 身長は1m • マダガスカル島に生息
程度. 3万8000年以内 • 2段階の島嶼化を経た結果、このようなサイズに小
• 研究者の中には、異なるヒト属では 型化したと考えられている
なく現生人類の骨格などに病気を持
つヒトの骨ではないか、と考える人
もいる
生物の環境への適応
 擬態
• 動物が攻撃や自衛などのために、身体の色・形
などを周囲の無生物体や動植物に似せることを
意味する

• 背景に似せて目立たなくするもの:隠蔽的擬態 (ミメシス,
mimesis)
 保護色・隠蔽色

• 目立つことによって敵や獲物を欺くもの:標識的擬態 (ミ
ミクリー, mimicry)
 ベイツ型擬態
 ミュラー型擬態
 ペッカム型擬態 (攻撃擬態)
生物の環境への適応
 隠蔽 (的) 擬態
• 単に色彩だけを模倣する場合は保護色と呼ぶ
周囲に溶け込んだカメレオン (保護色) 木の枝に擬態した
トビモンオオエダシャクの幼虫

葉に擬態したコノハムシ
枯れ葉に擬態したキタテハ
生物の環境への適応
 ミュラー型擬態
• 毒を持つ危険種は独特の色彩を持っておりそれを警戒色と
呼ぶが、そのような警戒色を持つ有毒生物が、お互いに似
通った体色になる擬態. 同じような姿の危険種が増えれば
増えるほど、生存する確率が高くなる
アシナガバチの仲間
生物の環境への適応
 ミュラー型擬態

ドイツ人の博物学者フリッツ・ミュラー (Fritz J.F.T.Muller


1822-1897) によって、1887年に提唱された。
有毒生物は、自分の危険性を相手に警告する「警告色」を持っ
ているのが通例だが、その生物の毒性、危険性を知らない生物
にとっては、彼らの鮮やかな色彩は非常に目立ち、格好の獲物
となる。従って、最低でも一匹は捕食され、その種の危険性を
捕食者側に知らしめる必要がある。そのリスクを最大限まで少
なくするために、有毒生物同士が似た姿になることがミュラー
型擬態。同じような姿の生物種が増えれば増えるほど、一匹の
犠牲で助かる種は多くなる。
生物の環境への適応
 ベイツ型擬態
• 有毒生物とは全く異なる種が、警戒色を用いて捕食を免れ
たり、形状・体色を似せること
スズメガの幼虫

ハナアブ ミツバチ
生物の環境への適応
 ベイツ型擬態

イギリスの博物学者ヘンリー・ウォルター・ベイツ
に因んだ名称である。
全く無害な生物種が、捕食者による攻撃を免れるた
めに有毒生物のもつ警戒色に似た体色をもつように
なること。捕食者が一度でも毒を持つ生物を捕食す
ると、次からはその捕食者はその生物を捕食するこ
とを避けるようになると考えられ、その性質を利用
しているとされる。
生物の環境への適応
 ペッカム型擬態
• 捕食者が被食者を捕らえるために、景色や物体に紛れるこ
とで獲物に接近することを容易にする (隠蔽型)、自らの一
部を目立たせることで獲物を近づけさせる (標識型)、など
がある.攻撃擬態とも呼ぶ
• 天敵から身を守ることも可能となる (この場合、隠蔽擬態,
mimesisとなる).

ランの花に擬態したハナカマキリ チョウチンアンコウ
生物の環境への適応
 その他の擬態
• メルテンス型擬態:ミュラー型の特殊な例. 自ら持つ毒が
強すぎると捕食者にとっては捕食行為がすなわち死につな
がるため「この生物を襲ってはならない」という学習記憶
が定着しない(食べようとした者はみな死んでしまうため、
その危険性が誰の記憶にも残らない). これを避けるため
に、より弱い毒をもつ別種の姿を真似ることで「襲っては
ならない」という別種に対する学習記憶を借用している、
と考えられる
ミルクヘビの仲間 (無毒) ニセサンゴヘビの仲間 (弱毒) サンゴヘビの仲間 (猛毒)

ベイツ型 メルテンス型
擬態 擬態
生物の環境への適応
 その他の擬態
• 化学擬態:フェロモンなどの化学物質を出すことによって、
他の生物に擬態したり、捕食者から逃れること. 視覚や聴
覚に頼らない生物に有効. 攻撃、隠蔽どちらの場合も知ら
れている

アリヅカコオロギ ハナカマキリの幼虫

アリの身体を舐めて、その匂いを身 ハナカマキリの幼虫は花の形に擬
体に付けることで仲間になりすます 態するだけでなく、花のにおいに
アリの巣に同居する 似たフェロモンを放出し、昆虫を
惹きつける
生物の環境への適応
 棲み分け・食い分け
• 生態的地位(ニッチ,生物が生態系内の空間や時間、食物
連鎖の中でしめる地位) が似ている種どうしの間では競争
が起こることがあるが、食い分け・棲み分けによって種間
競争が避けられ、ニッチを分けることで多くの種の共存が
可能になる
生物の環境への適応
 渡り
• 動物が遠く離れた地域間を季節的に往復することをいう. 水中の
生物の場合、回遊とも呼ばれる
• 特に鳥類によって発達しており、季節の変化に応じて好適な環境
を求めて大規模な移動を行うものが多く、例えば環境条件の厳し
い冬の間を温暖な地方で過ごすことなどがある
• 方向をどのようにして決めているか (方向定位) は重要な問題で、
鳥類では太陽や星など天体を利用していることが知られており、
魚類では臭い、オオカバマダラでは地磁気や太陽を利用している
と考えられている

渡りを行う生物
 鳥類:ツバメ、ハクチョウ、カモ類
 ほ乳類:カリブー、ヌー、クジラ類
 昆虫:オオカバマダラ、アサギマダラ
 魚類:ウナギ、鮭
…など
生物の環境への適応
 渡りの例
• 北アメリカ西部に生息するオオカバマダラは、太平洋沿岸
地方の温暖な地方に越冬する
• 北米東部及びカナダ南部に生息するオオカバマダラは、メ
キシコまで3,000km以上の渡りを行う
• この渡りの間に、チョウは2-5回も世代交代してしまう
オオカバマダラ
生物の環境への適応
 渡りの例
• アジアに生息するガンの一種、インドガンは世界で最も高い場所
を飛行する鳥
• ヒマラヤ山脈を越えて、8000 kmにも及ぶ渡りを行う
• 6000m以上の超高度をわずか8時間ほどで越えてしまう
• 生理学的に、超高度の飛翔に耐えられる身体になっており、毛細
血管が多い、飛翔筋に含まれるミトコンドリアが多い、赤血球中
のヘモグロビンが変異しており酸素分子との親和性が高くなって
いる、などの特徴がある

インドガン
生物の環境への適応
 冬眠
• 食料の少ない冬季間に、活動を停止し、体温を低下させて代謝を
低下させる生態
• 温度環境が厳しい冬になると、リスなどの多くのほ乳類や一部の
鳥類が冬眠をする
• シベリアシマリスなどでは、冬眠中のエネルギー消費量は活動期
の13%にまで低下する
• 心拍数:400回/分 → 10回/分以下 冬眠中のリス
• 呼吸数:200回/分 → 1‐5回/分
• 体温 :37℃ → 2-5℃
生物の環境への適応
 冬眠
• ヘビやカエルなどの変温動物や昆虫も、気温の低下とともに体温
が低下し、代謝も低下して活動が停止することがある
• 生理的なメカニズムは恒温動物とは異なり、狭義には冬眠には含
めない. 冬越しなどとも呼ぶ

冬眠中のカエル
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生物科学2
第12回:地球環境と生物2
大酸化イベントと生物の進化、オゾン
層の破壊、外来生物

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