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北里大学・科学技術振興調整費研究班主催「遺伝子検査の脱医療・市場化に関する国際シンポジウム」

日本における遺伝子検査の
自主規制と専門家の役割

北里大学大学院医療系研究科臨床遺伝医学

高田史男
遺伝子検査とは
( 日本国内での取り決め )
遺伝子関連検査
 核酸検査
 細菌、ウイルスなど、外来病原体の検査
 遺伝子検査 ( 狭義 )
 がん、悪性腫瘍など、後天的遺伝子変異
 「体細胞系列」遺伝子検査
 遺伝学的検査
 遺伝性疾患、遺伝的体質等、先天的なゲノム DNA 配列の個人差
 「生殖細胞系列」遺伝子検査
今日の対象
遺伝子検査 ≠ (前掲)遺伝子検査

遺伝子検査 = 遺伝学的検査
 紫外線や放射線、有害化学物質や老化に伴って生じる後天
的遺伝子変異ではなく、持って生まれた DNA 設計図の特徴
・個人差を調べる検査

今日ここで「遺伝子検査」といった場合、この「遺伝学
的検査」を指すこととします。
遺伝子検査の提供される場

医療 と 非医療
遺伝子検査の提供される場
医療(施設)
健康保険(公的医療保険)の適応
 米・欧・豪等では原則適応
 遺伝カウンセリングへの適応は国により差有り
 日本・韓国では殆どの疾患が非適応
 それに伴う遺伝カウンセリングも自費診療
 但し、日本に於いては平成20年度診療報酬改定で一部疾患が適応に
 遺伝病学的検査:13疾患
 遺伝カウンセリング加算
注意点(重要)
 医療施設とは言っても・・・ 
 ここでの理解としては、高度専門医療機関等における臨床遺伝専門医・
遺伝カウンセラーなどの専門職が勤務・対応する医療施設に限る。
医療の場で提供される遺伝子検査

疾患と変異の関係が明白なもの
 疾患:原因=1:1
 メンデル遺伝病:1遺伝子の変異が1疾患の原因に対応
遺伝子検査の提供される場
非医療の場
 → 脱医療・市場化・・・ビジネスとして企業が参入
 DTC 遺伝子検査
 Direct-to-consumers =「消費者に直接提供される」
 インターネット
 薬局
 大規模小売店(百貨店)健康グッズ売り場
 エステティックサロン
 前掲以外の医療施設(臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー等の臨
床遺伝専門職のいないクリニックなど)
DTC 遺伝子検査
そこでは何が「販売」されているのか
 疾患を含む身体的特性と遺伝子・ DNA 配列の個人の特徴
(個人差)とが1対1対応にないもの
 1対1対応にあるもの

具体的には?
疾患を含む身体的特性と遺伝子・ DNA
配列の個人の特徴(個人差)とが1対
1対応にないもの

多因子遺伝
 多数箇所の DNA 配列の個人差に加え、その人の生活環境、生活ス
タイルまでが関わって作り出される非常に複雑な特性
 → いわゆる「体質」とよばれるもの

つまり、だから?
いわゆる「体質」と呼ばれるもの
 肥満体質
 アレルギー体質
 疾患易罹患性(病気のかかりやすさ)
 糖尿病・高血圧・がんなど、いわゆる成人病とか生活習慣病と呼ばれ
るもの
 それらへのかかりにくさ・・・長寿
 精神疾患:うつ病、統合失調症、てんかん、自閉症関連疾患、認知症
・アルツハイマー病
 自己免疫疾患:リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの膠原病
 性格
 怒髪性、温厚、犯罪傾向、性的嗜好
 知能
 記憶力、発想能力、芸術性、リーダーシップ能力
 身体能力
 アスリート体質、筋肉特性
 容貌
 美醜、身長、座高(足の長さ)
 嗜好
 アルコール依存体質、喫煙
体質の検査
体質=多因子遺伝
個々の遺伝子・ DNA 配列の個人差が体質発現・決
定に寄与する度合いは、医療で行われている1:
1対応の検査に比べ、極めて低いかまたは殆ど影
響していない。
科学的根拠という点で希薄

こういうものを「販売」する事に対し、多
くの遺伝医療に関わる専門家達は支持してい
ない。
 「レクリエーション検査」、「占い検査」
人間一人ひとりと、その遺伝子・ DNA
配列の個人の特徴(個人差)とが1対
1対応にあるもの

DNA 鑑定
 親子鑑定等、血縁鑑定
 個人同定
日本で販売されている DTC 遺伝子検査
体質検査
 肥満遺伝子検査
 筋肉特性・アスリート遺伝子検査
 疾患易罹患性検査        など

血縁鑑定検査
 親子(父子)鑑定
視点を変えて
医療と非医療・・・・・→医療とビジネス

医療の所掌官庁は厚生労働省

ビジネスの所掌官庁は経済産業省

この理由から DTC 遺伝子検査は経済産業省が所掌。だが


、実はこれは世界でも希有(ほぼ唯一)の所掌関係
厚生労働省と経済産業省の使命
厚生労働省:「国民生活の保障及び向上を図り、
社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進
を図る」
 つまり国民の生命、健康を守る。
 「規制官庁」
 審議会を作りガイドライン、法令で厳格に規制

経済産業省:「民間の経済活力の向上を図る」
 つまり殖産興業・経済発展振興支援
 「推進官庁」
 業界団体を作らせ、自主基準・マル適マークで緩く制御

DTC 遺伝子検査に厚労省(医療関係法令)の影響
は基本的に及んでいない。
経済産業省流制御(支援)とは
「所掌部署」が「業界団体」作りを支援し「自主規制」
、「マル適マーク」を整備する。
 所掌部署・ガイドライン・法律
 製造産業局 生物化学産業課
 経済産業分野のうち個人遺伝情報を取り扱う事業分野における個人
情報保護ガイドライン
 根拠法:個人情報の保護に関する法律(2005年施行)
 業界団体
 特定非営利活動法人 個人遺伝情報取扱協議会
 自主規制
 個人遺伝情報を取り扱う企業が遵守すべき自主基準(個人遺伝情報
取扱事業者自主基準)
 ○( マル ) 適マーク
 (財)バイオインダストリー協会 個人遺伝情報取扱審査委員会に
よる審査合格証(非必須であり、拘束力はない。)
アカデミア(専門家)の姿勢・意見

多因子遺伝に関する知見は、現時点では科学的妥当性、臨床
的妥当性、臨床的有用性といった面で解決すべき問題がまだ
残されており、臨床応用や商品化、つまり実用化できるレベ
ルまで解明されてはいない。

今、こういったものを実用化するのは全く不適切であり時期
尚早、科学的根拠のない詐欺行為である。
事業者側の姿勢
事業者団体を作り、その中に評価委員会を設置し専門家に
も入ってもらい、専門の立場から多様な意見をもらってい
る。自主基準も作り遵守事項を定め、適正な事業展開に努
めている。これだけ頑張っているのに、その実情も努力も
知らず頭ごなしに全否定されるのは納得がいかない。
科学的根拠についても、査読(掲載のための審査)のある
医学専門雑誌に掲載された科学論文に依拠している。それ
を否定するというなら、きちんと科学的反論を医学雑誌に
投稿して否定するなどの科学者らしい対応をすべきではな
いか ?
自分は研究室の中から出て来ずに「あんなものは」といっ
ている大半の医学者、科学者は卑怯。だけど正直怖い。
見えてくるもの

直接的な議論・意見交換や相互交流の欠

専門家の役割
一括総論的否定ではなく、業界への科学的論
拠に基づく個別的説明、助言が必要。
具体的支援
消費者にどこまで言って良いか?のアドバイス
宣伝してもいいこと、悪いことのアドバイス
検査結果から科学的根拠の希薄な飛躍 ( つまり商
品販売 ) への不的確性への警鐘
遺伝カウンセリング体制整備への支援
一部業者に、大学 ( 院 ) 等で適正な遺伝専門教育を受けた
経験のない社長自らや社員、栄養士に ( 遺伝 ) カウンセリ
ングのような業務を行わせているケースも散見され、適
切な助言・支援が求められる。
別の動き:問題解決の一方便
専門家の関わり
遺伝子検査は遺伝子検査であって医療であ
ろうがビジネスであろうが、同じ技術。つま
り技術面である一定の質、レベルが担保され
た上で提供されるべきものである。
→ 遺伝子検査の「標準化」の動き
国内・国外で推進中
技術的な質の保証
だたし、遺伝子検査は解釈・理解が難しい。
医療であれビジネスであれその部分の「セー
フティネット」が必要。
遺伝子検査の結果理解のための
セーフティネット
被検者と検査結果を結ぶインターフェース
 遺伝カウンセリング

被検者・・・つまり一般市民のヒトの遺伝学に関する知
識(リテラシー)の確保の重要性

遺伝子検査のユビキタス化、ルチン化の時代を迎えるの
は必定。

一刻も早い遺伝医学の初等中等教育での充実・適正化が
求められる。
中高生への遺伝医学教育
(ヒトの遺伝学=人類遺伝学)
 「ヒトの遺伝教育はタブー。教えると差別につながる。ヒト
の遺伝について教えるのであれば血液型程度にしておくべ
き。」という意見。
 「教えないから差別が起こる(差別は無知から起こる)。」
という意見。
 欧米では遺伝医学教育は重視されている。
 遺伝医学は今や日常生活を送る上での知的基盤の必要条件と
なってきている。この傾向が後退することはあり得ない。
 国内メディアのこの分野のレベルの低さ、欧米のメディアに
比べ取り上げる少なさも、突き詰めていけばここに起因。
 わが国の遺伝医学教育の基本方針を考え直すとき
 所掌:文部科学省初等中等教育局
専門家にできること

社会に語りかけていくこと。

対話を続けること。

そういった人材を育てること。

業績至上主義、ストイックな研究至上主義からの脱却
ありがとうございました。

http://www.idenshi.jp

Special thanks to
  Dr. Takako Ohata, Mr. Tomohisa Sumida, Mr. Atsushi Tsuchiya
and Dr. Maiko Watanabe

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