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[コンピュータワールド]2008年6月号
月刊
発行・発売 (株) IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5
TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ ・ジー・ジャパン
世界各国のComputerworldと提携

TM
contents
June 2008 Vol.5 No.55

Features 特集&特別企画
Windows Server 2008が登場──移行/展開戦略を固める

特集 42 [多角検証]
Windows
プラットフォーム2008
最新サーバOSの実力を120%引き出すための勘所

Part 1 44
Windows Server 2008への完全移行をはたす
6つの最終チェック
山市 良

Windows XPを継続するか Windows Vistaに移行するか


Part 2 53 IT管理者の視点で考えるWindows Vistaのメリット
山市 良

企業の信頼を勝ち得るまでの軌跡を再確認する
Part 3 60 Windowsの進化課程から探る と
「実力」「課題」
山口 学

マイクロソフトが描く次世代ITモデルの構成要素
Part 4 68 「Software+Services」
時代のWindowsプラットフォーム
鈴木章太郎

VMwareの導入から配備までを
「誌上ハンズオン」

サーバ仮想化導入
ステップ・ガイド
特別企画 77

Matt Prigge
 

Hot Topics ホットトピックス


IT Inside Topics[ニュースなIT]
極寒の地にも
「熱問題」あり
8
Chew-
Moc k 南極基地の管理者が語る、マイナス50℃下のITマネジメント
Robert L. Mitchell

June 2008 Computerworld 5


contents
6

News & Topics ニュース&トピックス   14

Technology Focus テクノロジー・フォーカス


コンシューマーからエンタープライズへ
-Moc ──本格化するOpenIDの明日を探る
Networks 88
k
Chew
工藤達雄

高速処理と省電力を共に実現する
-Moc 新世代ス トレージ の可能性
「SSD」
Storages 94
k
Chew
土屋 勝

ITIL適用の真実
──いかに着手し、実践するか
Sys.Admin. 100

Sue Hildreth

Running Articles 連載
ITキャリア解体新書
(第3回)
104 システム・エンジニア
横山哲也

Opinions 紙のブログ
107 インターネット劇場
佐々木俊尚

108 IT哲学
江島健太郎

109 テクノロジー・ランダムウォーク
栗原 潔

Information インフォメーション
25 Green IT Conference & Demo 2008リポート
106 IT KEYWORD
110 本誌読者コミュニティ&リサーチ のご案内
113 エンタープライズ・ムック のご案内
「ITマネジャーのための内部統制/日本版SOX法講座」
114 バックナンバーのご案内
116 イベント・カレンダー
117 おすすめBOOKS
118 読者プレゼント
119 FROM READERS & EDITORS
120 次号予告/AD.INDEX

June 2008 Computerworld 7


くので、これまでにポールを立てた場所を結んでみる
南極点は少しずつ移動する と、基地から伸びる1本のラインを確認することができ
る。ポールの位置は年々アムンゼン・スコット基地に
──では、さっそくインタビューを始めよう。そちら 近づいてきており、20年以内には発電施設の真下に
の天気はどう? 南極点が位置することになりそうだ
(写真1)

M a l m g r e n氏:とてもいい天気だ。気温は-53℃、
風速は秒速3.2mしかない。こちらの基準では文句な ──地球温暖化の影響でそちらの土地が縮小してい
しにいい天気だ。 ると報じられているが、実際そうなのか。
M a l m g r e n氏:南極の積氷が縮小し、氷河流動速
──よく
「南極点」
と言われるが、正式な点があるのか。 度が上がっていることは、衛星写真によってはっきり
M a l m g r e n氏:もちろんある。南極点には、理髪店 と確認されている。
この速度を正確に数値化するには、
の回転看板のようなポールが立っている。アムンゼン・ 現地でのさらなる研究が必要だが。
スコット基地のすぐ目の前だ。
写真1:南極点付近に立つHenry Malmgren氏。手前の南極点ポールは公認の
ものではなく、測量時の位置を示している
──氷床は1年間に約9m動くと言われている。ポー
ルの位置が実際の南極点からずれたりすることはない
のか。
M a l m g r e n氏:毎年1月1日に行っているセレモニー
の際に、ポールの位置を調整している。米国地質調
査所の調査団がここまでやって来て、太陽の位置に
基づいて厳密な測量を行う年もあるが、われわれが
測量用のGPS
(全地球測位システム)
を用いて可能な
かぎりの精度で測量を行う年もある。
 こうして測量した南極点に新しいポールを立ててい

I T I n s i d e To p i c s
ニュースな IT
極寒の地にも「熱問題」あり
南極基地の管理者が語る、
マイナス50℃下のITマネジメント
データセンターの構成から過酷な伝統行事まで一問一答
ヘンリー・マルムグレン
(Henry Malmgren)
氏、34歳。
彼は、米国が南極点付近に建設したアムンゼン・スコット基地で働くITマネジャーだ。
冬期は気温が-50℃以下になる南極点の氷床の上で、Malmgren氏はデータセンターをはじめ、
衛星回線や電話システム、さらには携帯ラジオに至るまで、
電気通信やコンピュータに関するあらゆるものに責任を負っている。
そんな同氏に、南極基地での仕事や生活などについて、衛星回線でインタビューした。

Robert L. Mitchell
Computerworld米国版

8 Computerworld June 2008


──以前、南極点の公式サイトにあるWebカメラで ピュータに関するあらゆるものに責任を負っていると
基地の様子を見たのだが、カメラが下のほうを向いて いうことだ。夏の間は7人ほどのスタッフとともに250
いて建物の最上部が写っていなかった。これは単に調 〜270人の職員をサポートしている。一方、2月中旬
整不足が原因なのか。 から10月中旬までの冬の間は人数が減って、4人だけ
Malmg r en氏:そうではない。初夏の太陽は基本的 で60〜70人の職員をサポートする。
に、水平線から昇って沈むのではなく、水平線上を
一定の高さでぐるりと回る。そのため、カメラをその ──典型的な1日の業務はどのような感じなのか。
ように設置せざるをえなかったのだ。 M a l m g r e n氏:1日の勤務時間は最短で9時間、休
 年の初めは太陽が非常に低い位置にあり、カメラ みは週に1日だ。勤務日は、
最初の2〜3時間をデンバー
を建物の方向にまっすぐ向けると、太陽の光によって の本社から来たメールへの返信に費やし、その後、
カメラの虹彩絞りが焼き切れてしまう。太陽が高く昇 基地内を回って科学者たちに声をかけ、必要なもの
る今の時期はカメラも上に向けてあるので、建物の全 はないか、われわれに解決可能な問題は起きていな
景が写っているはずだ。 いかを確認する。
 わたしがうれしく思うのは、マネジャーという立場
──タイムゾーンは通常、グリニッジからの経度上の でありながら、基地のシステム全般に直接携われるこ
距離で決まる。すべての経線が1点に収束する南極点 とだ。ここでのわたしは、スポーツ選手のコーチのよ
では、時間はどのようにして決まるのか。 うな存在だと言える。わたし自身は延べ5年間にわた
M a l m g r e n氏:時間は自由に選ぶことができる。わ りこの基地のシステムに携わっているが、スタッフの
れわれの場合、ニュージーランド標準時を使用してい ほとんどはここに来るのが初めてだからだ。
る。輸送機はすべてニュージーランドから来ており、
その予定に合わせるにはニュージーランド標準時を使 ──最も多くの時間を占めるのはどのような作業か。
用するのが最もわかりやすいからだ。 M a l m g r e n氏:このところ最優先事項となっている
のは情報セキュリティだ。
最新の脆弱性情報を入手し、

システム全般に パッチを適用するといった作業に勤務時間の3分の1

直接携われることの喜び 程度を費やしている。すでに2年ほど前から、このよ
うな状況が続いている。
──いったいなぜ、南極で働こうと思ったのか。
Malmgren氏:大学を卒業するまで米国の外に出た ──南極で働くスタッフを確保するのは簡単なのか。
ことがなかったが、交換留学生として欧州に行ってい M a l m g r e n氏:ほとんどの場合、求人には多くの応
たガールフレンドがいて、彼女の話を聞くうちに国外 募がある。わたし自身、4年間応募し続けてようやく
で仕事をしたいと思うようになった。 採用されたほどだ。ただし、そのときの景気によって
 その後、就職活動中にたまたま南極圏での仕事を は十分に人が集まらないこともある。
見つけ、全米科学財団
(NSF)
の契約業者である米国  例えば今は、イラクやアフガニスタンの請負業者と
Raytheonに入社した。それからは、
コロラド州デンバー の間で衛星通信員を奪い合っている状況だ。こうし
にあるRaytheonの本社とアムンゼン・スコット南極基 た請負業者は、われわれよりはるかに高い給与を支
地を行き来した。同基地で夏と冬をそれぞれ2回ずつ 払うことができる。むろん、イラクやアフガニスタンと
過ごしたあと、現在の役職であるITマネジャーに就い は違い、こちらには
「銃で撃たれることを心配せずに
たのだ。 済む」
という強みがあるのだが。

──基地におけるあなたの役割は何か。 ──南極ならではのマネジメント上の苦労を教えてほ
M a l m g r e n氏:わたしの担当領域は、ITの上部構 しい。
造から衛星、電話システム、携帯ラジオに至るまで非 Malmg r e n氏:補給物資を計画どおりに受け取るた
常に多岐にわたっている。要するに、電気通信やコン めには、1年半前に計画を立て、すべて発注しておか

June 2008 Computerworld 9


なければならず、これが遅れたら大変なことになる。 写真2:こちらは公認の南極点ポール(中央右の赤と白のまだら模様)
。各国の国
旗で囲まれている。後方はアムンゼン・スコット南極基地
この基地への補給物資は輸送機で送られてくるのだ
が、その輸送機はマクマード基地を経由してやって来
る。そしてマクマード基地への補給物資は、貨物船
で1年に一度輸送されてくるだけなのだ。
 また南極での業務は、
肉体的にも厳しいものがある。
基地が海抜3,650mの高地にあるため空気が薄く、多
くの人が到着してすぐ体調を崩してしまう。
 わたし自身は、寒さや高度といった環境的な問題、
新鮮な食べ物や野菜が少ないといった問題を除けば、
南極ではないどこか普通の場所にいるような気分にな
ることもある。でも、窓の外に目を向ければ、基地の
すぐ目の前に南極点のポールが見える
(写真2)
。そん
写真3:バックアップ用データセンターの内部。ここには外に直接つながる通気口
なとき、わたしは世の中で最高の仕事に就いているの があり、適温を保つのは比較的容易だ

だということを実感する。

データセンターの熱は南極でも課題

──基地内のデータセンターはどのような構成になっ
ているのか。
Malmgren氏:2005年に完成したばかりの新しい基
地にフル装備のデータセンターがある。床がフリー・
アクセス構造になっており、一般的なデータセンター
に必要となるものはすべて用意されている。また、
サー
バは約30台だ。  そこでわれわれは、熱の一部を建物の別の場所へ
 このほか、
メインの基地から1kmほど離れたところに、 送り出すという方法を試みている。古い基地のデータ
RF
(Radio Frequency)
ビルと呼ばれる建物がある。 センターでは、単純に壁にファンを取り付け、そこか
ここに緊急時のバックアップ用データセンター(写真 ら熱を外に逃がすことでシステムを冷却していた。
3)
があり、SAN
(Storage Area Networks)
に接続さ
れた予備のファイル・サーバが置かれている。衛星通 ──データセンターでは大量の電力を消費すると思う
信用のパラボラ・アンテナが設置されているのも、こ が、そのことは問題にならないのか。
の建物だ。メインのデータセンターに障害が発生した Malmgr en氏:こちらには約100万ワットの電力を発
ときに、こちらのデータセンターにオペレーションを切 電できる設備があるが、実際にそこまでフルに電力を
り替えるようになっている。 使ってしまうと、燃料供給が圧迫されることになる。
そのため、発電機を常に動かし続けることは現実には
──米国のデータセンターでは熱密度が問題になっ 難しい。一般に、発電機は高所に弱く、電圧が低下
てきている。南極では、もちろん問題にはならないと してしまうこともある。
思うが。  発電可能な電力量は、燃料をどれだけ備蓄できる
Malmgr en氏:南極は熱問題とは無縁と思われるか かに依存する。燃料は1滴残らず空輸されてきており、
もしれないが、実際にはこちらのデータセンターでも 輸送機が飛ぶ夏の4カ月間に運ぶことのできる量は限
相当量の熱が発生しており、この熱を取り除くことが られている。冬になって基地が閉ざされてしまえば、
課題の1つになっている。 その後の8〜9カ月間、輸送機は飛ばないのだ。

10 Computerworld June 2008


──データセンター向けの非常用電源は用意してある 送信記録は1日で94GBだ。
のか。  インターネットへの接続には3つの衛星を使用して
M a l m g r e n氏:予備の発電機をデータセンター用に いる。いずれも年代物で、内訳は気象衛星、海上通
確保することはしていないが、UPS
(無停電電源装置) 信衛星、NASAの衛星である。気象衛星は1981年、
は用意している。実際に稼働している
(施設全体用の) 残りの2つは1976年から1977年にかけて打ち上げら
発電機は常に1台だけだが、全部で3台の発電機があ れたものだ。
る。1台が運転用、1台がホット・スタンバイとして待機、  基本的には、そのつど捕捉できた衛星を使ってい
そして残りの1台はメンテナンス用という構成だ。運転 るが、各衛星を捕捉できるのは1日3〜4時間だけで、
中の発電機が停止したときは、5〜6秒以内に別の発 それ以外の点では一般的なネットワークとほぼ同じ
電機が動き出す仕組みになっている。 だ。ネットワーク機器には米国Cisco Systemsの製品
 発電機が完全に停止してしまうと、施設内の熱が を使用し、
すべての寝室に有線回線を引いているほか、
失われることになる。もしそうなれば、4時間か5時間 FTTD
(Fiber to the Desktop)
に備えて建物全体に
もしないうちに建物全体が冷え切ってしまうだろう。 光ファイバーを張り巡らせている。できるだけ将来に
備えた設計を施しているわけだ。

帯域確保が外部通信時の
最大の課題 ──これらの衛星が機能停止した場合はどうするつも
りなのか。
──外部との通信はすべて衛星経由で行うのか。 Malmgren氏:現在使っている衛星はすでに設計時
M a l m g r e n氏:そうだ。基地が建っている氷床は1 の寿命を過ぎているので、数年以内に別の衛星に切
年間に約9m動く。また、最も近い基地とも960km離 り替える予定だ。衛星の状態は悪くなる一方で、双
れている。このような環境下でケーブルを敷設するの 方向通信を行えない時間が次第に増えている。NSF
は容易ではない。 では、現在のものより新しい衛星を時間単位で借り
受けることを検討しているが、それには130ドル/分
──通信に際して技術的な課題は何か。 ほどの費用がかかりそうだ。
M a l m g r e n氏:最大の課題はネットワークの帯域を
確保することだ。ネットワークに接続できるのは1日12 ──衛星回線に障害が発生したときはどう対応してい
時間だけで、回線速度もT-1(1.54Mbps)
から3Mbps るのか。だれかがRFビルのアンテナの様子を見に行
程度にすぎない。ただし、トランスポンダを使えば、 くのか。
こちらからの送信にかぎり60Mbpsの速度でデータを Malmgren氏:ここではだれもが、気温−70度の真っ
送ることができるため、科学データの送信にはトラン 暗闇の中、衛星通信用のパラボラ・アンテナ
(写真4)
スポンダを使用している。ちなみに、これまでの最大 が設置されているバックアップ用データセンターまで
歩いていくという経験をしている。このようなことは、
写真4:バックアップ用データセンターの衛星通信用パラボラ・アンテナ。電波を
キャッチするため、地平線に向かってほとんど水平に設置されている 南極で働くのであれば不可避だし、目の前には極限
的な状況がいくらでもある。−70度の中でルータを交
換することができれば、どこへ行ってもルータの交換
に困ることはないだろう。

直径10mの電波望遠鏡で
宇宙マイクロ波背景放射を調査

──最近のプロジェクトで特に興味深いものは何か。
M a l m g r e n氏:2006年の話になるが、イリジウム衛
星ネットワークへの接続に利用する画期的なシステム

June 2008 Computerworld 11


を開発した。12個のモデムを多重化して、28.8Kbps を試すような場所ではない。最先端のテクノロジーと
の回線を24時間・365日いつでも使えるようにしたのだ。 いうのは何かと手がかかるものだし、ここでその人手
こんなものがきちんと動作するとはだれも思わなかっ を確保することは困難だ。南極はそうしたことにふさ
たし、いつでも使える回線を南極点で確保できるとは わしい場所ではない。
だれも思っていなかった。現在、
この回線はネットワー
ク通信による最後の手段になっており、ブロードバン ──過酷な気象条件はシステムの信頼性や稼働時間
ドの衛星回線が使用できなくなると、自動的にこの回 にどの程度影響するのか。
線に切り替わる。 M a l m g r e n氏:とにかく空気が乾燥しているので、
静電気が大きな問題となる。実際、静電気はノート
──そちらの基地ではどのような科学プロジェクトを PCやハードディスクの最大の故障原因となっている。
サポートしているのか。 特に故障が多いのは、電源やハードディスクというよ
M a l m g r e n氏:この基地では非常に大規模な科学 うなたぐいのものだ。海抜3,650mの高地にあるため
プロジェクトがいくつか進行中であり、そのすべてで 空気が薄く、冷却ファンが十分な空気を送れないた
膨大な量のデータが収集されている。とりわけ大がか めだ。したがって、熱を発生させるものについては特
りなのは南極点望遠鏡だ。これは、直径10mの電波 別な配慮が必要になる。
望遠鏡で、宇宙マイクロ波背景放射を調べるのに用  ハードディスクについては、高地に関連するもう1
いられる。 つの問題がある。ハードディスクのヘッドは一般に、
 科学者たちはこの望遠鏡で暗黒物質などを探して プラッタとの間の空気の層をクッションにして浮いて
おり、その際に集められた膨大なデータはできるかぎ いる。だが、
ここでは空気分子の量が少ないため、
ヘッ
り早く米国に送る必要がある。もしブロードバンドの ドがプラッタから十分に浮くことができず、故障が多
衛星回線がなければ、冬の間9カ月もデータをここに 発してしまうのだ。
置いておかなければならない。衛星回線のおかげで、
分析結果が出るまでの時間が大幅に短縮されている ──機器の故障が発生した場合はどのように対応す
わけだ。またこれによって、望遠鏡に関するあらゆる るのか。
問題を分析し、冬の観測期間中に修正することが可 M a l m g r e n氏:ベンダーのサポート担当者を呼ぶわ
能になっている。従来は、まるまる1年間待たなけれ けにもいかないので、少なくとも1年ぶんのスペア・パー
ばならなかった。 ツをストックするようにしている。

──研究者や科学者をどのような形でサポートしてい ──ディザスタ・リカバリはどのように行うのか。
るのか。 Malmgren氏:これは重要な問題だ。空気が乾燥し、
Malmgren氏:基本的に、研究用の機器などは彼ら 液体水が貴重である南極では、火災が壊滅的な被害
自身が用意し、われわれはバックエンドの設備を提供 をもたらす可能性が高い。そのため、すべてのデータ
する。ただし、それらの機器が故障したときなどは、 を別の場所にバックアップし、各システムをできるか
われわれも修理の手伝いを申し出るなどしている。 ぎり2つの場所で並行して動作させるようにしている。
 これは彼らを非難して言うわけではないのだが、多
くの科学者は、研究データをほかのだれかの手に委 ──火災が発生したときはどのように対応するのか。
ねることを好まない。それゆえ、われわれはあくまで Ma lm g r e n氏:南極では非常に先駆的なことなのだ
彼らが必要とする情報や技術サポートを提供すること が、この基地には湿式スプリンクラーが設置されてい
に徹している。 る。建物自体もモジュール構造になっており、複数の
セクションに分割されている。
──実績のない先進的なテクノロジーを取り入れる機  またメインの基地が使えなくなった場合に備えて、
会はあるのか。 シェルターも用意されている。シェルターには緊急用
Malmgren氏:南極は、
登場したばかりのテクノロジー の通信装置や発電機、
キッチンが備え付けられており、

12 Computerworld June 2008


写真5:
「300クラブ」
でのMalmgren氏。裸のまま、南極点ポールをぐるっと回っ 立ちそうなのは?
て戻ってくるのがルールだ
Malmg r en氏:まず挙げられるのは外交術だ。博士
号レベルの科学者、初めて南極にやって来た建設作
業員、コンピュータの電源を入れる方法や家族へ電
子メールを送る方法といったことばかり尋ねてくる人
など、実にさまざまな人々とうまくやっていくことが求
められる。このように、まったくタイプの異なる人々を
サポートしなければならない状況というのは、めった
に経験できるものではない。

──これまでで最も過酷な経験は何か。
M a l m g r e n氏:この基地には
「300クラブ」
と呼ばれ
る伝統的なイベントがある。気温が-73℃(華氏-
非常時にはそこに避難することになる。ここから1km 100度)
まで下がったら、まずサウナに入る。93℃(華
ほど離れたところにバックアップ用のデータセンター 氏200度)
の温度で限界まで体を温めたら、今度は裸
があるので、非常時にもデータが失われることはない。 のまま外へ飛び出していき、南極点のポールをぐるっ
 火災の発生が夏であれば、われわれは基地から脱 と回って戻ってくる
(写真5)
。つまり、華氏300度の
出することになっている。冬の場合は、輸送機がいつ 温度差を身をもって体験するわけだ。
こちらに来られるかによるが、4〜5カ月間を何とか生  このイベントに参加すれば、実に強烈な感覚を味
き延びなければならないだろう。 わうことができる。この温度差を直接肌に感じるとい
う体験は、ほかの何にも例えようがない。-50℃と

「300クラブ」で -70℃の違いなどわかるのかとよく聞かれるが、もち

華氏300度の温度差を味わう ろんわかる。

──南極基地での生活の中で、一般にあまり知られ ──その温度で皮膚が凍ったりしないのか。
ていない意外な話はある? M a l m g r e n氏:できるだけ長くサウナに入るのは、
Malmgren氏:食生活の意外な充実ぶりには驚かれ それを防ぐためだ。大切なのは、
ゆっくり歩くこと。走っ
るかもしれない。ここにはちょっとした温室があって、 たりすると、肺が凍傷になってしまう。ただし、あま
2〜3日おきにサラダを食べられるほどの野菜が水栽培 りゆっくりすぎると、今度は体の熱を奪われ、寒さに
で収穫できる。 弱いあちこちの部位に凍傷を負うハメになる。要は、
その中間のスピードで歩く必要があるということだ。
──業務の中で最も楽しいこと、そして最もつらいこ  もっとも、うまくペースを守れたとしても、室内に
とは何か。 戻ってきたときには皆、
咳をしている。その後の数日間、
Malmgren氏:最も楽しいのは、
科学者たちといっしょ 基地内はまるで結核病棟のように咳の音が鳴り響くこ
に働けることだ。皿洗い係から科学者、建設作業員 とになる。
に至るまで、
ここにいる人々は皆、
興味深い経歴を持っ
ている。ありきたりで平凡な人など1人としていない。 ──いつまで南極での仕事を続けるつもりなのか。
 最もつらかったのは、丸2年をこちらで過ごしたとき M a l m g r e n氏:わたしは、こちらへ来るたびに自分
だ。時折、特に休暇期間中などに、家族や友人たち は幸運だと感じる。毎年何かしら変化があるし、ほか
と長く会えずにいることが本当につらく感じられること の仕事をしている自分の姿など想像することができな
がある。 い。だが、ガールフレンドには常々こう言われている。
もっと近くで別の仕事をしてほしいとね。今もそのこ
──南極基地での生活から学んだことで、将来役に とで話し合いを続けているところだ。

June 2008 Computerworld 13


Vistaへ移行/XPを継続/Windows 7待ち……
NEWS
企業が頭を抱えるクライアントOSの選択肢
Windows 7のリリースは2009年? ゲイツ会長が可能性を示唆

 米国MicrosoftはWindows Vistaの堅 Windows 7の登場は 期OSは32ビット版と64ビット版の両方を


調な売れ行きをアピールしているが、多く 2009年の可能性も 提供することの2点については明らかにし
の企業はVistaへの移行に消極的なようだ。  企業がVista導入に二の足を踏んでいる ているものの、それ以上の情報は明らかに
 米国の調査会社Forrester Research 背景には、Windows XPからVistaを飛び していない。
は3月27日、米国企業の多くが依然として 越してVistaの後継OS
「Windows 7」
(開  こうしたMicrosoftの動きは、来年半ば
Internet Explorer
(IE)6およびWindows 発コード名)
へと移行するという選択肢も見 にWindows 7のリリースに向けた何らかの
XPを使っているとの調査リポートを発表し えてきたことがあるようだ。折しもMicrosoft 発表があることを示唆すると言ってよいだ
た。同調査リポートは、Forresterが昨年1 のビル・ゲイツ
(Bill Gates)
会長は4月4日、 ろう。ただし、その
“発表”
がWindows 7
年間に、5万人の企業ユーザーに対して毎 米国マイアミで開催されたビジネス・ユー の一般向けファイナル・リリースなのか、
月実施したアンケート調査が基になってい ザー向けフォーラムにおいて、
「来年のいず ベータ版の提供なのかは、現段階では読
る。 れかの時期に、
(Vistaの後継OSとなる)
新 み取ることはできない。
 同調査リポートによると、2007年12月 バージョンOSがリリースされる予定だ」
と  今後、Windows 7に関する情報が増加
の時点でVistaを使っていると答えた企業 コメントしたという。 し、リリース・スケジュールが前倒しになる
は、Windowsユーザー全体の6.3%にと  また同社は4月3日、2008年6月30日ま ことが明らかにされれば、Vistaは一層、
どまったという。この数字は2007年1月の でとしていたWindows XP Home Edition 厳しい立場に立たされそうだ。
結果
(0.7%)
に比べれば若干増えたものの、 のOEM販売期限を、延長すると発表した。 (IDG
News Service/Computerworld)
Windows XPを使っているWindowsユー そ の 際、Windo w s
ザーの割合は1年を通じてほとんど変わら XP Home Edition
ないという結果になった
(2007年1月が のOEM販 売期限は、
89.5%、同12月は89.8%)
。 2010年6月30日まで、
 Forresterの調査員リードワン・イクバ またはWindows 7の

(Reedwan Iqbal)
氏は、Vistaユーザー 発売から1年後までの
が若干増えたのは、Windows 2000ユー いずれかに設定すると
ザーがVistaに移行したためだと分析して 明言している。
いる。調査リポートによると、Windows  Microsoftは現在、
2000ユーザーの割合は、2007年1月の Vistaの後継OSの初
9.1%から12月には3%に下がっており、こ 期ビルド版を、ごく限
れは2007年1月から12月までのVistaの伸 定されたユーザーに
動画投稿サイト 「Y ouTub e」
に投稿された
「Windo w s 7」
の画面。Micr o s o f tは
び率とほぼ同じだという。 提供していること、次 当初、Windows 7の存在を否定していた

●北京五輪組織委、オリンピック開催中のネット・ ●サイベース、独自手法の 「リアルタイムBI」を披露 ●CanSecWest 2008で行われたハッキング・コ


N E W S H E AD L I NE

アクセスを保証 (4/7) (4/2) ⇒17ページ ンテストでMacとVistaは陥落──Linuxだけが


●Windows 7のリリースは2009年? ゲイツ会長 ●IDC調 査、国内コンプライアンス市 場 規 模、 無傷(3/31)⇒18ページ
が可能性を示唆 (4/7)⇒14ページ 2012年には1兆8,200億円に (4/2) ●YouTube、投稿ビデオのアクセス解析ツールを
●EMCがコンシューマー市場へ参入── 「Wiiでも ●IBM、ミッドレンジ・サーバ製品ラインを 「Power 提供開始 (3/26)
管理できるストレージ」 を中国で販売 (4/3) Systems」に統合(4/2)⇒16ページ ●オラクル、エンピレックスのWebアプリ・テスト
●AT&T、「Android」
への支持を表明 (4/3) ●マイクロソフト、Windows Mobile 6.1と 「IE 技術を買収へ (3/27)
●ネットスイート、ISV/SIer向けSaaS開発プラッ Mobile」
の新版を発表 (4/1) ●ノーテル、既存の10Gbps光網を最大10倍に高
トフォーム 「NS-BOS」 を発表(4/3)
⇒20ページ ●Gartner調査、半導体業界が 「永久」の停滞期に 速化できる新技術を発表 (3/27)
⇒19ページ

「ポケットの中からインターネット体験を」 ──イ 突入?(4/1) ●グーグルの検索広告事業に減速の兆し──広告
ンテルがMID向け新CPU 「Atom」を発表(4/2) ●サン期待のJavaFX Script、5月のJavaOne クリックの伸びが横ばい傾向に (3/28)
⇒16ページ 2008でデモを披露予定 (3/31) ●モジラ、「Firefox 3.0」
正式版を6月にリリースへ

14 Computerworld June 2008


March, 2008

「XMLはもはや“空気”
のような存在であり、必要不可欠なもの」

EVENT REPORT
──生誕10周年を迎えたXML、その普及・活用の進展度
「XML Today & Tomorrow」
セミナーで語られたXMLの今とこれから

 XMLの最初の仕様
「XML 1.0」
が1998 (BMS)
」導入報告である。 現状を打破するための1つの施策として、
年2月にW3C勧告としてリリースされてか  流通BMSは、流通業界におけるサプラ XMLの活用実態を可視化する取り組みを
ら、今年でちょうど10年になる。その節目 イチェーンの全体最適化に向けた標準で 推進している。具体的には、XMLが
「どの
の年を記念したセミナー「XML Today & あり、その策定はイオンやイトーヨーカ堂 業種・業務」
で「どういった形で使われてい
Tomorrow」
が3月5日、業界団体XMLコ など日本の大手小売各社で構成される
「次 るか」
を、業種・業務・技術の側面から一
ンソーシアムの主催で行われた。 世代EDI標準化ワーキング・グループ」
で 望できるXML活用実態の俯瞰図を作成す
 言うまでもなくXMLは、アプリケーショ 行われた。こうした業界の動きにトーカン るというものだ。
ンやプラットフォームに依存しない
“ユニ は早くから呼応し、流通BMSベースの次  さらに、このようなIT業界側の努力と併
バーサル”
なデータを記述するための言語 世代EDI環境への移行を2007年4月に完 せて、IT化に対する日本企業の姿勢・意識
仕様だ。その拡張性・柔軟性、および相 了させ、新システムの実稼働をスタートさ 変革も、XMLのさらなる普及には必要とさ
互運用性の高さから、多方面で実装・活用 せている。 れている。
が進んでいる。  トーカンの執行役員である牧内孝文氏  XMLは今、企業内外のITシステムやビ
 今回のセミナーに講演者の1人として参 は、流通BMSの導入効果について、現時 ジネス・プロセスを相互に結び付けるため
加した日本IBMの執行役員・東京基礎研究 点ではデータ通信のスピードアップなどに の言語として、世界的な規模で活用が進
所長、丸山宏氏はXMLの浸透度をこう表 限定されているとしながらも、
「今後、流通 んでいる。そうした流れにどう対応し、ビ
現する。
「今日のITにとって、XMLはもはや BMSが業界各社にさらに広がれば、業務 ジネスのプロセスとITの全体最適化を実現
“空気”
のような存在。われわれの周りに当 コストの削減やビジネス・プロセスの合理 していくか――その辺りの判断が、今日の
たり前のように存在し、かつ必要不可欠な 化といった点で、より大きな効果が得られ 日本企業に大きく問われ始めているようだ。
ものだ。今や、XMLでデータを表現する るはず」
と、期待を込めて語った。 (Computerworld)
ことは、ITエンジニアの当然のリテラシー
だと言える」 さらなる普及に向けて
 日本企業のビジネスを支えるITシステム
次世代EDIの実践 のデータ形式としてXMLの利用が一般化
 今回のセミナーでは、国内でのXMLの しているかと言えば、実はそうではない。
普及・活用の進展度を示す目的で、各業界・ 流通BMSのように、業界内でやり取りす
公的機関におけるXMLの活用事例や取り るデータ/メッセージをXMLによって標準
組みが紹介された。その1つが、中京地域 化する取り組みについても、その多くが道
午前中に行われたディスカッションでは、日本IBMの丸
を地盤に食品卸のビジネスを展開するトー 半ばの状況にある。 山氏(右)と共に、国際大学・併任研究員の村田真氏も
パネラーとして登壇。XMLの発展を支えてきた両氏は、
カンの
「 流 通ビジネス・メッセージ 標 準  XMLコンソーシアムでは現在、こうした XMLの本質的価値や将来について語り合った

(3/27) か(3/20) ●
「VMwareより3倍高効率」──日本オラクルが
●オラクル、3Q決算は増収増益──ソフトの売上 ●グーグル、 「ホワイト・スペース」 開放案をFCCに 「Oracle VM」の国内提供を開始 (3/13)⇒18ペー
げが大幅増 (3/26) 提出(3/24) ジ
●富士通、6月に社長交代へ──経営執行役上席 ●ダルフール問題の啓蒙サイトがハッキング被害、 ●日立、システム運用管理ソフト 「JP1」 のグリーン
常務の野副州旦氏が就任 (3/27) FBIは中国の関与を調査 (3/24) IT対応を強化 (3/12)
⇒17ページ
●AMD、初の3コアCPUを含む新型 「Phenom」プ ●オバマ上院議員の旅券記録に国務省職員が不正 ●ソニックとデータディレクトが経営統合に向けて
ロセッサをリリース (3/27)
⇒19ページ アクセス (3/24) 始動──両社新社長、田上一巳氏に聞く⇒20
●BMC、ITILv3準拠のサービス・リクエスト管理ソ ●HP、データセンターの仮想化をサポートするハ ページ
フト
「SRM Ver. 2.2」
を発表(3/25)⇒21ページ イエンド・サーバと新サービスを発表 (3/17)
⇒21 ●マイクロソフト、IT資産を可視化するVisio 2007
●ヤフーがOpenSocialを支持──グーグル、マイ ページ 用アドオンを無料提供 (3/24)
スペースと共同で支援団体を設立へ (3/25) ●生誕10周年を迎えた 「XML」 ──その普及・活用 ●マイクロソフト、 仮想化ハイパーバイザ 「Hyper-V」
●Windows XP SP3のリリース、4月後半で確定 の進展度は (3/13)⇒15ページ のRC版を公開 (3/19)

June 2008 Computerworld 15


IBM、ミッドレンジ・サーバ製品ラインを
「Power Systems」
に統合
PRODUCTS
旧System i/pシリーズからの円滑な移行をサポート。ブレード型など順次発売へ

 米国IBMは4月2日、ミッドレンジ・サー  IBMは、製品ラインを変更するにあたり、 IBM iがインストールされた


「Power 520
バ製品ラインの
「System i」
と「System p」 特にSystem iユーザーに対して、Power Express」
で、価格は9,000ドルを下回る
を統合した新しい製品ライン
「Power Sys Systemsへの円滑な移行を保証すること 予 定。5月末には、マルチOSモデルの
tems」
を発表した。メインフレーム用を除 に腐心している。同社ビジネス・システム 「BladeCenter JS12 Express」
などが投
く同社の全OSをサポートするという。 ズ部門のマーケティング担当バイスプレジ 入される予定だ。
(Computerworld米国版)
 Power Systemsは、IBMのPOWER6プ デント、
マーク・シャー(Mark Shear)
氏は、
ロセッサを採用し、LinuxやAIXなどさまざ 「製品ラインの変更に伴う混乱は一切生じ
まなOSをサポートする。近々Windowsを ない」
と強調し、
ミッドレンジOSの現行バー
サポートするブレード・サーバも投入される。 ジョンは統合プラットフォームで稼働する
 Power Systemsの誕生で最も影響を と説明している。
受けるのは、ビジネスの中核を担う
(カスタ  また、Shear氏は、ミッドレンジ・シス
ム開発された)
業務用アプリケーションを テムをサポートするというIBMの姿勢に変
System i上で稼働しているユーザーだ。 化はなく、統一された製品ラインに移行す
 System iは、セキュリティ・ツールや管 ることで、ユーザーの間でIBM(旧i5/OS)
i
理ツールなどの機能と内蔵データベースを の認知度が高まると強調した。
統合したシステムであり、強固なユーザー  Power Systemsの出荷開始は4月18日
写真はPO WER6を搭載した
「IBM S y s t e m p 520
層を形成している。 から。最初のモデルは、
POWER6を搭載し、 Express」

「ポケットの中からフル・インターネット体験を」
PRODUCTS

──インテルがMID向け新CPU を発表
「Atom」
Atom搭載MIDは今夏から順次発売予定。
「Centrino Atom」
としてのブランド構築を目指す

 インテルは4月2日、都内で記者会見を ろえている。 付加したMIDが、


「Centrino Atomプロセッ
開き、モバイル・インターネット端末
(MID)  高性能および低消費電力を可能にした サ・テクノロジー」
という広く認知された
をターゲットにした新CPU
「Atom」
(開発 のは、設計段階における性能と消費電力 Centrinoブランドを名乗ることができる。
コード名:Silverthorne)
を発表した。同 量の相関関係を見直したことが関係してい インテルによれば、ワイヤレス機能は同社
社代表取締役共同社長の吉田和正氏は、 る。インテルによると、従来基準だと、性 が提供する製品のほかに、サードパーティ
「ポケットに収まる小型端末でフル・イン 能を1%向上させるのに消費電力量が3% 製品を採用することもできるという。Atom
ターネット・エクスペリエンスを提供する」 増加するものとして設計されていたという。 を搭載したMIDは、今夏から順次発売され
とアピールした。 しかし、Atomの設計に際しては、1%の性 る予定である。 (Computerworld)
 Atomは、45nm
(ナノメートル)
プロセス 能向上に対する消費電力の増加量を1%に
が適用されており、4,700万個のトランジ 抑えることを目標とし、開発を進めてきた。
スタを集積している。ダイサイズは25ミリ  チップセットとしてAtomとともに提供さ
㎡以下を実現し、小型・高性能に加えて、 れる新しいシステム・コントローラ・ハブは、
低消費電力も追求されている。平均消費 ノースおよびサウス・ブリッジを1チップに
電力は160〜220mWで、アイドル時の消 統合したLSIだ。HD映像を再生可能で、
費電力に至っては80〜100mWを実現し さまざまなビデオ・プレーヤーやコーデック
ている。今回、同時に5製品が発表され、 に対応している。
A t o mを手に持つインテルの代表取締役共同社長、吉
動作周波数は800MHz〜1.86GHzまでそ  Atomチップセットにワイヤレス機能を 田和正氏

16 Computerworld June 2008


March, 2008

サイベース、DBの差分ログをベースにデータを抽出・蓄積する

PRODUCTS
独自手法の を披露
「リアルタイムBI」
「本当のリアルタイムBIソリューションを国内で提供できるのはわれわれだけ」
と自信

 サイベースは4月2日、
「リアルタイムBI
(ビ ジング・データベース)
、DWHサーバとい Replication Serverには
「Data Integ
ジネス・インテリジェンス)
の実現」
と題した う4つのコンポーネントから構成される。 ration Suite」
、ステージング・データベー
報道関係者向けの説明会を開催した。同  Replication Agentは、基幹データベー スには
「Adaptive Server Enterprise
(ASE)
社では、データ・ソースとなる基幹データ ス
(データ・ソース)
の上で稼働するエー Small Business Edition」
、そしてDWHサー
ベースへの負荷を軽減し、リアルタイム性 ジェント・ソフトで、データベース・ログの バには
「Sybase IQ」
を想定している。
を高めたBIソリューションを提案している。 差分を抽出するコンポーネントだ。
サイベー (Computerworld)
 リアルタイムBIの
“リアルタイム”
とは、 スのセールスエンジニアリング部 部長、花
従来のデータ・ウェアハウス
(DWH)
などと 木敏久氏によると、
同コンポーネントは
「(従
比較したときの、データの抽出・分析に要 来からの課題だった)
データ・ソースへの負
する時間の短さを示している。具体的には、 荷を大幅に軽減する、同ソリューションの
週次や日次といったインターバルでデータ 肝となるもの」
だという。また、Replica
を抽出・分析する従来型DWHとは異なり、 tion Serverはログから履歴データ登録用
例えば1時間ごとに鮮度の高いデータを抽 のSQLを復元し、DWHサーバは履歴デー
出するのがリアルタイムBIとなる。 タを登録・蓄積する。
 サイベースのリアルタイムBIソリュー  サイベースでは、各コンポーネントに当
サイベースのセールスエンジニアリング部 部長、花木
ションは、Replication Agent、ステージ たる実際の製品として、Replication Age 敏久氏は「本当のリアルタイムBIソリューションを国内
で提供できるのは当社だけだと自負している」 と自信を
ング・サーバ
(Replication Serverとステー ntには
「Replication Agent for Oracle」
、 見せた

日立、システム運用管理ソフト のグリーンIT対応を強化
「JP1」

PRODUCTS
PCの省電力一元管理機能などをサポート

 日立製作所は3月12日、統合システム運 Client Security Control - Manager」


と から提供されてきたITIL
(IT Infrastructure
用管理ソフト
「JP1」
の機能強化版を13日か 「JP1/NETM/DM Manager」
を用いて、 Library)
サービスデスクでの案件対応をさ
ら販売すると発表した。昨今ニーズが高ま PCモニタの電源オフやCPUの省電力モー らに効率化する機能を、JP1/Integrated

「グリーンIT」
への対応を強化するべく、 ド設定などを省電力ポリシーとして設定す Management - Service Supportで提供
情報システムの省電力化を運用面から支 れば、部署ごとのポリシーへの適合状況を する。
援する新機能を搭載している。 時系列にリポートすることができる。  価格はJP1/NETM/Client Security
 今回のJP1の機能強化は、消費電力削  2番目のサーバ省電力運用機能では、 Control - Managerで、26万2,500円か
減に向けた各種技術開発や省電力対応製 サーバ・ラック上に設置された温度監視セ らとなっている。 (Computerworld)
品の提供などを推進する
「Harmonious ンサーと
「JP1/Integrated Manage
Green
(ハーモニアス・グリーン)
」プロジェ ment」
とを連携させることで、データ
クトに則ったもので、
(1)PCの省電力管理、 センターでの熱異常発生やその予兆
(2)
温度監視センサーと連動したサーバ省 に対応できるようにする。これにより、
電力運用、
(3)
内部統制への対応の支援、 CPUの省電力モード設定の変更や、
の3つが柱となっている。 サーバ構成変更による縮退運転など
 PCの省電力管理機能は、オフィス内の を自動実行し、発熱を抑える運用処
PCの省電力設定などを運用側で一元的に 置が可能となる。
管理できるようにするもの。
「JP1/NETM/  3番目の内部統制支援では、従来 省電力化を支援する
「JP1」
最新版のリポート画面

June 2008 Computerworld 17


「VMwareより3倍高効率」
PRODUCTS
──日本オラクルがサーバ仮想化ソフト
「Oracle VM」
の国内提供を開始
仮想アプライアンスの提供にも本腰。今後1年以内に100製品をラインアップ

 日本オラクルは3月13日、同社のサーバ フ・コーポレート・アーキテクト、エドワード・ 環境へOracle VM上でスムーズに移行でき


仮想化ソフトウェア
「Oracle VM」
の国内 スクリーベン
(Edward Screven)
氏は、 るようにすることを目指している。同社は、
提供を開始したと発表した。 「
(Oracle VMは)VMwareと比べて3倍も 今後1年以内にソフトウェア・アプライアン
 Oracle VMのハイパーバイザには
「Xen」 効率がよい」
とアピールした。 スを100製品ラインアップする予定である。
が採用されており、仮想マシン上で動作す  Oracle VM上では、主要なOracle製品  なお、Oracle VMのサポートは、物理
るゲストOSはWindowsとLinuxの両OSを の動作が保証されている。さらに日本オラ CPUが2個までで6万2,400円/年、物理
サポートしている。ゲストOS当たり最大32 クルは、エンタープライズ・レベルのサー CPUが無制限で12万4,900円/年となる。
個まで仮想CPUを割り当てることが可能だ。 バ仮想化ソフトとしてOracle VMがデファ (Computerworld)
 Oracle VMは、同社Webサイトから無 クト的に選ばれることを目指し、
「ソフトウェ
料でダウンロードできる。加えて、米国 ア・アプライアンス」
へ注力する方針だ。
VMwareのサーバ仮想化ソフトでは有償  ソフトウェア・アプライアンスとは、SIer
であるライブ・マイグレーション機能も、 やISVのソフトウェア・パッケージをテンプ
Oracle VMでは無料である。また、管理 レート化し、それをOracle VM上の仮想マ
コンソールの
「Oracle VM Manager」
はブ シンに読み込むだけで、すぐさまそのソフト
ラウザ・ベースであり容易な管理を実現し ウェアを実行可能にするというものだ。日本
ている。 オラクルは、ソフトウェア・アプライアンス
ブ ラウ ザ・ベ ース の 管 理 コン ソ ール
「Or a cle VM
 発表に際し来日した、米国Oracleのチー をそろえることにより、開発環境から本番 Manager」
の画面

ハッキング・コンテストでMacとVistaは陥落──Linuxだけが無傷
NEWS

「Linuxにだれも侵入できなかったのには驚いた」
とコンテストのスポンサー

 カナダのバンクーバーで開催されたセ る代わりに、賞金額は半分ずつカットされ  TippingPointのセキュリティ・レスポン


キュリティ・コンファレンス
「CanSecWest ていった。 ス・マネジャー、テリ・フォースロフ
(Terri
2008」
(3月26日〜28日)
のハッキング・コ  コンテストの2日目、セキュリティ専門家 Forslof)
氏は、
「Linuxに挑戦した参加者も
ンテストにおいて、最初に陥落したのは米 のチャーリー・ミラー
(Charlie Miller)
氏が、 何人かいたが、だれも侵入できなかった」
国Appleの
「MacBook Air」
であったが、 WebブラウザのSafariに未公表の攻撃を と語った。
「だれもハッキングに成功しな
コンテスト最終日にはWindows Vistaを 仕掛け、そこからMacBook Airの乗っ取 かったのには驚いた」
(Forslof氏)
搭載した富士通のノートPCが侵入を許し りに成功した。同氏は3月27日、わずか2 (IDG News Service)
た。だが、ソニーのノートPC
「VAIO」
上で 分間ほどの作業で、賞金1万ドルと
稼働しているLinuxだけは、最後まで何者 新しいノートPCを自宅へと持ち帰っ
をも寄せ付けなかった。 た。
 同コンテストのスポンサーは、3種類の  また、友人の助力を得たシェイン・
ノートPCを用意し、コンテスト参加者がこ マコーレー(Shane Macaulay)

のうち1台に侵入して、自分のソフトウェア も28日、ようやくWindows Vistaを
を動作させることができるかどうかを競わ ハッキングした。同氏は、Javaを利
せた。2万ドルに上る賞金がコンテストに 用してWindows Vistaのセキュリ
花を添えたが、1日ごとに競技ルールが緩 ティを回避するクロスプラットフォー
和され、コンピュータへの侵入が簡単にな ム・バグに目を付けたと述べた。 ハッキング・コンテストの対象となった3種類のノートPC

18 Computerworld June 2008


March, 2008

ノーテル、既存の10Gbps光ネットワークを

PRODUCTS
最大10倍に高速化できる新技術を発表
激増する帯域幅需要への対応が容易に

 ノーテルネットワークスは3月27日、ハ rization Quadrature Phase Shift Key 「Optical Multiservice Edge 6500」
イエンド・クラスの10Gbps光ネットワーク ing」
と呼ばれる新しい光検出技術だ。また、 (10Gbps対応タイプ)
に実装され、4月末
の通信速度を、現在の4倍もしくは10倍に ネットワークからの補正要求を不要とする から世界同時に販売される。
高めることが可能な光技術
「40G/100G デジタル信号処理技術も使われる。この  販売価格は構成によって変わるため、
Adaptive Optical Engine」
を発表した。 デジタル信号処理技術によって、補正要 個別見積もりとなっている。なお、4月末
同技術を用いることで、通信キャリアは既 求に関連する設備投資や運用コストが削 の時点では40Gbpsタイプのみが販売され
存のネットワーク資源を生かしつつ、安価 減できるようになるという。 るという。 (Computerworld)
に通信速度を向上できるほか、メンテナン  ノーテルは、
「この光技術を用いることで、
スや運用にかかわるコストも削減できると 通信キャリアはIPTV、インターネット・ビ
いう。 デオ、HD
(高精細)
番組制作、携帯テレビ
 従来、40Gbpsの通信速度を持つネッ 電話といった、高速な通信を必要とするア
トワークを構築しようとした場合、通信キャ プリケーションによって激増している帯域
リアはサービス・エリア全域に40Gbps対 幅需要への対応が可能になる」
と説明して
応の新しい光ファイバ・ケーブルを敷設す いる。
る必要があった。  40G/100G Adap tiv e Op tical En
 10Gbps光ネットワーク上で40Gbps/ gineは、ノーテルの現行製品である通信 光ネットワーク高 速 化 技 術 「40G/100G A d a p tiv e
Optical Engine」が実装される光通信プラットフォーム
100Gbpsの通信を可能にするのは、
「Pola キャリア 向け 光 通 信プラットフォーム 「Optical Multiservice Edge 6500」
(現行製品)

AMD、初の3コアCPUを含む新型 プロセッサをリリース
「Phenom」

PRODUCTS
デュアルコアに物足りなさを感じるデスクトップPCユーザーに照準

 米国AMDは3月27日、同社のデスクトッ GHzの
「Phenom X4 9750」
と2.5GHzの チップは新しいコンセプトの製品であるた
プPC向けプロセッサ
「Phenom」
シリーズ 「同9850」
、低 消費電力型で1.8GHzの め、市場にどれくらいなじむかは未知数」

の新製品として、クアッドコア・プロセッサ 「Phenom 9100e」
、旧 製 品
「Phenom 分析する。また、同氏は、
「トリプルコアの
「Phenom X4 9000シリーズ」
と、トリプ 9600/9500」
のマイナーチェンジ版であ 投入で、AMDはIntelに対し優位に立った。
ルコア・プロセッサ
「Phenom X3 8000シ る
「Phenom X4 9650」
(2.3GHz)
と「同 Intelは今後、デュアルコアまたはクアッド
リーズ」
を発表した。 9550」
(2.2GHz)
の5製品が提供される。 コアのキャッシュ機能などを調整し、トリ
 AMDは、
同社初のトリプルコア・プロセッ いずれも2MBのL2キャッシュと2MBのL3 プルコアと同等の価格を設定するといった
サについて、
「デュアルコアよりも高いパ キャッシュを備える。これらのクアッドコア アプローチでAMDに対抗してくるだろう」

フォーマンスを求めるPCバイヤーに新たな Phenomプロセッサを搭載した製品は、第 語っている。 (IDG News Service)
選択肢を提供できる」
と説明している。 2四半期にPCメーカー各社から
Phenom X4 9000シリーズの性能比較
(9600を100%とする)
 Phenom X3 8000シリーズでは、
クロッ 出荷される予定だ。
0 25 50 75 100 125
ク周波数2.1GHzの
「Phenom X3 8400」  なお、トリプルコアはクアッド 9850 114.8%
と2.3GHzの
「同8600」
の2つがラインアッ コアをベースにしているが、1つの 9750 111.1%
9650 108.2%
プされる。いずれも1.5MBのL2キャッシュ コアが機能しない設計になってい 9600 100%
9550 105.3%
と2MBのL3キャッシュを備える。 る。米国Mercury Researchの 9500 96.7%
 一 方、クア ッドコア のPhenom X4 代表、ディーン・マカロン
(Dean 9100e 76.8%
*資料:AMD 新製品 旧製品
9000シリーズでは、クロック周波数2.4 McCarron)
氏は、
「トリプルコア・

June 2008 Computerworld 19


ソニックとデータディレクトが経営統合に向けて始動
INTERVIEW
両社新社長の田上一巳氏に、両社製品群の統合計画を聞く

 米国Progress Softwareを親会社とす 例えば、ソニックの


「Sonic ESB」
の顧客 ステム構築といった具合だ。こうすること
るソニック ソフトウェアとデータディレク の中で、データディレクトのメインフレー で、ShadowからSonic ESBまでを包含
ト テクノロジーズの両社の代表取締役社 ム連携ツール
「Shadow」
にも興味を示して したデータ連携の総合ソリューション・ベ
長に、4月1日付けで田上一巳氏が就任し いる顧客がこれだけいるといった情報の共 ンダーという展開が可能になってくる。
た。今後は田上氏の主導の下、両社の事 有などだ。 (Computerworld)
業を統合する新会社の設立を目指すとい ──統合後、市場でのポジションはどのよう

う。編集部は今年3月、田上氏に経営統合 なものになるのか。

後の両社製品群の統合計画などについて 田上氏:領域はもちろん顧客層も異なる
話を聞いた。 のだから、製品ラインアップだけで考えて
いくと、ポジショニングは大変難しいもの
──両社の事業統合、そして経営統合の時 となる。そこで、両社の製品群から、いく
期は決まっているのか。 つかのソリューション・コアを構築していく
田上氏:経営統合の具体的なスケジュー という方法を1つ視野に入れている。例え
ルは未定だが、確実な意思を持って進め ば、ソリューション・コア1がメインフレー
ていくことになる。両社の統合はワールド ム連携、ソリューション・コア2はデータ
ワイドでも初の試みとなる。すでに両社の ベース・コネクティビティ、そしてソリュー
ソニック ソフトウェアおよびデータディレクト テクノロ
営業部間では連携の動きが始まっている。 ション・コア3では、ESBを用いたSOAシ ジーズの代表取締役社長に就任した田上一巳氏

ネットスイート、ISV/SIer向けSaaS開発プラットフォーム
PRODUCTS

を発表
「NS-BOS」
ブラウザ・ベースのデバッガを新たに提供。垂直型統合SaaSの普及を目指す

 ネットスイートは4月3日、ISV/SIer向け 展開するにあたってハードルとなる問題と 開を支援するための開発プラットフォーム


のSaaS開発プラットフォーム
「NetSuite して、マルチテナント型ホスティングへの である。
同プラットフォームは、
上記したネッ
Business Operating System
(NS-BOS)
」 対応、顧客に対して一斉に行う定期的な トスイートの既存のスタックの組み合わせ
を発表した。米国NetSuiteが今年2月14 バージョンアップ/アップデートへの対 で構成されるものだが、新たにブラウザ・
日に発表したプラットフォームの日本版で、 応、顧客ごとのAPM
(アプリケーション・ ベースのデバッガ
「SuiteScript D-Bug」
国内においてもすでに販売開始されている。 パフォーマンス監視)
やバックアップへの が用意されることで、ISVごとの要件を満
 NS-BOSは、ネットスイートのSaaSイ 対応の難しさを挙げた。 たす複雑なSaaSアプリケーションの構築
ンフラストラクチャ、統合業務アプリケー  
「特に、
垂直展開される業種別アプリケー を容易にするという。 (Computerworld)
シ ョン・ス イ ート
「Int egra t ed Suit e」
、 ションの大半は、ISV各社が独自の手法で
NS-BOSの利用イメージ
SaaS開発環境
「SuiteFlex」
、SaaS配備 構築しており、SaaSモデルへの転換は容
ツール
「SuiteBundler」
の各スタックで構 易ではない。自社の全アプリケーションを ISV① ISV② ISV③

成される。ISV/SIerは、同プラットフォー 一気に再構築するか、それとも既存のアプ
ムを利用することで、短期間で自社ソフト リケーション上での機能追加で対応してい NetSuite
Integrated Suite
ウェアのSaaSモデルに移行し、ビジネス くか。ISVは、厳しい選択を迫られている SuiteBundler NS-BOS
ERP/CRM/e コマース
を展開することが可能になる。 状況だ」
(高沢氏)
SuiteFlex
 同社上席執行役員・マーケティング本部  NS-BOSは、こうした課題を解決し、
SaaS インフラストラクチャ
長の高沢冬樹氏は、ISVがSaaSモデルを ISVによる自社アプリケーションのSaaS展

20 Computerworld June 2008


March, 2008

BMC、ITIL Version 3準拠のサービス・リクエスト管理ソフト

PRODUCTS
「SRM Ver. 2.2」
を発表
「サービス・カタログ」
の提供で、サービス・リクエストの進行プロセスを自動化

 BMCソフトウェアは3月25日、ITサポー ク担当者双方の手間を解消できるという。  SRMの価格は 460万円。別途ユーザー


ト部門が提供するサービスの詳細が掲載さ また、リクエスト可能なサービスをカタロ 数に応じたライセンス料金がかかる
(7万
れた
「サービス・カタログ」
を提供すること グとしてエンドユーザーに公開することで、 6,700円/50ユーザーから)
。なお、SRM
で、担当者ではなく、エンドユーザー自身 必要なサービスをエンドユーザー自身で選 の稼働にはBMC Remedy Action Re
がサービスのリクエストを行うことを可能 べるようになるとしている。 quest System
(340万円)
の導入が必須
にするサービス・リクエスト管理ソフトウェ  SRMは、BMCのビジネス・アプリケー となる。BMCでは2009年3月までにSRM

「BMC Service Request Manage ション開 発プラットフォーム
「BMC Re を20社に販売するという目標を掲げてい
ment Ver. 2.2(日本語版)

」以下、SRM) medy Action Request System」
上で稼 る。 (Computerworld)
を発表した。出荷開始は6月1日から。 働する。そのため、既存の
「BMC Reme
 SRMは、今年4月に日本語版の発行が dy IT Service Management
(ITSM)
」製
予定されている
「ITIL Version 3」
で新たに 品群との統合が可能だ。また、SAPや
追加される
「リクエスト管理」
の項目に準拠 Siebelといった他社の業務アプリケーショ
している。同製品を活用することで、エン ンやサービス・デスク製品との連携もサ
ドユーザー自身がWeb上でIT部門への依 ポートしている。BMCは、
「既存のRemedy
頼内容のコストや進捗などを確認できるよ ITSM製品とSRMを組み合わせることで、
うになるため、サービス・リクエスト管理に ITサポートを一元的に管理できるようにな
BMC Service Request Management Ver. 2.2
(英
おけるエンドユーザーならびにヘルプデス る」
と説明している。 語版)のリクエスト状況確認画面

HP、データセンターの仮想化をサポートする

PRODUCTS
ハイエンド・サーバと新サービスを発表
需要の高まりを受け、製品/サービスを拡充。他社対抗も意識

 米国Hewlett-Packard
(HP)
は3月17日、  HPは、同サーバおよび同サービスの投 に伴い、企業内でx86サーバのニーズが
x86サーバの 最 上 位モデ ルとなる
「HP 入について、
「データセンターの業務を改善 高まっているなか、他社に対抗するために
ProLiant DL785 G5」
を発表した。同サー させるとともに、顧客のシステム環境を統 8ソケット・システムを投入する必要があっ
バは、
AMDのクアッドコアOpteronプロセッ 合して仮想環境に移行させるための取り組 た」
と指摘する。また米国Forrester Re
サを搭載する8ソケット対応システムで、 みの一環」
と説明している。 searchのアナリストは、
「IBMのGlobal
メモリは最大256GBをサポートする。  これら一連の動きについてHPは、さま Technology Services部門が大きな成功
 また同社は、データセンター設計関連の ざまなビジネスのトレンドに促されたものと を収めていることから、HPもそれに追随し
コンサルティング・サービス
「HP Data 強調する。同社がビジネス担当役員とIT担 ようとしているのではないか」
との見方を示
Center Transformation」
を提供開始する 当役員161人を対象に実施した調査の結 している。 (Computerworld米国版)
計画も明らかにした。同サービスには、新 果によると、回答者の3分の1は、2〜5年
しいデータセンターの構築だけでなく、IT 後には自社のデータセンターがビジネスの
を最適化するためのサービスやソフトウェ ニーズに対応できなくなるという懸念を抱
ア、データセンターの改良など、さまざま いているという。
なコンサルティング・メニューが盛り込まれ  これに対し、米国の調査会社Pund-IT
ている。また、物理/仮想リソースの分析 Researchのアナリストは、
「HPは4ソケッ
および最適化を支援するソフトウェアや、 ト以下のシステムで市場をリードしている
新しい自動化ツールも提供されるという。 が、Windows Server 2008のリリース ハイエンド・サーバ
「HP ProLiant DL785 G5」

June 2008 Computerworld 21


Windows Server 2008が登場──移行/展開戦略を固める

42 Computerworld June 2008


多角

Windows
検証
特集

プラットフォーム2008
エンドユーザーが日々用いるクライアントPCはもちろんのこと、部門サーバ、そして近年では全社の基幹業務
システムのプラットフォームとしても採用が進んでいるWindows。業種・規模を問わず、このプラットフォーム
の技術/製品の採用や運用管理について検討を行わない企業は皆無と言ってよいだろう。本特集では、今年4
月15日に国内リリースされたWindows Server 2008をはじめとした、Windowsプラットフォームを構成する
主要な製品/サービスをレイヤごとに取り上げ、これらの自社での導入/移行や運用管理方針を定めるための
ガイドラインを示したい。

June 2008 Computerworld 43


1
Part
最新サーバOSの実力を
120%引き出すための勘所

Windows Server 2008への


完全移行をはたす
6つの最終チェック
2008年4月15日より製品版リリースとなるサーバOS、Windows Server 2008。周知のとおり、Windows
Server 2008とWindows Vistaは同じコード・ベースの下に開発されており、いわば双子の兄弟のようなOSである。
Windows Vistaがそうであったように、Windows Server 2008もそれ以前のWindows Serverから機能が大
幅に変更されている。本パートでは、この最新サーバOSへのスムーズな移行を実現するうえで、押さえておきたい6
つの最終チェック・ポイントを紹介する。ぜひとも参考にしていただきたい。

山市 良

Check 64ビットにするか、32ビットにするか
1 Windows Server 2008のエディションを決定する
 Windows Server 2008は、Standard、Enter バ構築を実現する。加えて、CPU数の制約が撤廃さ
prise、Datacenterの3エディションに、Webサーバ れており、各エディションの違いは、最大メモリ容量、
専用のWindows Web Server 2008、
Itaniumプロセッ サーバ・クラスタを含む高可用性機能、仮想化環境
サ・アーキテクチャ向けのWindows Server 2008 におけるライセンス上の優遇の3点に集約される。
for Itanium-Based Systemsを加えた5つのエディショ  Windows Server 2008の各エディションは、
x86
(32
ンで構成される。Standard、Enterprise、Datacen ビット)
とx64(64ビット)
の両バージョンをサポートし
terの各エディションには、サーバ 仮 想 化 技 術の ている
(for Itanium-Based Systemsを除く)
。x64バー
「Hyper-V」
が含まれるが、これを含まずに価格を抑 ジョンは、以前のように特別なものではなく、逆に
えた
「without Hyper-V」
も提供される
(表1)
。なお、 x86バージョンよりも標準的な位置づけとなった。x86
Hyper-Vは現在、RC版の段階にあり、2008年後半 バージョンが提供されるのはWindows Server 2008
に正式に提供される予定である
(50ページのSide までで、2009年にリリース予定のWindows Server
Storyを参照)
。 2008の次期バージョンからは、x64バージョンのみが
 また、Windows Server 2008の各エディションは、 提供される。
「Server Core」
インストールを選択できる。Server  そのほか、Windows Server 2008は、Windows
Coreとは、OSのコア部分のみで構成され、エクスプ Server 2003 Service Pack
(SP)1以降からのアップ
ローラなどのGUIを含まない軽量OSのことで、ファイ グレードに対応している。ただし、
CPUアーキテクチャ
ル・サービスやインターネット・インフォメーション・サー をまたいだアップグレードには対応していない。
つまり、
ビス
(IIS 7.0)
などにおいて、セキュアで安定したサー x86バージョンからx64バージョンへはアップグレード・

44 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

インストールができないということだ。 Windows Server 2008は、最新技術の採用やセキュ


 また、Windows Server 2008に移行、あるいはリ リティ強化に伴う仕様変更などにより、完全な下位互
プレースするにあたって、十分に検討しなければなら 換 性は保 証されていない。そのため、Windows
ない点は、使う予定のアプリケーションが正確に動作 Server 2008に含まれないMicrosoft製品や、サード
するかどうかという互換性の問題である。
アップグレー パーティのアプリケーションを利用する場合は、導入
ドの場合は、ハードウェアの互換性も重要になる。 する前に対応状況を確認しておく必要がある。

表1:Windows Server 2008の製品ラインアップ。Hyper-Vは現在開発中であるため、Hyper-Vを含むエディションであっても、最初のリリースには含まれない。


Hyper-Vは、Windows Server 2008の出荷後、180日以内に追加提供される予定だ
エディション 概要

Windows Server 2008 Standard 標準エディション。


サーバ・クラスタ非対応、
その他機能の一部に制限あり

大規模環境向けプラットフォーム。
サーバ・クラスタなどにより高可用性を実現。仮想化環境で最大4インス
Windows Server 2008 Enterprise
タンスを実行可能
基幹系システムや大規模な仮想化環境向けのプラットフォーム。最大64個のCPUに対応し、サーバ・クラ
Windows Server 2008 Datacenter スタや動的ハードウェア・パーティション分割機能により、可用性をさらに高めている。仮想化環境における
インスタンス数の制限はなし

Windows Web Server 2008 Webサーバ


(IIS 7.0)専用プラットフォーム

大規模データベースや業務アプリケーションなど、最も要件が厳しい基幹系システム向けに最適化された
Windows Server 2008 for Itanium-Based Systems
プラットフォーム。最大64個のCPUに対応

Windows Server 2008 Standard without Hyper-V Hyper-V未搭載のStandardエディション

Windows Server 2008 Enterprise without Hyper-V Hyper-V未搭載のEnterpriseエディション

Windows Server 2008 Datacenter without Hyper-V Hyper-V未搭載のDatacenterエディション

Check パスワード・ポリシーの変更やUACでユーザーが戸惑わないために
2 セキュリティ機能の変更点を理解する
 Windows Server 2008におけるセキュリティ関連 作しないが、
他のユーザーの場合は、
「Administrators」
の変更点としては、Administratorにデフォルト設定 や
「Domain Admins」
グループのメンバーであっても、
されたパスワード・ポリシーが挙げられる。Windows その対象となる。
こうした点は、
アプリケーションがバッ
Server 2003 R2以前は、ドメイン構成でのみ要求さ クグラウンドで特権タスクを自動実行するようなケー
れていた
「パスワードは複雑さの要件を満たす必要が スで多少面倒なことになるかもしれない。
ある」
ポリシーが、ワークグループでもデフォルトで要  Windowsファイアウォールについても、Windows
求されるようになる。 Server 2008ではデフォルトで有効になっており、イ
 そのほか、大きな変更点としては、
「ユーザー・アカ ンストール直後の状態ではすべての着信トラフィック
ウント制御
(UAC)
」機能の追加がある。UACは、Win がブロックされる
(46ページの画面1)
。加えて、
「セキュ
dows Vistaで新たに追加されたセキュリティ機能で、 リティが強化されたWindowsファイアウォール」
が採
管理者権限を持つユーザーであっても、通常は一般 用されているため、
「着信の規則」
「発信の規則」
に基づ
ユーザーの権限でプログラムが実行され、管理者権 き、着信/発信トラフィックを制御可能である。
限が求められる操作には、権限を昇格するための対  さまざまなネットワーク・サービスを提供するWin
話的な
“許可”
が必要になる。 dows Server 2008では、ファイアウォールの構成が
 UACは、Administratorでログオンした場合は動 一見難しそうであるが、実際はそんなことはない。

June 2008 Computerworld 45


画面1:Windows Server 2008では、Windowsファイアウォールがデフォルトで有効。
「セ Windows Server 2008の各種機能で必要になる規
キュリティが強化されたWindowsファイアウォール」 スナップインで構成する
則は事前に定義されており、各種ウィザードを利用し
てインストールすれば、標準的な許可設定が自動的に
行われる。
 Windowsコンポーネントについては、Windowsファ
イアウォールの規則が自動構成されるが、リモート管
理系の規則は手動で構成する必要がある。Windows
Server 2008に搭載されている
「MMC
(Microsoft管
理コンソール)
」スナップイン・ベースの各種管理ツー
ルは、そのほとんどがリモート管理に対応しているが、
リモートからの接続要求は基本的にWindowsファイ
アウォールでブロックされてしまう。そのため、管理
対象によっては、Windowsファイアウォールだけでな

く、管理用サービスでリモート管理を有効にしなけれ
P a r t

ば、リモートから接続できないケースもある。

1

Check Windows 2000以前のOSが存在する場合は要注意


3 Active Directoryドメインの互換性を確認する
W i n d o w s

 Windows Server 2008のActive Directoryでは、 ●SYSVOLに対する分散ファイルシステムのレプリ


フォレスト/ドメイン機能レベルとして
「Windows ケーションのサポート
2000ネイティブ」
「Windows Server 2003」
「Windows ●AES 128および256に対するKerberos認証プロ
S e r v e r

Server 2008」
の3つがサポートされており、Windows トコルのサポート
2000 Serverのドメイン・コントローラとも共存できる ●対話型の最終ログオンに関する情報収集
(画面2)
。 ●詳細なパスワード・ポリシー(ユーザーおよびグロー
2 0 0 8へ の 完 全 移 行 を は た す 6 つ の 最 終 チ ェ ッ ク

 フォレスト/ドメイン機能レベルは、Active Direc バル・セキュリティ・グループに対してパスワードと


toryのフォレスト/ドメインに存在できるドメイン・コ アカウントのロックアウト・ポリシーを指定可能)
ントローラのWindowsバージョンを制限する。例えば、
Windows Server 2003モードのフォレスト/ドメイン  また、Windows Server 2008で新たに追加された
には、Windows Server 2003およびWindows Ser 「読み取り専用ドメイン・コントローラ
(RODC)
」は、
ver 2008のドメイン・コントローラが存在できるが、 Windows Server 2003モードからサポートされる。
Windows 2000 Serverのドメイン・コントローラは追 これにより、これまでのリモート拠点でも安全にドメイ
加できない。 ン・コントローラを配置できる。
 Active Directoryの全機能を利用できるのは、  Windows Server 2008のActive Directoryでサポー
Windows Server 2008モードであるが、Windows トされるクライアントに明確な定義はないが、Active
Server 2003とWindows Server 2008のフォレスト/ Directoryの導入メリットを享受するには、最低でも
ドメイン機能レベルの違いは少ない。フォレスト機能 Windows 2000以降であることが望ましい。Windows
レベルには機能差がなく、ドメイン機能レベルにおい NT 4.0およびWindows 98/Me以前については、グ
て以下に示す4つの新機能がサポートされている。 ループ・ポリシーで管理できないばかりか、サポート・

46 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

ライフサイクルが打ち切られており、OS自身にセキュ 画面2:Active Directoryにおけるフォレスト/ドメイン機能レベル


は、ドメイン・コントローラのバージョンを規定し、サポートさ
リティ上のリスクが存在する。また、これらのクライア れる機能に影響する。旧バージョンのドメイン・コントローラが
存在しなくなった時点で、機能レベルを昇格させることも可能だ
ントをドメインに参加させるには、ドメイン全体のセ
キュリティを緩和しなければならない。
 なお、Windows Server 2008には、ファイル共有
プロトコルの新バージョン
「Server Message Block
(SMB)2.0」
が搭載されており、より高速なファイル
共有が可能となっている。ただし、SMB 2.0が使用
できるのは、クライアントがWindows Server 2008ま
たはWindows Vistaの場合のみだ。それ以外のOS
とのやり取りには、これまでと同様にSMB 1.0が使用
される。

Check 一度設定したら、あとは
“お任せ”
で運用可能
4 「Windows Serverバックアップ」
を効果的に利用する
 Windows Server 2008に搭載されている管理ツー 「機能の追加ウィザード」
を使用して追加することがで
ルの中で大きく変更されたものとしては、バックアッ きる。
プ・ツールの
「Windows Serverバックアップ」
が挙げ  Windows Serverバックアップは、
ディスク・ボリュー
られる。このツールは、標準ではインストールされず、 ム単位でブロック・レベルをイメージ化し、D2D
(Disc

01 John Fontana Network World米国版

8割の組織がWindows Server 2008の採用に前向き


 ITサービス/製品サプライヤーの米国CDW Governmentが今年2月に 調査として初めてのものであるという。
行った調査
「Windows Server 2008 Tracking Poll」
によると、企業や教  Windows Server 2008は、Windows Vistaと同じコード・ベースの
育機関に属するIT担当者の17%は、
「Windows Server 2008」
へのアップ 下に開発されており、両製品を組み合わせて使うことで、さまざまなメリット
グレードを現在計画中で、63%がゆくゆくは同製品を採用する考えだという。 が得られるとされている。しかし、回答者の66%はWindows Vistaと
 同調査は小〜大規模企業、州政府/地方自治体、高等教育機関およびK-12 Windows Server 2008のアップグレードを関連づけて考えてはいないよ
(幼稚園から12年生)
教育機関に勤める772人のIT担当者を対象に行われた。 うだ。なお、関連づけているとした回答者のうち22%は、最初にWindows
 調査結果によると、Windows Server 2008の主なメリットとして回答 Vistaをアップグレードすると答え、6%はまずWindows Server 2008に
者が挙げたのは、セキュリティ(49%)
、セットアップ/コンフィギュレーショ 移行すると答えている。
ンの改善
(41%)
、今後追加される仮想化機能
(35%)
であった。  また、Windows Server 2008の仮想化機能がメリットとして挙がった
 一方、
主な懸案事項としては、
OSに関するものがリストのトップに挙がった。 一方で、回答者の大半はすでにサーバ仮想化技術を実装済みと回答した。
例えば、OSのバグ
(48%)
、アプリケーションとの互換性
(41%)
、ハードウェ Windows Server 2008から180日以内に出荷される予定のMicrosoft
アとの互換性
(28%)
などだ。 の仮想化ハイパーバイザ
「Hyper-V」
を待って、自社に仮想化技術を導入する
 CDWの製品/パートナー管理担当ディレクター、デービッド・コッティン 組織は少ないと見られる。
ガム
(David Cottingham)
氏は、
「(Windows Server 2008を導入するに  仮想化に最も高い関心を示したのは、高等教育機関
(49%)
で、州政府/
あたり)IT担当者らはWindows Vistaと同様、厳密な評価プロセスを経て、 地方自治体
(48%)
がそれに続いた。
きわめて入念な手順を踏むと思われる」
と語った。  なお、Windows Server 2008への移行に最も抵抗感を示したのはビジ
 同社はWindows Vistaに関する同様の調査を、2006年11月から2008 ネス部門で、59%が現在のところアップグレードの予定はないとした。アッ
年1月の間に3回に分けて行っている。Cottingham氏によると、Windows プグレードを予定しているとの回答はわずか5%であった。特に中〜大規模企
Server 2008 Tracking Pollは、Windows Server 2008を対象にした 業では、
「Windows Server 2003」
のほうを依然として好んでいるという。

June 2008 Computerworld 47


画面3:
「Windows Serverバックアップ」
は、初回に一度スケジュール設定をするだけで 構成は、
「バックアップの実行時刻」
「バックアップ対
よい。バックアップ先として空の固定ディスク、または外付けディスクが必要となる
象のボリューム」
「バックアップ先のディスク」
くらいで、
増分や差分を組み合わせたローテーションや、システ
ム状態のみのバックアップなどはできない。
 また、Windows Serverバックアップは、一度設
定してしまえば、あとはすべて自動化できる。バック
アップ先として複数のリムーバブル・ディスクを設定
しておけば、管理者がディスクを定期的に差し替える
だけで、
自動的にローテーションしてくれる。
バックアッ
プ先のディスク領域が足りなくなった場合は、古い
データを自動的に削除してくれる。
 一 方、バックアップ 技 術が変 更されたことで、
NTBackupで保存したバックアップ・メディアとの互

換性は失われている。つまり、Windows Serverバッ
P a r t

to Disc)
方式でバックアップする。これは、Windows クアップでは、NTBackupで取得したテープ・メディ
NT時代から存在する
「NTBackup」
とは、まったく異 アやバックアップ・ファイルからデータを復元すること

1

なるバックアップ技術である。バックアップ先は、
ロー はできない。Windows Server 2008で以前のバック
カル・ディスクやUSB、外付けリムーバブル・ディス アップ・メディアからデータを復元する場合には、
W i n d o w s

クなどが指定できる。なお、テープ・デバイスはサポー Microsoftが無償で提供している
「Windows NTバッ
トしていない。 クアップ/復元ユーティリティ」
を使用する必要があ
 Windows Serverバックアップの管理ツールは、 る。同ユーティリティは、バックアップ・データの復元
非常に単純化されており、スケジュール・バックアッ 機能だけを提供するツールであり、バックアップの実
S e r v e r

プは初回に一度だけ構成すればよい
(画面3)
。ただし 行機能は持っていない。

標準プロトコルとなったIPv6。ただし焦る必要はない
2 0 0 8へ の 完 全 移 行 を は た す 6 つ の 最 終 チ ェ ッ ク

Check

5 IPv6のグローバル・アドレス取得を考える
 IPv6(Internet Protocol version 6)
は、IPアド 作する。Windows Vistaとの組み合わせでは、サー
レスの枯渇やルーティング情報の肥大化に対応する ドパーティ・アプリケーションが対応していれば、ネッ
ために、
アドレス空間を128ビットに拡張したIPである。 トワークを完全にIPv6化することも可能である。
Windows Vista以降は、標準プロトコルとして採用  だからと言ってWindows Server 2008の導入に伴
されており、ほとんどのネットワーク・アプリケーショ い、ネットワークをIPv6化する必要があるかというと、
ンがIPv6に対応している。そして、IPv6に対応した 必ずしもそうではない。IPv6は、
「リンク・ローカル・
Windows Server 2008の登場により、実用レベルの アドレス」
というローカル・サブネット用IPv6アドレス
プロトコルになったと言える。 の自動生成機能と、
「近隣探索」
という発見メカニズム
 Windows Server 2008では、ファイル/プリント・ を持っている。そのため、ローカル・サブネット内にお
サービスといった基本機能から、Active Directory いては、何もしなくても必要に応じてIPv6が使用され
やDHCPサーバ、Windowsファイアウォール、IIS る。
7.0など、ほとんどのサーバ・サービスがIPv6上で動  IPv4アドレスの枯渇が世間で騒がれているからと

48 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

いって、ネットワークのIPv6化を焦って行うことはな  しかし、IPv4環境のリモート拠点を含む複数のサ
い。IPv4アドレスが枯渇しても、IPアドレスの新規割 ブネット間でIPv6を使用する場合は、話が変わって
り当てができないだけであり、IPv4ベースのインター くる。IPv6をルーティングするためには、IPv6用ルー
ネットは問題なく利用できる。Windows Vistaや タと、IPv6の
「グローバル・アドレス」
が必要になる。
Windows Server 2008には、IPv4ネットワークから IPv6には、IPv4のようなプライベート・アドレスが存
IPv6ホストへの接続を実現するトンネリング技術 在しない。そのため、現時点でIPv6をルーティング
「Teredo」
といったIPv6への移行技術が備わっている。 するのであれば、IPv6のグローバル・アドレスを正式
そのため、インターネットの主流がIPv6に切り替わっ に取得してIPv6ネットワークを設計し、インターネッ
たとしても、インターネットから孤立してしまう心配は ト接続を含めて本格的にIPv6化を進めることになる
ない。 だろう。

Check Windows Server 2008+Vista=新世代エンタープライズWindows


6 Windows Vistaの導入を検討する
 Windows Server 2008は、Windows Vistaと同 従来のようなデスクトップ単位でのセッションではな
じコード・ベースで開発されたサーバOSであるため、 く、リモート・アプリケーションをウィンドウ単位で実
当然ながらWindows Vistaをクライアントとして使用 行可能にする。また、
「TSゲートウェイ」
は、プライベー
することが望ましい。 トなネットワーク上に展開されたターミナル・サービス
 例えば、ファイル・サービスにおいては、Windows への中継サーバとして動作する新機能だ。TSゲート
Vista以降 で 強 化されたSMB 2.0が 利用できる。 ウェイは、RDPをインターネット標準のHTTPSでカ
SMB 2.0は、現在のネットワーク環境や次世代ファイ プセル化する。RDP自身が暗号化機能を持つうえに、
ル・サーバのニーズに合わせて再設計されており、ト SSL
(Secure Socket Layer)
で二重に暗号化され、
ラフィック量の削減やパフォーマンスの向上、より大 さらにRDP 6.1で強化された認証機能を適用できる。
きなバッファ・サイズのサポートといった改善・強化が そのため、セッションの内容が漏洩する心配がない。
行われている。また、Windows Server 2008の
Active Directoryは、Windows Vistaに追加された 画面4:Windows Vistaで追加されたデバイスのインストール制御、リムーバブル・メディ
アへの読み書き制御、ワイヤレス・ポリシーなどは、情報漏洩対策/コンプライアン
広範なポリシーを標準でサポートしている。追加され ス強化に有効だ
たポリシーには、デバイスのインストール制御、リムー
バブル・メディアの読み書き制御、ワイヤレス・ポリシー
などがある
(画面4)

 ターミナル・サービスの新機能を利用できるのも、
Windows Vistaを使うメリットだ。ターミナル・サー
ビス用の最新プロトコル
「Remote Desktop Protocol
(RDP)6.1」
は、ネットワークやサーバなどに対する認
証機能が強化されたほか、フォント・スムージングや
マルチモニタ表示機能が搭載されるなど多彩な機能
をサポートしている。Windows Vistaならこうした新
機能を標準で利用できる。
 ターミナル・サービスの新機能
「TS RemoteApp」
は、

June 2008 Computerworld 49


これらの機能はRDP 6.0以降のクライアントだけが利 ソリューション
「ネットワーク・アクセス保護
(NAP)
」も、
用できる。 Windows Vistaとともに導入することで最大の効果
 また、Windows Vista SP1では、RDP 6.1へのアッ が得られる。NAPは、組織内のネットワークにアクセ
プデートが行われ、新機能の
「TS EasyPrint」
が利 スしてきたクライアントをいったんアクセスが制限され
用可能となった。同機能は、リモート・セッションや た検疫ゾーンに配置し、正常性チェックをパスしたク
TS RemoteAppから、ローカル・プリンタ・ドライバを ライアントにだけ、ネットワークへの完全なアクセスを
使用した印刷を可能にするものだ。 許可する機能だ。Windows Vistaには、デフォルト
 Windows Server 2008が備えるクライアント検疫 でNAPエージェントが組み込まれているため、ネット

Side Story
進化したサーバ仮想化技術
「Hyper-V」
の実力
Windows Server 2008のリリース後、180日以内に追加提供されることになっている新たなサーバ仮想化技術 「Hyper-V」

Microsoftは、これまでサーバ仮想化ソフトとして 「Virtual Server」


を提供してきたが、Hyper-VはVirtual Serverと比べてどれ
P a r t

ほどの進化を遂げたのだろうか。以下では、Virtual Serverとの比較を交えながら、進化したHyper-Vの各種機能を紹介していく。

山市 良

1

Hyper-VとVirtual Serverの違い 仮想マシンの構成は、XMLベースの仮想マシン構成ファイルに格納するが、


W i n d o w s

 Microsoftは現在、仮想化ソフトウェア技術として、デスクトップOS向け これはHyper-Vとはまったく互換性がない。実は、仮想マシン構成ファイル

「Virtual PC 2007」
と、サーバOS向けの
「Virtual Server 2005 R2」 の形式だけでなく、仮想マシンのハードウェア・スペックも、基本的には
を無償で提供している。 Virtual ServerとHyper-Vは互換性がない。
 Windows Server 2008には、
Virtual Serverの後継となる新設計のサー  Virtual Serverは、ディスク・コントローラやネットワーク・アダプタ、ビ
バ仮想化技術
「Hyper-V」
が搭載される。ただし、現在リリースされている デオ・カードなど、実際に存在するハードウェアをソフトウェア的にエミュレー
Windows Server 2008には、Hyper-Vが含まれていない。Hyper-Vは、 トすることで仮想化環境を構築している。ゲストOSは、これらのハードウェ
S e r v e r

Windows Server 2008とは別に開発が進められており、現状ではRC


(出 アに対応したデバイス・ドライバを使用して、エミュレートされたハードウェ
荷候補)
版の段階である。 アを使用する。CPUは本来、1つのOSやドライバにしか特権命令の実行を許
 Vir tual Ser ver 2005 R2 Ser vice Pack
(SP)1は、Windo ws 可しないため、ホストOSはゲストOSのCPU命令を監視し、特権命令をトラッ
Server 2008をホストOSとしてサポートしており、
Hyper-Vが正式にリリー プして実行結果をゲストOSに返す、という切り替え処理を常に行っている。
2 0 0 8へ の 完 全 移 行 を は た す 6 つ の 最 終 チ ェ ッ ク

スされるまでは、引き続きVirtual Serverで仮想化環境を運用することがで  エミュレートされたハードウェアやCPUの切り替え処理は、オーバーヘッ


きる。Hyper-Vがリリースされたら現在の仮想化環境をHyper-V環境に移 ドが大きく、仮想マシンのパフォーマンスに大きく影響していた。そこで
行すればよいのだが、Virtual Serverで運用していた仮想マシンが、そのま Hyper-Vでは、ハードウェアをエミュレートするのではなく、I/O処理を
「統
まHyper-V環境で動作するわけではない。 合デバイス
(Synthetic Device)
」と呼ばれるサービスとして提供する。
 その理由は、Hyper-VがVirtual PCやVirtual Serverとは異なる仮想化  Hyper-VのホストOSとゲストOSの間には、
「VMBus」
と呼ばれる仮想的
技術を採用しているからだ。Virtual PCやVirtual Serverは、
x86コンピュー なバスがある。ゲストOSは、
従来のデバイス・ドライバに代わる
「Virtualization
タの 主 要 な ハ ードウェアをソフトウェア 的にエミュレ ートする。一 方、 Service Client
(VSC)
」を使用してホストOSの
「Virtualization Service
Hyper-Vは、ハイパーバイザ型のアーキテクチャを採用している。 Provider
(VSP)
」と通信を行い、そこからホストOSのデバイス・ドライバ経
 Hyper-Vの実装には、ハードウェア仮想化支援機能である
「Intel VT」
また 由で物理的なデバイスを利用する。ゲストOSは、デバイス・ドライバを使用

「AMD-V」を備えたx64ベースのCPUが必要で、
「Windows Hyper しないため、オーバーヘッドが減少し、高速なI/Oが実現されるのである。
visor」
と呼ばれるごく薄い仮想化レイヤにより、ハードウェアとOSを切り離
している。Windows Hypervisorは、単一のハードウェア上で複数のOSを 「統合サービス」
でゲストOSのパフォーマンスを最適化
並列実行するためにパーティションを分割する。Windows Hypervisorが  Hyper-Vでは、x64ベースのゲストOSや、マルチプロセッサに対応した
持たない仮想マシンの管理機能とデバイスのサポートについては、ペアレント・ 大容量メモリ
(最大32GB)
の割り当てが可能なため、Virtual Serverと比べ
パーティションのホストOSが担当する。 てゲストOSの大幅な性能向上が期待できる。それゆえ、大規模な基幹デー
タベースやマルチスレッド・アプリケーションをホストすることも可能だ。
エミュレート方式に比べて高速なI/O処理を実現  Hyper-Vで最適なパフォーマンスを得るには、ゲストOSで
「統合サービス
 Hyper-Vでは、Virtual Serverのハードディスク・イメージ
「Virtual (Integration Services)
」の利用が前提となる。統合サービスは、ゲスト
Hard Disk
(VHD)
」形式を引き続き採用している。Virtual Serverにおける OSにVMBusを認識させ、ストレージやネットワークのVSCを提供する機能

50 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

ワーク・セキュリティ・センターが監視するWindows RemoteAppやTSゲートウェイを利用することができ
ファイアウォール/ウイルス対策/スパイウェア/自 る。ネットワーク認証には対応していないが、まもな
動更新の正常性に基づき、検疫を実施/強制するこ くリリースされるWindows XP SP3でRDP 6.1にアッ
とができる。 プデートされ、ネットワーク認証にも対応する。また、
 Windows Server 2008とWindows Vistaは間違 Windows XP SP3では、一部の機能に制限はあるも
いなくベストな組み合わせであるが、現状としては のの、NAPもサポートしている。
Windows XPクライアントが多数を占めている。  なお、Windows Vistaの詳細については、本特集
Windows XPは、RDP 6.0へのアップデートでTS のPart 3を参照していただきたい。

だ。統合サービスは、以下のゲストOSをサポートしている
(Hyper-V RC0 画面A:Hyper-Vの仮想マシンで、Intel64版のXen対応カーネルが動作
時点)

●Windows Server 2003 x86およびx64


●Windows Server 2003 R2 x86およびx64
●Windows Server 2008 x86およびx64
●Windows Vista SP1 x86
●Windows XP SP3 x86

 統合サービスがサポートしないOS、例えば、Windows 2000 Serverは、


Hyper-Vで運用しないほうがよい。おそらく、Virtual Server R2 SP1で
運用したほうが、高いパフォーマンスが得られるだろう。Hyper-V環境で統
合サービスが利用できない場合、IDEコントローラやネットワークのI/Oにエ
ミュレートされたハードウェアを利用することになる。しかし、Hyper-V環境
では、Virtual Serverの仮想マシン追加機能がサポートされていないうえに、
エミュレートされたハードウェアはVirtual Serverほど最適化されていない
ため、I/O処理のパフォーマンスが逆に落ちてしまうのだ。
 Windows Server 2003以降であれば、現在、Virtual Serverの仮想
マシンで運用しているシステムを、比較的スムーズにHyper-Vへ移行するこ
とができる。ゲストOSがIDEディスクにインストールされているのであれば、 Linuxの開発元である米国Novellとの協業を通して、Linux版統合サービス
VHDをそのままコピーすればよい。ネットワークは無効化されてしまうが、 を開発し、Xen対応カーネルをサポートした
(画面A)

統合サービスをインストールすることで、ネットワークVSCが利用可能だ。  Xenは、Hyper-Vと同 様 にハ イパ ーバ イザ 型 の 仮 想 化 技 術 で あり、
一方、Virtual Serverの仮想SCSIアダプタは、Hyper-Vとは互換性がない Hyper-Vのペアレント・パーティションとチャイルド・パーティションは、ホ
ため、SCSIディスクにインストールされたゲストOSをHyper-Vに移行する ストOSの役割を果たすXenの
「ドメイン0」
とゲストOSの
「ドメインU」
にそれ
には、変換作業が必要になる。 ぞれ相当する。Linux版統合サービスには、ドメインUに相当するXen対応
LinuxカーネルをHyper-V上で動作できるように、Xenのハイパーコールを
Xen対応カーネルもゲストOSとしてホスト可能 Hyper -Vの ハ イ パ ーコ ール へ と 翻 訳 す る
「Hypercall Adapter」と、
 Virtual Server 2005 R2 SP1は、ゲストOSとして複数のLinuxディ VMBus対 応 の ネ ット ワ ークVSCと ストレ ージVSCが 含 ま れ て い る。
ストリビューションを正式にサポートしているが、ゲストOSにLinuxを利用 Hyper-Vのネーティブな仮想マシンでLinuxをゲストOSとして運用できるの
する際のサポート方法がHyper-Vでは根本的に変更されている。Virtual で、Virtual Serverに比べて大幅にパフォーマンスが向上する。
Serverでは、仮想マシンにLinuxカーネルをインストールすることで、Linux  Microsoftは、Hyper -Vベ ータ 版 の リリ ース と 同 時 期 に、
「Linux
をゲストOSとして動作させることができるほか、一部のLinuxディストリ Integration Components for Microsoft Windows Server 2008
ビューションに対しては仮想マシン追加機能
(「VM Additions for Linux」
) Hyper-V」
のベータ版をMicrosoft Connectサイトを通じて公開した。こ
を提供している。 の段階では、SUSE Linux Enterprise Server 10 SP1(x86および
 一方、MicrosoftはHyper-Vの開発にあたって、Xenの開発元である米 x64)
のみのサポートとなるが、Red Hat Enterprise Linux
(RHEL)5も
国XenSource
(米国Citrix Systemsが2007年8月に買収)
や、SUSE 今後サポートする計画だ。

June 2008 Computerworld 51


02 John Fontana Network World米国版

早期導入ユーザーが高評価──Windows Server 2008の新機能


 米国で2月27日に正式リリースされた
「Windows Server 2008」
を本番 Okuma氏は、
「Server Roles」
機能を利用して、Terminal Servicesと
環境で早期導入しているユーザーからは、ストレッチ・クラスタ
(地理的に分 「Windows Rights Management Services(RMS)
」をインストールし
散されたクラスタ)
対応機能や負荷分散機能など、さまざまな新機能を評価す たという。 RMSは
「SharePoint Server」
と連携し、企業内の機密文書を
る声が上がっている。ここではその一部を紹介しよう。 共有する際に、保護機能を提供するものだ。
 Okuma氏によると、今年5月までの計画として、Windows Server
セキュリティ機能に高い評価 2008に
「Active Directory」
を移行することを目標にしているという。さら
 
「多くの企業のIT担当者は、Windows Server 2008を導入するか、 に、2009年2月までに、現在使用している主要サーバすべてをWindows
Windows Server 2003を利用し続けるかどうかで悩んでいるようだ」
と話 Server 2008に移行して、約2,000人のユーザーをサポートする予定だと
すのは、企業のネットワーク構築を支援する、米国Convergentのコンサル している。
タント、ランド・モリモト
(Rand Morimoto)
氏だ。  現在Okuma氏はNAPの機能検証を行っているが、Pacific Coastのイン
 
「企業のIT担当者がWindows Ser ver 2008を評価すれば、われわれ フラとの相性もよいと話す。
もWindows Server 2008の導入を支援する。実際、現在までに約100  
「今後は、Windows Server 2008の機能と重複するサードパーティ製
台のサーバへWindows Server 2008を
(本番環境として)導入した。 品は、購入しないで済むようにしたい」
(Okuma氏)

Windows Server 2008で搭載されたT1 WAN接続の末端にクラスタを


設置できるストレッチ・クラスタ機能は、顧客から高い評価を得ている」 「SQL Server」
と「Visual Studio 2008」
との連携で実力発揮
P a r t

(Morimoto氏)  また、
「SQL Server」
と「Visual Studio 2008」
とを連携させることで、
 ストレッチ・クラスタ機能は、過去のWindows Serverでは搭載されてい Windows Server 2008の実力がさらに向上すると指摘するユーザーもい
なかった機能である。Morimoto氏によると、早期導入ユーザーらは、課題 る。

1

とされてきた障壁がようやく取り払われたと喜んでいるという。  SQL ServerとVisual Studio 2008は、Windows Server 2008の


 
「今までこの種のクラスタを利用できるのは、WAN全体を光ファイバでサ リリース・イベントでも紹介された。ユーザーからは、3製品を組み合わせる
W i n d o w s

ポートできる、潤沢な資金を持つ企業に限定されていた。Windows Server ことで、プラットフォーム全体の連携を強化できると期待されている。


2008の新機能は、Exchange 2007の障害復旧などのニーズに応える大  MicrosoftのCEO、スティーブ・バルマ ー(Steve Ballmer)氏は、
きな進歩のたまものだ」
(Morimoto氏) Windows Server 2008、Visual Studio 2008、SQL Server 2008
 また、Morimoto氏は、企業ネットワークにおいてクライアントのセキュリ の3本柱が、同社のサービス・プラットフォームの強固な基盤を形成すると強
ティを 保 証 するネットワ ーク・アクセス 保 護 機 能
「Network Access 調した。
S e r v e r

Protection (NAP)」
は、非常に魅力的だと評価する。  Ballmer氏のことばを実践しようとしているのが、米国Big Hammer
 
「NAPをWindows VistaとWindows Server 2008で統一された環境 Dataである。同社は、テレビ製品に関する説明書や仕様などの製品データを
下で展開すれば、さらに堅牢で
“クリーン”
なプラットフォームが構築できる」 ベンダーから収集し、そのデータを小売店に供給するサービスを手がけてい
(Morimoto氏) る。
2 0 0 8へ の 完 全 移 行 を は た す 6 つ の 最 終 チ ェ ッ ク

 先ごろ出版された
『Windows Server 2008 Unleashed』
の著者でもあ  データベース、アプリケーション、プレゼンテーションの3層で構成される
るMorimoto氏は、グローバル企業に大きなメリットを与えるWindows Big Hammerのプラットフォームは、Windows Server 2008のリモート・
Server 2008の新機能として、
「Read-Only Domain Controllers
(読み デスクトップ機能と連携したベンダー向けのWebサーバ・クラスタ、小売店
取り専用ドメイン・コントローラ)
」を挙げる。また、Windowsファイル共有 向けのTerminal Serversクラスタ、SQL Server 2008データベースを
プロトコルの新バージョンとなる
「SMB 2.0」
は、ブランチ・オフィスとリモー 搭載している米国Unisysの
「ES7000」
で構成されている。
ト・オフィス間のデータ伝送速度を、30%〜40%も向上させるという。  Big Hammer DataでIT担当バイスプレジデントを務めるマイク・スタイ
 米国Pacific Coast Companiesのエンタープライズ・アーキテクトであ ンク
(Mike Steinek)
氏は、
「わが社のようなラージスケール・システムを持つ
るマット・オクマ
(Matt Okuma)
氏は、
「Windows Server 2008が原因と 企業にとっては、高速性と敏捷性が不可欠だ。Windows Server 2008と
なる問題や、パフォーマンスの低下といった支障は、一切生じていない」
と断 SQL Server 2008、さらにはVisual Studio 2008という3製品の連携
言する。
「Windows Server 2008にはすばらしい新機能が備わっている。 強化がなされたことで、われわれは何の支障もなくアプリケーションを開発で
問題は、移行作業が従来のWindows Serverと異なることだ。Windows きるようになった」
と語った。
Server 2003と比較すると、サーバの管理方法はかなり異なる。従来の手  Steinek氏によると、ユーザー認証などの個々の機能は、3製品をサポー
法に慣れた管理者は大変だろう。実際、私も使い始めたころは、インタフェー トしたコンポーネント上に構築されているという。
スの違いに戸惑った。しかし、今はWindows Server 2008のメリットを  
「ユーザー認証の相互運用性は、
Web層から自社開発したアプリケーション・
理解できるようになった」
(Okuma氏) コードを通過してSQL Serverに確保される。Windows Server 2008プ
 現在、Okuma氏は、4台のサーバにWindows Server 2008を導入し ラットフォームを導入してから、これまで開発者が何日もかけて対処した問題
ている。以前はCitrixの製品上で稼働させていたトラス構造のアプリケーショ は一度も発生していない」
(Steinek氏)
ンを、現在は
「Terminal Services」
でサポートしているという。  なお、Big Hammerは、本番環境および障害復旧環境で、約40台のサー
 2007年12月からWindows Server 2008を本番環境で使用している バにWindows Server 2008を展開しているという。

52 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

2
Part
Windows XPを継続するか
Windows Vistaに移行するか

IT管理者の視点で考える
Windows Vistaのメリット
Windows Vistaが登場して1年が経過した。しかし、企業への導入はあまり進んでおらず、いまだ多くの企業で
Windows XPが使われている。確かにWindows XPは完成度の高いOSである。しかし、だからといって、Win
dows Vistaに搭載されている企業向けの先端機能を利用しないのはもったいない。Windows Server 2008がリリー
スされた今こそ、企業はWindows Vista導入を視野に入れるべきだ。本パートでは、Windows Vista導入のメリッ
トを示すとともに、Windows Vistaに搭載されている注目すべき企業向け機能を紹介する。

山市 良

迫るWindows XPの 年第2四半期には、Windows XP SP3がリリースされ

サポート期限終了 ることになっており、Windows XPの成熟度、安定度


は登場したばかりのWindows Vistaの比ではなくなる
 2006年11月に提 供が始まったWindows Vista と言っても過言ではないだろう。このセキュアで快適
Business/Enterprise/Ultimateの企業への導入は、 なPC環境は、エンドユーザーにとっても、システム管
いまだほとんど進んでいない。その大きな理由の1つ 理者にとってもなかなか手放せるものではない。つま
は、Windows XP投入からWindows Vista投入まで り、もうしばらくの間、Windows XPを使い続けるこ
の間に5年の空白が生じてしまったことにあると言っ とには何の問題もなさそうだ。問題があるとすれば、
てよい。 今後、新たに追加される機能がないことぐらいだろう。
 この5年間でWindows XPは成熟し、安定性を増  しかし、セキュリティ修正プログラムが、ゆくゆく
した。また、PCハードウェアの進化も目覚ましく、 は無料提供されなくなる以上、それ以降の使用を継
Windows XPは非常に快適かつ高速に動作するよう 続するべきではない。また、Windows XPのメインス
になった。2004年8月にリリースされたWindows XP トリーム・サポートが2009年4月14日で終了することも
Service Pack
(SP)2により、セキュリティが大幅に 忘れてはならない。企業のセキュリティ担当者は、
強化された点も大きいと言える。 Windows Vistaへの移行をそろそろ考える時期にさ
 Windows XP SP2では、
「Windowsセキュリティ・ しかかっていると言えるのだ。
センター」
や「Windowsファイアウォール」
、ポップアッ  とは言え、Windows Vistaに移行したくても、簡単
プ・ウィンドウのブロック機能といった、大幅なセキュ にはいかない事情もある。Windows Vistaを快適に動
リティ強化が行われた。Windows XP SP2へのセキュ かすには、それなりのPCスペックが必要だからだ
(詳
リティ修正プログラムの提供は、少なくともあと6年は 細は後述)
。また周辺機器を含むハードウェアおよび
継続される予定だ
(2014年4月8日まで)
。さらに2008 アプリケーションが、Windows Vistaで利用できるか

June 2008 Computerworld 53


どうかも不安材料だろう。Windows Vistaがリリース ンドウ単位でのリモート・セッションを可能にする
されて1年以上経ち、多くのハードウェアとアプリケー 「RemoteApp」
や、インターネット経由でプライベート・
ションがWindows Vistaへの対応を完了させている。 ネットワーク上のターミナル・サービスやリモート・デ
しかし、サポートが切れたようなレガシーなアプリケー スクトップへの安全な接続を可能にする
「TSゲート
ションや、対応させるにはコストが発生するカスタム・ ウェイ」
などがある。これらを利用するには、
ターミナル・
アプリケーションを利用している場合、Windows サービス用の最 新プロトコル
「Remote Desktop
Vistaに移行するのは非常に難しい。 Protocol
(RDP)6.0」
以降に対応したリモート・デスク
トップ接続クライアントが必要となる。

XPへの配慮はしばらく続くも  Windows VistaにはRDP 6.0が標準で搭載されて

終われば利便性が低下へ いるが、実はWindows XPでもRDP 6.0対応クライ


アントを入手することが可能だ。Windows XP SP3
 即座にWindows Vistaへの移行を行わないとした に含まれるRDP 6.1への更新によって、ネットワーク・
場合、問題となるのは移行までの間にMicrosoftによ レベル認証にも対応する。
る先進のOSテクノロジーの恩恵が受けられるかどうか  ファイアウォール、ウイルス/ワーム対策、スパイ
という点だろう。例えば、いよいよ提供が始まった ウェア対策の自動更新の構成と状態、およびセキュ
Windows Server 2008は、Windows Vistaと同じ開 リティ更新プログラムの適用状況を検査して、ネット
発プロジェクト
(開発コード名:Longhorn)
の中で生み ワークへのアクセスを禁止したり、準拠したりするこ

出されたもので、その先進テクノロジーの真価は、こ とができるNAPは、Windows Vistaには標準で搭載


れらを併せて使うことで発揮されるのだ。 されている
(画面1)
。NAPについても、Windows XP
P a r t

 もちろ ん、Windows XPで あ ってもWindows SP3において、Windows XP用のNAPクライアント


Server 2008のActive Directoryドメインに参加でき が提供される予定であり、スパイウェア対策を除いて、

2 I T 管 理 者 の 視 点 で 考 え る

るし、認証で問題が発生することもない。ファイル共 Windows Vistaと同様の検疫を実施することができ


有サービスや印刷サービスも、Windows Server る。
2003環境とまったく同じように利用できる。Windows  また、Windows Vistaでは、新フォント
「メイリオ」
Server 2008の
「ターミナル・サービス」
と「ネットワーク・ および従来から利用されている
「マイクロソフト5フォ
アクセス保護
(NAP)
」については、Windows XPもク ント
(MSゴシック、MS Pゴシック、MS UI Gothic、
ライアントとして完全にサポートされる。 MS明朝、MS P明朝)
」において、2004年に改定され
 Windows Server 2008の新機能には、
例えば、
ウィ た新JIS漢字
「JIS X2013:2004」
(JIS2004)
が採用さ
W i n d o w s

John Fontana Network World米国版

2008年は企業のVista移行が本格化?
 IT関連製品のサプライヤーである米国CDW Governmentが2007年10  また、
「Vistaに現在移行中、またはすでに移行済み」
と答えたのは30%だっ
月末から11月初旬にかけて実施した調査によると、Windows Vistaへの移 た。Vistaへの移行が進むにつれ、Vistaに対する好意的な評価も集まるよう
V i s t a

行に向けて評価やテストを実施する米国企業は着実に増えているという。1年 になっており、主要機能の性能について
「期待を上回っている」
と答えた回答者

(2007年2月)
の調査時に比べると、
「Vistaを検討中/テスト中」
と答えた が全体の50%近くを占めている。
の メ リ ッ ト

企業は今回の調査で20ポイント近く増加した。  Vistaの長所として最も高く評価されているのは、依然として
「セキュリティ
 同調査によると回答者の48%が、
「Vistaを検討中またはテスト中」
と答えて の改善」
だ。またそのほかVistaの長所としては、
「パフォーマンス」
「生産性」
「検
いる。この数字は、1年前の調査時の12%を大きく上回り、Vistaへの移行に 索/分類機能」
「Windows Update」
「ネットワーキング機能」
「パッチ管理」

前向きな企業が増えていることを示している。 どが挙げられている。

54 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

れ、一部の漢字の字体の変更と追加が行われた。 画面1:NAPはクライアントのセキュリティの状態を検査して、組織の正常性ポリシーに
準拠しない場合はアクセスを制限または禁止する。この機能はWindows XP
Microsoftは、JIS漢字規格の混在により起こる混乱 SP3でも利用可能になる

を回避するために、Windows XP向けにはJIS2004
対応のフォント・パッケージを、またWindows Vista
向けには、従来の
「JIS X0208-1990」
(JIS90)
対応の
フォント・パッケージを提供している。
JIS90対応のフォ
ント・パッケージはWindows Server 2008向けにも
提供が予定されており、引き続き、組織内でJIS漢字
規格を統一することができる。
 Windows Vistaのリリースと同 時 期 に、2007
Microsoft Office systemが採用した新しいファイル・
フォーマット
「Open XML」
もOSのバージョンの違い
を際立たせる問題となった。2007 Microsoft Office
systemはWindows XP上でも動作するが、Office
2003以前のユーザーはそのままではOpen XML形式 Windows Vistaへの本格的な移行を開始するマイル
のドキュメントを扱えない。そこでMicrosoftは
「ファ ストーンになるに違いない。Windows Vista SP1に
イル形式互換機能パック」
を無料提供して、この問題 より、これまでに判明しているバグが修正されるとと
を回避できるようにした。 もに、安定性およびパフォーマンスが向上する。
 Microsoftのこのような対応は、Windows Vista  また、Windows Vista SP1は、発売されたばかり
や2007 Microsoft Office systemへのアップグレー のWindows Server 2008との併用を意識したもので
ドの準備が整っていないユーザーに配慮したものであ あることも忘れてはならない。Windows Vistaが先に
る。しかし、このような配慮がいつまでも続くわけで リリースされたことで、2つのコードに分かれてしまっ
はない。Windows XPのメインストリーム・サポートの たが、Windows Vista SP1により、サーバOSとクラ
期限である2009年4月14日以降は、新機能の追加は イアントOSのコードが再び統一されることになる。
行われなくなる。特に、新しいハードウェアや規格へ  Windows Server 2008が提供するドメイン管理機
の対応がサポートされなくなることは、近い将来問題 能をはじめとするITインフラストラクチャ、そして推奨
になるかもしれない。Windows NTでUSBがサポー クライアントとしてのWindows Vistaとの組み合わせ
トされることがなかったように、将来的に登場する革 で実現できることを見れば、すぐにでも最新環境に移
新的なハードウェアや規格がWindows XPではサポー 行したくなるはずだ。
トされず、PCの利便性が大きく低下するかもしれな  例えば、日本版SOX法など内部統制に取り組む企
いのだ。 業にとっては、
「BitLockerドライブ暗号化」
やデバイ
スのインストール制御、リムーバブル・メディアへのア

Windows Vista SP1の クセス制御、ディザスタ・リカバリのための


「Windows

リリースで本格導入開始 Computer PCバックアップ」


など、両OSが提供する
強力なセキュリティ基盤は、最適なプラットフォーム
 初期出荷バージョンの常として、システムの完成度 となる。また、大容量化するデータの高速コピーを可
や安定性が問題視されることがある。これを理由に、 能にするファイル 共 有プロトコル
「SMB
(Server
Windows Vistaの導入や移行を踏みとどまっていた Message Block)2.0」
は、ユーザーの生産性を向上さ
企業にとって、Windows Vista SP1のリリースは せるはずだ。以下、注目の機能をいくつか紹介しよう。

June 2008 Computerworld 55


画面2:TPMを搭載していないPCでも、USBメモリにスタートアップ・キーを格納して、起 がそのコンピュータ上に存在する場合にだけ複合化さ
動時に要求するように構成することも可能だ
れる。そのため、ハードディスクを外してデータの抽
出を試みるといった攻撃に強い。また、PIN
(個人識
別番号)
の入力やUSBメモリに格納されたキーとの併
用で、2重にデータを保護することができる
(画面2)

グループ・ポリシーによるセキュリティ一括管理
 Windows ServerのActive Directoryドメイン・サー
ビスは、グループ・ポリシーをドメインや組織単位
(OU)
で展開することで、クライアントPCのデスクトップ制
御やセキュリティ設定などを中央から集中管理できる
ようにするものだ。Windows Server 2008のグループ・
ポリシーは、Windows Vistaで新たにサポートされた
豊富なポリシーに完全対応しており、
特にセキュリティ
画面3:デバイスのインストール制御は、デバイスのタイプやデバイスIDなどで新規デバイ に関しては、これまでにないレベルの高度な管理が可
スのインストールを許可または禁止する機能。メッセージのカスタマイズもグループ・
ポリシーで行える 能となっている。
 Windows Vistaで新たに追加されたポリシーの中

でも、デバイスのインストール制御やリムーバブル記
憶域へのアクセス制御を行う機能は、内部統制のた
P a r t

めの有効な手段だ。USBメモリなどのリムーバブル・
デバイスは、情報の流出経路となったり、ウイルス/

2 I T 管 理 者 の 視 点 で 考 え る

ワームの侵入経路になったりすることが多い。しかし、
Windows Vistaの新しいポリシーを利用することで、
例えば社内で配布したデバイス以外の使用を禁止し
たり、リムーバブル・メディアを読み取り専用で使用
させ、書き込みを禁止したりといったことが可能にな

(画面3)

 Windows Vistaには、Windows XP SP2で導入
BitLockerドライブ暗号化で されたWindowsファイアウォールの後継版が実装さ
情報漏洩対策は万全に れている。この新しいファイアウォールは、受信と送
W i n d o w s

 BitLockerドライブ暗号化は、Windows Vista 信に別々の規則を適用できるなど、よりきめ細かな設


Enterprise/Ultimateで利用可能な新しいデータ保 定が行えるよう強化されている。その構成も、グルー
護機能である。この機能は、システムを含むドライブ プ・ポリシーで完全に制御することが可能だ。
全体を暗号化するもので、PCの紛失時や盗難時、あ
V i s t a

るいは破棄する際に、ハードディスクからの情報漏洩 SMB 2.0とIPv6によりネットワークが高速化


を防止するのに大きな効果がある。  CIFS
(Common Internet File System)
とも呼ば
の メ リ ッ ト

 BitLockerドライブ暗号化では、ドライブ全体が暗 れるWindowsのファイル共 有プロトコルSMBは、


号化されるだけでなく、
「トラステッド・プラットフォー Windows Vista以降でバージョン2.0にアップデート
ム・モジュール
(TPM)1.2」
の採用によって、ドライブ された。SMB 2.0は、現在のネットワーク環境と次世

56 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

代のファイル・サーバに対するニーズに合わせて再設 dows Server 2008で利用可能なサービスとアプリケー


計されている。例えば、SMBパケット数の削減、よ ションのすべてが、IPv4とIPv6の両方に完全対応す
り大きなバッファ・サイズのサポート、サーバ上での る。カスタム・アプリケーションに関しても、.NET
ファイル・ハンドラ数の増加、ファイル共有数の増加、 Frameworkや上位APIを使用するものは、コードを
遅延や断絶の多いリンク経由でファイル共有に接続 書き換えることなくIPv6上でそのまま使えるように
する際の可用性の向上、相互認証やメッセージ署名 なっている。
の使用によるセキュリティの向上など、多数の機能強
化が行われている。 Windows Complete PCバックアップで
 Windows VistaとWindows Server 2008を併用 ディザスタ・リカバリも簡単に
すれば、SMB 2.0により、ネットワークが高速化され、  ビジネス向けのWindows Vista Business/Enter
巨大なファイルをコピーする時間が短縮されるほか、 prise/Ultimateでは、Windows Complete PCバッ
遅延の多いワイヤレスLAN環境においてコピーのた クアップという、ディスク・ツー・ディスクの新しいバッ
めの通信が途切れにくくなるなどの効果が得られる。 クアップ・ツールが利用できる。同バックアップは、
ロー
なお、Windows VistaやWindows Server 2008が、 カル・ディスク
(外付けを含む)
または書き込み可能な
以前のWindowsバージョンと通信する際には、従来 DVDメディアに対して、システムの完全なバックアッ
からあるSMB 1.0が利用されることになる。 プをドライブ単位で取得することを可能にする。
 Windows Vista以降の環境でIPv6を利用すること  バックアップは、
「ボリューム・シャドウコピー・サー
も、ネットワーク高速化に寄与する。IPv6はWindows ビス
(VSS)
」と連動して、ブロック・レベルで、ディスク・
XP以前でも利用できたが、実用レベルではなかった。 イメージとして取得される。そのため、システムが完
その理由は、IPv6に対応したアプリケーションが少な 全に壊れてしまったとしても、DVDメディアまたは回
かったことと、IPv6とIPv4が別々のプロトコル・スタッ 復パーティションから起動して、バックアップ済みの
クとして実装されていたことにある。 イメージをディスクに展開することで、OSをインストー
 Windows Vista以降では、TCP/UDPのトランス ルすることなく、高速な復旧が可能となる
(58ページ
ポート層が共通となり、ネットワーク層としてIPv4と の画面4)

IPv6の両方がサポートされるデュアルIPスタックが採  実は、Windows XP以前にもバックアップ・ツール
用された。すなわち、Windows VistaおよびWin 「NTBackup.exe」
が提供されており、Windows XP

どうする、64ビット化──ビジネス用途では時期尚早?
 Windows Vistaはすべてのエディションについて、32ビット版と64ビッ がない点だ。逆に言えば、4GBを超える大容量メモリを必要とするアプリケー
ト版を用意しているが、いったい、どちらを選択すればよいのだろうか。 ションを利用しない限り、
32ビット版でも何の問題もないはずだ。逆に、
64ビッ
 サーバOSの分野では、64ビット化が進んでいる。Windows Server ト版を選択してしまうと、周辺機器が問題になるケースが多い。
2008については、32ビット版と64ビット版の両方が提供されているが、実  アプリケーションについては、WOW64(Windows on Windows 64)

は32ビットのサーバOSはこれが最後であり、次期バージョンのWindows より、32ビットアプリケーションも問題なく動作するのだが、デバイス・ドライ
Server 2008 R2からは64ビット版のみの提供になることが決まっている。 バについては64ビット版のWindows向けに開発されたものでなければ動作し
 デスクトップやモバイル向けのPCにも、64ビットCPUを搭載したマシンは ない。
増えている。しかし、その上で稼働させるOSとしては、特に理由がない限り、  64ビット版が必要になるとすれば、エンジニアリング
(CAD/CAM)
業務、
32ビット版を選択するとよいだろう。 デジタルコンテンツの制作、科学/技術データ演算などで使う場合だろう。ビ
 64ビット環境の特徴は、32ビットOSの制約である4GBというメモリ制限 ジネス用途で64ビット版を選択するメリットは、今のところ見当たらない。

June 2008 Computerworld 57


画面4:Windows Complete PC復元の実行は、製品DVDメディアから起動して行う。 プには 対 応していないが、コマンドライン 版 の
イメージを展開するだけなので、高速かつ簡単に実行できる
「WBADMIN.EXE」
とタスク・スケジューラを組み合
わせれば、ローカル・ディスクやネットワーク共有へ
のバックアップを完全に自動化することが可能だ。

アップグレードではなく
リプレースを前提に考える
 前述したように、先進テクノロジーの恩恵をフルに
受けるために、またセキュリティのレベルを維持する
ために、クライアントOSの移行はいつかは行わなけれ
ばならない。しかし、Windows Vistaの導入には厳
しいシステム要件が立ちはだかる
(表1)
。メモリとハー
ドディスクの要件については、実にWindows XPの
10倍ものスペックが要求されるのだ。
およびWindows Server 2003では
「ASR
(自動システ  もしWindows Vistaを実行するのに十分なスペッ
ム回復)
」というディザスタ・リカバリ機能を利用するこ クを備えたPCや、メモリの追加など最小限のハード

とができた。ASRを利用すれば、まっさらなディスク ウェア・アップデートで対応可能なPCの場合は、アッ
にシステムを復 元 することも可 能だが、復 元 用 プグレード・インストールを検討してもよいだろう。そ
P a r t

Windowsをインストールし、その後、バックアップか の際には、事前にハードウェアとアプリケーションの
らシステムを書き戻すという手順が必要だった。また、 互換性情報を確認しておこう。アップグレードの可否

2 I T 管 理 者 の 視 点 で 考 え る

復旧できるのはシステムが含まれるドライブに限定さ や最適なエディション、問題のあるハードウェアとソ
れ て い た。 こ れ に 対 し て、Windows Vistaの フトウェアをリストアップしてくれる
「Windows Vista
Windows Complete PCバックアップは、イメージを Upgrade Advisor」
も役に立つ
(画面5)

空のディスクに展開するだけなので、高速かつ確実だ。  Microsoftは、Windows XPからWindows Vista
 Windows Complete PCバックアップを実行する へのアップグレード・パスを用意している。これにより、
には、バックアップ対象のドライブとバックアップ先 例えばWindows XP Home EditionからWindows
のディスクまたはDVDメディアを指定するだけでよい。 Vista Businessなどのビジネス向けエディションへと
スケジュール機能やネットワーク共有へのバックアッ アップグレードすることも可能となっている。ただし、
Windows Vistaを何とか動かすことができる程度の
W i n d o w s

表1:Windows XPとWindows Vistaの最小システム要件。Vistaをストレスなく稼働さ スペックしかないPCや、ハードウェアの拡張性


(最大
せるにはメモリ1GB、ハードディスク20GB以上はほしいところだ
メモリ容量など)
に乏しいPCの場合は、Windows
Windows XP Professional Windows Vista
Vistaにアップグレードすることは決してお勧めできな
発売日
(パッケージ版) 2001年11月16日 2007年1月30日
い。ハードウェアのリプレースを検討するべきである。
V i s t a

プロセッサ 233MHz以上 800MHz以上


アップグレードするにしろ、リプレースするにしろ、
メモリ 64MB以上(推奨128MB) 512MB以上
(推奨1GB) Windows Vistaのエディションを決定する際には、
の メ リ ッ ト

ハードディスク 2.1GB以上の空き 15GB以上の空き


必ずBusiness以上のエディションを選択することだ。
単に価格的な理由から、Home BasicやHome Pre
光ディスク・ドライブ CD-ROMドライブ DVDドライブ
miumを選択するべきではない。これらのエディション

58 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

では、以下に挙げる企業向けの機能を利用すること 画面5:Windows Vista Upgrade Advisorは、現在使用中のPCのハード


ウェアとアプリケーションがWindows Vistaで利用可能かどうか評価
ができないからだ。 してくれるツールだ

●Complete PCバックアップと復元
(Business以上
に搭載)
●BitLockerドライブ暗号化
(Enterprise以上に搭載)
●リモート・デスクトップ接続
(Business以上に搭載)
●ドメイン参加
(Business以上に搭載)
●延長サポートの提供
(ビジネス製品が対象)

 Windows XPでもそうであったが、
「Home」
は文字
どおり家庭向けの製品であることを肝に銘じておこう。

互換性問題は仮想化
テクノロジーでカバーする
 前述したとおり、Windows Vistaに対応していな
いレガシーなアプリケーションの存在は、Windows 画面6:Virtual PC 2007(無料)
を利用して、Windows Vista上でWindows XPの仮
想マシンを稼働させれば、その中でレガシーなアプリケーションが実行できる
Vistaへの移行をはばむ大きな要因となる。しかし、
解決手段がないわけではない。
 Windows XP上でしか動作しないアプリケーション
を、Windows Vista上で動かす方法として、仮想化
テクノロジーを利用する方法がある。Virtual PC
2007(無料)
を利用すれば、Windows Vista上で
Windows XPをインストールした仮想マシンを稼働さ
せ、その中でWindows XP専用のアプリケーションを
実行できる
(画面6)

 また、プレゼンテーションの仮想化やアプリケーショ
ンの仮想化を用いる方法もある。プレゼンテーション
の仮想化とは、ターミナル・サービスやRemoteApp
を利用してアプリケーションを展開する方法だ。一方、
アプリケーションの仮想化は、アプリケーションをOS
から分離する仮想ランタイム環境のテクノロジーであ
る。 アプリケーションを実行することができる。
 Microsoftは、ソフトウェア・アシュアランス契約者  なお、プレゼンテーション/アプリケーションの仮
向けに
「SoftGrid Application Virtualization」
を販 想化には、Citrix Systemsの
「Citrix Presentation
売している。これを利用すれば、最新のクライアント Server」
など、他ベンダーの製品を選択することも可
環境において、問題を起こすことなく旧バージョンの 能となっている。

June 2008 Computerworld 59


3
Part
企業の信頼を勝ち得るまでの
軌跡を再確認する

Windowsの進化過程から
探る と
「実力」「課題」
オープン・システム時代が幕を開けたころ、企業ユーザーのWindowsに対する信頼は低かった。時は流れ、クライ
アントPCユーザーのだれもがWindowsを使うようになり、サーバ分野でも今や金融機関の基幹システムのプラッ
トフォームに選ばれるまでになっている。本パートでは、Windowsという製品の進化過程を振り返り、そこから、企
業コンピューティング・プラットフォームとしての現在の実力、そして課題を探ってみたい。

山口 学

OSの基本的役割は ては、現在もそのようなアプリケーションが使われて

開発重複の回避 いる。
 では、なぜ、OSは存在しているのだろうか。それは、
 そもそも、OSの役割とは何だろうか。 「同一機能の重複開発によるむだを省くため」
だと言っ
 例えば、販売管理や顧客管理などの業務をシステ てよいだろう。乱暴に言ってしまえば、多くのアプリ
ム化するうえで必要なのは、アプリケーション・ソフト ケーションが使用する機能は、1つにまとめたほうが
ウェアだ。原理的には、これらのアプリケーションが 効率がよい。こうして生まれたのがOSやミドルウェア
直接、
ハードウェアを制御することは可能である。
実際、 などの、システムの基盤となるソフトウェアである。こ
そのようにしていた時代もあるし、特殊な分野におい のうちOSは、主にハードウェア制御を行う機能を提

図1:Windowsの系譜。1983年にWindows 1.0が登場、1993年から1995年にかけて大きな転機を迎え、2007年のWindows Vistaと2008年のWindows Server


2008に至る

1985年 1986年 1987年 1988年 1989年 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年

OS/2 1.0 OS/2 1.1 OS/2 1.2 OS/2 1.3 OS/2 2.0 OS/2 2.1 (OS/2 Warp V3)

Windows NT Windows NT Windows NT


サーバ 影響を与える Advanced Server 3.5 Server 3.51
Server

Windows NT Windows NT Windows NT


クライアント 3.1 Workstation Workstation
3.5 3.51

Windows 1.0 Windows 2.0 Windows 3.0 Windows 3.1 Windows for Windows 95
スタンドアロン Workgroups
Windows/386 (Windows
2.0 3.11)
Linux誕生 Java誕生

60 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

供し、ミドルウェアはOSとアプリケーションの中間的 めの、ウィンドウ型ユーザー・インタフェースという位
な機能を提供する。そして、どのような機能までを提 置づけだった。
供するのかは、OSによって異なる。  初版のWindows 1.0はウィンドウを重ねることがで
 現在、IA
(インテル・アーキテクチャ。注1)
を採用 きないタイリング・ウィンドウ方式だったが、1987年
したコンピュータの多くは、WindowsをOSとして採 に登場したWindows 2.0からは、ウィンドウを重ね合
用している。もちろん、UNIXやLinux、Mac OS X わせられるオーバーラッピング・ウィンドウ方式が採用
を選択することも可能だが、いずれのOSも、市場占 された。同時に、より大きなメモリ空間を確保する目
有率ではWindowsに遠く及ばない。そして、企業コ 的で
「Expanded Memory Specification
(EMS)
(注3)

ンピューティングの世界においても、クライアントOS に対応し、仮想メモリ・システムをサポートしたIntel
としてはもちろん完全に普及し、サーバOSとしても 80386(注4)
用のWindows/386 2.0が別バージョン
確実に普及が進んできている。以下、
Windowsの進化、 として投入された。しかし、これらは、お世辞にも実
機能強化の軌跡を確認していく
(図1)
。 用レベルに達していると言えるものではなかった。
 Windowsがビジネスにも使えるOSとして認識され

Windowsヒストリー 始めたのは、1990年に登場したWindows 3.0からだ

──“ビジネスWindows”
の ろう。さらに、Windows 3.1が登場した1992年ごろ

元年は1993 年 になると、多くのアプリケーションがWindowsに対応
するようになる。ちなみに、1993年に発売された
 Windowsが誕生したのは1985年のことである。当 Windows for Workgroups
(別名:Windows 3.11、
時のWindowsは、
「MS-DOS (注2)
(PC-DOS)
」 のた 日本では未発売)
では、ピア・ツー・ピアLAN
(注5)

注1:インテル・アーキテクチャ:Intel Architecture-32(IA-32)とIntel Architecture-64(IA-64)


の総称。IA-32はx86アーキテクチャと呼ばれることもある
注2:MS-DOS:Microsoft Disk Operating Systemの略で、インテル・アーキテクチャの16ビット・プロセッサのためにマイクロソフトが開発したOS。Ver.1.0は
1981年に登場した。 「Personal Computer DOS
(PC-DOS)
」はIBMブランドとしての商品名
注3:EMS:Expanded Memory Specificationの略で、640KB超のアドレス空間をMS-DOSから利用するための技術
注4:Intel 80386:インテル・アーキテクチャの32ビット・プロセッサ。初期のWindowsはインテル・アーキテクチャの16ビット・プロセッサである、Intel 80286でも
動作可能だった
注5:ピア・ツー・ピアLAN:サーバを用意せず、クライアントどうしが対等 (peer) の立場で接続する方式のLAN

1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

(OS/2 Warp V3)

Windows NT Windows Windows Windows Windows


4.0 Server 2000 Server Server 2003 Server 2003 Server 2008
R2

Windows NT Windows Windows XP Windows


4.0 2000 Vista
Workstation Professional

統合される

Windows 95 Windows 98 Windows 98 Windows Me


OSR2 SE

Mac OS X
誕生

June 2008 Computerworld 61


利用できるようになった。しかし、
Windowsが企業ユー  一方、サーバOSとしてのWindowsは、Windows
ザーから本格的に注目され始めたのは、1993年以降 2000 Serverが2003年にWindows Server 2003に
のことである。特に大きな転換期となったのは、1993 バージョンアップし、2006年のWindows Server
年から1995年にかけてだろう。 2003 R2を経 て、今 年2月
(日本国内では4月)
に、
 まず、1993年にはドメイン・コントローラ専用のサー Windows Server 2008がリリースの運びとなった。
バOSであるWindows NT Advanced Serverと、ク
ライアントOSとしても利用できるWindows NT 3.1
Windowsプラットフォーム
がリリースされた。これら2つのOSは、その後の の現在の実力
Windows NTシリーズの源流となるものだ。当時、
MicrosoftはIBMとクライアント/サーバOSである  Windowsが企業コンピューティングに不可欠なプ
OS/2を共同開発していたが、
1993年9月にソースコー ラットフォームとなって久しい。Windows NTの時代
ドの相互公開を停止し、独自のクライアント/サーバ には、
「ファイル・サーバやプリンタ・サーバ用途ならま
OSとして、Windows NTの開発に踏み切っている。 だしも、基幹業務にはとてもとても……」
といった声も
 そして、1995年にはクライアントOS、と言うよりも、 少なくなかった同OSが、今では、金融機関の基幹シ
スタンドアロン向けのOSとして、Windows 95が登場 ステムの基盤として採用されるまでになっている。ここ
する。Windows 95は、
「OSに要求される全機能を盛 では、Windowsプラットフォームの現在の実力を、処
り込む」
というコンセプトで設計されたOSである。 理速度、RAS
(信頼性、可用性、保守性)
、アプリケー
MS-DOSと決別した同OSは、ご存じのように世界中 ション開発といった各観点から探ってみることにしよう。
のユーザーから支持を集め、OS単体としての存在感

を飛躍的に高めることになる。ちなみに、Windows 処理速度
P a r t

95の当初のリリースは、NetBEUI
(注6)
ベースのピア・  コンピュータの重要な性能指標である処理速度は、
ツー・ピアLANを基本のネットワーク機能としていた 基本的にはCPU、メモリ、I/Oといったハードウェア・
が、程なくインターネット
(TCP/IP)
対応へと路線を コンポーネントの性能に依存する。しかし、ご存じの

3

変更している。いわゆるインターネット時代の幕を開 とおり、ハードウェアの条件がたとえ同じでも、OSの
W i n d o w の

いたOSとして記憶している読者も多いだろう。 出来次第でアプリケーションの処理速度は大幅に異
 その後、Windows NTシリーズのクライアント版と なってくる。OSによって、内部処理に費やされるオー
Windows 9xシリーズは、一本化への道をたどるこ バーヘッドの大きさやCPU性能の引き出し量が変
s 進 化 過 程 か ら 探 る 「 実 力 」 と 「 課 題 」

とになる。Windows NTシリー ズ は、1996年 の わってくるからだ。


Windows NT 4.0 Server、Windows NT 4.0 Work  アプリケーションの処理速度に関する中立的評価に
stationを経て、2000年のWindows 2000 Server、 は、トランザクション処理性能評議会の発表する指標
Windows 2000 Professionalで
「NT」
(New Tech がしばしば使われる
(画面1)
。現在発表されているのは、
nology)
の2文字が外される。また、
Windows 9xシリー 表1の4種類だ。どの指標もハードウェア、OS、ミド
ズは、1998年のWindows 98、1999年のWindows ルウェア
(データベースやアプリケーション・サーバな
98 Seco nd Ed it io(SE)
n 、2000年 のW in d o w s ど)
を組み合わせたベンチマーク・テストの結果に基づ
Millennium Edition
(Me)
とバージョンアップを重ね、 いており、
OSの性能を客観的に評価することができる。
2001年のWindows XPにおいて、ついにWindows TPCの指標はしばしば変更されるが、筆者の知るか
NTシリーズと統合された。そして、2007年に、現行
注6:NetBEUI:NetBIOS Extended User Interfaceの略で、LANのトラン
のクライアントOSであるWindows Vistaが登場して スポート層プロトコル。 「OS/2」 、
「LAN Manager (NOS」 (マイクロソフト製のネ
ットワークOS) 、Windows、Windows NTで利用できる。NetBIOSはNOSと
いる。 してのLAN ManagerとOS/2のAPI

62 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

ぎりでは、Windowsベースのシステムは、たいていトッ 画面1:トランザクション処理性能評議会のWebサイト
(http://www.tpc.org/)

プ10内にランクされており、
「by Performance」
(絶対
的な速度順)
よりも、
「by Price/Performance」
(価格
性能比順)
で上位になることが多い。

信頼性
 Windows NT 3.51までは、
「毎日1回はコールド・ス
タート
(注7)
が必要」
と揶揄されるほど、かつての
Windowsの信頼性は評価が低かった。筆者も、当時
のWindowsマシンが、しばしば
「ブルー・スクリーン
(Blue Screen Of Death)
」(注8)
を表示して固まって
いたのをよくおぼえている。 表1:トランザクション処理性能評議会で公開されている、アプリケーション・ソフトウェア
の実効処理速度に関する中立的評価
 その後、Microsoftは奮起し、Datacenter Server
指標 内容
版が登場したWindows 2000 Server以後、Windows
TPC-C オンライン・
トランザクション処理(OLTP)
の速度
の信頼性は大幅に向上した。
「基幹システム用OS」

位置づけられたWindows 2000 Datacenter Server TPC-H アドホック型クエリを伴うデシジョン・サポートの速度

について、同社はこのOSを搭載したサーバを販売す TPC-App アプリケーション・サーバの速度


るハードウェア・ベンダーに対して
「Windows Data
TPC-E オンライン・
トランザクション処理(OLTP)
の速度
center Program」
と呼ばれるソリューションの提供を
義務づけ、14日間に及ぶ連続負荷テスト
「Hardware
Compatibility Test
(HCT)
」にパスしなければ出荷で としての信頼性はさらに向上することになる。
きないというハードルを設けたのである。
 事実、HCTは、企業が基幹プラットフォームに 可用性
Windowsを採用する際の、1つの評価基準となって  企業のサーバOSに求められる、可用性を確保する
いる。例えば、百五銀行は2007年5月、Windows ための機能としては、Windows 2000 Advanced
Server 2003 Datacenter Editionをベースに開発さ Server以降に標準装備されている、フェールオーバ
れた日本ユニシスの銀行業務基幹系システム
「Bank 型クラスタリング・ソフトウェアの
「Microsoft Cluster
Vision」
を導入している。 Service
(MSCS)
」が挙げられる。MSCSは、障害が
 さらに、最新のWindows Server 2008では、OS 発生したサーバで実行されていたサービスを、待機系
の異常終了を招きやすいコンポーネントをあらかじめ サーバに切り替える機能を提供する。
いわゆるミッショ
取り除いておくこともできるようになった。
「Server ン・クリティカルな用途では欠かせない機能だ。 
Core」
というオプションを選択してWindows Server Windows Server 2003からは、ディザスタ・リカバリ
2008をインストールすると、
「.NET Framework」
(詳 (DR)用の地理的分 散クラスタを実現するための
細は後述)
や「Internet Explorer
(IE)
」を含まない、基 「Majority Node Set
(MNS)
」も用意されるようになる。
本コンポーネントだけで構成されたWindows Server
を構築することが可能だ。Server Core構成では、 注7:コールド・スタート:コンピュータの電源をいったんオフにし、その後再度
オンにして起動すること。リセット・スイッチやショートカット・キーによる
Windowsの新しいユーザー・インタフェースや、. 再起動は、「ホット・スタート」 または「ウォーム・スタート」 と呼ぶ
注8:ブルー・スクリーン :動作中のWindowsで突
(Blue Screen Of Death)
NET Framework環 境で実行可能な
「Windows 然に出現する、背景が青色の画面。これが現れるとOS、ミドルウェア、
アプリケーション・ソフトウェアのそれぞれは異常終了し、メモリ内のデー
PowerShell」
などが利用できなくなるが、サーバOS タは失われてしまう

June 2008 Computerworld 63


なお、Windows Server 2008では、MNSとほぼ同 度にかかっている。この点は、小・中規模のシステム
じ機能が
「地理的分散クラスタ
(Stretch Cluster)
」と 用途であれば、すでに十分な選択肢がそろってきて
いう名称で提供されている。 いるが、大規模なサーバ・アプリケーションに関しては、
かつてメインフレームからオープン・システムへのシフ
保守性 トが進んだときに台頭したUNIX、そしてその派生
 保守性に関しては、Windowsが以前から備えてい OSであるLinuxへの支持が強い。今後、Windows
るアドバンテージと言ってよいだろう。Windowsでは、 Serverが基幹業務システムのプラットフォームとして
OSに備わる機能の設定を、
ダイアログ・ボックスやウィ も順調に普及していくことになれば、ここでも状況は
ザードを利用して容易に行える。そのため、専任のシ 変わっていくことになろう。
ステム管理者を置くことができない小・中規模企業で
も、比較的容易にサーバの運用管理が行える。
Windowsオンリーの
 ただし、このようなGUIを基本とした操作スタイル
3階層システム
は、特に中級以上のシステム管理者にとってはわずら
わしいと感じられることも少なくない。管理対象が増  あらためて言うまでもないことだが、Windowsは、
え、設定も複雑になってくると、かえって作業効率が OSを核に、ミドルウェア、アプリケーションサーバ、
低下してしまうからだ。Windows Server 2008で採 開発ツール、システム運用管理ツールなどが勢ぞろい
用されたWindows PowerShellとServer Coreイン したMicrosoftファミリー製品となっている。オープン・
ストール・オプションは、そうしたマイナス面を改善す システムでは、餅は餅屋、ベスト・オブ・ブリードの発
るために、UNIXやLinuxの作法にならったと見るこ 想で、異なる開発元のソフトウェアを組み合わせて運

ともできる。 用するスタイルが基本形だ。しかし、Microsoftはあ
P a r t

えてファミリー化を選択しているのだ。
アプリケーション開発  この背景には、オープン・システムならではの難し
 Windowsをビジネス・ユースとして定着させた
“立 さがある。ベスト・オブ・ブリード型のオープン・システ

3

役者”
の1つに.NET Frameworkがある。これは共通 ムは、自由度が高い反面、
「すべてが自己責任」
の厳し
W i n d o w の

言語基盤
(CLI)
およびその実装である共通言語ラン い世界だ。複数ベンダーの製品を選択し、相互運用
タイム
(CLR)
を核とするソフトウェア開発/実行プ 性を保つように組み合わせて開発/運用できるスキ
ラットフォームで、現行のWindowsソフトウェアの基 ルがない企業が、オープン・システムを運用するのは
s 進 化 過 程 か ら 探 る 「 実 力 」 と 「 課 題 」

盤である。.NET対応アプリケーションは、.NET 至難の業である。一方、製品間の連携が確立され、
Frameworkがインストールされている環境であれば、 かつ統合性が高いWindows製品ファミリーは、多く
OSなどに依存せず動作することができる。開発ツー の企業にメリットをもたらすと言えるだろう。
ルとして利用できるのは、Microsoftの統合開発環境  クライアント・ユーザーに対するインタフェースを提
「Visual Studio」
などである。なおサード・ベンダー製 供するプレゼンテーション層、中央の業務処理を担う
品を使えば、JavaアプリケーションやEnterprise ビジネス・ロジック層、そしてデータ・アクセス層から
JavaBeans
(EJB)
の実行も可能だ。 なる3階層システムは、今日、ある程度の規模以上の
企業における情報システムの標準型と言ってよい。こ
 こうして確認してみると、
WindowsというOS自体は、 の各層をWindows製品ファミリーだけで構築した場
着実に企業コンピューティングのプラットフォームに 合、全体の構成は図2のようになる。
求められる要件をクリアしてきていることがわかる。あ  現行の製品で構成した場合、プレゼンテーション
とは、その上で稼働する業務アプリケーションの充実 層を担当するのはWindows Vistaである。エンドユー

64 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

図2:Windowsプラットフォームだけで構築した3階層システム
プレゼンテーション層 ビジネス・ロジック層 データ・アクセス層
クライアント・ソフトウェア サーバ・ソフトウェア ストアド・プロシージャ

IIS 7.0 SQL Server 2008

.NET Framework .NET Framework .NET Framework

Windows Vista Windows Server 2008 Windows Server 2008

ソースコード

Visual Studio 2008

.NET Framework

Windows Vista

ザーは、クライアントPC内のローカルでクライアント・ ていくためには、多機能化はやはり不可避の流れであ
ソフトウェアを動作させるか、
Webブラウザの
「Internet る。特にMicrosoftの製品ではそれが顕著だ。しかし、
Explorer 7」
を介して、アプリケーション・サーバなど そうして肥大化したソフトウェアの膨大なコードは、
にアクセスして実行することになる。ビジネス・ロジッ 処理オーバーヘッドの増大をもたらす。
ク層で基 盤となるのは、OSのWindows Server  実のところ、Microsoftは、早い段階からこの課題
2008や.NETアプリケーション、
「Internet Infor に 取り組 んでいる。前 述したとおり、Windows
mation Services
(IIS)7.0」
だ。そして、データ・アク Server 2003にはサーバの役割、Windows Server
セス層をつかさどるのは、RDBMSの
「SQL Server 2008にはServer Coreといった
“機能をそぎ落とす
2008」
である。 機能”
が組み込まれた。これらの機能のポイントは、
必要最低限のモジュールだけのプラットフォームが構

Windowsプラットフォーム 成できる点だ。ただし、モジュール間の役割分担が

の課題 完全には調整されていないため、CUIモードで威力
を発揮するはずのWindows PowerShellがServer
 最後に、Windowsプラットフォームの課題につい Coreでは利用できないという不可解な現象も発生し
て考察してみたい。筆者が最も注目しているのは、
バー ている。
ジョンアップのたびに進む多機能化と、それに伴う肥  また、製品開発/リリースのロードマップを厳守す
大化による悪影響を回避する策との折り合いを、
今後、 ることも、同社にとっての大きな課題となっている。
Microsoftがどうつけていくかということだ。 例えば、ファイルシステムの
「WinFS」
(開発コード名)
 時代がコンピューティングに求める要請に応え続け やサーバ仮想化技術の
「Hyper-V」
といった新世代の

June 2008 Computerworld 65


技術は、
「Longhorn」
(開発コード名)
の目玉として開 ユーザーの導入計画に少なからず影響を及ぼしてい
発項目にリストアップされ、製品版であるWindows る。開発プロジェクトが大規模化の一途をたどってい
VistaやWindows Server 2008に標準搭載される予 るなか、難しい課題ではあるが善処を望みたい。
定であった。しかしながら、その開発は順調に進まず、  そして、Microsoftに限らない、すべての商用ソフ
WinFSは次期クライアントOSでの搭載と先延ばしに トウェア・ベンダーにとっての重大なテーマではあるが、
なり、Hyper-Vも、Windows Server 2008のファー ソフトウェア製品の提供形態の今後の行方も注目され
スト・リリースには間に合わず、製造工程向けリリース る。初期コストがフリー、もしくはきわめて低コストの
の180日後に出 荷されることとなった。こうした オープンソース・ソフトウェアや、Googleに代表される
Microsoftの製品開発の遅れは常態化してきており、 ような、無料で利用可能なWeb上のアプリケーション・

Active Directoryの
Side Story Windowsプラットフォームの根幹を支える機能の過去、現在、未来 カリスマ

Active Directory進化論 特別寄稿


基幹業務システムにWindowsプラットフォームを採用している企業の多くは、その理由として 「Active Directoryによるドメイン
管理の利便性」 を挙げる。今から8年前、Windows 2000 Serverと共に登場したActive Directoryは、エンタープライズ環境
でWindowsを使ううえでは欠かせない存在となっている。ここではActive Directoryの進化の軌跡をたどりつつ、その将来を展
望してみよう。

横山哲也
グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

鳴り物入りで登場したADも企業は機能を持て余し気味? を利用するほど、大規模な環境じゃない」
と思った企業が多かったからだと筆
P a r t

 筆者とActive Directoryの付き合いは1998年以来なので、かれこれ 者は考えている。


10年以上になる。Windows 2000 Serverが発売される1年前
(1999年)
には、筆者が所属する会社を含めたMicrosoft認定トレーニング・パートナー クライアント管理を強化するグループ・ポリシーも真価が発揮できず……

3

は、Microsoftのパートナー企業に対し、Active Directoryに関する大規  もう1つ、


Windows 2000 Serverで大きく進化したものの、
普及が遅かっ
模な教育コースを数多く開催した。筆者も相当数の教育コースを担当したこ た機能に
「グループ・ポリシー」
がある。これはクライアント管理を強化するも
W i n d o w の

とをおぼえている。 ので、Active Directory環境で利用する。


 当時のユーザーは、Active Directoryに何を期待していたのだろうか。  グループ・ポリシーの基本コンセプトは
「Follow me(ついてこい)」
である。
ユー
 Windows 2000がWindows NT 5.0と呼ばれていた1998年、現在 ザーが利用するクライアントPCを変更しても、特定ユーザー名でログインす

「Windows Server World」
の前身である
「Windows NT World」5月号 れば、自動的にそのユーザー環境を再現する( =環境がついてくる)というも
s 進 化 過 程 か ら 探 る 「 実 力 」 と 「 課 題 」

の特集、
「Active Directoryで変貌するNTネットワークの世界」
を読み返し のだ。
「移動プロファイル」
の機能とあわせて、Microsoftはこれを
「Intelli
てみると、
「Windows NTの最大の課題は、パフォーマンスと拡張性であり、 Mirror」
と命名していた。IntelliMirrorが提供したのは、以下の3点である。
それを解決するのがActive Directoryだ」
と書かれていた。 ●ユーザー設定の維持
 記事には、
「Windows NTのドメインに登録できるユーザーの上限は約4 ●ユーザー・データの維持
万だが、Active Directory環境では数百万人のユーザーを管理できる」
とあ ●ユーザー・アプリケーションの維持
る。なるほど、すばらしい進化だが、冷静に考えていただきたい。数万人の  しかし当時は、
「ユーザー設定は個人の趣味の領域であり、企業側が維持す
社員を擁する会社が、日本にどれくらいあるだろうか。 べき対象ではない」
と考えるIT管理者も
(少なからず)
存在した。また、
ユーザー
 実は、この記事を書いたのは筆者自身である。白状すると、
「従業員が1万 データも、業務上重要なデータはサーバに置くべきだという意見も多かった。
人を超える企業はそう多くはないだろう」
と思いながらも、Microsoftの主張 アプリケーションの自動インストール
(ユーザー・アプリケーションの維持)

をそのまま紹介してしまった。当時、この記事を読んだ人に感想を聞いてみ 魅力を感じたIT管理者は多かったが、同機能を効果的に活用するには、
たい気もする。 「Windows Installer形式(MSIファイル)」
に対応したアプリケーションが必
 鳴り物入りで登場したWindows 2000 Serverだが、
普及の速度は遅かっ 要であり、当時はMSIファイルを採用したアプリケーションは少なかった。今
た。もともとサーバOSは、新製品のリリースと同時に導入する性質のもので でもグループ・ポリシーで配付できないアプリケーションは多い。
はない。しかし、Windows NT Serverと比較した優位点を考えると、もう  こうした観点からActive DirectoryやActive Directory環境上で活用
少し早く普及してしかるべきだったのではないかと思う。 するグループ・ポリシーは、すぐれた機能を有しながらも、あまり普及しなかっ
 ではなぜ、普及が遅れたのか。最大の原因は、
「ウチはActive Directory たのである。

66 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

サービス、そして、SaaS
(Software as a Service)
と  また、ソフトウェアは有料か無料かの議論について
いうソフトウェアの新パラダイム──。圧倒的な市場 も、同社はすでに、無料でダウンロードでき、再配布
シェアの上に成り立っていたMicrosoftのパッケージ・ も可能な
「SQL Server 2005 Express Edition」

ソフト販売ビジネスは、今、大きな転換期にある。 ような製品の提供を始めている。願わくは、コアとな
 同社はこのテーマに対する回答の1つとして、昨年 るWindows Serverもこのような機能限定版の形で
より
「Software + Services」
というコンセプトを掲げ 提供できないものだろうか。Windows Serverが、ク
ている。従来型のソフトウェアとサービスの両方のメ ライアントWindowsと同様のデファクト・スタンダード
リットに着目したこのコンセプトについては、本特集の のポジションをとるには、このような大胆なアプローチ
パート4で解説されているので参照されたい。 も必要だと考えるのは、筆者だけではないだろう。

セキュリティ意識の高まりでActive Directoryが表舞台に
 しかし、その後、大きな転機が訪れる。個人情報保護法
(2003年成立)

代表される、セキュリティ意識の高まりだ。Active Directoryの真価が認
められ、普及していった背景には、企業がITのセキュリティ対策を徹底しな
ければ、ビジネスに大ダメージを受けるというせっぱ詰まった状況があったか
らだ。そして、堅牢なセキュリティを構築するためには、Windows NTでは
不十分だったのだ。  現在、Microsoftが提供する、さまざまなセキュリティ機能は、ほとんど
 そこで脚光を浴びたのが、グループ・ポリシーの活用である。グループ・ポ がグループ・ポリシーの機能を利用する。例えば管理者が承認した更新プロ
リシーが持つ
「管理者が決めた設定でアクセス権などを運用する」
という機能 グラムだけを自動インストールする
「WSUS (Windows Server Update
は、大いに役立った。 Services)」
の構成は、グループ・ポリシーを利用すれば、簡単に展開できる。
 実はWindows NTには
「システム・ポリシー」
と呼ばれる同様の機能も存在 また、Windows Vista標準のスパイウェア対策ツールである
「Windows
していた。しかし、システム・ポリシーには、①階層管理の概念がない、②設 Defender」
や、企業向けセキュリティ製品群
「Forefront」
も、グループ・ポ
定可能な項目が限定される、③クライアントPCの管理権限があれば設定を回 リシーを使って設定すれば、全社の環境を統一できるのだ。
避できる、などの
“特権”
があった。そしてこれらは、
「堅牢なセキュリティを確
保する」
という観点から見ると、十分ではなかったのである。 Active Directoryの今後の課題は
「他社OSフレンドリー」
 一方、グループ・ポリシーにはこうした制約がなかった。利用可能なクライ  では、今後、Active Directoryはどのように進化していくのだろうか。
アントOSがWindows 2000以降という制約はあったものの、もともと  
「セキュリティ管理のインフラ= Active Directory」
という地位は、
(当分は)
Windows NTがクライアントOSとして普及していなかったので、制約と感 揺るがないだろう。Windowsクライアントを利用して、セキュリティを向上
じたIT管理者はほとんどいなかったはずだ。そして、
Windows 98のリプレー させたいのであれば、グループ・ポリシーは最も安価で高機能な
“ツール”
であ
ス時期と重なったこと、
「Windows 98では、抜本的なセキュリティ対策は不 る。そして、グループ・ポリシーを使うには、Active Directoryは不可欠だ。
可能」
という見解がIT管理者だけでなく企業のマネジャー・クラスにも浸透し  Active Directoryの次のステップは、認証の統合だと筆者は考えている。
ていたことなどが要因となり、グループ・ポリシーに注目が集まったのである。 Active Directoryは、基本部分ではKerberosやLDAP
(Lightweight
 一度真価が認められれば、普及に時間はかからない。その後、Windows Directory Access Protocol)
などの業界標準プロトコルを利用している
Server 2003に搭載されたグループ・ポリシーの数も、大幅に増加している。 ものの、規格の許す範囲で独自の拡張も行っている。その結果、他社のOS
 例えば、2005年3月31日公開のグループ・ポリシー設定一覧で、
「管理用 をActive Directoryに参加させることは難しくなっているのが現状だ。細
テ ン プレ ート 」に 含 ま れ る ポリシ ー の 総 数 は1,670あ る。 ち な み に、 かいことを言えば、Microsoftは
「Identity Integration Server」
など、他
Windows 2000 Ser ver以 降 す べ て で 有 効 な ポ リ シ ー 数 は351、 社のOSと連携するための製品もリリースしている。しかし、ユーザーが求め
Windows Server 2003
(/Windows XP)
以降に限定される有効なポリシー ているのは、他社OSをもっとシンプルにActive Directoryに参加させる機
数は342だ。Windows Server 2003はWindows 2000 Serverを踏 能だ
(技術的には、LinuxをActive Directoryに参加させることはできるが、
襲しているので、Windows Server 2003に有効なポリシー数は351と 設定に手間がかかる)

342を足した693となり、Windows 2000 Serverのほぼ倍であること  他社のOSを容易にActive Directoryに参加させることができるようなツー
がわかる。また、
「Internet Explorer
(IE)6」
関連のポリシーが806あるの ルを、オープンソース・コミュニティに開放してほしいと考えているのだが、
に対し、IE 5はわずか98しかなかった。 いかがだろうか。

June 2008 Computerworld 67


4
Part
マイクロソフトが描く
次世代ITモデルの構成要素

「Software+Services」
時代の
Windowsプラットフォーム
各種のソフトウェアおよびサービスを、ユーザーの使いたい場所・時間・形態に応じて提供する。今、Microsoftが
掲げている
「Software+Services」
は、このようなユーザー中心のコンピューティングを真の意味で実現するための
コンピューティング・モデルである。本パートでは、Software+Servicesを実現するための技術基盤としての
Windowsプラットフォームという観点から、アプリケーション開発プラットフォームの.NET Framework 3.0/3.5
やVisual Studio 2008、
サーバOSのWindows Server 2008、
RDBMSのSQL Server 2008について見ていく。

鈴木章太郎
マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリスト
早稲田大学 講師(非常勤)

ある。
Software+Servicesとは  S+Sモデルの下、ユーザー企業は、利用するソフ
トウェアの形態を
“選択”
することになる。例えば、シ
 CPUの処理速度向上、ストレージの容量拡大、そ ステムのカスタマイズや拡張に対する柔軟性、高速な
してネットワークの広帯域化を背景に今、コンピュー レスポンス、リッチなユーザー・エクスペリエンスの提
ティング環境はシステム中心からユーザー中心へとシ 供が求められる用途には、社内で構築するソフトウェ
フトしつつある。このようなユーザー中心のコンピュー アを選び、一方、低コストの運用管理、柔軟な課金
ティングでは、だれもが、いつでも、どこにいようとも モデルが求められる用途には、インターネットを介し
必要な情報にアクセスでき、それを活用することで、 て利用する社外のサービスを選ぶといった具合だ。
ワークスタイルやライフスタイルを革新するための機 そして、社内ソフトウェアと社外サービスは必ずしも
会を最大化していくことが目指されている。 二者択一で選ばれるのではなく、コンポジット
(組み
合わせ)
型の構成をとることもでき、ここがS+Sの最
両方の利点を融合したハイブリッド・アプローチ 大の特徴となっている
(図1)

 こうしたビジョンを実現するための次世代コン
ピューティング・モデルとして、現在、Microsoftは、 コンポジット構成のメリット
「Software+Services」
(以下、S+S)
を推進している。  S+S、すなわちソフトウェアとサービスのコンポジッ
S+Sは、ソフトウェアとサービスの両方の利点を融合 ト構成は、ユーザー企業にどのようなメリットをもたら
させたハイブリッド型のアプローチであり、このイニシ すのか。いくつかの観点から、両モデルを比較しなが
アチブの目的は、個人の生産性やユーザーの満足度 ら考えてみたい。
を可能なかぎり高めることのできる、真の意味での  まず、ITリソースを使った分だけ支払うという柔軟
ユーザー中心のコンピューティングを実現することに な課金モデルを実現しやすいのは、明らかにサービス

68 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

のほうである。また、購入前に 図1:S+Sのコンセプトに基づく、ソフトウェアのコンポジット構成

試用が可能な点や、ハードウェ SaaS
(会計)
アや運用にかかる労力・コストの
ITサービス・ポートフォリオ
面でもサービスが有利だろう。
 一方で、企業ユーザーが、自 SaaS
(CRM) 会計
社における要件やコンプライアン
スに沿って自由にコントロール可 統合
構成
CRM アーキテクチャ
能であるという面においては、 アーキテクチャ
ユーザー
従来型のソフトウェアに軍配が
連携
ポータル
上がる。また、柔軟なカスタマイ
ズ、拡張あるいは統合といった
面でサービスには限界があり、
これもソフトウェアが有利だ。そ
メール・システム
して、ユーザー・エクスペリエン
スの観点でも、ハードウェアに 画面1:
「Microsoft SQL Server」
のSaaS版
「SQL Server Data Services」
(http://www.microsoft.com/sql/dataservices/)
備わるグラフィックス・パワーを十分に引き出すことが
でき、オフラインでの利用も可能なソフトウェアが勝っ
ている。
 このように、両者は決してどちらか一方がすぐれて
いるという関係ではない。そのため、ローカルに存在
するソフトウェアと、オンラインで提供されるサービス
とを適材適所の形で組み合わせることができるという
点こそが、S+Sの最大のメリットと言える。
 Microsoftは、今後、同社が提供するすべてのソ
フトウェアとサービスについて、何らかの形でこのS+
Sのコンセプトを取り入れ、提供していくことを明言し
ている。
 米国Microsoftのチーフ・ソフトウェア・アーキテクト、
レイ・オジー(Ray Ozzie)
は、今年3月5日にラスベガス
で開幕されたWeb開発者向けコンファレンス
「MIX08」
の基調講演において、
「既存製品とサービスのすべ
S+Sの技術基盤①
てを、インターネットによって作り変える」
と述べ、
.NET Framework 3.0/3.5
RDBMSの
「Microsoft SQL Server」
のSaaS
(Soft
ware as a Service)
版となる
「SQL Server Data Ser  S+Sを構成する技術を具現化するうえでコアとな
vices」
(画面1)
の概要など、Microsoftが描くS+S戦 るのは、Microsoftのアプリケーション開発プラット
略について詳細な説明を行っている。 フォームの最新バージョン
「.NET Framework 3.0/
 それでは、S+Sを具現化する技術基盤としての 3.5」
である。.NET Framework 3.0/3.5では、S+S
Windows製品ファミリーについて、順に見ていくこと のコンセプトに沿ったアプリケーションを設計・開発
にしよう。 するための各種クラス・ライブラリ/技術が提供され

June 2008 Computerworld 69


図2:.NET Framework 3.0/3.5の技術スタック ネット・アプリケーションの開発/実行環境である
「Silverlight」
、ブラウザ拡張の
「ASP.NET AJAX」

.NET Framework 3.5
●ASP.NET
AJAX ウィジェット・アプリケーションの
「Vista Sidebar
●.NET
LINQ
●基本クラス・ライブラリ、 など
Gadget」
などが提供される。
 .NET Framework 3.0/3.5において、各種のアプ
.NET Framework 3.0 リケーションの相互運用を制御するのは、Windows
●Windows (WPF)
Presentation Foundation
●Windows Workflow Foundation (WF) Communication Foundation
(WCF)
だ。開発者は、
●Windows Communication Foundation (WCF)
●Windows CardSpace
さまざまなアプリケーションを統一的な手法で接続さ
せるWCFによって、サービス指向アプリケーションの
.NET Framework 2.0 構築をより容易に行えるようになり、社内のみならず
●基本クラス・ライブラリ
●ASP.NET 社外のサービスも加えたコンポジット構成をとること
●ADO.NET
●Windows Form が可能となる。ちなみにWCFは、.NET Framework
3.5で強化され、
Windows Workflow Foundation
(WF)
との連携がより緊密になった。

 WFは、定義したワークフローの入出力にWCFの

(図2)
。 サービスを用いることで、社内外の外部クライアント
P a r t

 .NET Framework 3.0/3.5のプレゼンテーション との連携を実現する。Microsoftは、この連携を旧来


層では、クライアントOSのWindows VistaにGUI/ のWebサ ービ ス に 対 し て
「Workflow Ena bled

4 「

ユーザー・エクスペリエンスを提供する
「Windows Services」
と呼んでいる。Workflow Enabled Servi
Presentation Foundation
(WPF)
」、リッチ・インター cesの下では、ワークフローを内部に持つサービスを
S o f t w a r e+

Elizabeth Montalbano IDG News Serviceニューヨーク支局

コンシューマー向けS+Sと目される
「Albany」
プロジェクトの正体は?
S e r v i c e s」 時 代 の

 
「Google Docs」
や「Google Apps」
といった米国Googleのホステッド型 PowerPointを含む
「Office Home and Student 2007」
が中心になる可
オフィス・スイートに対抗するべく、米国Microsoftが新プロジェクト
「Albany」 能性が高い。米国でのOffice Home and Student 2007の小売価格は
(開発コード名)
の開発を秘密裏に進めているようだ。今年3月末に、同社に近 149ド ル95セ ント だ。 こ れ に 対 し、Outlookを 含 むOf fice 2007の
い情報筋が明らかにした。 Standard版は399ドル95セントで、250ドルの価格差がある。
 この情報筋によると、Albanyは
「Microsoft Office」
のような、インストー  Microsoftの広報担当者は3月26日、Albanyという開発コード名を持つ製
ル型のオフィス・スイートと、
「Office Live Workspace」
「同OneCare」
「同 品のベータ版テストを開始したことは認めたものの、詳細は明かさなかった。
Suite」
などの
「Office Live」
ホステッド型サービスを統合した小・中規模/コ  Microsoftにとって、
Googleなどが提供する低コストの
「オフィスSaaS」
は、
W i n d o w プ

ンシューマー向けパッケージ製品で、BestBuyなどの小売店を通して販売さ もはや無視できない存在になってきている。同社が長年支配してきたパッケー
れる見通しだという。ただし、Albanyに含まれるのは、Office Liveホステッ ジ・ソフトウェアの領域をじわじわと浸食しているからだ。これに対抗するため、
ド型サービスではなく、デスクトップ 版のOneCareや
「Windows Live パッケージ・ソフトをメイン事業に据え、販売してきたMicrosoftも、オンラ
Messenger」
「Windows Live Writer」
といったクライアント・アプリケーショ イン・ソフトウェアを提供し、Software+Service構想に基づく具体的なサー
ンが含まれるとの情報もある。 ビスの投入を始めている。
s ラ ッ ト フ ォ ー ム

 Microsoftが一部のテスターにAlbanyベータ版の試用を依頼していると、  
「複数のバージョンを持つパッケージ版Officeが今後もコンシューマー市場
匿名の情報提供者は述べている。ただし、一切の情報を開示しないことがテス やビジネス市場で成功し続けるとしても、将来的にはホステッド版のOfficeも
ターの条件となっている。今回のベータ版は、パッケージの統合インストーラ 提供する」
と、あるMicrosoft幹部は過去に語っている。同社は、サービスを
のテストが主目的のようだ。 拡充するSoftware+Services構想を推し進めながら、既存のパッケージ・
 Microsoft Officeの機能がどの程度、Albanyに入るかは不明だ。低価格 ソフトウェア・ビジネスとの
“共食い”
にならないよう、Albanyをハイブリッド製
を1つ の 売 り に す る と 見 ら れ るAlbanyは、 お そ ら くWordやExcel、 品として販売しようと考えているのかもしれない。

70 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

実現する、ワークフロー中心の分散アプリケーション 画面2:
「Visual Studio 2008」
は、.NET Frameworkの複数のバー
ジョンをサポートしている
の開発が可能だ。
 加えて、企業のシステム管理者は、かつて
「Info
Card」
の開発コード名で呼ばれていたアイデンティ
ティ管理技術の
「Windows CardSpace」
を採用する
ことで、増大する一方のエンドユーザーのアカウント/
パスワード管理にかかる労力やリスクを軽減し、フィッ
シング詐欺などのセキュリティ被害の発生を最小化で
きるようになる。

S+Sの技術基盤②
Visual Studio 2008
 上述した.NET Framework 3.0/3.5に対応するア
プリケーションを開発するための統合開発環境
(IDE) アプリケーションやWebデザイン・ツール
「Microsoft
として、2007年12月に
「Visual Studio 2008」
がリリー Expression」
との連携による、ユーザー・インタフェー
スされた。 ス・デザイナーとの共同作業、
「Microsoft Office」

 Visual Studio 2008は、
Visual Studioの最新バー プリケーションの構築、Webアプリケーションの構築
ジョンとして、すぐれたユーザー・エクスペリエンスを など、異なる要件に合わせて最適なアプリケーション
提供しうるアプリケーションを迅速に構築するための を配備する必要があるケースで、大きな効果を発揮す
機能群を提供する。.NET Frameworkの複数のバー ることになる。
ジョンをサポートしており、開発者は、開発目的に応
じて、2.0/3.0/3.5の3バージョンを切り替えて使うこ 最新のWebアプリケーション開発技法に対応
とが可能だ
(画面2)
。 その際、開発ツール自体がバー  普及が進むWebアプリケーションを開発するための
ジョンの違いを正しく認識し、コンパイラや入力支援 機能も大きく拡充されている。具体的には、Web UI

「IntelliSense」
などの同期実行が行われる仕組み の最新技法であるAjax
(Asynchronous JavaScript
になっている。 +XML)
スタイルのリッチなWebアプリケーションの
構築において、Ajaxアプリケーション開発環境自体
データ・アクセス/開発スタイルの統一化 の強化、ASP.NET AJAXへの対応、JavaScript
 Visual Studio 2008では、Visual Studio 2005 対応のIntelliSense、デバッガ機能の強化などが施
Team Systemで提供されていた単体テスト機能の統 された。
合、
「.NET LINQ」
(Language Integrated Query:  先に紹介したMIX08コンファレンスで発表された、
統合言語クエリ)
のサポートなどにより、データ・アク RIA開発/実行環境の最新バージョン
「Silverlight 2」
セスの統一化が図られており、チーム開発時の効率 (本稿執筆時点ではベータ1)
は、通称
「.NET on the
を向上させることができる
(72ページの図3)
。各種の Web」
と呼ばれるクロスプラットフォーム/クロスブラ
アプリケーションの開発を統一的な作業環境の下で ウザ対応のブラウザ・プラグインである。なお、Micro
行えるので、チームで共有する知識や経験を生かし softはSilverlightを、.NETとWebの統合を促進し、
た作業が可能となるわけだ。 .NETを次世代のWebプラットフォームへと昇華させ
 例えば、WPFをベースとしたWindows Vista用の るための主要技術の1つとして位置づけている。

June 2008 Computerworld 71


図3:Visual Studio 2008で強化されたチーム開発

アーキテクト 開発者 テスト担当者

システムの定義 システムの実装
システムの検証
テスト・コード
SDM
ソリューション (システム定義 プロジェクト 各種テスト
モデル)
ソースコード

ビルド

データベースの設計・変更

DBプロジェクト スキーマ テスト用DB


プロジェクト・ データベース・
マネジャー プロフェッショナル

タスク/不具合管理 プロジェクト管理 プロジェクト・ポータル


P a r t

ビルド・プロセス自動化 構成管理 品質/進捗リポート化



4 「

 そのほかには、品質向上のためのデザイン・ツール れは、ソースコードのチェックイン時に自動的にビル
S o f t w a r e+

やWebテスト・ツールの強化、サービス・プロセス機 ドを実施し、変更された機能が他の機能に影響を与
能の強化、REST
(Representational State Trans えないことを確認するための機能である。
fer)
を採用したWeb 2.0系アプリケーションのサポー  このほか、開発テストとアプリケーション品質確保
ト、ワークフローおよびコミュニケーション・ツールの のための機能として、取得済みのパフォーマンスの基
S e r v i c e s」 時 代 の

強化、
Webアプリケーションのデザインに対するサポー 準値を基に差分を数値化し、パフォーマンスの全体
トの拡充などがポイントとして挙げられる。 最適を実現する機能や、ソースコードを分析し、コー
ドの複雑性を数値化するコード・メトリクス機能が用
大規模開発プロジェクトに不可欠なALMの強化 意されている。
 チーム開発/運用の効率化を推進するアプリケー
ション・ライフサイクル・マネジメント
(ALM)
は、特に
S+Sの技術基盤③
大 規 模な開発プロジェクトにおいて重 要となる。
Windows Server 2008
W i n d o w プ

Visual Studio 2008では、ALM関連機能も大幅に


強化され、大きな特徴の1つとなっている。  ソフトウェアとサービスのハイブリッド・モデルであ
 同IDEには、チーム・コラボレーション機能として るS+Sにおいて、その実行基盤となるOSプラット
s ラ ッ ト フ ォ ー ム

コード・コメント機能が備わっている。この機能は、
ソー フォームは、当然のことながら、リプレースを強制され
スコードの行単位で変更履歴を取得したうえで作業 るようなものであってはならず、ユーザー企業の既存
項目と連動し、どの行の修正をいつ、だれが、どんな 資産を保護できるものである必要がある。この点から、
理由で実施したかを記録・追跡できるようにするもの 世界中の企業で採用されているWindows Serverを
だ。また、常時結合という機能も用意されている。こ S+SのOSプラットフォームとして採用することは、理

72 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

にかなった選択であると言える。 堅牢性の強化
 今年4月に国内で製品版がリリースとなったWindows  アイデンティティ管理とアクセス制御をつかさどる
Server 2008は、新しい仮想化技術やネットワーク保 ディレクトリ・サービス
「Active Directory」
を核に、
サー
護技術をはじめとした数多くの機能強化・改善によっ バとネットワークを種々の脅威から保護するための機
て、基幹業務にも堪えるサーバOSとしての信頼性や 能強化が施されている。例えば、検疫ネットワークで
管理性、柔軟性をさらに向上させている。 クライアントPCを保護するNAP
(ネットワーク・アクセ
ス保 護)やWindowsファイアウォール、Windows
管理性の強化 Vistaのデバイス使用の制御、バックアップなど、従
 Windows Server 2008には、システムの運用管理 来から備わる機能がさらに強化された。また、システ
にまつわる日々の作業負担を軽減し、コストを削減す ムのダウンタイムを削減して高い可用性を確保するた
るための機能が多数備わっている。サーバ機能の容 めのフェールオーバー・クラスタリングも備わる。
易な構成を可能にする統合管理コンソール
「サーバー
マネージャ」
や、GUIを省いた管理コンソールのみの 柔軟性の強化
構成
「Server Core」
などだ。加えて、UNIXサーバ  柔軟性の強化に関する機能としては、ハイパーバ
の管理者にはおなじみの管理手法である、スクリプト イザ を 採 用 し た 新 設 計 の サ ーバ 仮 想 化 技 術
による管理タスクの自動化を可能にする
「Windows 「Hyper-V」
(旧称:Windows Server Virtualiza
PowerShell」
が用意されている。 tion/開発コード名:Viridian)
をはじめ、Windows

Computerworld編集部

「Office Live Small Business 日本語版」


が正式スタート
 マイクロソフトは3月6日、小規模企業を対象にしたホスティング・サービ リティも実現しているという。

「Office Live Small Business 日本語版」
の正式運用を開始した。  サポート体制については、登録後30日間であれば、無料電話サポートが受
 Office Live Small Businessは、
IT管理者がいない小規模企業を対象に、 けられる。なお、登録後30日以降は、メールによる無料サポートとなる。
独自ドメインを利用できるホスティングやWebサイトの構築支援、
「Windows
SharePoint Services」
を利用した基本的なマネジメント、
従業員コラボレー
ション、CRM などの機能を、 「Office Live Small Business 日本語版」
(Customer Relationship Management) のポータル画面
オンライン経由で提供するサービスである。なお、2006年12月にベータ・
プログラムが開始された当初は単に
「Office Live」
という名称だったが、正式
運用を機に名称が変更された。
 サービスの運用はマイクロソフトが一括して行い、ユーザーはPCからWeb
経由で同サービスを利用できる。同社は
「大きな投資を必要としない。登録し
た当日から利用可能で、多くのサービスは無料で提供される」
と利点を強調し
ている。なお、約2年間のベータ・プログラム期間中には、約2万4,000社の
ユーザーからフィードバックがあったという。
 今回の正式運用で改良されたのは、
「新規登録プロセスの簡略化」
「インタ
フェースの改良」
「独自ドメインの初年度無料化」
「電子メールサービスのディ
スク容量拡大」
「Webサイトデザインの操作性向上」
「Outlookとの連携強化」
「専用ワークスペースの充実化」
などである。
 なかでも専用ワークスペースは、
「Windows SharePoint Services
3.0」
ベースの情報共有基盤であるワークスペースが装備されており、50MB
のディスク容量と5名分のユーザー・アカウントが無料で提供される。また、
Windows Live IDによるユーザー認証と、共有128bit SSLによるセキュ

June 2008 Computerworld 73


展開サービス
(WDS)
、場所に左右されないアクセス て明示的に暗号化/復号を行う必要があったところ、
環境を実現するターミナル・サービスの強化が挙げら SQL Server 2008では、既存のアプリケーションを
れる。また、遠隔の事業所内のサーバを管理するケー 変更せずに、データベース内のすべてが暗号化できる
スで用いられる読み取り専用のドメイン・コントローラ ようになった。また、データベースが事前に定義した

「BitLockerドライブ暗号化」
機能などが提供される。 ポリシーに従っているかどうかを確認する
「Declarative
Management Framework」
、企業全体の監査リポー
 このほか、Windows Server標準のWebアプリケー トの一元管理機能なども追加されている。
ション基盤
「Internet Information Services
(IIS)

はバージョン7.0に進化している。IIS 7.0には、オン サーバ統合機能の強化
メモリ・プロセスのFastCGIが最初から備わっており、  分類したワークロードに従って、CPUやメモリなど
これを用いると、例えばLinux上のPHPソースコード のリソース利用率を制限する
「リソースガバナ」
機能が
が、そのまま改変なしで数倍から数十倍の処理速度 用意される。1つのデータベース内で複数のアプリケー
で実行可能になるという。 ションが動作すると、各アプリケーション間でのリソー
  ス調整が必要になるが、同機能を用いることで、これ

を詳細に調整できるようになった。例えば、ある優先
S+Sの技術基盤④
SQL Server 2008 順位の低いアプリケーションのワークロードが、CPU
P a r t

を5%しか利用できないように制限することが可能だ。
 Microsoftの次期RDBMSであるSQL Server ただし、他にワークロードがまったく動作していない

4 「

2008は、2008年第2四半期にリリースが予定されてい のに常時5%しか利用できないのでは、リソースの有
る。現行のSQL Server 2005は、米国NASDAQや 効活用の面で問題になるため、こうしたケースでは制
S o f t w a r e+

英国LSE
(ロンドン証券取引所)
、日本の百五銀行など、 限が自動的に解除される仕組みになっている。そのた
大規模かつミッション・クリティカルな環境で稼働実 め、バッチ・ファイル処理に割り当てるリソースを昼
績を積んできている。SQL Server 2008は、SQL 間に5%、夜には100%といった設定も可能である。
Server 2005のアーキテクチャや機能、操作体系を
S e r v i c e s」 時 代 の

継承したうえで強化や改良が施されている。そのため 大規模データ・ウェアハウスへの対応と
ユーザーは、開発スキルや運用・バックアップなども 管理性の向上
含め、既存の資産を生かしての移行が可能である。  大規模データ・ウェアハウスの構築などで重要とな
 SQL Server 2008に備わる100近い新機能は、 るデータ・パーティション機能が強化された。パーティ
Improvementと呼ばれる専門の開発チームによって ションをまたがるクエリについて、SQL Server 2005
開発作業が進められてきた。そこでは、
製品クオリティ ではシングルスレッド処理しか対応していなかったが、
に近づいたときに初めて、開発のメイン・ラインに組 SQL Server 2008では並列処理をサポートし、パ
W i n d o w プ

み込むというプロセスを採用し、製品の信頼性向上に フォーマンスを大幅に向上させている。さらに、運用
努めている。 時のデータ圧縮機能が実装されるほか、データ圧縮
後に書き出すバックアップ圧縮機能も備わっている。
s ラ ッ ト フ ォ ー ム

コンプライアンス関連機能の強化
 SQL Server 2008では、
コンプライアンス
(法令順守) ビジネス・インテリジェンスのための機能
がメイン・テーマの1つに掲げられており、それを実現  Webリポーティング機能が強化された。ゲージ表
するための改良が施されている。そのうちの1つに、透 示を可能にするなど、
「Report Designer」
で選択可
過的なデータ暗号化がある。これまでは関数を利用し 能なグラフを増やし、表現力を増している。加えて、

74 Computerworld June 2008


多角
検証

特集
Windows
プラットフォーム2008

空間情報をサポートし、経度・緯度情報をデータベー 用することの価値について検討することになる。例え
ス内に格納できるほか、地図情報サービスWeb API ば、自社のコーポレートWebサイトに、ホスティング

「Microsoft Virtual Earth」
との統合もサポートし 型の社外のCRMシステムや、その上にあるBPO
(ビ
ている。また、2007 Office Systemとの緊密な統合 ジネス・プロセス・アウトソーシング)
サービスの機能な
が可能であり、それにより、全社で利用するBI基盤 どを組み合わせて提供し、バックエンドの顧客情報
の構築が実現される。 システムなどと連携をとるといったケースである。
 こうすることにより、これまで会社案内のような紙

S+Sによる 媒体と同じ役割であった静的なサイトが、ダイレクト

ITインフラ改革に備える に顧客に開かれたチャネルとして企業に新たな収益
をもたらす。あるいは、従業員に、ビジネス・ツール
 S+Sは、従業員の生産性向上を図りつつ、企業に の1つとしての外部サービスの利用を促すことになり、
競争力とイノベーションをもたらすための手段である。 生産性や業務品質の向上を促進することになる。こ
企業のIT/IS部門はこの新しいコンピューティング・ れこそが、S+Sが実現しようとしている、真にユーザー
モデルに基づき、これまでの社内ITインフラの最適化 中心のコンピューティングの1つの形なのである。
に加え、社外のサービスを取り込んだ複合的なITイ  今後は、こうした手法をIT部門主導で検討し、経
ンフラを構築し、その戦略的活用を考えるフェーズに 営や業務に変革をもたらすことが目指される。そうし
入ることになる。 た動きに今から注目し、自社での利用開始のタイミン
 その際には、社内外のサービスを組み合わせて利 グを計っていただきたい。

Nancy Gohring IDG News Serviceシアトル支局

グーグルとのホステッド・サービス競争に自信を見せるゲイツ氏
「グーグルが最高の仕事をするのは新サービスの発表日だけだ」
 米国Microsoftは3月2日、企業向けホステッド・サービス
「Microsoft それは、ホステッド・サービスによるライセンス料と、それに付随する事業から
Online Services」
のサービス対象を拡大すると発表した。対象が拡大された の収入を獲得するという
“攻め”
の側面。もう1つは、
Googleなどホステッド・サー
のは、グループウェアの
「SharePoint Online」
と、メッセージング・ツールの ビスの強敵が仕掛けてくる侵攻を食い止めるという
“守り”の側面だ」
「Exchange Online」
である。両サービスは、
2007年9月に提供が始まったが、  しかし、Gates氏は、Googleとの競合にも動じる様子はない。同氏は、
利用できるのは、ユーザー数が5,000名以上の大規模企業に限定されていた。 Googleが提供しているサービスを、以下のように痛烈に批判した。
今後は、企業規模を問わず、これらのホステッド・サービスが利用可能となる。  
「Googleのサービスには、多機能であるという
“リッチ性”
と、(ユーザーの操
 なおMicrosoftは現在、米国に拠点を構える企業を対象にした、同サービ 作要求にすぐに反応するという)
“反応性”
が決定的に欠如している。そのため、
スのベータ・テストを実施している。同社によると、一般企業への提供は “そこそこ”
の成功しか収めていない。Googleは新サービスを発表して話題を
2008年下半期を予定しているという。 作るのは得意だが、人々の関心を維持することはできない。率直に言って、
 Microsoft会長のビル・ゲイツ
(Bill Gates)
氏は3月3日、シアトルで開催さ Googleが最高の仕事をするのは、
(新サービスの)
発表当日だけだ」
れた年次コンファレンス
「Microsoft Office SharePoint Conference  一方、アナリストらは、今後、Microsoftがこの分野に本格参入することで、
2008」
で基調講演を行い、これらのホステッド・サービスを紹介したうえで、 さまざまな課題を抱えることになると見ている。
「Microsoftは業界最大級の
「2008年末までには、あらゆる規模の企業顧客に、同ホステッド・サービスを 一般向けポータル・サイトを運営しているが、企業を対象にした大規模な
提供していきたい」
と語った。 SaaSの提供には、高可用性、セキュリティ、マルチテナント・アーキテクチャ、
 一般提供が開始されれば、Microsoftはホステッド・サービス分野において ネットワーク・トポロジー、問題解決などに関する高度な専門知識が要求される」
米国Googleと真っ向勝負をすることになる。Googleは2月28日、コラボレー (Cain氏)
ション/コミュニケーション・ツールのホスティング・サ ービス
「Google  とはいえ、小・中規模企業にとってMicrosoftのホステッド・サービスが魅
Sites」
をリリースしている。 力的に映ることはまちがいない。Gartnerは2012年までに、企業内で使われ
 米国の市場調査会社Gartnerのアナリスト、
マット・ケイン
(Matt Cain)
氏は、 るメールの総シート数の20%がホスティング・サービスへ移行すると予測して
次のように指摘する。
「MicrosoftのSaaS戦略は、2つの側面が共存している。 いる。ちなみに2007年の同数字は、わずか1%だった。

June 2008 Computerworld 75


特別
企画

VMwareの導入から
配備までを
「誌上ハンズオン」

サーバ仮想化
導入ステップ

ガイド
システムのダウンタイム短縮や柔軟性の向上、さらにはサーバ・マシンの利用率向上など、サーバ仮
(小・中規模企業)
想化技術はさまざまなメリットをもたらす。しかし、特にSMB においては、 「自社の
場合、投資に見合う効果があるのか」「少人数のITスタッフと限られた資金で導入できるのか」 といっ
たハードルが立ちはだかり、なかなか導入に踏み切れないでいるのが実情だ。そこで本企画では、
サーバ仮想化の導入プロセスをステップ・バイ・ステップ形式で解説し、導入に際しての注意点や
効果的な配備方法を指南していく。犯しやすい過ちやそれによって起こる結果など、一般的なマニュ
アルではなかなか知りえない問題をあぶり出すために、 」
「フェルゲンシュマイヤー(Fergenschmeir)
という架空企業での導入シナリオを設定して解説している。自社での導入をイメージしながら、何が
成功し、どこが失敗したのかを見届けていただきたい。
Matt Prigge
InfoWorld米国版

June 2008 Computerworld 77


特別
企画

サーバ仮想化
導入ステップ

ガイド

Step 1 聞いた。その結果、仮想サーバのポータビリティ性と
いった明らかなメリットに加えて、特定のハードウェ

サーバ仮想化の目的を アにしばられないことや、サーバ統合によりITコスト

考える を削減できることも判明した。
 事業部門が実際に仮想化へ関心を示したのは、そ
 Fergenschmeir社がサーバ仮想化の検討に入った の1カ月後のこととなる。Fergenschmeirのビジネス
きっかけはいくつかある
(画面1)
。2007年5月、インフ に不可欠な存在でありながら、まったくサポートされ
ラストラクチャ・マネジャーのエリック・ブラウン
(Eric ていなかったCRM
(顧客関係管理)アプリケーション
Brown)氏は、サマー・インターンとして意欲的に仕 用サーバが突然クラッシュしたからだ。アプリケーショ
事をこなしていたマイク・ベイヤー(Mike Beyer)氏を ンを再インストールする方法をだれも知らなかったた
採用した。Beyer氏は入社早々、
「社内でサーバを仮 め、復旧するまで4日間もダウンしたままだった。原因
想化している割合は?」と聞いてきた。もちろん、答 はすでに倒産したソフトウェア開発元にあったが、こ
えはゼロだった。ソフトウェア開発チームは、開発プ の失態はIT部門にとって大きな汚点となり、同社で
ロセスを効率化するために米国VMwareの「VMware キャリアを積み始めたばかりのBrown氏にとって、幸
Workstation」
と「VMware Server」
をごく少数だけ 先の悪いスタートとなった。
利用していたものの、サーバ仮想化の本格導入を考  最終的にサーバ仮想化の導入を決定づけたのは、
えたことはなかった。だが、Beyer氏のこの何気ない FergenschmeirのCEO、ボブ・ターシタン
(Bob Ter
質問をきっかけに、Brown氏はサーバ仮想化を真剣 sitan)氏が日ごろからIT業界誌/サイトに目を通して
に検討してみることにした。そして、まずは市場調査 いたことだ。同氏は気に入った記事を見つけると、
に乗り出した。 CTOのブラッド・リヒター
(Brad Richter)氏に、
「この
 Brown氏は、ITチームに早速相談し、過去に直面 Webポータルの記事を読んだのだが、わが社でもや
した問題と仮想化がその解決策になりうるかどうかを らないか? 携帯に電話してくれ」
といった内容の電子
メールを送っていた。いつもならRichter氏が言葉を
画面1:サーバ仮想化導入の舞台となるFergenschmeir社。Webサ 濁したり、とんでもない予算を提出したりするうちに、
イト(http://www.fergenschmeir.com/)
はあるが、あくま
で架空の会社だということをお忘れなく
Tersitan氏はあきらめて別のプロジェクトに興味を向
けるのだが、InfoWorldで「サーバ仮想化導入ステッ
プ・ガイド」を読んでいたため、同社が抱える問題を
解決するにはこれしかないと確信していたようだ。
Brown氏は、そのころすでに市場調査を終えており、
CEOの承諾を得たからには前進あるのみだった。大
失態は一転してチャンスとなったのだ。

Step 2
試用版で
事前検証を行う
 Brown氏は、サーバ仮想化がディザスタ・リカバリ
とサーバ利用率の向上にいかに役立つかをよく理解

78 Computerworld June 2008


サイバー・セキュリティ
[罪と罰]

していた。CEOからもゴー・サインが出ている。 画面2:
「VMware
 ESX Server」は、サーバ仮想化ソフトとして最も
普及している製品で、市場での信頼性も高い
 ただ、Brown氏は、IT部門に仮想化の経験がほと
んどないことに不安を抱いていた。一番詳しいのは
Beyer氏だったが、それとて仮想化環境を少しばかり
管理した程度の経験しかなく、新たな仮想化アーキ
テクチャを一から設計したことがあるわけではない。
 スタッフから出ていた反対意見も悩みの1つだった。
サーバ管理者のエド・ブラム
(Ed Blum)氏とメアリー・
エドガートン
(Mary Edgerton)氏 は、VMware
Serverと
「Microsoft Virtual Server」
を以前使っ
ていたが、パフォーマンスに関して不満を抱いていた。
データベース管理マネジャーのポール・マルコス
(Paul
Marcos)氏も、仮想ディスクのI/Oはトラブルが多発
するとの記事を読んだことがあるとして、仮想化プラッ
トフォーム上にデータベース・サーバを配備することに
二の足を踏んでいた。 発揮した。それまで懐疑的だったMarcos氏でさえ、
 Brown氏とRichter氏は、1カ月以内にベンダーか ディスクのスループットに目を丸くしたほどだ。Mar
らプロポーザルをもらう予定だとTersitan氏へすでに cos氏は、基幹系データベース・サーバへの仮想マシ
伝えていたため、いくつか不安材料はあるものの、プ ンの使用についてはまだ自信を持てなかったものの、
ロジェクトを進めていくことにした。両氏はまず、他 ワークグループ・アプリケーションの多くは仮想化の
社がどのようにシステムを構築したかを知るために、 候補になりうると断言した。
できるだけ多くの資料に目を通した。Brown氏は、  事前検証を終えたRichter氏とBrown氏は、2週
Beyer氏に「VMware ESX Server」の試用版を用 間もあればTersitan氏に具体的なプランを提出でき
いて、テスト環境を構築するよう指示した
(画面2)
。 ると、自信を深めた。
IT情報を扱うブログで、サーバ仮想化ソフトとして
ESX Serverの評判が高かったからだ。 Step 3
 数日後、Beyer氏はESX Serverを導入し、テス
ト用の仮想化環境で仮想マシンを走らせてみた。そ
キャパシティ
・プランニングを
の結果、仮想化プラットフォームと通常のサーバとで
行う
は、ハードウェア要件が異なることがわかった。テス  FergenschmeirのITマネジャーらは、サーバ仮想
ト用サーバに搭載されていた4GBの物理メモリでは、 化ソフトによるパフォーマンスをテストし、十分な性能
4台以上の仮想サーバを同時に動かすことはできず、 を発揮すると判断した後、具体的な導入計画を立て
また、オンボードの2つのネットワーク・インタフェース る必要があった。Brown氏とRichter氏は、プランニ
だけでは、
ネットワークの帯域幅が狭すぎて、仮想サー ングにあたり、
「各サーバにどういう役割を持たるか」
バを増やせなかった。 「何を仮想化できるか」
という基本的な2点を明確にし
 こうした制約はあったものの、彼らが配備したテス なければならなかった。
ト用の仮想マシンは安定しており、Brown氏のチーム  Richter氏は、各チームにサーバ・ベースのアプリ
が予想していたよりも、ずっと高いパフォーマンスを ケーションと、それらのアプリケーションをインストー

June 2008 Computerworld 79


特別
企画

サーバ仮想化
導入ステップ

ガイド

ルしてあるサーバのリストを作成するよう指示した。 ハイパーバイザが、ホスト・サーバの“生”のパフォー
Brown氏は、作成したリストを基に、サーバとアプリ マンスを約10%消費していたため、仮想化ホストの実
ケーションの依存関係を表す依存ツリーを作成した。 際的なキャパシティは、仮想化されていないホスト・
サーバの90%であることがわかった。利用率90%以
物理サーバの役割を正しく評価する 上のアプリケーションを仮想化環境で運用すれば、
 Brown氏は、完成した依存ツリーを見て、サーバ パフォーマンスが悪化するおそれがあるため、サーバ
に対するアプリケーションの割り当てを従来のままに を統合する意味もない。
するのは非効率だと判断した。データセンター内にあ  さらに、利用率を測定するのは容易ではなかった。
る約60台のサーバのうち、20個に及ぶアプリケーショ Windowsマシンで「Perfmon」
、Linuxマシンで「SAR」
ンを継続的に運用していたのは、わずか4台のサーバ などの性能測定ツールを使えば、特定サーバの利用
だった。このような状況となった最大の理由は、異種 率は簡単にわかるものの、そのサーバが別のサーバと
アプリケーションの“データベース処分場”として使わ どういう関係にあるかまでを把握するのは一筋縄では
れていた、2、3台のSQLデータベース・サーバにあり、 いかなかったからだ。
アプリケーションがサポートしているバージョンよりも  例えば、医療費還付/給付金管理ソフトウェアを
新しい、もしくは古いバージョンのSQLを使わざるを 走らせていたサーバ「Thanatos」は、デュアルソケッ
えなかったためだ。 トに対 応した動作周波数2.8GHzのシングルコア
 そればかりか、5つの基幹アプリケーションが同じ Pentium 4プロセッサを搭載しており、平均ロードは
サーバにインストールされているなど、リスクの高い依 4%だった。一方、ボイスメール・システムの「Hermes」
存関係も判明した。さらに、部門内のファイル共有シ は、デュアルソケットに対応した動作周波数2.2GHz
ステムに5台のサーバが重複して使われていたりと、 のデュアルコアOpteron 275プロセッサを搭載してお
むだな依存関係が次々と明らかになった。 り、平均ロードは12%という稼働状況だった。これら
 Brown氏は、サーバ仮想化の導入に際しては、こ 2つのCPUは、
アーキテクチャがまったく異なるうえに、
うしたリスクやむだを避ける必要があると判断した。 HermesのCPUコア数はThanatosの2倍だ。しかも、
このため、新しいアーキテクチャは、サーバ障害のリ 仮想化環境をプランニングする際、基本的なリソース
スクを最小限に抑えるため、基幹アプリケーションを としてCPUの利用率だけでなく、メモリ/ディスク/
物理サーバで配信しつつ、不要な重複を排除するこ ネットワークの利用率も同じくくらい重要なことが、事
とが前提条件となった。そのためには、サーバを60 態をさらに複雑にしていた。
台から72台に増やし、ライセンスに応じてさらにサー  Brown氏は、キャパシティ評価用のアプリケーショ
バを増設しなければならないという試算になった。 ンがなぜこれほど多く存在するのかを、このとき初め
て理解した。10〜20台程度のサーバであれば、Ex
仮想サーバと物理サーバを選別する celをこじ開けて独力で解析するのにそれほど手間も
 ともあれ、アーキテクチャが決まった。Brown氏が コストもかからなかっただろう。負荷を段階的に仮想
次に取り組んだのは、仮想化環境に配備するサーバ 化して実環境での利用率を知るという手段もあった
と、物理サーバとして残すサーバの選別である。この が、これでは予算がいくらかかるかわからず、Tersi
作業は、当初予想していたよりも難しかった。 tan氏とCFOのクレイグ・ウィンダム
(Craig Wind
 サーバを選別するには、各サーバに対する負荷、 ham)氏から承認を得られるとは思えなかった。
つまり、物理的な仮想化ホストがいくつ必要かを決定  そこでBrown氏は、市場調査を行った後、Rich
する必要がある。初期テストの結果、ESX Serverの ter氏に、サーバ仮想化のキャパシティ・プランニング

80 Computerworld June 2008


サイバー・セキュリティ
[罪と罰]

を社外のコンサルティング会社に任せてはどうかと提 サーバに残すべきアプリケーションを決めるために、
案した。そしてBrown氏は、VMwareのパートナー コンサルティング会社がサーバ利用率を解析している
に評価を依頼したところ、結果が出るまで1、2カ月か 間、FergenschmeirのITチームは、ホスト・サーバと
かるとの返答を得た。少なくとも1カ月間はサーバの してどのハードウェアを使うかを考え始めていた。
稼働状況を観察しないことには、サーバ利用率を完
全かつ正確に解析できないというのがその理由だ。そ 仮想化ソフトの判断基準
れくらい時間をかけなければ、週報や月報など、処理  ハードウェアは、テスト済みのESX Serverと互換
業務が毎日発生するわけではないプロセスの負荷を 性を持っていることが条件だったため、Brown氏の
反映できないのだ。 チームはESX Serverのハードウェア互換性リストを
 技術的には確かにコンサルティング会社の言うとお チェックすることから取りかかった。だが、Edgerton
りだが、それだとBrown氏とRichter氏は、Tersitan 氏が発した「本当にVMwareでいいのか?」という一
氏と約束した実装プロポーザルの締め切りに間に合 言をきっかけに、仮想化のソフトをもう一度見直すこ
わなくなる。しかし、幸いにもWindham氏がプロポー とになった。
ザルは正確であるべきだと賛成してくれたおかげで、  ここまでの解析とプランニングの過程において、だ
Tersitan氏も納得してくれた。 れ1人としてVMwareに疑問を挟む者はいなかった。
 プロポーザルの延期は、Brown氏とTersitan氏の VMwareはだれもが知っている定番の製品だが、仮
両者にとって、むしろ幸いだったと言える。システム 想化プラットフォームは他にもいくつかある。そもそも、
の土台となるハードウェアやソフトウェアの選択など、 Brown氏のチームがVMwareの導入を決めた理由は、
プランニング作業にはまだまだ時間がかかりそうな案 Beyer氏が過去に使ったことがあるという、ただそれ
件が山ほどあったからだ。 だけの理由なのである。後悔しないためにも、ここで
 しばらくするとキャパシティ・プランニングの最初の 再検討したほうがよいという話になった。
解析結果が届き、Fergenschmeirが抱えるアプリケー  Brown氏が知るかぎり、当時、主な仮想化プラッ
ション・サーバの大半が10%以下のキャパシティで稼 トフォームは4種類あった。VMwareの「VMware In
働していることが判明した。加えて、サーバを72台配 frastructure」
(ESX Serverを含む)
、米国Virtual
備することを考えていたが、実際はかなりの数まで仮 Iron Softwareの「Virtual Iron」
、米国XenSource
想化により統合できることがわかった。
既存アプリケー の「XenEnterprise」
、そしてMicrosoftのVirtual
ションを余裕をもってホスティングし、将来的な拡張 Serverである。
性を持たせつつ、1台のホスト・サーバに障害が起こっ  Brown氏は、この中でもMicrosoftを選ぶ気には
た場合でもダウンタイムを極力抑えられるようにする なれなかった。過去に読んだ記事や、Virtual Ser
ためには、デュアルソケット対応のクアッドコアCPU verを使ったことがあるBlum氏の話を聞き、VMware
を搭載した8、9台の物理サーバを、ESX Serverで に比べて成熟度、パフォーマンスともに劣ると判断し
仮想化するという構成が最良だと判断した。 たからだ。XenSourceについても成熟度に不安があっ
たうえ、この会社がM & Aの標的にされていると噂さ
Step 4 れていたことから、できれば避けたかった
(事実、
XenSourceは後に米国Citrix Systemsにより買収さ
仮想化環境の れた)

物理基盤を整備する  Virtual Ironには、別の点で不安があった。VM
 仮想サーバ上で動作させるアプリケーションと物理 wareとVirtual Ironは成熟度の点でかなり近かったが、

June 2008 Computerworld 81


特別
企画

サーバ仮想化
導入ステップ

ガイド

Virtual IronはVMwareと比べて価格が4分の1だった。 門は、データセンター向けのハードウェア・プラット


Brown氏は、この点が気になり、Richter氏とそれぞ フォームを選定する作業に戻った。Fergenschmeirは、
れの長所/短所についてじっくりと話し合った。 すでにDellとHPのハードウェアを多数所有していた
 結局、Brown氏とRichter氏は、当初の計画どお ため、まずはこの2社のプラットフォームから検討する
りVMwareを 採 用 す ることにし た。 決 め 手 は、 ことにした。IT部門のだれもが、両社のハードウェア
VMwareのほうが広く普及しており、使用経験を持 で苦い経験をしたことがあり、どちらを使うべきかを
つエンジニアがはるかに多かったことと、VMware向 決めかねていた。HPのほうが品質はよいが、Dellも
けサードパーティ・ツールが将来的に増えると思われ 低価格で魅力的だという点で全員の意見は一致して
たからだ。加えて、Tersitan氏とWindham氏が いた。しかし、Brown氏にとって、ハードウェアの細
VMwareという名前をすでに知っていたことも大き かい仕 様はどうでもよかった。両社のサーバは、
かった。無名の製品を使うとなれば、その理由を説 VMwareのESX Serverが正常に稼働していたし、
明するのにかなりの手間と時間がかかるうえに、もし 世界的にも有名なブランドである。Blum氏とEdger
失敗すればBrown氏とRichter氏のキャリアに傷が ton氏がHPの管理ソフトを気に入っていたことから、
付くことになる。両氏は、そこまでのリスクを冒す気 Brown氏の気持ちは早くからHPに傾いていた。
にはなれなかった。  Brown氏のチームがサーバ・モデルの選定に入ろ
うとしたとき、
再びTersitan氏からRichter氏に、
「Info
ホスト用としてブレード・サーバを採用する Worldのブレード・サーバに関する記事を読んでくれ。
 仮想化プラットフォーム選定の問題が解決した後、 わが社の“グリーン・キャンペーン”にぴったりだ。読
Brown氏はコンサルティング会社からキャパシティ・ んだら携帯に電話すること」という内容のメールが送
プランニングの解析結果を受け取った。結果は、8、 られてきた。Tersitan氏は、ブレード・サーバの運用
9台のデュアルソケットを備えたクアッドコアCPU搭 管理面におけるメリットや低い電力消費量、効率的な
載サーバが必要とのことだった。これを踏まえ、IT部 空調能力など、物理サーバの選定に関する有益なア
ドバイスを与えてきたわけだ。
写真1:サーバ仮想化にはそれなりのハードウェア要件が求められる。  Tersitan氏のメールにより、ハードウェアの選択
Fergenschmeirは、HPのブレード・サーバ「HP BladeSys
tem c-Class」を物理基盤として利用した
基準は大きく変わった。一般的にブレード・サーバの
アーキテクチャは、使用するインターコネクトの種類
と組み合わせが標準的なサーバよりも限られているこ
とから、どのタイプのストレージを選ぶかが非常に重
要になる。
 ブレード・サーバの選定に際してBrown氏は、
スタッ
フのストレージに関するスキルも再度見直す必要に迫
られた。チーム内にSAN
(Storage Area Networks)
の導入経験を持つスタッフはいなく、ファイバ・チャ
ネル(FC)に至ってはほとんど知識さえなかった。こ
のため、Brown氏は、価格が安くコンフィギュレーショ
ンが簡単で、かつ高いパフォーマンスを発揮できる
SANを使いたかった。
 Brown氏は、さまざまな製品を検討し、ESX Ser

82 Computerworld June 2008


サイバー・セキュリティ
[罪と罰]

verのハードウェア互換性リストや価格を比較した結 写真2:サ
 ーバを仮想化する前に、
「Cisco Catalyst 3750-E」を新規
導入し、ネットワーク・インフラのボトルネックを解消した
果、EqualLogic iSCSIアレイを2台採用することに
した。
高〜中レベルのパフォーマンスが求められるデー
タ用に、SASアレイとSATAアレイをそれぞれ1台ず
つ選んだ。
 EqualLogicのiSCSIアレイを選択したことで、ブ
レード・サーバ1台につき、多数のギガビットEther
netリンクをサポートするアーキテクチャを構成しなけ
ればならなくなった。ここでDellは候補から外され、
(写真1)
選択肢がHPの「HP BladeSystem c-Class」
とSun Microsystemsの「Sun Blade 6048」に絞られ
た。結局、HPの管理ソフトを推すEdgerton氏の意 ング作業を行わせ、Catalyst 4503は廊下の奥に置
向に従い、HPに決まった。各ブレードは、24GBの いてサーバ・ファームの切り替え作業を行わせること
RAMと6GbpsのEthernetポートを搭載する、デュア にした。
ルソケットを備えたクアッドコアCPUサーバである。  Brown氏は、将来の拡張性を見据え、Catalyst
ホスト・サーバのRAM容量が厳しくなったら、ITチー 3750-Eのスタック間で2本の10Gリンクをサポート可
ムはアップグレードを通してブレードのRAMを増設 能なモデルを採用することにした。
今回導入したスイッ
することになるだろうが、とりあえずスタートとしては チ製品の価格を合計すれば、非常に冗長性の高い
このコンフィギュレーションで十分だと思われた。 「Cisco Catalyst 6500」シリーズを1台購入できる金
額になるが、そうすると通信ルームからデータセンター
ネットワークの構成を決定する まで膨大な量の銅線を確保するか、そのスイッチを稼
 次の問題は、ネットワークにどういった装置を追加 働させるためにデータセンターまで光ファイバ・ドロッ
するべきかを決めることだった。Fergenschmeirのネッ プ・ケーブルを拡張しなければならず、Brown氏とし
トワーク・コアには、2台の旧型のスイッチ「Cisco てはどちらも避けたかった。
Catalyst 4503」が使われている。ネットワーク・クロ
ゼットからのファイバ・チャネルはすべてここに引き込 サーバ仮想化に伴う総コストを見積もる
まれており、データセンター内の全サーバに対応でき  サーバ仮想化に伴うハードウェア/ソフトウェアの
る十分な銅線密度を提供できていなかった。すべて 予算は、ここまで検討してきたすべてを含むと、総額
のサーバをデュアルホーム化して冗長構成にするだけ 30万ドル程度と見積もられた。内訳は、サーバ・ハー
では不十分であった。前年には、不足分を補うため ドウェアに11万ドル、ネットワーク・ハードウェアに4
に無名ベンダーのギガビット・スイッチを増設したス 万ドル、ストレージ・ハードウェアに10万ドル、VMwa
タッフがいたが、今回もその必要があった。 reのライセンスに5万ドルである
(84ページの表1)

 Brown氏は、
スイッチの価格と仕様を検討した結果、  30万ドルという予算額は、仮想サーバと物理サー
「Cisco Catalyst 3750-E」
(写真2)
を2スタック導入 バの比率が10対1、つまり72台のアプリケーション・
して、メンテナンスすればまだ使えるCatalyst 4503 サーバを仮想化するために8台の物理サーバが必要に
スイッチをネットワーク・エッジに追いやることにした。 なると試算した、コンサルティング会社のキャパシ
Catalyst 3750-Eスイッチは、通信ルームのファイバ・ ティ・プランニングをベースにした数字である。これを
ターミネーション近くに設置して、中核となるルーティ 受けBrown氏は、障害復旧と将来的な拡張性を加味

June 2008 Computerworld 83


特別
企画

サーバ仮想化
導入ステップ

ガイド

表1:Fergenschmeirにおけるサーバ仮想化の導入コスト。72台のア 接注文したからだ。こうすれば自由にアセンブルでき
プリ・サーバを仮想化するために、管理用を含め10台の物理サー
バを導入している るうえに、コストも安く済む。
 プリアセンブルを避けたことで、Fergenschmeirに
導入品目 コスト
届けられたハードウェアの入った段ボールは、合計
サーバ・ハードウェア 11万ドル
120箱以上に上った。Edgerton氏とBeyer氏は、箱
ネットワーク・ハードウェア 4万ドル
から中身を取り出すだけで丸1日を費やした。ハード
ストレージ・ハードウェア 10万ドル
ウェアのアセンブルは特に難しくなく、1週間もしない
サーバ仮想化ソフト 5万ドル
うちに、彼らはブレード・サーバのシャーシを組み立
合計 30万ドル
ててデータセンターに設置し、電気技師といっしょに
回線の引き込み作業を完了した。これと並行して
Blum氏は、コア・ネットワーク・スイッチを交換する
し、9台のホスト・サーバと管理用のブレード・サーバ ために、連日深夜まで残業していた。
を1台確保して仮想化環境を構築することにした。  9台のブレード・サーバにESX Serverをインストー
 このやり方だと、仮想サーバ当たり約4,200ドルの ルし、管理用として確保したブレード・サーバに「VM
導入コストがかかる計算になる
(完全に冗長性のある ware VirtualCenter」
をインストールするまで、そう
ストレージとコア・ネットワーク・インフラを含む。ただ 長くはかからなかった。
し、人件費とソフトウェア・ライセンスは除外)
。一般
的にコモディティ・サーバは、5,000〜6,000ドルの導 想定外の“壁”
に直面
入コストがかかると言われているため、かなり経済的  だが、ここからプロジェクトが脱線し始める。それ
だと思われた。Brown氏は、コモディティ・サーバが までは、Beyer氏が大学でESX Serverを扱ってい
高可用性/ロード・バランシング機能を備えておらず、 た経験が大いに役立っていた。Beyer氏は、ESX
90%以上がアイドル状態になっている現状を考えれ Serverのインストール方法を知っていたし、本格稼
ば、まさに破格の導入コストだと思った。 働後も基本的な管理方法を熟知していた。しかし、
 ちなみにBrown氏とRichter氏がこの事実を知っ 大学では、インストラクターがネットワーク・スタック
たのは、Tersitan氏からの予算承認を得て、購入注 を構成する現場までは指導していなく、ESX Server
文書をファクスで送った後のことである。 とSANをどう統合するかについて、Beyer氏は何も
知らなかったのだ。
Step 5  いろいろと試行錯誤したり、VMwareのオンライン・
フォーラム
(画面3)で的外れな質問をして恥をかいた
仮想サーバを りしながら、どうにか動かせるまでにはなったが、
配備する Blum氏、Edgerton氏、Beyer氏の3人は、この構
 サーバ仮想化に使用するハードウェアとソフトウェ 成が正しいのかどうかまったく自信を持てなかった。
アの 購 入 注 文 書を送ってから1カ月後、Fergen ネットワークとディスクのパフォーマンスが期待したほ
schmeirのIT部門はサーバ仮想化の配備にすぐに取 ど出なく、
一部の仮想マシンとネットワーク接続に至っ
りかかることができた。 ては頻繁に途切れたりしていた。3人は、このままで
 このわけは、
HP、
ないしはVAR
(付加価値再販業者) はプロジェクトが台無しになるのではないかと恐怖心
からブレード・サーバを購入してプリアセンブルさせる を募らせていった。
のではなく、Edgerton氏がディストリビューターに直  Brown氏は、IT部門のスタッフに自信をもって仮

84 Computerworld June 2008


サイバー・セキュリティ
[罪と罰]

想サーバを実装させるには、研修に行かせるか、第 画面3:V Mwareのコミュニティ・サイトでは、製品に関するさまざまな


質問ができる。テーマやトピックごとに質問が細分化されており、
三者のアドバイスに頼るしかないと判断した。VM 例えばここでは、Oracle製品の仮想化についてQ & Aがなさ
れている
wareが定期的に開催しているセミナーは2週間も先
だったため、Brown氏はキャパシティ・プランニング
を依頼したコンサルティング会社に実装の手助けを
依頼した。
 予想外の手痛い出費だったが、その価値はあった。
コンサルティング会社は、Edgerton氏とチームを組
んで最初に数台のブレード・サーバを構成した。さら
にBlum氏とも、非常に複雑なVMwareの仮想ネット
ワーキング・スタックとCiscoのスイッチをメッシュす
るにはどうすれば一番効果的かを話し合った。このよ
うにして、実地で知識を習得できたことは非常に有意
義だった。
 Edgerton氏は後日、VMwareの研修を受けたもの
の、そのカリキュラムでは独力で完全なシステムを構
成するのは到底不可能だと感じた。仮想化には、ネッ
トワーク/サーバ/ストレージといった多くの要素が してきたことで、Windows環境全体の性能が劣化し
かかわってくるため、小規模なサーバ環境に実装す ており、侵入されたバグの問題が逆に悪化してしまっ
るだけでも、すべてに精通したベテランでなければ実 た。なかには問題なく稼働するサーバもあったが、元
現は困難なのである。 の状態よりパフォーマンスが低下するサーバもあった。
 少し掘り下げてテストを実施したところ、一昔前に
マイグレーション作業に潜む落とし穴 構築したWindowsサーバに関しては、既存のサーバ
 デプロイメントを開始してから約1カ月後、Brown へまるごと移植するよりも、ゼロから仮想マシンを構
氏のチームは検証をすべて終え、サーバのマイグレー 築した後、アプリケーションを再インストールし、デー
ション作業に取りかかる準備が整った。 タを移行するほうが効果的だと判明した。
 Brown氏は、VMware Infrastructureスイートで  だが、そうするとマイグレーション作業に予定より
用意されている、物理サーバから仮想サーバへのマイ 長い時間がかかってしまう。Blum氏、Edgerton氏、
グレーション・ツール「VMware Converter」
を試し、 Beyer氏の3人は、VMwareのクローニング/デプロ
とりあえず2、3台の物理サーバをマイグレーションし イメント・ツールを使い、
ベース・テンプレートからクリー
てみることにした。 ン・サーバをわずか4分で配備したが、これはあくまで
 ところが、しばらくするとVMware Converterのス 簡単な部分にすぎない。難しいのは、アプリケーショ
ピードと使い勝手に難があることがわかった。古い物 ンのドキュメンテーションに隅々まで目を通しながら、
理サーバから仮想化ソフトを導入した最新のブレー アプリケーションが最初にどうインストールされて、こ
ド・サーバにマイグレーションしたことで、Fergen れからどうのようにインストールするべきかを判断する
schmeirが抱えていたハードウェア関連の問題はある ことだった。3人は、ESX Serverのインストールおよ
程度解消された。
しかし、
アプリケーションのインストー び構成方法を理解するために、経験したことがないほ
ルやアップグレード、アンインストールを長年繰り返 どの長い時間をかけてアプリケーション・ベンダーと電

June 2008 Computerworld 85


特別
企画

サーバ仮想化
導入ステップ

ガイド

話で話し合った。 たりしたことに、FergenschmeirのITスタッフはいい
 また、彼らの仮想化に対する無知は、もう1つ手痛 気分はしなかったが、サーバ仮想化に伴い発生する
い結果をもたらした。3人は、プロジェクト・プランニ 問 題はこれからが 本 番だと言えた。Brown氏と
ングの間、ハードウェアをVMwareの互換性リストと Richter氏は、
「お互い思いがけず大きな責任を背負
照合したが、だれ1人としてアプリケーション・ベンダー うことになったな」
と個人的に話すことが度々あった。
に電話して、仮想化環境をサポートしているかどうか
を確認しなかった。実際、
後になってベンダーがサポー Step 6
トしていないケースがあった。
 仮想化をサポートしてないアプリケーション・ベン
仮想化の経験を
ダーの中には、長年パッチを適用していないOSでア
次に生かす
プリケーションを走らせていてもサポートを拒否しな  FergenschmeirのITチームがサーバ仮想化に取り
かったり、インストール先のハードウェアがかなり寿 組んでから5カ月後、プロジェクトがようやく完了の運
命に近づいていてもふつうにサポートしてくれていた びとなった。
りしたが、仮想サーバで走っているアプリケーション  結局、ESX Serverで構築した仮想化環境を安定
だけは、不安を感じて及び腰だった。 させ、ITチームのスタッフを教育し、十分快適に使
 一部のソフトウェア・ベンダーにとっては、単にイン いこなせるよう環境をテストするのに1カ月半もかかっ
フラの構成にまで責任を負いたくないという考えだっ てしまった。そして、ユーザーから不満が出ないレベ
たようだ。ITチームは、こうしたベンダー側の不安を ルのサポート品質を保ちながら、すべてのアプリケー
理解し、ハードウェアが原因でパフォーマンスに問題 ションを手作業でマイグレーションするのに、さらに3
が生じたときは、Fergenschmeirの手で解決するか、 カ月を要した。
仮想化されていない環境でその問題を再現させてほ  Brown氏は、プロジェクトの終了間際、作業効率
しいというベンダー側の要望を受け入れることにした。 を上げるために外部の人材を利用していたが、仮想
 また、
仮想化に対して無知なベンダーもいた。サポー 化の基幹部分はほとんどFergenschmeirのITスタッ
ト・センターに電話しても、ESX Serverのようなハイ フみずからの手で行った。
パーバイザ型のサーバ仮想化ソフトではなく、VM  サーバ仮想化を導入してから数カ月が経過したが、
ware WorkstationやVMware Serverといったエミュ Brown氏はサーバ・ネットワークの安定性に現在、非
レータ的な仮想化ソフトと勘違いする担当者がいた。 常に満足している。VMware特有のバグ、特に管理
このため、知識の乏しいサポート・スタッフの名前を ソフトのバグこそあったものの、仮想化環境に移行す
覚えておいて、そのスタッフが電話に出たときは別の る前に発生したバグの量に比べれば、微々たるもの
エンジニアに代わるよう頼んでいた。 である。
 ある企業に至っては、仮想マシンへのインストール  苦労してインフラをゼロから再構築したことも、IT
は一切サポートしていないと、まったく取り合ってさ スタッフにとってアプリケーション・インフラの構造を
えくれなかった。そういう場合は、
いったん電話を切っ 再確認するよい機会となった。Brown氏は、再構築
てかけ直すことにした。2度目の電話で「仮想化」
とい のステップを1つ1つ文書化するよう指示することで、
う言葉を使わなかったところ、テクニカル・サポートは 仮想化を通してITスタッフに知識を整理する機会を
インストールと構成を快く教えてくれた。 与えた。将来、テクノロジーやアーキテクチャが根本
 アプリケーション・ベンダーが仮想化に乗り気でな から変わったとしても、すぐに対応できるようになる
かったり、まったく無知、あるいは頭ごなしに拒否し からだ。

86 Computerworld June 2008


TechnologyFocus
[テクノロジー・フォーカス]
「話題の製品の機能を詳しく知りたい」
「自社では、どのような技術を使
うのが最適なのだろうか」── 企業において技術や製品の選択を行う「テ
クノロジー・リーダー」
の悩みは尽きない。そこで、本コーナー
[テクノロジ
ー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術を
ピックアップし、その詳細を解説する。

N etworks [ネットワーク]

コンシューマーからエンタープライズへ
──本格化するOpenIDの明日を探る

Storages
高速処理と省電力を共に実現する
「SSD」
新世代ストレージ の可能性
[ストレージ]

Sys.Admin
ITIL 適用の真実
──いかに着手し、実践するか
[システム運用管理]

June 2008 Computerworld 87


Technology Focus

N
etworks
[ネットワーク]

コンシューマーからエンタープライズへ
──本格化するOpenIDの明日を探る
B2BでのID管理基盤作りには、
各種標準仕様との相互運用が必須
コンシューマー分野でOpenIDが急速な勢いで普及しつつある。機能を絞ったシンプルな仕様であるOpenIDは、
これまで大手ベンダーが挑み、ことごとく足踏みしてきた、Webサイト間をまたいだシングル・サインオン
(SSO)

基盤作りに活路を開こうとしている。一方、エンタープライズ分野でも、企業内および企業間におけるアイデンティ
ティ管理やSSO基盤にOpenIDを利用しようとする動きがある。本稿では、OpenIDのこれまでの軌跡やその最新
仕様を解説するとともに、エンタープライズ分野で想定される利用シーンを検証していく。それらを通し、エンター
プライズ分野におけるOpenIDの課題と可能性を探っていきたい。

工藤達雄
サン・マイクロシステムズ
http://blogs.sun.com/tkudo

OpenIDを特徴づける ユーザーは、通常、サービスへのログイン時にユーザー

ユーザー IDの役割 IDとパスワードを入力するが、OpenIDでは上記のよ


うなURLまたはXRIを自身のIDとして入力すること
 OpenIDとは、ユーザーが自由に選択したIDをさま で、サービスへログインできるようになる。
ざまなWebサービスへのログインに利用できる、非集  ユーザーからURLまたはXRIを受け取ったリライ
中型のアイデンティティ・フレームワークのことである。 ング・パーティは、それをユーザー IDとして認めるの
最大の特徴は、
「ユーザー識別子(ユーザー ID)
を基 が妥当かどうかを、OpenIDプロバイダーに確認する
盤とするデジタル・アイデンティティ」
という点にある。 ことになる。ここで、リライング・パーティがどのOpen
 OpenIDでは、ユーザー IDを単なる文字列として IDプロバイダーに問い合わせるかは、ユーザーがID
ではなく、ユーザーのアイデンティティを証明する として利用しているURL/XRIに基づいてアドホック
Webサイト
(OpenIDプロバイダー)
に対する
“ポインタ” に探索・取得する、XMLベースのXRDS
(Extensible
として利用する。つまり、OpenIDを受け入れるWeb Resource Descriptor Sequence)文書、もしくは
サイト
(リライング・パーティ)へログインする際のユー HTML文書内の記述に基づいて決定される。つまり、
ザー IDを入力する行為は、同時に「わたしのアイデン リライング・パーティ側では、OpenIDプロバイダーの
ティティを証明するのは、このOpenIDプロバイダー 情報をあらかじめ持つ必要がないため、Webサイト間
である」
と表明することにもなる。 のサービス連携において手間のかかる、相互の事前
 OpenIDでは、ユーザー IDとして2つの形式を定 設定作業を不要にしている。
義している。1つはURLであり、例えば、
「http://  ユーザー IDを保証するOpenIDプロバイダーで、
johnsmith.example.com」のような形式になる。もう1 どのような本人確認がなされるかはOpenIDの仕様を
つは、URI
(Uniform Resource Identifier)
と互換 規定した「OpenID Authentication」のスコープ外で
性があるXRI
(Extensible Resource Identifier)
で、 あるが、基本的にはパスワードや、あるいはより強固
こちらは「=john.smith」のような形式で表現される。 な認証機構が利用される。そして、OpenIDプロバイ

88 Computerworld June 2008


Networks

Networks
ダーは、ユーザーが主張する
「自分を識別するための IDプロバイダーの運用を開始するなど、さまざまな分
URL/XRI」が本当にユーザー IDとして正しいかどう 野へOpenIDは広がってきている。
かを判断し、その結果をリライング・パーティに送信  そして2007年12月には、
「OpenID Authentication
する。こうした一連の作業により、ユーザー認証が行 2.0」
と「OpenID Attribute Exchange
(AX)1.0」の
われるわけだ。 両仕様からなる、いわゆる
「OpenID 2.0」が最終的に
 最終的にリライング・パーティは、OpenIDプロバイ 確定した。これを受けて2008年1月、Yahoo!がOpen
ダーからの回答に基づきユーザー IDを識別し、ログ ID Authentication 2.0に準拠したOpenIDプロバイ
インの許可/拒否の判断や、サービス内容およびア ダーの運用を米国のみならず日本でも開始した。
クセス範囲の制限/認可を行うことになる。以上の処  それまで国内では、ライブドアやはてなといった一
理をユーザーの視点から見ると、1つのOpenIDプロ 部の企業がOpenIDプロバイダーとしてサービスを提
バイダーにログインするだけで、
複数のリライング・パー 供していたが、さらにYahoo!がOpenIDをサポートし
ティで個別のログインが不要となる、いわゆるWebサ たことにより、日本のYahoo!サイトに登録済みのID
イト間をまたいだシングル・サインオン
(SSO)が実現 すべてがOpenIDに対応することになり、潜在的な
されることになる。 OpenID利用者が爆発的に増大した。
 OpenIDの仕様はコミュニティ主導の下に策定され

激変するOpenIDを ているが、仕様の知的財産権を管理し、OpenIDの

取り巻く状況 普及促進を目指す団体として、2007年6月にOpenID
Foundation
(OIDF)
が米国で設立されている。OID
 2007年から2008年にかけて、大手ITベンダーと Fは今年に入り、Google、IBM、Microsoft、Veri
Webサービス・ベンダーが次々とOpenIDへの支持を Sign、Yahoo!を新たなメンバーとして加えており、日
表明している。 本支部も今年4月に設立される予定だ。
 OpenIDは、2005年にその原型が作られたものの、
しばらくは開発者や先進的なユーザーの間で検討さ 支持に回った大手Webサービス・
れたり、試験的な実装/サービスの提供にとどまった ベンダーの
“本音”
りしていた。
 こうした流れに変化が起きたのは、2007年2月に開  MicrosoftやGoogle、Yahoo!などの大手企業が
催されたセキュリティ関連のコンファレンス
「RSA OpenIDを支持する背景には何があるのだろうか。
Conference 2007」において、MicrosoftがOpenID  その狙いの1つは、外部サイトとの連携強化による
への支持を表明したことに加えて、同時期にAOLが 自社サービスの向上にある。自社サービスのユーザー・
自社サービスのユーザー 6,300万人を対象にOpenID アカウントを外部サイトのログイン時にも利用できるよ
を提供すると発表したことが大きく関係している。最 うにすることで、アカウントの有用性を高め、ひいて
大手のソフトウェア・ベンダーと大手ISPの両社がと は自社サービスに対するロイヤルティを維持すること
もにOpenIDへの支持を表明したことにより、一般企 につながるわけだ。
業やコンシューマーからの注目は一気に高まった。  こうした連携を実現するために、これまで各Web
 その後、2007年5月には、Sun Microsystemsが サービス・ベンダーは、それぞれ独自の認証APIを開
自社の社員を対象としてエンタープライズ用途に 発・公開し、外部サイトに採用を呼びかけてきた。
OpenIDの発行を開始したほか、同年9月には、Fran Yahoo!のBBAuthやAOLのOpenAuthなどはその一
ce Telecomが大手電話通信会社として初めてOpen 例である。

June 2008 Computerworld 89


Technology Focus

画面1:OpenID Authentication 2.0でサポートした「ディレクテッド・アイデンティティ」 る大きなメリットになるわけだ。


のYahoo!による適用例。ユーザーみずからが指定した値 (ここではFlickrのURL)
とランダムに割り振られた値の両方が、 OpenID識別子として利用可能となっており、
ユーザーはこれらをリライング・パーティの種類に応じて使い分けることができる
柔軟性/拡張性が増した
最新仕様
 ここで、現在までに策定されたOpenIDの最新仕
様について解説する。
 OpenID Authentication 2.0では、新たに「ディレ
クテッド・アイデンティティ」
と呼ばれるコンセプトが導
入されており、ユーザーは、OpenIDプロバイダーが
提示した複数のデジタル・アイデンティティ候補の中
から、リライング・パーティごとにどれを用いるかを選
択することができる。
 例えば、Yahoo!では、OpenIDプロバイダーからリ
ライング・パーティに送信するURLとして、
「ユーザー
みずからが値を設定したURL」に加えて、
「ランダムに
 大手Webサービス・ベンダーの認証APIを利用して、 割り振られたURL」
も選択できる。
これによりユーザー
ユーザーの新規登録やログイン処理を簡略化するこ は、サイト上で積極的に自身のIDを公開したい場合
とで、ユーザーの利便性は向上するものの、外部サ には前者を使ってリライング・パーティにログインし、
イトにとってみれば、ベンダー独自の認証APIに対応 逆の場合には後者を用いることで匿名性を維持する
することで、ベンダー・ロックインの危険性が高まる。 という、デジタル・アイデンティティの使い分けができ
また、認証APIはベンダーごとに仕様が異なるため、 るようになる
(画面1)

対応の手間も決して小さくは無かった。  そのほか、先述したXRIやXRDS文書もOpenID
 結果的に、Webサービス・ベンダーが独自に開発し Authentication 2.0から仕様に盛り込まれたものだ。
た認証APIは、
各社の思惑どおりには普及していない。  また、OpenID Authentication仕様をコアとする
こうした状 況 下で 登 場したのがOpenIDである。 拡張仕様がいくつか提案されている。その中でも、現
OpenIDは、仕様が標準化されたことに加えて、実装 在確定している拡張仕様の1つが、AX 1.0である。
の種類が豊富にそろってきたことで、外部サイトはベ AX 1.0では、OpenIDに対応したWebサイト間でや
ンダー独自の認証APIではなく、OpenIDへの対応を り取りするユーザーの属性情報に関して、その交換
優先するようになってきた。 方法を定めた仕様である。AX 1.0に準拠することで、
 そして現在においては、Webサービス・ベンダーも OpenIDプロバイダーが管理しているユーザーの個人
独自の認証APIに固執せず、OpenIDの採用を積極 情報を、リライング・パーティが取得/更新できるよ
化しだしている。ベンダーにとってみれば、OpenID うになる。
はコミュニティ主導の標準仕様であるため、その機能  OpenIDの拡張仕様に関しては、OpenIDプロバイ
や方向性を自社でコントロールできない点はデメリッ ダーの認証ポリシーをリライング・パーティと交換し、
トとなる。しかし、これまで実現できなかった外部サ ユーザーの本人確認における認証レベルを担保する
イトとの連携がOpenIDを利用することで可能になり、 ための仕様「Provider Authentication Policy Ex
ベンダーにとってもこの点はデメリットを補って余りあ tension
(PAPE)
」などが今後策定される見込みだ。

90 Computerworld June 2008


Networks

Networks
エンタープライズ分野での て機能することで、アプリケーション統合作業の効率

利用シーンを検証 化が図れる。
 また、OpenIDプロバイダーを社内利用に限定せず、
 ここまでOpenIDを取り巻く状況と仕様の概要につ 外部のWebアプリケーションとの連携も行われるよう
いて述べてきた。それでは、エンタープライズ分野に になってきた。先に述べたように、Sunは社員の身元
おいてこのOpenIDはどのような意味を持つのであろ 保証のために「OpenID.sun.com」
というOpenIDプロ
うか。 バイダーを運用している。Sunの社員は、このOpen
 実際のところ、利活用の事例はまだそれほど多くは IDプロバイダーから発行されたOpenID
(URL)を、
ないが、ここでは企業がOpenIDプロバイダーとなる 自社製品/サービスに関するフォーラムや、業界内の
ケースとリライング・パーティとなるケースのそれぞれ 標準化団体において、メール・アドレスに代わる身元
について、利用シーンを含めて実世界での動向を紹 証明手段として活用することができる
(図1)

介する。
取引相手を対象とするリライング・パーティの運用
社員を対象とするOpenIDプロバイダーの運用  次に考えられるのは、企業が取引相手/顧客企業
 まず想定されるのが、企業内アプリケーションへの へのサービス提供基盤としてOpenIDを活用するケー
アクセス管理やSSO基盤として、
OpenIDプロバイダー スである。
のシステムを構築することである。  企業向けアウトソーシング・サービスやパートナー
 これまで企業では、独自プロトコルを用いたアクセ 向けサービスなどでは、通常、利用者のアカウントを
ス管理/ SSO基盤を導入することで、アクセス制御 個別に発行・管理している。その結果、
ユーザーはサー
を集中的に管理するのが一般的であった。しかし、今 ビスごとに個別のアカウントを用いなくてはならず、利
後、製品標準の機能としてOpenIDを受け入れる
(リ 便性の面でもセキュリティの面でも効率的とは言い難
ライング・パーティとして動作する)アプリケーション い。
が社内に順次導入されていくような環境では、アクセ  こうした状況を改善するために、特に大規模企業
ス管理/ SSO基盤自身がOpenIDプロバイダーとし 向けサービスにおいては、以下に示すいずれかの方

図1:社員を対象とするOpenIDプロバイダーの運用イメージ

企業内ネットワーク

外部コミュニティ
グループウェア
OpenIDプロバイダー (リライング・パーティ)
ディスカッション/
フォーラム
(リライング・パーティ)

ユーザー認証

OpenIDでログイン OpenIDでログイン
標準化団体

コンテンツ管理
共同作業エリア OpenIDでログイン OpenIDでログイン (リライング・パーティ)
(リライング・パーティ)
社員

June 2008 Computerworld 91


Technology Focus

図2:取引相手を対象とするリライング・パーティの運用イメージ

サービス利用企業(OpenIDプロバイダーを自社内で運用)

サービス提供企業
ユーザー
OpenID
認証 プロバイダー
(内部)
社員
プロジェクト管理
OpenIDで サービス
ログイン

リライング・パーティ
サービス利用企業 OpenIDで
(OpenIDプロバイダーを外部に委託) ログイン
顧客管理
サービス
ユーザー
OpenID
認証 プロバイダー
(外部)
社員
OpenIDサービス提供企業

法によって、企業間でのアクセス管理/ SSOを実現 OpenIDプロバイダーを利用することが可能である


(図
してきた。 2)

●ベンダー独自の認証APIを用いて、連携を図る企 普及の
“カギ”は対応アプリと
業にSSOシステムを実装したり、サービス専用の 先行事例の充実にあり
アプライアンスを導入
●包括的だが複雑な標準仕様、例えば「SAML
(Secu  コンシューマー向けWebサービスではOpenIDへの
r i t y A s s e r t i o n M a r k u p L a n g u a g e)
」 や 対応が着実に進んでいるものの、エンタープライズ分
「WS-Federation」などを自社および相手企業の 野ではなかなか普及に結び付いていない。その最大
双方が実装してアイデンティティ連携を実現 の要因は、OpenIDを受け入れる
(リライング・パーティ
として動作する)企業向けアプリケーションが、現状
 上記2つに加えて、OpenIDはもう1つの選択肢を ではまだごく少数に限られている点にある。
提供する。  ブログに代表されるコンテンツ管理システムやグ
ループウェアなど、一部の業務横断的なエンタープラ
●ベンダー独自の認証APIではない標準仕様に基づ イズ向けソフトウェア/ SaaS
(Software as a Ser
いた、比較的導入が容易な企業間のサービス連携 vice)では、OpenIDに対応した製品/サービスが登
場してきているものの、より業務に近いアプリケーショ
 実際に企業向けリライング・パーティを運用してい ン・パッケージでは、対応する製品/サービスは皆無
る米国37signalsの例を挙げてみる。37signalsは、 に等しい。
主に中小企業や個人事業者向けの業務アプリケー  また、市場に存在する企業向けアクセス管理/ SS
ション・サービスを展開しているが、自社が提供する Oソフトウェアにしても、OpenIDに対応している製品
各種Webアプリケーションへのログインに、外部の はほとんどない。つまり、企業が自社のアイデンティ

92 Computerworld June 2008


Networks

Networks
図3:マルチプロトコルに対応したアイデンティティ管理システム

企業内ネットワーク
取引相手 アイデンティティ
リバティ・ CardSpace Windowsデスクトップ
アライアンス 管理システム

WS-Federation Windowsシステム
ディレクトリ
グループ企業 SAML
アクセス管理/SSO
ユーザー・プロビジョニング SAML 業務アプリケーション
アイデンティティ監査
OpenID ロール管理 OpenID 軽量アプリケーション
ASP/SaaS

ティ管理システムの一部としてOpenIDの機能を盛り 仕様との相互運用に取り組んでいるのが、リバティ・
込みたいと思ったとしたら、現状ではカスタマイズや アライアンスが主導する
「コンコーディア・プロジェク
インテグレーションの追加工数が相当発生することに ト」である。同プロジェクトには、先述した各種仕様
なる。 の策定メンバーやその仕様を実装するベンダー、そし
 加えて、エンタープライズ分野におけるOpenIDの て仕様を実システムに活用するユーザー企業が参加
利用事例が十分に存在しないため、企業内のセキュ しており、さまざまな導入シナリオをベースに議論を
リティ基準との関連性や、B2Bでのベスト・プラクティ 続けている。
スが圧倒的に不足している。
*  *  *
 例えば、企業間におけるプライバシー保護や、やり
取りされるメッセージの否認防止、信頼できる取引相  現在、OpenIDは非常に勢いがあり、この流れは
手にのみOpenID機能を提供する仕組み「ホワイト・リ 今後も続くだろう。エンタープライズ分野でOpenID
スト」の管理、サービス間での統一的なログイン・セッ が本格的に普及するかは、率直に言ってまだ未知数
ション管理など、現在のOpenID仕様ではカバーしき な要素が多い。
れていないさまざまな課題を解決するには、もう少し  しかし、
コンシューマー分野で成功したテクノロジー
時間がかかりそうだ。 が後年、エンタープライズ分野に浸透していくという
 また、将来的にOpenIDの仕様が充実したとしても、 前例は枚挙にいとまがない。この先数年のうちに、
企業内のアクセス管理/ SSO基盤すべてを、Open OpenIDをサポートするASP/SaaSがどれほど登場し
IDで統一するのは非現実的だと言えるだろう。
例えば、 てくるかが、エンタープライズ分野でのOpenID普及
企業内のWindows環境には、Microsoftが開発した の“カギ”になると筆者は考えている。
アイデンティティ管理技術「CardSpace」のほか、  今後、ITマネジャーは、アイデンティティ管理シス
WS-Federationが存在するし、企業間連携では テムの構築を検討する場合には、パッケージ・アプリ
SAMLや、リバティ・アライアンスの仕様に基づくア ケーションやASP/SaaSのOpenIDへの対応状況や
イデンティティ連携が市場で実績を積み重ねている。 その企業ユースでの先行事例、そしてコンコーディア・
今後、企業内アイデンティティ管理システムの構築/ プロジェクトによるベスト・プラクティスなどの動向を
運用にあたっては、OpenIDを含めたこれらの仕様と 注視しながら、OpenIDと他の標準仕様との相互運
の相互運用が求められるだろう
(図3)
。 用を念頭に置いて、プロジェクトを進めていくべきで
 こうしたアイデンティティ連携/管理に関する各種 ある。

June 2008 Computerworld 93


Technology Focus

S
torages
[ストレージ]

高速処理と省電力を共に実現する
新世代ストレージ
「SSD」
の可能性
ハードディスクに取って代わるか/企業向け製品でも普及が進むか
HDDの代わりにSSD
(Solid State Disk)
を搭載するノートPCが増えている。HDDに匹敵する容量を備えつつあ
ることで、ノートPCでは今後、SSDが標準になるとの予測もある。そして、最近では、SSD対応のエンタープライ
ズ向けストレージが登場するなど、徐々に応用範囲を広げてもいる。SSDは、HDDで課題となっていた処理速度の
向上や省電力化を実現できる点で期待されている反面、コストが高いという問題を抱えている。はたして、SSDは広
範に普及していくのか。本稿では、SSDの基本を押えるとともに、最新の動向に迫ってみたい。

土屋 勝

2008年、SSD搭載の ら半導体メモリに置き換えたもの」となる。OSからは

ノートPCが続々と登場 HDDと同じにしか見えないが、物理的にはモーターも
プラッタもヘッドもない、半導体の固まりというわけだ
 2008年1月から日本でも発売になった台湾ASUS (図1)

の「Eee PC」
。Windows XPインストール済みで1台  そのメリットは容易に想像できる。HDDでは避けら
4万9,800円という低価格が話題になったが、このモ れない物理的な故障がSSDではなくなるほか、機械
バイルPCはHDD
(ハードディスク・ドライブ)
の代わり 部分の電力消費を低減することができる。また、デー
に4GBのSSD
(Solid State Disk)
を搭載している。 タ転送速度が頭打ちになってきているHDDよりも高
また、2008年3月に発表されたLenovoの「ThinkPad 速化が可能となる。
X300」シリーズは、3機種すべてが64GBのSSDを搭  SSDのようなストレージ
(保存)用途の半導体メモ
載しており、現時点でHDDタイプは存在しない
(写真 リとしては、SDカードやUSBメモリがなじみ深いだ
1)
。国内勢では東芝が、主にノートPC向けの128GB ろう。SDカード、USBメモリ、そしてSSDは、形状
のSSDを2008年3月より量産開始すると発表してい や用途がそれぞれ違うが、いずれもフラッシュ・メモ

(写真2)
。こうして見ると、2008年はSSDを搭載 リという不揮発性メモリを使った記憶デバイスである
するモバイルPCが一気に普及しそうな気配がある。 (97ページのコラムを参 照)
。その中でもSSDは、
HDDと同じインタフェースを持ち、OSからはHDDと

HDDからSSDへの 同様にアクセスできるのが特徴だ。

置き換えは容易  単に小型化を優先するなら、HDDよりメモリICを
直接基板に実装するのがよいように思える。実際、
ポー
 このようにSSDを搭載するノートPCが目立つよう タブル・オーディオ・プレーヤーやICレコーダーでは
になったが、そもそもSSDとは何だろうか。一言で説 そのようになっている。だが、PCは過去からのさまざ
明するなら、
「SSDとはHDDの中身を磁気メディアか まなレガシー・デバイスや、欠かすことのできないイン

94 Computerworld June 2008


Storages

Storages
タフェースをいくつも引きずっている。HDDはその最 写真1:SSDを標準で搭載するLenovoのノートPC「ThinkPad X300」

たるものだろう。つまり、PC用記憶デバイスとしては
従来の設計手法が使えるもののほうが効率的だ。
SSDの存在意義は、正にそこにあると言える。
 最近は、USBメモリからLinuxなどのOSを起動す
ることも可能になっている。しかし、古い機種だとU
SB起動には対応していないものもある。今でこそ広
く普及しているUSBにしても、規格が制定されたの
は1996年のことであり、一般的に使われるようになっ
たのはWindows 98でサポートされてからである。
 これに対し、HDDはMS-DOSの時代から起動デ
バイス/外部記憶デバイスとして使われてきた実績が
ある。どんなPCでも、どんなPC用OSでもHDDをサ
ポートしていないものはないだろう。
 現在、市場に出回っているSSDには2つのタイプが
ある。1つは2.5インチや1.8インチといった小型HDD 写真2:東芝の多値NAND対応SSD。容量は最大128GB

と同じ外観、同じコネクタを持っていて、HDDとその
まま置き換えができるもの。もう1つは、サイズやイン
タフェースはHDDと同じだが、金属ケースなどはなく、
チップむき出しの基板で提供されるものだ。
 PCショップなどで単体販売されているものは、ユー
ザーがノートPCのHDDと換装できるよう、HDD型
のものとなっている。だが、最初からノートPCに実
装してしまうのであればコスト的にもスペース的にも

図1:HDDとSSDの構造比較

SSDの本体である半導体メモリは、格子状に配置されたセルと、各セルに
HDDの構造 スピンドル・
モーター 沿って縦・横に走る電極から構成され、データはセル単位で記録される。一
セクタ トラック 方、HDDは、高速で回転するプラッタ
(ディスク)と、直径方向に動くヘッドな
ボイスコイル・ どから構成され、データは円周方向の区画(セクタ)単位で記録される。
モーター
(アクチュエーター)
シリンダー

セル
半導体メモリ
プラッタ
スイング・アーム 電極
ヘッド (ディスク)
SSDの構造

June 2008 Computerworld 95


Technology Focus

金属ケースは不要なので、基板タイプが使われる。 ランダム・アクセス
(データを飛び飛びに読み書きする
処理)
の速度が相対的に低下し続けていることだ。

フラッシュ・メモリの大容量化で  HDDのパフォーマンス、つまりPCから見た読み書

姿を消す小型HDD きの速度は、プラッタの回転速度、PC/HDD間のイ
ンタフェース速度、シーク・タイム、内部データ転送
 初期のMP3プレーヤーで、大容量タイプの製品は 速度、バッファ量といったパラメータで決まってくる。
HDDを搭載していた。だが、今ではごく一部の大容  プラッタの回転速度が大きいほど処理速度は上が
量モデルを除いてフラッシュ・メモリが使われている。 る。データを読み書きするには、
最悪のタイミングだと、
また初期のデジカメでは、コンパクト・フラッシュと同 プラッタが1回転するまで待たなければならない。当
じ形状でHDDを内蔵したマイクロ・ハード・ドライブ 然ながら高速回転しているほうが待ち時間は短くて済
も使われたが、今ではほとんど消え去ってしまった。 み、処理速度が上がる。1990年代には毎分4,200回
記憶容量ではSDカードのほうが上回っているほどだ。 転(4,200rpm:revolutions per minute)
の製品が
 すでに多くのHDDメーカーは、1インチ以下などの 主流であったが、その後5,400rpmの製品が登場、現
超小型HDDの製造を打ち切っている。フラッシュ・ 在では7,200rpmのものが主流となっている。ハイエ
メモリの大容量化と低価格化に対抗できないからだ。 ンドの製品では1万rpmを超えるものもある。
 HDDでは、
3.5インチや2.5インチで1TB
(テラバイト)  PCとHDDの間をつなぐインタフェースの速度につ
といった大容量かつ高速なHDDが今後の主流になる いては、この10年ぐらいでも毎秒33MBのUltra AT
だろう。音楽や動画、特にハイビジョン映像の保存な Aから毎秒66MBのUltra DMA/66、毎秒100MBの
どでは容量が不足しがちになるからだ。 Ultra DMA/100と改良が進められた。2000年代に
 しかし、ビジネス用途のモバイルPCなどでは、そ 入ると、パラレル処理のATAに代わってシリアルAT
れほどの大 容 量は必 要ないだろう。Windowsと A
(SATA)が制定され、現在は毎秒300MBのSA
Office、それにワープロや表計算ソフトなどのファイ TA300が主流となっている。
ルだけなら数十GBで十分であり、SSDで何ら問題は  ところが、磁気ヘッドの移動に要するシーク・タイ
ない。むしろ紛失時の情報漏洩などを考えれば、ノー ムはあまり向上していない。
トPCに何でもかんでも保存して持ち歩くのは危険だ。  データが連続した領域に記録されているのであれ
つまり、ビジネス用途なら、過剰に大容量のHDDは ば、
ヘッドを移動させる距離は最小になるため、
シーク・
必要ないと言ってよいだろう。 タイムはあまり影響を与えない。だが、PCではランダ
ム・アクセスが頻繁に発生する。実際、データはプラッ

HDDの処理速度は タ上の飛び飛びのセクタに記録されるので、ヘッドは

構造的な理由で限界に 頻繁に円盤上を動かなければならない。
 隣り合ったシリンダへの移動を最短シーク、内周か
 実は、HDDはある問題に突き当たっている。それ ら外周への移動を最大シーク、その平均値を平均シー
は構造的な理由によって処理速度が限界に達しつつ クという。この平均シーク・タイムはここ数年、10ミリ
あることだ。もちろん、さまざまな改良が加えられては 秒前後と変化していない。磁気ヘッドが取り付けられ
いるが、CPUやメモリの高速化が進むなかで立ち遅 たスイング・アームをボイスコイル・モーターで左右に
れているのが実情である。 振るという基本原理が変わらないかぎり、なかなか
 特に問題となっているのがシーケンシャル・アクセ シーク・タイムの向上は望めそうにない。この点が

(データを連続的に読み書きする処理)に対する、 HDDの限界になっているのだ。

96 Computerworld June 2008


Storages

Storages
 一方、SSDには、
このシーク動作が存在しないため、  ヘッドが動いている状態で突然電源が切れたり、
純粋に電子回路の能力である読み書きの速度が上が 落下による衝撃を受けたりするとプラッタにヘッドが
れば、それに伴ってトータルの速度も上がるわけだ。 当たってしまい、プラッタに傷がつくなどの損傷が起
きる。これがヘッド・クラッシュである。

HDDに付きまとうヘッド・  最近のノートPCや外付けHDDには加速度センサー

クラッシュもSSDには無関係 が内蔵されており、落下や傾きを検知してヘッドを退
避させる仕組みが備わっている。また、衝撃を吸収
 HDDには、その構造上どうしても避けられないトラ するダンパーによってHDDは保護されている。しかし、
ブルとして、ヘッド・クラッシュがある。 それでも完全にヘッド・クラッシュを避けることはでき
 HDDの磁気ヘッドはプラッタからごくわずかに浮い ない。バッグやポケットから頻繁に出し入れするよう
た状態でデータを読み書きする。プラッタは固いため、 なモバイル機器では、ノートPC以上に落下の危険性
磁気テープやフロッピーディスクのように完全に密着 が高く、HDDが壊れる可能性も高くなる。また、消
させるわけにはいかない。プラッタとヘッドの間隔は 費電力の面でもHDDはフラッシュ・メモリに比べ不利
10nm ~ 30nm
(ナノ:10億分の1)であり、タバコの だ。そのため、モバイル機器ではいち早くHDDから
煙の粒子も入れないほど狭い。プラッタが高速回転 フラッシュ・メモリへの移行が進んだ。
することで発生する空気の流れにより、ヘッドはわず  ノートPCの場合、CPUや液晶ディスプレイなども
かに浮いているのだ。 消費電力量が大きい。そのためSSDに切り替えれば

COLUMN SSDの中身である半導体メモリのおさらい
 半導体メモリは大きく分けて2種類ある。電源を切ると中身が消えて 億分の1)程度と高速で、高速ランダム・アクセスが可能だ。しかし、
しまう揮発性メモリと、電源を切っても中身が保存される不揮発性メモ NAND型に比べて集積度が低く、書き込み速度が遅い。
リだ。PCのメイン・メモリとして使われるDRAM
(Dynamic Random  これに対し、NAND型は集積度を上げられるので大容量化に向いてい
Access Memory)
やキャッシュ・メモリは揮発性メモリであり、SDカー る。書き込み/消去の速度はNOR型よりも速いが、ランダム・アクセス
ド、SSDに使われるフラッシュ・メモリは不揮発性メモリである。 速度は低い。データの信頼性という面ではNOR型に劣っており、エラー
 揮発性メモリは、記録保持用の電源が必要であり、特にDRAMは一 訂正(ECC)機能が不可欠である。
定間隔で書き直し作業を行わないと記録が消えてしまう
(そのため、  NOR型は主にファームウェアやBIOSなどを保存する用途に、NAND
Dynamic RAMと呼ばれる)
。だが、読み書きが自由に行え、高速であ 型は主にストレージ用、つまりSDカードやUSBメモリ、SSDなどに使
るという特徴を持っている。これに対し、不揮発性メモリは電源を切っ われている。
ても内容を保持できるが、書き込みには制約があり、読み書きの速度が  フラッシュ・メモリは、さらにセルごとの記録容量の違いでSLC
(Single
遅いという特徴がある。 Level Cell)
とMLC
(Multi Level Cell)の2タイプに分けられる。SLCは
 不揮発性メモリはROM
(Read Only Memory)
とも呼ばれる。本来は 1つのセルに「0」か「1」の2値1ビットを記録する。一方、MLCは1つのセ
書き換えができずに、
読み出し専用のメモリという意味である。
実際にゲー ルに複数ビットを記録する。例えば、4値2ビット・タイプであれば、
「00」
ム・カセットに使われているマスクROMは製造工程でデータを記録し、 「01」
「10」
「11」のように1セルにSLCの倍のデータを記録できる。
後からは書き換えができない。しかし、現在使われているROMは書き換  SLCは高速かつ信頼性が高いが、集積度でMLCに劣る
(2分の1から
えができるEPROM
(Erasable Programmable ROM)
がほとんどであり、 4分の1)
。一方、MLCは、大容量かつ低価格だが、信頼性、高速性で
その中でも電気的処理によって書き換えができるものをEEPROM SLCに劣る。
(Electrically Erasable PROM)
という。フラッシュ・メモリはEEP  単純に言えばMLCは同じ面積で容量をSLCの2倍以上にすることが可
ROMの一種ということになる。 能となり、同じ容量であれば大幅なコスト・ダウンが実現できる。NAND
 フラッシュ・メモリは、構造の違いでNOR型とNAND型に分けられる。 型フラッシュ・メモリで世界トップ・シェアを持つ東芝は、MLCの開発に
NOR型はデータの信頼性が高く、読み出し速度が100ナノ秒(ナノ:10 注力しており、フラッシュ・メモリの多値化比率は95%を超えている。

June 2008 Computerworld 97


Technology Focus

バッテリーの持続時間が非常に長くなるというわけで SSD普及のカギは
はない。しかし、各パーツの省電力化が機器の省電 低コスト化
力化の第一歩である。また、衝撃吸収ダンパーなど
が不必要になることで、よりいっそうの軽量化や小型  処理速度や耐衝撃性、消費電力の面からすれば
化、薄型化も実現できるはずだ。さらに、プラッタを ノートPCにSSDを採用するメリットは大きい。だが、
回転させる必要がないため、省電力化だけでなく音が 現実には、ようやく普及の緒についたばかりだ。最大
静かになるというメリットも出てくる。 の理由は、単純にHDDと比較して「割高」だからだ。
 SSDは、ヘッド・クラッシュがない点で、車載機器  2006年7月にソニーが発売した「VAIO type U ゼ
の市場などで注目されている。過酷な衝撃・振動にさ ロスピンドル」モデルが本格的なフラッシュ・メモリ搭
らされる車載機器でHDDを保護することは大きな課 載の小型モバイルPCのはしりと言えよう。
同モデルは、
題だが、SSDならば、この問題を考慮しなくてよいわ 20GB/30GBのHDDを搭載した「VAIO type U」の
けだ。実際、例えば東芝には自動車関連メーカーか ストレージ部分を16GBのフラッシュ・メモリに置き換
らの引き合いが来ているという。 えたものである。ゼロスピンドルとは、
「スピンドル=回
転軸」がない、つまりHDDを搭載していないという意

半導体メモリに付きものの「寿命」 味だ。Windows XPがプリインストールされており、

オフィス・ユースでは問題なし 出荷時の空き容量は約9.1GB、HDDタイプが直販価
格14万4,800円からであったのに対し、フラッシュ・
 自由に読み書きできるフラッシュ・メモリだが、書き メモリ・タイプは20万9,800円からとなっていた。
換え可能回数には上限がある。  現在では、パーツ・メーカーからPC用のSSDユニッ
 フラッシュ・メモリは「トンネル酸化膜」という絶縁 トも販売されている。2.5インチで32GBのものが4万
体を使って電荷を保存する。これによって外部から 円程度となっており、ほとんどのノートPCで、そのま
電源を供給しなくてもデータが保存できるわけである。 まHDDと入れ替えることが可能だ。
だが、書き込みや消去といった動作を行うと酸化膜  前述した東芝の2.5インチ、128GBのSSDは10万
を電子が通過し、酸化膜が徐々に劣化していく。最 円程度になるという。2.5インチ、160GBのHDDが1
終的には絶縁性が失われてしまい、メモリとしては使 万円程度から売られていることを考えれば、まだまだ
えなくなる。NAND型では100万回程度が書き換え 価格差は大きく、普及の障壁になっていると言える。
の上限と言われている。
 ただ、この絶縁不良はメモリ・チップ全体に起きる 2010年にはノートPCの16%が
のではなく、セル単位で発生する。そのため、書き換 SSDを搭載するとの予測
えを行うセルをコントローラ・チップによって分散させ
たり、不良セルを切り離す「ウェアレベリング」を使っ  東芝はNAND型フラッシュ・メモリの最大手である
たりして実質的な寿命を伸ばしている。 が、これまでSSDは手がけていなかった。東芝にとっ
 東芝メモリ事業部NANDシステム企画部部長の西 てSSDの量産を開始する2008年は、
「SSD元年」と
川哲人氏は、フラッシュ・メモリの寿命の問題はオフィ いうことになる。
ス・ユースでは問題ないと話す。
「例えば、ノートPC  同社はSSDを市場に送り出すにあたり、MLCを採
のSSDの場合、通常のオフィス・ユースで何万回、 用した。SLCに比べると処理速度では見劣りするも
何十万回と書き換えを行うことは、まずありえないで のの、MLCでは大幅なコスト・ダウンが可能となる。
しょう。その前に他の部品の寿命が来ます」
(西川氏) そして、何よりもSSDをノートPCの標準デバイスと

98 Computerworld June 2008


Storages

Storages
して普及させるためにはコスト・ダウンが不可欠だ。 図2:ノートPC市場におけるSSD搭載PCの台数/割合の推移予測

「PCメーカーは、HDDにかけられる費用は100ドル程 (百万台/年)
度と言っています。SSDがそこまで安くなるのはまだ 200
2010年にはモバイル/企業向けPC市場にてSSDの普及が加速
かなり先だと思いますが、3倍、つまり300ドルぐらい 180
に落ちれば一気に採用されるでしょう」
(東芝メモリ営 Hybrid
160 (HDD/SDD混在)
業統括部ファイルメモリ営業部参事の江島克郎氏)
高速/大容量
 また、MLCの処理速度について西川氏は、
「内部 140
タイプ
でパラレルにデータを読み書きすることなどで改善さ
120
れ、SLCに引けを取らなくなります」
と語っている。
100
 同社の予測では、2010年には世界中のノートPC HDD
の16%がSSDを搭載するようになるという
(図2)
。また、 80 中・大容量
タイプ
米国Gartnerは、
SSDに使われるNAND型フラッシュ・
60
メモリの世界市場が、2011年には2006年の20倍に SSD市場は年平均成長率295%で推移
成長すると予測している。2010年ごろには、モバイ 40

ル性を重視した軽量タイプのノートPCはSSD搭載が 20 SSD
当たり前となり、HDDは影が薄くなってしまうかもし 小容量
0 タイプ
れない。
2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

資料:東芝

大企業向けストレージにも
SSD採用の流れが到来 写真3:SSDに対応したEMCのハイエンド・ストレージ「Symmetrix DMX-4」

 現在のところ、モバイル用途として注目が集まって
いるSSDだが、ついに企業向け大容量ストレージに
SSDを採用するベンダーが登場した。
 EMCジャパンは、エンタープライズ・ストレージの
ハイエンドモデル「EMC Symmetrix DMX-4」に、
73GB/146GBの2種類のSSDを搭載し、2008年3
月末より販売を開始している
(写真3)
。採用された
SSDは、国防/宇宙航空業界に高信頼メモリやスト  価格は公表されていないが、EMCによると
「性能
レージを提供する米国STECが同社の「ZEUS-IO が30倍なので、それに見合った価格になる」
(EMCプ
PS」をベースに、EMCと共同開発したもので、容量 ロダクトマーケティング部部長の中野逸子氏)
という。
より高速性を重視したSLCタイプの3.5インチ・モデ 前モデルのSymmetrix DMX-3が定価1億円程度か
ルだ。インタフェースはFC
(ファイバ・チャネル)
、HD らであったことを考えると、相当高価なものになりそう
D搭載モデルに比べてI/O処理能力は30倍、アプリ ではある。
ケーションの応答速度は10倍向上するという。また、  データセンターなどでは、増大する機器の消費電
消費電力は同容量のHDD搭載モデルと比較して 力量と放熱量を低減することが急務となっている。そ
38%削減され、同等の処理性能を持つHDD搭載モ の両方を一度に低減できるSSDの採用は、エンター
デルと比べると実に98%削減されるとしている。 プライズ分野でも進むと見ていいだろう。

June 2008 Computerworld 99


Technology Focus

S
ys.Admin
[システム運用管理]

ITIL 適用の真実
──いかに着手し、
実践するか
ベスト
・プラクティスを自社で活用するためのポイントを探る
ITサービス業務を行うための有力なプロセス・フレームワークとして、すでに多くの企業で活用が進んでいるITIL
(Information Technology Infrastructure Library)
。2007年5月には最新バージョンの「ITIL Version 3」が
公開され、これまで欧州などに比べて導入が遅れていた米国でも、ITIL導入に取り組む企業が急激に増えている。
そこで本稿では、そうしたITILの適用に取り組む米国企業の姿を紹介しながら、実際にみずからの組織にITILを適
用する際のポイントを探ってみたい。

Sue Hildreth
Computerworld米国版

ITサービス業務の改善が不要な プラクティス
(成功事例)
をまとめたフレームワークで

企業など存在しない あるからだ。
 例えば、ITILのサービス・サポートとサービス・デ
 米国ノースカロライナ州サリスベリーのスーパー リバリのセクションには、インシデント管理、問題管理、
マーケット・チェーンFood Lionは2004年、SOX法 構成管理、変更管理、リリース管理、IT財務管理、
(Sarbanes-Oxley Act:米国企業改革法)
に準拠す IT継続性管理、キャパシティ管理、サービス・レベル
るにあたって、ITシステムの変更管理を自動化する 管理などのガイダンスが含まれる。こうした領域にお
必要に迫られ、ITIL
(Information Technology いて、まったく改善の必要のない企業など存在しない
Infrastructure Library)
の変更管理プロセスを導 はずだ。
入した。だがそのとき、
変更管理以外のITILのフレー  実際、
ITILの適用範囲はきわめて広い。ITILトレー
ムワークについては導入を見合わせた。
「ITILを直ち ニング会社のITSM Solutionsでバイスプレジデント
に全面導入するつもりはなかったので、当面必要がな を務めるリック・ルミュー(Rick Lemieux)氏は、
「わ
いと思われたものは外したのだ」
と、同社のITオペレー れわれはITILがどのようなものであるか、どのような
ション担当シニア・マネジャー、デール・エドミストン 価値をもたらすか、あるいはどのようなプロセスで行
(Dale Edmiston)氏は説明する。 うかといったことを、顧客に対して正確に説明しなけ
 ところがFood Lionでは、その後すぐにITILの他 ればならない立場にあるが、一言ではとても説明しき
のパートの導入も真剣に検討するようになり、まもな れない」
と語る。
く全面導入へ踏み切った。  もっとも、ITILの実利的な価値については、IT分
 他の多くの企業と同じく、Food Lionも最初は1つ 野にかかわる人間であればだれでも理解できるはず
の問題を解決するためにITILを導入し、後により幅 だ。Lemieux氏は、
「ビジネスとITの目標を一致させ
広い問題にITILを適用するようになった。それは るためにどうすればよいかをITILは教えてくれる」と
ITILがさまざまなIT運用管理業務に役立つベスト・ 強調する。

100 Computerworld June 2008


Sys.Admin.

Sys.Admin.
プロセスの組み合わせは自由 を提供しているかを問い合わせた」
とStinnett氏。

まずは
“小さく”スタート  同社はBMCのサービス・モデリング・エディタ
「Service Impact Manager」
(102ページの画面1)

 ITILの導入にはさまざまな作業が伴うが、最も改 利用して、ワークフロー・ダイアグラムをAtrium CM
善が必要なものから段階的に進めていけば、それほど DBへ入力し、プロセスやトランザクションがどのよう
難しいものではない。 にアプリケーション間を移動するかを視覚化すると同
 バージニア州センタービルにある民間の自動車調 時に、ITリソースに変更が生じた際のビジネスへの
査機構CARFAXが最初に着手したのは、
ITILのキャ 影響をリアルタイムに把握できるようにした。これに
パシティ・プランニングの領域だった。同社のシニア・ より、データベースの中の情報更新も容易になったと
アナリスト、ロバート・スティンネット
(Robert Stin いう。
nett)氏がITIL採用に向けて取り組み始めたのは、  CMDBやサービス・モデリング・ツールを実装した
2004年にCARFAXがBMC Softwareのエンタープ ことで、CARFAXは「手作業によるIT業務を、過去
ライズ・ジョブ・スケジューリング・ソフトウェア「Control 2年間で約400%削減することができた」
(Stinnett氏)
-M」
を購入したときからだった。なお、BMCはITIL という。例えば、特定のシステムのアップグレード計
関連の教育サービスを提供しており、Stinnett氏と 画が他のシステムに及ぼす影響を自動的に確認、調
彼の同僚らは、そのいくつかのコースを受講していた。 整できるようになったため、
CARFAXのITスタッフは、
 CARFAXにとってITIL導入の最初のステップは、 これまでのように何時間もかけてアップグレードの影
ITのプロセスとワークフローのダイアグラムを作成す 響を分析したり、アップグレード後のトラブルシュー
ることだった。
「壁一面を使って、クレジットカード・プ ティングに煩わされたりすることがなくなった。
「これ
ロセスや自動車履歴リポートのフローチャートを描き、 により、システム変更管理やキャパシティ・プランニン
ディーラーのログインやサーバどうしのやり取りなど、 グの精度が向上した」
とStinnett氏は強調する。
さまざまなプロセスを個別のサービスに分解していっ  ITILの各種プロセスについて、同氏は、
「いずれも
た」
とStinnett氏。 必要に応じて自由に組み立てることができる。ITIL
 またCARFAXは、IT資産およびプロセス上を流 には厳格な、
あるいは融通の利かないルールなどない」
れるデータの中央リポジトリとして、BMCの構成管理 と考えている。
データベース
(CMDB)
「Atrium」
を購入した。CMDB
はITILのコア・コンポーネントだ。 ITサービスの成熟度を測り
 CARFAXでは、ハードウェアやネットワークのコ プロセスの優先順位を決める
ンフィギュレーション情報と、各システムがデータを
やり取りする業務アプリケーションおよびデータベー  イリノイ州ノースブルックの生命保険会社Allstate
スの物理ロケーション情報をCMDBに手作業で移植 Insuranceでは、2002年からITILの採用に取り組ん
した。これによりCMDBは、CARFAXのIT環境全 でいる。それは一部のITスタッフがIT部門の上層部
体のハードウェア、ソフトウェア、および統合リンク に対してITIL関連のトレーニングを受けたいと要望
のインベントリ、ディスクリプションを包括する構成管 したことからスタートした。現在、同社はITILを全面
理の中核となった。 的に導入し、すでに数百人のITスタッフがトレーニン
 その作業が完了するまでには1年ほど要した。
「われ グを受けている。
われは古いドキュメントを読み返し、各部署にどのよ  ITILの実装化にあたって、AllstateのIT部門は、
うなサーバやソフトウェアがあり、どのようなサービス さまざまなプロセスの成熟度を測る基準を設定し、優

June 2008 Computerworld 101


Technology Focus

画面1:
「BMC Service Impact Manager」は、ビジネスとITインフラの関係性をCMDB 察官がリポートを作成しなければ、捜査官が仕事をで
を基に分析し、システム障害がビジネスに与える影響範囲を動的に可視化すること
ができる きないのと同じだ」
(Pugh氏)

“ビッグバン導入”で
大きな効果を引き出す
 テキサス州タラント郡では、他の多くの組織と異な
り、ITILの初期段階から大規模な導入が展開された。
同郡のIT部門は2005年9月、
ITIL専門のコンサルティ
ング会社Pink Elephantと契約し、さまざまなITプ
ラクティスの分析を行った。その結果に基づいて作成
された20ページのリポートで、同郡のITオペレーショ
ンは「全般にわたり未熟」と評価された。
「事実、サー
ビスデスクがなく、ヘルプデスクがあるだけだった。
ヘルプデスクはコールを受けて他の部署へ回すだけ
だが、サービスデスクはコールを受けて問題解決を目
先順位を決めていった。ITオペレーションを評価す 指す点が異なる」と同郡のオペレーション担当ディレ
る基準としては、多くの企業がCCM
(能力成熟度モ クター、ピート・リッツォ(Pete Rizzo)氏は語る。
デル)
などの参照モデルを利用しており、ITILには、  ITIL導入にあたって、同郡のITスタッフはITIL/
ITサービスの成熟度を評価する手段として「成熟度 ITSM関連のトレーニングを受講し、24人がITIL認
フレームワーク」
と呼ぶ独自の測定基準が用意されて 定資格を得た。それらのスタッフは、複数立ち上げら
いる。 れたプロセス導入チーム
(PIT)に配属された。同郡
 Allstateでは、
キャパシティ管理や可用性管理、
サー のITオペレーション担当プロジェクト・マネジャー、
ビス・レベル管理などの各プラクティスの評価が行わ ジャン・オールレッド
(Jan Allred)氏によると、PIT
れた。具体的には、十分なレベルで機能しているか、 は特定のITILプロセスに特化したチームで、サーバ・
従業員が適正な手順を理解しそれを順守しているか、 グループやデータベース管理グループ、デスクトップ・
ドキュメンテーションに一貫性があるか、などである。 サポートなど、複数のセクションに分けられている
(な
 その結果から同社は、インシデント管理と変更管理、 お、各チーム・メンバーはIT部門内でフルタイムの日
そして構成管理に着手することにした。
「まず何を改 常業務にも従事している)

善すべきかを考え、プロジェクト・プランを立案し、す  ITIL導入は、まずインシデント管理と問題管理か
ぐさま実行に移した」
と、Allstateのプロセス・コンサ ら着手し、その後、変更管理、構成管理へと展開す
ルタント、キャシー・カーチ
(Cathy Kirch)氏は語る。 ることにした。また、コンサルタントの助けを借りて、
 Kirch氏とともにAllstateのプロセス・コンサルタン 従来のプラクティスとITILのそれを比較し、その
トを務めるケビン・フン
(Kevin Pugh)氏は、プロセス ギャップを埋めるまでのロードマップを作成した。例
間の相互依存とハンドオフを理解し、それをドキュメ えば、
ヘルプデスクをITILのサービスデスクに転換し、
ント化することが、ITILを成功させるうえで重要と指 スタッフとオペレーションの時間を増やす、
などである。
摘する。
「特に問題管理はインシデント管理でドキュメ さらに、
Hewlett-Packard
(HP)
のITサービス管理ツー
ント化されていなければ、分析も修正もできない。警 ル「HP ServiceCenter software」のインシデント管理、

102 Computerworld June 2008


Sys.Admin.

Sys.Admin.
変更管理、構成管理の各機能モジュールを導入し、 (Control Objectives for Information and related
機能の拡張を図った。 Technology)
とともに、他のITILプロセスの追加導
 こうした“ビッグバン導入”の過程において、タラン 入を決断した。
ト郡のIT部門は、急速にITILの世界観を取り込ん  Edmiston氏は、
「ITILの特定のサービス領域を単
でいったとRizzo氏は振り返る。
「ITILは、インシデ 独で導入するのは現実的ではない。例えばインシデン
ント管理を
『サービスの迅速な復旧』
と定義している。 ト管理を行うなら、問題管理と変更管理も必要となる。
したがって、もしだれかのプリンタが機能しなくなっ また、インシデントには原因分析が不可欠であり、そ
た場合、サービスデスクの最終目標はプリンタを修理 の結果は変更に直結する」
と語る。
することではなく、何らかの方法でプリントできるよう  同氏によると、Food LionのIT部門では、最初に
に支援することとなる。プリンタが動かない原因を探 実装した4つのITILプロセス領域(変更管理、インシ
るのは、問題管理の領域になる」
(同氏) デント管理、問題管理、サービス・レベル管理)ごと
にスタッフ10名からなるチームを編成しているという。

ITILは常に進化し続ける 各プロセス領域では順調に作業が進行しており、構

終わりのない改善のサイクル 成管理とリリース管理に責任を持つ新たなチームの
追加も決定した。それでも、ITILへの取り組みに終
 Food LionのEdmiston氏と配下のスタッフは、 わりはない、とEdmiston氏は断言する。
「ITILは常
ITIL導入後、すぐにその価値を確信し、ITガバナン に進化し続ける、終わりのない改善のサイクルなのだ」
スの成熟度を測る標準フレームワークであるCOBIT (同氏)


COLUMN データセンター管理のキーワードは
「ITIL」
と「自動化」 Denise Dubie
Network World米国版
「いずれも効率的なIT環境の実現に貢献」
とアナリストが指摘

 最近実施された2つの調査によると、大企業のITマネジャーは今後、  また、
「非常に効率的なIT組織では、複数の技術レイヤにわたってワー
データセンターを効果的に稼働させるために、さまざまな自動化技術を クフローの自動化が図られている」
との回答が36%に上った。
「IT資産管
導入し、ITILなどのベスト・プラクティス・フレームワークを採用すること 理ツールやイベント監視/相関処理/根本原因分析(RCA)
ツールのほ
になりそうだ。 か、ITILのようなITサービス管理のベスト・プラクティスが効率的なIT環
 米国の調査会社Enterprise Strategy Group
(ESG)のシニア・アナ 境の実現に貢献しているようだ」
とTurner氏は報告書で指摘している。
リスト、メアリー・ジョンストン・ターナー(Mary Johnston Turner)氏は、  一方、システム管理ソフトウェア・ベンダーの米国CAも先ごろ、世界
「2008 IT Service & Infrastructure Management Survey」
と題し のCIO
(最高情報責任者)300人を対象に、データセンターの自動化に
た報告書の中で次のように指摘している。
「IT管理の効率化を図るには、 関する調査を実施した。この調査では、
回答者の65%が「データセンター
サーバ、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェア、エンドユーザー・シス のタスクの多くを自動化している」
と答え、31%は「中央集中型の管理を
テムがどのように相互作用しているのかを正確かつタイムリーに把握する 行っている」
と答えたという。平均すると、多くのCIOがデータセンター
必要がある。そのためにはIT管理の自動化が不可欠であることを当社の のタスクの48%を自動化しており、向こう1年半でその比率が56%に増
調査は示している」 える見通しだ。
「この調査は、サーバの整理統合、仮想化、性能管理、アッ
 ESGの調査は「データセンターがどのように変化しているか」
「その変 プタイム、事業継続性などに関する取り組みが、自動化の必要性を加速
化にITマネジャーはどのように対応しているか」
をテーマに、グローバル させていることを示している」
とCAは指摘している。
企業のIT意思決定者602人を対象に実施されたもの。それによると、回  また、同調査の回答者の半数近くが「ITILを採用している」と答え、
答者の4分の3以上が、仮想化技術は向こう2年間でIT管理の要件に「か 30%が「ビジネス・サービス管理に取り組んでいる」
、23%が「
(ITガバナ
なり」または「ある程度」の影響を及ぼすだろうと回答し、SOA
(サービス ンスの評価標準フレームワークである)COBITを採用している」
と答えた
指向アーキテクチャ)やWeb 2.0の場合も同程度の影響を及ぼすと予想 という。
「ベスト・プラクティス・フレームワークは、自動化技術よりも先
していることがわかった。 に導入するのが望ましい」
とCAはアドバイスしている。

June 2008 Computerworld 103


IT業界でサバイバルするための

ITキャリア解体新書
システム開発編 システム運用管理編 ITトレーナー編 販売/サービス編 経営管理編

第 3回 システム・エンジニア
「下流プログラマー」
→「上流プログラマー」
とキャリアを積んだら、次のステップはシステム開発の花形ともいうべき
「シ
ステム・エンジニア
(SE)
」だ。ITとビジネスの橋渡し的な役割を担うSEは、ITに精通すると同時に、顧客とのコミュ
ニケーション能力や、関係者との調整能力など、オールラウンドな能力が求められる。
「プロジェクトのカギ」
を握ると
言ってよいほど重要な役割を担っているのだ。

横山哲也
グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

職務概要 存在意義

 SEの仕事は、
“ビジネスの人”
と“ITの人”の間に立  顧客の要求をITで実現可能な手順にまとめるのが
つ「通訳」である。ビジネス用語で語られる顧客の要 SEの任務である。
求を聞き、コンピュータで実現可能な形態を考え、  プログラマーは、SEが作成する仕様書に従って、
IT用語で記述された仕様書にまとめる。しかし、最 実際に動作するプログラムを作成する。しかし、その
近ではSEの職域は拡大傾向にあるようだ。 プログラムが実際のビジネスに役に立つかどうかは判
 従来、SEが作成するのは、顧客の要求の中でも 断しない。システム開発の過程では、SEだけが顧客
ITで実現可能な範囲を記述した「要求仕様書」だけ と直接の情報交換を行う。
であった。しかし、最近では要求を実現するための、  現在、ITをまったく利用しないでビジネスを行って
具体的な手順を記述した「詳細仕様書」までをSEが いる企業は存在しないと言ってよいだろう。しかし、
記述することもある。 ITが一般化した今日でも、
やはりITシステム構築には、
 また、実際のコーディング作業まで行うSEもいる。 特別なスキルが必要であり、ビジネス・スキルとの乖
こうなると前回紹介したプログラマーの仕事とSEの 離は大きい。SEはこの乖離を埋める職業である。
仕事との境界線があいまいになる。もっとも、上流/
下流プログラマーまでをトータルでSEと呼称する会 必要な経験/スキル
社も多い。プログラマーからSEへのキャリアアップを
考えて転職活動を行う場合には、希望する会社のSE  一般的に、SEはプログラマーの次に進むべきキャ
の仕事内容を事前に調査しておこう。 リアだとされている。プログラマーとしてITに精通し

104 Computerworld June 2008


2 2 2 2

ワ ン ポ イ ン ト お 役 立 ち 情 報
SEが持っていたい資格
たうえでビジネスを学び、ITとビジネスの橋渡しがで 国家資格系
きるようになるのが、典型的なキャリアパスである。し
●情報処理技術者試験「テクニカル・エンジニア」
たがって、SEには以下の経験/スキルが求められる。 情報処理推進機構(IPA)が実施している情報処理技術者試験「テ
クニカル・エンジニア」には、
「システム管理」
「エンベデット・システ

プログラマーとしての経験 ム」
「情報セキュリティ」
「データベース」
「ネットワーク」の5分野の試
験がある。すべての試験を受ける必要はないが、自分の専門分野
 会社によっては、プログラマーを経験させずにSE
となる試験は受けておきたい。
を育成することもある。理論的にはこうしたやり方は
不可能ではない。SEに必要なITスキルは、プログラ ベンダー資格系
ムの細部を見渡すことではない。概要がわかれば十 ●マイクロソフト認定システム・エンジニア(MCSE)
分である。 「マイクロソフト認定プロフェッショナル(MCP)
」の最上位資格。

 しかし、仕様書を書くには、実装技術の詳細まで マイクロソフト製品を用いてITインフラの設計や実装を行っている
SEを対象にしている。また、下流/上流プログラマーで紹介した
知っていたほうがよいとする意見も根強くある。現実
「オラクルマスター」なども取得しておきたい。
問題として、最低限のプログラミング・スキルは必要
と見たほうがよいだろう。筆者の個人的な見解では
1,000行程度のプログラムを1人で書ければよいと考
えている。
労などを相談されるタイプの人は、
「話させ上手」で「聞
仕様書を読み書きした経験 き上手」な人が多い。仕事上の苦労を聞き出すことは、
 SEの仕事は仕様書を書くことである。読みやすく システム化のポイントを聞き出すことと
(ほぼ)同じだ。
誤解を与えない仕様書を書くには、すぐれた仕様書 また、相手の苦労(課題)
に共感し、仲間意識が芽生
を多く読む必要がある。また簡潔かつ誤解のない表 えることで、プロジェクトが成功する確率も高まる。
現で仕様書を作成することも、SEの必須スキルだ。 人の苦労話を聞くことが苦痛ではない人は、コミュニ
ケーションを心から楽しんでいる人だろう。
IT業界動向の把握
 常に最新技術を使うわけではないが、業界の動向 待遇
は一とおり押さえておきたい。顧客の要求を実現する
のに最適な手法を提案するためである。  インターネットで公開されている情報を総合すると、
30歳のプログラマーの平均年収は、上流/下流をま
顧客のビジネスに対する理解 とめて500万円程度、SEだと600万円程度のようだ。
 ビジネスとITの橋渡しを行うためには、その両方を ただし、会社の給与形態や個人の能力によるばらつ
理解する必要がある。顧客のビジネスを理解していな きは大きい。ベテランSEの中には、1,000万円を超え
いと、顧客の要望には十分に応えられない。 る年収を得ている人もいる。

採用の決め手となる
“究極の質問”
差がある
によってかなり
与えられる権限
所属する組織、
「合コンなどの席で、彼女(彼)
から仕事上の苦労など 年収 ★★★ 行方はSEの双
肩にかかってい

プロジェクトの
を相談されたことがありますか? 相談を受けること やりがい ★★★★★ 量”は今後も増
え続けるハ ズだ
大丈夫、仕事“
将来性 ★★★★ 」だった頃はモ
テたらしい……
は、あなたにとって苦痛ですか?」 ITが「花形職種
モテ度 ★★
 顧客の職種は千差万別である。今まで聞いたこと
もない業務のシステムを扱うこともある。仕事上の苦

【謝辞】本稿を執筆するにあたり、元プログラマーの鈴木和久氏(グローバル ナレッジ ネットワーク)に協力をいただいた。 June 2008 Computerworld 105


IT KEYWORD

39

USB 3.0
I T
K E Y W O R D

(Universal Serial Bus 3.0)

USB 2.0の10倍の転送速度を実現する
次期USB規格
3 9

Computerworld 編集部

 USB 3.0(通称SuperSpeed USB)


は、PCと周辺 も大きい。同方式を用いた場合、PC側が周辺機器
機器との間でデータをやり取りするためのシリアル通 側に対して通信を許可した時にだけデータ転送が可
信規格
「USB」
の次期規格である。現在、米国Intel 能となる。一方、USB 3.0では、周辺機器側でも自
や米国Microsoft、日本のNECなど6社で結成された 由に通信のタイミングが決められるプロトコルが用い
「USB 3.0 Promoter Group」
と、USBの仕様策定を られる。こうした仕様変更によって、通信の効率性が
行う非営利団体
「USB-IF
(Implementers Forum)
」 増し、高速化、そして省電力化も実現するようだ。
が共同で標準化を進めている。正式規格として公開  現在公開されているコネクタの形状を見ると、USB
されるのは2008年前半になる見通しだ。 3.0用端子とは別にUSB 2.0用端子が組み込まれてお
 USB 3.0の最大の特徴は、現行のUSB 2.0と比べ り、下位互換可能となっている。また、現状では銅
て転送速度がきわめて速くなる点だ。USB 2.0の転 線用の端子が実装されているのみだが、ゆくゆくはよ
送速度は最大480Mbpsだったが、USB 3.0ではその り高速なデータ転送が可能な光通信にも対応する仕
10倍以上の約5Gbpsまで速くなるとされている。 様となる予定だ。
 これを可能にするのが、USB 2.0から変更された  なお、USBの
“ライバル”
とも言えるシリアル通信
データ転送仕様だ。USB 2.0では、データ転送のた 規格I EEE 1394(通称Fir eWir e)
でも、現行の4
めの通信線が送信/受信で共用されている。しかし、 倍の転送速度3.2G b psを実現するとされる次期規
USB 3.0では送信/受信で別々の通信線があてがわ 格
(S3200)
の標準化が進められている。
れる。また、USB 2.0で使われていた通信プロトコル  2008年は、シリアル通信規格が飛躍的に速くな
(ポーリング方式)
が、USB 3.0では使われなくなる点 る年になりそうだ。

USB 2.0およびUSB 3.0のコネクタ形状の比較


(プラグ)

USB 2.0の場合 断面図 前面図

アース 電源

送信/受信端子

USB 3.0の場合 USB 3.0用端子群 USB 2.0用端子群 送信端子 受信端子

アース

USB 2.0用端子群

106 Computerworld June 2008


 ナレッジ・マネジメントの用語に、形 Attention Trust」
より)
式知と暗黙知がある。前者はドキュメン
トや図表などで表現され、容易に他人に  暗黙Webは、ユーザーのクリックとい
伝達できる明文化された知識のことであ インターネット劇場 う行動によって成り立っている。ユー
る。後者は人間の経験に基づくノウハウ ザーが何かのリンクをクリックすれば、
のようなもので、テキストで表現するの それは何らかの評価を下したということ
は難しい知識を指す。当然、後者のほう を意味する。
がシステムでインデックス化しにくい。  そして、このクリックという行為によっ
 この2つの言葉を英語で言うと、
「expli て、さまざまなパーソナライゼーション
cit knowledge」
「implicit knowledge」
佐々木俊尚 やレコメンデーションが可能になる。
となる。explicit/implicitは、明示と暗 T o s h i n a o S a s a k i ReadWriteWebは、暗黙Webの最良事
黙の対比語だ。そして最近、Webの世 例として、音楽共有サイトのLast.fmを
界でimplicit webという言葉が使われるようになってき Entry 挙げている。Last.fmは、ユーザーがiTunesなどで日々
「暗黙Web」

ている。直訳すれば
「暗黙Web」
となろうか。一見、何 23 聴いている音楽の情報を記録していき、そのユーザー
新しいレコメンデーションの形

のことかわからない言葉だが、ニュース・サイトのRead がどんなアーティストや楽曲を好んでいるのかを集計・
WriteWebによれば、次のような意味だという。 ランキングしてくれる。そして、
集計結果をマイニングし、
ユーザーが好みそうな楽曲ばかりがかかるネット・ラジ
 
「暗黙Webのコンセプトはシンプルだ。われわれがあ オを流してくれる
(残念ながら、現在、日本語版ではこ
る情報に触れたとすれば、われわれはその情報に何ら のネット・ラジオ機能が
「準備中」
になっている)

による

かの意思表示をしたということになる。何かの記事に出  つまり、Last.fmはユーザーが音楽を好きなように聴
会ってその記事を読むのに時間を費やす。面白い映画 いているだけで、そのリスニング傾向をどんどん蓄積し
を観て、その映画を友人や家族に薦める。音楽に共鳴 てくれる。ユーザーが
「この曲が好き」
「このアーティスト
すれば、その曲を何度も繰り返し聴く。われわれはこ の曲を聴きたい」
と明示的
(explicit)
にリクエストしなく
うした行為を反射的に、無意識のうちに行っている。 ても、ユーザーの無意識
(implicit)
を自動収集し、
「あな
つまり暗黙のうちに行っているのだ。でもそうした暗黙 たの好みはこれでしょう?」
とレコメンドしてくれるのだ。
の行為の結果には、重要な意味がある。われわれがそ
の音楽や映画や記事に対して注意を払ったという暗黙  これは一種の監視システムではある。だが、さまざま
の行為が、
『私はそのコンテンツを気に入った』
という評 な情報を入力する手間を省いてくれるうえ、ユーザーの
価になっているからだ」
(2007年6月12日のエントリー 好みを自動判別してくれるようなレコメンデーション機
「The Implicit Web: Last.fm, Amazon, Google, 能は、今後の主流になっていくことが予想される。

PROFILE
ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年
兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視
庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件
や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材
する。その後、アスキーを経て、2003年2
月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、
さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追う
リポートを展開。『ライブドア資本論』、
『グー
グル——既存のビジネスを破壊する』 など著
書多数。

June 2008 Computerworld 107


 1997年──当時、ハードウェア・ベ ジーが未熟であることにほかならない。
ンダーからITサービスの会社へと大変 カスタマイズをしなくても簡単に使える
革を遂げつつあった外資系ベンダーの ように、絶えず進化していくのがイノ
新卒採用面接を受けたときの出来事で ベーションの宿命であり、
また、
ユーザー
ある。面接も終盤にさしかかり、
「弊社
IT哲学 のほうもテクノロジーに対するリテラ
について、何か聞きたいことはあります シーを次第に高めていき、やがてそれら
か?」
と聞かれたとき、私はすかさずこの が交差する瞬間がやってくる。
ような質問をした。  しかし、そうしたイノベーションの行
き着く先は、プロのエンジニアが不要に
 
「IT業界というのはとても奇妙な業界 なるということでもある。
だと思います。IT業界が目指す理想の
江島健太郎
K e n n E j i m a

世界が訪れるとき、つまり、ITのイノベー  かつて、PCを買ってきてネット回線
ションによってだれもが個人で簡単に情報にアクセス Entry
を引いてあげるだけでソリューションと呼んで商売に
できる時代が来るとき、今、御社が目指そうとしている、 33 なっていた時代があった。今では考えられないことだ、
自分で自分をクビにするために働く

ITのソリューションを販売するという商売はなくなって と読者の皆さんは笑うかもしれない。だが、今のソ
しまうのではないでしょうか」 リューション・ベンダーの仕事を未来の世界の住人た
 
「自分で自分をクビにするためにイノベーションを起 ちが振り返ったとき、同じ感想を持たないと言えるだ
こすという、とても不思議な矛盾を抱えた仕事だと思 ろうか。
うのですが、御社は、50年後の自社がどのような姿に  情報技術は、どこまでも個人の能力を増幅する方向
なっているとお考えでしょうか」 へと進化し、やがて空気のような存在となり、社会の
総セルフサービス化を加速させていくだろう。IBMか
 今にして思えば、わざと答えのない問いを投げかけ らマイクロソフト、グーグルへという業界重鎮の交代
ることで相手を困らせてやれという、ナイーブな若者 劇は、大企業から中小企業、そしてとうとう個人へと、
にありがちな態度だったと少し反省している。しかし ITの主たるターゲットが変化してきたことを意味してい
一方で、この問いは今も問い続ける価値のある問いだ るのだ。
と考えている。
 ソリューション・ベンダーは今、正に自分で自分を
 あるテクノロジーが、もしプロのエンジニア集団に クビにする大変革の時期が到来しているはずなのに、
何百万円も何千万円も出してカスタマイズしてもらわ このことに自覚的なベンダーが驚くほど少ないように
ないと使えないようなものなら、それはそのテクノロ 思われる。これははたして杞憂だろうか。

PROFILE
えじま・けんたろう。インフォテリア米国法
人代表/XMLコンソーシアム・エバンジェ
リスト。京都大学工学部を卒業後、日本オ
ラクルを経て、2000年インフォテリア入社。
2005年より同社の米国法人立ち上げの
ため渡米し、2006年、最初の成果となる
Web2.0サービス
「Lingr
(リンガー)
」を発表。
1975年香川県生まれ。

108 Computerworld June 2008


 
「産消逆転」
(産業分野と消費者分野 となっていました。
の逆転)
、あるいは
「コンシューマリゼー
ション」
(Consumerization:消費者化)  しかし、産消逆転時代には、このよ
という言葉に代表されるように、新しい テクノロジー・ランダムウォーク うな伝統的手法だけでは企業ITの将来
テクノロジーが、まず消費者分野で普 動向を先読みすることが困難になってく
及し、その後、産業分野で普及すると るでしょう。企業向けIT市場だけではな
いうパターンが増えています。GUI、携 く、消費者向け市場にも目を向けて、次
帯電話、マルチメディア、サーチ・エン に来るテクノロジーを探さなければなら
ジン、Web 2.0などがその典型例と言 ないのは当然ですが、これに加えて、消
えるでしょう。
栗原 潔 費者の世代別動向にも目を向けなけれ
 こうした動きには、十分な理由があり K i y o s h i K u r i h a r a ばならなくなると思います。例えば、20
ます。今日のテクノロジーにおいて価値 代の消費者において広く普及している
をもたらす中核要素になっているのは、ソフトウェアと Entry テクノロジーがあるとするならば、およそ5年後、すな
「産消逆転」

半導体です。どちらも生産のための固定費と比較して、 33 わち、それらの消費者が企業の意思決定担当者となる
企業IT動向の読み方

複製と流通のための変動費がはるかに小さいという特 タイミングで、そのテクノロジーが企業において急速
性を持っているので、大量に販売すればするほど極端 に普及するといった可能性が考えられます。
に安くできます。したがって、新しいテクノロジーを、
まずは消費者向け市場で大量に展開して開発コストを  以前にも書きましたが、米国においては若年層の消
時代の

回収するビジネス・モデルが有効となるわけです。 費者において、コミュニケーションの手段に電子メー
ルよりもインスタント・メッセージング
(IM)
を好む傾向
これからの企業ITの動向予測に求められる が 顕 著に現れています。また、日本においても、
新しいアプローチ 「Twitter」
のようなカジュアルなコラボレーション・ツー
 このような産消逆転の現象は今後、企業ITの動向 ルを好む若年層が増えているようです。従来型の企業
予測を行うITアナリストの業務にも影響を与えると思 ITの予測手法だけでは、これらのテクノロジーが企業
われます。過去においては、過去の傾向を見て先を予 内で短期間のうちに急速に普及する可能性を見逃して
測したり
(「過去5年間に10%成長してきたので、当面 しまうかもしれません。
は10%成長が続くだろう」
)、あるいは、企業のIT部門  もちろん、従来型の予測手法も重要ですが、特に
におけるテクノロジー採用の意思決定者に導入意欲 将来のシナリオの検討においては、一般消費者の世代
を尋ねたり
(「今後3年間にこのテクノロジーを採用す 別動向という要素を含めることがますます重要になっ
る予定がありますか?」
)という手法が動向予測の中心 てくると思います。

PROFILE
くりはら・きよし。テックバイザージェ
イピー(TVJP)
代表取締役。弁理士の
顔も持つITアナリスト/コンサルタント。
東京大学工学部卒業、米国マサチュー
セッツ工科大学計算機科学科修士課程
修了。日本IBMを経て、1996年、ガー
トナージャパンに入社。同社でリサーチ・
バイスプレジデントを務め、2005年6
月より独立。東京都生まれ。

June 2008 Computerworld 109

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