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注文の多い料理店

しんし きゅうか しゅりょう


二人の若い紳士が、休暇に 狩 猟 をして過ごそう
てっぽう
と、ピカピカの鉄砲をもって、山の中を歩いてい
ました。それはすごい山奥でした。案内人もどこ
かへ行ってしまったぐらいの山奥でした。東京か
あわ
ら連れてきた白熊のような二匹の大きい犬も泡を
ふいて死んでしまった。
「ちぇッ、高かったのに」
死んだ犬を見てひとりが言うと、もう一人は
えもの
「獲物ないし、もう帰ろうよ」と言いはじめまし
た。
やど やまどり
「そうだな、それじゃ切り上げよう。宿で山鳥で
りょう
も買えばいいさ」二人は 猟 をやめて、帰ることに
しました。

1
ところが、あまりに遠くに来たので、もどる道
くさ
がわかりません。風はドウドウ、草はザワザワ…
はら
「寒いし、腹がへったな」
「いいかげんある歩き疲れたよ」
りっぱ いっけん
ふと見ると、立派な西洋風の家が一軒たっていま
げんかん せいようりょうりてん やまねこけん かんばん
した。玄関 には「西洋料理店 山猫軒 」と看板 が
あります。
やまおく ほんかく
「おや、こんな山奥に本格レストランかね」
以外に思った二人が入り口に立つと、ドアには金
文字で

どなたもどうか、お入りください。
えんりょ
けっして、ご遠慮はいりません。

と書いてあります。
2
「いいじゃないか、入ってみよう」
うらがわ
ドアを押すと、裏側にはこう書いてありました。

わか かた けんこう ほう だいかんげい
若い方や健康な方が大歓迎です。

「おお、僕らは歓迎される客のようだ」
二人は大喜びです。ろうかを進んでゆくと、まだ
ドアがありました。
「ずいぶんドアが多い家だなあ」
しき
「これはきみ、ロシア式だ。寒いところの家はこ
うなのさ」
うえ
ドアの上には

りょうしょう
当店は注文の多い料理店なので、ご 了 承 ください。

と書いてあります。
3
「注文が多いなんて、こんな山の中でも、はやっ
ているんだな」
中にはまだドアがあり、こう書いてあります。

かみ なお よご お
ここで髪をきちんと直し、くつの汚れを落としてく
ださい。

きび
「マナーの厳しい店だね。えらい人がやっている
らしい」
二人はその通りにしました。くしとブラシを台
の上に置くと、それはボウっと消えてなくなり、
かぜがドウっと、部屋の中に入ってきました。二
よ そ おそ おそ
人はびっくりして、寄り添うように、恐る恐るド
アの中に入りました。

4
中にはまた変なことが書いてありました。

てっぽう
たまをぬいて、鉄砲をここにおいてください。

「なるほど、鉄砲をもってものを食べる作法はな
いな」
ぼうし
次のドアには、 帽子とコートとくつをお取り
ください。と書いてあったので、二人は来ている
ものをかべにかけました。

かなもの
まだドアがあり、メガネ・さいふ・そのほか金物、
もの
特にとがった物は、すべてここに置いてください。

きんこ
と書いてあり、大きな金庫まであります。

5
「なんか電気を使う料理かな、とがったものは危
きんこ
ないからね」二人はメガネや時計などを金庫に入
れました。
次のドアの前にはガラスのつぼがあり、中には何
かクリームが入っていました。見ると

つぼの中のクリームを顔や手足にすっかりぬってく
ださい。

「これは、どういうことなんだ?」
「外はひどく寒かっただろう、急にあたたかい部
屋に入って手足はひびわれないようにさ」
あま ぶん
二人はクリームを顔や手足にぬりつけ、余った分
はこっそり食べました。それは牛乳のクリームで
した。

6
次のドアにはこうありました。

料理はもうすぐできます。
こうすい
ビンの中の香水をよく体に振りかけてください。


二人は香水を振りかけましたが、それはどうも酢
のようでした。
か ぜ
「風邪でもひって。まちがえたのかな」
ドアの中に入ると、大きな字で

いろいろ注文が多くてすみませんでした。
これが最後の注文です。
つぼの中の塩を体によくもみこんでください。

と書いてありました。
7
「え?」二人は顔を見合わせました。
「おい。何だか変だと思わないか?」
「うん、おいしいぞ」
「さっきから、向こうがこっちへたくさん注文を
しているんだよ」
・・・
「西洋料理店というのは、つまり … ??ぼくたち
を料理にして食べるってことじゃあ!!」
ドアの向こうからはヒソヒソ声も聞こえます。
「ちぇッ、やっぱりやつら気づいたようだぜ。
おやぶん
親分が、よけいなこと色々と書くからだ」

8
ふる に だ
二人はガタガタ震えて逃げ出そうとしました
が、後ろのドアがビクとも動きません。前のドア
あな めだま
のかぎ穴からは二つの青い目玉がキョロキョロこ
ちらを見ています。
「さあさあ、お客さん、早くこちらへいらっしゃ
い。親分はナイフを持って、お待ちしています
よ」
しんし な な
「助けてくれえ~!」紳士たちは、泣いて泣いて
な な な
泣いて泣いて泣きました。

9
その時です!ワンワン、ガルル~死んだと思っ
た二匹の犬が、部屋の中に飛び込んできました。

犬は前のドアを破って、「わん。」と高く吠え
とびら
て、いきなり次の 扉 に飛びつきました。その扉の
向こうの真っ暗の闇のなかで、「ニャア、ギャ
オ、ゴロゴロ」という声と、バタンドタンという
音が聞こえてきました。

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そのとたん、部屋もドアも、西洋風の家もすべて
スーッと消えてなくなり、二人は風がドウドウと
そうげん ふる た
ふく草原の中にブルブル震えて立っていました。
まわりの木には二人の帽子やら、コートやら、メ
ガネやら、時計やらがひっかかっていました。
「うわああ!」
おおあわ に
二人はそれらを急いで身に着けると、大慌てで逃

げ出しました。
そのあと、二人は無事東京へ帰りつくことができ
ましたが、泣いてクシャクシャになった顔だけ
は、熱いお湯に入っても元に戻りませんでした。

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しんし す
紳士:quý ông 酢:giấm
きゅうか
休暇:ngày nghỉ クシャクシャ:nhăn
しゅりょう
狩 猟 する:săn bắn nhúm
ぴ か ぴ か
ピカピカ:sáng bóng
てっぽう
鉄砲:súng
あわ
泡をふく:sùi bọt mép
えもの
獲物:con mồi
やど
宿:nhà trọ
ほんかく
本格:chính tông, chính
thống
かんげい
歓迎する:chào đón
マナー:phép tắc,
cách cư xử
たま:đạn
つぼ:lọ
こうすい
香水:nước hoa

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