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Title 白川部達夫著『日本近世の村と百姓的世界』

Author(s) 渡辺, 尚志

Citation 日本歴史, 574: 122-124

Issue Date 1996-03

Type Article

Text Version publisher

URL http://hdl.handle.net/10086/17669

Right

Hitotsubashi University Repository


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白 川部達 夫 著
﹃日本 近 世 の村 と 百姓 的 世界﹄
渡 辺 尚 志
本書 は、 白 川部達 夫氏 が年来 の研究成 果
を ま と めら れ た論 文集 であ り、 一七 二 八
世紀 を主 要 な対象 とし て いるC 本書 では、
近世社 会 の歴 史的基層 を解 明す るた め に、
そ のも っとも基本的要素 とな る近世 百姓 の
所有 と自由'そし て社会結合 のあ-よう が' す るために、 7七世紀 におけ る土地移 動形 第 三章 「百姓的 世 界意識 の基層1 迷惑 ・
彼ら が抱 いた社会意識 の側 面から追 究され 態 とそ こに潜 む意 識 とを解 明す る こと'② 我値 ・私欲- 」 は、 村 方 騒動文書 にあ ら わ
て いる。 世直し におけ る土地意 識 のあ り方 を質 地請 れ た非 難 文言を分析 し て、 そ こにおけ る百
本書 は'序章 ・終章 と、本論部分 の二編 戻し慣行 と の関 連 で明ら か にす る こと、 が 姓 の正当性意 識 の展開 を跡付 け たも ので、
六章 と から な る が、L 百 姓 的 世 界 の基 課題 となろう。 ① 近 世初 期 の迷惑 ・取込 ・非 分 と い った文
層 、 の第 一章 「
近世質地請戻 し慣行 と百姓 第 二章 「百姓 的 世 界 の成 立 と百姓結合」 言 から、 一七世紀中葉 にな ると我 億 が非難
高所持」 では'質 入 ・流地 から何年経過し では、 下絵国 古河藩 領 を対象 に、 一七世紀 文言 の中 心 を占 めるよう にな り、 さら に 一
ても元金を返済しさ、
㌃す れば土地を請戻す 未 から 一八世紀初 め にかけ て の百姓的 世 界 七世紀 未 から 一八 世紀初 め にな ると、 私欲
ことが でき ると いう無年季的質地請戻 し慣 の正当性 と、 そ の形成 を さ さえ た百姓結 合 文言 が次第 に重要 性 を増す よう にな った こ
行を検討対象 とし、全国的 に事例を収集 し の展開 が検討 され'
① 一七世紀未 にな ると、 と、② 私欲 文言 の多 用 は' 小 百姓 の家 がそ
たう え で、① この慣行 は、小百姓 の高所持 小百姓 の家 の形成 により村 の家格 秩序 は平 の自律 を前 提 に公 と共 を形成 し、 これ に背
の再生産を ささえ る不 可欠 の条件 であ り、 準化 され' 百姓仲間 とし て の村 の性格 が強 -も のを 私欲 と非難 し た ことを 示し て いる
質取側 は幕末 ・維新期 にお いても、 この慣 ま った こと'② そ のな か で、村 役 人 に把握 こと、③ 百姓 的 世 界 の公 は村為 な ど村 の公
行を拒否し自ら の所持を確保す る論 理を十 でき.な い内通 ・内証な どと いわれ た小 百姓 とし て具体 化 し ており、 私欲 はそ こにまず
分形成しえな か った こと、② この慣行 は、 の私的な結合 ・寄 合 が成 長 し、 これ が百姓 あ らわ れ た が、村 の変 容 ととも に万 民 の助
一七世紀未 にかけ て小農自立 が進 み百姓株 的世界 の形成 を 下 から ささえ て いた こと、 け のた めな どと いう 、村 を こえ たより普 遍
式 が形成 され る ことを基本 に'検地名詩 と ③ 百姓仲間 が取 -結 ぶ社会 結 合 の論 理 とし 的 な場 に広 が って い った ことり な どが指摘
結 び付 いて確 立し た こと、 な どを 明ら かに て、見継ぎ ・見 継 がれ る、 頼 み ・頼 ま れ る され て いる。 近年 公共性 の問題 は多 - の研
し て いる。本章 は、中世 とも近代 とも違う と いう関係 があ り、 こう し た結 合 を反映 し 究者 の注目 を集 め ており'村 ・百姓 の公 と
近世固有 の百姓 の土地意 識を解 明し た豊 か た頼 み証 文と いう 文書様 式 があ ら われ た こ 共 の具体 的内 容 と歴 史的展開 に ついては、

書評 と紹介
な内容をも つも のであ り、 私自身 も本章 の と、な どが指摘 され て いる。 な お' 頼 み証 本章 の成 果 をう け てさら に深 めら れ る必要
初出 の時点 (一九八 六年) から非常 に多 - 文 の問題を白 川部 氏 がさら に展開 し たも の があ ろう 。
のことを学 ん でき て いる。本章 で の到達点 とし て、「
近世 の百姓結 合 と社会意 識- 頼 み H 百姓的世界 の展開 と社会結合十 の第

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を ふまえ て、今後 は'① 中世 から近世 への 証 文 の世界像- 」(
﹃日本 史 研究﹄三九 二号' 一章 「
元禄期 の山野争 論 と村 」 では、常 陸

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百姓 の土地意識 の連続 と変化をより明確 に 一九九 五年) があ る。 国 西部 の筑波 郡太 田村 と小 田村 の山論を素
材 に、① 小 田村 は太 田村 に対し て中 世 から 通じ て同族 墓制 から村 落墓制 への展開 の可 撹)
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の伝統的な鎌取りを行 ったが、鎌取り勢 は、 能 性 が切り開 かれ た こと、 な ど が明ら か に A5判、三 一八 ペー ジ、七 二 一〇円、校倉書
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地代官を勤 めた有 力百姓 が中心 となり、若 され て いる。 房、 l九九 四 ・ 二 刊)
者 のほかに、家来 ・門屋 ・下人 ・下男な ど 第 三章 「
古河藩 宝暦 一操 の展開」 では、
が多 数参加す る構成 であ った こと、② 太 田 宝暦九年 (一七 五九) に古 河藩 でお こ った
村 の結集 のあり方 は、小 田村 と対 照的 に、 百姓 1校 の経過を 跡付 け、 1校前 後 の村落
頼 み証文を作成 し て村中 から合意を調達す の変化 に ついて、 正徳 ∼寛 延期 におけ る農
ると いう新 し いかたち であり、 そ の基礎 に 民闘争 が村役 人層 をも 「百姓 仲間」 とし て
は小首姓 のイ エの形成 が 〓疋度進展し、 百 包 摂す る惣 百姓結合 を 強化す る性格 をも っ
姓 がも はや村中 に埋没し た存在 ではな-な て いた のに対 し て、 宝暦 一操 の成 功後 は、
って いると いう事態 が存在した こと、な ど 村 役 人屑 と小 前 屈 と の対 立 が 激 化 し て い
が述 べられ て いる。 き'村 を こえ た規模 で検 見 入 用な ど の諸掛
第 二章 ・
「享保期 におけ る村落共同体 と祭 り ・村 入用 の監査 体制 の組織 化 がはから れ
舵問題」 は、常 陸国 西部農村 を対象 に'村 た、 とし て いるC
落祭紀を めぐ る村方 騒動 に ついて分析 し た 絵 じ て、本書 は、 Ⅰ の第 一 二二章 のよう
も ので、①村 レベ ルでは、念仏結衆 の編成 な全国的 に事例 を博捜 し て の立論 と、 そ の
や神 社 遷 宮 の供 奉 順序 な どを めぐ る抗 争 他 の諸章 のよう な北関 東 を中.心 とし た丹念
が' 可能 性 とし て分村化 の要素 を はら みな な地域研究 とがう ま-結 合 し ており、 土地
がら展開し、 そ の背後 には、新 百姓 ・組 子 意識、不 正観念、 頼 み証 文 に みられ るよう
百艶 の新 たな台頭 と、初期本 百姓 の系譜を な社会結合 のあ り方 な ど、 近 世 の百姓的 世
も つ村 役人層 の後退 とがあ った こと'②村 界を考 え る上 で核 とな る問題 に ついて の重
組」にお いても、 要 な提起 がなされ て いる。本書 が広 -読 ま
落 の下部編成単位 であ る 「
この時期、初期本百姓的村落 秩序 の 〓疋の れ、 それを通じ て近 世村 落 史 研究 がさら に
変質 がみられる こと、
③ 同族団 にお いては、 発展す る ことを願 ってやまな い。
廟所 を めぐ る争論 が急速 に展開 し' それを (
わたな べ ・たかし 1橋大学社会学 部 助教

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