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中西覚作曲

無伴奏女声(同声)合唱組曲『虫の詩』

作曲者は 1934 年生まれの作曲家・教育者・合唱指揮者で、現在も神戸を中心に活動をされ


ている中西覚先生です。作曲家のなかにしあかねさんのお父様でもあります。
この作品は、作曲者が創設以来 58 年間指導に携わっている西宮少年合唱団の第 56 回定期
演奏会のために作曲され、2018 年 3 月に自身の指揮により初演されました。少年合唱団と
ありますが、これは少年期の子どもたちを指すそうで、実際には少年少女混合で歌われま
した。
テキストは橋爪文さんの詩集「乗り捨てられたブランコ」のなかの「虫の詩」から抜粋さ
れ3つの詩で、自由な発想と“声に出したい”溌剌さに溢れています。曲もそれらの詩の
イメージに導かれて、3 曲それぞれが特徴的なシェイプを持っています。作曲者は故・小
山清茂氏が主宰していた作曲集団「たにしの会」の現代表でもあり、日本語の自然な処理
とそれにふさわしい日本的な和声付けを追求されています。ハンガリーにおけるコダーイ
作品のような、教育的でもあり、かつ音楽的な愉悦にも満ちた可愛らしい作品です。

曲は 3 曲からなり、全曲演奏しても 6 分半程度です。基本は 3 声で、最大 6 声に div.します。


1、こめつきばった
遠くへ飛ぼうと考えているうちに足が曲がってしまった、というコミカルな詩。前編ホモ
フォニックに進行し、ユニゾンと平行和声が多用されています。冒頭の 3 回ずつ繰り返さ
れる「あの」はバッタの跳ねる様を描いているのでしょうか。曲中テンポが目まぐるしく
変わるので、その変化をアニメのシーン割りのように自然に、かつ楽しく演じられると、
いきいきした演奏になることでしょう。
2、みみず
時間を持て余しているみみずの様子を、Sop と Mez のカノンの絡み合いで描いています。
アルトは 2 拍+1 拍でヴォカリーズを奏でていますが、3 拍子のリズムを強調するより、み
みずらしいウネウネした動きを模すと面白いでしょう。後半では c moll から C dur に転調
して、ホモフォニックなスローワルツとなりますが、半音進行が多く丁寧なソルフェー
ジュが必要となります。
3、蟻
「ありにあるのか ありことば」といった、“あ”で始まる言葉だけでできたことばあそ
びの 1 曲。4/4 拍子ではじまり、6/8 の中間部を経て 4/4 に戻る構成で、シンコペーション
の鋭さと強弱の明確なコントラストが際立ちます。日本語の基本の母音である“あ”の響
きを整える意味でも有用な曲で、究極的には“あ”の音色の違いで言葉の内容を表象する
という、アドバンスな楽しみ方もできます。

【筆者プロフィール】
佐藤 拓(さとう たく)
早稲田大学第一文学部卒業。卒業後イタリアに渡り Maria G.Munari 女史のもとで声楽を学
ぶ。World Youth Choir 元日本代表。合唱指揮者、アンサンブル歌手として幅広く活動中。
Vocal ensemble 歌譜喜、The Cygnus Vocal Octet 、Salicus Kammerchor、vocal consort initium
等のメンバー。東京稲門グリークラブ、日本ラトビア音楽協会合唱団「ガイスマ」、合唱
団 Baltu 指 揮 者 。 常 民 一 座 ビ ッ キ ン ダ ー ズ 座 長 、 特 殊 発 声 合 唱 団 コ エ ダ イ r . 合 唱 団
(Tenores de Tokyo)トレーナー。
声楽を捻金正雄、大島博、森一夫、古楽を花井哲郎、特殊発声を徳久ウィリアムの各氏に
師事。

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