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論 文
UDC 669. 14-426. 2: 539. 4. 016: 669. 786: 621. 788. 011
高 炭 素鋼 線 の引 張性 質 にお よぼす窒 素 と伸 線条 件 の影 響*
藤 田 達**・ 木 下 修 司*****
Synopsis:
This paper describes the effects of free nitrogen (nitrogen not bound to nitride forming elements) and
drawing schedule mainly on the tensile properties of patented and cold drawn high carbon steel wires . The
results obtained are as follows.
The deleterious effect of nitrogen upon the reduction of area at tensile fracture , which is apparent in the
as-patented steels, gradually diminishes with the reduction by drawing and becomes negligibly small above
about 60 to 70% reduction. The tensile properties of the heavily cold drawn wires are determined not by the
free nitrogen level but rather by the wire drawing condition. The important role of the drawing condi-
tion on the wire strength properties is discussed in terms of the progress of the strain aging during drawing .
The tensile-fractured steels were examined using a scanning electron microscope and it was found that
in the as patented steels, the fracture pass was mainly along the proeutectoid ferrite or the pearlite boundaries
and that in the heavily cold drawn ones, small voids elongated along the wire axis direction were dominant
in the early stage of fracture. These fracture characteristics are discussed in relation to the tensile ductility .
本 報 告 は 伸 線 した ほ ぼ共 析 組 成 を有 す る高 炭 素 鋼 の引 そ の 化学 組 成 をTable 1に 示 す. A-Vac試 料 は フ リー
張 性 質,特 に 延 性(破 断 絞 り)に お よぼす フ リーN量 と Nレ ベ ル が低 く,Nの 多いA試 料 中 のNの 大 部 分 は,鋼
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高 炭 素 鋼 線 の 引張 性 質 にお よぼ す 窒 素 と伸 線 条 件 の 影 響 421
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分 鋼 で は 前 オ ー ス テ ナ イ ト化 加 熱 条 件 の 破 断 絞 りへ の 影
響 は 非 常 に 小 さ く な る.Fig. 1に 示 した900℃ 加熱 の
の 速 度 で 単 釜 伸 線 機 を 用 い て,そ れ ぞ れ 伸 線 した 結 果 で
あ る.光 学 顕 微 鏡 写 真 か ら 求 め た ノ ジ ュー ル サ イ ズ よ り
判 断 して,A-Vac 1070℃ 加 熱 で は 前 オ ー ス テ ナ イ ト結
5程 度 と 推 測 され る.
以 上 よ り,前 オ ー ス テ ナ イ ト結 晶 粒 度 を 一 定 に そ ろ え
Photo. 1. Microstructures of as-patented steels
て も,Fig. 1と 同 様,強 加 工 伸 線 試料 の延 性 は伸 線 条件
A-Vac and A. Nital etched.
に 大 き く 依 存 す る も の と考 え ら れ る.
7程 度 で あ る. の,伸 線 加 工 に よ る 繊 維 組 織 形 成 過 程 に ほ と ん ど両 試 料
この よ うに,前 オ ース テ ナ イ ト結 晶 粒 度 に 相違 が あ る 間 の 差 は み と め られ な い.
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高 炭 素 鋼 線 の 引 張 性 質 に お よぼ す 窒 素 と伸 線 条 件 の 影 響 423
ラ イ トに特 徴 的 な パ ー ライ ト剪 断 に よ る延 性 破 壊 は ほ と
ん ど観察 され な か つ た.60な い し70%程 度 以上 の減 面
率 加 工 を施 され た 試 料 に は上 記 の 破面 上 の凹 凸 は ほ とん
ど認 め られ ず,か な り平坦 な延 性 破面 を呈 す る(Photo.
3).し か し,A-Vac試 料 とA試 料 間 で の破 面 の 特 徴 の
Photo. 2. Microstructures of cold drawn stecl
A-Vac. 相 違 は ほ とん ど認 め られ な い.
次 に,引 張 破 断 面 直下 の試 料 縦 断 面 を 走査 電 子 顕 微 鏡
で 観 察 した.パ テ ンテ ィン グ した ま ま のA-Vac, A両
試 料 と も ク ラ ック は主 と して初 析 フ ェ ライ トに沿 つ て お
り,そ の 他 に,パ ー ライ トの 界面(前 オ ー ス テ ナイ ト結
観 察 す る と破 面 は 主 と して 細 か い デ ィン プ ル に よ つ て 構 晶粒 界,ノ ジ ュー ル境 界,コ ロニ ー境 界 な どに対 応 す る
成 され る こ と が わ か る(Photo. 4).粗 い 層間隔のパー と考 え られ る)に 沿 う延 性 割 れ が見 られ る(Photo. 5).
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Photo. 5. Microcracks observed near the fracture surface of patented and tensile tested steels.
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ト結 晶粒 微 細 化 に よ つ て,延 性 が 向上 す る一 原 因 であ ろ
う.
A, A-Vac両 試料 に つ い て,伸 線 中 の温 度 上昇 とそれ
に伴 う歪 時 効 の 進行 を で き るだ け 防 止す るた め に,各 ダ
イス0.1m/Minの 低 速 で,Table 2の ドローベ ンチ伸
線 と同 じダ イス ス ケ ジ ュール で 総 減面 率59%の 伸線 加
工 を行 な つた.こ れ らの低 速 伸 線 試 料 に100℃.10min
の 時 効 を施 した の ら,室 温 で 引 張 試験 した と ころ,A-
Vac試 料 で は時 効 に よ る0.2%耐 力の 増加 は僅少 であ
つ た が,A試 料 で は そ の増 加 が 明瞭 であ つ た ので,A試
起 こ しに く く し,す べ り線 の先 端 にお け る応 力集 中 を大
き くす る効 果 が あ る と考 え られ6),こ の ため 固 溶Nが 多
くな る とよ り小 さな歪 で微 小 ク ラ ッ クが 発生,成 長 す る
で あ ろ う.Fig. 1のA-Vac試 料 の前 オ ー ス テナ イ ト結
晶 粒 径 や ノ ジ ュー ル径 がA試 料 のそ れ よ り大 であ る と判
断 され るに もか か わ らず,パ テン テ ィン グの まま のA-
Vac試 料 の延 性 がA試 料 よ りも良好 な の は,し たが つ て
固 溶 量Nの 差 に 主 と して よつ て い る もの と考 え られ る.
強 加工 伸 線 した 鋼線 の引 張 破断 部 近 傍 に形 成 され るボ
Photo. 6. Voids just below the tensilefractured イ ドはPhoto. 6に 見 られ るよ うに線 軸 方 向 に長 く,線
surfaceof cold drawn steelsA-Vac. 軸 と垂 直 な 方 向 に は ほ とん ど 成 長 してい な い ものが 多
い.熱 延 鋼 板 のL方 向延 性 に お よ ぼす 板 状MnS介 在物
の 有 害 な作 用 が,Z方 向,C方 向 のそ れ に 比 して非 常 に
小 さい 例7)に み られ る よ うに,こ の よ うな細 長 い ボ イ ド
時 効 した 試 料 の 引張 破 断 面 直 下 の ク ッラ クは伸 線 の ま
はそ の まま で は,延 性劣 化 作 用 が非 常 に小 さ い と思 わ れ
ま の試 料 の 引 張 破断 部 のそ れ と類似 して いた.例 え ば,
4.5mm径 の 試 料 で は,初 析 フ ェ ライ トや パ ー ライ ト界 る.こ れ らの ボ イ ドは線 軸 方 向 に並 んだ 初 析 フ ェ ライ ト
や パ ー ライ トの境 界 に沿 つ て 発生 し,局 部 収縮 部 に働 く
面 に沿 うク ラ ックが 観 察 され た.
三 軸 応 力 下 で まず 線 軸 方向 に成長 した もの と思わ れ る.
4. 考 察 これ らの 細長 い ボイ ドを線 軸 方 向 と直 交 す る方向 に成 長
ェ ライ トは前 オ ース テ ナ イ ト結 晶 粒 界 に沿 つ て析 出 す る な い し70%減 面 率 加 工 され た 試料 で は引 張 試験 中 に局
効 果 に よつ て 転 位 の 結 晶境 界 へ の 集 積 に よ つ て生 じ る引 の た め,引 張 荷重 方 向 に配 列 した セ メン タ イ ト板 は フェ
張応 力集 中 を小 さ くす るで あ ろ う4)5).そ して これ に よ ライ ト地 に 比 して は るか に高 い 引 張 応 力 を受 け持 つ とさ
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高 炭 素鋼 線 の 引 張 性質 に お よ ぼす 窒 素 と伸 線 条件 の影 響 427
セ メン タイ ト板 の長 さ,tは 同 じ く厚 さ)を もつ 引 張 応
力方向 にな らん だ セ メン タ イ ト板 に 働 く引 張 応 力 σmax
は σmax=(l/t)τ で 表 わ され る.こ こで τ は フ ェラ イ ト
に働 く剪 断 応 力で あ る.今,か りにl/t=20,セ メン タ
イ トの破壊 応 力 を500kg/mmmm2と す る と τ=25kg/
mmmm2で セ メン タ イ ト板 が破 断 す る こ とにな る.す な わ
ち,パ ー ライ トが 塑 性 変 形 す る と,フ ェ ラ イ トが 伸 び て
τ が増加 し,そ れ と ともに σmaxも 増 大 す る.σmaxが
セ メンタイ トの 破壊 応 力 に達 す る とパ ー ライ トが 破 断 し
は じめ る.強 加 工 伸 線 試料 の引 張 破 断 部 近 傍 の ボ イ ドは
破断面 の ご く近 傍 に 限 定 さ れ て お り,パ ー ライ トが破 断
しは じめ てか ら最 終 破 断 に い た る ま で の歪 は小 さ い.し
たがつて,延 性 は セ メ ン タイ ト板 の破 断 しは じめ る歪 に
よつ てほ ぼ決 め られ るで あ ろ う. Fig. 4. Cooling curves and the corresponding
aging curves in 2.9mm dia. wires.
この よ うな モ デ ルで は,転 位 の パ イ ル ア ップに よる局
部的応 力集 中 に よる セ メン タイ トの 破壊 を考 え に入 れ る
鋼 の 熱 伝 導度 と して λ=40kcal/m・h・℃,比 熱 と して
必要が ない とされ て い る9).事 実,す で に述 べ た よ うに
C=0.13kcal/kg・℃,密 度 と して ρ=7800kg/m3を
本実験 では 転位 の パ イ ル ア ップ に基 づ く と思わ れ る,い
用い て,鋼 線軸 方 向 の 熱 流 は ない もの と して,通 常 の熱
わゆ るパ ー ライ トの勢 断 破 壊11)はパ テ ンテ ィン グ試 料 お
拡 散 方 程 式 を解 い た もの で あ る.
よび伸 線試 料 の いず れ に もほ とん ど観 察 され な か つ た.
NをAlな どで固 定 した り トー タルNを 下げるな ど
また,数10ppm程 度 のNが フ ェ ライ トの変 形 抵 抗6)や
して 固溶Nを 少 な くす れ ば,第I段 階歪 時 効 に よる時
セメン タイ トの破 断 応 力,ア ス ペ グ ト比 にほ とん ど影 響
効 強化 は無 視 し うる程 度 に な る ので,第II段 階 につ い て
を与 えな い とすれ ば,上 記 の モ デ ル に よつ て,強 加 工伸
考 慮 す れ ば よい.第II段 階 の歪 時 効 の等 温 反応 式 は次 の
線 試料 の 延性 がN量 にほ とん ど依 存 しな いの を一 応 説 明
よ うに 表 わせ る3).
でき る.
明 らか な よ うに単 釜 伸 線機 で伸 線 した 場 合 に は伸 線 中 に t:時 間
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条 件 下 で 実 測 し た ダ イ ス 直 後 の 鋼 線 温 度 は230℃ 程度
で あ り16),計 算値 と 比 較 的 よ く一 致 す る.
で1m/minの 速 度 で 伸 線 した と き の ダ イ ス 出 口 で の 鋼
線 温 度 を 推 定 す る.LUEGら12)の 実 験 に よ れ ば,ダ イス
中 で の 鋼 線 表 面 温 度 は 伸 線 速 度 の1/3乗 に 比 例 す る.今
摩 擦 熱(の 一 部)だ け が ダ イ ス を 通 して 鋼 線 外 に 逃 げ る
とす れ ば,mが 伸 線 速 度 の1/3乗 に 比 例 す る と考 え て
こ こで はm=0.8/201/3=0.295と お け る.
で あ り,第II段 階 歪 時 効 は ほ とん ど 進 行 し な い と思 わ れ
度 が 遅 く な る と ダ イ ス を 通 して 外 部 に 逃 げ る の で,さ ら
に これ よ り も 線 温 度 は 低 い 可 能 が あ る.
以 上 に 述 べ た よ う に,単 釜 伸 線 機 で20m/minの 速度
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まで はA-Vac, A両 試 料 間 で 捻 回 値 に有 意差 は 認め ら る と 思 わ れ る.
で はA-Vac試 料 は正 常 な捻 回破 面 を呈 した に もか かわ 本 研 究 に お い て は ほ と ん ど 観 察 さ れ な か つ た.
示す.筆 者 らに よ る実 験 で は前 オ ー ス テ ナ イ ト結 晶 粒 度 尽 力 さ れ た 同 中 央 研 究 所,近 藤 亘 生 氏 に 深 甚 な る 謝 意 を
の捻回特 性へ の影 響 は強 加 工伸 線 した 試 料 で は ほ とん ど 表 し ま す.
無視 で きる17)ので,2.49mm径A試 料 の 捻 回 中 の縦 割
文 献
れ にはNの 悪 影響 が 作 用 した 可能 性 が あ る.
1) 山 田 凱 朗:鉄 と 鋼,61 (1975) 9, p.2238
2) E. GREULICH: Arch. Eisenhuttenw., 32 (1961)
5. 結 言 p.709
3) 山 田 凱 朗:鉄 と 鋼,60 (1974) 12, p.1624
4) C. ZENER: Fracturing in Metals, ASM, Cleveland
1) フ リーNに よ るパ テ ン テ ィン グ した ま ま の鋼 線 の 延
(1948), p.48
性(破 断絞 り)劣 化 作 用 は,約60%減 面率以下の伸 5) A.N. STROH: Proc. Roy. Soc., London, A 223
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