2012 年版 1

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　ありそうでなかった『このミス』のシミュレーションゲー
このシミュ 2012年版 ム版でございます。2011 年に発売されたシミュレーショ
紹介作品一覧 ンゲームの中から、実際にプレイして「すごい」と感じた
（掲載順） 作品について、皆さんに語っていただきました。お忙しい
■ REICHSWEHR & FREIKORPS: Europe in Peril, 中、寄稿してくださいまして、本当にありがとうございま
1920（S&T#273） した。
　Brian Train & Ty Bomba 　ランキング形式にして広く意見を求める方法もあります
■ SHENANDOAH: JACKSON'S VALLEY CAMPAIGN が、ご存じの通りシミュレーションゲームは個人の嗜好性
（Columbia Games） が強いホビーです。万人受けするからと言って、それが自
　Gary Selkirk & Tom Dalgliesh 分の好みに合うとは限りませんし、良い作品であるとイ
■ No PEACE without SPAIN!: The WAR of the コールで結ぶのも適切とは思えません。分母があと 1 桁
SPANISH SUCCESSION 1702-13（Compass 2 桁多ければ、ランキングの意味も変わってきますが、今
Games） なら立ち位置がはっきりした人に、自分の価値観で作品に
　Don Herndon & Neil Randall ついて語ってもらうほうが有意義でしょう。
■ The Spanish Civil War 1936-1939（GMT 　『このシミュ』は同人誌です。『コマンドマガジン』とい
Games） う媒体を手がけている以上、商業誌として出版することも
Javier Romero 考えましたが、二つの理由から同人誌で出すことを選択し
■ Strike of the Eagle（Academy Games） ました。まず、自社製品を取り上げなければならないとい
　Brian Bennett, Uwe Eickert & Robert Żak う縛りをなくしたいこと。次に、手間の割には利益が出な
■信長軍記（ウォーゲーム日本史 11 号） いから。同人誌であればどちらもフリーダムなのです。
　ドナルド・ブース ★
■清盛軍記（ウォーゲーム日本史 12 号） 　本企画は、3 月に開催されたゲームマーケット 2012 大
　中嶋 真 阪の直後に動き始めました。それまではよもや同人誌を作
■辛亥革命（2Plus） ろうとは思っていませんでしたが、さいたまゲームサーク
　 Jog Kong ルの『SLGamer』や千葉会の会報などを見せてもらい、
■日露大戦（ウォーゲーム・ハンドブック 2011） これは自分でも何か本をつくりたいと、編集欲（？）を刺
　中黒 靖 激されたことがきっかけとなったのです。その意味で現在、
■ Paul Koenig's Market Garden: Arnhem & シミュレーションゲームの同人誌を発行されている皆さん
Eindhoven（Victory Point Games） にも感謝です。
　Paul Koenig 　最後になりましたが、
「地獄のミサワ」のシミュレーショ
（執筆者一覧） ンゲーム版、そしてブログで書いたネタを本当にやってし
鹿内靖、高澤俊一、二木 "Mkgf.v Sapporo" 太郎 まった「しみゅげ！」と、いかにも同人誌的な企画を実現
堀場亙、豚山ゴリ子、大原剛雄、田村寛 してくれた 9Joe 氏にお礼を！
大久保城治、中黒靖 中黒 靖

登場人物紹介（設定だけなら他にもたくさん）
※この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などと関係ありません。全く関係ありません。
　大事なことなので 2 回書きました。

天然だけど妙なカ 1年 先 輩 でしみゅ ニ ック ネ ー ム は 新入部員ながらい

リスマがあって、い げ部部長。お金持 「あっちゃん」。 戦 ろんなアイディア
つもみんなの中心 ち。合理主義者で 術級ゲームが大好 を提案。鼻息も荒
に。しみゅげ部副 絵保子にいつも調 きで、兵器に関する く、
先輩たちが考え
部 長。 転 校 し て 子 を狂 わされる。 こだ わりはしみゅ もしなかったこと
RPG部部長になっ 海 外に友 人が多 げ部一。 キツそう に次々と挑戦──
た白川幸子と幼馴 い。好き嫌いがはっ な性格に見えて実 たまに失敗するこ
す ず き え ぽ こ 染みであり、良きラ や ま と ほ び み きりしていて、木屋 つくだ あ つ こ はフレンドリーなツ あ ど ひ さ の とも。 ノリは 体 育
鈴木絵保子 イバル。 大和趣美 通子と大喧嘩。 佃 敦子 ンデレ・タイプ。 亜土久乃 会系。

(C) 2012『このシミュ』製作委員会
※無断複製・転載を禁じます。　お問い合わせは　http://www4.atword.jp/konosim/

2 このシミュゲがすごい！
2012 年版 3
 鹿内 靖
REICHSWEHR & FREIKORPS: Europe in Peril, 1920 (S&T#273)

やさぐれ感横溢のバスターズ
　なんといっても『ライヒスヴェア＆フライコール（以
下 RWFK）』、そのタイトルがすごい！　ドイツ国防
軍と義勇軍。こいつら、いったい何する気なの？　独
ソ戦である。東部戦線なのである。1920 年夏に、赤
軍がソ連・ポーランド戦争に勝ったとしたらと仮定。
20 年 9 月、そのまま西進しドイツ侵攻を開始すると
いう仮想戦をテーマにしている。
　赤軍主力は後に縦深打撃作戦理論の第一人者となる
トハチェフスキー率いる西正面軍と、ブジョンヌイの
第 1 騎兵軍を擁する西南正面軍。迎え撃つはヴェルサ
イユ条約で約 10 万に制限されたドイツ国防軍と、敗
戦の憤懣遣る方ない反共的義勇軍。どう見たってカタ
ギなシミュレイションゲームとは思えない。
　このやさぐれっぷり、かつてデシジョン・ゲームズ
から発表された『ビヨンド・ジ・ウラルズ（BtU）』や『オ
ペレイション・クレムリン（OK）』を彷彿とする B 級、
いや C 級の場末感。もちろん 2 作ともデザインはタイ・
ボンバだ。
　『BtU』はバルバロッサで大勝したドイツ軍が、42
年にウラルで赤軍掃討戦を開始するとの設定。一定の
ターンごとにドイツ軍が勝利判定する資格を得るに必
要なビクトリーポイント（VP ＝占領した重要地点の
数）が定められている。到達していれば勝利判定のダ
イスを振る。クリアすればドイツ軍の勝利。充分な

4 このシミュゲがすごい！
VP を得ていてもダイスでの判定に失敗すればゲーム
は続く。
　続いた場合、次の判定ターンでは当然前の判定時よ
り高い VP が定められている。最終ターンまでにクリ
アできなければ赤軍の勝利となる。この仕掛けでどう
にかそれらしくなるものの、何となく強いドイツ軍が、
何となく弱い赤軍を何となく押してゆくという展開に
締まりはない。締まりさえよければいいというもので
もないけど。
　『OK』は 42 年のドイツ軍が、ブラウ作戦ではなく
モスクワ攻略作戦を発動するという設定。すごいのは
赤軍敗北率の高さ。誰がドイツ軍をやってもほぼ勝て
るのではないだろうか。ドイツ軍の花道、そんなに用
意してあげたいんですか！　滅びの運命にあるものに
対する哀惜の念か。それとも祈りか。虚無への供物か。
　こういうイングロリアス・バスターズを連発するボ
ンバもどうかと思うが、それをやってしまう方も（筆
者です）やってしまう方だ。いやいやいや、しかしこ
んな東部戦線の番外地にまで心を巡らすその男意気、
ありがたく受け取りましょう。
　そして『RWFK』でも、デザイナーとしてタイ・
ボンバの名がブライアン・トレインと並んでクレジッ
トされている。これはやさぐれ東部戦線度濃厚が期待
できそうだ。
元気いいだけのぼんくらか
　『RWFK』のマップにはワルシャワからベルリンま
でが 1 ヘクス約 24 キロで収められ、1 ターン約 1 週
間で 1920 年 9 〜 11 月の 12 ターンを競う。ユニット
は師団〜大隊規模。赤軍はワルシャワ周辺の突出部に
配置、ドイツ軍（国防軍、義勇軍）は東プロイセン、
ダンツィヒ、ドイツ本国に配置。
　指定範囲内でほぼフリーセットアップ、ユニットは
規模にかかわらず全て 1 ステップのみ、ZOC の概念
なしと、野趣溢れる作りは期待を裏切らない。
　だが最もワイルドなのはシークエンスである。赤軍
のそれは移動・戦闘を順に行う普通のもの。ところが
ドイツ軍にシークエンス（順番）というものはない。
ドイツ軍には移動・戦闘・鉄道移動という 3 つのフェ
イズが与えられるが順番は任意、そればかりかいつ
行ってもよい。赤軍の手番中でもよい。斬新だ。元気
一杯だ。
2012 年版
マイクロゲーム・デザイン・グ
ループ版の『フライコール』。
もともとブライアン・トレイン
がデシジョン・ゲームズ社に持
ち込んだ企画だったが音沙汰
が な かったため、MDGから
出版されることになった。 駒
数280個、ドイツのスパルタ
クス団やポーランド軍残党も
含まれるなど、設定だけは同じ
の別ゲーム。
　たとえば赤軍プレイヤーが 1 つのユニット／スタッ
クの移動を終えた時点で、あるいは 1 つの戦闘を解決
し終えた時点で、あるいは増援を登場させた時点で、
あるいは etc. ドイツ軍プレイヤーはストップをかけ、
前述の 3 つのフェイズの内の 1 つを実行できる。この
自由度、柔軟性は第 1 次大戦を戦い抜いたドイツ軍の
経験値ゆえであろう。
　これに対し赤軍はユニットを移動させる順序も、戦
闘を行う順序も、正面軍単位でチットによりランダム
に強制される。正面軍どうしは移動中でもスタックで
きない制限と相俟って、新制組織の硬直性が表される。
乱暴だが意外と両軍を表現したシステムといえる。
　勝利条件はベルリンを取るか（赤軍サドンデス勝
利）
、ワルシャワを取るか（ドイツ軍サドンデス勝利）。
どちらも達成されなければ、確保した都市（2 ポイン
ト）
、町（1 ポイント）の VP で決まる。
　さっそく戦ってみる。とりあえずドイツ軍は前進防
御を試みる。ワルシャワ占領は無理としても、より多
くの都市・町を確保する考えだ。赤軍が最初の 1 スタッ
クを移動させ終わると即座にドイツ軍は移動フェイズ
を宣言、地形も利用して、なるべく前（東）で戦線を
張る。
　1 〜 4 ターン（1920 年 9 月）、ドイツ軍は赤軍の猛
攻に耐え、適宜反撃を行って大きな前進を許さない。
気になるのは損失量か。5 〜 6 ターン（10 月前半）
、
ドイツ軍は大きく退がって戦線を再構築しようとする
が、北ヨーロッパ平原は防御に適さず、ユニットには
ZOC がない。赤軍の突進力、打撃力に対処できなく
なりつつある。損耗いよいよ顕著に。
　7 〜 8 ターン（10 月後半）
、ついに破断界を迎える。
ドイツ軍は部隊も戦線も部分的に残すのみ。赤軍の突
進を遮るのはきわめて困難となり、11 月に入って（9
5
ターン〜）赤軍によるベルリン解放が成し遂げられた。
やはりドイツ軍に死守命令が出されると、持ちこたえ
そうでいて結局は大崩壊がやってくるようだ。
　そこで思いついたのが、シークエンスの特性を活用
（悪用？）する方法。まずドイツ軍は赤軍の移動を黙っ
て見守る。第 1 ターン、赤軍はまだワルシャワにしか
補給をつなげられない。補給切れだと戦力半減（端数
切り捨て）のペナルティがあり、赤軍もドイツ軍がい
つ移動や戦闘を宣言するか分からないので、あまりに
野放図な前進は控えざるを得ない。
　赤軍が全ての移動を終えた後で、ドイツ軍は移動
フェイズを宣言して戦線を張る。その際、1 ヘクスだ
け赤軍戦線との間をあける。隣接させない。すると赤
軍は敵と隣接しない状態で戦闘フェイズに入るため、
攻撃しようにも攻撃できないのだ。
　次のターンも同様に赤軍の移動後（1 ヘクスの間を
詰めることができるだけだ）、また 1 ヘクスの間をあ
けて戦線を張る。こうして毎ターン 1 ヘクスずつ退
がってゆけば、赤軍に一度も攻撃させず、ベルリンに
も触れさせずにゲームを終えることができる。サドン
デス負けもない。なんかバカバカしい感じになってき
たぞ。
カタギじゃないが見どころあり
　ところが、だ。そうするとだ。赤軍が最初の移動で
細心かつ大胆にポズナニ周辺まで進出した場合、困っ
たことになる。ポズナニはちょうどワルシャワとベル
リンの中間地点にある。そこからとなると、後退のた
めの空間はかなり圧縮される。ベルリン、ドレスデン、
シュテッティンぐらいならなんとか守れるが、それ以
外のほとんどを赤軍に取られて VP が足らなくなり、
どうしても敗北してしまう。どこかで踏みとどまらな
ければならない。
　ドイツ軍は退がりつつ立ちはだかり、立ちはだかり
つつ退がり、その途中、赤軍の移動中、戦闘中に自軍
の移動や戦闘を柔軟に割り込ませ、しなやかで迅速な
行動を以て状況打開が要求される。タイミングとス
ピードファクターを活かした機動防御だ。退がって損
耗を避け、敵の出鼻を挫く打撃を与えてはまた退がり、
必要なところで踏みとどまる。
　敵行動中の不意を突くというインプロヴァイゼイ
ションは、まさに電撃戦・機動防御の臨機応変に他な
らない。また赤軍が正面軍ごとに役割を担当させ、全
体を統制する運用に気を配るのは後の作戦術にも通底

北がシュテッティンで南がベルリン。ベル
リンに突入できれば赤軍がサドンデス勝
利を収める。

ZOCがないため、ドイツ軍はユニットを敷き詰
めて戦線を張る必要がある！　穴が空くと簡単
に背後に回り込まれるので要注意だ。

本文にあったポズナニはここ。序盤の赤軍が慎重に前進するよう
であれば、シークエンスを活かした「牛歩戦術」は極めて有効な手
になるが、一挙にポズナニまで前進されると後背地の余裕がなく
なってしまう。この手に気づいていない赤軍プレイヤーに対して
は、1回は機能する奇策となるが、本作の本質に迫るのはそこか
らである。

6 このシミュゲがすごい！
する。すでに縦深打撃理論を内包する赤軍と、浸透戦
術というかたちで電撃戦理論を内包するドイツ軍との
戦いが表現されていたのだ。
　遮る全てを蹂躙し尽くすジャガーノートと、蝶のよ
うに舞い、蜂のように刺すダンシングデストロイヤー
の対決。なるほど、これがやりたかったのか。
　仮想戦は新システムの実験台となることがある。戦
力の不確実性を表現するため、今もよく使われている
アントライド・ユニットだが、これは近未来のアメリ
カが侵攻される仮想戦『インベイジョン・アメリカ』
（SPI/1976）で、初めて導入されたものだった。
　同様にこの『RWFC』では、敵軍プレイヤーター
ン中に自軍フェイズを自由に割り込ませるという、こ
れまでにないシークエンスが実験されている。機能し
た結果、柔軟性・即興性をもった個々の戦いを積み上
げて状況を有利に導く戦い方と、統制を重視、その効
果的組み合わせで総体の優勢を構築する戦い方との対
比の表現となった。
　軍事的異文化の衝突だった東部戦線の様相そのもの
である。さらに言えば、機動に適した地形で攻撃側に
統制重視、防御側に柔軟性重視を割り当てることによ
り、1943 年後半から 44 年にかけての東部戦線南部の
REICHSWEHR & FREIKORPS: Europe in Peril
2012 年版
戦いの見立てともなった。
　ウクライナで繰り広げられた死闘を、それより 20
年以上前の北ヨーロッパ平原に舞台を借りてプレイ
ヤーに再構築させる。それぞれに違う両軍の特質と背
景となる地形を与え、
歴史的事実の呪縛を解いた上で、
純粋に軍事的課題の解決の手腕（時間と空間の最大効
率化）を競わせる。歴史に現れた課題だけを抽出した
のだ。
　歴史というテキストがないため、そこで初めてプレ
イヤーは未知の状況に臨む戦史上の人物の視点に立ち
得る。歴史上の軍事的課題とその解決を競う指揮官の
立場の表現としてなかなかに興味深い提案となってい
るのである。
　面白い実験作だがしかし、これが多くの人に薦めら
れるものかといえば、そうではない。どちらの側を受
け持っても、敵の一挙手一投足に常に気を配っていな
ければならず、プレイヤーの負担は非常に大きい。美
点をプレイヤー自身が引き出さなければ楽しめない側
面もある。それでも、こうした試みの積み重ねによっ
てこそ進化、発展があるのではないだろうか。
　カタギじゃないかも知れないが、見どころはあるの
である。
ドイツ軍は東プロイセンに初期配置してサドンデス条件であるワ
ルシャワをうかがうことも可能だが、ソ連軍は戦略予備である南
正面軍を第3ゲーム・ターンから投入可能になるため、その目論見
はどうやっても潰えてしまう。この方面への兵力配置は牽制程度
にはなるが、多くは期待できない。
正面軍単位でアクティベートするソ連軍。 所属が異なると一時
的なスタックも禁止されるなど制約があるが、その破壊力は「ジャ
ガーノート」の名に恥じないもの。しかし補給切れになると戦闘
力が半減するため、迂闊に前進するとドイツ軍による思わぬ反撃
に遭って大打撃を受けることも。
7
 SHENANDOAH: JACKSON'S VALLEY CAMPAIGN (Columbia Games)
この南北戦争がすごい！
シェナンドーの戦いを「会戦」ではなく
「戦役」として捉えたことがブロック・ゲームとの親和性を高め、「すごい」作品という評価につながってい
る。簡単なルールで南北戦争らしさが表現されているのも素晴らしい。
●コロンビア・ゲームズ
●シェナンドー・バレー戦役
●ストーンウォール・ジャクソン
　 こ の 三 点 盛 り だ け で 十 分 に す ご い で す。1862 年
のバレー戦役をブロックゲーで、と聞いただけでク
ラッときます。面白そうです。この情報を知ったのは
2006 年 11 月のことです。現物を見てから、せめて発
売されることが確定してから入手を決めても遅くない
と踏みとどまり、まずは成り行きを生温かく見守るこ
とにしました。
　それから 5 年を経た 2011 年の秋、『シェナンドー』
の発売が確定すると同時に、コロンビア・ゲームズの
Web ページにマップの画像が紹介されました。シェ
ナンドー・バレーだけでなくポトマック川の北岸や（後
の）ウェスト・バージニアが、さらに南にはストーン
トンだけでなくシャーロッツビルも収まっています。
これはとんでもなく魅力的、両目がハートです。プレ
オーダーは間もなく締め切りですか。分かりました、
買います。買わせてください。
　「海外郵便」と書かれた不在通知がポストに入って
いたのは約 2 か月後の 1 月 3 日でした。郵便屋さん、
年賀状の配達で大変な時期に小包を持ち帰らせてごめ
んなさい。すぐさま本局までドライブして『シェナン
ドー』を回収です。すごいゲーム（推定）がついに我
が家に！　今年は幸先いいぞ !!
＊＊＊
8 このシミュゲがすごい！
高澤俊一
　マップはフルマップの長辺はそのままで、短辺を
70%くらいに縮めた細長い形（84cm × 44cm）になっ
ています。約 90 の町とそれらを繋ぐ道が描かれた、
ポイント・トゥ・ポイント形式のマップです。ブロッ
クはいずれかの町に置かれ、道に沿って移動します。
　南北に細長いマップの北端にはポトマック川北岸の
カンバーランドやヘイガーズタウンが、南端にはス
トーントンとシャーロッツビルが収められています。
また、西端にはロムネーやムアフィールド、フランク
リンといった、後にウェスト・バージニア州になる町
たちと、それらを縦に結ぶ道路が描かれています。
　先にも書きましたが、僕はこのマップの切り取り方
をとても気に入っています。史実において北軍はポト
マック川北岸に対する南軍の襲撃を懸念していました
が、マップ上に目標としてそれが描かれていること
で、
ゲームとしての面白さは結構変わると思うのです。
ウェスト・バージニアの町の間を南北に移動できるこ
とについても同じです。これが「マップ外ボックスを
経由して移動」であったら、ゲームの雰囲気は随分違
うものになるはずです。
＊＊＊
　ブロックの数は北軍が 39 個と南軍が 32 個で、兵科
は歩兵、騎兵、砲兵、司令部の 4 種類です。基本的に
1 個のブロックは 1 個旅団をあらわしますが、戦力を
1 ステップしか持たない連隊ブロックも各軍 15 個ず
つ用意されています。連隊ブロックはブラフや陽動、

守備隊など、いろいろの用途に役立てられます。
　ゲームに入っているブロックには、塗りムラや傷で
正体を判別できそうなものが結構あったりします。ラ
ベルを貼る際に、塗りムラが背中の面にこないように
しようとか、傷のある面を下にしようなどと考えては
みましたが、途中で面倒くさくなりました。よく見る
と正体を判別できそうなブロックがないではないので
すが、判別できてもゲームがつまらなくなるだけです
ので、目をちょっと細めながらプレイするくらいがよ
いでしょう。
＊＊＊
　1862 年の 5 月 5 日から 6 月 22 日までを、現実の 3
日に相当するターンを全 16 ターンをプレイします。
実際のバレー戦役は 2 月下旬に始まっていますが、前
半戦では北軍が兵力で南軍を圧倒していますので、
ユーウェルがジャクソンと合流した後のこの時期だけ
をゲームにしたのはよい判断に思えます。実際、バレー
戦役における戦いのほとんどは、このゲームの扱う範
囲におこなわれています。
　なお、より前の時期を扱う「ロムネー」「カーンズ
タウン」といった未発表シナリオが存在するという話
もありますので、これらが発表されるならばそれも楽
しみではあります。
　ゲームの終了時期は南軍がバレーを離れた時期（6
月 18 日、このゲームでは第 15 ターン）とほぼ一致し
ますが、このゲームの南軍はバレーを離れる必要はな
く、ゲーム終了時にマップ上のどこにいてもペナル
ティを課されることなどはありません。
＊＊＊
　最終ターン終了時により多くの勝利ポイントを得点
しているプレイヤーがゲームに勝利します。北軍は
マップの中央以南にある町の占領、マップから退出
した自軍ブロックの数、そして南軍ブロックの除去に
よって勝利ポイントを得点します。南軍はポトマック
川沿いの町の占領、（後の）ウェスト・バージニアの
町の占領、そして北軍ブロックの除去によって勝利ポ
イントを得点します。
　北軍はゲーム開始時にマップ中央にあるウィンチェ
スター、フロント・ロイヤル、ストラスバーグを支配
しており、これを保持し続ければ勝利することができ
ます。南軍はこれらの町から北軍を駆逐しても引き分
けにしかならず、追加のポイントを稼ぐための攻勢が
必要になります。北軍は自軍ブロックをマップから退
2012 年版
この南北戦争がすごい！
出させてポイントを稼げますが、マップ上がより手薄
になりますので見極めが重要です。
＊＊＊
　ルールはウォーゲームとしては簡単な部類に入ると
思います。他のブロックゲーと同じ概念が少なからず
使われており、ブロックゲー経験者であれば簡単な説
明だけでゲームを始められるかもしれません。
●ブロックを回転させてステップロスを記録
●司令部をアクティブ化して指揮範囲のブロックた
ちを動かす
● 1 ターンに同じ道を通れるブロック数に上限が
ある
●射程の長いブロックが先に射撃、同じ射程なら防
御側が先
●戦力と同じ数のダイスをふり、火力以下ならヒット
　各ターンは、両プレイヤーの移動をすべて終了させ
た後に戦闘を解決し、最後にステップロスを回復させ
るという手順で進められます。各ターンの最初に両プ
レイヤーがダイスを 2 個ずつふり、その合計が大きい
方が先にすべての移動をおこないます。このダイスの
合計が同じであれば、南軍が先に移動します。
＊＊＊
　『シェナンドー』を入手してから約 3 か月の間に、
僕は 6 ゲームを対戦することができました。結果は何
と北軍の全勝で、南軍は開幕以来勝ち星なしです。僕
が事前に想像（期待）していた「巧みに機動する神出
鬼没の南軍と、鈍重ながら奮戦する北軍」という展開
はあまり見られず、北軍の万全な戦線を前に南軍は正
面からの突撃を余儀なくされてギブアップとか、南軍
がある程度は前進するものの十分な勝利ポイントを得
点できないといった結果が続いています。
＊＊＊
　南軍が勝てない理由はいくつか思い当たります。
　まず、勝利条件が南軍に厳しいです。北軍は自軍
ブロックを上限までマップ外に退出させてしまうと、
シェナンドー・バレー全体を放棄してもゲームに勝て
る勝利ポイントを得点できます。南軍はポトマック川
を越えてポイントを取りに行きたいところですが、小
規模な北軍が南軍の補給線を脅かしてくると、その対
応に追われるうちに時間切れになってしまいます。
　北軍ブロックを除去して勝利ポイントを稼ごうとし
ても、戦闘で一方的に損害を与えることが容易ではあ
りません。南軍の火力は北軍より幾分高めに設定され
9
この南北戦争がすごい！
シェナンドー・バレーだけではなく、北軍が南軍による襲撃
を懸念していたポトマック川北岸まで収められたマップ。
てはいるものの、防御側が先に射撃するルールである
が故に、南軍が攻撃する場合は火力の優位が帳消し
なってしまいがちです。北軍に攻撃してもらいたいと
ころですが、そのままでゲームに勝てる状態の北軍が
攻撃してくることはあまりありません。
　巧みな移動で有利な戦闘を実現したいと思ってみて
も、両軍の移動力が同じで、ターンごとの移動力が低
いので（攻撃するならば 1、しなければ 2）、側面に回
り込んで退却路をふさいだり、守りの甘そうな町を奇
襲したりすることは難しいです。南軍は先に動ける可
能性が若干高いですが、後で動く方が有利になる状況
も珍しくありません。神出鬼没の南軍が騎兵のように
速く移動して、北軍を翻弄するような展開はなかなか
実現しないのです。
＊＊＊
　それでもなお『シェナンドー』はとても面白そう
なゲームに見えます。簡単なルールと手頃な時間で
1862 年のバレー戦役のクライマックスをプレイでき
るのは大きな魅力ですし、地図の切り取りは素敵だし、
勝利条件もうまく設定されているように見えます。バ
レー戦役を「それらしく」描くのではないかという期
待は簡単には消えません。未練がましいですか、そう
ですか。
　一心不乱に打ち込むゲームだとは思っていません
が、しばらくは他のゲームの合間にヌルめのお付き合
いを続けていきたいと思います。「シェナンドーって
言うとアイツがくるよー」と言われない程度を目指し
ます、はい。
＊＊＊
　この原稿を書きながら、現実逃避気味にソロプレイ
10
をしてみたところ、南軍がもう少し
がんばれるのではという感触を得ま
した。ジャクソンのバレー戦役とい
うサブタイトルからしても、ジャク
ソン本人にはもう少しがんばっても
らおうと思います。ジャクソンだけ
は自軍の全ユニットをアクティブ化
できるというルールに気を取られて
いましたが、ジャクソン本人がゲー
ム中最強の火力（B3 ！）を持って
いることをもっと活用してみます。
＊＊＊
　側面への迂回などが容易に実現し
ない移動ルールであるが故に、このゲームの戦闘はい
かに多くの兵力を投入できるかが重要なのだと感じて
います。はじめは
「第二次大戦の物量作戦みたいだな」
とも思いましたが、これこそがネイサン・ベッドフォー
ド・フォレストの言う「Getting there firstest with
the mostest」
（最大の兵をもって最初にそこへ行け）
なのではないかと気づき、軽く感動しています。
　移動で戦闘を有利にしたり、側面に迂回したりと
いった要素は戦闘解決に含まれていると考えてはどう
かと思います。このゲームで南軍の火力が高めになっ
ているのは射撃そのものの能力や火器の性能ではな
く、射撃に先立つ移動や位置取りの優劣をあらわして
いるという理屈はそれほど大きくハズしてはいないと
思うのですが……。
　戦いの前に勝敗は決まる。最大の兵をもって最初に
そこに行けばよい。この種の決断の優劣を競うゲーム
になっているのだとすれば、南北戦争の戦役ゲームと
して非常に真っ当だと言えるでしょう。なっていれば、
の話ではありますけど。
＊＊＊
　
『シェナンドー』がすごいゲームなのか、単に「す
ごそう」と言ってる人がいるだけのゲームなのかは、
ぜひ一度プレイしてご自分で確認してみてください、
とまとめるのはあまりに書き手に都合がよすぎますよ
ね。申し訳ありません。でも、
「すごそう」と「すごい」
の間で迷える程度にはすごいゲームなんだ、という評
価が参考になれば幸いです。
　南北戦争の戦役をブロックゲーで、という流れは今
後もぜひ続いて欲しいので、たとえすごくなくても
『シェナンドー』は応援し続けたいと思います。
このシミュゲがすごい！
2012 このシミュゲもすごい！
No PEACE without SPAIN!
The WAR of the SPANISH SUCCESSION 1702-13 [Compass Games]
二木 "Mkgf.v Sapporo" 太郎
「イスパニアの王位継承は全く別の
酒蔵のように見えます。私がその扉を
開けましょう。そして私が述べる馬鹿
げた事柄全てについて、あなたにその
気が少しでも有るならば、存分に叱っ
て下さって結構です。」　（1699 年４月
23 日付、ヴォーバン元帥の私信より）
カードに DRIVEN されるのではなく、
カードで DRIVING しようではないか
　『No PEACE without SPAIN !』（NPwS）
CDS（カード・ドリヴン・システム）は Single Use
式 * でも特に単純化されたタイプである。司令官／部
隊のアクション（5+1 種）に使われるカードと各種の
イヴェントを引き起こすカードとは完全に別個の山札
を構成し、プレイヤーの手札にはアクションカード（両
陣営で使用可能な 1 ～ 3 の数値を持つ）しか配られな
い。つまりプレイヤーには、カードのアクション使用
かイヴェント使用かに悩む機会が与えられておらず、
またイヴェントの発効／無効のタイミングも殆ど手中
に出来ないのだ。仮に CDS 進化の枝が存在するとし
たなら、その嚆矢と言われている『We the People』
を越えて遡るかと思われる、実にラディカルな《先祖
がえり》と呼べようか。
　最大でも 13 枚の山札しか作らないイヴェントカー
ドは 23 枚 19 種だけで、入門者であっても事前に把握
の易しい点が嬉しい。アクションカードのリシャッフ
ルが早めな為にカウンティングの難しい点。どの司令
官／部隊の行動も原則的には終始可能とあり、相手を
見切ったアクションはプレイヤー双方に許されない
2012 年版
点。慣れれば半日で入替戦にも十分手
頃である点。それらをもって、そして
前節で述べた所謂《カードコンボ》の
無用な事をもって、どうかこの NPwS
を CDS 嫌いのウォーゲーマー達へお
勧めさせて欲しい。目的地までの“最
短距離”や“燃費”の研究に没頭しな
ければ、CDS は対戦に興じられない物だったのか？
　いや脇道を行けてこそ面白い、寄り道をできてこそ
面白い、それこそがドライヴの真の愉しさではなかっ
の たか、と思うのだ。
* 各カードがアクション用かイヴェント用かのどちら
かに固着されている形式。
NPwSのココが凄い！
　さて、けれども、もしかすると一部のウォーゲーマー
達は、NPwS の「凄い !」に疑義を唱えるかも知れな
い。ヴォーバン親方が渾身の分厚い要塞線に、戦線は
年間に 2 スペースも動くか動かないか…。モールバラ
先生が気を悪くしそうな単純化された戦術値には、
《ブ
レンハイム》や《ラミイ》の「Famous Victory」も
容易ではなく……。18 世紀ファンが楽しみにしてい
たであろう兵站ルールのこうも抽象的では、期待した
機動戦の醍醐味をば味わえるのか……。イスパニア継
承戦争の全体をお手軽ルールで遊べるものの展開地味
なゲーム……との早まった感想の抱かれる事を懸念し
たくなるのも、
そう道理の無い訳ではない。ついては、
ここで NPwS を非常に面白くしている 2 要から、そ
の「凄い !」を少しばかり例示してみたい。
11

◆地勢が作る絶妙なシチュエーション
● 3 つの戦域
　例えば序盤の数ターン（年）、バイエルンを 1 つ取
り上げるだけでも考察は尽きない。ほとんど増援を
諦めて全くの捨て石とする、適度に増援してそこそ
この牽制とする、本気で増強して VIENNA 占領（決
定的勝利の可能性）やイタリア挟撃を目指す、等と
ブルボン側の選択は多岐に亘る。対して同盟側も、
Nijmegen に 陣 取 る 大 軍 を ど の 程 度 南 下 さ せ る か、
Marlborough（眼前の肥沃なイスパニア領ネーデルラ
ントが何と美味そうな !）や Eugene（北イタリアの
橋頭堡を放って良いものか ?）をバイエルン方面で使
用するかどうか、と言った決断を迫られる事になろう。
　片や第１ターン同盟側の上陸アクションにしてから
が、Gibraltar への奇襲／ Cadiz への強襲／ Dunkirk
への陽動を実行でき、イスパニアにフランスにとター
ゲットは豊富だ。先ずは開始時の手札（アクション数）
と相談しつつ、何が有効で何が有効でないのか、戦況
を睨んでの可否となるだろう。次いで以降ターンに地
中海へも制海権の及ぶに至り、やがてフランス南岸／
イタリア西岸へも戦域は広がるのだ。
　また副次戦線かと思われるイタリアでも、しかし
Milan と Naples とが「富裕スペース」である事（競
技後半でイヴェント「French Financial Collapse」に
関係する場合あり）、サヴォイア変節［後述］の確率
が非常に高い事、Toulon［後述］に接している事、進
路 ･ 退路に地形狭い事などで如何様な展開も考えられ
る。それ所かプレイヤーの戦略次第では、ここが時に
主戦場となっても何ら不思議は無いのである。
　そして微妙にして重大なのが、かのイスパニアだ。
12
「巧く出来たファンタジーゲー
ム」のようと評価されるNPwS
のマップ。 デザインはもちろ
ん、マップがつくり出すシチュ
エイションも「すごい」。
首府は驚きの 10VP を
持 つ MADRID な の
で あ る が、「Spanish
Loyalty」（ブルボン
党 vs ハプスブルク党）
を設けたり、イスパニ
ア全土を「不毛スペー
ス」（スタック値が最
低）としたり、要塞ス
ペースに疎らとしたり
する事により、その防御にも攻撃（占領）にも難儀す
るよう細工が施されているのだ。もしや“No Peace
without Spain” と は 勝 利 へ の 逆 説 で は あ る ま い か
……。だがしかしイスパニア放棄の戦争は絶対に成り
立たないとあっては、100 年後に某皇帝が《潰瘍》と
もボヤいた気持ちへ、両プレイヤーが共に心底から同
感する事であろう。
● 2 つの海域
　NPwS のマップを眺めていると、何かこう非常に巧
く出来たファンタジーゲームのそれを眺める気がして
くる。内線の利を活かすブルボン側へ対し、海洋の利
をぐるり活かす同盟側。大西洋の制海権は同盟側に確
固としており、かつ地中海のそれも同盟側へ優位であ
る。
　海路による上陸／補給／撤退を用いて同盟側が揺さ
振ってくるであろう為、ブルボン側には全周防御の構
えが求められる事になる。港湾スペースの多くて脆弱
な要塞ばかりの──そのうえポルトガルに咽喉元を脅
かされた──イスパニアでは、特に頭の痛い問題であ
ろう。一方の同盟側も、地中海の制海権を覆した挙げ
句に 2VP まで奪って行く、敵 Toulon 港（艦隊）の
鎮圧は無視の出来ない目標の 1 つである筈だ。
　こうして内線のブルボン陣営に“背後”が設定され
ている事で、競技は単なる陸上の戦線を挟んだスクラ
ム合戦とはならず、実に多様な作戦案を提供してくれ
る。海を使わずして同盟側は勝利得られず、だが海を
阻まずしてブルボン側も勝利得られないのである！　
因みに、敵陣営支配スペースへの上陸はインターセプ
ションを惹起させない点を、海陸共同戦術のヒントと
して挙げておこう。
このシミュゲがすごい！

◆ 不確実性が迫る采配の才
●イヴェントカード
　7 枚がホールド使用である他は、どちらのプレイ
ヤーに引かれても（条件付きの）強制発効が基本だ。
前半デッキ（12 枚）を 2 枚残す所（第 7 ターン）で、
後半デッキが追加される。｢BANK of England」や
「EUGENE Appointed President of War Council」や
「Great FAMINE」等を例外として、大方は競技には
チクチクッと影響する程度の物である。が、そうした
中で例えば最も影響大にして面白いのが、｢SAVAY
switches Sides」ではないだろうか。
　件のサヴォイアは、ブルボン側で参戦するも同盟側
へ変節する可能性が非常に高い。しかもその「可能
性」には、いきなり第 2 ターンで発効する場合（！）、
後半デッキで発効する場合（？）、発効せずに競技終
わる場合（!?）、さえも含まれるのだ。イタリア半島
と南フランスとに接して分断する位置に在る、そのサ
ヴァイアの去就に両陣営がハラハラとイライラとしつ
つ戦争しなければならない措置には、大変“らしく”
て巧いなぁと感じ入るばかりだ。
●戦闘
　一軍が行軍アクションする中で発生し、いわゆる
《5･6 出なサイ》（士気阻喪した司令官／部隊は《6 出
なサイ》）でヒット数を争う方法である。完全戦力の
部隊駒は 1 個振り、半減戦力の部隊駒は 1/2 個振り、
司令官駒は 0 ～ 3 個振りの攻撃力を持つ。勝敗はヒッ
ト数で決まるものの、だが実際に被る損害（1 ヒット
＝ 1/2 ステップロス）は参加した自軍部隊の駒数を超
えない。よって完全戦力であれば僅か部隊駒が 1 個で
も、どんなに大きな敵軍を相手にしても生還は出来
る。ただし戦闘には移動力の消費が要らない為、上記
をもって非手番プレイヤーが足止め策とするには難し
いだろう。
　なお非手番プレイヤーに戦闘回避の試みが許されて
いる点（支配スペースでは自動成功）は、手番プレイ
ヤーが敵軍を撃破するのに一層不確実としている。追
うだけでは駄目なのである、強いなければ！　それは
多くの場面で要塞スペースの攻囲／解囲が関係してく
る筈だ。この近世以前の戦争に於ける 会戦−攻城戦
の相関へ対する理解には、『Unhappy King Charles !』
等と並んでとても感心させられる。
　こうした戦闘方法また司令官の「単純化された戦術
値」では、結果の予測は極めて覚束ない。あなた（プ
2012 年版
No PEACE without SPAIN!
レ イ ヤ ー） が Marlborough や Villars と 為 り 変 わ っ
て（細かなレイティングを駆使して）
、縦横に攻めて
みせる、抑えてみせる……と言う訳には行かないので
ある。では、これは単なるダイス目を競うゲームなの
か？　慧眼のウォーゲーマー諸兄であれば、もちろん
直ぐに理解されるであろう。ここでのプレイヤー（あ
なた）は、ブルボン側であれば恐らくルイ 14 世と大
臣・廷臣達であり、同盟側であれば恐らく王国 ･ 共和
国 ･ 帝国の諸々の指導部なのだ。議会や宮廷にとって
は、Marlborough も Eugene も、Villars も Berwick
も Vendome も、所詮は──支配者の期待を大小背負
わされた──盤上の駒の各々に過ぎないのである。将
は戦闘を采配するが、王は戦争を采配するのだ！
「25年前から、
こういうゲームを求めて　
いた様な気がする」　
（あるモールバリアンの言より）
　最近では葉書マップや 1/4 マップサイズ物の成功か
らも、難しいルールや大量のユニットや凝ったレイ
ティングが、必ずしも「凄い !」を決する素因ではな
い事が認知されつつあるのではないだろうか。超軽量
～中量級ながらもプレイヤーに「凄い !」を唸らせる
作品が、今や続々と世に出ている現況だ。ただ残念な
事は、そうした作品では往々にして攻略法や必勝法の
算段に血道の上げられてしまい勝ちな事である。ルー
ビックキューブなら、もう散々やったではないか？
受験勉強なら、もう散々やったではないか？　ゲーム
を介して向かい合いたきは、誰をなのであろう、何を
なのであろう……。
　翻って、この NPwS よ。戦略の有っても解法の無
し！　史実に沿った、あるいは史実で練られた、ある
いは史実を越えた、そうした様々な作戦を取り得る面
白さ☆戦術の有っても方程式の無し！　計算尽くしの
通じない故にこそ、最善手への達観と変事への即応力
とが求められる面白さ☆両プレイヤーが伍して知略の
応酬をもって相対する痛快！　これを「凄い !」と評
せずして一体なんと評しよう !?　雅にして豪、細やか
にして太やかに、18 世紀初頭のヨーロッパ大舞台に
身を置けるゲームだと信じている。プレイヤーが繰り
出すあらゆる「知略」にも破綻しない、簡潔なルール
と適度のシミュレーションで構築された高い競技性を
堪能してもらいたく、ここに重ねて NPwS を熱く推
すものである！
13
 The Spanish Civil War (GMT) & Strike of the Eagle (Academy Games)
この　　　　 シミュゲがすごい！
自分が知らない戦史に
興味を持たせてくれた
デザイナーはコマンドマガジン100号付録
『ハンガリー戦役1944-45』のロメロ氏
当たり前のことだけど、
自分が知らない戦史っていっぱいある
ってことに、改めて気がつかせてくれた二つの作品を
紹介したいと思う。一つは GMT 社の『ザ・スパニッ
シュ・シヴィル・ウォー（スペイン内戦）』、もう一つ
はアカデミー・ゲームズの『ストライク・オブ・ジ・
イーグル（SotE）』だ。
　え？
　『スペイン内戦』は 2010 年の作品じゃないかって？
　あ～、まぁ、そうなんだけど、日本で紹介＆販売さ
れるようになったのは実質的に 2011 年に入ってから
なので、まぁいいじゃない。
私、脱いだら凄いんです
　ということで、まずはこの 2 作品の共通事項につい
て。両作品ともに言えることは、題材的に少々マイナー
であること。そしてそれに関連して、筆者自身が題材
についての知識をほとんど持っていなかったというこ
とだ。というか、まるで興味なし、守備範囲外、恋愛
対象は歳相応です、てなもんだ。
　いやべつに、私だって旧軍以外のゲームもプレイす
るんですよ？　ウソかと思うかもしれないけど、実際
には旧軍以外のゲームのほうがプレイ回数は多いんで
すよ？（当社比）
　で、この二つの作品のナニが凄いって、まったくと
いっていいほど興味のなかった戦史に、興味を抱かせ
14
堀場 亙
たってこと。誰でもない、この私にだ！
　ウォーゲームの魅力の一つに、歴史（軍事）認識に
対する相互補完が挙げられると思う。すなわち、ある
史実（戦史）に対する興味からウォーゲームをプレイ
すること。そしてウォーゲームをプレイすることでそ
の戦史や周辺の歴史に興味を抱くこと。この二つが上
手く噛み合うことで、プレイヤーの知識はより一層深
まることになる。ウォーゲームにはそういう効果や魅
力がある、と筆者は考えてる。
　でも、この歳になるとなかなか新しいものには手を
出さなくなっていく傾向が強い。好奇心の減退ってや
つだな。性欲のそれと関係があるのかないのか知らな
いけど、まぁそういうこと。
　だから、購入したりプレイするゲームもどうしても
偏りがちになるわけだけど、この二つの作品について
は、ふとしたキッカケで興味をもった。スペイン内戦
についてはたまたま仕事で調べる必要があったので、
多少の下地はあったと思う。そういう意味では、良い
タイミングでゲームが出版されたともいえる。
　一方、
『SotE』についてはまったく視野の外だった
けど、他人が横でプレイしているのを見て、面白そう
だと思った程度の入口だった。
　でまあ、取り敢えず買ってみて、プレイしてみたら、
そりゃもう……。脱がしてみたら思いのほかグラマー
で、
しかもアレがナニしてウハウハだったわけですよ。
初期配置ユニットが1枚も残らない凄さ
　そろそろ具体的な紹介に入ろう。
　まず『スペイン内戦』について。
　システムは比較的オーソドックスといってもいいと
思う。極端な言い方をすれば、移動・戦闘の繰り返し
だけだ。いわゆる戦闘後前進にあたる「突破前進」と
か、
制限の緩い鉄道移動とか、いくつかクセのあるルー
ルもあるけど、ルールそのものはわりとシンプルだ。
　ところが、プレイには無茶苦茶悩まされる。一つに
このシミュゲがすごい！
 この 自分が知らない戦史に興味を持たせてくれた シミュゲがすごい！

は CRT が完全消耗型ということもあるだろう。とに 捨ててたわけだ。

かくユニットが飛ぶ。そりゃもう、バンバン飛ぶ。年 　だって、ソ・ポ戦争だよ？　興味が湧く要素がどこ
末の特売並みだ。ゆえに、戦線の維持に苦労し、にも にもないよ。
かかわらず攻撃もしなくちゃいけないからまた悩む。 　ところが、ある時に隣りの卓でプレイしているとこ
　良い意味で、胃の痛くなるゲームだといえる。そう ろを目撃して、ちょっとした衝撃が走った。積み木
だなぁ、もしかしたら『ウクライナ '43」以来かもし で、カードドリブンで、しかも命令チット？　なんだ
れない。 そりゃ、ってなもんですよ。
　そしてこのゲームの凄いところは、初期配置ユニッ 　題材がどうとかいう前に、純粋にゲームデザイン、
トが、ゲーム中盤頃までにすべて消えるということだ。 システムに興味が湧いちゃったんだな。しかも、漏れ
上記のように戦闘結果によって消えていくユニットも 聞こえてくるインスト内容がまた興味をそそる。
あ～、
多いけど、ターンごとにユニットの「進化」が規定さ 面白そうだな～、でもなぁ～とか思ってたところに、
れているせいでもある。 和訳作成中の悪魔のささやき。
　スペイン内戦という特異なシチュエーションを再現 　ええ、そりゃもう、すぐにポチリましたよ。で、届
するためでもあるのだろうけど、ゲーム開始当初は両 きましたよ。航空便で。
軍ともユニットのほとんどが「戦隊」と呼ばれる弱小 　プレイしましたよ、すぐに。
ユニットだ。このユニットには原則として ZOC がな 　もうね、悔やんだよ。
く、戦力も小さい。これが、ターンが進むにつれて 　素通りしていたことに。
ZOC を持つ正規編成の部隊へと転換されるわけだ。 　オレはなんてバカだったんだと。
　これで何が起きるかというと、流動的だった序盤戦 　食わず嫌いってのはこういうことなんだと。
から、徐々に戦線が形成され、戦いの様相が一変する 　いくらソ・ポ戦争だからって、ソッポ向いてる場合
のだ。そして、それが見事にスペイン内戦らしさを表 じゃなかっただろうと。
している。さらに言えば、普通にプレイをしていると、 　あちこちの美人に目を奪われていたら、じつは隣の
形成された戦線はまさに史実に近いものとなる。 幼馴染が一番可愛かった、みたいな。
　正直言って、最初のプレイではプレイ勘がつかめな 　いや、それはいい。
くてゲームに振り回された格好だったが、2 回、3 回 　で、どんなゲームかというと、
要するに積み木でカー
とプレイするうちに「ああっ！」と気づかされたのだ。 ドで命令だ。
これはまさに、スペイン内戦じゃないかと。 　なに、それじゃわからん？
　しかも、史実がそうであったように、プレイヤーも 　よかろう、解説する。
また最初はわけのわからない状態に置かれ、両プレイ 　積み木システムについては、説明はあまりいらない
ヤーとも錯誤の連続なのだ。このこと自体、まさに両 だろう。原則として戦闘解決時以外は積み木＝部隊を
軍の指揮官の追体験にほかならない。 立てて置き、お互いに相手の戦力がわからないという
　もちろん、そういったことは後づけの知識だ。先に ところがミソだ。
書いたように、筆者はほとんどこの戦いについての歴 　で、カード・ドリブン・システム（CDS）についても、
史知識を持っていなかったのだから。でも、このゲー わりと有名だろう。一般的な解釈としては、
1 枚のカー
ムをプレイしたことで、スペイン内戦についてとても ドに複数の使い道があり、部隊を動かすために使った
興味を持つようになったし、今も勉強中だ。 り、イベントを発動させるために使ったりする。よう
するに、このタイミングでベストな選択はなにか、と
いうことをプレイヤーに決断させるためのエンジンと
FOG OF WAR ってのは伊達じゃない
言えばいいだろうか。
　続いて『SotE』について。 　で、ここにもう一つ、「命令チット」システムを導
　題材的には、これはソ・ポ戦争のゲームだ。実のと 入したわけだ。
ころ、メーカーからは何度もダイレクト・メールが届 　これは何かというと、実際にユニットを動かす前に
いていた。けど、興味がなかったのですぐにポイっと この命令チットをエリアに配置して、その内容にした

2012 年版 15
この 自分が知らない戦史に興味を持たせてくれた シミュゲがすごい！
カード・
ドリブン＋積み木＋命令チットという、ハイブリッドなゲーム・エンジンを搭載した
思えるが、「プレイして楽しい」作品に仕上がっている。
がって各ユニットは行動するというものだ。
　もう少し具体的に説明しよう。
　まず先にカードの効能について解説すると、主な使
用方法としては「命令の増加」「歴史イベント」「戦闘
修正」「補充」が挙げられる。
　このゲームでは、自分の手番には原則として 2 個の
命令チットしか配置できない（うち 1 個は「偵察」で
なければならない）。つまり、1 回の手番ではごく限
られたユニットしか移動・戦闘ができないことになる
（ちなみに手番は交互に行なう）。ただそれではほとん
ど何もできないのに等しいので、ここで「命令の増加」
としてカードが使用されるわけだ。この場合、カード
に記された値分だけ、命令数を増やすことができる。
　そしてその「命令チット」だけど、これには偵察、
移動、強行軍、防御、再編成などがあり、行動の中心
になるのは移動と強行軍だ。この移動と強行軍にはそ
れぞれ「このエリアから移動」と「このエリアに移動」
の 2 種類がある。「このエリアから移動（強行軍）」の
場合には、命令チットが置かれたエリアにあるユニッ
トがすべて移動（強行軍）を行なえる。一方、「この
エリアに移動」の場合には、チットが置かれたエリア
に移動可能なユニットがあちこちから移動してくる。
つまり、分散と集合と考えればいい。
　そして、これらの命令チットをすべて置き終わると、
命令チットごとに順番に処理していくことになる。す
なわち、強行軍→偵察→移動→撤退→戦闘解決→回復
16
『ストライク・オブ・ジ・イーグル』。複雑そうなシステムに
→鉄道移動の順だ。
　これによって何が起こるかというと、まさに虚々
実々の駆け引きが展開される。敵の置いた命令チット
が偵察だとタカを括っていたら、じつは移動マーカー
で奇襲的に攻撃を受けてしまったり、ブラフをかまし
て敵の大部隊を包囲・補給切れに追いやったりといっ
たことが、自然にできてしまうのだ。
　そう、
このゲームの核心は、まさにここにあるといっ
ていい。つまりこれは、「現場指揮官の苦悩」を味わ
えるゲームということだ。
　そして、積み木、CDS、命令チットを上手く組み合
わせて、それでいて不必要にルールを複雑化すること
なく、プレイして楽しいゲームに仕上げたというとこ
ろが凄いと思う。
　二つの作品は時代も、戦域も、システムも全く異な
る。だけど、自分にとってウォーゲームの新たな地平
を見せてくれたという点で共通している。そして、プ
レイヤーに対して史実に対する興味を抱かせたという
点で、やはり本作は凄いと思うのだ。なぜなら、ゲー
ム自体が成功していなければ、そもそもプレイヤーが
歴史背景に興味を持つこともないだろうからだ。
　言うまでもなく、あるゲームの価値は個々人によっ
て異なる。だけど少なくともこの二つの作品は、自分
にとってかけがえのない作品となったことは間違いな
い。
このシミュゲがすごい！
 信長軍記（ウォーゲーム日本史）
この戦国ゲームがすごい！
　ゴリゴリゴリゴリゴリっぷくー！　ご立腹よ！　な
んでみんなアタシと『信長軍記』（ウォーゲーム日本
史 11 号）やらないの？　 　トロピコもこの信長も、そういう意味の支配者じゃ
　あのねー、このゲームすっごく面白いの！　なのに、
ゴリ子が研究してるからって、やらないって、そんな！
お願い！　対戦して！
　このゲームは尾張統一時代の信長がテーマで、ポイ
ント・トゥ・ポイント式、リソースを配分して兵力に
するか行動力にし、基本的に行動力の多いほうがアク
ティブプレイヤーになって、お互いの行動力が尽きた
ら１ターン（１年）終了っていうシステム。
　最初は単純そうに見えるんだけど、サドンデス負け
を意識し始めると、実は油断したらバッサリやられる
ことがわかってくる。
　まずねー、熱田と津島を信長方が失うと信長サドン
デス負けっていう奴、これ、反信長方が 2 行動力リー
ドするだけで簡単に達成できちゃうんだけど、初心者
は意外とこれに気がつかない。初心者同士だと見逃し
たままゲーム続行になっちゃったりする。
　そんで戦争をする気になって、
「兵力を集めなきゃ」
　って思うんだけど、たくさん雇ったはいいけどなか
なか使うタイミングがつかめない。つまり、
「あれ？　行動力が足りない？」
「えっ、そっちパスすんの？　じゃあいま考えていた
手順、全部無駄？」
　みたいな。
　挙句、せっかく雇ったのにターンエンドで兵力が帰
る城がなくて、持ちこせないので解散しなくちゃなら
なくなったりして。
　そんでまた信長方はユニットの動員できる数が少な
いから、ちょっとでも除去されるとだんだん苦しく
なってくるわけ。
　この辺が中世の世界観をよく表現してるのよねー。
　あのね、ゴリ子がね、箱庭 PC ゲームの『トロピコ』っ
て中南米の独裁者になるゲームやってたら、友達が、
2012 年版
豚山ゴリ子
「お前は支配するのが好きだなあ」
　って言ったんだけどね。ちょっと違うの！　
なくて、いろんな事情の折り合いをつけてご機嫌伺い
つつ調整する、マネージャーって意味の支配者なの
よ！
　あー、このままならない状況の中で、エイヤって賭
けられるからゲームは面白いんであって、現実じゃあ
なかなかこう思い切りよくはいかない！
　で、現実と同じく、ゲームの状況とかアクションで
慣れないうちは、何がどうなるとヤバくて、これは意
外とヤバくない、みたいのがわからない。
　だからうっかり詰んじゃったり、無駄に慎重になり
すぎたりして手探りプレイになっちゃう。
　特にこの『信長軍記』
は一つ一つの手がヘビーでピー
キーすぎるから、頭シビれるし、ミスが取り返しにく
い。初めてやって信長方でやってみると、すごく苦し
いと思う。
　でもまず信長で勝てるようになるとこのゲームがど
ういうゲームなのかよくわかるはず。
　ゴリ子的には初心者が信長方で勝てるようになった
ら、信長は卒業して、反信長方で勝てるように頑張っ
てほしい。
　つーかマジでアレよ、アレ。誰かが言ってたんだけ
ど、
「ベテランが初心者をなぶるのに最適」
って。
　すごい評価じゃない！　このゲーム、初心者なぶり
に最適なのがすごい！　ぎゃー！　対戦相手がいない
のはそのせいっ？
　あのねー、むしろね、初心者同士でやっているのを
黙って見ていたい！
　ルールブック読んだだけでは理解できない罠が山ほ
ど潜んでいて、少しわかってくると驚きの声が両方か
ら上がって「あっ！」
「ああっ」
「アッーー！」ってなっ
て、病みつきになると思うわよ！
17
 そして清盛、狙うは天下！ こんなゲームを待っていた
　基本的に「ミーハー」である私ですが、「古今東西」
の未知なる世界へ誘ってくれるゲームにも目がない
「しりたがり」です。
　保元・平治の乱をゲーム化するなら「京の都はエリ
アになっていて、保元の乱では源為朝の剛勇が感じら
れる。平治の乱では平清盛がいない隙に源義朝が京を
制圧し、熊野から戻ってくる平清盛と決戦する」とい
う「男のロマン」溢れるゲームが欲しいなぁと夢想し
ていました。
　こんなスゴイゲームを誰か作ってくれないかと思っ
ていたら本当に出ました。
（ほぼ）2011 年に出版され
清盛軍記（ウォーゲーム日本史） た『清盛軍記』（ウォーゲーム日本史）です。
　その衝撃は森高千里サード・ライヴ・ビデオ「非実
力派宣言」が出たときに勝るとも劣らないものでした。

登場ユニットと地方ボックスが
「おもしろい」
　『清盛軍記』に登場するユニットは、特殊能力を持
つ皇族（調略）、藤原氏（回復）、平氏（弓射）
、源氏（騎馬）
の 4 氏族に分けられています。普通ならユニットは平
氏と源氏だけでしょう。頑張って藤原氏がユニット化
されるのは考えられるかも知れません。しかし、皇族
がユニット化され、しかも特殊能力を持ち重要な役割
の一端を担っているのがスゴイのです。
　この時代は武士が勃興した時代ではありますが、皇
族、藤原氏にはまだまだ顕然たる力を持っていたこと
をゲームでも示しています。そして実際にプレイする
と皇族・藤原氏の力をプレイヤーは目の当たりにする
でしょう。
　皇族の調略能力は文字通り相手方ユニットを自陣営
に寝返らせる能力です。中でも後白河院は基本 1/2 の
確率で寝返らせることができます（調略が成功すると
マーカーは調略されたユニットの上に置かれるので、
後々の確率は変動します）。他の調略能力を持つ崇徳
院、信西、藤原頼長、平清盛は 1/3、藤原経宗は 1/6
と後白河院の調略能力は強力です。しかも調略したユ
ニットが除去されたら使用した調略マーカーは再利
用可能なので後白河院の調略の魔の手から「CAN'T
SAY GOOD-BYE」することはできないのです。
　藤原氏は回復能力を持ちます。回復は他氏族の行動
大原剛雄 済みユニットを未行動に戻すことができます。未行動

18 このシミュゲがすごい！
 そして清盛、狙うは天下！

になると再度行動できるのはもちろんのこと、攻
撃を受けたときの耐久力が向上するので（行動済
みユニットは 1 損害で除去ですが、未行動なら 2
損害で除去）、なんともしぶとい「ハエ男」状態
になるのです。他氏族では後白河院、平頼盛に
回復能力があり、後で述べますが後白河院、藤
原氏、平氏（頼盛）が組むと「オーバーヒート
ナイト」と化すのです。
　個人的にはこの時代の人物でお気に入りの源
新宮十郎行家が「源義盛」としてユニット化さ
れているのがスゴイと言いたい。なお戦闘力
は「2」で調略対象にもなるという行家叔父ら
しい評価となっています。
　また、マップには京エリアと地方ボックス
があります。京エリアは邸宅、寺社、河原エ
リアなどがあり平氏が邸宅、官庁エリアから
攻撃すると有利な修正（弓射能力）がつき、
源氏が河原、平地エリアを攻撃すると有利な
修正（騎馬能力）がつきます。ただ闇雲に突
撃するのではなく、氏族の特性を見極めた
行動が求められるのです。また鴨川は移動
障害のエリアとされていますが、平氏の拠
点である六波羅邸から五条大橋という名の
「渡良瀬橋」が架かっており、六波羅邸から
洛中への進撃を容易にしています。
　そして地方ボックスは、北は奥羽から南は鎮西まで 『清盛軍記』のマップ。上が京エリアで下が地方ボックス。地方からの
全国を網羅しています。地方ボックスから京を目指し 援軍がきちんと京に来てくれるかどうかはダイス任せ。

て味方が馳せ参じて来るのですが、移動先は自分の行
きたい所ではなく、ダイスで決定するのです。その時
の天候や地域事情などを諸々考慮しているのでしょ
う。奥羽からは最短で 3 行動で京に到着しますが、最
長だと 7 行動もかかります。早く来てくれと願うもの
の、あちらこちらへふらふらと京にいる当事者の「ス
トレス」を増加させるのです。京の現地部隊だけで戦
果を求めるのか、地方から増援を得てから攻勢に移る
のか、プレイヤーの戦略が問われます。
　森高千里が江口洋介と結婚してしまったように、人
生はそう甘くないことを教育してくれます。
ダイスドリブンが生み出す混沌
　ターンのおおまかな流れは
①先行・後攻を決定。
② 1d6 で決定した氏族が行動（行動できる氏族がな
ければ自動的にパス。氏族に行動できる人物がいれ
ばマストで行動）を互いに繰り返す。
③連続パスになれば、勝敗判定と行動済みユニットを
回復させて次のターンへ進む
となります。
　基本は互いに 1 グループ（最大 5 ユニット）ずつ行
動を行いますが、実際の戦闘部隊である平氏、源氏は
行動する可能性は高くなっています（ともに 3/6）。
　自分で行動する氏族を決められないのはどうか、と
いう声もあろうかと思います。しかし内戦に加えて市
街戦（そして奇襲に夜襲）なので、様々な不確定要因
が混在していたと思われ、混乱した戦いをダイスドリ
ブンで上手く表現しているのではないでしょうか。
　上手くいけば自軍の行動後に相手方に行動できる氏

2012 年版 19
「平治の乱」シナリオでは、平清盛をはじめとする平氏の主力は紀伊に初期配置される。清盛が京に到着するまでの序盤、平氏は源氏に対して
持久戦を迫られることになる。その間に盤石な布陣を敷くことが後半戦の鍵となる。
族がおらず自動パスとなり、次の自軍行動で連続攻撃
を掛けることに成功すれば、そこには先手の攻撃に動
揺した相手方が体勢を立て直そうとしている時に新手
が嵩にかかって攻め立て相手方が大損害を食らう情景
が目に浮かびます。
　あるいは後一撃で勝利という段階で、行動できる氏
族にならず無念のパス。その隙に相手に防御を固めら
れたり、連続パスでターン終了、全ユニット回復して
長蛇を逸すなど、毎回波乱万丈の展開がウォーゲー
マーを待ち受けているのです。与えられた状況下で最
善を尽くさなければならないのです。それでいて相手
の行動可能部隊を計算したうえで勝負に出ることも必
要で、ウォーゲーマーならばこれで燃えずにいつ燃え
るという「LET ME GO」なゲームです。
　交互アクションで行動するとユニットの耐久力が低
下するため、ややもするとにらみ合いに終始する懸念
がありますが、行動表には「源氏と平氏各 1 グループ」、
「源氏もしくは平氏 2 グループ」があり、「やっちまい
な」状態で局面を打開することが可能なのです。
　攻撃はダイスを振って（修正を加え）ユニットの戦
闘力以下の目が出たら 1 損害、ダイスの目が 1 なら問
答無用で 2 損害と戦闘の中にも混沌とした状況が発生
します。
　戦闘力最強は源為朝、源義平の「5」ですが、為朝
20
は源氏の「騎馬」能力と平氏の能力である「弓射」能
力を持ち白河殿（邸宅エリア）から為朝が攻撃すると
自動的に 1 損害（1 の目なら 2 損害）となります。
　まさに「17 才」をリリースした直後の森高千里状
態と言っても過言ではないでしょう。
平氏の総合力を
「見て」
　武家の一方の雄で「大河」の主役、保元・平治の乱
における勝者である平氏は強いです。
　邸宅エリアや官庁エリアからは、弓射能力から有利
な戦闘を行え単純に戦闘に強いだけでなく、平清盛の
調略能力（皇族の能力）、平頼盛の回復能力（藤原氏
の能力）など他氏族の能力を持つユニットがある点が
源氏より有利と言えるでしょう。
　ダイスが走れば、平氏の行動（平頼盛除く）で攻撃（行
動済みで裏返る）→藤原氏（または後白河院）の行動
で裏返った平氏ユニットを回復→平頼盛の行動で（回
復に使った）藤原氏を回復→平氏の行動で攻撃、と平
氏版車掛の陣で戦えるのです。これが嵌まれば源氏最
強の源義朝、源義平のキラースタックもあっという間
に「鬼たいじ」で溶けてしまいます。
　メーンシナリオである「平治の乱」では、主力の平
清盛ら 7 ユニットが紀伊（熊野）にあり、平信兼ら 3
このシミュゲがすごい！

ユニットが摂河泉にいます。まずはこれらのユニット
を京エリアに到着させることが最優先で、後白河院は
最初は調略ではなく、清盛率いる主力の回復に専念す
べきでしょう。上洛でうまく東方の法住寺エリアなど
六波羅邸の近くに清盛が登場できればいいのですが、
結構西方の東寺エリアに登場するケースもあります。
義朝勢が六波羅邸攻撃に向かっていれば挟撃も可能で
すが、東寺の隣接エリアで待ち構えている可能性も否
定できません。清盛勢の上洛のさせ方は大いに検討の
余地はあるでしょう。平氏としては、まず車掛の陣形
成に勢力をつぎ込んで不敗態勢をつくるのが肝要で
す。邸宅に篭る平氏は攻撃時に有利な修正がつき、攻
撃されたときは相手に不利な修正がつくので、源氏の
挑発に乗らず清盛到着まで耐え忍ぶのです。そして態
「GET SMILE」のときのように「い
勢が整い次第、
くぞ！」と拳を天に突き上げ、源氏に「A 君の悲劇」
を味わわせてあげるのです。
　源氏には調略、回復能力を持つ人物はおらず、調略
させる人物も少数にとどまっています。これは平氏の
氏族としての勢い、財力、結束力など総合的な力量を
表しています。プレイヤーには壇ノ浦のことなど気に
せずに平氏版車掛の陣を体感してもらいたいです。
　それは森高千里至高のサードアルバム「見て」を聴
いた回数にも達することでしょう。
義朝ズ・ラスト・ギャンブル
　では、ただひたすら戦うしかない源氏はどうすれば
いいのでしょうか。
　「平治の乱」の初期配置を見ているとなぜかこれは
バルジ戦いに思えてきました（異論は多いでしょう）。
　三条殿にいる「ALONE」状態の信西（第 14 騎兵
グループ）を蹴散らし、鴨川（ミューズ川）を越え、
目指すは六波羅邸（アントワープ）。　六波羅邸攻略
に失敗すれば、そこは夢のアントワープではなく、バ
ストーニュだったのかと「夢の中のキス」から醒めて
しまいます。
　時間が経つとともに後白河院の調略攻撃で源氏方の
藤原経宗や藤原惟方の藤原氏ユニットと源頼政（郎党
付きで 3 ユニットが相手に！）が引き抜かれるのは必
定で、そうなると平氏の車掛の陣が威力を増し「雨」
どころではなく「47 HARD NIGHT」となってしま
います。
2012 年版
そして清盛、狙うは天下！
　やはり義朝はブリッツに勝機を見出すのが一般的で
はないでしょうか。信西の回復、調略能力は厄介なの
でファーストターゲットになるでしょう。信西をス
ルーして六波羅邸直撃案は、味方藤原氏の回復しだい
なので最初のターンは三条殿攻撃と源氏の集結がメー
ンの行動となるでしょう。
　ここで源氏の選択として三条殿に放火するかどうか
です。放火とは、邸宅エリアの隣接 3 エリアに味方ユ
ニットがいると放火マーカーを配置でき、邸宅の修正
をキャンセル（場合によっては大火事となり攻撃側に
有利になる）できます。三条殿へ放火すると信西を除
去しやすくなりますが、放火マーカーは勝手に除去で
きずダイスで消火するか決まるため、最終目標の六波
羅邸への放火が自分の思ったタイミングでできなくな
ります。さあ、あなたならどうします？
　ちなみに、調略対策として藤原信頼を東獄から内裏
に移動させ、内裏にいる藤原経宗と藤原惟方を別々の
エリアに移動させて隣には源氏ユニットを配置。源頼
政を義朝のキラーグループの隣に配置して裏切り次第
成敗すると見せて調略を思いとどまらせることもでき
ますが、
味方の裏切りにビビりながら戦う棟梁には
「こ
れっきりバイバイ」な未来しかないでしょう。
　そう源氏プレイヤーは森高千里のように「見せる」
プレイが求められているのです。
「おもしろき世」もしくは「NEW SEASON」へ
　とにもかくにも、行動できる氏族もダイス、上洛の
移動先もダイス、火事が消えるか大火事になるかもダ
イスで判定するため、流動的な状況に以下に対応する
かが問われるゲームです。
　必勝の態勢を整えるまで部隊の集結に精を出す、勢
いを重視して突進し主導権を確保し続ける、などプレ
イヤーの戦い方で全く展開が異なり何度やっても飽き
がこないゲームです。
　このゲームは日本史ファン、平清盛ファン、源氏ファ
ンにも、またそうでない人にもプレイしてみて損はな
いゲームと言えよう。
　
「おもしろき世」にできるか、
もしくは武家が「NEW
SEASON」の扉を開けるのか、源平相食み藤原氏の
天下に戻るのかどうかは、あなたの決断にかかってい
るのです。
　森高千里は天下を獲る！
21
『辛亥革命』
がすごい！ The 1911 Revolution of China [2Plus]
田村 寛

　 他 に 書 け る 人 が い な い の で、 の 1911 年も、アジア最初の共和
2011 年にアジアで出版された「す 制革命である辛亥革命が勃発した
ごい」シミュゲを……と、お題が 激動の年だった。そのため、革
回ってきたのだけれど、台湾の『戰 命 100 周年を記念して双十節（革
棋』（第 5 号〜第 7 号）は a-game 命の端緒となった武昌起義が始っ
でも取り扱っていて、あちこちで た 10 月 10 日 ） に は 台 湾 で も 中
紹介されているし、香港の戰棋會 華人民共和国でも式典が開かれ、
が出版した『指揮與軍旗：古代 ジャッキー・チェン主演の映画
篇』と『羅馬共和』はそれぞれ GMT の『Commands 『1911』も公開されたのだけれど、ボードゲーム業界
& Colors: Ancients』 と Valley 版『The Republic of でもまた、この歴史的イベントが題材として採り上げ
Rome』のローカライズ版で、オリジナルなゲームで られ、双十節に合わせて出版された。
はないし、上海九卓実業有限公司が出版した『縦横戦 　ボードゲーム『辛亥革命』を制作したのは 2Plus（亞
国』は不覚にも未入手、ということなので、個人的に 灣文具股份有限公司）。元々、モノポリーをベースと
入手済みで日本では恐らくまだちゃんと紹介されてい したゲームを数多く手掛けていて、その中でも三国志
ない「すごい」シミュゲとしてここで紹介するのは、 をテーマとした『三國群英會』は a-game でも販売さ
台湾で出版された『辛亥革命』。 れているので、知っている人もいるだろう。また、最
　2011 年のアジアは東日本大震災やタイの水害、金 近は台湾の公式な歴史研究機関である國史館が教育用
正日の死去など激動の 1 年だったが、丁度 100 年前 に出版しているゲームの制作も請け負っている。そ

『辛亥革命』のマップ全体図（左）
と租界周辺のアップ（中央）、革命軍の士気や饗応値などのトラック類（右）。前作『中原大戦』ではポイント・トゥ・
ポイントのマップが使われたが、本作のマップではヘクスが用いられている。

22 このシミュゲがすごい！
 『辛亥革命』
がすごい！
の第 1 弾は、台湾の行政院長だった蔣經國が 1970 年 勢力を増やすことを目指し、清軍はその阻止を目指す。
代に台湾の重化学工業化のために推進した 10 大プロ 具体的には、革命に呼応する勢力の増減は「響応値」
ジェクトをテーマとした『中華民國十大建設』、第 2 で表され、これが 35 点に達すると革命軍の勝ちにな
弾は、1930 年に蔣介石と反蔣陣営との間で起きた内 る。前半は革命軍が優勢だが、徐々に清軍の増援が登
戦をテーマとした『中原大戰』（これも a-game で販 場してくるので、革命軍が前半にどれだけ響応値を稼
売中）で、
『辛亥革命』はそれらに続く第 3 弾と位置 げるかが勝敗の鍵になる。
づけられる。 　各ターンの手順はイベントカードを実行してから両
　ほぼ正方形の頑丈な箱には、サイコロ、四つ折りの 軍の指揮チットをランダムに引いてユニットを活性化
ハードマップ、木製のユニット、厚紙を打ち抜きした させ、最後に響応値の増加を判定する。当時の武漢三
マーカー、フルカラーのカードとルール、早見表など 鎮は橋が架かっていなかったことを反映してか、それ
のコンポーネントが収められている。とりわけユニー ぞれの指揮チットは武昌・漢口・漢陽いずれかのユニッ
クなのは木製のユニットで、歩兵・騎兵・砲兵・艦隊 トしか活性化できなくなっている。
また、
陸上のユニッ
という異なる兵科毎に形が違っていて、活性化させて トは浮橋を架けたり民船を借用しなければ河を渡れな
疲弊状態になると横倒しにするようになっている。ま い。戦闘は射撃戦と白兵戦があり、それぞれ異なる戦
た、ユニットはチット引きで活性化させるのだが、チッ 闘結果表が用意されている。
ト引き用の巾着袋も同梱されている。 　イベントカードは史実での出来事を反映したもの
　ゲームは辛亥革命全体を扱った戦略級……ではな が 36 枚用意されていて（一部の内容は重複）、ゲーム
く、前述の武昌での武装蜂起からの約 2 ヶ月間のみを の展開に変化を与えるものとなっている。また、セッ
扱った作戦級に相当するゲーム。マップの範囲も、武 トアップもヒストリカルセットアップとフリーセット
昌および長江の対岸に位置する漢口・漢陽のいわゆる アップが用意されている。
武漢三鎮とその周辺のみとなっている。『中華民國十 　ルールとカードは、手前味噌ながら拙作の和訳が
大建設』はモノポリー風のマップ、『中原大戰』はポ BoardGameGeek で公開されている。残念ながら、日
イント・トゥ・ポイントのマップだったが、『辛亥革命』 本で販売している店はまだ無いようだが、ゲームマー
ではヘクスが使われている。また、ゲーム中に漢口が ケットに出展している台湾のスワンパナシアに連絡
焼き討ちに遭うことがあるが、焼け落ちた漢口市街を すれば、ゲームマーケットで購入できる（評者自身、
表す地形オーバーレイも用意されている。 2011 年秋のゲームマーケットの直前に、ルールとカー
　プレイヤーは革命軍もしくは清軍を率いて、10 ター ドを和訳したいので買いたい、と連絡したところ、タ
ンに渡って武漢三鎮で攻防を繰り広げる。革命軍は ダで貰った）
。でも、これを機に a-game でも取り扱っ
マップ上に 9 ヶ所ある重要拠点を支配することで北 てくれないかなぁ。
方・東南・西南の他の省や清軍内部で革命に呼応する

指揮與軍旗：古代篇 縦横戦国
　http://wargames.com.hk/oscommerce/product_info.php?products_id=4417 　http://boardgamegeek.com/boardgame/122236/
　http://boardgamegeek.com/boardgame/14105/ 辛亥革命
羅馬共和 　http://blog.roodo.com/2plus/archives/16923443.html
　http://wargames.com.hk/oscommerce/product_info.php?products_id=4759 　http://blog.roodo.com/2plus/archives/17009809.html
　http://boardgamegeek.com/boardgame/1513/ 　http://boardgamegeek.com/boardgame/115496/
スワンパナシア
　http://www.swanpanasia.com/

歩兵や砲兵、騎兵、艦隊など兵種ごとに形状
が異なる木製のユニット（左）。 ゲーム中、
漢口が焼き討ちに遭った時に使われるオー
バーレイ
（右）。

2012 年版 23
革命的な可能性を持つ『日露大戦』
『日露大戦』
（ウォーゲーム・ハンドブック2011収録）
大久保城治
　さて 2011 年に出版されたシュミレ
ーションゲームでの中で「すごい」と
言えば、やはり『日露大戦』だろう。
多くの人がまだ気づいていないようだ
が、このゲーム、実はシュミレーショ
ン・ウォーゲーム界に革命を起こすか
もしれない、それほどのインパクトを
持ったすごいゲームであると言える。
　ユニット数は両軍合わせて 50 個以下、慣れれば 1
時間程度で終わる、一見お手軽なだけこのゲームのど
こがそんなにすごいのか？　きちんと分析してみる
と、実は慢性衰退傾向にあるウォーゲーム界の流れを
逆転させる可能性を秘めているのだ。それがどんなに
「すごい」可能性なのか、これから分析してみたい。
　この冊子を手に取るような方ならばウォーゲーム界
の慢性衰退傾向については先刻ご承知だろう。80 年
代をピークにかれこれ 30 年以上にわたってウォーゲ
ーム人口は減り続けてきた。その原因について、これ
まで数々の識者が多くの場所で述べてきており、やは
りこの冊子を手に取るような方ならば当然ご存じと思
われる。その原因は細部ではいろいろあるが大きくま
とめると、
「ルールが難しくプレイ時間が長い」とい
ういわば物理的原因と、「史実と戦争に興味がないと
入りづらい」という心理的原因の二つにあるというこ
とに異存のある方は少ないだろう。
　では、ウォーゲームからこの二つの原因を取り除け
ればもっと気軽にウォーゲームを楽しむ人が増え、慢
性的衰退に歯止めがかかるのか、という疑問が湧く。
この疑問に対してはこれまでも翔企画の SS シリーズ
やドイツ系ゲーム型ウォーゲーム（?）など、数々の
アプローチがなされてきた。しかし、それらの試みは
24
残念ながら実を結ぶことはなかった。
だが、このゲームは違う。だからこそ
革命的にすごいのだが何故そう言える
のか。
　物理的原因に関しては、このゲーム
は申し分ない。ルールは簡潔、プレイ
時間も 1 時間程度、ゲーマーには常識
ながら一般人には煩雑である戦力比計
算もない。それ以外にも地味に大きな点として、初期
配置が 5 分で済むことと、移動力が最大のものでも 3
と短いことがあげられる。初期配置は言うまでもない
が、移動力が少ないことで複雑な機動がなくなり、結
果的にプレイ時間の短縮にもつながっている。この点
つい見過ごしがちだが、プレイヤーの負担を取り除く
ことに貢献している。
　だが、これだけでは革命的とは言えない。これまで
に物理的な手軽さということであれば、既に SS シリ
ーズでアプローチがなされており、このゲームは SS
シリーズのコンセプトをより徹底させたということに
過ぎない（それにしても殆どの SS シリーズよりユニ
ット数少なく、プレイ時間も短く、かつ普通に面白い
というのはそれだけでも実にすごいことであるが）。
このゲームの本当にすごい点はもう一つの心理的原因
の処理の仕方にある。
　我々ウォーゲーマーがヒストリカルウォーゲームに
何を求めるかということを突き詰めて考えていくと、
その本質は「意味づけ」に行き着く。意味づけとは何
か。それは
『ドミニオン』
を考えるとわかりやすい。
『ド
ミニオン』はゲームとして面白いゲームだが、ウォー
ゲーマーにすると、なんで庭園カードとか荘園カード
を集めると勝ちなのか意味がわからない。意味づけが
このシミュゲがすごい！
 革命的な可能性を持つ
『日露大戦』
ないので乗り切れないのである。 場でプレイヤーが指揮をとっていたら何ができたか、
　だが、そこに「モスクワ」とか「装甲擲弾兵」とい に最大の意味を見出しているからであろう。文法から
った意味づけがなされると俄然燃える。ゲームとして して違うのである。
の本質は殆ど変わっていないのにも関わらずに、であ 　今ままでのウォーゲームはどうしてもそこから抜け
る（笑）。 出せなかった。従来のウォーゲームの作り方としては、
　ということで、『日露大戦』で敵のカードを引かせ 日露戦争を作る場合、史実では何月何日に全何個師団
ないカードは「マカロフ中将」でなければならず、そ を持っている日本軍が奉天まで行ったから全体のター
れを阻止するカードは「機雷」でなければ意味がない。 ンはこのぐらいで、このぐらいの戦力と移動力にすれ
これがウォーゲーム特有の意味づけである。 ば史実辺りの時期に奉天で決戦が起きるだろう、とい
　ではここで、発想を変えて『日露大戦』において敵 う文法のもとに作られていた。またプレイヤー側もそ
のカードを引かせないカードが「海賊」カードだった ういった点にウォーゲームの意味を持っていたため、
ら。そしてそれを阻止するカードが「ジャック・スパ たまに少し逸脱したゲームは、ゲーム的であるという
ロウ」だったら？　ウォーゲーマーなら怒り出しても よく考えると意味のわからない言葉で批判されること
う二度とやらないだろう。 が多く、上記の文法をよりうまくできるゲームこそが
　ところがと言うか当然と言うか、一般人には当然そ 良いウォーゲームとされることが多く、その結果、ウ
のほうが受ける筈である。歴史に興味を持たない人に ォーゲームはどんどん一般の感覚とは乖離していき、
とっては「マカロフ」も「旅順」も大した意味を持た 途中 SS シリーズのように物理的な部分は歩み寄る動
ない。敵のカードを引かせないか、阻止するかといっ きもみられたが、意味づけと文法の改革が中途半端だ
た用途に意味を感じるのである。 ったこともあり、大きな流れとはならず、ウォーゲー
　ルールが表しているものを自分の引き出しの中にあ ムは一部の閉鎖的な人がやる特殊な趣味という位置づ
る歴史フレーバーと有機的に結びつけることができる けに落ち着いてしまった。だがこの数十年、流れは少
かどうか──これを迫られることが（あるいはこれが しずつ変わりつつあるような気がしている。一時ウ
できないと面白いと感じられないと強いられること ォーゲームに限らずボードゲームは全てファミコンや
が）心理的な衰退原因になっていると考える。普通の PC 系に取って代わられるだろうという話もあり、ウ
ウォーゲームでは、この意味づけが文法であり、シス ォーゲームはかなりその通りになったが（苦笑）、ド
テム全体もその文法をもとに組み上げられているの イツ系ゲームなどボードゲーム全般は根強く残り続け
で、汎用性や広がりがなく、そのゲームの中で完結し ている。そのドイツ系ゲームが根強く残ったという現
ているが普通である（例えばバルジ戦ゲームを一般の 象面だけに注目して、ウォーゲームにおける意味づけ
ゲームに置き換えるということはまず不可能であろ の視点とか全て文法ごと外し、ドイツ系ゲームにヒス
う）。だが、『日露大戦』はそこが違う。前述の「マカ トリカルなフレーバーだけつけたウォーゲームを出せ
ロフ」カードの例で試してみたが、このゲームは例え ばという動きも一部あったが、そういった視点からこ
ば日露戦争ではなく、システムはそのままに「海賊対 の『日露大戦』というゲームを見てみると、このゲー
海軍」のゲームに置き換えたとしても、ゲームとして ムは今までのウォーゲームとは違う文法で作られてい
問題なく機能するのだ。ここがすごいのである。 ながら、文法自体は残し、意味づけの視点も違う位置
取りながらしっかりと持っているという点で、ウォー
ゲーマーと一般のボードゲーマー双方に受け入れられ
異なる文法によるアプローチ
るすごいゲームであるといえるだろう。
　何故そんなすごいことが起きるのか。 　マストアタック上ではこのゲームを小学生のご子息
　このゲームは恐らく普通のウォーゲームと意味づけ とプレイされたという話も聞く。小学生にでもできる
の位置を変えているのである。普通のウォーゲームは という点でも充分革命的だが、
いつの日かこのゲーム、
史実を扱っている以上、実際に起きたことに最大の意 ドイツ系ゲームのサークルの例会場とかでも普通にプ
味を見出しているが、このゲームはそこに意味を見出 レイされているかもしれない。そのくらいの革命性を
していない。史実を扱っていることは同じでも、その 持った素晴らしいゲームである。

2012 年版 25
 VPGの元気良さがすごい！
Paul Koenig's Market Garden: Arnhem & Eindhoven [Victory Point Games]
中黒 靖
　出版ペースだけで言えばデシジョン・ゲームズがす
ごいのだけれど、ジャンルの幅を考えると、ビクトリ
ー・ポイント・ゲームズ（VPG）はすごい！　と思
える一年だった。中でも、ありそうでなかった本格ソ
リテア・ゾンビ・ゲーム『ドーン・オブ・ザ・ゼッド』
（「ゼッド」とはゾンビ病のこと）が傑作で、これを紹
介するつもりだったが、思い直してマーケット・ガー
デン作戦『アルンヘム・ブリッジ（AB）』と『アイン
トホーフェン・ブリッジ（EB）』を取り上げたい。
アルンヘム橋にしかけられた地雷
　『マーケット・ガーデン（MG）』はポール・ケーニ
ッヒ作のシリーズ・ゲームで、既に氏は VPG でノル
マンディ上陸作戦のシリーズ・ゲームを発表してい
る。
『MG』でも同様のシステムを用いてアルンヘム橋、
アイントホーヘン橋をめぐる戦いを作品化している。
　1 ゲーム・ターンのスケールは 4 時間 30 分で、3 回
の昼間ターンの後、1 回の夜間ターンがあり、その時
はドイツ軍だけが半分の移動力で移動できる。昼間タ
ーンには、1）両軍がそのターンに使用できる支援マ
ーカー数を決め、2）コマンド・チットを引き、3）引
かれたフォーメイションに属するユニットの作戦を行
い、4）カップからコマンド・チットがなくなるまで、
26
これを繰り返す。
　ユニットが行える作戦には全力射撃、全力移動、半
分射撃＋半分移動の 3 種類がある。射撃（戦闘）は隣
接ヘクスにいる敵軍ユニットに対して行え、ダイスを
1 個振って戦闘力未満の目が出ればヒット、戦闘力と
同数の目なら双方が 1 ヒットを受ける。2 ヒットで戦
闘力マイナス 1、3 ヒットを受けると除去される。半
分射撃なら戦闘力は半減するが、移動後に射撃、また
は射撃後に移動が行える。敵軍ユニットと同じヘクス
に突入しての近接射撃も可能だが、この時は防御射撃
が行われ、これに耐えることができれば地形効果なし
で射撃できる。
　主要なルールはこんなところ。5 分程度の口頭説明
で対戦を開始できる。
　まず『AB』。英第 1 空挺師団がアルンヘムを確保で
きるかどうかが焦点となる。よって、両軍ともゲーム
終了時に自軍ユニットを目標ヘクスに置いていれば勝
利得点（VP）を獲得する。敵軍ユニットを除去して
も 1VP になる。また、ドイツ軍は損害に関係なくユ
ニットが生存していれば 1 個につき 1VP、連合軍は
無傷の自軍ユニット 1 個につき 1VP を獲得する。さ
らにドイツ軍が偵察大隊をマップ南端から突破させる
ことができなければ、連合軍は 10VP を獲得する。
　そんなわけで勢い、アルンヘムの南北を結ぶ橋が戦
このシミュゲがすごい！

左：
『AB』のマップ。アルンヘム北部で壮絶な市街戦が展開される。上：
『EB』のマップ。河川によって3主要地域が3分割されており、連合軍プ
レイヤーはどこからアイントホーフェンを攻めるか、
ドイツ軍はどこで守るか、それぞれ悩まされることになる。
いの焦点になる。先にこの橋を確保できるかどうか、
概ねチットが引かれる順番で決まる。第 2 ゲーム・タ
ーンにドイツ軍チットが立て続けに引かれるようなら
橋はがっちりと守られ、連合軍チットが先に引かれる
ようなら偵察大隊の突破は困難なものとなる。
　限られた戦場で展開に多様性を持たせるために採用
したチット・ドリブン・システムだが、プレイヤーの
決断よりチットが引かれる順番のほうが展開に与える
ウエイトが大きいことに引っかかる。それに、最終的
には両軍がアルンヘムの市街地で組んずほぐれつ、チ
ットが引かれた順番に射撃しまくるだけという、市街
戦らしいと言えばそれらしいけれど、考えるよりもダ
イスを振るほうが忙しくて困るという状態に。
　しまった、これは地雷ゲームだったか？
作戦の幅があるアイントホーフェン橋
　『AB』のがっかり感を引きずったまま『EB』をプ
レイ。ところが、こちらは面白かった。
　一つは、連合軍の進攻ルートが複数存在すること。
アイントホーフェンに突入するまでに何本か橋を渡ら
なければならず、右から攻めるか、中央に主力を置く
か、左翼を陽動に使うか、選択肢がある。守るドイツ
軍にしても、前進防御するか、最初から後方に下がる
2012 年版
VPGの元気良さがすごい！
か。あるいはどのタイミングで退くかと、プレイヤー
の決断が展開に大きく影響するのだ。決断が主でチッ
トが引かれるタイミングが従。チット・ドリブンにお
ける主従関係はこうでなければ。
　両軍とも少ないユニットをやりくりして主導権を握
らなければならず、自然と戦術的なあの手この手を考
えるようになる。
『EB』で編み出されたテクニックを
『AB』にフィードバックすることで新たな展開を見せ
てくれるかもしれない。例えばフォーメイションが異
なるユニット同士をスタックさせて敵軍の重要地点に
隣接させ、フォーメイション A がアクティブになっ
た時、既に隣接しているユニットを半分射撃＋半分移
動させた後、別のユニットを半分移動＋半分射撃さ
せる。フォーメイション B にも同じことをさせれば、
同一ゲーム・ターン中に 1 つのヘクスに対して 1 つの
ヘクスから 4 回射撃を浴びせられるのだ。『EB』で橋
を渡る際に有効な戦術だが、市街地で押し合いへし
合いする『AB』でも使いどころがあるだろう。
『EB』
を対戦したことで『AB』をもう一度戦いたくなった。
　チット・ドリブンの在り方を再認識させてくれた
『EB』
、そして 1 回や 2 回の対戦で結論を出すのでは
なく、作品から面白さを引き出すにはプレイに工夫が
必要であることを教えてくれた『AB』
、どちらも「す
ごい」作品である。
27
 再現：日本の軍歴シリーズ

フィリピン攻略戦
PHILIPPINES CAMPAIGN
Race for Manila, 1941-42

2.3.6 国籍　ユニットの地色で国籍を判別できます。
1.0 はじめに 　　日本軍……白色
　『フィリピン攻略戦』は 1941 年 12 月から翌年 1 月ま 　　米比軍……緑色（兵科記号が紫色は比軍）
でのフィリピン戦役を再現したシミュレイションです。2 2.3.7 戦闘力　部隊の相対的な戦闘能力です。
人のプレイヤーで対戦され、1 人が日本軍を、もう 1 人 2.3.8 移動力　ユニットが 1 回の移動フェイズ中に使用
がアメリカ・フィリピン連合軍（米比軍）を担当します。 できる最大ヘクス数です。
2.4 マーカー　以下のマーカーを使用する。それぞれ使用
するルールの各章で説明する。
2.0 ゲームの備品
2.1 マップ Game
Turn Save Forces
2.1.1　マップには戦場となった地形が描かれています。
6 角形のマス目を「ヘクス」と呼び、駒の位置、移動の基
兵力温存
Hold Manila
首都保持
準にします。ヘクスが印刷されていない場所はゲームでは
ゲーム・ターン 戦略チット 疲労
直接的に使用しません（図表類が印刷されています）。
2.1.2　全てのヘクスには固有の 4 桁の数字（ヘクス番号） 2.4.1　疲労マーカーが不足する時は自作してください。
が印刷されています。 2.5 ダイス　上記の他、6面体ダイス1個が必要になる。ダ
2.2 駒　駒には戦闘部隊を表す
「ユニット」
と、情報の表示や イスは戦闘など不測の事態を判定するために使用する。
記録のために使う
「マーカー」
がある。
2.2.1　ゲームを始める前に、駒を枠線に従って切り離し
てください。厚紙に貼付してから切り離すと使いやすいで
3.0 ゲームの準備とヘクスの支配
しょう。 3.1 ユニットの配置
2.3 ユニット　ユニットには国籍、戦闘力、移動力、部隊名、兵 3.1.1 米比軍の配置　米比軍ユニットをマップの指示に
科などの情報が記載されている。 従って配置します。兵科マークと規模記号が印刷されてい
るヘクスに同じものを 1 個ずつ配置します。
登場ターン 規模
2 3.1.2 日本軍の配置　ゲーム開始時、日本軍はまだ上陸し
部隊番号 所属部隊名
ていません。日本軍保管ボックスにユニットを置きます。
16
9

兵科
4-3 国籍（地色）
3.2 マーカーの配置
戦闘力 移動力
3.2.1 ゲーム・ターン・マーカーを、ゲーム・ターン記録
2.3.1 登場ターン　日本軍ユニットにのみ印刷されてい トラックの「1」に置きます。疲労マーカーはマップ外に
ます。ユニットが登場するターンを示します。 保管しておきます。
2.3.2 部隊番号　そのユニットの名称です。 3.2.2 戦略の決定　両軍プレイヤーは、自軍の戦略チット
2.3.3 所属部隊名　そのユニットが所属する師団名です。 のうち、任意の 1 枚を選んで自軍の戦略とします。残り
師団規模のユニットは部隊名になります。 の 2 枚は使用しません。選んだ戦略チットはゲームが終
2.3.4 兵科　そのユニットが表す部隊の兵科です。［×］ 了するまで敵軍プレイヤーに明かさないようにします。
は歩兵、［／］は騎兵を表しますが、ゲーム上の区別はあ 3.3 ヘクスの支配　マップ上の全てのヘクスは日本軍または
りません。 米比軍が支配している。ゲーム開始時、全てのヘクスは米比
2.3.5 規模　II は大隊、III は連隊、XX は師団を表します。 軍が支配している。敵軍支配下のヘクスに自軍ユニットを進
ゲーム上の区別はありません。 入させると、直ちにそのヘクスは自軍支配下になる。以後、敵

28 R1 このシミュゲがすごい！
 PHILIPPINES CAMPAIGN
軍に支配されるまでそのヘクスは自軍支配下であり続ける。
3.3.1　ヘクスの支配者を定義する必要があるのはマニラ
と 2 つの港湾、6 つの飛行場だけです。
4.0 勝利条件
4.1 勝敗の決定　第7ゲーム・ターンが終わったら両軍の勝
利得点（VP）
を計算し、より多く獲得したプレイヤーが勝者と
なる。同数なら引き分けとする。
4.2 戦略によるVPの変化　両軍とも選択した戦略によって
得られるVPが異なる。マップに印刷された勝利得点を参照。
4.3 航空戦　各ゲーム・ターンの終了時、米比軍プレイヤー
はダイスを1個振り、出た目が自軍が支配する飛行場の数以
下なら1VPを得る。
4.3.1　このルールは、フィリピンの飛行場が健在な限り、
日本軍の航空戦力がこの方面に拘束されることを意味して
います。米比軍が獲得した航空戦による VP は、メモ用紙
などに記録しておきます。
5.0 プレイの手順
5.1 ターン・シークエンス　1ゲーム・ターンは以下の手順で
構成される。
　　1. 米比軍プレイヤー・ターン
　　　　a. 移動または戦闘フェイズ
　　　　b. 回復フェイズ
　　2. 日本軍プレイヤー・ターン
　　　　a. 移動または戦闘フェイズ
　　　　b. 戦闘または移動フェイズ
　　　　c. 回復フェイズ
　　3. 航空戦判定フェイズ
（4.3参照）
5.2 プレイヤー・ターン
5.2.1 米比軍プレイヤー・ターン　米比軍プレイヤー・
ターンは移動フェイズか戦闘フェイズのどちらかしか行え
ません（ただし 5.3 参照参照）。
5.2.2 日本軍プレイヤー・ターン　日本軍プレイヤー・
ターンでは、移動フェイズと戦闘フェイズを 1 回ずつ行
えます。どちらを先に行っても構いません。戦闘フェイ
ズを先に行う時、戦闘解決のダイスの目に 1 を加えます
（9.4.3 参照）。
5.3 マッカーサーの指揮　米比軍プレイヤーはゲーム中1回
だけ、自軍プレイヤー中であればいつでも
「マッカーサーの指
揮」
を宣言できる。宣言したゲーム・ターンはもう1回、移動
または戦闘フェイズを行える。日本軍と異なり移動フェイズ
または戦闘フェイズを2回行って構わない。
5.3.1　この宣言は第 3 ゲーム・ターンから行えます。
5.4 第1ゲーム・ターンの特別ルール　第1ゲーム・ターン
は米比軍プレイヤー・ターンは省略され、
日本軍プレイヤー・
ターンから開始する。
5.4.1　このルールは日本軍による奇襲を表しています。
2012 年版
Race for Manila, 1941-42
6.0 支配地域（ZOC）
6.1 概 要　ユニットは隣 接する6つのヘクスに支 配 地 域
（ZOC）を持つ。海または湖で覆われたヘクスの辺（ヘクス
サイド）越しにZOCは及ばない。
6.1.1　混乱状態（9.8 参照）のユニットは ZOC を持ち
ません。
6.2 移動に対する影響
6.2.1　移動中、敵軍ユニットの ZOC（EZOC）に進入し
たユニットはそのヘクスで停止しなければなりません。
6.2.2　移動開始時に EZOC にいるユニットはまず EZOC
以外のヘクスへ移動しなければなりません。その後、再び
EZOC に進入できます（そのヘクスで移動を終えます）。
6.2.3 浸透移動　移動開始時に EZOC にいる日本軍ユ
ニットは別の EZOC へ直接移動できます（そのヘクスで
移動を終えます）。
6.3 戦闘に対する影響
6.3.1　自軍戦闘フェイズ中、自軍ユニットの ZOC にい
る敵軍ユニットを攻撃できます。
6.3.2　戦闘結果による退却では EZOC に進入できませ
ん。自軍ユニットがいれば EZOC を通過して退却できま
す（9.5 参照）。
7.0 スタック
7.1 概要　1つのヘクスに複数のユニットを置くことを「ス
タック」
と呼ぶ。
7.2 スタック制限
7.2.1　敵味方のユニットは一切スタックできません。
7.2.2　自軍ユニット同士もスタックできませんが、移動
（8.0 章参照）や退却中（9.5 参照）に一時的にスタック
することは可能です。
8.0 移動
8.1 概要　プレイヤーは自軍移動フェイズに自軍ユニットを
移動させることができる。
8.1.1　全ての自軍ユニットを移動させても、一部だけを
移動させても構いません。
8.1.2　各ユニットは移動力の範囲内で移動できます。全
ての移動力を使用する必要はありませんが、未使用の移動
力を繰り越したり、他のユニットに譲渡したりすることは
できません。
8.2 地形の影響
8.2.1　移動中、山地に進入したユニットはそこで移動を
停止しなければなりません。
8.1.2　海または湖に完全に覆われたヘクスサイドを越え
ることはできません。
8.3 日本軍の上陸
8.3.1　日本軍ユニットは第 1 ゲーム・ターン以降、
「上陸」
R2 29
PHILIPPINES CAMPAIGN
によってマップに登場します。
8.3.2　上陸地点はマップに印刷されています。ユニット
に印刷された登場ターンに指定の上陸地点に置きます。
8.3.3　上陸は日本軍移動フェイズ開始時に行います。上
陸地点に他のユニット（自軍ユニットを含む）が置かれて
いる時は、そのゲーム・ターンには上陸できないことにな
ります。この制限のため、第 14 軍主力（14A）は 1 ゲー
ム・ターンにつき 1 個ずつしか上陸できません。
8.4 オープン・シティ宣言　米比軍プレイヤーは第5ゲーム・
ターンの自軍移動フェイズ開始時から、マニラの「オープン・
シティ宣言」
を行える。一度この宣言をしたら、以後、米比軍
ユニットはマニラに進入できない。その代わり全ての米比軍
ユニットの移動力が1増え、日本軍同様、浸透移動（6.2.3参
照）
が可能になる。
8.5 コレヒドールへの撤退　港湾ヘクスにいる米比軍ユニッ
トはそこで1移動力を消費することによりコレヒドール要塞
ボックスへ撤退できる。
8.5.1　EZOC にいるユニットも撤退可能です。また 2 移
動力を持つユニットなら移動中であっても撤退できます。
8.5.2　一度撤退したユニットはマップ内に戻ることがで
きません。日本軍も撤退したユニットを攻撃できません。
8.5.3　米比軍の戦略が「長期持久」の時、コレヒドール
へ撤退することで VP を獲得します。それ以外の戦略の時
は VP を獲得できませんが、コレヒドールへ撤退すること
は可能です。
9.0 戦闘
9.1 概要　プレイヤーは自軍戦闘フェイズに自軍ユニットに
隣接する敵軍ユニットを攻撃できる。攻撃は任意であり強制
されない。
9.2 戦闘の制限
9.2.1　1 つの自軍ユニットは 1 回の戦闘フェイズ中に 1
回しか攻撃できません。1 つの敵軍ユニットに対して 1
回の戦闘フェイズ中に 1 回しか攻撃をかけられません。
9.2.2　自軍ユニットがいる 1 つのヘクスから、同時に複
数の隣接ヘクスに対して攻撃することはできません。逆に
複数のヘクスにいる自軍ユニットが、隣接する 1 つの敵
軍ユニットがいるヘクスに対して同時に攻撃することは可
能です。
9.2.3　海または湖で完全に覆われたヘクスサイド越しに
攻撃することはできません。
9.2.4　疲労状態（9.7 参照）の日本軍ユニットは攻撃で
きます。混乱状態（9.8 参照）の両軍ユニットは攻撃でき
ません。
9.3 戦闘の組み合わせ　戦闘フェイズを行うプレイヤー（攻
撃側）は上記制限に従い、自軍のどのユニットで敵軍（防御
側）
のどのユニットを攻撃するかを決める。
9.3.1　9.2 の制限に従う限り、1 回の戦闘フェイズ中に
行える戦闘の組み合わせの数に論理的な制限はありませ
30
Race for Manila, 1941-42
ん。もちろんユニットの数に起因する、物理的な制限はあ
ります。
9.3.2　最初の戦闘を解決する前に、全ての組み合わせを
決めておく必要はありません。1 つの組み合わせを解決し
た後で、次の組み合わせを決め、その戦闘を解決します。
9.4 戦闘解決手順
9.4.1　組み合わせが決まったら、次の手順でその戦闘を
解決します。
　　1. 戦闘力差の算出
　　2. 戦闘結果の判定
　　3. 戦闘結果の適用
　戦闘結果を適用したら、次の組み合わせの解決を行いま
す。攻撃側が望む全ての組み合わせを解決したら戦闘フェ
イズは終了します。
9.4.2 戦闘力差の算出　攻撃側ユニット（1 個または複数）
の戦闘力から防御側ユニット（1 個）の戦闘力を引きます。
防御側がいる地形により戦闘力が修正されます（戦闘結果
表参照）。
　　町または山地………………………………＋ 1
　　山地と町の両方があれば…………………＋ 2
　　都市…………………………………………＋ 2
　飛行場と港湾は影響しません。
9.4.3 戦闘結果の判定　戦闘力差から、戦闘結果表で使用
するコラムが決まります。攻撃側はダイスを 1 個振って
結果を判定します。この時、ダイスの目には以下の修正が
つきます。
　　防御側が疲労状態…………………………＋ 1
　　日本軍が戦闘フェイズを先に選択………＋ 1
9.4.4 戦闘結果の適用　戦闘結果は直ちに適用します。
AR 全ての攻撃側ユニットは 1 ヘクス退却します。
AO 攻撃側は戦闘結果「C」と同じにするか、攻撃
側ユニット 1 個を除去する代わりに「DD」に
するかを選択します。
C 両軍とも損害ありません。
DR 防御側は 1 ヘクス退却します。
DD 防御側は 1 ヘクス退却し、さらに混乱します。
BB 両軍ともユニット 1 個を除去します。
DE 防御側ユニットを除去します。
9.5 退却　退却させられたユニットは直ちに1ヘクス移動す
る。EZOC、移動できない地形へは進入できない。退却でき
ないユニットは除去される。
9.5.1　退却は、ユニットわ受け持つプレイヤー自身が行
います。
9.5.2　退却は可能な限り自軍ユニットがいないヘクスに
行います。他に退却できるヘクスがない時に限り自軍ユ
ニットと同じヘクスに退却できます。しかしそこで退却を
終えることはできず、他のユニットがいないヘクスまで退
却しなければなりません。
9.5.3　EZOC であっても自軍ユニットがいれば、そこを
通過して退却できます。
R3 このシミュゲがすごい！
PHILIPPINES CAMPAIGN
9.5.4　「AO」により退却が発生した時は防御側ユニット
を退却させてから攻撃側ユニット 1 個を除去します。
9.6 戦闘後前進　戦闘の結果防御側ユニットがいなくなれ
ば、攻撃側ユニットはそのヘクスに進入できる。この時は
EZOCを無視する。
9.6.1　防御側は戦闘後前進できません。
9.7 疲労　日本軍ユニットは除去される前に疲労マーカー
が置かれる。疲労マーカーが置かれたユニットが除去の結
果を受けた時は除去しなければならない。
9.7.1　つまり日本軍ユニットを除去するには 2 回の「除
去」結果を適用する必要があるわけです。
9.7.2　自軍プレイヤー・ターン中、移動も戦闘もしなかっ
た日本軍ユニットから疲労マーカーを取り除くことができ
ます。EZOC にいてもこの回復は可能です。
9.8 混乱　戦闘結果により混乱させられた防御側ユニットは
裏返し、
自軍プレイヤー・ターン中に一切の作戦を行えないこ
とを示す。
9.8.1　混乱状態のユニットは ZOC を持ちません。
9.8.2　自軍回復フェイズに混乱状態の全ての自軍ユニッ
トは回復します。EZOC にいても回復します。
9.8.3　疲労からの回復と混乱からの回復は別物です。混
乱から回復したからと言って、自動的に疲労からも回復す
るわけではありません。
9.9 除去　戦闘結果により除去されたユニットはゲームから
取り除かれる。
9.9.1　戦闘結果「BB」により複数の攻撃側ユニットか
ら 1 個を選んでユニットを除去する時、攻撃側がどのユ
ニットを除去するかを選びます。
デザイン・ノート
　堀場氏がコマンドマガジン誌上で連載されている「日本
の戦歴 2」は、必ず戦史紹介の後で「ゲーム化にあたって」
2012 年版
Race for Manila, 1941-42
【プレイの例】
　左図はある日本軍プレイヤー・ターン開始時を示していま
す。日本軍プレイヤーは戦闘フェイズを先に行うことに決めま
した。菅野支隊と 20 連隊が米 45 大隊を攻撃します。戦闘
力差は（5+2）-（1+1）=+5。ダイスの目は「5」でしたが、
修正されて「6」。戦闘結果は「BB」になります。45 大隊
は除去され、菅野大隊に疲労マーカーが置かれます。20 連
隊がヘクス 1209 に戦闘後前進しました。田中支隊も比 11
師団を攻撃。戦闘力差は +1 でダイスの目は「2」、修正され
て「3」となり、結果は「AO」です。田中支隊は疲労状態
になる代わりに 11 師団は混乱状態となってヘクス 1410 に
退却します。田中支隊はヘクス 1409 に戦闘後前進します。
　続いて日本軍移動フェイズ。20 連隊はヘクス 1209 か
ら 1309 へ移動しました（浸透移動）。田中支隊はヘクス
1409 から 1509 へ移動しましたが、11 師団は ZOC を失っ
ているため、これは浸透移動にはなりません。
の項があり、堀場氏がゲームをデザインするのであればこ
んなコンセプトで行うという旨が綴られています。せっか
くアイディアを提供してくれているのだから、これを形に
しない手はないと、常々感じておりました。本作は連載第
3 回「フィリピン攻略戦」をゲーム化したものです。
　戦役全体で見ると、フィリピン戦はワンサイドな展開で
あり、ゲームにするのは適切とは言えません。そこに「戦
略チット」を加えて勝利条件の読み合いをさせることで、
史実で見られた日本軍が戦略的判断ミスを起こす可能性を
盛り込み、ゲームとして成立させようというわけです。さ
らに堀場氏は、両軍に前進／戦線保持の制約を課し、それ
にイベントという偶発的事象を絡めてみてはどうかと提案
しています。これについてはルールが重くなるため、本作
では飛行場支配による VP で簡素に表現してみました。
　戦略チットによる勝利条件の変化は、獲得できる VP の
源泉の違いとして表しています。
　ミニゲームとして制作しましたが、ハーフまたはフルサ
イズのゲームでつくるとすれば、リンガエン湾からマニラ
までの範囲で区切って、大隊〜連隊規模にすべきでしょ
う。もっとも、今回の企画は（原則として）
「日本の軍歴 2」
に掲載された戦闘序列と戦況図だけでゲームをつくるとい
う制約で始めたのですが。
　また『このシミュ』が発刊されるようなことがあれば、
引き続き「日本の戦歴」をベースにしたウォーゲームを付
録でつけたいものです。
クレジット：
ゲーム・デザイン：中黒 靖
テスト・プレイ：高原武志、辰巳潤一郎
参考資料：日本の軍歴 2（第 3 回フィリピン攻略戦）
　　　　　戦史叢書『比島攻略作戦』『蘭印攻略作戦』
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