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フィールドワーカーの

Field + 2013 01 no. 9


佐藤剛裕
さとう ごうゆう
明治大学野生の科学研究所研究員

フィールドプラス
筆者愛用のカメラと携帯用複写台、一脚になる登山杖。

 私は、チベットやヒマラヤの高山  調査をする上では、カメラを使っ り観察しておいて、夜になって密か


地帯に伝わっているチュウという密 て儀礼の映像を記録したり文献を複 にフィールドノートに書き留めること
教儀礼について研究しています。こ 製したりする必要が出てきます。し もたびたびです。
の儀礼は、チベットに仏教が浸透し かし、ヒマラヤの高山地帯の村落の  そういう場所に足を踏み入れるの
はじめた時代に、村の祭祀を行なっ 人々、とくにご高齢の宗教者たちの ですから、あまり大袈裟な撮影機材
ていた宗教者たちがそれまで行なっ 間には、レンズを向けると必ず目線 を持っていくのは憚られるので、私
ていた動物霊への返礼としての供犠 を逸らすほど写真に対する警戒心が は三脚ではなく一脚としても使える
を仏教の考え方におきかえて作り上 未だに残っています。そんな写真を タイプの登山用の杖を持ち歩いてい
げたものです。この儀礼について詳 撮ってどうするのだ? 外側にある ます。
一脚は、
お寺の壁画をフラッシュ
しく知るために、ネパール国内のドル ものは写っても、一番大切なものは を焚かずに撮影する時などに威力を
ポやムスタンなどの村落でこの伝統 写らないだろう? 写真などを頼り 発揮しますし、取り付けたカメラを高
を守っている宗教者たちを訪ね、弟 にしないで、自分で手を動かして体 く持ち上げて撮影するとクレーンを

(本体 476 円 + 税)
定価 500 円
子となって儀式や瞑想法を習ったり、 で覚えろ! と言われてしまうので 使ったような面白い効果が得られま
古い手書き写本を集めて復刻出版し す。儀礼の様子を写真に収めて、論 す。ある村で密教舞踊を記録するこ
たりというように、参与観察と文献 文や記事に載せようという下心など とになった時は、地面に掘った穴に
調査を並行したフィールドワークを は完全に見透かされているのです。 一脚を突き刺して重りの石で固定し
進めています。 撮りたい気持ちをぐっと抑えてしっか て撮影しました。ときどき強風に煽ら
れて揺れてしまったのはご愛嬌です。
 沢山の文献を手際よく複写するた
廃虚となったかつての瞑想修行
場シャンディン寺の本堂内部。 めには、どうしても複写台が欲しくな

[発売]
電話 042-330-5559 FAX 042-330-5199
東京外国語大学出版会
ります。山歩きでも持ち運べるような
手軽なものを探していたところ、写真
密教行者が住んでいた部屋に経
を業としている知人が丁度よいもの
典が無造作に残されていた。
を紹介してくれました。レンズのフィ
ルターネジ部分に金属枠をはめて、
そこに 4 本の脚をねじ込み、被写体
をまたいで撮影する珍しいタイプの
ものです。これを使って、数百ペー
ジに及ぶ本を何巻も撮影しました。
 ですが、ある時などは、ほとんど
手ぶらで訪れたラマの家に探してい
[発行]
〒 183-8534  東京都府中市朝日町 3-11-1 電話 042-330-5600 FAX 042-330-5610
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

た写本があることが分かり、急きょ
撮影させてもらえた事がありました。
結局、手ブレしないように一生懸命
に脇を固くしめて撮影して帰ってきた
のでした。
 なるべく持ち歩かない。その場に
あるものでなんとかする。そして、
どうにもならなかったときは諦める。
フィールドワークの装備については、
携帯用複写台を使って撮影し
共同研究者として調査に協力 たチュウの手書き写本。トヨ そのくらい潔い気持ちでいるのがい
してくれたカルマ・ドゥンジョ タ財団の助成によって復刻出
ムさん(右)と筆者(左)。 版することができた。 いのかもしれません。

34 Field+ 2011 01 no.5

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