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【解説】

単孔類,有袋類ミルクオリゴ糖の
日本農芸化学会

種特異的進化と生存戦略
浦島 匡

化学と生物 

単 孔 類(カ モ ノ ハ シ, ハ リ モ グ ラ) や 有 袋 類(カ ン ガ ル ー, (β1-4)Glc)であるという先入観は,多くの哺乳動物の


ポ ッ サ ム, コ ア ラ な ど) の 乳 で は, 多 く の 有 胎 盤 類(ヒ ト, 乳の糖質を分析した事例によって覆りつつある (1∼9).確
ウシなど)とは異なり,ミルクオリゴ糖の方がラクトースよ
かに,牛乳の中の糖質は専らラクトースであると断言で
りも優先的である.有胎盤類の乳仔がラクトースを主要なエ
きるほど,ラクトース以外の糖質の量は少ない (9, 10).一
ネルギー源としているのに対し,単孔類や有袋類の乳仔はミ
ルクオリゴ糖をピノサートーシスかエンドサイトーシスで小 方で人乳を観察してみると,7%の糖質のうちの 80%を
腸細胞内に取り込み,リソソーム内のグリコシダーゼの働き ラクトースが,そして残りの 20%を 240 種類にも数えら
で単糖に分解し,エネルギー源とする.単孔類のシアル酸含 れるミルクオリゴ糖が占めている (11).ミルクオリゴ糖
有ミルクオリゴ糖に付加する -ア セ チ ル ノ イ ラ ミ ン 酸 は, の大半はラクトース骨格を還元末端側に有し,それに
4 位 が -ア セ チ ル 化 し た 固 有 の 形 を し て い る が , そ の こ と で
-アセチルグルコサミン,ガラクトース,フコース,
細菌の生産するノイラミニダーゼへの加水分解抵抗性を付与
-アセチルノイラミン酸などの単糖が付加した構造を
する.それには乳首がなくて皮膚の上に乳を分泌する単孔類
において,乳が細菌の増殖源にならないメカニズムが潜んで している (1∼9).ヒトを含む哺乳動物の乳仔が母乳を摂取
いる.単孔類や有袋類の固有のミルクオリゴ糖には,それら した際,母乳の中のラクトースは小腸上皮微絨毛膜に存
の繁殖戦略や子育て戦略との密接なかかわりがある. 在するラクターゼの働きによって,グルコースとガラク
トースに分解される (6∼8, 12).グルコースは吸収されて循
はじめに 環に入り,ガラクトースは肝臓でグルコースに変換され
てから循環する.つまりラクトースは多くの哺乳動物の
乳 に 含 ま れ る 糖 質 は 専 ら ラ ク ト ー ス(乳 糖,Gal 乳仔にとっては重要な栄養源になっている.一方でミル
クオリゴ糖はたとえばヒトの乳児の場合,大半は小腸で
Species Specific Evolution of Milk Oligosaccharides in 分解・吸収されないで大腸に到達し,
(1)ビフィズス菌
Monotremes and Marsupials: Relationship to Their Reproductive
Strategy
などの有用な腸内細菌の栄養源となってその増殖を促進
Tadasu URASHIMA, 帯広畜産大学大学院畜産学研究科 する,
(2)病原性微生物が腸管内に付着するのを防ぐな

化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016 159


どの機能的役割を果たしている (1∼9). パク質の一種である α-ラクトアルブミンと β4-ガラクト
クマやアザラシ,ミンクなどの一部の例外を除き多く シルトランスフェラーゼ I の共同作用によって,遊離の
の有胎盤類(胎盤をもち,妊娠期間が長くて胎盤の中で グルコースをアクセプター,UDP-ガラクトースをド
仔を育てる哺乳類)の乳では主要な糖質はラクトースで ナーとして行われる.β4-ガラクトシルトランスフェ
あるが,有胎盤類とは異なる固有の進化をたどった単孔 ラーゼ I は乳腺以外の組織でも発現し,乳腺以外では複
類や有袋類では,乳の中のラクトースの量は少なく,ミ 合糖質の末端の -アセチルグルコサミンに対してガラ
(1∼4, 7, 8)
ルクオリゴ糖の方が圧倒的に多い .またミルク ク ト ー ス を 転 移 し, -ア セ チ ル ラ ク ト サ ミ ン(Gal
(1∼4, 7, 8)
オリゴ糖の化学構造も固有の特徴を有している . (β1-4)
GlcNAc)単位の合成を触媒している.乳腺での
それは,哺乳類の共通祖先からの乳成分の進化と種の生 α-ラクトアルブミンの働きは,β4-ガラクトシルトラン
存戦略によって形成されたと考えられる.この解説の中 スフェラーゼ I の基質特異性を糖鎖末端の -アセチルグ
では,乳の糖質の生理的意義と進化を特に単孔類と有袋 ルコサミンから遊離のグルコースに変換する modifier で
類にフォーカスしながら,化学構造と絡めて考察してみ ある (17).α-ラクトアルブミンは,細菌の細胞壁を破壊し
たい. て殺菌作用を司る酵素リゾチームと一次構造や三次構造
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が類似している (18).α-ラクトアルブミンは哺乳類の乳腺
のみに発現する“新しい”タンパク質であるから,哺乳
乳腺の進化とミルク糖質の発生
類以外に魚類や昆虫にも発現している“古い”タンパク
現存の哺乳類はキノドン類を共通祖先として進化をと 質であるリゾチームからの遺伝子変異によって獲得され
げ,祖先の原獣類よりまず約 1 億 9000 万年前に単孔類 たことは疑いない.α-ラクトアルブミンの出現によっ
が,ついで約 1 億 6000 万年前に有袋類と有胎盤類が相互 て,乳腺の中でラクトース単位の合成が開始された.
に分化したと推測されている (13, 14).現存する単孔類は 一方,ミルクオリゴ糖は還元末端にラクトース単位を

ハリモグラとカモノハシの 2 種であり,それは卵生で 有しており,乳腺の中で生合成されたラクトースに対し


あって乳首をもたず,乳は乳嚢と言われる 2 つの皮膚領 て各種の糖転移酵素が作用することで生合成される.つ
域の小孔から皮膚の上に分泌される.これは哺乳類祖先 まり α-ラクトアルブミンの出現はミルクオリゴ糖の生合
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から受け継いだ特徴であろう.乳を分泌する乳腺細胞の 成をも開始させた.α-ラクトアルブミンの出現は,約 3
集合体である乳腺は,アポクリン腺から進化したと予想 億 1000 万年前という推定もある (19).その当時哺乳類は
される (12, 15).それは細胞内で合成された脂肪球が,乳 おろか恐竜さえも出現しておらず,祖先に乳腺様の組織
腺とアポクリン腺では共通して細胞外へと分泌される際 も存在しなかったであろう.特殊な皮膚腺から何かの成
に細胞の頂上細胞膜を突き破り,細胞膜に由来する脂肪 分が分泌されていたのであろうか.
球膜に包まれるような形で分泌される(アポクリン分泌 α-ラクトアルブミンの偶然の出現によってラクトース
と命名される)事実に基づいている.本来水と油は交わ 単位の生合成は開始されるようになった.一方でスフィ
らないものの代名詞のように言われるが,乳の中では水 ンゴ糖脂質の還元末端側にラクトース単位が含まれるよ
と油が混じり合っているのは脂肪の粒子の周りを取り囲 うに,ラクトース単位は細胞内ゴルジ体で各種の糖転移
むこのような脂肪球膜の存在のためである.乳タンパク 酵素のアクセプターになりうる.α-ラクトアルブミンの
質は乳腺細胞の中で合成される成分(カゼイン,α-ラク 発現量が低くてラクトースの生合成速度が遅い場合は,
トアルブミン,β-ラクトグロブリンなど)と血液タンパ 生合成された遊離のラクトースは主に糖転移酵素のアク
ク質に由来する成分(免疫グロブリン,血清アルブミン セプターとして利用されていたであろう.哺乳類の共通
など)があるが,乳腺の進化の中で一部の血液成分を乳 祖先で乳様の分泌物が原始的な乳腺または乳腺の先祖腺
腺細胞へと取り込む機構とともに,ほかの祖先タンパク において分泌されていた段階では,その分泌物の中にラ
質から乳腺特異的発現タンパク質への遺伝子の変異が クトースは少なくてミルクオリゴ糖のほうがはるかに優
あったであろうと予想される.たとえばカゼインは歯の 先的であったと予想される (2, 7, 8).それは卵生や乳首の
エナメル芽関連タンパク質を先祖成分とすると推定され ない乳腺からの乳分泌など,哺乳類祖先の特徴を今日で
ている (16).そのような仮説は,歯のエナメルタンパク も残している単孔類の乳において,ラクトースよりもミ
質とカゼインがどちらもカルシウムの運搬機能を担って ルクオリゴ糖のほうが圧倒的に多い事実からも推測され
いるという事実に基づく. る.今日有胎盤類の乳においては主要な糖質はラクトー
泌乳期乳腺においてラクトースの合成は,ホエータン スであり,ラクトースは乳仔にとって重要な栄養源であ

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る.それは有胎盤類において α-ラクトアルブミンの発現 )はオーストラリア,ニューギニアに,長く
量が増加し,ラクトースの合成速度が速くなってその合 ちばしハリモグラ( )はニューギニア
成がミルクオリゴ糖生合成の律速段階ではなくなったこ のみに棲息する(オーストラリアでは 2 万年前に絶滅し
と,また乳仔の小腸上皮にラクターゼが出現して,ラク た)
.前述のように単孔類の乳腺は乳首をもたず,乳は
トースをグルコースとガラクトースに小腸細胞頂端膜 乳嚢といわれる 2 つの皮膚領域内の約 100 の散らばった
(刷子縁)上で加水分解できるようになってから初めて 孔から分泌される.
(2, 7, 8)
可能になった .では初期乳様分泌物において,優 カモノハシとハリモグラミルクオリゴ糖の研究は,
先的なミルクオリゴ糖はどのような生理機能を果たして 1973 年に Messer と Kerry によって開始された (20).図 1
いたのであろうか.人乳などでは構造的に分散したミル はハリモグラ(カンガルー島ならびにオーストラリア・
クオリゴ糖は一定の濃度で存在し,デコイレセプターと
して乳仔の腸管に病原性細菌が付着するのを阻止すると
いう観察結果が多く報告されている (4, 6, 9).哺乳類共通
祖先の原始的乳腺によって皮膚上に分泌された乳様分泌
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物は,皮膚の上に細菌などが増殖する栄養源とならな
い,病原性微生物が皮膚の上に付着するのを阻止する,
皮膚の上をなめるように分泌物を摂取した仔に対して感
染防御能を果たす,などの機能を有していたのではない
か (2, 7, 8).それは単孔類の乳に含まれるミルクオリゴ糖
の観察に基づいて推測された.

単孔類ミルクオリゴ糖

現存する単孔類はカモノハシとハリモグラの 2 種であ
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り,ハリモグラはさらに長くちばしハリモグラと短くち
ばしハリモグラの 2 種に分類される.カモノハシ( 図 1 ■ ハ リ モ グ ラ と カ モ ノ ハ シ の 乳 の 糖 質 画 分 の Sephadex
)はオーストラリア大陸の東側, G-15 カラムによるゲルろ過プロファイル

クイーンズランド北部からタスマニアにかけての川や湖 各フラクションのアリコートはヘキソース,フコース,シアル酸
に対して測定された. e は溶出容量, o はボイドボリュームを示
に棲息している.短くちばしハリモグラ( す.図は文献(20)より引用した.

図 2 ■ 従来(文献(21∼24))構造決定されて
いたハリモグラとカモノハシのミルクオリ
ゴ糖

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ニューサウスウェールズ州で捕獲されたハリモグラから 博士が取り付けた GPS 発信器の信号を頼りに探し,巣
採 乳 し た) と カ モ ノ ハ シ の 乳 か ら 抽 出 し た 糖 質 の の地中から掘り起こして捕獲した.図 3 は GPS を頼りに
Sephadex G-15 カラムによるゲルクロマトグラムであ 泌乳個体を探しているところ,図 4 は捕獲した個体への
る.いずれの乳でもラクトースはごく少量しか含まれず オキシトシン静脈注入後に皮膚上の乳嚢から採乳してい
(最後に溶出した小さなピークがラクトース)
,ミルクオ るところである.ハリモグラは,乳首をもたない乳腺か
リゴ糖のほうが圧倒的に多い.ハリモグラではフコシル ら泌乳することが理解されるであろう.この際のフィー
ラクトースとシアリルラクトースが,カモノハシ乳では ルド調査によって回収されたものも含め,乳試料は,仔
ジフコシルラクトースが主要な糖質であった.ハリモグ の孵化後 39 日の初期乳,約 90 日の中期乳,約 150 日の
ラのミルクオリゴ糖は引き続いて,Messer(21),Kamerling 後期乳が採集された.
(22) (23)
ら ,Jenkinsら に よ っ てFuc
(α1-2)
Gal
(β1-4)
Glc, Fuc 初期乳,中期乳,ならびに後期乳から抽出された糖質
( α1-2)Gal( β1-4)
[Fuc
(α1-3)]
Glc, Neu4,5Ac2( α2-3)Gal 画分は,超高速液体クロマトグラフィーと連結した三重
(β1-4)
Glc
(4- -アセチル-3′-シアリルラクトース)が同定 極質量分析(UPLC-MS)によって分析した.一方,後
された.一方,カモノハシの中性オリゴ糖は,Jenkins 期乳から抽出した糖質画分は,BioGel P-2 によるゲルろ
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(23) (24)
ら ,ならびに Amano ら によって図 2 のように決定 過,グラファイトカーボンカラムを用いた中性オリゴ糖
された. の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分離・
筆者は 2012 年 9 月にタスマニア島の州都ホバートの北 精製,ならびにプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-
方 50 km の フ ィ ー ル ド に お い て, タ ス マ ニ ア 大 学 の NMR)測定によって構造決定した (25).初期乳,中期乳
Stewart Nicol 博士とともにハリモグラ・タスマニア亜 には圧倒的に優先的なオリゴ糖として 4-O-アセチル-3 ′-
種の捕獲と乳試料採集を行った.泌乳中の個体は Nicol シアリルラクトースが,後期乳ではそれとともに Gal
( α1-3)
[Fuc
(α1-2)]Gal( β1-4)
[Fuc
(α1-3)
]Glc( Bペンタ

サッカ ラ イ ド)と Gal(α1-3)


[Fuc(α1-2)]Gal(β1-4)Glc
(B
テトラサッカイライド)が含まれていた.同時にマイ
ナー成分として Fuc(α1-2)Gal(β1-4)Glc(2 ′ フコシルラク
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トース)
,Fuc(α1-2)Gal(β1-4)
[Fuc(α1-3)]Glc(ジフコシ
ルラクトース),Gal( β1-4)
[Fuc(α1-3)
]GlcNAc( β1-3)
Gal(β1-4)Glc(ラクト-N-フコペンタオース III, LNFP-III)
が後期乳に,Neu4,5Ac2(α2-3)Gal(β1-4)
[Fuc(α1-3)]Glc
が初期乳,中期乳,後期乳に発見された.初期乳,中期
乳 に は Neu5Ac(α2-3)Gal(β(1-4)Glc(3 ′-シ ア リ ル ラ ク
トース)
,ジ-O-アセチル-3′-シアリルラクトースと 4-O-ア
図 3 ■ 2012 年 9 月タスマニアでのハリモグラフィールド調査 セチル-3′-シアリルラクトース硫酸が発見された.
GPS 発信器を取り付けたハリモグラを探しているところ.写真は ここで注目されるのは初期乳で圧倒的に優先的な 4-O-
タスマニア大学の Stewart Nicol 博士. アセチル-3 ′-シアリルラクトースである.単孔類の特に
初期乳は,哺乳類祖先の原始的な乳の特徴を残している
と予想されるので,哺乳類祖先の乳の糖質はラクトース
ではなくこのようなオリゴ糖を優先的に含んでいたと推
測される.N-アセチルノイラミン酸への 4-O-アセチル基
の付加の意義については,後に考察する.以前の Mess-
er らの研究において,カンガルー島ならびにオースト
ラリア大陸のハリモグラの乳で 2′フコシルラクトースが
優先的な糖質であり,B ペンタサッカイライドや B テト
ラサッカライドは発見されなかった (20∼23).この違いは,
ハリモグラの亜種どうしでのミルクオリゴ糖の不均一性
を示している.ミルクオリゴ糖の非還元末端単位として
図 4 ■ タスマニアハリモグラから採乳しているところ B 抗原
(Gal
(α1-3)
[Fuc
(α1-2)
]Gal)
,A 抗原
(GalNAc
(α1-3)

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[Fuc
(α1-2)
]Gal)ま た H 抗 原(Fuc
(α1-2)Gal) の 存 在 と ラクトースであるが,微量ながらラクト-N-ネオテトラ
不在による不均一性は,近縁種のクマのミルクオリゴ糖 オ ー ス(Gal(β1-4)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)Glc) を コ ア
においても発見されている.ツキノワグマでは B 抗原を 骨格とする LNFP-III が発見されたことも注目される.
(26)
含むミルクオリゴ糖が ,ホッキョクグマでは A 抗原 カ モ ノ ハ シ ミ ル ク オ リ ゴ 糖 に 対 し て は,1984 年 に
(27)
また B 抗原を含むミルクオリゴ糖が ,エゾヒグマで 中性ミルクオリゴ糖の化学構造が Amano らによって
は H 抗原を含むオリゴ糖が (28) 発見されている.タスマ 報告 (24) されて以降研究報告はなかったが,最近筆者ら
ニアハリモグラの泌乳期乳腺では H 抗原を B 抗原に変換 が酸性オリゴ糖の化学構造を解析した (29).カモノハシ
する α3 ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が存在す 乳から抽出した糖質画分を BioGel P-2 カラムによるゲル
るのに対し,オーストラリア大陸やカンガルー島のハリ ろ過に供して,早く溶出したシアル酸を含む画分を,
モグラの乳腺ではこの酵素の活性が失われた可能性があ Amide-80 カラムを使用した順相系の HPLC に供して各
る.また大半のハリモグラミルクオリゴ糖のコア骨格は オリゴ糖の分離・精製を行った.分離された各ピークに
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図 5 ■ 構造決定されたカモノハシ酸性ミルクオリゴ
糖(文献(29) )

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含まれるオリゴ糖は,1H-NMR とマトリックス支援レー ガラクトースだけであり,栄養効率は高くないであろ
ザー脱離イオン化質量分析(MALDI TOFMS)に供し う.ミルクオリゴ糖は母体の乳腺付近でも,授乳した乳
て構造決定した.決定された酸性オリゴ糖の構造は図 5 仔の腸管内でも感染防御因子として機能することが予想
に示した.オリゴ糖はラクトース,ラクト-N-ネオテト さ れ る. の 実 験 で 3 ′-シ ア リ ル ラ ク ト ー ス は,
ラオース,またラクト-N-ネオヘキサオース(Gal
(β1-4) や P1422 株の HT-29 細胞へ
GlcNAc(β1-3)
[Gal
(β1-4)GlcNAc
(β1-6)]Gal(β1-4)Glc) の侵入やロタウィルスの MA-104 細胞への感染を阻害す
を コ ア 骨 格 と し, ル イ ス x
(Gal
(β1-4)
[Fuc
(α1-3)
] ることが観察されているので (33∼35),単孔類の母体皮膚
GlcNAc)
, ル イ スy
(Fuc
(α1-2)
Gal
(β1-4)
[Fuc
(α1-3)] や乳仔腸管でも病原性細菌やウィルスへの感染防御を果
GlcNAc),シアリルルイス (Neu4,5Ac2
(α2-3)
Gal
(β1-4) たしていることが想像できる.
[Fuc
(α1-3)
]GlcNAc)などの構造単位を有していた.こ 以上のような構造解析によって,ハリモグラにはラク
れらのコア骨格やルイス ,ルイス 単位は中性ミルク トースやラクト-N-ネオテトラオースをコア骨格とする
オリゴ糖にも発見されているので,酸性オリゴ糖は基本 ミルクオリゴ糖が,カモノハシにはラクトース,ラク
的に中性オリゴ糖と同じ構造単位をもちシアル酸が付加 ト-N-ネオテトラオース,ラクト-N-テトラオース,ラク
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したような構造であった.また,シアル酸を含むオリゴ ト-N-ネオヘキサオースをコア骨格とするミルクオリゴ
糖の大半が,4-O-アセチル化した N-アセチルノイラミン 糖が発見された.ラクトースコア以外のこれらのコア骨
酸(Neu4,5Ac2)を含んでいた. 格をもつオリゴ糖は,ヒトなどの有胎盤類でも発見され
ミルクオリゴ糖における O-アセチル化 N-アセチルノ ているが,有袋類には見つかっていない (2, 7, 8).これら
イラミン酸の存在は,ウシオリゴ糖の微量成分に示され の共通のコア骨格オリゴ糖が単孔類と有胎盤類で発見さ
(30)
ている(完全構造は決定されていない) が,シアリル れたという事実は,それらが共通祖先哺乳類の乳様分泌
オリゴ糖の大半が Neu4,5Ac2 を含むのは単孔類の固有 物にすでに存在していた可能性を示唆している.

の特徴である.4-O-アセチルシアル酸を含むシアリルラ
クトースは,細菌が生産するシアリダーゼに対して加水
有袋類のミルクオリゴ糖
分解抵抗性を有している (31).単孔類は前述のように乳
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首のない乳腺で,皮膚の上に乳を分泌する.それに細菌 現 存 す る 有 袋 類 は 約 250 種 類 で あ り, 南 ア メ リ カ,
が増殖しては母体にとっても仔にとっても不都合であ オーストラリア,ニューギニアに棲息する.妊娠期間が
る.シアル酸への O-アセチル基の付加は,ミルクオリ 20 日前後と短く 200 mg 未満の未熟な新生仔を出産し,
ゴ糖が細菌増殖のための栄養源とならないような機能を 乳仔は授乳の一定期間を育仔嚢の中で発育する.有袋類
付与するものと予想される.一方で有袋類や有胎盤類で の一種カンガルーの袋の中には 4 つの乳首が存在する
の乳首の存在は,それ自体が感染防御に対してある程度 が,そのうちの一つに仔が吸い付き,仔の付着した乳首
有効であり,シアル酸の O-アセチル化の必要性が失わ のみで泌乳が開始される,泌乳期の経過とともに乳首の
れたのではないかと考えられる. サイズは増加する.それはある泌乳時期に 2 つの異なる
Stewart らは,ハリモグラやラットの乳仔の腸粘膜の 乳首から異なる組成の乳を分泌するが,一方の小さな乳
ホモゲネートとともに 4-O-アセチルシアリルラクトース 首から分泌される新生仔用の乳でも,他方の大きな乳首
(32)
をインキュベートした .ハリモグラのホモゲネート から分泌され,乳仔が袋の外側から授乳する乳でも,ラ
では中間分解産物としてシアリルラクトースが,最終分 クトースはマイナーな成分にすぎない.有袋類の乳の糖
解産物として,ラクトース,シアル酸,グルコース,ガ 質分析は,従来薄層クロマトグラフィーによってアカク
ラクトースが生成したが,ラットでは加水分解生成物が ビワラビー (36),イースタンクオール(フクロネコ)
(37)
,ブ
(32)
えられたかった .このことはハリモグラの乳仔が, ラッシュテイルポッサム (38),リングタイルポッサム (39),
主要糖質の 4-O-アセチルシアリルラクトースを小腸内で コアラ (40) およびグレーショートテイルオポッサム (41) な
分解できることを示している.ハリモグラ乳仔はおそら どに対して行われた.一方でミルクオリゴ糖の構造解析
くピノサイトーシスのような単純な輸送方式で小腸細胞 は,従来の Messer らによるタマーワラビー以外に,近
内にそれを取り込み,リソソームで加水分解して栄養源 年筆者らによってアカカンガルー,コアラ,ブラッシュ
として利用していることが予想される.カモノハシでも テイルポッサム,イースタンクオールに対して行われ
同様であると考えられるが,ミルクオリゴ糖を構成する た.
単糖の中で栄養源として利用できるのは,グルコースと タマーワラビーの中性オリゴ糖の構造解析は,1980 年

164 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016


の Messer ら (42) の研究によって開始され,Collinsら (43), アカカンガルーの酸性ミルクオリゴ糖は Anrakuら (46),
(44) (45)
Messer ら ,Bradbury ら の研究が続いた.この一 コアラ,ブラッシュテイルポッサム,イースタンクオー
連の研究によって,主要オリゴ糖系列として Gal
(β1-3) ル の ミ ル ク オ リ ゴ 糖 は そ れ ぞ れ Urashima ら (47∼49) に
(42)
Gal
(β1-4)
Glc(3 ′-ガ ラ ク ト シ ル ラクトース) ,Gal よって構造決定された.図 6 に泌乳中期のブラッシュテ
(43)
(β1-3)
Gal(β1-3)
Gal(β1-4)Glc ,Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal イルポッサム乳より抽出された糖質画分の BioGel P-2 に
(β1-3) Glc(43),Gal(β1-3)
Gal(β1-4) Gal(β1-3)Gal(β1-3)Gal よるゲルクロマトグラムを示した (48).BP-6 はラクトー
(β1-3)
Gal Glc(43) が,マイナーオリゴ糖系列として
(β1-4) スであるが,ラクトースは少量でラクトースよりも前に
Gal
(β1-3)
[GlcNAc
(β1-6)]Gal
(β1-4)Glc(ラ ク ト-N-ノ ボ 溶出するミルクオリゴ糖の方が優先的である.分離され
(44)
テ ト ラ オ ー ス) ,Gal
(β1-3)
[Gal
(β1-4)GlcNAc
(β1-6)] た中性オリゴ糖ピークのうち複数のオリゴ糖を含む画分
(45)
Gal
(β1-4)
Glc(ラ ク ト-N-ノ ボ ペ ン タ オ ー ス I) ,Gal はグラファイトカーボンカラムによる HPLC によって,
(β1-3)
Gal(β1-3)
[Gal
(β1-4)GlcNAc
(β1-6)]Gal(β1-4)Glc 酸性オリゴ糖は Amide-80 カラムによる順相系 HPLC に
(45)
(ガラクトシルラクト-N-ノボペンタオース I) が決定さ よ っ て 各 オ リ ゴ 糖 の 分 離・ 精 製 を 行 い,1H-NMR と
れた. MALDI TOFMS に供して構造決定された (48).構造決定
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されたブラッシュテイルポッサム中性ミルクオリゴ糖は

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図 6 ■ ブラッシュテイルポッサム乳より抽出した糖質画分の
BioGel P-2 カラムのよるゲルろ過プロファイル
各フラクションのアリコートは,490 nm でのフェノール硫酸法で
ヘキソースを,630 nm での過ヨー素酸レゾルシノール法でシアル 図 7 ■ 構造決定されたブラッシュテイルポッサムの中性ミルク
酸のモニターを行った.図は文献(48)より引用した オリゴ糖(文献(48) )

図8 ■ 構造決定されたブラッシュテイル
ポッサムの酸性ミルクオリゴ糖(文献(48))

化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016 165


図 7 に,酸性ミルクオリゴ糖は図 8 に示した.ブラッ かもしれない.一方,アカカンガルーの酸性ミルクオリ
シュテイルポッサムの中性ミルクオリゴ糖の構造と組成 ゴ糖は,ブラッシュテイルポッサムの酸性ミルクオリゴ
は,タマーワラビーの中性ミルクオリゴ糖と非常に近 糖と構造と組成が極めて類似していた (46).
い. 新 規 化 合 物 と し て Gal
(β1-3)
[Gal
(β1-4)GlcNAc イースタンクオールのミルクオリゴ糖に対しては,同
(β1-6)
]Gal
(β1-3)Gal
(β1-4)Glc(ガラクトシルラクト-N- 様の方法によって中性ならびに酸性オリゴ糖の分離・精
ノボペンタオース II)が発見されたが,これはタマーワ 製,および構造解析が行われた (49)(図 9 はイースタンク
ラビーのミルクオリゴ糖の未同定の画分の中にも含まれ オール).決定された化学構造は図 10 に示した.新規オ
ていると予想される.酸性オリゴ糖は中性オリゴ糖と同 リゴ糖として 2 単位の分枝型 N-アセチルラクトサミンを
様のコア骨格に対して,N-アセチルノイラミン酸また非 含 む G a(
l β1-3)
[Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]G a(
l β1-3)
[Gal
還元末端ガラクトースの 3 位に硫酸基が付加している. (β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ラ ク ト-N-ノ ボ オ ク
オリゴ糖の直鎖部分の末端ガラクトースには,Neu5Ac タオース)とそのシアリル誘導体,ならびに Gal(β1-3)
がα
(2-3)結合のみで結合していることが注目される. [Gal(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1-6)]Gal(β1-4)Glc(ラク
また,高度に硫酸基が付加していることも特徴的である ト-N-ノボペンタオース III)が発見されたが,これらは
日本農芸化学会

が,ブラッシュテイルポッサム乳仔の脳などの成長に ほかの有袋類種のミルクオリゴ糖の未同定画分の中にも
とって,ミルクオリゴ糖由来の硫酸基が利用されている 含まれている可能性がある.他種の有袋類乳の糖質画分
は,優先種として直鎖の β(1-3)ガラクトシルラクトース
シリーズ,一方マイナーシリーズとして GlcNAc を含む
分枝オリゴ糖を含んでいたが,イースタンクオール乳の
糖質画分では,ラクト-N-ノボペンタオース I やラクト-N-
ノボオクタオースなどの分枝型オリゴ糖のほうが優先的

であった.タマーワラビーの泌乳期乳腺にはミルクオリ
ゴ糖の生合成にかかわる酵素として,グルコースや N-
アセチルグルコサミンにガラクトースを転移する β4-ガ
化学と生物 

ラクトシルトランスフェラーゼ,ラクトースなどの非還
元末端にガラクトースを転移する β3-ガラクトシルトラ
図 9 ■ イースタンクオールの写真(Jim Merchant 博士より提
供された) ンスフェラーゼ,および 3 ′-ガラクトシルラクトースな

図 10 ■ 構造決定されたイースタンクオー
ルのミルクオリゴ糖(文献(49) )

166 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016


図 11 ■ イースタンクオール中性ミルクオ
リゴ糖の予想される生合成経路
図は文献(49)より引用した.

どの非還元末端から 2 番目のガラクトースに N-アセチル セチルグルコサミニルトランスフェラーゼ,3′-ガラクト


日本農芸化学会

グルコサミンを転移する β6-N-アセチルグルコサミニル シルラクトースなどの非還元末端より 2 番目のガラク


(50, 51)
トランスフェラーゼの活性が発見されている .同 トース残基の 6 位に N-アセチルグルコサミンを転移する
様の酵素系がイースタンクオールの泌乳期乳腺にも存在 β6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのい
すると予想し,イースタンクオールの決定されたミルク ずれかの活性によって生合成される.これらの N-アセ
オリゴ糖の推定される生合成経路を図 11 に示した (49). チルグルコサミニルトランスフェラーゼは哺乳類共通祖
イースタンクオールとほかの有袋類種のミルクオリゴ糖 先においては共通に存在していたが,各々の哺乳類系統
のパターンの違いは,イースタンクオールにおいて への進化過程で一部が失われたと予想される (8).一方

β6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性 で,2 単位以上の β(1-3)ガラクトース残基が直鎖につな


が相対的に高いためであると予想された. がったミルクオリゴ糖は,有袋類でしか発見されていな
コアラの乳の糖質画分においては,ほかの有袋類種と い (8).これは β3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発
化学と生物 

同様のミルクオリゴ糖とともに,フコースを含む Gal 現量が,有袋類の泌乳期乳腺で著しく高まったことによ


(β1-3)
{Gal(β1-4)
[Fuc
(α1-3)]GlcNAc(β1-6)}Gal(β1-4) るものと考えられる (8).
G l c お よ び N e u 5 A c(α2-3)G a(
l β1-3){ G a(
l β1-4)
[Fuc 有胎盤類の乳仔では,母乳中のラクトースは小腸ラク
(α1-3)]
GlcNAc
(β1-6)}Gal
(β1-4)Glc が発見された (47).こ ターゼ(中性 β-ガラクトシダーゼ)活性によってグル
れまでに分析された有袋類種の中でフコースを含むミル コースとガラクトースに加水分解され,吸収される.一
クオリゴ糖が発見されたのはコアラだけであり,注目さ 方で中性および酸性 β-ガラクトシダーゼに対する特異的
れる. な組織化学実験によって,タマーワラビー乳仔小腸上皮
有袋類のミルクオリゴ糖のコア骨格には,単孔類や一 微絨毛膜にラクターゼ活性が欠損していることが示され
部の有胎盤類のミルクオリゴ糖に共通のコア骨格として た (52, 53).その一方で非常に強い酸性β-ガラクトシダーゼ
発見されるラクト-N-ネオテトラオースやラクト-N-ネオ 活性が,リソソームか超核液胞と予想される細胞内に存
ヘキサオースはなく,代わりにラクト-N-ノボペンタ 在している.酸性β-ガラクトシダーゼは,ラクトースしか
オース I をコア骨格とするオリゴ糖が発見された.後者 加水分解しない有胎盤類中性ラクターゼとは異なり,ラ
のタイプのミルクオリゴ糖は単孔類には見当たらない クトースもβ1-3ガラクトシドも切断する (52, 53).また,β-ガ
が,ウシ,ウマ,ヤギ,ヒツジ,ラクダ,ブタ,フサオ ラクトシダーゼのほかに,N-アセチルグルコサミニダー
マキザルなどの一部の有胎盤類では,ラクト-N-ノボペ ゼ,α-L-フコシダーゼ,ノイラミニダーゼなどの酸性グリ
ンタオース I 自身とそのシアリル誘導体が発見されてい コシダーゼ活性が,タマーワラビー小腸に検出された (53).
る (8).ラクト-N-ネオテトラオース,ラクト-N-ネオヘキ この結果,タマーワラビーのミルクオリゴ糖は小腸微絨
サオースまたラクト-N-ノボペンタオース I は,ラクトー 毛膜で加水分解されず,それらが消化されるためには,
スのガラクトース残基の 3 位に N-アセチルグルコサミン まずピノサイトーシスかエンドサイトーシスにより細胞内
を転移する β3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェ に取り込まれなければならないことを示している.おそ
ラ ー ゼ,GlcNAc
(β1-3)Gal
(β1-4)Glc の ガ ラ ク ト ー ス 残 らくこれらのオリゴ糖は,それからリソソームか超核液
基の 6 位に N-アセチルグルコサミンを転移する β6-N-ア 胞に入り,構成単糖に加水分解されるであろう.このよ

化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016 167


うなミルクオリゴ糖の吸収・消化は,タマーワラビー以 の乳仔への人工調合乳の調整方法にもヒントを与えてい
外のほかの有袋類種の乳仔にもあてはまるであろう. る.たとえば,一部の乳業会社がヒトへの育児用調合乳
上の観察は有袋類では乳の中で優先的な糖質であるミ にプレバイオティクス素材として添加しているガラクト
ルクオリゴ糖が,有仔への重要な栄養源として利用され オリゴ糖を,カンガルー用の調合乳に添加すれば,仔に
ていることを示唆している.有袋類の乳は,タマーワラ とっての重要な成長のための栄養源となるであろう.
ビーでの観察結果のように最大で 14%もの糖質含量を 謝辞:本文の中でも紹介した 2012 年 9 月にオーストラリア・タスマニア
島で行ったハリモグラのフィールドワークは,文部科学省グローバル
(54)
含んでいるが ,ラクトースよりも分子量の大きなオ COE プログラムによる研究助成によって行われた.
リゴ糖を高濃度に含むことによって乳の低浸透圧を維持
している.同重量濃度の溶液において 2 糖を溶解した溶 文献
液の浸透圧が,単糖の溶液のそれの 2 倍であることから 1) T. Urashima, T. Saito, T. Nakamura & M. Messer:
も,低浸透圧維持のメカニズムが理解されるであろう. , 18, 357 (2001).
2) M. Messer & T. Urashima:
浸透圧が高くない状態で高濃度の糖質を含む乳を摂取す , 14, 153 (2002).
れば,乳仔は下痢をしないで高エネルギーを獲得するこ 3) T. Urashima, S. Asakuma & M. Messer: Comprehensive
Glycoscience, From Chemistry to System Biology, eds.
日本農芸化学会

とができる.有袋類乳の高ガラクトシルオリゴ糖のガラ
by H. Kamerling, G. J. Boons, Y. C. Lee, A. Suzuki, N.
クトースは,乳仔での循環過程でグルコースに変換さ Taniguchi & A. G. J. Voragen, Vol. 4, Elsevier, Amster-
れ,エネルギーとして利用されているであろう.つまり dam, the Netherlands, 2007, pp. 695‒724.
4) T. Urashima, S. Asakuma, M. Kitaoka & M. Messer: En-
このような高ガラクトシルオリゴ糖の獲得が,非常に未 cyclopedia of Dairy Science, Second Edition, ed. by J.
熟な状態で出産された有袋類乳仔の成長にとって重要な W. Fuquay, P. F. Fox & P. L. H. McSweeney, Vol. 3, Aca-
demic Press, San Diego, USA, 2011, pp. 241‒273.
生存戦略になっていった.
5) T. Urashima, S. Asakuma, F. Leo, K. Fukuda, M. Messer
& O. T. Oftedal: , 3, 473S (2012).

6) T. Urashima, M. Kitaoka, T. Terabayashi, K. Fukuda, M.


おわりに Ohnishi & A. Kobata:“Oligosaccharides: Sources, Prop-
erties and Applications,”ed. by N. S. Gordon, Nova Sci-
筆者は恩師で友人の Michael Messer とともに 2002 年 ence, New York, USA, 2011, pp. 1‒58.
化学と生物 

7) T. Urashima, K. Fukuda & M. Messer: , 6, 369


に 誌に
(2012).
「ミルクオリゴ糖とラクトースの進化」というタイトル 8) T. Urashima, M. Messer & O. T. Oftedal: Evolutionary
で,乳の糖質の進化と単孔類,有袋類,有胎盤類の泌 Biology, Genome Evolution, Speciation, Coevolution and
Origin of Life, ed. by P. Pontarotti, Springer, Switzer-
乳・子育て戦略についての総説を出版した (2).それから land, 2014, pp. 3‒33.
10 年以上が経過し,それまでに研究されていなかった 9) T. Urashima, E. Taufik, K. Fukuda & S. Asakuma:
, 77, 455 (2013).
カモノハシの酸性ミルクオリゴ糖や,タマーワラビー以
10) B. Fong, K. Ma & P. McJarrow: ,
外の有袋類の中性ならびに酸性ミルクオリゴ糖の構造情 59, 9788 (2011).
報 が 新 た に 蓄 積 さ れ た. そ れ は NMR や MALDI 11) Y. Yu, Y. Lasanajak, X. Song, L. Hu, S. Ramani, M. L.
Mickum, D. J. Ashline, B. V. V. Prasad, M. K. Estes, V. N.
TOFMS のような構造解析方法とともに,中性オリゴ糖 Reinhold : , 13, 2944 (2014).
や酸性オリゴ糖の分離・精製技術の進歩によるところが 12) O. T. Oftedal: , 7, 253 (2002).
13) M. Messer, A. S. Weiss, D. C. Show & M. J. Westerman:
大きい.ハリモグラのみならず,カモノハシの酸性ミル
, 5, 95 (1998).
クオリゴ糖における 4-O-N-アセチルノイラミン酸の存在 14) Z. X. Luo, C. X. Yuan, Q. J. Meng & Q. Ji: , 476,
や,有袋類と一部の有胎盤類ミルクオリゴ糖の共通コア 442 (2011).
15) O. T. Oftedal: Advanced dairy chemistry, ed. by P. H.
骨格としてのラクト-N-ノボペンタオース I の存在,有袋 L. McSweeney & P. F. Fox, Vol. 1A, 4th edn. Springer
類の酸性ミルクオリゴ糖における高濃度の硫酸基の存在 Science+Business Media, New York, USA, 2013, pp.
1‒42.
など,新たな知見が付け加わった.そのことで,特に単
16) K. Kawasaki, A. Lafont & L. Sire: , 28,
孔類や有袋類の乳仔の子育て戦略,生存戦略はより詳細 2053 (2011).
に考察できるようになった.乳に含まれる糖質はラク 17) B. Rajput, N. L. Shaper & J. H. Shaper: ,
271, 5131 (1996).
トースであるという単純なドグマはすでに過去のものと 18) H. A. McKenzie & F. H. White, Jr.: ,
なり,多様なミルクオリゴ糖の存在は哺乳類の多様な進 41, 174 (1991).
化と生存戦略とも密接に関連している.一方でミルクオ 19) E. M. Prager & A. C. Wilson: , 27, 326 (1988).
20) M. Messer & K. Kerry: , 180, 201 (1973).
リゴ糖研究は,動物園などの飼育下での単孔類や有袋類

168 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016


21) M. Messer: , 139, 415 (1974). 41) E. A. Crisp, M. Messer & J. L. Vandeberg: ,
22) J. P. Kamerling, L. Dorland, H. van Halbeek, J. F. G. 62, 1117 (1989).
Vliegenthart, M. Messer & R. Schauer: , 42) M. Messer, E. Trifonoff, W. Stern, J. G. Collins & J. H.
100, 331 (1982). Bradbury: , 83, 327 (1980).
23) G. A. Jenkins, J. H. Bradbury, M. Messer & E. Trifonoff: 43) J. G. Collins, J. H. Bradbury, E. Trifonoff & M. Messer:
, 126, 157 (1984). , 92, 136 (1981).
24) J. Amano, M. Messer & A. Kobata: , 2, 121 44) M. Messer, E. Trifonoff, J. G. Collins & J. H. Bradbury:
(1985). , 102, 316 (1982).
25) O. T. Oftedal, S. C. Nicol, N. W. Davies, N. Sekii, E. Tau- 45) J. H. Bradbury, J. G. Collins, G. A. Jenkins, E. Trifonoff &
fik, K. Fukuda, T. Saito & T. Urashima: , 24, M. Messer: , 122, 327 (1983).
826 (2014). 46) T. Anraku, K. Fukuda, T. Saito, M. Messer & T. Urashi-
26) T. Urashima, W. Sumiyoshi, T. Nakamura, I. Arai, T. ma: , 29, 147 (2012).
Saito, T. Komatsu & T. Tsubota: , 47) T. Urashima, E. Taufik, R. Fukuda, T. Nakamura, K. Fu-
1472, 290 (1999). kuda, T. Saito & M. Messer: , 30, 801 (2013).
27) T. Urashima, T. Yamashita, T. Nakamura, I. Arai, T. 48) T. Urashima, S. Fujita, K. Fukuda, T. Nakamura, T.
Saito, A. E. Derocher & O. Wiig: , Saito, P. E. Cowan & M. Messer: , 31, 387
1475, 395 (2000). (2014).
28) T. Urashima, Y. Kusaka, T. Nakamura, T. Saito, N. Mae- 49) T. Urashima, Y. Sun, K. Fukuda, K. Hirayama, E. Taufik,
日本農芸化学会

da & M. Messer: , 1334, 247 T. Nakamura, T. Saito, J. C. Merchant, B. Green & M.


(1997). Messer: , 32, 361 (2015).
29) T. Urashima, H. Inamori, K. Fukuda, T. Saito, M. Messer 50) M. Messer & K. R. Nicholas: ,
& O. T. Oftedal: , 25, 683 (2015). 1077, 79 (1991).
30) K. Marino, J. A. Lane, J. L. Abrahams, W. B. Struwe, D. 51) T. Urashima, M. Messer & W. A. Bubb:
J. Harvey, M. Marotta, R. M. Hickey & P. M. Rudd: , 1117, 223 (1992).
, 21, 1317 (2011). 52) P. J. Walcott & M. Messer: , 33, 521
31) R. Schauer, G. V. Srinivasan, D. Wipfler, B. Kniep & R. (1980).
Schwartz-Albiezet: , 705, 525 (2011). 53) M. Messer, E. A. Crisp & R. Czolij: Kangaroos, Walla-
32) I. M. Stewart, M. Messer, P. J. Walcott, P. A. Gadiel & M. bies and Rat Kangaroos, ed. by G. Grigg, P. Jarman & I.

Griffiths: , 36, 139 (1983). Hume, Syrry Beatty & Sons Pty Ltd., NSW, Australia,
33) J. A. Lane, K. Marino, J. Naughton, D. Kavanaugh, M. 1989, pp. 217‒221.
Clyne, S. D. Carrigton & R. M. Hickey: 54) M. Messer & B. Green: , 32, 519 (1979).
化学と生物 

, 157, 182 (2012).


34) J. A. Lane, K. Marino, P. M. Rudd, S. D. Carrington, H. プロフィール
Slattery & R. M. Hickey: , 90, 53
(2012). 浦 島  匡(Tadasu URASHIMA)
35) S. N. Hester, X. Chen, M. Li, M. H. Monaco, S. S. Com- <略歴>1980 年東京農工大学農学部卒/
stock, T. B. Kuhlenschmidt, M. S. Kuhlenshimidt & S. M. 1986 年東北大学大学院農学研究科博士後
Donovan: , 110, 1233 (2013). 期課程修了/同年帯広畜産大学畜産学部助
36) J. C. Merchant, B. Green, M. Messer & K. Newgrain: 手/1994 年同助教授/2003 年同大学大学
, 93A, 483 (1989). 院畜産学研究科教授,現在に至る<研究
37) M. Messer, P. A. Fitzgerald, J. C. Merchant & B. Green: テーマと抱負>ミルクオリゴ糖の比較生化
, 88B, 1083 (1987). 学,ミルクオリゴ糖とラクトースが泌乳の
38) E. A. Crisp, P. E. Cowan & M. Messer: 進化に及ぼした影響について<趣味>国内
, 1, 309 (1989). 外の史跡探訪,食べ歩き
39) S. A. Munks, B. Green, K. Newgrain & M. Messer:
, 39, 403 (1991). Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会
40) A. K. Krockenberger: , 69, 701 (1996). DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.159

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