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副詞類とその位置

乾 隆

はじめに

英語は語順が重要な言語であり、語順が変わることで文の意味が変わっ
たり、全くの非文になったりする。そんな中で、副詞類(adverbial)は文
中で比較的自由な位置を占めることができる。しかし、そこにはある程度
制約や傾向が見られる。本論では主にQuirk et al.(1985)(1)に基づいて、

副詞のそのような性質を概観する。

1.副詞類の定義と形態

副詞類とは単独の副詞も含めて、文中で副詞の働きをする語群であるが、
これに加えてQuirk et a1.(1985)では文中での機能によって副詞i類を規定

している。つまり、他の文構成要素から、文法的に分離しており、包含さ
れていない副詞(句)や前置詞句などを副詞類とし、文法的に他の文構成要
素の一部を成しているものは副詞類には含めていない。したがって、次の
(1)∼(3)の下線部は副詞類であるが、(4)と(5)では目的語の一部、(6)では補語

の一部なので副詞類には含めていない。以下、本論で述べる副詞類もこの
基準によるものとする。
(1)The girl was dressed very beautifully.(2)

(2)My father kept an old sword in the wooden box.

(3)Mary really is a beautiful teacher.

(4)We saw a very beautifully dressed singer.

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(5)My father kept the old sword in the wooden box well oiled。

(6)Mary is a really beautiful teacher.

この基準を満たす表現形式、つまり形態は、単独の副詞から完全な副詞
節に至るまで多様であるが、簡単なものから、複雑なものへと順に示すと、
次のような種類がある。この表現形式の違いも文中での副詞類の位置に影
響する。’

Closed−classの副詞をheadとするもの
(7)Meg cried(just)then.

Open−classの副詞をheadとするもの
(8)Meg cried(very)bitterly.

名詞句の副詞的用法
(9)Meg cried last week.

前置詞句
(10)Meg cried in her room.

主語と動詞が略された節
(11)Meg cried −though obviously not sad.

副詞節
(12)Meg called Eddie as soon as she got home.

準動詞節
(13)Meg cried while waiting for Eddie.

(14)Meg
(15)Meg cried to ask for
cried−
his mercy.

(16)Meg cried angered at his behavior.

2.:表現形式別に見た副詞類の頻度

副詞類がどの表現形式をとるかは、文中でのその位置や文全体の意味構
造によって使用頻度が異なる。合計で75,000語の文字資料(4,000語)と発
話資料(3,500語)からなるSEU(Survey of English Usage)のコーパス

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の分析した結果、全コーパス中、10,981件の副詞類がありその内訳は次の
ように報告されている。(3)

前置詞句 4,456

Closed・classの副詞(句) 3,915

Open−classの副詞(句) 1,063

副詞節 977
準動詞、動詞の脱落した節 346
名詞句 224
合 計 10,981

これを、発話資料と文字資料に分け、更に母体資料5,000語当りの副詞類の
頻度に換算すると次のようになった。この結果を分析すると、文字に書い
た文と発話された文における副詞類の使用頻度の違いがわかるはずである。
大方の予測としては、発話資料の方に、形態的に単純な副詞類が多く、文
字資料の方に、節や準動詞を使った表現的に複雑な副詞類が多いと、思わ
れるであろうが、果して結果はどうであろうか。

発話資料 文字資料
前置詞句 258 336
Closed−classの副詞(句) 278 246
Open・classの副詞(句) 76 66
副詞節 70 60
準動詞、動詞の脱落した節 12 33
名詞句 18 12
合 計 712 753

以上の数値から次のことが言えそうである。

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1)全体的には発話・文字のどちらの資料でも、前置詞句とClosed−class
の副詞(句)の副詞類が大部分を占める。つまりこれらの副詞類が断然
よく使われる。

2)発話資料と文字資料の問には、合計に関しても各表現形式の頻度でも
あまり大きな差は見られない。つまり、話しても書いても副詞類の頻
度は変わらないし、使われる副詞類の種類も大きな違いはないという
ことになる。

3)しかし、数値を細かく検討してみると、発話資料では名詞句の頻度が、
文字資料より1.5倍高く、文字資料に関しては、発話資料より、前置詞
句で1.3倍、準動詞及び脱落した節で2.75倍の頻度の高さになる。この
準動詞節に関しては、分詞構文によるものが最も高頻度だったそうで
ある。これは上での予測と概ね合致する。
4)大方の予想に反し、副詞節が発話資料の方で1.2倍の頻度であることは
意外である。つまりwhen∼, if∼などの副詞節は口頭の場合の方が文
字に書く場合よりもよく使われるということになる。これは従属節の
頻度は統語的な複雑さの目安であり、書かれた英語は話された英語よ
り統語的に複雑であるという一般通念の反証となる。

3.1 副詞類の位置

副詞相当語句は、次の例で示すように、文中での位置が比較的自由であ
ることが他の文構成要素と明確に異なる点である。各位地について説明の
ため右側のような名称を与えることにする。節頭位と節末位の名称に関し
ては、実質的には文頭位、文末位としても支障はないが、厳密を期しこう
した。

Before dark the car must have been moved into the garage.節頭位

The car before dark must have been moved into the garage.前中位

The car must before dark have been moved into the garage.中位

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The car must have before dark been moved into the garage.中中位

The car must have been before dark moved into the garage.後中位

The car must have been moved before dark into the garage.前末位

The car must have been moved into the garage before dark.節末位

もちろん、副詞類の位置の変化が(1の⑯のように文意の変化をもたらすこ
とはある。

(1の Happily he did not die.(viz. He was alive.)

⑱ He did not die堕(viz. He died miserably.)

この例からも、副詞類の位置に関しては、その文の情報構造が大きな影響
力を持つことがわかる。また副詞類の形態の違い、つまり表現形式の違い
もその置かれる位置に強い影響を持つ。物理的にも場所をとらない一語の
副詞が最も自由な位置を占め、最も複雑で長くなる傾向がある副詞節が位
置的に制約を受けるであろう。
以下で文中の各位地における副詞類の特徴や傾向を述べる。

3.2 節頭位
節頭位には、節であれ句であれ、副詞類のどの表現形式でも来ることが
可能である。意味の面からみても、色々な副詞類が可能であるが、(very)
much, a little, more than∼などのような程度(degree)の副詞類は来な
いのが普通である。SEUによると、この位置での前置詞句の副詞類のうち
26%は、on Sunday, by then, until now, before noonなどのような、時を

あらわす副詞類である。
なお、等位節や従属節の中での文頭位は接続詞の後ろの位置を指す。
(19)Ihad scarcely got into the room when suddenly the fire alarm

went off.

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3.3 中位
主語(及び操作詞(operator))の直後の位置を指す。 BE動詞とイギリス
英語のHAVE動詞も操作詞と見なすので次の例でも中位である。
⑳Was the performance really at his best tonight?

(21) He has really(got)agood apProach to the subject.

次のような命令文でも、We never touch the glass.から考えて、中位であ


る。

吻 Never touch the glass.

中位では、副詞類の表現形式が限られる傾向がある。この位置を占める
副詞類の大部分は、短い副詞句であり、特に副詞単独のことが多い。節や
長い前置詞句がこの位置に置かれるのは、特別な強い効果をねらう時だけ
である(書く場合はカンマで句切り、話す場合は音調で区別する)。
㈱ You have, though you may say you didn’t mean it, ruined her

happy life,

中位は統計的に見ても、頻度の高い位置である。意味論的には、法性と
程度に特に関わりを持つので、時、空間、観点、手段などの意味を表して
いる場合でも法性や程度の色調を帯びる。

3.4 前中位
一種の中位であるが、主語と操作詞の間の位置を指す点が中位と異なる。
離接詞(disjunct)の多くは、肯定文では自由に中位を占めることができ
る、否定文では前中位でなければならない。
⑳・They can’t probably solve the problem.中位
㈱They plZgb!2gp!ybl can’t sole the problem.前中位

これは否定の作用域の問題であり、それが及ばない場所に副詞類を移さな
ければならないときに前中位を用いるのである。また韻律とも関係し、後
ろに韻律の焦点がある場合にやはり前中位を用いることができる。

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㈱ Ifrankly haven’t been seriously INterested.(4)

⑳ Ifrankly HAVE been seriously interested.

3.5 後中位
主動詞の直前の位置である。この位置を占めるのは、意味論的には程度
と様態の副詞類であり、表現形式では副詞句や前置詞句による副詞類であ
る。

㈱ The painting must have been quite carefully repaired by the


specialiStS.

3.6 中中位
この位置は、⑳で示すような、助動詞を3つ以上持つ動詞句で生ずる位
置なので頻度は極めて低い。often, sometimes, indeedなどの副詞が来る
ことがある。

⑳ They must have often been watching what she was doing.

同一の節の前中位、中位、中中位、後中位の全てに副詞類を置くのは、
非文法的ではないが、文体上好ましくない。
⑳ The new Iaw certainly may possibly have indeed been badly
formulated.(5)

3.7 節末位、前末位

節末位は、義務的な全ての文構成要素に後続する位置であるが、副詞類
の中には義務的にこの位置を占めなければならないものもある。また2つ
以上の副詞類がこの位置で共起することもよくある。
⑳ She kept writing letters feverishly in her study all afternoon.(6}

本来は副詞類が占めるはずであった節末位を、焦点(focus)の関係で目的語
などの義務的な要素が占めることがある。その場合、押しのけちれた副詞
類はその前の位置を占めることになるが、そこを前末位と呼ぷ。

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〈32) She kept writing−long, violent letterrs of
complaint.(7)

義務的な文構成要素のうち文末に来るのが節の場合は、副詞類にとって前
末位は重要な位置となる。例えば、㈲は「父は彼女の離婚を秘かに強いた」
の意であるが、secretlyの位置を変えずに、(34)のように節で書きかえると
「そっと離婚せよと強いた」の意味になってしまう。
㈲ Her father urged her divorce secretly.

㈹ Her father urged that she be dicorced secretly.

したがって、次に示すようにsecretlyは前末位か中位でないと(33)と同じ
文意は得られない。
(35)Her father urged secretly that she be divorced.

(36) Her father secretly urged that she be divorced.

節末位の副詞類では、法性の意味を表すことはまれであるが、他の大概
の意味の副詞類はこの位置でも表現される。中でも、空間の意味を表す副
詞類は節末位で多い。表現形式は短い副詞句よりも前置詞句や節が多い。

まとめ

本論では副詞類の表現形式の種類と、文中でのその位置を概観してきた。
副詞類の表現形式が文中でのその位置に影響を与えることや、文の意味構
造によってもその位置は影響を受けることを述べた。また、SEUのコーパ
スの分析結果から、口語と文語における副詞類の差異を考察したが大差が
ないこともわかった。また、一般的な印象と異なり節による副詞類が口頭
資料に多いこともわかった。本論では、同位地における2つ以上の副詞類
が共起する場合の順番については触れなかったが、それについては稿をあ
らためたいと思う。


1) Quirk et aL(1985)・4 Comprehensive Grammar of the EngldSh

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Language, Longman.は現在のところ1巻からなる英文法書としては
世界最大のものであろう。その中で副詞類を扱っているのは第8章で
あり、それだけで220ページある膨大なものである。
2)Quirk et al.(1985), p.478.本文中の以下の例文は、特に注で示さな

い限りは、参考文献などを元に筆者が作ったもの。
3) Ibid. pp.489−490.

4) Ibid. p.494.

5) Ibid. p.495.

6) Ibid. p,499.

7) Ibid. p.499.

参考文献
Crysta1(1995) The Cambridge EncツcloPedia Of The English Language,

Cambridge.
Murphy(1994)English Grammar in Use, Cambridge.
Quirk et a1.(1985)AComprehensive Grammar of the English Lan−

guage, Longman.
Swan(1995)Practical English Usage, Oxford.

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