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土木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 77, No. 2, I_235─I_240, 2021.

海底地すべりによる津波の生成に関する
実験的研究

藤井 直樹1・松山 昌史2・加藤 勝秀3


1正会員
東電設計株式会社 土木本部(〒135-0062 東京都江東区東雲1-7-12)
E-mail: dfujii@tepsco.co.jp (Corresponding Author)
2正会員 (一財)電力中央研究所 原子力リスク研究センター(〒100-8126 東京都千代田区大手町1-6-1)

E-mail: matsu@criepi.denken.or.jp
3中部電力株式会社 原子力本部原子力土建部(〒461-8680 愛知県名古屋市東区東新町1番地)

E-mail: Katou.Katsuhide@chuden.co.jp

海底地すべりに伴う津波は,実験や解析的検討が実施されているものの,陸上地すべりに比べて研究事
例が少ないため,海底地すべりの挙動および地すべりにより生成される津波に関して未解明な点が多い.
本研究では,海底地すべりにより生成される津波水位の特性について検討する目的で,海底地すべり体を
粒状体および固体模型で模擬した断面二次元水路を用いた水理模型実験を実施した.海底地すべりに伴う
波源域の水位変動を確認するため,既往の実験に比べて波高計を密に配置し,波高計測結果から,海底地
すべりによる水位変動特性を把握した.また,数値実験により海底地すべりに伴い生成される地すべり近
傍における流況場について分析し,津波の生成過程について示した.

Key Words : tsunami generation, submarine landslide, hydraulic experiment, surface wave, flow field

1. はじめに 2. 実験概要

地すべりによって発生する津波は,断層運動による津 実験水路の概要を図-1に示す.二次元水路内に海底勾
波と比べて発生頻度が低く,その実態はあまり明らかに 配1:1の斜面と高さ0.8 mの一様部を設置した.実験では
なっていない.特に海底地すべりは海面下で発生してい 地すべり体として比重の異なる粒状体2種類(ガラスマ
るため,海底地すべりによって生成される津波として認 ーブル,アルミナボール)と,三角断面形状の固体模型
識されていない場合があると考えられる.また,海底地 2タイプを用い(図-2),波源域の水位変動を波高計で
すべりに伴う津波に関しては,水理模型実験1),2)や解析的 密に計測した(図-1).粒状体の実験では斜面上部に設
検討3)が実施されているものの,陸上地すべりに比べて 置したゲート上流に粒状体を充填し,ゲートをエアシリ
研究事例が少ないため,海底地すべりの挙動および地す ンダーによって引き下げることにより,粒状体を流下さ
べりにより生成される津波に関して未解明な点が多い.
本研究では,海底地すべりにより生成される津波水位 平面図

の特性について検討する目的で,海底地すべり体を粒状
体および固体模型で模擬した二次元水路を用いた水理模
型実験を実施した.海底地すべりに伴う波源域の水位変
動を確認するため,既往の実験に比べて波高計を密に配
置し,計測した.さらに,数値実験により海底地すべり
に伴い生成される地すべり近傍における流況場について
分析し,津波の生成過程について把握した. 断面図
エアシリンダー
単位:(mm)

X
X=0
図-1 二次元水路模型図と計測位置

I_235
せて津波を発生させた.固体模型についても模型をゲー
トで固定し,ゲートを引き下げて自由落下により津波を 3. 実験結果
発生させた.海底地すべり運動のタイプは,Grilli et al.
(2005) 3)で提案されているslide(滑落)とslump(崩壊;円 (1) 生成される津波水位変動
弧すべり)を対象とした.そのため,図-3のように斜面 図-3は粒状体が円弧部から斜面へ流下するスナップシ
上部を円弧状とした場合についても実験を行った.また, ョットであり,粒状体は変形しながら一体となって移動
海底における地すべり地形を模擬するため,ゲート角度 している.海底地すべり津波の水位変動の計測結果を図
を鉛直からの傾き22.5°とした場合についても実験を行 -4に示す.図-4(a)のガラスマーブルの場合,H11(沖側
った.表-1に実験ケースを示す. 地点)の水位は押し波初動であり,H2(岸側地点)の
水位は引き波初動である.H6は地すべり体の移動に伴
い短時間で水位下降が発生し,水位変動量は直線斜面ゲ
ート鉛直(体積0.04 m3),円弧斜面ゲート角度傾き
22.5°(体積0.04 m3),直線斜面ゲート角度傾き22.5°
(体積0.023 m3)の順に大きい.体積の大小関係に対応
(a1) 直線斜面, (a2) 円弧斜面, (a3) 直線斜面,
ゲート角度傾き 22.5° ゲート角度傾き 22.5° ゲート角度鉛直
して水位変動量も大きく,また体積は同じでも円弧斜面
(a) 粒状体(ガラスマーブルの場合) より直線斜面の方が大きくなった.図-4(b)の固体模型の
場合,体積の大きいゲート角度鉛直の方が水位変動量は
大きい.また,固体模型は形状が変形しないため,(a)
のガラスマーブルと比べて水位変動量は上昇側,下降側
とも大きい.図-4(c)の比重が大きいアルミナボールは,
(b1) 直線斜面, (b2) 直線斜面, ガラスマーブルと比べて水位変動量がわずかに大きい.
ゲート角度傾き 22.5° ゲート角度鉛直 図-5に,円弧斜面におけるガラスマーブルとアルミナ
(b) 固体模型
ボールの粒状体2種類の移動速度の比較結果を示す.粒
図-2 地すべり体の模型
状体は変形するため,重心相当の位置における移動速度
0.5s 1.0s をビデオ画像から算定した.粒状体移動は2.4秒程度で
停止するが,ガラスマーブルは2つのピークがあり,円
弧斜面部とそれ以降の直線斜面部において速度が大きく
なっている.比重が大きいアルミナボールは一様斜面部
へ早く落下し,その結果,水位変動量が大きくなったと
考えられる.
図-6は固体模型(直線斜面ゲート角度鉛直)のH6から
図-3 ガラスマーブルの流下状況 H11までの沖側へ伝播する水位波形,H6からH2までの岸
(円弧斜面,ゲート角度傾き22.5°) 側へ伝播する水位波形である.H8からH10に伝播するに
したがい押し波第1波は増幅するとともに,第2波も増幅
表-1 実験ケース し,その波峰は第1波より高いが,H11では第2波のみ減
地すべり体模型 斜面形状 ゲート角度 体積 衰が確認される.これは,第2波が第1波より分散性の大
(m3)
0.04
きいことを示唆する.一方,H6からH2の岸側へ伝播す
鉛直
直線形状 る水位は,下降量,上昇量とも増幅や減衰をすることな
ガラス 鉛直から
(slide) 0.023
マーブル 傾き 22.5° く伝播している.
粒状体
比重 2.6 円弧形状 鉛直から
0.04
(slump) 傾き 22.5°
粒径 (2) 津波水面形
直線形状 鉛直から
30mm アルミナ 0.023 ここでは 第2波の増幅を確認するため,図-6と同じ固
(slide) 傾き 22.5°
ボール
円弧形状 鉛直から 体模型(直線斜面ゲート角度鉛直)のケースに対してビ
比重 3.6 0.04
(slump) 傾き 22.5° デオ画像解析によって水面形の抽出を試みた.画像解析
鉛直 0.04
直線形状 は図-7に示す水面付近を対象範囲として,オープンソー
固体模型 三角柱* 鉛直から
(slide) 0.023 スの画像処理ライブラリOpenCV 4.5.1を使用して行った.
傾き 22.5°
*個体模型の水中単位体積重量は,ガラスマーブルの地 水面形はCanny法4)によるエッジ検出アルゴリズムを用い
すべり体模型の数値と一致させた. て抽出した.ビデオ撮影は画像処理を前提として実施し

I_236
150
3.0 H2 円弧斜面 ゲート22.5° ガラスマーブル

移動速度(cm/s)
2.0 H2 直線斜面 ゲート22.5°
アルミナボール
H2 直線斜面 ゲート鉛直 100
1.0
水位(cm)

0.0
50
-1.0
-2.0
0
-3.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
0 2 4 6 8 10
3.0 H6 円弧斜面 ゲート22.5° 時間(s)
2.0 H6 直線斜面 ゲート22.5°
時間(s)
H6 直線斜面 ゲート鉛直 図-5 ガラスマーブルとアルミナボールの移動速度
1.0
水位(cm)

0.0 (円弧斜面ゲート角度傾き22.5°の場合)
-1.0
-2.0
6.0 H6 H7 H8 H9 H10 H11
-3.0
0 2 4 6 8 10 4.0
3.0 2.0

水位(cm)
H11 円弧斜面 ゲート22.5°
2.0 時間(s) H11 直線斜面 ゲート22.5° 0.0
H11 直線斜面 ゲート鉛直
1.0 -2.0
水位(cm)

0.0 -4.0
-1.0 -6.0
-2.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
-3.0 6.0 H6 H5 H4 時間(s)
H3 H2
0 2 4 6 8 10 4.0
時間(s)
2.0

水位(cm)
(a) ガラスマーブル 0.0
-2.0
3.0 H2 直線斜面 ゲート22.5° -4.0
H2 直線斜面 ゲート鉛直
2.0 -6.0
1.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
水位(cm)

時間(s)
0.0
-1.0
図-6 固体模型(三角柱)の水位波形
-2.0
-3.0 (直線斜面ゲート角度鉛直の場合)
0 2 4 6 8 10
3.0 H6 直線斜面 ゲート22.5°
2.0 H6 時間(s)
直線斜面 ゲート鉛直
1.0
ていなかったため,水面以外の箇所にノイズが多く見
水位(cm)

0.0
-1.0 られたが,フィルタリング処理によって極力ノイズ低
-2.0
-3.0 減を行っている.図-7 1)~8)は抽出した水面形であり,
0 2 4 6 8 10
3.0 H11 直線斜面 ゲート22.5° ノイズがあるものの第2波の増幅過程が確認できる.図-
2.0 時間(s) H11 直線斜面 ゲート鉛直
1.0 6の時間波形のとおりH6は0.5s付近で下降量が最大とな
水位(cm)

0.0
-1.0
り,その後水位は上昇する.これが第2波となり,H9で
-2.0 はH6の約2倍に水位が増幅し,その後H11にかけて減衰
-3.0
0 2 4 6 8 10 した.第2波は,地すべり体の斜面移動に伴って水位が
時間(s)
下降し,その後上昇していることから,本実験におけ
(b) 固体模型
る地すべり体の運動の鉛直成分の大きさが第2波の規模
3.0 H2 円弧斜面 ゲート22.5°
2.0
H2 直線斜面 ゲート22.5° に関係していると考えられる.
1.0
地すべり体の移動開始直後における水位変動を把握
水位(cm)

0.0
-1.0 するため,波源域の波高計で計測されたH3~H11の水位
-2.0
-3.0 変動の空間波形を調べた.図-8は固体模型(直線斜面ゲ
0 2 4 6 8 10
3.0
H6 円弧斜面 ゲート22.5°
ート角度鉛直)のケースで,0.01秒から0.1秒までの地す
2.0 時間(s)
H6 直線斜面 ゲート22.5°
1.0 べり体落下により水位が変動し始める時間帯を示して
水位(cm)

0.0
いる.個体模型(三角柱)の前面は二次元水路左端か
-1.0
-2.0 ら4.5 mの位置にあり,H7より沖側H8では水位が徐々に
-3.0
0 2 4 6 8 10 上昇し,H7より岸側の地すべり体直上H6では徐々に水
3.0 H11 円弧斜面 ゲート22.5°
2.0 時間(s) H11 直線斜面 ゲート22.5° 位が下降し始める.H8の水位上昇は地すべり体落下に
1.0
伴う水平方向の移動によって第1波の水位上昇(押し波)
水位(cm)

0.0
-1.0 が形成されていると考えられる.一方,H6の水位下降
-2.0
-3.0 は地すべり体落下に伴う鉛直方向の移動によって第2波
0 2 4 6 8 10
時間(s) のもととなる水位下降(引き波)が最初に形成されて
(c) アルミナボール いると考えられる.
図-4 海底地すべり津波の水位変動時系列波形 図-7の画像解析ではH6より岸側の水面を捉えること

I_237
0.4
波高計 H6 H7 H8 H9 H10 0.01秒 0.02秒 0.03秒 0.04秒
0.05秒 0.06秒 0.07秒 0.08秒
0.09秒 0.10秒
画像解析対象範囲 0.2

水位(cm)
0.0

-0.2

-0.4 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11


3.50 3.75 4.00 4.25 4.50 4.75 5.00 5.25 5.50
1) 0.25s X (m)

第 1波
2) 0.50s 第 2波 図-8 波高計による水面形(0.01~0.10秒間)
(固体模型(三角柱),
3) 0.75s 直線斜面ゲート角度鉛直の場合)

4) 1.00s 6.0
0.1秒 0.2秒 0.3秒 0.4秒 0.5秒
4.0

水位(cm)
2.0
5) 1.25s 0.0
-2.0
6) 1.50s -4.0
-6.0 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11
3.50 3.75 4.00 4.25 4.50 4.75 5.00 5.25 5.50
7) 1.75s
(a) 0.1~0.5秒間
X (m)
6.0
0.6秒 0.7秒 0.8秒 0.9秒 1.0秒
8) 2.00s 4.0
水位(cm)

2.0
0.0
図-7 画像解析により抽出した水面形
-2.0
(固体模型(三角柱), -4.0
H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11
-6.0
直線斜面ゲート角度鉛直の場合) 3.50 3.75 4.00 4.25 4.50 4.75 5.00 5.25 5.50
1)~8)は画像解析対象範囲の縦方向を拡大 (b) 0.6~1.0
X (m) 秒間
6.0
1.1秒 1.2秒 1.3秒 1.4秒 1.5秒
4.0
ができなかった.また,水位変動量を示すことができ
水位(cm)

2.0
0.0
なかったため,0.25 m間隔ではあるが,より細かい時
-2.0
間間隔で把握可能な波高計による水位の空間波形につ -4.0
いても図-9に示す.時間帯は図-8以降の0.1秒から2.0秒 -6.0 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11
3.50 3.75 4.00 4.25 4.50 4.75 5.00 5.25 5.50
までである.H3~H5の水位はH6から遅れて徐々に下 (c) 1.1~1.5秒間
X (m)
6.0
降後,上昇しているが,水深が浅いため下降量はH7や 4.0
1.6秒 1.7秒 1.8秒 1.9秒 2.0秒

H8ほど低下していない.図-7で見られたように,0.1秒
水位(cm)

2.0
から0.5秒の時間はH8より沖側で水位が上昇し第1波と 0.0
-2.0
して伝播している.さらに,1.0秒以降ではH7より沖側 -4.0
H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11
へ第2波となって伝播している.この図からも地すべ -6.0
3.50 3.75 4.00 4.25 4.50 4.75 5.00 5.25 5.50
り体直上の水位下降は,第2波の形成に関係している X (m)
ことが理解できる. (d) 1.6~2.0 秒間
図-9 波高計による水面形(0.1~2.0秒間)
(固体模型(三角柱),
4. 地すべり近傍の流況場に関する分析 直線斜面ゲート角度鉛直の場合)

実験で確認された地すべり体の移動に伴う津波の生 べり体を実験の移動速度で斜面を滑らせた場合を対象と
成過程を詳しく把握するため,数値実験により海底地す し,実験のビデオ画像から得られた移動速度で地すべり
べりに伴い生成される地すべり近傍における流況場につ 体を剛体として移動させ,その際の水粒子の挙動を
いて分析した.数値実験による分析は,固体模型の地す Smoothed Particle Hydrodynamics (SPH)法を用いて分析した.

I_238
ここで,SPH法は,対象の流体を粒子の単位に離散化し, を加速して滑るに伴いその周囲の流体に渦が生じ,流れ
粒子の動的な挙動をLagrange 的に追跡する解析法である. が発生していることが確認できる.まず,地すべり体前
使用したSPHの解析コードはオープンソースコード 面が流体を押すことにより鉛直上向きの流れが発生し,
DualSPHysics v4.45)である.解析は断面二次元で実施した. 押し波第1波が生成され始める.また,それと同時に地
表-2に示すDualSPHysicsの解析オプションは既往の解析6) すべり体が下方へ移動することによってその上面では下
と同様とした.また,粒子に関する解析条件は,初期粒 降流が発生し,水位が下降し始める.その後,下降して
子間距離を0.01 m,粒子数を64,120個とした. いた水位は周囲から水量が供給されることによって水位
図-10に,固体模型(ゲート角度鉛直)の地すべり体 が上昇し,第2波が生成されている.これは実験で確認
を実験の移動速度で斜面を滑らせた場合における水粒子 された現象と調和的であり,地すべり体について,水平
の挙動を流速ベクトルとして示す.地すべり体が斜面上 運動が第1波の,鉛直運動が第2波の,それぞれ形状や規
模に対して,主に関係していることを示唆する.図-11
表-2 DualSPHysicsの解析オプション は固体模型(ゲート角度傾き22.5°)の場合であり,地す
Time Integration Symplectic Integration algorism べり体の移動速度は直角二等辺三角柱と同様であるが,
Time Step Variable Time Step 周囲流体の流速は直角二等辺三角柱の場合に比べて遅い
Kernel function Wendland Kernel
ため,水位変動量が小さくなっている.この結果の差は,
Viscosity Treatment Artificial Viscosity (0.01)
三角柱の断面積(体積)の違いが主な要因であると考え
Boundary Condition Dynamic Boundary Condition
られる.

1) 0.25s 2) 0.50s 3) 0.75s

4) 1.00s 5) 1.25s 6) 1.50s

図-10 数値実験による地すべり体の移動に伴う流速ベクトル(固体模型,ゲート角度鉛直)

1) 0.25s 2) 0.50s 3) 0.75s

4) 1.00s 5) 1.25s 6) 1.50s

図-11 数値実験による地すべり体の移動に伴う流速ベクトル(固体模型,ゲート角度傾き22.5°)

I_239
5. おわりに 実験ではslideとslumpの地すべり運動タイプについて検
討したが,地すべり体の体積及びゲート角度がともに
海底地すべりに伴う津波について,断面二次元水路に 関係していると考えられるため,今後,津波生成過程
よる水理模型実験を実施し,生成される津波水位につい の違いを対象とした解析的な検討等が必要と考える.
て検討した.得られた主な結果は以下のとおりである.
(1) 海底地すべりに伴う津波水位は,地すべり体より 謝辞:本研究は電力11社による原子力リスク研究センタ
沖側地点で押し波が第1波として生成される.一方, ー共研として実施した成果であることを付記するととも
岸側地点では引き波から始まる. に,土木学会 原子力土木委員会 津波評価小委員会(委
(2) 固体模型は形状が変形しないため,粒状体と比べ 員長 高橋智幸関西大学教授)の委員各位に研究成果を
て水位変動量は上昇側,下降側とも大きい. ご議論頂き,有益なご助言を賜りました.関係各位に謝
(3) 地すべり体初期形状の違いに着目すると水位変動 意を表します.
量は,直線斜面ゲート鉛直,円弧斜面ゲート角度
傾き22.5°,直線斜面ゲート角度傾き22.5°の順に 参考文献
大きく,水位変動量は体積の大小関係に対応して 1) 藤井直樹,松山昌史,森勇人: 地すべりによる津波の
平面水槽を用いた水理模型実験,土木学会論文集
いる.また,体積は同じでも円弧斜面より直線斜
B2(海岸工学), Vol. 74, No.2, pp.I_145-I_150, 2018.
面の方が大きくなった. 2) 橋本貴之,檀和秀: 地滑り形状を変化させた場合の海
(4) 粒状体において,比重が大きいアルミナボールは 底地滑り津波に関する実験的研究,土木学会年次学
ガラスマーブルと比べて水位変動量がわずかに大 術講演会講演概要集,第 63 巻,第 2 号, pp.395-396,
2008.
きくなった.比重が大きいアルミナボールは斜面
3) Grilli, S. T. and Watts P.: Tsunami Generation by Subma-
上の移動速度が速いため,水位変動量が大きくな rine Mass Failure. I: Modeling, Experimental Validation,
ったと考えられる. and Sensitivity Analyses, Journal of Waterway, Port,
(5) 海底地すべりによる津波の生成過程では,第1波よ Coastal, and Ocean Engineering, 131:6(283),pp.283-297,
2005.
りも第2波の方が増幅する場合もあることが確認さ
4) Canny, J.: A Computational Approach To Edge Detection,
れた.第1波の水位上昇は地すべり体落下に伴う水 IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intel-
平方向の移動によって形成され,第2波の水位上昇 ligence, Vol.PAMI-8, No.6, pp.679–698, 1986.
は地すべり体落下に伴う鉛直方向の移動による水 5) Crespo, A. J. C., Domínguez, J. M., Rogers, B. D., Gómez-
Gesteira, M., Longshaw, S., Canelas, R., Vacondio R., Bar-
位下降が最初に形成された後,水位上昇に転じる
reiro A., and García-Feal, O.: DualSPHysics: Open-source
ことにより発生していると考えられる. parallel CFD solver based on Smoothed Particle Hydrody-
(6) 数値実験により海底地すべりに伴い生成される地 namics (SPH), Computer Physics Communications, 187,
すべり近傍における流況場について分析し,津波 pp.204-216, 2015.
6) 山本剛士,安田誠宏: SPH 法を用いた津波石・台風石
の生成過程を示した.
移動の数値解析,土木学会論文集 B2(海岸工学), Vol.
数値実験では地すべり体を実験の移動速度で滑らせ 75, No.2, pp.I_433-I_438, 2019.
たことにより,主に地すべり体近傍の流れを分析した
が,津波の水位変動の再現性について併せて確認する (Received March 17, 2021)
(Accepted July 22, 2021)
必要があるため,今後の課題としたい.また,今回の

HYDRAULIC EXPERIMENTAL STUDY OF TSUNAMI GENERATION BY


SUBMARINE LANDSLIDE

Naoki FUJII, Masafumi MATSUYAMA and Katsuhide KATO

Experiments and analytical studies have been conducted on tsunamis caused by submarine landslides,
but there are few research cases compared to aerial landslides. Therefore, the behavior of tsunamis
generated by submarine landslides are not well understood. In this study, in order to investigate the
characteristics of the tsunami generated by submarine landslides, tsunami experiments using granules and
solid models were carried out using a two-dimensional cross-section channel. In order to understand the
tsunami water level in the source area due to submarine landslides, the wave height gauges were installed
densely. From the measurement results, the characteristics of the tsunami water level due to the submarine
landslide were obtained. Furthermore, the flow field near the landslide generated by the submarine landslide
was examined by numerical experiments, and the tsunami generation process was shown.

I_240

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