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開発・紛争・宗教

名 古 屋 大 学   国 際 開 発 論   2 0 2 0 年 11 月 2 4

吉澤あすな 
yoshizawa@asafas.kyoto-ac.jp 1
自己紹介
• 京都出身
• 学部在学中、フィリピンの漁村を支援する学生団体で活動
• 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に進学
• 2012 年~ 2014 年に、フィリピン南部・ミンダナオ島で
フィールドワーク
• 帰国後、民間企業に就職
• 2019 年春に退職して
       大学院に再入学
• 博士論文執筆中… ( ꒪ ཫ ꒪ ; )

2
南部フィリピン
(主な範囲はミンダナオ島、スールー諸島)

• 実は、「バナナ」を通して日本とつながりが深い
• 日本に出回るバナナの 8~9 割はフィリピン産、そのうち 98%
はミンダナオ産
• フィリピンの中で最も貧困率が高い地域の1つ

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https://altertrade.jp/archives/14864 https://kokocara.pal-system.co.jp/2018/11/26/banana-from-philippine/
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南部フィリピンの紛争
(ミンダナオ紛争)
• 1970 年代より分離独立運動が盛んになり、フィリピンからの独
立を目指す先住民※のイスラーム教徒(ムスリム)と、中北部か
らの移住民であるキリスト教徒との「宗教紛争」が勃発

• 貧困が紛争を継続させる、紛争のため開発が進まない悪循環

※ ムスリムではない先住民(ルマド)の諸集団も人口は少ないが重要アクター。彼
らは同じ先住民としてムスリムと協力するか、距離を置くか微妙な立場に立たされ
ている。本発表ではムスリムとキリスト教徒に焦点を当てるため詳述しない

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今日のテーマ
1.地域の紛争が「異なる宗教間の対立」っていわれてたり、
「宗教じゃなくて経済対立が紛争の本質」との反論があったりす
るけど、どう考えたらいいの?

2.「平和」のために様々な制度が導入されるが、土着の秩序と
相まって、「逆効果」「予期せぬ結果」になるかもしれない

3.「宗教紛争」後社会の現実に配慮した開発とは

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南部フィリピン
の歴史
なぜ分離独立へ向かったのか

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イスラームの伝来

• 13 世紀の終わり頃:インドやマレー世界からのムスリム商人
の寄港やムスリム人口の増加が顕著になった

• 14 世紀初め:イスラームの宗教指導者がスールー諸島に到達

• 15 世紀中頃:スルタンを頂点とするイスラームに基づくスー
ルー王国が出現

• 16 世紀始めごろ:スールーがに本格的に王国として発展。マ
ギンダナオにもイスラーム化の波が及んだ

• スペインは、 16 世紀からフィリピン中北部の人々をキリスト
教化しながら支配下に置いていった
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スペイン

マギンダナオ王国

スールー王国
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「モロ戦争」
• スペイン人はフィリピンのムスリムを「モロ」と呼んだ
北アフリカのムスリムに由来する呼称

• イスラーム王国とスペイン軍との数百年に渡る戦争

• アメリカ植民地政府:キリスト教化したフィリピン人よりも
劣った「非文明的な集団」として「モロ」を位置づけた。
 スペイン時代からの否定的イメージが継続

• ムスリム首長は、米植民地期に南部の独立を模索したが、
フィリピン独立国家に含まれることになった
キリスト教化された多数派の「フィリピン人」とは異なる
歴史経験
その象徴として、複数のムスリム民族集団を含む「モロ」10
アメリカ植民地期( 1898 年~)
に導入された制度
• 1902 年に土地登記法( Land Registration Act) が制定
- すべて の土地が公式に登記の対象となった
- 一部のムスリム首長は土地登記制度を利用して土地の所有権を拡大
- 多くのムスリム住民にとって、土地は慣習によって受け継がれるも
の考えられており、土地登記や所有権という概念を持たなかった
- 登記プロセスが複雑、官僚的。土地登記ができないものも多かった
⇔ キリスト教徒の入植者による土地取得

• 自作農場システム( a homestead system )の導入


- 植民地政府は、食料危機と中北部での共産主義の拡大への対策とし
て、南部への入植を推進
- 入植者(キリスト教徒)が取得可能な土地は、非キリスト教徒(ム
スリム、その他先住民)よりも広く設定 11
LAND LAWS AND RESETTLEMENT

Hectarage Allowed

Year Homesteader Non-Christian Corporation

1903 16 has. (no provision) 1,024 has.

1919 24 has. 10 has. 1,024 has.

1936 16 has. 4 has. 1,024 has.


中北部からのキリスト教徒の入植

• 地主支配に苦しむ貧農がミンダナオに入植
• ムスリムは南部のマジョリティ→マイノリティへ
通説:キリスト教徒による土地奪取とムスリムの周縁化
⇔ ただし、 60 年代半ばまではまだ開拓地が豊富にあり、エリー
ト間の競合も激しくなかった。クリスチャンとムスリムは比較
的平和に共存していた

• 1960 年中頃に新たな入植地が枯渇
• 同時に、選挙制度導入によってムスリム首長の権
威が揺らぐ(後述) 13
MINDANAO 1890
永石雅史 . 2015. 「フィリピン・ミンダナオ和平プロセスの阻害要因の分析—水平的不平等の
視点から—」
『同志社グローバル・スタディーズ 6 』 p. 7 より

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「民主的」な選挙制度の導入
★1958 年に南部フィリピンに普通選挙制が導入
• 首長間(キリスト教徒 vs ムスリム、ムスリム vs ムスリム)
の選挙における競合、政治的暴力が激化
  - 選挙によって従来のムスリム首長の権威が脅かされる
  - 首長による私的な富の蓄積には、国家資源へアクセスが不可欠
  - 政治・行政職につけば、公共事業や事業認可権、通称ポーク・バ
レル(優先開発支援資金)、行政機構の人事権などを掌握でき、利権
を独占的に支配することができる

• 首長と国家の相互依存が強化
  - 中央の政治家にとっては、政党の集票力が弱いため、地方の大衆
動員を可能にする地方権力者の協力を得て選挙を勝ち抜かねばならな

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1970 年前後:南部フィリピンの分離・
独立に向けた武装闘争へ
• マイノリティであるムスリムは社会経済的に不利な条件に置かれ続けて
いるのに、国家は権利保護に動かなかった

• ムスリム地方首長の中には、フィリピン国家と直接つながりをもって上
手く立ち回るものもいた。しかし、基本的に私益を肥やすためであっ
て、ムスリム民衆全体の生活はよくならなかった

• 1960 年代末からマルコス大統領が南部フィリピンの開発に本腰を入れ、
介入を強めたことで、国家資源をめぐる地方政治家の競合が激化

• ムスリム政治家が中央政治に合法的に介入する手段がなくなった
 1972 年に戒厳令布告により国会停止

• 国家と一部のムスリム首長の蜜月、国家との関係をめぐる地方エリート
同士の競合という秩序に代わって、真にムスリム民衆のためになる社会
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をつくる!という理想
分離独立運動に至った背景

• 「宗教を基盤とする“国”による領域争い」
• 「キリスト教的な価値に基づいた植民地主義」
• 「外から持ち込まれた制度と土着の秩序の齟齬」
• 「キリスト教徒が多数派のフィリピン国民国家への反発」
• 「開拓移住による人口動態変容」
• 「地方首長の私的な利益追求」
といった、多くの要素が絡まりあう

• ルーツは「宗教」か「経済」かという二択では答えられない

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様々な
紛争・
暴力
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1970 年代
• フィリピン国軍・警察 vs ムスリム分離独立運動組織(組織として
の戦い)
モロ民族解放戦線( MNLF )、モロイスラーム解放戦線( MILF )

• 地域政治家が雇った私兵同士(選挙や闇ビジネス絡みの暴力)

• 武装した村人や政府が組織した市民自警団(理由いろいろ。過去に
起きた事件の報復。土地権利絡み、私的なトラブルがきっかけで報
復の連鎖から大規模化など)

↑ この時期、ムスリム vs クリスチャンの紛争・暴力が起きることも
多く、メディアでも盛んに取り上げられる。でも実際には、ムスリ
ム同士や、ムスリム VS ルマド(非ムスリム先住民)のパターンもあっ

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• 分離独立運動での宗教的シンボルの使用

「 ― 呼びかけ、旗、コーラン



紛 [ モロイスラーム解放戦線の旗 ]

」 • キリスト教徒、ムスリムそれぞれ悪名高い武装集団
の が現れ、互いに殺害事件を繰り返す

側 ーキリスト教徒「 Ilaga (ねずみ)」 ムスリム


「 Blackshirts 」「 Barracudas 」

• モスクでの虐殺、教会の爆破
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政府とムスリム組織との和平交渉が進
むが、 “ informal” な紛争・暴力は継続
• ムスリム組織( MNLF, MILF )は途中で分離独立を諦め自治地域設
立を目指した。しかし、和平交渉が進む間も、地域司令官の独断で
蜂起が起こる

• 以前からあったクラン(氏族、出自集団)間の土地争いや闇ビジネ
ス絡みの暴力が、分離独立運動が下火になったことで、逆に増加

• 最近では、国軍・警察 VS 「イスラーム過激派」「テロ」組織(非
公式な反政府組織) などなど

• 背景には、貧困、闇ビジネス(違法伐採、ドラッグ売買、身代金目
的の誘拐 etc )の拡大、過去の不公平な土地制度
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近年、特に問題視さ
れている「クラン間
の紛争・暴力」
CLAN POLITICS AND
THE FUTURE OF THE
BANGSAMORO
PEACE DEAL
I N T E R N AT I O N A L C R I S I S G R O U P 制 作

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やっぱ • 現地の人々の生活にとって「信仰」や「宗教帰
属」はとても重要な意味を持つ
り宗教 • “Religion is not a cause of conflict” であっても、
は、紛 “ Religion doesn‘t matter” ではない
争に関
係ない • 現地社会の紛争と平和にとって、どのように重

のか? 要なのか、問題となるのかを問うことが大切

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現地の人々にとっての「宗教」

• 生きる上での価値観、世界観

• 社会関係のつくり方や生活様式の根底にあったり、日常生
活の様々な領域に要素が散りばめられている

• 「宗教」は生活そのものに埋め込まれている。日本人の感
覚だと、「文化」という言葉で表現できる要素も多く含む

• 宗教や民族の差異は、政治に「動員されやすい」という危
うさがある

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• 宗教による「意味づけ」の力。特に「ムスリムはクリスチャ
ンに不当に迫害されてきた」という歴史認識は、分離独立運
動の推進力になってきた。それは決して虚構ではない

• ムスリムによる暴力を受けたクリスチャン住民の側の感情

• 「過去の様々な事件によって、互いに “偏見”や “差別”が


残っている」という捉えかたもできる。しかし、単にメディ
アなどから得たイメージとは異なり、リアルな経験や感情が
根底にある

• 「ムスリムとクリスチャンの対立」の経験が、現地住民に
とって大きな意味を持つようになっている現状はしっかりと
把握する必要あり
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現地社会に根付いている政治秩序
や、
住民が経験した「宗教紛争」の記憶
に配慮した
開発・平和構築とは?

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ムスリム自治地域は成立したが…
• 選挙制度が予期せぬ結果を生んだように、 1990 年に成立したムスリム
自治地域も期待された結果を生まなかった

• 自治政府という機構が国家と地域首長の間に入ることによって、国家と
地方首長の双方がムスリム民衆を搾取する構造を食い止めようした。だ
が、社会経済開発の停滞、汚職の多発など、現実は上手くいかなった

• WHY ?
- 自治政府の権限が国家、地方首長双方に対して弱い
- 自治政府が有する様々な資源を地域首長が私益化してしまう
- 自治地域内・近隣のマイノリティ(非ムスリム先住民、キリスト教徒)
の意見を反映させてこなかった
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新たな自治地域発足へ
• 2000 年代初めから、交渉相手が「 MNLF 」から
「 MILF 」に代わり、交渉続く。新たな自治地域の成立に
向けて交渉
※MILF の特徴
• 「イスラーム」に基づく社会の実現
• 最初の組織「 MNLF 」のリーダーとは異なるムスリム民族が主導権

• 国家に対する権限を強くしたい
(域内の自然資源からの収益の取り分 UP 、イスラーム教育やイスラーム
法の公的位置づけの強化)
• 個人の私的介入を排する、強い制度をつくりたい
(職員の雇用制度)
• 多様な立場の意見を反映したい
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ダトゥ・パグラス町の事例
谷口美代子 .2020. 『平和構築を支援する』より

• ミンダナオのマギンダナオ州にある町。ムスリムの伝統的クランが代々
統治してきた
• 1980 年代までは…
  - 強盗、誘拐など犯罪の温床となり、クラン間の政治的暴力も頻繁に発

  -MILF リーダーと親戚関係にあり、町内に MILF 軍営が敷かれた

• 90 年代に入り、パグラス III 町長が「平和の地」へと変革


  - 地域を統治してきた一家に生まれ、家族をクラン間の暴力で亡くす
  - 伝統的な社会秩序の中で育ち、その問題点と生かし方を熟知
  - 町長就任後、犯罪率が低下
  -80 年代末から着手した農業開発によって住民生活が向上
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「パグラスの奇跡」の背景
• 90 年代に入って大規模なバナナ農園事業を誘致することに成功!
  - マギンダナオ州のように治安が悪いと企業は投資渋るが…
  - ラモス大統領とのネットワーク
  -MILF に治安維持の協力を依頼
  - 企業側のニーズとの調整

• 誘致したバナナ農園での工夫
  - 従業員(当初 2000 人)の多くを MNLF/MILF の元兵士や支援者から
雇用
  - 職制別の宗教グループの偏りがあったため、コミュニティ関係係を設
置し、相互理解を促進。ムスリムへの研修を重点的に行う
  - ムスリムの伝統的な社会階層に配慮した人事配置

• 近代的な管理方法、伝統的規範、地域の秩序を柔軟に融合させている
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「宗教紛争」後社会の開発において
重要なこと

• 外部者は「現地社会の歴史的背景、各集団の文化や価値」につい
て時間をかけて学ぶことが大事。様々なレベルでの紛争が起こる
メカニズムは地域によってケースバイケース。外部の価値では
「問題」とされるような社会の性質が、開発を進めるカギになる
かも

• 新たに導入する公式の制度と土着の秩序の衝突、宗教・民族集団
間の緊張を前提とするならば、「媒介者・メディエーター」の存
在が重要。改革的な町長や村長など地方首長、庶民出身のNGO
ワーカーとか。板挟みになっている人達の経験から学ぶ

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地域研究に
できること
「日常の平和構築」の
事例から

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キリスト教徒とムスリムとの異宗教
間結婚
(intermarriage, inter-religious marriage,
inter-faith marriage)
を調査するためミンダナオに 2 年間
滞在

イリガン市
 人口( 2010 ) : 321,156 人
 クリスチャン : 89.7% (79.3% カト
リック )
 ムスリム : 9.5% (全国では約
5% )
 山岳少数民族( Higaonon ) : 0.8%

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 調査地の人びと

偏見・差別・対立??

ビサヤ マラナオ
クリスチャン ムスリム

結婚

バリック・イスラーム
改宗 キリスト教から
イスラームへの改宗者

ハーフ・マラナオ
ハーフ・クリスチャン

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35
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  ムスリムとクリスチャンの
      関係構築を難しくする背景

• 言語の違い
 公共空間、コミュニティ、家族・親族内

• 差別的語り
「ドラッグ中毒、酒飲み、博打打ちはたいがいクリスチャンだ」
 「クリスチャンの女はキャミソールやショートパンツなんて着て、
  だらしない」

「ムスリムって、山奥に住んでいて教育も
       受けられないんでしょ。可哀そう!」
「ムスリムは暴力的。テロ組織とつながっている」

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フィールドワーク 
隣人との相互扶助関係

• 引越しの手伝い、病人の世話
• 物やお金の貸し借り、おかずの
おすそわけ
• 洪水、地震など災害の際の助け
合い

警戒し合い、完全に信用しているわけではないし、
互いに噂話・悪口を言い合いつつも、困っていたら助ける関係
経済的に厳しい中、生活を守るために協力し合う

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フィールドワーク 
キリスト教からイスラーム
への改宗
• キリスト教からイスラームへの改宗者
 バリック・イスラーム( Balik-Islam )

• Balik... 「戻る」「もと居た場所に帰る」
• Angeles ( 2011 )によると、フィリピン全体で 220,000

イリガン市で開かれたバリック・イスラー
ムによる布教( Da’wah )セミナー

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宗教・民族境界の再編
~ Balik-Islam の宗教実践 ~
• 布教( Da’wah )セミナー
 キリスト教との連続性を主張
「聖書に三位一体の教えはない。元牧師が保証する」
「キリストに忠実に従っているのはムスリム」
「ムスリムとしての宗教実践を行うことで真のクリスチャンになれる」
 礼拝の方法、女性の服装、断食

• イスラームの正当性がキリスト教の世界観によって根拠付けら
れている
• 敬虔なキリスト教徒がむしろ熱心に説明を聞き、改宗していく

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  改宗する人達にとって大切なこと

布教セミナーを受けて新たに改宗した人達のつぶやき

「ムスリムになったら天国にいけるって分かったから、はやく改
宗したい」
「もう年寄りだから断食なんてできない。でも、これで私は自由
になれたってことよね」

ある商店でのバリック・イスラームとキリスト教徒の会話

B.I. 「やっぱり、キリストは神だ、とは聖書に書いてないと思うわ」
C 「実は、キリストは隠された本当の神だ、という教えがあるんだ」
B.I. 「え!本当に?その情報は誰が言っていたの?興味あるわ」

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人々にとっての「宗教」と、異教徒との関係
• 現地社会では、「現世と来世で自由になること」=「正し
い信仰」について真剣に考えている人がとても多い

• そういう真剣さ・信仰に対する誠実さは、異宗教であって
もリスペクトされる

• 「正しい信仰の選択」 という視点から見ると、「キリスト
教」と「イスラーム」は、外部者が捉えるような断絶した
世界ではなく、連続性がある

• 実際に、一度改宗しても「やっぱりこっちが正しいかも」
と揺れ動く人達もいる

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フィールドワーク 
キリスト教徒とムスリムとの結婚

• 「愛」があれば宗教は関係ない?

• 子どもの信仰選択、一夫多妻を受け入れられるか否か

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多宗教家族において差異を併存させる試み
~子どもの宗教選択~

事例① キリスト教徒からムスリムに改宗した男性

• 結婚後にイスラームに改宗した
• 妻はキリスト教徒のまま。妻子の信仰を強制はしたくない
• 彼の子ども達は洗礼を受け日曜にはカトリック教会でミサに参加する
曜日はモスクで礼拝を行う

決定を先送りし、祖父母との対立を避けている

事例② マラナオ(ムスリム)とキリスト教徒の夫婦の子ども
• 自分がムスリムなのかキリスト教徒なのか分からない
• ムスリムとキリスト教徒は「祈りの方法が違うだけ」
• 彼女の父と姉は、姉がクリスチャン男性と関係を持ったため絶縁

   個人の中にムスリムとクリスチャンの要素が併存
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一夫多妻の経験
~ 2 人のキリスト教徒女性~
事例① 「彼と一緒にいるのは耐えられない」
• 離婚準備中
• 「何の相談もなく他の女性と結婚するなんて理解できない」
• 「イスラームや彼の性格のせいじゃない。
        彼の行動は男性優位なマラナオ文化の影響だと思う」

事例②「夫婦ともに敬虔なムスリムになれた」

• 夫の行動を理解するためにイスラームについて学び始め、改宗した
• 夫婦でイスラームのセミナーに行くようになった
• 夫は飲酒や夜遊びの代わりに宗教活動に精を出すようになった

夫とイスラームを受け入れを拒否するか
夫とイスラームの価値をより深く内面化するかの二者択一を、
キリスト教徒の妻に迫ってしまう 44
一夫多妻の解釈
• 事例①の女性
 夫の行為を男性優位なマラナオ文化に起因する強調する。宗教の差異だけでなく
、民族・ジェンダーの差異が動員されている

• マラナオ内部の意見の多様性
夫が第二夫人と会うのを阻止しようとするマラナオ女性
第一夫人の怒りを買うのを恐れ、第二夫人との結婚を登録しないマラナオ男性
(弁護士)

• バリック・イスラームの女性達
「妻なら夫を助けるのが真のムスリム」「私の夫は若いから他に女をつくって私を捨てるか
もしれない。もしそうなったら、イスラームの専門家に何が正しいか判断してもらう」
→ 敬虔な信徒として一夫多妻を理解しようとしつつ、恐れている。イスラームでは「正し
い」一夫多妻に条件があることで少しの安心感を得ている

複数の差異が交差することで、1つの差異が絶対的かつ固定的になる
ことを回避している
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• 夫婦、家族関係の日常生活なかで「宗教の差異」が
顕在化

• だが、当事者の解釈や解決の方法は、必ずしも「あ
るべき宗教」の形にとらわれているわけではなく、
柔軟性がある。また、関係が破綻する危機があって
も「宗教が違うせい」との語りに収斂することな
く、多様な立場や解釈が許容される

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現地調査で得た知見
• 南部フィリピンにおける紛争状態の継続
⇔ 「日常」では、キリスト教徒とムスリムはいろいろ揉め事あり
つつ隣人として共に暮らしている

• 迫害されたムスリムと入植者で土地を奪ったキリスト教徒とい
うマスター・ナラティブ
⇔ 「日常」では、もっと多様な関係性が結ばれ、「ムスリム」と
「キリスト教徒」の境界線すら曖昧になっている

• 異なる位相の現実がどのように関連するかを明らかにする
つまり「日常の平和構築をどのようにマクロな平和構築につなげ
ることができるか」、「日常の共生を脅かす要因は何か(例え
ば、選挙政治における宗教言説の利用)」といった知見は、現地
社会の和平定着に寄与し得る 47
もっと知りたい人は
• ミンダナオのバナナ産業
「バナナと日本人」「甘いバナナの苦い真実」

• 公式の制度と土着の秩序の衝突、平和構築の可能性
「平和構築を支援する」

• 一般の人々にとってのミンダナオ紛争
「女性が語る紛争体験」

• イスラーム教徒とキリスト教徒の日常生活
「消えない差異と生きる」

• イスラーム伝播の歴史、分離独立運動の経緯
「海域イスラーム世界」「フィリピンのムスリム」 48
ご清聴ありがとうございました

49
『バナナと日本人』 1982 年
・多国籍企業が、現地の安い労働力を搾
取。大量の農薬散布によって環境破壊を
引き起こしながら大量のバナナを輸出
・生協を中心に、大企業を通さない小規
模交易が実現

『甘いバナナの苦い真実』 2020

・土地改革が進み、土地を所有する小作
農が増えた。企業と土地持ち農民、労働
者との関係が多様化
→ 生活改善した人と劣悪条件のままの

・環境や社会に配慮するフィリピン資本
の会社が経営するバナナ農園も出現
・輸出先も、中国や中東諸国など多様化
・企業のブランディング戦略
50
“WAR CAME TO MINDANAO”
RAPPLER 制作

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