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01 原核細胞と真核細胞

基礎 生物 prokaryotic cell and eukaryotic cell

2章 はじめに Introduction 細胞
 地球上には,現在,名前が付けられている種だけで約 175 万種にも及ぶ多種多  細胞には,原核細胞と真核細胞がある。
様な生物が存在する。これらの生物は,進化的に 3 つのグループに分けられると
原核細胞(模式図) 真核細胞(植物細胞の模式図)
考えられている( p.311)が,どの生物も細胞を基本単位としている。
染色体  核 ミトコンドリア
細 菌 古 細 菌 真 核 生 物
細胞質
(    )
染色体
を含む。
共生
好気性細菌
基質 細胞質基質 共生
ネズミ チューリップ
大腸菌 メタン菌 細胞膜 細胞膜 シアノ

・核がない ・核がある バクテリア


葉緑体
2 ・細菌と古細菌の細胞 ・真核生物の細胞

スギナ シイタケ ヘビ
肺炎双球菌

細胞

高度好塩菌  化石などの研究から,地球上に最初に誕生したのは原核細胞(原核
カブトムシ 生物)であり,真核生物は原核生物から誕生したと考えられている。
また,真核細胞に存在するさまざまな細胞内構造のなかには,もとも
と独立して生活していた別の原核生物が真核細胞内に共生することに
イシクラゲ 好熱好酸菌 イカダモ スズメ ( p.280)。
よって生じたと考えられているものがある

1 原核細胞と真核細胞
げんかくさいぼう

 細胞質基質中に染色体が存在し,核をもたない細胞を原核細胞という。核をもち,その内部に染色
しんかくさいぼう

基礎 体が存在する細胞を真核細胞という。いずれの染色体も,DNA とタンパク質を含む。

原核細胞 真核細胞

0.5µm 5µm
染色体(核様体)

リボソーム
1µm
コレラ菌
細胞膜
シアノバクテリア 細胞質基質 ミドリムシのなかま
細胞壁 細胞膜 チラコイド 細胞壁 葉緑体
液胞 核
鞭毛

プラスミド

(        )
染色体とは異なる 細胞膜
せん もう

リボソーム 染色体(核様体) 線毛 小型の環状 DNA ミトコンドリア ゴルジ体 細胞壁


原核細胞では,細胞小器官( p.22)の分化がほとんどみられない。原核細胞の多くは環状の DNA(染色体)をもつ。 真核細胞は,細胞小器官が発達している。
DNA(染色体)は線状である。

2 原核生物 基礎 げんかくせいぶつ さいきん こ さいきん

生物
 原核細胞からなる生物を原核生物という。原核生物は,細菌と古細菌に大きく分けられる
( p.311)。

 細菌には,以下に示す生物のほか,大腸菌や乳酸菌,シアノバクテ
細菌(真正細菌,バクテリア) 古細菌(アーキア)
リアなどが含まれる。
2µm 2µm 2µm 2µm  古細菌には,メタ 200nm
ン菌や好熱好酸菌な
ど が 含 ま れ る。 好
熱好酸菌は,pH2,
100 ℃以上になる温
泉などの極端な環境
でも盛んに増殖でき
るという特徴をもつ。
生物基礎

枯草菌 ミュータンス菌 カンピロバクター菌 放線菌 メタン菌 (c)


JAMSTEC

個体としては真核生物よりも著しく小さい原核生物だが,総体で考えると量・数ともに真核生物よりはるかに多い。全原核生物の生物量は,全真核生物の生物量の
20 ! 豆知識
10 倍にも達する。また,その数は,片手に一杯程度の土壌中に含まれる分でこれまで地球上に出現してきた全人類の数よりも多いと見積もられている。
3 原核細胞と真核細胞の比較 基礎
生物

❶細胞内構造の比較 (+:ある,−:ない) ❷形状の比較

真核細胞 原核細胞 真核細胞


細胞内構造 原核細胞
植物 動物 小さい(ほとんどのものは,
大きさ (ほとんどのものは,原核細胞の 10 ∼ 15 倍)
大きい
核 − + + 長さまたは直径が数 µm)
染色体 + + + エンドサイトーシスと
行わない 行う
ミトコンドリア − + + エキソサイトーシス( p.32)
ゴルジ体 − + + DNA 分子は,比較的少数の DNA 分子は,タンパク質(ヒストンなど)と染色
DNA
細胞骨格 + + + タンパク質と染色体を形成 体をつくり,細胞分裂時には凝縮して棒状になる

中心体 − + *1
+ RNA プロセシング ほとんどない 多い

小胞体 − + + 小さい(70S * 4) 大きい(80S)


リボソーム 3 分子の RNA と 55 分子のタ 4 分 子 の RNA と 82 分 子 の タ ン パ ク 質 か ら な る
リボソーム + + + 2


ンパク質からなる ( p.85)
葉緑体 −* 2 + −
* 1 コケ・シダ植物などにみられる。


細胞
リソソーム − + +
* 2 原核生物には,葉緑体はもたないがチラコイド膜をもち,光合成を行うものが存在する
(シアノバクテリアなど)

細胞壁 + + −
* 3 動物細胞にも存在するが,植物細胞で特に発達する( p.25)。
液胞 − + +*3 * 4 S
(スベドベリ)は沈降係数の単位で,大きいほど密度が大きいことを示す。

4 ウイルス 基礎
 ウイルスは,遺伝物質とタンパク質などでできている。細胞構造はもたない。代謝を行わず,他の細胞に侵入して増殖
する( p.141)。生物の特徴をすべて備えてはいないことから,生物とも無生物ともいえないと考えられる。

膜表面のタンパク質 1 本鎖 RNA
 ウイルスは種類によって,遺伝物質とし
て DNA をもつものと RNA をもつものが
ある。また,DNA,RNA ともに 1 本鎖を
RNA と結合する もつものと 2 本鎖をもつものがある。
膜(エンベロープ) タンパク質
  1 本鎖 DNA…ヒトパルボウイルス
  2 本鎖 DNA…T2 ファージ
  1 本鎖 RNA…インフルエンザウイルス,
膜を裏打ちする インフルエンザ ヒト免疫不全ウイルス
50nm タンパク質 ウイルスの遺伝
(HIV)
物 質 は,8 本 に
分かれている。   2 本鎖 RNA…ロタウイルス
インフルエンザウイルス

α α 原核細胞と真核細胞の細胞壁
プラス プラス

細胞の大きさと区画化 生物

 細胞が大きくなるとき,表面積の増大よりも,体積の増大の割合の  細胞壁は,原核細胞と真核細胞の両方にみられるが,生物によって構成成分
方が大きくなる。このため,細胞が大きくなるにつれて,細胞外と物 などに違いがみられる。
質交換を行う体積当たりの表面積は小さくなる。細胞の大きさは,生 主成分
命活動に必要な物質交換ができる,体積に対する表面積の比を維持で
グラム陽性菌※ ペプチドグリカン(糖とペプチドの化合物)層が厚い
きるサイズが上限であると考えられる。 細菌
グラム陰性菌※ ペプチドグリカン層がうすい
体積に対する表面積の比(左端を 1 とする)
古細菌 タンパク質
植物 セルロース,ヘミセルロース,ペクチン

菌類 キチン(多糖類)

1 0.5 ※グラム染色による細菌の分類。これによって細菌は 2 つに大別される。染色性


0.1 の違いは細胞壁の構造の違いによる。
1 2 10
 物質が拡散する速度は決 呼吸に関与する酵素や物質が局在 細菌の細胞壁(グラム陽性菌) 植物の細胞壁 ヘミセルロース
ペプチドグリカンの層

まっているため,細胞が大き セルロース
テイコ酸 ペクチン
くなると,必要な物質が細胞
内に行き渡らなくなる。さら
グリカン
に,酵素やさまざまな物質の
濃度が低下し,代謝速度が低
下する。真核生物は,細胞小 ペプチド
細胞膜

細胞膜

生物基礎

器官で細胞内を区画化し,代
光合成に関与する酵素や物質が局在
謝を効率よく進めている。

有名な抗生物質であるペニシリンは,ペプチドグリカンを合成する酵素に作用してその活性を阻害するため,殺菌作用を示す。主にこの理由から,グラム陽性菌に対
! 豆知識
して特に高い薬効を示すが,グラム陰性菌のなかにはペニシリンで殺菌されない種類も存在する。
21
02 真核細胞の構造と働き① 動物細胞と植物細胞
基礎 生物 structure and function of eukaryotic cell part 1

1 真核細胞の構造 さいぼうしつ
基礎
生物
動物細胞

 動物細胞と植物細胞には,核と細胞質(細胞の内部から核
を除いた部分で細胞膜を最外層とする)が共通に存在する。 細胞質基質
げんけいしつ

核と細胞質を合わせて原形質という。細胞内で特定の働きを
さ い ぼ う しょう き か ん

もつ構造体を細胞小器官と呼ぶ。 ミトコンドリア
細胞骨格
細胞質基質
細胞膜
 細胞小器官の間を埋める,粘性のある液状の部分。水・ア
ミノ酸・タンパク質などを含む。さまざまな酵素が存在し,
化学反応の場となる。

2 細胞内含有物 核膜孔 ゴルジ体


核膜
核小体

細胞

 デンプン粒やシュウ酸カルシウムの結晶など,細胞の 核
生命活動に伴って生じる貯蔵物質や老廃物は,細胞内含
有物と呼ばれる。これらは,それぞれ特定の細胞小器官 中心体
内に存在する。
50µm 50µm

アミロプラスト

(    )
ヨウ素溶 リソソーム
アミロプラスト 滑面小胞体
液で染色

ジャガイモの塊茎の細胞
(左は光学顕微鏡,右は走査型電子顕微鏡で観察したもの) 粗面小胞体
細胞骨格 リボソーム
アミロプラストの中にデンプン粒が貯蔵されている。

2 核の構造と働き 基礎
生物

❶核の構造 基礎 生物

 大きさは細胞によって異なるが,直径 3 ∼ 10µm 程度の球形または楕円形の構造体


核膜孔 核小体
で,遺伝物質を含む。ふつう,細胞に 1 個含まれる。細胞の生存や増殖に不可欠な構
造体で,遺伝情報の保持と発現に重要な役割を果たす。
かくまく かくまくこう

・核膜…二重の膜。核内と細胞質間の物質の通路となる核膜孔がある。核膜を内側か
ら裏打ちする網目状のタンパク質からなる構造体は核ラミナと呼ばれる。核ラミナ
の主な構成成分はラミンと呼ばれる中間径フィラメントの一種である ( p.26)。
か く しょう た い

・核小体…リボソーム RNA の転写とリボソームの組み立てを行う。1 つの核に 1 ∼


じん

数個存在する。仁とも呼ばれる。
せ ん しょく た い

・染色体…DNA とヒストンなどのタンパク質の複合体で,塩基性色素でよく染まる
5µm ( p.74)。
核膜 染色体

❷カサノリの再生実験 基礎 りょく そ う る い

 カサノリは,暖海に生育する単細胞の緑藻類(
切断 p.312)である。生殖期のからだは,かさ(直径 1 ∼
M 種のかさ
(M 種)

を再生する。 1.5cm),柄(4 ∼ 6cm),仮根(1 個の核を含む)から


なる。
 カサノリのかさの形は,仮根に含まれる核によっ
別種の柄 M 種と C 種の中間 て決まる。かさを除去すると,核内でかさの形成に
のかさを再生 必要な mRNA が合成され,柄に送り出される。M
をつぐ。
(C 種)

切断 C 種のかさ 種と C 種の中間形のかさができるのは,柄に両方の
生物基礎

1cm を再生する。 mRNA が存在しているからである。


M 型:Acetabularia mediceranea
カサノリ(緑藻類) C 型:Acetabularia crenata

22 ! 豆知識 カサノリは,その形状から英語では「マーメイド(人魚の)ワイングラス」と呼ばれている。
植物細胞 細胞膜
細胞壁
整理 細胞の構成
細胞骨格 動物細胞と植物細胞で 植物細胞のみに
共通にみられる構造 みられる構造
細胞質基質
核・細胞膜・ミトコンドリ
ア・ゴルジ体・中心体・液
液胞 色素体(葉緑体,白色体,
滑面小胞体 胞・小胞体・リボソーム・
有色体)・細胞壁
リソソーム・細胞骨格・細
胞質基質・細胞内含有物
 中心体は,シダ植物・コケ植物・一部の裸子植物にも


みられる。
核膜孔 2


 液胞は,動物細胞では小さく目立たない。


細胞
核膜 核 リボソーム
光学顕微鏡で見えない構造
核小体
小胞体・リボソーム・リソソーム
 大きなリソソームは,光学顕微鏡でも観察できる。

一重膜の構造 二重膜の構造

粗面小胞体 細胞膜・ゴルジ体・液胞・ 核・ミトコンドリア・色


小胞体・リソソーム 素体
ゴルジ体

(       )
植物細胞のゴ
リソソーム ルジ体は,光
学顕微鏡では

α ミトコンドリアの融合と分裂
色素体 プラス
観察できない。

 赤色と緑色の蛍光タンパク質でそれぞれミトコンド
葉緑体
ミトコンドリア リアを標識した細胞(写真は HeLa 細胞)を細胞融合さ
せると,時間の経過とともに黄色のミトコンドリアが
見られるようになる。これは,赤色と緑色の蛍光タン

3 ミトコンドリア 基礎
生物
パク質をもつミトコンドリアどうしが融合したもので
ある。ミトコンドリアは,このような融合と分裂をく
 常に融合と分裂をくり返して変形しており,粒状,棒状,網目状などの形態をとる。 り返し,細胞内で形態を頻繁に変化させている。
形態は,細胞の状態,組織,生物種などによって異なる。内外二重の 8µm
膜でできている。細胞内の呼吸の場で ATP を生産する。
独自の環状 DNA をもち,分裂・増殖することから,
その起源は原核生物と考えられている( p.280)。
ヤヌスグリーンで青緑色に
染色される。 外膜
内膜 細胞融合前

クリステ
8µm
マトリックス

2 時間後

環状 DNA

網目状のミトコンドリア(マウスの皮膚の細胞)
・内膜…電子伝達系( p.62)に関与する酵素群が
存在する。
生物基礎

・クリステ…内膜が内側に突出した部分。
・マトリックス…内膜に囲まれた部分。クエン酸 0.4µm 9 時間後
回路( p.62)の酵素群が含まれる。
細胞内部は,模式図では構造体間に比較的余裕があるかのように描かれるが,実際には RNA やタンパク質などのさまざまな分子がひしめきあうように存在している
! 豆知識
( p.89)。
23
03 真核細胞の構造と働き② さまざまな細胞小器官
基礎 生物 structure and function of eukaryotic cell part 2

1 小胞体 生物 2 リボソーム 生物

 細胞質基質中に広がる管状または袋状の一重膜の構造体である。表面にリボソームが付着した領域を   直 径 25nm 程 度 の 小 粒 で, リ ボ ソ ー ム RNA


そ め ん しょう ほ う た い か つ め ん しょう ほ う た い

粗面小胞体,リボソームが付着していない領域を滑面小胞体という。粗面小胞体は,リボソームで合成 (rRNA) と タ ン パ ク 質 か ら で き て い る。 伝 令
されたタンパク質を取り込み,ゴルジ体へ輸送する。滑面小胞体は,脂質の合成や毒物の解毒,細胞内 RNA(mRNA)の塩基配列にもとづいたタンパク
の Ca2 +の濃度調節(特に,滑面小胞体が特殊化した筋小胞体( p.217))
などに関与している。 質合成が行われる場となる。小胞体に付着してい
るものと,細胞質基質に遊離しているものがある。

rRNA

リボソーム
大サブ

ユニット
2 25

nm
小胞体

細胞

0.2µm 滑面小胞体
粗面 小サブ
0.2µm ユニット
粗面小胞体とリボソーム 滑面小胞体 リボソーム 小胞体

3 ゴルジ体
へんぺい
生物 4 中心体 生物
ちゅう し ん しょう た い ちゅう し ん りゅう

 扁平な円板状で,一重膜でできている袋(ゴルジのう)が重なった  直径約 0.2µm,長さ約 0.4µm の 1 対の中心小体(中心粒)と,周囲にある特有のタン


構造と,周囲の球状構造からなる。ゴルジ体では,小胞体から送ら パク質から構成されている。各中心小体は,3 つの微小管が連なった三連微小管が 9
れてきたタンパク質や脂質に糖を付加するなどの修飾が行われる。 組環状に配列した構造をしている。細胞分裂時には,紡錘糸の起点となる。また,真
さらに,これらの物質を小胞に包んで送り出し,細胞内外への物質 核生物では, 毛や繊毛の形成に関与する。動物細胞のほか,コケ植物,シダ植物の
輸送を調節している。分泌細胞に多く含まれる。 一部,および裸子植物であるソテツなどの精細胞にも存在する。
微小管

ゴルジのう
中心小体

ゴルジ小胞

3µm
0.2µm

C atch
a t c h Up
キャッチアップ
Up 小胞による輸送 
 小胞体からゴルジ体,ゴルジ体から細胞各部や細胞外へは,小胞によって物質が輸送される。小胞の輸送は,細胞骨格
( p.26)に沿って行われる。

核膜 酵素を含 ゴルジ体
小胞体 んだ小胞 新しいゴルジのう 分泌小胞
ゴルジのう

シス面 トランス面
小胞体か Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ Ⅱ Ⅰ’ Ⅱ’ Ⅲ’
ら運ばれ
た小胞

分泌小胞

酵素を含んだ小胞は,シス面 はじめのⅢのゴルジ
細胞膜 細胞外 側へ送られ,小胞体からの小 しだいにシス面に新し のうは,分泌小胞と
ゴルジ体 胞やゴルジのうと融合する。 いゴルジのうができる。 なる。

 ゴルジ体では,ゴルジのうごとに異なる酵素が含まれており,段階的  ゴルジ体におけるタンパク質の段階的な修飾は,タンパク質が異なる酵素を
にタンパク質の修飾が行われる。ゴルジ体において,小胞体からタンパ 含むゴルジのうに輸送されて起こるのではなく,酵素が移動することによって
ク質が輸送されてくる側をシス面,反対側の分泌小胞を送り出す側をト 起こっている。すなわち,各ゴルジのうに含まれている酵素は,小胞に包まれ
ランス面という。 てシス面側のゴルジのうへと送られ,これによってゴルジのう内のタンパク質
は段階的に修飾されていく。

24 ! 豆知識 ゴルジ体は,イタリアの病理学者ゴルジがフクロウの神経細胞で発見した。ゴルジ体の名前は発見者の名前に由来する。
5 葉緑体(色素体) 基礎
生物
 色素体には,葉緑体,有色体,白色体,アミロプラストがある。葉緑体は光合成の場となる。

色素体 基礎 葉緑体の構造 基礎 生物 外膜 ストロマ


包膜
内膜

白色体

環状
有色体 1µm DNA
チラコイド グラナ
50µm 50µm  直径 5 ∼ 10µm,厚さ 2 ∼ 3µm の楕円体または凸レンズ形をした構造体で,二重の
2µm 膜からなる。クロロフィルなどの光合成色素を含み,光合成を行う。独自の環状 DNA
有色体 白色体 アミロプラスト


をもち,分裂・増殖を行うことから,その起源はシアノバクテリアと考えられている。
・有色体…カロテノイドを含み,黄色または赤色を呈する。 ・チラコイド…クロロフィルを含む扁平な袋状の膜構造。光エネルギーを吸収する。 2


・白色体…色素を含まない。未分化な膜構造が認められることがある。・グラナ…チラコイドが密に積み重なっている部分。


細胞
デンプンを貯蔵するものは,特にアミロプラストと呼ばれる。 ・ストロマ…チラコイドの間を満たしている部分で,二酸化炭素の固定が行われる。

C atch
a t c h Up
キャッチアップ
Up 葉緑体間の連絡 生物
 近年,個々の葉緑体は互いに連絡している 伸長している
ことがわかってきた。葉緑体どうしは,外 ストロ
葉緑体
膜と外膜,内膜と内膜がつながったストロ ミュール ストロミュール
ミュールと呼ばれる細い管でつながる。生き 短縮して
いるストロ
ている細胞では,ストロミュールを伸長させ
ミュール
たり短縮させたりし,これを通じて互いに物 葉緑体
ストロミュール
質のやり取りを行っている。

6 リソソーム 生物 8 ペルオキシソーム 生物

 一重膜でできた直径  一重膜でできた直径 1µm 程度の小胞で,真核生物に普遍的に存在する。内部にはさまざまな


0.4 ∼数µm の小胞で,ゴ 物質を酸化する酵素と,酸化反応によって生じる有害な過酸化水素を分解する酵素カタラーゼ
ルジ体から生じる。内部 ( p.48)を含んでいる。植物には,各組織に特殊化したペルオキシソームが存在し,代表的な
は酸性で多数の消化酵素 ものに,光呼吸 ( p.53)に関与するものや,脂肪から糖を合成するグリオキシソームがある。
を含む。古い細胞小器官
や細胞外から取り込んだ
異物の消化に関わる。
0.5µm
9 細胞壁 基礎
生物

 セルロースやペクチンなどを主成分とする構造物で,

7 液胞 基礎
生物
細胞質を取り囲む。若い植物の細胞壁は,一次細胞壁と
呼ばれる。成長した植物細胞では,一次細胞壁の内側に
 一重膜からなり,内部に細胞液を 二次細胞壁が発達することがある。二次細胞壁には,主 セルロースを
液胞 0.5µm
含む。動物細胞にも存在するが,植 成分のセルロースのほかにリグニンが沈着したもの(木 主成分とする構造
物細胞で特に発達する。浸透圧の調 化)やスベリンが沈着したもの(コルク化)などがある。
節や,不要物の貯蔵・分解,糖類・

α 植物細胞間の連絡
アントシアンなどのフラボノイドの プラス
貯蔵を行う。 生物
 植物細胞が成長して細胞が大型化 げんけいしつ

する際には,主に液胞の体積が増加  植物の細胞壁には,隣り合う細胞どうしの細胞膜がつながり,細胞質が混ざり合う原形質
れんらく

する。これには,細胞内の物質濃度 連絡と呼ばれる部分が存在する。多くの原形質連絡では,滑面小胞体どうしが管でつながっ
を変えずに細胞全体が大型化できる ている。原形質連絡を通じて,さまざまな物質交換が行われる。
という利点がある。 小胞体
細胞壁
 写真では,液胞膜を緑色に,細胞 10µm 細胞壁
細胞壁
壁を赤色にそれぞれ着色している。 細胞膜
核 液胞
原形質
原形質 連絡
連絡
生物基礎

植物細胞の成長
植物細胞は,細胞質の体積をふやすのでは 小胞体
細胞膜
なく,液胞を拡大させて伸長する。

! 豆知識 果物の「果汁」は,その大部分が液胞内に含まれる細胞液である。 25
04 真核細胞の構造と働き③ 細胞骨格と細胞接着
生物 structure and function of eukaryotic cell part 3

1 細胞骨格
さいぼうこっかく

 細胞質基質中に存在し,細胞の形の保持などに関係する繊維状構造を細胞骨格という。真核生物の細胞骨格は,繊維
び しょう か ん ちゅう か ん け い

生物 の直径や形態から微小管,アクチンフィラメント,中間径フィラメントに大別される。

アクチン 中間径 微小管 アクチンフィラメント 中間径フィラメント


フィラメント フィラメント (蛍光染色) (蛍光染色) (蛍光染色)

2 チュー 5~9nm アクチン分子 10nm


24~25 ブリン
nm

細胞

中心体 核 微小管 チューブリン(タンパク質)が重合した繊 アクチン分子が重合した繊維である。細 ケラチン繊維などからなる。微小管とアク


維である。細胞内輸送の輸送路となり, 胞膜直下に多く存在し,原形質流動やア チンフィラメントの中間の太さをもつ。安
動物の上皮細胞に
細胞分裂時の染色体分離に関与する。 メーバ運動,筋収縮に深く関与している。 定な構造で,細胞の機械的な強度を高める。
おける細胞骨格

2 細胞骨格と物質輸送 生物
 細胞骨格は細胞小器官を保持したりするほか,細胞内の物質輸送に関与する。

❶アクチンフィラメントにおける物質輸送 ❷微小管における物質輸送

 細胞骨格に結合し,ATP の分解によって放出され ニューロン


るエネルギーを利用して動くタンパク質をモータータ 樹状突起 タンパク質や小胞, (-) 微小管 (+)
ンパク質という。ミオシンは,アクチンフィラメント 細胞小器官,mRNA
軸索
と結合して働くモータータンパク質で,細胞小器官な 核 など
どの細胞質中の成分を輸送する。
ダイニン キネシン
細胞膜
葉緑体 アクチンフィラメント
微小管 代謝産物など 軸索末端
細胞体

ミオシン  微小管は,中心体を起点として細胞質全体に分布している。微小管には方向性があり,活発に伸
ミオシン 長・短縮が起こる端を+端,比較的安定している端を−端と呼ぶ。キネシンとダイニンは,微小管に
アクチン
フィラメント 結合して働くモータータンパク質である。
 ニューロン( p.208)では,多くの微小管が細胞体から軸索末端まで同じ方向に並んでいる。キネ
細胞小器官など
シンは主に+端方向へ移動し,細胞体から軸索末端方向へ軸索末端での情報伝達に必要な物質などを
輸送する。一方,ダイニンは−端方向へ移動し,軸索末端から細胞体方向への輸送を担当している。

3 細胞の形態形成に関わる細胞骨格
原形質流動
生物

❶アメーバ運動 ❷中間径フィラメント
 細胞の外形が変化せず,細胞膜より内側の細胞
げ ん け い し つ りゅう ど う

質が流動する現象を原形質流動(細胞質流動)とい  アメーバなどにみられる細胞の変形を伴った運動  中間径フィラメントは,細胞内や核膜近傍に


う。これは,アクチンフィラメントに沿ってミオ をアメーバ運動という。アクチンフィラメントは, 存在し,張力に対する抵抗力をもたらして構造
シンが物質を輸送することで起こる。原形質流動 後部で解体され,前方で新たにつくられて突起が形 を支持する。核膜を裏打ちするものは,特に核
は死んだ細胞ではみられない。 成される
(仮足)。このくり返しで細胞が前進する。 ラミナと呼ばれる。細胞内では,デスモソーム
と,また,上皮細胞などではヘミデスモソーム
内質ゾル 外質ゲル
仮足 と結合する。このように組織全体が連結される
ことで,機械的な強度が高められる。
中間径フィラメント デスモソーム

ゲル→ゾル アクチン分子 ゾル→ゲル


アクチンフィラメント
30µm
重合

オオカナダモの葉緑体の原形質流動
ゾル 脱重合 ゲル
基底膜 ヘミデスモソーム

細胞骨格は真核細胞のみに存在すると考えられてきたが,原核細胞にも真核細胞のものと同様の構造が存在することがわかっている。チューブリンに似た構造の
26 ! 豆知識
FtsZ やアクチンに似た MreB,中間径フィラメントに似た CreS といったタンパク質が知られている。
4 細胞外基質
α
プラス

毛や繊毛の運動 生物
さい

 細胞の外部に存在する構造を総称して,細 プロテオグリカン
べん ぼうがい き しつ 細胞外
 モータータンパク質であるダイニンは, 胞外基質(細胞外マトリックス)という。
もう

毛や繊毛の運動にも関与している。 毛や繊  脊椎動物における細胞外基質の主な成分は,


毛を構成する微小管の間に存在するダイニン ・コラーゲン コラーゲン
は,一方の微小管と結合して他方の微小管上 ・プロテオグリカン
を移動する。微小管どうしは,連結タンパク ・糖タンパク質(フィブロネクチン,ラミニ
フィブロ
質で部分的につなぎとめられているため,ダ ンなど) ネクチン
イニンの移動が生じると, 毛や繊毛が曲が ・多糖類(ヒアルロン酸など)
る。 に大別される。
屈曲
インテグリン
ダイニン


 動物の細胞膜には,インテグリンと呼ば
れるタンパク質が存在する。インテグリン 2
繊毛


微小管
は,細胞外では細胞外基質と,細胞内では細


細胞
連結 胞骨格と結合し,細胞内外を連結して統合
アクチン 細胞質基質
タンパク質 (integrate)
している。 インテグリン
フィラメント

5 上皮細胞における細胞接着と細胞骨格 生物
 細胞と細胞,細胞と細胞外基質は,種々のタンパク質によって
接着している。

密着結合 固定結合
細胞膜(脂質二重層で示している)
細胞間接着

細胞間隙 接着結合
細胞膜

カテニン
密着結合

アクチン
カドヘリン
フィラメント
隣り合う細胞膜
デスモソーム
ギャップ結合 細胞膜
 心筋に多く存在する。ギャッ 細胞外基質 カドヘリン
プ結合を介して物質をやりと の一種
りし,隣接する細胞が同調し
細胞̶細胞外基質間接着
て動くことに貢献する。
ヘミデスモソーム 接着斑 円板状の
コネクソン 細胞膜 構造
中間径 アクチン
フィラメント フィラメント

細胞膜 中間径
細胞膜
インテグリン 細胞外 フィラメント
細胞外基質
基質
2 個のコネクソン 基底膜の構成成分
からなるチャネル

細胞接着 接着の機構 結合の対象 主な役割 結合する細胞骨格


細胞間からの物質漏出防止,
密着結合 密着結合タンパク質どうしが結合 細胞間
膜タンパク質の移動防止

接着結合 カドヘリン( p.179)によって結合 細胞間 細胞の形態保持 アクチンフィラメント


デスモソーム カドヘリンによって結合 細胞間 細胞の形態保持 中間径フィラメント
固定結合
接着斑 インテグリンを介して結合 細胞−細胞外基質間 細胞運動,情報伝達など アクチンフィラメント

ヘミデスモソーム インテグリンを介して結合 細胞−細胞外基質間 細胞運動,情報伝達など 中間径フィラメント


ギャップ結合 コネクソンを介して結合 細胞間 細胞の形態保持,物質の透過

コラーゲンはヒトのからだの全タンパク質の約半分を占めている。経口摂取をしても消化によって低分子のアミノ酸に分解されるため,コラーゲンを多く含む食品を
! 豆知識
食べても直接的に体内のコラーゲン量が増えるわけではない。
27
05 細胞と浸透現象
基礎 生物 cell and osmotic phenomenon

1 拡散と浸透
かくさん

 溶質が水などの溶媒中に均一に広がる現象を拡散という。溶媒や一部の溶質は通すが,他の溶質は通さない性質を
はんとうせい はんとうまく

基礎 半透性といい,半透性を示す膜を半透膜という。細胞膜は半透膜に近い性質をもつ。

❶拡散 ❷浸透  溶液の浸透圧の求め方 P=R×C×T


P:溶液の浸透圧〔Pa〕 R:気体定数(8.3 × 10〔
3
Pa・L/(K・mol〕)

(     )
半透膜
水分子 C:溶液のモル濃度〔mol/L〕T:絶対温度〔K〕 (T =〔℃〕 + 273)
セロハンなど。 t
水分子は通すが
スクロース分子 スクロース分子 浸透圧は,モル濃度と溶液の温度(絶対温度)に比例する。
は通さない。
スクロース
浸透圧 着色した
拡散 浸透 分子
スクロース
水分子 溶液
h

溶媒分子も溶質 溶媒分子のみが
半透膜
2 分子も自由に動 膜を透過し,均

き,均一な溶液 一な状態になろ
半透膜

細胞

になる。 うとする。

浸透圧 水圧
 分子やイオンなどが膜を透過して拡散する 蒸留水
  溶媒:物質を溶かしている液体 しんとう

現象を浸透という。また,浸透を受ける側の
  溶質:溶けている物質 しんとうあつ

溶液に加わる圧力を浸透圧という。 液面の差(h)からスクロース溶液の浸透圧を求めることもできる。

2 動物細胞と浸透 基礎
生物 3 植物細胞と浸透 生物

ヒトの赤血球 細胞の浸透圧 液胞 細胞壁(溶媒も溶質も透過させる)


外液の浸透圧 細胞膜(半透膜に近い性質)
核 細胞質基質

植物細胞
高張液 等張液 低張液 蒸留水
水 水 水 水 高張液 等張液 低張液 蒸留水
浸した直後

浸した直後

水が細胞外へ 見た目上,水の 水が細胞内へ 水が細胞内へ 水 水 水


浸透する。 出入りはない。 浸透する。 浸透する。 水

見た目上,水の出入り 水が細胞内へ浸透する。 水が細胞内に浸透する。


体積変化停止後

水が細胞外へ浸透する。 はない。 膨圧が発生する。 膨圧が発生する。


体積変化停止後

収縮 体積変化なし 膨張 破裂*
*赤血球の 膨圧
場合,特に
よう けつ 細胞の浸透圧 細胞の浸透圧 細胞の浸透圧 細胞の浸透圧=膨圧
溶血という。   =外液の浸透圧   =外液の浸透圧 =外液の浸透圧+膨圧 (外液の浸透圧は 0)
原形質分離 限界原形質分離 緊張状態

高張液:細胞よりも浸透圧の高い溶液
等張液:細胞と浸透圧が同じ溶液
低張液:細胞よりも浸透圧の低い溶液

生理食塩水  NaCl のみを含む等張液。


 ヒト(恒温動物)では約 0.9%。カエルでは 0.65%。 40µm

生理的塩類溶液  各種の塩類を混合して体液( p.114)の組成に 原形質分離  細胞を高張液に浸したとき,細胞膜が細胞壁から分離する現象。


近づけた等張液。リンガー液はその一種である。
限界原形質分離  細胞を等張液に浸したときにみられる,細胞膜が細胞壁から分離
生理的塩類溶液(g/L) するかしないかの限界の状態。
ヒト カエル メダカ
膨圧  細胞を低張液や蒸留水に浸したとき,細胞内部に生じる細胞壁を押し広げよ
NaCl 8.5 6.5 7.5
生物基礎

うとする力。
KCl 0.20 0.14 0.2
CaCl2 0.20 0.12 0.2 原形質復帰  原形質分離を起こした細胞を低張液や蒸留水に移したとき,細胞が吸
NaHCO3 0.20 0.1 ∼ 0.2 0.02 水して緊張状態に回復する現象。
ヒトの赤血球には,細胞膜以外の膜構造をもつ細胞小器官は存在しない。そのため,赤血球を溶血させると,生体膜だけを容易に得ることができる。溶血によって得
28 ! 豆知識
られた赤血球膜(ゴースト)は,生体膜の研究によく利用される。
探究 1 植物細胞と浸透
基礎 生物 発展

 目 的  ユキノシタの葉の表皮細胞をいろいろな濃度のスクロース溶液に浸し,細胞内の変化を観察して細胞の濃度を考察する。

 準 備   方 法 

①裏面が濃い赤色の葉を選び,カミソ ② 16%,12%,8%,4% の ス ク ③表皮の小片をスライドガラスにのせ,


 ユキノシタ(多年生草本)は,石垣や山
のすそ野などのやや湿った場所に生える。 リの刃で裏面に 5mm 四方の切り込み ロース溶液および蒸留水(0%)に,それを浸しておいた液で封じてプレパ 2


葉の裏面表皮の細胞は,液胞中にアント を入れたのち,ピンセットで表皮の小 それぞれ表皮の小片を約 10 分間 ラートを作成する。


細胞
シアンを含み,赤色を呈す。 片をはぎ取る。 浸す。

 結果・考察 
16%(原形質分離の割合 100%) 12%(割合 80%) 8%(割合 50%) 4%(割合 0%) 蒸留水(割合 0%)

色素の
少ない細胞

50µm
高張液 等張液 低張液
赤色の部分が細胞壁から離れ,ほとんどの細胞で原形質分離が 約半数の細胞で原形質分離 各細胞は,全体的にふくらんで緊張した状態を保っており,原
みられる。液胞の成分が濃縮され,赤色が濃く見える。 がみられる。 形質分離はみられない。

 参考 
 原形質分離を起こし しおれ≠原形質分離
たプレパラートのスク
ロース溶液を水に置き  自然界において,植物細胞は緊張状態にあり,膨圧
換えると,原形質の体 の力によってからだを支えている。このため,水分の
積がしだいに大きくな 不足によって膨圧が小さくなると植物はしおれる。こ
り,原形質復帰が観察 のときの植物細胞を観察すると,細胞膜は細胞壁に
される。 40µm くっついたまま,細胞壁ごと潰れているようすが観察
される。
原形質分離を起こした植物細胞を蒸留 植物細胞を低張液に浸したある時点での吸収力(S)は,
 原形質分離は,細胞外液の浸透圧が細胞内よりも高
水に浸した際にみられる圧力の変化 S =細胞内外の浸透圧差−膨圧(W) で表される。 くなるという非常に特殊な状況下で起こる現象である。
(×105) 蒸留水に浸した場合,外液の浸透圧は 0 であるため,
細胞の浸透圧(P) このような状況は,自然界ではめったにみられないも
15 S = P − W となる。 のである。
原形質の体積変化停止後の細胞の吸水力は 0 となる。

S=P-W S=0
吸水力

(Pa) 10 (P=W)
限界原形質分離

S=P
(膨圧=0)

吸水力(S)
吸水力

(S) 30µm
 

5 原形質分離
正常な細胞(オオカナダモ)原形質分離を起こした細胞
膨圧(W)

0
90 100 原形質の体積 110 120
(相対値)
原形質分離 限界原形質分離 緊張状態
細胞の浸透圧 膨圧 90µm
1 晩乾燥させた細胞
生物基礎

吸水力
乾燥させた細胞(下段)では,葉緑体が一様に分布してい
ることから,原形質分離は起きていないと考えられる。

! 豆知識 原形質分離の観察には,ユキノシタの細胞のほかにも,ムラサキツユクサのおしべの毛の細胞や大型の細胞であるアオミドロなどが適している。 29
06 細胞膜の構造と働き① 膜の構造と膜を介した物質輸送
生物 structure and function of plasma membrane part 1

1 細胞膜の構造 生物
 生体膜は,リン脂質の二重層中にタンパク質がモザイク状に分布した構造をもつ。リン脂質もタンパク質も,
細胞膜中を水平方向に移動したり回転したりできる(流動モザイクモデル)

 細胞膜中のタンパク質には,糖鎖が結合しているもの(糖タンパク質)がある。糖鎖の部分は,細胞相互の認識や細胞 細胞膜
間情報伝達に働いていると考えられている。
受容体タンパク質 細胞膜
0.1µm
細胞外 糖タンパク質 糖脂質 特定の物質と結合し, 細胞膜の断面
その情報を細胞内へ 親水部が黒く見える。
伝える(  p.32)。
糖鎖 リン脂質 疎水部どうしが向かい合っ
て二重層を形成する。

リン脂質
頭部(親水部)

O
2 P

C

細胞

H 尾部(疎水部)

輸送タンパク質 細胞接着に関するタンパク質
5~6nm 細胞骨格 特定の物質の輸送を担う。輸送体とチャネルがある。 細胞外基質や隣接する細胞と結合
ゆ そう たい
核やミトコンドリア,葉緑体などを構
コレステロール 輸送体…輸送する物質が結合すると,構造を変化さ するなどして組織や器官の形成に
成する膜も,細胞膜と同じような構造
せてその物質を輸送する。 重要な役割を担う(  p.27)。
細胞質基質 をもつ。これら細胞小器官の膜および
チャネル…物質輸送の通路となる小孔を形成する。
細胞膜は,生体膜と総称される。

2 受動輸送
じゅどう ゆ そう

 膜両側の濃度勾配に従って,物質が移動する現象を受動輸送という。受動輸送はエネルギーを必要としない。受動輸
生物 送には輸送タンパク質を介さない単純拡散と,輸送タンパク質を介する促進拡散とがある。

❶単純拡散  リン脂質二重層に対する分子の透過速度は,物質の大きさや性質によって大 分子の大きさと細胞膜の透過性(硫黄細菌の場合)


きく異なる。 尿素
3.5
小さい分子 脂溶性分子 大きい分子 イオン
3.0 エチレングリコール
O2,CO2, アルコール, タンパク質, H ,Na ,K ,
+ + +
透過性

エーテルなど スクロースなど Cl など グリセリン



H2O,尿素など

ジメチル尿素
(相対値)

2.0
ジエチル尿素
メチル尿素

注:H2O の透過速度
1.0 グルコース スクロース
ほとんど ほとんど
  は小さい(  p.31)
。 透過しない。 透過しない。 マンニトール
0.3
❷輸送体による受動輸送(促進拡散)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
グルコース (a)グルコースが (b)構造変化を 分子の大きさ(相対値)
グルコース輸送体 結合する。 起こす。  赤血球の細胞膜などに
みられるグルコース輸送 脂質溶解性と細胞膜の透過性(シャジクモの細胞の場合)
体は濃度勾配に従ってグ 水 メタノール
ルコースを輸送する。 -3
10 トリメチルクエン酸
 輸送の際に,物質の結 グリセロールメチルエステル
透過速度

細胞内 合・構造変化を伴うので, ジメチル尿素


(c)
はじめの構造に戻る。 グリセロールエチルエステル
輸送速度は大きくない。
-4
10
( /秒)

エチレングリコール モノアセチン
❸チャネルによる受動輸送(促進拡散)
mm
エチル尿素

閉じているとき 開いているとき 尿素 メチル尿素


 イオンの多くはチャネルを -5
10
通じて移動する。通過させる ※点の大きさは各分子の
イオン
イオンを選択するチャネル  大きさとほぼ比例する。
も 多 い。 チ ャ ネ ル の 開 閉 に -4 -3 -2 -1
10 10 10 10
関与する刺激には,電流(
脂質への溶けやすさ(相対値)
p.210)や神経伝達物質(
刺激 p.211)などがある。  シャジクモの細胞の細胞膜には,アクアポリン( p.31)
細胞内 チャネル  物質は連続的に通過するの がある。このため,水は,脂質への溶けやすさは小さいが,
で輸送速度は大きい。 透過速度が大きい。
アクアポリンは,1988 年,アメリカの医学博士・分子生物学者であるアグレが発見した。彼はこのアクアポリンの発見とその機能解析の業績によって,2003 年,マ
30 ! 豆知識
キノンとともにノーベル化学賞を受賞した。
α α 細胞膜の流動性
プラス プラス

アクアポリン
 水は極性分子であり,単純拡散による細胞膜の透過速度はあまり大きくない。しかしながら,  細胞膜を蛍光染色したのち,一部に強力なレーザー
水分子を特異的に透過させるアクアポリンというチャネルが細胞膜に存在する場合,細胞膜の 光を当てると,その部分の蛍光は一瞬失われるが,す
水の透過速度はきわめて大きくなる( p.30)。アクアポリンは,水の移動が盛んな組織の細 ぐに回復する。これは,細胞膜の構成物質が盛んに流
胞に多く存在する( p.119)。 動するため,蛍光が失われた部分が拡散したことによ
る。
細胞外 水分子 細胞膜に局在している
水分子 アクアポリン(赤) レーザー照射に
よる蛍光の消失


細胞膜の脂質二重層 アクアポリン 核(青) 4µm 写真提供:オリンパス株式会社
2


細胞内 アクアポリン ラットの腎細管 レーザー照射前 レーザー照射直後 蛍光の回復


細胞
3 能動輸送
のうどう ゆ そう

 膜両側の濃度勾配に逆らって,物質が移動する現象を能動輸送という。能動輸送は,輸送タンパク質を介して行われ,
生物 ATP( p.44)や,他の溶質の濃度勾配といったエネルギーを必要とする。
 ATP や酸化還元エネルギーなどを直接消費する能動輸送は一次能動輸送と呼ばれる。また,
❶一次能動輸送
細胞膜にみられる,エネルギーを消費して物質を輸送するしくみは,ポンプと呼ばれる。
 細胞膜のもつ,特定の物質を選
(a) 細胞内の (b) ATPのエネ (c)
Na+を細胞外 (d)細 胞 外 の 2 (e)
はじめの  動物細胞の細胞膜には, せんたくてきとう

択的に透過させる特性を選択的透
3 つ の Na+と ルギーで立体構 へ放出する。 つの K+と結合 構造に戻り, Na+- K+- ATPアーゼという か せい

過性という。これは,リン脂質二
細胞外 結合する。 造を変える。 する。 K+を細胞内 輸送体が存在する。この
に放出する。 重層の特性や輸送タンパク質の働
ナトリウムポンプ K+ 輸送体は,ATP を分解し,
きによって生じる。
Na +
そのエネルギーを利用し
濃度

て Na+の細胞外への排出と,
K+ K+の細胞内への取り込み
濃度

赤血球内外のイオン濃度
を行う。このような能動
輸送のしくみは,ナトリ 細胞外液
140
ATP ADP (血しょう) 110
細胞内 ウムポンプとも呼ばれる。 Na+
Na+
Ca2+ Cl-
4.5 5
 能動輸送には,一次能動輸送などによって形成された物質の濃度勾配をエネルギーとして利用
❷二次能動輸送 5
するものもある。これは,二次能動輸送と呼ばれる。 15
(a)細 胞 外 の 2 つ (b)グルコースと (c)構造変化を起 (d)Na+,グルコー  小腸上皮細胞などにみ 赤血球内液
K+
細胞外 の Na+と結合する。 結合する。 こす。 スを細胞内に放出 られる輸送体は,Na+の 140
Na+ グルコース する。 濃度勾配に従った輸送に (数値の単位は 10- 3mol/L)
Na+ 伴って,同時にグルコー
濃度

 細胞膜が選択的透過性をもつた
グルコース

きょう や く ゆ そ う

スを輸送する(共役輸送)。 め,各種イオンの濃度はそれぞれ
この場合,Na+の濃度勾 細胞内外で異なる。Na + と K + の
濃度

配がエネルギーとして利 場合,その濃度差はナトリウムポ
用される。 ンプの働きによって維持される。
細胞内 (e)はじめの構造に戻る。

4 小腸上皮細胞におけるグルコースの輸送 生物
 小腸上皮細胞では,受動輸送と能動輸送が組み合わさっ
てグルコースが輸送される。
 小腸の上皮細胞(単層上皮, p.38)の細胞膜では,特定
頂頭部 微柔毛 Na+ グルコース
腸内

のタンパク質が特定の場所に存在する。これによって,グ

ルコースは一方向に輸送され,体内に吸収される。
① 頂頭部(吸収を行う側)
 Na+に依存したグルコースの共役輸送を行う輸送体が存
高(グルコース濃度) 高

在し,細胞内にグルコースを能動輸送する(①) 。これに
密着結合
腸上皮細胞

よって,細胞内のグルコース濃度は高くなる。
Na+ 側部・基底部 (側底部)
濃度)

側部
 グルコースの受動輸送を行う輸送体が存在し,グルコー
ATP ADP スを細胞外へ輸送する(②)。また,ナトリウムポンプに
よって細胞内の Na+濃度は低く保たれる(③)。

② ③  隣接する細胞は密着結合( p.27)によって接合してい
細胞外液

る。密着結合は,細胞外へ輸送したグルコースが細胞間
から腸内へ戻るのを防いだり,膜の輸送タンパク質の局在

K+
基底部 を保持したりする役割を担っている。

! 豆知識 ナトリウムポンプは,1941 年,R.B.Dean がその存在を提唱し,1957 年,J.C.Skou がその実体が Na+-K+-ATP アーゼであることを明らかにした。 31


07 細胞膜の構造と働き② 受容体と情報伝達
生物 structure and function of plasma membrane part 2

1 エキソサイトーシスとエンドサイトーシス 生物
 細胞では,チャネルや輸送体を介さず,細胞膜の変形に
よっても物質の放出や取り込みが行われる。

エキソサイトーシス エンドサイトーシス (飲食作用) 移動する物質 タンパク質分子 細胞膜

(開口分泌) 食作用 飲作用


(ファゴサイトーシス) (ピノサイトーシス)
物質の分泌 仮足 0.1µm より小さい
粒子や液体
エンドソーム

(         )
エンドサイトーシス
で取り込んだ物質を エンドサイ
含む小胞 トーシス
リン脂質の膜どうし
ホルモンなどのシグナル 細胞が外部から物質を取 取り込む物質が微粒子や は自由につながりあ

分子や,消化酵素などを り込む働きで,アメーバ 液体の場合は,飲作用と リン脂質 エキソサイ


うことができる。 トーシス
2 細胞外に放出する際にみ の食物摂取や白血球の異 呼ばれる。多くの細胞で の分子

られる。 物処理などでみられる。 みられる。



細胞

2 さまざまな細胞膜受容体 生物
 細胞膜に存在する主要な受容体タンパク質には,イオンチャネル型,酵素型,G タンパク
質共役型がある。受容体タンパク質には核内や細胞質基質に存在するものもある( p.126)。
 多細胞生物では,血糖濃度の変化や体内に侵入した異物などの情報
(シグナル) ( p.126)
は,ホルモン ( p.211)
や神経伝達物質 ( p.134)
,サイトカイン と
いったシグナル分子によって細胞から他の細胞へと伝えられる。シグナル分子は,細胞膜などに存在する受容体に結合して,標的とする細胞へ情報を伝える。

イオンチャネル型 酵素型
細胞外 イオンなど  シグナル分子が受容 酵素型 シグナル分子  酵素型受容体の多く
シグナル分子 受容体
体 に 結 合 す る と, イ は,細胞内部にリン酸
オンチャネルが開き, 化酵素(キナーゼ)をも
Na + や Ca2 + な ど が 細 つ。キナーゼは,基質
胞内に流入して情報が にリン酸を付加する反
細胞内に伝えられる。 リン酸 応を触媒する。タンパ
同様のイオンチャネル ク質にリン酸が付加さ
基質 P
は,小胞体膜上にも存 キナーゼ れると,反応の目印と
不活性な 細胞内 活性化した 在する。 基質 なったり,活性が変化
イオンチャネル イオンチャネル 不活性な酵素活性部位 活性化した酵素活性部位 したりする。

G タンパク質共役型
① シグナル分子 ② ③ ①シグナル分子が受容体に結合すると,
G タンパク質 活性化 受容体の構造が変化し,G タンパク
共役型受容体
質を活性化させる。G タンパク質は,
G タンパク質
結合していた GDP を離し,代わり
ヌクレオチドである GDP (グ
に GTP と結合することで活性化する。
ア ノ シ ン 二 リ ン 酸)や GTP
(グアノシン三リン酸) と結合 ②③活性化した G タンパク質は,受容
するタンパク質の総称。細胞 体から離れ,他の酵素やイオンチャ
膜受容体からの情報を細胞内 活性化 酵素または ネルなどの活性を調節する。
で伝達する役割を担う。 G タンパク質 イオンチャネル

3 細胞間情報伝達の種類 生物
 シグナル分子と受容体を介した細胞間のシグナル伝達は,作用を受ける細胞
(標的細胞)
てシグナル分子がどのように放出されるかによって,大別することができる。
に対し

接触して提示する 近くで分泌する シナプスを形成 内分泌型


標的細胞へ直接シグナル分子を提示 局所的に作用する因子を標的細胞の近 神経末端からシナプス間 に神経伝達 内分泌細胞が血液中にホルモンを分泌
する。 くで分泌する。 物質を放出する。 する。
内分泌細胞 標的細胞
受容体
情報提示細胞 標的細胞 シグナル
シナプス
発信細胞 ニューロン ホルモン

標的細胞

軸 索
シグナル分子 細胞体 標的細胞
神経伝達物質 血液
膜結合シグナル分子
標的細胞

例:抗原提示細胞によるリンパ球へ 例:成長因子,骨形成因子(BMP)など 例:ノルアドレナリンやアセチルコリン 例:インスリンやアドレナリンなどのホ


の抗原情報の提示( p.139) の胚発生に働くタンパク質( p.178) などの神経伝達物質( p.211) ルモン( p.126)

32 ! 豆知識 エキソ(exo-)は「外,産出」を,エンド(endo-)は「内,吸収」を意味する接頭辞である。
4 受容体タンパク質と細胞内情報伝達 生物

細胞内シグナル伝達 酵素型受容体を介した情報伝達の例
細胞外 シグナル分子 EGF(上皮成長因子)
受容体 EGF ①EGF が受容体に結合すると,受容
受容体 体がリン酸化されて活性化する。

リン酸 タンパク質
細胞の挙動変化 ②活性化した受容体によってタンパク質
複合体
細胞内 ・細胞の増殖 複合体が形成される。
シグナルの P
変換・増幅 ・分化(  p.94)
・機能発現 活性化 キナーゼ
・細胞運動
細胞質内の変化 G タンパク質 G タンパク質
・細胞死 P


遺伝子発現
(  p.184) P
の変化
2


核 ③タンパク質複合体によって,G P


細胞
タンパク質が活性化される。

 細胞膜に存在する受容体にシグナル分子が結合すると,細胞内では,さま
④活性化した G タンパク質によって,
ざまな反応が連鎖的に引き起こされ,細胞の挙動が変化する。この一連の反
別のタンパク質 (キナーゼ)が連鎖
応は,細胞内シグナル伝達と呼ばれる。受容体で受容された情報は,タンパ
的にリン酸化される。最終的に遺
ク質のリン酸化や G タンパク質,セカンドメッセンジャーと呼ばれる微小分 伝子の発現変化が引き起こされる。
子などの情報に変換され,また,変換の過程で増幅されて,伝達されていく。

 アドレナリン( p.127)の受容体には,a- 受容体と b- 受容体が存在する。細胞内シグナル伝達の経


G タンパク質共役型受容体を介した情報伝達の例
路は,細胞の種類やそれぞれの受容体で異なっている。
アドレナリン アドレナリン アデニル酸シクラーゼ
②活性化したホスホ
a- アドレナリン リパーゼ C によっ b- アドレナリン
受容体 IP(イノシトール
3
て,細胞膜の成分 受容体 ②cAMP の産生
三リン酸)
から IP3 が産生さ
ホスホリパーゼ C れる。 ③キナーゼの活性化

①G タンパク質が 活性化 ATP cAMP


④グリコーゲンを
活性化される。
活性化 加リン酸分解す
③IP3 は 小 胞 体 に あ G タンパク質
G タンパク質 るホスホリラー
る Ca2+チャネルに キナーゼ キナーゼ
ゼをリン酸化
④Ca2+が細胞内 結合する。 ①受容体にアドレ
活性化
に放出され, ナリンが結合し,
筋収縮が引き G タンパク質が ホスホリラーゼ ホスホリラーゼ P
Ca2+チャネル
起こされる。 活性化する。
グリコーゲン グルコース
Ca2+ 肝細胞
血管平滑筋
小胞体 ⑤活性化したホスホリラーゼなどの作用によっ
てグリコーゲンがグルコースに分解される。

セカンドメッセンジャー
タンパク質のリン酸化
cAMP(環状アデノシン一リン酸,サイクリック AMP) Ca2 +(カルシウムイオン)
【ATP】 【cAMP】  Ca2 + は, 細 胞 内 に お い て 非
シグナル P 常に低濃度に保たれている(
入力 タンパク質
アデニン(塩基) アデニル酸 p.31)。一方,小胞体内には,小
シクラーゼ 胞体膜に存在する Ca2 +ポンプの
リン酸
ホスファ O O O 働きによって Ca2 +が蓄積されて
キナーゼ O O
ターゼ いる。細胞膜や小胞体膜に存在
ATP HO P P P O P
する Ca2 + チャネルが開くと,細
P HO O
シグナル OH OH OH 胞質基質中に Ca2 + が流入し,こ
ADP タンパク質 ピロリン酸 れが刺激となって筋収縮や特定
出力
リボース(糖)
物質の分泌,細胞分裂などの多
 リン酸基は,サイズが大きく,負の電荷をもつ。  cAMP は,アデニル酸シクラーゼという酵素によって ATP から産生され くの応答が引き起こされる。
このため,タンパク質がリン酸化されると,その る。アデニル酸シクラーゼは,活性化されると短時間に多量の cAMP を産生
構造が変化する。また,リン酸基は,他のタンパ する。刺激の情報を cAMP へ変換することで刺激は増幅され,細胞内に広 イノシトール三リン酸 (IP3)
ク質に認識される標識としても機能する。 がっていく。  細胞膜の成分からホスホリ
 リン酸基は,キナーゼによって付加され,ホス  cAMP は,プロテインキナーゼ A を活性化させる。プロテインキナーゼ A パーゼ C の働きによってつくら
ファターゼという酵素によって除去される。 は,さまざまなタンパク質をリン酸化し,細胞の働きを変化させる。 れる。

セカンドメッセンジャー(二次メッセンジャー)は,受容体の活性化に伴い,細胞内で大量に産生され,すばやく拡散して情報を細胞内に広く伝達する。これに対し,
! 豆知識
細胞間の情報伝達に関わる神経伝達物質やホルモンなどの物質は,ファーストメッセンジャー
(一次メッセンジャー)と呼ばれる。
33
08 いろいろな細胞とその大きさ
基礎 a variety of cells and their size

1 細胞の大きさ 基礎
 細胞には,1m 以上の長い繊維状のものから,微小な細菌まであり,その形や大きさはさまざまである。

分解能
肉眼で観察できる
長さの単位

mm 100(10 )2
10(10 ) 1
1 0.1(10-1) 0.01(10-2)
µm 100000(10 ) 5
10000(10 ) 4
1000(10 ) 3
100(10 ) 2
10(101)
nm 100000000(108) 10000000(107) 1000000(106) 100000(105) 10000(104)
●ヒ 

●変 

●ダ 

●カサノリ

●ニ 

●バロニア

●ア 

●ヤ 

●ア 

●ゾウリムシ
●ヒトの卵
●ミドリムシ
●ヒトの精子

●ヒ 

●酵母
(長さ 1m

(長さ 100mm

(卵黄の直径 75mm

(卵黄の直径 30mm

( 2.5mm

( 1mm

(長さ 400µm

(直径 20µm
の卵

 
●細胞
↑細胞でないもの

フリカツメガエル

コウチュウ

オミドロの細胞

トの肝細胞
トの座骨神経

形菌の変形体

チョウの卵

ワトリの卵

( 10µm


( 20mm

( 140µm
( 70mm


以上)

( 200µm

( 80µm
( 60µm
2






細胞






肉眼での見え方
(原寸) 光学顕微鏡での見え方(×1,000) ※大きさを ×1000 相当にして表示
10mm 10µm
葉緑体

ヒトの肝細胞
標準的な真核細胞の大きさをもつ。
ヒトの赤血球
核をもたず,毛細
血管中を変形しな ヒトの精子
ニワトリの卵 がら通る。 細胞質をほとんども
卵細胞は,発生に必要な栄養分を蓄えているた たない(  p.162)。
め,通常の体細胞に比べて大きいものが多い。

ヒトの卵
アフリカツメガエルの卵

出芽酵母

ヒトの卵 (×100)
光学顕微鏡での見え方

バロニア
単細胞の緑藻類。多核の細胞で,
大きいものでは 4cm にもなる。

ヒトの卵
ゾウリムシ

からだを構成するさまざまな細胞
 ヒトのからだは 200 ∼ 250 種類の細胞から構成されてい
る。それらの大きさを比較すると,さまざまな大きさのも 筋繊維
のがあることがわかる。たとえば,座骨神経は,長さ1m 赤血球 ~数十 cm
を超える。また,骨格筋は,多核の細胞で,長さは数十 7.5µm
cm になるものもある。これに対し,赤血球は 7.5µm 程度
と小さく,細い毛細血管を変形しながら通ることができる。
 ヒトとネズミ,ウシを比較すると,からだの大きさはそ
れぞれ大きく異なるが,同じ機能を担う細胞の大きさはか ヒト ネズミ ウシ
らだの大きさほどには差がない。これは,細胞の大きさは 細胞の直径
生物基礎

座骨神経 (µm) 27.0 19.0 32.0


さまざまな要因によって制限されるためである( p.21) 。
1m~
からだの大きさの違いは,主に細胞の数の違いによる。 数値はプルキンエ細胞(小脳に存在する神経細胞の一種)のものである。

34 ! 豆知識 現在地球上にみられる最大の細胞(単核)は,ダチョウの卵である。
ぶんかいのう

顕微鏡や肉眼などによって,2 つの点として識別できる 2 点間の最小距離を分解能という。

光学顕微鏡で観察できる 電子顕微鏡で観察できる

0.001(10-3) 0.0001(10-4) 0.00001(10-5) 0.000001(10-6) 0.0000001(10-7)


1 0.1(10 ) -1
0.01(10 ) -2
0.001(10 )
-3
0.0001(10-4)
1000(103) 100(102) 10(101) 1 0.1(10-1)
●ヒ 

↑葉緑体
●ネ 

●大腸菌
↑ミ 

●リケッチア
●マ 

↑ ファージ

↑H 

↑リボソーム

↑ヘ 

↑細胞膜の厚さ

↑A 

↑ア 

↑原子
( 7.5µm

( 5µm

( 2µm

( 300nm

( エイズのウイルス)

( 6nm

( 2.5nm

( 1nm
T2

IV( 100nm

TP 分子
トの赤血球

モグロビン分子

ミノ酸分子
ンジュモの細胞

トコンドリア

イコプラズマ

( 0.1nm
  )
( 5µm

( 3µm




( 500nm

( 200nm

( 30nm
2



( 5nm


細胞


(×10,000)
電子顕微鏡での見え方 (×5,000,000)
分子・原子の世界
1µm 10nm

電子顕微鏡を用いても原子の 1 つ 1 つを観察す
ることはできない。分子構造を原子レベルで調
マイコプラズマ
べる際には,X 線結晶構造解析(  p.70)など
細菌の一種だが,
の方法が用いられる。
細胞壁をもたな
い。最小の細胞
葉緑体 として知られる。
葉緑体の祖先は,シアノバクテリアで ヘモグロビン分子
あると考えられている(  p.280)。 赤血球に含まれる
タンパク質。

(  p.280)
ミトコンドリアの祖先 は,
遺伝子解析の結果から細菌の一種で
あるαプロテオバクテリアのなかま
であると考えられている。
ミトコンドリア

ネンジュモ ATP 分子
細菌のなかの一群。 アミノ酸分子
光合成を行う。 (アルギニン)

リケッチア グルコース分子
αプロテオバクテリアの一種。ダニ
などを介してヒトに感染し,発疹チ 水素原子
フスなどを引き起こす。

2 細胞の研究
さいぼうせつ

基礎
 「細胞は,すべての生物の構造および機能の単位である。」
という説は,細胞説と呼ばれる。

研究者 研究年 業績
細胞の発見 自作の顕微鏡でコルクの切片を観察し,観察された多数の小室の 1 つ 1 つ
フック 1665 年 を細胞(cell)と名づけた。ただし,フックが観察したものは,細胞質の失われた細胞壁
だけの構造であった。
生きた細胞の観察 独自に制作した単式の顕微鏡を用いて,原生生物などの微生物や精
レーウェンフック 1674 ∼ 1677 年
子などの生きた細胞を世界ではじめて観察し,記録した。
ブラウン 1831 年 核の発見 細胞中に存在する球形の物体を発見し,これを核と名づけた。
シュライデン 1838 年 植物について,細胞説を提唱。
シュワン 1839 年 動物について,細胞説を提唱。  フックが観察したコル
生物基礎

細胞説の発展 「核が成長して新たな細胞になる。」という誤った考え方が主流であった ク切片のスケッチ。左側
フィルヒョー 1855 年 なか,「あらゆる細胞は別の細胞に由来する。」という分裂による細胞の増殖を唱え,細 が横断面,右側が縦断面
胞説の発展に貢献した。 となる。

フックは,ばねの弾性に関する法則(フックの法則)を発見するなど,物理学分野でも大きな業績を残している。同じく物理学分野で多大な貢献をし,万有引力の発見
! 豆知識
で有名なニュートンとは非常に不仲であったことが知られており,フックの死後唯一残されたフックの肖像画はニュートンによって破棄されたといわれている。
35
09 単細胞生物と多細胞生物
基礎 unicellular organism and multicellular organism

1 単細胞生物
たん さい ぼう せい ぶつ

 1 個の細胞で個体ができている生物を単細胞生物という。単細胞生物は,1 個の細胞のなかに生存に必要な構造を
基礎 すべて備えている。ゾウリムシなどでは,いろいろな細胞小器官が発達している。

❶ゾウリムシ ❷ミドリムシ ❸クラミドモナス

食胞 20µm 鞭毛
(食物の消化)
収縮胞 眼点
(水の排出) (光の受容
に関与)
細胞口
10µm
(食物の摂取) 収縮胞

小核 鞭毛

2 (生殖に関与)

収縮胞
大核
眼点

細胞

(形質決定に関与) 葉緑体

(光合成を 細胞壁
繊毛
50µm 10µm 行う)
50µm (運動をつかさどる) 細胞膜 葉緑体

❹単細胞生物の種類 ❺群体を形成する単細胞生物

 単細胞生物には,大部分の原核生物と,一部の真核生物(原  分裂または出芽( p.146)によっ


うずべんもう

生生物,渦 毛藻類,ケイ藻類,緑藻類の一部)がある。 て生じた新個体が,互いにからだの


大腸菌,結核菌,コレラ菌,乳酸菌,硫黄細菌,ユ 一部,または分泌物によって連結し
原核生物
ぐんたい

レモ,ネンジュモなど て生活しているものを群体という。
群体を構成する各個体は,その群体
ゾウリムシ,アメーバ,ツリガネムシ,ミドリムシ,
真核生物 から切り離しても独立して生活でき
クロレラ,酵母など
え り べ ん も う ちゅう

る。 ユレモ 襟 毛虫

α 原核細胞における細胞の特殊化
プラス

20µm  単細胞生物である原核生物のなかには,特殊化した働きをもつ細胞をもつものがある。
ネンジュモは,光合成を行う原核生物で,糸状に連なった群体を形成する。各群体には,10 ∼ 20
個に 1 個程度,他の細胞よりも一回り大きい細胞がみられる。これは,窒素固定( p.59)を行う
能力をもつ細胞で,異質細胞と呼ばれる。異質細胞は,他の細胞に窒素化合物を渡し,他の細胞か
ら光合成によって合成された糖を受け取っている。
 異質細胞では,ニトロゲナーゼという窒素固定を行う酵素がつくられる。この酵素は,酸素が存
在するとその働きを失ってしまう。異質細胞では,光合成の反応のなかで酸素を発生させる光化学
ネンジュモ 系Ⅱ( p.50)が消失しており,また,外部から酸素が入ってくるのを防ぐ外膜が形成される。

α 細胞群体
プラス

さいぼうぐんたい ていすうぐんたい

 群体のなかには,細胞数が一定に達すると,その後,細胞は増加せず,細胞の成長のみを行う細胞群体(定数群体) と呼ばれるものがある。細胞群体には,
ボルボックスのなかまのほかに,イカダモやクンショウモのなかまがある。ボルボックスのなかまには,クラミドモナスと共通の祖先から進化したパンド
リナ,ユードリナなどのさまざまな細胞群体が知られる。
 ボルボックスは,数百∼数千
原形質連絡糸
の細胞からなる細胞群体で,数
個∼数十個の大型の生殖細胞と,
多数の小型の体細胞(非生殖細
胞)に分化している*。群体表
原形質連絡糸 面の細胞には,互いに連結する
原形質連絡糸がみられる。各細
胞は 2 本の 毛をもっている。 20µm
鞭毛 50µm
*ボルボックスには,生殖細胞 パンドリナ ユードリナ
における分化がみられるため,   細 胞 数 8 ま た は 16 個 の  細胞数 16 または 32 個の
生物基礎

0.1mm 多細胞生物とみなす考え方もあ 細胞群体で,細胞は球状に 細胞群体で,細胞の分化は


ボルボックス 毛 る。 集合する。 みられない。

36 ! 豆知識 ボルボックスのなかまは,17 世紀にレーウェンフックによって発見された。ボルボックスは,ラテン語で「勢いよく回るもの」,「青虫」の意味といわれる。


2 多細胞生物
た さいぼうせいぶつ

 多数の細胞でからだが構成されている生物を多細胞生物という。多細胞生物は,動物・植物・菌類に大別することができる。
基礎 多細胞生物では,体内に取り入れた栄養分などを全身の細胞に運ぶしくみや,個々の細胞を協調的に働かせるしくみが存在する。

❶ヒドラのからだ し ほうどうぶつ
❷群体をつくる多細胞生物
内層 外層 消化細胞
 ヒドラ
(刺胞動物)は,から
便宜上,精巣と卵巣
触手
(細胞内消化) だの構造が簡単な多細胞動物  サンゴ,カイメン,管クラゲ,ヒドロ虫,コケム
を同一個体に描いた。
だが,感覚細胞,神経細胞, シなどに群体がみられる。
口 筋細胞
筋細胞,刺細胞,消化細胞な
(運動) 触手 口
どの多様な細胞でできている。
神経細胞

ポリプ
こう (興奮の伝達)
精巣 腔腸
刺細胞 胃腔
(攻撃)


腺細胞
刺細胞
(細胞外消化) 2


卵巣 ▲サンゴの模式図…個々
感覚細胞


細胞
の生物体はポリプと呼ば
(刺激の受容) ヒドラの刺細胞 アワサンゴ
れる。

α 細胞性粘菌類における単細胞の時期と多細胞の時期̶キイロタマホコリカビ
プラス

えさがなくなると 1 か所に
胞子塊 細胞性粘菌類の無性世
集合して集合体になる。
代には,単細胞の時期
細菌を捕食 集合のシグナルとして ナメクジ状の移動体に
と,多細胞の時期とが
して増殖する。 cAMP
(  p.33)を用いる。 なって地表面を移動する。
ある。移動体の前部に
移動体 あった細胞群は柄を,
柄 後部にあった細胞群は
胞子塊を形成する。
細胞の流れ 予定柄細胞群
移動の方向 子実体
胞子 胞子の発芽 粘菌アメーバの増殖 集合体の形成 予定胞子細胞群 子実体の形成
単細胞の時期 多細胞の時期

200µm 200µm 500µm 500µm 500µm 500µm

胞子 粘菌アメーバ 集合体 移動体 子実体の形成 子実体

*キイロタマホコリカビには,図で示した無性世代の生活環( p.314)のほかにも,配偶子を形成してふえる有性世代の生活環が存在する。

3 動物と植物の成り立ち 基礎
 動物や植物は,同じ働きをもつ細胞が集まっている組織や,いくつかの組織が集まってまと
まりのある働きを行う器官をもつ。

❶動物体の成り立ち ❷植物体の成り立ち

細 胞 組 織 器 官 器官系 個 体 細 胞 組 織 組織系 器 官 個 体
上皮組織 表皮系

維管束系

上皮細胞 結合組織 小腸 消化系 さく状組織 基本組織系 葉

 動物の器官は,特定の決まった働きを行う。全体としてまとまった働きをす  植物の器官には,根・茎・葉・花がある。植物では,機能的に関連のある
生物基礎

る器官をまとめて器官系という。器官系が集まって,個体が形成されている。 組織が集まって組織系をつくっている。組織系は,各器官を連結し,ある決
まった働きを行っている。たとえば,維管束系は,根と茎や葉をつないで物
質の輸送を行っている。
変形菌類のなかまには,迷路内に置かれると自らのからだを広げて迷路の入口と出口とを最短経路でつなぐ,高度な情報処理能力を示すものが知られている。変形菌
! 豆知識
類のこのような能力は,大都市間を結ぶ効率のよい物資輸送経路の探索などに応用が期待されている。
37
10 動物の組織と器官
基礎 生物 animal tissues and organs

1 動物の組織の分類 基礎
組織は,共通の構造と機能をもつ細胞の集団である。動物の組織は,以下の 4 種類に分けられる。

 ヒトのからだは 200 ∼ 250 種類の細胞からなり,これらは 4 つの組織のいずれかに含まれる。


組織 特徴 働き
個体の表面,体腔の内面,消化管や血管の内面をおおう組織で,上皮細胞からなる。 からだの表面や内面の保護,感覚,分泌・吸収な
上皮組織
細胞には上下左右の区別が存在し,極性がある。 どに関与する。
筋組織 細長い筋細胞(筋繊維)が長軸方向に多数並んで,筋肉を構成している。 筋繊維は伸縮性に富み,運動に関与する。
組織固有の基本細胞と,広い細胞間 を埋める多量の細胞間質(ふつう繊維を含む)か
結合組織 組織や器官の間を埋め,それらを結合・支持する。
らなる。細胞には上下左右の区別はなく,極性がない。
神経組織 ニューロン(神経細胞)とグリア細胞(神経膠細胞)からなり,神経系を構成している。 ある細胞から受け取った信号を他の細胞に伝える。

p.27)と結合し,さらに隣り合う細胞どうしも細胞接着に
2 上皮組織
 上皮組織の細胞は,基底膜という薄い膜状の細胞外基質(

基礎
生物 よって結合して,細胞のシートを形成している。
2

❶働きによる分け方

細胞

 上皮組織は,構造から大きく単層上皮と重層上皮に分けられる。また,主な働きから保護上皮,腺上皮,感覚上皮,吸収上皮に分けられる。上皮組織を構成
する細胞には,細胞どうしが密着する側面と体外環境にさらされる表層面,支持組織に接する基底面の区別が存在する。これを細胞に極性があるという。

①保護上皮 じゅう そ う へ ん ぺ い ②腺上皮 ③感覚上皮


(重層扁平上皮) (繊毛上皮)
コルチ器 感覚毛
(例)皮膚,口腔, (例)気管,気管支, (例)だ腺,汗腺,
食道,直腸 鼻腔,咽頭, 胃腺,脂腺
えらの上皮 聴細胞

機械的な傷害から 繊毛運動によって 腺細胞から消化液


保護する。 異物を排出する。 などを分泌する。

聴細胞

50µm 50µm 50µm


がく か 50µm
重層扁平上皮(ヒトの直腸) 繊毛上皮(サル) 複合管状胞状腺(ヒトの顎下腺) コルチ器(サル)

❷構造による分け方
収縮時  上皮の形態は,その働きとかか
多核 わりがある。単層扁平上皮は,血
管や肺胞などの物質交換が盛んな
場所で多くみられる。一方,消化
伸展時
管の出入り口などは,重層扁平上
皮となっている。また,膀胱など
には移行上皮がみられる。移行上
皮は細胞表面の膜が折りたたまれ
基底膜
ており,この膜が伸びて膀胱など
が伸展する。
単層扁平上皮     重層扁平上皮     移行上皮

3 筋組織 基礎
生物
 動物のからだを動かす組織で,筋繊維から構成される。筋繊維の特徴によって横紋筋と平滑筋の 2 種類に大別される。さら
に脊椎動物においては,意識して動かすことができるものを随意筋,できないものを不随意筋と分けることができる。

❶横紋筋(骨格筋) ❷横紋筋(心筋) ❸平滑筋(内臓筋)

 多核で横紋のある  単核で横紋がみられる。  単核で横紋がない紡錘形


筋繊維からなる随意 枝分かれした筋繊維が互い の筋繊維からなる不随意筋
筋である。 に接合する不随意筋である。 である。

筋繊維 核 筋繊維
生物基礎

50µm 50µm 核 50µm


筋繊維

骨格筋(ヒト) 心筋(サルの心臓) 内臓筋(ヒト)

38 ! 豆知識 動物の毛は,特殊化した多数の上皮細胞からできている。毛根の部分で増殖した細胞が古い細胞を押し上げることによってしだいに毛が伸びていく。
4 結合組織 基礎
生物
 結合組織を構成する細胞には,上下左右の区別がなく,極性もみられない。多くの種類の細胞がある。

❶繊維性結合組織 ❷脂肪組織

 細胞間質にコラーゲン繊維などが含  繊維芽細胞中に脂肪粒がたまった脂
まれる。(例)真皮,血管や神経の周囲 肪細胞の集まり。(例)
皮下組織

弾性繊維
脂肪細胞
コラーゲン繊維
組織球 脂肪粒

リンパ球 100µm
100µm
繊維芽細胞 繊維性結合組織(サル) 脂肪組織(サルの皮下組織)


❸骨組織  カルシウムを含む硬い骨基質と骨 ❹軟骨組織  ゴムのようなゲル状の軟骨基 ❺血液  血球と液体状の細胞間質
2


細胞からなる。(例)骨格 質と軟骨細胞からなる。 (血しょう)からなる。
(管状硬骨) 軟骨基質 血しょう


細胞
骨細胞
骨髄
ハーバース管

骨膜 赤血球

骨細胞
骨基質 50µm 50µm
白血球
ハーバース管 10µm
骨単位 骨組織(ヒト) 軟骨細胞 軟骨組織(ヒト) 血小板 血液(ヒト)

5 神経組織 基礎
生物
 脳・脊髄などの中枢神経と感覚神経・運動神経などの末梢神経に分けられる
( p.208)。

❶末梢神経 シュワン細胞 軸索 ❷中枢神経


髄鞘 軸索
軸索

神経繊維
髄鞘 ニューロン

細胞体
軸索 神経終末
樹状突起 (軸索の末端)
運動
ニューロン 神経を包む膜
シュワン 毛細血管
神経繊維は
1µm 細胞の核 アストロ 10µm
神経繊維 束になっている。
サイト
神経繊維の束 神経繊維の断面 グリア細胞
オリゴデンドロサイト

ニューロン(神経細胞)…細胞体とそれから出ている樹状突起,軸索からなる。
しんけいこうさいぼう

グリア細胞(神経膠細胞)…神経系において,ニューロンを除く細胞。ニューロンを支持したり,ニューロンに栄養分を与えたりする。中枢神経で毛細血管と
ニューロン間の物質交換を行うアストロサイトや中枢神経で髄鞘を形成するオリゴデンドロサイト,末梢神経で髄鞘を形成するシュワン細胞などがある。

6 組織と器官 基礎
生物
 多くの器官は,4 種類の組織が組み合わさってできており,一定の働きを営んでいる。

❶胃 (胃壁の断面) ❷皮膚
上皮組織 毛(表皮の変形)
腺細胞 噴門 角質層
胃腺
上皮組織

表皮
塩酸を分泌 皮脂腺
する腺細胞
結合組織
汗腺
粘膜下組織
真皮
結合組織

筋 組 織
皮下
輪走筋
組織
縦走筋
生物基礎

酵素を分泌 神経組織 立毛筋 筋 組 織


する腺細胞 脂肪細胞
自律神経 幽門 (結合組織) 神経繊維 神経組織

脂肪細胞は血中にレプチンという物質を分泌し,この物質が間脳の視床下部( p.214)に存在する受容体に結合すると,摂食の抑制や代謝の増進などが起こる。すな
! 豆知識
わち,脂肪細胞自身は肥満を防ぐ機能をもっているといえる。
39
11 ヒトの器官と器官系
基礎 organ and organ system of human body

感覚系 神経系 循環系 からだの腹面から


みた器官
眼 脳
鎖骨下静脈 鎖骨下動脈
耳 脊髄 大脳
(  p.214)
きゅう

嗅覚器 末梢神経 上大静脈 大動脈弓


味覚器  運動神経 心臓 上腕動脈
 感覚神経 小脳
上腕静脈 大動脈
 自律神経 (  p.214)
下大静脈
大腿動脈
交感神経節
大腿静脈 脊柱

2

感覚系…外部からの刺激の受容 循環系…酸素や栄養分,老廃物の運搬

細胞

神経系…情報の伝達・処理

呼吸系 消化系 排出系 内分泌系 生殖系

口 脳下垂体
気管 だ腺 甲状腺
気管支 食道 副甲状腺
副腎 心臓
肺 肝臓
胃 すい臓
肝臓
すい臓 *内分泌腺と (  p.121)
腎臓
胆のう  しても働く
大腸 輸尿管 ひ臓
十二指腸 十二指腸
小腸 ぼうこう 胃
盲腸 子宮
直腸 卵巣*
虫垂 肛門 胆のう 横行結腸
精巣*

呼吸系…ガス交換 排出系…老廃物の排出 上行結腸


消化系…食物の消化・吸収 内分泌系…ホルモンの分泌
小腸
生殖系…配偶子形成,生殖

下行結腸

α 哺乳類のからだの基本構造
プラス

ぼうこう
 からだの内部には,周囲(外部)と特定の物質をやり取りする表面がある。

二酸化炭素
食物
消化系 酸素 呼吸系
取り入れた食物を 酸素を吸収し,二酸
消化し,栄養分を 化炭素を排出する。
吸収する。

胸部横断面


心臓 脊髄
酸素・
栄養分 右肺 左肺
老廃物

循環系 排出系
吸収された物質をか 老廃物を排出する。 食道
らだ中に運搬する。 胸大動脈
生物基礎

右心房
代謝によって
右心室 左心室
非吸収物 生じる老廃物

成人の脳の重さは体重の約 2% であるが,エネルギー消費量はからだ全体の約 20% を占めている。運動しなくても脳を活発に活動させると,著しくエネルギーを消費


40 ! 豆知識
することになる。将棋のプロ棋士は,1 日の対局が終了すると,2 ∼ 3kg 体重が減っていることもあるといわれる。
 ヒトのからだでは,いくつかの器官が集まり,まとまった働きをもつ感覚系や筋肉系などの器官系を構成している。

からだの背面から 筋肉系 骨格系


みた器官
大脳 前頭骨
上腕二頭筋
上がく骨
胸さ乳突筋 頭蓋 下がく骨
小脳 僧帽筋 鎖骨

肩甲骨
延髄 三角筋
上腕骨
脊柱 大胸筋 ろっ骨
尺骨
きょ

前鋸筋 胸骨
とう骨


外腹斜筋
脊柱
腹直筋 2


ほうこう筋 腸骨


細胞
肺 大腿四頭筋 せん骨 指骨
腕とう骨筋 大腿骨
恥骨
しつ がい
尾骨 膝蓋骨
前けい骨筋 しつ がい

膝蓋じん帯
ひ腹筋 座骨 けい骨
ヒラメ筋 ひ骨
すい臓 長指伸筋
副腎 伸筋支帯 足骨

ひ臓 肝臓 指骨
筋肉系…運動 骨格系…からだの支持,運動
腎臓
(  p.118)  これらの器官系のほかに,体表をおおう皮膚からなる外被系や,生体防御に関与
輸尿管 する免疫系( p.132)
がある。

小腸 上行結腸
ヒトの器官に関するさまざまな数値
下行結腸
大きさ 長径 16 ∼ 18cm,短径 12 ∼ 14cm
大脳
虫垂 重さ 男性 1350g,女性 1250g
S 状結腸 脊髄の大きさ 長さ 40 ∼ 43cm,太さ 1.0 ∼ 1.3cm
直腸
重さ 男性 1060g,女性 930g
肺 数 2 ∼ 7 億個
肺胞
全表面積 90 ∼ 100m2
気管の長さ 10 ∼ 11cm
大きさ 長径 14cm,短径 10cm
心臓
重さ 250 ∼ 350g
胃の容量 1200 ∼ 1600mL
腹部横断面 小腸の長さ 6.5 ∼ 7.5m
大腸の長さ 1.6 ∼ 1.7m

脊髄 大きさ 長径 25cm,短径 15cm
腎臓
ひ臓 肝臓 重さ 1200 ∼ 2000g
温度 41.3℃
腎臓の大きさ 長径 10 ∼ 12cm,短径 6 ∼ 7cm
骨の数(全身) 206 個( に付属する種子骨を除く)
骨格筋の数(全身) 222 種類,約 600 個
大きさ 長径 12 ∼ 15cm,短径 8 ∼ 9cm
すい臓
重さ 70 ∼ 80g
肝臓
表面積 1.6 ∼ 1.8m2
下大静脈 胃 皮膚
生物基礎

重さ 5.5kg
腹大動脈 すい臓 歯の数 永久歯 32 本,乳歯 20 本
数値は平均的な成人のものである。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ,部分的に損傷があっても自覚症状がない。また,再生能力が高く,症状として現れにくい。機能が多いため,人工臓器をつくることは
! 豆知識
不可能と考えられている。
41
12 植物の組織と器官
基礎 生物 plant tissues and organs

1 植物の成り立ち 基礎 い か ん そ く しょく ぶ つ えいよう き かん せ い しょく き かん

生物
維管束植物は,栄養器官である根・茎・葉と,生殖器官である花からなる。

節は,葉の付け根の 茎頂分裂組織  植物は,一生を通じて茎の分裂組織の細胞が分裂し続けて茎や葉をつくり続ける。この結果,被子植


茎の部分を指す。 物の個体は,茎,葉,芽がくり返した構造をとる。この単位をファイトマーという。
側芽  植物の機能的な単位としては,各器官を連結して,ある決まった働きを行う組織系が重要である。植
節 ひょう ひ け い い かんそくけい き ほん そ しきけい

物の組織系には,表皮系,維管束系,基本組織系の 3 種類がある。
葉 こんけい

 茎とそれにつく葉をあわせてシュートという。これに対し,根はまとめて根系と呼ばれる。
側芽

組織系 組織 働き

シュート
分裂 茎頂分裂組織,根端分裂組織 細胞分裂による伸長成長
葉 分裂組織
組織 形成層,コルク形成層 細胞分裂による肥大成長

側芽 表皮系 表皮組織(表皮,孔辺細胞,毛,根毛) 各器官の保護


2 節間(茎)

師管 同化産物などの輸送
師部
伴細胞,師部柔組織,師部繊維 師管の保護・支持など

細胞

節 維管束系
道管,仮道管 水・無機塩類などの輸送
ファイトマー 1 つのファイトマーは, 木部
節と芽(側芽),葉およ 木部柔組織,木部繊維 道管・仮道管の保護・支持
分化し
び節の下の節間 (茎)と 柔組織(同化組織,貯蔵組織,分
た組織 同化産物の貯蔵・維管束の保護
からなる。 皮層 泌組織)
(茎・根) 機械組織(厚壁組織,厚角組織,
基本組織系 植物体の支持・保護
繊維組織)
根系

柔組織(さく状組織,海綿状組織
葉肉(葉) 光合成・窒素同化
などの同化組織)

2 葉・茎頂分裂組織の構造 基礎
生物

葉の構造 クチクラ
木部(茎) 髄 葉の原基
表皮
師部(茎) 茎頂分裂組織
さく状 木部 木部(葉) 茎
組織 維管束
師部 師部(葉)
葉肉
海綿状 維管束鞘細胞 葉柄 茎頂の
組織 (  p.56) 葉隙 中央部
茎では,ふつう内側が木部,
外側が師部である。葉では表 周辺部 茎頂内部 周辺部
表皮
側が木部,裏側が師部である。
  孔 辺 細 胞 で は, 膨
圧( p.28)の変化に さく状組織
気孔 表皮
よって細胞が屈曲・伸
孔辺細胞
縮し,気孔の開閉が起
こる。孔辺細胞は,表
皮細胞だが葉緑体をも
ち,光合成を行う。

表面表皮

気孔
さく状組織
海綿状組織 維管束(葉脈) 孔辺細胞
葉の原基
維管束 茎頂分裂組織
海綿状組織
(葉脈) け い ちょう

 茎頂分裂組織は,茎頂の中央部と,これ
を取り巻く周辺部,茎頂内部の 3 つの領域
に分けられる( p.198)
。葉などの器官の
生物基礎

裏面表皮 原基は周辺部からつくられる。茎の中央部
分は茎頂内部からつくられ,茎の表面に近 100µm
葉の断面図 い部分は周辺部から形成される。 茎頂分裂組織(サンゴジュ)

42 ! 豆知識 ファイトマーやファイトケミカルのファイト(phyte-)は,「植物の」という意味を表す接頭辞である。
3 茎の構造 基礎
生物

❶茎の構造(双子葉類) 表皮
皮層
木部 師部繊維
維管束 師部
師部 維管束 師管

双子葉類
形成層
維管束
0.1mm 木部 道管

茎の断面 木部繊維

被子植物
20µm
(アケビ) 維管束(アケビ)


形成層
表皮
2



細胞
師部
師管

単子葉類
伴細胞
維管束 道管
木部
表皮
皮層
内皮

師部繊維
師管
形成層

道管

柔組織
木部

* 維管束 柔組織
*皮層の最内層は特に 0.1mm
 内皮と呼ばれる。
茎の断面 20µm
中心柱 (ススキ) 維管束(トウモロコシ)

❷道管・仮道管 ❸師管
どうかん か どうかん し かん

 道管・仮道管は,根から吸収された水分や無機塩類の通路で,原形質が失われている。  師管は,細長い細胞が縦に並んでできた組織で,同化産
 道管は,被子植物の木部にみられ,細胞が上下の隔壁を失って 1 本の管となっている。細胞 物の通路である。細胞内に原形質の一部が残っており,孔
ひ こう

壁は,肥厚してさまざまな紋様がみられる。 の開いたふるい状の隔壁(師板)で上下の細胞が連絡してい
 仮道管は,維管束植物の木部に広くみられ,特にシダ植物,裸子植物では木部の主要部分と る。伴細胞は,師管にタンパク質を供給したり,光合成で
なっている。上下の隔壁は残ったまま,細胞壁の隔壁には膜孔がある。 つくられた糖が師管に入る補助をしたりする。
道管 仮道管
師管
師板

道管 膜孔 師管
水の流れ
水 伴細胞
師板
10µm 10µm 10µm
らせん紋道管 階紋道管

4 根の構造 基礎
生物
維管束の配列変化
髄のない根(双子葉類に多い) 髄のある根(単子葉類に多い) (根から茎)
皮層 中心柱 木部 木部 維管束の配列(木部と師部の
根毛 配列)は,茎の最も下に位置
師部 師部
表皮 する胚軸部分で変化する。

表皮 内皮
表皮 内皮 師部
内皮 茎

木部

木部
表皮
胚軸
師部
木部

師部
皮層 根
生物基礎

皮層
根端分裂組織 上図は一例であり,維管束の
配列は植物種によって異なる。
根冠 ホウセンカ(双子葉類)の根 トウモロコシ(単子葉類)の根

! 豆知識 道管は,細胞壁のみからなる円柱形の死細胞から形成されている。この管状の死細胞は,成長過程におけるプログラム細胞死( p.184)によってつくられる。 43

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