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Tsukimi

はじめに

社会人になってからも勉強を続ける人にとって、大きな課題とな
るのが勉強法の確立です。学生の頃と異なり、社会人は仕事を抱え
ています。そのため、より効率的な勉強法を身に付ける必要に迫ら
れています。
この本では、多くの人が悩む勉強法について、スタンダードな考
え方を2つ紹介したうえで、そのどちらがより優れているかを解説
します。学生時代、「どっちがいいんだろう︖」と悩んだテーマも
あることでしょう。
本書で紹介する勉強法は「テストで簡単に点を取る」ことや「小
手先のテクニックを身に付ける」ことを目的にはしていません。一
生役に立つ、頭をよくするための勉強法に注目しています。
勉強法を教えてくれるのは京都大学勉強法研究会の人々。現役の
京大生とOBがメンバーです。本書の執筆にあたり、徹底的に議論
してもらいました。自分の勉強法を見直すきっかけにして頂ければ
幸いです。
目次
本質的な学力が身に付くのは東大式?京大式?
本質をつかむ勉強法とは︖
細かい疑問点が出たら︖
A 立ち止まって考える B まずは全体像を把握する
思考力を鍛えるには︖
A 自分でとことん考える B 他人と議論する
教養は必要か︖
A 専門性があれば不要 B 幅広い教養は必要
「教えたとおりにしてみろ」と言われたら︖
A 素直に従う B 疑ってかかる
勉強は誰かとした方がいい︖
A 自習だけでOK B 積極的にした方がいい
苦手分野があるときは︖
A 得意分野を伸ばす B 克服する
問題解決のヒントをもらったら︖
A その場でメモを取る B あとから整理する
難題にぶつかったら︖
A 解けるまでやる B 人に相談する
半年後でも1割しか忘れない学習法
知らない分野を一から学ぶときは︖
A 関連する資料や本を多読する B 1冊の基本書を精読する
どんな入門書を読むべきか︖
A やさしい入門書 B 背伸びした重厚な本
本はどこで読む︖
A 机で姿勢を正して読む B 好きな場所で読む
問題集は何冊使う︖
A 常に新しいものに挑戦する B 1冊を何度も繰り返す
大切な本はきれいに使う︖
A 書き込みは極力控える B どんどん書き込む
教科書はどこまで覚える︖
A とにかく丸暗記する B 理解することを重視する
読み終わった教科書はどうする︖
A 大事に取っておく B さっさと捨てる
プレゼンでどんな資料を用意する︖
A 穴のないプレゼン資料を用意する B 資料はシンプルOK
記憶するために音読はした方がいい︖
A 覚えにくいものは音読する B 黙読だけで十分
ノートはどう使う︖
A きれいに整理する B 無理に整理しない
目標は抽象的でない方がいい
英語を最速で話せるようになるには︖
A 多少ラフでもとにかく表現する B 文法や構文を大切にする
英単語を覚えるには︖
A 単語帳で覚える B 英文を読んで自然に覚える
英語の間違いを的確に指摘してもらうには︖
A 日本人と英語で話す B ネイティブと英語で話す
英会話塾は必要?
A 通った方がいい B 外国人の集う場所の方がいい
英語の読解力を上げるには︖
A 硬い内容の例文集を読む B 好きな小説や洋楽を楽しむ
TOEICは必要?
A 受けた方がよい B 受けなくても大丈夫
ネイティブと友達になる方法
優先して読むべき本とは︖
A 流行の本 B 自分と関係がありそうな分野の本
勉強に適した時間帯は︖
A 朝 B 夜
仕事で疲れても勉強する︖
A やる気のあるときに勉強する B 疲れていても毎日勉強する
勉強を切り上げるタイミングは︖
A 終わるまで机から離れない B 時間で区切る
電車の中でどう過ごす︖
A 何もしないで過ごす B 目的を持って過ごす
どんな勉強計画を立てる︖
A ぎっしり詰め込む B 多少遊びを持たせる
復習はいつするのがいい︖
A なるべく早いうちがいい B 忘れた頃がいい
模擬試験は必要?
A どんどん受けるべき B 無理して受ける必要はない
締め切りのある課題はどう取り組む︖
A できるだけ前倒しで仕上げる B 直前に集中的に仕上げる
試験問題の裏には出題者の意図がある
現代社会に生きる人々は、入学試験、資格試験、入社試験、昇
進・昇格試験など、さまざまな場面で試験を受ける機会がありま
す。それぞれの試験には独自の出題形式があり、それに応じた試験
対策が必要になります。
特に入学試験や入社試験には、出題する側が「どういった人に来
てもらいたいと考えているか」ということが強く反映されます。そ
の具体例として、東京大学と京都大学の英語の入試問題を例に、出
題する側の考え方の違いを見てみましょう。
次ページ以降から、東大の入試問題が2つ、京大の入試問題が2
つ、それぞれ続きます。
Tsukimi
東京大学はその前身である東京帝国大学のときから官僚や裁判
官・弁護士といった法曹関係者を多く輩出しています。日本が近代
国家としての歩みを始めた頃、欧米の強国と並ぶために、そういっ
た人材を必要とし、そのために東京帝国大学が作られたのです。そ
のため、試験問題では要点を端的にまとめたり、多くの問題を早く
正確に解いたりすることが求められるという傾向があります。

一方の京都大学は、前身の京都帝国大学のときから、「自由の学
風」という言葉で表現されるように、研究・学問の場としての性格
が強いといわれます。試験問題で特に目を引くのが大きな解答欄。
そこに書き込むべき解答は自由な発想力も試されているとされ、単
純な知識だけではなく、その知識を活用して、新しいものを生み出
す力が問われています。

両校とも、試験問題を解くには高校までに学習する内容をしっか
り理解していることが前提条件となりますが、そのうえで大学側の
求める人材像が試験問題の形式に大きく反映されているのです。
一般には「エリートの東大・変人の京大」と言われていたりもし
ます。現在も、国公立大学の中で、官僚になる人が一番多いのは東
京大学です。一方で、自然科学分野のノーベル賞を受賞した学者が
日本で一番多い大学は京都大学。常識とされていることに疑いを持
ったり、無理だとされていることに果敢に挑戦したり、そんな独創
的な研究が多くのノーベル賞研究者を輩出することにつながってい
ます。
官僚はとにかく激務で、膨大な量の資料に埋もれながら、国の政
治の実行部隊として力を発揮しなければいけません。そこで必要と
されるのは、みんなをあっと言わせるような突飛な考え方ではな
く、決められたことをできるだけ早く、間違いのないようにさばい
ていく能力です。もしも官僚が「こういう考え方もあるんじゃない
か」と立ち止まって考え込んでしまうと、役所の仕事がストップし
てしまって、とんでもないことになります。

勉強の目的はテストでいい点を取ることではない
さて、京都大学の現役学生と京都大学の出身者で構成される「京
都大学勉強法研究会」は、その名のとおり、勉強法について考えて
いる人たちの集まりです。ただし、彼らにとっての勉強法というの
は、一般的に「勉強法」としてイメージされるものとは少し性格が
異なるかもしれません。というのも、一般的な勉強法はしばしば
「テストでいい点を取る」ことを目標に設定しています。京都大学
勉強法研究会にとっての勉強法も、効率よく、なおかつできるだけ
苦痛に感じたりすることなく勉強するための方法であるのは違いあ
りませんが、その目標は 「勉強したことを研究や仕事にきちんと活
かす」ということです。テストで合格点を取って、それで終わりと
いうのではなく、日々勉強しながら、それぞれのフィールドで活か
し、さらに勉強を続けるというサイクルですので、ある意味では
「終わりのない勉強」のための勉強法です。
そこで重要になるのは、いい点を取るための小手先の「テクニッ
ク」ではありません。物事の本質を理解し、日々学習を続けていく
ための「姿勢」といえるでしょう。試験の出題形式に応じて対策を
講じておけば、確かにその試験ではいい点数が取れるかもしれませ
んが、長い目で見たときに、その勉強が役に立つかどうかはわかり
ません。これに対して、本質をつかむための勉強法を身につけてお
けば、どのような場面においても、効果を発揮することができるで
しょう。

本質力を身に付ければどんなことにも応用可能
独自の発想力と、決められたことをこなす力。その二つの間には
優劣はありませんが、目指す方向性がはっきりと異なるのはこれま
で見てきたとおりです。「官僚」と「研究者」、その両方を国が必
要としているのと同じように、個人においても、それぞれの力をあ
わせ持つことができれば、すばらしいことでしょう。本質をつかむ
力=「本質力」があれば、そのどちらの力をも高めることができま
す。
東京大学と比べて「変わり者」が多いとされる京都大学ですが、
京都大学勉強法研究会の中にも、一般の人が「えっ」と驚くような
経験の持ち主や、独特の経験に裏打ちされた変わった勉強法を実践
している人がいます。浪人して苦労しながら京都大学に合格した人
もいれば、「そんなに一生懸命勉強したつもりはないけど」と言い
ながら現役で合格した人もいますし、卒業後、スムーズに一流企業
に勤めた人もいれば、各地を転々としながら、職業をその都度変え
ているような人もいます。研究者や会社員、あるいは起業家など立
場はさまざまですが、彼らが普段行っている勉強法と、なぜそのよ
うな勉強法を編み出したのかを知ることで、本質をつかむ勉強法を
体得することができるはずです。
勉強をしたいと思う理由は人それぞれでしょうが、どうせなら一
時しのぎのテクニックではなく、自分の血肉になるような勉強がい
いとは思いませんか。「必要なのはわかるけど勉強するのは苦手
だ」「今まで調べた勉強法が自分に合わなかった」という人も、ぜ
ひ、この本を読んでチャレンジしてみてください。
勉強をしていると、いろいろとわからないことが出てきます。
「結論はなんとなく理解できるが、そのプロセスがわからない」
「大部分は理解できているが、どうしても一部納得のいかないこと
がある」といった具合です。細かい疑問点が出てきた際、その都度
立ち止まって完璧に理解できるまで粘るべきでしょうか。それと
も、細かいことは気にせず先に進んでしまうべきでしょうか。
せっかく勉強するのなら完璧にしたい──。そう考える人もいるか
もしれませんが、難しい場合が多いです。例えば小学校で割り算を
習う際、こんな説明をされます。
「3つのりんごを3人で分けると1人1個ずつ。だけど、3つのり
んごを0人で分けることはできません。だから、0で割ってはいけ
ません」
実は、ある数字を0で割るということについて、これまでにも数
学者たちはいくつもの論文を発表し、今なお研究が続けられていま
す。
もしも0で割る意味を完璧に理解しようとすると、そのことだけ
に人生を丸ごと捧げることになりかねません。
難しい理屈がわからなくても、それで困ることがないならどんど
ん勉強を先に進めたほうが、基礎力をアップさせることができま
す。
何事もやり始めのうちは深く考えず「そういうものだ」と受け止
めていくことが大事なのです。
仕事においても同じことが言えます。「細かいことは実務を通じ
て経験しないとわからないことも多い。まずは仕事全体の流れをつ
かむことが大事」(網野さん・理学部3回生)だからです。しか
し、どうしても細部まで完璧に仕上げたい勉強や仕事がある場合
は、どのようにすればよいのでしょうか︖

完璧を目指す覚悟が必要なときもある
新しい勉強に取り組む際に押さえておくといい考え方に「8︓2
の法則」があります。
「8︓2の法則」とは、あるタスクを全部こなすのに必要な総労力
が「10」であるとしたら、「2」の労力がタスクの最初の8割を仕
上げるために、「8」の労力がタスクを完璧に仕上げるための残り
2割に使われるという法則のことです。この法則が適用される代表
的な例として挙げられるのが大学入試センター試験。どの教科も8
割前後の得点率を目指すのが最も効率的であり、9割~満点を狙う
のは効率が悪いといわれています。8割を超えた完成度を目指した
途端、そのタスクにかかる労力は一気に跳ね上がります。
細部までを突き詰めた「完璧」を目指すための道は険しく、効率
が悪い作業にならざるを得ません。
ある分野のエキスパートになるなら、「8割理解したことに満足
せず、腰を据えてじっくりと残りの2割に取り組むべき」(原子さ
ん)ですが、それは全体像を把握してからでも遅くはありません。
単に知識を吸収することだけではなく、勉強を通じて思考力を養
うことを目指す人もいることでしょう。しかし、思考力を鍛えると
いっても、具体的にどうすればいいのでしょう。たとえば自分でと
ことんまで考えてみるという方法は効果的でしょうか。

他人と話すことでより深い理解を得られる
自分でとことん考えてみる。言葉だけ聞くと確かによさそうで
す。
しかし「それだけじゃ頭打ちになっちゃうから、議論は必要です
よ」と話す秋野さん。自分で考えることはもちろん大事ですが、ど
うしても思考が袋小路に陥ったり、独善的になったりしてしまいま
す。こういった事態を避けるために、他人と議論することが必要で
す。秋野さんは議論の最も大切な要素として「自分の考えや知識を
相手にもわかるよう説明する」ことを挙げています。
人に説明するためには、知識をしっかり身に付ける必要がありま
す。考えを伝えるプロセスを通して、思考力が鍛えられます。
大谷さんも社内で定期的に同僚と行う勉強会で、そのことを痛感
したそうです。勉強会では、それぞれのテーマについての講師役を
持ち回りで担当をしています。
「自分が担当になって教えたり、質疑応答に答えたりしたテーマに
ついて家で必死に勉強するから、特に理解が深まったよ」(大谷さ
ん)
また、面と向かって説明を行う際には、予期せぬ質問にもさらさ
れるため、それぞれのケースに応じた回答を瞬時に見つけ出す必要
があります。 幅広い応用力が試される質疑応答は、柔軟な思考力を
養うにはうってつけです。
客観的な視点を得るには議論は不可欠
また、議論を通じて自分が今やっていることの本当の価値や意
味、あるいは欠点などに気付くことも少なくないようです。魚井さ
んには、卒業論文に関する苦い思い出があります。論文を書くため
に苦労してデータを集めましたが、それを指導教官に「使えない」
の一言で切り捨てられ、卒業論文の締め切り直前に実験のやり直し
を命じられる事態に追い込まれました。
納得がいかない魚井さん。周りの友達や先輩に状況を説明し、自
分の集めたデータを見てもらったところ、「確かに先生の言うとお
りだ。こんなわかりやすいミスなのに、何で気付かなかったの︖」
と言われてしまいました。魚井さんは「無意識のうちにデータの欠
点を見ないふりをしていた」と当時を振り返ります。
このケースだけでなく、人間は自らに都合の悪い事実から目を背
けたり、逆に物事を自分の都合の良いように解釈してしまったりし
がちです。こうした落とし穴にはまりこみそうなとき、助けになる
のが他者によるサジェスチョン。すなわち、自分以外の誰かに客観
的視点を提供してもらうことです。たとえば、良いアイデアが浮か
ばず煮詰まっている時に、友達と話していて偶然大きなヒントが得
られることも珍しくはないでしょう。あとから 冷静に考えると「ど
うしてこんな簡単なことに気付かなかったんだ」というようなこと
であっても、一人 きりで考 え込 んでいると意外 に見過 ごしてしまい
がちです。
他人との議論なしには、自らに対する客観的視点は得られませ
ん。自分の置かれている現在位置を確認する意味でも、他者とのコ
ミュニケーションは重要といえます。

ビジネスにおいても 重要な対話
大学での研究や勉強一般に限らず、ビジネスに関しても人との対
話は重要です。
「自分の頭だけでとことん考えるというのは自己満足になりがちな
んだよね」という高原さんは、初めて大きな仕事を任された際、長
時間かけて、自分でも「完璧だ」と思える資料を独力で作り上げた
そうです。
しかし翌日、それを得意げに上司に見せたところ、ものすごい量
のダメ出しを受けたうえ「どうしてもっと早く相談しなかったん
だ」と大目玉を食らったといいます。「何にどれだけ時間を使うか
というのは、自分一人で判断しづらいこともあるよね」というよう
に、自らの仕事の効率や生産性などを客観的に捉えるためにも、他
人との議論は有効です。
このように、 思考力を鍛えるには、一人で考えるのではなく他人
と議論 するのが有効 です。ただし、あるトピックについて他人と議
論をする場合、その分野についての必要最低限の知識は独力で身に
付けていなければいけないでしょう。本当に何も知らない状態で参
加しても、議論は成立せず、おしゃべりに終始するからです。
幅広い教養を身に付けている人は会話の引き出しも多く、初対面
の相手から「頭が良い」という印象を持たれやすいですが、いわゆ
る「器用貧乏」に陥ってしまうこともあります。
一方で、まんべんなく教養を身に付けるのではなく、ある分野に
おいては無敵の強さを発揮するというような、自らの専門性を追求
する生き方を取れば「器用貧乏」にはなりません。ただし、それも
やり過ぎると最悪の場合、「あの人は××以外はまったくだめだから
なあ」と思われてしまうかもしれません。
幅広い教養と専門性の追求。どちらも大切なことに思えますが、
どのように折り合いをつければいいのでしょうか。

視野の広さの「教養」・武器になる「専門性」
「最初から『自分の専門はこれだ』と決めてかかると、可能性を狭
めることになる」と主張する大地さん。 自分がやりたいこと、興味
の対象、将来 の夢 などは、特 に若 いうちは、たまたま出会 った人 や
ものによって大 きく変 わります。「この人に出会っておけば良かっ
た」、「この分野に関心を持っておけばよかった」という後悔をし
ないためにも幅広い教養を身に付けておいたほうがいいだろうとい
う考え方です。
幅広い教養があると、いろんな人と接することができ、より広い
視野から自身を見つめ直すことができます。
教養があるということは、さまざまな考え方に触れる土台ができ
ているということなのです。
教養がもたらすものの一つとして、自分自身への客観的視点が挙
げられます。一つのことに「深く」のめり込むだけでなく、いろい
ろなことを「広く」知っていれば、間違った方向に進んでしまった
際にも修正が可能なのです。さまざまな分野にアンテナを広げるこ
とで育まれる視野の広さを考えると、やはり教養は重要といえま
す。
一方で専門性を重視する立場から、「幅広い教養を否定はしない
が自分の武器を持つことのほうが大事」と言う有働さん。自分とほ
かの人を明確に区別する専門性を身に付ければ、それは「武器」に
なる、ということです。
「多少アンバランスになったとしても、一つのことを徹底的に究め
ている人間には、自分の専門を武器にして生きていけるという絶対
的な強みがある」(有働さん)という指摘にもあるように、学者か
らスポーツ選手まで、各分野のトップにいるのは結局のところ、そ
の道の専門性を突き詰めた人です。
また、専門性とは社会の中における自らの立ち位置を明確にして
くれるものでもあります。「自分にはこれがある」と言い切れる得
意分野を一つも持っていない人は、単なる便利屋で終わってしまい
がちです。
周りの人間にはない、自分だけの「強み」とは何か。これを常に
自らに問い続けることが重要といえます。

幅広い教養があるから専門性も深められる
しかし、「専門性の追求」をするだけでは不十分なのでしょう
か︖
前職では半導体の回路設計が専門だった大谷さんは、半導体のこ
とをとことん勉強したことで、半導体というパーツだけでなく、製
品全体のこともわかってきたと感じています。
「どの分野においても、ある部分に関する専門性を究めることによ
って、その周りのものが自然と理解できるようになるということは
ある」
専門性を突き詰めることによって自然と身に付く教養もあるとい
うことです。ある程度の教養が身についたと感じたら、自分の「武
器」を見つけるために、専門性を深めていけばいいし、その過程で
また教養が身に付くのです。その 教養は、専門性をさらに深めるの
に役立ちます。
一般的には人間のスキルは「T字型」が理想と言われています。
この場合、Tの横棒が広い教養。縦棒が掘り下げた専門性を表しま
す。つまり教養と専門性、どちらも重要という意味なのですが、知
識や技術といったものは分野ごとに独立はしておらず、必ずどこか
でつながっているものであることには留意が必要でしょう。
自分の専門はこれだと決めて「これだけやる」と決意したとして
も、幅広 い教養 がなければどこかで大事 なものがこぼれ落 ち、結局
は専門性 の追求 も不十分 に終 わる可能性 があるということです。幅
広い教養を身に付けたうえでこそ、心置きなく専門性の追求ができ
るのです。
初めての問題に挑戦するとき、ただ言われたとおりに内容をなぞ
っているだけだと、自分で考える力が身に付かないのではないかと
不安に思う人もいるかもしれません。
「重い球と軽い球を同じ高さから落としたら、重い球のほうが早く
落ちる」。世の中の大多数の人が、そう信じていた時代に、ガリレ
オ・ガリレイは実験で、その考えが間違っていることを示しまし
た。
世の中で当然とされていることを疑うことは、ガリレオのように
いつまでも語り継がれる功績を残すことにつながるかもしれませ
ん。

見落とされがちな「言われたとおりにやる」効用
「世の中の決まりごとや法則をすべて一から疑ってかかっていた
ら、仕事も勉強も何もできないよ」
そう言うのは理学部数学科の大地さん。初めのうちは教えられた
ことを素直に受け入れた方が学習の効率がよいのです。疑問に思っ
たことはあとから振り返ることもできます。大地さんは大学で数学
の授業を受けたときに、高校までの数学が、わかりやすさを優先さ
せるために、あえて本質の部分をぼかしていたり、省略して教えて
いたりすることに気付き、驚いたといいます。
典型的な例として大地さんが挙げるのが小学校で習う分数の割り
算。分数の割り算の「やり方」は覚えているけど、「なぜそうなる
のか」について、先生がどのように解説してくれたのか、きちんと
思い出せる人は少ないのではないでしょうか。
「なぜ分母と分子をひっくり返してかけるのかを論理的に説明した
ところで、小学生はかえって混乱してしまうはず」(大地さん)
「なぜそうなるのか」にいったん目をつぶり、基本的な考え方を先
に身に付けることが大事。その本質については大学以降で「本当
の」数学を学びたい人が学べばいいというのが大地さんの考えで
す。
「言われたことを疑わずにやる」というのは、人に命令されたま
ま、自分で考えることなくやっているだけのようにも感じられま
す。しかし、 物事を新しく始める際の基礎固めとしては極めて効率
的な方法なのです。
「言われたとおりにやる」ことで蓄積が生まれる
さらに、「言われたとおりにやる」ことで、基礎力だけではな
く、応用力も身につくという意見もあります。
「ある程度経験を積んでからでないと、正しい疑い方もわからな
い。逆説的ではあるが 『言われたとおりやる』経験こそが適切な批
判能力を育てる」(原子さん)という主張も、よく考えてみれば当
然のことで、そもそも何も知らない状態では、与えられた指示が正
しいかどうかを判断できません。
裁判官が下す判決は、このいい例でしょう。ある犯罪者には30
0万円の支払いが命じられているのに、別の似たような事件の犯人
は、たった5万円の支払いが命じられただけとしましょう。これで
は300万円の支払いを命じられたほうは納得できないし、周りの
人々も不思議に思うことでしょう。
こんなことが起こらないように、裁判官はこれまでの同じような
事件ではどのような判断が下されたかを徹底的に調べます。過去の
判断=「判例」をもとにして、今回の事件はそれと比べて似ている
部分はどこか、異なっている部分はどこか、いろいろと比較したう
えで、妥当な判決を決めます。
これまでの判例のほうが、不適切な部分があると感じたときに
は、どういった点で問題があるのかということを示し、「だから今
までの判例とは異なるが、この判決を申し渡す」と説明する必要が
あります。
勉強にしても、仕事にしても、同じことが言えます。これまで取
られてきた方法や考え方がおかしいと思ったときに、ただおかしい
と言うだけでは人を説得するだけの力はありません。
なぜそのように考えられてきたのかを理解することで、「それで
は、こちらのほうがより良 いやり方 ではないですか」と提案 するこ
とができます。
適切な「疑い方」ができる人間になるためにも、言われたとおり
やるという経験は必要不可欠なようです。また、疑うだけでは前に
進めません。「こんな工夫はどうだろう」と考える、つまり対案を
生み出し、試してみることが大事です。自分で対案を考え出すとき
にも、言われたとおりにやってみた経験が生きてきます。
勉強がなかなかうまく進まないときや難しい問題に手も足も出な
いときに、誰にも相談できないと、こんなふうに悩んでいるのは、
自分一人なんじゃないだろうかと気持ちは沈んでいく一方です。
友達と一緒に勉強をすると、孤独感から解放されるだけでなく、
わからない問題を教え合うこともできます。ですが、隣に座る友人
は、時に集中の妨げになることもあるでしょう。
そうすると、一人で没頭しているときよりも、勉強が進まないか
もしれません。勉強するために仲のいいグループで集まったはず
が、あっという間に飽きてしまい、結局一緒に過ごしたほとんどの
時間、遊んでいたという記憶がある人もいるのではないでしょう
か。

孤独な勉強はストレスになる
「人は結局一人だと思って、受験勉強もずっと一人でしていた」と
語る有働さん。有働さんは大学受験で浪人を経験していますが、予
備校の友達と仲良くなり過ぎると勉強がおろそかになると考え、あ
る程度の距離を置いていました。勉強が行き詰まったときは、友達
に相談することも考えましたが、一人でやり抜くのだと歯を食いし
ばり、家で枕に頭を埋めて叫んでいたこともあったそうです。
「志望校に合格することはできたので、間違っていたとまでは言え
ないけど、ずっと 一人 での 勉強 がつらかったのは 事実」 (有働さ
ん)
高原さんは、友達とする勉強と、一人でする勉強とは異なるとい
う持論の持ち主です。
「周りに知り合いがいると気が散ってしまう。一人のときが断然、
集中して取り組めるし、そのときにしかひらめけないことだってあ
る」(高原さん)
そのために、友達と話し合いながらやるような勉強は「純粋な勉
強時間」にカウントせず、一人で勉強する時間は別に確保していま
す。
一方で、友達と一緒に勉強することで、自分が見落としているも
のに気付いたり、意外な発想が出てきたりすると主張する魚井さ
ん。友達と一緒に勉強する時間を積極的に設けています。
そうするようになったのは、高校時代に友達と地理の勉強をした
のがきっかけ。放課後の教室で、黒板に大きな白地図を書き、みん
なで互いに問題を出し合いました。同じ地理という教科でも興味の
ある分野や得意な分野はそれぞれ違うので、思いもよらない問題が
出ることもしばしば。
「答えを考えるのに必死になると、それだけ勉強になるし、『あん
な会話をしたな』という思い出が、記憶をより強く脳に残してくれ
る」(魚井さん)

「教え合い」は楽しくてためになる
魚井さんのように生徒同士で問題の出題や採点を行わせる学習法
は最近注目を浴びつつあります。自分では理解していたつもりで
も、人に説明してみると、自分の説明の中にあやふやなところがあ
ることに気付くこともあります。
あるいは、完璧に説明できたと思っていても、「これについては
どうなの」と質問されて、そのことについて一緒に考えてみること
で、より深く理解ができることもあります。
仁野さんも、わからないことがあると友人によく質問します。受
験生時代は、教科ごとに、その教科が得意な友達と勉強していまし
た。単純に答えを教えてもらうのではなく、その人なりの考え方も
一緒に聞くようにしていました。
一つの問題にもいろいろな理解の仕方や解法があります。時に
は、自分の考え方を伝えてみて、「それ、面白いね」と言ってもら
えると、うれしくなって、さらにやる気も湧くことでしょう。
真面目でストイックな人の一部には「勉強は一人でやるべし」と
いう美学があるのかもしれません。確かにじっくり考えて答えを出
すことが必要なときはありますし、テストのときには、一人で問題
を解かなければいけません。
しかし、自分の中にはない観点で問題を考えることができるよう
になったり、 勉強 へのモチベーションを 保 ったりできる 点 におい
て、友人と勉強をすることには大きなメリットがあります。

お互いに高め合うために必要なこと
もちろん、一緒に勉強するつもりが、気付くとおしゃべりに夢中
になり、全然進まなかったという失敗が起こる危険性もあります。
そんなときには、原子さんのやり方が参考になるでしょう。
原子さんは友達と勉強するときには、必ず時間を区切っていまし
た。勉強を始めるときに終わりの時間も決めておき、終わりの時間
になったら勉強の話で盛り上がっていても解散します。
休憩時間も同様に時間を区切ります。それぞれが別の問題に集中
しているときに、一人が休憩を取ると、ついつい一緒に休みたくな
るので、休憩時間も統一しました。また、 友達と話をしたほうが、
よりリフレッシュできるというメリットもあります。
ただし、長々と話し込むことがないように、「じゃあ今から10分
だけ」といった具合です。お互いに時間を守ろうと約束をして臨む
ことで、だらけてしまうことを防いでいたのです。
「緊張感を持ってやっていると、自分の集中力が切れて友達のほう
を見たときに、『まだ頑張ってるな』と思って、もう少し頑張ろう
という気になれた」と原子さん。
さらに友達と勉強することで、勉強の習慣を身に付けた人もいま
す。細川さんは、勉強をしようと思ってもなかなか机に向かえませ
んでした。自分の意志の弱さが情けないと思っていたある日、友達
に勉強に誘われます。
「『○時から図書館で一緒に勉強しよう』と約束してしまえば、それ
が拘束力になった。約束した以上、愛想を尽かされないためには勉
強せざるを得なくなった」
最初は待ち合わせに遅れることもあった細川さんですが、一生懸
命に勉強している友達の姿を見て、自分も頑張ろうと心に決めまし
た。
「私は友人を『利用』しました。でも実は、友達のほうも、一人で
勉強するよりやる気も出て、集中して勉強できたみたいです」

勉強の習慣付けのために友人を「利用」する……というと聞こえ
は悪いですが、どうしても一人で勉強ができないときや、気分が乗
らないときに、他人との約束によって自分を縛るのも有効です。
お互いの頑張っている姿を見ることで、一人で勉強しているとき
以上に頑張ることもできるはずです。
人には誰しも得意なもの、苦手なものがあります。苦手なものは
早めに克服して、自分の短所を消したいと考えるのは自然なことで
すが、一方で自分の得意とすることをさらに伸ばしたい、究めたい
と願うのも当然のことといえます。
苦手分野の克服と得意分野のさらなる探究。むろん両方できれば
ベストなのですが、限られた時間の中で、どちらか片方を優先させ
なければならないときは、どうすべきか悩む人も多いはずです。

伸びしろが大きいのはどっち︖
まず「苦手分野から手を付けるべき」と主張する波野さん。自分
自身、得意科目ばかり勉強して、苦手な教科は後回しにしていまし
たが、教師にあることを指摘されて考えを改めました。
「『苦手科目に時間を割いた方が伸びしろが大きい』と言われて、
一気に成績が上がるなら魅力的だなと思った」(波野さん)
たとえばセンター試験の場合、英語・国語・数学は200点満点
です。英語も国語も190点取れるけれども、数学がすごく苦手で
30点ぐらいという人がいたとします。得意な英語と国語は、これ以
上どれだけ頑張っても上積みできるのは最大で10点。しかし数学
は、最大で170点も伸ばすことができます。10点増やすことに力
を入れるべきか、170点増える可能性に力を入れるべきか、
「8︓2の法則」からも、どちらに力を入れるべきかは明白です。
何かが苦手であるということは、裏を返せばその分大きな伸びし
ろがあるということでもあります。苦手分野への挑戦は、ついつい
避けてしまいがち。ですが、苦手を克服できた際に得られる成果の
大きさに目を向けて頑張ってみましょう。

「短所」は目立つから要注意
勉強に限らず、社会人として生きるうえでも「短所の克服」は重
要です。
「日本の会社は、長所を評価するよりも短所を見つけて減点するこ
とが多い」という高原さん。一般的に、人は誰かのいいところより
も悪いところに目が行きがちであると言われています。
「最終的には長所を伸ばして、ほかの人と差別化を図ることはもち
ろん大事。だけど、いろいろな分野で平均的な力を付けることで、
悪目立ちしなくなる」(高原さん)
「すべてが平均的」というだけでは、自分の魅力が人に伝わりづら
いかもしれません。ですが、人から注意されたり、自分ができてい
ないと思っていたりすることをまずは克服する。長所を伸ばすの
は、そのあとでも構わないのです。
自分にはほかの人にない武器があると信じていたら、思わぬとこ
ろで足をすくわれた……。そんなことにならないためにも、まずは
苦手分野を克服することから挑戦してみる姿勢が必要です。

苦手分野をうまく克服するには
苦手分野の勉強にはなかなか手をつけにくいものですが、既に勉
強する習慣が身についている人であれば、簡単に着手できる方法が
あるのです。
勉強する時間になったら、まずは苦手分野から始めること。それ
だけです。
よくよく自分の勉強パターンを思い返してみましょう。苦手分野
に手を出そうと思っても、なかなかやる気が起きないので、まずは
自分の好きな分野から始めてしまう。そして、自分が好きなことだ
けやっているうちに、勉強を終わらせないといけない時間になって
しまう。勉強をしなかったわけではないので、一応の達成感はあ
る……。
どうでしょう。身に覚えはありませんか︖
そんなパターンを打ち破って、1日のうちで苦手分野も必ず勉強
できるように、苦手分野を勉強時間の最初に持ってくるのです。
その日に2時間ぐらい勉強しようと思っているなら、最初の30分
でもかまいませんから、まずは苦手分野の本を開きましょう。苦手
分野を勉強したあとは、自分の好きな勉強に打ち込むもよし。本当
に大嫌いで仕方がないというときには、30分勉強したあとで、ごほ
うびとして遊んでしまってもかまいません。
勉強する機会があるたびに、苦手分野から着手する。そうやっ
て、少しずつでも触れる機会をつくることで、自分の中での抵抗感
が薄らいでいくのを感じることができます。
問題解決のヒントをもらったとき、皆さんはどうしています
か︖ その場でメモを取りながら話を聞くという人もいれば、まず
は話をしっかり聞いて、あとからじっくりと整理するという人もい
るでしょう。
メモの取り方や活用方法を考えてみましょう。

あとから 整理するにも「その場でメモ」は重要
「面倒くさがりな人ほど、その場でメモを取るべき。あとから整理
しようと思っても、後回しにしてしまい、最終的には忘れてしま
う」(今野さん)
今野さんは、これまでに自分が失敗した経験から、必ずその場で
メモを取ることにしています。 以前は、相手が話している最中に手
元のメモに視線を向けるのは失礼だと思っていましたが、メモを取
りながら話 を聞 いたほうが、大事 な話 を聞 き漏 らすこともなくなり
ます。「せっかく話をしてもらったのに、それを忘れてしまう方が
失礼だった」と考えを改めました。
話してもらった内容を全部書き留めることができなくても、キー
ワードだけでもメモしておけば、あとから整理することもできま
す。メモを取らずにいた場合、時間がたってから思い出そうとして
も、記憶はどうしてもあやふやになりがちです。その結果、何度も
同じような助言や注意をされることになり、周りからの信頼を損な
いかねません。
人と話をしたときには、その場で確実にメモを取るようにしまし
ょう。

ささいなこともメモに残せば忘れない
メモが活躍するのは、人から話を聞いたときだけではありませ
ん。
原田さんは気づいたことをメモに書くようにしています。ノート
の場合、開かなければ書いた文字が目に入ることはありませんが、
メモを見やすいところに貼れば、何度も目に入るので忘れにくくな
ります。
原田さんのデスクの周りはメモでびっしり埋まっていますが、1
日の終わりにその日に書いたメモを見返し、補足する必要があれ
ば、書き足しています。
また、日付も書いておき、古くなったメモはノートに貼り直す
か、必要がなければ捨てています。時折、ノートを見返すことで、
過去のアイデアを活かすこともできます。
「忙しいときほど、面白そうなニュースが目に入ったり、使えそう
なアイデアをひらめいたりするもの」という原田さん。
メモを活用するようになってからは、気になっていたニュースを
調べたり、アイデアを練る作業をしたりできるようになりました。
ささいなことであっても、も即座にメモに取ることで、忘れるこ
とを防ぎ、また、最大限に活用することも可能になるのです。

無限に広がるメモの活用法
他にも、メモにはさまざまな活用方法があります。
「チームで仕事に取り組んでいるときには、自分のために取ったメ
モが、同僚や部下への指示代わりにもなったりする」と語る大谷さ
ん。ささいなことでも口頭だけの指示で済ますのではなく、必ずメ
モを作ります。 大きめの付箋を用意し、チームが使用しているホワ
イトボードに 貼 り 付 けておくことで、 共有 できるようにしていま
す。お互いに「言った言わない」でもめることもなくなり、仕事が
スムーズに進むようになりました。
さらには、自分の手をメモ代わりに利用するという大地さん。
「早めにやるべき大事な用事があるときは必ず手にメモをして、そ
のメモが消えるまでにその用件を終わらせることを自分に課してい
る」
大地さんは、あえて消えやすい水性ペンで手にメモをします。外
に出るときには手を洗えばすぐに消すことができますし、何より
「消えるかもしれない」というプレッシャーがかかることで、大事
な用事を後回しにせず、すぐに済ませようとする癖がつきました。
このように、メモは単なる記録にとどまらず、仕事のマネージメ
ントやスケジュール管理にも活かすことができます。面倒くさがら
ずに、積極的に活用しましょう。
自分なりに相当頭を使っているはずなのに、どうにもわからない
問題にぶつかってしまった。そんなとき、負けず嫌いな人の中に
は、意地でも他人の力には頼りたくない、絶対に自分の力で答えを
出したいという人もいるかもしれません。確かに、なんとか自力で
答えにたどり着けると大きな達成感が得られますよね。
しかし、難問にぶつかるたびに長い時間をかけて解くというの
は、効率的ではないようにも思えます。

「制限時間」を意識しよう
最初の大学受験で失敗し、一年間浪人した経験を持つ有働さん。
現役時代の時間の使い方について後悔しているそうです。
「どんな問題でも試験のようなつもりでやっていたから、答えがわ
かるまで、ひたすら一人で考えた。人に相談するなんて考えもしな
かった」
確かに試験の本番で人に相談することはできません。しかし、同
時に試験の時間は無限ではありません。有働さんは最初の受験で失
敗するまで時間制限のことが頭から抜け落ちていたと言います。
「受験本番でも『時間があれば解けたのに』と悔しかった。でも、
時間内に解くための勉強をしてこなかったのは自分自身だ」(有働
さん)
浪人生になってからは、問題を解くときに時間制限を設けること
にしました。時間内にわからなければ、後回しにしたり、人に聞い
たりすることにしたのです。
制限時間を意識するようになってから、いいことが二つありまし
た。すばやく解ける問題か、そうでないかの見極めができるように
なったこと。そして、勉強自体が効率的になったことです。
「必要な知識が欠けていれば、時間をかけたところで答えにたどり
着けないかもしれない。最初は人に聞くのが恥ずかしかったが、聞
くようになってから、おかげで勉強はどんどん進んだ」(有働さ
ん)
勉強や仕事には「いつまでに終わらせなければいけない」という
時間的制限があるものです。
高原さんも、仕事で問題にぶつかったとき、自分でしばらく考え
てみて、まったく歯が立ちそうにないときには、すぐに人に質問す
ることにしています。
「難題に直面して、死にもの狂いで考えて答えにたどり着くという
体験に意義がないとは思わないけど、仕事であれば『時間の無駄』
と言われかねない」
高原さんの場合は、時間的に余裕のあるものの場合は、一晩じっ
くり考えることにしていますが、早く済ませたほうがいいと思われ
るものに関しては、一人で考えこむのは30分と制限時間を設けてい
ます。
また、人に聞いてすぐに答えが出ないこともありますが、仕事で
あれば、『自分がこのことついて困っている』という状態を共有し
ておくのも重要です。
時間が無限に使えるなら、いくらでも思い悩んでもいいかもしれ
ません。しかし、現実には、なかなかそのような状況はないので、
積極的に人に相談しましょう。
COLUMN
半年後でも1割しか忘れない学習法
人と教えあうことの学習効果は、研究によっても明らかにされ
ています。アメリカのNational Training Laboratoriesによると、学習
してから半年後に学習内容を覚えているか調査したところ、授業
を受けるだけでは定着率は5%でした。読書で10%、視聴覚教育
を使うことで20%、実演をすること30%と、定着率を上げること
は可能ですが、まだまだ低い数値ですよね。
しかし、人と一緒に勉強していれば、定着率を一気に高めるこ
とができます。グループでのディスカッションをしていると
50%、体験学習をすると75%とぐんと定着率が上がります。そし
て、お互いに授業するように教え合うと、定着率は90%に達する
のです。このことから、「教えてもらおう」と受け身でいるより
も、能動的に学習に参加したほうがいいことがわかります。いつ
でも「人に教えられるぐらい」の気持ちで勉強しましょう。
新しいことを勉強する際には、数多い関係する書籍や資料を、で
きるだけ多くの読むのがいいのでしょうか。それとも「これ」と決
めた1冊の基本書を徹底的に読むのがいいのでしょうか。

関連資料の多読が有効なケース
「単に知識を増やすことができるというだけではなく、一つの事柄
を多角的に捉えるためにも本をたくさん読むのがいい」と主張する
片野さん。ある 本でわからなかったことが、別の本の解説を読んだ
ことでわかることもあります。
また、片野さんの言うように、たとえば法律をどのように解釈す
るかといった、いろいろな考え方を知っておくべき分野では、関連
書籍をたくさん読んだほうがよい結果につながります。しかし、前
提となるのは、その分野で誰もが知っておくべき基礎知識を身に付
けていることです。
基礎がしっかりしていない状態では、関連書籍をいくら読みあさ
って勉強した気になっても、実はまったく身に付いていないという
ケースは非常に多いです。
また、勉強のための読書と楽しむための読書は違うということを
忘れてはいけません。わざわざ本を買って、時間を使って勉強のた
めに本を読むからには、知識を身に付けたい、理解を深めたい、と
いう意識をきちんと持って臨むことが肝心です。その意識が薄い
と、本を買うだけで満足してしまいかねません。
自分にあった1冊の
基本書をどう選ぶべきか
1冊の基本書と向き合って理解を深めることのほうが有効な分野
は多いです。基本書は、初学者が知るべき内容を体系的にまとめら
れていることが多いので、効率よく学ぶことができます。たとえ
ば、数学や物理などは基礎がわかっていないと全く解けない問題が
多いですが、基本書どおりに順を追って理解すれば、最後までやり
通せます。
では、どのようにして基本書を選べばよいのでしょうか︖
人間同士に相性があるように、人と本の間にも相性があります。
どんな人にとっても「この本が最高だ」という本は存在しません。
ですから、「自分に合っていない本だと思ったら、いつまでも同
じ本にかじりついているのではなく、違う本をさっさと探したほう
がいいですね。」(仁野さん)というように、自分にとってしっく
りくる本と巡り合えるまでは、いろいろと試してみる必要があるで
しょう。
しかし、やみくもに本を試していては時間もお金もかかります。
効率的に、自分に合った本を探すにはどうすればいいのでしょう
か。

現物を見ないとわからないこともある
一番いいのは、同じ分野を勉強している人に聞くことです。
その人が実際に使っている本を借りて読めば、書店で立ち読みす
るよりもじっくり検討できます。また、その人自身がいろいろな本
を試していれば、それぞれの長所・短所を聞くことができます。数
人から話を聞くことができれば、誰もが読んでいる定番の本がわか
ったり、次に読むべき本のアドバイスももらえたりするかもしれま
せん。
また、ネット 書店で本を探す前に、書店に行って実物を見ておく
ことをおすすめします。ネット書店のレビューでは、内容について
言及されることは多いですが、見た目についてはあまり話す人がい
ないからです。「図やイラストが載っていないと、頭に入らない」
「こんなに細かい文字でぎっしり書かれていると気が滅入る」とい
う人もいるはずです。長い付き合いになる本であれば、見た目も大
事です。面倒くさがらずに足を運ぶようにしましょう。
書店に行くと『まんがでわかる○○入門』や『本当にわかりやすい
××』といった入門書をよく見かけます。一方で、ややとっつきにく
いのですが、基礎から上級の内容まで網羅した重厚で難しい入門書
もあります。
新しい知識を得るためには、どちらの本を読めばいいのでしょう
か︖

背伸びして買った本の活用方法
あえて、最初から難しい本を買うという人もいます。秋野さんの
場合、買ってきた難しい本をいきなり読み進めるのではなく、いっ
たん本棚に置いておき、「自分にとっての目標」としています。
本を読んで自習したり、大学の講義を聴いたりしたあとに、とき
どき難しい本をめくってみると、以前はわからなかった部分がわか
るようになっていることに気付くそうです。すると、きちんと理解
はできていなくとも、「やっぱりこの分野は奥が深くて面白い︕」
というようにモチベーションを維持することにつながります。
「つらいなあ」と思いながら読むのではなく、やる気を奮い立たせ
るために難しい本を活用していると、その 本を理解できたときに、
大きな喜びを得ることができます。「今はわからないけど、必ず理
解するぞ」と、やる気が出る人もいるでしょう。
また、難しい本はやさしい入門書では省略されがちな内容をきち
んと解説 しています。やさしい入門書を読んで、「何でここがこう
なるんだろう︖」と感じたときに、参照する副読本として活用すれ
ばよいでしょう。

入門書を買う前に調べることは︖
結論を先に言うと、初学者はやさしい入門書で学んだ方がメリッ
トは大きいです。ページ数もそれほど多くないので、一気に読み終
える達成感を味わうことができます。また、第2章Q01で解説した
ように、その分野の全体像を理解できるメリットもあります。
ただ、やさしすぎる入門書を買うのも考えものです。
大地さんは、まずは入門書が必要だろうと思って、簡単そうな本
を買ったところ、本を買うまでもないような内容しか書かれていな
くて失敗したと思ったそうです。それ以来、本を買う前には、まず
一度、ウィキペディアや詳しく書いてあるブログを探すようになり
ました。いいものが見つかれば、ウェブを見るだけで十分なことも
ありますし、ウェブで知ったことをもとに自分に合った本を探すこ
ともできます。パラパラと立ち読みしたときに、自分にわからない
ものがある程度含まれている本こそ買う価値があります。
また、「自分が知っていることと、知らないことが本の中でどの
ようにつなげて書いてあるかをじっくり検討する」(大谷さん)の
も本選びのポイントです。
小学校のときに「本を読むときは、机に向かって、ちゃんと背筋
を伸ばして、こうやって読みましょう」と教わった人は少なくない
でしょう。せっかく買った本ですから、きちんと集中して読んで、
できるだけ内容が頭に入るようにしたいものです。
また、ついついリビングのソファに寝転がって読んでしまう……
と罪悪感を抱く人もいることでしょう。勉強しているように見えな
かったり、テレビなどの雑音で集中できなかったりすることが原因
かもしれません。

集中できる場所を探そう
高校を卒業した後は、大学生のときも、社会人になってからも、
勉強のためにわざわざ机を用意することはなくなったという高原さ
ん。本を読むにしても、座椅子で膝を抱えながら読むこともあるそ
うです。机に向かって読むのが一番集中できるという人であれば、
机を用意すればいいし、それがしっくりこないなら、自分にとって
最適の方法を探した方がよいという意見です。
バスや電車の中で本を読む人は多いですが、小説でも専門書で
も、本を読むときには外を歩きながら、という人もいます。波野さ
んは乗り物が苦手。本を読んでいるとすぐに酔ってしまいます。あ
るとき、乗り物に酔ってしまい、途中で降りて歩き始めました。酔
いが治まり「もしかして」と思って、本を読みながら歩いてみる
と、内容が意外とすんなり頭に入ってきたそうです。
ちょっと読んでは顔を上げて、ということを繰り返しながらだ
と、難しい本であっても、歩きながら考えることで自分の中で噛み
砕くことができるとか。もちろん、往来の激しい道では本は閉じた
ままにしているということを付け加えておきます。
原田さんのように歩きながら読むというのは、第3章Q17でも触
れますが、脳への刺激にもつながりますので、室内をぐるぐる回り
ながら読むことで、より記憶として定着させることも期待できま
す。

「スイッチ」のありかを 知ろう
自分の家ではなかなか集中できないから、図書館や自習室を利用
するという人もいるでしょう。しかし、原子さんは静か過ぎる環境
では本を読めないそうです。
「川のせせらぎの音や雨の音が入ったCDをかけて勉強する人もい
るけど、僕は普通に音楽やラジオをかけて環境音にしている」(原
子さん)
さらには「歌いながら本を読んでいた。ラジオから聞こえてくる
曲は何でも歌っていた」(高原さん)というツワモノも。
このように、人によって、どんな環境が一番集中できるかには、
大きな違いがあります。「こうしたら集中できる」、あるいは「こ
うしたら集中力を保つために頑張る」という「スイッチ」を見つ
け、その環境を用意することが勉強にとっては肝心です。ですか
ら、横たわって本を広げることが集中の「スイッチ」だという人
は、それを無理に矯正する必要はないわけです。

こんな 読み方には注意
本は自分が集中できる場所で読むべきですが、注意点がありま
す。
たとえば、本が目に近すぎる場合。うつぶせに寝っ転がって本を
読むときに、本を地面に置いていると、本と目の距離がかなり近い
状態になります。近くにピントを合わせた状態を続けると、目にス
トレスがかかり、眼精疲労 や肩 こりの原因 にもなります。「うつぶ
せが最高に集中できると思っていたら、腰痛持ちになってしまっ
た」(有働さん)という人もいますので、うつぶせでの長時間の読
書はあまりおすすめできません。
また、寝る前に部屋を暗くしてから、読書灯で本を読む人もいる
でしょう。暗いところでの読書は目の疲れや肩こりの原因となりま
すので、十分な明るさを確保しましょう。
さらに、寝る前に読むなら、本の内容にも気をつけたいところ。
第5章Q26でも触れますが、睡眠時間の確保はとても大切なことで
す。いざ寝ようというときに、読書をしたせいで目がさえてしまっ
たとか、内容について考えてしまって眠れなくなったことはありま
せんか︖ 寝る前に本を読むのであれば、リラックスできて入眠を
促すものにしましょう。
教科書や参考書を読んだあとは、問題集に挑戦し、知識の定着を
図るのが効率的に勉強を進めるコツです。そのときに使用する問題
集はどのように選べばいいでしょうか。たくさんの問題を解いたほ
うが勉強になりそうな気がしますが、手当たりしだいに参考書を買
うのがいいのでしょうか。

数をこなすよりもまずは質
仁野さんは、解説がしっかりしているものを選べば、問題集は1
冊で十分だと主張します。問題は解ければそれで終わり、というわ
けではなく、考え方は間違っていたが、たまたま正解していたとい
うことや、もっといい解き方があって、そちらを使うとより短い時
間で済むこともあります。ですから、解説を読んで、自分の解き方
がどうだったのかをしっかり検討していると、それだけで十分な力
がつきます。
じっくり解説を読むのは、それなりに時間もかかります。「何冊
も問題集を解かなきゃいけない」と思っていると、焦ってしまって
うまくいかないものです。
わからない問題に繰り返し挑戦するだけではなく、うまくできた
と思った問題でも、きちんと検討することで、より実力を付けるこ
とが可能です。
しかし、解説を読んで理解したあとにすぐにやり直すと、書いて
あったことを記憶してしまっているので、本当に理解できているか
の確認になりません。忘れた頃にやってみて、ちゃんと正解できる
かどうかを確かめるようにしましょう。
とはいえ、同じ問題集ばかりを使っていると、飽きてしまうかも
しれません。そんな人は網野さんのやり方が参考になりそうです。
網野さんは高校生の頃、古本屋でたくさんの問題集を立ち読みし
て、面白そうなものを買ったそうです。普段使っている問題集にマ
ンネリを感じたときは、気分転換に別の問題集を解くという具合で
す。
また、 1冊の問題集をマスターしたあとには、効率よく他の問題
が解 けるようになると多 くのメンバーが指摘 しています。きちんと
力がつく前に何冊もの問題集を相手にすると、かえって非効率にな
ってしまうのです。

ビジネスにおいてはケーススタディを 重視
ビジネスに関していえば、ケーススタディが充実した本が受験で
いう問題集に該当します。仕事でトラブルが起こったときの対処法
や、事業方針の立て方などは、勉強の積み重ねで身に付けることが
できます。「『自分がこんな場面に出くわしたらどうするか』を考
えながら読むのがコツ」(大谷さん)です。
自分の考えと、書いてある解決の仕方と比べることで、問題集を
解くのと同じ効果が得られるということです。ただし、 新しい本を
次々と読むだけでは、知識が自分の血肉になりません。「これは」
と思った本をじっくりと読み、定期的に読み返すと効果的です。
「読みながら、大事だと思ったところに線を引きなさい」と、学校
で教わりませんでしたか︖ あるいは、鉛筆を持たずに教科書を見
ていたら、「そんなことではだめだ」と注意されたことがある人も
いるかもしれません。
他方で、本に線を引くことに抵抗がある人もいるでしょう。買っ
たものは、きれいなままで取っておきたいと考えるのは、おかしい
ことではありません。
本を買ったなら、その本を隅から隅まで活用したいものです。そ
のためには本をどう使うのがいいのでしょうか。

「教科書」は内容の全てが大事
多くの人が特に疑うことなしに実践している「線を引く」という
行為ですが、その本が自分にとって、「教科書」のようなものであ
る場合、線を引くことがマイナスになることもあります。
というのも、線を引いたとき、線を引いていないほかの箇所と区
別をつけることになります。1冊を丸ごと知識として吸収したい、
マスターしたいというのであれば、その区別により、線を引いてい
ない部分がこぼれ落ちてしまうこともあるのです。
また、 「線を引いたら覚えたような気になるのもよくない」(大
地さん)というような意見もあります。
線を引くのが非常に有効な場面は確かにあります。たとえば現代
文の長文問題に挑むとき。時間内に何度も問題文を読み返すような
時間はありませんから、筆者の考えがはっきりと表れているような
箇所に線を引くことで、問題を解くのに必要になる重要な部分を目
立たせることは有効です。
「この本のここの部分だけは覚えておこう」というようなときには
線を引くのは有効ですが、そのデメリットを意識していないと、線
を引いたままで満足して終わりということに陥りやすいのです。

書き込みはどんどんするべき
だからといって、本をきれいに使う、というのは少し違います。
本を読むというのは、単に文字を追っていればいいわけではありま
せん。それは「受け身」の読書です。 何度も読み返したいという本
であれば、むしろどんどん 書き込みをするべきなのです。書き込み
をすることで、受け身の読書ではなく、頭を使う読書ができます。
書き込む内容を限定する必要はありません。読んで気になったこ
と、自分で考えたこと、別の本に書いてあった興味深いことなど、
何でも構いません。
何度も読み返しているうちに、わからなかったことが解決するこ
ともあります。そんなときは昔に書いた「ここがよくわからない」
という書き込みに「◯年△月 ようやく理解できた︕ ここは△△と
いう意味」などと書き加えてみましょう。
それはただの本ではなく、自分の成長記録になります。
学生の頃、新しい教科書を前に頑張るぞと決意を新たにした人も
いれば、まだまだこんなに勉強することがあるのか、と暗い気持ち
になった人もいるでしょう。
勉強の基礎になる教科書を入手したら、その内容を全部覚えたほ
うがいいのでしょうか。それとも重要な部分だけ抜き出して覚える
のがいいのでしょうか。

教科書は要約のかたまり
そもそも教科書は、その科目をマスターするために、知っておく
べきことが書かれているもの。重要な事柄を網羅していますから、
読み込むことで、十分な知識が得られるように工夫されています。
言ってみれば、要約のかたまりが教科書といえます。
そのため、教科書に書いてあることのうち、「覚えるべき内容
と、それ以外を明確に分けられるならいいが、そうじゃないからや
っかいだ」(片野さん)というように、 教科書の内容をさらに取捨
選択することはとても難しいのです。
そうすると、「教科書に書いてあることは全部覚えよう」という
ことになるのですが、その意味を取り違えると大変なことになりま
す。
中学生になって本格的な英語の授業が始まったことがとてもうれ
しかった仁野さん。英語の教科書に載っている英文は全部覚えたそ
うです。しかし、振り返ってみると「音として覚えただけで、英文
の構造を意識できていたわけではない」と言います。時間効率を考
えると、果たして有効だったのかどうか疑問です。
つまり、覚えるべきはエッセンスであって、一言一句を間違えず
に覚えよう、ということではありません。
教科書に書いてある内容を覚えるのは、問題を解いたり、さらに
新しい知識を吸収したりする土台にするため。「覚えるために覚え
る」というように、 目的を見失った状態でひたすら暗記するという
のは、そこから先へつながりません。
繰り返し読んで、「流れ」をつかもう
歴史教科は覚えることがいっぱいあって苦手だったけど、数学は
公式さえ覚えておけばよかったから楽だった。そんなふうに考えて
いる人もいるかもしれませんが、その考え方には大きな落とし穴
が。
「数学の公式をどうやって導き出すのかを理解しておかないと、応
用問題ではすぐに歯が立たなくなる」(秋野さん)
「各要素を暗記するだけでは意味がなく、縦・横のつながりを意識
して覚えるべき」(魚井さん)
このように、教科書に書いてあるたくさんの重要なことをとにか
く暗記しようとするのは避けるべきです。きちんと理解して頭の中
に入れるには、つながりを意識することが大事です。そのためには
繰り返し読み込んで、「流れ」をつかむことが必要です。
勉強をしているうちに、少しずつ増えていく本の山。たくさんの
教科書、参考書、資料は頑張って勉強した証拠でもあるので、大切
に取っておきたいという人もいるはず。だけど、部屋の都合でそう
もいかない。そんなときはどうすればいいでしょうか。

本棚を見るだけでやるべきことがわかる
「そういえばあの本、どこにやったかな」と探しても、なくしてし
まって見つからない。そんな本はもともと出番の少ない本ですか
ら、捨ててしまっても困ることはほとんどないでしょう。
むしろ、十分理解できたと思ったものはどんどん捨ててしまうこ
とをおすすめします。今自分が取り組んでいるもの、まだ理解でき
ていないものだけを手元 に残 すことにするのです。積まれている本
を見れば、やるべき勉強・やりたい勉強が、どれだけ残っているか
がはっきりしますよね。
本自体が好きな人は、本に囲まれていることで幸せを感じます。
本を捨てることにかなりの抵抗があるかもしれません。しかし、勉
強においては本に囲まれていることが必ずしもよいこととは言えま
せん。
原田さんは「机の上や本棚を整理しておくことは、自分が何に集
中すべきかはっきりさせることにつながる」と考えています。以前
は仕事で使ったほとんど読み返さない資料なども取っておいたので
すが、ごちゃごちゃと机の周りに山積みになっていました。あると
き、それが甘えにつながると思い、大部分を処分しました。「いつ
か使うかも」ということなら、きちんと整理しておけばいいし、本
当に重要なことであれば、資料がなくても頭の中に入っていて当然
だ、という考え方です。
理解できたものは捨ててしまうことで、勉強の進み具合や目標が
明確になります。また、「まだよくわからないけど、いつかちゃん
と読み返そう」というように、ずるずると先送りにしてしまうこと
を避けることもできるのです。

残すのは教科書と「魔法のアイテム」
十分に理解した教科書はどんどん捨てるべきですが、例外もあり
ます。それは、第3章Q13で述べたような、自分の考えなどを書き
込んだ教科書もその一つ。勉強を進めるための指針となるものです
し、自分の成長記録は勉強の喜びにもつながります。だいたいは理
解できたけど、ちょっとだけ気になる部分が残っているというよう
な本は、その部分だけ抜き出して教科書にメモしておけば、あとは
不要です。教科書をより充実させたうえで、処分してしまいましょ
う。
ある分野に関して初めて買った本なども、手元に残しておくとい
いでしょう。そんな本はパラパラめくるだけでやる気も出てくる
「魔法のアイテム」。原田さんも、初期の情熱を思い出させてくれ
るような本は大事に取ってあります。読み返すことはなくても、本
棚の目立つところに置いて、頻繁に目に入るようにしているので
す。
あなたは好きな人に告白するとき、どんなふうに好意を伝えます
か。だいたいの人は情熱的に、なぜ好きになったのか、相手がどん
なに素敵かということを話すのではないでしょうか。逆に、「私と
付き合うと、具体的にこういういいことがあるよ」。そんなふうに
告白する人は少数派でしょう。
ビジネスにおけるプレゼンと告白が似ていると感じる人はいるで
しょう。しかし、 告白のように情熱的に迫るだけでは、なかなか相
手を口説き落とせないものです。
「プレゼンの相手」の背後には……
あなたがA社のBさんを相手にプレゼンをするとします。徹底的
にしゃべりたいことをしゃべるだけで、「すばらしい。ぜひ一緒に
やりましょう」とBさんがあなたの熱に感化される可能性はゼロで
はないでしょう。しかし、それですべてがうまくいくかというと、
たいていの場合はそうもいきません。というのも、プレゼンの場で
すべての決着がつくわけではないからです。
多くの場合、あなたがプレゼンをしたBさんは会社に帰ったあ
と、あなたが説明したことを、今度はA社の同僚たちに説明する必
要があります。 情熱というのは、人を介するほど伝わりにくくなる
もの。Bさんから後日、「あなたの熱意はすばらしかったのです
が、会社のほかの人には理解してもらえませんでした」というメー
ルが届くのがオチです。
情熱を支援する資料を用意しよう
そこで重要になるのが、論理的に穴のないプレゼン資料です。取
りこぼしのない資料を用意するとなると、準備も大変ですし、その
量は結構なものになるでしょう。その内容のすべてをBさんに説明
していると、とても時間がかかって、どこがセールスポイントなの
かがぼやけてしまう危険性もあります。
ですから、対面で話すBさんに対しては資料のすべてを説明する
必要はありません。Bさんには、あくまでも骨子の部分、そして
「ぜひともやりたい」という熱意を語れば十分です。
「あとのことはこの資料に書いておきました。さらに不明な点があ
ればいつでもご連絡ください」と伝えてプレゼンを終わりましょ
う。
その資料が本領を発揮するのは、BさんがA社に戻ってから。一
緒に仕事に取り組むことで、どのようなメリットがあるのか、どん
なリスクがあって、それを回避する具体的な方法はどういうものな
のか。それらがプレゼン資料にきっちりと書いてあれば、A社の人
たちも安心できます。
ここまで見ると、プレゼンは告白ではなくて、親御さんへのご挨
拶のほうが近いといえそうですね。直接会って話す機会のないよう
な人に、「この人、本当に大丈夫なの︖」と思わせないような、理
解を深めてくれるような資料を作っておくことの重要性はわかって
いただけたでしょうか。

穴のないプレゼン資料をつくるときの注意点
穴のないプレゼン資料作成は必ず必要ですが、注意すべきことが
あります。絶対に失敗したくないという気持ちが強まり、完璧なプ
レゼンをしようとすると、多くの人が陥りやすい落とし穴がありま
す。
それは、プレゼン 資料だけでなく、読み上げるための「原稿」ま
できっちりと 用意してしまうことです。「え、なぜダメなの︖」と
疑問に思う人がいるでしょう。その理由は3つあります。
1つ目は、プレゼンは自分の想定通り進まないこと。
2つ目は、相手の反応によって進め方を変えたほうが効果的だと
いうこと。たとえば、相手から質問があって、先のほうのスライド
まで飛ばして、別の話をしなければいけないこともあります。コン
ペのように、複数の人が一緒にプレゼンをするような場合は、相手
との差別化を考えて、相手よりも優れているところをより重点的に
説明するべきです。また、相手の反応がよくないときには、思いき
って話の順番を入れ替えるなどの工夫をする必要もあるでしょう。
そして、3つ目は、原稿があると目線を手元に落としてしまいが
ちだということです。先ほど、下を向いて原稿を見ていると、熱意
が相手に届きません。
ですから、完璧に用意された原稿は、かえってじゃまになりがち
です。要点を忘れないためのメモが手元にあれば十分なのです。
基本的に「読む」という行為は、視覚によって得られる文字情報
を脳にインプットするものですが、音読ではこれに聴覚からの情報
が加わります。
黙読は自分のペースで自由に流し読みなどがしやすい一方、読ん
だ内容が頭に残りにくいと感じる人もいるのではないでしょうか。
逆に音読は読み上げるのに時間がかかっても、視覚に加えて聴覚
を刺激するため、記憶に残りやすいはずだという人もいるはずで
す。勉強するときには、どちらのやり方を選択するべきなのでしょ
うか。

音読の効果はこんなときに実感
大学受験ではどうしても単語や年号などを覚える単調な作業が多
くなりがちです。そんな中、秋野さんは受験生時代から音読を積極
的に取り入れていました。
「英単語や古文単語などの暗記事項は必ず音読した。入試の半年前
くらいからは声に出すだけでなく、部屋の中を歩き回るようにもな
った」
秋野さんにとっては、目も耳も体全体も使って、複数の刺激とと
もに頭に入れるというやり方が合っていたようです。
また、受験生時代には音読など一切せず、大学に入ってからも、
音読はした覚えがないという大谷さんも、ここ何年かで考えが変わ
ってきたといいます。
「年を取るに連れて、物を覚える際、自分でも気が付かないうちに
自然と声が出るようになった。鈍ってきた頭の働きをカバーしよう
としているのかもしれない」
大谷さんの場合も、無意識ではありますが、音読により脳に与え
る刺激を増やすことで記憶力を増強しているようです。
脳により多くの刺激を与えたほうが、暗記効果はアップします。
歩き回りながら覚えた秋野さんの場合は、視覚と聴覚だけでなく、
体全体を使うことでさらに多くの刺激を脳へ送っていたことになり
ます。
ということで、暗記が苦手で苦労しているという人は、ぜひとも
音読を取り入れて脳への刺激を増やしてみましょう。
それでもなかなか覚えられないというなら、ノートに同じ単語を
何度も書いたり、覚える内容を録音して通勤・通学の途中で繰り返
し聞いたりと、五感を活用すると効果が出ます。
音読が邪魔になるケースもある
ただし、何でもかんでも声に出しさえすればいいというのも少し
違うようです。
細川さんは音読のコツを「理解しながら声に出す」ことであると
考えています。少し前に流行した、聞き流すだけで英語が話せるよ
うになるという教材を使ってみたものの、細川さんは英語能力の上
昇を実感できませんでした。
「理解していないものをいくら聞いても、記憶には残りづらい。頭
を使わず、本当の意味で聞き流しているだけだったら、能力が身に
付くかは疑問だ」(細川さん)
なるほど、まったく知らない外国語を聞いたときに、その音を真
似ることはできるかもしれませんが、意味を理解しなければ会話が
できるようにはなりません。
留学すると語学が上達するのは、コミュニケーションを取るため
に一生懸命に頭を使いながら努力をしているから、というのが細川
さんの見解です。
ここで紹介したのは英語を聞き流す例ですが、他の科目の勉強に
音読を取り入れる場合にも、内容を理解したうえで、意味を考えて
声に出さないと、効果は薄くなってしまいます。
また高原さんは、「複雑な思考が求められる勉強や作業に取り組
む際には、黙ってひたすら目の前の文面とにらめっこしなければな
らないときもある」と主張します。単純な暗記などではない複雑な
思考が要求される場面においては、音読がかえって作業の妨げにな
ることもあるのです。
音読が逆効果になる例としては、文章の内容要約があるでしょ
う。記憶ではなく思考が求められる局面では、音読から得られる情
報は作業を妨害するノイズになってしまうのです。
ということで、音読が効果を発揮するのは「自分がある程度理解
していること」を記憶したい場合といえます。
逆に、自分の中でまだ十分に理解の及んでいない事柄を勉強する
際や、集中して思考する際には、声に出して読むことが学習のプラ
スにはならない場合もあります。状況に応じて、音読すべきケース
と、そうでないケースをうまく見分けることが重要といえそうで
す。

黙読を極めれば速読で超速勉強も
音読が暗記に力を発揮するのはこれまで見てきたとおりですが、
黙読には別の力があります。
音読と黙読は読むスピードが違います。学校の授業で、国語の教
科書を音読したときのことを思い出してみましょう。目で追うだけ
のときよりも、声に出して読むときのほうが時間がかかっていたは
ずです。英語に慣れていない人が英文を読むスピードが遅い理由の
一つは、「英文を頭の中で音読しているから」ともいわれており、
頭の中で音読をしない癖をつけると、読むスピードが格段に上がる
とされています。
実 は黙読 を極 めることで、速読 を身 につけることができるので
す。
速読の訓練として今野さんがすすめるのが朝刊の一気読みです。
最初の頃は20分ぐらいで全ページに目を通すことを心がけ、慣れて
きたら徐々にスピードを上げていった結果、今では10分ほどで紙面
を読みつくすことができるそうです。
このとき「おっ」と思ったトピックはあとでもう一度じっくり読
みますが、昨日、世の中でどんなことが起こったのかを全体として
すばやく把握できるようになったということです。
この習慣が身に付くまでは、職場の昼休みの大部分を、新聞を読
むことに費やしていたという今野さん。今は新聞速読術を駆使する
ことで、本当に役に立つ情報だけを短時間で頭に入れ、余った時間
はのんびり過ごしています。
ネットなどで漫然とニュースをチェックしていると、ついつい関
係のないところまで読んでしまい、気付けばとんでもない時間がた
っている、そんな経験をした人も多いでしょう。今野さんは新聞を
読んでもわからないことに関してだけ、ネットで情報収集をした
り、新しく本を買って読んだりするようになったそうです。
本や文章を読むことで、自分が何を得ようとしているのか、とい
うことも、声に出すか出さないかを考える重要なポイントだといえ
るでしょう。
どのようなノートが「いいノート」なのか、どういうときにノー
トをとるべきかという問いは、簡単に答えが出るものではなく、ノ
ートのまとめ方に関する本は何冊も出版されています。
教師と生徒の間でノートの捉え方に違いがあると、問題になるこ
ともあります。学校の授業中、板書をノートに書き写していなく
て、授業態度がよくないと言われたことはありませんか︖ もしく
は、自分なりに工夫してノートを書いたつもりなのに、「こんなぐ
ちゃぐちゃなノートではだめだ」と指摘されたことはないでしょう
か。

きれいなノートは 使えるノート︖
勉強法研究会の中では、 板書をそのまま書き写したという人は少
数派でした。ただし、まったくノートをとらなかったという人はい
ません。
板書をそのままで写すのではなく、自分が理解しやすい言葉に直
して整理して書いていたという人もいれば、「先生が、教科書に書
かれていないことをしゃべったり、板書したときは、ちゃんとノー
トに書いた」(仁野さん)という人もいます。
授業では、教科書の解説に加え、教師なりの理解の仕方が紹介さ
れます。「いろいろな理解の仕方を知っておくことは、あとあと問
題を解くときに役に立つし、その話を聞いて自分が考えたことも書
いておいた」(魚井さん)というように、教科書の内容からはずれ
た話や、発展した話をノートにとることは重要です。
そして皆に共通した意見が、「あとから 見返して意味のわからな
いノートに価値 はない」ということでした。ただし、整理 されたき
れいなノートでなければいけないというわけではありません。

大切なのは「自分がわかる」こと
「人が見て何が書いてあるかわからないようなぐちゃぐちゃなノー
トでも『自分ルール』にきっちり沿ったものであれば、十分使え
る」と語る原子さん。あとからいろいろと書き込むことが多かった
ため、余白を多めに取ろうとすると、罫線や方眼を無視したほうが
都合がいいことに気付きました。現在使用しているのは、無地のノ
ート。一見すると、文章が無造作に並べられているだけに見えます
が、自分ルールに従って書かれているために、自分が考えたこと、
ほかの人の意見、本から引用した箇所などは、本人が見ればすぐに
わかります。
きれいに整理されたノートは、見た目がよく、気分がいいものか
もしれませんが、それが本当に必要かというと疑問です。
一方で、明確な目的を持って整理したノートを作ったという人も
います。波野さんは授業でとったノートを凝縮して、遠目では黒い
紙に見えるほどにびっちり詰めて書き直したノートを作っていまし
た。「一目で多くの情報が入るので、復習にも使いやすい。持ち運
びも楽なので、いつもかばんに入れておくこともできる」(波野さ
ん)ために、効率的な勉強に一役買いました。
きれいなこと自体に意味があるのではなく、整理したことで勉強
に役立たせることができるなら、そこに労力を割くのも無意味では
ないでしょう。

ノート 選びに妥協は禁物
原田さんがいつも使っているノートは方眼のA5サイズですが、
ここにたどり着くまでは紆余曲折があったようです。
最初に使っていた大学ノートは、図を描いたり、文章の構成を考
えたりするときに罫線がじゃまになっていました。そこで、次にB
4の方眼用紙を試しました。サイズが大きいので、窮屈な思いをす
ることなく使うことができます。しかし、今度は持ち運びが不便に
なるだけでなく「1ページを使い切るのに時間がかかり、仕事があ
まり進んでいない気がしてやる気が出ない」という問題も出てきま
した。
そこで今度は、サイズを一気にダウンして、A5サイズにしてみ
ました。小さいので、ページはどんどん埋まっていきます。しか
も、ノートを使い切ると満足感があり、やる気も出てきます。
また、大きいサイズを使っているときは、余白があるともったい
ないと思い、1つのページに複数のトピックを書き込むこともあり
ました。そのせいで、あとから見返すときに、どのページに何が書
いてあるのかがわかりにくくなっていました。1ページに書くの
は、1つのテーマだけ、と決めることで、あとから見返すときに効
率的になりました。
勉強に使うノートは、一度書いてそれで終わりではありません。
効率的な勉強のためには、自分に合ったノートをしっかり選ぶこと
も重要なのです。
COLUMN
目標は抽象的でない方がいい
周りの人たちが勉強しているから、自分も勉強したほうがいい
のかなという気持ちでは、なかなか勉強は続きません。
本を選ぶときには、「その本でどんな知識を得たいのか」とい
う自分の目標をはっきりとさせることが大事です。同じように勉
強も「勉強することで自分が何を目指すのか」をはっきりさせる
ことで、やる気にもつながります。
「○○を達成するために勉強が必要だ」といつも意識するようにし
ましょう。目的や目標を定めるなら「勉強して賢くなりたい」と
いう抽象的なものよりも、「資格を取りたい」とか「昇格試験に
合格したい」という具体的なものがいいですし、さらに「資格を
取ることで、転職につなげたい」「もっと仕事が面白くなるはず
だから、昇格試験に合格したい」と、将来のことにつなげて目標
をセットすることで、高いモチベーションを保つことができるよ
うになります。
スラスラと英会話ができることを目標に英語の勉強に打ち込む人
はたくさんいます。会話ができるようになるには、英単語を覚え
て、文法や構文をしっかりと勉強する必要があります。
しかし、一人で勉強するばかりでは、会話の練習はできません
し、自分がどれほどしゃべれるようになっているかもよくわからな
いままです。
小さな子どもがたどたどしい日本語で一生懸命話そうとするよう
に、正確でなくてもいいから、自分にできる範囲で会話をしてみる
というのは重要に思えます。

話す機会はとにかく増やすべき
ラフな英語でもいいからとにかく話すべきだと考えている魚井さ
ん。
「しっかり話せるように準備ができてから話せばいいやと考えてい
ると、いつまでも話せるようにはならない」
文字を見て「この英語はこういう意味だ」とわかればいいリーデ
ィングと、字 を見 ずに耳 で聞 くだけで理解 する必要 のある会話 は、
まったくの別物です。
魚井さんは、実践の機会を増やすべく、外国人のインターンとし
ょっちゅう会話しています。自分自身がそんなに英語が得意とは思
っていませんし、ところどころでミスをしていることもわかってい
ます。それでも、日常会話であれば十分に伝わるものです。
「大きな間違いは向こうも指摘してくれるし、数をこなすことで口
も慣れてきて、よりしゃべれるようになってきた」(魚井さん)
やはり、間違いを恐れずに、とにかく英語を口にする機会を増や
すことが英会話上達の近道のようです。

文法や構文は大切だが優先すべきは会話
ただし、ラフな 状態をいつまでも続けるのは考えものです。
「ビジネスではラフな英語だと信頼されないし、勘違いがとんでも
ないミスにつながる」という高原さん。ラフではだめというなら、
今はまだ英語で会話をすることはないのでしょうか。
「むしろ逆ですよ。信頼されるような英語をしゃべれるようになり
たいから、僕は積極的に話しかけるようにしています」
高原さんが一番気を付けているのは「自分はもう英語をマスター
したぞ」と勘違いしてしまうこと。そうなると、それ以上の上達は
望めなくなります。自分の英語が未完成であることを受け止めて、
文法や構文の勉強も怠りません。
会話で詰まったことや、英語で何と言えばいいかわからなかった
ことを、高原さんはきちんとメモに残しています。家に帰ってから
メモを見返して勉強したり、英語がうまい人にアドバイスをもらっ
たりすることで、さらに磨きをかけているのです。

「英語を勉強している」と相手に伝えよう
そうはいっても、未完成な英語を話したくない人や、全く聞き取
れない状態が嫌だという人もいるでしょう。魚井さんも、そんなふ
うに考えていましたが、あることがきっかけで、積極的に会話がで
きるようになりました。
「私は今、英語を勉強しているんだ」と伝えれば、相手は話すスピ
ードを落 としたり、より簡単 な言葉 で言 い換 えたりしてくれるよう
になったのです。
初対面の人に英語が下手と思われるのが嫌だった魚井さんです
が、「勉強中」と伝えることで、そんな思いをすることはなくなり
ました。むしろ、「あなたと話すことで、英語が上達した」と感謝
の気持ちを述べると、相手も喜んでくれますし、英語の学習に関す
る相談にのってくれるようになったそうです。
また、魚井さんはお互いに英語と日本語のクイズを出し合うこと
もあるそうです。教え合うことの効果は第2章Q05でも説明したと
おりですが、魚井さんは自分が何気なく使っている日本語表現が気
になって、日本語の勉強まで始めました。
子どもがいきなり上手な日本語を話すことができないように、英
語も突然流暢に話すことは不可能です。「勉強中なのだから下手で
当たり前」と開き直ることは、実は大事なことなのです。
英語の上達には、英単語を覚えることは欠かせません。多くの人
は英単語を覚えるときには英単語帳を購入することでしょう。
一方で、ひたすら英文を読めば、自然と単語の意味も覚えられま
すし、英語に慣れることもできて一石二鳥なのでは、という考え方
もあるでしょう。単語だけ知っていても、その使い方や、実際にど
んな文章が出てくるのかを知らなければ、あまり英語が上達しない
ようにも思えます。

語彙が少ないと読むスピードが落ちる
「単語だけ覚えている状態では、読むことはできても、英作文とな
ると、どの単語をチョイスすればいいかわからず、なかなかうまく
ならない」という大地さん。では、英単語帳は使わなかったのかと
いうと、そんなことはありません。大地さんは、例文が豊富な英単
語帳を1冊選んで、ひたすら単語を覚えました。
「十分に単語を覚えずに文章を読もうとしても、まったく意味がわ
からないから、結局辞書を引く必要がある。それでは非効率過ぎま
す」
単語を覚えるときには、例文も併せて暗記しました。単語だけを
覚えるよりもかなり時間はかかりましたが、それでも、いきなり英
文を読むよりも効率はよかったはずだと感じています。文脈と併せ
て覚えることで、どんなときにその言葉を使うのか、使ってはいけ
ないかも理解しました。
このように、たくさんの例文が載っている英単語帳であれば、単
語だけでなく、その使い方も覚えることができます。そうやってた
くさんの語彙を身に付ければ、文章を読む効率が上がりますので、
より多くの英文を読むことが可能になり、英語はますます上達しま
す。

1冊の単語帳を使い込もう
英単語帳は何冊も必要ありません。「これはいい」と思った英単
語帳を選んで、その1冊をじっくりと使い込むようにしましょう。
繰り返し読んでいる本は、紙がだんだん柔らかくなり、ふにゃふ
にゃした感じが出てきます。大地さんが通っていた予備校の先生
は、この状態を「ふかふか」と形容していました。
「その講師は英単語帳は『ふかふか』になって初めて意味があると
言っていた。それを信じて、ふかふかにすべくひたすら英単語帳を
使った」(大地さん)
そうすると、なかなか覚えられず何度も確認した単語が、ページ
全体のイメージと一緒に思い出せるようになってきたそうです。
「この単語はページの真ん中ぐらいに載っていて、よく確認するか
ら星のマークを書いていたな。その次はあの単語だったはず」とい
うように、映像として記憶に残るほどに英単語帳を使うことができ
れば、相当な成果が得られるはずです。

暗記カードの賢い使い方
単語を覚えるときに暗記カードを使っている人もいるでしょう。
ポケットに入れておけば、ちょっとした時間に見返すことができて
便利ですよね。このとき、多くの人が、表に英単語を書いて、裏に
意味を書くというやり方を採用しているのではないでしょうか。
しかし、もっと効率のいい使い方があります。
英単語を覚えるコツは原田さんが語るように例文も一緒に覚える
こと。ですから、暗記カードの表に英単語を書いて、裏には例文を
書いてしまいましょう。例文が長いときには、その一部でも構いま
せん。ただし、日本語訳は書きません。
「それじゃあ英単語の意味がわからないじゃないか」と思う人もい
るかもしれませんが、問題ありません。裏の例文を見れば大体の意
味はわかります。表と裏を何度も行き来することで、効率よく、例
文ごと単語を記憶することができます。
また、単語の意味を覚えるよりも、その例文がどんな意味だった
か、どんな内容だったかを思い出すほうが簡単です。たとえば、学
校の古文の授業で読んだことがある文章であれば、単語の意味はわ
からなくても、どんな話だったかはおぼろげでも思い出せるのでは
ないでしょうか。
さらに、英単語帳を書き写して、単語1つにつき、カードを1枚
使うという方法ではなく、問題を解いていて、意味が取れなかった
単語を表に、文章を裏に書くという発展形もあります。
そうすると、単語帳で覚える以上に、複数の意味を持つ英単語
や、連語、熟語になったときに意外な意味になる単語も効率的に覚
えられます。
自分の英語がおかしくないかを誰かに指摘してもらいたいときに
は、どんな人に助けを求めるのがいいのでしょうか。
もちろんネイティブの人に聞いてもらえば、おかしいところはす
ぐにわかるはずです。ただ、その指摘を英語でされるとなると、ち
ょっと大変かもしれません。
日本人に聞いてもらうのはどうでしょう。英語がわかる人であれ
ば間違いを指摘したうえで、丁寧に教えてくれそうです。

英語の発音が日本人には聞き分けられない
日本人にとって「L」と「R」の違いは、発音するのも、聞き取
るのも難しいものです。英語にはもともと日本語にない発音もあり
ます。ですから日本人の耳で聞き取りやすい英語が、必ずしもネイ
ティブにとっても聞き取りやすいものではないのです。
「学会では日本人の英語は聞き取りやすいという日本人がいるが、
話しているのが日本人で、それを聞いているのも日本人なのでそう
思うだけかもしれない」と語る仁野さん。
英語を読むときに、カタカナで読みを書く「カタカナ英語」とい
われる発音も日本人が英語を間違えて発音する要因の一つとなって
います。そういった環境で育った日本人は少なくありません。とて
も流暢に英語を話すことができる日本人なら別ですが、通常は日本
人に英語の発音の良し悪しを判断することができるかは疑わしいで
す。
文化の違いや用法もネイティブに軍配
発音だけではありません。ネイティブと一緒に仕事をしている魚
井さんは、ネイティブなら文化の違いや言葉の多様な意味やニュア
ンスなどを教えてもらう機会があると言います。文化や価値観の相
違に気付かされることがあるだけでなく、よく使う単語に想像もつ
かないような意味があることを教えてくれるので、家に帰ってから
辞書を引きたくなることもしばしばだとか。
もちろん、日本語があまりわからないネイティブの人と話すこと
は、それなりに困難があります。
「ネイティブと話をして、全然意思疎通できずに心が折れた。特
に、日本語ですら伝えるのが難しい込み入った話は大変だ」(秋野
さん)というように、ハードルが高いのは間違いありません。そん
なときは、日本語のわかる人に頼らざるを得ませんが、きちんとし
たフィードバックを得られるかというと限界があるかもしれませ
ん。
ネイティブで、なおかつ日本語もわかる人が身近にいれば最高の
環境ですが、なかなかそうもいきません。ですから、ネイティブと
会話し、たくさんのフィードバックをもらう姿勢が必要といえるで
しょう。
テレビCMや電車内の広告には、英会話塾がしばしば登場しま
す。講師と一対一での授業は、逃げ場もないので、おのずと英会話
が上達しそうに思えます。
しかし、日常生活を考えてみたときに、私たちは一対一の会話ば
かりしているわけではありません。むしろ何人かでおしゃべりをし
たり、たくさんの人を前に会議で話したりすることのほうが多いの
ではないでしょうか。
とすると、英語をしゃべる人が多く集まるような場所、たとえば
外国人の多いバーに出かけていき、積極的に話すほうが、会話力が
身につきそうな気もします。

「みんなでおしゃべり」は 超ハイレベル
「効率的に勉強するなら、やっぱり塾に通うのが一番ですよ」とい
う大谷さん。時間的・金銭的余裕があるなら、英会話教育のノウハ
ツを持った講師とマンツーマンで会話を繰り返すのが一番の近道に
なると感じています。
大谷さんには、以前友人に連れられてスポーツバーに行ったと
き、複数の外国人が一度に英語で話しているのが、まったく聞き取
れなかったという経験があります。
「リスニングに多少の自信はあったけど、そのぐらいでは何人かの
グループで会話することは不可能だと思い知った」
一対一での会話とグループでのおしゃべりの間には相当な違いが
あります。たくさんの 人と英語の会話で一緒に盛り上がりたいと思
っていても、いきなりそこを 目指 すと非効率 になってしまうので
す。

「変な英語」を身につけるのは避けよう
「ときどきは盛り場に出かけて、酔っ払って冗談を飛ばしまくる外
国人と話すことはモチベーションの維持にはなるかも」と話す網野
さん。確かに「これだけ会話ができるようになった」という確認を
することは可能ですが、同時に「変なクセがつかないように注意し
たほうがいい」とのこと。
みんなでわいわい盛り上がっている場で、なんとか英語で話せた
としても、言葉の使い方が間違っていたり、実は相手を怒らせかね
ないような表現を使っていたりすることもあるかもしれません。そ
んなときも、相手は先生ではありませんから、いちいち指摘しては
くれないでしょう。
ビジネスで 英語を使うということが一番の目的だというなら、フ
ォーマルな 表現 をきちんと 押 さえておくに 越 したことはありませ
ん。何のために英語の勉強をするかということを考えると、やはり
塾のほうが有利そうです。
また、「ちょっとおしゃれなジョークを英語で言おうと思えば、
そのための勉強だって必要になります」(網野さん)という意見
も。日本語のジョークをそのまま英訳しても、相手には通じませ
ん。一足飛びでいきなりわいわい楽しみたいというのは難しいので
す。
論説文や随筆を読むことで日本語の読解力が上がるように、英語
の硬い内容の文章を読めば、英語の読解力が上がるはず。
でも、そもそも英語である、というだけでハードルが高いのに、
さらに高度な内容の文となると、なかなか大変そうです。
もっと気軽に親しむことができそうな英文、たとえば小説や洋楽
などを楽しむことで英語の読解力を向上させることはできないので
しょうか。

最初のきっかけとしてはいいが……
中学校の英語の授業で、教師の指導のもと、ビートルズの歌をク
ラス全員で歌った経験を持つ有働さん。
「英語に苦手意識を感じていたけど、みんなで大きな声で歌うのは
楽しかったし、おかげで頑張ってみようと思えた」
では、有働さんは今も洋楽で英語の勉強をしているかというと、
そんなことはありません。カラオケで洋楽を歌うことはあっても、
勉強するときには英語の本や雑誌を読んでいます。
邦楽の歌詞と一緒で、洋楽の歌詞もそれほど難しい表現は出てき
ません。歌独特の言い回しなどはありますが、そういった特有の言
い回しばかりを身につけても、読解力の向上は見込めません。
「英語に触れる最初のきっかけとしては洋楽は悪くないけど、しっ
かりした文章を読まない限りは上達はないですね」(有働さん)

基礎になるのはやはり例文集
同じように、小説を読むというのも、読解力と直結するとはいえ
なさそうです。
中学一年生の頃、大流行していた『ハリーポッター』の小説を買
った仁野さん。児童向け文学の『ハリーポッター』なら、楽しんで
読めるに違いないと思っていましたが、大きな誤算がありました。
「児童向けとはいっても、全部英語で書かれているわけですから、
辞書を引きながらでないと当然読めません」
辞書が必要な箇所があまりにも多かったために、結局最初の数ペ
ージで挫折してしまいました。最終的に、読破したのは買って10年
以上たってから。
「小説には小説ならではの英語表現も出てきますが、そういうもの
が理解できるのは基礎の勉強があってこそだと感じます」
洋楽や小説をじっくりと味わうためにも、そのベースとなる英語
力が必要です。しっかりとした解説がついている例文集を読むこと
で、英語で多用される表現や、特徴をつかんでからでないと、十分
に楽しむことも難しそうです。
TOEICは英語以外の言語を母語とする人を対象とした試験で
す。世界中の約150カ国で実施され、年間700万人もの人が受
験しています(2013年)。日本でも2014年度は240万人
が受験し、就職などの際に、TOEICの成績を提出するように求
める企業も増えています。これだけ多くの人が利用しているTOE
ICですから、英語を勉強するなら、受験すべきなのでしょうか。

勉強の目的を見失う恐れも
「TOEICの勉強だけしたところで、使える英語が身につくよう
には思えない」と語るのは高原さん。就職後に会社の方針でTOE
ICを受験した経験があります。なぜ高原さんはそのように思った
のでしょう。
実はTOEICはリーディング(英語を読む力)とリスニング
(英語を聞く力)を評価するテスト。つまり、英語を話す力につい
ては点数に反映されません。TOEICには「SW」というスピー
キングとライティングに特化したテストもありますが、高原さんの
会社では採用されておらず、まだそこまで浸透していません。 話す
力が大事だと考える高原さんにとって、通常のTOEICはあまり
意味のないテストです。
TOEICは満点で990点。900点を超えれば、リーディン
グとリスニングの十分な力があるとされます。高原さんの同僚の中
には、満点を目指してTOEICを何度も受験する人もいるそうで
すが、高原さんはそれもおかしいと考えています。
「自分の到達度を知るためのもの一つのツールにはなるだろうけ
ど、まるで満点以外には価値がないかのような考え方は変だよ」
(高原さん)

英検の方が評価される場合もある
TOEICの満点を目指すというのは、「英語を使えるようにな
る」という目的とは方向性が違います。高得点を取るためにTOE
ICの形式に沿った勉強ばかりを続けるよりも、ほかの勉強をした
ほうがいいのではないでしょうか。
TOEICを受験するぐらいなら、実用英語技能検定(英検)を
受けるべきだという仁野さん。仁野さんの在籍する大学の研究室に
は外国人も多く所属しています。
「研究室ではTOEICが満点近い人でも『へー、そうなんだ』と
いう程度にしか認識されない。それよりも英検1級のほうが、実力
があるとされる風潮がある」
英検の場合、3級以上の試験ではしっかりとした面接がありま
す。
外国人と英語でコミュニケーションを行う必要がある人にとって
は、話す力が試される英検のほうが有用でしょう。
COLUMN
ネイティブと 友達になる方法
これからの時代は英語が必要だと考える人は大勢いますが、だ
からといって、今必要とされていないのに、勉強できるかという
と疑問です。目標が定まっていないと、やる気がでないのはこれ
までにもお伝えした通り。ですから「必要になったら勉強する」
という考え方はあながち間違いではないでしょう。
「いいや、今は必要ないけど、勉強したいんだ」という人は、英
語に触れる機会を増やすことが勉強を続けるコツです。その中で
もおすすめは、ネイティブと友達になること。周りにそんな人が
いないという人にもやり方はあります。文通相手を探すのです。
文通相手のことを「ペンパル」といいますが、ネット上で「ペ
ンパル」で検索すると、文通相手を探すことができるサービスが
見つかります。日本に興味を持っていたり、気が合いそうなネイ
ティブを探して、手紙を書いてみましょう。
書店に行くと、よく売れている本が目立つように陳列されていま
す。手にとってパラパラとめくってみる人も多いでしょう。そうい
った流行の本をたくさん読んでおけば、まだ一部の人しか知らない
情報をいち早く仕入れることで、人より優位に立てるかもしれませ
んし、みんなが話題にする旬のネタについて豊富な知識を持ってい
る人として尊敬されるかもしれません。
しかし、読書にあてられる時間には限りがありますから、その
分、仕事に役立ちそうな本や、知識を深めたいと思っている分野の
本を読む時間は減ってしまいます。

読書の目的をはっきりさせよう
「ベストセラーになっている本を読むのは勉強ではなく、あくまで
娯楽の一部と割り切っています」という片野さん。もともと本を読
むのが好きなのですが、本を読むことだけで満足してしまったり、
仕事と直接関係する本を読む時間がなくなったりしないように、明
確に区別するようにしています。ベストセラーの本を手に取ること
もありますが、「娯楽」や「話題作り」と割り切りっています。
売れている本にはそれなりの理由があるもの。内容自体が面白い
だけでなく、営業やマーケティングが優秀だった、時流にばっちり
合っていたなどなど、「どうしてこの本が売れているのか」を考え
ながら読むと、本の感想以上に話せるネタもできます。
しかし、 目的意識を持って読書に臨まなければ、身につくものは
多 くありません。本を読むと、いろいろなことを知ることができ
て、知識欲は満たされます。しかし、アウトプットに直結させるた
めには、自分が何を知っておくべきかということを考えて本を選ぶ
必要があります。それができていないと、「あー、面白かった」で
終わってしまうのです。
読書で得た知識を活かすつもりはあっても、本を選ぶときにはあ
まり意識しないという人もいます。今野さんもその一人で、自分の
仕事と直接関係する本を読むだけでなく、分野を限定せずにたくさ
んの本を読んでいます。「アマゾンでレビューがたくさんついてい
るような、たくさんの人に読まれて評価が下された本は、それだけ
の価値があることが多い」という今野さん。中古で買ってみて、あ
まり面白く感じないときにも最後まで流し読みするそうです。何が
自分の仕事に活かせるかわからないからこそ、たくさんのインプッ
トをして頭の中に情報を蓄積することが今野さんの読書の目的。 読
んだ本を忘れてしまわないように、必ず読書メモを作り、数カ月ご
とに見返すようにしています。
「読んだ当時には活かし方が見つからなかった知識が、今抱えてい
る問題を解決するのに使えるかもしれないから」(今野さん)
単に「売れているから」、「評判がいいから」というだけで本を
選んでいると、読んだだけで終わってしまうかもしれません。どん
な本を読むときにも、その内容を自分と関係のある分野にどう活か
すことができるかを意識しましょう。
最近は「朝活」が注目を集めています。仕事前にジョギングをし
たり、集まって勉強会を開いたりしている人もいます。夜遅くに勉
強するのではなく、「朝活」のように、勉強も朝にやってしまった
ほうがいいのでしょうか。
しかし、朝は苦手という人や、職場が遠いので出勤に時間がかか
り、それどころではないという人もいることでしょう。

「終わりのない夜」は危険!
「朝起きて勉強したことは一度もない」という高原さん。
朝が苦手で、勉強しようとしてもやる気が起こらず、本を読んだ
ところで頭が働いていないので、情報がしっかり頭に入ってきませ
ん。仕事が終わり、疲れて帰宅したとしても、夜の方が勉強の効率
がよく、遅い時間であってももともと夜更かしに慣れているので、
今のスタイルには問題はないと感じています。
しかし、高原さんのように、夜に勉強するのはおススメできませ
ん。
多くの場合、夜も遅くなってくると、だんだん集中が続かなくな
り、頭が働かなくなります。たまに、気分が高まってきて意識がク
リアになっていると本人は感じているのですが、実は勉強が進んで
いなかったということもあります。
夜型の人の中には、このような経験をしたことがある人も少なく
ないのではないでしょうか。
朝に勉強していると、平日であれば通勤や通学が、休日であれば
どこかへ出かけるなどの用事が、自然と時間の区切りになってくれ
ます。
しかし、たいていの人は夜中に用事はありませんから、だらだら
と夜更かしを続けてしまいます。
気が付けば夜中の2時、3時になっていて慌てて布団に入り、寝
不足のまま出かけることになったり、徹夜してしまったりすること
もあるでしょう。

夜更かしを防止する方法
有働さんは夜の間にする勉強を限定しています。それは「その日
勉強したことを簡単に復習してから寝る」というもの。
その生活を、特に試験前などには徹底するようにしました。試験
前になると「勉強しなければ」と気ばかり焦ってしまい、夜になっ
てから頑張ろうと思っても、結局、受験勉強での反省点を繰り返す
ことになってしまうと考えているからです。
確かにその日に勉強したことの復習にとどめておけば、それほど
時間もかかることはないでしょうし、だらだらと夜遅くまで続けて
しまうこともないでしょう。

朝型人間の方がメリットが多い
夜に勉強しているが、そこまで遅い時間帯ではないという人も、
試験を目指して勉強をしているなら、ぜひとも朝型の生活に切り替
えておきたいところです。
なぜなら、多くの場合、試験は午前中から始まるからです。試験
の日だけ早起きしようとしても、生活リズムを急に変えることはで
きません。
人は起きてから15時間ほどで眠くなってくるといわれます。体や
頭が疲れてくるというだけでなく、体内で分泌されるホルモンも関
係していますから、気持ちや気合いだけではどうにもなりません。
急に生活リズムを変えようとして無理をすると、ホルモンのバラ
ンスがおかしくなり、体調を崩してしまうこともあります。数カ月
単位で少しずつ起きる時間を早くしていくというように、余裕を持
って臨みましょう。
朝型・夜型はその人の体質や、仕事の時間帯による影響も大き
く、切り替えることが難しいこともあります。
しばらく続けてみて、やっぱりだめだったというなら、無理に矯
正する必要はありません。しかし、朝が苦手という人にも、朝から
しっかりと頭を働かせるために簡単な方法があります。

朝型になるためのたった二つのコツ
「朝起きたら、とにかく布団から出てカーテンを開ける」という原
田さん。人 間の脳は強い光を浴びると、覚醒が促されます。そのこ
とを知ってから、根っからの夜型人間だった原田さんは、目覚まし
のアラームを止める前にカーテンを開け、日の光を浴びることにし
ました。
以前は目覚まし時計をいくつもセットし、それでも寝過ごすこと
があったそうですが、今では一つの目覚ましでぱっちりと目が覚め
るようになりました。
窓から差し込む日光を浴びても二度寝したい気分が消えないとき
には、家の外へ出て5分ほど歩きます。このようにすることで、家
の中よりもたくさんの光を浴びることができます。
そのあとは熱めのシャワーを浴びます。
人は寝ているとき、副交感神経という、体を休めたり、リラック
スさせたりする神経が働いています。シャワーを 浴びることで、脳
に刺激を与え、交感神経の働きを活発にさせることができます。
「シャワーは戦闘開始の合図みたいなものです。浴びながら、今日
は何をする日だったか、頭の中で確認もします」
朝型に切り替える前、午前中の仕事が眠くて仕方なかった原田さ
んですが、今では朝6時に起きて、出社する頃には、頭がフル回転
しているのを感じる日々だとか。
「朝型になるぞ」という気持ちが必要なのは当然ですが、気持ちだ
けではどうにもならないのも事実。 科学的裏づけのある方法を取り
入れることで、やる気が空回りすることなく、朝型への切り替えが
うまくいくはずです。

十分な睡眠時間の確保を
朝も夜もバリバリ勉強しよう、という考えの人もいるかもしれま
せんが、睡眠時間は足りていますか︖
人間の脳は、起きている間に頭に入ってきた情報を、寝ていると
きに整理しています。印象に残った出来事などが夢に出てくるのも
そのため。
だから睡眠時間を削って勉強にあてても、なかなか記憶として定
着せず、かえって非効率的になります。
適切な睡眠時間は6時間から7時間半ぐらいだといわれています
ので、極力それだけの時間を確保しましょう。
先ほどの原田さんも、日付が変わる頃には寝るようにしていま
す。寝付きが悪くならないように、家に帰ってからはストレスにな
りそうなこと、特に仕事について悩むことは避けています。
また、15分程度の短い昼寝は脳と体を休ませるのに最適だといわ
れています。
どうも睡眠時間が足りない気がするという人は、積極的に取り入
れてみましょう。ただし、もっと長い時間寝てしまうと、脳が起き
るのに時間がかかり、また夜も眠れなくなるので逆効果。アラーム
をセットして、すぱっと起きられるようにしましょう。
社会人になってから勉強を続けるのが難しいとされている一番の
理由は、仕事にあります。
日によって家に帰る時間がばらばらだと、予定どおりに勉強を消
化していくのは難しいでしょうし、仕事が忙しくて毎日へとへとだ
から、すぐにでも寝たいという人もいるでしょう。
しかし、やれるときにやればいいということになると、ついつい
自分を甘やかしてしまいそうになります。それに、見通しを立てる
には、ある程度のペースを守って勉強を続けたほうがよさそうに思
えます。そうなると、毎日勉強するのが一番のようにも思えます。

休日にまとめて勉強するメリット
社会人になってから毎日夜遅くに帰宅する大谷さんは、平日に勉
強することはほとんどありません。
以前は帰宅してから勉強の時間を確保しようとしましたが、朝起
きるのがかなりつらいときもあり、長続きしそうにないので見切り
をつけました。平日の夜はなるべくリラックスしたり、趣味のため
に時間を使うようにしています。
その代わり大谷さんは、休日に6時間、みっちり勉強することに
しています。
休日だと、平日のように、その日の仕事中にあったことを引きず
ることもなく、勉強に集中できます。また、「平日の夜はゆっくり
しているのだから、休日にはしっかりと勉強に集中するようにしよ
う」と自分に言い聞かせることで、やる気を出すようにしていま
す。

休日を楽しみたいなら平日にコツコツ勉強しよう
一方で休日は遊んでいるという魚井さん。旅行が趣味で、泊まり
がけで遊びに行くこともあります。そうなると、休日に勉強するの
は無理ですから、平日に少しずつでも勉強をすることにしました。
慣れてくると生活の一部になった今の勉強スタイルですが、魚井
さんも始めの頃はとてもつらかったそうです。
「毎日少しずつやるぞと思っても、いざ始めてみると、何でこんな
大変ことをしないといけないんだと思い始めた」
最初の数日はまだやる気がありましたが、しばらくして帰りが遅
くなった日に、「今日はもういいや」と寝てしまい、それから1カ
月ほどはまったく勉強しない日が続くこともありました。
このままではいけないと思ったのは、友達と旅行に出かけたとき
のこと。勉強が思うように進んでいないことが頭の片隅でちらつ
き、せっかくの旅行を心から楽しむことができなかったのです。
それからは一念発起して、「何の憂いもなく休日遊べるようにす
る」という目標を掲げて勉強に取り組むことにしました。今はどれ
だけ帰りが遅くなっても、毎日1時間は本を読んで勉強していま
す。
「最初に失敗したときは、『なんとなく』毎日やろうと思ってい
た。今は、平日に勉強することで心置きなく休日を楽しむという明
確な目標があるから頑張れます」
1年のうち平日は約250日ありますから、毎日1時間の勉強を
続ければ、休日に思いっきり遊んでいても、250時間勉強時間を
確保できることになります。まさに、「ちりも積もれば山となる」
といえましょう。

時間確保のためにはやる気が重要
休日にまとめて勉強する大谷さんと、平日コツコツ派の魚井さ
ん。一見するとまったく違うタイプに見えますが、二人に共通して
いるのはメリハリをつけて 勉強時間を確保しているという点です。
「毎日コツコツ勉強する」こと自体が目的になってしまうと、平日
に仕事がある社会人にとって、続けることがとても大変です。魚井
さんも最初は挫折しそうになりましたが、目標を設定して、やる気
を奮い立たせることで乗り切ることができました。
気分が乗らないときにむりやり勉強しようとすると、本格的に取
りかかるまでに時間 がかってしまいます。しかも、勉強の効率が落
ちてしまい、これだったらきっちりと休んでおいたほうがよかった
と後悔してしまった経験は多くの人にあるはず。ただし、「今はや
る気が起きないからいいや」ということを続けていると、まったく
勉強が進まない危険性もあります。
ですから、 自分のやる気をコントロールすることが重要です。そ
して、休むときはきちんと休むことで、「その代わりに今は」とい
う意識でやる気を出すことができるのです。
「今日は一日中勉強しよう」。仮にそんな目標を立てたとしても、
何時間も連続で集中して勉強できるわけではありません。途中で休
憩を挟むことで、気分をリフレッシュさせたり、頭を休ませたりす
る必要があります。
しかし、悩むのは勉強を切り上げるタイミング。「とりあえずは
ここまで」というような区切りを、どう決めればいいのでしょう
か。
一つ考えつくのは、学校の授業のように、1時間と決めたなら時
間きっかりでやめる方法。
しかし、学校のように時間が決まっているわけではないのだか
ら、納得がいくまで続けたほうがいいと考える人もいることでしょ
う。

集中できる時間はそんなに長くない
一般的に、人間の集中力は1時間も持続しないといわれていま
す。研究によってはもっと短く、30分が限度だというものや、45分
だというものなどさまざまです。「私は集中力には自信がある」と
いう人でも、そのときの体調や気分によって、いつもより集中が続
かなくなることもあります。
つまり、 終わるまで机から離れないというのは非効率なのです。
勉強していると、誰しもが、「ああ、今は集中できていないな」
と感じる瞬間があります。 頭がきちんと働いていないのが自分でわ
かっているのに 机に向かい続けても、単語の暗記も、文章読解も進
みません。
でも、長時間の集中が必要なことは世の中にいっぱいあります。
勉強もそうですし、車の運転もそうです。料理だって気が散ってい
ると、包丁で指を切ったり、やけどをしてしまったりすることもあ
ります。
実は、私たちが集中を保っていると思っているときにも、集中し
ている時間と、そうでない瞬間があります。集中力を保つことが上
手な人は、「短時間の集中していない時間」を挟みながら、集中を
続けることができる人なのです。
「集中する1セット」を自分で作る
というわけで、短い休憩を挟みながら、集中して机に向かう時間
を自分で設定するという方法が効果的な勉強をするコツです。
たとえば波野さんは、大学の授業時間と同じ90分を1セットと考
え、その間は基本的に机から離れることはありませんが、その時間
を、さらに30分ごとに3等分しています。
30分ぐらいだったら集中できるだろうと考えて始めたという波野
さん。30分経過すると、文章を読んでいる途中であっても、顔を上
げて、背伸びをしながら深呼吸します。そして、この30分で、どの
ぐらい勉強が進んでいるかを確認。首や肩を軽く回して2分ぐらい
たつと、小休止は終了。再び次の30分の勉強を開始します。
「意識的に『今はリラックスしているんだ』と自分に言い聞かせる
ようにすると、不思議と次の30分に向かう元気が出ます」(波野さ
ん)
最初のうちは、30分を2回続けて1時間の間、机に向かいまし
た。慣れてくると、もう少しやれそうだ、ということで増やしてみ
ました。実は以前、30分を4回連続で、2時間続けることができる
かもしれないと試したこともあるそうです。しかし、30分ごとに進
み具合を確認してみたところ、90分を超えてからはずいぶんと効率
が落ちていることがわかり、今の90分に落ち着きました。
今でも、90分1セットが終わっても、さらに勉強を続けようとい
うときには、まとまった休憩を取ります。
「長い時間机に向かっても、だらけてしまえば、意味はありませ
ん。だから自分の効率が落ちるところを見極めて、時間を設定しま
した」(波野さん)
このぐらいならできそうだ、というところから始めて、自分に最
適な時間を見つけるのが一番いいようです。波野さんのやり方を参
考に、自分なりの時間割を作ってみましょう。

試験を見越して調整しよう
試験に向けて勉強している人にぜひやっておいてもらいたいの
が、実際の試験時間と同じ時間、机に向かうことです。試験によっ
ては2時間や3時間、もっと長い時間、問題とにらめっこを続けな
ければいけないものもあります。その間、ずっと集中し続けるとい
うのは、やはり至難の業。
どんなタイミングで一呼吸置いて、再び集中するのがよさそう
か、ということを過去の試験問題や予想問題を解きながら、考えて
みましょう。
通勤に電車やバスなどの公共交通機関を使っている人は、その時
間をできるだけ有効に使いたいと考えている人も多いはず。周りを
見渡してみると、最近ではスマホをいじっている人が多く目につき
ます。代わりに減ったのが新聞を読む人。あとは本を読んでいる人
がいたり、腕を組んで眠っている人がいたりしますね。
睡眠不足を解消するために寝てしまうのは気持ちがよさそうです
し、移動の間ぐらい、何の目的も持たずにぼーっとしたいという人
もいるでしょう。しかし、毎日30分乗っているとすれば、往復で1
時間。1週間で5時間にもなります。それだけの時間を勉強にあて
ることができれば、ずいぶんと進みそうな気もしますよね。

満員電車でもできる「思い出し勉強法」
利用客の多い路線だと、ぎゅうぎゅう詰めで本を読むのは無理と
いうことがあります。だから、何か勉強したいと思っていても、結
局あきらめて、ぼーっとしてしまう。そんな人にもできる勉強法が
あります。
たとえば家を出る前に英単語をいくつか頭の中に入れておき、電
車の中でそれを繰り返し思い浮かべて、会社に着いたら、ちゃんと
覚えているか確認する、という具合です。名付けて、「思い出し勉
強法」。
有働さんも思い出し勉強法の応用を実践している一人。数学の難
しい証明問題を読んで、問題文を頭に入れておき、電車の中ではそ
の証明方法をじっくりと考えてみます。電車の中では紙を使わない
分、こんな解法もあるはず、いや、こちらはどうだろうというふう
に、自由に発想できます。学校に着いたら、紙に書き出して、自分
の考えた方法が正しいか検討してみるのです。
暗記をするにしても、じっくり思考をめぐらすにしても、手を使
わずに頭をフル回転させることができるようになると、電車やバス
の中での時間が楽しくなりそうです。

プライベートの自由時間と割り切るのもよい
勉強時間を他できちんと確保できるという人は、移動時間はプラ
イベートの時間と割り切ってしまってもいいでしょう。
「社会人になると、通勤時間がプライベートな時間として重要度を
増す気がする」と感じている原田さんは、目的もなくぼーっとする
ようなことはありません。電車の中ではプライベートのメールを返
したり、好きな本を読んだりして 積極的にリフレッシュするための
時間として活用しています。
車内の時間は「強制的に一区切りつく自由時間」とも捉えること
ができます。家で勉強しようと思ってもついついだらけてしまうと
いう人は、「まんがを読むのは電車の中だけ」「家に帰ってからは
ケータイでネットを見ない。そのかわりに電車ではいくらでも見て
もいい」などと自分でルールを決めておくと、移動時間を最大限に
活用でき、勉強時間の確保にも一役買うはずです。
いずれ試験を受けようと考えている人は、試験に向けてきちんと
勉強計画を立てていますか︖
試験や資格取得などのわかりやすい目標がなくても、勉強するか
らには、大まかな計画は立てておくべきでしょう。何も目安がない
と、気が付けば全然勉強が進んでいない、なんていうこともあり得
ます。
しかし、社会人であれば、仕事の都合で予定が狂ってしまうこと
もあります。
予定どおりに勉強できていなければ、それはそれでストレスがた
まってしまいそうですよね。

予定の立て方を工夫しよう
短い期間、たとえば1日単位で計画を立てると、計画が遅れたと
きに取り戻すのが難しくなります。「今日はこの本を読み終わるつ
もりだったのに、もう夜中だ」。
そんなときに無理をして計画どおりに進めようとすると、寝るの
が遅くなって、翌日の仕事に支障をきたすかもしれません。結局、
「予定より遅れてしまったなあ」と嫌な気持ちを抱えながら寝るこ
とに……。
わざわざ 計画を考えても、達成できないと頑張る気力もそがれて
しまいます。こんなことなら、できるときに、できただけでいい
や、と思う人もいるかもしれません。しかし、最終的なゴールを目
指して予定表を作ることは、自分が何をすべきかを見失わないため
には、やはり必要です。
そこで、予定の立て方を工夫してみましょう。
重要なのは、ぎちぎちに予定を詰め込んでタイトな計画を立てな
いこと。 多少予定からはずれてしまっても最終的な目標には間に合
うようにするのです。
1カ月ごとに大まかな計画を立てて、月の中頃に進行状況を確認
するというのは一つの手です。
こうすると、月の前半に忙しくて時間が取れなかったり、さぼり
がちになってしまったりしたときには、後半に頑張ろうと気を引き
締めることができるので、ずるずると予定が遅れていくことを防げ
ます。
また、この時間・この日は絶対に勉強するというふうにしてしま
うと、融通が利きません。余裕を持って計画を立てることで、我慢
をする機会も減らすことができます。勉強しようかなと思っていた
ところに友人から誘いがくれば、遊びにもいける。そんな計画にし
ておくのが、精神的にも楽なのです。
気を付けてもらいたいのは、 余裕 を持 った計画 を立 てるために
は、 期日 までに 十分 な 日数 があることが 欠 かせないということで
す。
「2週間後のテストまでにあと4冊の問題集をやらなきゃ」という
状態では、余裕の持ちようがありません。できるだけ早い段階で、
ゴールを見据えておくことが、遊びのある計画を立てるためのコツ
です。
やる気がアップする予定表を作ろう
勉強計画を立てたら、予定表を作りましょう。
このときに少し工夫することで、やる気を引き出してくるような
予定表にすることができます。
まず、予定表はいつでも目に入るところに貼り出しておきます。
そして、今の自分の状況が一目でわかるようなものにしましょう。
そのためには「◯月末日までに『××』という本を読む」というよう
に達成すべき項目を書き出しておいて、終わった分は丸印やチェッ
クを付けるといいでしょう。
そして、 勉強する内容を自分が面倒だと思わない程度に細分化し
ましょう。
たとえば、章ごとに分割するという方法があります。「◯月末日
までに『××』という本を読む」という書き方だと、本を読み終わら
ない限り、丸印をつけることができません。章単位に分けておけ
ば、少しずつであっても、着実にゴールに向かっていることがわか
ります。「もうこんなに読めたぞ」と、ますますやる気が出るはず
です。
「これだけ頑張った」ということをわかりやすく示してくれる予定
表を作ることで、全体の進行状況を把握しやすくなるだけでなく、
やる気の維持にも役立つようになります。
また、全体の状況をながめながら、「今日1日でこのぐらい勉強
しよう」というリストを毎日作ってみるのもいいかもしれません。
リストに書いたことをすべて消化できたら、あとは完全に自由。
たとえ終わらなくても、スケジュールに余裕があれば、そんなに焦
ることはありません。達成できなくてもペナルティはないけど、達
成できたときには、その喜びを噛みしめる「都合のいいリスト」を
作るのです。実際に「都合のいいリスト」を使っている原田さん。
晩酌が日々の楽しみですが、リストを達成できたときにはプレミア
ムビールを飲んでもいい、という自分ルールを定めています。
「社会人になってからの勉強は、人にほめてもらう機会はほとんど
ありません。大したことじゃなくても、自分で自分をうまくほめる
ことが大切ですよ」(原田さん)
一度本を読んだだけで、その内容を忘れずに覚えておけるとした
らすばらしいですが、現実はそうはいきません。というのも、 記憶
の定着を図るためには復習が必要だからです。
復習に関して、中国の孔子という人がとても有名な言葉を残して
います。「学びてときにこれを習う。またよろこばしからずや」。
現代語に訳すと「勉強したことを機会があるたびに復習すること
で、より深く理解できることができる。なんともうれしいことだ」
というようになります。この言葉が記された『論語』は紀元前5世
紀には成立していたといわれているので、 2500年前の人も、復
習がいかに大事かを知っていたことになります。
1日たつと7割忘れる
さて、勉強したことを復習するタイミング、皆さんはどうしてい
るでしょうか。勉強してすぐだと、ほとんどの内容を覚えているか
ら、ほとんど復習にならないのでは、と考える人もいるかもしれま
せんね。
しかし、結論からいうと、復習はその日のうちにやってしまうの
がよさそうです。というのも、ドイツの心理学者であるヘルマン・
エビングハウスという人が行った実験の結果で、驚くほど短期間で
記憶が薄れていくことが示されているからです。
その実験結果は「エビングハウスの 忘却曲線」として知られてい
ます。 覚 えた 直後 から 急激 に 記憶 が 薄 れていき、1 時間後 には
56%、1日後には74%も忘れてしまうのです。
ただ、これまでの勉強経験から思い出してみてください。ずいぶ
ん前にやった内容を久しぶりに復習してみたとき、「やったこと自
体は覚えてるんだけど、どういう話だったっけ」と頭を抱えたこと
はありませんか︖
第5章Q26でも紹介した有働さんの勉強法。その日に勉強したこ
とを、夜に簡単に復習するというものでしたが、有働さんがこの勉
強法にたどり着いたのは、朝型人間になるためだけではありませ
ん。有働さんも大学入学以降、試験前に数カ月分の授業内容をまと
めて復習していた期間がありました。しかし、それだと勉強した内
容をぼんやりとしか思い出すことができず、かなりの時間がかかっ
てしまいました。そこで思い出したのが、忘却曲線。記憶がまだ鮮
明な、その日のうちに復習をすることで、もっとしっかり頭に残る
はずと考えて実行してみると、やはり定着度がよくなったといいま
す。
学校での勉強を思い出してください。教科書で新しいことを習っ
たあとに、問題集などですぐに演習を繰り返し、さらに中間試験や
期末試験対策で定期的に復習もしていましたよね。
数カ月分の内容を一度に復習しようとしても、うまくいくわけは
ないのです。
世の中にはたくさんの試験があり、それぞれに対応した模擬試験
があります。本番の試験の前に、そういった模試は受けておいたほ
うがいいのでしょうか。
「試験本番の緊張した雰囲気に慣れためにも模試は受けておくに限
る」(網野さん)というように、本番と同じような環境を体験でき
るのが模試のいいところです。
また、模試ではごまかしも利きません。問題を解くのも自分、答
え合わせをするのも自分という状態だと、甘い採点になることだっ
てあります。きちんと理解できていなかったのにたまたま答えが合
っていたということもあるでしょうが、記述式のような試験では通
用しません。わかったつもりにならないためには、模試を受けるの
が手っ取り早いです。
しかし、みんなが 受けるものだから、とりあえず自分も受けてみ
ようという 考え方はおすすめできません。
模試を受ける理由を明確にしよう
大学受験のときには、京都大学の試験直前の模試を一度だけ受け
たという原田さん。有名大学の模試は数多く行われており、腕試し
として受験する人は多いですし、原田さん自身、「結果をちゃんと
受け止められるのであれば、受けておいたほうがいいのは間違いな
い」と思っていました。
では、なぜ直前まで模試を受けなかったのでしょうか。
それは、高校3年生の夏休み前まで成績が伸び悩んでいたからで
す。模試の結果がひどいものだったら立ち直れないと考えて、模試
を避けていました。確かに結果が思わしくないときの精神的なダメ
ージは小さくはないでしょう。
原田さんは進学校に通っていたので、3年生になってさっそく模
試を受けたという人は周りにたくさんいました。まずまずの成績を
収める人がいた一方で、まったく歯が立たなかった人もいました。

結果を見て落ち込む人もいる
「みんな受けるものだから」と軽い気持ちで受験したのに、結果を
見た教師や保護者から「この成績じゃ無理だ」と志望校の見直しを
迫られ、落ち込む人を見ると、原田さんは怖くなりました。
「このままでは私もだめかもしれない」と考え、志望校変更も含め
て思い悩んでいた原田さんですが、夏休みになって覚悟を決めまし
た。苦手だった英語が急激に伸び始めたのがきっかけですが、憧れ
の大学に入学するためには、いつまでも模試を避け続けることはで
きない、どんな結果になろうと、それを受け止めて、受験本番まで
頑張ろうと思い直したのです。
実際、夏休み明けに受けた模試では、解答欄を半分も埋めること
ができませんでした。しかし、原田さんの目的は模試でいい点数を
取ることではなく、テストの緊張感に慣れることと、自分の現状を
再確認することでした。そのため、模試の出来に落ち込むことはな
く、むしろその 結果をばねにしてさらに勉強に集中し、見事現役で
合格を果たしたのです。

模試を受け過ぎると混乱することも
一度しか模試を受けなかった原田さんとは対照的に、片っ端から
受験したという細川さんのような人もいます。細川さんは一浪し
て、京大に入学しました。現役のときはセンター試験当日、試験会
場の張り詰めた緊張感に飲まれてしまい、大きなミスを連発してし
まいます。結局、センター試験のミスが響いて不合格になってしま
ったのです。
「自分が試験であんなに緊張するとは思ってもいなかった」という
細川さん。浪人中に、センター試験形式の模試も含めてたくさんの
模試を受験して、とにかく雰囲気に慣れるように努めました。
おかげで 緊張はしなくなったものの、それとは別に大変なことが
出てきました。たくさん模試を受けると、その数だけ合否判定(模
試の成績から、合格できるかどうかを予想したもの)が出されま
す。今度はその 結果 に 気持 ちが 揺 れ 動 くことになってしまいまし
た。

模試ごとに違う採点基準や合格ライン
多くの受験予備校が京都大学の模試を開催していますが、それぞ
れで受験者数も違えば、採点や合格ラインの判定の厳しさも異なっ
ています。ある模試では、「このままいけば合格できるはず」とい
う判定をもらった人が、別の試験では「これでは合格は難しいです
よ」という判定をもらうことも珍しくありません。それぞれの模試
が違った特性を持っているので、結果に一喜一憂していては、勉強
の調子を崩してしまうでしょう。
細川さんも、同じような手応えなのに、模試によって判定が上が
ったり下がったりと安定しません。最終的に、 合否判定のことは気
にせず、模試 で間違 った問題 は完璧 に解 けるようにすることに集中
することにしました。二度目のセンター試験と京大の試験は落ち着
いて解くことができ、見事、合格を果たしました。
「一度失敗していたからこそ、判定を気にしないようにするのはと
ても難しかったし、今振り返ってみても、精神的によく持ちこたえ
たなという感じ」と細川さん。模試を受けすぎるのは、それはそれ
で考えものです。

あくまでもゴールは「 本試験」
原田さんと細川さんの体験から、 模試は受けさえすればいいとい
うわけではないことがわかります。
模試はあくまでも「模擬」の試験。模試でいい成績を取れたとし
ても、目指すべきゴールである本物の試験はもう少し先にあります
から、ペースを緩めるわけにもいきません。
逆に、思わしくない結果であったとしても、本物の試験までに挽
回すれば、合格が見えてきます。
自分の現状を知るためであったり、緊張に慣れるためであったり
と、模試を受験する目的はいろいろあると思いますが、無理してた
くさん受けるべきというような性質のものではありません。成績に
一喜一憂することなく、本物の試験に合格するためのツールとして
活用するべきです。
皆さんは、夏休みの宿題はいつ頃終わらせていましたか︖
宿題が発表されたらすぐに取りかかり、1週間もしないうちに終
わらせていたというような人がいる一方で、最終日になってから、
手つかずの宿題のあまりの多さに絶望したという人もいることでし
ょう。
締め切りが設定されている課題に対して、どのように取り組むか
というのは、その人の性格がよく表れるものなので、そう簡単には
変えることはできません。
しかし、夏休みの宿題ならともかく、勉強の成果を問われるプレ
ゼンや試験が迫ってきてから真っ青な顔になっても、あとの祭りで
す。

「前倒しタイマー」をたくさん準備しよう
「締め切り直前になって取りかかると、びっくりするぐらい集中で
きるんだ︕」と主張する人もいるかもしれませんが、危ない橋はで
きれば渡りたくないもの。ぎりぎりになって慌てるよりは、余裕を
持って仕上げることができたほうがいいはずです。
「先方から『できるだけ早くお願いします』と言われると、早くや
ったほうがいいのはわかるけれども、なかなかやる気が起きない」
と語る高原さん。同じような経験のある人もいることでしょう。
一般的に、締め切りがだいぶ先であったり、明確に期限を切られ
ていなかったりするときに、すぐさま課題に取りかかることができ
る人は少ないものです。高原さんも「◯日の×時までに何とかお願
いします」と言われると、不思議とやる気が出るのだとか。
まだまだ余裕があると思っていたのに、直前になってばたばたし
てしまう人は、時間をうまく使うために、自分の中で締め切りを設
けることにしましょう。
このとき、第5章Q28でもふれたように、 課題を細切れにするの
がうまくいくコツです。締め切りが一ヶ月後であれば、1週間ごと
ぐらいに分けるのがいいでしょう。「課題1は◯日までに」「課題
2はその1週間後までに」「最後の課題は締め切りの1週間前まで
に終わらせる」というように、締め切りまでに十分な余裕を持たせ
て予定を立てます。そして、それぞれの期限が来るたびに「ちょっ
と遅れているけど、まだ大丈夫だ」「このままでは間に合わないか
ら、もっと急ごう」というように進み具合を確認するようにしまし
ょう。ちゃんと前倒しできているかを知らせてくれるタイマーをい
くつも用意しておくのです。
ビジネスでも勉強でも、締め切りに余裕を持っておきたいもので
すが、これは何も、早く終わらせれば遊べるから、というわけでは
ありません。
10日後までに英単語を100個覚えないといけないとして、1日
に10個ずつ覚えればいいと考える人は、要注意。というのも、その
計算には復習の時間が含まれていないからです。新しく単語を覚え
ていくうちに、最初のほうで覚えた単語は少しずつ記憶が薄れてい
きます。もっと 早めにスケジュールを消化しておかないと、復習の
時間を確保できずに、試験本番で「思い出せない︕」と慌てること
になります。
おわりに

本書を読んでみた感想はいかがだったでしょうか。
勉強法研究会の人々も、最初から頭がよかったわけではありませ
ん。挫折することもあれば、成績が伸びずに頭を抱えたこともあり
ます。そうした失敗や苦悩の経験に裏打ちされた勉強法は、きっと
あなたの助けになることでしょう。
大学入学や就職がゴールになっている人も少なからずいる中で、
それでも勉強しようという気持ちはすばらしいものです。勉強方法
は人から教わることができますが、勉強する「動機」や「やる気」
は自分の中からしか湧いてこない、あなただけの大切なものです。
ですから、その大切な「動機」や「やる気」が光を失わないため
にも、壁にぶつかったときには本書を読みなおし、よりいっそう勉
強法に磨きをかけてもらえることを、私たちは願っています。
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※本書に記載されている情報は、2015年5月執筆時点のものです。
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STAFF
カバー/本文デザイン 萩原弦一郎・橋本雪(株式会社デジカル)
文章構成 唐仁原俊博
編集 昆清徳(株式会社翔泳社)
頭がよくなる勉強法はどっち︖
2015年6月18日 初版第1刷発行

監修 京都大学勉強法研究会
編著 SE編集部
発行人 佐々木幹夫
発行所 株式会社翔泳社(http://www.shoeisha.co.jp/)

2015 Shoeisha. Co., Ltd.

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ISBN 978-4-7981-4286-9
2015-6-18版

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