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国際貿易と産業組織展望

南 部 鶴 彦

様に批判を受けなければならない。巨大な
1 はじめに アメリカ経済においては,国際的な競争の
力は市場構造と成果を形成するには,さほ
本稿は国際貿易と産業組織というテーマを ど大きなものとは思われなかったのである。
理論的な分析の枠組と実証的な分析の展望と 適切な市場の境界線を引くという分析的に
いう二つの視点から扱っている。従来産業組 ごたごたした問題は理論家の興味を惹くこ
織に関する研究は,国内市場構造の要因に主 とはなかった。したがって過去10年間まで
たる関心を向けて,海外からの競争という要 産業組織の研究において国際的諸力が無視
因を重視しない傾向にあった。しかし現在で されてきたことは容易に理解ができるので
はこのような単純化が有用というよりも,無 ある」

視できないバイアスをもたらす可能性の方が 1) Caves, R., ‘‘lnternational Trade and

大きくなっている。本稿では,fi,皿におい Industrial Organization : Introduction,”

てこの問題に対する理論的アプローチを,W, 1伽γπσZof Indusirial Economics,29, Dec.

Vでは実証分析の展望を行いそのもたらした 1980 p.113.

事実発見とインプリケーションを論ずる。ま 2) しかしアメリカの有力な経済学者すべてが
ず本節では問題の概観を与えることにしよう。 この見解をとる訳ではないことについては
次を参照する必要がある。Coase, R.,“ln−
産業組織と国際貿易というテーマは極めて dustria10rganization:AProposal for
興味深いものであるにもかかわらず,これま Research” Policy Issues and Research
でのところ十分な研究の蓄積がないというの OpPortunities in Industrial Organization.

が現状である。このような事態を説明するも NBER 1972.

のとして,リチャード・ケイヴスは最近の 1950年代以降の産業組織研究が,主として
Journal of Industrial Economics誌上で, アメリカの経済学によって主導されてきたと
いかにもアメリカの経済学者的な立場からこ いう事実からして,ケイヴスの述べたように,
れを次のように述べているD。 アメリカおよびアメリカの経済学者が国際貿
「アメリカの経済学者は産業組織に関する 易問題や国際間の競争を重視しはじめてこの
仮説の統計的な研究を推進したことに対し 分野に新たな注意が向けられはじめたという
ては功績を主張してもよいであろう2)。し のは自然の成り行きであろう。
かし彼らは一そしてその数はより少ない 産業組織の研究及び公共政策のあり方につ
が,先達も一『国家』を当然のこととし いて,国際貿易を同時に考慮することは,理
て市場の地理的な拡がりそのものとみなす 論的にも,政策的にも極めて重大であると同
ことを習慣としてきたことに対しては,一 時に困難ないくつかの間題をも提供するもの
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国際貿易と産業組織:展望(南部)

である。政策的なレペルで言えぽ,閉鎖経済 節では主要な問題点の指摘と分析の方向を示
における競争政策として従来の公共政策(独 唆するにとどめている。第IV節は,国際貿易
禁政策および政府の直接規制政策)が位置づ の要因を合んだ産業組織の数量的な実証研究
けられる限りでは,理論と政策との関連は単 を展望している。モデル自体の理論的問題点
純化されたパラダイムに依拠しながら,ある は後に要約されているように少なくないが,
程度の見通しを持つことが可能であった。し 現在の時点における事実発見として,それら
かし国際貿易が国内市場での競争につねに有 はいくつかの興味深い結果を与えている。
意なインパクトを与えるとすると,競争政策
の相対的な自立性は大きく損われると言って 2 国際貿易と市場構造の分析
よい。あるいはより拡大されたパラダイムに
おいてのみ,整合的な公共政策のあり方が再 まず国内産業組織と貿易との関係を概観す
構築されるのである。たとえぽ産業組織のあ るために,次のような市場構造と貿易構造の
り方一市場構造は,国内および海外市場に 特定化を行ない,そこで成立する均衡を分析
おける輸入および輸出のあり方に大きな影響 することにしよう。市場の構造は競争あるい
を与える。また関税その他の貿易政策は逆に は独占の二分法を用い,貿易構造としては輸
市場の構造と市場行動そして市場成果に影響 入が完全に自由である開放経済のケースと,
を与えるのである。このようなフレームワー 何らかの政策的措置あるいは輸送費の存在な
クのもとでは競争政策はその他の諸政策の政 どによって輸入が完全にブロックされた閉鎖
策目標と互いに競合せざるをえない。マクロ 経済のケーtスとをとりあげる。また取引され
的な政策による経済成長・雇用安定・インフ る財は同質的であると仮定する。したがって
レーションの抑制等々と競争政策によるミク 均衡は次の四ケースについて分析されること
ロ的な資源の有効配分という新古典派的な二 になる。

分法はもはや有効でなくなるのである。
表1
したがってわれわれはここで,国際貿易が
産業組織分析の理論的フレームワークに明示 競 争 独 占
的に導入されたとき,どのような理論的プレ
ディクションが可能となるかを明らかにする 開放経済 (i) (ii)

必要がある。次節では,国際貿易の要因を主 閉鎖経済 (iii) (iv)

として輸入が自由に行なわれているか否かを
一つの基準として,市場における企業の行動
と市場均衡および市場成果の関係を分析した。 (i)競争的な市場構造と自由な輸入
ここでは産業組織を国際貿易との関連で分析 これは通常の貿易論でとりあげられている
するにあたって,まずもっとも重要と思われ ような自由貿易のもとで成立する開放経済の
る輸入の役割を部分均衡の枠組において明示 システムで,そこでの均衡は次の図1で与え
的に取り扱うことが目標である。またそこで られる。
は基本的に製品が同質的である場合がとりあ 市場取引量Xを横軸にとり,縦軸には価格
げられているが,製品の差別化されたケース (円/数量)をとることにして,世界貿易で成
を無視する訳ではない。しかし製品差別化を 立する価格をPωとする。世界価格はこの国
含んだ国際貿易と産業組織に関する理論的分 にとって所与であるとすれば,その水準に応
析は,ほとんど存在しないところから,第皿 じて国内の生産者による供給量が決定される。

83
図価格
1
図2

価格
盈凡几
P,‘、

P“ L,

x(数量)
O x,.x, x Xyx,x傲量)
もし世界価格が.Pω1で,それが国内生産者の 入をブロックするような措置をとらなければ,
供給曲線と国内需要曲線の交点である.Pcよ 国内のみをとりあげた独占という市場の形態
りも高い場合には,海外における輸出が自由 自体が無意味なのである。ここでは国内独占
であれぽ(輸送費や関税をここでは無視す 者があくまで独占的地位を保とうとしたら,
る),国内供給量Vt OX,,輸出量はXIX2と そのためには価格をPw2以下に引き下げる以
なる。一方,世界価格がPcよりも低いPω2 外に方法はない。しかしそのとき独占企業の
である場合には,国内生産量はOX・で,海外 入手する生産者余剰は競争的な場合のそれよ
からの輸入量がx3x4となる。自由貿易経済 りも小さいのであるから,独占者に何らかの
のもとでは,世界価格が国内供給者にとって 少なくとも短期的な利潤以外の目標がなけれ
の限界費用となるから,これが国内均衡価格 ば,そのような政策が長期にわたってとりつ
P,と異なるかぎりは,輸出ないし輸入が行 づけられることはありえないであろう。
なわれて財市場での均衡がもたらされること しかし世界価格がPcを上まわるというケ
になる。国内産業のパフォーマンスに対して ースについては,周到な分析が必要とされる。
与える貿易の影響は,国内市場均衡を基準と 図2は,世界価格がPcを上まわるPwである
すれぽ,輸出がプライス。コスト・マージン ケースを描いている。輸入を無視した場合の
(…一・・畑・g・・:一㌃⊆,・一纈用) 独占企業の利潤最大化はXMとP.で達成さ
れる。しかし実際は輸入が.P彪以下のPwで
に対して正の影響を与え,他方輸入がこれに なされているので,もし国内における独占的
負の影響を与えることがこのモデルからプレ 地位をあくまで維持しようとするならぽ,企
ディクトされる。 業は国内需要曲線に沿ってPwよりも若干低
目の価格をつけなけれぽならない。しかし一
(ii) 国内市場における独占と自由な輸入 方海外市場において,世界価格が所与である
国内の市場で独占が成立していながら,貿 かぎり独占者は生産をx2まで行なおうとす
易に関しては輸入が自由であるというケース るインセンティヴを持つであろう。それは図
でも,図1で世界価格がP。を下まわるとき 2の三角形・4BCで示される生産者余剰の
には(i)で分析された競争的市場と同じ帰結 増大があるからである。したがってこの場合
を生み出すことは明らかである。この場合に 独占企業は,国内独占を保持するに足る最小
は国内の独占者が何らかの政治的圧力を利用 限の価格割り引きを国内で行なう一・方,海外
して国内における独占的地位を保つために輸 では世界価格PwでXi X2よりも若干少ない
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国際貿易と産業組織:展望(南部)

量の輸出を行なうことになるであろう。この 格.Pwよりも低いときの収入と,国内価格が
とき輸出機会の存在は独占企業の利潤を増加 世界価格を上まわるときの収入とを,それぞ
させるが,プライス・コスト。マPtジンにつ れの確率で荷重して合計したものである。こ
いては,世界価格が限界費用に等しくなるま こで企業は生産計画の初期時点である生産量
で輸出が行なわれるので,これを輸出が引き を生産することに決定し,価格の不確実性に
下げるという効果を持つことになる。 ともなう市場での不均衡は価格を動かすこと
しかしながら以上のような,独占者の国内 によって調整するものと仮定される。C(の
市場におけるP”を中心とした行動は,輸入 は生産コストであり,国内生産物に関する限
価格が確実に独占者にとって知られている場 界収入をMR,とすれば,独占者の利潤最大
合である。もし輸入価格に関する不確実性が 化条件は次のようになる。
存在するとすれぽ,独占企業は先の分析のよ
うに.Pwよりも若干低い価格をつけて国内の MR,〔1−F(P,)〕
独占を維持するということは不可能となる。
+∫8d∫(Pw)P・ dPw=・MC
このときには,世界価格が国内価格を上まわ
るか下まわるかについて予想をたてて,最適
な生産量を決定する必要が生じてくる。世界 MCは限界費用であり,上式は独占者が,
価格が国内独占者にとってコントロールが不 世界価格がP・よりも高いときの限界収入と
可能である状況では,このような輸入品の価 世界価格がP・よりも低いときの収入との総
格に関する不確実性の存在が,独占者の行動 和をMCに等しく決定することを示してい
にどのような影響を与えるかを分析すること る。

は,極めて重要である。 一方,もしこの国内で生産者が競争的に行
L.Whiteによる次のような定式化は,こ 動しているとすると,均衡はπ=0において
の問題を分析する上で示唆に富むものであ 成立するから,均衡条件として次式をうる。
る3)。いま輸入価格Pωはノの確率密度分
A A
布を持つ確率変数であるとしよう。この累積 P,〔1−F(P,)〕

確率分布を Fとして,国内における生産物 A
+∫8d,(Pw)馬鵡一MC
価格をP・とすれば,独占者の利潤は

π=〔.P・q−C(の〕〔1−.F(P・)〕 A
P・は均衡における国内生産物価格である。
この競争における均衡状態を独占者の均衡条
+∫ed∫(Pw)〔P・q−c(q)〕dPw
A
件と比較すると,明らかに〔1−F(Pd)〕が
需要関数 .Pd=.Pd(の;q==生産 A
正であれぽ,MR,<Pdであるから独占者の
販売量 均衡生産量は競争的な生産量よりも小さいこ
A
とがわかる。〔1−F(Pd)〕が正であるとは,
で示される。 世界価格がときとして競争的な均衡生産量の
3)White L.,“lndustrial Organjzation and もとで国内価格を上まわる正の確率があるこ
International Trade:Some Theoretical とを意味している。この条件のもとでは,独
Considerations,,, American Economic Re・ 占のもとにおける輸入量は,競争におけるよ
view 64, December 1974を参照。 りも大きいのである。言いかえれば,独占者
上式で第1項と第2項は国内価格が世界価 は輸入価格の不確実性のある場合には,より

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少ない国内生産量とより高い国内価格を設定 いま国内製品が独占されており,その需要
して,輸入からの競争にさらされるというこ 関数がQ.で与えられるとし,一方海外か
とである。 らの差別化された商品に対する需要関数が
以上の分析から,たとえ国内市場において Q胚で与えられるものとする。そこで,
は独占であっても,輸入が自由に行なわれ, (?D=Q.(P.,Pの
独占者は世界価格に対してプライス。ティカ
Q冴=QM(Pp, Pの
ーとして行動するときには,不確実性が存在
するか否かが,国内における均衡に大きな影 という通常の需要関数を想定する。それぞ
響を与えることが明らかとなった。世界市場 れの価格P.,P.に関して交差弾力性は正で
におけるテリトリー制などの市場セグメンテ あると仮定される。即ち,

ーションが存在しないときには,一般に世界
、鍛「〉・
価格に関する不確実性は高い。このような要
因が市場成果に以上のようなルートを通じて
大きなインパクトを持つのである。
藷㌃〉・
ここまでの分析では,輸入される商品が国
である。
内商品と同質的であることが前提とされてき
さらに国内生産者が海外からの製品供給に
たが,もし商品が差別化されている場合には
関して想定する価格・数量のスケジュールと
ここでの議論がより複雑になることを簡単に
して次のものを考える。
触れておくことにしたい。もし輸入される商
品が同質的でなく差別化がなされているとす P〃・・Pπ(Qの

ると,国内生産者がこれを価格によって完全
熟〉・
にブロックすることは不可能である。したが
って国内市場では何らかの輸入が発生せざる
これは勿論,海外製品の供給関数ではなく
をえない。輸入される商品が差別化されてい
国内独占者の想定するライバルの価格・数量
るということは相手国の企業も独占的性格を
の予想にすぎない。一方需要に関しては,効
もつことを意味し,国内独占者は相手国の提
用関数は分離可能で消費者は予算1の一定割
供する商品の代替性を考慮しつつ,価格づけ
合をこの二つの差別化された商品に支出する
に関して相手方の反応をみるということを余
と仮定すれば,
儀なくされる。このような状況はCavesお
よびPuge14)によって,とりあげられてい P.D十PMQnt=1
るので,これをここで見ておくことにしよう。 以上のもとで,国内独占者は利潤を最大と
4) Caves, R, lnternational Trade, Inter・ するような価格・数量を選択する。
national Investment and Imクerfect Mar・ 利潤関数πは,
feets, Special Papers in International Eco・
π=(1−PMQの一C・Q・
nomics No.10, Princeton University,
International Finance Section, Depart− ここでCpは生産の限界かつ平均費用であ
る。
ment of Economics,1974,およびPugel,
T.A.“Fore五gn Trade and US Market 利潤最大化の一階の条件からプライス・コ
Performance,” Journal of Industrial Eco・ スト。マージンを求めるとそれは次のように
nomics XXIX, Dec.1980.を参照。 示される。

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国際貿易と産業組織3展望(南部)

狽奄bi”,一一一絵〔(ε塑一十εMDεMS)
一”P” 図3

価格D
/(εDD−(εDD・eMM一εDM・eMD)/殉〕

十1

ただし

ε醐=海外製品の予想された供給の価格
弾力性
εDD=国内製品需要の自己価格弾力性
x(数量)
εMM =海外製品需要の自己価格弾力性

許需要の交鋤性 で国内価格はPCで,国内取引量はXCとな
る。即ち,国内市場は競争的ではあるが輸入
については閉鎖された経済システムのもとに
である。
あるので,開放経済システムのもとにおける
ここで支出に関する制約から
供給曲線がPCという価格でキンクしている
εDDεκπ一εκD eD〃>0 というのがこの経済である(図3)。

でなければならないので,最適なプライス・
(iv) 国内市場における独占と輸入のブロ
コスト・マージンは国内製品販売量に対する
ック
海外製品の比率すなわち差別化された商品の
国内における独占者が,海外からの競争を
輸入比率に関して,次の関係を持つ。
有効にブロックしている場合には,独占者の
d(Pρ一Cp P.) 行動は価格差別(price discrimination)の

一一一一一
d(P堰QM.P. Q.)
ュ0 可能性を考慮して体系的に分析される必要が
ある。そこで国内における独占者が海外の市
場を細分化(segment)できないというケー
これは輸入のもたらす国内独占者に与える スと,それも同時に可能であるケースに分け
影響が,差別化された商品については一定の て分析しよう。
方向を持つことを示している。即ち,輸入シ 第一のケースでは国内独占者が海外の市場
ェアの増大は独占的企業のプライス・コスト では,世界価格を所与として行動するという
・マージンに対して負の影響を与えるのであ 行動が分析されなけれぽならない。これを次
る。
の図4を用いて明らかにすることができる5)。
先と同様に世界価格は・Pwで,国内需要曲線
(iii)競争的な市場構造と輸入のブロック
のもとでの限界収入曲線がMRで示されて
市場は競争的であるが,何らかの理由によ いる。輸入がブロックされているので国内独
って輸入がブロックされているというのがこ 占者は世界価格以上で販売することができる
のケースである。この場合の市場均衡は世界 が,そのとき選択される国内価格は限界収入
価格が国内均衡価格PCを上まわっている限 MRが生産の限界費用SSと一致するような
りは輸出がなされるが,逆に世界価格がPC 生産量X濫に対応する価格P.である。しか
以下となっても輸入はブロックされているの し国外の市場では,世界価格Pωのもとでし
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図4 図5

価格那
価格ρppp

πユ

乙右一 ノ1

a s Pf, s
P、
rl
CM7ぜ

s
0 x,, x、x、 x,
x(数量)

か販売を行なうことができないから,ここで
x(数量)
供給されるのはPωと限界費用SSが合致す
るX2までの生産量であり,結局この独占企
ただし XM=.X君+X姦
業の輸出量がXMXIとなる。国内市場の構
Ps=MRd=MRF
造が競争的である場合と比較して,国内供給
量,輸出量の組みあわせが変化するのに注意 弾力性が異なりかつ買手側で裁定取引を行な

しておこう。競争と開放経済の組みあわせで うことが不可能な(有利でない)場合には,

は,国内供給量はOX,で輸出量はXIX2で この企業は価格差別を行なうことが利潤を増
あった。しかし独占が輸入ブロックと結合す 大させるために有利である。したがってこの
ると,国内供給量はOX濯に制限され,輸出 企業は世界市場を細分化(segment)して,そ

量はXMX2へと拡大するのである。 れぞれの市場における需要の価格弾力性に応
5)White, L, op。 cit. じた価格決定を行なうことになる。図5では
しかしこのような国内外の価格差は,海外 国内および海外のそれぞれの市場で直面する
からダンピングとして批判されこれを続ける 需要曲線DdD・とD.D刃に応じて,独占価
ことは困難かもしれない。このとき独占企業 格がPMdおよびPMPに設定される状態が
は国内市場であくまで独占者として行動し, 描かれている。このような事態のもとでは,
輸出による生産者余剰をあきらめるか,ある 国内市場において生産が制限されるだけでな
いは競争的企業と同じく世界価格で国内生産 く,海外の市場でも生産量は世界価格のもと
を行ない(しかし輸入がブロックされている で競争的に供給されるときよりも制限される
ので市場の独占的地位は保たれる)しかも輸 ことになる。
出を行なうか,の二者の選択を行なわなけれ
ばならない。このときの選択基準は,国内で このようにして国内が独占されているだけ
の独占的供給から得られる利潤と,輸出によ でなく,輸入が有効にブロックされている場
るそれとの比較であり,それは図4では面積 合には,貿易を考慮しないとき独占企業のと
.恥LMPωと面積ABCとの比較に依存して る価格,生産量政策とは異なる新しいディメ
いる。 ンジョンでの資源配分問題を発生することが
次にこの独占企業が海外市場でも同時に独 示されたことになる。この独占企業のプライ
占者として行動できるケースを考えよう。こ ス。コスト・マージンは次のように書くこと
のような状況で,国内と海外とで需要の価格 ができる。

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国際貿易と産業組織:展望(南部)

PCM坑講艦Q/c仏 は不可能となるのである6)。

6) この問題についての分析としては,
・珊群鞍ぺC泌 Balassa. B.,‘‘Tariff Reduction and Trade

in Manufactures among the Industrial


ただしここで, Countries,”American Economic Review 56,
June 1966. Grubel, H. G.,“lntra−Industry

PxQx=輸出額 Specialization and the Pattem of Trade,

Canadian Jonrnal of Economics and


瓦讃%戸輸出・・ア Political Science 33, Aug.1967,および
Grube1, H. G and P. J. Lloyd./ntra−
PCM・=国内でのプライス・コスト・ Industry Trade(Macmillan,1975.).
マ陶ンン
第二に,産業組織のあり方と貿易の関係に
PCMx=海外でのプライス・コスト・
おいて,多国籍企業の果たす役割は極めて重
マージン
大であるが,製品差別化はそのような多国籍
これは多国籍企業に代表されるような,海 企業の活動の基礎をなすものであると言われ
外でも市場をテリトリー一}C分割して価格支配
ている7)。製品差別化は企業が無形の資産
力を行使しうる巨大企業のパフォーマンスと (グッドウィル)を保有していることを意味
密接な関連を持つものである。 し,それは海外市場におけるマーケティング
において成功するために有力な基盤を提供す
3 製品差別化と国際貿易 る。国内における独占が製品差別化を基礎と
して成立することが多いとすれば,多国籍化
以上の分析では製品が世界市場において同 の一つの条件として再び製品差別化が有効で
質的な場合をとりあつかってきたが(ただし あることは,産業組織と国際貿易との関連に
開放経済のもとでの独占を除く),産業組織 おいて,この要因を無視して分析を進展させ
と貿易との関係をより現実的に分析するため ることはできないことを意味する。
には製品差別化という要因を導入する必要が
7)代表的な見解としては,Caves. R.,“lnter−
あることは明らかである。しかしながら,製
national Corporations : The Industrial
品差別化をとり入れて同時に以上のようなク
Economics of Foreign Investment,”Eco−
リァ・カットの分析を行なうことは現在のと
nomica 38. Feb.1971.
ころ困難であるので,ここでは主要な問題点
を指摘するのにとどめよう。 第三に製品差別化の存在が,企業の直面す
第一に多くの国々は一方で差別化された商 る需要曲線をより非弾力的にするとすれぽ,
品を輸出しながら,同時に他国からの輸入代 それだけ差別化された商品を生産する企業は,
替の競争にさらされているという事実がある。 輸入による代替圧力からフリーでありうるこ
これは“intra・industry trade”と呼ばれて とを意味する。それは企業規模が,費用最小
いる現象で,必ずしもそのミクロ経済学的な 化を行なったときの規模よりも小さくてもす
論拠は明らかでない。しかし最近になってい むことを可能にするなら,sub・optimal 8cale
くつかの実証的な研究がこの間題についてな の企業を製品差別化は生み出す可能性がある。
されている。製品差別化を導入するともはや このような製品差別化の効果と関税政策(特
単一の輸出あるいは輸入価格を定義すること に小国における)とが結合すると次のような
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事態がプレディクトされる8)。多国籍企業が 織分析のパラダイムからの脱却を迫られるこ
海外に子会社を設立してそこで生産するか, とになるであろう。
輸出するかの選択に直面したとき,もし関税
が存在すれば,海外子会社を設立する方を選 4 海外からの競争の国内市場成果
択するかもしれない。しかしそこで設立され に与える効果
る子会社の生産規模は,その製品が十分に差
別化されているときには,国内における地場 国内における資源配分の効率が,国内の市
のライバル企業の生産規模よりも小さくても 場構造によってどのような影響を受けている
対抗が可能である。そこで関税率が高いほど, かの実証研究が,J. S. BainからR. Caves

差別化された海外子会社の存在は,その国に に受け継がれた一つの産業組織の主要な研究
おける平均生産規模を縮小するという結果を 分野であった。しかし国内の資源配分の効率
生むのである。実際にこのような傾向が見ら 性は国内における企業だけでなく,海外の企
れるものとしてカナダの諸産業が,アメリカ 業によっても影響を受けるとすれぽ,国内市
の「ミニチュア・レプリカ」であるという仮 場構造以外に海外要因を付加することによっ
説が提出されている。もしこうした事態が実 て,構造一成果の数量的分析を進展させよ
証的に支持されるとすれば,製品差別化の生 うとするのは自然な拡張である。Esposito
産規模に与える影響は,国際貿易のリンクを &Espositoの端緒的な分析以来,最近に至
通じて海外に伝播するということを意味する るまでこのような形での数量分析はそれなり
ものである9)。 に,いくつかの事実発見を生み出し,新しい
8) この点に指摘については次を参照。 分析の方向を示唆してきた。本節では,この
Caves, R., M. Porter and M. Spence., ようなタイプの研究のうち代表的と思われる
Competition in the OPen ECOnomPt ; A Model ものをとりあげて,何が明らかにされてきた
Applied to Canada(Harvard University か,そして何が今後に残された問題であるか
Press,1980) part one. PP.3−・20. を展望することにしたい。

9)実証研究として次が参考になる。Eastman,
H.Cand S. Stykolt, The Tariff and Com. まず次の表2において,これまでなされて
petition in Canada(Macmillan,1967) きた数量的分析の接近方法を概観することに
およびEnglish, H. E., lndustrial Str“ct“re しよう。ここにとりあげられたものはその分
in Canada’s InternatiOnal ComPetitive Po− 析対象がアメリカ,イギリス,カナダ,ペル
sition(Canadian Trade Committee,1964). ギー等に分かれており,各国別の特殊性を考
以上においては,製品差別化という要因が 慮することができるという点で一つの特長が
導入されることによって,産業組織と国際貿 ある。また海外からの競争をどのように数量
易の関係が複雑化され,また政策的な観点か 的に捉えるかについても,それぞれの工夫が
らみても,アヴィラヴルな政策手段が十分に なされており,分析が古いものから最近のも
ありかつそれが使い分けられなけれぽならな のまでを網羅してあるので,これまでの研究
いことを示唆するのに十分である。 の過程での進歩をうかがうこともできるので
製品差別化以外にも,規模の経済性の存在 ある。この表を概観するのに重要な点をいく
や外部性(たとえば公害の発生とその規制の つかあげれば次のようになろう。
あり方など)の要因が導入されると,分析はよ (i) 資源配分の効率性は,産業の利潤率
り複雑化する。早晩われわれは旧来の産業組 をもって測られるが,何を利潤率のメジャー
go
国際貿易と産業組織:展望(南部)

表2

班究者 サンプル 利潤率 陣内暢構矧 海外要因 その他


Esposito& 米国:1963−65 純資産利潤率 集中度,規模の経 輸入/国内出荷額
Esposito
1RSデータ77 済性,必要資本量,
広告・売上高比率,
(1971) 産業(消費財43
生産財34) 需要成長率,ダミ

⋮罫
Pagoulatos& 米国:1967 ほぼ同じ 関税率 多国籍企業の活動
Sorensen(1976) 88産業(SITC NTB
とSICとの整合
性を考慮 謁 輸スノ国内出荷額

輸入成長率
輸出/国内出荷額

Jones, Laudadio 米国:1963−65 総資産利潤率 〃 輸入/国内出荷額


&Percy (1977) 69産業(消費財36
生産財33)
カナダ:1965−67
60産業(消費財31
生産財29)
Khalilzadeh.
Shirazi (1974)
英国:1969
61産業(Minimum
PCM 〃 輸出/生産量
輸入/生産量
外国企業の直接投資

List Headingデ
ータ〉

Turner(1980) 英国:1973 PCM 〃 輸入/生産量


およびその変化
輸入と高度集中との
lnteract10n
32産業(MLHデ
ータ) ぐ70∼’73)

Jacquemin
(1980)
et. al ベルギー:1973
製造業データ
PCM 〃 輸入/国内販売量 国内生産額から輸出
輸出/総販売量 額を控除して,ハー
フィソダP・ル指数を
つくる
輸入とハーフィソダ
・一一
去w数とのinte・
raction

とするかについて必ずしも意見の一致を見て 力を持つかを見ようとしているのである。
いない。多くの研究は,プライス・コスト・ (iii)海外要因として導入されているもの
マージン(PCM)をもってそれを代理させ で,どの分析でもほぼ共通しているのは,輸
ている。これは国内市場構造要因のみをとり 入変数である。輸入の国内出荷額に対する割
あげた分析でもしぼしば利用されているとこ 合をとってそれが海外からの競争の程度を示
ろから,その分析の拡張として海外要因をと すものと考えられている。この点について少
り入れる上では妥当なアプローチと言えよう。 し詳しく論じておこう。資源配分効率に関す
(ii) 国内市場構造としてとりあげられて る分析では,伝統的に競争的市場のもたらす
いるのは,集中度あるいは集中度のダミー, 市場成果と比較して,寡占あるいは独占的市
製品差別化のproxyとしての広告・売上高 場構造では資源配分の‘‘dead weight loss”
比率,最小効率規模,必要最小資本量などで が発生すると考えられてきた。それは競争の
あって,これらはどの分析においてもほぼ共 もとでは価格が限界費用に一致することによ
通していると見てよい。したがって各国別に, り,稀少な資源がその稀少性の評価と一致す
又分析の対象期間別にそれぞれの要因の影響 るところまで利用されるのに対して,非競争
は異なって出てくるとは言え,どの分析も国 的な市場では,価格が限界費用を上まわるた
内市場要因で説明されるぺきものをまず考慮 め,資源の利用率は資源の稀少性を反映する
した上で,新たに海外要因がどれほどの説明 ところで決まっていないと考えられるからで
91
ある。それは寡占的な企業の共謀により,あ れているが,これについては各分析結果をコ
るいは独占者によって,価格水準がときには メントするときに述べることにしよう。
独占価格水準に,ときには参入を有効に阻止 (iv)その他の要因としてあげられている
しうる水準に決定されるという市場行動から のは,各研究において独自の工夫がなされて
もたらされる(これを総称してlimit pri・ いる変数を別にとり出したものである。たと
cingと呼ぶ)。価格水準がどれだけ限界費用 えばある場合には,多国籍企業や直接投資が
を上まわることができるかは,基本的に参入 とりあげられていたり,説明変数のとり入れ
の可能性に依存する。そして参入に対する障 方において相互作用効果(interaction)を見
壁として,(ii)で述べたような国内市場要因 るためのタームが工夫されたりしている。こ
が考慮されている。海外からの競争は,この れらは時に回帰分析結果に有意な影響を与え
ような参入の可能陸について,新しい要因を ているので,注意しておくことが必要なので
付加するものとなる。Esposito&Esposito ある。

の分析では,海外からの競争者を“least dis・
advantaged potential entrant” と呼んで 5 個別研究結果の展望
いる。彼らは,海外における潜在的な競争者
は,国内における潜在的な参入者よりもいく 次に表2でとりあげられた研究について個
つかの点で,参入障壁を乗り越えるのに有利 別にその分析結果を展望しつつ,個々の問題
な地位にあると考えている。それは海外の競 点を指摘してゆくことにしたい。
争者は国内企業にはアクセスのできない新し
い技術を利用できる可能性がある点,既に海 (a) Esposito&Esposito(1971)10)
外の大市場で確立されたブランドなどを背景 この計量的研究は国内市場構造要因以外の
として製品差別化された商品を売り込むこと 競争の問題をとり入れて有意な結果を得た最
ができるという点,また必要資本量の制約が も初期のものに属しており,このタイプの研
国内の潜在的参入者よりも比較的厳しくない 究の嗜矢をなすものといってよい。海外から
可能性がある点などによるものである。そし の競争をみるために,国内出荷額に対する輸
て国内の既存企業が,海外のライバルをその 入がとり入れられている。彼らは仮説とし
ようなものと臆測して行動せざるをえないと て海外の企業は‘‘least disadvantaged po−
いうことが,市場成果にとっては,より重要 tential entrant”であるとして,海外の競争
である。海外の潜在的競争企業は,実際は必 者の存在は国内において寡占企業がlimit
ずしも上に述べたような有利性を持たないか pricingを行なう自由度を制約するものと考
もしれないが,国内の既存企業ができるだけ えた。したがって海外要因は,産業の利潤率
リスクを回避しようとすれば,価格政策にお に対して負の効果を持つことが期待される。
いて海外からの競争を考慮するほどそれだけ 表3をみると,輸入比率は全産業のサンプル
慎重にならざるをえない。このような意味に については負で有意となっている。同時に国
おいて,海外におけるライバルの存在を何ら 内市場構造要因である集中度ダミー,資本必
かの形で数量的な分析の枠組にとり入れよう 要量,市場成長率,広告・売上高比率などが
としたのが,国内出荷額に対する輸入量で示 いずれも有意でかつ期待された符号を持って
されている変数なのである。 いる。したがって彼らの分析結果は,これま
海外要因としてはこれ以外に,いくつかの での資源配分効率に与える市場構造の諸要因
変数がそれぞれの分析者によってとり入れら と相並んで,海外からの競争圧力が利潤率に
92
国際貿易と産業組織:展望(南部)

表3

定獺農終㌔矯額 最小効
率規模
必要資
本量
需要成
長率
広告・売
上高比率
地域ダ
ミー
R2自由度修正
済み 廊2

全 産 業

(1a) 6.3031 .7233 −.0535b 一.084a .0020 c .0182c ,4606 e 一.1992 .48c .43c
(0.86) (1.72) (1.35) (2.54) (2.73) (4.61) ’ (.25)

(1b) 5.5259 1.7794b −.0706b 一.016 .0215c .4665c .3130 .43c .38c
(2.34) (2.23) (0.27) (3.16) (4.50) (.39)

(1c) 5.5060 .4988 −・.0513a .0015b .0190c .4569c .3145 .47c .42c
(0.60) (1.64) (2.16) (2.84) (4.54) (.44)

(1d) 5.3818 1.6713c −.0692b .0215c .4653 c 4052 .43c .39e


(:56)
(2.58) (2.23) (3.18) (4.52)

消 費 財 産 業
(2a) 6.6038 一1.0086 −.0312 −.041 .0025b .0196a .4455c −.9344 .55c .46c
(0.81) (0.70) (0.35) (2.25) (1。60) (3.49) (.55)

(2b) 3.4406 .2615 −.0629E .116 .0276b .4491 c .9138 .48e .39c
(0.22) (1.40) (1.17) (2.22) (3.33) (.59)

(2c) 5.9685 −1.0563 −.0325 .0023c .0208b .443gc −.5466 .55c .47c
(0.87) (0.73) (2.57) (1.77) (3.52) (.44)

(2b) 5.2890 .9935 −.0705a .0257b .4578c −.0398 .46c .38e


(1.∞) (1.57) (2.09) (3.38) (.03)

生 産財 産業
(3a) 6.4620 2.8372b −.0611a 一.156b . OOISa .0148b 1.271b −.6763 .53c .41 e
(2。43) (1.35) (2.11) (L36) (1.84) (2.20) (.65)

(3b) 6.2427 3.5952e −.0696a 一.117a 。0175b 1.062b −.2849 .50c .39 c
(3.46) (1.53) (1.69) (2.22) (1.87) (.28)

(3c) 5.4467 2,3449b −.0529 .0071 .0154b 1.106b .2321 .45c .33c
(1.93) (1.11) (.55) (1.81) (1.82) (.23)

(3d) 5.4632 2.7561c −.0578 .0166b 1.028b .3085 .44c ,34c


(2.92) (1。25) (2. 04) (1.76) (.32)

t一値は( )に示されている.
aは90%水準で有意.
bは95%水準で有意.
Cは99%水準で有意.

対して整合的な影響を与えているとみること である。しかしより立ち入って分析すると,
ができるのである彼らの結論によれぽ 海外企業の競争圧力がより大きいのは製品差
「実証分析の結果は,海外企業がもっと 別化された商品を外国企業がより容易に供給
も有利な潜在的参入者である産業では,既 できるという一つの可能性を通じてであった。
存企業は国内企業の潜在的参入を思いとど すると,輸入変数の利潤率に与える効果は,
まらせるのに必要な水準よりさらに低い水 生産財産業でよりも消費財産業において大き
準に価格を設定する傾向がある,というこ いことが予想される。しかし表3の結果によ
とを示唆している。」 れぽ,輸入比率はいずれの産業でも有意性が
この研究が示唆するところは上の結論のよ 低下していて,かつ生産財と消費財との間で
うに,海外からの参入が存在することが国内 輸入変数の係数に差異は存在しない。このよ
の寡占企業のlimiting pricingをチェック うな点においては,全産業をサンプルとした
して資源配分効率を上昇させるという可能性 分析結果は未だ必ずしも,海外からの参入の
93
表4

定数項 CR E K/L ES OGR GD MN XVS T NTB MVS GM lRr2 Fテスト

(1) 364.94e 1.15b 4.89a ,138 110.94s .120 .29

(10.15) (1.82) (4.82) (1.06) (2.83) (。269)

(2) 444.77a 一5.62 5。03& .158 110.13a .191 ,27

(9.08) (.865) (4.78) (1.20) (2.55) (.419)

(3) 319.59a 1. 33b 3.90a .044 147.54a 一.174 4.03a −.106 一1.06 .935a .40 F(4.77)=3.48b
(7.75) (2.08) (3.81) (.347) (3.74) (.395) (2.74) (.937) (.858) (2.71)

(4) 414.98a 一8.19 3.92民 .062 134.74a 一.082 4.47& 一.088 一.682 .906a .38 F(4.77)=3.41b
(7.32) (1.27) (3.67) (.480) (3. 42) (.182) (3.00) (.761) (.550) (2.58)

(5) 359.37a 1,36b 4.06a .052 一.222b .37 F(3.78)=3. 36b


118.COa .137 2.94b .040
(10.32)
(2.17)
(2.10) (3.97) (.403) (3.12) (.318)(2.02) (.308)

(6) 494.52a 一13.16b 3.77 .053 111.61a .290 1.41b .057 一.255b .37 F(3.78)=3.97b

(9.02) (1.90) (3.53) (.406) (2.97) (.660) (2.34) (.439) (2.36)

(7) 367.56a 1.04c 4.28a .135 103.67a .026 3.47b −.064 一.104e .35 F(3.78)=2.45b
(10.09) (1.61) (4,15) (1.06) (2.66) (.060) (2.36) (.539) (1.45)

(8) 444.69a 一6.29 4.26& .150 96.43a .105 3.80巳 一.050 一.103° .34 F(3.78)=2.72b
(8.79) (.955) (3量96) (1.17) (2.48) (.236) (2.56) (.409) (1.41)

aは99%水準,bは95%水準, cは90%水準で有意を示す.

CR=4社集中度 CGR=消費財産業比率 XVS=輸出額/出荷額


E=エソトロピー集中度 GD=付加価値の成長率 MVS=輸入額/出荷額
(雇用量を用いる) (1963∼67年) T=名目関税率
K/L=資本労働比率 MN=多国籍企業の活動指標 MT B ==非関税障壁

ES=規模の経済性 GM=輸入の成長率
(1963∼67年)
国際貿易と産業組織:展望(南部)

可能性の効果を識別可能な形でとらえていな 率を引き下げる傾向があろう。このような輸
いと言わざるをえないであろう。 出の効果がここに一部表われているのかもし
10) Esposito, L and F. F. Esposito,‘‘Foreig11 れない。このようにこの研究は輸入比率以外
Competition and Domestic Industry Pro・ にも海外的な要因が明示的にとり入れられて
fitabilityノ’Reivew of ECOnomics and Sta− テストされ,一定の効果が検出されている点
tistics 53, November 1971. で示唆に富むものである。
11) Pagoulatos, E and R. Sorensen,‘・lnter−
(b) Pagoulatos&Sorensen(1976)11) national Trade, International Investment
この研究の特徴としては,海外要因として and Industrial Profitability of U. S. Manu.

輸入比率のみならず,輸入成畏率,関税率, facturing, Southern ECOnomic/ournal 42,

NTB(非関税障壁)および輸出がとり入れ January 1976.


られていることと,さらに多国籍企業の活動 12) Bruck, N.K and F.A. Lees, Foreign In・

が与える効果をも同時に考慮している点であ vestment, Capital COntrols and the Balance


る。
of payment, New York University,
輸入成長率はある意味で国内企業に対する Institute of Finance, Graduate School
より直接的な脅威を意味する可能性がある。 of Business Administration, New York,
そしてときによると国内企業は価格を引き下 April,1968 pp.94_96.

げて参入を阻止するよりも,国内シェアの一
部を海外参入者に譲り渡すという戦略を選ぶ (c) Jones, Laudadio&Percy(1977)13)
とすれば,ex postの輸入比率よりも輸入の この研究の特徴は,米国のサンプルとカナ
成長率の方がより重要な脅威とも考えられる ダのサンプルとを用いて両国間の比較を行な
のである。一方多国籍企業による直接投資は っているところにある。海外からの競争要因
産業利潤率を引き上げる可能性がある。この としては先と同じく,輸入額と国内出荷額に
仮説を検討するためにここでは,フォーチュ 対する比率がとられている。米国とカナダに
ン誌最大500社のデータに基づく多国籍企業 おける際立った差異は,この輸入変数がカナ
の活動インデックスが用いられている。これ ダでは負の効果ではなく正の効果を持ってい
はBruckとLeesによって作成されたもの ることである。そして表5−1に見られるよう
が利用されている12)。 に消費財産業においては係数が有意でないの
表4はアメリカにおいて輸入比率が負で有 に対して,生産財産業では有意で正の効果を
意な影響を持つこと,多国籍企業の活動と 持つことが明白に示されている。一方米国に
NTBが正の有意な影響を持つことが示され ついてみると,Esposito&Espositoとほぼ
ているのがまず興味深い。輸入成長率は若干 結果が得られていて,この研究では消費財産
が有意性が低いがやはり負の効果を持ってい 業で輸入変数の有意性は相対的に高いという
る。他方輸出の国内出荷額に対する比率がこ のは plausible である。カナダにおけるこ
こでとり入れられているが,この有意性は低 のような一見予期に反した分析結果は何を示
いとしても,ほぼ負の効果を持つ傾向にある しているのであろうか。Jones et. alの解釈
ことも注目すべきである。理論的な分析にお によれば,カナダ企業は海外(特にアメリカ
いても述べられているように,国内企業が価 である)からの輸入によって,非効率的な生
格差別を行なうことができなければ,海外の 産システムを改革するインセンティヴを与え
製品価格で限界費用まで販売することは利潤 られ,この結果革新によって利潤率が上昇す
95
表5−1 (カナダ)

定数項 AK ES Con4 M/Ω A/Ω D RD SR R2 R2


(自由度修正済)

全 産 業

一5.5802 0.0500 −0.0642 0.1333 0.0641 0.1144 −0.0447 0.1821 0.4200 0.32乱 0.21
(−3.15)a (1.14) (−O.72) (1.01) (1.42) (2.88)& (−0.36) (0.99) (1.17)

一4.6532 一〇.0319 0.1742 0.0627 0.1011 −0.0124 0.1838 0.2510 0.29a 0.20
(−2.96)a (−O.33) (1,26) (1.43) (2.66)a (−0.11) (0.99) (0.76)

一5.1925 0.0416 0.0648 0.0541 0.1000 −0.0222 0.2342 0,4030 0.31a 0.22
(−3.10)a (O.96) (0.71) (1,26) (2.82)a (−0.22) (1.42)b (1.11)

一4.5521 0.1346 0.0523 0.1034 −0,0113 0.2148 0.2621 0.30& 0.22


(−2.97)a (1.94)a (1.41) (2.70)a (−0.06) (1.29) (0.79)

消 費 財 産 業

一2.8800 0.0510 −0.0330 0.0421 0.0121 0.1638 0.5042 0.2648 −O.1647 0.66a 0,53
(−0.90) (0.84) (−0.26) (0.24) (0.18) (2.85)a (2.22)a

一1.9824 一〇.0222 0.0913 0.0234 0.1600 0.5111 0.2544 −0,3523 0.64乱 0.54
(−0.66) (−0,14) (0.57) (0.24) (2.84)a (2.27)a (1.15) (−0.53)

一2.8041 0.0427 O.0141 0.0146 0.1548 0.5242 0.3033 −0.1519 0.65a 0.55
(−O.90) (0.83) (0.07) (0.07) (3.51)a (2,45)a (1.81)b (0.23)

一1.9642 0.0700 0.0116 0.1621 0.5225 9 0.2732 −0.3402 0,64a 0.56


(−0.70) (0.96) (0.21) (3.60)a (2.47)a (1.68)b (−0.53)

生 産 財 産 業

一7.6319 0.0315 −0.0993 0.3370 0.1185 0.0344 −0.1919 0.1519 0.7455 0.51a 0,32
(−3.57)a (0.57) (−0.86) (1.77)a (2.59).c (0.56) (−1.81)E (0.48) (1.87)d

一6.9856 一〇,0707 0.3384 0.1180 0.0239 −0.1737 0.422 0.6374 0.50a 0,34
(−3.91)a (−0.69) (1.82)匹 (2.62)c (0。42) (−1.75)a (0.46) (1.85)a

一6.6092 0.0113 0.2098 0.1036 0.0301 −0.1626 0.1151 0.6345 0.49a 0.33
(−3.75)a (0.23) (1.82)a (2.47)c (0.50) (−1.63)b (0.37) (1.70)a

一6.4543 0.2266 0.1053 0.0261 −0.1583 0,1155 0.6010 0.49a 0.33


(−4.06)a (2.59)a (2.60)c (0.46) (−1.65)b (0.38) (1.78)a

表5−2 (アメリカ)

定数項 AK ES Con8 M/Ω A/Ω D RD SR R2 節


(自由度修正済)

全 産 業

0。1028 −0.0000 0.0010 0.0342 −0.0016 0。7662 0.0040 −0.0044 −0.0022 0.77a 0.74
(0.02) (−0.80) (0.54) (1.93)匹 (−2.96)e (4.77)a (0.63) (−0.49) (−0.97)

0.1008 一〇,0002 0.0364 −O.0016 0.7844 0.0033 −O.0043 0.0020 0.77a 0.74
(4.97)・ (一一〇.02) (2.08)a (−2.94)c (4.95)a (0.54) (一一〇,48) (0.09)

0.1029 −0.0000 0.0363 −0.0015 0.7730 0.∞38 −O.0026 −0.0011 0.77a 0.74
(5.05)乱 (−0.61) (2.11)a (−2.93)c (4.85)a (0.60) (−0.32) (一一〇.05)

0.1003 0.0360 −0.0016 0.7857 0.0033 −0,0051 0。0025 0.77a 0.75


(5.07)a (2.10)a (−3.12)e (5.03)E (0.53) (−0.72) (0.12)

96
国際貿易と産業組織:展望(南部)

消費財産業
0.0690 −0.0000 0.0151 0.0051 −0.0027 0.3248 0.0322 0。0216 −0.0199 0.79a 0.72
(1.52) (−1.20) (2.97)a (0.15) (−2.96)c (1.34) (1,97)b (1.34) (−0.44)

0.0525 O.0107 −0.0136 −0.0016 O.3052 0.0293 0.0238 0.0028 0.78a 0.72
(1.20) (3.03)巳 (−0.46) (−2.94)c (1.26) (1.80)b (1.47) (0.07)

0.0633 0.0∞0 −0.0049 −0.0015 O.5130 0。0200 0.0166 0.0105 0.72a 0.65
(1.23) (1.24) (−0.13) (−2。93)e (1.94)b (1.12) (0.92) (0.21)

0.0885 O.0219 −0.0016 0.6405 0.0187 0.0104 −0.0129 0.70a 0.64


(1,86)b (0.70) (−3.12)c (2.61)a 1.04 (0.59) (・−O.28)

生産財産業
0.0690 0.0000 −O.0013 0.0532 −0.0012 3.2061 −0.0049 −0.0069 0.0477 0.88a 0.84
(2.28)乱 (0.27) (−0.68) (2.72)a (−1.73)d (1.94)b (−0.76) (−0.58) (1.70)b

0.0698 −0.0009 O.0520 −0.0012 3.1932 −0.0048 −0.0074 O.0461 0.88a 0.84
(2.36)e (−0.77) (2.79)a (−1.74)d (1.97)b (−0.75) (−0.64) (1.71)b

0.0685 −0.0000 O.0497 −0.0012 3.2082 −0.0048 −0.0106 O.0465 0.88a 0.84
(2.29)a (−0.43) (2.67)巳 (−1.76)d (1.96)b (−0.75) (−1.01) (1.68)b

0.0660 O.0501 −0.0013 3.2428 −0.0051 −0.0124 O.0495 0.88a 0.85


(2.28)・ (2.73)a (−1.94)d (2.02)a (−0.81) (−1.29) (1.88)b

AK=必要資本量 M/Q=輸入額/生産額 RD=地域間集中度ダミー


ES=規模の経済性 A/Q=広告・売上高比率 SR=専業度(主要製品出荷比率)
Con 4 ・= 4社集中度 D置需要成長率

aは95%水準,bは90%水準でそれぞれ有意(片側検定).
cは95%水準,dは90%水準でそれぞれ有意(両側検定).

るというメカニズムが働くこと,又同時に海
(d) Khalilzadeh・Shi・razi(1974)14)
外からの輸入が主として優良な部品であると
すると,それは結果とLて国内生産の増大に この研究はイギリス産業をサンプルにとっ
寄与し利潤率にも正の効果を与えるというも て海外要因と国内要因との組みあわせが資源
のである。この解釈は,カナダ企業が海外か 配分効率に与える影響をみている。前者とし
らの競争圧力を受けなければ,非効率的な経 ては輸入比率および輸出比率がとりあげられ,
営を行なってそのポテンシアルを使い切るま さらに外国企業の産業支配が与える効果をみ
で利潤の最大化に努力をしていないことを意 るためのダミー変数が付加されているのが特
味している。カナダ企業における非進取性は 徴である。結果をみると,輸入比率は負の効
しぼしぼ指摘されるところでもある。又生産 果を持つがその有意性は十分に高くない。と
財部門においてのみ輸入変数が正で有意な効 ころが輸出比率は正でしかも有意な影響を与
果を持つことは,部品供給としての輸入の役 えているのが注目されなければならない。
割がカナダでは重要であり,それは国内企業 これは先の(c)の結果とは逆であるが,
の1imit pricingとは関連を持たないと言え Khalilzadeh・Shirazi Vtこれに対して次のよ
るのかもしれない。 うな考え方をとっている。海外に対する輸出
13)Jones, J. C.H, L. Laudadio and M. Percy, は相手国の状況,多くの競争相手,輸出に関
“Profitability and Market Structure:Cross する様々な障壁などの存在によって不確実性
Sect三〇n Comparison of Canadian and Ame− が高い。したがってこの不確実性に対する十
rican Manufacturing Industry,‘‘Jonrnal 分なリスク・プレミアムがなければ企業は輸
of lndustrial Economics 25, March 1977. 出しようとはしない。正で有意な輸出変数の
97
表6

定数項 CR MEPS K/9 GR R2 R’2


PDD IMP EXP FCFSD (自由度修正済み)

(61産業)

3.55 0.026 0.198 0.100b O.087a 2.80b −0,058 0.134b 0.455 0.383
(0.81) (0.92) (2.35) (2.97) (2.29) (0.78) (2.24)

(60産業)

6.34 0.009 0.833a O.081 b O.038c 2.97a 一〇.082c O.103 b 0.598 0.544
(0.34) (3.86) (2.34) (1.46) (2.95) (1.34) (2.09)

6.36 0.008 0.821a O.083 b O.036 c 2.96a −0.084c O.101 b 0.34 0.599 0.536
(0.30) (3.68) (2.33) (1.39) (2.91) (1.35) (2.00) (0.26)

(41産業)

6.56 0.035 0.684a O.070 b O.023 2.54b 一〇.129c O.151 b 0.606 0.523
(1.03) (2.81) (1.78) (0.58) (2.14) (1.66) (2.25)

6.42 0.029 0.574b O.079 b O,024 2.44b −0.137b O.140b 1.86 0.618 0.523
(0.85) (2.15) (1.96) (0.60) (2.06) (1.76) (2.04) (1.OO)

CR=5社集中度 MEPS=最小効率プラント規模 K/Q=資本産出量比率


GR=売上高成長率(1958∼63年) PDD=製品差別化ダミー IMP・=輸入/産出量
EXP=輸出/産出量 FCFSD=外国資本支配型企業の生産シェアが産業全体の10%以上であることを示すダミー
a,b. cはそれぞれ99%,95%,90%水準で有意を示す.()内はt・’一値である.

係数はこのようなプレミアムを示すものであ 14)Khalilzadeh・Shirazi, J.‘‘Market Struc.

る。これは考え方においてPagoulatos& ture and Price.Cost Margins in. U, K. Ma.

Sorensenと不確実性に対する考慮および価 nufactur三ng Industries,‘‘Review qプ Econo.

格設定力に関する仮定が相違することを示す mics and Statistics 56, February 1974,お

ものである。(c)のように確実性のもとで, よび“Market Structure and Price・Cost


企業が価格を世界市場で所与のものとして行 Margins:AComparative Analysis of U.
動するとすれば,輸出が利潤率に負の効果を K.and U. S. Manufacturing Industries.”

もつことが予想される。しかしイギリスのよ Economic Inquiry 14, March 1976.

うに英連邦諸国に輸出して市場では製品差別
化による価格支配力を持ち,不確実性のレン (e) Turner(1980)15)

トを実現させることができる場合には,輸出 Turnerはわれわれがこれまでにも問題に
が正の効果を利潤率に与えることは大いにあ してきた,輸入比率が果して海外からの競争
りうるのである。但し,輸出がイギリス内で 圧力のproxyとして適当かを論じて,輸入
活動している外国資本に支配されている企業 供給の弾力性をある程度まで表わしうるもの
が多い産業で特に多いとすると,このような として,輸入比率の変化を変数としてとり入
外国系企業の海外での市場支配力が,輸出変 れている。そしてこれをこれまで通りの輸入
数の利潤率への正の貢献を説明することにな 比率を変数としたモデルと比較するのである。
るかもしれない。しかし表6に示されている 表7から明らかなようにこのように比較する
ように,このようなことを考慮したダミー変 と,輸入比率変化が負で有意な影響を与えて
数は有意でない。 いるのに対し,輸入比率は負ではあるが有意
98
国際貿易と産業組織:展望(南部)

表7

海外塾_圏 広告・売上比率 資本・労働比率 5社集中度 R2


全産業サンプル 集中型産業サンプル

1(a) 一〇.45 2.24 0.52 0.65


(2.68) (3.41) (5.05)

1(b) −O.40 2.37 0.60 一〇,00098 0.67


(3. 65) (5.21) (1.44)
輸入比 (2.33)

率変化 1(c) −O.099 一〇.54 2.23 0.54 0.69


(0.42) (2.0) (3.59) (5.51)

i(d) −0.62 2.24 0.55 0.69


L (3,49) (3.65) (5.77)

(fi(a) 一〇.10 2.08 0.56 0.58


(1.31) (2.84) (5.06)
1
il(b) −0.09 2.27 0.65 一〇.0013 0.62
(3.18) (5,48) (1,77)
輸 入 (1.17)

比 率 9(c) −O.017 一〇.21 2.27 0.58 0.65


(0.2) (2.21) (3.28) (5.64)

皿(d) −0.21 2.30 0.59 0.65


(2.65) (3. 51) (5.76)

t一値は( )に示されている.
1(a)−1(d)は海外要因として輸入比率の変化が, 皿(a)∼ll(d)は輸入比率自体がとられている.

な結果を与えていない(これは(d)の結果 持たず,輸出を控除してはじめてそれは一つ
とも一致する)。 の集中度の指標となる。そしてこのような修
さらにこのイギリスの経験は,輸入による 正された集中度が輸入比率および輸出比率と
競争はより集中度の高い産業において顕著で ともに,利潤率に与える効果が分析される。
あることを示している。表7によれぽ全産業 表8をみると,輸入変数が負で有意な効果を
ではなくて高度の集中型産業において,輸入 与えていることがわかるとともに,国内集中
比率変化がもっとも大きな負の影響を与えて 度と輸入比率とのインターラクション・ター
おり,さらに輸入比率を変数としたときにも A
ム(H・×tm)がやはり負でほぼ有意な効
それは有意な効果をもっているのである。 果を持つことが示されている。これは先のイ
15) Turner, P. P.,‘‘Import Competition and ギリスにおける(e)の結果と同じく,輸入
the Profitability of United Kingdom Ma. 競争は高度の集中産業で大きな効果をもつこ
nufacturing Industry, ‘‘Journal of Indus。 とを示唆する。一方,輸出変数は有意性が低
trial Economics 24, December 1980. く,かつ符号が一定していなという結果が得
られているが,これは(e)と対応している。
(f) Jacquemin, de Ghellinck & 国内集中度はまったく有意でない。これは
Huveneers (1980) 16) ベルギーという ‘‘small open economy”1こ
この研究の特徴は,ベルギーという小国を おいて特に明示的にされたことであるが,国
サンプルとしてとりあげて,海外貿易要因が 際貿易を含んで市場を定義するときには,集
圧倒的なウェイトを持つこの国において,国 中度という伝統的な概念が大きな問題を持つ
内市場集中と輸出・輸入の関係が,利潤率に ことを示峻している17)。

与える影響をみているところである。この国 16) Jacquemin, A. P, E. de Ghellinck and

では単純な国内市場集中度はほとんど意味を C.Huveneers,‘‘Concentration and Profi一

99
表8
AHD×tm

︿H
定数項 tm tx DIV GVA R2

(1) 0.207 0.096 一〇.010e 一〇.012 −0.331b O.181 ft 0.40


(0.33) (1.78) (0.15) (2,13) (2.46)

(2) 0.236 −0.005e 一〇.002巳 0.039 −0、349a O.180 a 0.48


(1.75) (1.75) (2.06) (0.56) (2.48) (2.64)

A
HD=輸出を控除したj・一フィソダール集中度HDを次のような回帰式によって推定した値
HD=f(MES. DMS, tm, AMS/DMS, DIV)
MES=最小効率規模
DMS=市場規模
AMS=国内販売額+輸出
tm=輸入額/国内出荷額
A
HD×tm;推定集中度と輸入比率とのイソターラクション項
tx=輸出額/国内出荷額
DIV=多様化率
GVA=付加価値成長率(1970−73)
( )内はt値.a, b, c,はそれぞれ99%,95%,90%水準で有意を示す.

tability in a Small Open Economy,“Jour. るのは果して論理的か否か。この輸入比率は


nal of∫ndustrial Economics 24, December 既に参入をしてきた企業のマーケット・シェ
1980. アであって,上の仮説で考えられているよう
17) この点は次の研究が一つの示唆を与えてい なポテンシアルな競争を示すものではない。
る。Adams, W. J.,‘‘Producer.Concentra. むしろ輸入比率は,独立の説明変数として登
tion as a Proxy for Seller・Concentration: 場すべきものではなく,市場における利潤率
Some Evidence from the World Automo’ や市場の成長率などとの関連において内生的
tive Industry,,,∫ournal of lndustrial Eco・ に決定されるべきものであろう。特に国内の
nomics 24, Decenber 1980. 利潤率の高さが,海外からの参入を惹起する
のであれぽ,輸入変数は利潤率とともに同時
6 分析上の問題点 決定されるべきものである。すなわち,れわ
れは,Caves et. alに示されているような
以上で展望された実証分析は,海外からの 同時決定の連立モデルを用いることが必要と
競争が国内の資源配分に与える諸影響を明示 されるのである18)。

している点において,無視できない貢献をし (2)輸入は必ずしも国内生産と競争的な関
てきた。しかし以上のような実証分析の方法 係にあるとは限らず,海外参入企業と国内既
に関しては以下にあげるような本質的な問題 存企業との協調的な関係によって,利潤率水
点が存在し,今後の研究はこれらの問題に解 準は少なくとも不変に保たれることが考えら
決を与えるような方向をめざさなけれぽなら れる。それは伝統的な1imit pricingのモデ
ないであろう。 ルにおける参入阻止と同時に,条件次第では
(1)海外からの競争者を“least disad・ 既存企業による積極的な参入受け入れ政策
vantaged potential entrant”ととらえるこ (entry permitting policy)が考えうるから
とは…つの仮説としてplausibleであると である19)。そして製品差別化の進展している
しても,それがこれまでの分析のように,輸 産業では,この点がintra・trade speciali・
入と国内出荷額の比としてとりあげられてい zationという点で重要となってくるのであ
100
国際貿易と産業組織:展望(南部)

る20)。 20)Grubel, H. G. oρ. citおよびGrubel. H.


G、and P、 J。 Lloyd, oρ. cit.
(3)Adamsの自動車産業に関する分析に
21)Adams. WJ., op. cit.
よると自動車市場の国内集中度は,国際的な
競争を考慮した世界市場で計算してみると,
〔参考文献〕
それを考慮しない集中度とほとんど両者の聞
Adams, W.」.,“Producer・CQncentration as a
に相関が見られない21)。これはまたベルギー
Proxy for Seller Concentration:Some Evi−
という小国のケースではあるがJacquemin
dence from the World Automotive Industry”
の分析でも示されているところであって,海 ∫ournalげJndustrial Economics 29, December
外からの競争を考慮した分析の枠組では,国 1980.
内における市場集中度は単独ではその意味あ Balassa, B.,‘‘Tariff Reduction and Trade in
いがますます不分明になりつつある。 Manufacturers among the Industrial Countri・
(4)Jones et. alの分析が示しているよう eS,” American ECOnomic Review 56, June

に,国によって輸入が利潤率に与える効果は 1966.

逆になったり,あるいは通常アプリオリに予 , ‘‘Structural Characteristics of Cana・


da’s Pattern of Trade,‘‘Canadian∫ournal
想されている符号と逆の結果が得られたりす
of Economies 9, August 1976.
る。これは輸入比率が内生変数かあるいは外
Bloch. H.,‘‘Prices, Costs and Profits in Cana・
生変数かという問題以外に,輸入が国内生産
da Manufacturing:The Influence of Tariffs
物と真に代替的関係にあるか否かの検討を必
and Concentration.‘℃anadian∫ournalげEco・
要とすることを示している。
nomics 7, November 1974.
(5)ここでとりあげられたようなタイプの Bruck, N. K. and F. A. Lees, Foreign Invest.

分析では,外国籍企業の活動がモデルとして ment, Capital COntrols and the Balanceげ


内生的にとり入れられていない。しかし製品 Payments, New York University, Institute
差別化やR&Dの問題の重要性を考慮すれ of Finance, Graduate School of Business Ad・

ぽ,この点を今後考慮した分析のモデルが必 ministration, New York, April 1968. pp 94_


96.
要とされることは明らかである。これは一般
Caves, R Eリ‘‘InternatiQnal Corporations;The
に産業組織の研究で内部組織の問題が等閑視
Industrial Economics of Foreign Investment”
されてきたこととも相通じるものであり,こ
Economica 38, February 1971.
れらの要因の明示的な導入は産業組織の実証
,‘‘lnternational Trade and Industrial
分析にとって高い限界生産力をもつのではな
Organization, ‘‘∫ournal げ Industrial Econo−
いかと,思われる。
mics 29, December 1980.
18)Caves, R, M. Porter, A. M. Spence and
一 ,M. E. PQrter;A. M. Spence and J. T.
J.T. Scott, Competition in the Open Eco.
Scott, Competiton in the Open・Economy(Har−
nomy,(Harvard University Press,1980.).
vard University Press, Cambridge 1980)
19) Nambu, T.,‘‘A Note on the Feasibility Coase, R,‘‘Industrial Organization:AProposal
of Entry Preventing Theory:The Com− for Research,‘‘Policy Issues and 1∼esearch

parison of Profitability between Entry OPPortunities勿Industrial Organi2atiOn, NB


Preventing and Permitting.‘‘European Jn− ER 1972.

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ment, working paper No,80−8, February, the Study of Protected Oligopolies,” Econo.

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102

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