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1 2010
【資料】
児童用自己開示尺度の構成
岡田 弘*
Hiroshi Okada*
【要約】
本研究は小学校高学年を対象とした児童用自己開示尺度の開発である。予備調査および本調査によって
2因子10項目からなる尺度を開発した。主因子法による因子分析の結果,体験開示尺度(7項目)と感傷開示
尺度(3項目)を抽出した。尺度の信頼性を確認するために,因子間の相関係数,各因子の信頼性係数を求
めた。その結果信頼性を確認することができた。尺度の妥当性を確認するために,内容妥当性の検討を上
級教育カウンセラーとともに行った。因子妥当性の検討をするために,確認的因子分析(共分散構造分析)
を行った。併存的妥当性の検討をするために,自己開示尺度と学校生活満足度尺度・学校生活意欲尺度と
の相関を検討した。その結果,妥当性を確認することができた。
キーワード: Being for,対峙存在,自己開示
【Abstract】
This research is to develop scales of elementary school children's self-disclosure. Preliminary study
and this study developed scales comprised of two factors and 10 items. Results of factor analysis by
principal factor method extracted 7 items of the experience disclosure scale and 3 items of the emotion
disclosure scale. To verify the reliability of the scales, correlation coefficients between the factors and
the coefficient of reliability of each factor were calculated. In consequence, its reliability was verified.
To verify the validity of the scale, the examination of content validity was conducted with higher educa-
tional counselors. To study validity of the factor, the analysis of factor verification (analysis of covari-
ance structure) was performed. In order to study the validity of coexistence, the correlation of the scales
for self-disclosure, school life satisfaction and drive for school life was examined. The validity was con-
firmed as a consequence.
Key words: children’s self-disclosure, the experience disclosure, the emotion disclosure
【問題と目的】 となく,誠実に,相手にわかるように,人に強制され
自己開示(self-disclosure )の定義はさまざまになさ ることなく積極的・自発的に伝えること」とした。ま
れている。初期のものはジュラード(Jourerd, 1958 ) た,外傷体験を開示すると心身の健康に役立つこと
の「自分自身をあらわにする行為であり,他人たち を検証したペネベイカー(Pennebaker ,2000 )は,自
が知覚しうるように自身を示す行為」というもので 己開示の過程を,告白・抑制・直面によって説明し
ある。船津・安藤(2002 )は「他者に対して,言語を た。すなわち,外傷体験をあえて開示することが告白,
介して伝達される自分自身に関する情報,およびそ 外傷体験を開示しないでおくことが抑制,外傷体験
の伝達行為のこと」とした。遠藤(2000 )は「今の自 を積極的に考え話すことが直面であるとした。
分の感情・考え・価値観・望み・そして過去の経験 遠藤・堀(1991 )は,
「自分に心を開いてくれている
や生い立ちなどについて,ありのまま,相手に隠すこ と感じている相手には,自分も心を積極的に開こう
とする。自己の開示量と他者の被開示認知とが一致
*東京成徳大学大学院心理学研究科博士後期課程/東京聖栄大学
しているほど自己開示する」と報告している。
*Tokyo Seitoku University Graduate School / Tokyo Seiei College
児童用自己開示尺度の構成 21
Table 2 自己開示尺度予備調査因子分析結果
質問項目 因子1 因子2 共通性
17 私はあまり自信のない考えでもクラスの人に話すことができます .709 - .005 .482
18 私は自分の勉強の仕方をクラスの人に話すことができます .690 .009 .492
20 私は自分の進路についてクラスの人に話すことができます .674 - .002 .437
8 私は自分の考えをクラスの人に話すことができます .622 .066 .435
19 私は自分の嫌なところをクラスの人に話すことができます .619 .096 .437
6 私は自分の将来の夢をクラスの人に話すことができます .580 - .067 .482
21 私は自分の生まれてから今までのことをクラスの人に話すことができます .500 .125 .360
10 私は落ち込んだときの自分のつらい気持ちをクラスの人に話すことができます .042 .883 .658
3 私は自分が傷ついたできごとをクラスの人に話すことができます .052 .736 .514
16 私は悲しい気持ちになったとき素直にクラスの人に話すことができます .266 .549 .562
因子間相関 − .776
累積説明率 43.209 49.819
Table 3 調査実施校・人数・実施日
5年 6年 計 実施日 ロンバックのα係数)を求めたところ,第1 因子「体
F校(山陰地方) 83名 91名 174名 4/10・11 験開示」α=.746 ,第2 因子「感傷開示」α=.828 と
G校(関東地区) 59名 65名 124名 4/14・18・24 いう数値を得た(Table 4)
。
H校(関西地区) 90名 91名 181名 4/15・16 これらの結果から本尺度の信頼性は確認された。
I校(関東地区) 53名 56名 109名 4/22・23・30
(2)妥当性の検討
計 285名 303名 588名
内容妥当性を検証するために,現職の小学校教員4
名(東北地区・関東地区・中部地区・関西地区の上級
のあるものを除外した分析対象数は588 名である。F ・ 教育カウンセラー)と検討を行った。各調査校の中か
H 校の6 年生は予備調査のA ・B 校の5 年生である。 ら,自己開示尺度の高い得点域の児童,平均得点域
(4)調査方法 の児童,低い得点域の児童,特異な偏りの得点の児
朝の会や帰りの会に担任が項目を読み上げながら, 童を抽出し,日常の観察から見える抽出児童の日常
児童が回答。 の自己開示の様子と項目の得点域と項目内容につい
て,表面的妥当性ではなく,項目の内容がどれほど
【結果と考察】 検査目的の領域を反映しているかの検討を行った。上
(1)信頼性の検討 級教育カウンセラーのいない学校には,担任や養護
予備調査と同様に因子分析(主因子法)をKaiser の 教諭に聞き取り調査を行って検討した。
正規化を伴うプロマックス法により行い,予備調査 特異な偏りのある得点域の児童の中に,特別な支
と同様に2 因子を抽出した(Table 4)
。因子負荷量が 援を要する児童がいた。また,補助の教師がついて
.40 以下のものがあるが,この項目をクラス内で自己 尺度項目の内容を説明しながら調査を行っていたが,
開示できるか否かは学級内の状況を知る上で重要な 理解が十分になされていないため,偏った結果を示
項目であり,この項目を含めた信頼性係数が .746 あ していることが分かった。
るため,そのまま残すこととした。この項目のさらな こうした例も踏まえながら,項目内容が検査しよ
る検討は今後の課題としたい。 うとする能力や特性をどのくらい適切に抽出してい
F 校H 校は予備調査時の5 年生であるため,再検査 るかの検討を行った。その結果,4 人とも妥当性あり
法の意味合いを持つが,今回は再検査法を目的に実 と確認した。
施していないため,その相関は測らなかった。 次に因子の構成概念妥当性を検証するために確認
因子の命名は予備調査と同じとした。次に因子間 的因子分析(共分散構造分析)を行い,Figure 1およ
の相関を見るために相関係数を算出した。その結果 びTable 5に示す結果を得た。
r =.767 という高い相関が認められた。累積説明率は, Table 5に示すように χ 2 値(174.19)は有意確率
因子1 のみで45.520 %,因子2 を含むと52.033 %であ (p ≦.001 )を示し,この指標に関してはモデルが適合
る。各因子の信頼性を確認するために信頼性係数(ク しているとは言えなかった。
児童用自己開示尺度の構成 23
Table 4 自己開示尺度本調査因子分析結果
質問項目 因子1 因子2 共通性
8 私は自分の考えをクラスの人に話すことができます .646 -.054 .437
17 私はあまり自信のない考えでもクラスの人に話すことができます .599 -.023 .487
6 私は自分の将来の夢をクラスの人に話すことができます .588 .082 .509
18 私は自分の勉強の仕方をクラスの人に話すことができます .510 .025 .496
20 私は自分の進路についてクラスの人に話すことができます .429 .025 .432
21 私は自分の生まれてから今までのことをクラスの人に話ができます .427 .172 .476
19 私は自分の嫌なところをクラスの人に話すことができます .340 .246 .482
10 私は落ち込んだときの自分の気持ちをクラスの人に話すことができます -.022 .878 .665
16 私は悲しい気持ちになったとき素直にクラスの人に話すことができます -.021 .820 .553
3 私は自分が傷ついた出来事をクラスの人に話すことができます .041 .662 .521
因子間相関 − .767
累積説明率 45.520 52.033
α係数 .746 .828
開示17 e1
.58 開示18 e2
.56
開示20 e3
.55
体験開示
開示 8 e4
.57
.44 開示19 e5
.57
開示 6 e6
.55
.69 開示21 e7
開示10 e8
.86
.81
感傷開示 開示 3 e9
.70
開示16 e10
Figure 1 自己開示尺度確認的因子分析
Table 5 自己開示尺度モデル適合度指標
χ2 自由度 有意確率 GFI AGFI CFI RMSEA AIC
174.19 34 .000 .943 .907 .915 .085 216.19
24 教育カウンセリング研究−Vol. 3 No. 1 2010
Appendix 1
自己開示尺度 4件法
1. そう思う 2. どちらかといえばそう思う
3. どちらかといえば違うと思う 4. 違うと思う
質問項目
1. 私は自分の良い所をクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
2. 私は自分の身体の特徴をクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
3. 私は自分が傷ついたできごとをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
4. 私は楽しかったときの気持ちをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
5. 私は自分の嫌いな食べ物のことをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
6. 私は自分の将来の夢をクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
7. 私は自分の苦手な科目についてクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
8. 私は自分の考えをクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
9. 私は自分にとって恥ずかしかったできごとをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
10. 私は落ち込んだときの自分のつらい気持ちをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
11. 私は自分の体に関する自信のないところをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
12. 私は怒りの感情をもったとき落ち着いてクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
13. 私は自分の失敗したできごとをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
14. 私はクラスの人の体に関する話を聞くとき笑ったりしたことはありません。
1 2 3 4
15. 私は自分の好きな食べ物のことをクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
16. 私は悲しい気持ちになったとき素直にクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
17. 私はあまり自信のない考えでもクラスの人に話すことができます。
1 2 3 4
18. 私は自分の勉強の仕方をクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
19. 私は自分の嫌な所をクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
20. 私は自分の進路についてクラスの人に話すことができます。 1 2 3 4
21. 私は自分の生まれてから今までのことをクラスの人に話すことができます。
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