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小学校英語における

Directed Motivational Currents (DMCs)の可能性

― 児童自身が「進歩を感じるフィードバック」の工夫 ―

The Potential of Directed Motivational Currents (DMCs)

in Elementary School

― The Benefits of Students’ Use of Critical Thinking ―

加瀬 政美
千葉県旭市立滝郷小学校

KASE Masami
Asahi Municipal Takisato Elementary School in Chiba Prefecture

キーワード:Directed Motivational Currents (DMCs),タスク,フィードバック

要旨

本研究は,2018 年 5 月から 2019 年 1 月までの 20 時間の中,公立小学校 1 校 5 年生 19 名,6 年生 15


名を対象に,We Can! 1, We Can! 2.(文部科学省,2018)の中からそれぞれ1つずつの Unit を活用し,
ゴール達成を目指すタスクベースの英語学習の学びのプロセスをベースにした。その中で,言語活動
の間に入れる児童自身のフィードバックが,自己の「気づき」を促し,学習者の言語習得を促進する
礎になるとともに,長期的な動機づけにもつながることを考察し,小学校英語における Directed
Motivational Currents (DMCs) の可能性を探ることを目的としたものである。5 年生と 6 年生において
は,それぞれ1つずつの Unit を設定し,5 年生は Japanese Teacher of English (JTE)と 6 年生は Assistant
Language Teacher (ALT)と 80 秒間のインタラクションを実施し,発話語彙数と発話の質を調査した。
フィードバック前の言語活動とフィードバック後の言語活動の学習者が産出する言語について,語彙
数の変容を比較し,動機づけとの関連をもとに,フィードバックから発話の質と意識がどのように変
容するのか考察した。また,質問紙調査の3つの群(①関心・意欲,②技能に対する自信,③動機づ
け)がフィードバック前と後での比較分析の結果,フィードバック後にこれらの3つの群は高まりを
示した。言語活動の間に入れるフィードバックは,学習者の productive skill に影響を及ぼし,学習意欲
を高め,小学校英語においても DMC を引き上げられることがわかった。課題として、意欲が最初か

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ら高い児童や児童が気づきやすい具体的なアプローチについて今後研究を深めていきたい。

1.はじめに

2020 年度から,小学校 5・6 年生の外国語活動が,4 技能 5 領域(聞くこと、話すこと[やり取り]



話すこと[発表]
,読むこと,書くこと)の外国語として教科化される。小学校の外国語の目標は,コ
ミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を育成することである。そのため,外国語によるコミ
ュニケーションの中で,どのような視点で物事を捉え,どのような考えで思考していくのかという外
国語教育特有の資質・能力を押さえておく必要がある。
『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)
』(文
部科学省 2017)によると,次の3つの基盤の上に成り立っているものでなければならないとされてい
る。それは,
「何を理解して,何ができるか」をねらいとする「知識及び技能」
,「理解していること
を,できることをどう使うか」をねらいとする「思考力,判断力,表現力等」
,「どのように社会・世
界と関わり、よりよい人生を送るか」という「学びに向かう力,人間性等」である。さらに,
「外国語
で表現し伝え合うため,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉
え,コミュニケーションを行う目的や場面,状況に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し、
再構築すること」が必要とされている。これらを踏まえ、具体的な言語の働きを意識して,タスクベ
ースに基づく言いたいことを考えて表現させていく言語使用場面と一度表現したことを自らの「気づ
き」をもとに振り返らせ再構築できるフィードバックを設ける学習プロセスが大切となる。そのフィ
ードバックが学習者の動機づけを刺激し,学習意欲を高め,言語の使用場面で,コミュニケーション
する相手を配慮しながら,
「理解したもの,できたもの」が使えるようになる喜びを味わうことで,学
習者の Directed Motivational Currents (DMC)の可能性は広がるものと考える。

2.先行研究

「できた!」という喜びを感じ,学習者が進歩を感じられる瞬間があれば,それは満足感,さらに
は達成感につながり,動機づけをより一層高める機会になる(Dörnyei, 2016)
。彼は,指導者はどの場
面で,どんなきっかけを与えれば,学習者の DMC を引き上げられるのかについて考察し,DMC を
「長期間の行動を鼓舞したり,それを支えたりさせるような急激な動機づけの衝動もしくは高まり」
(p. 2)「野口訳」であると定義している。これは,ある目標に向かって,長期間高い動機づけを維持し
ている状態と言い換えることができる。DMC には,次の5つの特徴がある。それらは,①特定の重
要な目標がある,②特定可能なきっかけとなる要素がある,③プロセスの構造がある,④肯定的な感
情がある,⑤減衰と余波があるである(Dörnyei, 2016, pp.15-17)
「野口訳」
。これらの中で,②のきっ
かけとなる要素を言語活動の間に入れる自己の「気づき」を促す児童自身のフィードバックとして捉
えている。そして,必要に応じて学習者の注意を言語形式に向けさせるフォーカス・オン・フォーム
(Focus on Form)という指導が重要であると言われている (Doughty & Williams, 1998)。
学習指導要領の目指す思考力・判断力・表現力の育成のためには,言語使用場面が現実味のあるも
ので,具体的な言語の働きを意識し,ゴール達成を目指すタスクベース英語学習の学びのプロセスが
欠かせないとされる。タスクには様々な定義があるが,Ellis (2018)は,タスクを流暢性の上に正確性

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を強調するコミュニケーション志向を唯一与えてくれる役割があり,学習者自身の持っている言語知
識と技能を最大限に活用して, (‘goal’ of a task)への動機づけが大事だと強調している。
課題解決
その定義に基づき,タスクは 5 つの特徴,①意味を伝えることが優先される(Meaning is primary.), ②
解決しなければならないコミュニケーションの課題がある(There is some communication problem to
solve.), ③タスクの完了が優先される(Task completion has some priority.),④実社会に類似していて,
関連がある(There is some sort of relationship to comparable real-world activities.),⑤タスクの評価は結果
から得られる(The assessment of the task is in terms of outcome.) に要約される(Skehan, 1998, p. 95)
「拙
訳」
。タスクは,伝えたい意味を優先し,課題解決に向けてコミュニケーションに必要性が生じ,教室
内で行われる活動ではあるが,教室外の実際の生活での英語の使用を反映している要素を備え,コミ
ュニケーション能力の育成に有効であるとされている。
本研究は,タスクの 5 つの特徴の①,②,④ に注目し,フォーカス・オン・フォームという考え方
に立ち,学習者のタスク後の「振り返り」の場面では,特に言語形式や「言いたかったけど言えなか
った表現」に焦点を当てるような「振り返り」の場とした。Schmidt(1990, pp.129-158)の「授業の流
れの中の『振り返り』の場面で言語の意識化が言語習得を促進させる」という理論に基づいている。
これが,学習指導要領の求める適切な言語材料を活用し,思考・判断して情報を整理するとともに,
自らの考えなどを形成,再構築する力につながるものと指摘されている。また,タスクフレームワー
クの中で,Pre-task, Task cycle, Language focus を重視し,
「タスクの繰り返し」とタスク後の「振り返
り」の場面で言語形式に焦点を当てることが,言語使用への意識化が図れ,学習者のコミュニケーシ
ョン能力の育成に有効性を示している(Willis, 1996)。その中で,タスク後の「振り返り」を通した省
察的活動で,学習者は「間違い」や「言いたかったけど言えなかった表現」を認識し,
「どう言えばよ
かったのか」適切な言語形式ややり取りを思考するようになる。学習者とのやり取りの中で発話を修
正したり,他の学習者からの指摘を受けたりすることにより,より適切な表現や言い回しなどについ
て意識が高まる。そして,タスクを繰り返すことで,正確性や流暢性の向上につながり,意識的に修
正することにより,その表現や言語形式を学習者が取り込み (intake),再度のタスクで学習者はそれ
を自分の意図した表現に近い形で産出でき,そこに言語習得を加速させる(Ellis, 2003, p. 258)と述べて
いる。また,タスクの「繰り返し」は学習者が実際に話した内容を自動化させるための活動,
「振り返
り」は学習者が表現したかった内容について「気づく活動」(noticing activity),
「形式への注意」は学
習者の発話の間違いに対して指導者が明示的な指導を与えて,学習者に対して発話の間違いを正確に
修正させるものとして捉え,これらのそれぞれの活動はタスク終了後の活動として有効性を示してい
る(Ellis, 2003)。そして,Cognitive Process(認知プロセス)の考え方を基盤にし、
「振り返りシート」
を活用した場面で「気づき」を刺激し,思考過程を大切にした省察的活動をメタ的語りと押さえてい
る。その授業展開が学習者の思考を豊かにし,言語産出(output)の中で「文法的正確さ」の向上につな
がると述べている(Ellis , 1994)。
このような先行研究を踏まえ,本研究は,We Can! 1, We Can! 2.(文部科学省,2018)の中からそれ
ぞれ1つずつの Unit からインタラクションの起こりえるゴール達成を目指す問題解決型のタスクを
設定した。タスクのフレームワークは,Willis (1996)のものを参考にし,生徒自ら自分の発話の誤りな
どに「気づき」を大切にした時間をタスクのフレームワークの中に位置づけた。1 回目のタスクの後
に、録音または録画した発話を聞かせ,見せ,
「振り返り」をすることで,言語形式,
「言いたかった

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ことが言えなかったこと」や「言いたい表現」などについて「気づき」を促した。その後,学習者の
発話の自動性を獲得するため,ドリル的な繰り返し学習を中心とする明示的指導を行い,そして,ペ
アワークの相手を替えて再度タスクを行った。この「気づき」によるフィードバックが,動機づけの
衝動もしくは高まりのきっかけとなる要素となり,
「言語取り込み」(intake)を起こさせ,再度タスク
を行うことでアウトプットにおける課題解決を可能にし,目標言語に近づき,学習意欲を高め,児童
の自信につながり,そのことが児童の productive skill に影響を与え,達成感を味わい,DMC の可能性
が広がるのではないかと考えた。

3.研究実践

3.1 研究実践の目的
小学校英語におけて,ゴール達成を目指すタスクベース英語学習の学びのプロセスで,言語活動の
間に入れる児童自身のフィードバックが,自己の「気づき」を促し,学習者の言語習得を促進する礎
になるかどうか,また長期的な動機づけに有効かどうかを調べる。

3.2 参加者および指導実践
(1)参加者
本研究による参加者は,公立小学校 1 校 5 年生 19 名,6 年生 15 名の 34 名である。5,6 年生の参加
児童は,We Can! 1, We Can! 2.(文部科学省、2018)を活用し,年間を通したゴール達成を目指すタス
クベース英語学習の学びのプロセスの中で,2018 年 5 月から 2019 年 1 月までの 20 時間の授業を行
った。5 年生の授業における指導形態は,JTE と学級担任のティームティーチングであり,6 年生は,
ALT と学級担任のティームティーチングである。学校以外で継続して英語学習をしている児童はいな
い。尚,本研究では,参加児童とその保護者の了解を得て談話記録をし,発話を書き起こしたものと
発話が相違ないかどうか参加児童に確認の上記載した。

(2)使用教材および指導の手順
年間を通して,各 Unit ごとに Can-Do リストを設けた。言語使用場面は,ゴールを意識化できるよ
う本物に近い authentic な課題解決型タスクとした(付録1図 1 5 年生)
。そのタスクを達成できるゴ
ール到達までの言語活動の手順が「Can-Do シート」である(付録2図 2 5 年生)
。このリストとシ
ートは,旭市外国語プロジェクトチームで作成した。このシートは,どの指導者にもゴール達成まで
の指導手順や具体的な活動がわかりやすく解説されたもので,児童に配布され,児童は,ゴールまで
の道筋が明確で,取り組みやすいと感じている。本研究実践は,5 年生においては,Unit 6 のトピッ
ク“I want to go to Italy.”に基づく「行ってみたい国はどこ?」と 6 年生においては,Unit 2 のトピッ
ク“Welcome to Japan.”に基づく「日本の紹介をしよう!」である。表 1 は,指導の手順を示す授業の流
れと具体的な指導者の働きかけと活動形態である。

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表 1 : 授業の流れと具体的な指導者の働きかけと活動形態

Approach 授業の流れ 具体的な指導者の働きかけと活動形態



言語の使 場面を含む 「今回の課題はこれだよ」,「わかったこと,表 できたことを,
Pre-task
ゴールを示す 実際にこんな場面で使えるかな」とやる気を起こさせる。
基礎的な知識や技能を 今日の目標はこれがわかって,これができる。だから,この活動で
身につける活動 慣れていこう。
Task 児童同士,時には指導者とタスクを行う。児童同士は,ぺア
タスクを行う
(Activity) ワークやグループワークで行う。時間を設定する。


録音または録 した発話を聞かせ,見せ,「振り返り」をする
Language フィードバック「振り ことで,言語形式,「言いたかったが言えなかった」など「気
focus 返り」を行う づき」を促す。指導者がモデルをしたり,児童の代表がプレゼ
ンテーションをして,自分のパフォーマンスと比べる。
「どこを改善すればいいのかな。」「うまく使えるために何が
Practice  自分のものにしよう
必要かな」「こういうこともできるよね」
ペアやグループや指導者(相手)をかえて,再度タスクを行
Task 2
もう一度タスクを行う う。「さあ、再チャレンジだ。意識して使うとこ大丈夫かな」
(Activity2) 「相手が違うと話の流れも違うかも,その時どうする?」
「1回目に比べ,どうだった?」「言いたいこと言えたか
Analysis フィードバック「振り な?」「使えるようになったらどんな気持ち?」,「よくなっ
Report 返り2」を行う たところを発表し合おうよ」「わかって,そしてできて,使え
るようになったことはどんなことだろう?」

(3)授業の流れの中の「振り返り」の場面
Activity をした後,DMC のきっかけの要素になる自己の「振り返りシート」
(付録3図 3)をもと
に,
「気づき」から必要に応じて学習者の注意を言語形式や「言いたかったけど言えなかった表現」に
焦点を当てるようなフィードバックを行った。表 1 の Language focus でのフィードバックで使用した
「振り返りシート A」は,自分が「こう言いたい」と思ってリハーサルした表現等ができたかできな
かったか調査した。
「できた」なら,どんなことを心がけていたのか,
「できない」と回答した児童は,
何が足らなかったのか,また,うまく言えない表現があったのか,
「ある」と回答した児童は,どんな
ことが難しかったのかを質問紙で把握した。次に,再び Activity をした後で,
「振り返り2」の場面で
「振り返りシート B」を使用して,
「振り返り」の前の Activity と比べ,言語使用に置いて何が克服で
きたのか,何ができるようになったのか,
「振り返り」は有効だったのか,
「振り返り」によって,動
機づけは高まったのかを確認できるようにした。両振り返りシートからの意識の変容が児童の言語活
動の際の発話にどれだけ影響を及ぼすのか調査した。

3.3 研究実践の概要

(1)研究の方法
期間は,2018 年 5 月から 2019 年 1 月までの 20 時間である。対象児童は,公立小学校 1 校 5 年生
19 名,6 年生 15 名の 34 名である。言語材料は,5 年生は,We Can! 1.(文部科学省,2018)Unit 6 の
トピック“I want to go to Italy.”, “Where do you want to go? ”「行ってみたい国はどこ?」で,6 年生は,
We Can! 2.(文部科学省,2018)Unit 2 のトピック“Welcome to Japan.” 「日本の紹介をしよう!」を
扱った。調査方法は,5 年生は JTE と,6 年生は ALT と 80 秒間のインタラクションを実施し,フィ

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ードバック前と後の言語活動の学習者が産出する言語について,語彙数の変容と質問紙からの意識の
変容に関連する発話の質について面接法による質的調査を行なった。次に,フィードバック前とフィ
ードバック後の,3つの群(①関心・意欲,②技能に対しての自信,③動機づけ)の変容と信頼性比
較分析を行なった。

(2)分析の方法
本研究実践は,2種類の分析方法で検証した。フィードバック前と後の言語活動の学習者が産出し
た語彙の中で,増加した発話語彙の質は,質問調査から児童の意識の変容を分類化し,質的研究のグ
ランディドセオリーの方法を用いた。
「振り返りシート」
(付録3図 3)をもとに,個々に面接法でイ
ンタビューし回答を分類化し分析した。質問紙調査の3つの群がフィードバック前と後での比較につ
いては,量的分析で,統計処理には JASP の Repeated Measures ANOVA を用い,調査と結果の信頼性
について分析した。

(3)研究の実際
①フィードバック前と後の言語活動の学習者が産出する言語についての語彙数の変容を調査

図 4: 6 年生におけるフィードバック前と後の言語活動で産出した語彙数の一覧
N =15

図 5: 5 年生におけるフィードバック前と後の言語活動で産出した語彙数の一覧

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N =19

図 4 と 5 より,5 年生も 6 年生も,実施したトピックの違いはあるが,どの児童もフィードバック


前の言語活動で産出した語彙数よりもフィードバック後の言語活動で産出した語彙数の方が,増加し
ていることがわかる。語彙数の平均は,6 年生は 40 語から 55 語になり,フィードバック前の言語活
動に比べると平均 15 語の増加が見られた。5 年生は 42 語から 57 語になり,フィードバック前の言
語活動に比べると平均 15 語の増加が見られた。6 年生は,16 語以上増加した児童が全体の 60%を占
め,5 年生は,11 語〜15 語の増加が 57.9%ともっとも高い。このことから,6 年生は,フィードバッ
クが発話語彙数を高める有効な手立てとなったと言える。
発話語彙数は増加したが,発話の質はどのように変化したのだろうかに注目した。図 6 は,6 年生
のある児童のフィードバック前,図 7 はその児童のフィードバック後の実際の発話をそれぞれ書き起
こしたものである。図 6 と図 7 の比較から,語彙数の増加は 14 語であり,フィードバック後,増加
した発話の質は,
「自分の気持ち」の表現と相手の発話が正しく理解できたかどうか「確認チェック」
などの「意味交渉」が増加したことがわかる。図 8 は,5 年生のある児童のフィードバック前,図 9
はその児童のフィードバック後の実際の発話をそれぞれ書き起こしたものである。図 8 と図 9 の比較
から,語彙数の増加は 15 語である。フィードバック前にも,
「意味交渉」は 2 回行っていた。フィー
ドバック後,増加した発話の質は,具体的に,
「自分の気持ち」の表現を意識し 3 回行い,
「意味交渉」
が 2 回から 4 回に増加した。そこで,全ての参加児童が,図 4 と 5 より,フィードバック後に語彙数
増加したことは明らかであるが,いったいどのような発話が増えたのだろうか,そしてフィードバッ
クの中で,何をきっかけにフィードバックの質が変容していったのか興味深い。また,フィードバッ
ク前から比較的発話語彙数値の高い児童は,増加はそれほど伸びていない。つまり,高止まりしてい
て伸びしろがない。80 秒というインタラクションの制限がある以上,語彙数の増加には限界がある。
そうしたことを踏まえ,はじめから話すことにおいて運用能力の高い児童は,フィードバックは有効
なのか,もし有効ならどのような発話の質になるのか,語彙数の増加とともに検証してみた。

図 6:6 年生児童(A)のフィードバック前の ALT とのやり取りの書き起こし

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注:下線は,筆者による。
「自分の気持ち」の表現が 2 回 「意味交渉」が 2 回増加した。
図 7:6 年生児童(A)のフィードバック後の ALT とのやり取りの書き起こし

図 8:5 年生児童(B)のフィードバック前の ALT とのやり取りの書き起こし

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注:
「自分の気持ち」の表現が 3 回,
「意味交渉」が 2 回から 4 回に増加した。
図 9:5 年生児童(B)のフィードバック後の ALT とのやり取りの書き起こし

②フィードバック前の後の言語活動における学習者の意識に関する質問紙調査について
「振り返りシート A」と「振り返りシート
3.2 の(3)の授業の流れの中の「振り返り」の場面で,
B」を用いた。 「振り返りシート A」の Q1 では,
(付録 3 図 3) 「自分が『こう言いたい』と思ってリ
「振り返りシート」B の Q1 では,
ハーサルした表現が実際できたか」を問い, 「『振り返り』後,自分
の言いたい表現はうまく言えたのか」を問うた。その AQ1 から BQ1 の意識変容が表 2 である。その
意識の変容を 3 つの類型に分類し,事前も事後も言いたい表現がうまく言えたと感じた児童を 1,事
前よりも事後の方が言いたい表現がうまく言えたと感じた児童が 2,事前も事後も言いたい表現は不
十分で満足いかないと感じた児童が 3 とした。また,AQ4 では,
「難しい, うまく言えない表現はあ
ったのか」を問い,
「ある」か「ない」かの 2 択回答を求め,
「ある」と答えた児童は具体的に記述し
てもらった。BQ4 では,
「『振り返り』は,自分のスピーキングに重要だと思うか」を問うた。
AQ1 については,全体の 41.2%肯定的に回答し,58.8%が否定的に回答したのに対し,BQ1 では,
肯定的に回答した児童は 88.2%まで上昇した。そして,
「振り返り 2」の場面では,1 と 2 の類型に回
答した児童は 97.1%になり,BQ4 でも 97.1%が肯定的に捉え,
「振り返り」という場面が,児童の充
実感や動機づけを高めているのではないか推測できる。また,再び Activity をする前の「振り返り」
では,77.1%の児童は,一度では,自分の発話に満足できず課題が残ると感じていることがわかる。
言語活動の児童自身の発話語彙数の変容と振り返りを通して意識の変容について面接法による質的
調査を実施した。

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「振り返りシート A と B」を使用した質問項目の学習者の意識に関する変容について
表 2:
AQ1 と BQ1 の回答選択肢:4 十分にできた 3 できた方だ 2 不十分で満足できない 1 できない

6 年生 N =15 5 年生 N =19
③フィードバック前と後での質問紙調査おける3つの群の比較
児童の 3 つの群(①関心・意欲,②技能に対する自信,③動機づけ)がフィードバック前とフィー
ドバック後にどのように変容したのか質問紙調査を行った。表 3 は,質問項目と回答選択肢である。
質問数 13 の内,
「関心・意欲」に関する項目を 6 つ,
「技能に対する自信」に関する項目を 4 つ,そ
して「動機づけ」に関する項目を 3 つの群とした。結果分析については,JASP の Repeated Measures
ANOVA を用い,調査と結果の信頼性について分析した。

表 3:3 つの群(①関心・意欲、②技能に対する自信、③動機づけ)に行ける児童質問紙

回答選択肢 4 とてもそう思う 3 まあまあそう思う 2 あまりそう思わない 1 全くそう思わない

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4.結果と考察

フィードバック前と後の言語活動の学習者が産出した語彙の中で, 増加した発話語彙の質は, 質
問調査から児童の意識の変容を分類化し, 質的研究のグランディドセオリーの方法で結果を考察し
た。5・6 年生を合わせて, 主に 2 つのカテゴリーに分けることができる。1 つは, 意味交渉(negotiation
of meaning)であり, もう一つは、
「自分の気持ち」の表現である。そして増加した発話語彙の質につ
いて,グラフで示したものが図 10 である。横軸は,
「意味交渉」の使用回数と「自分の気持ち」の表
現使用回数である。縦軸は,参加児童全体の割合である。AQ1→BQ1 のフィードバック前もフィードバ
ック後も言いたい表現がうまく言えたという児童を分類 1 とし,分類 1 の児童は,
「意味交渉」は 2
回の使用が最も高く,
「自分の気持ち」の表現回数は 3 回以上使用した児童の割合は 57.1%に上る。
一方、フィードバック前よりもフィードバック後の方が言いたい表現がうまく言えたとういう児童を
分類 2 とし,分類 2 の児童は,
「自分の気持ち」を表現するに至っていないが,
「意味のやりとり」の
回数が極めて増えたという児童が多くなったことがわかる。分類 1 の児童は,It’s interesting.や It’s
delicious. 等の「自分の気持ち」を伝える表現がフィードバック後増えていることがわかった。面接法
において,個々に深く聞いてみると,
「自分の意見を言った後にそれについて,自分の感情(気持ち)
を相手に伝えた方が,相手が笑顔になる」や「フィードバックの時,ALT がモデルをしてくれたら,
なんとなくイメージがわかり,あのように使うんだと意識化できた」と答えた児童がいる。このよう
な「自分の感情(気持ち)を相手に伝える,ALT がモデルで意識化でき自分の発話が変わった」とい
う児童は,全体の 85.3%であった。

図 10:発話増加語彙数の中から、分類1と2の児童の発話内容の質について

フィードバック前よりもフィードバック後の方が言いたい表現がうまく言えたとういう 2 に分類
された児童は,面接法で聞いてみると,
「相手の言っていることに念を押すことで,確認できるし,そ
こで Yes と相手が言ってくれたら,自分の理解していることは正しかったんだと思い少しうれしくな
った」や「フィードバックで,これ多く使うと相手とうまく話している感じがして,外国人になった
ようだ」等答えている児童が多かった。このような「意味交渉」がコミュニケーションを継続に有効
であり効果があると実感できた児童は,73.5%であった。また,フィードバック後の言語活動では,
「1回目に比べ,スムースに英語が言え,コミュニケーションが楽しかった,もっとやりたい」や「自
分のできないところができてうれしい。英語が使えるようになった。次の Unit も頑張りたい」と答え

- 14 -
ている。
「もっとやりたい」
,「次も頑張りたい」と回答した児童は 88.2%になった。つまり,フィー
ドバック前から,ある程度英語の発話能力もあり意識の高い学習者は,フィードバックで,
「自分の
気持ち」を英語でうまく表現できるようになり,フィードバック前は,それほどうまく言えないと感
じている学習者は,フィードバックで,
「意味交渉」というスキルを身につけつつあるということが
わかった。また,言語活動の間に入るフィードバックは,学習者の英語学習についての技能を高めた
いという意識の向上に有効であると示唆できる。そのきっかけが,動機づけになり,長く学んでいき
たいという DMC に影響を及ぼすこともわかった。
また,発話語彙数と意識の変容を散布図で示したのが図 11 である。フィードバック前と後で発話
語彙数も意識も 97.1%の児童が向上している。意識の変容において,全体の 20.6%の児童が,意識
の変容は見られない,語彙数はわずかしか向上していない。これは,意識が 4 から 4,そして発話語
彙数の増加も 15 語以内という児童である。最初から意識が高く,発話語彙値が高い児童はフィード
バックしても伸びないということではなく,上述したように「意味交渉」の回数が増えると同時に「自
分の気持ち」を述べたりするなど発話の質が変化した。よって,上位の児童は,フィードバックがも
たらす効果は,語彙数の増加だけではなく,発話の質が高くなる傾向があるのではないか,その質が
高くなることで,充実感・満足感が生まれ DMC に影響を及ぼすことが質的調査の面接法でわかった。

図 11:発話語彙数(横軸)とフィードバック前後のアンケートの意識の変容(縦軸)の散布図

次に,表 2 で用いた質問紙において,フィードバックの事前と事後で 3 つの群(①関心・意欲,②


技能に対する自信,③動機づけ)が向上したのか,その調査と結果について量的の二元配置分散分析
で,統計処理には JASP の Repeated Measures ANOVA を用い分析した。

表 4: Repeated Measures ANOVA の効果についての分析表

- 15 -
Time は,事前と事後を示している。factor は,3つの群(①関心・意欲,②技能に対する自信,③
動機づけ)を示している。事前と事後に効果があったのかは,η2(イータ二乗)=0.88 で分散分析に
p(possibility)で変化はなく,
おける効果量は高いことを示している。 差がないという帰無仮説を立てて,
表から,p < .05 を示し,実際,p < .001 なので有意差があった。Sum of Squares が高くなれば F 値は高
くなる。この調査では,今回 Time が一番高いのでもっとも有意差がでた。つまり,表 5 より,
「フィ
ードバック」により,1 回目の言語活動時よりも,関心が高まり,話すことにおいても自信が生まれ,
そして交互作用の存在で,factor 3 の動機づけがより教育効果を受けてうまく話せるようになったと
感じもっとやりたいという気持ちが高まったと言える。

表 5:Descriptive ○①関心・意欲 ●②技能に対する自信 ♢動機づけ

信頼性分析
before after

1 0.98
0.95
0.9 0.89
0.87 0.89
0.86
0.8
0.7 0.69
0.68
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
全体 factor1 factor2 factor3

信頼性分析の表の数値は,クロンバックのα信頼性係数である。事前の全体調査は,0.937,事前群
①関心・意欲の調査は 0.876,事前群②技能に対する自信の調査は,0.857,事前群③動機づけに関す
る調査は,0.69 であった。事後の全体調査は,0.947,事後群①関心・意欲の調査は 0.887,事後群②
技能に対する自信の調査は,0.894,事後群③動機づけに関する調査は,0.68 であった。③について
は,①②より信頼性の値は低いが,今回は参加者の人数が少なかったことを考慮すると低い値ではな
いと考えられる。これらの分析により,フィードバック後の効果量が 0.7 以上とする Muijs(2011)の
基準を満たしたため介入の効果が高かった。このことは,学習者にとってフィードバックが有効に働
いたということである。3 つの群とも,事前比べ事後が伸びており,フィードバックが意識を高め,
語彙数の向上より発話量の質的分析から言語の運用能力も高まり,英語学習に対する動機づけを高め
維持するきっかけとなる要素になったと思われる。

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5.結論と今後の課題

5.1 結論
Directed Motivational Currents (DMCs)の可能性が高まる条件は,ゴール達成を目指すタスクベース英
語学習の学びのプロセスと言語活動の間に入れる児童自身のフィードバックがあるということであ
る。DMC の 1 つの特徴,
「特定可能なきっかけとなる要素」に注目し,そのきっかけとは言語活動の
間に入れる自己の「気づき」を促す児童自身のフィードバックとして捉えて研究した。いったい指導
者はどの場面で,どんなきっかけを与えれば,学習者の DMC の可能性が高まるかについて研究実践
した。初期学習者である小学生において,指導者はそのフィードバックで,何に配慮しなければいけ
ないか,どうすれば長く動機づけを保つことができるのかに焦点を当てた。自己の「気づき」を促す
ことも大切であるが,英語学習経験の浅い小学生には,フィードバックで気づかせるための指導者の
具体的な働きかけが大事であることもわかってきた。質問紙調査後の個々のインタビューからわかっ
たことは,適切なモデリングを与えて「気づき」を促すことが大切ということである。今研究で,ALT
のモデルから理想とする発話の流れや必要な表現(自分の気持ち等)を学べ,学習意欲が高まるとい
うことである。Csikszentmihalyi et al. (2005) は,学習者の内的要因としての学習者がのめり込む取り
組みとしては,はっきりしたゴールがあり,即座にフィードバックがあり,学習者のスキルに合わせ
たチャレンジあるタスクでなければならないと述べている。このことからも,即座のフィードバック
とチャレンジあるタスクが動機づけを高める要素になっていると言えるだろう。そして,これらが今
回の研究では,Unit におけるチャレンジある課題解決型タスクに対応するスキルが身につくきっかけ
になったと言えるだろう。また,ゴール達成を目指すタスクは authentic でなければならない。本物に
近い言語の使用場面だからこそ,動機づけが高まり,課題解決に真剣になると言える。Bachman (1990)
は,言語使用状況やそこで生まれるやりとりが本物であることが大切で,そのやりとりの中で意味の
やりとり,足場かけ,推測し,また観察することが有効であると述べている。小学校学習指導要領(文
部科学省 2017)の目指す思考力・判断力・表現力の育成のためには,言語使用場面を大切にする「理
解していること・できることをどう使うか」をねらいとするゴール達成を目指すタスクベース英語学
習のプロセスが大切となる。フィードバックを通して再構築を図り,言語使用場面が現実味のあるも
のだからこそ動機が高まる。初期英語学習者である小学生には,指導者のモデリングでイメージ化さ
せ,自分のパフォーマンスを振り返させ,モデリングとの違いを「気づく」機会を与えることで児童
の学びに向かう力が涵養される。そうした中で,児童が自分の力を知って,より高度な「自己」を求
めた時,
「やる気」のスイッチが入り,言語活動の間に入れるフィードバックは学習者の productive skill
に影響を及ぼし,学習意欲を高め,小学校英語においても DMC の可能性が高まることがわかった。

5.2 今後の課題
「何ができるようになるか」という単元の Can-Do リストと動機づけにつながる真正性の高いタス
クの達成のための具体的な授業デザインを明確にする必要がある。また,意欲が最初から高い児童に
対する動機づけの維持や児童自身が気づきを促進できる具体的なフィードバックのアプローチにつ
いて今後研究を深めていきたい。さらに,フィードバックと変容の因果関係を明らかに,どのような
フィードバックが量や質の向上をもたらすのか今後研究を積み重ねていきたい。

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1. 本稿における旭市外国語教育プロジェクトチームは,2017 年度より旭市教育委員会の主催で,市
内の小・中学校の外国語教育における授業実践力の高い教師で構成されており,
「誰でもできる小
学校外国語の授業」を目指し,小学校 We Can! 1, We Can! 2.(文部科学省、2018)を活用し,年間
を通したゴール達成を目指すタスクベース英語学習の学びのプロセスを基盤に,指導計画,具体
的な授業実践と評価および教師向けの研修を計画的に行っている。

謝辞
本研究は,旭市外国語教育プロジェクトチームと研究実践校の協力と検証をするために分析につい
てご教授いただいた先生方に心から感謝の意を表し御礼申し上げます。

引用文献
旭市教育委員会(2019) 「小学校外国語活動・外国語指導ハンドブック 2019<第2版>」旭市:旭市
外国語教育プロジェクトチーム.
Anselm Strauss and Juliet Corbin (1990). Basic of Qualitative Research- Grounded Theory Procedures and
Technique. [南裕子(監訳)(1999). 『質的研究の基礎―グランデッドセオリーの手法と手順』
東京:医学書院]
Bachman L. (1990) Fundamental Consideration in Language Testing. Oxford: Oxford University Press.
Catherine Doughty, Jessica Williams. (1998). Focus on Form in Classroom Second Language Acquisition.
Cambridge: Cambridge University Press.
Csikszentmihalyi, M., Abuhamdeh, S. and Nakamura, J.(2005) Flow. In A. Elliot (ed.) Handbook of Competence
and Cotivation (pp.598-698). New York: The Guilford Press.
Dörnyei, Z., Alastair, H., & Muir, C. (2016). Motivational Currents in Language Learning. New York: Routledge.
Ellis. R. (1994). The Study of Second Language Acquisition. Oxford: Oxford University Press.
Ellis. R. (2003). Task-based Language Learning and Teaching. Oxford: Oxford University Press.
Ellis. R. (2018). Reflections on Task-Based Language Teaching. PA: Multilingual Matters.
野口裕太(2017)「英語学習に対する Directed Motivational Current(DMC)の形成及び減衰過程の探
索的研究」
『第 29 回英語検定研究助成.C 調査部門・報告 II」日本英語検定協会
文部科学省(2017).We Can! 1. We Can! 2. 東京:東京書籍
文部科学省(2017).『小学校学習指導要領』. Retrieved from http://www.mext.go.jp/component/
a_menu/education/micro_detail_icsFiles/afieldfile/2018/09/05/1384661_4_3_2.pdf
Muijs,D.(2011).Doing quantitative research in education with SPSS(2nd ed.).Los Angeles: SAGE.
Schmitt, N. (1990). The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics, 11, 2. pp.129-
158.
Skehan, P.(1998a). A Cognitive Approach to Language Learning. Oxford: Oxford University Press.
Willis, J. (1996). A Framework for Task-Based Learning. Longman

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付録
付録1:図 1 wCan-Do シートのタイトル一覧 付録2:図 2 ゴール達成までの言語活動手順

We Can 1 Unit 6
Class No. Name .


★成 空港で、街角インタビューに答えよう。行きたい国、見たいもの、
食べたい、飲みたいもの、買いたいものなどを言うことができるか。
まず、

1 ①P.78のCountries Jingleの国から、興味のある国を1つ選ぼう!

                            .

②・その国のどこに訪れたい?(visit) ・何をみたい (see)
 ・何を食べたい(eat) ・何を飲みたい(drink) ・何を買いたい
(buy)

③②についてどんな気持ち?

わくわくする
おいしい
美しい
すごい
楽しい

2 次に、ペアでインタビューする。A:インタビュアー B: 旅行者
A: こんにちは。 質問してよろしいですか? と言いたい!
B: (快くいいよと言いたい)
A: どこの国に行きたいですか?
B: ( 〇〇の国へ行きたい)
A: なぜですか?
B  (〇〇したい、こうだから)と言いたい
例)I want to watch the Major League Baseball. It’s exciting!

※(5年生 Unit 6 の実践)

付録3:図 3 DMC のきっかけの要素となるフィードバックで使用した「振り返りシート」

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