You are on page 1of 3

P.

Duhem と決定実験
反証例は主要仮説を完全に否定できるのか
• 決定実験(crucial experiment)
– 他の競合する理論からは推論されない状況を • 反証は直接的に基礎となる仮説を否定するものではない。
発見・創出し、特定の理論の正しさを明らかに 仮説は一群の補助仮説や背景知識に取り囲まれているの
すると想定される実験
で、反証例が真偽を決定するのは、これらの仮説群なので
• デュエムは決定実験は不可能であると考 ある。
えた。
– 物理理論は主要仮説、補助仮説、背景知識
などを含む有機的全体をなすものであり、従っ Pierre Duhem • 反証例が提示されても、それが主要な仮説に対する反証で
て単独の科学的仮説が実験や観察によって (1861-1916) あることには必ずしもならない。補助仮説を廃棄したり、新し
一義的に検証あるいは反証されることはない 『物理理論の目的 い補助仮説を付加したりして反証を回避できるのであれば、
と主張(哲学・思想事典) と構造』の著者 主要仮説は守られる。

仮説の検証・反証
• 仮説の検証は、一般に、仮説そのものではなく、仮説が真であれば真であるよう
反証は何を反証するのか
なテスト命題の真偽を実験・観察によって決めることによってなされる。
H (仮説)ならば T (テスト命題) • テスト命題が偽である場合、
通常、Tは具体的に次のような条件命題の形をとる。 ①仮説そのものの不備
条件 C が実現されれば、事象 E が生起する ②補助仮説が不適切
• ところが、科学理論の場合には、通常、補助仮説ないし補助規則 A が前提に加 のどちらであるかは、評価する科学者の「健全な」判断に依存
えられ、 する。
H (仮説)と A(補助仮説) がいずれも真ならば、T も真である • 科学は、純粋な形式的推論過程ではなく、実践的判断の側面が
となる。 強い。
• よって、仮にT が偽であっても、H がかならずしも偽である必要はなく、補助仮説 • ある命題の真偽を問うときには、別の命題の真理性を仮定しな
A の方が偽であってもよい。しかも、この A は複数個の仮説群であってよいので、
くてはならない。
A が偽といっても、A のいずれかが偽であればよい。

仮説の検証・棄却・修正 N. R. Hansonと理論負荷性(1)
理論のネットワーク性
• 理論負荷性(theory-ladenness)
A アドホックな仮説(その場
H しのぎの仮説)を追加して – 誰の目にも明らかな客観的事実なるものは
H:主要仮説
理論修正を図る 存在せず、いかなる事実もそれ自体を成り立
A:補助仮説
たせている理論的背景をもつこと。
T:テスト命題 T
観 Aの一部を修正 – 現象は理論に基づく解釈である。理論が異な
察 れば、データの解釈も異なり、相異なる理論
によってデータが認識される場合、同じものを Norwood Russel
判定 偽 認識しているとはいえなくなる。 Hanson
(1924-1967)
– 理論とは独立した中立な観察は与えられない。 『科学的発見のパ
Hの棄却 ターン』 、『知覚と発
Hの検証 見』の著者

1
N.R. Hanson と理論負荷性(2) T.S. Kuhn と科学革命論
• 論理実証主義の立場
– 科学の進歩は、理論とは独立な観察と観察事実の記述の累積によっても
たらされる。 • パラダイム(paradigm)
– 仮説演繹手続きでも、仮説と観察データ(観察命題)とは互いに独立であ • 通常科学(normal science)と科学
る、と考える。
革命(scientific revolution)
– 常識的な科学観に近い立場
• Hanson の立場 • 変則性(anomaly)
– 観察においては、データを純粋無垢に知覚することはありえず、それは理
論を背負って解釈するという仕方でのみでなされる。
• 共約不可能性
(incommensurability) Thomas Samuel Kuhn
– 与えられた感覚与件(sense data)は同じであっても、その認識は観察者に (1922-1996) 『科学革命
よって異なる。例えば、物理学者は実験器具をX線管として見るが、素人 の構造』
はただのガラス管と金属でできた器具としてしか見ない。

科学革命の構造 クーンの科学発展論
通常科学 既存のパラダイム • 自然科学(特に物理学)の科学史的研究 → 科学とは科学者集団による
自然への〈見込み捜査〉
通常科学 • 捜査上の見込み(=大枠の方針)= パラダイム
理論や現象 変則的事例(反証) の枠内で
::: • 通常科学:一定の見込みを固定した上で証拠固めを図る時期、パラダイム
の確認・精緻化 補足的説 を崩さずに実験事実の解釈と理論の細部充填がなされる時期
変則的事例(反証)
明で対処
変則的事例 • 科学革命:捜査方針に大転換が起こり、全く異なる枠組みのもとに事実的
の蓄積 証拠も解釈されるようになる時期

危機 • 通常科学と科学革命が交互に現れる。
パラダイム転換
• 科学は事実の集積というよりもむしろ時代と文化に制約された「ものの見
新しい異質な 方」。パラダイムが転換されれば、新しい局面と問題が見えてくる。
通常科学
理論の提出
(革命的科学)

通常科学と変則性 共約不可能性とは
• 特定の科学者集団が一定期間、一定の過去の科学的業績を受け入れ、それ
を基礎として進行させる研究 • 科学革命前後の2つのパラダイムの関係についての見解
• 通常科学の研究分野は、「視野をきわめて限定したもの」であり、「ある部分を – 理論間の比較を共通の尺度によって行えないこと
詳細に深く探求できる」
– パラダイム転換は、単なる知識の変遷ではなく、科学活動の全般に関わ
• 「後始末的仕事(mopping-up operations)」 る規範、理論体系を規定する根本概念の転換なので、2つのパラダイム
– 既に与えられている現象は理論を磨きあげる方向の仕事 間には共通項はなく比較不可能である、と考える。
• 「パズル解き(puzzle-solving)」 – 新旧パラダイムは、同じ用語、装置、概念を多く使用するが、互いにまっ
– 予期していることを新しい方法で得ること たく同じであることは希である。
– 解けることが保証されている答えに到達する解法を見つけること
– パラダイムからパラダイムへの忠誠の変換は、ある意味で改宗の問題
• しかし、変則的事実が多く観測されると、何かがおかしいという認識をもたらす であって、強制されることによってなされる体験ではない。
ようになる。変則的事実の認識によって、科学の危機意識が生まれ、科学者
たちの間に新理論の出現の期待がでてくる。

2
科学者の不正行為
理論選択の基準
• 論文を書くか、さもなくば破滅するか(publish or peril)。
1. 実験や観察の結果との一致 – 科学者にとっては、論文の質量が業績評価に直結する。

2. 内部の無矛盾性および確立された他理論との整合性 • 捏造(ねつぞう):実際には得られていない実験データや観察記
録に基づいて研究を作り出す。
3. 応用範囲の広さ
• 改竄(かいざん):論文の整合性を保つことや論文の評価を高め
4. 単純性 ることを目的として、データを都合よく加工する。
5. 豊饒性 • 剽窃(ひょうせつ):他の研究者の業績の一部あるいは全体を自
– 新しい予測、気づいていない側面に気づかせるなど 分のものとして発表する。
– 引用の適切な方法の理解が重要
• その他:アイディアの盗用、著者の取り扱い(ギフト・オーサーシッ
プ)、研究費の不正使用など

You might also like