You are on page 1of 2

心理学の科学性

心理学の方法論  心理学において、科学的な知識を得るためには、対象となる現象が経験的
事実であることに加えて、その経験的事実を誰でもが一様に観察することが
心理学の定義 できるという相互主観性がなければならない。
行動(behavior)と心的過程(mental processes)  「行動」は経験的事実であるだけでなく、誰にでも一様に観察可能であり、相
に関する科学的研究 互主観性をそなえている。ここで「行動」とは、身体的に表面にあらわれたこ
とだけでなく、対象となる個体について観察・測定できるもの全てである。
 「言語報告」も行動の一つである。個人の主観的経験は、言語行動として観
科学的研究と称する以上、ここまで述べてきた科 察・測定できるものとみなされる。
学のあり方が適用されるはず。  言語行動は意味を含んでいる。心理学では、行動が意味論的に理解される
ことが要求される。
ただ、人文社会科学と同様、対象が「もの」では
ないにも関わらず、研究方法が自然科学的であ  意識現象にせよ、物理現象にせよ、観察者によって報告され、公共の資料と
なって初めて科学の圏内に入る。報告は他人と共有することができるからで
るという点で特別な分野である。 ある。

言語報告と行動 行動の意味の一義性(1)
• 言語報告による相互主観性の成立 • 観察された行動は、「T迷路を一定方向に移動し、餌を食べた」ということで
– ネズミの白黒弁別学習 あるが、研究対象はネズミの白黒弁別学習という心理過程。
– T迷路使用 • 行動そのものではなく、行動の意味が問題となる。
– 白の方に走る → 餌を与える(正選択) • 「正しい走路に移動した」ことは、「白黒弁別に成功した」という意味を持つ必
– 観察者全員が、「ネズミは10回中10回とも正選択を行った」
と言語報告したとする。ネズミの行動観察は、個人的な主 要がある。
観であるが、その言語報告を介して、他の主観(観察者)と • 報告された行動の意味が一義的に解釈されるためには、実験の外的状況と
共通な特性をもつにいたる(相互主観性)。
の関連が重要である。例えば、
• 言語報告の一義性が問題 – ネズミは食餌制限されている。
– 観察されたネズミの行動は、「T迷路を一定方向に移動し、
餌を食べた」ということだけであり、学習それ自体は観察さ – 正刺激の位置はランダムに決定されている。
れていない。 – 正しい選択をすると餌が与えられる。 ・・・
– しかし、ネズミが白黒弁別を学習したという意味に解釈さ • 必要な外的状況は、「弁別」、「学習」といった概念に付与されている意味に
れる。
基づいて準備される。

行動の意味の一義性(2) 操作主義(operationalism)
• 「木の葉は緑色をしている」という報告
 アメリカの物理学者P.W. Bridgman (1882-
– 「緑の木の葉」という感覚内容は他者に伝達できない個人的かつ主観的な 1961)が提唱。
体験である。
 概念の意味は、一定の具体的操作によって客
– 被験者の言語報告は、音声という物理的音響の世界から単語・意味、統語 観化される、と考える立場。例えば、長さとは測
論・意味論の世界に翻訳可能であり、他人にも共通に理解できる客観的 定操作の仕方によって定義される (広辞苑よ
データとなる。 り)。
– この報告で伝えられるものは感覚内容ではなく、色体系のなかの他の色と
 科学上の概念は、それを定義するための操作
の相対的関係である(青と黄色の中間の位置を占める色) 。
が具体的に示されなければならないとする科
– 互いに人間として、ほぼ類同の感覚機能を有しており、それに類同の外的 学方法論の立場。 Percy Williams Bridgman
刺激が働きかけるとすれば、その経験の報告は一致あるいは近似すると素 (1882-1961)
 知能 知能テスト
朴に認めても差し支えないのではないか。すると、被験者の内的体験は言
語報告を通して扱うことができ、ある程度まで内容を推定できる。  測定なしの心理概念はありえない。

1
心理学的測定の間接的性格 表面尺度と元型尺度
• 心理学的測定の多様な対象
– 閾値・感覚量の測定 • ほとんどの心理測定は間接測定である。
– 学習・行動の測定 • 関心のある測定対象
– 性格の測定
– 観察可能な現象の背後に措定される心的過程
– 知能などの心的能力の測定
– それは直接測定できない。
– 社会的態度の測定 など
• 測定とは対象に「数」を付与すること • 測定は観察可能な行動について行われる。
– 数の概念:人間の創造した人工の概念(自然に存在する具体的な対象や出来事とは独
立)。
– 数の操作:公共の論理(規則)に従う(私的な論理ではない)。
指標
表面尺度 元型尺度
– 対象や事象を論理の世界(公共性)に結びつける。
(測定可能な行動) (測定したい心理量)
• しかし、心理学の対象は、普通の物理的手段では直接測定できない。 変数変換

指標(measure) 望ましい指標
• 実際に測定したい心理的な尺度(=元型尺度)の数値は、直接的に測定で • 妥当性(validity)
きない – 興味の対象である心的過程を反映していること
• そこで、何か実際に測定できる尺度(=表面尺度)の数値つまり指標を用
いて間接的に測定することになる。
• 信頼性(reliability)
– 繰り返し測定した際、結果が安定しており、大きな変動を示さないこと
• 実験者は、実験のたびに指標を工夫することになる。
• 指標の例 • 客観性(objectivity)
– 計数:頻度、正答数(率)、誤答数(率) ・・・ – 測定基準が客観的・操作的に明確に定義されていること
– 反応潜時:単純反応時間、選択反応時間 ・・・ • 敏感性(sensitivity)
– 脳波:事象関連電位(ERP) ・・・
– 測定対象の変化を敏感に反映すること
– 生理的指標:GSR、瞳孔サイズ、心拍 ・・・
– 内観報告

心理学のアプローチ方法 心理学の専門分野
• 生物学的アプローチ
– 行動:分析・要素論、還元論、唯物論 日本心理学会の分類によると
• 行動的アプローチ I. 知覚・生理・思考・学習
– 行動:分析・要素論、還元論
II. 発達・教育
• 認知的アプローチ
– 情報処理としての心的過程:分析・要素論、還元論
III. 臨床・人格・犯罪・矯正
• 精神分析的アプローチ IV. 社会・産業・文化
– 無意識:分析・要素論、還元論 V. 方法・原理・歴史・一般
• 現象学的アプローチ
– 主観的経験:人間性の探求(自己実現)、全体論

You might also like