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徳永ー学苑(2004)
徳永ー学苑(2004)
日本語の語用
一話者が直接関与する事柄の表現について 一
徳 永 美 暁
1. はじめに
日本語の語用規則として最も基本となるのは, 話者自身について語る時「私」を明示しないという
ことである。「頭が痛い」と言えば, 話者の頭痛を指し,「疲 れた」と言えば話者自身の体調について
述べているという事は, 日本語話者であれば暗黙の了解事項として理解する。 つまり, 日本語表現に
おいて話者は明示されなくても, すでにそこに存在があるということである。 このことは, 言い換え
れば,「私」が関与する事柄の表現に「私」を明示すると, 下記の例(1)のような問題が起こると
いうことになる。 英語母語話者で日本語の学習者に, 下記の例文(1 a)の英文を日本語に訳させる
と, ほとんど例外なく(b)のような日本語にしてしまう。(1 )
b のような日本語は, 英語の直訳と
しては問題がないものの, 日本語としては何か不自然だと感じる。 従って, 教師は(1 C)のように
赤ペンで補助動詞「くれる」を補い返却するが, なぜ(1 a)の「私」が非主語の位置にきた文は語
用的に不自然で,(1 b)の「くれる」を補った文は自然だと感じるのかについての明確な理由は明
らかになっていないと思われる。(?:語用の不適格文を示し,その数が不適格性の度合を示す。)
(1) d.トムは洋子さんにTシャツを売りました。
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