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一番ケ瀬康子/上田敏/北川隆吉/仲村優一監修

老ん障害者の心理
村井潤ー/藤田綾子編


一番ケ瀬康子/上田敏/北川隆吉/仲村優一監修

老人・障害者の心理
村井潤一/藤田綾子編

ミネルワ、ァ書房
セミナー介護福祉刊行のことば
一一熱い胸,冷だい頭,定くましい腕のだめに一一

私たちは, どんなときでも人間らしく生活をまっとうし,さらに,それぞ
れその人らしく人生をまっとうしたいと願っている。とくに何らかの原因か
ら障害を担ったり,また誰で、もが高齢時になったときなど,その想いには切
なるものがある。それだけにそのとき,いかなるときでも, どのような人で

, どんな援助を受けるかということは,すべての人の人生にとってきわめ
て大きな問題であり,また課題で、ある。ことにその場合,その援助を担う人

, 自らの在り方をふくめて,相手への想いと認識,さらに技術をどのよう
に身につけるか,し、 L、かえれば熱し、胸と冷たし、頭と,たくましい腕をもつか
は,援助の質ひいては援助を受ける人々の生活の質を決める鍵点である。
本セミナーは,以上のことを考え,真の援助の在り方を習得するために,
そしてそれぞれの人権とりわけ生活権を守りあう援助者になるために,その
エッセンスと必要な知識をのべたものである。つまり介護が,人権保障のた
めの援助にふさわしい中身あるものになってし、くための,シリーズであると
もいえよう。もちろん,本セミナーの内容は,介護福祉士養成さらに介護福
祉士の試験にあわせて必要なことは網羅している。だが,さらに資格にのみ
こだわらず,それ以上に,真の専門家としての在り方を,つねに考え学習を
深めるよう,編集,執筆に工夫をしたつもりである。
読者の方には,以上の点を充分くみとっていただき,今後遠慮なくご意見
をお寄せいただきたし、。そしてこのセミナーが,読者もふくめた多くの人々
の手により,よりいっそう充実したものになるよう,ご協力をお願いしたし、。
私たちは,それらを存分に受けとめて, 日本の今後ますます早まるであろう
高齢化社会,さらにいろいろな問題から生じるであろう各種の障害に対して,
その援助の在り方を探究しつづけたいと考えている。
2
1世紀に向かつて,私たちは,すこしでも意味のあるそして心のこもった
シリーズにしたいと願っている次第である。

監修者一同
装慎石川九楊
目 次

O セミナ一介護福祉刊行のことば

⑨第 l部 老 人 心 理⑨

第 f章 老 年l
山理学の纂礎 I

T 老年1
[1¥理研究の歴史 I

回 老年心理研究の前科学的時代(古代から 1
9世紀半ばまで) 2

回 科学的な老年心理研究の誕生の時代(19
世紀半ばから 1
940
年代半ばま
で) 3
図 老年心理研究の広がりの時期(19
40年代半ばから 1
960年代まで) 5
回 ェイ ジング研究と生涯発達心理学研究の展開の時期(19
70年代以降〉
7
2 老年Jl1¥理学の理論 8

田 満足いく老化 (サクセスフル・エイジング〉の理論 8
図 エイ ジンク。への介入理論 10

国 高齢者教育のマージン理論と高齢者特有の教育的 ニー ズ 11

3 老年山理学の研究万法 1
4

第 2章 老 年 期 のl
山理的特徴 1
6

1 生理的老化とJl1¥理的変化 1
6

回 生理的老化と行動の変化 1
7
回 生理的老化と 意識の変化 1
8
2 感性と知覚 1
9

回感性の加齢差 1
9
回知覚の加齢差 21

3 知能 22

I
II
回図図
従来の結果 横断法と縦断法 2
2
今後の方向一一系列法と課題 2
4
身体の健康と知能 2
5

4 学習と記憶 26
田図団団

学習の加齢差の要因 26

記憶想起の様式 27
記憶の段階と処理の水準 28

エピソード記憶と意味記憶 29

5 問題解決と創造性 29

回 問題解決の様式 29

図 創造性と知恵 30

第 2章 老年期のパーソナリティと適応 39

1 老年期のパーソナリティ (

/格〉 39

国 パ ー ソナリティの変化と安定性 39
固加齢とパーソナリティ 4
0

回 老年期のパ ーソナリティ特性 42
回老年期の自己概念 42
国 老年期のパーソナリティ測定 4
4
2 老年期の適応 46

田 適応とは何か 46
回固囚

適応機制 46
老年期の喪失と適応 48

老年期の発達課題と適応 50
固固

ξ
ーソナリティと適応 50
より良い適応を求めて 52

l
V
第 4章 老年期の異常j山理 54

1 器質性精神障害と痴呆 5
4

回 「痴呆」とは何か 5
5
回 健康な老人のもの忘れと痴呆性老人のもの忘れの比較 5
5
回 痴 呆 性 老 人 の 出 現率 55
回 痴呆の程度の評価スケール 56
回 痴呆性老人にみられる 一般特性と対応 6
1

固痴呆の原因 6
2
2 機能性精神障害 任7

田老年期うつ病 6
7
国老人性幻覚妄想症 68

図老年期神経症 6
9
3 老人の自殺 71
田 自殺の頻度 71
図 自殺の動機 71
回回国国回

自殺の手段と遺書 72
老人の自殺とうつ病と痴呆の初期 73
老人の自殺者の心理的特徴 73
老人の自殺行動の心理 74
老人の自殺兆候と防止 75

第 5章 老人への対応 77

社会的対応 77

回施設入所老人 77
図在宅老人 8
1

2 個別的対応 8
3

3 老人の悩みとカウンセリング 87

V
4 老人のリハビリテーションと山理 8
8

5 老人のレクリ工ーションと生きがい 9I

第 6章 事例研究 95

1 施設入所による適応事例 95

2 3世代同居による人間関係の葛藤事例 IOO

3 「死にだい」と常時訴える事例 I03

4 痴呆性老人とその介護事例 Io6

5 ひとり暮らしの事例 IIO

田 ケース l IIO

回 ケース 2 III

⑨第 H部 障害者,心理⑨

第 7章 障害者の療育を考えるだめに II4

1 障害児・者とはどのような人を指すか I
I4

2 障害者をとらえる三つの視点 II6

第 f章 障害者のl
山理と行動 I
I9

障害者 1
1
1
¥理と行動を支えるもの(生物学・医学的接近〉 I
I9
回図固回国固

障害 とは I
I9
障害 の種類 I20

精神遅滞 (
知的障害
〉 I2I

肢体不自由 I27

てんかん I28

視覚障害 I28

Vl
回聴覚障害および言語障害 1
29
囲内部障害 1
30

固精神障害 1
30

2 障 害 児 ・ 者 の 発 達一一人間発達の各期における充実とは 31
1

回 障害児 ・者問題を考えるうえでの発達心理学的課題 31
1
図取りもどし論 1
33
団 発達の各段階における充実した生活とは.障害児・者の生きる場を広げ
る 1
34
回 障害児の教育,療育の目的 137
回青年期以降の問題 1
37
固 まとめにかえて 38
1

山理
第 タ 章 障 害 者 のl 40
1

1 障 害 児 の 乳 鈎 児 期 に お ける 発 達 と 早 期 療 青 1
40

回はじめに 1
40
図 乳幼児期の発達と発達援助を考えるうえでの基本的視点 41
1

固親の養育態度 51
1
囚おわりに 1
54
2 障 害 児 と 学 校一一障害児の学童期の発達と教育を考えるうえでの基本的問題
1
55

回はじめに 1
55
図 障害児教育の目 的と 教育課程 一一障害児教育に しかな い教育形態を生かす
58
1
図 学童期の集団における諸問題とその発達的意義 1
61
回 学童期における発達と学習の問題を考えるうえでの基本的視点
16
4
国おわりに 16
7
3 思春期(障害者と性) 1
68

Vl
l
回 思 春 期 について 1
68

国 思春期における身体面の変化 1
68
回 思春期における精神面の変化 1
68
回 障害者に とっての思春期 16
9
国 思春期と性の問題 0
17
国 障害者と性の問題 0
17

回障害者と性,その現状 I
J1
国 障害者と性,今後の課題 I
J1
4 自立とは 1
72

第 10章 障 害 者l
山理の実際(事例) 1
81

1 視覚障害者の山理(障害克服の事例から〉 1
81

回はじめに 1
81
図 視覚障害者の体験実例 1
82
回おわりに 186

2 肢体障害者として生きる 1
87
回はじめに 1
87
回 事 例 と し て の 「 私J 1
87
回肢体障害者の心理 91
1
回 成人肢体障害者の生活にふれて 91
1
国 結びにかえて一一私たちとの共同作業を 1
92
3 聴覚障害者の暮らし 1
92

回 「黙秘権」をめぐって 1
92
回 聴覚障害者問題解決への視点 1
95
4 言語障害者の問題 1
97

回はじめに 1
97
図 ウェンデル・ジョンソンの言語関係図 1
97
固おわりに 1
99

VI
1
I
5 自閉症者ガ働く 200

田 はじめに 200

回対象者から出発する 201

回 自閉症者が働く 3
20

6 知的障害者の一生 206

回事例1 Y子 さ ん 206

図 事 例 2 K君とその両親 9
20

索 ヲ│

l
X
⑨第│部 老 人l
山理⑨

第 f章 老 年 心 理 学 の 基 礎

1 老年J山理研究の歴史
老年期や老人の心理,あるいは人生後半部の人間の変化に対する人びとの
関心は,紀元前の時代から存在していた。どうすれば死や病が克服できるの
か,長寿法の秘訣は何なのか,等々。しかし, これらの関心は,長い間呪術
や占星術などのいわゆる非科学的な部分と結びついており,老年期や老人の
心理が客観的・科学的に追究されるようになるまでにはかなりの時聞がかか
った。
老年期に関する科学的な研究が体系的に進展 し始めたのは 2
0世紀の 半ば以
降のことであり,さらにその心理学的研究の体系化となると, 1
960
年代以降
になるのではないかと 言 える。老年心理学 (
あ るいは老人心理学〉の研究の歴
史は, このよ うにまだ日の浅いものであるが,老年や老人心理への関心その
ものは,はるか昔から受け継がれてきたと 言える。本節では,以下のような
時期区分のもとに,老年心理学研究の歴史的な展開を簡単に見ていくことに
する。
① 老年心理研究の前科学的時代(古代から 1
9世紀半ばまで〉
② 科学的な老年心理研究の誕生の時代(19
世紀半ばから 1
940
年代半ばまで〉
③ 老年心理研究の広がりの時期(19
40年代半ばから 1
960
年代まで〉
④ エイ ジング研究と 生涯発達心理学研究の展開の時期(19
70年代以降〉
第 I部 老人心理
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1

E・ 老年心理研究の前科学的時代(古代から 1
9世紀半ばまで)

老年期や老人の心理に対する人びとの関心の歴史は,はるか昔の古代エジ
プ トや古代中国の時代にまでさかのぼることができる。ブロムレイ (Broml
ey,
D
.B) によると,古代エジ プ トでは,老年期は,肉体的退化の伴う望ましく
.
ない時期として特徴づけられていたが,その 一方で,老年者のもつ経験や地
位,あるいは長命そのものは望ましいものとして考えられていた。特に家庭
内では親や祖父母を尊敬することが奨励され,潔白な生活をして知恵を有し
ていた老人は,他人から尊敬と名誉 が与えられていた。しかし,肉体的な「老

ヒ」現象に対しては,これを遅らせたり,あるいは若さを取り戻す治療法が
求められて いたよ うである。そしてこれらの方法は,多くの場合,呪術や宗
教,薬物などと結びついていた。
古代ギリシア時代になると,人生後半の人間の変化に対して推論や観察の
アプローチがとられるようになる。しかし,老年期それ自体に対 して は,や
や悲観的な見方が強くなっていったようである。例えば,アリストテレスは,
人聞は,最初は一定の潜在的熱量をもって人生を開始するが, しだいにこれ
らが消費され,ついには消滅してしまう, という説を出している。また,哲
学者かつ医者で、あったヒポクリトスは,人間の体液が, 血液,黒胆汗,黄胆
汗,粘液の四つから構成されていると指摘し,これらの不均衡が老化や疾病
の原因であるという説を出している 〈これらは, 1
]慎に,快活さ,憂うつ,かんし
ゃくもち,冷淡さの気質に対応するとみなされている〕。このような説は今日のわ
れわれの眼には奇妙なものに映るかもしれないが,それまで呪術師や僧侶が
行っていた病気の治療や長寿法の領域に医学者や哲学者が入ってきたという
点は,老年期や老化により科学的に接するとし、う意味では一歩前進したと言
えよう。
ローマ時代になると,キケロが 『
老境について 』 という著書の中で,やや
肯定的な老年観を示すようになる。キケロは加齢の社会的・行動的側面に注
目し,老年期の知的活動や訓練の可能性を探求した。そして「年齢」よりも
「人生」が大事だと指摘しているが,この考え方は,今日の老年学に影響を
与えていると言える。
さて,西ローマ帝国の衰退とともに中世を迎えると,医学がキリス ト教か
ら異端視されたこともあって,老年や老化に関する研究は,今度は長い停滞

2
第 1章 老 年 心 理 学 の 基 礎
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川l

の時代を迎えることになる。しかしこのような中でも,何人かの医学者たち
は,老年や加齢に関する研究を行っている。
そして, 15世紀から 1
6世紀のいわゆるノレネッサンス期になると,老年や加
齢に関するより科学的な記述が現れてくる。例えば,イタリアのゼルビ、 C i,
Zerb
.)は
G , 1
5世紀後半に 『
老年者の衛生』とし、う本を出したが, この中では老年
病や老化の原因と予防,人間の寿命と占星術の関係,健康と栄養などについ
て触れられている。またイギリスの哲学者ベーコン C
Bacon,F
.) は
, 1
7世紀
半ばに『生と死の歴史』 を出版し,老化の問題を人間の行動,遺伝,食事と
の関連から分析した。このように 15
世紀から 1
7世紀にかけての時代は,近代
的・科学的な思考法が解放されてくる時代であったが,他方でこの時代の医
学の実践や考え方は, まだ錬金術や魔法などの伝統と結びついていた。

I
EI 科学的な老年心理研究の誕生の時代(19世紀半ばから 1940年代半ばまで)
アメリカの老年心理学者ビレン C
Bir
ren,J
.E.)によると,老年心理学 の科
学的・客観的な研究の先駆者は,ベルギーの人口学者かつ統計学者ケ トレー
C
Que
tel
et,
L.A
.) である。ケトレ ーは,その主著 『
人間とその能力の発達に
ついて.!l 0835年〉において,平均的な人間のさまざまな特性 (
身長,体重,死
亡率,知能,情緒など〉の年齢的変化 の記述を行った。彼の業績で注目すべき
点は,さまざまな年齢層 の人のさ まざまな特性の平均値をとり,平均人によ
る発達の一般的法則 を求めようとしたところにある。
次いでイギリスの統計学者ゴールトン C
Gal
ton,F
.) も,ケトレーと同様
, 9,
に 337人のサンフ。
ル C5-80歳)をもとに,人間の 1
7種類の生理的能力(反
応時間,視覚など〉の測定を行い,人間のさまざまな特性が年齢によって変化
することを示した C~ 人間の能力とその発達への探求 ~ 1
883年)。ケ トレー もゴ ー
ル トンも,老年期までの人間の諸能力の変化の問題を発達的・統計的視点か
らとらえているという点では共通している 。
2
0世紀に入ると,老化の生物的側面や長寿法に関する研究が現れてくる。
例えば, ロシア出身の生物学者メチニコフ CMechn
iko
ff,
E.)は,腸内の老廃
物が発する 毒素によ って老化が起こると 考 え,またヨーグノレトを多飲する民
族が長生きしているということから, ヨーグルトを多く飲むことによって老
化が抑えられると主張した。 一方,アメリカの疫学者パール C l,R
Pear .)は

長生きした両親や祖父母の子どもが平均的により長生きすることに注目し,

3
第 I部 老 人 心 理
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長寿の遺伝的要因を探ろうとした。
以上の二つの研究の流れは,それぞれ人間の能力の年齢的変化と 長寿法を
求めた研究で、あったと言える。これに対して老年期そのものを正面から取り
扱った研究成果として,アメリカの心理学者ホール (
Hal
l,G
.S.)の 『
老年期』
19
( 2
2年〉をあげることができる。この本は老年心理に関する最初の体系的な
文献である。 7
0代半ばに達したホールは, この著書の中で自分自身の老年感
と老年者への質問紙調査とを交じえて,老年期が単に退化の時期ではなく,
人生の独自の発達上の段階であることを主張している。 しかし, こうした老
年研究のすぐれた成果もあったものの, 2
0世紀初頭の発達心理学の関心のほ
とんどは, まだ児童と青年に向けられていた。
さて, 1
930
年代に入ると,それ以後の老年学の発展の基礎となるいくつか
の研究が登場してくる。とりわけ医学の領域で,人生後半部の加齢と身体的
器官の変化や病気との関係を扱った研-究が注目されてくる。カウドリー
(
Cowdry,E
.V.
)の 『 19
老化の諸問題 J ( 3
9年〉は,人間の生理的機能の老化
の問題を取り扱った代表的著作である。ただこの時代の老年研究は, まだ生
物学と医学が主であったと言わさ'
るをえない。
しかし, 1
940
年代に入ると ,戦争による研究活動の停滞はあったものの,
しだいに老年や健康の問題に関する会議が聞かれたり ,これらを専門に扱う
研究機関が結成されたりしてくる。こうした流れの中で,老年研究の領域は,
老年期の心理や精神の健康の問題へと拡張されてし、く。そして老年学 (
ger
on-
t
olo
gy)の体系がしだいにまとまりを見せるようになってくる。
ところでこれらの流れはアメリカにおける動向であるが, 1
930年代にはヨ
ーロッパでも 今日の老年心理研究につながる 重要な潮流が芽生えていた。そ
れは,ユング(Jung,
C.G
.)の成人発達論とビューラー (
Buh
ler,
c.)のライフ・
サイクル論で、ある。ユングの老年心理学への貢献は,人生後半部の人間の心
の変化のプロセスを, 衰退としてではなく成長・発達としてとらえたという
点にあろう。人生前半の人間の発達が労働と愛による社会的位置の定位のた
めのものであるとするならば,人生後半の発達は,それまで抑圧して きた内
なる自然や自分自身の本当の姿の発見 (=個性化〉にあるということである。
人生後半の人間の内面世界の充実化を通してより自分らしくなっていくこと
が,成人の発達ととら えられたのである。
一方
, ウィーンのビューラーはライフ・サイクル (
人生周期〉の考え方を最

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第 1章 老 年心理学の基礎
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初に提唱した人だと 言われている。彼女は,多くの伝記や自伝をもとに人間
の一生を次の五つの段階に分け,それぞれの時期の特徴と課題を明らかにし
ようとした。①前進的成長の時期 (0-15歳入②探索と自己定義の拡張の時
期(15-25歳入③全盛期・安定期 (
25-45
歳入④人生の仕上げと諸機能の低
下の時期 (45-65
歳入⑤引退と回顧の時期 (
65歳-)。ビュ ー ラーの考え方の
特徴は,成長 停滞一衰退」としづ生物的段階に生殖能力の有無と自己決定
力の視点とを重ね合わせたところにあると言える。
これらユン グやビューラーの考え方は,その当時はアメ リカの老年心理学
には直接的影響は与えなかったが,数十年後にしだいに影響力が出るように
なっていく。

EI 老年心理研究の広がりの時期(1940年代半ばから 1960年代まで)
1
944年にアメリカ老年学会が設立されると, しだいに老年学とし、う学聞が
体系化され始めてくる。 1
945
年にはアメリカ心理学会の中で「成熟期と老年
, 1
期」を扱う分科会が登場 し 946
年にはアメリカ老年学会の機関誌『ジャー
ナル・オブ・ ジエ ロントロジ ー』が刊行 される。この創刊号の表紙には '
To
AddLi
fet
oYe
ar tJ
s,No u
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ear
stoL
ife(年齢に生命・人生を加えるので
あって,生命・人生に年齢を加えるので、はない )Jと書かれてある。これは,老年
学は寿命延長だけでなく高齢期の生活の質にも目を向けていくべきだと言っ
た至言である。
さてこの時期の老年心理研究において特に注目したいのは,エイジング
(
agi
ng)Jと
し 、う概念が積極的に使われるようになったという点である。とい
うのは,それまで人生後半のプロセスを形容する語としては「老イヒ」や「老
衰 J(
sen
esc
enc
e,s
eni
li
ty)などのやや否定的な含意のある語が用いられていた
からである 。しか し「エイ ジング」とい う,より中性的な語を使うことによ
って,人生後半のプロセスと課題を,偏見を捨ててあるがままに見ていこう
とする 気運が高まったと言える。そしてそれゆえ「エイジングの発見ととも
に老年学が始まった」とさえ言われるのである。
なお
, このエイ ジングという語は研究領域によってさまざまな意味あいが
あるが, ここでは「病気や外的事象の生体に及ぼす影響 とは区別された人生
後半の変化の 特徴的パターン J (ビレン〉とし、う定義を紹介しておく。大切な
点は,生体の形態と機能が比較的安定した状態から始まる生体の変化を科学

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的にとらえていこうとする 姿勢である。
1
950年代に入るとベルギーのリエージェで第 1回の国際老年学会が開催さ
れ,以降 2-3年おきにこの学会が開催されるようになる。研究発表の中味
も,当初は生物学,医学が中心であったが, しだいに心理学ひいては社会科
学の方面の発表が多くなってくる。老年心理学に関連したこの時期の成果と
しては, ウェクスラー CWechsl
er,
D.)やレーマン C
Lehman,H.c.)の成人の
知能や創造性の精搬な研究,エイジング問題のハンドブックの登場,職業的
発達論の登場などがあげられる。
こうしたさまざまな研究の進展の中で特に注目したいのが,ハヴィガ ース
Havighurst,R
トC .J.)やエリクソン CErikson,E
.H.)が提起した「発達課題
C
developmen
talt
as J論で、ある。発達課題とは,個人の人生のある時期に生
k)
じる課題で,その課題の達成がその人のその後の人生を豊かにすると考えら
れている。個人的要求と社会的要請とを結びつける概念であるとも言える。
ハヴィガーストは,老年期 (
60歳以上の者〉の課題として, 1
-1のような項目群
をあげている。ただハヴィガ ーストの発達課題論の中には,当時のアメリカ
の中産階級の価値が羅列化されている部分があり, この点を少し考慮して見
ていく必要があろう。
一方エ リクソンは,人間の自我が人生のさまざまな時期に生起する 心理
社会的課題を乗り越えることで一生にわたって成長し続けると見た。彼が指
摘した発達課題は,ハヴィガーストに比べるとより一般的かつ心理学的なも
のである。エリクソンは,その発達段階論において老年期を円熟期ととらえ,
そこでの課題を「自我の統合対絶望」としづ形で示した。ここで言う統合感
は,自分の一回限りの人生をそうあらねばならなかったものとして受け入れ

1
-1 ハヴィガーストの見る老年期の発達課題
-ハヴィガーストガ示しだ 6
0 l 肉体的な力と健康の衰退に適応すること
代以上の者の発達課題群。
2 隠退と収入の減少に適応すること
1
95
0年前後の戸メリ力中産 3 配偶者の死に適応すること
階級の価値観を反映した面も
4 自分の年ごろの人々と明るい親密な関係を結ぶこと
あって限界はあるガ,今日で
5 社会的・市民的義務を引き受けること
も当てはまる部分ガ多いと言
6 肉体的な生活を満足に送れるように準備すること
える。
出所 ハヴィガースト, R
. ].,荘司雅子訳 『
人間の発達課題と教育』
玉川大学出版部, 1
995年

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第 l章 老 年 心 理 学 の 基 礎
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ることを指す。これが達成されると「知恵」としづ徳が得られ,失敗すると
死の恐怖と絶望感が訪れる。
さて, 1
960
年代以降になると,より多様な視点から老年心理研究が進めら
れてし、く。ここではそのうちの こつの流れについて簡単に触れておきたい。
その第 1は,中高年期のパーソナリティ研究の進展である。特に「満足いく
老化(サクセスフル・エイジン グ)J をめぐって,次節で触れる離脱理論と活動
理論の間の議論が深まってし、く。第 2は,社会科 学,特に社会学において老
年研究が注目されだしたという点である。高齢者の社会的地位・役割の 問題

老人下位文化 の問題,年齢差別や年齢規範の問題などを取り扱った研究が登
場 し,老年心理研究も,その社会的文脈と結びつけて考えられる よ うになっ
ていった。

11 エイジング研究と生涯発達心理学研究の展開の時期(1970年代以降)
1
960年 代 まで?こ断片的に現れた老年心理研究やエイジング研究は, 1
970年
代以降,アメリカを中心に,質量 ともに飛躍的に増加してくる。また 1
970

代以降には,老年心理やエイジングの問題を扱った雑誌や会議,研究機関の
数も増えてくる。 こ うした動向の背景には,アメリカで人口の高齢化とそれ
に伴う社会問題が深刻化して きたこと,平均寿命の延長された時期をどう生
きるかが問われだ したこと, 年齢差別への抗議運動が高まった ことなどが あ
げられる。わが国でもアメリカより少し遅れてこうした問題が社会問題化し,
1
980年代以降それまで以上の勢いで老年心理研究が深められている。
さて , 1
970
年 代以降急増 した老年心理研究やエイジング研究の文献の 中に
は,それまでの流れとは少 し異なった新しい研究の流れも内に含まれていた。
以下, この うちの三つの流れに触れておこう。
新しい研究の流れの第 1は,生涯発達心理学の研究の深まりである。また
生涯発達心理学研究の中核を占める「成人の発達」の研究も注目すべきいく
つかの成果を出 してい る。成人期はそれまでともすれば停滞の 時期と 考えら
れがちであったが, レヴィンソン CLevi
nson,.]
D ,
)
. グーノレド CGoul
d,R
.),
ヴァイラント CVaillant,G
.) らの成人発達研究は,成人期がさまざまな心理
的危機が一定の順序でもって生起してくる時期であることを示した。こうし
た成人発達の研究を内に含みつつ,生涯にわたる人間の発達の研究が模索さ
れだしたのである。この立場においては,老年期は, 個人の 完成期と して位

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置づけられることになろう。
第 2の新しい動向は,生涯発達の介入Cin
ter
ven
tion)研究の流れである。
この「介入 J rインターヴェンション 」 とは耳なれない言葉かも しれないが,
「ある問題に対して,積極的な結果が得られるように意図的に働きかけの仕
方を変容させること」を意味する。特に高齢期にはエイジングの影響力がよ
り顕在化してくるが,この生体へのマイナスの影響力を介入作用によって和
らげて ,高齢期に生じる困難さに対処できる力を培うことが重要になろう。
介入の問題については次節で改めて触れるが,人間の生涯発達とェイジング
の変容可能性をねらった研究だと言える。
第 3の動向は,具体的な実践活動と結び、ついた老年心理研究の増加である。
特に教育,看護,労働,医療等の領域では,人口の高齢化に伴う問題に対処
することが今日的課題となり,その基礎的研究を老年心理学の成果に求めだ
したので、ある。またこれらの実践をより効果的に展開できるような老年心理
研究も進め られてきている。こう してもともと哲学的,医学的色彩の濃かっ
た老年心理研究は, 実験研究や調査研究の進展の中で, しだいに社会的,実
践的な色彩が濃くなっていったと言える。

2 老年山理学の理論

これまでのところで,古代から今日に至るまでの老年心理研究のとらえ方
の歴史を大ざっぱに見てきたが,すで、に触れたようにこの研究領域はきわめ
て新 しい領域である。そのため児童心理学や青年心理学の領域に比べると,
まだそれほど体系的な理論が出されているとは言えない。しか しそうした状
況の中でも,わずかではあるが,老年心理の理論化への試みも出されてきて
いる。本書では続く第 2章で知的能力,第 3章でパーソナリティの問題を扱
うことになっているので,ここでは老年心理学の理論のうちでもやや社会的
文脈と結びついたものを取り上げることにする。扱う理論は,①「満足いく
老化」 の理論,②エイジングへの介入理論,③高齢者教育のマ ージン理論の
三つである。

D 満足し、く老化(サクセスフル・エイジング)の理論

人が上手に年をとり高齢期を満足いく形で過ごすとは, どのようなことで

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第 1章 老 年 心 理 学 の 基 礎
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あろうか。この問題に対する解答として, 1
961年 に カ ミ ン グ と へ ン リ ー
CCumming,E
.& Hen
ry,W.
E.)は I離脱理論 Cdisengagementt
heo
ry)
-.l

出した。ここで言う離脱とは,個人と他者(または社会〉との関係が相互的に
離れていくことを指す。カミングらは,満足し、く老化 は,個人と社会とが相
互に離脱し合うことによって生じるととらえた。この考え方の背景には,高
齢者には俗世間から離れたし、とし、う欲求があり,またそうすることが自然で
あるとしづ老年観があると言える。高齢者が社会の重要な地位を長い間独占
してしまうとそれに伴う弊害が生じる ことがある。こうした問題の緩和のた
めにも「離脱」が好ましいと指摘されているようでもある。
さてこの離脱理論は,発表されるやいなや周囲からかなりの批判 を浴びせ
られた。というのもこの考え方を一歩誤って解釈すると,高齢者の社会的活
動の機会を奪いかねないからである。またそれまで老年心理学の領域で体系
的な理論がほとんどなかったことも批判や議論の盛り上がりと関係があろう。
離脱理論と対置されたのが「活動理論 C
act
ivi
tyt
heo
ry)-.lである。この理論
の骨子は,満足し、く老化 は,高齢期になっても社会的活動を続けていくこと
によってもたらされるというものである。多くの人にとってその中年期の主
要関心事は職場生活と子育てであろう。高齢者にこれらがなくなっても,そ
れに代わる社会的活動を行うことが望ましいと考えられる。活動理論を具体
的に述べるとこのようになろう。
ところで現実のわれわれの生活に目を向けてみると,高齢期に離脱をして
幸福に過ごしている高齢者もおれば,社会的活動をし続けることで幸福に暮
らしている者もいる。この事実をうまく説明するためには,両理論を橋わた
しするものが必要である。ハヴィガーストらは, ここにノミ ー ソナリティの要
因を位置づ、けた。つまりあるパーソナ リティの者にとっては離脱は好ま しい
が,違ったノミ ー ソナリティの者にとっては活動し続けることが好ましいとい
うことである。
ただここで注意しておくべきこともある。まず,高齢期になると離脱する
方が性に合う人が増えてくるという点である。また活動理論の立場に立つに
しても,中年期に行っていたのとはあるていど異なった活動をしていくこと
が重要である。中年期から引きずってきた役割や活動をそのままの形で高齢
期にもちこむのはあまり望 ま し くないであろう。

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EI エイジングへの介入理論
すでに本章第 l節で触れたように, 1
970年代後半から,教育,訓練,薬理
療法,心理療法などによる高齢期のエイジング・プロセスへの介入(インター
ヴェンション〉研究が進められてきた。高齢期になると,生理的機能の低下,
社会的関係の減少など,エイジングの生体へのマイナスの影響が進行してく
る。これらのマイナス要因を緩和させ,一方で,高齢期になっても活性化さ
れやすい能力を発揮させることが介入作用のねらいであると言える。
われわれは, ともすればエイジングや発達のプロセスを不変で自然な流れ
として受け止める。しかし,教育・訓練や共同作業などの働きかけを通して,
このプロセスの方向を変え,個人により豊かな生活を保障することも可能な
のではなかろうか。こう見ていくなら,介入研究を,外からの働きかけによ
る生涯発達の保障の研究と言うこともできょう。
では, この介入研究の目標としてどのようなものが考えられるのであろう
か。ここでは次の三つ の目標をあげておく。
(
1 緩和 (
)C aleviion) と補償 (
at J 最も 一般的な目標で,個
compensation)
人がそれまでの人生の中で奪われてきた部分を補充し,高齢期をより有
意義に過ごせるようにするこ とをねらいとする。例 えば, 十分に学校に
行けなくて日常生活に必要な読み書き 能力に困難を示す高齢者に対して,
生活に必要な基礎学力を保障することなどがこの例としてあげられる。
また,補助手段などを使って ,エイ ジングに伴う生理的機能の低下を和
らげることもこの目標の重要な方向である。例えば,大きな活字の印刷
物を用いて視力の低下に対する補助を行うことなど。
(
2 予防 (
)C pre
ven
tio
n)J 高齢期に予想される困難さに事前から対処能力を
身につけておくという目標である。例えば,人生の中年期に仕事に打ち
込みすぎ,退職後何をしていいのかわからなくなる人がし、るが,こうし
た状況に陥らないようにさせるために,より早い時期から予防のための
教育・訓練を行っていく必要がある。企業や公的機関などで提供されて
いる退職準備教育などはこの好例であろう。
(
3 充実化 C
)C enr
ichment)J 上記二つの目標がエイジングに伴う影響のマ
イナスの効果を和らげるものであったのに対し, この充実化は,高齢期
に活性化される力を引き出そうとする目標である。また,豊かな人間関

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第 l章 老 年 心 理 学 の 基 礎
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係を築き上げることもこの重要な要素である。高齢者学級における学習
などがこの例としてあげられるが, 大切な点は,学習のプ ロセスそのも
のから喜びが感じられるという点である。

EJ 高齢者教育のマージン理論と高齢 者特有の教育的ニーズ
アメ リカの老年学者かっ教育学者で、あるマクラスキー (
McCl
usky,H
.Y.)
は,高齢者の教育的ニーズ (要求)に関するユニークな理論を出した。彼の理
論は 「マージン (
限界,余裕〉理論」 と呼ばれる。
マクラスキ ーの言 うマージンとは, ロードCload,負担〉 とパワー (
power,
能力)との 差 を指す。ロードとは「自律性の最低限のレベルを維持するために
課される自己ないし社会の要請」を意味し, パワーは 「人がこのロードに対
処しうる資質,能力,所有物,地位など」を意味する。高齢期にはこのロー
ドとパワーのバランスがくずれやすくなり, しばしばマ ージンが減少する。
こう した状況の中で、高齢者は, ロードと パワ ーの 差(マ ージン〉をできるだけ
小 さくさせないように努力するのである。
このあたりの議論を図に示したのが 1
-2である 。この図は,マ ージン理論の
モデ、ルを rマージンを 小 さくする力 J (ロード増大,パ ワー減少:図中の点線の
矢印の部分)と「マージンを大きくする力 J (
ロ ード 減少,パワー増大 :図中の 実
線の矢 印の部分〉という形で図式化 したものである。この図から明らかなよう

, マー ジンを安定したものにするには(つまり安定した高齢期を過ごすために

), ロード を軽減させるかパワ ーを増大させるかしなければならないという
ことである。この図の右側 にはロードとパワーを増大もしくは減少させる 具
体例を示しておいた。ここで重要な点は, ロードに対してノ ξ ワーの余裕がど
の程度あるかという点である。そしてこの点を再調整することによ って ,高
齢者の発達が考えられてくる。
マクラスキーは,このようにしてマージ ンを安定化させ高齢者の発達や自
己実現が図られるものを,高齢者 (ある いはエイジング〉 の教育的ニーズとと
らえた。ここで言う ニーズは,欠けているものを埋め合わせるという 意味で
はなく ,成長や生存,健康のために必要なものとし、う意味をもっ。こうした
教育的 ニーズを保障 していくことが高齢者の生活を豊かにしていくことにつ
ながろう。では,この教育的ニーズにはどのようなものがあるのか。 マクラ
スキーは,次の五つをあげている。

II
第 I部 老 人心理
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-2 マージン理論のモデルとロード/パワーを僧減させる力

方向 具 体例
ノf ワー ,,
インフレ,課税 ,親族関
:
b ロード大 (
c)
係での新しい責任
,,
.

J t7
より快適な土地への転居,
ロード小 (d)
生活水準の低下


^、
r 再就職,権威ある地位の
パワー 大 (

a)
E
1E
t1
lU畠
隻得
j
,, 退職,社会的地位の低下,
ロード ノfワー小(
b)
収入の減少,体力 の笈え

。 マージンを大きくする力〈:二]マージンを小さくする 力

注 左右の aから dの符号はともに対応している。


出所 McCJl
1sky,H.
Y.“
, Edl1cation,
"1971WhiteHOl1s
eCo
nfe
ren
ceonAging,U
.S.GovernmentP
rin
t.
i
ngO
ffi
ce,1
971
・マクラスキーのマージン理論を図式化し芝ものである。安定し芝高齢期を過ごすだめには,マージ
ンを安定化させる必要ガあり,そしてそのためには,ロードを小さくしパワ を大きくすることガ
重要になる。

(
1)[対処的 (
copi
ng) ニーズ〕 これは,高齢者が社会の中で生きていくた
めに必要とされる基礎的技能を指す。この欠如が高齢者の生活基盤を脅
か し か ね な い こ と か ら , こ の ニ ー ズ を 生 存 の た め の ニーズと言うことも
ある。
このニーズは,その重要度に応じて階層をな して い る と み な さ れ て い
る。マクラスキ ーは , そ の 最 基 底 部 に 基 礎 教 育 ( 日 常 生 活 に 不 可 欠 な 読

, 書き ,計算の能力への教育)を置き,次いで健康の た めの教育,経済的
自 立 の た め の 教 育 を 置 い た 。 そ し て こ れ ら の 次 に , 合 法 的判 断 の た め の
教育・家族関係の変化への適応のための教育・住居や居住環境の選択の
ための教育が続き,最後に緊急性という面では弱し、が,余暇時間の活用
のための教育が続く。以上を図示すると, 1
-3のようになろう。
(
2)[表現的 (
exp
res
sive)ニーズ〕 これは,活動それ自体の中に見いだされ
る喜ひ、へのニーズである。われわれの自然な身体的能力の健康的な表現
は,幸福感につながるものと考えられる。また高齢者の内面には,表現
されなか った り抑圧されたりしている要求や才能が埋もれている場合が
多いが,高齢期はこれらの解放の時でもあるのである。

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第 l章 老 年 心 理 学 の 基 礎
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(
3) [貢献的 C
con
tri
but
ive
)ニ ーズ
〕 1
-3 高齢者の対処的ニーズの構造
これは, 他者や社会のために役に
立つ活動に参加し,まわりに何ら
家族関係の変化への適応のための教育
かの形で貢献をしたいというニー
│住 居 居住環境選択のための教育
ズである。このニーズは,役に立
ちたいと L、う欲求とまわりから認
められたいとし、う欲求との複合物
であるとも言える。このニーズを
設定する背景には,高齢者には自
分の有する知識や経験を特に次世
代に伝えたいとし、う欲求がある,
という仮説があろう。
(
4) [影響的Cin
ftue
nce
) ニーズ〕 こ
れは,生活環境により大きな影響 出所 McClusky, H.Y.,“Educati
on for

を与えたいというニーズである。 ng,
Agi "Grabowski,S.M. & Mason,
w
.D.(eds.),EducationfortheAging,
このニーズの背景には,健康や収
SyracuseUni
v.,n
.d
入,回復力などにおけるパワーの 瞳マクラスキーの見る対処的二一ズの中昧を構
低下の現象がある。このニ ーズが 造化したものである。彼は,対処的ニ ズを

その重要度に応じて層をなしているととらえ
社会的に歪んだ形で現れると,高
ている。
齢者が社会的に重要な地位を独占
してしまうとしづ問題につながる。しかし社会変動の主体でありたいと
いうニーズが好ましい形で表現されると,高齢者のもつ経験や知恵が社
会的活動の場で提供されることになる。
(
5)[超越的 C
tra
nsc
end
enc
e)ニーズ〕 これは,身体的力の低下や余命の減
少と しづ 制約を乗り越えた い としづ欲求である。たとえ生理的機能が低
下し社会的役割が減少したとしても,なおかつ精神的に伸び続けたいと
いう欲求であるということもできょう。このニーズの具体的な表れと し
て,高齢者がしばしば宗教や歴史,古典などのより悠久 で普遍的なもの
を求めることをあげることができる。
以上,マクラスキーの見る五つの高齢者の教育的ニーズを示した。これら
のニ ーズの保障が,マクラスキーの言うマージンの安定化につながると考え
られる。

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3 老年山理学の研究方法

老年心理学はまだきわめて若い学問であり,それゆえ老年心理学に固有の
研究方法はまだあまり開発されていないと言える。もちろんそうは言うもの
の,ちまたには数多くの「老人心理」に関する 書物が 出回っているのは事実
である。しかし,これらの多くは,老人とのつきあい方の経験的な事例を集
めたものや著者みずから の老年感の告白を述べたものであったり,ある いは
従来の 心理学の研究方法をそのまま高齢者に当てはめたものであったりする。
高齢者や老年期の特徴を十分にふまえた「老年心理学 J r
老人心理学」は,ま
だあまり体系化されているとは言えないのである。
しかし,これらの形での老年心理への関心の高まりは,同時にこれからの
老年心理研究の方向を示しているとも言える。つまり,現実に出版されてい
る老人心理関係の書物が大きく 2種類に分類されるように,今後の老年心理
研究も, 1
-4に示 したような二つのアプローチが互いに影響を及ぼ しあいなが
ら進展していくのではないかと考えられる。
まず第 lのアプローチであるが, 1
-4では,これを「心理学から出発した老
年心理学」と命名しておいた。これは,従来の(主として統計的操作を含めた〉
心理学の研究方法によって,老人やエイジングの 心理学的研究を行おうとす
るものである。この方法の強みとしては,比較的客観的データが得られやす
いことと,他のデー タとの比較が行いやすし、という点をあげることができる。
しかし, 一方,高齢者特有の傾 向や具体的な生活と結びつ いた心理的課題を
見失わせる危険性もある。むしろ,従来の心理学の方法ではうまく説明でき
ない部分にこそ,老年心理学の存在意義が隠されているようにも思える。
もう一つのアプローチは r
老人問題から出発した老年心理学」と名づけた
ものである。これは,現実の高齢者がかかえる問題から出発して,高齢者の
心理を理解し,問題を解決させ ようとするものである 。こ のア プローチの強
みは,一人ひとりのお年寄りのなまの声と経験に裏づけられているという点
である。そのため,より臨床的・現実的な性絡をもっ。しかし,その 一方で,
心情的・感情的要素に流されやすいという落とし穴もある。また,データ等
の科学性・客観性をし、かにして保たせるかも大きな課題である。
両方のアプローチの仕方は,社会学における「説明的理解と了解的理解」

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第 1章 老 年心 理学 の 基 礎
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-4 老 年l山理学の研究方法の比較
心理学から出発した老年心理学 老人問題から出発 した老年心理学

-これまでの心理学の研究方法を老人やエ -現実の老人のかかえる問題から出発して,
特 徴 イジソグの問題にあてはめる。 老人の心理を理解し,問題を解決する方
向をさぐる。

-比較的客観的なデータが得られやすし、。 -老人の実際のなまの芦や経験に裏づけら
-他の年代のデータと比較がしやすい。 れている。
長 所
-数年後に同じ研究 を行いやすい。 -老人が現実にかかえる問題と結びついて
いる 。

-老人のかかえるより具体的・現実的な問 -心情的・感情的要素に流される危険性が
題を見失うことがある。 ある。
短 所 -若年層に適した心理学の方法を老人に当 -当面する課題に対処することに主限が置
てはめてしまう危険性がある。 かれ,より基礎的 ・長期的な課題を見失
いがちになる。

理解の仕方 -説明的。 -了解的。

-老年 ω
J理学の研究方法を r(従来の)I~\理学から出発した老年@理学」と「老人問題から出発しだ老年
@理学」とに分けて,それぞれの特徴や長所,短所などを示しだものである。現実には,両方の方法
ガ補いあいながら発展していくのが望ましいと言える。

の対比ともよく似ていると言える。すなわち,お年寄りの 心理的特性をどう
分析し説明するかとし、う問題とお年寄りの 心情をいかにくみとれるかという
問題との対比である 。どちらのアプロ ーチがすぐれているかということはい
ちがし、に言えないが,老年心理研 究において大切な点は,両者が互 いに歩み
寄り協力しあいながらより トー タノレな形で、老年期の理解を深めていくことで
あろう。

引用・参考文献
・D.B ブロム レ ー 『 高 齢化 の 科学 J ( 勝 沼 晴 雄 監 訳 〉 産 業 能 率 大 学 出版部, 1
976
年 0

・麻生誠 編 『 生 涯 発 達 と 生 涯 学 習 』 放 送 大 学 教 育 振 興 会 , 1
993年 0

・社会教育基礎理論研究会編『成人 性の発 達~ (叢書生涯学習V l)雄松堂, 1


I 989
年 0

・ 長 谷 川 和 夫 ・ 那須 宗 一 編 W
HANDBOOK老 年 学』 岩崎学術出版社, 1
975年 0

・ D . C キメノレ 『高齢化時代の心理学~ (
加 藤義 明 監 訳〉 ブ レ ー ン出版, 199
4年。

1
5
第 g章老年期の心理的特徴

個々に生を受けた生活体は,主体と環境の相互作用を重ね,発達と老化(加
齢)の過程を経て,やがて,それぞれの永い眠りにつく。特定の歴史の中で多
くの経験をしながらヒ 卜としての 寿命を全うする,生涯の最も高年齢の時期
を「老年期 J (高齢期) と呼ぶ。
本章では,その老年期の心理的特徴について述べるが,特に老年期の心理・
行動は,その生物・生理的基礎や文化・社会的背景と深くかかわっている。
本章でも,その点を留意して広い視野からの理解を進めたい。
また,児童・青年期の上昇的な発達に対 して, 老年期は下降的な表退のみ
であるとする悲観に陥らず,老年期も上昇のみであると L、う楽観にも走りす
ぎず,両面の視点を客観的・実証的にとらえていきたい。

1 生理的老化とJ~\理的変化

老年期の行動に大きな影響を及ぼす身体の加齢現象を考える場合,具体的
基準を定めるのは容易ではないが,健康を維持 している老年者にも生 じてい
る「生理的老化」と病的に変化した「病理的老化」とを混同してはならない。
たとえ生理的老化に伴って疾病や環境急変への適応力の低下が見られても,
若年成人とは異なる均衡の中で,多くの老年者はおおむね無事に生活 してい
るのである。ところで,長い間の厳 しい環境条件や生活習慣が病理的老化の
発生の有無に大きくかかわって いることも見いだ されてきている。
本節では,まず生理的老化と行動との関係について述べ,次に生理的老化
の体験などが老年者の意識へどう影響するかについて考えてみたい。

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第 2章 老 年 期 の心理的特徴
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11 生理的老化と行動の変化
ここでは,生理的老化を構造面と機能面から述べる。まず,行動の中松で
ある脳の構造的加齢変化 として,神経細胞の脱落,大脳皮質前頭葉などの萎
縮,老人斑やアルツハイマー原線維変化,黒質の変性などが挙げられる。こ
れらは,老年期における反応速度や学習・記憶の時間的文脈などに影響を与
えると考えられる。しかし,これらと,アルツハ イマー病での原線維変化の
量や部位 (皮質部病変〉との違いやパ ーキンソン病での黒質病変との異質性は
確認されている。このように「生理的老化」と「病理的老化」は異なるが,
前者から後者に移行しない保証はない。例えば,多量飲酒や喫煙習慣も痴呆
0
11
0由(
3
)
の契機になりうると指摘されている。
循環器,呼吸器,消化器の諸臓器においても細胞の萎縮・角化などが加齢
的に進む。これらにより,脳の活動維持はもとより,激しい身体運動も制限
され, 心不全や肺炎も起こりやすくなる。そして,十分な睡眠や休息を必要
とするが 寝たきり」もまた心身の健康を一層深刻にする場合が多し、。これ
r
らへの括抗 した思いが, 心気性や抑 うつ傾向など,老年期の感情に与える影
o
曲o

響は少なくない。しかし,まったく健康に留意せずに急激 な運動,多量飲酒,
o 副 19)~O)

喫煙などを続ける危険に比べる と,むしろ適応的と言えよう。
血液, 内分泌系も加齢により変化するが,性腺での萎縮や分泌減少は必ず
しも性的欲求・関心の低下を招くわけではなく,病気や失敗への不安,周囲
印刷 ω
の状況などが老年者の反応を複雑にしていることが多い。
骨組織量の構成成分比の加齢差はわずかであるが,老年期では萎縮と同時
に肥厚もしており,特に女性の骨の強度の低下は著しい。そして筋組織の老
化と相侯って運動に対して消極的にさせ,さらに筋萎縮を進めて老年者の社
会的活動を抑制する。この点からも,バランスのよい食事に加え,適度な軽


い運動や周囲との交流が勧められる。
皮膚組織の萎縮・角化,頭髪の加齢変化も進むが, しわや白髪や頭毛脱落
などは他の身体組織の老化と並行しておらず, これらの外観を老化 の目安と
するのは誤りである。
次に,身体の諸機能について, 3
0歳の若年成人の測定値を基準にして横断
比較した周知の古典的報告によると, 7
0歳代の老年者にお いては神経伝導速
度は 90%前後,基礎代謝率と細胞内水分量は 80%余になる。しかし 心係数と

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第 I部 老 人 心 理
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標準糸球体腎血櫨過率は 70%前後となり,肺活量と標準腎血柴流量は60%,
最大呼吸量は 50%を下回る。この結果からも諸臓器の機能低下は明らかで,
それは骨格筋活動にも影響を与えていると考えられる。ところで,神経伝導
速度は比較的高率で残されているように見えるが,生涯的な比較の報告によ
ω
ると,児童期が最大値で,その後,加齢に伴い低下している点は興味深い。
なお,感覚器の生理的老化については次節の「感性と知覚」 の中で述べる。

D 生理的老化と意識の変化

老年者は自分自身をどのように受けとめているのか。ここでは「老性自覚」
の意識調査結果をもとに考えてみたい。そして,遅かれ早かれ体験されてい
る生理的老化や他の体験が老年者の意識にどのようにかかわっているかを見
てみたい。
わが国の「としより J C
老性〉 自覚についての調査によると,調査対象の老
年者の多くが「自分は老人である」と意識し始めたのは7
0歳から 7
5歳の聞で
あると答えている。そして,その契機として身体の衰え・疲れなどの生理的
老化 とともに,定年退職,家族・友人との死別,孫の出生,周囲からの祖父
母称呼などによる社会的役割の変化をあげている。しかし,.まだ,としより
とは思わなし、」との回答数も少なくなかったと言う。
別の調査でも .
,老 L、」を感じた人の半数は「身体的老化 J C
衰え〉を契機 と
しており 3分の lが「精神的老化」の自覚から老いを感じ始めている。そ
して老いを意識することによって「生活態度が消極的で受け身になり,未来
への希望を抱かなくなった」との答えが多かったとしている。そして, ここ
でも対象老年者の 20%余の人びとが 7
5歳を過ぎても老いを感じていないと答
えているのである。
これらの調査から示唆されるのは,まず, 7
0歳から 7
5蔵を過ぎてもすべて
の人が自分を「としより」であると感じているわけではないということ。次
に,生理的老化による身体機能の低下や耐久力の衰えの自覚などから老いを
感じ始める人が多いこと。そして,生活年齢を基準にした定年退職などの旧
来の社会的慣習や周囲の人びとの「としより扱し、」 によって積極的な生活姿
勢が抑 えられ,社会的活動からの「離脱 J C
疎隔〉が促されるという ことであ


この社会活動からの離脱をカミングとへンリー CCumming,
E.
, &Henry,W.
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第 2章 老 年期の心理的特徴
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E
.)は勧めるべきものとした。それに対してハヴィガースト C
Havighurst,R
.)
らは社会的役割活動と生活満足感との高い相闘を示して批判している。また,
心的エネルギー は低下しても,中年期に確立されるパーソナ リティ は老年期
にも維持されるというニューガーテン C
Neu
gaten,B.
r L.) らの指摘は示唆的


である。
すべての人のための環境整備 (
バ リアフリー 〉はも とより,病気や災害に対
する専門的ケア・公的サービス・社会的支援のネットワークづくりは,わが
問自由
国では特に急がれねばならない。しかしその場合も, 一人ひとりの意思や「生
きがし、」を大切にすることが内発的な自主性を高めて,生理的老化の中で病
理的老化を抑え rよりよき生」を求めていく動機にもなると 言っ ても過言で
。 9
陥H出
J)制

はなかろう。

2 感 1主と知覚

生活体は生存・適応のために環境についての情報をたえず把握しようとす
る。必要としているものには近づき,危険なものからは遠ざからねばならな
いからであ る。そのための「五感」による情報収集の働きを「感覚」と呼ぶ。
老年期には,感覚刺激を受容する感覚器 (
眼,耳,鼻,舌,皮膚など〉にも
構造・機能の生理的老化が見られる。そして,感覚情報に対する感覚力 (
感性)
の低下が進み,情報収集量 は減少する。 一方,感覚刺激への好悪感情も加齢
に伴い変化すると 言われる。本節では,まず 「感性の加齢差」について 考 え
てみたし、。
感覚器で受容された感覚情報を,まと まっ た情報の「群」に構成する働き
を「知覚」と 言う。そこ で次に, 複雑 な情報の中の不要な情報 (
ノ イズ〉に影
響される知覚の例として錯視をとりあげて,老年期の情報構成の特徴を考え
てみたい。

E・ 感性の加齢差
協 視覚 生活体の外部環境の視覚情報(刺激〉を網膜に映すレンズ(水晶
体〉は,生理的老化によ って硬化し たり黄褐色を帯びるなどして,色覚や視力
の低下を生ずる。また, レンズの 焦点調節をする毛様体の筋力も低下し,近
方視力の衰えが著しくなり,眼鏡が必要になることが多くなる。また,暗所

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第 I部 老 人心理
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での光覚闘値の増大など,網膜の機能低下 も現われる。これらの視覚力低下
は環境の認知にもかかわるので,生活環境での十分な採光や各種標識の配
置・配色などの工夫が必要である。
さて,老年者自身は視覚の生理的老化をどのように受け とめているのであ
ろうか。 「歩行不自由」に次いで「目の不自由」が老性自覚の契機になる とい
う。眼鏡による矯正や安全な環境整備,一層の医療技術の進歩が期待される
のである。
わが国の老年者の色の好悪に関する橘の調査に よると,調査対象者に最も
強く好まれたのは青で,すみれ,緑色と続く。嫌われたのは燈と黄色で,赤
色 は好悪に分かれるが,高年齢になるに従って好まれる率が高まると言う。
これは色覚力の生理的老化のみでなく,その調査の対象者の世代が経てきた
文化・ 歴史的背景からも考えられるべきものであり,今後 の比較検討が待た
れる。

襲 聴覚 聴覚力の 加齢による低下はゆるやかに進むが,特に高音域での感
性老化 が著しくなる。これは,末梢の聴覚器官(外耳,中耳,内耳,聴神経)
での生理的老化 に加 えて,注意を集中して複雑な音環境の 中から必要な情報
を選び取る,中枢機能の老化によるとビレン C
Bir
ren,J
.E.)は指摘している。
また,特に男性の職場の慢性的騒音などの環境の文脈的影響と性差との関係
も論じられている。
ところで,聴覚の老化は緊急時の音声による 警報の察知や日常の音声コミ
ュニケーションを制限するにもかかわらず,老年者自身は視覚老化ほどには
伺)
意識していない。したがって,適切な補聴器の選択や音環境の調整,視覚に
よる情報保障などのためにも,老年者自身の注意や周囲への関心 が望まれる
のである。
畿 日
嘆覚 │
奥覚の老化 についても報告されているが,ストロベリ ー (果実〉
エッセンスやラベンダー(花〉オイノレを用いた匂いの好悪実験で前者が児童
に,後者が成人に好まれており,感覚力実験で用いる材料の選択によっては
老化の検証になり難い場合もあろう。 また,自動車の排気ガス臭への不快さ
評価 の実験では,老年者群と健康上問題のある若年者群において評価 (感覚
力〉が低かったことから,年齢差よりも健康差に関心が寄せられている。
みらい

襲 味覚 味覚の感覚器である味菅の加齢による減少が見られ,味覚力の低
下も報告されている。他方,長年の喫煙習慣によって嘆覚や味覚の感性老化

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第 2章 老 年 期 の 心 理 的 特 徴
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が加速されるとし、う指摘も検討されている。

警 皮膚感覚 有害なものから身を守るための危険信号の働きをする痛覚
については加齢差は見られなかったとし、う報告もあり,むしろ職業上の激し
い危険な仕事をしてきた人びとの痛覚閲値の上昇 (
痛覚力低下〉など,生活・
伽)
職業の文脈からの影響が注目されている。
以上,主な感性の加齢差について見てきた。そして,それらが遺伝的プロ
グラムに加え,個人の長年にわたる環境や習慣の文脈に大きく影響を受けて
個人差を大きくしていることが理解できた。

D 知覚の加齢差

感覚器で受容された感覚刺激の情報が中枢に送られ,構成・意味づけされ
る「知覚」の過程の加齢差を考えるために, ここでは幾何図形錯視と意味的
反転図形の実験をとりあげる。
老年期の幾何図形錯視に用いられている主な図形はミュラー・リヤ ー図形
(以後 ML と言う),ポッゲン ドル フ図形 (PD),ティチナー図形 (TN),ポ
ンゾ図形 (PZ) である。前 2者は,対象に連なる部分を切り離して見られな
いために生ずる錯視の図形である。後 2者は,対象から離れてはいるが近く
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にある部分と対比してしまって生ずる錯視の図形である。
コマリ (Comal
l
i,P
.E.J
r.)は一連の実験から ,前者 2図版 (ML,
PD) で児
童群と老年者群の錯視量が大きく,後者 2図版 (
TN,PZ)では共に小さかっ
ω
たとし,老年期の知覚は児童期に退行したものとし、う仮説を示した。しかし,
これに対して T N錯 視量で上記の仮説に反する結果の報告もある。ま た,児
童群の反応速度に対する老年者群の減速からみても,大脳の情報処理過程に
おいて老年期は児童期と異なっており,知覚の退行仮説には問題点が多いと
言えよう。それでは老年期の知覚の特徴は何なのか。次に,意味的反転図形
の実験例を述べることにする。
ボトウィニック (
Bot
win
ick,
J.)らの実験では 3枚の図版が用いられた。ま
以後 A 図と言う〉が
ず,若年女性の絵とも老年女性の絵とも見える陵昧な図 (
用意された。そして,若年女性に見える部分のみの図 (B図〉と,老年女性に
見える部分のみの図 (C図〉が加えられた。
実験では,最初に被験者に A図を呈示して何に見えるかを尋ねた後,被験
者が知覚した部分(例えば, B図の部分であれば〉の対抗図 (C図〉を呈示し,

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別の見方もできることを示す。そ して 再び A図を呈示 したところ,老年者群


は若年者群に比べて,最初に知覚した側(この例では, B図〉に固執する傾向
が強く見られたとし、う。
これらから,老年期には感覚力は低下し,知覚の「固さ」も増すとされる
が,それは,情報処理の全過程での反応速度の減少によるとともに,老年者
が長年接 してきた対象と実験材料との「ずれ」 の中で誤りを避けようとする
(6
同 1
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慎重さ」が強く働いた ためと考えられる。 他方
, 日常生活や自分の中の小
さな「ずれ」を高い情操的刺激と して受けとめる感受性豊かな老年者の少な
幅抑司
くないことにも気づくべきであろう。

3 知能
個人の思考能力を表す「知能」の心理学的定義は研究者の数だけあると言
われているが, ウェクスラーにならって,ここでは「目的に沿って行動し,

合理的 に考え,環境に適切に対処する,個人の総合的能力」として おく。 し
かし,その測定をするために作られた知能検査が正 し く「知能」を測定 して
いるかどうかということは重要である。さらに,それらが老年期の知能を測

定するにも妥当なものかどうかも,たえず間し、直されていなければならない。
本節では, これまでの知能検査の測定報告から老年期の知能の特徴を述べ
るとともに,今後の注意点についても触れておきたい。また,老年期におけ
る身体的健康と知能の関係についても考えてみた い。

E・ 従来の結果一一横断法と縦断法一一

長い間,知能の発達と老化の経年変化を表すものとして描かれてきた曲線
がある。それは同時点で実施された各年齢群の知能検査得点を結んだ 「横断
法」によるもので,児童期および青年期での得点の急上昇が 2
0歳代前半に頂
点に達した後は下降を始め,老年期でやや急勾配で下降する とL、う曲線であ




しかし,臨床での診断によく用いられている W AI
SCウェクスラー式成人知
能検査〉を用いたウェクスラーの結果は,積木・符号・絵画配列など動作によ
って解答する「動作性検査」の得点は 2
0歳代を頂点にして直線的に下降する
ものの,一般的知識・ 一般的理解・単語などについて言語による解答が求め

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られる「言語性検査」では 3
0歳代まで上昇し,その後ゆるやかに下降し,老


年期でやや急勾配で下降するというものであった。すなわち,知能検査の総
得点の比較をするよりも「動作性」と「言語性」に下位検査を分けることに
よって,知能の加齢変化の内容をとらえることができたので、ある。この結果
は,新しい環境に適応するための「、流動的知能」は比較的早く下降するが,
経験によって蓄積される「結晶的知能」は成人期でも上昇するという,ホー
(

ンとキャ ッテル CHorn,J
.L.
, &Cattel,R
.B.)の仮説とも符合している。「動
作性」は「流動性」を 言語性」は「結晶性」を反映していると見られるか
r
らである。しかし,いずれにせよ,これらの結果では中年期・老年期には知
能は低下するという「下降曲線」が示されたのである。
ところで,この結論 を導いた検査方法そのものに問題点が指摘されている。
すなわち, これらは異なった年齢群(世代群〉を同時に検査 し比較するため
に,それぞれの世代の育ってきた文化・社会的背景 (
特に学校教育を受けた期
間〉が大きく異なっており,世代(コホート〉差の統制がなされていないとい
う点である。多くは学業成績との相関から「妥当性」を確かめてきた知能検
査を学校教育期間やその後の期間も異なる世代聞に実施して知能の経年変化
を描くのは妥当ではないというわけである。この「横断法」に対して強く求
められたのが「縦断法」の結果である。それは同 一対象者 (
世代〉群を長期間
をおいて再検査して追跡調査する方法である。
Owens,
縦断的なオーエンス C W.A.)の報告 では,大学入学時にア ー ミー・
アルファ検査 (アメ リカ陸軍英語知能検査〉を実施した人びとを中年期と老年
期に再検査した結果は,数問題はやや下降するものの,推理や言語問題は上
昇または維持されて いる 。老年期に いた る知能の「上昇曲線」が示されたの
である。しかし,縦断法もまた「理想の方法」とは言えなかった。なぜなら
ば,追跡調査には結果が出るまでの長い年月と実施できる組織的態勢が必要
である上,再検査 が不可能になる (ド
ロ ップ ・アウト 〉 ケースが多く, たとえ
再検査できたとしても再検査可能の諸条件が整った人びとを標準的な老年者
とすることができるかどうかが問われる 。ま た,特定世代を特定の時間文脈
でとらえるために各検査での時点差 が入り,年齢差 の検証を難しくする。さ
らに,同じ検査を同じ人び とに繰り返すことによ る「再検査効果」も統制 で
きないという指摘があるからである。
そこで,横断法と縦断法の間で,よりよい方法と結論を求めて試みられた

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のが,次に述べる「系列法」である。

EI 今後の方向一一系列法と課題一一
発達研究によく用いられる PMACサーストン式基本的精神能力検査〉を用い
て 系列法」で、調べたシャイエ CScha
r ie,K
.W.) らの報告について述べる。
それによれば,まず,若年成人期(以後,若年期と言う〉より老年期にし、た
るまでの各年齢群の横断的測定を行った。 7年後に,さらに 7年後の 14
年後
に同じ人びとを追跡測定した。再測定ごとに新被検者を加えることにより再
検査効果を統制して,それぞれの時点の横断的比較も試みたのである。
そして 7年ごとの 3回の測定時点での横断法の結果から横断的曲線の時
点差を見た。ある年齢の知能得点を異なった時点間で比較することにより,
時点差と世代(コホー卜〉差を統制したので、ある。また 7年間の各年齢群で
の勾配を連結させることで時点差の 小さい縦断的曲線を描くことを試みた。
この方法は横断法と縦断法を併用 しながら,世代差 と時点差を統制し,短い
期間でも縦断法を用いることができる方法として評価される。
さて,その結果,各検査時点での横断的曲線は従来の曲線とほぼ同じ勾配
を示したが,検査時点ごとに少し上方に描かれている。すなわち,後の時点
や世代になるに従って得点は高くなっている。また, 7年間の各年齢群の勾
配を連結させると知能は 6
0歳まではゆるやかに上昇し,その後「動作性」 は
下降するが 言語性」は 7
r 0歳近く まで高い水準を保つ下位検査 (語の意味〉
得点もあり,さらに, 8
0歳にいたっても急激に下降するわけではない。すな
わち,知能は 6
0歳代の「老年前期」 にし、たるまで上昇・維持され, 7
0歳代中
頃からの「老年後期」にゆるやかに下降するということになる。
もっとも,この系列法にしても課題はある。 最初の検査を受けた人の 5分
の 2は再検査を受けず,残りのうちの半数も再々検査は受けなかったとしづ。
この, ドロップ・アウトをしのいで再々検査に残る,健康をはじめとする特
定の条件を有している人びとの結果であるという点や,そのデータの統計学
的処理の適否も論じられている。
ボ トウィニックはシャイエらのデータを再検討して,横断法でも 4
0歳代の
中年期 までは上昇・維持 して おり,縦断法でも 6
0歳代の老年前期には下降し


ていると指摘している 。いずれにせ よ
, 青年期を知能の頂点としてきた従来
の固定観念(ステレオタイプ〉に対して,少なくとも中年期までは上昇・維持

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第 2章 老 年期の心理的特徴
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される,と訂正されたと言えよう。しかし,最も重要な点は,個人差が大き
~~~曲
いことであり,老年期の理解で、は特に、注意 して おきた し


ところで,知能検査得点の量的な「上昇か下降か」によって老年期の知的・
認知的活動を論じるのは限界がある。老年者の質的な「複雑さ」を見逃すお


それがあるからである。次節以降ではその点を少し詳しく見てみよう。
さて,測定上の今後の課題は,まず,これまで学校教育の内容に近い幾何
図形や時間制限,解答時間の測定など,元々老年者の適応行動パターンにな
じまない検査を用いてきたことにある 。これまでの調査との比較や,児童 ・
青年・成人期との比較をするにしても,老年者が成しえて, しかも 真に求め
られている環境適応能力とはどういうものなのかが聞い直されており,わが
個拠調
国でも熱心に検討されている。

EJ 身体の健康と知能
精神活動の知的側面である「知能」も身体の健康に大きく支えられている。
ここでは身体の健康と知能について,カニンガム C
Cunningham,
W.R
.)の「カ

スケード・モデ、ル」について紹介する。カスケードとは階段状に連なった分
れ滝で,その比鳴と実証によって身体の健康状態と知能の関係を表している
のである。
まず,握力・肺活量 ・聴力などの 1次の生理的老化が進むと,知覚速度や
選択速度の低下をもたらせる。そ して, 慢性的な心臓血管障害などの 2次の
病理的老化が起こると,知覚・選択速度低下に加えて,帰納的推理・抽象的
問題解決・形式的操作を含む「能動的思考」である推理の働きを低下させる 。
さらに深刻で重篤な 3次の老化が生じると 1次と 2次での影響に加えて,
語の意味問題などの「受動的思考」をも低下させ「終末低下」を示すという
ものである。もちろん,この 1次・ 2次・ 3次の老化は自動的に進むのでは
なく,多くの主体・環境要因が加わることによって移行するものである。こ
のそデ、ルから,いかに身体の健康状態が知能に深くかかわっているかを図式
的に理解することがで きょう。
ところで,十分に健康な老年者は,健康に問題のある若年者よりも反応時
B

間も短く, 学習効率もよかった と報告されてい る

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4 学習と記憶

ヒトは生涯の初期から環境の影響を大きく受けて発達するが,環境変化な
どの経験による,ある程度恒常性をもった行動の変容を「学習」 と言う。学
習したことは「記憶」の中に「記銘 j, I保持」され,必要に応 じて「想起 j,
あるいは「忘却」される。
学習を十分 して おれば思い 出せる (想起できる〉が,学習が不十分な時はな
かなか思い出せなかったり,場合によっては忘れ去ってしまう。したがって
学習と記憶は, 同ーの 心理学的過程の中のどこに注目しているかの違いだけ

であるとも言える。
また,近年はコンビュ ーターの「情報処理過程」を記憶のモデルとして,
記銘は情報入力での「符号化」に,保持は情報の「貯蔵」に,そして想起は
出力のための「検索」に言いかえて論じられることも多い。
本節では,実験例を通して老年期の学習と記憶の特徴を述べ,老年者に適
している 学習や記憶の方法についても考えてみたい。

E・ 学習の加齢差の要因
ここでは,対連合学習の実験から老年者の学習について述べてみよう。
例えば, 英語の単語を暗記する ために単語帳やカードを用いるとする。〔老
年学 gerontologyJのように対にした 2項の,一方(刺激項〉のみをまず
呈示 し,次に他方 (反応項〉との対に して見せる。これをくり返して,複数の
(刺激一反応〉の対を連合させる学習を対連合学習 とし、う 。まず刺激項のみ
を呈示しておいて反応項を予想させる時間を「予想時間 j C
以後 A と言う),次
に刺激項と反応項を対呈示して連合・点検させる時間を 「点検時間 j (I)と
B却
してお く。この A と Iの長さを変えて実験 したカネストラリ C
Can
est
rar
i,R
.
,J
E
. .)の報告によると, Aと Iの時聞を長くするほ ど若年者群も老年者群も
r


予想適中率が高くなったが,特に老年者群の無答が減少 したという。そして,
被験者自身のベースにしたところ老年者群は Iよりも Aに長い時聞をかけた
とし、う。
この結果から言えることは,老年者は学習のベースをゆっくりとして,答
を見つけ出す時間 CA) を十分にとれば学習効果をあげうるということであ

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る。すなわち,老年期の学習では時間要因が特に重要 となる。こ れは中枢神


経系での情報処理過程における反応速度の低下によると考えられる。
ボトウィニツクは,老年者の「無答」は誤答を避けようとする「慎重さ」

(
用 心深さ 〉によるもの と述べている。 また,アイズドーファー CEi
sdo
rfr,
e C
.)
は,老年者における自律神経系の覚醒が適切水準を超えるための抑制的な効
果を指摘している。
これらから,老年者は学習が不得手で環境に適応していないと 考え るのは
正しくない。なぜならば, ビレンの言うように児童や青年は常に新しい体
験をして「可塑的」に学習する必要があるが,多くの学習を経て「永続的」
な適応行動パターンを形成した老年者は,今や,ゆっくりと行動を変化させ
ながら,各自のレパートリーの中から適合する反応を引き出しているのであ
る。この理解は,ニューガーテンらの中年期からのノ ξ ーソナリティの継続性
曲目
の視点とも共通していると言えよう。

D 記憶想起の様式

記銘された記憶内容を想起する様式のうち,ここでは「再生」と「再認」
の比較から老年期の記憶について考える 。例えば,本章のある頁を読んでも
らって rそこに出て来た用語を言って下さ L、」と問う場合(再生〉と,用語
のリストを渡して「そこに出て来た用語に印をつけて下さし、」と問う場合 (

認〉の老年者と若年者の正答率を比べてみよう。
単語 リスト学習後の再生テストと再認テストの,ションフィーノレドとロパ
ートソン CSch
onf
iel .,& Robertson,B.
d,D A.)の結果によると,若年者も老
年者も再生より再認の方が正答数が多く容易であった。そして,再認の加齢
差は小さかったが,再生を求めると老年者群の成績は若年者群に比べて著し


く低かった。この再生と再認の働きの違いは,再生は貯蔵されている情報の
中から単語のリストを作る検索の 作業を した上で、チェッ クするのに対 して,
再認は与えられているリスト上で貯蔵の内容をチェックするのみである。す
なわち,再生の加齢による低下は検索機能の低下を意味しているが,再認で
見られる貯蔵機能の加齢差は小さい, というわけで、ある。さて, フリッカと
グロスマン CHul
icka,1
.M.,& Grossman,
J.L
.)の対連合学習実験では,両項
を連合させる手掛りとなるイメージなどの言語的媒介を与えると,老年者群
も若年者群も正答率を高めたが,自ら工夫して媒介を用いるように教示する

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と,老年者群の自発的に工夫する率は低かったという。すなわち,老年期は
符号化の機能においても効率の低さが見られたのである。
これらの結果から,老年期では貯蔵機能は比較的残されているが,符号化
と検索の機能に問題があると 言うことができょう。

EI 記憶の段階と処理の水準
次に,記憶の段階を 1次・ 2次・ 3次として,上述の「符号化」における
処理の水準と関連させながら加齢差を述べる。
感覚受容器でとらえられた感覚情報がその場で消えていくまでの感覚記憶
, 注意を集中 して少し長く留める短期記憶とを合わせて '1次記憶」と 言

う。音韻的にとらえた 4桁の数字はノートに書き込んだ後も「 リハーサル」
をくり返さないでいたり,何らかの手掛り(媒体〉のない 「浅い処理」の まま
でおくと想起が難しくなり忘却される。
この短期記憶を長期間保持するには,意味のない 4桁の数字でも意味をも
たせ(記憶術など〉たり,歴史的 イメージや特定のカテゴリーと結びつける「深
い処理」が必要になる。その ような深 い水準の処理によって保持される長期
記憶を '2次記憶」 と言う。さらに,幼い噴の出来事や青春の思い出を後年


鮮やかに想起する超長期記憶を, 3次記憶」と言う。
さて,老年者の記憶をこの段階 c
l次・ 2次・ 3次記憶〉で見ると, 1次と
3次 記 憶 に は 比 較 的 加齢 に よ る 低 下 は 少 な い が 2次 記 憶 の 低 下 は 明 ら
(
1 10
田)
( 1
)
かである。 2次が老年期に音韻的な「浅い処理」 の記銘がされるのに対 し

3次が若年期にイメ ージなどの媒介を用いた「深い処理」で記銘されたため
とされる。また 3次記憶で保持されている内 容は,その後も生活史の中で
意味的に再構成され, くり返し「リハーサル」されるために,超長期的に想
起されると考えられる。自叙伝や回想録の記述の鮮明さは, これによると 言
えよう。もちろん, リハーサルごとに選択的・推論的強調も入るので,必ず
(
1田)
(
1田)
しも細部にわたって客観的正確さを維持しているわけではない。しかし,事
件年度などのように概念化するもの や実験室的方法での結果は ともかく,老
年者の過去体験の生き生きとした描写には驚かされることが多い。
さて, 2次記憶については, さらに,タルヴィング CTu
lv
ing,E.)の「ェピ
(
1田)
ソード、記憶」と 「
意味記憶」 から老年期を考えてみよう。

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B エピソード 記憶と意味記憶

ある単語がある時間文脈の中で示されたかどうかについての「エピソ ー ド
記憶」と,その単語の意味は何かという「意味記憶」とを分けると,老年期
においては,特に時間要因の強い「エピソード‘記憶」の困難さが指摘されて
(
1田)
いる。タルヴィングらのさらに興味深い報告では,エピソード記憶を求めら
れている被験者の脳血流量が前頭葉で増大し,意味記憶では頭頂葉で増大し
(
1町)
ているとしづ。ところで,前頭連合野が時間的要因にかかわっていることは
(
1国)
よく知られている。ここで生理的老化による前頭葉などの萎縮とエピソード
記憶の加齢による低下を結びつけるのはさしひか えるが,脳の生理的老化と
(
1田)
記憶の関係は今後さらに解明されていくであろう。
以上,老年期の学習 と記憶の特徴を見てきたが,それでは老年者にとって
効果的で望ましい学習・記憶の方法とは, どのよ うなものであ ろうか。
まず, 一人ひとりのベースに合わせて,注意を集中できるような場で,な
じみやすく興味をもてる材料を用いて,深い処理ができる説明で,のびのび
と取り組めれば十分に力を発揮できるであろう 。

5 問題解決と創造性

われわれは環境の中の暖昧さや複雑さを楽しみながら生活していることが
多 いが,解決を強く迫られ る時も少なくなし。
、 また,みずから新 しい課題を
見いだして独自な方法で創意を成し遂げる場合もある。心理学では,これら
を「問題解決」や「創造」 の過程としてとらえている。
本節では,問題解決と創造性の加齢差についての実験や調査について述べ,
「矢口恵 J (wisdom)を生か した老年者の積極的な精神活動についても 考え てみ
たい。

11 問題解決の様 式
問題解決の加齢差 の実験について述べる。アレンパーグ (
Arenberg,
D.)が
形や色の異なる幾何図形を用いて推理実験をした時には老年者は実験者のヒ
ントをカテゴリー化して推理することは難しかったが,食品のセットの中か
ら食中毒の原因の食品を推理する,実生活に近い課題では若年者との差は小

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さかったという。
これらの結果から,老年期でイメージやカテゴリーを用いる抽象的思考が
低下し,合理的に問題解決する能力は低いとし、う結論が導かれやすいが,前
節でも紹介したように,老年者が自発的にカテゴリーを用いようとしない傾
向のあることを忘れてはならない。また,若い世代よりも学校教育期間も短
く,その後の長い年月の中で一つひとつの事柄を具体的に対処してきた老年
者にとって, 日常性から離れた幾何図形をカテゴリ一分類するような実験ク
イズは積極的に取り組むべき課題とは言えないのである。もっとも,教育期
間の長か った老年者は,むしろ実験場面の新奇性に関心 をもって,意欲的に
「し、かに学習するか」を学ぼうとするとし、う。
以上により,老年者は抽象的問題解決能力が低いというよりも,具体的に
問題を扱う傾向が解決様式として定着していると言えよう。すなわち,能力
の差ではなく,選択されている問題解決様式の差として理解すべきであろう。
もちろん, これは生涯学習や長年の仕事の内容などによって変わる し,加齢
による個性化は大きい。

D 創造性と知恵

新しいイメージやアイデアを用いて,何らかの意味で価値あるものを創り
出す働きの特徴を「創造性」と言う。新しさや独自性を必要とする限り,そ
こでは柔軟な行動の「可塑性」が求められるであろう。他方,古来より伝え
られる比喰や生涯にわたる展望に裏づけられた洞察や深い配慮を,われわれ
は「知恵」と 言う 。それは長年の蓄積を必要とするため i永続性」が求めら

れる。
ここでは,老年期における創造性と知恵について考え,可塑性と永続性の
生涯的意義や今後の方向についても述べることにする。
創造的活動の質的評価をしたレーマン C
Lehman,H
.c.)の調査によると,
科学者,哲学者,芸術家などの業績で最も質の高い創造の時期は3
0歳代から
4
0歳代までで,その後は低下し,老年期では創造的活動は衰えるとしづ。し
かし, この調査で対象とされた人びとの生存年齢の統制がされていなかった
ために高年齢よりも若年齢の方に多く集計されたものであると指摘された。
そこで, 7
9歳を超えたイギリスの研究者や芸術家の業績の量的分布を調べ
たデニス C
Den
nis,W.) の結果では,芸術家は4
0歳代まで,地質学者は5
0歳

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11

代,歴史,哲学の研究者は6
0歳代に頂点が延長されており,健康が維持され
る限り老年期まで創造的活動は続けられると L、
う。
これら 二つの調査につい て,後者は量的評価を,前者は質的評価をしてい
る点で今後も検討が必要であるが,結晶的知能のように蓄積されたものを必
要とする知的活動と,流動性知能のように経験や年月の経過をあまり必要と
しない知的活動があることは認められよう。
老年期は,それまでの多くの経験の文脈に足場を築き,敏捷でなく慎重で
あるために,独自的で可塑的な創造性の低下は否めない。にもかかわらず,
量的分布とは言え,この活発な生産的活動はなぜであろうか。
生理的老化や適応行動パターンの定着によって行動の可塑性は低下すると
しても,それを補うに足る働きがあるからではないか。それは,長年の経験
によって「価値あるもの」や「解決すべきこと」を選択的に洞察し, しかも,
人びとへの「愛着」によって培われた統合力をもっ「知恵」の働きであると
o
四)
021
)
言えよう。すなわち,老年期における可塑性低下を補う永続性増大の生涯的
(
22
)
な意味を改めて知らされるのである。
若年者の活発で可塑的な「創造性」と老年者の思慮深く永続的な「矢口恵」
が連係する時, より新しくユニークで,より 価値の高い創造が可能となる。
そのチームワークを支えるのは, 一人ひとりの個性を尊重する相互間の敬意
ある理解のほかの何ものでもなかろう。

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第 I部 老 人 心 理
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543
-
5
75.
(
5) 山本浩市「アメリカにおける成人発達と加齢の心理学の動向 j i
I心理学評論』
2
7, 1
984年
, 2
30-
246頁

(
6) 長谷川和夫「老化の概念」長谷川和夫・ 霜 山徳繭編 『
老年心理学』岩崎学術
出版社, 1
977年
, 3-
20頁

(
7) 入来正期「老化 の生理学」長谷川和夫 ・那須宗一編IiHANDBOOK老年学』
岩崎学術出版社, 1
975年
, 9
0-1
05頁

(
8) 畠中寛・池上司郎・有松靖温『脳の老化一一ニューロンの生と死を考える 』
, 1
共立 出版 989年

(
9
) 二木宏明 『
脳と記憶ー ーその 心理学と生理学』共立 出版, 1
989年

(O
J)(8
)と同じ。
(
1
1) 厚生省保健医療局精神保健課監修/河野裕明・大谷藤郎編『我が国のアルコ
ール関連問題の現状一 一アルコール白書 』厚健 出版, 1
993年

J) 松津大樹「痴呆症侯群の画像解析 j,第 1
(2 6回日本老年学会大会(名古屋〉シン
老年期の痴呆とその周辺』講演要旨, 1
ポジウム 『 989年

J
(3
) 厚生省編 『
喫煙と健康一 一喫煙と健康問題に関する報告書 第 2版』保健同
入社, 1
993年

J
(4
) 大友英一 「老年の生物学的背景」長谷川和夫・霜 山徳繭編『老年心理学』岩
崎学術出版, 1
977年
, 3
0-4
3頁。
J
(5
) 大国美智子「寝たきりと呆け」岡村重夫監修/大阪府立老人総合センター編
12
i 1
世紀への老年学』 ミネルヴァ書房, 1
984年
, 5
3-7
4頁。
J) 下仲順子「加齢と人格 j Ií心理学評論~ 2
(6 7, 1
984年
, 2
60-
27l頁

J
(7
) 長谷川和夫・天本 宏「老人の精神障害」井上勝也 ・長嶋紀一編 『
老年心理
学』朝倉書庖, 1
980年
, 1
49-1
72頁

J
(8
) (
J
J)と同じ。
J
(9
) J
(3
)と同じ 0
(
20
)1 )と同じ。
(6

1
) Masters,W.H.,& Johnson,V.E.,“Humansexualresponse:Theagi
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968,p
p.2
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279
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32
第 2章 老 年 期 の心理的特徴
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3
) (
4)と同じ。
) 山田
4 博 『
人体の強度と老化一一生物強弱学による測定結果』日本放送 出版
協会, 1
979年

仰 佐 藤 昭 夫 ・ 亀 谷 秀 樹 ・ 黒津美枝子「老年期の生理的基礎」井上勝也・長嶋紀
, 1
一編『老年心理学』朝倉書庖 980
年, 3
3-4
6頁。
側 奈倉道隆『老年の心と 健康』ミネルヴァ書房, 1
978
年0
(
2
7) 1)と同じ。
(4
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960,p
p.2
16-
235
.
)(
ω1 )と同じ。
7
側橘 覚 勝 『 老 年 学 そ の 問題と 考察』誠信書房, 1
971年。

1
) 守屋国光 「
老年期の自己概念」長谷川和夫・霜 山徳繭編 『
老年心理学』岩崎

。 2
学術 出版社, 1
) ()と同じ。
30
977年
, 1
18-
l31
頁。

倒) 前回大作「老化の社会的背景」長谷川和夫・霜 山徳爾編 『
老年心理学』岩崎
学術 出版社, 1
977年
, 4
4-6
0頁 0

(
3
4) Cummin
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1
961
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3
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968,p
p.1
61-
172
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968,p
p.1
73-1
77
間 青 木 信 雄 『英米の老人ケア 』 ミネルヴ ァ書房, 1
985年

(
3
8) (
3
3)と同じ。
側井上勝也「老人の死生観 “ポックリ願望"の心理背景 」井上勝也・
長嶋紀一編 『
老年心理学 , 1
』 朝倉書庖 980年
, 1
88-
202頁

側 杉 山善朗 「向老期から 高齢期にわたる心理・社会的変動 J "
1心理学評論 J 2
7,
1
984年
, 3
17-
330頁

4) 藤田綾子「心の老化 とその背景」岡村重夫監修/大阪府立老人総合センター
(1
編1"2
1世紀へ の老年学』ミネルヴァ書房, 1
984
年, 31
-51
頁。
臼2
) (
2
6)と同じ。

33
第 I部 老 人 心 理
1
1

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制) 長嶋紀一「加齢に伴う感覚・知覚の変イヒ J r
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7, 1
984年
, 2
83-
294
頁O
(
4
4) (
3
0)と同じ O
(
4
5) (
30
)と同じ。
(
4
6) Neug
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977,p
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同松本 洗「老人の感覚と知覚」井上勝也・長嶋紀一編『老年心理学』朝倉書
, 1
広 980年
, 6
5-8
0頁。
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977,p
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561
.
(
5
2) (
4
8)と同じ。
(
5
3) (
51
)と同じ 0
(
5
4) 附と同じ 0
(
5
5) (
4
9)と同じ。
(
5
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226.
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側橘覚勝『老いの探求』誠信書房, 1
975年

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老いの微笑』筑摩書房, 1
989年。
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) 長嶋紀一「老年期の知能」長谷川和夫・那須宗一編 W
HANDBOOK老年学

岩崎学術出版社, 1
975年
, 2
33-
265頁

側 中里克治「老年期における知能と加齢 J, r 心理学評論~ 2
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1EducationalPsychology,57,1966,pp.311-325.
問 中里克治「知能」戸川行男・保崎秀夫・守屋国光編 『
老化のプロセスと精神
障害』垣内出版, 1
979年
, 9
4-1
21頁

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第 I部 老人心理
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1) 谷 口幸一 「老年期の学習」戸川行男・保崎秀夫 ・守屋国光編 『
老化 のプ ロセ


』 垣内出版, 1
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7-4
4

38
第 3章老年期のパーソナリティと

適応

7 老年期のパーソナリティ〈性格〉

11 パーソナリティの変化と安定性
私たちは,それぞれ個性をもっている。人によって考え方,感じ方,反応
の仕方に,それぞれのやり方があり,まったく同じ人はいなし、。
しかし,だからといって,いつ,何をどうするかわからないということで
はなし、。むしろ,あの人はこうし、う場合にはこうするだろうとか,なぜその
人がそのような行動をしたのかの理由を説明できることが多い。同じ状況で
あるにもかかわらず,ひとがなぜ異なった行動をするのかも説明できること
も多 い。これは,人の行動にはそれぞれある 一貫性があることを私たちが知
っているからであり,その 一貫性がその人らしさで あり, これを「パーソナ
リティ」とよぶ。
しかし,パーソナリティは,ある 一貫性・持続性をもっているが,決して
固定的なものでなく,たえず変化し発展していくとみるのが適切である。
パ ー ソナ リティ はその人のもって生まれた能力や気質など遺伝的要因と環
境的要因との相互作用によって形成され,特性によって遺伝と環境の関与す
る割合が異なる。一卵性双生児(遺伝子が同じ〉を対象にした多くの研究によ
って, 3
-1のように,感情,衝動,気分のような情動的な部分は遺伝の,知的
な面は環境の影響が大きいということがわかってきた。そしてパーソナリテ
ィの根底にある情動的な部分は人生の早い時期に形成され,人生の後期にな

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第 I部 老 人心理
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老年期の役割としての態度
(おばあさん的)
長年学校の先生をして
職業上身についたこと

両 親の陽気な生活
態度から明るい性
格になるなど

身体が弱いため
に神経質 になる

環 境 問 図 巴二〉

変わりやすい +一一一一 一一一一→変 わりにくい


出所 若松利明編『テキスト 心恐学 J 052頁〕をもとに筆者が加筆した。

ってもそう変わるものではないこと,しかし,表層にある部分は,環境の影
響を受け,変わりやすいと言われている。つまりパーソナリティの中には,
年をとったことで変わりやすい部分と,変わりにくい部分がある。

11 加齢とパーソナリティ
年をとるということによって,パ ー ソナリティにどのような変化が起こる
かということについては,これまでの研究では,まだ必ず しも はっきりした
答えが出ているわけではない。
その理由の一つは老年期の環境の多様性にある。環境と言っても,身体的
な状況と社会的な状況があげられようが,特に社会的な面についてはまさに
千差万別である。 6
0歳で仕事を引退している人もいれば, 9
0歳で元気で現役
の人もいるというように,社会的変化は誰にでも一様に訪れるものではなし、。
したが って,環境の影響によって大きく変化する老年期のパーソナリティを
一つのノ ξ ターンにあてはめることは,大変難しいということになる。
老年期のパーソナリティの特徴をはっきりさせにくいもう一つの理由は,
対象のとらえにくさにある。老年期の パーソナ リティが若いときとどう変化
するかを調べるためには「横断的方法」と「縦断的方法」がある。同じ時期

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第 3章 老 年 期 の パ ー ソ ナ リ テ ィ と 適 応
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0歳になつだときは 20歳のときよりもっとリベラルにな
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0年の調査は,同じ 4
0歳という年齢でも 194
0年
生まれが 192
0年生まれよりもリベラルという特徴であつだと
いうことになる。

の若い人と年をとった人を比べて世代差を調べるのを「横断的方法」といい,
違いがあればその理由を年齢差と して解釈しよ うとする方法である。一方,
同じ人を長年にわた って追跡 してし、く方法を「縦断的方法」 といい,変化 が
あればその理由を年齢の変化の影響と解釈する。たとえ「横断的方法」で差
が出ても,その差は年齢によるものではなく,その世代の特徴であるのかも
しれない。例えば, 今の高齢者が保守的だとしても,それは,戦前の教育を
受けた結果であって ,人が年を取るにつれて保守的になるかどうかというこ
ととは別問題である (
3-2
参照〉

この欠点を補うために「縦断的方法」が用いられる。最近アメ リカやわが
国でも「縦断的研究」がかなりなされてきているが,時間が非常にかかる。
幼児や児童の研究では比較的短い時間なのでそれなりの成果をあげているが,
老年期を 4
0歳から 8
0歳まで追跡しようとすると 4
0年の年月がかかる。また,
たとえ 4
0年かけて追跡したとしても,年月の流れの中では,亡くなる人も出

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てくるし,連絡のとれなくなる人もある。結局最後まで追跡してデータを得
られた人は,生き残る理由をもった特別の人で、あるということもありえる。
以上の理由によって,年を取るということとパーソナリティの変化にどの
ような関係があるかということについては,いまだはっきりとした結論が出
ているわけではないが,これまでになされたいくつかの研究結果を述べてみ
よう。

EI 老年期のパーソナリティ特性

多 横断的研究から
これまで,多数の横断的研究が老年期のパーソナリティの特徴を見いだす
ためになされてきた。例えば,自己中心性は年齢によって異なるのか? 依
存 性 は ? 保 守 性 は ? 同 調 性 は ? 生 活 満 足 度 は ? 創 造 性 は ? 達成動
機は?…など, どのようなパーソナリティ特性が年齢によって変化し てくる
かを明らかにするための研究がなされてきた。
その結果,-内向性」については年齢差があることが共通した結果として出
ており,人は老年期を迎えるにつれて自分の外への関心から内的な方向へ変
化して L、く傾向をもち,この傾向は,保守性や 同調性の高 まり,慎重さ ,抑
うつ性,心気的傾向性とも関連してくるとしづ結論がなされている。


多 縦断的研究から
縦断的研究の多くには,中年から老年期にかけてのノ ξ ーソナリティがどの
程度安定しているかということに興味の中心があった。その結果,パーソナ
リティは年齢によって 基本的にそう変わるもの ではなく比較的安定しており,
変化の方向はもともともっていた特徴が先鋭化したり, まるくなったりと程
度の問題であると述べている。もっとも,これまでになされた縦断的研究の
多くが 2
0年程度の追跡である。人生を 8
0年と しても 4分の lにすぎず期間が
短すぎると L、う批判もあるが,老年期のパーソナリティが中年期のパーソナ
リテ ィをかなり引きずっており,中年期抜きには考えられないことが 明らか
にされている。

s 老年期の自己概念

老年期のパーソナリティを考えるとき,高齢者のおかれている環境に目を

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第 3章 老年期のパーソナリティと適応
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向けて,その環境とパ ー ソナリティの関係を考えるとどうしても喪失期と し
て位置づけられ,否定的な面だけが強調される傾向がある。例えば,老年期
は死に最も近い時期であるとし、うだけで暗いイメージとしてとらえられがち
である。しか し,毎日「早くおむかえに来てもらいたい」 と笑いながら言う
高齢者が暗い表情などまったく見せないことなど説明できない(若い人で同
じ言葉を発する人は恐らくノイローゼ状態ではないだろうか? 少なくとも,笑っ
ている状態ではないだろう〉。また,生活満足度なども若い人よりはるかに高い
得点であることも説明できない。老年期を否定的にのみとらえようとする立
場の人に欠けているのは,人が変化 した結果だけで、なく,変化にいたるプロ
セスを含めて自分を評価していることを忘れていることである。パーソナリ
ティを考えるときにも,人が自分の存在を過去・現在・未来を通してどう受
け止めているか(これを時間軸での自己概念という 〉ということが重要な影響を
及ぼす。
モルチメ CMorti
mer,
].T
.)ら の研究では,否定的な自己概念をもっている
それは必ずしも事実とは関係なく,たとえ客観的にみて成功しているとみ
人は, C
えても必ずしも自己概念が高くなるとは限らなしう不幸な感じをもち,人間関係
が閉鎖的で冷たく,活動レベノレが低下して何かをやろうとし、う気持ちも低下
し,夢もないという。
高齢者が自分の衰退していく部分にのみ注目して嘆き,悲しみ,後悔する
だけであるなら,老年期の自己概念は低下し,パーソナリティも閉鎖的にな
っていくであろうが,高齢者が,自分の送ってきた人生の中で達成あるいは
行ってきた自分の努力や成長に注目をし肯定的な評価 をするなら,老年期の
自己概念は高くなる。
下仲(19
88)は,高齢者の自己概念が 「過去の自己 J I現在の自己 J I自己の
家庭」については高く I未来の自己 J I対人交流の自己」については低下す

ることを見いだし「衰退としての老し、」に逆らわず I熟成した老し、」への評

価によって上手に年をとっている人が多いことを報告している。
また,高齢者が自分を老人と思うかどうか(老人意識〕は, 自己概念のひと
つの指標で、あるが,藤田(19
87)は6
0歳以上の人が通うある老人大学では 70%
の人が自分は老人ではないと答え,同じ年齢でも 老人意識のある 人とない人
では日常生活への取り組みが異なり,老人意識のない人たちに積極的な行動
を展開する人たちが目立っていたことを報告している。これは,みずからを

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老人と認めることによって,老人とはこうあらねばならなしべおそらく,年寄
りは年寄りらしく出しゃばらず,おとなしくとし、う社会規範であろう〉というイメ
ージに自分の行動をあてはめてしまうことによるのではないだろうか。
このよ うに自己概念は,社会的な役割と して期待される行動と結びついて,
高齢者のパーソナリティにも影響を与えているのである。

D 老年期のパーソナリティ測定

一般に,ノ ξ ーソナリティを測定する方法として「投影法」 と「質問紙法」


がある。「投影法」とは,人の性格の無意識の深層の世界を把握しようとする
もので 質問紙法」は意識された自己評価のレベルで、の性格を測定 しよ うと
r
するものである。老年期の パ ーソナリティを測定するためには, 一般成人用
として作成されたテストを用いる場合と,高齢者用に特別に作られたテスト
を用いる場合がある。


多 投影法で一般用の適用
例.ロールシャツハテスト
ロールシャツハテストは紙の上にイ ンクを落 とし,それを二つ折りにして
作成した偶然、的な形をもっインクのし みに対する反応によって性格を測定す
るものである。その一つの図版例を 3
-3に示しているが, この ような図版 1
0枚
からなるテストで「これは何ですか? 何に見え ますか ?J としづ簡単な質
問をして相手の自発的で自由な反応によ ってパーソナリ ティを分析すること
ができる。このテストで測定された老年期の特徴としては次のような点があ

3
-3 ロールシャツハテストの図版例

レ,H.
出 所 . ロ ー ラッヘ ノ /宮本忠雄訳 『
性格学入門』みすずr. 房 , 1
966年
。 n

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第 3章 老年期のパ ー ソナリティと適応
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げられている 。
① 反応数が少ない一一生産能力や想像的思考と関連する。
② 部分反応より全体反応が多い一一考え方が分析的か総合的かによる。
③ 形態反応が多し、一一想像力や創作力の低下。
④ 色彩反応が減る一一外界刺激への敏感性と関連する。

@ 投影法で高齢者用に開発されているもの
例 :SAT
これ は,本来 TAT(課題統覚検査〉と言って,複数の人物が描かれている
絵カ ー ドをみて , 自由な空想物語を作ってもらい,その物語について分析す
ることによって人格の特徴をみるテストであるが, SAT は老人用と して 登
場人物の中に高齢者を描くことで,開発されている。

修 質問紙法
質問紙法で高齢者用に特別開発されているパーソナリティテストはまだ見
当たらない。 MMPI
,YG性格検査,エドワード性格検査 (EPPS)などが高
齢者を対象と した研究でいくつか用いられているが,いずれも質問項目が多

3
-4 SAT図版例

出所 長谷川和夫他編 r
Ilandbook老年学』岩崎
-
学 術出版社. 1
974年 。

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いので,高齢者にとって負担が大きく,そう頻繁に利用されているわけでは
ない。今後,高齢者用パーソナ リティテス トの開発がまたれるところである。

2 老年期の適応

E・ 適応とは何か
「適応」とは,人びとが自分をとり まく環境や状況,人間関係との聞に社
会的に望ましい関係をもちながら,さらに,本人自身の心理的な欲求も満た
されている状態を言う。例えば,老人ホームで規則や入所者同士の申し合わ
せをきちんと守って,いわゆる施設側からは「問題のない老人」 と思われて
いた人が突然退所すると言い出したりして必ず しも満足 した生、活をしていた
わけで、はないことが明らかになることがあるが,この人は施設に適応してい
たわけではなく,順応していただけの場合がある。一方,自分の長年の恨み
から寝たきりの夫にいじわるをすることで満足を見 いだしてい る妻が し、たと
しても,そ れは自己の欲求は満足 してい ても,社会的に望ましいことではな
いので,適応とは言わない。適応とはこのように人と環境との調和関係によ
って成り立つために,そのどちらかになんらかの変化が起これば,それまで
の体制をとり直す必要が出て適応ということが問題となる。
老年期には,生理的(感覚器官の低下,体力の低下など), 心理的 (記憶力の低
下,硬さの増加など),そ して社会的 (定年や配偶者の死など)変化が起こる。こ
れらの変化 に対応していくために新たな適応行動が必要になってくる。

E
I 適応機制
適応機制 とは,個人の欲求が環境との聞に不調和をもたらしたとき,その
ことによって起こった緊張状態(フラストレーション〉を解消しようとして,
多少とも自分を変えて現実的に解決していこうとするこ とを言う。適応と し
ての緊張解消のためには,①自分の欲求が充足されていること,②社会的に
承認されたものであることというこつの基準を満た していなければならなし。

したが って,この二つの基準が満たされているかし、な いかによ って次の四
つの分類をすることができる。
A 積極的合理的解決 真の適応であり,自分の欲求を満たすために最善

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第 3主 老年期のパ ー ソナリティと適応
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-5 防衛機制
補償・ ・・
・・ ・・・
子どもを生きが し、
に してきた人が,子どもが独立 したあと,孫の面倒を
引き受けることで満足しようとする。
昇華.......
.家庭や職場での役割が低下していくことに対しての不満を陶芸などに打
ちこむことで満足 しようとする。
合理化・・ ・自分の人生での失敗や欠点を戦争があったせいとか,親の面倒をみなけ
ればならなかったなど,みんなが納得するような理由をつけて自分も納
得すること。
同一化 ・・・・・・自分が病気がちで思うように外に 出 られないことを元気で活躍 している
高i
始者を1'i・め称えることで満足 しようとする。
抑圧 ・・
・・
・・・・
子どもとの同居を望みつつもそれが叶えられないと ,一人のほうがし、か
に気が楽かということを自分に思 L、込ませることによって同居をあきら
めようとすること。
反動形成 ・・
定年を迎えることでそれまで外に出るのが好きだった人が,一歩も外に
出ないような反対の行動をとること。
逃 避 ..
....
.新しいことを学習することは老年期には苦手になるので,新しいことと
かかわることをなるべく避けようとすること。
自殺傾向 ・・
・・ 自分の思うように生活できないとき自分の生命を断つことによって解消
しようとすること。
神経症 ・
・・
・・ ・ノイローゼや不眠などに頭痛や使秘など身体的な症状も加わって病気に
逃げ込むこと。

の努力をする。
B 積極的代償的解決 :主たる 目標に達成できない場合,代償的 な目標で
我慢す る。
C 消極 的代償的解決 不正な手段で目標に達成 しよ うとした り他人を邪
魔 したりす る

D 消極的非合理的解決 .幻想の世界や病気に逃げこむ。
A, Bは多くの場合肯定される解決の方法であり ,適応 と言えるが C,
Dは不適応行動あるいは異常適応と呼ばれるものである。
正常な人の 場合, Aの解決がまず試みられるが, これがさまざまな理由で
うまく いかないとき , B, C, Dに進むこ とになる。 B-Dは,正常な方法
では自 分 の欲求 が満た されないが, 自分の欲求は大事に したいとい う自分を
守 るた めに とられる 行動な ので防衛機制 とも言う。
3
-5は防衛機制 につ いてその主 なも のにつ いて示 したもので ある。
表 のよ うに,私たちは自分の欲求とそれを阻止する環境 との狭間でさまざ

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まな防衛規制 を用いながら生きている。

医B 老年期の喪失と適応

老年期には,一般に三つの喪失(健康・経済・役割〉があるといわれる。
生理的老化・病的老化によって健康がすぐれなくなり, 日常生活を誰かに
依存せざるをえなくなったり,退職によって収入が減ったり,また仕事の場
面で所有していた役割がなくなったりというようにである。
前にも述べたように, これらの喪失に誰もが出会うわけで、はな 、
し。ここで
は,これらの喪失が起きた場合の適応の仕方について考えてみたい。

@ 経済的喪失
収入の減少は,収入の源となる仕事をやめることから主にやってくる。一
般に仕事をいつやめるかということは前もって予測できていることで,その
ために本人自身が前もってさまざまな準備を行い,さらに社会的にも社会保
障や福祉サービス(まだ十分ではないが〉が準備されていると言っ て よい。し
か し,お金の価値は時間的流れの中で一定 しているわけではない。老後はこ
れで十分と思っていても,物価の上昇,インフレなどで十分ではなくなるこ
ともありうる。その不安の結果少しでも今あるお金を増やそうと して株や金
融に手を出してゼロにしてしまい,生活保護を受けるようになった事例に出
会うことがある。
経済的喪失への適応のためには,十分すぎるぐらいのお金を準備しておく
にこしたことはないであろうが,一般庶民には難しい話であり現在の高齢者
は,暖房費や食費などを 削 ることによって,つまり支 出を減らすことによっ
て少しでも不安を低減せざるをえないのである。

@ 健 康の喪失
高齢者の第一 の不安は「自分の健康」であることが多くのデータで証明さ
れている。健康は良い状態にあるときはその有難さはわからないが,悪い状
態になったとき初めて身にしみる。健康を悪化 させるこ とは,退職とは異な
り予測できるものではなく,ある日突然やってくるかも しれない し,(病気な
どで)徐々に気づかないうちにやってくるかもしれない。そ して,最も低下 し
た状態で、は,日常生活が自分ではできなくなり,他者に頼ることになる。「自

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第 3章 老年期のパーソナ リティと適応
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分のことは自分でする」ということで適応 してきた状態から「自分のことを
他人にまかせる」状態で適応しなければならなくなる。自分のことを他人に
まかせることを「依存」すると言うが,自立心をもちながら身体的には依存
せざるをえないとしづ葛藤状態を受け入れるためには,リーパ ーマン C
Lie
ber
-
man,M.A
.)によれば二つのことが必要であるとし、う。一つは,自分に対する
自信,自己の強さであり,もう 一つは,現実を見つめ受け入れる姿勢である。
そして,施設などで適応している高齢者は,攻撃的でもなく,怒りっぽくも
なく,利己主義的でもなく,不満屋さんでもない,他者に依存せざるをえな
い現実のありのままの自分の姿を受け入れ,かつ,自分を大事にできるとい
うしっかりした自我をもった人で、あるという。


多 役割 の喪失
私たちは, 一つの役割を卒業するときに,適応の仕方として通常,①代わ
りの役割を見つける,②残りの役割を一生懸命する,③あきらめるの三つの
方法をとる。
①のように,代わりの役割を見つけるためには,まず代わりの役割がなけ
ればならないし,新しい役割をとれる心身の可能性が必要であるし,何より
も新しい役割を担っていこうとする気持ちがなければならなし、。
アメリカの社会学者ロソウ CRosow,I.)が,老年期は社会的役割が最もはっ
きりしない時期であると述べているように,新しい役割はそう簡単には手に
入らない。仕事を定年で、やめた後,すぐに代わりの仕事が見つかるわけでも
ない。もし,体力の低下を理由にやめた場合など,代わりの仕事をすること
は大変難しし、。
②のように,喪失した役割にこだわらないで,まだ残っている役割にそれ
までのエネルギーを費やす方法は比較的スムーズにし、く。仕事をやめた人が,
それまでゆっくり読めなかった新聞や本を心ゆくまで読んだり,家族との交
流の少ない会社人間であった人が,家族旅行を楽しんだりというようにであ


③のような「あきらめ」はなかなか難しい。カンサス市の調査からカミン
グ CCummings,N.
A.) は,老年期は社会的役割から離れることで精神的な安
定を保つ「離脱理論」を提唱しているが,現実には全面的な離脱で、精神的安
定を保つ人は少ないというのがストライブ C
Str
eib,
G.F
.) らの研究でも明ら

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かにされている。喪失 した役割に使っていたエ ネルギ ー (時間や関心など〉を


他に向 けて い くこと で、安定を保つと しづ ② が 最 も現実的な老年期の適応と 言
える。

回 老年期の発達課題と適応

人の生涯(ライフサイクノレ〉は, 大きく乳幼 児期
, 児童期, 青年期, 壮年
期,老年期に分けることができる。人は個人的にみてみるとそれぞれの違い
をもって生まれている(個人差〉が,発達段階というものさしをあててみる と
一定の特徴を見いだすことができる。このような考えに立って人を理解 しよ
うとする考え方を 「ステージ理論」 と言い,代表的な人と してエリ クソン
C
Eri
kson,E
.H) をあげることができる。彼の考えは,パーソナ リテ ィは
. ,
生まれてから死ぬまで発達 し続けるものであり,その発達は3
-6のような八つ
の段階をたどって推移するとし、う。
つまり, 各発達段階には,おのおのの課題と危機があり, それがうまくの
りこえられたときに生きていくための活力がやってくる。老年期の課題は,
「自我の統合」であり,この課題を達成した人は,-英知」 としづ活力を得る

>
, この課題に失敗した人は,もう人生はやり直せないとしづ絶望感をもっ
ことになる。
エリクソンのこの考えかたは,事実としてそれぞれの段階をどう過ご して
きたかというより,全体の段階をどう過ごしてきたと認識するかという こと
であることはもちろんであり,そう認識できるためには,-老年期の新 しい役
割を確保」し「自分の人生をあるがままに受け止め J -
,死を受け止めること」
ができれば, 自己を受容でき, 自我
3
-6 工リクソンの発達課題
の統合へとつながっていくというも
①②③④⑤⑥⑦

乳児期 基本的信額対基本的不信
のである。
幼児期 自 律 性 対 耳L
、・疑惑
児童前期 自主性対罪悪感
回 パーソナリティと適応
児童後期 動勉対劣等感

老年期の社会的適応の仕方につい 青年期 同一性対役割混乱


成人前期 親密性対孤立
て老年学には相対立する こつの考え
成人中期 生殖性対停滞

があった c
l章参照)。 一つは,-離脱 成人後期 統合対絶望
理論」とよばれるもので,ある一定 出所 人間形成の心理学』ナカニシヤ
中西信男編 r
の年齢を過ぎると社会的な参加 をす 1
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坂 1
989勾
。三

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第 3掌 老年期のパーソナリティと適応、
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る人が減るというデータを示しながら,老年期は社会的な活動から次第に身
を引 いてい くことが,個人にとっても社会にとっても満足の 、
し く状態である
とL寸考え方である。他のもう一つは i活動理論」とよばれるもので,老年

期においても個人にとっては中年期までと同じように活動し続けることが心
理的に安定をもたらすとしづ考えであった。このどちらの考えが正しいかと
いうことで 1
960
年代のアメリカで論争がなされたというが,結論はどちらが
正しいということではなく,高齢者自身がそれまでの人生をどう送ってきた
かということや,高齢者をとりまいている環境によって決まってくるという
ものであった。老後はゆっくり読書をしたり,好きな絵を眺めて暮らしたい
としづ計画は,年金が十分であるときに初めて適うことであるが,生活費が
なければ,仕事につかなくてはならない。
老年期に仕事をしている人の中でも経済的余裕の中で仕事の中に生きがし、
を見いだしている人と,食べるために仕事を続けざるをえない人とでは心理
的には大きな違いがある。したがって,老年期はどのような生活パター ンが
適応のパターンかということをいちがし、に決めることはできないと言える。
レイチヤード C
Rei
cha
rd,S
.,1
962)は,老年期の適応のパターンとして次の
五つに分類しているが, これも,アメ リカという 一つ の文化圏で, しか もず
っと仕事をもって定年を迎えた人を対象にした分類であり,老年期の普遍的
な適応パタ ーンとは言えない。
(
1) [円熟型〕 悠々自適タイプで,それまでの人生に満足し,現在も満足し
てい る

(
2)[安楽椅子型〕 人に依存 して 安楽に過ごそうとするタイプ。
(
3) [装甲型〕 老齢ということによる不安を,若い人には負けないように頑
張ることで防衛しようとするタイ プ

(
4)[
攻撃型〕 自分が年をとっていること,自分の送ってきた人生などなに
もかもに不満をもち,腹をたてていつも怒り っぽく ,他人に攻撃的なタ
イフ。

(
5) [自罰型〕 すべてに悲観的で他人に関心を示さず,自分の中に閉じこも
, 自分を責めたてて究極的には自殺をするタイプ。

五つのタイプのうち, ( は適応型,(
1)-(3) 4)-(
5)は不適応型であるとレイチ
ヤードは述べている。

5
1
第 I部 老 人 心 理
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o より良い適応を求めて

老年期の発達課題が「統合」にあるとエリクソンが述べていると 4項で書
いたが, この課題が達成されることによ って, より良い適応(サクセスフノレ・
エイジング〉を迎えることができる。つまり,サクセスフル・エ イジング と
は,各年齢段階において起こる個人的欲求,身体的変化,社会的環境の変化
に適応 して,いかに上手に年をとっていくかということである。
ニュ ーガーテン CNeu
gar
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.L 1
.,96
3)は,サクセスフノレなエイジングを
迎 えることのできた人には次の五つの要素が満たされて い ることが必要であ
ると述べている。
① 生活の中のい《つかの領域で、何か熱中するものをもっていること。
② 自分が過ごしてきた人生について良し悪しは別として責任をもってい
ること。
③ 自分の主たる目標としていたこと,望んでいたことは達成できたとい
う気持ちをもっていること。
④ 自分を価値ある人間と考え肯定的に見つめることができる。
⑤ 楽観的な態度をもっていること。
彼女らは, これらの五つの要素からなる LSIC
Lif
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tis
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ex)C

活満足度尺度〉を作成し,どのような条件が生活満足度に影響を与えるかを分
析している。その結果, 多くの 研究に一貫 していたことは I健康」であっ

た。これは,主観的にみても,医師による客観的な評価 も同 じで,老年期の
適応にとって 「
健康」 のもつ意味がいかに大きいかという ことがわかる。
一般 に,健康は社会経済的 な条件 と相闘が高いと言われるが,その要因を
一定に しても,健康のもつ意味は大きい。藤 田(19
80)が老人大学生を対象に
して LSIを用いて行った調査では,入学から l年後の卒業時にはかなり得点
が上昇し,人間関係の増大とし、う社会的環境の変化の与える影響が大きいこ
とを明らかにしたが,その前提には「健康」があった。健康を害 して自分の
ことが自分でで きないような状態になった人はそう でない人より生活満足度
ははっきりと低い値を示 し I健康」の重要性が改めて確認された。 しか しだ
から といって寝たきりになった人には,サクセスフル・エ イジングは望めな
いと い うわけではな し、。特別養護老人ホームや老人保健施設,老人病院ある
いは在宅などでの介護は,寝たきりにならさるをえなかった人と共に生きる

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第 3章 老年期のパーソナリティと適応
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1

ことの意味 をどう支え合えるのかと い うことを追求 し続けている場である。


最近クオリティ・オブ・ラ イ フということがよく言われるが, これは生き
ることの意味,質をどうとらえていくかということで,生産にたずさわって
いる人生のみが意味あるのではなく,生き方の中に多様性をもち,生きると
い うこ との本当の意味を探し ていこ うとするものであり,ホスピス運動の中
から出てきた考え方である。老年期はまさにこの,クオリティ・オブ・ライ
フをみずからの中にどう位置づけられるかということが大きな課題であり,
その課題を解決できるような自分を発見できることがサクセスフル・エイジ
ング と言える で あろう し,介護とは,食事ーや排1lli:のお世話だけでなく,高齢
者の生きがし、をも支えていくことにあると言えるだろう。

7

(
1) Mortime
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s 982,p
p.2
63-
313
.
(
2
) 下仲順子 『 , 1
老人と人格』川島書庖 988年

(
3
) 藤 田綾子「前期老年層と後期老年層 J W老人問題研究~ 1
987
年, 7
5-8
2頁。
(
4) Lieberman,M.A.andFalk,
“ Therememberedp
asta
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965,p
p.1
32-
1
41.
(
5) I S
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976,p
p.1
60-
188
.
(
8) E
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959
(
9
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Atherton,1
964.
(
1) 藤田綾子「老人における生活満足度 J F老人問題研究 ~ 1
980年
, 2
7-3
8頁。

5
3
第 4章 老 年 期 の 異 常 心 理

老年期においては,心の異常・精神の疾病を引き起こしやすい。その特徴
として次の四つがあげられる。
① 老人は身体の病気をもっていることが多い(高血圧,脳血管障害,心臓
病,糖尿病,貧血,骨や関節の病気,白内障など〉。
②脳の老化と関連をもっ 加齢とともに脳の細胞は毎日 1
3万個ずつ死滅
するとし、う生理的現象とともに動脈硬化などの 2次的変化が起こり,そ
のために意識の変化を起こしやすい。
③ 身体機能と精神機能の関係が密接である。単なる感冒や骨折による身
体の衰えに伴って抑うつ状態や痴呆が現れたりする。逆に抑うつ状態や
痴呆が高度になると脱水や寝たきりなどの全身機能の低下を伴う。
④ 環境的要因に強く影響を受ける。家庭内の対人関係や配偶者との死別,
転居などによる環境の急変により影響を受けやすし、。
老年期はこのような背景をもち,心理的社会的因子,老化因子,遺伝的因
子,生活史的因子等の多くの因子がさまざまに組み合わさり,心の疾病は発
病にいたる。

7 器 質I
J
生精神障害と痴呆

脳自体の変化によっておこる病気あるいは脳以外の身体の病気が脳に影響
を与えて病的な変化を脳におこす病気で,主たる症状は痴呆である。

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第 4章老年期の異常心理
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E ・ 「痴呆」とは何か

痴 呆 と は rし、ったん獲得された知能が,脳の器質的障害により持続的に低
下すること」であり,このため,いままでできていたことができなくなり,
日常生活にも支障をきたし,何らかの介助が必要となってくる。
意識混濁やせん妄などの意識が低下する場合も一過性の知能障害を認める
ことがある。しかしこれは,意識が戻ればまた状態が回復するので痴呆とは
言わな い。
また,生後間もなくから知能の発達が停止した精神遅滞(精神薄弱〉も痴呆
とは言わない。
時として心理的な原因によって一見痴呆に似た状態が出現することがある
けつ病,神経症など〉。これらは薬物や心理療法などにより,元の状態に戻り
うるもの(可逆性〉で仮性痴呆(後述〉とよばれ,本来の痴呆と区別する。

D 健康な老人のもの忘れと痴呆性老人のもの忘れの比較

健康な老人でも,年をとって 4
-1 健康な老人のもの忘れと痴呆性老人の
きたために起こる“生理的(老 もの忘れ

化)なもの忘れ"と“知的機能の 普通のもの忘れ 痴呆性老人のもの忘れ

低下によるもの忘れ"とは区別 生理的な脳の老化による 脳の疾病による


体験の一部分を忘れる 全体を忘れる
されるく4
-1)

進行しない 進行する
老化 による“ぼけ"と痴呆と 失見当なし 失見当あり
は混同されることが多く,年齢 自覚している 自覚していない
日常生活に支障なし 支障あり
的にも症状を悪化させてしまう
問題行動なし 俳佃,幻覚・妄想あり
結果を招きやすし、。
出所 「これからの痴呆性老人対策 j (厚生省保健医療局企
) より改正。
図書R

EI 痴呆性老人の出現率
1
993(平成 5)年度のわが国の 6
5歳以上人口 に対する在宅の痴呆性老人の出
現率は 4.8%であり,約 8
0万人と推計されている。
病院や老人ホーム等の施設に入院,入所している者を含めるとその出現率
は約 5.
5%と言 わ れ ている。
痴呆出現率は年齢と関係が深し、。 4
-2は東京都の 3回の調査であるが,痴呆

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5
第 I部 老人心理
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-2年齢層別にみた痴呆の出現頻度
(
%)
2
5

一一 1988年 調 査

一一 1980年 調査
0ト
2 - --1973年調査

1
5

1
0

065 6970 7475 7


9 80 8485 (
歳)
(東京都における調査〕

の出現頻度を年齢層別に示してある。その出現率は加齢とともに上昇し,特
に8
0歳を超えると上昇率が高くなることがわかる。

D 痴呆の程度の評価スケール

知能低下を主な症状とする老年期の痴呆疾患に対し,知能検査は欠くこと
ができなし、。知能がどの程度障害されているのか,また痴呆の重症度を決め
る具体的な目安となる。
痴呆の評価表は,知能の低下を評価するテストと,痴呆性老人に伴う感情
の変化,性格の変化,行動異常, 日常生活能力などを含めた総合的に痴呆を
評価するものと 2種類に分けられる。しかし,評価点のみによって痴呆と診
断することはできない。診断はあくまでも専門医のもとで行う必要がある。
一連 の流れとして,スクリーニングにより,痴呆の疑いのある老人を早期発
見,早期診断および治療に結びつけることと,明らかに痴呆の場合,その程
度を判定し,その程度に応じた処遇を行うことに利用する 。


多 長谷川式簡易知能診査スケール
わが国では最もひろく利用されているものである。ただ し,動作テストの
ないことは知能テストとしての限界を示す (4-3)。

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第 4主 老年期の異常心理
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4
-3 長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)

氏名 施行日 年 月 日 施行者名

生年月日 M.T・S 年 月 日年齢 歳男・女施行場所

備考(教育年数・ 年

廿
質 1
払 内 配 占


作』

1 お歳はいく つですか (2年までの誤差は正解〉 1



今日は何年の何月何日ですか?何曜日です か ? 年
。 l

2
年月日, I
( 罷日が正解でそれぞれ 1点ずつ〉 月
。 1

隠日 。 1
1

3
私達 が今いるところはどこですか?
(自発的に出れば 2点
, 5秒おいて,家ですか?病院ですかフ施設 。 1 2
ですか?の中から正しい選択をすれば 1点〕

これから 言う三つの 言葉を言ってみ てくだ さL。




あとでまた聞きますのでよく覚えておいて下さい。
。 1
4
(以下の系列のいずれか一つで,採用した系列に O印をつけておく )
1 ・a)桜 b)猫 c)電車 2 a)梅 b)犬 c) 自動車
。 l
l

1
00から 7を順番にヲ│いてください。 。
5 10
( 0-7は フ そ れ か ら また 7を 引 く と ? と 質問する 。最初
の答が不正解の場合,打ち切る〕
(
9
(
3)
86) 。 1
1


6
私がこれから言う数字を逆から 言っ てくださ L、
(
6-8
-2,3
-5-
2-9

)(3桁逆唱に失敗 したら打ち切る 〉
2
8
9
2
6
53 。 1
l

先ほど覚えてもらった言葉 をもう 一度言ってみてください。 a 0 12


7 (自発的に回答があれば各 2点,も し回答がない場合, 以下のヒント b o1 2
を与え正解であれば 1点
〕 a)植物 b)動物 c)乗 り物 C o1 2
これから五つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言
8 ってください。
。 1 2
3 4 5
(時計,鍵,タバコ ,ベン ,硬貨など必ず相互に無関係なもの〕

知 って いる野菜の名前をできるだけ多く言っ てく ださ L、
〔答えた野菜の 名前を右欄に記入する。途中で詰 ま り

「ーーー ー
ーーー ー-

。 l 2
9 約10秒待 っても でない場合にはそこで打ち切る〉
5個までは O点, 6個 = 1点
, 7個 =2点, 3 4 5
81図=3点, 9個 =4点
, 10個 =5点

3
0 満点
l合計得点

カットオフポイ ン ト 2
0/21(
20以下は痴呆の疑いあり〉

5
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川1│

4
-4 行動評価による老人知能の臨床的判定基準(柄津)
判 定 日常生活能力 日常会話・意思疎通 具体的例示

正 (-) 社会的,家庭的に自立 普 i
菌 活発な知的活動持続〈優秀老人) I
常 (
土〕 同 上 同 上 通常の社会活動と家庭内活動可能

-通常の家庭内での行動は -ほぼ普通 -社会的な出来事への輿味や関心


ほぼ自立 が乏しい
-日常生活上,助言や介助 -話題が乏しく,限られている
は必要ないか,あっても -同じことをくり返し話す,訊ね
軽 度 (+1
)
軽度 る
-今までできた作業(事務,家事,
買物など〕にミスまたは能力低
下が目立つ


-女[1能低下のため, 日常生 -簡単な日常会話はどうや -思1れない状況で場所を間違えた


吊g.
活が一人ではちょっとお ら可能 り道に迷う
中等度(+2) ぼつかない -意思疎通は可能だが不十 -同じ物を何回も買い込む

衰 -助言や介助が必要 分,時聞 がかかる -金銭管理や適正な服薬に他人の


援助が必要
退
-日常生活が一人ではとて -簡単な日常会話すらおぼ -馴れた状況でも場所を間違え道
もむり つか ない に迷う
高 度 (+3) -日常生活の 多くに助言や -意思疎通が乏 しく困難 -さっき食事したこと,さっき言
介助が必要。あるいは失敗 ったことすら忘れる
行為が多く目が荷t
fせない

-自分の名前や出生地すら忘れる
最高度(+4) 同 上 同 上 -身近な家族と 他人の区別もつか
ない

移 行動評価による老人知能の臨床的判定基準(柄津式)
行動面の変化に着目した評価表である (
4-4
)。


多 国立精研式痴呆スクリーニングテスト
一般老人の中から, 的確にスク リーニ ングすることを目 的として標準化さ
れた簡易テストである (
4-)。
5

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第 4章 老 年 期 の 異 常心理
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4
-5 国立精研式痴呆スクリーニング・テスト

検査日平成 年 月 日 曜日
氏名 男・女 検査者

問 題(正答または採点方法〉 回答 正 0,誤×

あなたの生年月日を教えて下さ L。
、 年
〔採点は,年と月日を別々に行う。年号は採点しない〉 月 日

今 日は,何月何日 ですか。 月
(採点は,月と 日を別 々に行う〉 日
昨日は,何限日 でし たか。 隠日
5月 5日は,何の日ですか。(子供の日 ,端午の節句,男子の節句,菖蒲の節句〕
成人の日は,いつですか。(1月 1
5日〉
信号が,何色の時に道路を渡りますか。(青〕
手びますか。(伯母〉
母の姉を,一般に何と l

妹の娘を, 一般に何と呼びますか。(姪)

太陽は, どの方角から昇ってきますか。(東〉
西から風が吹くと,風船はと.
の方角へ飛んで、行きますか。(東)

北を向いたとき ,右手はどの方角を指しますか。〔東)
これから文章を読みます。読み終わった後 rは
し、」 と言ったら ,私の読ん
だ通りにくり返 して下さい。(ゆっくり読む)
「みんなで力を合わせて 綱 を 引 き ま す J (一字でも間違えたら誤り)
1
8たす 1
9は,いくつですか。 (
37)
2ひく 1
3 6は, いくつですか。(16
)
これから数字を言います。「は L、」と 言っ たら ,すぐくり返して下さい。
(ゆっくり読む〕 (
順I昌
1〕 3-6- 4- 8

また数字を言いますが, 1) 9-2
(
(逆唱〕
今度は rは
し、」 と言ったら, (
2)2-4-6
逆の方向から言って下さい。 (
3
) 7- 1-6-5
│得点 (0の数〕
川在認事項│生年月日:明・大・昭 年 月 日生年齢 歳
現住所:
既往歴 :


半│阪指導│得長

-10

問題あり
定 指導
s
痴呆:が !Ilく疑われますから ,必ず専門医を受診 して下さい。
1
1-15 境界群 痴呆が疑われますから ,専門医を受診することをお勧め します。
1
6-20 正常 現在のところ 問題ありません。

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-6 N式精神機能俊査
教 ホ(留意事項〉 回答・課題 *粗点
A 年齢は? (満も しくはかぞ え


*誤答を 0,正答は 1とする 。以下同様 ① 0, 1
B 今 日は何月何日ですか? 月 日 ② 0, 1
C この指(薬指)は,なに指ですか?
(患者の指をさわって,指の名を言わせる〉 正 誤 ③ 0, 1
D (動作で示して〉この ように片手を グー ,もう 一方の手をパーにし
て下さい。次に,このようにグーの手をパー,パーの手をグーとい
うようにして下さ L、。左右の手が同じにならないようにくり返して 正 誤
下さし、。
*5回以上のくり返しを正とする。 ④ 0, 1
E この時計は何時何分になっていますか?
(下の時討を示す。 他の部分は隠す) 時 分 ⑤ 0, 1
F 果物の名前をできるだけた くさん,できるだけ早く言って下さ L。

私が「始め」と言ったら,すぐ言い始めて下さい。「始め Jo (患者の
言う とおりの順序で記入〉
*30秒以内の正答数 4以上を正答とする。重複は数えない。 ⑥ 0, 1
G これから私が読む話を最後まで聞いて下さい。私が読み終わったら きのう 東 京 の 銀 座 で
今の話の覚え ていることを思い出して 言っ て下さい。どんな順序で 火事があり 1 7軒
もよろしい。最後までよく I
l
f
J¥,、て下さい。(右欄の課題を明│僚に読み 焼けました。 女の子を
聞かせる。採点はしなしつ 助けようと して 消防士が
火傷をしました。
H 1
00から 1
7をひくと P 正誤 ⑦ 0, 1
これと同じ絵を書いて下さい。(裏面の図を指示し,空白部に記入さ
せる〕 (裏面) ⑧ 0, 1
*何も 書 けない =0 何か活ける =1 完全に書ける =2 2
J 少し前に覚えていただいた話を,今,恕t
¥,、出してもう 一度百って下 きのう 東 京 の 銀 座 で
さい。火事の話でしたね。 火事があり 1 7軒
*正答句数 0=0 1= 1 2-6=2 7-10=3 焼けました。 女の子を
助けようとして 消防士が ⑨ 0, 1
火傷をしました。 2, 3
K 今から私がいくつかの数字を言いますからよく 聞いて下さし、。私が
言 い終 ったらすぐに逆の方向から言って下さい。例えば 1, 2の逆
は 2, 1ですね。(1秒に l数字の速度で読み聞かせる。最後の数字 1) 2J
は調子を少し下げて読む) (2桁の1)2 4から始める。失敗すれば同 24 5
8
じ桁の 2J 58をする。失敗すれば,中止する。正しく逆唱できれば, 6
29 4
15
次の 1J629に進む。失敗すれば, 2J41
5をする〕 ⑬ 0, 1
*2桁失敗 =0 2桁成功, 3桁失敗 = 1 3桁成功 =2 2
L これから私の冨う文章を書いて下さい。
「山の上に木があります。」 (裏面〉
(
哀面の空白部に記入させる 。患者が聞き直す場合は,
み聞かせ る

M 声を 出して読んで下さい。
くり返し説 正 き~、

。 0, 1

(
下の「男の子が本を読んでいる」を正位置にして示す。他の部分 正 誤
は隠す〉 ⑫ 0, 1

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-7 N式精神機能検査 (裏面) 4
-8 集計表

江 df。
a
B寺計 b図形模写 c
ff
L字
1 2 3




が ①年 l
胎 8
本 ②月 日 3 8
t

r
t
J
ん ③指 の 名 2 7

p
④運動メロディー 4 6

⑤時 言
十 1 8

⑥果物の名前 -2 1
0
• N式精神機能検査(西村式)
動作性テス トを含んでいるた ⑦引 き 算 4 6

め,運動障害のある老人には施 ③図 形 模 写 -3 4 1
2

行できない (4-6)。 ⑨物 語 再 生 。 5 8 1
2
他に,西村式で, N式老年者 ⑬逆 昌
1
1 -2 3 1
0
用精神状態評価尺度 (NMスケ
⑪魯 き 取 り 3 7

ノレ, N式老年者用日常生活動
)
⑫説 子
{ -1 6
作能力評価尺度 (N-ADL) が
合計得点〔
ある。

粗J互に対応する得点を合計する 〕
これらは,老人の行動や 日常 2
9点以下 (重度痴呆 8
0-94点 (境界〉

生活機能の観察による評価に基 3
0-5
9点 (中等度痴呆 9
5点以上 (
正常〕
60-79点 (軽度痴呆)
づいて判定できるスケールで、あ


検査の Iは4
-7を指示する o
集計方法は4
-8を用い①から⑫の各間の組点 O・1,あるいは 1, 2, 3
の粗点に対応する得点を与えて合計する。すべて正答は 1
00点,すべて誤答は
9点である。

D 痴呆性老人にみられる一般特性と対応

痴呆性老人は知能低下に加 え,精神症状,問題行動, 日常生活能力低下と


いった症状が伴い,その介護は難しい。痴呆性老人の一般特性と対応をま と
めると次のようになる (
4ーの。

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-9 痴呆性老人の特性と対応
日記憶力障害
日時 ・場所の見当識障害
│基本症状│
計算力の障害
理解力・判断力の障害
介助および
着脱衣行為の障害
介護
食餌摂取行為の障害
日常生活
排尿 ・排便行為の障害(失禁〉
能力の障 害
入浴行為の障害
歩行の障害(寝たきり〉



11111111111llllllll rIllllllhll'lllllla
俳佃,独語叫戸,昼夜の区別不能,

と護
主介



攻撃的行為(暴力),破衣行為,不潔行為


精神症状および (弄便),弄火,収集癖,盗癖,わいせつ
問題行動 行為,人格障害

J
拒食,自傷, 自殺企図,不│
民,情動,輿菅 │主として
せん妄,抑うつ,燥状態,幻覚,妄想 l医療

D 痴呆の原因

痴呆の原因については,脳血管性痴呆とアノレツハイマ ー型痴呆とが代表的
であり,その他いくつかの脳器質性疾患を述べる。

修 脳血管性痴呆
原因 脳の動脈硬化 に基づく脳循環障害によって起 こる脳梗塞や脳 出
血等の脳血管障害(脳卒中)の結果生じる痴呆。脳血管障害の原因は多様で
種々の身体の病気(腎臓病,高脂血症,高血圧症,糖尿病, 心臓病など〉や食事
習慣,アルコ ーノ

, 肥満,心身の過労,生活態度が直接,間接的に血管に悪
影響を及ぼす。

襲 頻度
, 発病年齢 5
0歳代からもみられるが 6
0歳以上に発病することが多

, 加齢とともに頻度は増す。女性に比べ男性に多し、。わが国においては,
欧米諸国と異なりアルツハイマ ー型痴呆より多い。

襲 症状 初期症状と して,もの忘れ,頭重,頭痛,めまい,耳鳴りなどの
自覚症状や不眠を伴 う症状を特徴と して
, 日常的 な判断,理解力が比較的保
たれ,知能のおかされ方にむらがある。ある面では しっかりしたことを言っ
たり,振舞ったりできるのに,ある面では,まったくつじつまの合わぬこと

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第 4章 老 年 期 の 異 常 心 理
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-10 原因による痴呆の違い
アノレツハイマー型
脳血管性痴呆
痴呆

はじまり 急に始まる ゆっくり始まる

高血圧,脳卒 中
身体症状 !
J'!
i.に
ない
脳動脈硬化症

頭痛,めまい
自覚症状 運動障害,知覚障害 特にない
舌のもつれ

軽い,部分的に低下
知能障害 重い,全般的に低下
まだら

感情のコントローノレ
感情障害 抑うつ的,情動失禁
が乱れがち

脳卒中発作のたびに
経 過 ゆっくり進行する
悪化し階段状に進行

を言 し、,“勝手なぽけ方"と思われる面もある。脳への 血流 がうまく流れてい
る時はうまくつじつまがあうが,血流が悪い時はつじつまの合わないことを
言ったり,一過性の虚血発作を起こ したりする。そのため“まだら痴呆"と
も言われる。
感情が よ く変わりやすく(易変性),少しのことで涙を流したり,怒りっぽ
くなったりする(情動失禁〉。脳の 血流障害のために容易にせん妄状態(特に夜
間せん妄
〉 になる。人格はアルツハイマー型痴呆に比べて比較的よく保たれて
いて病識・病感 (病気であると いう意識,感じをもっ〉が失われ な L、。脳梗塞,
脳出 血 による身体症状として片まひ,言語障害,知覚障害,巣症状(失行,失
語,失認〉などを伴う。

襲 経過 と予 後 症状の動揺性を示し階段状に進行し,末期には高度の痴呆
状態にいたる。経過中多くは卒中発作や身体合併症 (特に肺炎〉により死の転
帰をとる。

援 予防 ①本症は高血圧,高脂血症,腎臓病等の原因の病気への薬物療法
は欠かせない(高血圧に降圧剤,動脈硬化に対し,脂質代謝賦活剤や脳血管拡張
剤,脳代謝賦活剤等〉。②心身の過労を避けさせる。急激な心理的および精神的
ストレスを受けさせないよう環境調整を行う。③食事療法,特に食塩, 脂肪,

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糖分の過多摂取の制限を行う。

務 アルツハイマー型痴呆
アルツハイマー病とアノレツハイマー型老年痴呆は,それぞれ初老期および
老年期にみられる痴呆性疾患であり,その脳病理所見に差がないことから,
両者を併せてアノレツハイマー型痴呆と呼ぶことが多い。

警 原因 原因不明の脳の変性疾患である。脳病理学的には大脳皮質のびま
ん性萎縮,顕微鏡的所見として老人斑,アルツハイマー原線維変化(変性した
線維),穎粒空胞変性(穎粒状の穴があいた形〉などがみられる。

襲 発病年齢・頻度 通常 7
0歳以上に好発する。発病は緩徐なことが多 いが
骨折やその他の病気,肉親や知人の死,精神的ショックなどを契機として発
病することもある。頻度はおよそ 1-2%内外と推定される。一般に加齢と
ともに増加する。性別は,男性より女性に多し、。
務 症状初期症状には最近の記憶の障害が目立ち,表情や感情が今までと
比べやや硬くなり,その人らしさ,気配りなど高等な精神機能から失われて
ゆく。
ひどくなると,今食事したことや,今会った人のことも忘れてしまう。新
しいことを最も早く忘れるが,古いことや感動的な事柄は比較的よく保たれ
ている。病気の進行とともに徐々に古い記憶もさかのぼって忘れてゆき, 自
分の家の住所,年齢,家人の名前,ひいては自分の名前も忘れてしまう。
物忘れをつくろうために,しばしば思いつきや,で、たらめとも言える当惑
作話をすることがある。場所,時間の見当識も失われ(失見当),自分の居場
所もわからなくなり,外出しても自分の家へ帰れなくなる。
しばしば,自分で置いた場所を忘れたり,必要なものが見当たらないと,
盗まれたと思い込み,確信をもって訴える,周りの者が捜し出したり誤りを
指摘しても「私が騒いだからこっそりかえしたのでしょう」と自分の判断を
訂正することがない。時には腰紐やカーディガン l枚で,周囲の者(
家庭にあ
っては嫁であ ることが多 く,施設では寮母や看護婦であったり,近所の人であるこ
ともある 〉を犯人にしたてて警察に届け出たりする。
家族や親しい人のこともわからなくなり,誤った人の名前を呼ぶ(人物誤
認〉 こともある。
知的機能低下とともに,計算力,判断力,理解力も不良となり,周囲に対

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1 痴呆の時期別の症状

時 期 症 状

第 I
J切 │・記銘力障害 ・失見当
(1-3年) I・定、欲の障害 ・抑うつ

-会話が成り立たない ・失計算 ・視空間失認


第 IJ
mI・着衣失行 ・構成失行 ・人物誤認 ・失語
2-10年)I・t
( Jl
個 ・多幸症 ・落ち着きのなさ 〔
多動)
-鏡現象 ・姿勢異常 ・不潔行為 .jA摩

l ・ほぼ言葉が失われる ・無欲,無動
IJ
第I
I t
i
J I
│・寝たきりの状態 ・四肢固縮 ・屈曲姿勢
(8-12年)I
・失外套症候群

(松下正明による分類〕

する関心 も乏 し くなる。話 し方もゆっくり でまわりくどく,考える 内容は,


乏 し く, うつろで,独断的で柔かさが失われる。感情面では, 日常の習慣的
な対応や礼儀などは割合よく保たれているが細やかな感情の表れは失われて
ゆく。
一方,着衣にも無頓着となり,だらしない恰好でも平気であったり,人の
物を黙って持ってきたり,人の物を食べたり(盗食),つまらないものを拾い
集めたり(収集癖),ガス栓の閉め忘れ,電灯のつけっ放しも平気であった
り,弄火などの種々の問題行動が見られるようになる。痴呆が高度になると
周囲への関心も示さず,感情は鈍麻し,あるときは上機嫌であったり(多

), ときに少しのことで、興奮や衝動的な行為が現れたりする。
警護経過 と予後 経過は, 一般に緩慢であるが,常に進行性であり,末期は
高度となり ,寝たきりで,四肢硬直,無為で大小便失禁を伴う植物状態に い

たる。死因は,全身衰弱や肺炎などの感染症による ことが多 し、

襲 予防 現在のところ痴呆を回復させたり,予防する方法というものはな
い。ただ,痴呆の促進因子ともなりうる 心理的悪要因の除去,身体の病気の
発病はできるだけさけることがよい。


量 初老期痴呆
初老期とは通常5
0歳前後から 6
4歳までの聞をさしている。この時期は脳を
含め全身の老化現象が目立ちはじめ,心身の変調をきたしやすい。

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援 アル ツハ イマー病 1
906
年 ドイツの病理学者,精神科医アルツハ イマ←
CAl
zhe
ime
r,A
.) によって報告されたのが最初である。アルツハイマ ー型痴
呆 と質的 には同ー の病気とし、う説が強い。
かなり速やかな経過で進行する。症状,脳病理学変化 はアノレツハ イマー型
痴 呆 と同じである。頻度は初老期痴呆の中では高く,男性に比べて女性に多




警 ピック 病 1
895
年ドイツの病理学者ピック C
Pic
k,A.) により失認,失
行症などを伴う病気の報告をされたのが最初である。大脳の 一部が萎縮する
病気で,前頭葉や側頭葉の萎縮が起こりやすく,前頭葉がおかされると無為,
無言,無関心,無頓着などの症状が,また側頭葉がおかされるとむら気,怒
りっぽい,無遠慮,乱暴,性的ふしだらなどが軽度の知能の低下と ともに 出
てくる。原因は不明であるが遺伝を重視 している学者が多 し、。発生頻度はア
ルツハ イマー病に比べ少ない。わが国では女性に比べ男性にやや多 い。


務 正常圧水頭症
中年から老年期にみられる病気で,痴呆と不安定な歩行と尿失禁が 3大症
状である。
脳は,頭蓋骨の 中の三つの膜(脳膜外側から,硬膜,クモ膜,軟膜〉に包ま
れ,脳脊髄液の中に浮いている。この脳脊髄液の流れがうまく調節されなく
なると脳が圧迫されて痴呆状態となる。発病後,半年以内にシャン ト手術で
症状がよくなることもある。

後 せん妄
老年期では種々の原因で、たやすく起こる。

警 原因 脳の循環障害を伴う場合にはそれだけでせん妄の原因になる。 し
かし,はっきりした脳器質性疾患がなく とも次の原因で誘発されることが多
し、

(
1) [脱水,栄養失調〕 全身衰弱,水分の摂取が十分で、なかったり,下痢や
日匝吐が続きせん妄を起こす。
(
2) [感染症〕 肺炎,尿路感染 (蹄脱炎,腎臓炎〉にかか りやすく,その発熱
等により生じる。
(
3) [外傷〕 骨折,外科手術,頭部外傷にひき続いて起こりやすい。

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第 4章老年期の異常心理
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(
4) 心臓や腎臓の病気で心不全,腎不全を起こ した際に起こりやすい。

(
5
) [薬物〕 抗うつ薬,抗精神病薬,降圧剤,睡眠薬などで起こりやすい。
(
6
)心理的なものの誘因

襲 症状 軽度あるいは中等度の意識混濁と,錯覚(実際にある対象を誤って
知覚すること 〉や幻覚 (1対象な き知覚」 をいう。 何ら外から感覚刺激がないの
に,感じられる異常体験〉と,興奮や不穏多動を伴う。

襲 発病 かなり急激で老年期においては夜間に好んで起こりやすし、(夜間
せん妄〉


援 経過と予後 多くの場合 ,2-3日から 1週間で適切 な対応や治療にて
原因除去により回復する。老人では脳器質疾患があると,せん妄がときに長
びき,全身衰弱から死亡することもある。
務 予防 ①せん妄を起こす原因を除去する。②十分な水分補給,ビタミン
剤の補給など栄養管理も大切。③夜間に適当な照明 (部屋を暗くするこ とはせ
ん妄を長びかせる〉をつける。④薬を使用時に注意、 して投与する。⑤睡眠を十
分にとる。生活のリズムを規則正しく整える。

物 脳 腫蕩
, 脳血腫(特に慢性硬膜下血腫)
脳に何かできたり(脳腫蕩),頭部外傷により血腫ができたりして,脳を圧
迫されて, うまく働かず痴呆状態になる。早期に原因を見つけ,脳外科で摘
出術を行 えばよく なる可能性がある。

2 機能性精神障害

老年期には真の痴呆でないのに痴呆のような状態を示 したり,脳に病的変
化がないのに物忘れがひどくなったり,つじつまの合わない話をしたり して
呆けてしまったように見えることがある(仮性痴呆〉。その多くは身体の異常
(
貧血,栄養障害,アル コール症,心臓病)があった り,心理的,精神的な原因
で痴呆のような状態を起こす。

D 老年期うつ病

この年代は喪失の時期ともいうように退職や別離を多く体験し,また身体
や精神の表えも始まる。これらの体験は若い頃に出会っていることもあるし,

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また,多くの老人はこれらを乗りこえて いる。だが老人は自分を支えて いる
平衡がもろくなり,新たに負荷(病気や生活変化〉をきっかけにうつ病に追い
込まれる。生活体験の受けとめ方はその人の性格によっても大きな違いがあ
るし
, 環境によっても変化しやすい。それに脳の老化 による影響も 加わる。
欝 性 格 九 帳 面 , 真面目,責任感が強い,完全癖, 一面融通性を欠く,堅
しゅうちゃく
く(執着気質〉強迫傾向が強い。
務 症状 (
1) [激しい不安と焦燥〕 苛立ち,攻撃性が強く髪をかきむしり,
支離滅裂なことを口走る。
(
2) [無気力〕 訴えも少なく無意欲で,呆然としている。
(
3)[
心気症状〕 動惇, 1匝気,便秘, 心臓の病気などの身体の症状に過剰に
こだわる。
(
4
)[特異な幻覚妄想〕 血管が腐った,脳がとけた,体内に蛇がし 、るといっ
た奇妙な幻覚を訴える。鼻水や唾液がとどまることなく 出ると訴え,チ
リ紙等を過剰に使用する(体感異常症〉。
協 有病率・性別 うつ病やうつ状態は,老若に問わず女性に多い。

警 対応 ①原因や症状に応じて専門医の治療(薬物療法,精神療法〉を受け
る。②カウンセリングや精神療法的接近法によって心因,誘因に対し対応す
る。③環境調整。④全身状態に気をつける。老人は身体疾患を合併すること
が多いので,全身状態 (
食欲,睡眠,皮膚の状態等)に留意する。⑤薬物の副
作用に注意する。

固 老人性幻覚妄想症

初老期あるいは老年期に発病し,明らかな痴呆を認めることなしに妄想・
幻覚,あるいは妄想のみを表す病気である。

審 原因 多くの場合,身体的,精神的原因を伴う,難聴
, 失 明などの感覚
障害を伴ったもの,未婚者,早くからの離婚者, 一人暮らし,もともと孤立
的な変り者。
護 J 4
援 発病年齢・頻度・性7.JI 0歳以降から老年期にかけてであり,発病頻度
は同年齢層の全精神疾患のおよそ 5-10%の割合で,圧倒的に女性が多い。
第 床が
議 病前性格(病気が表れ るまでの性格) 循環気質(社交的,善良,情 l
あり親しみがあると L、う性格で,快活,活発,ユーモアがあるものと,平静,静寂
で気重なものとの両極が適宜に加わっている性質〉。

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第 4章 老年期の異常心理
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警 症状 妄想は被害妄想を示すことが多く,その他,迫害妄想 (
迫害され
たり,財産や生命を脅かされるとし、う妄想),心気妄想(重症な病気,不治の病気
ざいごう
にかかっていると L寸妄想),罪業妄想(問題にもならない些細な自分の行為を非
難 し,責める妄想〉がみられる。妄想対象はほとんど家族,親戚や隣人など身
近な人で,内 容も具体的・世俗的なものである。幻覚は主として幻聴(実際に
は何も聞こ えないのに,音や人の声が聞こえることをいう 〉で
, この他抑うつ感
情を伴うことも多い。
症状で特徴的なことは,人格のくずれ(
感情的な反応が乏しくなり,あらゆる
ことに無関心になる状態。慢性精神分裂病に多い〉や,思考の乱れが少ないこ
と,感'情の交、流が比較的よく疎通が保たれていること。経過は良好である。

襲 予防と対応 老人を取りまく家庭,地域,状況によって症状は左右され
やすいので環境調整が大切である。
この他,幻覚を伴わず,妄想のみ(妄想、病〉の一群がある。この妄想は頑固
でなかなか消退しにくい。この妄想症のなかにはいくつか特殊な妄想の型が
ある。
(
1) [皮膚寄生虫妄想症〕 皮膚(時に腸内〉のある部分に虫がし、る。その虫
は奇妙な虫であったり,蛇であったりする。ときには皮膚の落屑を虫の
死骸と言って示すこともある。ほとんどが初老期,老年期に表 れる。奇
妙な妄想でありながら知的な能力の低下は認められなし、。
(
2) [体感異常症 J r口の中にネパネパした液が出てくる」と口の中に指を
入れて示したり 鼻汁がとまらぬ」と何 も出ていないのにチリ紙を次々
r
と山のよう に使う。このような奇妙な体験は頑固で症状を訴え続ける。

固 老年期神経症

神経症は, 不安を生じるような心理的な問題やストレスに対する反応とい
うことができる。したがって現れる中心症状は不安であり,その不安は種々
の防衛となって解決しようとする。精神分裂病のごとく病識を欠いているの
ではなく,むしろ,病識は過剰である。
老年期神経症の症状はひと口に言 って多彩である。また極度に固定的か,
あるいは極度に浮遊しやすい。

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2 老 年 期 神 経 症 の 発 症 の 要 因 ( 身 体 ・ 性 格 ・状況 要 因 )
身体的要因 性格要因 社会的要因

-加齢 -不安定な融通のきかな い異常性格 -配偶者の不健康


・重篤なおもなる障害 -心配症のヒステリ ー性性格 │・最近の親類 ・子どもとの死別
・主となる身体障害 ・敵対的な妄想を形成しやすい呉常性格│・最近の配偶者その他との死別
・心臓循環器障害 ・不適応を引き起こしやすい異常性格 │・近所づき合いの希薄
・呼吸器障害 ・親戚づき合いの希薄
・筋骨格障害 ・最近の収入の落込み
・消化株障害 ・仕事の不足
・その他の総官系の障害 ・低所得
・運動障害 ・自分の身のまわりのことができない
・中 高度の二次的な障害 ・社会的地位
・通常でない結婚形態

出所:Bergman,

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7 p.5
5.

物 心気症
老年期の中で最も多く,その中には抑うつ症状を混入している。頭痛,め
まい,疲労感,物忘れ, 注意集中困難などいろいろな症状をしつこく 訴える。
それとともに身体の健康に不安をもち,悲観的となり, くよくよ悩む。

@ 不安神経症
不安はしばしば恐れやとまどいの感じを特徴とし,身体的な症状を伴いや
すい。不安はとりとめもなく持続し,何事にもあらかじめ不安を感じ(予期不
安),訴える。時に不安反応を発作的に起こすこともある。

@ 強迫神経症
老年期になって発病することは少なし、。若い噴に強迫傾向(何度も何度も手
を洗ったり,衣類を洗ったり,つまらない行為と思いながらもやめることができな
い,儀式的な行為や考えを型通りやらないと不安が高まる〉があったものが,再
び老年期に再発することがしば しばある。慢性化するものが多い。

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第 4章 老 年 期 の 異 常 心 理
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3 老人の自殺

11 自殺の頻度
高齢者の自殺率は北欧を除いて,大部分の国で全人口の自殺率より高く,
しかも加齢とともに率は高まるのが特徴である。かつてわが国の自殺率の特
徴は青年期に自殺の多いことと老人になると自殺が多発することであった。
最近のわが国の自殺率は青年期のピークは消失し,壮年期の自殺が多発す
るようになった。そして老人の自殺は相変らず高率である。
しかし,老人の自殺率はやや減少の傾向にあり,世界的にも同じような傾
向である。
世界のうちでも,特に高齢者自殺率の高 い国はノ、 ンガ リー,シンガポーノレ,
日本,香港,オ ーストラリア,デンマ ーク等で,低い国は北アイノレランド,
メキシコ,エクア ドル
, コロンピアなどである。
男女差は,他年齢層に比べ大部分の国で男性に多い。世界各国の老人の自
殺率でわが国の女子老人は自殺率の高いことが特徴である。
自殺は耐えがたい環境からの極端な逃避とみることができる。わが国の老
人の自殺率の高いことは,そのまま,わが国での老人が非常に住みづらい状
況にあることを意味していると言える。

.
D 自殺の動機

自殺の動機は,病苦,精神障害,家庭問題,経済問題などが多 い。
病苦は身体の病気のことであり,慢性の病気,難治性の病気,苦痛を伴う
病気などにかかり,そのことを苦に死を選ぶものを指す。
また,精神障害としてはうつ病,老人痴呆の初期,アルコール依存症など
が自殺企図の頻度が高い病気である。
老人の神経症は抑うつ状態、を伴うことが多く,自殺とも関係が深い。神経
症は多彩な症状にもかかわらず自殺の危険性が他 の時期にお いて は少ないの
が普通であるが,老年の場合は,神経症での自殺も多くある。
家庭問題とは,子や孫とうまくいかない,夫婦や嫁姑関係がうまく し、かな
いなど家庭内の対人関係が主である。

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一方,経済問題は収入がないことに伴う問題で,このことは社会福祉の不
十分な国ほど深刻になってしまう。例えば,アメリカの老人の場合(これはヨ
ーロッ パでも同 じことだが)
,彼らは,社会保障制度が確立しているから経済的
に困っていない場合が多いし,息子夫婦に依存しての生活者は少ない。しか
し,物理的にも心理的にも まったく孤独になり,その結果自殺を選ぶ場合が
多い。
日本の場合,まだまだ息子夫婦と 一緒に生活をしている老人が多く, この
依存の対象がくずれるか, また,その恐れのある場合に老人の危機的 な心理
状態が生じやすい。そのため日本の老人の自殺は家族と同居 している人に自
殺が多いことが特徴である。老人が家族とともに生活することは自然の姿で
あるが,家族らしい家族と 一緒に生活していれば自然な姿で幸せであるが,
いたわりのない家族との同 居は,単身で一見孤独な老人よりも自殺の危険性
が高いと 言える。
さらに,自殺を促進する要素としては,死別や離別,社会的孤立,アルコ
ーノレ中毒 などが大きいと されて いる。

EI 自殺の手段と遺書
自殺の手段は,圧倒的に艦死(首つり〉や飛びおり,溺死など,一般に思い
切った,致死度の高いものを選ぶ。これはどの国にも共通しており,少年期
の自殺手段と似ている。
なぜ、こう した手段が多いかと 言え ば,死ぬ意図(希死念慮、〉が強いためで,
長い間かけて手段や場所 を吟味し ,準備 して実行する。このため,一度実行
すると生き残ることが少ないのである。この致死度が高いということでは少
年期と似ているが,心理面では異なる。
自殺に際して高齢者は熟慮していることが多いのに対して,少年期は衝動
性が強く, 唐突で,動機などたわいがないものが多し
、 。 これに対し青年期の
自殺は,睡眠薬や精神安定剤の服用が多く,未遂に終わることが多い。
遺書は青年期では約 3分の lの自殺者が残 し,年齢が老齢になるにつれて
遺書を残す者の割合が減少する。遺書の内容は,青少年では冗長でくどくど
と同じ主張をくり返し,自殺を美化し,合理化するものが多いのに対し,老
人では遺書は短く,周 囲の者に対する詫びや感謝の気持ちを表現しているだ
けのものが多 し

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もともと自殺を決行する者にとって遺書は不要のもの である。遺書は人に
見せるものであり,助けを求める自殺者の心情を示すものである。老人の自
殺がいかに見せかけでなく本ものであるかということが言えるであろう。

s 老人の自殺とうつ病と痴呆の初期

老人の自殺の原因の 82%は精神的な病気であると述べられている。特に老
人の自殺とうつ病との関連は強 い。老人のうつ病の中には,被害妄想(他人が
ざいごう
自分を迫害すると考える妄想),罪業妄想(前述),心気妄想(前述),貧困妄想(自
分を極度に貧しいと考える妄想〉をもったり,慢性の経過をたどることも多く,
治りにくし、。
その原因と して,一つは高血圧,神経痛,糖尿病,胃・十二指腸潰蕩など
の身体的な病気をもっている人が多い。 6
5歳以上の老人の 3分の 2以上が身
体の病気をもっていると言われている。
もう一つは,常に持続的 な心理的 ス トレスが加わっている場合である。家
庭内の老人には家族内の人間関係の歪みによるうつ状態が続いており,ささ
いな動機で死に直行する。うつ病の他 に痴呆の初期があげられるが,痴呆そ
のものは本来自殺と関係をもつものでないが, 自殺の危険が高いということ
は,痴呆の初期において,精神機能(物忘れ, 表情 の鈍さ等〉の低下により,
老人自身が非常に苦悩しているからである。

D 老人の自殺者の心理的特徴

1)[身体の病気,衰弱〕
( 糖尿病があり,目や心臓が悪くなり ,手足が不自
由になっているなど, こう した身体上の問題一つひとつは必ずしも重篤
でないが,本人にとってはそれらが重なると重篤に感じられ,生きる意
欲を失うように思いがちである。ことに苦痛を伴うもの,慢性や難治性
の病気などではその程度が著しい。
(
2) [孤立無援感〕 現実とは必ず しも一致 しないのに,自分が一人ぼっちで
あり,誰からも相手にされず手を差しのベてくれないと感じることで,
こ うした心情は,老人のみならずあらゆる自殺者に共通 した点で、あり,
防止 の際には大きな糸口となる。
(
3)[
抑 うつ気分〕 気分が沈み,さびしさ,悲しさ,物事の悪い面ばかり目
について, 心が浮いてこない。最も信ずべき人まで信じられなくなり,

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未来も閉ざされ, どうしようもないように思えて しまう。そ して疲れ切


り,のがれ難く,いっそ深く眠って目が覚めなければよいと願ってしま
う。こうした心'情は抑うつ気分とも関係している。
(
4)C
生きがい,よりどころの喪失〕 人は誰でも何らかの生きがし、やよりど
ころがあり,それを求めて生きている。ところが自殺する人は生きが い

よりどころを失って死を選ぶ。例えば,夫がよりどころであった妻は,
それを失ったときから虚脱が始まり,心理的に不安定が始まる。
(
5)C
迷惑をかけたくない心情〕 自分一人が苦しんだり悩んだりするだけ
ならまだ耐えられるが,老人の場合,家族や周りの人に迷惑がかかる場
合が多い。糖尿病が進んで,寝たきりになったらどう しよ う。家族に迷
惑がかかるとなると老人にとっては耐えがたい ことにな って しまう。わ
が国の老人は特にこれらの迷惑をかけたくない心情が強く ,そ れくらい
なら死んだ方がましだという心情が広くいきわたっており,ポックリ寺
参詣の絶えないこともこのことによく表れている。
(
6)C
老醜を哀れむ心情
〕 年をとって醜い姿をさらしたくないという思い
で,これもわが国で古くから言われている。まだ若さがあり,惜しまれ
ながら死にたいという考えや価値感が強い。

D 老人の自殺行動の心理

自殺行動の心理には,①殺したい願望,②殺されたい願望,③死にたい願
望の三つがあり, どの自殺例をとっても,程度の差こそあれ,この三つの願
望が存在しているとしづ。「殺 したい願望」というのは,衝動的でいわば,敵
意 とか憎し みの感情である。この感情が外へ 向けて出せれば問題はな いのだ
が,憎しみとなる対象が本人と密接な関係にある人(妻,同胞,親等〉であっ
たり,また時に対抗できない社会的圧力であるため, この願望がおさえられ,
愛情と憎しみ,相手の存在と敵意との間で葛藤がますますこの願望を強める
と,それは心の中にこもって自分を責めるようになる。
「殺されたい願望」とは殺したい願望が中に向かつて自分を責め,非難す
るようになったもので,罪悪感として表れる。この感情がうつ状態の強い時
に落ち込むと,自信を喪失し,孤立感が強く,自己叱責や罪の意識に悩まさ
れ,この気持ちをどうにかして解消したいというのが殺されたい願望である。
「死にたい願望」は前述の二者がかなり急性的で衝動的であるのに対し,

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第 4章 老 年 期 の 異 常 心 理
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比較的慢性の経過をとり,絶望感,疲労,落胆が著明にあらわれる。葛藤,
抑うつ, 苦悩などを経て 比較的長い経過のうちに作られる願望なので,病気,
身体的苦痛などがこの自殺願望としての自殺を動機づける。
一般 に,年齢が進むにつれて「殺したし、 J r
殺されたし、」とし、う願望をもつ
ものは減少し r
死にたい」とし、う願望が増加する 。 このことは,青年の自殺
では予 告兆 候 (自殺行為の前に直接的,間接的な死の表現を示す〉を示す場合が
多いのに比べ,老人の自殺者にはその兆候が乏しいことでも言える。

D 老人の自殺兆候と防止

個々の自殺を予防しようとする場合,大切なことは, 自殺者に共通した心
理特徴をつかみ,適切な対応をとることである。
第 1の特徴は,彼らは孤独であるということ。たとえ家族と 一緒に生活し,
物理的に孤独でなくとも,心は孤独である。
第 2は,彼らは“死にたい"と願う反面, どこかで“助けられたし、"とい
う願望を青年期ほど強くなくとももっているということ。この 心理は自殺の
予告兆候を生ずる「死にたし、 J rどう してよし、かわからなくなった」という直
接的,間接的な死の表現のほかに,抑うつ,イライラ(焦燥感、),不眠,食欲
不振,体重減少,などが考えられる。老人における自殺の兆候は,青年の自
殺企図者に比べ,よほど注意していないと見逃すことがある。日常からよい
人間関係を保っていなければ“諦め自殺"と呼ばれる老人の自殺者の予告兆
候はつかめない。
第 3は,自殺が心理的に伝染するということである。老人の場合,配偶者
の死亡や命日などを契機に自殺を生ずることがある。
第 4に,ほんのちょっとした心の隙聞から自殺は生ずるということである。
このすき聞に誰でもよいから 手を差 しのべることで自殺は防止できると言わ
れる。
たとえ,老人の投げかけた問題が解決しなくても, ともに悩み,相談にの
るとし、う姿勢が,老人の孤独な魂を救うのである。
いずれにしてもわが国の老人の自殺が圧倒的に多いことを忘れるべきでは
ない。

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引用 ・参考文献
・島薗安雄他 『老年精神医学 ~ ( , 1
図説臨床精神医学講座7)メジカノレビュ ー社 989
年 0

・保崎秀夫編 『新精神医学』文光社, 1
985年 0

・長谷川和夫編 『痴呆の百科』平凡社, 1
989
年 0

・痴呆性老人対策推進本部事務局編『これからの痴呆性老人対策』中央法規, 1
988


・西村健監修 『健やかな老人の精神生活のために』世界保健通信社, 1
984
年 0

・木村 定『臨床精神医学入門』金剛出版, 1
988
年。
・竹中星郎『老いの心と臨床』診療新社, 1
983
年。
・稲村 博「高齢者の自殺の心理 J Ir老年精神医学 ~ Vo
.13
, No.
5,1
986
年, 6
01
-
606頁 0

・大原健士郎・大原浩一 「老人の自殺 J Ir こころの科学~ No.5, 1


986
年, 8
1-8
6


・長谷川和夫・柄浮昭秀・西村 健・大塚俊男「特集老年期痴呆の診断基準と知
的機能検査 J Ir老年期痴呆~ Vo
.13
,No.3, 1
989年 7頁

・長谷川和夫・井上勝也・伊藤 斉・武井妙子「痴呆の測定・評価 J Ir老年精神医
学~ Vo
.11
,No.
3,1
984
年。
-笠原 嘉・柴 山漠人「高齢期のうつ状態 J Ir老年精神医学 ~ Vo11
. ,No.4, 1
984


・広瀬徹也「老年期うつ病の病態と治療をめぐる問題 J Ir老年精神医学~Vo 1. 4 ,
No.8, 1
993
年, 8
49-
855頁

・新福尚武『老年期の異常心理~ (
異常心理学講座 4
)みすず書房, 1
968年
, 1
35
-
180頁 0

・畑下圭子「痴呆性老人の基本介護」 小室豊允編『痴呆性老人の介護』中央法規
出版, 1
988
年, 1
16-
176頁

, 1
・柄津昭秀『老人のぼけの臨床』医学書院 981
年。
・長谷川和夫・井上勝也・守屋園光「老人の痴呆診査スケーノレの一検討 J Ir精神医
学~ 1
6, 1
974
年, 9
56-
969頁

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第 5章 老 人 へ の 対 応

7 社会的対応

社会の近代化 とともに人口の高齢化が進行している。高齢者問題が社会問
題として取り上げられるようになったのは近代社会になってからであり,現
在日本を含めた先進諸国では 6
5歳以上人口は全人口の 10%に近づいているが,
発展途上国では 3 %程度である。高齢者においては,その有病率の高さ (
65歳
以上人口の 5分の 4は少なくとも 一つ以上の慢性疾患にかかっているといわれ
る),低収入と生活の保障等が問題とされるが,本章で取り上げる身体疾患に
伴う精神障害および役割,地位等の喪失を反映した心理的問題に関しても社
会的に対応を迫られる問題の 一つである。
老人の精神・心理的問題については従来個別的な対応,すなわち障害 ・疾
患を有する本人に対する治療等 が中心として行われてきた。しかし老人が当
面する問題の多くは個人のみに焦点を当てることによっては防止,改善 され
えない。本節では老人施設入所者と在宅の老人それぞれについて施設,地域
社会,家族の対応について述べる。

D 施設入所老人

精神障害等を有する老人が入所,入院している施設としては特別養護老人
ホーム,老人保健施設,老人病院, リハビリテーション病院,精神病院,さ
らには一般病院があげられる。施設入所老人については本来の障害 より重度
な障害が不適切なケアによってもたらされることが主要な問題として論じら

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れてきた。このことはわが国では田中が「ねたきり三主徴」と名づけ,施設
入所老人に対しリハビリテ ーションを行わず,症状の管理中心の ケアを行う
と,寝たきり,失禁,痴呆を示す重度な障害がもたらされることを指摘して
いる。レヴィ C
Levy,
S.M.)らは器質脳疾患と診断される老人において潜在的
にある機能と現状に示す機能との聞のずれを「過剰な障害 J C
exc
essi
ve d
is
-
o
rde
r) と呼び,その原因を以下の 3種類に分類した。
① 急性の医学的状態に派生するもの。例えば栄養不良や種々の感染症な
どによる全身状態の悪化に伴うもの。
② あらゆる種類の治療によって医原的にひき起こされる。投薬が不適切
であったり,おむつ使用に代表されるような保護的ケアに伴うもの。
③ 重度な抑うつが,家庭を離れて入所したことや,施設入所にいたるさ
まざまな喪失体験を通じて生じ,活動性が著しく減退したことによるも


こうした過剰な障害は施設入所自体によってもたらされるとは考えられな
いが,入所以前からあった障害が入所後に身体的変化として現れるようにな
り,特に錯乱 (
失見当,夜間せん妄など〉や抑うつを示す老人にその変化が顕
著であると言われる。われわれも 2
0カ所の特別養護老人ホーム入所者の身体
機能に施設問で大きな差があることを見いだした。入所者の機能が比較的高
い A施設と低い B施設とを比較すると,ベッド上生活者(寝たきりは A26.2
%に対し, B60.4%であった。知能テストの結果,見当識(現在自分が置かれ
ている状況に関する理解,時間,場所,人物について尋ねる〉に障害を示す者の
比率は A30.
9%,B48.8%であった。 5
-1に示すように B施設では身体機能の
低下している老人ほど知能検査成績に低下が認められたが, A施設ではベッ
ド上生活者に特に呆けの出現率が高くなかった。 5
-2はおむつ使用と呆けとの
関係をみたものであるが B施設ではおむつ使用者に明らかに呆けを示すも
のが多かったが, A施設では特にその傾向が見られなかった。このことは残
された機能が生かされず,寝たきりの状態でいたり,おむつに代表される介
護の条件により,呆けの出現に影響が出ることを示している。両施設の社会
生活を比較すると, A施設では B施設に比べて趣味の集まりの出席率が高か
った。 5
-3に両施設の年間行事の一覧表を示したが, A施設では毎月何らかの
行事が行われており,作品づくりや出庖,旅行など参加する行事が多いのに
対し B施設では毎月の誕生会以外は少なく,内容も参加するものより,観

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第 5章 老 人 へ の 対 応
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5-
1 移動機能別にみだ呆け出現率の 5
-2 おむつ使用別にみた呆け出現率の
両施設出較(種村ら.1
979
) 両施設比較 (
種村ら. 1
979)

A 施設 B施設 A施設 B施設

おむつ使用 r
zi
Ui!
1

[J]呆け c
r
n呆 け
こ低い B施設で1
-入所者の機能水準ガ全般│ eJ:.寝疋きりであっ芝り,おむつを使用している老人は明らかに呆け
を示す比率ガ高い。入所者の機能水準ガ高い A施設で1
eJ:.そのような関連は見られない。

54 特養ホーム 2施設の年間行動の比較 (種村ら. 1979)

A施設 B施設

1月 1
:お正月楽 しみ会(手品 ・舞踊のボランティア).まゆ玉づくり 年末 年始帰省(約 1/ 3)
2月 │節分(出入業者が鬼のボランティア).やしょうまづくり(伝統行事〕
3月 │ひなまつり(ゲ ーム, 寮母のおどりなど)




有歩







士山

hソ

4月 │花見(家族とともに〉…出入業者の出庖のボランティア

5月 │パス旅行(歩行可能者のみ〉 ・
・・
出 入業者の奥さん方のボランティア
6月 │端午の節句(し ょうぶ湯とごちそう〕
7月 │七夕まつり 部屋ごとの特色あるかざりつけ,レクリエーション
8月 │お盆帰省 (2/ 3以 上 お 盆 帰 省 ( 約 1/ 3)
9月 │パス旅行 敬老祝賀式 c
l日寮長〉この週はいろいろな行事をする
1
0月 │運動会…訓練室で玉入れ, ボーノレ送り,パン喰い,仮装など
1
1月 │
1
2月 │ ク リ ス マ ス 会 ( 保 育 園 児 と と も に レ ク リ エ ー シ ョ ン 忘 年 会 .!
/リスマス 会(J倣員のお どり 〉
その他│毎月の誕生会 │毎月の誕生会
保育園児との交流(毎月 l回)
仏教講話 (毎月 1回〉
7-8月 ボランティアによる商!
苫街までの車いす散歩

-入所者の機能水準ガよく保たれ芝 A施設で 1
eJ:.行事としてレクリ工ーションガ数多く組まれており,入所者の社
会活動を促す姿勢がうかがわれる。

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-4 精神機能の低下 しだ老人の定めの環涜刺澱
色彩盛かな装飾,絵画, モビーノレ, カーテン,
窓辺に生 きた植物を置く, 家族の写真やその
他のメモをベッドサイドテーフソレに置く,大
物理的環境 1きな見やすい時計, 日めくりカレンダー,生
あるいは録音された音楽,椅子は壁際ではな
く,他の老人との接触を促すために他の椅子
と近づける

心理的環境│宗教 サービス,その他の文化的経験

│ベ ッドサイドになるべく 多 く訪問する,食事
社会的環境│
の時は他の老人との会話を促す,外出活動

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1精神機能の低下した老人の置かれる環貨は刺澱の乏しいも
のとなりやすい。静かで白一色の壁,シーツ,白衣等の状
態は感覚を遮断した状況に近く,そのことガ知的機能の衰
退を促進しているとも考えられる。

賞するレクリエーションにとどまっていた。
以上の資料にも示されたように,生理的,神経学的変化に加えて社会的因
子が老人の精神活動の低下をもたらしている。孤独, 抑う つ,無感情と い っ
た状態に置かれることで本来もっている精神機能が発揮されなくなるのであ
る。以下に施設において用いられる精神活動活性化のための対応を,環境を
整えることと老人に対する直接的な働きかけとに分けて述べる。
環境を整えることによって精神障害を示す老人の活動性を高める ことが工
夫されるべきである。 5
-4に有用であるとされる環境刺激を物理的環境,心理
的環境,社会的環境に分けて示した。身のまわりからの刺激に対して反応性
が低下している老人にとってこのような方法によって刺激の強度を上げるこ
とは,反応の促進につながると同時に,周囲の環境を認知できるか否かによ
って,精神症状の出現が大いに低下することが知られている。夜間俳佃する
老人は周囲を明るくすることによって落ちつく。錯乱 した行動は背景刺激の
レベルと関係する。このように老人にとって適応 しやすい環境を整備する こ
とは環境療法,支持的環境と呼ばれる対策である。
施設入所老人に対する心理療法として現実見当識プログラム (
real
it
yor
ien-
t
ati
onprogram)(
5-5
)と再動機づけ療法 (
remot
iva
tiont
her
apy
)がよく用い
られている。現実見当識フ。ログラムとは,見当識に障害を示す老人に対 し

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第 5章 老 人 へ の 対 応

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5
-5 現実見当識プログラム C
Sto
rau
dt,1
978)

時間の│・大きな掛時計
l
見当識│・わかりやすい日めくりのカレンダー

-町,郡,地方,国の地図 を貼る
場所の│・病院,ホーム,病棟の名前
見当識│・病棟,病室にシンボノレを示す
-食堂,浴室への道筋を示すサイソ

・自分の名前を言う
I

人物の│
│・ボーノレを他の老人に渡す,そして相手の名前を言う
見当識│
・職員は名 札をつける

-ポスターに日常物品を大きく示す,食物, 自動車,家,
動物など,それらの名を言う
その他│
-身体の部分を言いあてる
-ゲーム, パズノレ,文章完成

E記憶障害等のだめに自分の置かれ芝状況に対する認識が不良な老人
に対しては,その老人と接するすべての職員ガ常│
こ時間,場所,人
物に関する見当識をつけるように がけなければならない。 ω
l
周囲から見当識に関する刺激を十分与えることによって状況の理解を促そう
とするものである。このようなプログラムが毎日 3
0分 程 度 個 人 あ る い は 集 団
で行われ,それ以外にも施設職員は常に見当識に関する情報を老人に与える。
再 動 機 づ け 療 法 と は , 抑 う つ 状 態 を 中 心 に 社会 的 ・ 対 人 的 活 動 性 が 低 下 し
た老人に対し,施設内の日常生活への参加を促進するために行われる。感情
表 現 を促 すような活動,すなわちグノレープ討論, 新 聞作 り , 美 術 , 音 楽 , 寸
劇,ダンス,ゲーム,宗教的活動等や,他の老人がどのように障害に対処し
ているのかをみる機会,さまざまな感情や問題点を共有する機会が与えられ
るような活動を通じて,かつての社会活動を思い出し,今は使うことのない
社会生活上の技能を引き出すものである。
以 上 の よ う な 対 応 は 施 設 入 所 老 人 に 明 ら か な 効 果 が 検 証 さ れ て い る と は言
い 難 し、 。 減 退 の 過 程 に あ る 老 年 障 害 者 の 中 で , 少 な く と も あ る 程 度 の 老 人 に
心理的安定,あるいは社会的活動の増加が認められている。

D 在宅老人

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5歳 以 上 人 口 の 2-4%が 在 宅 で寝 た き り で い る と 考 え ら れ て お り , 在 宅

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障害老人に対するホームヘノレノ ξ ー,デイケアセンター(老人福祉センター〉等
の整備が急務であることはたびたび指摘されている。障害老人の精神障害に
対するケアについては前項と重複することが多いので,在宅で日常生活を自
立して送っている老人を対象とした心理社会的対応について述べる。
老年期の心理は職業,社会的役割,近親者等のさまざまな対象の喪失によ
って特徴づけられる。住宅環境が急激に変わることと同時に配偶者の喪失の
後に死亡にいたる老人が明らかに多いと見られている。配偶者の喪失に続い
て死亡する老人は,自分自身が病弱であり,配偶者の喪失によ って看護をし
てくれる人がし、なくなった男性老人に最も多く生じている。喪失を中心とし
た種々の人生上のストレスにさらされる結果として生ずる抑うつが主要な心
理的問題である。在宅老人における抑うつの表れとして問題とされる行動は
アルコール依存症と自殺である。アルコール乱用は配偶者を失った男性老人,
慢性疾患を有する老人に多いと言われ,要因として無益感,依存性,貧困お
よび地位喪失感があげられる。自殺も 男性老人に多く ,アルコーノレ依存と同
様の要因が考えられている。
女性老人では男性に比べて経済的困難の問題が大きいと言われているが,
心理的には家庭内の労働を継続していること,家族・子ども・友人との情緒
的結合を維持していること,職業から離れてもその喪失感は比較的小さいこ
と等によって,男性老人に比べて安定していることが多い。しか し子どもの
独立,配偶者の喪失を中心に多数の喪失に見舞われ,平均寿命が長いことも
関係して,特別養護老人ホームのような老人施設に入る確率が男性老人に比
べ 3倍高いと言われる。女性老人の心理的ス トレスには配偶者の喪失,退
職,貧困および社会的孤立があげられる。
在宅老人に対する社会的対応は,可能な限り老人を地域にとどめ,早すぎ
る施設入所に伴って生ずる過剰な障害,医原的な衰退を防止することにある。
そのために社会福祉の立場からはデイケア施設,老人共同住居,養育家庭ケ
ア,計画的な間欠入院等の多様な中間的施設・対策が提案,実行されている。
臨床心理的な立場からは家族療法を行うことによって老人の心理的適応を助
けるネットワーク作りが中心になる。問題となる老人の生活にかかわるすべ
ての重要な他者,すなわち家族,主治医,友人,地域医療,福祉担当者など
が一堂に会して,老人が抱えている心理的問題点についての共通の理解をし,
老人のための対人関係を再構築することが提案されている。ややもすれば問

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題老人に対し周囲の不理解があったり,配偶者や娘など一部の家族に負担が
かかりすぎて問題の解決がはかれないことがある。老人のためのネットワー
ク作りが重要な所以である。
家族内の人間関係についての主な課題は,老人と中年に達したその子ども
との聞の役割の移行あるいは交換であり,これには両世代を同時に対象とす
る治療法が開発される必要がある。役割演技法が親子の聞の相互理解に有効
であるとする報告がある。役割演技法は他者の役割を劇の形式で演技するこ
とにより,相手の立場の理解や望ましい社会的役割の取得を促す方法である。
また家族問に敵対関係が生じた際に老人を短期入所させることによって 一時
的に分離を図る 等の危機に対応する緊急サービ、ス体制の必要性も指摘されて
いる。

2 個別的対応

老化に伴って運動機能,知能等は衰退を示し,性格的にも老人特有の諸特
徴がみられる, とL、う従来の心理的老化過程に対する見方に対し, 1
970
年代
以降より分化した,統一的でない老化過程に対する見方が出現してきた。第
1には,心理的老化は単純な一方 向的な変化ではなく,個別的に別の過程を
経て,さまざまな方向に進む。第 2には老化的変化を示す時期,程度につい
て人 々はたいへん大きな個人差を示す。一定の年齢で,一定のレベルの老化
の進行を示すことは,ほとんど見られない。第 3には心理的老化は個人間で
大きな差を示すばかりか,ある個人をとってみても固定したものではなく,
可塑性すなわち変化の可能性がある。 老人に対する 心理的対応には,このよ
うな老化の多様性と可塑性の認識が重要である。
老人に対する個人心理療法の効果については従来悲観的な見方が大勢を占
めてきた。精神分析療法の創始者フロイトは 4
5歳以上の個人治療に対し否定
的であった。この年齢を過ぎると対象者の性格の柔軟性がなくなり,洞察に
よって性格の変化をさせることができなくなる。また記憶の障害によって精
神分析治療に おいて重要な子ども時代の詳細を思い出すこ とがで きず,治療
の妨げとなる, と考えた。確かに器質性脳疾患と診断される老人においては
治療可能性は低いであろう。しかし以下に示すように老人の中でも心理療法
に成功する人もおり,治療の成否と年齢との関連は認められない。

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以下老人の心理・精神的問題に対する個別的対応を行う際に検討すべき項
目をあげる。治療のゴールあるいは目的は多様なものが考えられる。人生の
一部の領域,問題につ いて機能が増大することによって,老人の精神的自立
を促す。残された人生で、何をし, どこで生活し,いかに時間を過ごすかを自
分で選択できるようになる。ゴール, 目的の例としては以下のようなものが
あげられる。
(
1) [洞察〕 洞察することによって老人は問題の起源,潜在的な原因につい
て理解し, 目の前にある現実に対処することができるようになる。精神
分析治療ではこの洞察が重要なゴールとなる。
(
2) [症状の軽減
〕 不安,抑うつ等の低下。
(
3) [関係者の救済〕 関係者をあまりに重い負担,あまりに長期にわたる介
護から救済する。家族と老人との接触は継続させ, この目的での対応は
一時的である ことが望ま しい。
(
4) [機能の減退〕 症状の進行を遅らせること。慢性脳器質疾患の精神障害
は治療不可能であり,アルツハイマー病等の変性疾患ではゆっくりとし
た持続的な症状の進行ーがある。こ のような老人に対しては,なるべく機
能を正常に保つことが一つの 目的となる。
(
5) [現在の環境への適応〕 老人が置かれている現実の環境が望ま しくな
い場合であっても適応によって老人の安寧が得られることは望ましい。
(
6) [身辺処理・日常生活動作〕 し、くつかの指数が開発されている。
(
7) [活動性〕 退職等大きな喪失経験の後では活動性が大きく低下するこ
とがあるが,最高レベノレを保つこ とが望ま しい。
(
8) [介護のレベノレを下げること〕 可能なか ぎ り自立を促す。
治療期間 については老人には短期に集中的な心理治療を行うことによって
ある程度の効果が得られると主張する人がし、る。長期にわたる治療でより大
きな効果は得られにくいと思われる。心理治療のためには通院が望ましいの
か,入院が望ましいのかについては,可能な限り自宅から離れず外来で治療
を受けることが望ましい。今後は老人デイケアセンタ一等で心理治療が受け
られることが望 まれる。
心理療法の種類は きわめ て多岐にわた るが,精神分析,行動療法,催眠,
カウンセリング,遊戯療法,作業療法,レクリエーション療法,および集団
療法をあげることができる。カウンセリングおよびレク リエーショ ンについ

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ては節を改めて述べることとし,その他の心理療法のうち老人に適用される
1
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1抑制l
訓1
4)
方法について述べる。老人患者では行動療法は受け入れが悪く,他の認知的
なアプロ ーチをより好むと言われる。新たに適応の技能を獲得するよりもす
でに保有 している対処法を増強するように計画された教育的方法が最も成功
する と思われる。老人のために特に用いられる技法としては,人生の回顧を
行う方法(li
fer
evi
ewp
roc
ess)があげられる。人生の晩年にさしかかつて老
人は人生の回顧にふける傾向がある。その人の充実した時期への強い内省傾
向を心理療法として生かそうとした試みで、ある。回想することによってその
人の人生を全体として再構成,統合し,自己の価値を再認識し,現実の課題
に立ち向かう自律性を確立しようとする。この際老人は自分の過去経験を実
際にあったことをそのまま想起するのではなく,そうあるべきであったと考
えたことや誘導された記憶と区別できないことがある。このような面接の経
過において歪みが生じることは好ましいことではなく,実際の体験をそのま
ま統合できることが望ましい。この意味で人生回顧の方法は確立されたもの
とは言えなし、。
老人を対象とした精神分析的治療は前記した創始者フロイトの悲観的見解
にもかかわらず盛んに適用されている。しかしながらその技法は自由連想法
を中心とし た伝統的方法で、はなく老人向けに改変されている。 'Gol
dfa
rbの
短期療法」と呼ばれる技法では,身体的変化,知的障害,経済的困難および
個人的喪失によって老人の依存性が高まるととらえ, この依存性を治療の道
具と して 用いる。精神分析療法が進行すると幼児期に両親に対して生じた感
情的興奮が治療者に対して向けられるようになる。精神分析療法ではこの転
移の 出現 を促 し,それを系統的に分析することが主要な治療技法となってい
。 Gol
る dfa
rb の短期療法では転移状況に入ると老人患者は両親の役割をと
り,治療者は子どもの役割をとる。そうすることによって老人に全能の両親
的人物であるとしづ幻想を与え,罰,愛情,尊敬,防衛等の情緒的欲求の満
足を提供する。 一般の精神分析療法は抑圧していたみずからの欲求を洞察,
意識化することをゴールとすることが多いが, Goldfarb の短期療法では衰
退,喪失に伴う依存性からの脱却に主な力点を置いている。この他にも認知
的な精神療法は多々行われており,配偶者や近親者の死を契機としてみずか
らの死の恐れを主題とすることが多く,自己の根源的欲求の洞察よりも自我
を強めることを目標とする短期的,危機管理的な場合が多い。

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老人に対する行動療法としては,報酬学習法,系統的脱感作法,嫌悪療法
およびそデリングの有効性が認められている。報酬学習法とは望ま しい行動
が生じた場合には報酬を与えてその望ましい行動を強化する方法で,老年精
神疾患患者の失禁に対し,濡れている時には無視し,濡れていない場合には
3分間会話することによって改善が認められた。この方法を用いた研究例と
しては,訓練への出席,他者との社会的交流,歩行,発話量の増大,見当識
の改善等をゴールとして,望ましい行動が出現したときの報酬と してはク ー
ポン,小銭, レクリエーション等を用いた成功の例が報告されて い る

系統的脱感作法とは,まず身体各部の筋肉を弛緩させる訓練を行い,心理
的にも リラックスした状態を作り出す。次いで不安となる対象について,強
く不安を感ずる状態から順次軽いものへと段階づけを行い,深く筋肉を弛緩
してリラックスした状態にある患者に,程度の軽い不安から順に想像させて
いく。こうして平静に対象に取り組めるようにしてし、く方法である。老人の
抑うつに対してこの方法が用いられることがある。
嫌悪療法は不適応な行動を消去するための治療技法で,老人のアルコール
依存症の治療に適用される。アルコールの匂い,実際に飲むこと,および酔
いと同時に吐き気を催す薬剤を投与することによってアルコールを嫌悪する
ようにさせる。
モデリングとは,他者の行動とその結果を観察して自分の行動を変化 させ
ることを言う。例えば治療者がモデ、ルとなり,老人に教える。しだいに老人
に独立して行わせる。細かい行動目標を立て,一歩一歩進める。グループで
前に述べた役割演技法を行うと,仲間がよいモデ、
ル になる。フィルムを用い
て望ましいモデノレを見せる方法も用いられる。
集団心理療法は老人に適した方法として広く用いられている。職業等の社
会的役割を喪失し,配偶者や友人の支え,自信を失った老人に対し,仲間と
経験を共にし,お互いに影響を与え合うことで情緒的に安心し,老人として
の自信,威厳を強め,生活上の課題に対処する能力を高めようとする。老人
を対象とした集団心理療法は大きく二つに分類される。一つは集団内の老人
の交流を促し,言語行動等社会的活動性を高めようとするもの,もう一つは
集団内の人間関係が密になることで,自分の 価値を認識し,施設に入所して
いる老人であれば施設内のコミュニティへの参加感をもち,施設での生活に
適応させるものである。集団心理療法の成否は現実的な目標を設定すること,

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老人の間の交流を増大させること,集団としてのまとまりを築き上げる こと
にかかっている。対象としては同じ施設に入所中の老人や在宅の未亡人等何
らかの共通性をもった老人が選ばれ,集団討議のテーマと しては喪失が中心
となる。個人の体験を回想して語り合うこと,同じ本を読んで討議すること
等が中心 となるが,役割演技法も取り入れられる。集団療法は老人のス トレ
スを緩和する上で効果的であることが認められている。

3 老人の悩みとカウンセリング

多くの老人が共通して抱く悩みは次のように分類されうる。
(
1)C
悲嘆〕 日常生活の中で大切なものが失われてし、く現実に直面して詑
然自失,怒り,いらだち, 憂 うつ,失望等を体験する。
(
2)C
罪責感〕 老人は自分の人生を回想する傾向があるが,その際過去のさ
まざまな葛藤場面が呼び起こされて,あらためて後悔の念がよみがえっ
てくる。そのような時に老人は罪責感を感ずる。
(
3)C
不安〕 老人が常に気にかけていることとしては,のけものにされたく
ない,役に立たないと思われたくない,自分の身辺処理で他人に迷惑を
かけたくない,である。死に対する不安,死に方に対する不安について
多 くの老人は人に迷惑をかけずに苦し まずに死んでいきたいと考えてお
り,そのような死に方に自信がもてなくなってくると生きていたい とは
思わない, とも考えるようになる。
(
4)C
孤独感〕 体力が衰え活動範囲が狭まってくる時に生ずる。
カウンセリングでは助力を求める人 (クライエントという 〉の適応問題を直
接解決してやることではなく,クライエントが自分の力でそれを解決できる
ように成長することについて援助する。クライエン トが成長する, とは自分
に対する信頼感を回復し,周囲の現実を的確に把握し, みずから問題の解決
に立ち向かえるようになることである。そのためにクライエントが自由に表
出できる場が設定され,カウンセラーは秘密を守る。カウンセラ ーはクライ
エントに暖かい人間的関心を示し,その発言を無条件に受容し,クライエン
トの立場にたって共感的に理解する。このようにしてクライエントとカウン
セラーの人間的な出会いが可能となり,カウ ンセラーはクライエントの人間
的成長の触媒の役を果たすことができる。

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このようなカウンセリングの手続きは老人がクライエントであっても基本
的に変わることはないが,いくつかの留意点を指摘することもできる。老人
に対して rおじいちゃん J,rおばあちゃん」と呼びかけることがあるが, こ
れは好ましくない。老人の人格を尊重しなければならない面接では親しみを
込めるつもりが却って相手からの拒否にあうことになる。面接者のほうが年
齢が若いということから老人はみずからの感情をなかなか表現しないことが
ある。老人の依存心が強くなっている場合には,面接者はつい指示的になり
やすい。この意味でも親しみを込めた言葉よりも,ていねいな言葉づかし、で
接する方が有効である。老人の発言内容が誤っている場合,本人の誤解や考
え違いを指摘することは特別な場合を除いては好ましくなし、。カウンセリン
グの立場からは木人がそのように感じている, とし、う重要な事実と して認識
すべきである。

4 老人のリハ ビ リテーションとJ~\理

老年期にはいると慢性疾患にかかることが多くなり, リハビリテ ーション


を必要とすることも多い。心理的側面から老人のリハビリテ ーションを論じ
る場合は,精神的・心理的機能障害,すなわち高次神経機能障害の リハビリ
テーションの問題と障害を受けた人に生ずる心理的反応,いわゆる障害の受
容の問題の 2点が重要である。高次神経機能障害のリハビリテーションとし
て扱われる障害は,失語症, 失行症,失認症,記憶障害,痴呆,注意障害等
であり,脳卒中その他の脳器質疾患を原因として生ずる障害である。訓練技
法の開発が最も進んだ分野は失語症の言語療法である。失語症ではことばを
聴く,読む,話す,書く,の各言語機能別に障害の重い機能と比較的保たれ
た機能とがあり,そのような言語機能別の成績から種々のタイプに分類され


る。言語訓練は失語症の重症度に従って展開される。重度では全言語機能が
障害されるか,聴く,読むの言語理解にやや改善が認められる。この段階で
は症状に応じて何らかのコミュニケーションの手段を開発することが基本的
な課題となる。残された言語理解を利用して「はい L、し、え」式の応答を定

着さぜる。仮名文字の読解に比べて漢字読解の方が良好な場合も多く,通常
の話しかけ以外に漢字を用いた読解を併用することが有効な場合も多し、。そ
の他ジェスチャーや描画等の非言語的表出手段が活用できる場合もある。中

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-6 言語機能別訓練課題 〔
種村, 1
987)

言語機能 訓 練 課 題

単語のポインティング,文を聞かせてのイエス・
聴覚的理解│ノ一反応,正誤判断, 口頭命令,文を聞かせて質

絵と文字のマッチング,情景画・動作絵と句・文
読 解│
のマッチング,書字命令,文を読ませての質問

復唱 o音節 短文,系列語,あいさつ),音読
発 話 10音節 長文),呼称,動作説明(動詞の表出),
情景画・漫画説明,テーマ演説


名, 書取 (仮名 l文字 長文),書称 (対象の名
称を書く),書字説明 〔対象に応 じた動詞を書く),
書 字│情景画,漫画,日 記をつける,仮名訓練〔キーワ
ードと仮名との対応,漢字単語の仮名 ふり ,仮名
単語を漢字に直す〕

a失語症者はよく{呆だれだ言語機能と障害され芝言語機能に差ガ
みられることが特徴である。言語訓練では表に示すような訓練
課題を用いて良好な言語機能と不良な言語機能との繋がりをつ
けようとする。

度失語症では,失語症のタイプに応じて良好な言語機能と不良な言語機能に
差が目立つが,言語訓練では良好な言語機能を活用して言語機能を全般的に
改善させるようにする。発話表出の訓練が中心となることが多いが, 5
-6に言
語機能別に実際に行われる課題を示した。軽度失語症では残っている言語障
ωω
)
害を改善させ,社会生活に適応できる言語機能に仕上げることが目標となる。
また理解や発話についても,文,文章と扱う言語材料の長さ,複雑さの水
準を高めてし、く。失語症者とのコミュニケ ー シ ョ ン に あ た っ て は, 適 切 な 言
語 機 能 の 評 価 に 基 づ い て , 言 語 障 害 に 応 じ た 理 解 を 促 し , 発 話ー
ばかりでなく
多面的な言語表出を求めるようにすることが基本となる。言い間違い等の言
語表出の誤りは訂正せずに,意味が伝達されればよいとする態度も必要で、あ


失行・失認症の中では半側視空間無視が頻度の高い障害である。これは左
片麻揮を示す脳損傷患者によくみられる症状で,左側の空間に対し注意が向
か ず , 右 方 向 に ば か り 曲 が っ て 歩 い た り , 食事 を 左側 だ け 食 べ 残 し た り , ひ

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カ 庶司
-3 6
5.0


カ-1年 1:;:;:
4

1- 3年 。
4年 5
.0

o 5
0 1
00(%)

図 独立して適応 口 手助けがあれば適応 圏 無 回答
~ 全面的援助要 fZl通常 では適応不可能
(種村ら, 1
977)
1
1脳卒中ガ発症して聞もない患者では実に 85%もの人々が不適応
行動を示すが,発症後の期闘が長くなるにつれて不適応を示す人
は少なくなっていく。

げを左半分剃り残したりする。こうした症状に対する訓練は障害に対応して
左側へ視線を移すことを学習さ せる訓練と,半側無視による日常生活上の障
E

害に対し日常生活動作訓練を通じて改善を図るものに大別される。
これらのほかに最近は健忘症者に対する記憶訓練も行われ始めて い る

リハビリテーションにかかわる心理的問題のもう一つ,障害の受容の問題
はすでに述べた喪失に伴う悲嘆反応に含まれるもので,その喪失の内容が自
己の機能障害とそれに伴うさまざまな社会的役割 となるが,これらの複合的
な喪失が障害の発生によ って瞬時に見舞われるという点で重大な結果をもた
らす。われわれもリハビリテーション病院入院中の脳卒中患者を対象に心理
的不適応の経過について検討 した。治療者および看護婦に よって評価した不
適応度を 5
-7に示した。何らかの不適応行動を示す者は発症後 3カ月以内では
85%を示した。それ以後では 55.5%,20%, 30%と減少する傾向を示した。
この中でも特 に「手助けがあれば適応」と評価される,軽度の不適応を示す
患者が経過 とともに大きく減少 した。長寿願望につ いて 本人に尋ねてみると,
より長寿を望むものが経過に従って増え rもう生きたくなし」
、 という明らか
な不適応を示す回答は21
.1%,7.
1%, 3%
, 0% と大きく低下 した。この よ
うな発症後初期の不適応は機能的・社会的に望ま しくな い変化に対する悲嘆

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反応と理解される。困難な状況に立たされ,将来への展望が拓けず,高度な
不安状態に陥っている。
この不安状態は時間の経過とともにおさま って し、くわけではなし、。同じ対
象者に患者を取り巻く条件とそうした諸条件に対する態度との関連をみた。
家族に対して積極的にかかわろうとするかどうかの態度が,配偶者が健康で
いるか,家族構成等の家族条件とどう関連するかをみると,発症後初期にそ
の関連は最も高く,その後大きく低下した。このことは発症後初期は配偶者
等家族条件が整っているほど家族に対して親和的となり,依存的な状態にあ
るが,その後徐々に家族条件がどうあろうと独立した態度が形成されてくる。
一方,身体機能の条件(歩行自立度〉と身体機能回復への積極的態度,職業条
件と職業復帰との関連は発症後 1年を経た時期で最も高くなった。急性期に
は機能の 状態が良くとも悪くとも,また職業条件が良くとも悪くとも,まず
なおそうとする 気持ちが強く 出てくる。 発症後 1年を経て,実際に社会復帰
が問題となる時期にな って機能条件・職業復帰の条件が良 いほど機能回復期
待,復職期待が高まるようになる。このように慢性期では障害者として社会
生活を送ることに焦点が移ってきて 社会生活に適応する条件に関して葛藤
が生 じる 。障害者の リハビリテーションの過程において,急性期では喪失体
験に伴う不安,慢性期では社会生活上の葛藤の二つの問題はどの患者にも起
こってくる重要な問題である 。

5 老人のレクリ工ーションと生きがい

老人に生きがし、を尋ねても明確な回答をしないことが多い。施設入所老人
に対して「今一番楽しいことは何か」を訊くと,食事とか入浴といった答え
しかしなかったり,何もないと答えた無気力な回答が 56.4%を占めていた。
「これからまだやってみたいこと」では,やってみたいことはないとか,最
低限の身辺処理だけ行っていればよいという新しい経験に対する願望を否定

した回答が 5.5%であった。このような施設入所老人の生活に対する空虚な
l
意識は置かれた環境と関連するものであることはすでに述べた。
老人のレクリエーション,生きが い,教育等についての社会の見方は 4段


階に分けられる, とし、う。第 1段階は拒否である。老化に対する否定的態度
から老人の生きがし、対策等は無意味であるとし,施設などの社会からの隔離

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を進める。特養入所老人の無気力な生活態度はまさにこう した見方に立つ施
策の結果といえる面をもっ。第 2段階は社会サービスとのとらえ方である。
社会的に役割のない老人にはレジャー活動を用意する必要がある。教育とい
ってもそれはレジャー活動の一種であり,老人は受動的な受益者の役割にと
どまる。第 3段階は参加である。老人に新しい活動的役割を用意 し,老人の
生活と社会の主流の動きとを結びつけるようにする。第二の職業あるいはボ
ランティア等はこの考え方にあたる。第 4段階は自己実現である。この見方
では老年期を心理的成長の可能性がある時期としてとらえる。今までの人生
を振り返って,今まで表層的に把握していたみずからの人生の統合性を一度
否定し,新たな観点から統合を果たすのが老年期の課題であるとする見方や,
それまでの人生で行ってきたことを集大成し,新たな価値を創造する完熟期
ω
とし、う見方に相当する。老人に対する教育活動は心理的成長を促すものとし
て積極的な価値が与えられる。
レクリエ ーションないし遊びの意義は各発達段階で大きく異なっている。
年少の子どもは遊びによってさまざまな分野の発達を進めてし、く。青年期,
成人期では仕事の比重が高まり,レクリエーションは仕事を中心としたスト
レス管理の側面が強くなる。老人にあっては遊びの比重は再び高まり,社会
生活の場も趣味,スポーツによって広がってし、く。のびやかな活動精神,心
の底から楽しむ態度および健全な情緒の解放の 3条件を満たす活動が行われ
る。レクリエーション療法の目的は次の通りである。①不安,葛藤,攻撃性
等,不安定な情動や不適応症状の改善。②活動性の増大。③対人関係,社会
性の向上。④精神的安定と社会参加への意欲。
レクリエーション・プログラムの内容は,①スポーツ,ダンス,遠足,散
歩,園芸,ごっこ遊び等の身体的活動,②音楽,映画,演劇,絵画,彫刻,
陶芸,手芸,文学等の知的活動,③新年,ひなまつり, こどもの日,七夕,
クリスマス,忘年会等の年間行事に大別される。老人障害者にレクリエ ーシ
ョンを適用する際には多くの工夫がこらされており,絵画,音楽等のレクリ
エーションが痴呆の患者の見当識の改善と他者との交流の促進に良好である
と言われる。抑うつ患者にも音楽によって活動性が上がり,人生の回顧ポ積
ω
極的に行われることになった,と報告されている。高齢期にいたって社会的
役割の喪失を体験した際にレクリエーションを通じて社会参加,自己実現の
機会が与えられることは大変意義深いと考えられる。

92
第 5章 老 人 へ の 対 応
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1

7

(
1) 田中多聞『老人,上,その心とからだ』 日本放送出版協会, 1
983年

(
2
) Levy,S.
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980,p
p.4
1-61
.
(
3) 種村 純・古川正雄・石神重信「老年期における機能連関に関する研究(I)
特養ホーム入所者における知的・身体的機能連関と施設差 J W老年心理学研究』
5, 1
979年
, 7
3-8
5頁。
(
4
) S
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293
.
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5) (
4)と同じ。

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.
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2)と同じ。

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7
48.
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p.7
75-
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.
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8)と同じ。
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2)と同じ。
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4)と同じ。

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)と同じ。
1
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) 1)と同じ。
(7
(
19
) (
1
0)と同じ。
(
2
0) 守屋国光「老人の心理 各論(1) 正常心理」長谷川和夫・賀集竹子編 『

人心理へのアプローチ 』医学書院, 1
975年
, 2
4-4
4頁。
1 深沢道子「老人患者の面接」長谷川和夫・賀集竹子編 『
2)
( 老人心理へのアプロ
ーチ』医学書院, 1
975年
, 9
4-1
08頁

(
2
2) Benson,D
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979
.
失語,失読,失書』協同医書, 1
笹沼澄子・伊藤元信他訳 『 983年

言語障害の地域ケア 』保健同人社, 1
側長谷川恒雄編 『 984年

(
2
4) 種 村 純 「言語治療はどの ように行われるのか」福井闇彦・藤田 勉・宮坂
元磨・横 山 巌編 『
脳卒中最前線一一 急性期の診断からリハビリテーションま


で、一一一J 1
987年
, p
p.2
02-
205
.


) 山鳥 重 『神経心理学入門』医学書院, 1
5 985年

) 種村留美・種村
6 純・望月秀郎・石神重信「半側無視例に対する視覚走査訓
練の効果の分析 J r
老年心理学研究 J 8,1
985年
, 3
9-5
0頁。
() 種村
27 脳卒中の精神医学』金剛出版, 1
純「記憶障害」田中恒孝編 『 989年

4
1-5
8頁。
側種村純・石神重信・藤田 勉「脳卒中発症後の再適応過程に関する自我心
理学的一研究 J r
老年心理学研究 J 3, 1
977年
, 7
5-8
2頁。
(
2
9) ()と同じ。
20
(
3
0) (
4)と同じ。
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.仁科弥生訳 『
幼児期と社会』みすず書房, 1
977年 0

(
3
2) ()と同じ。
20
倒 佐 々木正美「レクリエーション・セラピイ」内山喜久雄・上出弘之・高野清
児童臨床心理学辞典』岩崎学術出版社, 1
純・小川捷之編 『 974年
, 7
09-
710頁

例) 竹内孝仁・稲川利光・ 三好春樹・村上重紀 『
遊びリテーション,障害老人の
, 1
遊び・ゲームの処方集』医学書院 989年

倒 (
4
)と同じ。

94
第 6章 事例研究

1 施設入所による適応事例
生年月日 明治 4
0年 3月 1
1日 生 ま れ 男
出生地横浜
学 歴アメリカンスクール卒
既 往 症 昭 和5
7年 1
2月 心 不 全 で 入 院
A D L 全面白力
入 所 昭 和5
8年 1月 2
5日-2月 2
4日までショートステイ利用
昭和 5
8年 3月 1日 特別養護老人ホーム入所


義 生活 歴
横浜育ち,牧師さん家へ養子として入籍し,アメリカンスクーノレに通学。
陸軍に入営し,戦中は中国大陸へ渡り戦場にも出る。終戦後,内地で私設秘
書 として進駐軍の通訳も行う。英文タイプの技術も取得し,貿易会社に勤務。
昭和 4
1年 (
60歳〉 ハワイ出生の女性と結婚。晩婚にて子宝に恵まれず
か 4
711 東京の会社を退職。退職後嘱託として 7
0歳まで勤務
庁 5
0庁 妻が死亡,単身となる
か 5
6か 東京の会社時代の同僚を頼り来阪
同僚が経営する会社で事務を手伝う。ミスが多く なり
辞職するが,たまに出社するといった生活を続ける
庁 5
7I! 心不全にて入院

95
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庁 5
811 特別養護老人ホームにシヨ ート ステイ 利用で入所

物 家族関係 (
入所理由)
昭和 5
7年1
2月,心不全で入院中,老後の生活に不安を感じ,甥にお金は渡
すから面倒を見てほしいと手紙を送るが,今後かかわりをもたないといった
厳しい文面の絶縁状が返ってきた。ショックにより精神状態が不安になり,
長時間 トイレに閉じこもる。ある程度のコミュニケーションはもてるが,興
奮すると英語で喋り,辻棲が合わなし、。夜もほとんど寝ないし,また時には
自慰行為もみられるので,同室の入所者より苦情が出る。病院側 より,ケー
スの行動は面倒が見きれない状態であり,心不全は完治しているので,精神
科受診から強制的に退院を宣告,民生委員 (
同僚の母親〉より,福祉事務所に
相談依頼があり,ケースワーカー,保健婦のかかわりが始まる。
精 神 科 を 受 診 し 少 し うつ病で、あるが即入院というのはケースによって良
くないとの判断にて,特別養護老人ホ ームのショー トステイを利用すること
になる。

後 ケースカンファレンス
昭和 5
8年 1月 2
5日,ショートステイとして入所。本人は,病院の延長だと
思い,新しい所へ仕事をしにいくように思っている。最近の記憶があいまい
になっており, どうしたらよいか困惑の状態にあるものと思われる。 トイレ
が事務所であり,唯一 の安らぎ の場, 一人になれる空間の場でもある。
仕事を辞める噴から少しずつ痴呆症状が出てきていたのかも知れないが,
入院中のシヨツクにより痴呆症状が促進されたものと考えられる。
痴呆症状の促進の原因として,
① 心不全の不調が身体に影響 し促進させている。
② 甥からの絶縁状。
以上の 2点が考えら れ
, また英語が喋れる件については,今までの生活経
験の中で英語の能力が蓄積されているためで,知的水準が保たれているので
あろう。
なお, トイレに閉じこもることや, 自慰行為については,
① 人格水準が落ち込み, コン トロー レ
ノ できなくなった(恥の感覚が低

〉。

96
第 6章 事 例 研 究
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② 意識状態がくもってしまって自分が現在いる状況の認識がはっきりせ
ず,意識の世界が過去に戻ってしまったため(仕事をしているつもり〉。
以上の 2点が考えられる。分裂病ではなく, トイレに閉じこもることも逃
避ではない。今後夜間せん妄や,不潔行為が頻繁に起こる場合は,①②が原
因と考えられ,対応として,
1
. 身体的な面の管理を行う。
2. ショックを受けた件に関しては,その苦 しみを理解してあげ,受容す


3. トイレに閉じこもった場合は,納得するまで話し合う,あるいは他に
興味をもたせる。
これら 3点をふまえたうえで処遇が始まる。

後 入所後の経過
1月 2
5日 入所当日の夜は, 3
0分ごとにトイレに行くが,長く座ってはいな



1月2
6日 夜はほとんどトイレに座っており,話しかけにも応じず。
1月2
7日 午後 2時より 4時までトイレの手洗い場に立ち自慰行為を続ける。
職員が交代で話しかけるが効果なし。作業服を着た男性職員がドリ
ノレをもって来て,.今から工事を始めますからすみませんが……」と
話しかけると,やっとその気になり部屋に戻る。
夜は 1時間おきにトイレに行くが,長く座っていなし、。そのつど
「大丈夫で、すかー J ,.便は出ましたかー」等と優しく問し、かけ,接触
をはかる。
1月 2
8日 排便の 失敗があり, トイレの水を流しながら下着を洗っている。
お湯で身体を拭いてあげたり,.下着は洗いますからね」と非難する
ことなし笑顔で対応する。「すみませんどうもー」と恐縮した感じ
で話す。
ここ数日間便の失敗が度々あり,夜は約 2時間ごとにトイレに行
くが,排尿を済ませるとすぐ出て来る。
1月2
9日 英文を渡し,和訳の仕事をもちかける。辞書を横に置き,生き生
きとした表情が見られ,.よかった」としづ言葉が出る。日本語と英
語が入り混じった言葉 に職員もとまどうが,ユニークに英語での対

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話 も行う。
日常会話は,極力日本語を使うように し,仕事と して和訳の役割
をもたせる。
背が高く,一見ノ、ンサムではあるが,無表情でぼそっと歩く姿に
無気味さを感じる。積極的に接触を行い,半月が経過, 日に日に ト
イレに行く回数,座って いる時間も少なくなってきている。施設に
なじんできたかのように落ちついた日々を送るが,この頃より 別 の
行動が現れてきた。
2月 9日 食事時間以外の日中,洗面場で、水をためて,水面すれすれの所で
手を打ってお祈りのような動作をしている。声をかけるが見向きも
しないで真剣である。
夕方 6時すぎ,ベッドに座り,膝と手をたたいて過ごす。 8時を
すぎても続けている。「まだ休まれませんか」 と尋ねると iまだ早

いから 9時頃にします」 と続けている。


再三呼びかけるが iこれもう少しやらないと駄目になるから 」と

言って午前 l時頃まで続ける。やっと落ちつき,夕刻より初めてト
イレに行き休む。
その後 5日間ほど,隔日に,眠る日,起きてお祈りする日が続く。
2月 1
3日 今朝から大変落ちついてきた様子。
トイレへの回数は次第に減っている。
他の老人とのコミュニケーションが次第に時間増となっている。
挨拶が非常に明るく ,丁寧に声をかける。
他 の老人にも親切で,職員が老人の世話をしている様子も次第に
理解できてきて,労をねぎらう。
2月 1
8日 保健婦,民生委員,指導員らとともに一時帰宅。
自分の家の臭いがすると非常に懐かしがっているが,一人で生活
できないと自分で判断され,施設に落ち着くことを考える。
2月 1
9日 荷物の整理をしたいとのことで再度一時帰宅。完全に施設に落ち
着くことを決めたらしく,荷物を選出する。
2月2
0日 度々近所へ外 出する よ うになり,散髪も一人で行く。
1カ月が経過。お祈りも異常行動ではなく,戦争時代の体験から
きたものとわかる。会話の中には,混乱も多々あるが,間違いを自

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分自身で訂正し,ごまかすことはない。

他のお年寄り や職員共々行動を批判することなく,静視していたことが本
人の人格を保つことができたのであろう。
自分なりに生活パターンが決められたことは,生活面において,職員等が
関与しなかったこと,規制されることもなく自由に行動できたこと, 一人に
なれる空間(図書室,サンルーム,プレイルーム 〉があったことなどが考えられ


現在,入所時の症状も現れることもなく,マイペースの生活が続く。グル
ープワーク,クラブ活動にも進んで参加

日課として書きつづっている日記は, 一時意味不明で混乱していることも
あったが,今では,一日の生活の流れを書き 記し,それも英語できっちりと
書かれている。
早朝の戸外への散歩は雨の日以外は続けている。日中は買物,散歩へと出
かけたり,またテレビの英会話番組も欠かさず見て勉強に励んでいる。英語
を話せるという自信が本人を自立させ,誇り高き男にしている。いつも自分
を鍛え,充実した日 々を送っている。
たった一通の手紙で,精神的なショックを受け,種々の異常行動が現れ,
本人を大きく変化させたのだった。

@ 第二の危機
以後安定 した生活を送っていたが,翌年 1
2月, 日課としていた早朝の散歩
の途中交通事故にあい,左足骨折で 2カ月入院,その聞にまた,入所前の問
題行動が次々と現れるようになった。退院後は入所当時の状態の再現である。
トイレに代わ ってエレベーターにとじこもり,連れ出そうとすると暴力をふ
るうこともあ った。当初の経験をふま え,精神科医の診察に基づいて,本人
専用の日課を設定し,英会話や音楽を通じての精神面の回復に努めた。 1カ
月経過し.異食 (
粘土やお茶の葉,他人の菓子等〉 などの行為に問題は残るが,
事故前の安定した生活に近づいた。


多 積極的アプローチ
(
1) 本人の得意とするものを活用する。

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① 英語一一職員が教わる立場で英語での会話をする。仕事と して 英文
の和訳を依頼する。 (→プラ イドの保持〉
② マンドリン演奏一一誕生会等の行事で演奏を依頼する。 (
→優位性を
見いだす〉
③ 書道 防災標語,行事予定表等,掲示物の清書を依頼する。(→存
在の確認〉
2) 自由な行動範囲を広く設定する。(自己決定の尊重)
(
3) 自 由 な (
( 一人の〉時聞を設定する。

2 3世代同居による人間関係の葛藤事例
世帯主である夫 A男 5
6歳, 妻 B子 5
4歳,次男 C男 2
5歳,夫の母 D子 7
8歳の
3世代同居である 。
世帯主 A男は 5人兄弟の長男。会社員で経理担当の中間管理職である。性
格はおとな し く,めったに怒らないが怒ると恐い, とい うのが妻 B子の夫観
である。家事にも協力的で日曜日の掃除を引き受けている。
A男は結婚後 5部屋 の庭付き 一戸建住宅を購入し,二階を A男 B子夫
婦の住まいとする。
A男の弟 3人と妹 1人は, A男の結婚後それぞれ結婚 し
, 家庭をもち独立
している 。兄弟仲は悪い方ではないが, 交流は年 2-3回 しかなく,母 D子

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,,
,,
〆 D子 78
歳 72歳 J
i
J
lJ卒中で死亡
,, J

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B子 5
4歳


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の世話は 同居する長男 A男夫婦にまかせきりである。


妻 B子は総務担当の公務員。 2
3蔵で結婚し,結婚後も仕事を続けている。
性格は九帳面で,責任感が強く,やり手である。思ったことをはっきりと口
に出して言うので, 口うるさいタイプと職場で見られ,けむたがられている。
同居している次男 C男は私立大学卒業後,就職。母親 B子が勤務をしてい
たので長男ともに祖母 D子に育てられ,特に祖母 D子に甘えて育った。今で
も祖母 D子を大切にしている。
A男の母 D子は2
1歳でブリキ職人と結婚。 夫はまじめで九帳面,怒り っぽ
く気性の激しい人で, D子が 7
0歳の時脳血栓で死亡する。
母 D子の性格は,世話好きで意地悪なところはないが,なにごとも大雑把
である。返事だけして自分の意志どおり生きているようにみえる。「アホにな
っているほうが一枚上手,結局賢し、」と言うのが口癖である。このことは決
して本意ではなく, 気性の激 しい夫との 長い結婚生、活で、得た処世術と 言えよ
う。また,九帳面で、はっきり意思表示をする嫁 B子との関係を円満に過ごす
ために, 自分自身を押さえるよう戒めている言葉と言える。
当7
8歳の母 D子は夫と死別後一家の主婦の座を嫁 B子に譲り,老後の楽し
みというより生活の楽しみとして,老人会,グループで旅行やカラオケにも
よく行くようにな った。老人会では,お茶の準備や後片付けをすすんで楽し
みながらしているようである。家庭では毎日の掃除と庭掃除,洗濯の役割を
担当しているが,誰もいない家の中でしているので,認められることがなく
淋しい思いもあるのであろう。
外観的には若い時から歳よりやや老けて見える人である。このことは派手
好みの嫁 B子の対抗心を起こさせず,良い関係を保つ上でプラスに働いてい


D子の昼食,夕食は嫁 B子が冷蔵庫に準備 しておく。夕食は家族の帰りが
遅い時は 6時噴一人で済ましている。
家族がそろって食事をした時も,食後は自室で一人好きなテレビを見てい


嫁 B子は母 D子に対して子供を大切に育ててくれたとし、う感謝の思いがあ

。 しか しながら誰しも,その日の気分によ って相手の行動が非常に気にな
るこ とがあるものである。最近母 D子の聴力が低下してきているので,嫁 B
子の注意する声がつい大きくなると,孫である次男 C男が祖母 D子をかばい,

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母 B子を怒る。老化による聴力の低下は高音性難聴が多く,女性の声が聞き
取り難くなる。その点孫である次男 C男の男性の声は低音であるため高齢の
D子には聞 き取りやす い。その上孫にかばわれることで,祖母 D子の精神衛
生は大変良くなると思われるが,反面母親である嫁 B子の立場は微妙である。
一般的に身体面の老化は,若い者との生活 において各種の不適応をきたす
元となりうるのである。
この家族に おいても九帳面な性格である嫁 B子の精神を苛立たせる原因に,
高齢者の母 D子が返事をしない,台所での食器や鍋の洗いかたが汚くもう一
度洗い直しが必要である,掃除の仕方が大雑把である等がある。 これら は聴
力,視力,感覚器,筋力などの老化現象による機能低下によって日常生活に
おける家族関係の不適応をきたしているものが多い。
さらに,精神の老化現象は従来もっていたものが一層強調して現れること
があるが,母 D子の場合, しっかりしていると言っても本来もっていた大雑
把な性格は身体面の老化だけでは理解できない,ややだらしなさと して現れ
ている。
若 い者から見ると,高齢者の 心 は理解し難いものにみえる。身体的老化 は
白髪,禿,顔のしわ等外的変化として現れる。すなわち高齢者自身もある程
度自覚することができる。しかし むの変化は見ることができなし、。むろん身 J

体的老化 同様,精神面も老化するのである。高齢者側 の自覚が非常に少ない


のが精神の 老化現象 と言える。その例として 9
0歳の人に親しみをこめて「お
爺さん」と言うと,-自分の孫からお爺さんと言われるのなら納得できるが,
他人からなぜ、お爺さんと 呼ばれなければならないのだ」とお叱りの言葉を頂
戴するのがおちである。このことが高齢者の心を象徴しているのである。高
齢者は心身両面ともに個人差が大きいと言われているが,ほとんどの人が心
の中では自分の年より若く思っていると考えて間違いない。
母 D子も外観的には老けて見えるが,行動そのものは,旅行やカラオケに
通うなど 7
8歳という年齢を感じさせないものがある。ということは,筆者を
含めて 7
8歳の人の行動枠を作っていることになるのである。
D子は昨年顔面と下肢の浮腫で約 1カ月間検査のための入院をした。今ま
で医療とは無縁な人であり,本人も家族もまったく気が付かなかったようで
ある。高齢者は自覚症状が非常に出現しにくい典型的な例と言える。結果は
大事にいたらなかったが 1カ月間毎日嫁の B子が勤務を終わってからお見

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第 6章 事例研究
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舞いに通った。しかし 1カ月の内の 1日だけ連絡なしでお見舞いに行かな


かったら,その日の夜に「何かあったのか」と電話がかかってきている。老
人の不安と家族の訪問を心待ちにしている気持ちを端的に現しているものと
言える。
この 3世代同居は,表面的には非常にうまくいっている例であるが,それ
でも家族内の葛藤は無視できないものがある。
うまくいっている条件として,
(
1) 嫁 B子が仕事をもっているため,お互いに顔を合わせる時聞が少ない。
(
2) 家族それぞれの息抜きの場がある。嫁 B子が突然遅く帰っても,母は
6時には夕食を済まし,夫 A男も理解を示している。
(
3) 夫 A男は母親べったりでなく, 妻 B子の言 い分を十分聞いている。

(
4) 母 D 子は「アホになっているほうが一枚上手」という生活信条をもち,

自分を殺して家族が円満にいくよう 気 を使っている。
(
5
) 母 D子は食後自室に行き, A男の家族のみでの団壌が保たれている。
以上を考 えると,母 D子の生活の中の役割認識によって,車L
鞭を最小限に
して均衡を保っている部分がかなり大きいことがうかがえる。
現在は「嫁いびり」の時代ではなく,生活の実権をもつものが,高齢者を
疎外する時代と 言 える 。 それは,生活の質に目覚めた若・中年層が自分たち
の生活を大切にすることによるしわょせが, 高齢者に向けられているとも考
えられる。また今の高齢者は親の扶養を当然とした時代に生きてきた人びと
であり,当然中年以前の人びとの扶養に関する考え方ならび、に生活の快適性
の追求に関するギャップは大きく,世代聞の質を異にする葛藤は,相互の心
の中に大きく占めているのである。

3 I 死にだいJ と常時訴える事例

夫7
6歳,自力での体位変換もできない寝たきり状態,元小学校教頭, 妻 6
4
歳,元小学校教師との二人暮らし。
一人っ子である長男 4
2歳は死別した先妻 との子である。結婚して車で 7
-8分のところに別居したが,まもなく離婚し,そのまま単身住まいを続け
ている。建設会社勤務で大変忙しくしているが,毎日曜日の夜に来て父の入
浴の手伝いと夕食を一緒にしている。家族関係は良い方である。

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夫は 4
9歳のとき脳出血発作のため左半身不随になり 4年 6カ月入院して
機能訓練を受け,外出できるまでに機能回復したが,職場復帰は困難なため
退職する。校長になるのを目前にして退職を余儀なくされ,まして身体の自
由も奪われ,心のもって行き場がない思いであった。この頃より「死にたい。
生きていても仕方がない」と,よく口にするようになった。
退院後 2年間ほどは外出もできていたが,その後健側 の右半身筋力低下
のため外出不可能となる。
元気な時は身長 1
70c
m,体重 7
0kgのがっちりした体格で、スポ ーツ万能,特に
野球を好んでしていた。血圧はやや高いと言われていたが,まったく気にぜ
ず本人および妻は病気知らずと思い込んでいたため医療はまったく受けてい
なかった。
8歳の時,身体障害者手帳 c
6 l種 l級)を受ける。「何 も役に立たないのに
生きていても仕方がなし、。汚い天井だけ見て生きていても税金の無駄使いだ」
とよく言い,妻を困らせる。そのような時, 妻は黙っ ていたり,-ほらほらま
たまた」と言ったり している 。
7
3歳の 8月頃,右半身の筋力低下ならびに痩撃により寝返りも自力では不
可能な寝たきりの状態になり, 言語障害 もすすむ。この時期に妻が看病 しや
すいようにベッドを購入すると -
,ベッ ドでは寝返りもできな 、
し。手を省くた
めにこんなものを買った」と 訪問看護婦に妻に対する不満を訴える。
訪問看護婦がかかわるきっかけは,市の実施 した老人実態調査で把握され,
まず保健婦の家庭訪問が開始され,その後訪問看護婦が 1- 2カ月に l度家
庭訪問を継続している。
妻は夫が倒れてからも勤務を継続し,看病と仕事を両立させ定年退職 した。
入院中はほとんど毎日お見舞いに通い,退院後は妻が勤務を しているので日
中は夫の妹や弟が世話に来ていた。
妻は昨年 6月頃より疲労感と不眠が続き, 5
8kgの体重が 4
8kgにまで減少 し
受診する。結果は結腸腫蕩と診断され,手術のため 2カ月間入院。その間夫
は特別養護老人ホームに一時入所する。寮母や訪問看護婦に対して妻の不満
を言い,妻を思いやる気持ちが少ないように見受けられる。
昨年の 1
1月退院後妻は直ちに夫を退所させ自宅で看病する。退所後は日中
毎日ホームヘルノ ξ ーのサーピ、スを受け,週 1回リハビリテーションのため通
院,月 1回訪問看護婦の訪問によって在宅を支えて いる 。妻は術後約 1
0カ月

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聞は順調であったが,最近背中の痛みが出てきたため近 い内に検査をする予
定である。
夫は妻の身体も 心配であり,また頼りに していた弟と妻の父が 3カ月前に
相次 いで癌で死亡 して以来沈みがちである。
夫の現在の状況は,体温 3
6.1度,脈拍数 5
4,呼吸数 1
2,血圧 1
24/6
0mmHg,
顔色良好,便 1日 l回と安定 している。握力がほとんどないため寝返りは自
力では不可能 である。介助で座位になり固定すれば保持できるので,車 いす
は 1時間ほどであれば使用できる。尿意,便意はあるので排尿は電動式を使
用し 妻が当てが い,便は便器を使用すると 仙骨が痛いので新聞紙に している

本人の希望でおむつを使用 しているが,ほとんど汚すことはない。食事は食
堂へ車いすで行き,時聞をかければスプ ーンでこぼしながらではあるが摂取
できている。
入浴は週 l回老人保健施設の入浴サービスを受けており,非常に楽しみに
している。また週 1回車 し、すで病院を受診 している。
入浴日・受診日 以外の日は,妻の介助で 3
0分ほど散歩に 出かけるなど,妻
によってゆきとどいた看病がされている 。
入浴,受診や散歩で外出し た日は夜間の 眠 りも深く,起こされることも少
ない。
妻によれば[""死にた し、」と口にするのは天候に影響 されており,雨とか曇
りの 日に頭が押 さえつ け られるようになり, このような時,特に死につ いて
よく口にするとのことである。
この人の場合,若く して突然の疾病によって生活が大きく変化することを
余儀なくされている。現実の心理的苦痛から逃れるための方法として「死」
を考え, 口にしている。「こんなはずではなし、」と思う心と 寝 たきりになって
いる現実とのギャップはあまりにも大きい。
しかし, この苦 しい現実から逃れる方法は「死」だけではないはずである。
本人のもつ能力や知力が生活の中で、生かされていると思える実感も大切では
ないだろうか。寝たきりになることは物理的生活行動範囲が狭くなることと
同時に,生きることに対する 心理的選択枝も少なくなることである。
苦 しいこ とであるが,ありのままの現実を受け入れ,その 中での 可能性を
見いだす援助が求められる。「死にたい」 とよ く口にする人の多くは,心では
「本当は死にたくない。生 きたいのだ」と 叫んでいることに注視する必要が

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ある。
介護はゆき とど きすぎる ことによ って,患者のもつ可能性を見過ごし,引
き出す時期を失ってしまう危険性が非常に大きいものである。人それぞれの
生活機能,健康レベル,心理的状況等をもとに,個別性に応じた可能性 を引
き出す援助方法を追求していかねばならない。

4 痴呆性老人とその介護事例

A子 5
6歳。 3年前アルツハイマー病発病,夫 B男 6
0歳は妻 A子の看病のた
め会社を 2年前に退職。 B男の母 E子 8
7歳は物忘れや同じことを 4-5回く
り返し 言うな どの行動が あるが一応生活 は自立 している 。長男 C男 3
2歳は妻
D子 2
7歳と 2児 (
4歳 1歳 6カ月 〉とともに 2年前から手助けのため両親 B
, A子と同居しているので,現在 7人家族の 4世代同居である。

住居は持ち家 1戸建てで 2階に長男 C男家族 1階部分に A子
, 夫B
男,母 E子が住み,専用居室もあり住宅環境は恵まれている。

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-2 家族構成






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修 発病前の職業
A子は2
2歳で結婚し,夫 B男の両親とは別居し住居をかまえる。次男出産
1年後から歯科医院の事務を続けていたが,発病 1年前の A子 5
2歳のときに
仕事がコンビュータ化され,操作が覚えられないと言い仕事をやめる。

修 発病経過と 家庭の状況
A子の性格は明るく九帳面で,しっかりしていた。 1
2年前の A子 4
4歳の時,
母 E子の夫が死亡 し
, E子がひとり暮ら しになったため同居する。
A子の異常の始まりは 2回同じ物を買ってくる,買ってきた物を置き場
所でな い流しの下の物入れに置き忘れる,同じ食事ばかり作ったり,靴を押
し入れにしまったりするようになる。この時は夫が買物のメモを書いたり,
食事の準備を手伝う等して生活は一応できていたので,まさか痴呆の初期症
状だとは思ってもみず,医療機関は受診していなし、。
翌年 A子 5
4歳の時,母 E子が大腿骨頭部骨折のため入院する。 A子は病院
に見舞 いにい く時自転車がなくなったと言いだし,大騒ぎになり親戚の勧め
で受診 してアルツハイマー病と診断される。
母 E子退院と同時に夫 B男が白内障の手術で入院したため, A子 E子の
世話をする人が居なくなり長男 C男家族 3人が同居するが, c男の妻 D子の
出産が重なりへルノ ξ ーが A子の世話をするようになる。
この頃より A子 5
4歳の症状は急に悪化し,不安状態,俳佃,不潔行為が出
現する。
夫 B男は退院後妻 A子の看病のため定年前の 5
8蔵で会社退職を余儀なくさ
れる。在職中は帰宅も遅く,単身赴任もあり仕事に打ち込んでいただけに不
本意な退職であった。若い頃は夫婦でスキーや旅行に行ったりしていたので,
退職後は妻とゆっくり旅行をするのを楽しみにしていたのに,まさかこんな
ことになるとは思ってもみなかった, とのことである。
B男は現在高血圧症と腰痛のため毎日近くの医療機関を受診している。ま
た手術をした左眼の視力は低下し,ほとんど見えない。

修 家族関係
夫 B男在職中は帰宅も遅く,単身赴任等もあり, A子は夫の母 E子とのこ
人暮ら しが長く続いた。母 E子の性格は,気性が激しく思ったことは口に出

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すタイプである。心臓疾患と高血圧があり治療している。
嫁姑の関係は決してよい方ではなく, A子が耐えていることが多かった。

後 社会資源の活用状況ならびに結果
A子は診断を受けた病院に定期的に受診 し内服治療 してい るが,症状はほ
とんど改善 していない。
昭和 6
3年末から痴呆性老人と介護者を対象にした痴呆性老人介護者支援事
業が実施されたのを市広報で知り,毎月参加する。当事業は痴呆性老人をボ
ランティアがお世話し,介護者は介護の仕方を学習したり介護者相互が日頃
の悩みを話し合ったりする場である。医師,保健所・市保健婦が毎回参加し,
相談にのっている。
当事例では A子と夫 B男が毎回参加してい る

第 1回の参加時 B男より毎日不潔行為である弄便のため便まみれになっ
ている妻 A子の世話をするのが情けない, との訴えがある。
保健婦が相談にのり,便まみれになるのは決 して弄便ではな いこと を説明
する。便を衣服や畳,壁に塗り付けるお年寄りの気持ちは,おむつに便が溜
まっていると,本人は大変気持ちが悪 いので早く取り除きた い一心であ る

ところが痴呆が進むと知能が低下してくるため,手近なところで解決 しよ う
としておむつに手を入れて便を除こうとする。手に便が付 くと気持ちが悪い
ので,衣服や畳,壁といった所で手を拭くこ とになるので,周囲からみると
弄便でも,本人に して みれば気持ちが悪いから便を始末 してい るだけの行為
であることを納得する必要があり,その上で解決策を考えるこ とが大切で あ
ると助言を受ける。
解決策は A子の排便習慣をじっくり観察して,便による不快感をなくする
ことである。すなわちト イ レ排、池にすることであり,も しし くじっておむつ
に排便しても,できるだけ速やかに便を取り除くとよい。しく じるこ とがあ
っても決 して叱らないようにすると便意が把握しやすし。

A子の場合も夫が叱らないようになって約 1カ月後には便意のある時は,
普段 と少し違 うウロウロする行為があ り
, トイレ に誘導するこ とで, トイレ
での排世が多くなり,不潔行為のトラブノレはかなり改善がみられるようにな
っT
こ。

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後 現在の A子の日常生活状況
食事… …箸は使えるが左手で茶わんを持たないのでよくこぼす。過食はな
いが,夜遅く長男 C男が食事をしていると「私もたべます」と言
う。しかし食事を片づけるとおさまる。
排担ー……トイレまで誘導 し,下着を下げ,便器に座らせ,排世中夫 B男が
声をかけるとできる。
睡眠……夜 1
0時頃 朝 7時頃まで寝ている。昼寝はしない。
入浴 ……夫と一緒に入る。声をかけなければ,同じ動作をくり返している。
会話… …意味不明の発語はあるが,挨拶ていどはできる。
見当識……自分の居場所, トイレの場所がわからない。夫,長男以外の家
族の顔がわからなし、。
長谷川式知能テ スト O点。夫を離さず,夫がし、ないと 「パノ ξ! パノξ
! ノξ
パはどこですか!J と大声で叫び,俳個や興奮状態になる。夫がし、る時の顔
の表情はやや穏やかにはなるが,無表情に近く,笑顔はまったくみられず,
歩き方もぎこちなし、。
夫は一時も 側を離れない妻の介護で疲労しているが,自分しか介護のでき
る者はいないので精一杯しようとしている。
A子が問題行動を始めた頃の夫 B男の接し方は叱責,時には暴力を振るっ
たこともあった。しかし痴呆性老人介護者支援事業に参加して,今までの叱
りつける接し方は逆効果であったことを学び,優しくいたわる態度で接する
ことで,排便習慣もわかるようになった。今ではトイレで排世できるまでに
なり,世話は大変であるが以前よりは少し手がかからなくなっている。
痴呆性老人の問題行動に接すると,何もかもわからないと思いがちである。
しかし ,周囲からみると生活からかけ離れた問題行動を している人 であって
も,感情や情緒はかなり残っているものである。 言われて恥ずかしいことや
嫌なことは,介護している者が十分配慮して本人の前で言わないような対象
者の 心 を大切にする接 し方で,問題行動や特殊な精神症状が改善することが
多いことを理解する必要がある。
痴呆性老人への介護の目標は, 知能の低下を問題にすることなく,食・排
世・睡眠の最低限度の生活機能の自立と,その上に個別性に応じた生活機能
の適応に置くべきであろ う

介護者 B男の心の支えになっているのが,理解を示す長男夫婦であり,痴

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呆性老人介護者支援事業の参加者ならびに専門家,ボランティアであると言
える。
主たる介護者が余裕をもって痴呆性老人に接することができるためには家
庭内,地域に各種の支援者が必要なのである。

5 ひとり暮らしの事例

この節では, 1
988(昭和 6
3)年度に兵庫県家庭問題研究所が行った「子ども
と離れて暮らす高齢者の扶養・介護に関する調査研究」における面接調査の
結果から,兵庫県内の郡部に居住しているひとり暮ら し高齢者の 2ケース(い
ずれも女性〉を提示することにしたい。

E・ ケース 1 (A町在住 7
2歳)


量 生活歴と家族
1
916(大正 5)年にA町で生まれる。高等女学校を卒業後に神戸で結婚した
が,太平洋戦争中の空襲のため A町に疎開のかたちで戻っている。夫は,将
校であった。戦争中, 2
7歳のときに夫と死別したので,それ以後ずっとここ
に住んでいる。結婚生活は,ほんの 1年数カ月である。夫の死後, 2
5年間ほ
ど地元の教育委員会に勤める。現在は,仕事をしていない。
大阪には,会社員をしているひとり息子がし、る。月に 1度ぐらい訪ねてく
れるが,嫁との関係もあって活発な交流ではなし、。孫とも,ほとんど会えな
い状態である。もう少し子がし、れば, と思っている。夫の親戚は神戸にいる
が,現在ではまったく没交渉である。自分のきょうだいとは,心やすくして
いる。特に姉とは,同じ A町にお互いにひとり暮らしなので,行き来をして
助け合うことが多い。
夫を亡くして以来,世間の冷たさが身にしみている。息子は,父親のない
子と言われて何かといじめられてきた。家庭聞のつきあいは,夫がいないと
不便である。

@ 現在の生活状況
夏には 7時ごろに,冬には 8時ごろに起きる。炊事などの家事は,ほとん
ど自分でやっている。近所の人たちは親切にしてくれ, ときには家事にも協

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力してくれる。幼なじみも近くに住んでおり,物質的にも精神的にも安心で
ある。生まれ故郷は,そうした点で、はひとり暮らしにとって楽である。また
毎週水曜日の昼食には, A町の社会福祉協議会による給食サ ー ビスを受けて
いる。
昼間は,内職でも したいとは思 っている。しか し
, 目が不自由になってき
たので、していなし、。そのために,階段から落ちて神経痛になるなど,ケガば
かりする。うす暗い道を歩いていて,溝のなかの鉄板の間に足をはめてしま
い,ひどくはらしたこともある。病気やケガのときには,近所の人や姉に助
けてもらっている。
テレビ は,夜の 8時ごろから 1
0時 ぐらいまで観る。好きな番組は,大河小
説のドラマ,歌番組,ニュ ースなどである。カラオケの会に参加しているの
で,歌番組を特に熱心に観ている。老人クラブにも,よく出席する。幼いと
きから謡 曲と 舞いを習っており,趣味として今でも続けている。その先生が
亡くなったので 5年ほど前からは仲間で、グノレープをつくり,発表会を定期
的に行っている。まずこ,戦争で夫をうしなった女性の会である,共励会に入
っている。その 会の旅行などには, ときどき参加する。
経済的には,あまり恵まれていないと思う。年金制度が改まる直前に教育
委員会を退職したので,その後に退職した人に比べて半分くらいしか受け取
れ ないでい る。夫の戦死による公務扶助料をもらっているおかげで,生活し
ていける。
夜中に家で、急病になったらどうしょうか, と不安に感じることがある。病
気やケカ守のためにひとりで暮ら せな くなったときには,息子が何とかして く
れるであろう , と考えている。将来どうなるかはわからないが,老人ホーム
にだけは入りたくない。

EI ケース 2 (B町在住 8
6歳)

@ 生活歴と家族
1
902(明治 3
5)年に生まれる。 1
925(大正 1
4)年に結婚のため B町に移っ
ている。夫の家は,祖父の代からの呉服屋であった。息子が 3人,娘が 2人
いる。長男は 6年間ほど呉服屋を継いでいたが, この商売のやり方に嫌気
がさしてやめている。現在は,大阪で自営業をしている。その後,次男が近
所の 1
0軒の庖といっしょにマーケットをつくり,呉服屋を続けた。軽 トラッ

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クを使って手広くまわっていたが,他の庖との折り合いがうまくいかなくな
り,次男も 2年ほどでやめている。現在,徳島でやはり自営業をしている。
三男は,はじめから商売を嫌っ て家を出ており,大阪で個人タクシーの運転
手をしている。長女と次女は,結婚してそれぞれ兵庫県内と大阪に住んでい
る。すべての子が独立し安定した生活をおくっていることには,たいへん満
足している 。
次男が庖を人手に渡した後,納屋を改築し,夫婦で暮らす。夫がl3年前に
病気で亡くな ってから,ひとり暮らしになる。
血圧が高いのであ まり早く起きないが,いつも 7時ごろには目覚める 。 し
かしすぐには動けず,結局ご飯を炊くのは 8時 3
0分から 9時になってしまう。
となりの娘さん が「ばあちゃん起 きたか」 と声をかけに きてくれるので,あ
りがたく思 っている 。
ほとんど自分で,食事をつくる。貧血気味でもあるので,食べるものには
注意している。 3日に l度ぐらいの割合でマーケットへ買い出しに行くが,
あまり買う必要はない。例えば好物のカレーをつくるとき ,玉ねぎやじゃが
いもなどの野菜類は,近所の 農家から もら ったものを使 っている。 B町の社
会福祉協議会による月 l回の給食サービスも利用している。食費などの生活
費は,子からの仕送りでまかなえる。
昼間は,おもに庭の果樹,野菜,草花の手入れを して過ごす。ときど き近
くの農家の人が,手伝いに来てくれる。甘夏,いちじく,ぶどうなどをつく
っているので, 自分で食べたり,子や近所の人に分けることもある。また,
2人の友だちが毎日のように訪ねてきて世間話をしている。その友だちとと
もに,老人会によく 出席する 。暇なときには,たいていテレビを観ている。
急病のときに消防などに伝えるための,緊急通報システムのベルをもって
いる 。まだ l度も使っていないが,いつ倒れるかわから ないとしづ不安は常
にある。いままでに入院を 2度している。そのときには,近所の人たちに世
話になり,嫁たちにも看病を頼んだ。大阪の長男は,いつまでもひとりで暮
らして,周りの人に迷惑をかけていないで同居しよう, と言っ てくれる。し
か し, ょくで きた嫁でもやは り他人である。いっしょに住んでお互いに気が
ねをしたくないので,できる限りひとり暮らしを続けていきたい, と思って
いる 。

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以上 の 2ケースから ,子家族 と別居 して いる高齢者を不幸 とだけみ なして,


ひとり 暮ら し高齢者を一概 に 「孤老」 や 「
棄老」とい ったイ メージでと らえ
ること は,必ず しも適当では ない と言える。 た とえば,本 ケース にあらわれ
た嫁姑関係などによって ,子家族 とは離れて暮らしているが,郡部では親族
や地域な どとのネットワークを通 じたつきあいが保たれてい る場合も多いの
である 。し たがって,高齢期 の家族生活の多様化 が指摘されて いる現在, そ
れぞれの高齢者の家族関係や生活状況,彼ら自身のニ ーズを よ く理解 したう
えでの対応が必要 となろう。 さらに指摘する な らば,高齢者を家族のな かに
埋没した存在と してと らえる のではな く,ひと りの 個人としてと らえ なおす
こと も,重要な視点なのである。

7

(
1) 兵庫県家庭問題研究所 『
子どもと離れて暮 らす高齢者の扶養 ・介護に関する
調査研 究報告書~ 1
989
年。

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I3
⑨第 1
1部 障 害 者 山 理⑨

第 7章 障害者の療育を考えるた めに

7 障害児 ・者とはどのような人を指すか

私たちはある人びとを「障害者 J ,.障害児」と呼ぶ。 しか し彼らが厳密に定


義されているわけではない。たとえば客観的に見て,あの人には障害がある
と見える人の中にも,本人は 「障害者ではなし、」と主張 したり ,障害者と扱
われることを拒否する人もいる。また周囲の者は障害者と思っていなくても ,
本人はみずから障害者と思っていたり,またそのわす.かの違いによって,極
端な場合,自殺しかねないほど苦しむ人もいるのである。
歴史的に私の知る限りでも,ギリシャ神話や聖書,中国の荘子,そして日
本の神話等の中にも,今日のことばでいう「障害者」と呼ばれる人びとが存
在していたことが明らかになっている。社会的にはそのような人びとは一括
して健常者と区別され, 同情されたり,救済の対象になったり,場合によっ
ては神秘的に,あるいは幸運を呼ぶ存在として扱われたりすることもあった
が,多くの場合,社会の表面に表われることが少なくひっそりと暮ら してい
たのである。健常者は彼らを特別扱いし,隔離したり,差別したり,中世の
魔女狩りやヒットラーの人種観等によって抹殺の対象とさえされてきた。し
かしそのような状況に置かれながらも,障害者がし、つの時代にも存在 し
, 彼
らはともかくも健常者と共通の社会の中で社会の 一員としてともに生きて,
中には少数であっても主体的に立派に生き抜いた人もいるのは厳然たる事実
である。
今日障害者といわれる人の数は,正確にはわからないが,人口の 3%から

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第 7章 障害者の療育を考えるために
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5%までといわれている。この数を少ないと考えるか多いと考えるかは意見
がわかれるであろう。もちろん彼らは,ある日突然出現したのではなし、。時
代による環境の変化,例えばポリオはワクチンの発明によって文明社会では
ほとんど存在しなくなったし,社会的に最も差別されたと考えられるハンセ
ン氏病は特効薬の発明によってほぼ消失した。その他,視覚障害者,聴覚障
害者も ,眼鏡や補聴器の発明,改善によ って社会的な意味での障害が消失 し
たり,軽減されるようになった。しかし現代社会では一方では新しい障害者
を生み出しつつある。例えばエイズ (AIDS)は社会を恐怖におとしいれ,性
生活,社会生活のあり方を変え,価値観に変容をもたらした。交通事故の多
発による障害の発生もあれば,高齢化が進む中で健常であった人が痴呆状態
になることも少なくない。また,公害,環境汚染等新しい環境変化を原因と
する障害者も生まれた。障害の発生の原因は時代とともに変容し,かっ複雑
化しつつある。すなわち 障害を単なる生物学的視点だけではなく,歴史的,
文化的,社会的視点から幅広くとらえることが今日必要となる。
一方障害者自身の視点に立てば,彼らから見る世界も外的,内的に変容し,
その結果,彼ら自身の生き方も大きく変わった。いぜ、んとして差別的状況は
なくならないにせよ,多くの障害者は社会の矛盾に目覚め,主体的,積極的
に社会に参加しようとしつつあり,そのことによって,彼らの精神生活は大
きく変化してきている。中には国際的に活躍している人もいるのである。
ここで以上のような原則的な視点に立ちつつ障害者の問題を包括的に眺め
てみる。
今日障害者と呼ばれる人の障害の種類,程度はきわめて多様であり,また
社会での扱われ方にも非常に幅があり,その結果,彼らの生き方にも当然個
人差がある。一般の心理が存在しないように r
障害者」ということばで一括
される心理は存在せず,このような表現はやめるべきだとしづ主張も出てこ
よう。しいていえば,社会の中で、健常者に比して生きにくい状態で生きてい
る人という形で,その共通の心理をとらえるのが自然かもしれない。
ゆえに,障害者問題に携わっている人の中には,障害ということばをとり
止め 障害を個性と してとらえる」と L、う主張をする人すら生じている。確
r
かに,障害を特別視し,その人の人格からその部分だけを取り出して問題視
するのではなく,健常者といわれる人にも一人ひとり差があるように,障害
者の中にも,障害をその人の個性のーっとしてとらえる視点はある意味では

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I音s 障害者心理
第I
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大切であろう。しかし考えてみると,彼らに対して社会的差別がなくなり,
生きるための可能な限りの配躍が行われても, この世の中ではやはり目が見
えた方が生きやすいし,耳の聞こえない人にとっては,補聴器を使ってでも
少しでも音の世界に入る方が生きやすいであろう。ゆえに目の見えない人に
は見えるようになるための,耳の聞こえない人には聞こえるようになるため
の研究が続けられなければならない。そのように考えると,簡単に障害を個
性ととらえ,障害児(者〉という ことばを廃止しよ うと主張することには跨踏
せざるをえない。
一般に障害者に対 して,健常者とい うことばを使うが,健常とい うことば
の使用についても議論がある。例えば,心身に何らかの障害がある人を障害
児 (者〉と 呼ぶならば, 心身に何らかの 障害がないと考えら れる人 は非障害児
(
者〉 という べきと い う考えが成 り立つ。英語では“ handi
cap
pedc
hil
dre
n 円

に対して“ non-handicappedc
hil
dre
n"が現実に用いられている。またアメ
リカでは,“ ac
hil
dwi
thmentalr
eta
rde
d"と いったことばを精神発達遅滞
児に対して使 う。これは,精神遅滞を伴 う一人の子ども とし、う 意味であり ,
知恵の発達が遅れた子どもというのではなく,まず一人の子どもということ
が前提にあって,その子どもが知能の発達が遅れているということである。
世の中にはこと ばだけを変え ても仕方ないと いう人もおり,確かにこと ば
の言 い換えだけでは問題は解決 しない。 しか しことばが人間精神の表現であ
る以上,少なくともなぜ、ことばを変えるのかの理由の中にその人の障害児観
が反映されているのであり,ことばの問題は軽々しく扱うべきではないので
はなかろうか。

2 障害者をとらえる三つの視点

障害者の生き方という観点から障害者を問題にする場合,村井は以下の 3
点を考えて い る

第 lに
, ある特定の部位に器質的
, あるいは機能的に障害のある状態を指
す。例えば一般の人と比較して, 自の見えにくい人(視覚障害者),耳の聞こ
えに くい人 (聴覚障害者), ことばのしゃべり方がなめらかでない人(吃音者〉
等 のことであり,それらの人びとには彼 ら独自の生き方があり, またその障
害 に適した配慮が必要となる。

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第 7章 障害者の療育を考え るために
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第 2に,ある人聞が障害者と見なされ,あるいは障害者と名づけられると,
社会が障害者に対する 差別の強い状況では彼らは生きがたいし,そうでない
社会では比較的生きやすい。彼らの示す行動の中で,特定の障害 の特徴と考
えられてきたマイナスの行動も,社会の彼らに対する差別,抑圧に対する自
己防衛機制の発動である場合も少なくない。ゆえに彼らが障害をもちながら
も生きていくためには, 差別をなくする努力が当然なされるべきであろう。
大野(19
88)も指摘しているが,ハンディキャップは生理的レベルで、の障害そ
のものからだけでなく,都市構造や産業構造,社会の人びとの 意識など,社
会 とのかかわりの中で発生するといえる。障害児 (
者〉の生きていく上での困
難性は障害児 (
者〉 本人やその家族の責任ではなく,社会 が生み 出しているも
のであるとの認識が一般には浸透してきているのである。
第 3に,健常者も障害者 も含めた人間に共通の課題として,人聞が社会の
中で生きているということによって生じる課題,苦しみがある。生きるとい
うことには必然的な苦労が伴うのである。障害児(者)が生きやすい環境条件
は健常者にとっても生き やすい。また障害者のみが苦労しているのではなく,
健常者も障害者ほどでなくても生きることの中に苦労がある。この共通性が
あればこそ健常者と障害者 に連帯が生まれるのである。
障害児 (
者〉の心理を考 えるのに,村井は以上の三つの視点を重視した。特
に,第 3の立場が案外忘れられることが多いという点に注目すべきと 考 える。
ゆえに,まず健常者であれ障害者であれ,ある課題に直面したとき共通に考
えられることはできるだけ共通に考 え,そのときに示す障害者 の行動を,簡
単に障害者だからと考えずに,健常者でも,場面,状況によってはそのよう
な心理,行動が生じるのではないかと考える。すなわち成長 してし、く過程に
は共通の問題が生じることが多 く,その中で、発達上マイナスを生み出す場合,
われわれはそれを障害者が行うと,すぐにそれを障害 のせいにしてしまうの
である。友だちをもてないのは,健常児でもありうることである。しかし障
害児が友だちをもてないと,すぐに障害のせいにしてしまうのである。
しか しそ うはい っても障害児は健常児に比し,社会 の中で生きにくい状況
に置かれているのは事実である 。場合によっては, 最 も味方になるべき家族
からも疎外された状況に育っている場合すらある。社会 的な問題から家庭の
問題に至る問題 まで,障害児 (
者〉 ゆえに起こる問題があり,当然それについ
て対処の仕方を考 えるべ きであろう 。

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障害者の問題は障害の種類,程度,あるいは受けた時期によって問題のあ
らわれ方が異なり,現在の科学では,それらの問題を十分吟味することによ
って対処の仕方が当然、変わるべきである。そして可能な限り最新の科学技術,
教育方法などによって障害の治癒,軽減に立ち向かうべきである。 しかしそ
れと同時に,その場合でも常に考えるべきは,第 2,第 3の問題である。す
なわち障害者問題をすぐに第 lの問題と考えてしまい,第 2,第 3の問題が
無視されることが多し、。
障害者の心理を考える場合,一人ひとりの障害者の心の問題を考えるべき
である。その中で共に生き,共に関係しあいながら生きることを前提に,障
害の治療,軽減を考えて い くべきであろう。

7

) 大野智也 『
(
1 障害者は,いま 』岩波書庖
, 1
98年。
8

Il8
第 f章 障害者の心理と行動

1 山理と行動を支えるもの〈生物学 ・医学的接近〉
障害者j

D 障害とは

障害とは何 か。障害の厳密な定義は難しし、。ここでは,上田の定義をあげ
ておこう。
「障害とは,疾患によって起こった生活上の困難・不自由・不利益であ
る」。
国際障害者年行動計画や WHOの国際障害分類(案〉によれば,障害を次
のような三つの異なったレベルに区分して考えることを提唱している。
① 機能・形態障害(インペアメント, Impairme
nt):生物学的レベルで、とら
えた障害
② 能力障害(ディスアビリティ, D
isa
bil
ity)
:個人のレベノレでとらえた障害
③ 社会的不利 〈ハンディキャップ,Handi
cap)・社会的 レベルでとら えた障
~

例えば,脊髄損傷を受けている障害者の場合,下半身のまひは機能障害で
あり,歩行困難は能力障害であり,歩行困難のため通勤がで、きなかったり,
たとえ特別な手だてによって歩行困難が改善されても適切な生活の場や職場
がない場合は社会的不利である。
この三つのレベルの区分は,障害を理解するためにも,障害者支援の手だ
てを考える場合でも用いやすい考え方である。現在のわが国では,医療サイ

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ドは主に機能・形態障害と能力障害,福祉サイドは主に能力障害に対する支
援に重点がおかれ,社会的不利については,全ての人がかかわるべきであろ


もちろん, これら三つのレベノレは,その各々が明確に区別されないことも
多く,現実には複雑に錯そう した形で障害は現れてい る。
機能・形態障害,能力障害,社会的不利の区分は,私たちが障害を客観的
に理解しようとする視点であるが,さらに必要なものは,上田が「体験とし
ての障害」として述べているように,障害者自身が障害をどのように感じ,
考え,生活 しているのかについての理解と共感・共体験であろう。
「体験と して の障害」は主観的なもので あり ,障害を受 けていなし、し、わゆ
る健常者にとっては,体験すべてを理解することは困難かもしれない。しか
し 人 間 と し て と もに生きる姿勢を続ける限り ,障害者,健常者お互 いの深
い共感・共体験を通して伝えあえるものであろう。
障害は疾患によって起こるが,疾患が治癒して後遺症と しての障害のみの
場合と,疾患 と障害がともに続く場合がある。
また,障害の発生する時期が,出生以前か出生以後かに よって先天性障害
と後天性障害とに分けられる。出生直前か直後かはっきり しない場合には周
生期障害と呼ばれる。先天性障害とは,障害の発生時期が出生前ということ
であり,母体内の感染とか妊娠中の薬物等の影響によるものも先天性障害で
あり,先天性障害が必ず しも遺伝性であるとは言えない。
視覚・聴覚・ 言語や歩行機能 を獲得 した後に障害を受けた場合は,中途障
害 と言われる。 中途障害は,先天性障害やこれらの機能獲得以前の小児期の
早期障害と異なって,一度獲得された機能の低下や喪失であ り,障害を受 け
た時の心理的な落ち込みも強く,障害を受容して再び立ち直るためには多大
の努力が必要である。中途障害者の支援には, このような不安,焦 り,絶望
感,反抗,攻撃など,障害者自身の苦しみを理解 し,生活たて直しの 意欲を
一 日でも早く引き出すよう細かし、配慮が必要であろう。高齢になっての中途
障害においては特にこの傾 向は著 しい。

EI 障害の種類
障害発生の時期,障害の程度,疾患との関係等を考慮すると,見方によって
障害の種類は複雑となる。ここでは福祉 の視点から 以下七つの 障害に分ける。

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第 8章 障 害 者 の心理と行動
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① 精神遅滞(知的障害〕
② 肢体不自由
③ 視覚障害
④ 聴覚障害
⑤ 言語障害
⑥ 内部障害
⑦ 精神障害
障害者基本法では,障害は,身体障害,精神薄弱および精神障害に分けら
れている。また,身体障害者福祉法では,平衡機能障害が含まれ,言語障害
の代りに音声機能・言語機能・そしゃく機能の障害,内部障害には,心臓,
腎臓,呼吸器,ぼうこう,直腸,小腸の機能障害に細分され,精神障害はな
、。

障害児教育(特殊教育〉では,内部障害の代りに病虚弱という言葉が用いら
れ,精神障害はなく情緒障害とし、う言葉が用いられる。

EI 精神遅滞(知的障害)
精神遅滞〈知的障害〉の定義については,福祉,医療,教育等の立場から論
議されて い るが,いまだ明確な定義はない。
従来から,厚生省や文部省等の法令では,行政上の用語として精神薄弱が
用 い られてきているが,明確な規定はなく,現在一般には精神遅滞の言葉が
広く用いられてきている。ここでは現在広く用いられている米国精神薄弱学
会(現在米国精神遅滞学会〉の定義(19
73年改訂)をあげておく。
「精神遅滞とは,一般的知的機能が明らかに平均よりも低く,同時に適応
行動における障害を伴う状態で,それが発達期にあらわれるものを指す」。
定義によると,精神遅滞は,ただ単に知的機能が平均よりも低いというこ
とだけでなく,適応障害を伴っており,当人の感情,意志,性格とも深く関
係する。なお知的機能が平均より低いとは,知能指数 7
0以下,発達期と は1
8
歳までとされている。
精神遅滞は,医学的な観点からみると,中枢神経系(脳〉の成熟発達に密接
に関係 してい る。しかし,一人の精神遅滞児(者〉の障害を理解する場合に
は,それはただ脳の発達の遅れ(機能障害〉だけではなく,保護者や教師がど
のようにかかわったか(能力障害,社会的不利〉という点についても十分考慮

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しなくてはならない。不適切な保育や教育等,環境的な要因で起きた精神遅
滞は,低文化性精神遅滞と呼ばれる。
精神遅滞は,知的機能の水準および適応行動の水準での現在の状態像を示
しているものであ って,原因とか経過,予後については規定されていな い

精神遅滞は,単に精神発達の遅れているだけで,その他に身体的異常等の
認められない生理型(単純性〉精神遅滞と,運動のぎこちなさ,筋緊張の異
常,てんかん等の神経学的症状を示す脳器質性障害と考えられる病理型精神
遅滞とに分けられる。
生理型精神遅滞では,障害の程度は一般には軽く,言語,数,推理等の各
分野が平均的に遅れることが多い。これに反し,病理型精神遅滞では,障害
の程度は一般に重く,知的機能の各分野の遅れが選択的で不均衡になること
が多し、。
精神遅滞の原因についてはいろいろな因子があげられるが,大半の精神遅
滞の原因はいまだ不明である。
精神遅滞を起こす代表的な疾患について以下簡単に述べる。

後 中枢神経系の形成不全(奇形)

警 脳水腫 水頭症とも言われる。なんらかの原因で先天性に脳脊髄液が異
常に増加し,脳脊髄液腔が拡大したものである。頭囲が大きくなり,知能や
運動発達が遅れ,視覚障害や眼球運動の障害(落陽現象〉が起きる。後天性に
は,髄膜炎,脳膿蕩,脳腫蕩の時に起こる。一般には,脳室と腹腔,あるい
は右心房の聞にチューブを入れ,余分の脳脊髄液を脳外に流すシャン ト手術
が行われる。ごく稀だが,チューブの内腔が閉塞することがあり,その際に
は医吐,けいれん,意識障害が突然出現する。チュ ーブ閉塞時には緊急の
対応が必要であり,病院連絡等について熟知しておかなければならなし、。
磁 二介脊椎脊椎披裂,髄膜癌等とも呼ばれる。胎生初期になんらかの原
因で,脊椎の後方の癒合不全の起こったものである。主として腰部に認めら
れるが,二分脊椎のみの場合には,下肢の知覚・運動障害,直腸・ぼうこう
障害を示すだけで精神遅滞はみられない。しかし,二分脊椎の約 3分の 2に
は,同時に脳水腫,二分頭蓋等の脳の形成不全が伴い,精神遅滞のみられる
ことヵ:ある。

書 小頭症 頭囲が平均より 2SD以下の場合を小頭症と言う。新生児では

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第 8章 障害者の心理と行動
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33-34c
m, 1歳児 45-46c
m, 6歳児 50-51cm,成人では 5
5-5
8(5
6)c
mが平均
の頭囲であり,新生児では 3
2cm以下 1歳児 4
4cm以下 6歳児 4
8cm以下,成
人5
3cm以下が小頭症ということになる。
頭蓋が小さい場合には,脳実質の小さいこと(小脳症〉も考えられる。
小頭症は, 家族性(遺伝性)
,染色体異常に伴うもの,脳萎縮(胎内での低酸
素症,出血,感染等によって起こる〉の場合等がある。家族性小頭症の場合には
精神遅滞の認められない場合もあり,小頭症すべてに精神遅滞があると決め
つけてはならない。
趨 クラ 二オ ステノ ー シス (
Cra
nio
ste
nos
is) 狭頭症とも言われる。小頭症
の中に含まれるが,頭蓋骨縫合が早期に閉鎖してしまう。頭蓋が大きくなら
ないため,脳の発育が妨げられ精神発達が遅れる。頭蓋の種々の変形が特徴
である。

@ 染色体異常
ヒトの染色体は,常染色体と呼ばれる 2
2対4
4個の染色体と性染色体と呼ば
れる X Xまたは XY2個,計 4
6個の染色体から成り立っている。
染色体異常の原因については,感染,放射線,薬物,環境汚染等があげら
れているが,まだ不明の点が多 L。

常染色体異常では,精神遅滞の他,脳,頭蓋,顔面,眼,耳,鼻, 口,四
肢,皮膚,臓器等に形成不全(奇形〉のみられることが多し、。
常染色体異常の代表的なものとしてはダウン (
Down
)症候群があげられ
る。ダウン症候群の多くは, 2
1番目の染色体が 3個である 2
1- トリソミー型
(染色体数は4
7個〉であるが,その他に形態の異常である転座型(染色体数は4
6
染色体数は 4
個〉やモザイク型( 6個と 4
7個が共存〉の場合もある。発生頻度は 1
000
の出産に対し 1である。ダ、
ウン症候群に伴う形成不全として留意しておかな
ければならないのは,先天性心疾患および頚椎形成不全である。このような
場合は,精神遅滞に対する支援とともに心疾患および頚椎形成不全に対して
も,慎重な配慮を怠ってはならない。
常染色体異常には,その他に 1
8 トリソミー症候群, 1
3ートリソミー症候
群,猫なき症候群等がある。
性染色体異常としては,クラインフェルター症候群,ターナー症候群,超女
性 (トリフレーX)
,脆弱 X症候群等がある。性染色体異常でも精神遅滞のみら

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れることが多いが,ターナー症候群ではほとんど認められない場合もある。


多 先天性代謝障害
先天性代謝障害は,生体内の物質代謝に必要な酵素が,先天性に欠損した
り,働きが低下しているために起こる。酵素の欠損や活性低下によって,生
体内に特定の物質が増加したり,不足したりするため,物質代謝が円滑に行
われなくなり,脳,心臓,筋肉や各器官の機能が障害される。
先天性代謝障害は,現在約 5
00種類もあるが,疾患によってその進行の程度
は相違するとしても,いずれの疾患もすべて進行性であることを忘れてはな
らない。したがって,障害の状況に応じて,支援の方法を変えたり,心理的
な配慮に専念しなければならない場合も起こる。
先天性代謝障害では,精神遅滞の他に,骨や筋肉の障害,聴覚障害,視覚
障害等を伴うことがあり,これら重複障害に対する配慮も必要であろう。
精神遅滞を示す代表的なものに,糖質代謝障害では,低血糖症,糖原病,
ガラクト ース血症,アミノ酸代謝障害では,フェニールケトン尿症,ホモシ
スチン血症,脂質・ムコ多糖類代謝障害では,ハーラー症候群,ハンター症
候群, G Mzガングリオシドーシス(テイ・ザックス病〉等があげられる。
現在わが国では 7種類の先天性代謝障害について,新生児マス・スクリ
ーニングが実施されている。
先天性代謝│
障害の根本的な治療は遺伝子操作であるが,現段階では倫理,
実施上の問題等がありほとんど行われていない。現在行われている主な治療
法は食事療法であるが,治療の困難な先天性代謝障害も少なくなし、。

像 感染症
中枢神経系の感染症としては,細菌性髄膜炎,脳膿虜,ウィルス性髄膜炎・
脳炎がある。先天性(胎内感染〉と後天性のものがあるが,特に脳の発育の盛
んな小児では髄膜炎にかかりやすい。
先天性感染症として注意すべきは,母体から感染する先天性風疹症候群,
先天性梅毒,先天性トキソプラズマ症, c型肝炎,エイズである。


多 神経皮膚症候群
母斑病とも言われる。精神発達遅滞と皮膚の形成不全や腫蕩等を伴う疾患

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第 8章 障 害 者 の 心 理 と 行 動
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である。発生学的には,中枢神経系と皮膚は外旺葉から分化するので脳と皮
膚とは関係が深い。
代表的なものは,結節性硬化症, フォン・レックリングハウゼン病(神経線
維腫症)と色素性乾皮症である。
結節性硬化症では,精神遅滞,てんかん様発作,皮脂腺腫の三つの症状が
特徴的である。皮脂腺腫は粟粒大から帽針頭大の黄褐色ないし赤褐色の腫癌
で両頬部に多く認められる。皮脂腺腫は脳内にも存在し,精神遅滞やてんか
ん様発作を起こす。皮脂腺腫は 1
0歳以後に顔面に出現することが多く,幼児・
学童期には,難治性のてんかんを伴った精神遅滞と考えられていることが多
い。心臓や腎臓にも皮脂腺腫のできることがあるので,定期的な心臓の精密
検査を行うことが望まし L、。結節性硬化症は皮脂腺腫の増加することに伴っ
て,徐々にではあるが障害が進行してし、く。現在は脳の CTおよび超音波断
層法や MRIにより,早期診断が可能になった。
フォン・レックリングハウゼン病は,神経の走行に沿って種々の大きさの
腺維腫と色素斑 (カフェ ・オ・レェ斑〉が認められる。 この疾患の約 1
0%に精
神遅滞やてんかん様発作がみられる。

@ その他

襲 先天性甲状腺機能低下症 クレチン病とも言われる。甲状腺ホノレモンは
中枢神経系や骨の発育には不可欠のホルモンである 。先天性に 甲状腺の欠損
や形成不全あるいはホノレモンの合成障害のために起こるものである。精神遅
滞と発育障害 (小人症〉を示 し,体の動きは不活発で、発汗が少なし、。早期から
甲状腺ホノレモン製剤の内服が必要であり,薬物治療の効果は著明である。し
かし,長期間,時には一生の聞の服用を続けなければならない。

援 ローレ ンス・ムーン・ ビ一ドル症候群 精神遅滞, 肥満,色素性網膜変
性症,多指,性器発育不全を示す。先天性代謝障害とも考えられている。色
素性網膜変性症のため,暗順応不良,視野狭窄が起こり,視覚障害を伴う場
合がある。
務 プレ ー ダー ・ヴィ リィ症候群 乳児期 までは筋緊張低下が著しし、。幼児
期から肥満が著明となり,精神遅滞,小人症,外性器形成不全がみられる。
最近,染色体異常によるものと考えられている。

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襲警多発性形成不全 精神遅滞 とと もに,


特有な顔つきや種々の形成不全を
伴うもので,遺伝性と考えられる疾患が多い。
コノレネ リア・デ・ランジェ症候群, トリー チャ ー・ コ リンズ症候群,ハ ー
ラマン ・ス テ ィ ッ ク 症 候 群 , フ ァ ン コニ ー症 候 群 , マ リネ ス コ ・ シ ェ ー グ レ
ン症候群,マルファン症候群/レビンシュタイン・タイピィ症候群等がある。
8
-1に米国精神薄弱学会 (AAMD)による精神遅滞の医学的分類を参考まで

8
-1 精神遅滞の医学的分類 以 AMD,1973)
.0 感染と中毒 45水頭無脳症
01出生前感染 46多様奇形(明記せよ〉
02出生後脳感染 47単一瞬動脈
03中 毒 .48その他(明記できないもの〉
.1 外傷または身体的要因 49その他(明記せよ〉
11出生前損傷〔明記せよ) .5 染色体臭常
.12出産│時の機械的損傷 50染色体異常, A{洋(染色体 1- 3)
.13周産;WJ
低酸素症 (もし特別な染色体番号がわかれば,明記せよ〕
.14出産後低酸素症(明記せよ〉 51染色体異常, B群(染色体 4, 5)
.15出産後損傷 52染色体異常, C{洋(染色体 6-1 2)
2 代謝または栄養 53染色体異常, D{洋(染色体 1 3-15)
21神経細胞 リポイド蓄積疾患 54染色体異常, E{洋(染色体 16-18)
22炭水化物疾患 55染色体異常, F{洋(染色体 1 9,20)
23アミノ駿疾患 56染色体異常, G{庁 (染色体 21,22)
24ヌクレオチド疾患 57染色体異常, X群
25無機物疾患 58染色体異常, Y群
26内分泌疾患 59染色体異常,その他の染色体異常
27栄養疾患(物質と出生後の時期を明記せよ) 6 妊娠期間不つり合い
28その他(明記できないもの) .61未熟
29その他(明記せよ) .62期間に対して小さい (低体重〕
3 粗大脳損傷(出生後〉 .63過 熱
31神経皮膚発生異常 68その他(明記できないもの)
32腫 湯 69その他(明記せよ〉
33脳白質,変性的 7 その後の精神医学的障害(明記せよ〉
34特殊線維路または神経群,変性的 8 環境の影響
.35脳血管など .81特殊感覚(視,聴〉の重篤な欠陥によるもの
.38その他 (明記できないもの〉 .82感覚遮断
.39その他(明記せよ〉 83重篤な刺激剥奪(重篤にネグレク卜された子
4 不明の出生前影響 ども)
.
41脳奇形 .88その他 (明記できないもの〉
42頭策奇形 .89その他〔明記せよ〉
.
4 話頭蓋脊椎裂
3J
J .9 その他 の病態
44水頭症 .91その他の生物学的病態(明記できないもの〕
.99その他の生物学的病態〈明記せよ 〕
出所 教育と医学 J
佐藤比主華美「隙普 JE 医学の|臨..床~ r (障害児教育実践体系第 2巻〉労働旬報社,1
984年
, 6
0頁。

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第 8章障害者の 心理と行動
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にあげておいた。

D 肢体不 自由

肢体不自由とは,四肢・体幹の障害 によって起きた運動・姿勢保持の障害
である。この場合,指の欠損等の形態異常や,肺,心臓,消化器等の内臓の
障害だけでは肢体不自由とは言わなし、。体幹とは,脊椎を中心とした頚部か
ら腰部までの部位を意味している 。
肢体不自由には,中枢神経系の障害によるものと,骨・筋肉・関節等の中
枢神経系以外の障害の 二つ に分けられる 。
中枢神経系の障害のうち,脊髄の障害に よるものと骨・筋肉・関節等の障
害による肢体不自由者の支援は,医療サイドからの助言を参考としながらも,
比較的共通した配慮で十分である。一人ひとりの障害者に対 して,より細か
な配慮が要求されるのは,脳の障害 による肢体不自由児 (
者〉 の場合であろ


以下肢体不自由の主な疾患について述べる。
綴 脳性まひ 脳性まひとは,脳の障害 によって起こった運動および姿勢
保持の障害であって,脳の障害は妊娠中から出生 4週(新生児期〉ま での聞に
起こった場合に限られる。脳性まひの頻度は, 1
000人に l人からl.5人であ


けい直型, アテ トーセゃ
型,強剛型,失調型,低緊張型,混合型等に分けら
れる。けい直型には,片まひ型,両まひ型等がある。
脳性まひ児 (
者〉 の支援に当たっては,重複障害 (
特に,精神遅滞や感覚・認
知障害〉およびてんかんについての配慮が大切であろう。

警 脳性運動障害 一般には,脳性まひ以外の中枢神経系の障害による運
動・姿勢保持の障害を脳性運動障害 と言 い,脳の形成不全,染色体異常,代
謝障害,脳変性疾患等が含まれる。支援は,原則的には脳性まひの場合と同
じである 。

撃 二分脊椎 (既述〉


援 ぺルテス病 大腿骨骨頭部の無菌性壊死と線維性置換を示す疾患で,股
関節への過剰な体重負荷がかからないよう配慮する (装具の使用 〉


警 進行性筋ジス卜口フィー症 筋肉の萎縮する進行性の遺伝性疾患であ
り,先天性代謝障害 と考えられている。進行性筋ジストロフィー症は,先天

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性,デュシャンヌ型 (
仮性肥大型)
,顔面肩甲上腕型,肢帯型等に分けられ
る。進行性筋ジストロフィー症の約 85%がデュシャンヌ型である。
デュシャンヌ型は, 3-4歳ごろ発病する。 7歳から 1
0歳ぐらいで歩行障
, 1
害 0歳以後は歩行不能, 1
6歳から 1
8歳で座位不能, 2
0歳前後で不幸の転帰
をとることが多い。
病気が進行すると,肋間筋や横隔膜の筋萎縮も起こり,呼吸が障害された
り,感冒もこじれやすい。このため,体位排疾法も必要となってくる。 心筋
の障害も起こるので心臓の精密検査も必要となってくる。
進行性筋ジストロフィー症の 3分の lに精神遅滞が認められる。精神遅滞
を伴う先天性筋ジストロフィー症(福山型〉はわが国に多い。
適度の運動は,疾患の進行を遅らせることができるので,注意しながらで
きる限り運動を続けることが望ましい。病気の進行をできる限り遅らせ,少
しでも 長 い間生 きが し、ある生活を送れるよう支援することが大切であろう。

11 てんかん
精神遅滞や脳の障害による肢体不自由では,てんかんを伴うことが多いの
で,てんかんについては十分理解しておかなければならない。
てんかん発作は,けいれんだけではなく,短時間の意識消失,もうろう状
態,筋脱力,意味のはっきりしない動作(例えば,舌うちを したり,指遊びのよ
うな動作),幻覚等がある。
理解しがたし、行動のみられる場合には,脳波検査等てんかんについて検査
も必要である。

Eヨ 視覚障害

視力 0
.02未満を盲, 0
.02-0.
04を準盲,0
.04-0
.3を弱視 と
し、う

視力 0
.1-0.3の軽度弱視では,照明 ,席の位置,文字の大きさを考慮 した
り,望遠鏡 および拡大鏡の使用を考える。
視力 0
.1未満の場合には,視覚の代りに聴覚や触覚を活用しなければならな

L、
視力障害が,先天性ある いは幼児期に起こった場合は,言葉のみの理解が
多く言語主義(ノくーバ リズム〉に陥りやすいので,具体的な事物に即した指導
が必要である。

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5歳以後での中途失明の場合には,視覚的イメージの保持のため,再生強
化学習の必要もあるが,むしろ大切なのは心理的立ち直りを精力的に支援す
ることであろう。
コミュニケーショ ンの手段 としては,点字の他に, レーズライター,カナ
タイプ, オプタコン 等,歩行の補助機器としては,白杖の他に, レーザーケ
ーン,モ ー ワッ トセンサー, ソニックガイド等の福祉機器がある。
視覚障害には,視力障害だ けでなく,視野の異常,眼球運動障害,色覚お
よび暗順応の障害があり,安全面の配慮が必要となる。
精神遅滞を伴う視覚障害では,精神遅滞への支援を中心に行うことが望ま
しい。
視覚障害が眼によるものか中枢神経系の障害に よるものかは,網膜電図と
か視覚誘発電位等の特別な検査を行って推定する。

D 聴覚障害および言語障害

聴覚障害 (難聴〉は,音や声に よる外界からの情報が得られないだけでな


く,幼児期までに起こった障害で、は言語を獲得ーすることができなし、。
聴覚障害は,障害された部位により,外耳道から鼓膜,中耳までの音を伝
える部位の伝音性難聴と,内耳から聴神経,脳の両側頭葉の聴覚中枢にいた
る部位の感音性難聴,両方の合併した混合性難聴に分けられる。伝音性難聴
は医療によって難聴の改善されることが多いが,感音性難聴では治療困難な
ことが多し、。最近では,聴器の機能には特に異常を認め ないのにかかわらず,
心理的ス トレスによって起こる 心因性難聴が注目されてきている。
聴覚障害に伴う症状としては,耳鳴やめまい,平衡感覚の障害等がある。
先天性や早期からの聴覚障害では,早期教育が必要であり,補聴器を使用
しての聴能訓練を生活に即して精力的に行うべきである。支援者としては手
話の理解も必要となろう。
言葉は,コミュニ ケーションお よび思考の手段と して重要なものであり,
話せるということは社会生活上歩けるということと同じくらい大切な意味を
もって L、
る。
乳幼児期の言語障害には,精神遅滞や発声器官の運動障害,聴覚障害によ
る言語獲得の困難等があげられるが,同時に,言語学習の制約された環境的
側面を忘れてはならない。

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失語症に代表される中枢性の障害による言語障害は主に成人期以後にみら
れる。この際,患者は自分の思いが通じないため,時に興奮 したり,乱暴な
行動に 出たりする。 乱暴な行動のみを問題とせず,それにいたった心 の焦り
について支援者は十分な理解が必要であろう。

D 内部障害

内部障害者は,長期の療養によって,行動や生活の規制を強いられ,疾患
の経過や検査の結果に一喜一憂して感情が動揺したり,体力も低下 したりす
る。そのため,情緒不安定,欲求不満,依存性,社会的不適応等の 心理的な
問題が生じやすし、。
支援者としては,疾患の理解以上に,本人の不安や苦しみ受け入れ,さり
げないはげましを行うよう努力しなければならない。
心臓の障害としては,子どもでは先天性心疾患(心奇形〉がほとんどであ
り,成人では,高血圧症や動脈硬化症による心疾患が多 し
。、 心臓の障害では,
運動等は消極的になりやすいが,適当な運動ではむしろ 心臓の機能の改善さ
れることも多い。
内部障害者の支援に関しては,運動や生活の規制等についての細かい配慮
が必要であり,医療サイドの助言をおろそかにしてはならない。

回 精神障害

心理的な原因によって起こる神経症,老人痴呆等の脳の器質障害によって
起こるもの,内因性精神障害と呼ばれて原因のはっきりしない精神分裂病や
操うつ病がある。
精神障害者の支援については,精神科医, 心理臨床家等からの専門的助言
が必要であろう。

*
以上主として医学的な立場から障害について述べたが,医学的接近は,あ
くまで人間の生物学的側面,身体的側面を明らかにするにすぎなし、。人聞は
ただ単に身体的(モノ的〉存在にとどまらない。障害を理解するのは,障害を
もっている人聞を十分理解するために行うものであり,人聞を身体的存在と
してみることにとどまらず,心理的,社会的存在として理解することの重要
性を強調しておきたし、。

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2 障 害 児 ・者 の 発 達一一人間発達の各期における充実とは一一

E・ 障害児 ・者問題を考えるうえでの発達心理学的課題

障害児・者の心理といっても,彼らの抱える問題には健常と呼ばれる人び
とと共通のものが多い。 しか し,あえて心身になんらかの障害がある人たち
の特徴と い えば,障害のゆえに社会的 に受け入れられなかっ た り,能力が正
当に評価 されなかった りといった,障害があると い うこ とだ けで差別 を受け
ることによって,彼らの悩みや生きていくうえでの困難さが拡大され,それ
が彼らの 心理に反映されてくることであろう。今日,社会の障害児・者に対
する考え方,受け入れ方は変わってきたとはし、え,歩道に点字板がせっかく
敷かれていても,その上に自転車がおカ通れていたり,車いす用の トイレがあ
っても,そこに行くまでに段差があって,現実に使用することが不可能であ
るなど,障害児・者の立場からみると,まだまだ多くの課題をわれわれの社
会は抱えている。以上の点からも障害児・者の発達を考えるとき,社会の問
し。
題 と切 り離 して論じることは難 し 、
ここでは r
発達」とし、う視座から,今日的なさまざまな状況の中で,障害
児・者の療育や教育を進めていくうえで、の基本的な問題やその方向性につい
て考えたい。
一般に人間発達においては,発達の段階として,胎児期,乳児期,幼児期,
学童期,青年期,中年期,老年期という分け方が一般的である。近年,社会
的な高齢化問題がもちあがり,生涯発達,あるいは生涯教育の問題が話題に
のぼっている。筆者らの専門とする発達心理学と し、う学問領域においても,
老年期における老いの受け入れについての研究など,生涯発達心理学的立場
からの研究が増えてきている。老年期を発達心理学的視点で位置づけるとき,
村井(19
92) は,次の五つが基本になければならないと考えている。
(
1) 人聞を時間的統一体 としてとらえる 。
(
2) 老年期の中に,発達ということばで表現される行動が含まれている,

また,含まれることが望ま しい。
(
3) 老年期の行動は老年期によってのみ定まるのではなく , それ以前の生
き方と関係する。

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4) 老年期が延びたことは,かつての老年期の意味が変更されるばかりで
(
なく,生涯の発達区分の意味も変更されるべきであろう。
(
5) 生は死との関係において明確になる。ゆえに死の問題,死の意識の問
題も発達心理学の問題となるが,そのことが最も普遍的,具体的になる
のは老年期である。
かつては障害者,特に知的障害者は早く老化を迎えるのではないかといわ
れ,逆に最近では平均余命が延び,障害者施設における高齢化 が進み,その
対策をどうすべ きか苦 しんでいるといわれている。どちらの 問題もまだ検討
するだけの十分な資料がないのが現状であるが,ダウン症を例 にとれば,以
19
前には,彼らは短命であるといわれたこともあった。古川 ( 9
3)によれば,
ダウン症の平均生存年齢はここ 30
年の聞にほぼ2
0年延びていると L、う。もち
ろん一般人口の平均余命年齢と比較すると依然としてダウン症者の余命年齢
は低く,一般人口よりは短命であるとし、う意見もある。
医療の発達によってだけでなく,社会が障害者を受け入れることが多くな
り,戸外でも十分活動ができ,精神的にも充実して生を送れる人が多くなり,
さらに一般的な健康管理が進むにつれ,障害者の平均寿命の延びる条件は整
っていくであろう。ゆえに障害者においても,高齢化社会を迎える中で,生
涯的なスパンで精神発達や心理的変化を問題にしていかねばならない。その
ためにも,村井のいうように,人聞を時間的統一体と して とらえ,老年期の
問題に発達という視点を導入していくことが必要だろう。
しかし, これまでの発達心理学研究は,乳幼児期,青年期に集中し ,人開
発達を能力の増大の側面を中心に扱ってきた。それと逆の方 向,すなわち,
能力の衰退,減退とそれのもつ人間的意味,あるいは,岡本 (993)が論じて
いるような老年期を迎えても「変化しない自己概念」や「自立のあり方」の
研究が, 今後の発達心理学に期待されているところが大きい。障害者の場合,
特に,障害をどのように受け止め r
障害者として生きょう」と障害者本人が
考えられるようになっていくか,あるいは知的障害者の場合には,彼らと共
にどのように生きていけるかのプロセスの探求は,障害児・者の問題を根本
的 な立場から発達的に理解するうえで是非必要である。
今,発達的にと述べたが,発達ということばの中には時間的経過の中で人
間の行動をとらえるということが当然含まれる。しかし,簡単に「時間的経
過の中で考える」といっても,方法論的には困難さがある。例えば,ある時

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期に獲得された機能が,発達過程において後に出現する諸機能とどのように
関連するのか,すなわち,発達の機能連関性の問題は,短期的,中期的の時
間的スパンの中でならまだ問題にできるが,人生 8
0年, 9
0年間にわたる中で
は非常に難しし、。実際に,発達研究は,乳幼児期においては個々の機能,能
力の発達が中心 となり,青年期以降は自我形成,アイデンティティの確立と
いった人間形成における内的世界の問題を扱ったものが多く,生涯発達研究
とし、し、ながら,学童期を境として乳幼児期と後の青年期以降では,研究の視
点が異なっている。そ してその聞の連続性があまり問題にされず,それをど
うとらえるかはこれからの課題である。
もちろん各段階には固有の特徴的な行動発達もあり,その時期にしかみら
れない,あるいは経験できないことがある。しかしそれぞれの段階での 「発
達」 が,一人の人間の成長,発達過程,人生の中でどのようにつながり,意
味づけられていくのかの聞いは,障害があるなしにかかわらず,人開発達を
考えるうえでの基本的課題なのである 。たまたま 心身に障害がある人聞が,
障害をもちながら,家族,地域の中で育ち,学校で勉強し,就職し,結婚し
また子育てを行う という 一般の人と同じコースをたどっても,その人にとっ
てそれぞれの時期で障害はどのような意味をもったのかの問いかけをするこ
とは,障害をもって生きている人びとの発達的理解の視点として非常に重要
であり,それが時間的統一体として障害者をとらえることの具体的な姿を示
すことになろう。

EI 取りもどし論
よくマイナスの経験をプラスに生かすということがし、われる。このことは
発達心理学的立場からも重要な問題を提起する。障害児・者は現代社会で差
別 を受け, そのことが本人だけではなく障害児を育てる親にも大きな負担に
なっている。 しか し,障害児を育てている親からときどき聞くのは 先生,
r
この子が生まれてショックで大変だ ったけど,私自身は人間的に とても成長
したと思います」というようなことばで ある。これも障害児本人ではないが,
周りのものがマイナスの状況をプラスに生かした例の ーっ といえよう。
一方,今日,乳幼児の早期教育が問題になっているが,早期教育の主張の
中に r
何歳になってからでは遅すぎる J rあるいは何歳までの育て方で一生
が決まる」というものがある。 1
960年代からアメリカにおいては,家庭教育

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外の教育プログラムに委ねられる幼児の数が全体の半数を越えてきていると
いう状況があり,そのことから乳幼児期に系統だったプログラムによる教育
を与えることの是非につ いて議論がはじまってきた。わが国 でも 今 日幼児教
育はきわめて盛んであるが,そこで述べられているス ローガ ン以前に,少子
化 の現実で,幼児教育の場がその生き残りをかけて市場開拓をせ まられてい
るという背景があることも注意すべきである。このような考え方には危険が
ともなうが,障害児を含めて早期教育の問題を発達における教育の最適期の
問題としてとらえるべきであるとも考えられる。すなわち,ある時期に適切
な指導を行うことが子供の発達にとって最も効果的であるという考えであり,
その中身は早期に行うことが望ましいという考え方である。例えば障害の中
にはその治療をできる限り早期に対応しておいた方がよいことが多く(例え
ばフェニールケ トン尿症の場合入適切な時期に適切な対応が受けられなかった
子供は,手遅れということですまされるのかとしづ問題が残る。
しかし,常 に人聞はそれぞれの段階で,適切な経験が受けられるとは限ら
ない。そして人間の特徴は,もし適切な経験が得られなかった事実は消えな
いとしても,後に取りもどすことができるということ,すなわち人間には可
塑性があるということである。そのことは,過去の経験は変えることができ
なくても,その意味を時間的経過の中で変化させ,現在の生き方に反映させ
ることができるという考えである。この考え方は,発達的にも,教育的にも
大きな意味をもっ(村井はこの点につ いて「発達の取 りもどし論」として 論じて
いる〉。現実に障害者の発達をみているとそのよう なエピソードは数多くみら
れる。われわれが想像もできないような苦しい子供期を送った障害者が立派
な人格者になり,場合によってはユーモアをもった豊かな人もいるのである。
このような視点で,障害児・者の発達過程における機能連関性や,生涯発達
の問題が議論されうるならば,子供の発達のとらえ方,教育のあり方そのも
のにゆとりが生じ,そのことによって,子供の生きる場も広がって い くであ
ろう。

EI 発達の各段階における充実した生活とは:障害児 ・者の生きる場を広げる
本節のはじめにも述べたように,障害児・者と健常児・者の 抱 える発達的
課題,問題は基本的には共通である。もちろん障害があるゆえに周りのも の
が配慮すべき点はあるが,両者にみられる基本的な発達的課題 は共通である

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といっても言い過ぎではなし、。
近年,障害児・者の福祉,教育の分野では特に「一人ひとりのニーズ」を
大切にするということが強調される。山梨(19
93)は,人間には共通した基本
的欲求として,人格的欲求と社会的欲求があり,障害者の中には環境(人的,
物的〉とのかかわりのあり方によって,この基本的欲求が満たされないことが
生じると述べている。
ある発達段階において 充実した生活」といった場合には,現代のように
r
価値観が多様化している時代では,その定義そのものが難しいが,あえて共
隔が広がっていくこと
通項をあげるならば,それぞれの発達段階で,選択の l
があげられよう。特に障害児・者の場合,生活の場においても教育の場にお
いても選択の幅がきわめて小さいのであり,この点について,村井は一貫し
てこのことの重要性を主張してきた。例えば,車いすの普及は,移動につい
ての選択の幅ができることであり,学校の門が開かれることは学ぶこと,友
達を作ることの選択の幅の増大である。
さらに,障害児の言語指導法について多くの方法が開発,紹介されてきて
いる。その効果や限界については研究的に十分検討されているとはし、し、がた
いが,少なくとも多くの方法が開発されてきたことは,障害児が言語を学ぶ
ための選択できる幅が広がってきたことであり,少なくとも評価できるので
はなかろうか(村井, 1
99)。したがって,教育的課題としては,障害児・者
4
自身が,あるいは親が選択できる研究が多く出現すること,その上に立って
同時にその中で,子供にとって望ましい方法を選択する眼を育てていくこと
が大切なのである。
以上の選択の幅の増大ということから,現代社会の問題点を考えてみたし、。
まず乳幼児期から考える。乳幼児期は,親子関係が大切なことはいうまでも
ない。親とのやりとりの中で子供は多くのことを学習する。もしその関係が
十分でなかったり,ひずんでいたりすると子供の生きる自由が奪われ選択の
幅は狭くなる。ただ選択の幅を広げることのみの強調は常に危険が伴う。す
なわち選択されるべきモデノレ刺激の中にマイナスのものを除去することは不
可能としても, どれだけ子供にとってプラスのものが導入されているかとい
うことであり,さらにいえば何がプラスかという点について価値観が混乱し
ているのである。乳幼児期の特徴は,生物学的には依然、として,全面的に大
人に依存しなければ子供は生きていけなし、。そして,親を中心とした他者と

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の関係の中で子供は次第に自我を形成する。乳児の行動を生活の中でよく観
察すると,大人の行動をよく見て,取り入れていることがわかる。マザ リン
グといわれる身近な大人との情緒的交流を基礎に, 他児への関心 も高まり,
この人間関係の広がりが子供の外界認知の拡大につながる。シーガノレ CSi
egl,
a
M.,1
993)は,今の子供たちはきわめて早くから 抽象的理解を行う機会が与え
られていると述べている。出生時点あるいは胎児期からも文化的,社会的影
響を受けて生きている。そして文化の発展が,人開発達にいろいろと影響を
与えていることは人生の初期の段階から明らかであるが,乳幼児期には, ド

ベス CDe
bes
se,
M.,
192)も指摘 しているように,子供は貧欲に周囲の世界を
8
知ろうとする。そのような子供の 心理は昔も今も変わらなし、。乳幼児期には,
その心性を理解し,大人が調整して文化を伝達してし、く時期といえる。その
ことについては, フツレーナー CBruner
,J .,
.S 1
98)も
3 , ことばの獲得の問題に
関連して,人聞に賦与された能力が示される場合に,いかに文化とし、う媒体
に助けられているか,を問わねばならないと指摘し,乳児は i何が求められ

ているかについて独特な仮説をもって文化的に反応し,秩序に属する準備性
をもって言語へ踏み出していくのである 」 と述べている。
文化 が進むということは i人為の分野」が多くなる,ということでもあ

り,われわれの社会がそのような方向に流れている中で,子供の発達がどの
ように影響を受けるかは大きな問題である。ウィン CWi
nn,
M.,1
984)のいう
「子ども時代を失った子ども」を造っていかないようにするためにも,われ
われ大人は,子供の関心や興味に即した環境を調整 し
, 乳幼児期における今
日の子育てのあり方を考え直 してし 、く時期にきていると いえよう。この問題
は,障害児の早期教育,就学前教育の内容を考えていくうえで特に主要な課
題となってくるものと思われる。
一方,障害児・者の発達からみれば,このような文化変化,その方向性の
問題は,村井も指摘しているように,価値観の変換をもたらし(例えば,こと
ばはしゃべれなくても文字で表現できればよいなど),多様な方向を許容する時
代になりつつあると考えられる。価値の転換と転換を許容する環境条件の整
備によって,その人の可能性が増大すれば,障害をもった人の活躍の範囲が
広がるといえよう。障害児・者の発達と文化 め問題は現実的問題と して,今
後さまざまな視点から検討されていく必要がある。

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s 障害児の教育,療育の目的

各発達段階において充実 した時期を過ごすといっても,今日のように価値
観が多様化した時代で、は何をもって充実していると考えるかが難しい。福島
19
( 3)は,障害児は何かし、いたくても,家族にさえもうまく効果的に表現で
9
きないことが多く rそうした彼らの内面をどこまでリアルに想像で、きるのか
が,障害児教育と研究に携わるわれわれに問われてくるのではないか」と述
べて いるのは正 し
し。、
早期教育,早期療育も障害の軽減あるいは除去に効果をもたらせばそれに
こしたことはなし、。しかし障害の中には障害その ものは治らないものも多い。
エイズのような新しい問題も生じてきた。障害をもち,その本人だけでなく ,
その家族も rあたりまえの充実した生活」を楽しめることを考えていかねば
ならない。
今日,障害児の療育,教育プログラムについて多くのものが開発され,一
定の効果を示しているものもある。しかしその多くについては,効果,特に
長期的な視点から検討されているものは現時点では少ない。やはり この点に
ついては冷静な検討が必要であろう。しかし,障害児を育てている親からは
そのようなプログラムがあった方が目安にな って助かるという声をよく聞く。
マニュアル化時代といわれる今日,障害児教育だけでなく,教育方法のプロ
グラム化を望む声は今後ますます高くなるであろう。ゆえにプログラムを作
成する場合,特に教育内容の選択にあたっては,先に述べた充実し た生活と
いう視点が無視されてはならないし,それをめざすものでなければならない。

11 青年期以降の問題
障害者の発達過程で問題となるのは,二次的,三次的障害の問題である。
河野は,青年期以前は能力障害の軽減への働きかけが効果的な時期であり,
青年期以降は二次的問題が障害者が生きていくうえで大きな問題となってく
ると述べている 。二次的障害とは本節のはじめにもふれたように,老化の問
題とも関連するが,河野はそれだけでなく,適切な労働条件,生活条件が保
障されて いな いことも大きな 問題ではないかとも述べ,二次的障害の問題は
単に医療的課題であるばかりでなく 社会的問題であり,障害者運動の直接
r
的,重要な課題である」と述べている。河野が述べているようにただこの二

1
37
I音s 障害者心理
第I
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次的といわれる問題を青年期に急にいわれても,障害者自身とまどって しま
うのではなかろうか。すなわち二次的障害の問題は,乳幼児期の早期療育の
時期から,障害児・者が生きていくうえでの発達的問題 とし て考えて いかね
ばならないであろう。
最後に学校終了後の問題である。発達的にみた場合,彼の生きる場の広が
り,特に人間関係の広がりや楽 しみをどのように考えていくかである。地域
によってさまざまな努力がなされているが,そこには障害者自身が社会の一
員と して 生きて い ると しづ実感をもてるように,生きが し、を感 じて生きて い
けるように考えねばならない。老人問題とも共通するが,人間関係が減ると
いうこ とは老いを早めることにつながると いわれて いる。その よ うな こと か
ら考えると池田があげた障害者の四つの願い,①私も働きたい,②無用の存
在ではなく,有用な存在でいたい,③みんな と一緒に暮ら したい,④楽 しく
生きたい,を十分に踏まえて障害児・者の生きが し、の実現にむ けて,障害児
の療育,教育を考えていく必要 があろう。

I
DI まとめにかえて

本節では,障害児・者の心理を考えるうえでの基本的問題について,発達
的視点から検討を試みた。そこで考えさせられたことは,障害を もって生き
る,そ して生きていく中で考え,悩むことの多くは健常者と呼ばれるもの と
共通である。村井が述べるように,民族の中に障害者のない民族はなく,障
害者を含めて社会が成立 しているのであると い うことは,彼らは社会の一員
としてなんらかの役割を担っているのである。養護学校の義務制 が実施され
て1
0数年がたち,障害児の学校教育につ いてみれば,教育の量的広が りを越
えて,質的深化 をめざす時代がきたといわれている。そ してわれわれを取り
巻く文化 が大きく変化してきている状況の中で,障害児 ・者の 問題を考える
とき,発達の各段階において,障害児・者自身が充実 してい ると感 じ,社会
の中で生きていると感じることができるようになる方 向で,そ して障害児・
者と健常児・者が,ある場合には真剣に,ある場合には気楽につき合える よ
うな新たな文化を創造していかねばならない。

J

(
1
) 上田 敏『リハビリテーションを考える』青木書庖, 1
983年
, 7
3頁。

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第 8章 障害者の心理と行動
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(
2
) 向上, 8
7頁。
(
3
) 村上氏康監訳『精神遅滞の用語と分類一一米国精神薄弱学会 1
973年改訂版』
日本文化科学社, 1
975年

(
4 新・児童心理学講座 J1,金子書房, 1
) 村井潤ー「発達の新しいとらえ方 J W 992


(
5) 吉川武彦「精神薄弱と老い 精神薄弱者の老い」東京都精神薄弱者育成会編
『自立ということの意味』大揚社, 1
993年

(
6) 岡本佑子「生涯発達心理学の動向と展望 成人発達研究を中心に Jr教育心
理学年報 J 3
3, 1
994年

(
7
) エルキンド, D
. Wミスエデュケーション』大日本図書, 1
992年

(
8) (
4)と同じ。

(
9) 山梨五郎「障害者の心理と生活」田中農夫男編著 『
心身障害児の心理と指導』
福村出版, 1
994年

I) 村井潤ー 「障害から発達へ.発達論の再構築」第 5回発達心理学会ミニシン
(O
ポジウム, 1
994年

I) シーカツレ, M.W子どもは誤解されている 』新曜社, 1
(1 993年

) ドベス, M. W教育の段階』岩波書庖, 1
(2
I 982年

I) フソレーナ-, J
(3 .S.r
I乳幼児の話しことば』新曜社, 1
988年

(
1
4) (
4)と同じ。
(
1
5) ウィン, M. W子ども時代を失った子どもたち』サイマル出版会, 1
984年

I) 福島
(6 智「盲ろう者からみた障害児教育の課題「想像力」と「幸福」につい
特殊教育学研究 J 3
てJ W 1No.4, 1
994年
, 1
00-
101頁

I) 河野勝行 『
(7 障害児者のいのち・発達・自立一一現代障害者問題の諸相』文理

, 1
990年

I 精神薄弱児研究 J 3
) 池田太郎「青年期以降の生活の充実 J W
(8 18, 日本文化科学
, 1
社 984年, 1
2-1
7頁。

参考文献
・総理府 『平成 7年版障害者白書一一パリアフリ ー社会をめざして J 1
995年

I
39
第 ザ章 障害者の心理

7 障害児の乳鈎児期における発達と早期療育

11 はじめに
障害児の早期対応,早期療育の必要性について否定する人は少な し、。早期
からの専門的な対応によって,より豊かな充実した人生を生きることができ
ょう。
わが国においても,障害児の早期発見・早期治療が叫ばれ始めてからかな
りの年月が経過し,着実にその成果は出てきている。例えば,先天性代謝異
常の一つで、あるフェニーノレケトン尿症は,スクリーニング検査の発達によっ
て,生後 2週間以内に発見が可能となり,生後 2-3週間に低フェニールア
ラニン食を与えると知的発達の遅れをわずかにくいとめることができる。聴
覚障害児教育では早期発見により,補聴器を装用し,残存聴力を利用する聴

, 言語訓練を早期から行うことで,就学時の言語力はかなり 向上した。ま
た脳性まひ児やその疑いがもたれる脳性まひ危険児,中枢性協調障害児は,
早期からボイタ法やボパース法等の訓練を受け,その障害が軽減されるケー
スも出てきている。地域によってその差はまだまだ大きいが,全体的には障
害の早期発見システムそのものも 制度的に進展し ,種 々の障害に対して早期
からの訓練・指導法について開発・研究が蓄積され,発達的にみてその効果
が問題にされてきている。精神発達遅滞児の中でも 比較的早期に発見が可能
であるダウン症児に対する早期指導プログラムの中には,外国で開発され,

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第 9章 障 害 者 の 心 理
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わが国でも普及しているものがあり,乳幼児期にそのようなプログラムを受
け,学童期に達 した 子供の効果について議論され始めている (
9-1
) 0

障害を未然に防止すること,障害の軽減,二次的障害の発生の防止,そし
て乳幼児期より養育者を援助することによって,孤立させることなく,子供
の人格形成に最も影響を与えるであろうと考えられる親子関係を望ましいも
のとすることに早期発見・早期療育の意義があり,決して非障害児の発達に
近づけようとすることがその目的ではなし、。
ところで,早期発見・早期療育の背景にある考えは,乳幼児期は人間の発
達においてきわめて可塑性に富むということである。しかし,村井(19
72)が
指摘しているように,早期療育によって効果があるということは,人間の発
達において乳幼児期が可塑性のある時期であるという点においては,かえっ
て発達的にマイナスの影響を及ぼす ことがありうることを早期療育,早期教
育を進めるうえでは十分に考慮しなければならなし、。また,障害が早くから
親に告げられることによって,親が不安になり,その後の養育態度を歪める
こともありうるので,障害の伝え方,伝える時期については十分な配慮を必
要とする。
本節で問題とする障害児の乳幼児期は,早期療育・教育の対象となる時期
である。ここでは障害児の乳幼児期の発達とそのとらえ方について述べ,発
達心理学的な立場から早期教育・療育の内容について考える際のいくつかの
視点を提示する。

E
I 乳幼児期の発達と発達援助を考えるうえでの基本的視点、
障害児は,ゆっくりながらも健常児の発達過程と同じプロセスをたどると,
障害児の発達をみていくときによくいわれる。確かにそのこと自体は間違い
であるとはいえないが,同じ道筋をたどっているようにみえても個々の子供
の抱えている問題,課題は異なる。 しかし,個々の子どもが抱える課題は,
健常児の発達課題と共通であることが多く,決してその子供の障害に還元さ
れるべきではない。

多 感覚運動期

スイスの発達心理学者であるピアジェ (Pi
agt,
e ,1
]
. 9
69) は,生後 2年間ま
でを感覚運動的知能期と名付けた。感覚運動期の末期に,子供は組織的に言

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第I
I部 障害者心理
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-1 わが国における主要なダウン症児早期教育プログラムの概略

ワシン トン大学 オレゴン大学


フ.ログラム名 筑波大学プログラム ポーテージプログラム
フ.ログP ラム プログラム
ワシントン大学 オレゴン大学 筑波大学 ポーテージ ・プロジェクト
開発機関 児童発達精神遅滞セン 人間発達センター 池田研究室
ター
徳岡教育大学山下研究 筑波大学池田研究室 東京学芸大学山口研究室
わが国での 室 ・ダウン症研究グノレ その他 その他
主要な実施 ープ,財団法人子供の
-研究機関 域協会 ・子供の滅療育
センター
v
.ドミトリーヴ著 マーシー ・J・ハンソ 池田(編) 1
985 rダウ S・プノレーマほか者
高井 ・山下 (監訳) ソ箸佐藤(監訳〕 ン症児の早期教育プ ロ 山 口(!監訳) 1
983rカ
わが国での
1
983 rダウン症児の早 19
81 rダウン症乳幼児 グラム』ぶどう社 ード式ポーテージ乳幼
参考図書ま
期教育』 同朋舎 のステッ 7 指導』学苑 児教育プログラム 』主
0

たは手引 ・
松尾(編 )
渥美 ・ 1
983r
発 社 婦の友社
ガイド
遠の遅れた子どもを育
てる方へ』星和書庖
粗大運動,微細運動, 粗大運動,巧ち運動, 運動,認知,言語,社 乳幼児期の刺激,社会

発達(指導〉
認知,言語,社会性の ことば,社会的行動と 会性,生活習慣の 4領 言語,身辺自立,認知J,
領域
5領域 身辺自立の 4領域 域 運動の 6領域
専門機関 およびそれと 家庭指導が中心, 専門 子どもと接 してい る者 家庭指導が中心
の連携による家庭指導 機関との連携 なら誰でも指導できる 専門機関との連銑
指導の形態
保育機関との連携によ (家庭,保育園,センタ
る指導 一,保健所,専門機関)
発達の評価li(発達過程 -正規の手順を必要と 発達の評価 チェックリス トの記入
の記録, チェック) すーるプログラム 達成目標の決定 指導目標の設定
目標の設定 発達の評価,課題設定,練習方法(誰が, いつ,指導目標の行動目標化,
方法の決定 最終目楳の決定,諜題 どんな方法で)の決定 課題分析
指導の手続 (プログラム ・シート 分析,ステップの決定 再評価 1週間以内に達成でき
き への記入〉 ステップ目標の決定 る標的行動の選択
実施〔練習) 方法の決定 アクティヴィティ ・チ
評側・ 記録 実j
J包・記録 ャートへの記入
(経過記録シートへの -正規の手順を必要と
記入〉 しな L、プログラム
(学習理論 ・行動原理〉 (行動理論・ 行動分析〉 (教育の観点〉 (行動分析の原理)
強化 強化 (物による強化 , 遊びの中での自然のふ 強化(罰,正の強化,
言語的 ・身体的手がか 社会的 ・身体的強化, んい き 刺激の除去〉
り,モ デリ γ グ, シェ 活動的強化〕 上手にできたらほめる 援助(身体的 , 言語的,
指導の技法 ・
ーピ ング 手がかり(言語指示, やさしい課題から段階 視覚的〉
援助タイプ
(学習の前提条件の重 身体的援助〉 的にチャレンジ タイムアウ ,
ト シェーヒ.
視〕 課題分析 ング, フェイディング
(ダウン症児の特徴の 形成化(シェーピング) (学習の前提条件の重
重視〉 (学習~!境〕 視〉
精神高草弱問題白書 ・1
出所 山下 勲 『 988年版 J E
I本文化科学社, 1
988年

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第 9章 障 害 者 の 心 理
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-2 シェマの発達と構造の変化
感 前 具 お1
党 慨 体 象
運 念 的 的
動 - - ; 概 概
シ多協内組 1 多 協 内 組 念 多 協 内 組 念 多 協 内 組
エ 二 ン ン
マ →様 → →面 → 織 → " → 機 → → 面 → 織 → エ → 様 → → 商 → 織 → エ → 様→ →面 → 織→
〕 ニ " "
化 応 化 化 シ 化 応 化 化 〕 化 応 化 化 〕 化 応 化 化
エ 、 J 、J 、
J



、 ノL ノ

感覚運動的段階 前操作的段階 具体的操作段階 形式的操作段階

操作的段階

表象的段階

出所 村 井 潤一編 r
発達の理論をきずく J O
i
ljf
fi
}発達 4)ミ平ノレヴァ密房. 1
986年

語を獲得し始める。ピアジェは,感覚運動期をさらに六つの下位段階に分け
ている。彼はすぐに引き起こせる行為をシェマと呼び,シェマは生得的な反
射シェマを基礎に発達すると述べている。ピアジェの発達論は一言 でいえば,
岡本(19
86)が指摘しているようにシェマの発達論といえる。
9
-2に示すように,感覚運動期の発達は, シェマが多様化,シェマ聞の協
応,内面化,組織化をくり返すことにより,新たな構造をもった シェマの段
階へと発展する。シェマをいろいろなものに適用してし、く同化と,シェマを
適用してし、く過程でシェマ自身が修正される調節の働きの均衡化によって,
知的発達がもたらされ,外界とのかかわりに おいて子供のシェマが多様化し,
シェマ聞に協応が進み,内面化して,新しい構造をもったシェマであるイメ
ージが形成され Z
。 ピアジェの発達理論から,ある時期の発達の構造はそれ
以前の構造を含み,発達段階に応じた多様な経験が子供の 行動発達にプラス
に(動くといえよう。
ピアジェは,特に感覚運動期ではシェマの発達過程における社会的基盤の
問題を看 過 してい るが,人聞を取り巻く世界は大きく「物との世界」と「人
との世界」に二分で、き 2
。健常乳児では生後 9, 1
0カ月 頃に両者の関係が統
合され,一般に三項関係といわれるように,子供は人を介して物と交わり,
物を介して人と交わるようになる。障害児では物との関係と人との関係の統
合に比較的時聞を要する子供が多い。彼らの人との関係と物との関係に着目
し,両者が統合されてくるプロセスの中で,子供と他者との聞の距離化に注

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目することは,障害児の発達を とらえるうえで重要である 。
ピアジェによると ,生得的な反射をく り返 し行使 し (
機能的同化)
,適用 さ
れるものの数が増えていくこと(般化的同化〉に よって ,物の違いが弁別でき
るようになる(再認的同化)。第 2段階(生後 3-4カ月頃〉では, 自分の身体
に限定した感覚運動のくり返 し(手の開閉や手を口にやって吸う,同じ音声の発
声のくり返しなど〉が出現し,このような行為を第 1次循環反応 とピアジ ェは
呼んだ。循環反応は行為の中に物が取り入れられる第 2次循環反応,物 を取
り入れ同じ 反応をくり返 しながら も行為の適用範囲や動作をいろいろ変え て
みる とい った第 3次循環反応へと発達する。循環反応 は障害児の発達をみる
うえで重要な意味をもっ。視覚障害を伴った精神発達遅滞幼児にみられる眼
こすり〈盲児のブラインデイズムの一種〉なども循環反応のーっといえる。子供
の循環反応の中に療育者がどの よ うに入っていき, いかにそれを展開 してい
くかが療育場面では課題となる。
物に対 してまだ興味がない段階の子供では,揺さぶり遊びゃあや し遊 び,
身体的接触 などによる情緒的交流を通 して,人 との関係 を深化 させ てい く過
程で
, 外界への志向性を引き 出し, やりと りの中に物 を介在さ せ,物 にかか
わる 力 を育てることを考える。浜田ら(19
84)が指摘し ているように,物にか
かわる力がどのように して子供に芽生えてくるのかについてはわからない。
しかし,対物関係,対人関係,対自己関係の絡みの中に,物にかかわる力が
発生する条件があると考えられる。 他者との情緒的交流を基盤に外界への志
向性が高まり,こちらの差し 出す物を注視 した り
, 手にするよ うに な り, ま
た手に した物を眺めたり , 口に入れる よ うになるこ とは,筆者 も重症児の療
育実践の中で経験してきた。
このように目と手,手と口の協応動作が成立する と (ピアジェの発達理論で
は,第 2段階にあたる,
) 次には,物への到達行為が発達 し,子供 は周 りの世界
に積極的に働きかけるようになる。くり返 しガラガラを振る な どの第 2次循
環反応が活発になる。盲児では,見えるものへの手伸ば しの出現は遅れるが,
音を出す対象への到達行為は健常児と差がなく,聴覚一手の協応動作 は成立
する。 しか し聴覚刺激に対する子供の受動性によって,生後 6カ月頃には聴
覚一手の協応動作は消失すると いわれて いる

物を取る行動の発達とともに,物に対する手操作シェマが発達し,物が物
として存在するとい う物の概念が形成され,物の永続性が確立する。同時に

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探索的行動が増加し, しだ いに手操作シェマが特殊的に適用され始める。こ
れらのシエマは発達初期からみられるものもあり(例えば,口に入れることな
ど),種々の物に対 して無差別に適用される時期を通して,選択的に使用され
るようになる。また,子供が扱う特定の対象に合わせようとする試みから生
じてくるシェマもある〈ロックマンとマックヘイノレ, Lockman,
J ] &McHal
.,
. e,
.P
J .,1
989)
。 このようなプロセスを経て健常児では l歳前後にその物の用途
に合致 した扱い方(物の慣用的操作〉が発達する。

修 基本的信頼関係の形成と 象徴機能の出現
最近の発達心理学では,乳児は生後間もなくから社会的な存在であり,そ
の有能きが指摘されている。また,発達初期の母子相互交渉に関する研究も
一定の成果をあげている。障害のある子供の中には,物との関係に比べて,
人との関係がもちにくい子供がし、る。それは,人に対する働きかけは必ずし
も一定の反応で返ってくるとは限らず,物への適応に比べて,人への適応は
可塑性を要するからである。先に述べたように,子供との相互交渉の中で,
情動や動作を大人が共有し,情緒的なつながりを強め,外界への志向性を引
き出していく働きかけの中で,自己と他者の 2極性の認知を発達させ 2者
の空間を築くことが後々の発達の基盤になる。重度・重複障害児の早期療育
では医療的ケアとともに, 日常療育場面ではこの点が特に大切にされねばな
らなし、。障害児の療育では,集団の刺激が求められることが多いが,安定し
た個人的関係に おいて ,基本的信頼関係,安定感を築いておかなければ,集
団での療育の効果も期待できない。個人的関係か集団的関係かといった二者
択一的なものではなく,安定した人間関係の形成がこの時期には必要なので
ある。
他者との情動,情況,動作の共有を基盤に基本的信頼感と安定感が子供の
中に育ち,子供にとっての特定の人が成立してくる。 養育者 と他の人とを区
別し,人見知りが出現する 。特定の人との聞に子供にとって 「意味されるも
の」が形成され,情動的なレベノレで,象徴性が芽生えてくる。特定の人との
間で形成される情動的なレベノレで、の象徴性を,中島(19
83)は情緒的象徴と呼
んでいる。情緒的象徴を基盤に愛着行動が発達し,外界認知も拡大し,やり
とりも音声や物,表情を介したやりとりに変化し,大人との共同注意,共同
活動が安定化する。絵本場面などはそのような相互交渉の場として格好のも

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9
-3 絵本場面でのやりとり C
H児,女児 O歳 8カ月刊日)

9
-4 玩具を媒介とした白子相互 9
-5 玩具を媒介とした由子相互支渉
受渉場面における慣用的操 場扇において白親ガ少なくとも
作を開始した両者の平均頻 を使用した頻
一つの玩具の名利l
度とその割合 度とその割合
月齢群 母親の開始 子供の開始 月齢群 玩具の名称の使用玩具の命名
21/, l
.65(55%) 0.
00(0 %) 21/, 2
0(100%) 3(15%)
51/, 3.1
0(70%) O.O
O(0%) 51/2 2
0(100%) 4(20%)
81/, 3.
40(55%) O.
OO(0%) 81/, 1
5(75%) 4(20%)
11/, 4.
1 0
5(57%) 0.
60(1
3%) l
ll/, 1
8(90%) 1
0(50%)
9
-4・9
-5の出所 Uzgi r
is ,I.C.,eta.
l,“Conte xt
ualIn日uenc
esonI mi
tativeInter
action
s
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wee 印nM 川1
0出
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].&Hazen,N.L .匂(eds
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e即e
Ul
ωO戸m仰
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問t,Ple
凹nu
山m
η

pres s,1 989

のとなる (
9-3
)。
物のやりとりの成立と並行して模倣が発達する。模倣は, ピアジェによる
と,同化に対する調節の優勢 である。他者との や りとりの中で観察学習,社
会的促進, 模倣を通して,先に述べた物の慣用的操作も獲得されてし、く。ウ
ズギリスら (
Uzgi
ri
s,1, B
.c
. ens
on,J
.B, K
. rup
er,J
,C.&Vasek,M.E.
,198
9)
の報告をみると,玩具での遊び場面において,比較的早期から親は物の慣用
的な扱いを示したり,物の名前を使用している (
9-4
,9-
5)。親子のやりとり
では,子供が大人の行為 を模倣する前に,親が子供のレベノレまで降りて ,子
供の行為を模倣していることが多く,村井 (970)はこのような親の行為を親
からの同 一視と呼んでいる 。大人からの同 一視は,人との関係と物との関係
を結びつける きっ かけとなり, 言語獲得の前提である模倣遊びを広げるうえ

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-6 意 図 的コミュニケーションの出現と高次化

意図的コミュ二ケーション活動の開始とその協約的 ( con
ven
tio
nal
) シグナルの使用
シグナノレを発するときに,そのシグナノレが大人に引き起こす結果を子供が知っていることを
示す行動の 出現を もって“意図的"ということばを使う

d

0(G
.
M 刈1l

A
u
Au rk

ふEL
O
v0 3
1
個々のシグナル変化(協約化,安定化)

し、替えれば,伝達手段の高次化の プロセ ス
高次化とい うときに,伝達手段の協約化と複合化という 二つの観点が含まれる

出所 B
ates,E
.,TheE
:刑 e
rge
nce0
1Symb
ols:Cog
叫 t
ionandCom
問 包i
u1 c
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oni
nIn
lan
cy,Academi
c
p
res
s,1979

で有効である。
対物行動と対人行動は,すでに触れたように,子供一物,子供 人といっ
た二項関係の中で発達 しながら次第に両者が統合される。それにともな い子
供の意図的コミュニケー ション行動の様相が質的に変化する。健常児では 9,
1
0カ月頃に人と交わるために物を使用したり,物とかかわるために人を利用
するなど意図的コミュニケーション行動が発達する。意図的コミュニケーシ
ョン行動が出現すると,子供のシ グナノレが協約化
, 儀 式化
, 省略化されて手
渡 し (Gi
vin
g),提示 (
Showi
ng),指さ しなどの慣用的伝達手段に次第に変化
し,言語による伝達へといたる (
9-6
)。このような伝達行為の高次化は認知・
対物行動の発達と関連性がある (
9-7
)

対人的行動 と対物行動の発達は密接に関連 し
, ある時期には括抗 しつつ発
達するが,障害児の場合には,先にも述べたように両者の発達にアンバラン
スが生じやすい。対物行動は比較的よく発達していくが,対人・社会性の発
達が著しく遅れる子供がし、るし,逆に人との関係はよいが,物との関係がな
かなか発展せず,玩具などで遊べない子供もいる。どちらの子供の場合にも,
養育者との聞に基本的な信頼関係を形成してし、く過程で,対物関係を広げて
いくことが大切である 。養育者との基本的信頼関係がで きてくると ,養育者
を安全基地とし て探索的行動や一人遊びが増え,自我の強調もみられ始める。
健常児では 1歳を過 ぎると,行動空間も広がり をみせ る(
9-)。この時期のー
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-7 精 神 発 達 遅 滞児 における伝 達 行 為の レベル と認 知 発達 と の関 連
(DA)
1:9
1:8
1:7
1
:6


1
:5
1:4 •••
•••• ••• ••••
1:3
1
:2
1:1
1:0
0・1
1 •• • ••
•••• • •
0:1
0
0:9 A 群 :i
.視 , ~VE ,
主 リーチングによる伝達

0:8 8,群 :クレーン現象による伝達


0
:7
0
:6 • B之 l
83
t干:Givi
ng,Sh
owi
ngによる伝達
群 :指 さ し に よ る 伝 達
Cl町 :言 語 ・指さし以外の身振り
0:5

A 8, 82 83 C (
群)
出所。小山 正「精神発達遅滞児における意図的伝達行為の発達とその認知的前提に闘す
2,1
音声言語医学 J 3
る研究 J r 991年。
・精神発達遅滞児における伝達手段の主芝る行為の発達と認知発達との関連 CD
AI
cJ
:新版 K式発達模査の認知適応領減の領減別発達年齢を示す〉

人遊びゃ探索的行動は認知・対物操作能力 ,知的発達を高めるきっかけ とな
り,人との関係が安定化し てき ている時期のこのような活動は尊重され なけ
れ ばなら ないが,行動空間の広が りによ って,養育者の方は しつ けのこと を
そろそ ろ考え始めなければなら ない ようになる。
人との関係と物との関係が統合され,情緒的象徴,基本的信頼関係が形成
される過程で象徴機能が形成されてくる。象徴機能 とは,あるものを別 のも
のによって表す働きのことをい い, ピアジェは,象徴機能 の発達を「能記」
(意味するもの〉と「所記 J (意味されるもの)との分化としてと らえて いる

す なわち,子供が石ころをあめ玉にみたてて遊ぶ場合, あめ玉が意味される
ものであり,石ころが意味するものの関係になって いる。健常児では 1歳半
前後に象徴機能 を獲得する。象徴機能の発達は,それま での発達の諸結果で
あり
, 象徴機能の発達によって ,子供は外界を記号的 に とらえることができ
るよ うになる。

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9
-8 行動空間の広がり

E
豊田親の下を離れて,お決まりの遊ひゅ場に向かつて歩いて行く H児
(1歳 竹 力 月 9日)

物 象徴機能の発達とその障害
象徴機能の発達に伴って,パイパイやチョウダイといった動作的記号活動
が言語獲得以前に発達する。動作的記号活動の中でも指さしは,その有無が
言語獲得に関する診断的価値をもち,象徴機能の発達の現れとして発達的に
意義があど。知的に障害がある場合には,象徴的行動の発達に遅れを示すが,
聴覚障害児の場合は,動作的記号活動は盛んで, 言語発達は遅れる ものの,
象徴機能の発達そのものには障害はないと考えられる。それに対して,重度
の精神発達遅滞児や自閉症児の中には象徴機能の発達に障害のみられるもの
がし、る。例えば指さしがなかなか出ず,その代わりに人の手をつかんで目的
のところまで連れていき,要求を達成しようとするクレーン現象などが出現
するケ ースもある(クレーン現象は人を道具的に使用し,直接的表現ではあるが,
人との関係をもっているという点では意義がある。そのような子供の要求表現を受
け止め,丁寧に応答していくことは,子供の自発性,コミュニケーション意図を明
確化することにつながる〉。また象徴遊びは,象徴機能の発達の現れであるが,
自閉性発達障害児の中には,象徴遊びの発達が遅れる子供やまったく出現し
ない子供がし、る。
障害児の象徴機能の発達とその援助をめぐってはさまざまな立場からのア
プローチがなされているのが現状である。象徴機能は人間の中核的な機能で
あるから, じっくりと時聞をかけて,その子供の意味世界の広がりを支えて
いくことが望まれる。特に自閉性発達障害児の場合には,早期からの対応に

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より, 他者とのコミュニケーション経験の蓄積がその後の子供の言語・象徴
機能の発達に良い影響を与えるように思われる。先述 したように,身近な人
たちとの基本的信頼感の形成を大切にしつつ,象徴機能の発達をみていきた
いと筆者は考えている。

物 象徴的世界の形成 とその援助 に関する基本的視点


象徴機能の獲得により,音声,動作によって生産されるシンボルは,伝達
性をもっと同時に子供,主体の内面性を表現することを可能にする(村井,
1
980)
。シン ボノレの獲得によって言語が出現し 1語発話期から 2語発話期を
経て,多語発話へと発達する。また,遊び,描固などの表現活動も展開する。
遊びは感覚運動的なものから,みたて遊び,ごっこ遊び、へと発展する。
遊びは発達の源泉であるといわれ,障害児の早期療育においても遊びを通
して指導がなされる場合が多い。 乳幼児期の療育においては全体的な発達の
中で個 々の発達をみて いくことが必要で,特に障害児の場合, 訓練を受ける
など,受け身の形で療育が進められることが多し、。後々の発達を考えると子
供の自発性,能動性が乳幼児期には重視されなければならない。その点にお
いて遊びが重要視されるのである。この時期の遊びの場は,村井(19
87)が指
摘しているように養育者 との遊び, 一人遊び,保育所や通園施設等での集団
遊び、の三つの場面が考えられ,子供にとっての遊びの意味からいうと,精神
安定的な遊びと創造的な遊びが考えられ,それぞれの場面でこの 2種の遊び
が保障されることが,子供の発達には必要であり, この点は早期教育におい
て重視されねばならなし、。そ してそれぞれの場面での遊びが指導的, 訓練的
にならないように遊び、が育つ条件を整えてし、かねばならない。
象徴的世界の成立とその発展には多様な経験を通して子供一人ひとりの中
に意味されるものが蓄積される必要がある。表現活動も描画,言語,歌とい
った個別にとらえられるものではなく,生活や遊びを通 して子供の世界や生
活体験の拡大の中から引き出されてくるものである。乳幼児期には子供の生
活や遊びを充実させることが何よりも大切で、ある。しかし象徴遊びが大事で
あるからといって,療育内容に取り入れられると,形骸化し,本来のごっこ
遊び,みたて遊び、の意義が失われてしまっている場合がよくある。障害児の
ままごとをみると,大人の模倣だけに終わっていることがある。また近頃の
都会では,絵本やテレビから動物を知る子供が多いが,動物や自然との触れ

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9
-9 動物との触れ合い

-うさぎにパンを与える A児
(
2歳 8カ月 2
0日)

合いや実体験の大切さが生活の中で見直されるべきであろう (
9ーの。このよう
な表現する内容をまず豊かにすることを筆者は強調する。幼児期に入ると,
子供は表現することが要求され始めるが,この時期こそ,対人・社会的経験
を広げ,その中で子供が表現できる内容を豊かにしておくことが大切にされ
なければならなし、。集団での療育,保育もそのような視点から考えねばなら
ないであろうし,さらに村井(19
80)が指摘しているように,障害児にとって
意味のある経験,刺激といったものが何であるのかに関する基礎的研究が,
これからの早期療育,教育を考えていくうえで研究的には必要である。

EI 親 の養育態度
障害児を生んだ母親のショックははかり知れず,障害児を取り巻く人びと
の不安や混乱が,障害児の発達に影響を与えることはいうまでもない。障害
児を抱えたことにより,母親は孤独感に陥り,能力主義の 社会の中で挫折感
的}
に陥る。障害児を育てていくうえで,親自身ばかりでなく,家族,兄弟の人
生の目標を変更せざるをえなくなる場合が多くある。死まで思いつめる親も
いる。次の文章は,ダ、ウン症児を育てた親の手記で, 自分の子供がダウン症
倒j

であると知った時の記録の一部である。

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医師から「ダウン症候群で、す J r
精神薄弱児ですよ J r
普通の生活はできない。
身の回りのことができるように育てなさし、」と言われたのです。一瞬,頭をな
ぐられたようで,手足がふるえるのを押さえることができませんでした。いく
らか落ち着きをとりもどしたとき,のどはからからに乾き,顔から血の気が引
くのを覚えました。
医者に言われたことを思い返し,どういうことなのかを理解するには,かな
り時聞がかかりました。「精神薄弱」一一そういえば,いつかどこかで聞 いたこ
とがあるがー・…。そのことについて考えたこともないというか,全く関わりの
ない世界だ,いや,関わりがないというより,そんな人は別の世界の人として
蔑んでいたのかもしれません。私の潜在意識の中では「そんな人は生きていて
何になる…・・・」 とさえ考えていたのかもしれません。
私の心の中に,我が子が精神薄弱児だと認めることを拒み続ける強いものが
ありました。それは自分の産んだ子供が障害児であることが許せなかったから
です。私が生きていく上で、障害を持つ子供がし、るということは面倒なことで,
邪魔になるとさえ考えていたのではなし、かと,今,のぞき込むのも恐いような
深い井戸を見つめる心地で自分の心に問うてみると,きっぱり否定できない部
分を認めざるを得ないのです。
私は,振り払うほどに襲い来る現実に近い不安を,胸をはって遠ざけようと
しました。「そんなはずはない。そんなことがあってたまるか。医者の誤診だ」
と自分に言い聞かせました。見てはならない夢を見ているのかもしれないとも
思いました。(中略〉 ささやかな幸せに浸っていた家族を,一転して地獄の
底へ追いやろうとしている猛がとてもうらめしく,憎くさえなりました。憎む
ことで自分の苦 しさから逃げようともしました。
(塚本洋子『愛の灯を消さないで~ 1
985
年, 5-7頁から引用〉

障害児を生んだ母親の気持ちには,母親個人の種々の問題が交錯している
ので,孤独感,挫折感から立ち直るまでに要する時間はそれぞれの母親によ
って異なるし,姑など母親を取り巻く人の情況によっても違ってくる。この
手記の母親のように,子供の障害を認めたくないとし、う気持ちから,病院や
治療機関を回り歩く親も多い。世間体から子供を外に出せず,その結果とし
て 子 供 の 社会 的 経 験 が制限されてしまうこともある。
早期療育の場では,子供に対する指導・療育だけでなく,このような養育
者に対して,その気持ちを受容し,精神的負担を分担していく中で,子供の
現実を認め,人生や人間の価値を新しい観点からとらえ直すことができるよ

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うに子育てを支えることも大きな目 的になる 。早期療育の場に参加すること


は,親が一歩社会に踏み出したことの現れであり,親によってはそのような
場に参加できずにいる人もいる。療育機関で同じような悩みをもっ親たちと
出会い,自分の子供以外の障害児と触れる機会を得ることは,孤立感から解
消され,精神的安定感を得て,そのことが子供の養育にフ ラスに働くことは a

いうまでもない。筆者が以前に関わっていた精神発達遅滞児母子通園施設
(対象児の年齢は 0-3歳〉では,そのような観点から親指導に力を入れてい
た。定期的な個別指導に加えて月に 2, 3回,母親 7-8名のグノレープカウ
ンセ リングが設けられている (
9-1
0)。その中でそれぞれの母親が これまでの

9
-10 精 神 発 達 遅 滞児 由 子 通園 施 設 に お け る 田親 グル ー プ カ ウ ン セ リ ン グ の 内 容

回数 内 容
自己紹介(子供の障害,家族について ,入固までの経過,障害がわかった時の気持ちな
ど〉
2 I
通園し始めて,生活リズムの変化について
3 Kさんより,障害児と健常児の兄弟とを比較してしまうことについて
1

近隣とのつきあいについて(障害のある子を地域に出しにくし、〉
4 1 Hさんより,障害児に対する父親の接し方について,他の家族の父親はどのように接し
ているのか
5 Mさんより,家庭での遊ばせ方について他のお母さん方から話を聞きたい
1

6 ITさんより,親戚の人に自分の子供の障害のことをどのように伝えているか
7 IKさんより,病院のかかり方,選び方についてみんなの考えを聞きたい
8 1Tさんより,将来のこと,教育方針はどのようにみんな考えているのか
9 1入園後の子供の変化と母親の気持ちについて
0 10さんより,母親の少し先の夢について
1
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11てんかん発作,合併症について
夏の合宿を終えて
1
2 1 Mさんより , それぞれのお侍さんの生い立ち,結婚まで
1
3 1前回の続き
4 1卒園後の進路について, i
1 iiI園施設と保育所の長所,短所について
子供を育てていくうえでの母親と父親の考えのずれ
1
5 1 前回の続き
1
6 1 A さんより,兄弟関係について
1
7 1 Tさんより,世間の人の自分の子を見る限について

1
8 1 Aさんより,健常児の兄弟の問題行動について
1
9 1体験記をみんなで読む

201Mさんより,障害児を持ったものにしかわからない気持ち
社会の障害児に対する理解はどのようにしたら深まるのか
2
1 1 Hさんより,兄弟の気になる行動
障害のある子の方にどうしても手をかけてしまうので,兄弟にストレスがたまっている
のだろうか
2
2 卒園を前に
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悩みや感情,家庭の問題などを出し合い,解決の方法を互いに模索し,療育
者から子供の発達についてや障害,子育てに関する情報を得る過程で,自分
の子供の現状をありのまま認め,現実に根ざして,積極的,建設的方向への心
構えが形成されてし、く。 村井(19
87)が指摘 しているように,人間と しての 学
習の基本的なところが,親子聞の基本的なコミュニケ ーションを形成 してい
く過程で行われると考えると, このような親の精神的な安定と好ま しい養育
態度の形成は,早期療育,早期教育における大きな目的の一つで、ある。
近年,子育てにおいて父親の役割はこれまであまり問題にされてこなかっ
た。最近では,以前に比べて,父親の理解や協力が得られるようになってき
たことは喜ばしいことである。障害児の親の場合には,父親が母親とはまた
違った面で挫折感や悩みを抱えていることが多い。会社で自分の子供が障害
児だとはいえなし、。そのために休みを取って病院や療育の場へ母親に付き添
ってやれなし、。出世を諦めてこの子を育てていかねばならないなど,大部分
の父親は, 日常の子供の様子を知らないだけに,不安も大きい。日曜参観に
来て,新たにショックを受ける父親も いる。親へのアプロ ーチは母親に対 し
てだけでなく,父親を含めて家族全体に対して取り組んでし、く必要がある。
現代の家庭では,家族は安定したものでないと Lづ指摘や,父親の受難時代
とい うことばに表れているように,確かに親子関係は変化してきている。母
親自身の学歴も高くなり,核家族世代の中で青年期の課題を抱えたまま母親
とな った女性も多く,障害児の母親の 心の世界も変わってきて いる。今後は,
社会,文化,家族の変化とのかかわりの中で,早期療育,早期教育における
養育者への援助方法を吟味していく必要がある。

a おわりに

村井(19
72)は,乳幼児期はその後の発達の基盤となるが,すべてではない

と述べて い る。早期療育,早期教育が注目され始めたきっかけは,発達心理
学においてホスピタリズムの問題や初期経験,臨界期などの問題が取り上げ
られ,乳幼児期における経験の遠隔効果が問題にされ始めたことによる。早
期療育,教育の効果に関する報告が最近では数多くなされてきているが, IQ
あるいは DQの上昇や維持でその効果が示されるといったものではな、
し。早
期療育,教育の効果,評価に関する方法論上の検討は今後さらに必要である
が,はじめにも述べたように障害児の早期療育の目的は,非障害児の発達に

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第 9章障害者の心理

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障害児の発達を近づけることが目的ではなく 8章 2節でもふれたように,
今日の社会や家族構造の変化の中でそれぞれの子供が充実した乳幼児期を送
っているかが,まず関われなければならない。そしてこの時期に経験したこ
とが後の発達にプラスになると いう視点から, この時期の療育,教育の内容
が考えられて L、かねばならないといえよう。

2 障害児と学校 障害児の学童期の発達と教育を考える
うえでの基本的問題一一

E・ はじめに

心身に何 らかの障害のある子供の中で,現在の一般学級での教育内容・方
法による教育では十分な力を発揮できない子供がし、るので,その能力や特性
に応じて特別な教育が準備されている。このような教育を障害児教育(特殊教
育〉と呼んでいる。障害児教育を行う機関として,盲・聾・養護学校(精神薄
弱,肢体不自由,病虚弱〉の障害児教育諸学校と小・中学校に設置されている
障害児教育諸学級がある。盲・聾・養護学校の小学部および中学部について
は,学校教育法により義務制は定められていたが,盲・聾学校については
1
948(昭和 2
3)年度から義務制が実施され, 1
956(昭和 3
1)年度に完全実施と
なった。養護学校の義務制は 1
979(昭和 5
4)年度にようやく実施され,それに
よって就学猶予・免除の児童数が急激に減少し,原則的にはすべての障害児
が学齢を迎えれば,学校に入学できることになった。
また障害が重く,通学が困難な子供や施設(重症心身障害児施設,重度精神薄
弱者収容施設)
,病院で生活している子供たちで,やむをえない理由から通学
できない子供は,盲.~1 ・養護学校のいずれかに在籍し,訪問教育が受けら
れる。教育措置を講じる際の基準は学校教育法施行令第 2
2条の 2に示されて
いるが (
9-1
1) この法律は現状にはそぐわないところがある。

現在の障害児教育諸学校数とその生徒数は9
-12に示す通りであるが,障害
児の中には,一般学級で教育を受けているものもあり,障害の多様化,重度・
重複化に伴 って,教育形態も多様化してきている (
9-1
3)。
障害児学校・学級は,その成立の歴史的経過からみた場合,知識主義的な
一般教育の中で締め出されてきた子供一人ひとりを大切にするとし、う側面と,
一般教育を推し進めていくうえで邪魔になる子供を単に収容するというプラ

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川l
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│川

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9
-1
1 特 殊 教 育 対 象児 童・ 生 徒 の基 準と 教 育 的 措置
学校教育法施行令第 2 3年1
2条の 2及 び昭和 5 0月 6日付け文初特第 3
09号「教育上特 別な
取扱いを要す る児童・生徒の教育措置について (通達)Jによる o

障害 障害の程度と教育措置

1 両眼の矯正視 l
盲老および弱視者

カ ー.
0.1未 満 │

2両限の矯正視 「 点字による教育を 必要とす ト盲学校


力 0. 1-0.3寸 るもの ,将 来 点 字 日 仏│
視 力 以 外 の 視 │育を必要とするこどと:言語 │
機能障害の高 │と認められるもの L ムー」
度(視野狭搾,→
高度の夜盲 L その他 特殊学級.通常の学級
全色盲上記程度に達しないもの) において留意して指導

1 両耳の聴力レ
ベル 1
00デシ
ベル以上
削野者および剣勝者

「 補聴器の使用によっても通 設学校
2 両耳の聴力レ │ 常の話声を解することが不
ベル 10
0未 満 斗 可能または著しく困難な程
-60デシベル │ 度のもの
以上 │
」 補聴器を使用すれば通常の 一「
話声を自}干するに著しい困難 │
を!'$じない程度のもの │特殊学級,通常の学級
3両耳の聴カレ ー 補聴絡を使用し でも通常の │において留意して指導
ベル 6
0デ シ ベ 話声を解することが困難な │
ル未満 程度のもの 一一一一一一一 l

精神発育の遅滞の程度
1.重度(IQ25一 一一ほとんど言語を解さず自他の
ないし 2
0以下) 意志の交換及び環境への適応
が著しく困難であって常時介
精 護を必要とする程度のもの
養諮
和l
'I2.中度(IQ 20一一一環境の変化に適応する能力が 学校
│ ないし 25-50 乏しく ,他人の助けによりよ
薄 │ 程度) うやく身辺の事柄を処理する
ことができる程度のもの


﹁﹂│L
活の思
度月

適乏 一 (も
叩釦

しを困

え理で
刊一巾身象も
(程

第一 柄 は

程る程
度が度

社が も そ 以

応 し 一 上の
会持のの外
生辺的の

支処鋭

なであ
日に拍の

に事考

的に 一 他の
いきる

513 -
が仁し
ハHV
内︿

υ
υ


将学
殊級
一一一員、/
戸い

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-11 (つづき〉
障害 障害の程度と教育措置

.1
1 本幹 支持,筆記,
歩行等が不可能


または困難な程
体 ト養 護 学 校
度のものおよび
不 これらと 同程度

以上 のもの 6カ月以上医学的観祭指導

者 2.
上記の程度に達斗│ を必要とする程度のもの 一一一 通常の学級において留意
しないもの その他(上記程度に透しな して指導 ,必要に応じ将
いもの) 殊学級

1
.病弱者(慢性の r 6カ月以上 の医療または生活ー 養 護 学 校
胸部 ・心臓 ・腎一 規制を必要とする程度のもの
I蔵疾 t
1 .
k
¥、等) 療養に専念するよう 指 導
病 6カ月未満の医療を必要とす
通常の学級において留意
~~ る程度のもの 一一一一一一 一 ーして 指導

お (病院などにおいて療養中のもの)ー自(特殊学級も差し支えない)

び L 6カ月未満ーの生活規jf;1を必要ー「
1
とする程度のもの │

{


6カ月以上 の生活規制を必要一トー 特殊学級
~~
者 2 身体虚弱叶 じ す る 程 … i
i
ll
.
1の 繍 に お 川
l留意して指導
6 カ 月 未 in~ の生活規出 11 を必要 一一 J
とする程度のもの

.製 . i
1 f
f聴 .J菌性まひによる肢体一一障害の性質および程度に応じ ,襲学校も

仁コ?

不 自由 ,柏村薄弱などに {
半 うも しくは後設学校 ,または耳目聴者
, 肢 体不自
語 の 由者もしくは精神簿弱者のための特殊学級
F

害 2 その f
也 障害の性質および程度に応じ,言語障害
者 者のための持殊学級, または通常の学級
において留意して指導


情 I精神薄弱,病弱なとに伴うもの 障害の状態および程度に応じ ,養護学校
緒 または精神薄弱者もしくは病弱者のため
陣 の特殊学級
害 2.その他 情緒障害者のための持殊学級,通常の学
者 級において留意して指導

.2つ以上 の陣害を f
1 j
f'せ持つもの 一一 障害の種類,程度のii
f
l重などを考慮して
複重障

者 最も適切な教育措置,盲殊学校 . g,~ 学校も
しくは主主謎学校または特 学級

就のた 1
.治療または生命,健康の縦待の一一保護者の殿、い 出 により ,就学義務の猶予,
ため,療援に専念することを必 または免除の措置(↑英霊に行うこと)

学猶は


ま除免 安とし ,教育を受けることが困
難または不可能なもの

出所 平 成 3年度 『
特殊教育資料」京都市教育委員会特殊教育課。

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第I
I部 障 害 者心理
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-12 義務教育段階の特殊教育諸学校および特殊学級の現状(園 ・公・私立計)
(
1992年 5月 1日現在)
区 分 学校数 就学者数 区 分 学級数 就学者数

盲学校 6
7校 1,
608人 精神滞弱 1
4,5
6 0,
6学級 5 0
37人

襲学校 9
9 3
.87
3 特 肢体不自由 552 1.2
99

教 精神湾弱 4
64 2
9.0
83
.殊 病弱・虚弱 540 1,7
01
中 ~~ 視 85 1
87

Z企<

2F
ρM
そ4
ゼ》-

与 肢体不自由 1
89 2,
1 9
66 《子
主4

難 、
礎 492 1,3
86
諸 病 弱 97 4.2
31 A,

寸M
級 言語障害 1
.486 6.1
69
弓子
Au,校 小 計 7
50 6,
4 2
80 校 情緒障害 3,
731 1,
1 1
16

9
16 1,
5 7
61 21,
452 1,
7 8
95
就学者数合計 1
23,
656

出所ー日本宥j'薄弱者福祉連盟
l 『
精神薄弱問題白 8 ・1
994年 版』 日本文化科学社, 1
993年。

スとマイナスの側面の 二面性があると, 村井(19


79)は指摘 してい る。現実
に,障害児学級が学校の中で日当たりの悪いところに設置してあったり ,障
害児学級担当教師の悩みとして他 の教師の理解が得られないなど,全体的に
みると ,障害児はまだまだ阻害された環境にあるといえる。 しかし良き教師
に恵まれ,家族に支えられて,その子供のベ ースで一生懸命学習に取り組み,
充実 した学校生活を送って いる障害児がし、ることも現実である 。
一言で障害児といっても,大学に進学するような学力の高い子供もいる し,
一方では,重症心身障害児のように,生涯, ことばの獲得が期待できな い よ
うな障害の重い子供がし、る。しかし障害の軽い,重いにかかわらず,障害児
本人やその周囲の人びとが抱えている問題は,表れ方は異なるけれども,基
本的 には同 じである。障害児と いってもはばがあり,そのためにそれぞれの
子供に応 じた教育が行われなければならないといえる。
本節では学童期の障害児の発達と障害児教育の基本的問題を考えるため,
まず障害児教育の目的と教育課程について概説する。次に学童期の特徴であ
る学校,学級集団における諸問題とその発達的意義につ いて述べ,最後に学
校経験と障害児の 学習の問題を考えるうえで、
の基本的問題につい て触れる。

I
EI 障害児教育の目的と教育課程一一障害児教育にしかない教育形態を生かす一一
障害児教育の目的は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校 に準ずる教育を
行 い,障害をもっ子供のハンディキヤツヅを補うために必要な知識・技能を
授けることにある。障害児教育では,教科指導,生活指導に,障害そのもの

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-13 多横化しだ教育の場と教育の条件
障害の
学籍 タイフ. 教 育 の 場 教 育 の 条 件
程度

通 常 の 学 級 障害児は,通常の学級において,若干の援助を受け
境 通 l
(統合教育) ながら,すべての時間の指導を受ける
常 ー
--.
-

ー...-
---
--
-・
・ー
ー..
.
ー .

ーー-ー
ー--
--ー
ーー
・ー
ーー ー
ーー
ーー
ーー---ーーーーーー

ー ・ ー・'・・・

・・ ・ー
ーー

界 の
通常' の学級と特別の 障 害 児 は , 多 く の 時 間 , 通 常 の 学 級 で 指 導 を 受 け る


線 2 指導室 が,特別の内容について,特別の時間,特別な技術
(リソースノレーム) を有する教師により,特別の指導室で指導を受ける

特 殊 学 級 と 通1
m・の学 障害児は,多くの時間,通常の学級で指導を受ける
3 級(I) (交流の多い が,特 別 の 内 容 に つ い て ,特 別 の 時 間, 特 別 な技術
特殊学級〉 を 有 す る 教師 に より,特殊学級で指導を受ける

1 特
特殊学級と通常の学 障害児は,多くの│
時間,特殊学級で指導を受けるが,
殊 4 級(II) 一部の教科および特別活動等を通常の学級に行って
(いわゆる特殊学級〕 指導を受ける

孟d
A ー
L
特殊学級と特別の指 障害児は,多くの時間,特殊学級で指導を受けるが,
5 導室 一 部 の 教 科 お よ び 養 護 ・司l
惚I!等を特別の指導室に行
度 級 (~、わゆる特殊学級〕 って指導を受ける

特 殊 子
A4
級 障 害 児 は, す べ て の 時 聞 を 特 殊 学 級 に お い て , 主 と
6
(~、わゆる特殊学級〉 して特 殊 学 級 担 任 の 指 導 を 受 け る

障 害 児 は , 特 殊 学 校 の一 般 の 学 級 に お い て , 多 く の
7 一 般 の 学 級 時間の指導を受けるが,必要に応じて小学校および
Eド 特 中 学 校 の 児2
量生徒と共に指導を受ける

殊 重複障害の児童生徒で,多くの時間を特別の学級で

度 8 特 別 の 学 級 指導を受けるが,必要に応じて, 一 般 の 学 級 並 び に

小学校および中学校の児童生徒と共に指導を受ける
. 育
障害児で病院に長期または短期に入院していながら
病 院
諸 訪 特殊教育諸学校の教師の訪問による指導を受ける


f
:
A 問 障害児で施設に入所していながら,特殊教育諸学校
9 戸弓~ 』
包 設
の教師の訪問による指導を受ける
度 校

障 害 児 で 在 宅 し て い な が ら , 特 殊教 育 諸 学 校 の 教 師
家 庭
の訪問による指導を受ける

発達の遅れと教育 J 3
出所:宮崎直男「教育対象者の多様化への取り組み J r 32, 日本文化科学社, 1
985年。

の克服,軽減,補償といった教育リハビリテーション的側面が加わる。教育
課程編成の基準となるものが,学習指導要領である。公的な学校は学習指導
要領に基づいて教育を行わねばならない。盲・盟・養護学校の初期の学習指
導要領は,小 ・中学校のものを基本に,いわゆる「準ずる教育」を志向した
ものであったので,機能改善,補償教育的な側面は,準ずる教育の範囲内で
配慮されたものであった。例えば,肢体不自由児教育では,運動機能向上の
ための教育は,体育や保健体育の 中で行われ 体育・機能訓練」となってい
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4 養護・ 訓練の内容
1 身体の健康
(
l) 生活リズムや生活習慣の形成に関すること
(
2) 疾病の状態の理解と生活管理に関すること
(
3) 損傷の理解と養護に関すること
2 心理的適応
(
l) 対人関係の形成に関すること
(
2) 心身の障害や環境に基づく心理的不適応の改善に関すること
(
3) 障害を克服する意欲の向上に関すること
3 環境の認知
(
1) 感覚の活用に関すること
(
2) 感覚の補助及び代行手段の活用に供l すること
(
3) 認知の枠組みとなる概念の形成に関すること
4 運動 ・動作
(
l) 姿勢と運動 ・動作の基本の習得及び改善に関すること
(
2) 姿勢保持と運動 ・動作の補助的手段の活用に関すること
(
3) 日常生活の基本動作の習得及び改善に関すること
(
4) 移動能力の向上に関すること
(
5) 作業の巧敏性及び遂行能力の向上に関すること
5 意思の伝達
(
l) 意思の相互伝達の基礎的能力の習得に関すること
(
2) 言語の受容 ・表 出能力の向上に関すること
(
3) 言語の形成能力の向上に関すること
(
4) 意思の相互伝達の補助的手段の活用に関すること

た。その後, 1
971 (昭和 4
6)年に盲 ・聾・養護学校の 小学部 ・中学部の学習指
導要領が改訂され,翌年に盲・聾学校の高等部の学習指導要領も改定された。
この時の改訂ーから新たな領域と して「養護・ 訓練」が加わり,盲・ 聾 ・養護
学校の教育課程は,小学部・ 中学部は,各教科,道徳、,特別活動,養護・訓
練の 4領域に,高等部は,各教科,特別活動,養護・ 訓練の 3領域となった。
また同時に,領域の統合や合科授業(各教科の全部または一部について,合わせ
て授業を行う〉の特例が認められ,精神遅滞児教育では,生活科が新しく設け
られ,この教育にふさわしい教科,教育内容が模索された。
養護・訓練の設置は,医療・リハビリテーション的な視点から 出て きたも
のであり, この養護・訓練の設置によって,準ずる教育 とい うものが崩れ始
めたと考えられる。肢体不自由児の機能訓練は,理学療法士,医師の役割で
あったが,学校で教師が行うことができるようになった。養護・訓練の内容
は,①身体の健康,②心理的適応,③環境の認知,④運動・動作,⑤意思の
伝達の 5分野からなる (
9-1
4)。

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1

養護・訓練はその時間を設けて行われる場合もあるが,教科指導の中や日
常生活指導の中でも配慮されている。また重度・重複障害,自閉症,知覚障
害や学習障害などの子供の中で,教科学習に入る前に,視知覚の発達や感覚・
運動への取り組みを通して,学習レディネスの形成が必要な子供や,多動な
どの問題行動への対応を必要とする子供に対する養護・訓練として,行動療
E

法や動作法,エアーズ (Ayres,
A.J
.)の感覚統合理論やフロスティッグ (Fr
os-
自由
t
ig,M.)のム ーブメ ント教育,視知覚発達訓練などをベ ースにした指導プロ グ
ラムを立てている 学校もある。
障害児教育諸学級は,小学校,中学校に設置される学級であるので,その
教育課程は通常の学級におけるものと基本的には同じである。そして子供の
実態に即して特別の教育課程を編成することが可能である。
養護学校の義務化によって,原則的にはすべての障害児が学籍をもつよう
になった。教育の現場では,障害の多様化,重度・重複化,個々の子供のニ
ーズに応じた教育に対応するための方策のーっとして,教育課程の弾力的な
編成が認められている。教育課程,教育内容の選択は,そ して,それを基に
なされる 1時間 1時間の授業は,人間観,発達観,障害観,そ して社会の変
化など多様な条件によって影響を受ける。これからの障害児教育は,教育課
程の検討と指導法の開発が重要な意味をもち,遊びの時間,生活単元学習,
養護・訓練など一般教育にはないが,障害児教育にはある教育形態を生かす
ところに障害児教育の専門性が問われている。

EI 学童期の集団における諸問題とその発達的意義
多くの障害児はそのハンディにも負けず,困難を乗り越えながらも学校に
行き,学習に励んでいる。小学校入学は,子供の成長過程において大きな節
目である。多くの障害児は小学校入学までに保育所や通園施設などの何らか
の集団を経験している。わが国の学校教育の特徴は,集団としてのまとまり
を重視し,一斉授業の形態がとられることが多し、。その点から集団活動とそ
の中での学習を抜きにして学童期の発達は語れなし、。また地域での人間関係
が希薄になってきている今日では,人間関係を作り,それを発展させていく
上で、学校集団の果たす役割は大きい。
かつては集団の中に入れることが難しいといわれていた重症児が,指導者
の介助によって,集団に参加する発達的意義が実践の中で認められてきてい

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る。子供はどこかで自己を発揮し, 他者を リー ドしたし、欲求を もっている。


そのような子供の欲求を,学校集団場面で達成させ,個々の子供の個性化 を
発達させることは,個人差の大きい障害児の集団では難しいが,集団の中で
活動する喜び,人間的な触れ合いの中で,人間や自然に対する真の愛情が芽
生え,情緒的・感情的側面の発達との関係においてなされる 知的学習の成果
が,社会的にも 価値があるといえる。
障害児の中には,入学を迎えてもまだ集団参加のレディネスが形成されて
いない子供がし、る。学童期の集団適応の問題は,それまでの成長過程におけ
る親の養育態度や集団経験が密接に関係しているこ とが多し、。就学までの生
育歴をよく踏まえたうえで,集団での指導を考えなければならな いし,集団
適応という場合の「適応」は,子供の側から見た「適応」でなければならな



もちろん,学校場面で自己を発揮できる背景には,家庭基盤の安定がある。
母親,父親,兄弟の支えがあって社会的な自立に近づく ことができょう。こ
の時期の集団の効果を考える時,家庭養育の充実は無視できない。清水(19
89)

が指摘しているように,公教育の場が整備されればされるほど,同時に家庭
教育の充実が必要となってくるに違いない。
学校では,子供たちを意図的,組織的に教育する手段として,学級という
下位集団を設けている。しかし,障害児教育では学級の児童数が少数のため,
基礎集団だけではダイナミックな集団遊びも経験しにくい。そのために今日
の障害児教育では,交流教育などの手段によって組織的に集団の場を設 けて
いる。そのような学校でのいろいろな場面で,障害児は他 の障害児や健常児
と出会う。
障害児同士の関係では,障害児にとっては障害児の友達は必要であり,特
に思春期以降はアイデンティティの確立といった, 自我形成のうえにおいて

, 同 じ悩みをもっ友人は必要で、ある。学童期の障害児同士の関係において
よく問題となるのは,比較的軽度の障害児が重度の障害児の真似をしたり,
ばかにしたりすることである。このような子供に対しては,子供同士の交渉
をできるだけ尊重し,インフォーマルなやりとりの中で子供同士の理解を深
めることが大切である。
学校・学級環境の中で, しだいに仲間集団が形成されてくるが,仲間集団
といっても見た目より実際はきわめて複雑である。仲間関係は 1対 1の友

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達関係から発展し,自立性と連帯性をもつがゆえに,閉鎖性ももっ。仲間関
係の中で,別のものの見方・考え方に触れることが子供自身の認識を再構成
するきっかけとなり,認知発達も促進される。
ピアジェ C
Pia
ge ,
.
J1
t, 9
50)によると ,子供は具体的操作期に入ると,物は
見かけが変化して も物の本質は変わらないと L、う保存の概念を獲得する。矢
野(19
87)は
, この時期に,対人認識において,人間の外見的特徴や具体的行
為を越えて,性格や能力といった人格的特徴を認識することが発達し,物に
関する認知発達と人に対する認知発達は相互に影響を与えながら発達すると
述べている。仲間との出会いによって対人認識が発達 し,自己認識も発達す
る。自 他 の比較により,優劣性も認識されてくる。軽度の障害をもっ子供が
自己の障害に気づき,意識し始めるのもこの時期であり,仲間はずれやいじ
めの問題も顕在化してくる。しかし,今日,障害があるということだけでい
じめにあうことは少なくな って いる。
この時期の子供は自己中心的であり,子供集団においては喧嘩がよく起こ
る。園原(19
79)が指摘しているように,集団の基準をどのようなことにおく

, というようなことを,子供自身の内発的な矛盾と内発的動機づけから子
供が決定することは難しく,こういうルールが人間の文化基準として望まし
いということを示すことが教育の役割である。
最近の障害児教育においては,交流・統合教育が重視されている。障害児
と健常児との交流の場を増やすことは,障害児にとってばかりでなく,障害
児をみつめることにより,健常児が自分たちの見逃していた問題に気づき,
健常児の発達にもプラスになることは交流・統合教育の実践から報告されて


いる 。普通学級に在籍し,みんなに暖かく見守られて,学校生活を楽 しんで
いる 子供も多くいる。障害児は健常児とのかかわりを求めており,健常児に
強 い関心をもっている子は多し、。しかし,実際には交流を嫌がる子供もいる。
交流を嫌がる子供の理由は,意地悪をされるとか,楽しくないといったもの
が多い。協力学級の受け入れ情況もあるが,子供が楽しくないと感じるのは,
集団生活を設定し,社会適応などの教育効果を期待した,子供の主体性を無
視 した交流教育で、あるから,楽しくないと感じる子供がし、るのではないだろ
うか。形式的な交流教育に不満をもっ障害児の親も多し、。機械的な健常児と
の交流は発達的にみてマイナスにもなるといえる。
健常児と障害児との関係ではいじめの問題がある。現在の学校ではいじめ

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は一般化してきており,障害児の中にもいじめにあっている子供がし、る。健
常児の障害児に対するいじめは,昔ほどではないものの,依然としてあり,
表面的にはいじめはなくても,教師の見ていないところで,無視するとか,
平気で差別的なことばをいっていることもある。いじめの原因には,学校の
管理教育化,画一化,競争社会などの原因が考えられるが,多様な生き方を
認めることができないというところに大きな原因があると考えられる。
障害児と健常児が接することによって,世の中にはいろんな人がいて,一
緒に生きていくことの大切さを感じ取らせていくところに,交流教育や統合
教育の意義がある。また,障害児の発達という視点からみれば,健常児の集
団の中で、障害児が主体的に行ー動で、きるような場面が出てくるような教育的配
慮も必要である。しかし村井(19
87)が述べているように,交流教育や統合教
育に対する障害児の側の大人の期待の中に,能力的に高い健常児と接するこ
とや模倣によって,能力が伸びるのではないかというものがあるが,健常児
が能力的に高く,接触すれば,能力が伸びるというのではなく,いろいろな
人格と接触することによって,障害児の人格発達にプラスになるという視点
から交流・統合教育に期待が寄せられるべきであろう。
このように学校・学級集団の発達的意義は,少なくとも学校集団,仲間 同
士との交渉の中で,子供は自他の視点、を分化させ,自己中心性を脱する機会
を得,他者の思考や感情・意図の理解,役割取得の能力が発達する点にある。
障害児同士,障害児と健常児とのかかわりの中で発達する個々の子供の社会
的認知がそれぞれの子供の後の人格形成にどのような影響があるかといった
縦断的・基礎的研究が,障害児の発達における学校経験の意義を考えていく
うえでも今後必要である。

a 学童期に おける発達 と学習の問題を考えるうえでの基本的視点

人聞は学ぶ存在である。学童期の発達を考えるとき,学習とし、う活動を発
達の中に位置づけ,みずから学ぶ力を育てることを重視しなければならなし、。
ソビエトの心理学者であるヴィゴツキー CVygot
sky,L
.S.
,19
62) は,子供が
生活経験を通して学習する「生活的概念」と学校での系統的な学習によって
獲得される「科学的概念」との違いを明確にした。学校教育の場面におかれ
ることによって生活的概念を変革し,それまでとは異なる仕方で概念を形成
させることが子供に要求されてくる (波多野,稲垣, 1
98)。また岡本(19
4 85)

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-15 日常生活経験と学校経験

日常生活経験 │ 学校経験
(イ)教える側 (大人〉に教授意図がな いか, I
(イ)教 える 側に明白な教授意図のあるところ
あっても暗黙にしか存在しないところで子│ で子供の活動が展開される。
供(学習者〕の活動が展開される。 I
(
ロ) 子供は現在志向的な(直接的有用性を求 I
() 子供は将来志向的な(間接的有用性を求

める)活動に従事することが多し、。 I める〉活動に従事することが多 L。

付具体的・実際的な文脈に密着した活動が│付具体的・実際的な文脈から総れた活動が
多い。 I 多い。
(
エ) 大人と子供の l対 lの(ないしはそれに I
() 基本的には,一人の大人対多数の〔同年

近似の〉関係のなかで,あるいは子供同士 II 輸の〕子供とし、う関係のなかで,活動が遂
の相互交渉のなかで活動が遂行される。 I 行される。
(利子供の当該活動(学習)への動機づけは│例子供の当該活動への動機づけは弱い。
強 L。

出所 稲垣佳世子「生活経験と学校経験一一安口識の獲得を中心に J r
学ぶことと子どもの発達』岩波白
, 1
広 98
7年。

が,幼児期から小学校低学年あたりにかけて,生活の中で具体的な状況の中
で特定の親 しい人を相手に した対話を通して獲得される ことばを一次的こと
ばと 呼 び,子供が学童期に入って新たにその獲得が求められてくることばを
二次的こ とばと呼んで,その質的差異を指摘しているように,学校に入ると
具体的な文脈から離れたことばの使用が求められてくる。そしてコミュニケ
ーシ ョンの媒体もそれまでの音声中心のことばに文字が加わってくる。
稲垣(19
87)
は, 日常生活経験の中で獲得される知識や技能と,学校経験の
中で獲得されるそれとの違いを比較し (
9-1
5),学校経験が知識や技能の獲得
に及ぼす影響を分析している。稲垣によれば, 日常生活では,同じ活動を反
復, くり返し行う過程で,生活上有効なスキノレを子供なりに構成していくこ
とがで きるが, 日常生活場面で経験されたことは言語化 されにくく,その確
かさをみずから吟味 しにくいという欠点があるとしづ。 一方,学校経験がプ
ラスに働く面は,事態を分析したり言語化する点にあり,教師から科学的概
念が提示されたり,前項でも述べてきたように子供同士のかかわりがあるな
ど,理解を深めることができる諸条件が学校にある。それに対してマイナス
面は, 日常生活の中で獲得してきた概念を無視して,科学的概念が教えられ
るこ とである。そ して彼女は, 日常生活の中で得られた概念や技能を生かし
つつ,学校経験のもつものごとを深く理解する上での 利点や科学的概念の強
みを大切にしていくことが, これからの学校教育のあり方を考えていくうえ
で必要ではないかとも述べている。

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このような稲垣らの分析 を障害児教育に照ら してみたと き,本章 l節で触


れてきた就学前期の早期療育,教育にお いて大切 にさ れて きた個 々の子供の
具体的 な経験を大切に学校教育が進められていくべき であ り,就学前期から
受けてき た療育のうえに立った教育的働きかけが必要であるといった考え方
が,学校教育の中に浸透 していかなければならないこ とがわかる。
精神発達遅滞児の多くは, 抽象的思考の形成に困難をもっ。 そのため彼ら
に対する教育は,自立に向けた社会生、活能力や作業能力を育 てるこ とが重視
されてきた。 しか しそのような教育の結果が,社会生活能力 の発達と 抽象的
思考の発達との格差を広げてきたという指摘もある。ヴィゴツキ ー (
196
2)
は,学校は全力をあげて抽象的思考の発達に 向けた働きか けを意図 してい か
なければならないと述べている。そのためには, 日常生活経験で得た知識

技能と学校で教えられるそれらをつなぐものを個々の子供の障害の実態に即
して見つけ出し,教育内容を選択してし、かねばならなし、。
しかし,科学的概念の形成の基盤となる生きるための学習能力,生活的概
念を発達させる日常生活経験の場から社会的 にも 阻害さ れてい るのが障害児
である。
子供は日常生活,学校生活を通 して多くの経験を し
, 学習を している。そ
してその学習の仕方は一通りでは決してなく,子供によって異なるであろう。
これからの障害児教育では,科学的概念形成の基盤となる 日常生活経験の充
実とともに,日常生活経験や学校経験の中から,子供が何 をとらえ,子供自
身の中で統合し,意味づけているか,その子供自身の 内的な世界の形成を作
り出 している経験は何か,を探るような視点が必要である し,文化
, 社会の
変化 が著しい今日においてはそのような経験の 中で子供が学 びと るための力
を育てて い くことを考えて いかなければならな い。
清水(19
79)は,生活経験の中から子供が学びとり ,発達を実現させるよう
な経験を“発達経験"と呼んでいる。発達経験が成立 してくる ためには,時
間がかかるが,学校生活の中で,発達経験として何を子供がとらえ,そのプ
ロセスを事例検討などの作業を通して探ることが,今後,障害児 の発達にお
ける学校経験と学習の 問題を発達心理学的にみていくうえで重要ではないか
と筆者は考えている。
板野ら(19
87) は,愛育養護学校における実践の中で i全ての行為は,そ

の子の内面の世界の表現と考え,その子にとっての意味を考えてみることが

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できる 」 と述べ,内的世界との関係で子供の行為を見ていくこ との大切 さを


強調している。子供の行動から考えられたことを, 一度,かっこの中にいれ
て,既成の発達理論にとらわれることなく,全体的発達を考える中で,その
意味をとらえ直していくとき,子供が外的世界から何を学びとっているかを
少しでも知ることができ,発達経験として 何 が子供の中で根づいていってい
るかを知る手がかりが得られるのではないだろうか。
以上のようなことが学校での学習やそのつまずきの問題を発達的にとらえ
てい くうえでの基本的視点と して重視されるべきではないかと考える。

D おわりに

障害児の心理については,障害別に記述されることがこれまで、多かった。
しかし,村井(19
87)が指摘しているように,障害児にとっても,健常児にと
っても ,発達的な課題は共通しており,障害児の心理を,健常児の 心理をも
含めて,人間の発達過程の中で問題としていかなければならない。
障害児教育によって,障害が軽減,克服される場合もあるが,障害児の多
くにとって,教育を受ける目 的 は,教育によって人間的成長を遂げることに
ある。 「人間的成長 J,それは個性化 と社会的かかわりとの関連でなされてい
くものである。障害児同士,障害児と健常児,それぞれの育ちの過程で, そ
の共通性と異質性を認識したうえで,共に育つことが大切である。子供それ
ぞれが個別的存在として,学校の中で主体的に学ぶことができる学校が今,
必要とされている。
学校の荒廃,学校の再生,給食指導にみられる学校文化再考など,今日,
学校が抱えている多くの問題がし、ろいろなところで指摘されている。学校で
教えられたこと,経験したことを子供がどのように取り入れ,自分のものに
していっているか,子供の個性化,主体性に着目して,個々の子供の全体的
発達の中で,学校経験,学童期のもつ意味を探り,次の青年期を充実させる
ということを頭においたうえで,発達,教育,学習の関連性を今再び聞い直
すことが必要な時期にきているのではないだろうか。

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3 生
思春期〈障害者と1
I〉

E・ 思春期について

思春期は,第二次性徴の発現に伴う身体面の成熟と,精神的・社会的な成
長が急速にすすむ 1
0歳頃から数年間の時期を言 う。思春期に対して青年期と
いう言葉がある。青年期はおもに精神的・社会的な成長に重点がおかれた言
葉である。近年,身体の発育が早くなりつつある反面,精神的・社会的に成
熟する時期の遅れが指摘されてきた。それに伴って青年期の範囲も広く考え
られるようになり,だし、たし、 1
0歳頃から 3
0蔵頃までを指すようになった。青
年期は一般に前期,中期,後期に分けられる。この青年前期がだいたいにお
いて思春期と時期を同じくする。

I
EI 思春期における身体面の変化
思春期を特徴づけ,また成長面で最も大きな意味をもつのは第二次性徴で
ある。これは,性ホルモ ンの活動に伴って身体の形態や働きに起こる変化の
ことを言う。だいたい 1
0歳前後から始まるが,個人差が大きい。
男女に共通して見られるのは性器の発育と陰毛の発生である。男子のみに
見られるものに, 声変わり,射精 (
初めての射精は精通と呼ばれる )
,筋肉の発
達に伴う男性的な体格などがあげられる。女子では,初潮とそれに続く月経,
皮下脂肪の蓄積による女性的体格などが見られる。

E
I 思春期における精神面の変化
急速な成長に伴 って身体的にも精神的にも敏感になりやすい。ことに精神
面では感受性が強くなる。これに伴 って,多少とも感情面で不安定になり,
些細なことで喜 んだり悲しんだりし やすし、。ま た,未知のものに興味をもっ
て関心を示し,さ まざまな疑問を抱くようになる。
また,これまでにもまして自分自身のことに目が向くようになる。それと
同時に,自分と家族や友人など周囲の人たちとの関係や世の中のことにも関
心をもつようになり,仲間との協調などについて悩むことが多くなる。この
ような経験を通して,自分は自分であるとし、う 意識が明確になり,周りに対

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しては自己主張が強くなる。それに伴って,親への依存から脱して自立に向
かう気持ちが強くなる。すなわち自己実現に向けての第一歩である。
近年,社会のさまざまな状況の移り変わりがはげしい。その中にあって思
春期の人たちは,自己の変化と社会の変化のはざまに立つことになり, とま
どいと不安をいっそう強くしている。このような状態から披け出して大人に
なるためには,多くの困難が待ちうけている。このようなところから,思春
期,青年期のもつ意義が し、っそう重要視されるようになってきた。

s 障害者にとっての思春期

一言で障害者と言っても,それぞれの障害のありょうは千差万別である。
また,それに伴う生活上の支障の様子もさまざまである。ここでは,個々の
障害のありようによる違いはひとまずおくことにし,むしろ, 心身の働きに
何らかの障害があり,そのために生活上の支障を被っている人たち全体を障
害者として視野に入れながら考えをすすめることにする。
これまで述べてきた思春期の諸問題は, 基本的には障害者の場合も健常者
の場合 と何 ら変わるところはない。しかし,実際には,障害者の場合の方が,
変化に伴うとまどいと不安が強く,これを抜け出すための困難は健常者とは
比較にならない くらい大きし、。
その要因としてまずあげられるのは,幼児期から現在にいたるまでの,健
常者とは違った生活の状況である。これは直接的には,幼児期からずっと周
りにいた大人たち,ことに両親や学校の教師たちの見る目や考え方によると
ころが大きい。しかし, これらの大人たちの見る目や考え方は,その時代の
社会が全体として障害者の 問題をどう考え, どんな対応や施策を進めてきた
かによって左右される。
以前には,障害者の多くは健常者の営む社会生活から遠ざけられ,家や施
設に閉じこめられて過ごしてきた。近年,就学が認められるようになっても,
多くの障害児たちは健常児と離されて障害児学級や養護学校などで過ごして
きた。そのため,当たり前の社会生活を送った経験に乏しく,社会性の成長
が回害されがちである。それに伴って仲間体験が少なく,近隣社会の中でも
孤立する傾向が見られる。
さらに,現代の社会は全般的な住環境,仕事,遊び,移動のための交通手
段など,どの側面をとって見ても,健常者の利益が優先され障害者にとって

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は不利にできている。そのため,自立への志はあってもそれを実現するのは
難しく,自己実現への道も閉ざされがちである。

11 思春期 と性の問題
前にも述べたように,思春期は第二次性徴の発現,すなわち身体的な性の
成熟に始まる。したがって,思春期の問題は性と切り離しては考えられない。
性には身体的・生理的な側面だけでなく,精神的・社会的な側面がある。一
般的な傾向として,身体的な性の成熟が早く精神的・社会的な面での遅れが
あるために,さまざまなとまどいや混乱が生じやすく, これが行動面の問題
にまで発展することがある。
一般 に性について男子は能動的であり,女子は受動的であると言われる。
男子の場合には,性の衝動を解消できなし、し、らだちから怒りっぽくなったり,
自慰行為にふけることがある。頭痛や吐き気など自律神経を介した反応が見
られることもある。女子の場合には,男子よりも体型の変化が目立つ。それ
を受け入れられないために自己嫌悪に陥ったり,極端な食欲不振になること
がある。

D 障害者 と性の問題

障害者の場合には,当たり前の生活から遠ざけられてきたことによる精神
的・社会的な成長の遅れに加えて,性に関する情報を与えられる機会が少な
かったこともあって,一般に前記のようなとまどいや混乱が健常者の場合よ
りもはるかに大きい。
性に関する情報が少ないのは,単に社会性の成長の阻害によるだけではな
い。障害者の場合,これ までは性の目覚めにつ いて,親も教師も積極的な関
心を寄せず,なるべくそういった面には触れないで,もっと小さな子供と見
なしてしまう傾向があった。ことに知的に遅れのある人たちの性的な行動に
ついては,世間一般に否定的に見られることが多かった。そのため,知的障
害児をもっ親の多くは,自分の子供は一生子供であればよいと願う傾向が見
られた。
知的障害に限らず,身体障害の場合でも, 例えば言葉での交流ができにく
いと,意思の疎通に欠けると 考えられて ,子供扱いされがちであった。また,
障害が重くさまざまな介護を必要とする場合には,結婚どころか異性との交

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遊も認められないことが多かった。要するに,障害者における性の問題はタ
ブー視され続けてきたのである。こういったことが,障害者の社会性の成長
を阻害し,また,性についての情報を閉ざしてきた大きな要因としてあげら
れる。

D 障害者と性,その現状

障害者の自立と社会への参加が,理念の上では当然、のことと考える人たち
が増えつつある。それに伴って,障害の種別や程度にかかわりなく,それぞ
れが独自性をもっ一人の人間としてその存在をありのままに認め,その権利
を尊重しようとする動きが見られるようになってきた。
性の問題についても,これをタブー視することなく,それぞれの人たちが
性生活を満足に送るための配慮が問われるようになった。障害者が異性と交
わり,共に住み,結婚にまでいたる場合もしばしばあって,これを違和感な
く受け入れる人たちも多くなっているのは事実である。
しかし,広く周りを見回した場合,こういったことはごく限られた人たち
のことであって,まだまだ少数者の理念と建前の域を出ていないことが痛感
される。
ことに知的障害をもっ人たちは一 般 に 自 分 自 身 に 起 こっている事態を理
解し表現することが難しい。例えば,自慰や異性との接触を通して得られる
性の感覚を,自分の中でどのように受けとめればいいのか,また,それを周
りの人にどのように伝えればし、し、のかがわからないためにとまどうことがあ
る。その事態が周りの人たちに理解されないままに,一方的に無視されたり
禁止されたりすると,過度に緊張し,ときには不安におそわれて混乱し,強
迫的な自慰行為に走ったり パニックに陥ることもある。

D 障害者と性,今後の課題

障害者の生活を介護する者にとってまず大切なことは,さまざまに表現さ
れるその人の性についての体験やそれに伴う感覚や感情を理解することであ
る。そのためには,たとえどのような表現の仕方であっても,それを否定的
に見るのではなく,当たり前のこととして肯定的に受けとめる姿勢が求めら
れる。
そうすることによって,障害者は未知の体験を前にした緊張や不安から解

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放され, 自己の体験を自然なものと して受 け とめる こと がで きる よ うになる。


そのうえで,性につ いて率直に話'し合い,わかりやすく説 明する ことが求め
られる。そのためには,介護者 自身が性 につ いて, また性教育のあ り方につ
いて,適切な知識と情報を身につけておくことが望まれる。
障害者の生活はあらゆる面で狭められがちである。さまざまな人と 出会っ
て交流する機会に乏 し く,性につ いての知識や情報を得 ること も難 しい。こ
のような現状の中では,障害者ができる限りさまざまな体験をす る機会をつ
くること,言いかえれば,障害者の生きる場を広げる こと が,障害者の 性を
考えるうえで最も大切 な ことである。

4 目立とは
人間は社会的存在であり, 一人では生きて いけな い
。 人間の生そのものは
常に他者 との依存関係にあり,特に乳幼児期にお いてはそれが著 しい。ただ,
子育 てにおいてはこの依存関係 の克服が一つの目標 とされ,期待され,また
子供も, その 心 の中に依存的状態を克服する,ある いは依存的状態を嫌悪す
る気持ちが芽生えてくる。自立への願望,あるいは期待である。 例 えば子供
を便所に連れていこうと しても,またパンツをはかせ よ うとし ても,幼児期
僕一人でできる J r
頃から 「 一人で、はける 」 とい うのはその 現れであろう。
非常に素朴に考えると ,乳児期においてハイハイを していた子供が,何 も
つかまらずに立とうとしたとき,そ して子供はそのような努力をみずから行
ってい るよ うにみえるとき,こ とば通 りの自立のは じま り,独 り立ちへの方
向が読み とれる。親はまさ しくこの一人で立とうと して いる姿に感動するの
であるが(子供自身もほこらしげな顔をするのであるが),同時に,子供の行為に
対 して親は思わず手をか して しまったり,立っている姿を見て 倒れな いか と
はらはらすることがある。これも自然の情である。しかし これは必ず しも自
立を妨げることにはならない。 この姿は,人聞は先行世代からの このような
直接の手助 けで生きてきたばかりでなく,広い意味では一人で生きて いけな
い存在であることを示すものであり , また社会の近代化と は,先行世代の援
助もこのような個人的援助だけではなく ,徐々に社会的 システムを含めて,
す なわち制度と しての手助けが形成されるようになる ことでもあるのである。
今日最も発展 したといわれる民主主義国家では, この よ うな制度の形成は多

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数 の人びとの同意, 賛成に よって成立し発展 しつつある。このように人聞は


本来,依存の中で成長し,その相互依存をシステムとして形成しようとする
生物である。そしてもし仮に成人になって自分は誰の手助けも借りずに一人
で生きてきたと主張するとすれば,これは一種の思い上がり,判断の誤りと
もいえ,どんなに自立して生きて い ると思っている人間恥他者の手助けな
しには生 きてこれなかったのであり,友人をもち,結婚をし,子供をもち,
家庭をもつのも ,そしてそこに喜びがあるのも, 一人では生きていけない人
間の姿がそこにあるからである。
ここで改めて自立ということばで表される精神状態,あるいは現実行動に
ついて考えてみる。素朴に考えれば,自立とは,幼くは基本的生活習慣の確
立であり,長じては広い意味での社会的規範を守ることについて,他人の助
けを借りなければならない状態であったのを, 自分一人でできるようになる
ことをさすが,このように発達水準によって, 自立の内容は変わ ってくる。
青年期から成人期にかけての自立とし、う場合には,その基本は自己が主体的
に判断して行動 し うることをさすが,そのためには経済的自立,すなわち一
人で稼いで生きていける状態,自活できることを条件にする場合が多し、。例
えば女性の自立と L、う場合には,男性に依存しない精神的自立と,そのこと
をも含めてのアイデンティティの確立,ならびに個人の尊厳につながる社会
的自立をさす。 夫に経済的に依存しながらみずからを自立 した女性と称 して
いる女性もいるが,その場合,経済的自立なくして自立しているとい えるか
どうか疑問である。
障害者に関しても,当然同ー のことが言 える。障害者 も社会的存在である
以上,依存の関係の中で生きており,け っして 一人で生きられな いし,また
一人で生きる必要はなし、。ただ障害 のゆえに日々の活動での依存の種類 も多
く時間も長くなる。しかしほとんどの障害者も健常者と同じく自立要求をも
ち,その達成を願っている。逆にいえば,障害者は自立できないとよくいわ
れるが,依存できない状況に追い込まれているともいえるのである。
彼らが自立できる条件は何か。あるいは自立を阻む条件は何か。 それには
まず次の三つがあげられよう。
① 自立への努力を引 き起こす条件が,彼らが生活する環境の中で存在 し
ているか。
② 自立への準備が本人または周囲の人間関係の中で形成され,また自立

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を家族や仲間とともに喜びあえる環境にあるか。
③ 自立心が生まれてきたとき,その自立心を保ちながら生きていける社
会的条件(多くの場合,就職などの経済的条件〉が成立しているか。
教育論からいえば障害者の自立の問題は,健常者と同じく当然、乳幼児期か
ら教育の課題となるべきである。例えば乳幼児期におけるしつけも,たとえ
子供に障害があって病院内生活等によって,やむをえず保護的環境が増大し
ても,親は心の中に子供の自立を期待し,子供自身もみずからの心の中に自
立をめざす力を絶やすべきではない。なぜならば,仮に学童期まで、す.っと保
護され,自立心が芽生えがたい状況におかれてきた子供が,卒業期になって
ある日 rこれからは学校時代のようなわけにはいかない,自分で生きていけ」
と,突然自立を押しつけられては(養護学校卒業のときなどこのようなことがし
ばしばある入子供にとってはまったく迷惑であり,場合によっては挫折 して
しまう可能性が多くなるからである。
くり返しになるが,自立といえば,それに対立することばとして「依存」
がある。問題は特に障害児の場合,いかなるときに自立的に行動するか,い
かなるときに依存的に行動するか,そのけじめをつける時期,判断が特に重
要である。しかし子供は依存したい気持ちと同時に,特に青年期になると,
自立したい気持ちが強くなる。歩けない障害者が車いすに乗って押してもら
うのは決して依存ではない。しかし障害者の中にはそのような生活を実際に
は不可能でもよしとしない人もいるのである。
考えてみると自立か依存かとし寸分け方ではなく, ともに生きていくとい
う考え方が本来なのである。子供の発達過程の基本は,親を中心とした成人
年長者に頼る依存関係を共生関係に切り換えていくところにある。そして共
生関係の中に自立ということばが意味をもってくる。もちろんこの場合,障
害者の自立への視点というのは,健常者と目標は同じでも,具体的な行動は
同じではない場合がある。障害の種類やその子供の発達段階によって,自立
ということばで表される活動は変化するのであり,特に障害者の場合 r
健常
者と同じに扱う」ということばには十分注意する必要があり,自立をあせっ
てはならな L。

障害者の場合,家庭の養育のあり方から自立困難になる条件としては,①
過保護か放任,あるいはその急激な交代といった他者に対する普通の接し方
ができない,親あるいは本人が閉塞的,差別的状況におかれているため,社

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会状況あるいは自己自身に対する正しい認知ができず(正しい認知をする状況
が与えられない),その結果,自己自身の能力,適性に関する認知,生きていく
上での社会状況の判断を誤るようになる。例えば脳性まひの人の都会暮らし
は,単に車いすで生活しがたいとし、う問題だけではなく, 日常生活での面倒
な近所づきあい等があることを忘れてしまう,②現実を軽視した過度な精神
主義が本人をあせらせ,また敗北感,挫折感を味わわせる,③自立を何でも
一人でしなければならないと Lヴ錯覚に陥らせ,人生における生きる幅を狭
めさせる,④知的能力の障害が重度のため自己認知が困難である,等があげ
られよう。
しかし障害者の自立という問題については,考えることすらなかったのが,
これまでの障害者の歴史であった。現代社会は以上に述べてきたように,自
立を阻む問題点も明らかになり,本人,家族,社会も彼らに援助を行おうと
い 不 十 分 な が ら も 障害者の自立の問題が,教育,福祉,社会の中でクロー
ズアップされつつあるのは喜ぶべきことである。
障害者の中には,単なる経済的自立ではなく,自らの問題について,さら
には広く人間の生き方について,種々の場で主張し,自らの態度表明をする
人びとも増加して いる。特に最近では自立が不可能といわれてきた重度障害
者の自立についても論じられるようになり,その中で自立とはどういう状態
をさすのか,自活しなくても自立といえるのではないか,あるいは自立しな
ければならないのか, とし、う根源的な問題が真剣に議論され始める時代にな
ってきている。その中で自己自身について語れる発達水準にある障害者,例
えば知的に障害がない視覚障害者,聴覚障害者と,そうではないその水準に
到達していない重度の障害者との聞には自立の概念が異なってよいのかより
普遍的な自立概念を創出すべきではないかといった問題も論議されるべきで
あろう。
ここで改めて述べるが,障害者福祉において,障害者への福祉的援助の必
要性がなくなることが,障害者の自立を意味するのではない。援助の中で障
害者が自立 しているとしづ充実感があり,人によっては援助されている中で,
これこれの援助はもっと必要だが, これはいらないと自分で断ることもでき
る関係がもてるその中で,生きていることに充実感をもつことが自立なので
ある。
このように自立とは主観的,客観的な二つの視点からとらえられる。すな

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わち,まず主観的(自己中心的という意味ではなく,主体的という意味である〉
とは自分が生きている,そして自分で何かを成し遂げたとし、う実感をもつこ
とである。ただその場合,すべての障害者が自立によって獲得できる普遍的
価値と は何 か,仮に自己決定権,自己選択権の自由と保障を普遍的価値とし
た場合,本人自身と彼をとりまく社会的援助によってそれが実現するとして
も,障害者差別の強い社会の中で生きている障害者の問題や,また能力的に
自己決定,選択が難しい障害者の問題を見捨てるわけにはいかない。特に障
害が重く,介護が必要で経済的自立が困難な事例では,親が高年齢化 したと
きに施設入所が当然問題となり,そのことについて親は苦しみ,特に日本の
場合,親子のつながりが強いこと,社会的に福祉的施設等が十分でないこと
もあって,親が施設へ入れることに抵抗をもっ場合が多し、。中には社会に対
する絶望感から親子心中する場合もあるのである。
しかしよく考えてみると,健常者もいつまでも親と一緒に生活するのでは
なく,いつかは親と離れて生活するのが自然である。障害者が親と離れて生
きるのはけっして不自然ではなく,親が死ぬまで子供をかかえこむ方が不自
然なのである。このように考えれば,人聞が社会の中で生きる存在である以
上,障害者もある年齢,発達段階に達すれば,親と離れても本来的には生き
ていくのが自然であるという考えも十分に成立するのではないか。そのよう
に考えれば,そして施設の社会的位置付けと イメージを変えれば,施設入所
は社会の中から隔離されることにはならない。施設が本当に障害者にとって
豊かな場であれば,施設と呼ばれる環境であっても障害者にとって生きてい
てよかったと感じ,障害者を産んだ親もそのように感じられるとき,すなわ
ち,その子供の人生が親にとって納得できるとき,子供は幸せと考えられる
のではなかろうか。また,障害者の人生をまた障害者を産んだ親が納得して
生きていけるような状況をつくるのがわれわれの仕事ではなかろうか。以上
の立場から,障害者の自立の問題を現代社会の中でもう一度考え直 して みる
ことが必要である。
学校教育も,建て前としては,障害児全員入学を行い,将来的な自立をめ
ざして教育活動が営まれている。しかし,その教育の中身は自立に役立つて
いるのかといえば,必ずしもそうでない場合が多 L、。自立のための教育には
次のことが条件になる。
① 親あるいは本人にとって,将来についての展望が開ける。

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② 行われている教育について被教育者(あるいは親〉が何となくでもその
意味を実感できる。
③ 生きてし、くための必要な知識を与え,態度を形成する。
④ 画一的な教育ではなく,子供一人ひとりの個性にあった教育がなされ


しかし現実には①についての学校教育修了後の問題は決 して明るいとはい
えない状況である。学校では一応保護されていたのが,人によっては直接社
会の荒波にさらされることになる。あるいは再び閉ざされた世界の中に入れ
られることになる。特に精神発達遅滞児の養護学校高等部卒業後の進路とし
ては,全国的には社会福祉施設,医療機関入所者数が 49.3%0992
年 3月卒業〉
と半数近い数字になっている。精神薄弱者福祉法に基づく精神薄弱者援護施
設は更生施設と授産施設からなり,さらに収容施設と通所施設に分かれてい
る(現実にはこの定義通 り機能しているところは少なし、〉。近年 では地域福祉のあ
り方との関連でこれらの施設の今後のあり方が模索されている。 例 えば,精
神薄弱者授産施設に関しては就労を重視し,高い工賃をめざす(福祉向上),
そのような福祉的就労と合わせて訓練を行う,社会参加,障害者の生き甲斐
を重視するデイサービス機能をもっ施設,職住の分離などである。
これらの施設ではその近代化 と地域福祉との接点を求めて新 しい施設のあ
り方が模索される。現実 にも職住分離の考えから施設増加数だけをみても,
入所施設に比して通所施設が増加している方向は正しし、。グループホームな
どの整備も行われ,社会的設備, 制度が整備される中で従来いわれている自
立のみがすべての障害者 にとって幸せへの道であるのかと い う問いかけがな
されるべきである 。ただこういったシステムが作られても (
作られることに意
味はあるが),そこにはこれまでのわが国の障害者施設における入所施設に頼
りすぎて いたという反省があるとしても,また, より障害者自身や,その家
族の自己決定や意思(どのような生活の場をもつか〉を反映すべきであるという
考えがある。障害者の場合,自立イコーノレ自活とし、う考え方を除去したとき,
自立とは共生の中で生き,働 き,活動することであると 考 えたとき,そして
社会 がどんなに重い障害者 に対してでも, このような姿勢で彼らを一人の仲
間として遇してくれると感じたと き,親も子供も 真 にゆとりがある生活がで
きるのではなかろうか。そ してそのために自立概念の吟味とともに,理念的
ではなく,それを現実のものとする具体的な施策が必要である。施設療育の

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1
1

いままでのあり方を反省しながら,収容,保護というイメ ージ を 変 え , 施 設
を地域の中での重要な社会資源,すなわち皆が作った施設というイメ ージの
転 換 へ の 模 索 が な さ れ る と き , そ の 中 で 働 き , あ る い は 生 活 す る 子 供 は, そ
して職員も含めて社会の中でともに生きるという意味で自立へ向かっている
と考えられるのではなかろうか。そしてそのとき障害者をかかえている家庭
にも平和と安定が訪れるのではなかろうか。

J

(
1) 山下 勲「早期対応」日本精神薄弱者福祉連盟編『精神薄弱問題白書1
988年
版』日本文化科学社, 1
988年

(
2) 村井潤ー 『障害児の早期教育』ミネルヴァ書房,1
972年

(
3) P
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sicBooks,1969
(
4) 岡本夏木「ピアジェ. J.
J 村井潤ー編『発達の理論をきずく』ミネルヴァ書


, 1
986年。
(
5) (
4)と同じ。
(
6) 村井潤ー 「ことばの発生 (1)一一幼児の言語獲得過程について」村井潤一編
『ことばへのアプローチ』ミネルヴァ書房, 1
976年

(
7) 山田洋子 『ことばの前のことば ことばが生まれるすじみち 1~新躍社,
1
987年

(
8) 浜田寿美男・ 1
11口俊郎 『子ど もの生活世界のはじまり』ミネルヴァ書房, 1
984


(
9) Bower,T
.G.
R.
, AP
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,19
77 岡本夏木他訳 『乳
児期 可能性を生きる』ミネノレヴァ書房, 1
980
年。
(
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0) Lockman,J
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989
.
(
1
1) (
5)と同じ。
1) 名倉啓太郎「重症心身障害児の認知の発達と教育課題 J r
(2 児童精神医学とそ
の近接領域 14 ~ 1
973年
, 285-296頁

(
1) 中島
3 誠「言語行動」鹿取康人編『発達 I
I 個体発生~ (現代基礎心理学
1
0)東京大学 出版会, 1
983年

()
14 Uzgi
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第 9章 障 害 者 の 心 理
1
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989
(
1) 村井潤ー『言語機能の形成と発達』風間書房, 1
5 970年

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979
.
(7
I)I )と同じ。
(5
1) 小山
(8 正「精神発達に遅れを示す子供の言語獲得期の諸問題一一一象徴機能の
発達を中心に J W 音声言語医学~ 3
0, 1
989年, 1
51-1
66頁

) 村井潤ー「障害児発達の基本原理」猪岡
(9
1 武・村井潤ー編『障害児教育の理
論と展開』第一法規, 1
980年

(
20
) 村井潤ー『 発達と早期教育を考える ~ C
村井潤ー著作集成三部作 C
I)) ミネノレ
ヴァ書房, 1
987年

() 山形恭子「表現の発達」杉田千鶴子他編 『教え と育ちの心理学』ミ ネルヴア
2]
書房, 1
989年

(
2
2) I)と同じ。
(9

.) (
2)と同じ。
附 田中義徳・塚本洋子・黒田健次 『愛の灯を消さないで一一今,障害児に何が
必要か』日本文化科学社, 1
985年


邸,
)(20
)と同じ。


6
) (
2)と同じ。
7 村井潤ー 「障害者をとりまく環境」村井潤ー編『発達とその環境』ミ ネルヴ
)
ァ書房, 1
979年

同 猪 岡 武 「 障 害 児 教 育 の 概 念 と そ の 変 遷 」 猪 阿 武 ・ 村 井 潤ー編 『障害児教
育の理論と展開』第一法規, 1
980年

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972 宮前珠子
他訳 『感覚統合と学習障害』協同医書出版社, 1
978年 0

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973.茂
木茂八他訳『教室における個々に応じた指導』日本文化科学社, 1
977年 0

() 村井潤ー『子育てと教育を考える~ C
3] 村井潤ー著作集成三部作(III))
ミ ネルヴ


ァ書房, 1
987年

) 清水美智子「障害児の発達と教育 J C
2 京都市児童福祉センターこぐま園保護
者大学習会講演録) 1
989年

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,19
50.
伽) 矢野喜夫「児童期の人間形成と自我の発達 J W 子どもの 生活と人間形成 ~ C

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第I
I部 障 害 者 心 理
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波講座教育の方法 9
)岩波書庖, 1
987
年。
(
3
5) 園原太郎 『
子 どもの心と発達』岩波書庖
, 1
979年

(
3
6) 宮崎隆太郎 『障害児とつきあう感性』ルガ ーノ
レ社, 1
984
年。
(
3乃 (
31)と同じ。
(
3
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) Vygotsky,L
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1
962 柴田義松訳『思考と言語』明治図書, 1
962年。
(
3
9) 波多野誼余夫・稲垣佳世子『知力と学力一一学校で、何を学ぶか』岩波書庖,
1
984年。
(
4) 岡本夏木『ことばと発達』岩波書庖,
0 1
985
年。
(
4
1) 稲垣佳世子「生活経験と 学校経験一一知識の獲得を中心 にJ ~学ぶこ とと子
どもの発達 ~ (岩波講座 教育の方法 2
)岩波書庖, 1
987
年。
(
4
2) 茂木俊彦「発達における障害の意味 J f発達と教育の基礎理論 J (岩波講座
子どもの発達と教育 3)岩波書庖
, 1
979年。
附側と同じ。
(
4
4) 清水美智子 「人聞の発達と経験 子どもの成長過程を通 して
」 村井潤ー編
発達とその環境』 ミネノレヴァ書房, 1
『 979年

(
4) 板野昌儀・西原影宏・太田茂行・加藤
5 洋 ・津守 真「障害児の治療 ・療育
に関する研究 1 基本的体験に基づく教育課程の試み一一理解を中心とする障
害児教育への接近一一(l)Jf日本総合愛育研究所紀要 2
3J1
987
年, 1
11-
117
頁o
(
4
6) (
31)と同じ。
附 日本精神薄弱者福祉連盟編 『精神薄弱問題 白書 1
994
年版』 日本文化科学社,
1
993
年。

180
第 10章障害者心理の実際(事例)

1 視覚障害者の山理 〈障害克服の事例から〉

E・ はじ めに

もしとつぜんあなたが「見ることの自由」を奪われたとしたらー
視覚は人聞がもっている感覚の内,およそ 80%を占めると言われる。その
視覚に障害を負った人の 多くがその日まで障害や障害者のこ とについてまっ
たく知る機会がなかったというのが一般的傾向のようである。
私は,現在視覚障害者の更生施設に勤務している。人生半ばにして事故や
病気等によって失明もしくは失明状態にある中途視覚障害者を中心に一定期
間入所または通所により点字や歩行等の諸技術を修得することにより,視覚
障害のハン ディキャップを克服していくための生活訓練(社会適応訓練とも 言
引を実施している施設である。本事業開設以降,すでに 2
0余年が経過し,こ
れまでに相談は 7
00件以上に達している。これらの人々はいずれも社会的経
験,失明にいたる経過,その後の障害の受け止め方など,それぞれ異なって
いる。しかし,共通して 言えるこ とはその大半が失明を受け止めきれない状
態のまま当施設を知るということである。時にそれは過去の偏見に縛られて
自分自身の障害をひたすら卑下し悔やむのみの者であったり,またある者は
失明におののき,家族共々 1
0年近く各地の眼科医を尋ね歩き治療に専念した
者,宗教や民間療法の力を信じて生活してきた人など,さまざまな失明にい
たる不安の中での葛藤の様子が窺える。

181
第I
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そういうことからも,どんな地域に住んでいても,何時でも誰でもが仮に
障害を負ったとしても直ちに正しい情報に基づ いて,適切な時期に相談や生
活・職業訓練(リハビリテーション)が受けられる環境作りが今まさに求めら
れているのである。
ここでは,失明にいたった時期,失明を巡る本人の心理的葛藤に着眼し,
失明から再び出発を決意 して歩み出す過程での視覚障害者およびそれを取り
巻く家族・隣人・専門スタッフの役割と援助のあり方を言及してみたい。そ
して,障害克服の歩みを通じて投げかけられるテ ーマを,それぞれが共通の
課題として受け止め,その理解・認識の一助になれば幸いである。

11 視覚障害者の体験実例
ここには三つの事例を紹介したい。事例はいずれも仮の名である。私たち
はこれ以外にも多くの理解ある家族,周囲の人々,専門スタッフ等に支えら
れて立派に社会復帰を遂げられた感動的なケースにも巡り会っている。また,
逆にそのような援助や理解が得られなかったために自立の時期を見失い,障
害に押 し潰されて自暴自棄の生活を強いられて いたケースにも出会 った

後 事例 l 二重の障害に立ち向かつて手にした社会参加の喜び
氏 名 A ・M 4
0歳 女 性
障害等級 1級
障害程度 視力障害(全盲〉 肢体障害(両大腿切断〉
現 在 在宅生活
私は,高校卒業後観光パス会社のガイドとして就職した。一人前のガイド
になるための研修を終え,いよいよ第一線で、働き始めた頃だった。乗務中の
バスと大型トラックとが正面衝突し,予期せぬ大事故に巻き込まれた。意識
を取り戻した時にはすでに両大腿から足はなく,また目は視力を失い,ベッ
ド上で幾日を過ごしたか記憶していなし、。自分自身がこれまでの自分とまっ
たく違うような気がしてならなかった。自由に歩くことも家族の顔や景色を
見ることの自由を奪われたという実感はあまりなく,むしろ「もうだめだ!J
という絶望感が広がった。周囲の者もおそらくあまりの障害の重さにきわめ
て静かに私をみつめている。事故前後の記l憶を辿って過ごす日々が続いた。
そして「歩けない, 目が見えなし、」とほんとうに思うようになったのは,ベ

[82
第1
0章 障害者心理の実際(事例〉
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ッドを離れ, リハビリが始まろうとする頃だった。言いようのない苦悩と不
安が私の心に立ちこめた。婚約間近い恋人の存在が遠く近くに浮かんでは消
えた。
l年にわたる入院生活に別れを告げ,家庭へ戻った。家での生活は家族と
ともに楽しい日々ではあった。その後 5年余りは外へ出ることもなく家の中
で何不自由なく過ごした。
ある日, ラジオから私よりす.っと重度の障害者が生き生きとした前向きな
生きかたをしていることを知り,かつてなかった感動と,外へ 出てみたいと
いう勇気が不思議にわき上がってきた。自分自身の奥にある気持ちに正直に
生きてみよう! 自分にだってできないことはないだろう! と思うようなっ
ていった。さっそく市内中心部にある病院で装具の装着や車いす移動の訓練
を受けることにした。再び自分の足で立って歩ける。それは素晴ら しいこと
だった。
私の目は全盲である (
一般に車いす障害者で全盲となると移動手段は介助者な
しに は考えられない〉。だがその時,わずかな視力が残存することに気付 き,そ
れを生かせば自力移動も可能ではないか,とし、う光明が射し込んだ。専門の
スタッフが話し合いを重ねた結果,点字 ・仮名タイプ・ワープロ・日常生活
技術等の生活訓練を受けてみる話が私自身の強い願いもあって急速に進んだ。
車いすで使用可能な トイ レがなかったり,エレベーター設備がなく施設内移
動が困難であったり,課題は次 々 と前に横たわったが,スタッフの総意に励
まされひとつひとつ解決していった。
今,私は 1
0キ ロメー トノレほと会離れた施設で、週 l回聞かれている盲婦人の た
めの編み物,料理等の講習会 を通して,すっかりあきらめていた社会参加の
喜びを改めて噛み しめながら穏やかな毎日を過ごしている。


多 事例 2 白杖にまつわる悲しい思い出
氏 名 A・T 3
5歳 女 性
障害等級 1級
障害程度 両眼光覚
現 在 主婦
私は,結婚して二人目の子供を出産して間もない頃より糖尿病を患い,病
院に通院しながらの毎日を過ごしていた。病気は徐々に進行 し
, インス リン

[
83
I音s 障害者心理
第I
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が必要になってきた。そして 3年程前から視力にも変調をきたすようになり,
幾度となく繰り返された手術のかし、も空しく,今は光覚を残すのみとなった。
病名は糖尿病性網膜症,ここ 4, 5年前から失明原因の上位を占めているら
しい。私はそれでも家庭の主婦であり,しょんぼりすることもできず知人に
聞いた訓練施設へ相談した。さっそく家庭まで歩行訓練土が出掛けて来てく
れ,室内の安全な移動の仕方から家の周囲での歩行訓線と進んでいった。す
ると小学校 3年と l年になる子供がこう 言うのだ。
「お母さんが白杖をついて歩くと友達からいじめられる。だから杖はつか
ないで欲しい。病院や買い物にはぼくらが学校を休んで連れて行くから… …」
と。この 言葉を聞 いて私はこみあげる涙に眠れない日々が続いた。主人もな
にかと協力してくれるがやはり 「白い杖はもってくれるな,子供たちのため
にも,自分の親族のためにも……」と言う。
私は 4人家族の中で、ただ一人寂しかった。これからのことを思うと,子供
の将来にとって自分の存在が何の役にも立たないであろう。自分だって白い
杖をついて近所の人の視線を背に感じながら歩くなんて いやだ。目さえ見え
るようになればこんな惨めな目に合わなくていいのに, と嘆く日が続いた。
そんな中でも週 2回,歩行訓練士は確実に私を外ヘヲ │
っ張り出してくれた。
その度に以前白い杖をついて歩いていた目の不自由な人の姿を思い出して,
自分とオー バーラップさせていた。やはり私は 白い杖はっきたくない。私は
まだ見えるようになるはずなんだ。
歩行訓練は 2カ月余りなかずとばずの状態が続いた。
その日もさほど気乗りのしないまま,せっかく来て いただいた指導員に悪
いと思い外へ出た。 2, 3軒向こうに住む Kさんが「頑張って!J と自転車
から降りて来て私の肩を叩し、て通りすぎた。魚屋の主人がし、つもながらのが
らがら声で「元気になったねえ,また魚買ってよ,困った時にはもって行く
よ」と話しかけて来た。皆私を今までと同じように見てくれている。私だけ
が人を避けて来たのではないか。その日の夕食時は家族 4人でその話に花が
咲き,何時とはなく和やかな一時となった。
私はそれ以来何度となく 小 さな心の動揺をくり返しながらもとにかく挫け
ずに頑張ろうと思った。同じ訓練を受けている仲間同士が集まる交流会にも
参加し,前向きに頑張っていて良かった, と強く実感した。今では買い物を
始め,子供の学校の授業参観にも 出掛けるようになり, 日曜日には家族揃っ

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0掌 障 害者心理の実際 (
事例〉
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てハ イキングや百貨!
苫にも行って楽 しむ余裕が出てきた。主人が手 引 きを し
てくれたり,子供も白杖を大切に思ってくれるようになり , あの日の悲しか
った思い出が今では嘘のようで嬉しし、。この間,私は失った物も大きい。 し
かし,苦しかった時期を越えてきた今,新たに得た物もまた大きいと思う。
私は明日から聞かれる地域婦人会主催のジャズダンスの講習会に早くも夢を
はせてなんとなくうきうきしている。

傷 事例 3 不自由が不幸でない人生を!
氏 名 T• N 4
8歳 男 性
障害等級 2級
障害程度 弱視(両眼視力 0
.03
)
現 在 三療(あんま ・鉱・ 灸〉自営
私は,数年前に失明した。でも今は新しい仕事 にも就き,それなりの生活
を送っている。これまでの聞のこ とを今少し振り返って見たし、。
はじめは「失明」という現実を とても認められなかった。「私はまだ見え
る。障害者ではな し、」と強く反発をもっていた。しかし見えにくいこ とによ
る失敗が何度もくり返された。例えば, い きなり暗い室内に入って しばらく
周りが見えなくて動けなかったこと ,会食に出席して白い皿の上に盛り付け
られたいかの刺身が識別できなかったこと,勤務先で上司と会っても顔の見
分けがつかず,失礼をしたことなど,数知れなし、。やがて私の気持ちとは裏
腹に日常の不自由さは増すばかり で,私は混乱していた。
そんな時,点字の話をする看護婦さんを避けてみたり,手術を した医者を
恨んだり したものだった。障害者として生きていくことなど とても考えられ
ず 死」が何時も頭にちらついていた。混乱しながらも見えない生活を続け
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ていた。するとこれまでできなかったことが少しはできるようになっている
ことに気が付き出した。病院のワ ーカ ーの勧めもあって福祉事務所を訪ね,
身体障害者手帳を取得した。しばらくして巡回生活指導員がわが家を訪ねて
来てくれた。
こう して私は現在のさまざまな福祉制度を初めて知るこ とができた。目が
見えなかったら 一人歩きはできな い ものと決めつけていた自分自身が白杖に
よる歩行訓練を受 けて見ょう! と考 える ようにな った。専門の指導員に よ
る生活訓練で日常生活の不自由さをかなり減らすことができた。それは一つ

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第I
I部 障 害 者 心 理
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ひとつが新しい発見でもあった。もう一つ忘れられないのは同じ時期に訓練
を受けていた仲間たちのことだ。元の職場に戻った人もいたし,授産施設に
行った人もいる。主婦として家庭を切り盛りしている人もいる。それぞれが
それぞれの人生を生きているとし、う実感を目の当たりにした。
私は生活訓練修了後,職業訓練に進み,新しい仕事に就くことができた。
また最近盲導犬も使用するようになり,行動範囲も大幅に広がった。そして
今思うことは,まったく不自由でなくなったという訳ではないが,見えない
ことが直ちに不幸につながる訳ではないと確信をもって言えることである。

EI おわりに
これらの事例はいずれも,失明原因では何であれ,すでに種々の課題を克
服して半ば自立への道を歩みだした人たちで、ある。失明直後の混乱期には自
分自身が把握できず,失明前と失明後の自分とがまったく違う人間ではない

, という心理状況に陥る。視力が徐々に低下していくような場合には身体
的不安が強く現れ,いわゆる弱視者と呼ばれる障害程度の人にそれが顕著に
見られる。また,訓練開始直後や修了前後の時期には一般に社会的不安が高
いことが多 し、。それは,慣れない環境への変化を目の前にした不安定な時期
であることと併せて,訓練を終えて職場や家庭へ巣立ってし、く直前の緊張の
たかまりとも窺える。これらの心理的傾向は,周囲の人々の理解や認識の度
合いによって,より助長されたり,あるいはより軽減されたりしていくもの
である。
私は見えることへの「あきらめ」と見えないことへの「受け止め」とは,
おそらく接近することこそあれ,まったく一致 しない ものだと考えてみる。
それは個々人が障害を受け止めていく時間的経過やそれぞれの条件が一様で
はないこと,絶えず揺れ動きながら受容が進んでいくことを十分考慮しなけ
ればならなし、からである。
最後に,私は「見えても見えなくても同じ 」 と言える 心理状況に立とうと
する視覚障害者を取り巻く社会環境が改善され,社会全体に障害者への理解
が浸透し,定着していくことを願っている。
今後, 一 人でも視覚障害者が生み出されてこないことを望みつつ,仮に視
覚障害者があった場合,必ず福祉の制度やリハビリテーション機関に関する
情報提供と,それらに熟知した多くの人々が支えあう地域社会の基盤作りが

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必要で、はないだろうか。

2 肢体障害者として生きる

E・ はじめに

肢体障害者として生きるというテーマからわかるように,私自身「脳性ま
ひ」 とい う障害をもちながら生活 している者である。どう い う状態なのかは
後に述べるが,日常確かに不自由さ(健常者が苦もなくやっていることが私には
できないという意味で〉は感じるものの,四六時中障害者であることを意識し
ながら生きているわけではなし、。それは私が生まれて間もなく障害を受け,
「障害者」でない状態を知らないということ,すなわち「障害者」 であるこ
とが当たり前とし、う感覚があるからかも知れない。ただ,障害に対して意識
せずつきあっていける時と,そうではなく克服すべき対象として必死で戦う
時とが,人生では,あるいは一 日の中でも,両方あるように思う。いずれに
せよ 「障害者として生きる」と意識するのは人聞がもっ多くの r_として」
のひとつに過ぎないことを前もって強調しておきたい。

E
I 事例としての「私」
私の障害は脳性まひ,身障手 1長 1種 1級である。歩行はできるが,上半身
特に上肢にアテトーゼ (動かそう と思わないのに絶 えず動い てしまう )が ひど
く,食事はなんとかで、きるが (
そ れでもスプーンなどを使用し,汁ものなどは苦
手),筆記やワープロの操作などは足でしている。現在大阪市内の無認可障害
者共同作業所の非常勤指導員として働いているが,客観的にみると決して軽
い障害ではないと思う。以下に,私の生育史と自分自身によるコメントをい
くつかの時代に区切って述べておこう。

@ 誕 生 就学前
障害を受けたのは, 7カ月の早産で生まれ,生後 4
9日目に起こしたチアノ
ーゼ(酸素欠乏症〉が原因と思われるが,はっきりとしたこ とはわからな L。

母親が発達の異常に気付き 1歳半のとき大学病院にて受診。そこで脳性ま
昭和3
ひとの診断を受けた。当時 ( 0年頃〉ま だ珍しい病気 であり,治療・訓練

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I音s 障害者心理
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施設もほとんどな いに等 しいような状況であった。 しか し,障害児を もった


親に共通する よ うに私の親も病院を渡り歩いたり,マッサージに通ったり,
できうる限りの手を尽してくれたらしい。それから 5年ほどして近県にやっ
と療育施設ができ,そこに親子で 3カ月間入国(通園ではなしう し,訓練の方
法を学んできた。訓練と言っても今のように神経生理学的なものではなく,
筋力トレーニングや徒手矯正などが主であったけれども,効果はあったので
はないかと思っている。実際,歩く力はこの時に獲得 した

まだ幼い (5歳〉私であったが, この入園経験によって次のようなこ とを得
たように思う。
一つは,自分以外の障害児とはじめて出会い,あらためて自分は障害をも
っているという自覚(のようなもの〉がめばえたこと。そ してそれを基礎と し
て二つには,わりあいハー ドな訓練にも 耐 える意欲が育ち始めたこ とである。


多 養護学校時代
すべての障害児に就学が保障されたのは, 1
979(昭和 5
4)年度の養護学校義
務制実施以降のことである。私が学齢期を迎えた 1
961(昭和 3
6)年ころ といえ
ば,親たちの運動の成果として「公立養護学校整備特別措置法」が成立し,
やっと養護学校の増設が始まったばかりであった。私が住んでいた県に養護
学校ができたのは 3年後の 1
964(昭和 3
9)年のこと。 3年ものあいだ私は(制
度的に)就学猶予を余儀なくされたのである。家庭で訓練を続ける 一方で,教
科書を買い込んだりテレビの教育番組などで勉強のまねごとを始めてはいた
が,不思議なことに学校に行けない自分にさ して疑問は もたなかったように
思う。
9歳のときに養護学校に入学 した。本来ならば l年生になるはずで、あった
のに,学校の定員の都合でいきなり 3年生ということになって しまう。当時
は養護学校と い っても障害の軽 い子供が中心で,例えば片足に軽いま ひのあ
るだけの仲間もいたりした。したがって勉強のカリキュラムや進度も普通の
学校なみであり,し、くら家庭で勉強していたとはいえ,いきなり 3年生とい
うのは負担の大きいものであった。しかし,われながら,そして幼いながら
みんなについて い こうとがんばったと思う。突然に 出てきたかけ算の九九な
ども割合短期間の内に覚えることができ,学習面ではなんとか追いつき,つ
いていけた。

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集団生活の面でも,クラスの中でできる役割を果たしたりすることにより,
「役立つ自分」とし、う経験もすることができた。また,それまでは母を中心
とした大人に介護をしてもらっていたのだが,学校で同級生に筆記の援助な
どをしてもらうようになり,介護に対する感謝の気持ちが育っていったよう
に思う。
養護学校での小学,中学時代では対等な友達関係や,いい意味での競争関
係により積極性を養ったり,一方的に介護されるだけでなく人にも役立って
いける という自信のようなものを身につけることができた。それが次の普通
高校への進学を可能にしたのではないだろうか。

物 高校時代
養護学校の中学部を卒業するころになると進路の問題が深刻になってきた。
現在はほとんどの養護学校に高等部が設置されているが,当時私の通ってい
た学校には未設置だったのである。それに加えて,重い身障者が高等教育を
受ける意義についても疑問視する風潮がまだ残っていた。高等教育を受けて
も将来それに見合うだけの社会的位置を得る見通しがないため,かえって欲
求不満となるというのがその理屈である。
そうし、う背景で,重い障害者の高校進学はまだ稀であったが,ぼんやりな
がらも,将来は頭で (
知的労働で)生きていこうと思っていた私にとって,高
校進学の願いは強かった。今から振り返っても,この時期に一番よく勉強し
たと思う。健常者に負けないで高校へ入るためには 2倍も 3倍も勉強する
しかないと考えていたのだ。
何度も志望校の校長先生と面談し,養護学校へ も来ていただし、たりしてや
っと受験の許可だけはいただいた。高校側としても初めてのケースだけに大
変な英断であっただろう 。 なにしろ受験場の床に毛布をしき,その上に座り
込んで、足で、解答用紙に書 き込むというのだから。
幸運 としか言い ようがないのだが,なんとか試験にパス でき公立高校に入
学することができた。たとえ学科試験で合格点であっても,落とされて文句
の言える立場ではなか った。本当に幸運だ ったのである。しかしいざ入学が
決まる と,また新たな不安が首をもたげてきた。私はそれまで健常者の仲間
集団に入ったことがなかったため,普通高校のクラスになじめるだろうかと
いう不安だ。それも 養護学校のクラス 00
名程度〉 とちがし、大集団である。こ

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の不安は私自身よりもむしろ回りの大人たちに深刻だったように思う。私に
不安がなかったと言えば嘘になるが,怖いもの知らずというか,それよりも
新 しい世界への好奇心が勝っていたので、あろうか。
そんな心配をよそに,高校生ともなればお互い相手を受け入れる素地がで
きていたのか 3カ月もするとすっかり違和感なくクラスにとけこめた。友
達の援助も自然なものになり,楽しい学校生活を送ることができた。一般に,
健常児との統合教育はできるだけ早くするのが望ましいとよく言われるが,
私は一概にそう とも 思わない。特に障害児の側の準備体制(レディネス〉が十
分でなければ, マイナスの効果の方が大きいのではないかと思っている。
高校ではよき友人に恵まれた。田舎ののんびりした高校であったのに加え
て,今ほどの激しい競争もなか った時代であったからであろう。友人も余裕
をもって私につきあってくれたようだ。ともに進学をめざし,はげましあっ
て勉強する親友もできた。もはや障害者,健常者と意識 しない関係があった
ように思う。
もう 一つ
, この時期には家庭の事情から母親が看護婦として働かねばなら
なくな ったとしづ環境の変化が起こ った。それまでは学校に いる時以外はほ
とんどっきっきりであった母が,夜勤などの関係で夜も含めて留守にし,私
一人で過ごす時聞が飛躍的に多くなった。日常生活動作にもいろ いろと工夫
し,独力でできることがどんどん増えていった(用便の自立はこの時できた〉。
年齢的にも自分の世界を作りたいとしづ要求の強い時期だったので,別に苦
痛ではなく,む しろ楽しみながらいろいろなことに挑戦していけたように思


号 大学時代 現在
大学進学も高校以上に前例のないことであった。これも「運よく」としか
言 いようのないことだが,地元の国立大学に入学することができた。専攻は
理学部で数学を選択した。コンビューターがもてはやされはじめた頃で,そ
れならばハンディなく仕事ができるのではないかという望みもないわけでは
なかったが,それよりも数学に興味があったというのが一番の動機であった。
しかし,大学ではさまざまな人と 出会い興味が広がった。障害者問題に取り
組んでいる学生とも知り合いになり,だんだんとそちらの方に惹かれるよう
になった。もともと自分の問題であるのに,あらためて学問的に意味付けて

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みる と,客観的 にみずからの位置がわかり,生き方を揺さぶられる思 いが し
た。それで大学院では障害者発達学を学び,現在にいたっている。

EI 肢体障害者の心理
以上が私の経歴だが,生育史や現在の生活から考えると,肢体障害者の事
例と しての私はとてもその典型であるとは言えなし、。そもそも聴覚障害や視
覚障害と違い,障害部位,障害の重さ,全身性か抹梢性かなど,個々の差異
は大きく,さらに受障の年齢によっても全然様相を異にするのである。典型
などというものはおそらくないであろう。したがって,手話通訳とか点訳あ
るいは手引きのように共通した要求がないのが大きな運動上の問題点となっ
ている。それでもあえて事例と して私の生育史を述べたのは,障害者の育つ
過程のダ イナミックさを理解 していただきかったからである。発達の道筋は
基本的には健常者と同様であるが,社会的な条件により(私と同年代の障害者
でも学校教育の経験がない人もいる〉成長に必要な課題を課せられずに過ぎて
しまって い る場合も多い。ま た必要以上の過保護やまた反対に厳格さの中で
育つとし、う場合もある。それらが原因で,身体の障害以上に厄介な心理上の
問題を引き起こしている人もいるのである。成人した以降に障害を受けた場
合でも上田氏の述べるように複雑な過程を経て「障害の受容」にいたるので
あるから慎重な心理的対応がもとめられる。
しかし,それらの問題点は決して固定的なものでなく周囲の人々との関係
の中でダイナミックに変容するということを押さえておいていただきたい。
私の場合,別に意図 した訳で、はな いのだが,後から考えると(まだ問題はある
と思うが〉わりと適切な時期に適切な課題が与えられていたのではないだろ
うか。それを偶然に終わらせずに, 一般性をもち,なおかつ個別的な対応を
模索していかなければならないと思う。

B 成人肢体障害者の生活にふれて

介護福祉士のみなさんが主に対応されるのは青年期以降の障害者であろう
と思われるので, ここで成人期の肢体障害者の生活にふれての思いをいくつ
か述べておきた 、。

先に述べたように,成人障害者は社会的条件の貧困さなどによりさまぎま
な心理的な問題を抱えている場合が多いのであるが,その中でも 一番目につ

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くのが能動性の弱さ,あるいはその裏返しとしての個人的なわがままさであ
る。在宅生活が長く続いているようなケースでは,何をするにも無気力で外
に出るのも億劫がり,例えば,作業所などに通所し始めても定着 しない。そ
の反面,介護の条件も考慮せずに突然,途方もない要求を突き付けてみたり
の両極端な場合がみられる。その原因は,対等な人間関係の経験に乏しく,
自己に対する評価が定まらなかったり,相手の立場や条件を理解できないと
いうところにあるのであろう。介護活動をすすめるに当 たって,まずこのよ
うな点をどう乗り越えていくのかということが大きな問題になると思う。
次に述べておきたし、ことは, 3
0歳代以降の,特に脳性まひ者にかかわって
のことであるが r
二次障害」についてである。障害をもちながらも積極的に
生活 し労働している人たちが長く無理を続けたために頚椎が磨耗 したり腰痛
を起こし,ひどい場合には寝たきりの状態になることさえある。このように
もとの障害から新たに引き起こされる障害を「二次障害」と呼び,肢体障害
者の間で問題になっている。詳 しくは資料を参照して いただ きた いが,少な
くない障害者が二次障害を起こす危険性の中で生活していることを念頭に置
き,医療 との提携 を考えていかねばならな い。

D 結びにかえて一一私たちとの共同作業を

肢体障害と 一 口に言ってもこれほど多様な内容をもっ言葉も珍しい。本節
の目的は肢体障害者の事例を提示することであるが,それがどれほどの意味
をもつかは読者の判断を待つ外はな L。
、 一人ひとりの障害者に接したときに
は,一般論では汲みつくせないものの方が多いはずである。その難 しさを乗
り越えるためにどうか私たち障害者と粘り強く共同作業を進めていくとしづ
姿勢をもって欲しいと思う。そこには障害者のみならず,みなさん自身の成
長・発達が刻まれるはずで、ある。

3 聴覚障害者の暮らし

a r
黙秘権」をめぐって

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987
年11月 1
2日,岡 山地方裁判所は一人の聴覚障害者の公訴棄却を言いわ
たした。「……被告人は法廷における自己の存在状況すら明確に認識していな

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いのではないか… … まして黙秘権の存在を被告人が知っているとは認めにく
L、
… …」というのがその趣旨であって, この場合起訴そのものが違法だと し
たのである(本判決は 1
991年広島高裁で破棄され,現在最高裁で係争中〉。この事
件は新聞紙上にも大々的に取り上げられ,不就学聴覚障害者の認識力やコミ
ュニケーション能力,その裁判権について大きな問題を提起 したのであった。
その内容は,聴覚障害者の発達にとって教育のもつ意義,それを支える集団
や社会関係などについて,また法廷における手話通訳のあり方について,さ
まざまな問題を含んでいるのであるが,ここではまず,聴覚障害者の教育 と
社会的な発達,および家族などの諸関係についてとりあげようと思う。
第 1に,上記裁判 の被告である M さんが学校教育を受けていないために こ
とば(日本語や手話〉の獲得ができておらず,認知能力や倫理観など,その人
格形成にとっても大きな歪みを負わされていたとし、う事実についてである。
わが国の盲・聾教育が義務制 になったのは 1
948(昭 2
3)年 である。その当時彼
は1
3歳ですでに学齢を越えていたからそのまま不就学者となっていたのであ
るが,問題はこのような不就学聴覚障害者が今なお数多く存在 していること
である。この人たちは,人として,当然獲得しなければならないことば,知
識や学力やその他の諸能力もおしつぶされ,心暗く生きていかなければなら
なかった。たまたま M さんは犯罪を犯し,裁判 を受けることになったが,そ
の理解力の不十分さのため「黙秘権」の告示を受けとめることもできなかっ
た。これは人間関係に恵まれず教育も不十分だった聴覚障害者が陥った不幸
な例の 一つであるが, このような事例はまだまだ多い。例えば,病気になっ
て寝込んで、いても病院へ行くすべがわからず,病院へ行っても検査を受ける
説明も届かない老人の例だとか rろうあ病」という病名をつけられて長年に
わたり精神病院に入院させられていた婦人の例だとか,文章の読み書きがで
きず何年間もがんばったがパイクの運転免許取得ができない事例など数限り
なくあげられる。
次に, Mさんと家族とのかかわりであるが,彼の場合,両親はすでに死亡,
実兄がし、るにもかかわ らず,彼に対してはたいへん冷たし、。溜っていた本人
の障害者年金 2
00万円も本人には手渡さないといった有様で,とても正常な家
族関係とは言えない。聴覚障害をもっ身内の者をただ「家に迷惑をかける人」
としてしかとらえなかった家族関係の貧困は, これは単に M さんの場合だけ
でなく,わが国では聴覚障害者問題として数多く存在するのである。このよ

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うな場合,聴覚障害者は成長するにつれ,最も身近な家族聞のコミュニケー
ションからも閉され,社会関係を失って疎外感と情緒的不安に陥らざるを得
なくなる。
ところが,最近手話が広がり,手話や手話通訳の活動と取り組む人たちが
増えて,その人たちが集団的な学習を積み重ねる中で聴覚障害者問題は次第
に明らかになってきつつある。また,聴覚障害者に対する社会的な認識や権
利の確保,その援助態勢も少しずつ好転してきている。とりわけ 1
981年から
始まった国際障害者年のもたら した聴覚障害者福祉 にかかわる諸制度 の 改 善
は,この問題にようやく手がつけられ始めた感がある。にもかかわらず,聴
覚障害者がかかえる社会問題というのはたいへんわかりにくい面をもってい

ある聴覚障害者の男性から通訳依頼を受けた。彼は相愛の女性ができ,結婚し
たいと同伴で実家に帰った。実家ではすぐ親族会議を開いたが当人たちには一
切,その内容がわからなかったそうである。彼はn筆談 してほし¥, '~といっても
『決まっ たことはあとで教 えてあけ.る』と 何も教えてくれなかった。もう l度話
し合いたし、から今度は手話通訳に来てほしし、」というのである。家族間でどうし
てこんなことが起こるのだろうか。

*
ろうあの Aさんには離れて暮らしている病弱の母がし、る。高齢だし いつも案じ
ているが,ある時東京の実姉から,実は半年ほど前から母が入院していることを
知らせる手紙をもらいひ、っくりしたそうだ。親,姉妹と通じないことがこんなに
なっていくのだろうか。人聞は今,周りで起こっていることを知って,初めて判
断したり行動したりするものなのに,ろうあ者はそれを知らされない。そして非
常識だとか礼儀知らずだという熔印を押される。これでし、し、のだろうか。私はや
りきれない思いをかみしめていた。

これは手話通訳の活動をしている人たちが書 いている聴覚障害者の家族関
係に関する通訳記録であるが,いずれも家族関係をめぐる複雑さやそこに生
きる聴覚障害者の息苦しさがとりあげられている。
聴 覚 障害者はその子育てにつ いてもまた,さまざまな困難と出合わなけれ
ばならなし、。親自身が出産・育児の知識を得る機会に乏 し く,知らないこと

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が多すぎたり,保育所や学校,近隣の人々が親の障害に対して無知であった
りして,その子供に思わぬつまずきを負わしてしまう,そのような事例もな
お多いのである。

D 聴覚障害者問題解決への視点

今,聴覚障害者に生起するいくつかの問題について述べたが, この人たち
はその他,労働,文化,保健,また公民権行使から近隣者との人間関係にい
たるまで,社会生活全般にわたって多くの社会的困難を背負わなければなら
ない。ところが,聴覚障害と 、
し う障害は一般的にはたいへんわかりにくい面
がある。 1
980(昭和 5
5)年世界保健機関では障害を機能障害 (
一次的障害),能
力障害(
二次的障害入社会的不利(三次的障害
〉 と三つのレベルでとらえる定
19
義づけを行し、,国連でもこれを受けて「障害者に関する長期計画 J ( 8
3年〉
を提起したが,実は,ろう教育関係者の間では体験的に聴覚障害をこのよう
にとらえてきた。すなわち,何らかの原因で幼児期より聴覚に障害をもって
いること を一次的障害,そのため言語獲得に大きな障害を受け,発達上にさ
まざまな困難をもたらすことを二次的障害ととらえ,さらに社会に受け入れ
られない原因となったり 差別につながっていくことを三次的障害ととらえた
のである。ろう教育においては, とりわけ二次的障害をいかにとり除くかに
長年の努力が傾けられた。それは 1
760
年, ド・レペがノミリに聾唖学校を開設
し,わが国では 1
878(明治 1
1)年に古河太四郎が京都盲唖院を聞いた時以来,
世界のろう教育者たちが取り組んだ大課題であった。聴覚障害児が十分に自
分の能力を発揮して社会に出ていくためには,何としてもその国の国語を獲
得させねばならないというのが教師たちの悲願でもあった。教育の方法も手
話法, 口話法,併用法,さらに細分すれば際限がないくらい数多くの方法を
開発し,研究,論文を生みだした。にもかかわらず,その成果が聴覚障害者
全体の十分な言語発達を保障するにはいたらなかった。しかしながら,近年
になって, この教育は国際的にも圏内的にも大きな動きが出てきた。障害 の
早期発見,早期教育であり,方法的には聴覚活用,手話の再認識と教育への
導入などがあげられる。手話導入については,文部省も「聴覚障害児のコミ
ュニケーションに関する調査研究協力者会議」を発足させ, 1
993(
平成 5)年
3月にはその報告書が出された。このような中で,最近の聴覚障害児教育の
課題は,発達に応じた学力の向上,健聴児との統合教育をどう進めるか,障

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I音s 障害者心理
第I
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害認識の育成,高等教育,重複障害児教育の充実などが大きく浮かんできて
いる。そのためには教育をめぐる諸科学との提携をはじめ,聴覚障害者を受
けとめる社会発展を一層必要としているのである。
現在,聴覚障害者の社会的問題として存在するのは, 一つには上記 したよ
うに教育の困難性に起因する場合と,今一つは教育の関 門はくぐったが,自
らの障害認識や社会との接触が未熟,あるいは社会の無理解に起因する場合
との両方が考えられる。たとえば就職後も企業内でいろいろなトラブルが起
こる。当初は「明るし、 J rまじめ J r
機転がきく」などと見られていた聴覚障
害者が次第に「功利的 J r
世間知らず」などと見られるようになるケースも多
い。職場においてもコミュニケーション上の不都合で仲間との人間関係がう
まくいかなかったり,企業内教育が受けられなかったりする。情報不足のた
め近所づきあ いがし にくかったりするのである。交渉や会議,手続きな ど公
共の場面でも意志疎通がうまくいかず目的が果たしにくい,等々,さまざま
な社会生活上の重圧がある。この重圧をのり越えて,聴覚障害者が平等に,
完全な社会参加 を遂げていくためには, 自身の努力もさるこ となが ら職場や
地域社会の友好な協力関係の確立が必要であることは言うまでもな 、
し。その
ためのいくつかの視点について提起しておきたし、。
その第 1は,医療,福祉,教育とが十分提携し合って幼児期から後期中等
教育,さらに高等教育にわたるすべての課題を消化することである。前述し
たように最近では障害の早期の発見や,聴覚利用,教育が広範に取り組まれ,
ろう教育の内容も飛躍的に進歩 した。と同時に新しい課題も 出てきている。
これらの諸課題を踏まえながら聴覚障害者の教育を高め,多様な教育活動を
展開させることである。
第 2には,聴覚障害者の職業選択権の拡大である。例えば,保健医療だと
か交通運輸に関する聴覚障害者の資格取得制限の撤廃を含め,聴覚障害者が
十分能力を発揮 して働くことのできる条件を整備するこ とである。職域や地
域における手話通訳の保障はその一つであろう。
第 3に手話の重要性について社会的認知を広めていくことである。長年に
わたってろう教育からも排除され,社会的にも無視されてきた手話が,最近
では聴覚障害者のコミュニケーシヨン手段の重要なメディアとされる よ うに
なった。全日本聾 I~連盟では聴覚障害者みずからの社会的自立と対等なコミ

ュニケーションを保障するため,手話通訳の制度化を提起して運動を続けて

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0章 障害者心理の 実際 (
事例〉
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おり,これを受けて民間でも全国に多くの手話サークルが誕生し, 1
974
C昭和
4
9)年には全国手話通訳問題研究会も発足した。 一方,行政では 1
970C
昭和 4
5)
年に手話奉仕員養成事業を開始,手話通訳設置事業 0973
年〉および手話奉仕
員派遣事業 0976
年〉に加えて, 1
989C
平成元〉年度からは手話通訳士認定試
験を発足させた。今ようやく手話通訳制度への歩みが始まろうと しているの
である。このような中で,聴覚障害者の生活や文化の向上を目ざして, とも
に歩む手話活動者を拡大させることと同時に, より高い専門性を身につけた
手話通訳者を増やし,その制度を定着させていくことが間われていると言え
よう。
以上, 三つの視点について述べたが,これらは,聴覚障害者関係の者だけ
の運動や課題に終わるのでなく,福祉,医療,教育とかかわる人たちすべて
の,いや全国民的な課題として自覚的に取り組まれることが必要であろう。
ノーマライゼ ーションの理念は,この課題を一人ひとりが囲りに根づかせて
いくことによって実現への道を拓いていくのである。

4 言語障害者の問題

E・ は じめに
言語障害者の問題を,吃音(どもり〉を通して考えよう。
まず,吃音問題を考えるにあたって重要なウェンデノレ・ジョンソンの言語
関係図を紹介しよう。

D ウェンデル・ジ ョンソンの言語関係図 00-


1)

この三つの要素の長さ(重症さ,強さ〉をそれぞれの広がりで表し,立方体
を型づくる。できあがった立方体の容積の大きさや形がその人の吃音問題の
大きさや質を表すとし,問題の解決を図るために,各軸の長さを O点に近づ
けようとした。

x軸について
吃音者本人の,また吃音者をとりまく回りの人 々の x軸への期待は大きく,
研究・臨床の場で x軸へのアプローチは飽くことなく続けられた。しかし,

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0-
1 ウェンデル・ジョンソンの言語関係国

x一一一一一一一一一一一ーイ
O点l

y
x 話しことばの特徴
y 聞 き手の反応
z 話 し手の反応

xI
MI :吃症状や随伴症状も含めて吃音者がとる吃行動の特徴
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l:そのI
IG音者 がとった行動 に対する 回 りの 人 々の評価 や反 応
dl
由:自分のと った吃行動やそれに対してと った回りの人々の評価 や
反応に 対 して吃音者自身がとる反応

出所 W ・ジョンソン , D ・ミーラー共著/ 田 口恒 夫 訳 『教室の言語障害児』


日本 文化 科学社。

効果は上がっていないと言 ってよく,万人に有効な治療法はまだ確立されて
いなし、。このような状況の中で x軸にのみとらわれる ことは,障害の受容
を遅らせ,かえ ってその人の有意義な人生への 意欲を失わせることになる。
つまり, 言語症状が治ればと願うあまり,吃音が治ったら しようと,現実
の生活から逃げてしまうのである。 言語障害 は傍目で見る分にはその問題が
わからない。話して初めて 障害があることを他人が気づき,木人も意識する
のである 。 したがって, 日常生活で話さなければならな い場面,話 したい場
面に出ていかなければ,言語障害は問題にならない。消極的な生活に甘 んじ
ていれば,大きな悩みとならないのである。治りにくい吃音の場合 x軸に
とらわれることは,吃音者の自立を妨げることになるのである。


多 Y軸について
吃音 で悩む多くの人 は,良い聞 き手に恵 まれていない。母親から「吃って
話してはダメ J ,.ゆっくり話しなさ し、
」と 言 い続けられた人は,吃音に対する
マイナスのイメー ジがなかな か抜けない。発表をして吃って笑われたりから
かわれたりした経験をもっ吃音者は人前で、発表することができなく なる。吃
音者の聞き手に対する 要望を列挙してみよう。

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0輩 障害者心理の実際(事例〕
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O症状にとらわれないで,話す内容を,最後まで聞いてほしい。

O ゆっくり話せとか,話すことへの指摘をやめてほしし、。

O吃っているとき, 目をそらせたり,嫌なものを見るような目はしないで
t
ましし、。
吃っていても何を話そうとしているか,何を伝えたいのか,耳を傾けてほ
しいということである。吃ってもゆったりと話を聞いてもらえたとしづ経験
は,吃音の受容を促進させる要因となる。
吃音者がより良い聞き手に恵まれれば x軸にとらわれることはなくなる
であろう。吃音をどう理解したらよいか学ぶことが言語障害者以外の回りの
人々にできることである。


多 z軸について
吃音者はすべてが悩んでいる訳ではない。かなり吃っている人が吃音に左
右されず,自己主張し,生きている。 一方,傍目には吃音とわからない程度
にもかかわらず,ひどく悩み,社会へ出ていけない人がし、る。これは,吃音
者の吃音に対してもつ意識や受ける影響に大きな個人差があることであり,
Z 軸へのアプローチの可能性を示すものである。吃音が治りにくいものであ

り,吃音をもったまま生活せざるをえない現状の中で,その吃音とうまくっ
き合う人と,そうでない人がし、るということになる。

EI おわりに
吃音者への処遇は r
吃音を治す」ではなく r
吃音とうまくっき合う 」方
法を示すことに他ならない。そのために成人吃音者は吃音についての基礎的
な知識を学び,症状の消失・改善という狭い言語へのアプローチではなく,
コミュニケーション能力を高めるために,聞く,書く,読む,話すことを総
合的に学ばなければならなし、。また,自分を知り,自分を高めるために,交
流分析,論理療法等の心理療法の学習も不可欠である。その中で Z 軸は Oに
近づき x軸の症状はあっても自分らしくよりよく生きる方向がつかめるの
である。この吃音者の Z 軸への取り組みを支えるのは y軸の聞き手の態度

である。言語障害者をとりまく人々には,より良い聞き手になるための学習
が必要とされるのである。

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第I
I部 障 害 者心理
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5 自閉症者が働<

D はじめに

介護福祉としづ立場から,はじめて自閉症児者に接する人々にとって,自
閉症とは一体どう い う障害であるのかと い う知識を何 らもつことな しに, そ
のかかわりをつくることは大変困難なことであろうと思われる。本節は自 閉
症の説 明の場ではな いし,またその紙数も与えられて いない。ただ, 自閉症
児者に接するに当たって,はじめに最少限知っておいて欲しい事柄について
触れておきたい。
幼児自閉症とし、う症候群について,はじめて故レオ・カナー教授が発表
0943
年)してから 5
0年近くになる。氏が感情接触 の異常に気づき ,幼児 の社
会的コミュニケーション,感情的関係づけの困難さを強調し,それが体質的
なものと して発達上 の異常が認められると言ったのが自閉症のは じめである。
, 1950-60
以来,自閉症が分裂病の初期的徴候である とか 年代の教育・ 心理
領域では心因説が全盛であったが,自閉症がこれに適応されて,親が強迫的
で冷淡で感情に乏しいため,子供が自衛しているとか,その反応であるとい
う言われ方で親が責められた時代でもあった。さまざまな原因説,治療法が
提唱されたが,今日にいたるまで何一つ決定的なものはない。
ただこうした流れの中で,自閉症は基本的には認知上の障害で、あり , それ
が言語異常に関連していること,またそれらのよって来るところは脳の器質
的 な機能障害によるものではな いかという ことである。上記の経過をふまえ,
今日,処遇をめぐる方向は大きく 二つに分かれてそれぞれに努力がはらわれ
ている。 一つは医学的な原因に焦点をあてて ,医学的な治療を探求するもの
と,もう 一つは認知障害に関連した異常行動に対し, 心理学的介入手段で対
処 しようとするものである。臨床経験を踏まえた体系的な研究の成果をみる
ためには,かなりの時間が必要であろう。
それでも確実に自閉症児は産まれ(有症率 0.
03-0
.1%),幼児期を経,学齢
期を終えて社会のどこかで,さまざまな人々とかかわって育ち生きている。
こうしたかかわりを通して今日までに明らかになっている自閉症者のもつ何
らかの共通した性質,特徴といったものを 3点ほどにしぼってあげておきた

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、。

一つは発達上他と較べて少し異なっている点,それはとくに認知力,言語,
社会化の点で障害と遅れ,そして逸脱あるいは他と偏りがみられるというこ
とである。つまり認知のスキルやノ ξ ターンが独得であり記憶,視覚,空間的
なパズノレのようなものには強いが,象徴化,概念的意味づけには弱し、。話す
ことが遅れ,社会的コミュニケーションとしての言葉づかし、が不得手で、,き
まり文句のくり返しゃ自他の反響言語がみられる。したがって対人関係にも
同様な遅れと逸脱が出る。
第 2は,常向性,硬さ,融通性のなさなどにみられる独自の生活,行動の
パタ ーンである。一番人の自につきやすい点であるが, 日常の着脱衣から食
事,通路など異なった場面への適応が困難であって,時として強迫的な儀式
行動となり,物の置き場などいつもと異なるとパニックになったりすること
もある。
第 3は自閉症児者にかかわる中でとくに困難をきたす点で、あるが,多動な
もの,破壊を伴うかんしゃくと攻撃,自傷行動,睡眠障害などもある。もち
ろん上記はすべての者がすべての症状をもっているわけではなく,個人差も
あれば, もっ と多種多様なこ とは言うまでもないことである。大切なことは
かかわりあいの中で,何はさておいても自閉症そのものについて学ぶこと,
経験豊富な人々と出会ってみずからの経験をさらに積んでいくことである。

ID 対象者から出発する
上記のような顕著な個性的な性質,特徴をもっ人々が,学齢期を終えて働
き始める。いかなる障害を背負っていようとも,人として生まれ育っている
以上,病気でないかぎり働くことは当然のことであって,何の不思議もない。
にもかかわらず周囲は,異常とか,適応困難という理由で働く場を与えよう
としなし、。本当に悲しいことである。
おおよそ介護や援助にたずさわる人々にとって,最も大切なことは自分自
身の障害観,特にその根底にある人間観を問うてみることである。えてして
われわれは自分のわずかな人生経験に基づいてしか,人間,特に他人をみて
いないことがある。ただ少し対象者が自分と異な っているというだけで,相
手をきめつけたり,切り捨てたりする。わずかな経験による 価値観 に基づ い
て介護するとか,援助するとか,指導するというが実はそれ自体, 自分自身

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を相手に押しつけているに過ぎない場合が多し、。そういう点からみて,その
援助や指導の受容が最も困難な対象者が自閉症と言われる人々であることは,
上記障害の特徴からして自明のことであると言える。まずもって,自分自身
がその見方,考え方のパターンを変えることから始めなければ接点はみつか
らなし、。つまり対象者が何を望み,何を欲し,何をどう実現 しようと してい
るか,対象者中心の,対象者から出発する見方,考え方への転換である。介
護者や援助者自身の自己変革の必要性を述べているのであるから, この転換
は口でいう程なまやさしいことではない。
さて
, 養護学校等卒業の一人の自閉症者が仕事を しなければとい って連れ
て来られる。これまで何ら労働の経験もない。昔は子は親の背中を見て育つ
といった。つまり親の労働の姿を見て,見ょう見まねで働くということを覚
えていったのである。しかし今日 一億総サラ リーマン化 の中で,一般的に親
がどんな仕事をし, 日常どんな姿で働いているかを知る子は少なし 、
。まして
障害ゆえに保護され,しかも過保護に育てられた人々に,労働が何であるか
を理解させ,始動することは容易なことではない。ーカ所に 3
0分と落ち着い
て座ることもできない人々がし、る。人々は多動であると言う。視線は合わせ
ないし, コミュ ニケーションは成り立たな し、。時にはメガネを 叩 き落とす,
頭は叩かれる,人々は重度障害者であると言う。いかなるパニックも多動も,
暴力も ,-症状のあらわれし は良きこ と」のケースワー ク原理の通り,それ自
体が将来に向けての手がかり,対象者のもつ内的な動機,興味意志を現して
いるもので あるからして,何一つ見落さず覚えていくことである。どんな 小
さな動きや表情も見過ごしてはならない。その 一つひとつが将来に対する指
針になるからである。まずもって援助者のもつべき目,観察力を養うために
必要な教材 を対象者は提供 してくれているのである。「相手の武器でたたか
え」ということばがあるが,これは自閉症者の労働や,仕事への適応という
ことを考えるにあたって重要な意味をもっていると考える。つまり人間誰で
も自分がしたし、と思う仕事以外,特に他から強制 されてする仕事ぐらい,面
白くもなくまたつらいことはなし、。無感覚に仕事に人をあわせようとして職
種をきめたり,訓練をしたところで適応はますます困難となる。人に合わせ
て仕事を選び,見つけていくのである。そのためにも相手が示している拒絶
や,興味の一つひとつはまさに相手が援助者に送っているメッセ ージ,相手
が用意せょとし、う武器なのである。それが察知できなかったり,解析できな

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いのは対象者の問題というよりむしろ援助者側の問題であると言えよう。ま
して嫌がることを強制 したり,従わなければ力で,もしくは暴力を用いる と
いうようなことは実力のなさを示している 他何物でもないと言えよう。対象
者から 出発 して対象者にかえる とはまさにそういうことである。したがって,
対象者の職場や作業への適応は一様にできることではない。顔が違うように,
人それぞれにみな違う。 比較的早く適応する人 3カ月 6カ月 1年 3
年 5年かかっ てやっと適応 できたと しづ場合もある。自閉症者が作業適応
できるための特効薬などというものはない。日本人はガイドブックやマニュ
アルづくりが好きな国民であるが,この領域ではまずもって用をなすとは思
えない。個別化が本当に必要な人たちだからである。援助者が心を聞かなけ
れば,対象者も 心 を聞かない。援助者が相手を好きでなければ,相手も好き
になることはありえなし、。ごく当たり前のことである。そういう意味では彼
らはより正直な人たちで、あるのかも しれない。ただ少し,対人関係や新しい
場面に適応するのに,チャンネノレが違っていたり,アプロ ーチの仕方が異な
った特徴をもっているために時間がかかっているだけだと し、う表現ができ ょ
う。適応、をあせって急いではいけなし、。働く軌道にのらない人は誰一人いな
いのである。
また 自閉症者だけの作業とか,施設と い うものには疑問を抱 いている
。 他
の知恵遅れと言われる人々や,できればごく普通の人々の間で生きて,働く
ことが大切である。適応面でもっと大きな効果をあげるこ とができる し,も
ともと認知やコミュニケーシヨンの障害である人々が自分たちだけであげう
る効果が薄いことは自明のことである。

EJ 自閉症者が働く

彼らが児童期にあれば療育であるとか,教育の対象者と して遊戯療法だ と
か,機能訓練だとか し、って母親とともにさまざまな場所に出入 し日を終る こ
とが可能である。しかし 1
8歳を超えて大人となった時に,何とか社会人と し
て仕事を身につけさせたいと言う。その願いは至極当然の ことであって,成
人 して から遊戯や機能訓練を毎日しているわけにはいかな L、。だが翌日から
即すんなり仕事に着手できると期待したり,考えたりすること自体無理な話
である。障害からして時聞を要することは上に述べた通りであるが,では何
年かかっ て も無理な人もいるのかといえばそれはまったく考えられな い。物

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を食べ,歩き,動いている以上,その人は立派に働く能力を備えた人である
ことを物語っている。働けない人などこの世に誰一人いないのである。 3,
4の事例をあげてみよう。


多 事例 l
M君。養護学校を終えて通所授産施設入所。身長は 1
80c
mに近く,体重は80
k
gに及ぶ大男。はじめ 2-3年言語はほとんどなく,戸をかければ反響言語
「元気か」と言えば 元気か」。常同行動,指を上下してリズミカルに体を
r
動かす。仕事に着手させようと思えば何 の興味も示さず, じっと座っている
か立って体を動かすだけ。各種の仕事を前に出し刺激 し,興味をさぐろうと
するが関心を示さなし、。ただ食べることは旺盛で,気に入ったおかずなど他
人のものまで横取りして食べる。音楽リズムにはよくのり,何年かしてカラ
オケで「知床旅情」を完全に歌って驚かす。しかし仕事を多少強いればすぐ
パニック,上下にとびはねうめき声。何もすることが見つからず,本のカパ
ーかけの傍で,半日に 1,2冊をかけるだけ。ただ,本を積みあげ,カバーを
積んであるのが歪んだり,ズレたりするときちんとそろえる。秩序が乱れた
り,曲ったりすることに我慢ができない。指導の着眼はここに始まる。型に
あわせて,ゴムや紙など自動車部品や水道,電機機器に用いられるパッキン
グの切り抜き作業に着かせてみる。はじめはゆっくりとではあるが,絞型の
上に材料を歪みなく規則正しくおき,切断機に入れて型抜きをする作業を確
実にこなすようになった。最近では洋服掛パイフ。の梱包など領域の広がりも
出てきて い る。強迫的 な性質も用い方によれば,それが得手になったり突破
口になることもある。また漠然と拡散した材料の中で,秩序や手順の定まら
ないところで作業というより,より構造化し,枠ぐみが明らかな場でスムー
ズに働きができることも彼から学ぶ点である。

傷 事例 2
K君。優等生型の自閉症。同じく養護学校を卒業して通所。反響言語,時々
けいれんはあるものの毎日きちんと通所。過干渉になったり,自分の意に反
することが強要されたと思えば相手を叩くこともある。ほとんどの仕事をこ
なす。なぜ、彼がここに来なければならないのかと思う。職業センターではも
ちろんコミュニケーションがないことなど,職能検査にのらないことが理由

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で就業不可の判定である。この彼に突如変化 が起こった経過には驚きもし,
また目を開かされるものがある。 K君と同時に T君が同年に入所していた。
二人は学校時代から 同期。その T 君が経験の Ip~ を広げるためにという理由で

工場実習に 1カ月施設を離れた 3日目, K君の登園拒否が始まる。最初は家


人も指導員もわからなし、。何週間か後に,本人が「卒業」ということばを口
にしたという母親のことばを聞いて, T君が居なくなったことに関係がある
ことに気づ いた。視線を合わせ ないとか, コミュニケーションがないとか言
うが彼は彼なりの気づき,考え方を明らかにもっている。無神経なのはわれ
われの方である。彼は近所にある着物病院から仕事 をもらって, しみ抜きの
仕事を自宅で始めもう l年になる。ついでにその T君の母親の話。施設から
実習工場 へ 出向いた朝, 母親が 「今日はのぞみではないよ,工場だよ」と言
うと r
今日はのぞみではないよ」というくり返しとともに涙をポロッと落と
したとし づ。母親はこの子が産まれてはじめて見せた涙で、す と言った。 l年
後「先日あの子が一緒に歩いて いて転んで,膝を強くうっ て痛いとし 、

し まし
し 、う。彼は現在 2
た。あの 子からはじめて聞いた言葉で、す」 と 5歳,音声とし
ての言語以上に,その根底にかくしもっているものに気づいていないのは周
囲であることを同じく考えさせられる話である。

修 事例 3
M さん。 2
1歳女子。 養護学校卒業後入所。相当に理解力はあるし,仕事も
手早し
、 。問題はコミュニケーションで,一方的に自分の言いたいことだけは
言うが相手の 言 うことは聞けない。同じ話題のくり返 しが多い し,相手が思
い通り聞いてくれないと大戸を出すし,逆にたしなめられたり黙っていると
爪喰みを始め,ほとんどの指にはパンソウコウがはってある。昼休みは仮想
の学級名簿づくりを ABC)
I聞にっくり上げる。漢字は見事なもの,職員のあ
て字,間違いを直す程である。同じ職場の仲間はもとより,知りあった人ほ
とんどの生年月日,年齢を覚えている。この名簿書 きが役立って,お土産や
組品,景品などの小さな会社に雇われる。仕事は注文請けの受付名簿,数量
記入と梱包などである。

自閉症者,それも 多動であったり,パニックを起こしたり , いわゆる重度


とみられる人たちも,働く場面への適応は軽度の人と何ら変わるところはな

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い。皆同じく働ける。ただ適応に時間がかかるか否かの差である。正否の鍵
は対象者が興味をもってのって来る仕事を用意できるか,また周囲がじっく
り待てるかどうかにある。そういう意味では仕事がコミュニケーションや自
己表現の媒体,もしくはそのものなのである。
最後に仕事に就いていく上で,仕事のあい聞としての余暇を受け身でなく
主体的なものとしてどう豊かに育んでいくか, これはわれわれ自身の問題で
もあるが,特に自閉症者の場合大きな課題である。

6 知的障害者の一生

E・ 事例 1 Y子さん

修 施設に入所す るまで
Y子さん。 5
5歳。 IQ3
2。彼女が私たちの施設,あざみ寮(精神薄弱者更生
施設一一一当 時は無認可施設〉に入所してきたのは,彼女が 2
4歳の時であった。
彼女は学校教育はまったく受けることなく,ひとりつ子の彼女はほとんど
家の中に閉じ込められるような状態で大きくなっていった。父親は早くに亡
くなり,大都会で「貸し席業」のような仕事をしていた母親一人の手で育て
られた。母親は仕事の関係で人の出入りがはげしか ったので,彼女にとって
は実に退屈な毎日であった。
ところが,思春期が近づくにつれ,自分のからだの変調とともに,気持ち
の不安定さが増してくることになった。この辺りのところを彼女はどうして
も自分でコン トロールすることができず,かと 言って ,母親は自分の仕事の
忙しさに明け暮れしていて,彼女のこのような状態に対 してほとんどと言っ
てよいほど,対応することがなか った。この ような状態をくり返しているう
ち,ある日,彼女は家を抜け出してぶらぶら しているうち, そのまま家に帰
ってこなくなった。あわてた母親はすぐに警察に保護願いを出すやら,八方
手をつくして探したが,手がかりはまったくなかった。
それから 1年近く経ったある日,彼女はヒヨツコリと帰ってきた。母親は
び、っくりするやら 喜ぶやら・・
ところがこの間, どこで, どう暮らしていたのか,いろいろと尋ねるうち,
どうも「こわいおじさん(暴力団〉につれて いかれて,売春をさせられていた」

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0章 障 害 者 心 理 の 実 際 (事例〉

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ということがわかった。そこで母親は「おもてでうろうろしていると, こう
いうことになるから,家から外に出ないように」とくり返し強く言ってきか
せた。
しかし,その後,自分からその「こわいおじさん」のところへ出かけるよ
うになり,家に帰って来ても 1カ月もしないうちにまた飛び出すということ
をくり返すようになった。
母親は rし、ったいこれから彼女をどうしていったらよいか」悩み苦しん
だ。ある人の紹介で精神病院に入ることになったが,本人は精神障害者とは
違うので,病院の廊下の掃除や洗濯のお手伝いなどをやっていた。しかし,
これとて彼女にとって教育的環境から言ってけっしてよくはない。私たちは
ある人の紹介(入所依頼〉で,彼女とその母親のことを知った。寮内でもいろ
いろと検討の結果,問題はたくさんありそうだが,私たちの施設「あざみ寮」
で彼女を引き受けることにしたのであった。

物 施設に入ってから
特に小柄な彼女は,童顔で,とても 2
4歳とは見えず, 1
0歳近く若く見受け
られた。いわゆる読み, 書き,算数はまっ たくだめだったが (現在もむずか し
い),簡単な会話による受け応えはまずまずでき,いつもニコニコしていて好
感のもてる人であった。この人が,ついこの閉まで売春の世界に,自分から
走っていった人だとはとうてい思えないのであった。
さて r明日からの彼女のこの寮での日課をどのようにしょうか」というこ
とについて職員たちで話し合った。彼女にと って暖かい人間関係,楽しい人
間関係をつくっていくために, どうすればよいかということで,寝起きする
部屋のメンバー,作業場(当寮は 「生活指導とともに 職業指導を通しての人格
形成」ということが中心課題であ って,職種としては 5種類あ った〉のメ ンバーや
職種などについてもつぶさに検討した。
彼女が入寮 したあ くる日 ,つまり彼女にと ってこの寮 での最初の寮生たち
の朝礼の席で,彼女の紹介とともに, この日から寝起きする部屋と作業場は
洗濯科であることを紹介すると,寮生たちは一斉に拍手をするし,彼女は何
か「昔からのともだちのところにやっと帰ってきた」という雰囲気を身体中
にただよわせながら,みんなをながめている, という風景であった。こうい
う何とも言えないほのぼのとした空気を感 じとった私は「これで‘大丈夫」 と

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いうある確信のようなものをもったので、あった。そして, このような「思い」
は,私だけの思いにとどまらず, 他 の職員たちも感じとってくれたようであ
った。
うれしいことであった。人と人との温かし、ふれあいというものは, こんな
にもお互いを豊かにしてくれるものかと合わせて感じたことであった。
洗濯科の寮生たちは,この「新人」にいろいろ指導 (7)するのであった。
「作業のまえにはエプロンをするのよ」
「エプロンの紐はうしろで結ぶのよ」
「だめ,だめ,わたしが結んだげる」

こ このゆすぎが終わったら,あのやすこちゃんのところへもっていくのよ」
実ににぎやかである。彼女はこのように言われるたびに rうん, うん」と
うなずいている。楽しそうに。
このようにして,彼女は寮生や職員たちとの一緒の生活や仕事を通して,
人間的な温かいふれあいを感じとってきてくれたようであった。このことは
日常生活のいろいろの場面にあらわれてきた。
例えば,自分より小さい人,弱し、人の手伝いをする。力を貸すというよう
なことが,職員などから言われなくても自分で、気がついて行動に移っていく
というようなことが,徐々に見受けられるようになってきた。
つまり,今までの生活はすべてと言ってよい程「してもらう」としづ受身
の姿勢ばかりであったものが,施設での生活,友人との人間関係が深くつな
がっていくにしたがって,他へ向かつて働きかけていくという能動的なもの
が次第に現れてきたので、あった。
このようなことは,彼女の過去の生活からは到底考えられないことである。
私たち以上に彼女にとってはうれしい日々の連続であろう。
ところで,その 当時私たちの寮から徒歩で 1
0分くらいのところに重症心身
障害児施設びわこ学園が誕生した。びわこ学園も私たちの寮と同じように,
滋賀県立近江学園から枝分かれした,いわば兄弟施設である。
そういう関係にあるびわこ学園なので,というわけでもないが,ちょうど
この頃私たちは「何か新しい仕事をもう 一つっくりたし、」と話し合っていた
ときでもあ ったので,びわこ学閣の掃除と洗濯に寮生を何人 か働かせてもら
いたい旨をお願いしたところ,洗濯に 1名,掃除に 6名の計 7名がびわこ 学
園を職場とすることになった。そして,洗濯の方に彼女が選ばれた。彼女は

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とぴあがって 喜 んだ。
びわこ学園では,彼女は仕事の合い聞に園児と遊んだり,時には子どもを
だっこして部屋からつれだしたりとし、う関係をもたせてもらうことによって,
自分のやっていることへの自信と喜びのようなものをますます感じるように
なってきた。こういう彼女を見ているだけで,こっちもうれ し くなってくる。

かつての彼女はもう想像もできな し、
びわこ学閣の仕事をするよう になってからの彼女はまた一段と成長したよ
うに感 じたの であった。友人との会話が実に多くなった こと や,相手の気持
ちを感 じと ることができるようになってきたのである。悲 しんでいる人には
一緒に悲 しみ, 喜んでいる人とは ともに喜べる ,これを心の豊かさと呼んで
よいのであろう 。

修 ふりかえって
フロイ トが「性」について言っているように i思春期」もまた突然、にあら

われるものではなく , ほかのどのような機能とも同じように,人生の始まり
から発達していくものであろう。
このように,彼女の育ちをみてくるとき,知的障害者 と言われている人た
ちにとって,その人たちが,温かし、人間関係の中で,その人が没頭できる仕
事をもち,適切な援助がその都度なされるということが,いかに大切かとい
うこと を私たちはこのケースから学んだのであった。

D 事例 2 K君とその両親

修 家庭にいたとき
K君。 3
6蔵, I
Q26。軽 い分裂病,てんかん。興奮 しやすい,固執性やや強



彼は田畑に囲まれた,戸数約 6
0戸ほどの小さな田舎で生まれ育った。家族
は両親と弟の 4人。父親は自分 l人で鉄工の仕事を自宅を改造 して やってい
る。母親は田畑でいそがしく働いていた。
彼は小学校の時はその学校には特別学級がなかったので,普通学級でいわ
ゆる「お客様」で 6年聞をすごした。中学校は彼が入学 した年から特別学級
がつくられ,そこの一員 となった。彼は学校 に通うことが楽しくて,結局 3
年間 1日も休むことなく通いとおした。

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いよいよ 卒業が近づき ,両親は彼の卒業後 の進路につ いて担任の先生 に相


談を した。結果,かなり重度であるというこ とと,田舎であると い うことと
で就職は無理だということになった。
さいわい彼は丈夫なからだをしていたので,母親の農業を手伝うこ とにな
った。母親はそれこそ手をとり,足をとり して一つひとつ教えた。やがて彼
もそれらの仕事にも慣れてきて 1年たち 2年とたつうちに,彼は立派 に成
長 していったのである。
農作業は 3
65日あるわけではな し、。仕事のな い 日には,彼は ときお り村の中
を散歩するのである。散歩の途 中,村の人に会うとニコ ニ コしながらベコン
と頭を下げる。これもまた,彼にとっては楽しいひとときのようであった。
彼にとっても,また家族にとってもこのように生き甲斐をもって生活する こ
とができた期間はそう長くは続かなかった。彼が学校を卒業 してから 5年ほ
どであったであろうか。この時分から,村では次のような「うわさ 」 がたつ
ていた。
「あの子も大きくなったなあ,からだは立派なおとなやなあ」
「うちの娘にいたずらなどしないかなあ」
「野小屋に火をつけたりしないかなあ」
「こんな時間に村中を歩いてもらうとほんとうに困るなあ」
両親は, このような村人たちのうわさを直接耳に しなく て も,それな りに
わかるのである。 村人の 一人ひとりを説得 してまわるわけにも し、かず, 両親
は悩み苦しんだ。親戚とも相談をした。結局「しばらくの間施設でお世話に
なろう」ということになった。
民生委員や役場や福祉事務所を訪ね 一度施設を見学に行こう」という こ
r
とになり,ある日,本人をつれて来られた。両親と福祉事務所の人たちと話
している間,彼は畑仕事をしている寮生たちのところへ行ってもらっていた。
この日はじめて私たちのところにやってきた彼なのに,農場の寮生たち とす
っかりうちとけて,両親たちとの話が終わったので r帰ろう 」と言っても 「
し、
や」と言って帰ろうとしない。 しぶしぶながら帰ってもらうのにかなりの時
聞がかかった。
先の「村でのできごと」については, この時は私たちは聞かされなかった
のでまったく知らなかった。この時寮はちょうど欠員があったので,入寮し
てもらうことを即決した。両親も福祉事務所も喜んでひとまず帰られたので

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あった。
それから 2週間ほどして両親につれられて入寮 してきた。彼は前回,見学
に来たとき寮生たちとふれあっていたこともあるので,すぐに寮生たちの中
に入ることができた。実は私たちはこのときはじめて「村でのできごと」を
聞かされたのであった。案外に淡々としておられたのが印象的であった。こ
れまでには大へんな苦しみや悲しみを乗り超えて来られたであろうことを思
うと, こちらの胸が熱くなるのであ った。
その時,私はこんなことを両親に話した。こういうことは時間をかけ,い
ろんな場を利用して, 一人でも多く,ほんとうの理解者をふやしていくとい
う地道な活動が大切であること。そのためにも,福祉事務所や役場や民生委
員の人たちの協力も得て, こう L、う子どもをもっ親たちがしっかりと手をつ
なぎ,いろいろな運動をすすめること。
具体的には,地域の親たちが集まって「親の会」をつくり,この子どもた
ちの真の理解者をふやすための運動をしていくようすすめた。
それから今年で 1
5年になる。両親は近隣の村にいる,知恵遅れの障害をも
っ子どもの親たちに呼びかけ,説得をし,今や大きな運動体となり,また両
親は常にその核となってみんなを引っばっている。今では,その地域に共同
作業所もで き,近く生活ホ ームがつくられるように聞いて いる 。
一方,彼は寮でいろいろの経験をし, 1
0年経ったところで,地元に更生施
設もでき,地域の人たちの気持ちもかつてとはまったく違って,温かく受け
入れてくれる雰囲気は十分にできていたので,その更生施設に措置変更され
ることになった。今日で、は地域の人たちとの「あたりまえ」のおつきあいが
続いている。

*
以上, 二人のケ ース 一一障害者本人のケ ースと障害をもっ子どもの親を中
心としたケース についてふれてきた。どちらのケースともみんなそれぞ
れの場で一所懸命に生きている。障害者は障害者なりに,そのまた親は親な
りに,その心を,そのからだをふるいたたせながら,それぞれが自己の実現
と社会づくりにがんばっている。
要するに r
知的障害者の 一生」と題したが, この人たちの一生が普通一般
の人たちの 一生と異なるはずがなし、。
現代は,アリストテレスが「不具でないものに生存を許すということを,

2[[
第I
I部 障 害 者 心 理
1
1

川1
1

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1
川1
l

川l
1

法律をもって規定せよ J (不具なものは生存が許されなくてもよ しうと言った時


代でもなければ,鞭と鎖」の時代でもなく,もはや「あわれみ」の時代でも
ない。それぞれが「一人ひとりの権利を主張し,お互いの人権を十分に尊重
する」とし、う時代である。
人間の数百年,数千年の歴史のなかで,人聞が人聞をどのようにみてきた
か」という人間観の変遷があったように,それとは少しは異なるかもわから
ないが,戦後半世紀近くの間で私たちの見る目も大きく変わってきたのであ


みんなが足らないところを補い合って,お互い励まし合って生きていくと
ころに人間のすばらしさがあるのであろう。

7

(
1) 上田 敏『リハビリテーションを考える』青木書庖, 1
983年

(
2) 下牧真由 美 ・藤森 弘・植田 章 ・河野勝行「肢体障害者の二次障害につい
大阪の障害者問題』第 1号所収,大阪障害者関係団体連絡会, 1
てJ W 986年

(
3) "91大阪障害者の医療・福祉を考えるつどし、」 実行委員会編『いま 二次障害を
考える一一障害者(児〉の豊かな暮らしを願って』総合社会福祉研究所, 1
991

参考文献
・佐藤泰正編著 『視覚障害心理学』学芸図書, 1
988年。
・関 宏之『中途視覚障筈者の社会参加一一リハビリテーションの現場から』相
川書房, 1
982年 0
・上田 敏『リハビリテーションを考える』青木書庖, 1
983年

2r2
索 ヲ│

カスケード ・モデノレ ・
・・・
・・・
ー・
・・
・・
・・
・・・
・・・
・・
・・・
・25
あ 行
可塑性・.....
..
..
..
...
...
.
...
..
..
....
.
...
.
...
.
・・
・・
・・・30
愛着 … … ・…・… ……ー… …… ・ ・
-… ..
..
.
...
31 H H
36
価値観の変換 …………… …… …………… 1
アイデンティティの確立 ・・・……… … 133,162 学校文化再考 … … … ....
.… … … … 16
1
あざみ寮 一… .
. - …………… ……・・ ・ 2
・ ・ H 01 活動理論 …………………………………… 9,51
遊 び の 時 間 …・
…………………… …… 161 カナー L...
...
...
...
..
...
..
...
..
..
...
...
..
...
..2
00

知的
能影
感環環感記記記企
覚境境性憶憶憶業
運の療と想のの内
動文法知起処モ教
的脈⋮覚⋮理デ育

-
4 ' 2 81
アテ トーゼ ・

・・・
・・ー

・・・
・・・・
・・
・・・・

・・・ 1
81

0 0

アノレツハ イマ ー型痴呆 ・………一向 106

一一一 水ル
一 日一準
一 一

Z2229
安楽椅子型 … ………… …………… … .
.51

97866
生きがい・ ……… …… …… ……… …… .19,91
遺書 ………… …… … ..
...
……・・… … .
.12
意図的コミュニケーション行動 …… …… 1
41
意味記憶 …… ・・
-…・・…… ………・・… 2
E E 8
色の好悪 ………………… …… ……… "20
.S
ヴィ ゴツキー, L .…
・・ー
・ ……
・・・

・・ ・
ー・・ 164 キケロ
エイジング ・ ・・・
・・
・・

・・・
・・ ・

・・
・・
・ 5,
九 10 儀式行動 ...
.
...
..
..… … ……・…… .
.
・ ・
201 H

永続性 ・……………………・ ..
..
..
.……・ .
.JI 器質性精神障害…・……………..
.・・
...
…… 54 H

SAT ……一.•••••••••.
•••••••••••••••.
…・ー・ ・
45 吃音(どもり〉……… ……..
..…………… 1
91
エドワード性格検査 ……..…...
...
....……… 45 機 能 ・ 形 態 障 害 … ・ … … … … ・ … … … II9
N式精神機能検査(西村式)…… ……… 60,61 機能性精神障害..
..
..
..
...
...
...
...
...
...
...
..・
・・6
1

エピソー ド記憶 ……………………… …・


・… 2
8 基本的信頼関係………………………… .
.148
MMPI.
.
..
..
.
..一…・ ー… …
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・…・
・・・ 45 教育課程編成 一…… ー ・・ ・ … 159
エリクソン, E.H ………………… …一 死50 教育的ニーズ ・
・・・
・ …・…… 11,13

円熟型 .
.
..
.
・ ・
..…… …… …
H ・・・
・・・
… ……… 5
1 強迫神経症一 …
・ ・…… ー
… … 一 -…・… ・
… 10
横断的方法 ・ .
・ぃ …….41,4
2 クオリティ ・オフ・ライフ・・・・・ ・

・・

・・・
・・・

・・
・・ 53
近江学園 ……… …… …… ・
・ ・ 2
… ……… … 08 グノレーフカウンセ リング......
..
...
..
..
...
..
.15
3

大人からの同一視 一 ・
..
...
..……………… 1
46 系統的l
抗感作法 ・
…...
....…・・…・…… …・ 8
6
結晶的知能…………………・・…・ -…… 2
3
か 行
結節性硬化症 … … … … … … … … … …… 125
介護者 • ••• •• ••• •••..• •. … … … …… .
.112 ケ トレー, L
.A..
.
...
..
...
.
....
.
..
..
ー・ー


・・・
・・
・・
・・
・3
介入(インターヴェンション〉 …………… 10 ・8
嫌悪、療法……… ……………… ……………・ 6
カウンセリング ・
・・・・
・・・
ー .
...
....
..
....
...
...
.81 現実見当識プログラム…… …………… …… 80
科学的概念・……………… …… …・……… 16
4 健常者 ・…………ー… 116

学習と記憶… ……………… ………… ・ ・


・25 攻撃型 ・
・・
..
..
..
...

・・
・・
・ー・
・・
..
..
...
..
...
..
..
...
.・

・・
・ 51
過剰な障害.••••••••••••••••.
••・
.・・
・・・ー
・...
..
..
.・18 高次神経機能障害 …・
… … … … … … 一 … ..88

213
索 引

行動評価による老人知能の臨床的判定基準 習慣の文脈 …………・


….
..
・ ・-一…… H 21

(柄樺式〉 ・・…………・・………・・…・・……… 5
8 充実した生活 ……..

. ・
..……………… … 1
35 H

行動療法 ……… ・
・…… … 一………・
86 集団心理療法…..
..・
. ・
..一
… …・・…… H 8
6
合理化…・・ ・… ー……… …一 … …47 縦断的方法 ・
・・
・・
・…
・ ・ …… ……41,
42
交流 ・統合教育 ・ …
・ ・… … ・ ・
・・・

・ 1
63 手話通訳の活動 …・
・ …・…………… …… '
194
日話法...・ ・-…………… ……………・… '
H 195 96
手話通訳の制度 …………… ……………… 1
Gal
dfa
rbの短期療法 ……… ・・………・ ・・8
5 手 話 法 … … … ……… .

. ・
..
… …………… 1
95 H

, F
ゴーノレ トン .・・・

・・・

・・
・・

・・・
・・
・・
・・
・・・
・・
・・

・・
・・3 巡回生活指導員……....
...
・・.・… ……・ 1
85 H

国立精研式痴呆スクリーニングテスト …5
8 循環反応....
・・-一…..
.
H.

. ・
- …・・…… ・ 1
44 H

個人差・ ・・……・・・・・・………………… …一 … 25 準ずる教育 …・・…… .


.
・ ・……・・… … H 1
59
個 別 化 …・
・ ….・
. ・
-….
..
・ ・..………… 2り
H H 昇華・・・… ・
… 一 ・

・ ・・-………・……・ 47 H H

コホート差 一
・・・
・・・
・・・
・……
・・・
・・
… ー .
...
...
...
.23 障 害 … … … ……………...・ ・-一……… …ーII9 H

コ ミ ュニケーション・・ ・
・・

・・
・・・・
・・
・・
・・
・・
・・ ・

・・・98 ーーの受容 … ….
.・. ・
-…・
……拭 90,191 H

障害児・者 ………………………………… II4


さ 行
障害児の早期対応,早期療育 …… ・
・…・… 140
再動機づけ療法 .
.
.
.・ ・
..
.
.
・ ・
.
.. …… ー … 80
H H
障害児の療育,教育プログラム ………… 1
37
錯視・...
.
...
..
..
...
..
...
.
.. 31
生 涯 発 達 … … ……………………… ……… 1
サクセスフル・エイジング…………・
・・・・
・久戸 ・… .・……………
生涯発達心理学 - …y
三項関係…-・・…………………………… 1
43 常向性 …… ……・….・
. ・
.
..
..
・ ・
.
..
..
・ ・
201 H H H

シェマ ・
・・
・・・
・・
・・
…..
.
...
...
..
..
...
.
...
...
..
..
...
143 ショー トステイ ・
・・・
・…・
・・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・・

・・96
視覚障害…...
・・.
.…… ……………...
H ・・"128 H
初期経験・……-…・-… ・… .
.
..
..
・ ・
...
…..
.15
4 H

視覚障害者 .
.・
. ・
- … … … … …………・
H ・18
1 象徴遊び …
・・
・ ………… .
.
・ ・-……・…… 1
49 H

自己概念 …・・ ……………・…………… 4


3 象徴機能…・ …
・ …… 一-・…… ……・… ..1
48
自己決定の尊重… ……………… .
.
・ ・
..
… 100 H
情緒的象徴 ・
・・・
… ・ ・
… ….
. -…・…
・…・
・ 1
45 H

自殺傾向… ・・…
・・… ……… ……・
・ ……… 47 初老期痴呆・ ……・ ・…… …・・… …
・… ーの
自殺行動の心理 …………… …
・ …… ・ …"7
4 自 立 … … … ………… .
..
・ ・-……….・
. ・
.
.172 H H

自傷行動 ……・・・・……… .
...
..
..
. ・…..
.・201 ・ ・..…………… …… 200
心因説…………… .
. H

肢体障害者 ….
...
.
.
.・ ・
...
.……
・ … ・…… 1
H87 心気症 ……・………・ …・… ・
…'7,
1 70
肢体不自由 ……………………・・・… ……… 127 … …・.
神経症……・ ・ ・. ・
..…
...

. ・
.
..
.
・ ・
"'47 H H H

失行・失認症…… ……… …… … … … … … 8
9 神経皮府症候群…・ ………・… ・
…・・ 125
失 語 症 … … … ・ … … … … … … … ………… 88 人生の回顧を行う方法 ………………・ 8
5
質問紙法 ………… ………………・
・……・ 4
4,4
5 慎重さ...・ ・-…・ー
H ……………・ 22

白罰型 ……… …・…… ………ー …… ・


・51 睡眠障害…・ ・………… ・・
-…い ・・
-一… 201 H H H H

社会性 …………………… …… ……… 16


9,I
Jo 生活単元学習 ……・・ ・・
...……… ……… 1
6
H1 H

社 会 生 活 能 力 ・ … ………… ・
… ..
..
..1
66 … ……… ………… … ・ … '1
生活的概念 ・ 64
社会的不利・… …・…・ …
..
..
.・ ・
-…… … 'II9 H 正常圧水頭症 ・
…..
.
.・・
-一… ……………… …66
H

社会的役割 …・
……… …………一 …・
・ …1
8 精神障害 …・
・…
・ …-・… …
・・…
・… … 130
就学猶予 …・…・… .
..
......…………… ・
・田…1
88 精神障害者……… .
. 207
.・・-………・……・… ・ H

214
索 引

精神遅滞 (
知的障害〉 ……………・… ……
・・ 121 てんかん ・
・・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・・

・・

・・・
・・
・・
・・
・・・
・・

・・ 128

化法拒的病一ツ
同投登動糖逃ド

4
74
一影園作尿避ロ
精 神 薄 弱 者 援 護 施 設 … … … … … … … … … IJ7

40
・59 一
精 神 薄 弱 者 更 生 施 設 … ・…・… … … … ・
… 206

否記性・プ

4 ' 84
精神分析……・ ・・………… .
..8
5

活膜.ゥ
動症ト
号網ア
性的欲求……………………………...・ ・
-… IJ H

4Y
青 年 期 ……
...
.・. ・-……・ 一…… … … "168
H

24
生理的老化…・….........一一 ・
… …一 '16
全国手話通訳問題研究会…....・ ・
.
.
.・ ・


"'197 H H

染色体異常……・………・ー…… ・
…..
123
な 行
先天性代謝障害 …………………………… 124
せん妄 ……… …… ………………………… 66 内部障害 ……-……………………一一 130

装甲型 .
.
. ………………………… 一戸 二次障害 … …・…… …… ..
・・.
..
...
・・-
… '192 H H

喪失と適応・................
....
.
...
.
. 二次的,三次的障害・ ……-……・
・…・
…… 137
創造性一 二分 脊 椎 …
ニューガーテン, B.L ・

・・
・・
・・・・
・・・・
・・

・・
・ 52
た 行
ねた き り三主徴…… ・………....
...……… 78
体感異常症・・ ・・・……・・…… .
..
..69 ネットワーク・・・ ・


・・.
...
...
...
...
...
...
...
...
...
..1
9

体 験 と し て の 障 害 - ・ ・・
..・・… ……ー 120
H H 悩水腫
J
対 象 者 中 心 … … … … … ..

. ・
.……
...
..・ ・
H202 H 脳性まひ…………………………......127,18
7

第二次性徴 …………………………… 168,IJo 能力障害 ・…ー・・・・・・…… … 119


ダ、ウン症候群… .

. ・
..
... H ・・………… 123
は 行
ダウン症児に対する早期指導プログラム
.
. ,142
.140 パーソナリティ ・

・ ・・
・ ・・
・・・
・・
・・・39
性ト知一⋮⋮関ど
継一衛一
続ス易一⋮.連も
のガ式題験理機取

?
一 イ川課経心のの
一ヴ谷達達達達達

2,9J6

多 動 … … … … ………………一 .
.
・ ・-…… 202 H
R 診⋮一⋮.論
J 査
ハ長発発発発発

r内J
'能 ⋮ 一 ⋮ 性 し

多 発 性 形 成 不 全 ….
.・
. ・
.….
..・ ・
.…… "126
ii
ト y F 6 3 1 5

H H
ケ 一 一
ス一-

06Z34

チアノーゼ………………………・・ …
・ -… 18
7
.

知恵…………・…・……・………・……… 30
. 学能り

知覚の固さ……………………… .
...
...
.……
・ 22
F晶

知的障害 - …
...
・ ・
...
...
...
…….
.… 170,IJ1
F

知能……………・・ .
.
...
一…………... ・… 22
痴呆(症状〕… … … … ー … … … ・
・… ……凡 96
痴呆性老人介護者支援事業 ・
…・……… 1
08 ノξ ニ ック ・
・・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・・
・・・

・・
・・
・・・

・・
・・
・・・205
痴呆性老人の出現率 -

・・
・・・
・ー・
・・・
…・・・
...
..
..
..・
.55 反響言語 … ………… .
.・
. ・
.•••••••••.
……… 201 H
反反ピ皮
動応ツ膚
形速ク寄
成度氏生




聴覚障害および言語障害……・・………… 1
2
W

爪喰み …・・・……………………… …… ・ 205


病虫

TAT ..
.一………・・・・・・・・・・・・・・ー・ー……・・・・… 4
5



r

適応・… …… ……………………………… 46

適応機制 ……・…………… ……………ーが ヒポクリトス .
...
...
...
...
...
...
...
...
...
...
...
...
..2

2
15
索 引

ビューラー, c
....一一一-・・・・一一..... ・


・・ 4,5
や 行
病 理的老化…・…・・…………・ .
.
・ ・
-・・・…ー H 16

びわこ学園 ……… …
・ ・ ………………… 208 夜間せん妄 一…
・・・・
・・一
...…… …
・・・
・・・
…一.
...
.91
不安神経症 …・・… …・・ ・・… .
.
.
.・ ・
...
..… 10 H 役割演技法 …..
.
.・ ・
.
.
.・ ・
-…ー … .
..
..
.・ ・
.83 H H H

複雑さ .
.
・ ・..……………………...・ ・..…… 2
H 5 H
指 さ し … … … … ……… …… ……………… 149
福祉事務所 …
...
.・. ・
.
.
.・ …………・…・…・ 210 H
ユング, C.
G.・
・・・
・・…・
-・・

・・
・・ ・…… ・
・・…
…ー・
・4
不潔行為 ・……..
.・
. ・
...
.
・ ・-… ……9
H1,101 H 養護学校の義務制・ ・ ・
..… ………… 1
38,155 H H

不就学聴覚障害者・・・・……… ・
…・… ・
・… "193 養 護 ・ 訓 練 ・ … ・……・…・ ……・… ・ ・
"'160 H H

プラ イ ド の 保 持 … … ……… ..
.
.・ ・
'/00 H 抑圧・…・・・……-………..
..
.. ・……・ … '
41
プラ インデイズム ・ ・…..
...
..…
・一.
...
...
144
ら 行
フラス トレーショ ン ・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・・
・・
・・
・・
・・
・ 6
・4
イ脱
ラ離

サ論
フ理


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古 河 太 四 郎 … ……………… .
.
・ ・
..……...1
95

ノ︿ノ
H

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・ ・ …・
・・・
…ー ……・…・ 209
, D
プ ロムレ イ .B.・ リハー サ
ル・・
・・・
・・・
・・・

・・
・・・

・・
・・
・・ ・

・・

・・・
・・
・・
・・
・・2
8
併用法……………………...・ ・ ・ ・
-…… 1
95 H H H リハビリテーション・・・・ ・
・・
・・
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無認可施設・…… …… ………-… … 206 老年心理学・ ……… … … ..


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黙 秘 権 … ………ー ・… …・・…… 1
93 一一研究の歴史・
モデリ ング ・
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… 86 一一の研究方法 ……・…・・・ ・… … … 1
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物の慣用的操作…・・・ ………・ ・ ・
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・ ・ 44
問題解決…… …… …
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H29
わ 行

YG性格検査 …………...・ ・-… ……


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216
監修者 (
5 慎)
0音1
)

一番ヶ瀬康子(いちばんがせ・やすこ〉 長 崎 純心 大学 教 授

上田 敏 (うえだ・さとし 〉一一一一一一帝京大学教 授

北 川 隆 吉 (
き たがわ・たかよし〉 専修大学教授

仲 村 優 ー ほ か む ら ・ ゅ う い ち 〉一 一 一淑 徳 大 学 教 授

編者・執筆者 (
50音1

)・ ※は編者)
安 達 正 嗣 (
あだち・ まさし〕 種村 純 (
たねむら ・じゅん〕
名古屋市立大学 6
章一5 川崎医療福祉大学 5

伊 東 需 祐 〔
いとう・しゅんすけ〉 所 久雄 〔ところ・ひきお〕
花園大学 1
0章一3 京都国際社会福祉センタ 1
0章一5

伊 藤 伸 二〔いとう ・しんじ〉 畑 下 圭 子 似 た し た ・けいこ 〕


日本吃音臨床研究会 0章一4
1 特別養護老人ホーム青浄苑
(精神科医 4章
稲 垣 裕 子 (いながき・ひろこ )
兵庫県立厚生専門学院 6章一2~4 ※藤田綾子 (
ふじた・あやこ)
光撃女子大学 3

岩 田敏郎 〔
いわた ・としお〕
特別養護老人ホーム大阪新生苑 6
章-1 堀 薫夫 (
ほ り・
し げお)
大阪教育大学 f

川 端 利 彦 (かわばた ・としひこ )
大阪樟蔭女子大学 9
章一3 前 川 泰輝 〔 ま えかわ ・やすてる〉
財団法人ひかり協会嘱託 1
0章一2
小 西 正 三 ( こ に し・しょう ぞう〉
奈良大学 8
章-1 三 浦 了 (みうら ・さとる 〉
社会福祉法人大木会あざみ寮 1
0章一6
小 山 正 (こやま ・ただし〕
愛知教育大学 8
章一 2
,9章一1・2 ※ 村 井 潤 ー 〔むらい・じゅんいち〉

前)甲南女子大学 7
章,8
章 -2,9
章一4
田尻 彰(たじり ・あきら)
京都ライト ハウス鳥居寮 10章一7 山 本浩市 〔やまも と・こういち〉
大阪学院大学 2


編者紹介〉

村 井 潤 ー (むらい ・じゅんいち〕

19
31年生まれ
京都大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了
職歴京都大学文学部助手,重症心身障害児施設び
わこ学園研究主任,大阪教育大学教授,京都
大学教養部教授を経て. 1
995
年 3月京都大学
大学院人間・環境学研究科教授を定年退官
甲南友子大学教授,文学博士
1997
年残
主 著 『 子どもはどこでつまずくか』岩波書応
『村井潤一著作集成三部作』 ミネノレヴァ書房

藤 田 綾 子 〔 ふ じ た ・ あ や こ〉

19
46年生まれ
九州大学大学院教育学研究科博士課程修了
職歴大阪大学人間科学部助手,大阪府立老人総合
センター,関西女学院短期大学教授を経 て,
現在光撃女子大学教授
主 著 『 あしたへの老年学 ~ (共著)ミネノレヴァ書房
『コミュニケーションとこれからの社会 J ( 編
著)ナカニシヤ出版

セミナ一介護福祉⑦ 老人・障害者の心理

1
995年 4月3
0日 初版第 1刷 発 行 〈検印省略〉
1
997年 1
0月2
0日 初版第 4刷発行 定価はカパーに
表示しています

監修者 一番ヶ瀬康子・上田 敏
北 川 隆吉・仲村優

編者 村井潤 ー ・藤田綾子

発 行 者 杉 田 信 夫

印刷者田 中 雅 博
房 m 晴崎一
三 E 堤ーか一一勝

圭一

、、、

ル刷

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ヨ 谷 9 日一沢

発行所 会社
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山一 審

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村井潤ーほか. 1
995

I
SBN4-623-0
2486-5

P
rin
tedi
n]apan
セミナ一介護福祉 正常連平需品開監修

0):中村優一/秋山智久編
社会福祉概論
@小笠原祐次編
老人福祉論 2
300円
@手塚直樹/加藤博臣編
障害者福祉論(第 4版) 2
500円
。 上田 敏 編
リハビリテーションの理論と実際 2
600円
O 仲村優一/秋山智久編
社会福祉援助技術
ー吉田圭一/茅野宏明編
w レクリエーション指導法(第 2版) 2
400円
@村井潤一/藤田綾子編
老人・障害者の山理
O 一番ケ瀬康 子 /田端光美編
家政学概論
(杉橋啓子/江沢郁子
@栄養・調理
@ 上田 敏編
一般医学 2
500円

@加藤雄司編
精神保健(第 2版) 2
400円
@一番ケ瀬康子/井上千津子/鎌田ケイ子/日浦美智江編
介護概論 2
200円
@一番ケ瀬康子/井上干津子/鎌田ケイ子/日浦美智江編
介護技術 2
200円
@ 一番ケ瀬康子/井上干津子/鎌田ケイ子/日浦美智江編
障害形態別介護技術 2
400円

自ヌキ数字は既干J
I・発売中,他は近刊 ウ ァ書房
ミネ jレ e

*表 示伽 格 は税別自
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fJ格です。

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