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計算工学講演会論文集 Vol14(2009 年 5 月) 計算工学会

応力密度法と汎関数の停留に基づいた
張力構造の形状決定問題に関する基礎的考察
FUNDAMENTAL STUDY ON SHAPE FINDING OF TENSION STRUCTURES
BASED ON FORCE DENSITY METHOD AND RELATED FUNCTIONALS

三木優彰 1), 川口健一 2)


Masaaki MIKI and Ken’ichi KAWAGUCHI

1)工修 東京大学大学院 工学系研究科 (〒153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1)


2)工博 東京大学生産技術研究所 教授 (〒153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1)

This paper presents a fundamental study for the shape finding of tension structures, such as cable nets,
tension membranes, and tensegrity structures, based on Force Density Method. This method appears some
difficulties when it is applied for the systems containing compression members, although it has been
known to be effective for those constituted by tension members only.
To overcome this difficulty, we can consider and modify a special functional resulted by Force
Density Method. As a result of this operation, a new concept is suggested that we can choose various
functionals for the shape finding. The latter half of this paper, some examples using various functionals
are reviewed and discussed.
Key Words: Shape-Finding, Tension Structures, Force Density Method, Functional

1. はじめに 1)
の概略を示す。以下の手順により初期張力の導入が可能
ケーブルネット、張力膜、テンセグリティなどの張力 なケーブルネットの形状を得ることができる。
構造は初期張力の導入が可能な適切な形状を与える必要 文献 1)ではまず応力密度 q が
があり、形状決定問題と呼ばれている。張力構造の形状
決定問題の解法として、応力密度法 1)が知られている。 q = n/L (1)
これは力の釣り合い式の直接解法であり、主にケーブル
ネット構造の形状決定を目的としたものである。 として定義される(図 1)。これは、各々のケーブルが負担
応力密度法は引張材のみからなる系の形状決定に効果 する軸力 n をその長さ L で除した量である。このように
的であるが、引張材と圧縮材が混在した自己釣り合い系 未知量 L を含む量をパラメータとして与える点が、応力
に応用することが困難である。そこで本報告は応力密度 密度法の大きな特徴となっている。
法を拡張し、圧縮材を含んだ張力構造の形状決定につい もう一つの応力密度法の大きな特徴が、1 回の線形逆
て考察する。 計算で解を得られる点である。ケーブルのコネクティビ
力の釣り合い式を解くものは一般に汎関数の停留問題 ティ、固定点の座標、各々のケーブルの応力密度を指定
に帰着できる。本報告ではまず応力密度法も汎関数の停 したとき、系全体の力の釣り合い式は
留問題に帰着できる点に着眼し、汎関数の適切な選択に
より圧縮材を含む系の形状決定も行えることを示す。 Dx = − D f x f Dy = − D f y f Dz = − D f z f (2)
さらにこの考察を踏まえ、張力構造の形状決定問題に
対し、物理的な意味に捉われず汎関数を自由に選択する と書ける。ここに、 D は釣り合い行列、x,y,z は節点座標
という視点を導入し、種々の汎関数が与える形状につい を並べた列ベクトルである。添え字 f は固定点に関する
て具体的な例題と共に報告する。 もの、添え字 f のないものは自由節点に関するものを表
す。 (2)式は D の逆行列を用いて
2. 応力密度法とその拡張
(1) 応力密度法 x = D −1 ( − D f x f ) y = D −1 (− D f y f ) z = D −1 (− D f z f ) (3)
まず、外力が作用しないケースに限定して応力密度法
などとして簡便に解くことができる。さらに、力密度や 次に示す汎関数の停留問題に帰着できる。
固定点の座標を様々に与えることで、ケーブルネット構
Π ( x ) = ∑ w j L j → stationary
2
造の形状のスタディを簡便に行うことができる(図 2)。 (5)
j

ここに、x は自由節点の x,y,z 座標を並べたベクトル、


w は直線部材に与えられた重み係数、L は部材長さ(x の
関数)、j は部材番号を表す。文献 1)においても、“外力
が作用しないとき応力密度法の解は、応力密度によって
重み付けされた長さの 2 乗和を最小にする形状と一致す
図1 応力密度の定義
る”と指摘されている。
(5)式を踏まえ、圧縮材を含んだ系への拡張を行う。ま
ず、図 3 には固定点がないため、拘束条件として圧縮材
の長さを与えることにすると、(5)式は

Π ( x , λ) = ∑ w j L j + ∑ λ k ( Lk − L k ) → stationary (6)
2

j k

と修正される。j は引張材の番号、k は圧縮材の番号、 λ


は Lagrange 未定乗数、L は圧縮材の長さの拘束値を表す。
図 2 応力密度法による形態解析(文献 より) 1) 次に、 (6)式を用いても 2 章(2)節で述べた不定性は生じ
てしまうため、試みに(6)式の第 1 項を 4 乗に変更する。
(2) 圧縮材を含んだ系への拡張と、生じる困難
応力密度法は圧縮材を含んだ自己釣り合い系に応用す Π ( x , λ) = ∑ w j L j + ∑ λ k ( Lk − Lk ) → stationary
4
(7)
2)3)4) j k
ると、様々な困難が生じてしまう 。ここでは図 3 に
示す X 型テンセグリティを例にとり説明する。図 3 にお
(7)式を用いると、圧縮材の長さを全て 1 とし、引張材
いて太線は 2 本の圧縮材を、細線は 4 本の引張材を表す。
の重み係数も全て 1 としたとき、唯一の解として図 4(a)
部材は頂点 1∼4 のみで接続されている。本モデルは固定
が得られ、応力密度法と同様な不定性は (7)式を選択す
点を持たないため、 (2)式は
ることで回避できることがわかる。重み係数 w を変更す
Dx = 0 Dy = 0 Dz = 0 (4) ると、図 4(b)のような異なる解が一意に得られる。
ここで、(6)、(7)式を次のように一般化し、力の釣り合
という形に帰着し、逆行列を用いて解くことはできない。 いについて考察する。
このような場合にも(4)式は力の釣り合いを表すから、適
切な手法の選択により解くことができる。(4)式を解いた Π ( x ) = ∑ π j ( L j ) + ∑ λ k ( Lk − Lk ) → stationary (8)
j k

とき大きく以下の 2 点の困難が生じる。
・ 引張材の応力密度と圧縮材の応力密度の比を 1: (8)式の停留条件は次のようになる。
-1 としたとき解が不定となる。例えば図 4(a)、(b)
のどちらも解となる。 ∂Π ∂π j ( L j )
=∑ ∇L j + ∑ λ k ∇L k = 0 (9)
・ 上記以外の応力密度の与え方をすると、すべての ∂x j ∂L j k

節点が 1 点に集まるといった、無意味な解しか得
ることができない。
∇ は関数の勾配を表す行ベクトルであり、 ∇L は長さ
の最大変化方向を表す。
一方、軸力 n を負担し、両端に作用する外力と釣り合
っている長さ L の直線部材を考える。このような直線部
材のみからなる自己釣り合い系の力の釣り合いは

(a) 解 1 (b) 解 2 ∑ n ∇L
j j
=0 (10)
図 3 例題 図 4 複数の解 j

(3) 汎関数の停留問題への帰着と一般化 と書ける。(9)式と(10)式は同じ形式であるから、(8)式が


一般に力の釣り合いに関する問題は、汎関数の停留問 停留したとき、
題に帰着できる。外力が作用しないとき、応力密度法は、
∂π j ( L j )
nj = nk = λk (11)
∂L j

として自己釣り合い力モードを必ず一つ見つけることが
図 7 長さの 3 乗和最小 図 8 長さの 4 乗和最小
できる。πj(Lj)を要素内汎関数と呼べば、(8)∼(11)式の議
論より、要素内汎関数は自由に選択できることがわかる。
一般に汎関数にはポテンシャルエネルギーなどの物理
的意味が与えられることが多い。しかし本報告では物理
的意味を一切与えず、自由に選択するという視点から 図 9 長さの総和最小 図 10 長さの 2 乗和最小

種々の形状決定を試行する。
以上を踏まえ、次に示す 2 つの方針を提案する。
・ 自由に設定した汎関数の停留問題を解くことに
より張力構造の形状決定を行う
・ 設定した汎関数が期待した形状を与えなかった 図 11 長さの 3 乗和最小 図 12 長さの 4 乗和最小
とき、汎関数を適切に選択しなおす
応力密度法との関連は次のように考察することができ 2 章の議論を補う目的で、簡単なコネクティビティを
る。例えば wL2 を要素内汎関数に設定した場合(11)式より もつケーブルネット構造について、長さの 1∼4 乗和を最
小にする形を計算した結果を図 5∼図 8 に示す。3 本の圧
n = 2 wL ⇒ w = n / 2 L (12)
縮材と 9 本の引張材からなるテンセグリティについても
同様に図 9∼12 に示す。これらの結果は、ケーブルネッ
なる関係が導かれ、重み係数の指定と応力密度の指定が ト構造と圧縮材を含んだ自己釣り合い系では異なる汎関
同等であることがわかる。また、 wL4 を要素内汎関数に 数を選択する必要があることが示唆するものである。
設定した場合について同様に考察すると
4. 張力構造の形状決定例
n = 4 wL3 ⇒ w = n / 4 L3 (13)
本章ではケーブル部材だけでなく、膜材も含んだ張力
構造の形状決定例を紹介する。膜材を含めた場合の力の
なる関係が導かれる。すなわち重み係数を指定すること 釣り合いに関する考察は本報告では割愛する。
と、新しい量 n / 4 L3 を与えることとは同等であり、応力 ケーブル部材は 2 節点トラス要素の集合でモデル化し、
密度法と類似のアプローチといえる。本研究では n / 4 L3 膜材は 3 節点三角形要素の集合でモデル化した。圧縮部
を仮に高次応力密度と呼んでいる。 材は一つのトラス要素でモデル化するが、区別してスト
ここで、自己釣り合い系の形状決定手法として応力密 ラット要素と呼ぶ。要素内汎関数はすべてのトラス要素、
度法を捉えなおせば、 三角形要素に個別に与える。また、ストラット要素には
1. まず、拘束条件(固定点の座標)とパラメータ(応 長さの拘束条件を与える。膜材も含めたとき、(8)式は次
力密度)を与えて力の釣り合い式を立式する に示すように拡張される。
2. 次にその解法として、逆行列を用いた線形逆計算
を選択する Π ( x , λ) = ∑ π j ( L j ) + ∑ π j ( S j ) +
j j
ものといえる。一方、本研究で提案する圧縮材を含む自 (14)
己釣り合い系への拡張は、 ∑ λ k ( Lk − Lk ) → stationary
k

1. まず、拘束条件(圧縮材の長さ)とパラメータ(高
次応力密度)を与えて力の釣り合い式を立式する (14)式第 1 項はトラス要素の要素内汎関数の総和、第 2
2. 次に汎関数の停留問題に帰着させ、一般の数値解 項は三角形要素の要素内汎関数の総和、第 3 項はストラ
法を用いて解く ット要素の長さの拘束条件に Lagrange 未定乗数法を適
ものといえる。従って応力密度法と同様なアプローチで 用したものである。関数 L、S は要素の長さ、面積を表す。
あるが、異なる解法を選択したものである。ただし、汎 L は長さの拘束値を表す。
関数の停留問題を直接書き下す方が実用的である。 汎関数の停留問題は一般に x , λ を未知として解かれる
が、本報告では x のみ未知とする制約条件つき最小化問
3. 長さの累乗和を最小にする形 題に置き換え、解を一つ求めた。 x には初期値として、
-2.5∼2.5 の実数を各々の座標値にランダムに与えた。
以下では幾つかの例題と共に適切に選択された汎関数
を示し、重み係数やストラット要素の長さをパラメータ

図 5 長さの総和最小 として様々な解が安定的に得られる様子を示す。
図 6 長さの 2 乗和最小
(1) ケーブル,ストラットからなる構造
次に示す汎関数により、図 12 などの既知なテンセグリ
ティの形状決定を行うことができた。

Π ( x , λ) = ∑ w j L j + ∑ λ k ( L k − L k ) → stationary
4
(15)
j k

そこで、20 本のストラットと 80 本のケーブルからな


る 9 種類のモデルを作成し、(15)式の解を求めると、従
来にないテンセグリティを得ることができた(図 13)。
本例題においては、どのような初期値から計算を始め
ても必ず解は収束したが、複数の停留点が存在するため、
図 13 以外の解が得られることがあった。
図 13 9 種類のテンセグリティの形状決定
(2) ケーブルと膜,ストラットからなる構造
6 枚の膜と 6 本のストラットからなり、膜の境界にケ
ーブルが配置された自己釣り合い構造をモデル化し、次
式により形状決定を試行した。

Π ( x , λ) = ∑ w j L j + ∑ w j S j +
4 2

j j
(16)
∑ λ (L
k
k k
− Lk ) → stationary

パラメータを様々に指定したときの解を図 14 に示す。
どのようにパラメータを与えても形状が破綻すること
はなく、ケーブルや膜が柔軟にその形を変え、いずれも
自己釣り合い形状が得られた。
重み係数を大きくしたトラス要素の長さや三角形要素 図 14 ケーブルと膜、ストラットからなる構造
の面積は小さくなった。また、重み係数の変更により、
境界ケーブルの曲率が大きく変化した。

(3) ケーブル,膜,ストラット,固定点からなる構造
Frei Otto 設計のケルン・ダンス場を想定したモデルを
作成し、次式による形状決定を試行した。

Π ( x , λ) = ∑ w j L j + ∑ w j S j +
4 2

j j
(17)
∑λ
k
k
( Lk − Lk ) → stationary

パラメータの変更を繰り返すことで、様々な形状バリ 図 15 ケルン・ダンス場の形態解析
エーションの探索を行うことができた(図 15)。
重み係数の変更による形状変化の傾向は前節と同様で 参考文献
1) Schek, H. J., The force density method for form finding
あった。また、ストラットの長さを変更すると、ストラ
and computation of general networks, Comput. Meth. Appl.
ットと地面の間の角度が大きく変化した。 Mech. Engng., 3, pp.115–134, 1974.
2) Connelly, R., Tensegrity structures: why are they stable?,
in: M.F. Thorpe and P.M. Duxbury, ed., Rigidity theory
5. まとめ
and applications, Plenum Press, New York, pp. 47-54,
応力密度法を汎関数の停留という観点から捉えなおし、 1999.
圧縮材を含んだ自己釣り合い系の形状決定に拡張した。 3) Vassart, N. and Motro, R., Multiparametered form finding
method: application to tensegrity systems, International
また、物理的な意味に捉われず様々な汎関数を自由に Journal of Space Structures, 14(2), pp.147-154, 1999.
設定することが可能であり、これにより様々な自己釣り 4) Tibert, A. G. and Pellegrino, S., Review of Form-Finding
合い形状が得られることを示した。 Methods for Tensegrity Structures, International Journal
of Space Structures, 18(4), pp.209-223, 2003.

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