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アキラが荒野を荒野仕様の大型車で当てもなく進んでいる。具体的な目的も目的地

もない。一応汎用討伐依頼を受けているが、それで稼ごうとは思っていない。誰か
ため
に外出の理由を尋ねられたら、大型車両の運転や新装備の使い勝手に慣れる 為
と答える程度の希薄な目的だ。

アキラは遺跡探索、遺物収集を目的にしたハンター稼業を再開したが、当面の活
しばら
動場所に悩んでいた。クズスハラ街遺跡はいろいろありすぎたこともあり、 暫
く立ち寄る気になれなかった。

リオンズテイル社の端末設置場所の情報から未発見の遺跡を探すのも良いかと思
ったが、その情報の取得元である旧領域接続装置を手に入れた企業も同じ情報を手
に入れた可能性もある。場合によっては該当の場所に派遣された企業の調査部隊と
鉢合わせ続けるという状況になり、そこから余計なことを探られる可能性があると
考えて、今は止めておくことにした。

家で考え続けていても仕方ない。取りあえず荒野に出てから考えれば良い案も浮
かぶかもしれない。そう思って荒野に繰り出したのだが、今のところ良い案は浮か
んでいなかった。アキラの行き当たりばったりの悪い面が露骨に表れていた。

うな
アキラは運転しながら今後の予定を考え続けて 唸 っていた。アルファはそのア
ほほえ
キラを見ながら助手席で 微笑 んでいる。

「どうしようかなー」

『アキラ。それ、15回目よ?』

「一々数えているのかよ」

『数えているわけではないわ。特に理由なく記録している情報に残っているだけよ
。アキラだって10秒前の行動ぐらい覚えているでしょうけれど、それは何か特別
な理由があって覚えている訳ではないでしょう?』

「そういうことか?」

『そういうことよ』

納得できるようなできないようなアキラの微妙な思いは、車の索敵機器に現れた
か と
モンスターの反応で掻き消された。アキラは車を停めて降りると、情報収集機器の
優先精度を反応の方向に合わせた。
はちゅう
モンスターは6本脚の獣に似た体格だが、体表面は毛皮はなく 爬虫 類の
うろこ
鱗 で覆われている。背中には機銃や砲の残骸にも見える機械部品が付いていた

「結構大きいな。あの大型連中の生き残りか、単に大きいだけか」

『遠距離武装が潰されているわね。体表面にも被弾の跡があるわ。傷から流れ出た
体液の乾き具合から判断して、近くで交戦して逃げてきた個体の可能性があるわね

「俺が倒すと横取りになるか? ……まあ、良いか」

大型モンスターの生き残りが特別報酬付きの優先討伐目標に設定されており、血
気盛んなハンター達がそれらを狩っている。アキラはそれを思い出して少し迷った
が、気にせずに倒すことにした。仮にこの個体を苦労して仕留めようとしてぎりぎ
りのところで逃げられたハンターがいたとしても、自分に向かってきているモンス
ターの討伐を、そのハンターを気遣って取りやめる理由はない。第一そのハンター
達が生きている保証もないのだ。

アキラが右手に持つSSB複合銃の銃口をモンスターに向ける。そして顔を逆方
向に向けてから引き金を引いた。弾丸が宙を駆け、モンスターの頭部に命中した。
続けて撃ち出された銃弾も同じように着弾した。

アキラは今までの実戦と訓練の成果により、銃をしっかり構えてしっかり狙えば
、よほどの事態でもない限り目標にしっかり命中するようになっていた。それによ
りアキラの射撃訓練は次の段階に進んでいた。

銃の照準器の映像を視界の一部に表示して、目標を直接見ないで照準を合わせる
。情報収集機器の反応から敵の位置を予測して射撃する。両手に銃を持ち、視界の
外にいる別の目標をそれぞれ狙って精密射撃を行う。今まではアルファのサポート
で実現していたそれらを、自力で可能にする訓練だ。

今のところその訓練の成果は悪くないという程度でしかない。つまり、ある程度
くぐ
はできていた。 潜 り抜けた死線の数が荒唐無稽だった目標に現実性を与えていた

いずれは自力でできるようになってもらう。アキラは以前にアルファにそう言わ
れていた。

アルファがそう言うのならばいつかは可能になるのかもしれない。アキラはそう
思いながらも、その時は実現までの道程に途方もない隔たりを感じていた。しかし
装備の性能に助けられているとはいえ、それがある程度実現できていることに、今
は成長の実感を、確かな手応えを覚えていた。
つい
大量の弾丸を浴びた大型モンスターが 遂 に崩れ落ちた。使用した弾丸は比較的
低威力の通常弾で、大型モンスターには少々効果が薄いのだが、アキラはそれを連
続射撃の精度で補った。自分でも満足できる結果にアキラが珍しく表情を緩める。

「通常弾でも何とかなるもんだな。大分近付かれたし、あれ一体に大型弾倉の中身
を使い切ったけど」

ため や
『弾薬費が自費に戻ったのだから、弾薬費で破産しない 為 にも安い弾丸で遣り繰
りしないとね。ハンターランクでの割引にも限度はあるわ』

おび
「全くだ。割引のおかげで軽減されたとはいえ、弾薬費に 怯 える日々がまた戻っ
てきたんだ。慣れておかないとな」

車両には大型車両の積載量を生かして通常弾も大量に積み込まれている。
もちろん
勿論 高価な分だけ装弾数が異常な拡張弾倉も積み込んでいるが、そちらは遺跡
の奥部や建物内など、車両の通行が不可能な場所で使用する。通常は普通の弾倉で
十分だ。高威力の弾丸を使用して1発で倒すより、低威力の通常弾を使用した方が
アキラの訓練にも都合が良いという理由もある。

車に戻ろうとしたアキラが足を止める。車載の索敵機器が荒野の先からこっちに
向かってくる車両の反応を捉えていた。

交戦していた特別報酬付きの大型モンスターに逃げられてしまったハンター達が
車で目標を追いかけていた。助手席に座っているレイナが運転席のトガミに声を荒
らげている。

「もっと急ぎなさいよ! 他のハンターに良いところを持って行かれたらどうする
のよ!」

「敵の武装を潰すのに手間取ったんだ! 仕方ないだろう!」

「だから初めに足を潰せって言ったじゃない!」

「遠距離攻撃の無力化が先だ! こうやって敵の攻撃を気にせずにスピードを出せ
るのも相手の武装を潰したからだ!」

「それで逃げられたら本末転倒よ!」

「安全第一の指示を出せって言ったのはお前だろうが!」

「それでも逃げられずに倒せるって言ったのはあんたでしょう!?」
いが
レイナとトガミは激しく言い争っているが、そこには 啀 み合うような険悪さは
なく、お互いに遠慮なく意見をぶつけ合える気安さがあった。

からか
後部座席のカナエが意味ありげに笑いながらあからさまに 揶揄 うような口調で
レイナ達に声を掛ける。

「相変わらず仲が良いっすねー」

レイナとトガミが僅かに固まる。そして一度視線を合わせると言い争うのを止め
そろ
た。以前に似たようなことを言われた時に声を 揃 えて言い返してしまい、仲の良
さを証明していると追撃されたのだ。

「……とにかく、急いで」

「分かってる。もう少しだ」

その反応では大して変わらない。カナエはそう思って楽しげに笑っていた。

同じく後部座席に座っているシオリは少し不服そうな表情を浮かべていた。シオ
リの基準ではトガミの態度は少々粗暴であり礼儀に欠けすぎているからだ。そして

それに引き摺られるように、レイナが少し粗暴になっているような気がしているか
らだ。

ため
「お嬢様。トガミ様。戦闘で高揚するのも理解できますし、戦意を保つ 為 に声を
上げるのも大切だとは思いますが、変わらぬ平常心を保つのも同様に大切です。そ
ひど
のためにも不必要に声を荒らげないことを強くお勧めします。程度が 酷 いと護衛
にも支障が出ますので」

「あ、その、ごめん」

「あ、はい。すみません」

レイナとトガミが少し気まずそうにしながら態度を改める。そして背後から聞こ

えたシオリの深い溜め息に表情を少し硬くすると、程よく萎縮しながら意識を前に
集中した。

車載の索敵機器が大型モンスターの反応を再度捉える。しかしその反応は周囲の
他の反応と合わせて、他のハンターにモンスターを倒されてしまったことも示して
うなだ
いた。トガミとレイナがそれに気付いて軽く 項垂 れる。
「あー、遅かったか。すまん。間に合わなかった」

「仕方ないわ。確実な撃破に固執して安全を軽んじていたら、結果はもっと悪くな
っていたかもしれない。そう考えて、ここは甘んじて受け入れましょう」

トガミもレイナもあれだけ言い争っていた割にはあっさりと結果を受け入れた。
相手への非難など欠片も抱いていない。これもまた成長だ。

「……どうする? 先にあれと戦っていたのは俺達なんだし、俺達の成果も主張し
てみるか? 合同での撃破扱いぐらいにはなるかもしれない」

「今日の指揮はトガミだから、その判断はトガミに任せるわ。ただし交渉もトガミ
がやってよね」

「分かった。……うーん。物は試しだ。言うだけ言ってみるか。……ん?」

トガミが交渉対象のハンターを注視したことにより、情報収集機器が拡大表示処
理を実施する。そしてそのハンターが知人であることに気付いた。アキラだった。

アキラはトガミの申し出をあっさり受け入れた。そこに交渉と呼べるものは全く
なかった。それでレイナ達は逆に戸惑っていた。

「えっと、本当に良いの?」

「いや、俺達は助かるんだけどさ」

「ああ。良いから好きにしてくれ」

「うーん。でも……」

レイナ達は随分と物わかりの良いアキラの態度に逆に納得がいかず、その理由を
探るように話を続けようとしていた。しかしシオリはアキラの返事に、どうでもい
おっくう
いから好きにしてくれ、という 億劫 な面が強いことに気付くと、話を続けよう
とするレイナ達の態度は悪手だと判断して口を挟む。

「アキラ様。御厚意に甘えさせていただきます。お嬢様。トガミ様。これ以上アキ
ラ様のお手を煩わせないように手続きを始めてください。時間が掛かっては御迷惑
になります」

「え? あ、うん。分かったわ。アキラ。ありがとね」
レイナとトガミが手分けして撃破報告の手続きを進める。特別報酬付きモンスタ
ーの討伐報告だ。賞金首討伐報告の手続きほど面倒ではないが、単純な汎用討伐と
違って手間が掛かるのだ。

ハンター証やハンターコードでの討伐参加者を明示する。索敵機器や情報収集機
ため
器から収集した戦闘記録や、撃破した個体を識別する 為 に情報収集機器でモンス
ターの死体等を調べた情報を送信する。報酬の分配等に調整が必要ならその内容も
送信する。それらをハンターオフィスに送った後、職員が内容を調査して問題ない
ようや
と結論を出して、撃破報告手続きは 漸 く終わりになる。

アキラはそれらの手続きを全部レイナ達に任せた。戦闘記録や報酬分配調整の内
容などに偏りがあれば報酬のほぼ全てをレイナ達に持っていかれることになる。レ
イナ達を信頼して、ではなく、単純に手続きの作業が面倒だからだ。

そば
カナエが笑ってアキラの 側 に立つ。

「いやー。アキラ少年。太っ腹っすね」


「……そっちとここで果てしなく揉めるのが面倒なだけだ」

やゆ
高額な特別報酬を失いかねない不手際への揶揄と、シオリやカナエなどの実力者

を含むハンター達と荒野で揉めて死傷を含む戦闘に発展しかねない危険性への考慮
を含めた返答。お互いに言葉がかなり足りていないが、その微妙な意味合いはお互
いの表情や視線からそこそこ通じていた。

「ところでアキラ少年。ハンターランクは今、幾つっすか?」

「答える義理はないな」

「教えてくれても良いじゃないっすか。私のも教えるっすから。私は……」

「興味がない。そっちが話すのは勝手だが、俺は答えないからな」

「けちっすねー。まあ、アキラ少年のハンターコードは分かってるっすから、ハン
ターオフィスのサイトで調べればすぐに分かるっすけどねー」

つな
カナエが情報端末を取り出してハンターオフィスのサイトに 繋 ぎ、ハンターコ
ードからアキラのハンター情報を閲覧しようとする。そして少し意外そうな驚きの
表情を浮かべると、楽しげにも見える意味深な笑顔を浮かべて興味深そうな視線を
アキラに向けた。
「へー。ほー。ふーん。なるほど。アキラ少年はそうっすかー。はぁー」

アキラは反応したら負けだという湧き出た感情に従って、カナエの意味深な
つぶや
呟 きを無視した。

作業を終えたトガミ達が戻ってくると、カナエが待っていたとばかりに笑って全
員に話を持ち出した。

「アキラ少年。暇そうだし、良かったらこの後一緒にどうっすか? トガミ少年。
良いっすよね?」

急な話にトガミが難色を示す。

「良い悪いの前に、今日のリーダーは俺のはずだぞ? 勝手に話を進めないでくれ

「まあまあまあまあ、そう堅いことを言わずに。アキラ少年が同行するのなら、あ
の自動人形探しの許可を出すっす。更に私も戦闘要員として換算して良いっすよ」

「えっ? ……本当か!」

好感触を示すトガミに代わって、今度はシオリが難色を示す。

「ちょっとカナエ。どういうつもり?」

「まあ、良いじゃないっすか。これも何かの縁っすよ。私が基本的に突っ立ってい
るだけで戦力にならない以上、お嬢とトガミ少年だけの戦力じゃ許可を出せないっ
てのは、私も同感っす。でも私とアキラ少年を戦力に加えられたのなら、許可を出
しても良いと思うっすよ?」

「急にそんなことを言い出した理由を聞いているのよ」

ほほえ
「私もそろそろお嬢とトガミ少年の 微笑 ましい掛け合いに後部座席から茶々を入
さすが
れるのは 流石 に飽きてきたんすよ」

「何でそこで私とトガミを持ち出すのよ!?」

レイナも口を挟み、事情を把握している者達で話が騒がしく続いていく。事情を

把握していないアキラがその様子を見て軽く溜め息を吐くと、少し口調を強めて口
を開いた。

「取りあえず、俺にも分かるように説明してくれ。説明がないなら俺は帰るからな

僅かに話が止まっている状態で、カナエがトガミの背を軽く押す。

「さあトガミ少年! 交渉の時間っすよ! アキラ少年の興味を引くように事情を


説明して、アキラ少年から同行の同意を得るっす! それが駄目ならこの話は無し
っすよ!」

戸惑い気味のトガミがアキラの前に押し出される。アキラと視線が合い、トガミ
は軽い緊張を感じながら頭の中で内容を整理しつつまずは状況の説明を始めた。

しばら
トガミとレイナは諸事情でここ 暫 く2人でチームを組んでハンター稼業を続
けていた。リーダー役を毎回交代しながら遺跡探索やモンスター討伐に精を出し、
かば かば
互いに指示を出し合い、 庇 い 庇 われながら、ハンターとして着実に経験を積ん
でいた。

シオリはレイナがリーダーの場合に限って部隊行動の指揮下に入る。リーダーが
トガミの場合はカナエと同様に距離を取っての護衛要員だ。今日はトガミがリーダ
ーなので、主な戦闘要員はトガミとレイナの2人だけだ。

レイナ達はある伝で旧世界製の自動人形が保管されているという遺跡の情報を手
に入れていた。しかしシオリ達から戦力不足を理由に該当の遺跡の探索を禁止され
ていた。

シオリ達を含めた4人で向かうのならば問題ない難易度だが、レイナ達2人では
ため
戦力が足りない。そしてレイナ達が組んで行動しているのは2人の訓練の 為 でも
あり、自分達を戦力要員として換算して作戦行動に入るのは許可しない。レイナ達
くぎ
はシオリ達からそう 釘 を刺されていた。そして今、カナエが条件付きで意見を翻
したのだ。

しんぴょう うわさ
自動人形の情報は一定の 信憑 性がある程度で、ある意味で 噂 の域を出
ない精度だ。そして他のハンター達にも同様の情報が出回っている。情報が間違っ
ている可能性も、既に先を越されてしまっている可能性も考えられる。それをトガ
ミがアキラに伝えたところでカナエが口を挟む。

「トガミ少年。その辺は黙っておくか、良い感じにぼやかしておくべきじゃないっ
すか?」

ごまか
「交渉相手のハンターにその辺を誤魔化す気はねえよ」

「意外に真面目っすね」

「そっちが悪辣なだけだ」
アキラが少し意外そうにしている。アキラの基準ではカナエの判断が普通だ。そ
の倫理基準で誠意的な交渉をしようとするトガミへの評価がアキラの中で少し上が
る。

トガミとレイナは自動人形探しに対して消極的賛成だ。旧世界製の自動人形が非
常に高価な遺物だということもあり、シオリ達が反対しないのであればできれば探
しに行きたいと思っていた。そしてカナエが積極的賛成に回ったことで、消極的反
対の立場を取っていたシオリの圧力は揺らいでいた。

シオリが少し遠回しに反対意見を述べる。

「トガミ様は私達に同行する際に、シカラベ様から状況に自力で対処するよう指示
せんえつ
されているはずです。 僭越 ながら、アキラ様の助力を得るのはその指示に反し
ていると思いますが」


「……他のハンターと自分で交渉して追加戦力を得るのも、その報酬や揉め事に対
はんちゅう
して自分で責任を負うのも、俺は自力の 範疇 だと考えている。一人前のハン
ため
ターに成長する 為 の訓練として、自力の解釈やその裁量を含めて俺の自力だ。間
違っていたら、シカラベからの俺の評価が下がるだけだ」

たいじ
トガミが視線をアキラに戻し、交渉相手としてしっかりと 対峙 する。

「アキラは俺達をチーム単位で考えているのかもしれないが、交渉相手は俺だ。何
かあった場合の責任も含めてだ。その上で、できれば同行してほしいと思っている
。どうだ」

まで
「……一応確認するけど、飽く 迄 も遺跡探索の誘いなんだな? 俺が雇われるわ
けでも、そっちの指揮下に入るわけでもない。そっちが俺をどの程度の戦力として
考えているのかは知らないが、俺は俺の感覚で戦う。そっちが想定している戦力に
なるとは保証しないし、文句も受け付けないぞ」

「構わない。その上で、戦力が足りなければ撤退する」

「報酬の分配方法は?」

「頭割りを基本にして、細かい調整は後だ。実際に自動人形が見付かったとしても
、機体を分割して分配するわけにはいかないからな。売却ルートとかもそれぞれに

伝があればその選定に揉めるだろう。その時に出た文句も俺に言ってくれ」

アキラが質問を止めて黙り始める。トガミが僅かに緊張しながら返事を待ってい
る。
「……。分かった。一緒に行こう」

「良いのか?」

「ああ。旧世界製の自動人形とか、その手の遺物が有りそうな遺跡の探索なら、空
振りに終わっても面白そうだ」

うれ
トガミとレイナが 嬉 しそうに笑い、カナエが少し芝居がかった様子で喜びを
あら
露 わにする。その横で、シオリは真面目な表情で状況への対処を考え始めていた

うわさ
アキラ達が 噂 の遺跡を目指して荒野を進んでいる。トガミはアキラと今のう
ちにできる交渉を済ませておくためにアキラの車の助手席に座っていた。

しんぴょう
その雑談を交えた交渉の中でアキラが情報の 信憑 性の詳細を尋ねると、ト
ガミは口外しないことを条件に追加の内容を話した。その内容を聞いたアキラが顔

を僅かに引き攣らせる。情報の出本はヒガラカ住宅街遺跡で発見された旧領域接続
装置を手に入れた企業である可能性が高い。そう聞かされたのだ。

『アルファ。今から行く遺跡って、前に手に入れたリオンズテイル社の端末設置場
所の情報と被ってるか?』

『被っていないわ』

『じゃあ偶然か』

『多分違うわ。恐らくコロン持ちの企業が代金を支払って、もっと詳細な情報を手
に入れたのよ。リオンズテイル社は非実在形式で人格を派遣していたけれど、実体
を欲しがる顧客向けに自動人形も提供していたのかもしれないわ』

『……あの旧領域接続装置って、使えるのは俺みたいな旧領域接続者だけじゃない
のか?』

『別途接続機器を用意すれば旧領域接続者ではない人でも使用できるわ。それに企
業が旧領域接続者を確保している可能性もあるわ』

『……そうか。じゃあ端末設置場所の情報も多分知ってるんだろうな。ヨノズカ駅
遺跡を見付けたのは俺なんだけど、大丈夫かな。そこから俺の存在を探られたりし
ないかな』
『アキラがヨノズカ駅遺跡を見付けたという証拠が出回っている訳でもないから、
そこからアキラの存在が露見する可能性は低いはずよ。未発見の遺跡を偶然見付け
るハンターはそれなりに多いから、多分大丈夫よ』

『だと良いんだけど』

アキラがアルファとの会話で表情を微妙に変えてしまう。トガミがそれに気付く

「どうかしたのか?」

「……何でもない。企業もそんな貴重な遺物の情報を手に入れたのなら、その情報
が漏れる前に独自に部隊を派遣してさっさと手に入れた方が良いのに。そう思った
だけだ」

ごまか
アキラは誤魔化すために適当なことを口にしただけだった。だがそれを聞いたト
ガミが苦笑する。

「俺もそう思ってシカラベに似たようなことを言ったら、もっと裏の事情を読んで
行動するのがハンターだって笑われたよ」

不思議そうにしているアキラに、トガミが続けてシカラベから聞いたことを説明
する。

その情報だけで旧世界製の自動人形が確実に手に入るのならば、そもそもその情
報をトガミが手に入れている時点でいろいろとおかしい。情報は漏れるものとはい
え、企業側もそれほど貴重な情報をそう簡単には流出させない。

既に目的の自動人形は企業の部隊に奪取されており、その上で関係者が小遣い稼
ぎに情報を流した。

該当の場所を軽く調査したらモンスターが予想外に強力だった。そのため自動人
形が存在する可能性と自前の部隊を派遣した場合の損害を考慮した上で、自動人形
の取得方法を買い取りに切り替えた。情報は自動人形を最終的に自分達に売りに来
る可能性が高いハンターに限って意図的に流している。

遺跡に自動人形は確かに存在するが、企業の興味は自動人形よりもその遺跡その
ため
もの、旧世界の研究施設やその設備などにある。遺跡を制圧する 為 にモンスター
を駆除する必要があるが、その手間を省くために自動人形を餌にして、ハンター達
にモンスターの駆除作業を押しつけようとしている。
でたらめ
そもそも自動人形の情報は初めから全て 出鱈目 。多数のハンターを遺跡に呼び
寄せて遺跡の難易度を落とした上で、誰かが自動人形とは全く関係のない別の高価
な遺物を狙おうとしている。

シカラベはトガミに他にも様々な意図、利害、臆測、可能性を含めた話をした。
トガミはその内容をそのままアキラに話し、自分がその話を聞いた時と同じ表情を
アキラに浮かべさせた。

もろもろ しんぴょう
「……そういった 諸々 の可能性を考慮して、その上で情報の 信憑 性を自
分なりに推察して、その上で利益が出ると、採算に合うと判断したら行動に出る。
それが稼げるハンターの条件だってさ」

アキラが苦笑いを浮かべる。行き当たりばったりでハンター稼業を続けていたア
なおさら
キラには非常に耳が痛い内容だった。内容に納得した分だけ 尚更 痛かった。

アルファがそのアキラに楽しげな笑顔を向けている。

『アキラも見習った方が良いと思うわよ?』

のろ
『その点に関しては俺の不運を 呪 ってくれ。荒野に出るたびにモンスターの群れ
に遭遇する可能性なんて考慮に入れていたら、採算は常に大赤字だ。俺が行動に出
る機会は永遠になくなるんじゃないか?』

『……それを笑い飛ばせないところが、アキラなのよね』

アルファが笑顔を苦笑に変える。適当なことを言った割には効果があったと思い
、アキラはそれで満足した。

「どうかしたのか?」

うわさ しんぴょう
「いや、何でもない。そんな話をするのなら 噂 の 信憑 性は低いのかと思
ごまか
っただけだ。交渉相手のハンターにその辺を誤魔化す気はなかったんじゃないか?

アキラが冗談のように軽く笑ってそう答えると、トガミも似たように笑って返す

「何を言っているんだ。ちゃんと情報が誤っている可能性の話はしたじゃないか。
交渉相手への誠実さの分だけは、ちゃんと説明したつもりだぞ? ……まあ、戦力
的に問題がないのなら、探索に向かって損はない。その程度には高いはずだ。……
その判断をしたのはシカラベだけどさ」
「この件にシカラベも関わってるのか?」

「あー、まあ、直接関わっている訳じゃないんだ。ただ、いろいろあってな。俺は
今レイナと組んでいるんだが、それも俺の訓練の一環で、同時にレイナの訓練でも
あって、シカラベとシオリさんがちょっと交渉とかしたらしくて、……まあ、いろ
いろあったんだ」

トガミは適当に濁しながら、そのいろいろの始まりを、シカラベとの交渉を思い
出していた。

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