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生命保険のカラクリ ◎ 目次

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序 章     
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第一章 生保のGNP── 義理・人情・プレゼント
   

23
 
花より団子、外食より保険/人生で二番目に大きな買い物/日本人の生保好きはい
つから始まったか/世界一儲かる生保市場/罪深い「転換セールス」/逆ざやが残
した禍根/払われなかった保険──不払い問題
第二章 煙に巻かれる消費者── 誤解だらけのセイホ
   

65
 
スパゲッティのように複雑/貯金はできないけど保険なら払える/かけ捨ては損で
は な い/「何 に 備 え る か」で 整 理 す る と 三 つ し か な い/定 期、養 老、終 身 の 違 い
──生命保険の基礎/「保険料はどこでも同じ」ではない/保険に「ボーナス」は
ない/「途中でやめたら損」とは限らない/医療保険は入ってはいけない /民間

!?
の生命保険がすべてではない
第三章 儲けのカラクリ── 生命保険会社の舞台裏

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保険会社をゼロから作ったら/あなたが死ぬ確率は?──契約査定/保険金詐欺と
の戦い/契約者が取るべき自衛策──単品主義のススメ/私たちの保険料、二八兆
円のフロー/世界最高の投資家は保険屋/生保はリスクを取りすぎか/引きこもり
のザ・セイホ/シサ、リサ、ヒサ──保険会社の収益源
第四章 かしこい生保の選び方

163
     
はじまった地殻変動/宿敵、簡保の民営化/銀行窓販の全面解禁/生保が共済に敗
れる日/来店型代理店の台頭/保険料の自由化と新規参入の促進/付加保険料開示
の衝撃/生保業界の生きる道/保険にかしこく入るための七か条
生保をさらによく知るためのコラム集
  コラム❶ 生命保険契約者のセーフティネット 

201
 
  コラム❷ 生命保険の約款 

205

5
 
  コラム❸ 生命保険会社が倒産したら 

208
 
  コラム❹ 保険料の決まり方 

6
211
 
  コラム❺ 生保会社に値段をつける──バリュエーション 

215
 
  コラム❻ 生保の未来──リスク細分 

217
  コラム❼ 民間医療保険の将来 

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ネット生命保険の可能性 ──あとがきにかえて   

225
 
序 章
はじめて届けた保険金
 ライフネット生命が営業を開始して、初めての年度が終わろうとしていた二〇〇九年三
月の末。私たちは、朝七時の新幹線で、都心から三時間ほど離れたこの地にやってきた。
乗り換えまで三十分ほど待ち時間があったのでいったん改札を出て、構内の小さなカウン
ターでコーヒーを飲む。時間が来ると、ふたたび改札を通り、ワンマン運転のローカル線
のホームへ向かう。そこから三駅、運転手さんに切符を渡し、無人駅に降り立つ。
 ここは、東京よりもかなり冷える。盆地ならではの平らな地形、どこまでも澄んだ空、
この地を囲む山々が一八〇度のパノラマビューで見渡せる。コンビニやパチンコ店といっ
序 章

た駅前によくみられる風景は、ここにはない。自転車置き場と木造の家が立ち並び、二階
建て以上の建物は視界に入ってこなかった。

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 少し待って、訪問先へ電話を入れる。「きよみさんの美容院の隣、と言ってもらえれば

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分かります」と教えられる。駅前で談笑していたタクシーの運転手さんたちが僕らの姿に
気がつき、そのうち一人が急いで車に向かう。年配だが、この仕事はまだ長くないようで、
場所を知らない様子。窓を開けて、運転手仲間に問いかけると、「きよみちゃんのとこと
いえば、あそこにきまっとるじゃろ!」──あとの三人が声を揃え、笑いながら仲間に大
きな声で道案内をした。
古い街並みの一角にあるお宅の前には、車が四、五台並んでいた。表札で名前を確認し
 
て、少し緊張しながらチャイムを鳴らす。中年の女性がドアを開けてくれた。「ライフネ
ット生命です」と挨拶すると、「どうぞ」とあがるよう促された。玄関には、かかとが踏
みつぶされた男性用の大きなスニーカーが何足か脱ぎ捨ててある。
 靴を脱いで振り返って揃え、再び体を起こすと、右手奥の居間に小さな赤ちゃんを座ら
せ、自分も床に座って離乳食を食べさせている女性がいた。どことなく目に力がないよう
な気がした。
 通されたのは、玄関を上がってすぐの小さな和室だった。小テーブルと、まだ置かれた
ばかりと思える仏壇。その隣に、大きな遺影が飾られた祭壇がある。亡くなられた方の好
物だったのか、お花と一緒に吉兆宝山の焼酎の瓶が並べられている。
写真の中で、自分と同年代の男性が歯を見せて笑っていた。
 
 まもなく、作業服を着た男性の父親が現れた。胸には「総務部長」のバッジ、まだ現役
でお仕事をされているようだ。
 つづいて、先ほど赤ちゃんをあやしていた女性が、うつむいたまま、隣に座った。残さ
れた奥さまだった。こちらがお悔やみの挨拶を述べると、こう答えた。
「お二人もわざわざ東京からお越し頂き、ありがとうございます。突然のことだったので、
まだてんやわんやで。ちょうど半年前に赤ちゃんができて、うちらも孫ができたと喜んで
いた矢先の出来事でした。去年くらいからずっと仕事が忙しい、忙しいと言ってはいたん
ですが、まさかこんなことになるとは──。ライフネットさんって聞いたことなかったの
ですが、若い二人で一所懸命調べて、加入したみたいです。先立つものがないと赤ん坊も
不安ですから、本当に助かります。入ったばっかりで、保険料とかもほとんど払っていな
いのに、こんなことになってしまってすみません」
序 章

「とんでもないです、これが私どもの仕事ですから。少しでもお役に立てて頂ければ幸い
です。お線香、上げさせて頂いてもよいですか」

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 祭壇に向かって線香を立て、手を合わせて目をつぶった。三十代で家族を残して旅立っ

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て行かれたとは、何とも無念だったことだろう。
 テーブルに戻り、残されたわずかな事務手続について説明した。「何かご不明な点はあ
りませんでしょうか」と問うと、「いいえ」と細い声で答える。「何かありましたら、何で
も結構ですので、こちらの名刺の連絡先まで、直接お電話ください」
 話は終わった。
「帰りは駅ですか? ほら、お前、駅まで送ってさしあげなさい」
玄関を出るとき、お父さんが再び話しかけてくる。「こうやって、一軒一軒訪問してる
 
の? このあたりじゃ、ライフネットさんって誰も知らないと思うけど、機会があったら、
みんなに言っとくよ。いい会社だよ、って」
 女性が一人で、帰りの駅まで、車で送ってくれた。三分ぐらいのわずかな時間、「こち
らが駅の裏口ですが、表まで行きますね」とか、会話は当たり障りのないものにとどまっ
た。保険会社の人間を相手に、何を話せというのだろう?
 移動時間は片道四時間、滞在時間は二十分程度だったろうか。はじめての死亡保険金を
払いにいったこの日──短い時間だったが、自分が携わっている「生命保険業」という仕
事がどんなものか──それができること、できないこと──その本質について深く考えさ
せられた一日だった。
ハーバードからセイホへ
 時計の針を戻して、二〇〇六年五月。長く厳しい冬から明けた初夏のボストンの新緑は
美しく、高い空のもと、心地よい日々を過ごすことができる。ハーバード・ビジネス・ス
クール (HBS)での二年間の留学生活を終え、卒業式を残すのみとなっていた私は、日
本に帰国して、新しい生命保険会社を立ち上げることを決めていた。
 この決意を日米の友人に伝えると、まったく異なる反応が返ってきた。米国の友人たち
は、声を揃えてこう言った。
インシユアランス
「 (保険)? 日本のバフェットを目指すんだね!」
insurance
 これに対して、日本の友人たちは、声を揃えてこう言った。
「え、セイホ? なんでまた?」
序 章

「インシュアランス」と「セイホ」。同じビジネススクールで経営を学んできた日米の学

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生の反応の違いが、それぞれの国の生命保険業に対する認識の違いを大きく物語っていた。
 ウォーレン・バフェットは、卓越した資産運用によって、四十年のうちに四兆円もの資

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産を築いたアメリカの大投資家である。コカ・コーラやP&G、ジレットなどアメリカ人
の日常生活を支える優良企業の株式を、超長期で保有し続ける投資スタイルを特徴とする。
ネブラスカ州のオマハという地方都市から住居を移すことなく、成功する前と変わらない
質素な生活を続けるこの投資家は、ユーモアと愛嬌あふれる言説をもって社会経済を斬る
鋭さから、
「オマハの賢人」として全米の人に愛され、尊敬されてきた。二〇〇六年には
その資産の八五%をビル・ゲイツが運営する財団などに寄付すると発表して、世界一の慈
善家の称号も手に入れている。
 そのバフェット率いるバークシャー・ハサウェイ社の中核事業が、保険業である。傘下
に は、ガ イ コ (G E I C O)と い う 通 販 系 自 動 車 保 険 会 社 と、ジェネ ラ ル・リー (G e n
Re)という再保険会社。バフェットはこの双方の事業において、契約者から前払いで預
かった保険料を長期投資の安定した資金源としてきた。米国のMBAの学生が「バフェッ
トを目指すのか」という背景には、米国資本主義を代表する投資家の一人が、保険をその
投資活動のプラットフォームとしていることがある。彼らの目には「インシュアランス」
は、リスクの引き受けと資産運用を生業とする、エキサイティングな金融業と映っている
のだ。
これに対してわが国では、「生命保険」と聞くとすぐさま脳裏に浮かぶのが、ノルマの
 
重圧を背負う女性外交員による粘り強い販売攻勢と、鳴り止まない勧誘の電話やテレビC
Mや新聞広告だった。強引な勧誘を受けたことがある人にとっては、マイナスのイメージ
を想起させる言葉である。「いまさら、セイホ?」という反応も、わが国の生命保険業界
に対する関心の薄さ、期待の低さを示しているように思えた。
生保ビジネスの可能性
そんな日本の生命保険業界に、なぜ新しい会社を作って参入することになったのか。
  で ぐちはるあき
 きっかけは創業のパートナーであり、現在ライフネット生命の社長を務める出口治明と
の出会いだった。
私は留学を終えた後は、複数の外資系投資会社から内定をもらっていた。しかし、それ
 
は自分が本当にやりたいことではないと思いはじめていた。
つちか
序 章

これまで学んできたこと、培ってきたスキルや人間関係を総動員して新しい事業を興し、
 

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それを通じて社会に変革を起こすような仕事をしたい。
 そんな風に思いはじめていた矢先の、出会いだった。

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 出口は業界最大手の日本生命に三十四年間勤務し、財務や企画畑を歩んだ人物である。
「ザ・セイホ」華やかなりし頃には大蔵省担当、いわゆる「MOF担」として活躍し「業
界のブレーン」と評された、文字どおり、業界の表裏を知り尽くす人間だ。
 ある人を通じて紹介された彼の口から、なぜいま新しい生命保険会社が必要とされてい
るのか、設立の構想を初めて聞かされたとき、ただちにその社会的意義を理解できた。
出口の言い分は、こうだった。
 
 ──人間の社会の中で、大切なのは「助けあい」である。そして、助けあいの方法とし
ては、「自助」
「公助」「共助」の三つがある。しかし所得が伸び悩み、格差が問題とされ
ひつ ぱく
るなか、
「自助」だけに期待することは難しい。また、国家財政が逼迫しているなかでは、
国に過度に頼ることもできないため、「公助」にも限界がある。
とすれば、人々が互いを助け合う「共助」の仕組みが、再び大切になってくる。「共助」
 
を担うのが、民間の保険会社の役割である。にもかかわらず、生命保険会社は保険金の不
払い問題に代表されるように、消費者の信頼を失っており、本来の役割を十分に果たせて
いない。だからこそ、共助の仕組みをいま一度蘇らせることが必要だ。
 生命保険をもっとも必要とするのは子育て中の若い世代だ。しかし、彼らが払っている
保険料はあまりに高い。
 保険料を半額にすることで、安心して赤ちゃんを産める社会をつくりたい。
 いつの時代も、世の中の進歩や革新を促す原動力となるのは、新規参入だ。新しい生命
保険会社を設立して業界に参入し、競争を仕掛けることで業界に革新を迫ることこそが、
自分を育ててくれた生命保険業界、大好きな生命保険業界への恩返しとなる──。
私は出口の熱い想いに打たれ、新しい生命保険会社を設立することの社会的な意義に奮
 
い立った。と同時に、この事業を通じて、どのように社会へのインパクトを与えられるか、
を考えていた。
少し考えただけで、この事業には社会を変革する大きな可能性があることを、理解する
 
ことができた。
 理由は、三つある。
まず、市場が非常に大きいこと。日本人が生命保険に払っているお金は、年間四〇兆円
 
序 章

を超える。言いかえれば、保険料全体を一%下げることができれば、毎年四〇〇〇億円超

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のお金を、国民に還元することができる。
 次に、市場がとても非効率であること。多くの日本人は、保険の営業職員に勧められる

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ままに、たくさんの生命保険に入っている。しかし、商品が複雑であるため、内容をよく
理解していない人がほとんどである。
 また、日本の生命保険料は、商品によっては英米の二〜三倍の高水準にある。これは、
英米の市場が原則として参入が自由に認められ、事後のモニタリングを通じて適正な運営
を確保しようとするのと異なり、わが国の金融当局が長年「護送船団行政」なる厳しい参
入規制と料率規制を敷き、競争を奨励しない政策を取ってきたことのあらわれでもある。
ゆが
金融市場がグローバル化されていくなかで、このような市場の歪みが、長期にわたって続
くはずはなかった。
 そして三つめの理由として、このような巨大で非効率な市場にも、変革の波が訪れてい
たことがある。
二〇〇六年四月には保険業法施行規則が改正され、長らく一律とされてきた保険料のう
  ふ か ほ けんりよう
ち手数料部分に当たる「付加保険料」については各社の裁量に委ねるものとし、事前認可
が不要となった。これにより価格競争を可能にする土壌が整った。また、二〇〇七年には
簡易保険の民営化、銀行窓販の全面解禁など、業界再編の機運を感じさせる多くの動きが
予定されていた。
バブルの頃には、機関投資家として国際資本市場で影響力を振るったわが国の生命保険
 
会社だが、その存在感はすっかり薄れた。売上の国内比率が限りなく一〇〇%に近い、ド
メスティックな産業の代表格になっている。国内では数十兆円規模の巨大市場は押さえて
いるが、営業現場での「局地戦」はさておき、長らく続いてきた「競争よりも協調」の時
代からの行動規範を変えることに苦戦しており、真の意味での顧客志向の競争や経営改善
うつせき
がなかなか進んでいない。一方、消費者の側の不満は鬱積している……。
これほど大きな市場で、規制の名残の大きな非効率が残っているならば、その市場環境
 
が規制緩和によって大きな変化を迎えるとき、社会に大きなインパクトを与えるチャンス
が生まれるに違いない、そう考えるに至ったのである。
七十四年ぶりの「独立系」生保誕生
 ボストンから帰国して三か月後の二〇〇六年十月、出口と二人で、「ネットライフ企画」
序 章

という小さな準備会社を設立した。赤坂の古いビルで、わずか六席のフロアに、二社のベ

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ンチャー企業との同居から、私たちの会社ははじまった。
 従業員二人と一億円の資金をもってはじめたこの準備会社は、一年半後の二〇〇八年四

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月には、四十三名の従業員と一三二億円の資金を持つまでになり、内閣総理大臣より生命
保険業の免許を取得し、「ライフネット生命保険株式会社」として生まれ変わった。
 親会社に保険会社がいない「独立系」の生命保険会社としては、実に七十四年ぶりのこ
とだった。
 この過程で、生保業界について学ぶにつれて痛感したのは、外から抱いていたイメージ
とは異なり、いかにこの業界がわが国の社会経済を支え、裾野が広い事業であるかという
ことだ。生命保険業界は戦後日本の高度成長を牽引するエンジンのひとつとなり、世帯加
入率九割というほどまでに、国民生活に密着している。
同時に、生命保険のカラクリを理解し、業界の慣行を知るとともに、この業界がいかに
 
特殊であるかということもわかってきた。以前、コンサルティング会社で働いていた時分、
金融、通信、メーカーから小売業まで、多種多様な業種の企業とかかわりを持ってきたが、
生命保険業界はそれらとはまったく異質だった。
 例を挙げれば、この仕事をはじめて、業界の統計資料を見るようになって不思議に感じ
たことに、主たる業績が「保険契約高」なる保障金額の数値で表記され、普通の会社で売
上に該当する「保険料収入」が従属的にしか表記されないことがある。
しかし、同じ保険金一〇〇〇万円の契約でも、加入者の年齢や保障期間によって、会社
 
に入ってくるキャッシュも収益も、大きく異なる。各契約から入ってくる収入や利益を正
確に把握せずして、現代的な経営ができるのだろうか。
 また、業界でいまだに根強く残る協調体質を示すものに、生命保険協会内に、加盟各社
が 集 まって 設 け ら れ て い る、各 種 の 委 員 会 の 存 在 が あ る。「一 般 委 員 会」「業 務 委 員 会」
「財務委員会」
「情報システム委員会」「契約サービス委員会」などの「委員会」とその下
の「部会」が五十ほど並ぶ。開催頻度は三か月に一度のものから、頻繁なものは一か月に
一度。とくに企画調査部会には、各社、若手のエース級が集まっているらしく、ふだんか
ら頻繁に情報交換をしている。当社にもひとり、外資系生保から移籍してきた人間がこの
部会のメンバーにいたが、ニュースがあった朝は、携帯電話が鳴りやまない。
 また別の部会では、普通の業界であれば社外秘と考えられる情報を、平気で交換しあう
という。あるとき、「各社担当部署限り」という資料が回覧されてきたが、社外秘の情報
序 章

ではないのだとしたら、いったい何の秘密情報なのだろう?

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これらは保険業界が長い人々にとっては、何ら不思議な慣行とは映らないようだった。
 
 業界が一体となって、あるべき立法や規制の方向性、契約者保護のための運営の在り方

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について定期的に情報交換を行い、足並みを揃えることを否定するつもりはない。しかし
一般市民の感覚からすると、業界全社がこれほどまでの頻度で一堂に会し、多岐にわたっ
て情報交換を行っていることは奇異に映った。
 さらに、当局による規制。金融庁が出している保険業界向けの「監督指針」を読んでい
くと、次のような記述に行きあたった (太字は筆者による)

②当該書面に記載すべき事項について、以下の点について留意した記載とされているか。
ア.文字の大きさや記載事項の配列等について、顧客にとって理解しやすい記載とさ
れているか。
(注)例えば、文字の大きさを ポイント以上とすること (中略)

8
エ.当該書面に記載する情報量については、顧客が理解しようとする意欲を失わない
よう配慮するとともに、保険商品の特性や複雑性にあわせて定められているか。
(注)通常は顧客が理解しようとする意欲を失わない程度の情報量としては、例えば、
「契約概要」
・「注意喚起情報」を併せてA 両面程度のものが考えられる。

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 当局としては、保険会社に明確な指針を与えようという趣旨で、できるだけ具体的に記
載しているのだろう。しかし、ここまで「箸の上げ下ろし」を指導しないと保険会社は自
信をもって、正しく行動できないのだろうかと、規制業種で仕事をしたことがなかった私
は当初、不思議でたまらなかった。
 また、多くの業界人が、生保業界のあり方について「このままではいけない」という強
い問題意識を持っていることも新鮮だった。これまで社外で何度となく講演する機会に恵
まれたが、いつも聴衆には同業者が混じっていた。
 開業前に慶應大学の三田祭で、学生向けに行った講演には、大手保険グループの経営企
画部長が参加していた。立教大学のキャンパスで若手社会人向けに行ったセミナーでは、
「算出方法書はどのように準備されたのか」という、極めて技術的な質問が会場から投げ
かけられたが、質問の主は外資系保険会社の医長だった。名古屋で講演を行ったときには、
他社生保の支社長クラスやエリア担当マネージャーが大勢来ていた。
序 章

講演を終えると、みな「君が言っていることは正しい。方法は違うけれど目指している
 

21
方向は同じだから、ぜひとも頑張って欲しい」と激励の言葉をかけてくれた。
 これほどまでに多くの人が、「この業界は変わらなければならない」と情熱的に説きな

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がら、なかなか変わることができない業界──そんな生命保険業界に入って、三年が過ぎ
た。保険会社として営業を始めてからは、まだ一年半しか経過していない。これまでの業
界の常識からすれば、「新入り」の私が業界の全体像を語る資格などないと思われること
だろう。
 だが、誰でも少しずつ、その業界に身をおく時間が長くなればなるほど、その規範と常
識に染まっていく。はじめの頃は不思議に感じていたことが、いつからか当たり前になっ
ていく。とすれば、まだ新鮮な気持ちを持ち合わせているいまの自分が見た業界の姿、業
界の人々の常識とのギャップの中身を、より多くの人たちに知ってもらう意味はあるので
はないか。これが本書を執筆しようと思った動機である。
 生保業界に関して、プロによるプロのための本、あるいはプロによる一般人のための本
はこれまで何冊も執筆されてきた。それに対し本書は、保険業界にはじめて足を踏み入れ
た一般人による、一般人のための、「生命保険入門」である。
第一章 生保のGNP ──義理・人情・プレゼント
第一章 生保の GNP

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祖母の思い出
 一九九一年の春。高校に入学する一か月前、商社に勤務していた父が、突如ニューヨー
クへの転勤を命じられた。母と姉、弟は、父について渡米することが決まっていたが、高
校受験を終え、念願の志望校に合格したばかりの私には、「会社の子女寮に入って一人で
東京に残る」という選択肢が与えられた。いまからやり直せるのなら、華の都ニューヨー
クへ迷うことなく行ったと思うが、私は東京に残ることを選んだ。高田馬場での寮生活は、
千葉の片田舎から上京したばかりの高校一年生にとっては、刺激に満ちあふれていた。
 新しい暮らしが始まって数か月経った夏休み、家族に会いに、成田からニューヨークへ
飛んだ。そのときに同伴したのが、当時七十歳を超えていた母方の祖母だった。
 母は二人姉妹の妹だが、病気がちな祖父に代わって祖母にほとんど女手ひとつで育てら
れたこともあって、母娘三人は親友のように仲がよかった。祖母は最初の夫を戦争で失く
しており、私の祖父にあたる二人目の夫も、私が生まれる一か月前に病気で他界していた。
最初の夫との間には、母にとっては異父兄にあたる伯父がいた。
 祖母は、私たち一家と同居していた時期もあったが、つ
この頃は少ない年金を頼りに、埼
玉の川口で伯父と二人で暮らしていた。伯父は定職に就くことがなく、日雇い現場の仕事
を渡り歩いていた。五十を過ぎた男を、「子どもはできが悪いほどかわいいのよ」といつ
までも甘やかす祖母の言葉が当時は理解できなかったが、自分が父親となってみて、その
気持ちがわかるようになった。
そんな祖母と二人での海外旅行。高校生で血気盛んだった私は、老齢の同伴者に十分な
 
配慮ができるほど大人になりきれていなかった。「おばあちゃん、遅いよ」と口を尖らせ
つつ荷物を代わりに持って、祖母を置き去りにしながら、成田空港の動く歩道をスタスタ
と歩いた。
旅行中の祖母の思い出といえば、ニューヨーク郊外の広い家に着いても、日本の小さな
  ほこり
家でそうしていたように、ところかまわず埃を見つけては拭き、じゅうたんについた塵を
第一章 生保の GNP

探しては拾っていたこと。
それと、当時はまだ治安がよくなかったマンハッタンの街を歩きながら、通りすがりの
 
人と目が合うたび、「あらま、またじろじろ見られた。皺くちゃな日本人のおばあちゃん

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が歩いてるって、言ってるに違いないわ」とジャパニーズ・スマイルを浮かべ、周りの目
ばかりを気にしていたことだ。

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「誰も、おばあちゃんのことなんか見てないって」と諭したが、慣れない外国では、こち
らが相手を好奇の目で見るように、自分も見つめられているに違いないと思ったのだろう
か。スピード感があるマンハッタンの街は、高校生の私にはその雑然としたさまが魅力に
感じられたが、祖母にはそう映らなかったようだ。「私はヨーロッパの方が好き」と、二
度ほど訪れたロンドンやパリと比較しながら語っていた。
 祖母は私が社会人になった二年目の春に、他界した。自宅からそれほど遠くない病院に
入院していたのに、仕事の忙しさにかまけて、ろくにお見舞いにも行ってあげられなかっ
たことが、今では悔やまれる。祖母は読売ジャイアンツが大好きだったから、お棺の中に
は、松井がホームランを打って、巨人が大勝ちした日のスポーツ新聞を入れた。
 母の寝室には、ロックフェラーセンター前で祖母と二人で腕を組んで撮った写真が、い
まも飾ってある。
 祖母は私が物心ついた頃から年金暮らしだったので、どんな仕事をしていたかなんて、
生前は考えたことはなかった。ただ、母からは「おばあちゃん、ホント大変だった」と何
度となく聞かされていた。自分がこの業界に入るまでは詳しく聞いたことがなかったが、
祖母は大手生命保険会社で二十年以上、営業職をしていた。いわゆる「生保レディ」であ
る。
「私も高校生の頃から、セーラー服でお客さんのところに集金を手伝いに行っていた」
と四十年以上も前の話を、母から聞かされたことがある。
 祖母の人柄といえば、愛想も人当たりもいいが、とかく人目や世間体を気にする人だっ
たから、厳しいノルマを背負い、ときにはお客さんに煙たがられても精力的に営業を続け
なければならない生保の営業職員をやっている姿は、なかなか想像できない。祖母はどん
な気持ちで娘二人を育て、仕事をしていたのだろうか。ときおり考えることがある。
 祖母が生保レディとして働き、得た収入で、母は進学した。高校を卒業して就職した職
場で父と出会い、恋に落ち、結ばれた。そして、私が生まれた。
いしずえ
 祖母のような無数の営業職員がその礎を築くのに一役を担った、生命保険業界。そのお
かげで、いまの自分はある。その業界に、自分が新たに立ち向かおうとしていることに、
第一章 生保の GNP

なんとも不思議な因縁を感じる。
花より団子、外食より保険

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 誰しも親戚縁者、友人知人をたどっていけば、ひとりは生命保険の営業職員経験者が見
つかるのではないだろうか。あるいは、生保の営業職員にまつわるエピソードを思い浮か

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べることができるのではないか。それほど生命保険は、私たちにとって身近なものとなっ
ている。
 これは、ピーク時には五十万人いたといわれる営業職員が、全国津々浦々まで生命保険
の必要性を啓蒙し、普及させてきたからだ。生命保険文化センター平成二十一年度の調査
によると、生命保険の世帯加入率は九〇%である。わが国の九割の家庭が、何らかの生命
保険に加入している計算になる。
 ちなみに、個人保険の世帯加入率はアメリカが五〇%、イギリスが三六%、ドイツが四
〇%、フランスが五九% (「欧米主要国の公的社会保障制度と私的保障制度の役割〈二〇〇九年
」生命保険協会調査部 参照)なので、相対的に日本の普及率がいかに高い水準にある
度版〉
かわかるだろう。
そもそも生命保険は、自分が家族を残して命を落とすかもしれないという事態を、想像
 
力を働かせてイメージしない限り、必要性を感じない商品である。また、「予期せぬ死」
というめったに遭遇しない状況において支払われるものなので、その効用を身近で目にす
ることもほとんどない。
 それに、いますぐ入らなかったとしても、直ちに困るものでもない。もっぱら個人の任
意加入に委ねたのでは、保険が必要な人までもが加入しないままでいることが予想される。
欧米社会における保険の普及率は、自然な姿を示しているのかもしれない。
 しかし、いざ不慮の事故や死に直面した場合、生命保険に加入しているか否かで、残さ
れた家族のその後の生活に大きな影響を及ぼす。したがって、市場が未成熟な状況下では、
対面による募集活動を通じた啓蒙が非常に重要である。この意味で、わが国が戦後、高い
生命保険加入率を実現したことの社会的な意味は大きい。
 一世帯あたりの保険加入件数は、平均四・二件を超えている。会社で上司の勧めで入り、
親戚、友人が保険会社に転職したところでもうひとつ入りと、付き合いでいくつもの生命
保険に入った結果、保障内容が重複している人も少なくないようだ。
 日 本 の 生 保 の 販 売 手 法 を 称 し て、義 理 (G)
・人 情 (N)
・プ レ ゼ ン ト (P)か ら な る
第一章 生保の GNP

「GNPセールス」といわれるゆえんである。
世帯普及率が高まり、加入件数も増えていった結果、私たちは気づかないうちに、所得
 
の中から大きな金額を、保険料として生命保険会社に払うようになり、巨大な市場を生ん

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だ。
 わが国の民間の生命保険会社
(民営化されたかんぽ生命を含む)の年間保険料収入は、三

30
四兆円である。これに共済が六兆円。これらすべてを足した数字、すなわち私たち日本国
民が支払っている生命保険料の総額は、年間四〇兆円という大きな、大きな金額になる。
 いきなり、四〇兆円といわれても数字が大きすぎて、ほとんどの人はピンと来ないだろ
うと思われるので、他の業界の数字と比べてみよう。
 まず、わが国のGDP (国内総生産)は約五五〇兆円である。四〇兆円はその七〜八%
にあたる。私たちは国で創出されたすべての付加価値の一割弱を、生命保険業界に再び還
流させていることになる。
 小売業全体の売上は年間一三三兆円。つまり、日々の買い物で使っているお金の約三分
の一を、生命保険料として支払っている計算になる。また、弁当やお惣菜なども含めた広
義の外食産業の市場規模が、三〇兆円だから、国民が日々の食事に使うすべての外食代の
一・四倍。いまや社会のインフラとなり、それなしでの生活は考えられないIT市場でさ
え、PC・サーバなどのハードウェア、ソフトウェア、それに付随するサービスすべてを
足しても国内市場は、一二兆円。国内の自動車市場は、新車の販売額が約一一兆円という
から、日本中の新車の売上をすべて足した四倍もの額が生命保険業界に支払われているこ
とになる。
四〇兆円の市場規模をもつ生命保険業界がいかに大きなものか、国民生活にいかに大き
 
な影響を持つか、おわかり頂けたと思う。
人生で二番目に大きな買い物
 生命保険業界が巨大であることは、同時に、私たち一人一人がたくさんの生命保険料を
払っていることも意味する。ここでは、大手生命保険会社の代表的な商品の保険料を例に
とってみよう (三二〜三三頁表①参照)

A社の例では三十歳で加入した場合、保険料は毎月一万二〇〇〇円からはじまる。少し
 
高いが、大切な生命保険だからしようがないと思い、支払いをはじめる。銀行口座からの
自動引き落としなので、いつしか電話代や電気代と同じような感覚になり、引き去られた
第一章 生保の GNP

残りで生活するだけだから、痛みを感じなくなってしまう。
 定期型の保険は、加入時の保険料は安いが、更新時に保険料があがっていく。四十五歳
になると二万三〇〇〇円になる。十五年前より多少は昇給しているし、生命保険について

31
考える暇なんてないので、営業職員に促されるがままに更新手続きをする。
 五十五歳になると、保険料は月額四万八

32
55
5
48, 215
2, 892, 900

〇〇〇円にまであがる。高いと思うが、こ
一時金 5 万円+1 万円/日

こまで払い続けてきたのだから、解約した
ら損になるに違いない、あとひと踏ん張り、
と支払いを続ける。
一時金 5 万円

45
10
23, 350
2, 802, 000
 驚くべきは、この保険を三十年間払い続
100 万円
900 万円
500 万円
500 万円

けると、支払総額が八〇〇万円にのぼるこ
とだ。払い込みを終えたとき、一〇〇万円
終身保険  
定期保険  

介護保障  
特定損傷特約
総合入院特約
3 大疾病  
の 終 身 保 険 し か 残 ら な い。「生 命 保 険 は 住

30
15
12, 350
2, 223, 000
7, 917, 900
宅 に 次 い で、人 生 で 二 番 目 に 大 き い 買 い
物」と言われるゆえんである。
 同様にB社の主力商品についてみると、

(円)
保険期間(年)

累計払込金額
保障がもう少し厚くなっている分、保険料

年齢(歳)

月払保険料
契約内容

期間合計
も高い。払込合計額は、一六〇〇万円近く

〈A 社〉

主契約
特約
になる。
 もちろん、更新ごとに契約内容を見直し、
50
10
64, 944
7, 793, 280

保障金額を減らしていけばここまで大きい
金額にはならない。しかし、注意を払わな
遺族収入保障 基本年金額 120 万円

ふく
いまま自動更新を続けていくと、金額は膨
表① 大手生保の主力商品 保険料払込総額

れ上がる。また、営業職員から注意を促さ
40
10
41, 204
4, 944, 480
定期保険   1, 300 万円

れない限り、満期まで保障を変えずに残し
終身保険   200 万円

特定疾病保障定期特約

ている人も少なくない。
その他、特約多数
 前述の生命保険文化センターの調査によ
総合医療特約

30
10
25, 303
3, 036, 360
15, 774, 120
ると現在、家庭一世帯が年に払っている生

出所:各社ホームページより
命保険料は、平均四五万円であるという。
この数字を元にしても、二十年間で払う保
第一章 生保の GNP

(円)
保険期間(年)
険料は、一〇〇〇万円近い計算になる。

累計払込金額
年齢(歳)

月払保険料
 生命保険が不思議な商品だと感じるのは、

契約内容

期間合計
〈B 社〉

主契約
毎月支払っている保険料が、知らず知らず

特約

33
のうちに積み上がって、このように大きな
金額となる点である。普通、一〇〇〇万円近い大きな買い物をする際には念入りに情報収

34
集をし、納得がいくまで比較検討を行うものである。まさか、義理や人情だけで家を選ぶ
ようなことはしないだろう。しかし、生命保険を選ぶ際に、一体どれほどの人が「一〇〇
〇万円近い買い物」という認識を持っているだろうか?
 これが加入時に一括で保険料を払い込むのであれば、「高額の買い物」であるという認
識を持って、慎重に比較検討をしたうえで選ぶことだろう。こうした一括払いは、例えば
火災保険のように損害保険の分野では実際に行われている。
だが一般に、生命保険の保険料は、毎月少しずつ払っていくものであり、総額でいくら
 
払い込むのか、途中で意識する機会も少ない。
 長期間の保障を毎月の分割払いにすることは、加入者 (=購入者)にとっては、出費を
平準化できるメリットがある一方で、心理的に「それほど多く払ってない」、「多少の差な
ら変わらない」と錯覚させるデメリットがある。
日本人の生保好きはいつから始まったか
 日本人が「生命保険好き」であることは、多くの人が認めるところだが、実際、日本は
世界に類を見ない生保大国である。
図 は、日本と米・英・仏・独という保険大国の、世界の生命保険料収入に占めるシェ
 
1

アを示したものである。上位五か国で世界の保険料の合計の三分の二を占めるが、そのう
ち日本は一六%と米国に次いで二位である。
 そして、わが国の大きな特徴として、生命

スイス再保険“シグマ No. 4/2007”より作成


保険料の総額が大きいだけでなく、一人当た
図 1 生命保険料収入上位 5 か国の

り が 加 入 し て い る 保 険 金 額 (死 亡 保 険 の 保 障
額)が群を抜いて大きいことが挙げられる。
次頁の図 は二〇〇〇年と少し古いデータ
世界シェア(2006 年)

2
だが、国民一人当たりが加入している保険金
額を示している。一ドル=一〇〇円として、
第一章 生保の GNP

アメリカが五八〇万円、イギリスが二六〇万
円、ドイツが二〇〇万円であるのに対して、
日本は約一六〇〇万円と、突出して大きい。

35
生命保険文化センターの調査でも、わが国の
世帯平均の死亡保険金は、二九七八万円なので、

36
この傾向は大きくは変わっていないだろう。
ニッセイ基礎研 REPORT2003 年 4 月より
(2000 年)

 このように、払っている保険料で比較するよ
図 2 人口一人あたりの生命保険保障額

り も、「加 入 し て い る 保 障 の 金 額」で 比 較 す る
と、日本が先進国のなかでも抜きんでているこ
とが分かる。このことは海外の生保市場が、死
亡保障よりも貯蓄志向の性格が強いのに対して、
日本では「万が一の場合」の家族の生活保障を
提供する死亡保障としての意味合いが強いこと
を意味する。
 それでは、日本人はなぜ、これほどまでに多
 くの死亡保障に入っているのだろうか?
 その理由を探るために、各国がその経済規模
と比べて、どれだけ生命保険に入っているかと
い う「保 障 金 額 の 大 き さ」に つ い て、個 人 保 険 (個人年金を含む)の 保 障 総 額 を 名 目 G D
Pで割った「マクロ保障倍率」というデータの推移を見てみる (以下は『生命保険業の新潮

流と将来像』久保英也著、千倉書房、二〇〇五 参照)
 アメリカやイギリスのマクロ保障倍率が、名目GDPに対してほぼ一倍程度であるのに
対して、二〇〇三年時点で日本のマクロ保障倍率は、民間生命保険会社で約二倍。これに
簡易保険 (当時)
・JA共済といった保険会社以外で保険同等の商品を提供している主体
を加えると約三倍となっており、国際的に見てずば抜けて高い水準にあることがわかる。
 このような国際的な差異については、以下のような、市場環境の違いで説明されること
が多い。
日米を比べると、アメリカでは、早くから生命保険業界が銀行・証券・投資信託などと
 
の厳しい競争にさらされたため、生保が必ずしも、十分にシェアを高めることができなか
第一章 生保の GNP

った。これに対して、わが国では銀行・証券・保険の相互参入を認めず、業界別の縦割り
行政で保護されるなか、生命保険は税優遇をはじめとするメリットを与えられたため、拡
大する家計所得や個人金融資産を上手に取り込むことに成功した。

37
 これに加えて、アメリカでは女性の社会進出により死亡保険のニーズが低くなり、代わ
って個人年金の販売が進んだのに対して、日本では女性の労働力率が停滞し、死亡保障ニ

38
ーズが強く残った。すなわち、金融自由化の遅れや女性の社会進出が進まなかったことな
どが、日本の巨大な保障市場を生んだ原因だと説明されるのである。
 もっとも、現在では三倍近い開きがあるマクロ保障倍率も、一九七〇年以前は日・米・
英でほぼ同水準にあった。わが国における保障総額は七〇年代以降、急速に拡大していっ
たのである。つまり、日本人の「生保好き」は国民性に根差したものというより、ここ三
十年ぐらいの傾向にすぎない。
 この時期になぜ、日本で「保障の大型化」が進んだのだろうか。答えは、規模の拡大に
走る保険会社の戦略にあった。
 従来、生命保険の主力商品は満期保険金と死亡保険金が等しい、貯蓄タイプの「養老保
険」であった。
 たとえば三十歳のときに、六十歳を満期とした保険金五〇〇万円の養老保険に入ったと
する。三十年間、保険料を払うことで途中の死亡に備えるが、ほとんどの人は無事に六十
歳の満期を迎え五〇〇万円を受け取る。つまり「貯蓄」としての意味合いが強い。
それが、一九七〇年代から九〇年頃の間に、貯蓄部分を薄くし、死亡保険金が満期保険
 
金の十倍、二十倍といった高倍率の保障性の商品が数多く販売されるようになった。
このように死亡保障の大型化が進んだ要因として、「人口の都市集中化によって大家族
 
制度の崩壊と核家族化が進み、世帯の稼ぎ手がひとりとなったため、各家庭における遺族
保障ニーズが増大した」という説明がされることが多い。確かに、このような需要サイド
の変化があったことは疑いない。しかし、その核心はむしろ供給サイドの事情、すなわち
規模拡大に走る生命保険会社側の戦略的な意図にあったと理解されるべきである。
 八〇年代にはすでに死亡保障に依存する成長は限界に近づいていた。この時期、新契約
の伸びは頭打ちとなっている。本来ならば顧客ニーズの変化に対応して、この時点で医療
保障や年金保険へ重点をシフトすべきだったのだが、生保業界は死亡保障の大型化と販売
組織の拡大という、従来の戦略を変えることができなかった。生保会社の営業職員の高い
まかな
販売コストを賄うためには、収益性が高い商品を売り続ける必要があったからである。
第一章 生保の GNP

 貯蓄性の商品と保障性の商品を比べたとき、払い込む保険料は同じでも、利益は後者の
方が何倍にもなりうる。一〇〇万円の貯蓄性商品を売っても手数料はせいぜい数パーセン
トしか取れないが、死亡保障であれば三割から六割まで手数料が取れるのだ (この仕組み

39
。また一般に、最近人気の医療保険は保険料単 価 が小さ く、
については、第二章で述べる)
主力商品に据えるには物足りなかった。

40
したがって生命保険会社としては、同じ保険料を徴収できるのであれば、貯蓄の要素を
 
薄 め、保 障 の 要 素 を 高 め る 方 向 に 動 く。こ う し た 戦 略 的 な 意 図 も あって 登 場 し た の が、
「定期付終身保険」である。これはベースが養老保険に代わって終身保険になったものだ
が、一九八三年以降、急速に定期付終身保険の契約が増加し、やがて従来の主力商品であ
った養老保険に取って代わるに至った。
 つまり、日本人が元来、「生保好き」だったというわけではない。よりたくさんの手数
料を取りたいと考える保険会社の販売戦略が、そうさせたのである。
外野に飯を食わせられるか
 この点について、「誰がどういう商品を売ってきたのか」という、販売側のインセンテ
ィブから考えてみたい。まず、典型的な生命保険商品の手数料構造を見ていこう。
 図 は日経新聞が掲載した、大手生命保険会社の典型的な定期保険の手数料構造の分析
3
である。あくまで業界外部からの推定値なので、正確性は必ずしも保証されていないが、
大まかな傾向はつかめるはずだ。
 ここでは、「死亡すると三〇〇〇万円の保険金が支払
出所:日本経済新聞 2004 年 11 月 7 日記事「マネー入門」より

われる、更新期間が十年の定期死亡保険」を前提として
いる。
 まず、三十歳で契約したとする。大手A社の場合、十
年間で総額七四万円の保険料を払い込むが、そのうち、
保険金の支払いに充てられるのは二八万円で、全体の四
割にすぎない。残りの六割にあたる四六万円は、保険会
社の経費と利益となる。営業の人件費がかからないので、
図 3 定期死亡保険のコスト構造

比較的手数料が安いとされる通販系の生保でも、支払総
額五七万円のうち、五割以上が手数料となっていること
がわかる。
第一章 生保の GNP

 こ の 分 析 に よ れ ば、典 型 的 な 定 期 保 険 (か け 捨 て 型 の
保険)について、全体の三五〜六二%までが保険金の支
払いではなく、生命保険会社の経費や利益に充てられて

41
いることが分かる。
 この点について、株式投資に関するベストセラーを書いたある評論家は、テラ銭はパチ

42
ンコ屋で二割、競馬で二割五分、宝くじで五割強。生命保険は、それらよりも悲惨なギャ
ンブルだと評した (「山口揚平の時事日想」 http : //bizmakoto.jp/
)。
と ばく
 賭博との比較が適切かどうかはともかく、ひとつ言えることは、顧客の立場からすれば、
金融商品であれ何であれ、「胴元」が徴収する手数料は、財務の健全性を損わない限り、
安いほど望ましいということだ。
ふ か ほけんりよう
 保険会社が経費を賄うために取る手数料部分のことを、「付加保険料」と呼ぶ。一般に、
多くの営業職員を抱えて人海戦術による営業活動を行っている保険会社は、付加保険料が
高い。一方、ネットや通信販売のように営業職員を持たない会社は、付加保険料が低い傾
向がある。
このような保障性商品の高収益性が、わが国の「保険漬け」を生んだ大きな理由と考え
 
られる。
 同一商品・同一料率の下では、販売競争が激化していくと「営業職員にどれだけ多くの
コミッションを払えるか」がシェア争いの勝ち負けを決める最大の要因となる。そこで、
生保各社は、商品をよりたくさんの手数料が取れる、つまり収益性が高い商品設計へと、
どんどんシフトしていった。
つまり、日本の生保業界は、一社専属の営業職員が人海戦術で売り歩くという、高コス
 
トの営業部隊を中核としたビジネスモデルをささえるために、高収益をもたらす保障性の
商品を販売してきたのである。
 そしていまや、全国に支部・支社を構え、あまたいる営業職員を管理するための膨大な
オーバーヘッドを抱え、巨大な労務管理組織を維持することそれ自体が、多くの生命保険
会社のレーゾン・デートル (存在意義)になってしまったのである。
おなじみの「女性セールスを中心とした販売モデル」は、欧米では見られないビジネス
 
モデルであり、戦後五十年は抜群の販売力を誇った。高度経済成長によって、企業の経済
活動をになう賃金労働者が「一億総中流」と呼ばれるサラリーマン階層へと成長していっ
た。全国の隅々まで配置された生命保険会社の女性セールスが、彼らに対して保険商品を
第一章 生保の GNP

提供していった。
 厚い専業主婦層が存在したことから、潜在的な生活保障ニーズは高く、「ご主人が亡く
なったときのために備えましょう」というセールストークは顧客の胸に響いた。また、女

43
性の社会進出の機会も多くなかったので、一年に五〇%という高い頻度で離職を繰り返す
営業職員の確保も難しくはなかった。金融インフラが十分に整備されていなかった当時、

44
彼女たちは販売のみならず、毎月の自動集金システムの役割も果たしたのである。
 このような動きが、貯蓄奨励の国家政策とシンクロして行われたことで、生命保険業界
が一大産業として発展していった (以上、『現代の生命保険』刀禰俊雄・北野実、東京大学出版

会 参照)
 ここで再び、
「誰がどういう保険を売っているか」という視点から、米・英・仏の商品
と販売経路について見てみよう (「生保・損保特集二〇〇七年版」週刊東洋経済 臨時増刊、一

〇〇〜一〇二頁 参照)
フランスでは生命保険の六割が銀行や郵便局で販売されており、保険会社の営業職員経
 
由は一六%にすぎない。生命保険料収入の八割を占めるのは、貯蓄性の商品である。期間
中に加入者が死亡した場合には、その時点での資産残高が払い戻されるだけで、死亡保障
はつかないという。死亡保障や医療保障などを提供する保障性の商品は、一五%にとどま
っている。
 イギリスで販売の主役を担っているのは、いずれの会社にも所属せず中立的な立場で商
品を販売する、
「IFA」と呼ばれるファイナンシャル・アドバイザーで、市場全体の七
割弱を占める。商品も約六割は年金商品であり、残り約四割の生命保険も貯蓄・投資に主
軸を置いた、一時払い変額に相当する商品である。純粋な死亡保障は、住宅ローンとセッ
トで売られているもの (わが国の団体信用生命保険)に限られるという。
 アメリカの生保市場では年金商品が五二%、死亡保障を含む生命保険が二六%、医療保
険が二二%。死亡保障を含むものでも、貯蓄性が強い商品が主力となっている。医療保険
の割合が大きいのは、アメリカには日本のような国民皆保険の医療保険制度に当たるもの
が存在せず、民間生保が提供していることによる。
 販売チャネルに関しては、一社専属の営業職員が三六%、複数の保険会社商品を取り扱
う乗合代理店が五四%となっている。
 このように、欧米各国では中立的な第三者が貯蓄性の商品を中心に売っている。
第一章 生保の GNP

 これらに対して、わが国においては、生命保険会社が自社で抱える一社専属の営業職員
の販売割合が、いまだに六八%を占める。
 一社専属という仕組みを維持するためには、収益性が高い商品を売らざるをえない。先

45
述したとおり、売り手にとって収益性が高いのは、貯蓄性商品ではなく保障性の商品であ
る。一社専属の営業職員は自社商品を販売する力は大きいが、コストも非常に高い。せい

46
ぜい数パーセントしか手数料を取れない貯蓄性の商品の手数料収入だけでは、大量に販売
しない限り、人件費はペイできないのだ。
 したがって、生保業界では長きにわたり、「顧客のニーズに合った商品は何か」ではな
く、
「既存の販売組織を維持するために必要な商品は何か」という観点から、高収益を確
保できる商品開発がおこなわれてきた。
 象徴的なエピソードを、大手生保の出身者から聞いたことがある。商品開発担当の若手
が市場調査を通じて顧客ニーズを調査して、「保険料が安い単品の医療保険」の開発を役
員会に提案したところ、「お前、それで外野 (=外交員)に飯が食わせられると思っている
いつしゆう
のか!」と一蹴されたというのだ。
 保険料が比較的低い単品型の商品では、営業職員チャネルを維持するだけの収益を上げ
ることはできないので、提案が却下されたことは明らかである。企業戦略としては正しい
かもしれないが、生保市場では健全な競争が行われないこと、会社が売りたいものだけを
とうた
売っていても、市場から淘汰されないことを前提にしていたものと想像できる。
第一章 生保の GNP

表② 日米英の保険料比較
(10 年定期保険の平均月額保険料・円換算)

30 歳 40 歳 50 歳 総額
有配当 7, 194 10, 980 21, 072 4, 709, 520
日本
無配当 6, 417 10, 410 21, 108 4, 552, 200
(3, 000 万円)
優良体 5, 175 8, 141 16, 594 3, 589, 094
喫煙・標準体 4, 944 7, 802 17, 372 3, 614, 215
アメリカ 喫煙・優良体 3, 864 5, 854 13, 239 2, 754, 852
(30 万ドル) 非喫煙・標準体 2, 419 3, 369 6, 980 1, 532, 220
非喫煙・優良体 1, 291 1, 647 3, 387 759, 036
イギリス 喫煙 2, 338 4, 458 12, 292 2, 290, 490
(30万ポンド) 非喫煙 1, 511 2, 467 5, 569 1, 145, 690
日本平均 6, 262 9, 844 19, 591 4, 283, 605
アメリカ平均 3, 130 4, 668 10, 244 2, 165, 081
イギリス平均 1, 924 3, 463 8, 931 1, 718, 090
日米差額 3, 132 5, 175 9, 347 2, 118, 524

出所:日本 http : //www.hoken-erabi.net/seihoshohin/goods/9034.htm、
アメリカ http : //www.term4sale.com/ マサチューセッツ州在住で見積
り、イギ リス http : //www.bestdealinsurance.co.uk/about.htm ロンド
ン市内在住で見積り
水準にあった。さらに細かく、
英と比較して二倍以上の高い
険の単純平均が、日本は米・
較 し て み た (表 ②)
に、日・米・英の保険料を比
由で入手可能なデータをもと
にあるか、インターネット経
国際的にみてどのような水準
 

い市場である。
も保険料が高く、収益性が高
の生保市場は先進国でもっと
から推察されるように、日本
 このような高い手数料体系
 世界一儲かる生保市場
日本の生命保険の保険料が
。定 期 保

47
健康優良体/非喫煙者向けの保険料を比較してみると、
出所:JP モルガン証券(ソニーファイ
ナ ン シャル ホール ディン グ ス)2007 年
表③ 世界の生保市場の収益率

48
最大四倍以上もの開きがあった。
8. 9%
3. 0 
2. 3 
1. 7 
1. 0 

 生命保険の収益性は商品によって異なるので単純に比
較することは難しいが、表③は、世界最大手保険グルー
プの、主要な市場における新契約の利益率をまとめたも
11 月 12 日より作成
のである。ここでの指標は、ある年度の新契約から保険
日  本
ド イ ツ
アメリカ
フランス
イギリス

契約期間中、将来にわたって得られる利益総額を、期間
中の払込保険料総額で割ったものである。
 これを見ると、日本は約九%と、他の主要国と比べて
圧倒的に高い利益率を誇っていることがわかる。続くドイツの三%、米国の二%と比べて
も三〜四倍、フランス、英国にいたっては二%弱、一%の水準である。
 貯蓄・投資性の商品のウェイトが高い英・仏の市場では、保険料に対する保険会社の収
益率は、一〜二%であることが直観的に理解できる。
 これに対して、米国・ドイツの生保市場は、日本と似て保障性の商品が多い。にもかか
わらず、二〜三倍の利益率を維持できているという事実は、いかに日本の生保市場におい
て競争が十分に進んでいないか、ということを物語っている。そして、そのコストを払わ
されてきたのは、日本国民である。
 このような日本の生保の収益性の高さに目をつけて、世界の保険メジャーが近年続々と
日本へ進出してきた。三十年以上前に「上陸」してシェアを拡大させた米国のAIG、ア
メ リ カ ン ファミ リー生 命 (ア フ ラック)に 加 え て、最 近 は フ ラ ン ス、オ ラ ン ダ、ド イ ツ、
カナダなどからもわが国の生命保険業界に参入してきている。
 そして気がつけば、外資系生保が保険料収入に占めるシェアは三割近くにのぼっている。
銀行や証券など、他の金融分野で、外資系がこれほど大きな市場シェアを持っている例は
少ない。生命保険業界では長らく参入規制が行われてきたが、日米通商交渉の歪んだ結果
と規制緩和があいまって、金融分野ではめずらしい「ウィンブルドン現象 (外資系プレイ
」が進行しつつあるのである。
ヤーが国内市場で優位にある状況)
第一章 生保の GNP

 当時の事情を知る関係者は、「銀行・証券への米国勢の参入を防ぐために、生保が差し
出された」と語る。

49
罪深い「転換セールス」

50
一九九七年四月、日産生命が経営破たんしたことにより、戦後五十年間続いてきた生命
 
保険会社の「不倒神話」が崩れた。それから二〇〇一年三月までの四年間で、中堅生保七
社が相次いで破たんした。終戦後、再出発した二十社のうち、七社が破たんしたのである
から、その衝撃は大きかった。
 この大きな要因は、バブル崩壊後に株価や地価が下落し、日銀の金融緩和政策で金利が
ゼロ%に近い水準にまで下がり、「逆ざや」が財務基盤に大きなダメージを与えたことで
ある。ピーク時には六・二五%もの金利をつけた貯蓄性の高い「一時払い養老保険商品」
の売上によって資産を急速に拡大した生保各社は、有利な運用の手段を一切失い、多額の
運用損を抱えることになった。
 この逆ざや問題解消の打ち手として、保険会社が進めたとされるのが、「転換セールス」
である。これは、過去に加入した商品で積み立てた保険料を振り替えて新しい保険に加入
することで、一見保険料は安くなったように見えるが、実際は利回りが高い商品を解約し、
低い商品への転換を勧める営業手法である。
「転換を増やすことで逆ざや解消を狙っているのではないか」、という見方に対して、生
保側は「転換すれば逆ざやは縮まるが、逆ざやを埋める意図で転換を推進している社はな
いと思う」と強く否定したが、大蔵省は、早くから転換セールスには問題があるとして、
改善を指導していた。たとえば、一九九六年二月二十八日付の生保協会メモでは、「(大蔵
省)保険第一課長より、転換についてトラブルが発生しないよう、募集においては転換以
外の選択肢も提示し、顧客の納得を得た上で転換することを現場責任者にも徹底するよう
要請がございました」とある。
 朝日新聞が生保の「転換セールス」の問題を追及する特集を掲載すると、現役の生保営
業職員や元職員から、悩みを打ち明ける手紙が続々と届いた。
「罪深いと思いつつ、給料のため転換を勧めている」
「転換しないと会社が苦しいからと朝礼で言われる。葛藤の毎日です」
第一章 生保の GNP

 全国の営業職員から朝日新聞への投書は止まることがなかった。一九九九年七月四日付
の紙面には、

51
「転換という手段で、お客さんの財産を巧妙に食いつぶし、胸を痛める毎日でした。(中
略)私も、成績が苦しい月には転換を勧めた。申し訳ない気持ちで自己嫌悪に陥る。人間

52
性まで変えて会社についていくことに限界を感じた。いま、生保時代の四分の一の給与で
働いている。だが、本当の自分を取り戻した気がする」(元営業職員)
「新規契約はなかなか取れるものではない。過酷なノルマを達成し、会社に残るには、転
換なしではやっていけない。上司からは、保険の見直し=転換と教えられ、それが当たり
前と思っている。みんな数字を上げようと必死。そもそも人の命にかかわる生命保険に激
しいノルマが課せられていること自体が異常だと思います」(大手の女性営業職員)
 という、現場の苦渋に満ちた声が載った。
 一九九九年八月、金融庁はこの「転換セールス」問題に対処すべく、生保会社に対して
転換による不利益情報などについて説明義務を課すと正式に発表し、問題は沈静化へ向か
った。
 この「転換セールス」の問題は、会社側の利益が最優先され、顧客にとっての利益がま
ったく無視されていたことに尽きる。金融知識が豊富な顧客 (この中には、カラクリを知り
尽くした生命保険会社の職員も多く含まれていたと考えられる)は、高い利率の契約を維持した
ほうが有利であることを理解しているので転換セールスに乗らないが、そうでない顧客は、
営業職員を信頼して高金利の貯蓄商品を手離してしまう。つまり、知識が少ない顧客だけ
が自分の意思とは無関係に個人の財産権を放棄し、生命保険会社の経営基盤の再強化のた
めに使われる。生命保険会社は、少なくとも一時期、その「禁じ手」を行っていた。
逆ざやが残した禍根
 二〇〇八年秋からの金融危機を受け、大手生保九社は〇九年三月期決算で、ここ数年、
縮小しつつあった「逆ざや」の金額を七〇〇〇億円弱にまで拡大させた。
 生保会社が契約者に対して保証し、保険料を計算する際に前提としている利回りを「予
定利率」という。「逆ざや」とは、実際の運用成績が予定利率を下回ることをいう。
 本来、保険料は年を取るたびに (死亡や病気のリスクが高まるので)高くなっていくはず
だが、保険会社は契約者の払いやすさを考慮して、長期にわたって保険料を一律に設定し
第一章 生保の GNP

ている (これを「平準保険料方式」という)

 逆にいうと、若いうちはその年に必要な金額よりも多く保険料を取っていることになる。
保険会社はこの余分な保険料を運用し、将来の支払いに充当するのである。その際の利回

53
りが、
「予定利率」である。
 生保の運用資産は約一二〇兆円。たとえば一九八五年に終身保険に加入した人は、生涯

54
にわたって五・五%の利回りが保証されている。予定利率が高かった時代を含む一九八一
〜九五年度の契約が、いまだに責任準備金残高 (将来の保険金支払いに備えて積み立てられて
いる負債勘定)の六割前後を占めていることから、生保の平均した予定利率 (資産コスト)
はおおむね三%前後と推定される。
これに対して、市場の金利は長期国債でみてここ数年、一・五%程度で推移している。
 
つまり、生保会社にとっては、三%の金利でお金を借りて一・五%前後の利回りでしか運
用できない状況が続いてきたわけだ。九〇年代、大手生保各社は毎年巨額の「逆ざや」に
苦しめられてきた。ここ何年かは株式や外債などの利回りによって、この差分をかろうじ
て解消してきたが、二〇〇八年秋以降の市場の急落によって、再び逆ざやが顕在化したこ
とになる。
 なぜ生保はこのように構造的に損を出し続ける状況に陥ってしまったのだろうか?
 理由として、前述したように一九八〇年代に死亡保障の市場が成熟化し、新契約の伸び
が頭打ちとなるなか、テコ入れするために予定利率の引き上げ (契約者にとっては実質的な
保険料の引き下げ)を 推 進 し た こ と が あ る。生 保 は 他 の 金 融 商 品 と の 競 争 に う ち 勝 つ た め、
高利回りを保証する一時払い養老保険や個人年金を拡販し、総資産を十年間で四倍以上に
膨張させた。
 それまでの生保といえば、低い予定利率で資金を調達し、高金利で安定した大企業向け
の貸付で運用するモデルを取っていたのだが、八〇年代に、高い利回りを約束した貯蓄性
商品が爆発的に売れたこともあり、それに対応するためリスク性資産へ運用をシフトして
いかざるをえなかったのである。
 予定利率が高すぎて、実現できない可能性が高いこ とを進言したあ る運用担当者は、
「そこを頑張るのが運用の責任だろう」と、取り合ってもらえなかったという。
 ライフネット生命社長の出口が一九九〇年当時に「アクチュアリージャーナル」に寄稿
した「運用差益配当の考え方について」という論文では、市場金利が八〇年をピークに八
七年頃まで低下していったにもかかわらず、生保が契約者に払っていた実質的な資金コス
第一章 生保の GNP

ト (予定利率+契約者配当)は一〇%という水準で高止まりしていたことを指摘している。
つまり、業界はこの時期、シェア拡大のために実体的な裏づけのない利上げ競争を続けて
いたわけだ。

55
 短期の商品であれば、一時的に高い利回りを約束してもリスクは限られていたかもしれ
ない。しかし、二十年を超える超長期の生命保険商品について、高い利率を保証すること

56
の危険性は、はかりしれない。そのことを想像することは、資産が急増し、株価も右肩上
がりの時代には難しかったのだろうか。
 それでは、その失敗のコストは誰が払っているのだろう?
 それは、その後、新たに生命保険にはいった加入者なのである。
 生保各社はバブル崩壊から十五年以上もの 間、この「逆ざや」による大きな損を、死亡
し さ えき
率が高めに設定されていることに基づく「死差益」で埋めてきた。死差益とは、保険料を
決定する際に織り込まれている死亡や入院などの発生確率と比べて、実際の支払いが低か
ったことによって得られる保険会社の利益である (第三章・一六〇〜一六二頁 参照)

保険の本業である「リスクの引き受け」から生まれる利益ともいえるが、データが公表
 
されている一九九九年から二〇〇二年にかけての四年間で見ると、逆ざやによる損である
り さ そん
「利差損」の累計額は、五兆六八七五億円に上り、「死差益」は一〇兆四三四五億円あった。
 ここで注目すべきは、六兆円弱の逆ざや (つまり高い予定利率)による利益を享受してい
るのが八〇年代から九〇年代前半に貯蓄性の商品を購入した契約者であるのに対して、一
〇兆円を超える死差益の源泉は、それからずっと後までの契約者も含めた、死亡保険や医
療保険の保険料からきている、という点だ。これらの契約者の利益は、本来なら配当とし
て還元されるべきものである。それが世代と商品間の垣根を超えて、保険会社の高すぎた
運用目標の失敗を穴埋めすべく、生存保険や個人年金保険の契約者に内部移転されている
ことになる。
 逆ざやを解消し、このような契約者間の不公平をなくすために、長い議論の末、二〇〇
三年七月に保険業法が改正された。生命保険会社の総代会や株主総会の特別決議を得れば、
過去の予定利率であっても引き下げることが可能になったが、しかし実際にそれを実行し
た会社はまだ存在しない。
 最近の二年間 (二〇〇六〜〇七年度の大手生保七社のデータ)では六八九〇億円の逆ざやに
対して、三兆九〇四一億円の死差益となっている。高い予定利率の時代に契約した加入者
の利回りを、その後に契約された人たちに還元されるべき利益から払う、このようなアン
第一章 生保の GNP

バランスが依然として続いているのだ。
失われた二十年

57
 日本の生命保険業界は敗戦によって大打撃を受けたが、その後の経済復興とともに、目
覚ましい成長を遂げた。バブル期にひとつのピークを迎えたが、九〇年代に入って一転、

58
バブル崩壊と超低金利のあおりをもろに受けると、長期の低迷期に入る。保有契約数も減
少の一途をたどった。生保経営に大きな打撃を与えた構造的変化とは、超低金利による逆
ざや問題と、少子高齢化という人口構造変化の衝撃である。
 超低金利政策の影響で、養老保険の保険料は五十年前の水準にまで戻っている (表④)

先述したように、一九八〇年代から顧客ニーズは死亡保障から医療保障や生存保障 (年
 
金)にシフトしていた。しかし、生命保険会社はその変化に正面から向かい合うことはな
く、死亡保障を大型化した商品を、販売組織の拡大戦略によって押し込み続けていた。頭
打ちとなった死亡保障商品の販売をテコ入れするために、予定利率を引き上げることで保
険料の値下げをはかったりした。
その一方で、生保の思惑に反して、八〇年代の金融自由化・国際化の流れが、貯蓄性商
 
品の販売増につながった。金利自由化の動きと相まって消費者の金利選好意識が高まり、
市場金利が下がるなか、「一時払い養老保険」が高利回りの金利商品として爆発的に売れ
た。
当時は金利が高かったことから、貯蓄性商品の利回りで高い保険料がいくらか相殺でき
 
たほか、平均所得や資産価格も伸びていたため、高い保険料は問題とならなかった。
しかし、バブルが崩壊し、超低金利政策が取られたことで、戦後の生保業界の成長を支
 
えてきたマクロ的な環境要因はすべて反転した。所得は伸びない、金利が低いので貯蓄性
商品の人気が下がる、ないし貯蓄の利回りで高い保険料を相殺できない、死亡保障ニーズ
はますます小さくなる。こうして個人保険の契約高はますます減っていった。
 そのような構造的な矛盾を象徴するひとつの出来事が、保険金の不払い問題である。

』ニッセ
 払われなかった保険──不払い問題
(30 歳で加入、30 年満期、保険
金額 100 万円の年払い保険料)

37, 600 円

28, 900 円
21, 670 円

19, 578 円

29, 393 円

31, 416 円
表④ 養老保険料の推移

保険料

長い間、保険料を払い続けてきたのに、い
 

(新版)
ざ事故があって請求したときに、払われるべ

『生命保険の知識
き保険金が支払われない。そんな保険制度の
第一章 生保の GNP

イ基礎研究所編、2001
信 頼 を 根 本 か ら 揺 る が す「保 険 金 不 払 い 問

1946. 11
題」が、ここ数年大きな問題となった。

1959. 4
1981. 4

1990. 4

1999. 4

2001. 4
年月
 それは二〇〇五年二月、明治安田生命で死

出所:

59
亡保険金の不払いが発覚し、金融庁が二週間
の業務停止を命じたことに端を発した。このことを受けて、金融庁はすべての生命保険会

60
社に自社の不払いの状況に関する調査を指示したことで、一社の問題から、業界全体に波
及する大問題へと発展した。
 同年十一月に各社が公表した報告結果は、不払い件数は一社あたり数十件にとどまると
いう内容だった。この調査結果から、生保各社がこの問題をまだ真剣に捉えていなかった
ことがうかがえる。
 二〇〇七年二月、金融庁は自主調査結果が不十分であるとして、再び生保各社に対して
過去五年間の保険金支払状況の調査を命じた。また、調査対象を狭義の「不払い」である
「不適切な不払い」事例だけでなく、「請求をしていない契約者に対して、会社側から請求
勧奨を怠ったもの」という事例にまで広げたところ、不払いの件数・金額ともに、時の経
過につれて拡大していった。
 報告期限の四月十三日に行われた中間報告では、不払いが四十四万件、三五九億円に上
ることが判明。また、事実確認できていない案件が百九十二万件残っていることも発表さ
れた。
中間報告の後も、ゴールデンウィークから夏にかけて、各社の検証作業が続いた。
 
 ある大手生保では、内勤職員の約半分である四千六百人が投入され、東京本部の社員食
堂に詰め込まれて、過去のすべての契約について書類を目で確認する作業が行われたとい
う。別の大手生保では、各部署から部長クラスまで含めて割り当てられた人数が調査参加
を求められ、研修センターにこもって三百万枚を超える診断書の内容をすべてパソコンに
入力した。本社の課長クラスの人間が調査をしているうちに、自分が過去に請求した医療
保険に不払いがあったことに気がついた、という話も聞こえてきた。
この間、通常業務も停滞した。外国債券市場では、ゴールデンウィーク明けには、為替
 
市場が再び円安に大きく振れると噂されていた。不払い調査に駆り出されていた生保の運
用担当者たちが現場に戻り、一斉に外債の注文を出すからというのだ。そんな冗談のよう
な噂が、まことしやかにささやかれていた。
 調査に追われる生保各社にとっては、厳しい夏だった。連絡を取ろうにも、連絡先が不
第一章 生保の GNP

明になってしまった過去の契約者が多数いる。手紙を出しても電話をしても訪問しても、
接触できない。困り果てて市役所に転出先を聞こうとするが、門前払いにあう。夏を過ぎ
ても、底は見えなかった。

61
 二〇〇七年十二月七日、生命保険三十八社の保険金不払い調査報告が出揃った。その結
果、二〇〇一年度から五年間の不適切な保険金不払いが、百三十一万件、九六四億円に上

62
ることが明らかにされた。
 二 〇 〇 八 年 七 月、金 融 庁 は こ の う ち 不 払 い が 多 数・多 額 に 上った 十 社 (日本生命、第一
生命、明治安田生命、住友生命、朝日生命、富国生命、三井生命、大同生命、アメリカンファミリ
ー、アリコジャパン)に対して、業務改善命令の行政処分を下した。この処分をもって、不
払い問題は一応の決着をみたことになる。
 一連の不払い問題が起きた理由は、表面的には支払管理態勢が不十分だったことにある。
しかし、より本質的には「販売至上主義」と、生保のカルチャーとしての「顧客軽視」が
あったと考える。
 すなわち、誰も理解できないような複雑な商品を、五〇%という異常な離職率にある営
業職員に厳しいノルマを課して押し込ませていたことから、契約内容をよく理解しないま
ま入っている顧客がたくさんいることに、本来的な問題があるのである。
 したがって、不払い問題に本格的に取り組むためには、支払管理態勢の強化だけでは足
りず、商品の簡素化と、営業職員の資質向上が不可欠なのだ。
「生命保険は、文明がこれまでにもたらしたものの中で、悪党がもっとも利用しやすい、
便利で永久的な巣窟であると信ずるようになった」
 十九世紀の米国生保行政の礎を築いた立役者の一人、エリザー・ライトの言葉である。
 わが国の生命保険業界は、「悪党の巣窟」とも呼ばれかねない不信を払拭し、国民の信
頼を回復することができるのだろうか。
第一章 生保の GNP

63
第二章 煙に巻かれる消費者 ──誤解だらけのセイホ
第二章 煙に巻かれる消費者

65
66
ライフプランナーのお兄さんがやってきた
 戦略コンサルティング会社に就職して、意気揚々としていた社会人二年目のこと。総合
商社に勤める大学時代の同級生から、電話がかかってきた。
「岩瀬、保険入ってる? たまたま、すごくいいお兄さんに会ってさぁ。お前も、話だけ
でも聞いてみればいいかな、と思って。俺も別に紹介したからって何かあるわけじゃない
んだけど、お前ならいいかもな、と思ったんだよ」
 ちょうど時を同じくして、母からも生命保険に入るよう急かされていた。「社会人にな
ったんだから、保険くらい入っておかなきゃ。ガンとか病気になったら、治療にお金たく
さんかかるのよ。お母さん、そんなの払えない」。心配性の母らしい言葉だった。
 承諾すると、すぐに外資系生保の営業マンから電話がかかってきた。「保険に入るとか
入らないとかではなく、まずは、お話だけでもどうでしょう?」
 会社の会議室に現れたその人は、当時抱いていた「生保の営業」というイメージからは
かけはなれていた。洗練され、押しつけがましくなくて、紳士的。聞けば、以前は証券会
社に勤めていたという。金融に詳しそうでいいな、というのが第一印象だった。
「奥さまは?」と聞かれて、独身だったにもかかわらず、当時付き合っていた彼女と数年
後に結婚する、というライフプランを組み立てられた。「お子様は?」と続けて聞かれる。
こうして将来の生活設計を誰かと一緒に考えるのは初めての営みであり、なんだか楽しか
った。いもしない妻と子供を守るために、すぐにでも高い保険に入らなければならないよ
うな気になった。
「岩瀬さんのような外資系の方々は、みなさん、若いころから二万円くらいは保険に入っ
てますよ」
 そんな言葉に、プライドをくすぐられた。どれだけ多くの保険料を払えるかが、自分の
第二章 煙に巻かれる消費者

価値を決めているような気がした。きちんとした身なりの彼が、自分のライフプランをき
っちり考えてくれているなんて、まるでプライベートバンカーがついたみたいじゃないか。

 もっとも、コンサルタントという仕事に就いている以上、相手の言葉をうのみにしては
いない。ちょっと勉強して、いろいろと質問もしてみた。だが、実際は本質的なことに切
り込むわけでもなく、ちょっと営業マンに意地悪をしてみた、そんな自己満足に終わる程

67
度にすぎなかった。
「他社の商品と比較をしたいので、資料を持ってきてください」。そう
依頼してもみたが、うやむやにされ、そのうちに、どうでもよくなった。

68
 このとき、提案されたプランは、変額の終身保険だった。「自分で運用ポートフォリオ
の中身を決められる」という言葉と、「二%の場合」「三%の場合」「五%の場合」と「上
ブレケース」を記した運用実績表を見せられて、高い運用益を狙えそうな気がした。
 三、四回、やり取りした頃だろうか。契約内容については、何度も説明を聞いた。その
場では分かったつもりなのだが、次に会う頃には忘れてしまっており、毎度同じ内容を聞
いた。いよいよクロージング、ということで面接士と健康に関する質問のやり取りをして、
最終的にサインをした。
 こうして、毎月二万円の保険料を三十年以上払う、すなわち総額八〇〇万円近い買い物
を、内容を十分に理解しないままにしたわけだ。加入した後は、肩の荷が下りたというか、
やらなければならなかった義務を果たしたような気がして、すっきりしたのを覚えている。
あとは毎月、勝手に保険料が引き落とされていった。
 契約後は一年に一回、思いだしたようにそのお兄さんはやってきた。きっと、手帳にこ
ちらの誕生日だか契約日だかが書いてあって、訪問するのがルーチンになっていたのだろ
う。話す内容は決まっていた。「最近、どうですか」と「誰か紹介してくれませんか」、そ
れだけだった。顔を合わせるたびに、「そういえば、僕が入ってる保険ってどういうので
したっけ?」と聞いてその都度、説明してもらったが、何度聞いても「変額終身保険」の
仕組みが理解できなかった。
「俺って、もしかして頭悪い?」と、ふと考えたこともあった。でも、そんなこと人には
言えない。というより、わざわざ生命保険を日常会話の話題にあげるようなことはなかっ
た。生保のことを考えるのは、お兄さんから「誰か紹介してくださいよー」という電話が
あったときだけだった。
 今の仕事をはじめてから、その会社の営業マニュアルを目にする機会があって、愕然と
第二章 煙に巻かれる消費者

した。そこに書かれていたセールス話法の「台本」は、私が聞かされた話法そのままであ
った。そして、私のために、オーダー・メイドで設計してもらったはずの保険プランが、
そっくりそのまま、そのマニュアルには描かれていたのである。
スパゲッティのように複雑

69
IT用語に、
「スパゲッティプログラム」という言葉がある。複雑に絡みあってグチャ
 
グチャになってしまい、簡単には理解できなくなっているプログラムのことを、皿に盛ら

70
れたスパゲッティに例えてこう呼ぶらしい。
 この場合、責められるべきは、読みとるのに四苦八苦する後任のプログラマーではない。
そのようなプログラムしか書けなかった元の作成者の力量こそ、問われるべきである。
 大手生保のホームページで推奨されている主力商品をはじめて見たとき、この「スパゲ
ッティのように複雑」という表現が脳裏をよぎった。たくさんのものが入り組んでいて、
複雑でその姿がよく理解できないからだ。
表⑤は、ある会社の主力商品の例である。決して、複雑さを強調するために、複雑な商
 
品を選んだわけではない。ホームページから見積もりをしたら真っ先に表示された、同社
の標準的な商品である。
 パッとみて、これがどういう内容の保険か、保険事故が発生したときにいくら支払われ
るのか、すぐに把握できる人がどれだけいるだろうか。
 この仕事を始めてわかったのだが、生命保険を理解できていない人は、決して少数派で
はない。ビジネスパーソンも主婦も、若者も年配の方も、そして金融のプロでさえも、同
じように生保の仕組みについては理解できていない。「セイホってよく分からないよね」
第二章 煙に巻かれる消費者

表⑤ 大手生保の主力商品 (32 歳・男性)

終身保険   一時金 100 万円


定期保険特約   一時金2, 900 万円
3 大疾病保障定期保険特約   一時金 200 万円
再発 3 大疾病保障定期保険特約   一時金 200 万円
疾病障害保障定期保険特約   一時金 200 万円
介護保障定期保険特約   一時金 600 万円
特定損傷特約   一時金 5 万円
新成人病入院医療特約   日額 5, 000 円
通院特約   日額 3, 000 円
新災害入院特約   日額 10, 000 円
新入院医療特約   日額 10, 000 円
がん入院特約   日額 10, 000 円

保険料 27, 235 円


純なものだったのではないか。これを難し
死亡保険金が払われる」という、極めて単
 生命保険商品も、本来は「亡くなったら、

を選ぶだけだ。
険料と保障範囲のバランスを考えて、商品
けのものであり、あとは契約者が支払う保
故にあったら保険金が払われる」というだ
ういないだろう。自動車保険は「自動車事
な自動車保険を選べない」という人は、そ
サルタントに相談しなければ、自分に最適
き な い」と 語 る 人 は あ ま り い な い。「コ ン
 例 え ば、「自 動 車 保 険 が 難 し く て 理 解 で

なってしまったのだろう?
 

と、みなが口を揃えて言う。
なぜ、生命保険だけが、ここまで難しく

71
くしてしまったことは、保険会社の責任ではないのだろうか。

72
生命保険が理解しにくい理由は、大きく分けて二つあると考えている。
 
 ひとつは、生保各社が売り出している保険商品が、多種多様な内容の保障と特約をまる
で福袋のように詰め込み、「一つの商品」としてパッケージにしているからである。その
複雑さは、先ほどの例 (表⑤)を見れば一目瞭然だろう。
保険会社の商品開発担当者は、加入者に十分な安心を与えるために、いろいろと知恵を
 
絞って、手厚い保障内容の商品を設計したのかもしれない。しかし現実は、その配慮とは
裏腹に、あまりに多くの機能を一つの商品に盛り込みすぎた結果、契約者が理解できない
ほど (ときには、それを売っている営業職員も理解できないほど)
、商品が複雑化してしまって
いる。
 商品の保障内容を複雑にすると、いくつもの弊害が生まれる。
 まず、契約者自身がどのような内容の保険に加入しているのか、わからなくなり、請求
時に支払われると思っていた保険金が支払われないケースや、請求することすら忘れてし
まうといった、不払いのトラブルを起こすもとになる可能性がある。
 また、複雑な商品は他社との比較が困難なため、商品が魅力的なものかどうかの判断が
難しくなる。それに加えて、保障内容を増やせば増やすほど、保険料は高くなってしまう。
うがった見方をすれば、生命保険会社は商品をわざと理解しにくくし、比較ができない
 
ようにし、そして多くの収益を確保するために、このように複雑な商品を作ったのではな
いかと考えられる。
貯金はできないけど保険なら払える
 生 命 保 険 が 複 雑 に なって い る も う ひ と つ の 理 由 は、現 代 の 生 命 保 険 が「保 障」と「貯
蓄」という、まったく異なる二つの機能を内包していることにある。
「保障」とは、われわれが普通に考える保険、すなわち「保険事故にあったら、保険金の
第二章 煙に巻かれる消費者

支払いを受けられる」というものである。典型的なものに死亡保障や、医療保障がある。
保険会社は契約者集団から保険料という形で資金を集めて管理し、不幸にも保険事故にあ
った人に対して、プールされたお金の中から保険金を支払う。
 こ の 場 合、事 故 に あ わ な い 大 多 数 の 人 が 支 払った 保 険 料 は、戻って こ な い。い わ ゆ る
「かけ捨て」になるわけだ。そもそも保険という制度はみなでお金を出し合って、その中

73
から事故にあった少数の人に対してお金を支払うものであるから、すべての保険は本来的
に「かけ捨て」だともいえる。

74
これに対して「貯蓄」は、たとえば、満期時に受け取る満期保険金や、解約したときに
 
戻ってくる返戻金などである。
 長期の保険契約では、将来の保険料に充当するために、保険料の一部が積み立てられて
いるということもある。契約者ごとに積み立てられた「自分のお金」であり、保険会社が
資金をまとめて運用し、利殖分も合わせて将来の保険料に充てたり、満期などが来たとき
に、契約者に対して払い戻される。
 このように、「保障」と「貯蓄」は、相異なる性格をもっている。保障は、死亡保障の
ように、発生確率は低くとも、起こってしまうと経済的損失が大きい「万が一の事態」に
対して備えるものであるのに対して、貯蓄は起こる確率が高い、将来の出費 (住宅の購入、
子どもの教育費、老後の生活費)に備えるものである。
 また、保障は保険に加入した時点から、保険金満額の保障を受けることができるので、
現時点では十分な備えをもたない人が「時間を買う」ために入るもの、と言い換えること
もできる。
加入すれば、いますぐにでも数千万円の保障を手にできるというメリットがあるが、そ
 
の分手数料が高い。お金は自由に引き出すことができず、決められた保険事故にしか払わ
れない。したがって、子どもが独立するまでとか、老後の生活費が貯まるまでなど、必要
な時期に、必要な範囲に限定して加入するのが得策である。すでに十分な貯えがある人は、
いざというときの経済的な損失は自身の蓄えで備えればよいので、保険は必要としない。
 これに対して、子供の教育費やたとえば老後の生活費など、必要となる蓋然性が高い資
金については、貯蓄で備えることが必要となる。貯蓄は備えるまでに時間がかかるが、そ
の分、手数料などは小さくてすむ。必要であれば自由に引き出せるし、使途は限られない。
 保障が、事故にあわなければ、払い戻しを受けることがないお金であるのに対して、貯
第二章 煙に巻かれる消費者

蓄は、原則としてすべての契約者が、自分の積立金を払い戻してもらえるものである。
 保険会社の側からみても、両者は大きく異なる。保障は「保険リスクの引き受け」とい
う行為にあたるのに対して、貯蓄は「運用資産の預かり」になる。収益の源泉も、保障が
「死亡や医療事故の発生確率が、予定していたよりも低かったことによる保険利益」であ
るのに対して、貯蓄は「預かったときに約束した利率と、実際の運用利回りとの差額」で

75
ある。
 あとで詳しく述べるが、両者は保険会社が取れる手数料水準という点でも大きく異なる。

76
多くの場合、保障性の部分では保険会社は三割から六割近い手数料を徴収しているが、純
粋な貯蓄部分については、たかだか数パーセントの手数料しか取れない (常識で考えても、

一〇〇万円を貯蓄として預けて、三〇万円を手数料として取ることは許されないだろう)
 最後に、「保障」は保険会社 (と共済)しか提供できないのに対して、「貯蓄」は自分で
もできるし、銀行や証券会社などを通じて行うことも可能である。保険会社の貯蓄性商品
の特徴は、保険料の形式で保険部分と合わせて収納できることと (クレジットカード払いで
、長期の運用が可能であること、保険料控除を受けられること、といった利
貯金ができる)
点がある。ただし、最初の十年など、契約期間中の早期に解約をした場合には、解約ペナ
ルティ (のようなもの)を払わなければならないので、注意したい。
 ある女性FP (ファイナンシャルプランナー)の方に言われた言葉が、現実の人々の行動
について実に示唆に富んでいた。
「岩瀬さん。みんな、貯金はしなければいけないと分かっているけど、なかなかできない。
でも、保険料なら、毎月ちゃんと払えるんですよ」
このように性格が全く異なる機能を一つの商品に「合体」していることが、生命保険を
 
複雑にしている。自分がいくらを保障に払っていて、いくら貯蓄に払っていて、そのうち
いくらが自分のお金として戻ってくるかが、実にわかりにくいのだ。
かけ捨ては損ではない
 生命保険が「保障」と「貯蓄」という二つの異なる機能を組み合わせた商品であること
がわかると、気がつくことがある。
 それは、一般的に考えられている「かけ捨て保険は損」という認識が間違っている、と
いうことだ。たまたま、「かけ捨て」という言葉自体が「捨てる」という語感を含んでい
るため、損をしているかのような気分を増長させられるだけで、すべての保険は「保障」
第二章 煙に巻かれる消費者

の機能をもつ以上、
「かけ捨て」の要素を含んでいる。
 そもそも保険の本質は、大勢で寄りあって、いざというときのために少しずつお金を出
しあい、その積み立てたお金を保険事故に遭遇した人に対して支払う、という助け合いの
精神にもとづくものである。自分が払った保険料は、見えないところで積み立てられ、誰
かがそのお金をもらって助かっている。お金は捨てられているわけではなく、不測の事態

77
に遭遇した誰かの、経済的な損害を補うことに使われている。こう考えたとき、「せっか
く保険料を払ったのに、何も戻ってこないから損をした」と思う人はいないのではないか。

78
にもかかわらず、現代の生命保険において、純粋なかけ捨て型の保険が「損」という感
 
覚を覚えさせるのはなぜだろうか?
 人間の心理は複雑だから、友人に貸していたお金が忘れた頃に返ってくると得した気持
ちになるように、自分が払い込んだ保険料のことは、金額を含めていつか忘れてしまい、
のちに保険会社から戻ってくると、まるで得したかのような錯覚を覚える。だから、かけ
捨てが損で満期保険金は得、という気持ちにさせるのだろう。
 外資系保険会社に勤務した人から、興味深い心理テストの結果を聞いたことがある。
 かけ捨て型の医療保険と、保険料を上乗せする代わりに、無事故で生存していた場合に
事後的に「健康ボーナス」という形で保険料を返す、という二通りの保険を消費者テスト
で見せた。たとえば、保険料を一〇万円払って保障のみを確保する保険と、保険料を二〇
万円支払って、無事に満期を迎えたら一〇万円が払い戻される保険をイメージすればいい。
 この二つの保険のどちらがよいと思うかと聞かれて、消費者はどう答えただろうか。
 お金の出入りだけでみれば、両者の間に損か得かはないことはすぐにわかるだろう。後
者は、自分が多めに払い込んだお金を、後から返してもらっているだけだ。むしろ、期間
中にそのお金は使えないし、保険事故にあったり、亡くなった場合には払い込んだ保険料
の部分は返却されないので、かえって不利だとも考えられる。
 理屈は仮にそうでも、それでも後者を選ぶ人の割合が多いだろうな、とは想像できた。
私の予想では三対七くらいの割合かと思われた。
 結果は五対九五。すなわちほとんどの人が、「あとから一〇万円もらえるほうがお得と
感じた」と答えたのである。
 消費者が必ずしも経済合理性だけで動かないことについては、「行動経済学」という分
野で研究が進んでいるが、生命保険の分野では、このような「ボーナス」というものの不
合理な人気の高さがその一つのあらわれであろう。
第二章 煙に巻かれる消費者

 実際、現在販売されている生命保険商品の多くには、何らかの「貯蓄」の要素がついて
いる。毎月かけ捨ての保険料を支払いつつ、さらに自動的に貯蓄がされているわけだ。い
つからか、保険は必ず貯蓄を伴うものだ、と考えられるようになった。毎月強制的に収納
される貯蓄型保険は、能動的にお金を貯め続けることが苦手な人にとって、「お得な」気
持ちにする効能がある。

79
高金利だった時代には、生命保険を通じた長期の貯蓄商品は魅力があったのだろう。例
 
を挙げれば、かつての主力商品であった「養老保険」は毎月約二万円、三十年間の累計で

80
七二〇万円の保険料を払い込むと、期間中一〇〇〇万円の死亡保障を確保しつつ、満期に
は同額のお金をもらえたそうだ。このような時代に形成された生命保険の「貯蓄性」への
ノスタルジーが、いまも日本人のDNAとしてインプットされているのだろうか。
 しかし現在のように、低金利が長らく続く市場環境においては、長期で資金を固定化す
ることになる生命保険商品の貯蓄機能が、金融商品として有利な選択であるかは、慎重な
検討が必要だろう。金利が高く、これから金利が下がることが予想される時代に、固定金
利で長期の住宅ローンを組むことは得策でないだろう。同じように、これから金利の上昇
が予想される現在の低金利環境下において、長期で低い金利の運用商品に資産をロックイ
ンすることはよい選択ではないだろう。
 したがって保険は「かけ捨て」が中心になる。決して損でもお得でもない。
「何に備えるか」で整理すると三つしかない
 このような保障と貯蓄の違いについて理解したところで、改めて生命保険の商品につい
て見てみよう。
 私たちは現代社会において生活をする中で、意識しているか否かを問わず、思いがけな
い経済的な損失に直面するリスクにさらされている。たとえば、
・働けなくなって収入がなくなるリスク:世帯主の死亡や病気・怪我による就業不能、
不意の失業
・思わぬ出費がかさむリスク:大きな病気による医療費、交通事故による損害賠償
・長く生きていく上でのリスク:高齢になってからの医療費、老後の生活費
・保有する資産が毀損するリスク:住宅の火災などで滅失、事故で自動車が破損
第二章 煙に巻かれる消費者

 生命保険商品のラインアップは多岐にわたるが、「何に備えるか」という視点でわける
と、すっきり整理できる。
 生命保険商品には、大きくわけて次の三つの機能しかない。
①いざというときに、残された家族のための所得保障→遺族保障(死亡保障)

81
②病気・ケガによる入院・手術のための保障→医療保障
③将来に備えるため→生存保障(貯蓄・年金)

82
 ①の死亡保障は、生命保険の原点というべき商品である。家計を支えている人が亡くな
った場合に、収入が入ってこなくなることの経済的な損失を補てんする意味で加入する。
 少し広義にとらえると、これは「所得保障」を本質とするため、必ずしも「死亡」に限
らない。たとえば死亡に準ずる高度障害の場合 (両目失明、両足切断など)には「高度障害
保険金」が支払われる。また、高度障害には該当しなくても、実質的に就業不能になった
場合の保険は、このカテゴリに分類される。
 ②の医療保障は、病気やケガによる入院・手術に伴う出費に備える保障である。詳しく
は後述するが、わが国は公的な健康保険制度が非常に充実している。民間生命保険会社の
医療保険は、公的保険ではカバーされない出費について備える、補完的な位置づけにすぎ
ない。
 ガン保険は、さまざまな病気の中でも保障対象を「ガン」というひとつの病気に絞り込
むことによって、保険料を安く抑え、より手厚い給付を提供する医療保険の一種である。
 ③の生存保障は、将来に備える貯蓄・運用である。本来であれば、銀行や証券会社など
と競合する分野であるが、わが国では欧米とは異なり、業界の垣根が高く設定されていた
ため、これまでは本格的な競争は行われてこなかった。貯蓄、運用を主として、少しばか
りの死亡保障が付けられていることが多い。
 私たちが目にするさまざまな保険は、この三つによって説明ができる。
 たとえば、簡易保険が積極的に販売をしてきた「学資保険」。「子どもができたら、学資
保険に入らなくては」と考えている人も多いだろう。学資保険の具体的な仕組みは、以下
の通りである。
毎月、保険料を積み立てていくことは他の保険と変わらない。十八歳など満期に達する
 
と、満期保険金が支払われる。もし途中で、契約者である親が亡くなると、以後の保険料
第二章 煙に巻かれる消費者

払いが免除され、積み立てをしなくとも満期になった時点で満期保険金が支払われる。ま
た、期間中にお子さんが亡くなった場合には、少額の死亡保険金が支払われる。
 学資保険の機能は、積み立ての貯蓄・運用商品を購入し、お子さんが大学へ入学するま
での間、かけ捨ての死亡保険に入ることで、代替することができる。生命保険の三つの機
能のうち、
「貯蓄」と「死亡保障」で再現できるのだ。

83
私がそのカラクリを理解するのに苦労したのが、「終身保険」と呼ばれる終身型の死亡
 
保険である。
「一生涯の保障」というのは、医療保障だったらわかるのだが、死亡保障の

84
場合はしっくりこなかった。
 やがてその理由がわかった。人は必ず、いつか死ぬ。だから、終身死亡保険は、「保険
事故にあった人だけが保険金を支払ってもらえる」という保険とは異なり、すべての人が
いつかは支払いを受けることになるのである。七十歳、八十歳になったときの保険料も積
み立てておかなければならない。そのために、いつか払われるべき保険金を、ゆっくり積
み立てていかなければいけない。
 つまり、終身死亡保険は、「貯蓄」と「死亡保険」を組み合わせた商品なのである。
 若いうちに多めに保険料を支払い、将来のために積み立てて行く。年を取ると保険料は
ぐっと高くなるが、そのために積み立てられたお金から払われていく。途中で辞めたくな
ったら、その一部を返してもらえる。
定期、養老、終身の違い──生命保険の基礎
 生命保険商品が「保障」と「貯蓄」の二つの機能を合わせ持つことを理解した上で、ま
ず生命保険の基本をなす、「定期保険」「養老保険」「終身保険」の三つの類型について説
明していこう。
●定期保険
 純粋に死亡保障機能だけを提供する、生命保険のもっとも基本的な形である。いわゆる
「かけ捨て型の死亡保険」であり、略して「テイキ」と呼ばれる。貯蓄部分はほとんどな
いため、途中で解約しても返戻金はほとんど (商品によってはまったく)戻ってこない。
 保険期間は十年、二十年などと決められているが、満期になっても、契約を更新するこ
とで保障を継続できる。例えば、三十歳のときに十年定期に加入して、その後病気になっ
たとしても、四十歳、五十歳と満期のたびに更新を続けていくことで、長期の保障を確保
第二章 煙に巻かれる消費者

できる。
 保険料は更新時の年齢を基準とするので、年を経るごとに高くなっていく。十年定期と
二十年定期の違いは、どの期間で保険料を平準化するかだけである。例えば、ライフネッ
ト生命で三十歳で三〇〇〇万円の十年定期に加入すると、月額保険料は最初の十年が三四
八四円だが、四十歳からは七二四〇円にはね上がる。これを最初から二十年定期にすると、

85
保険料は四九〇九円で固定される。
86
●養老保険
 定期保険は極めてシンプルで、合理的な保険である。とはいえ、生命保険はどうしても、
「保険料を長期にわたって払いこんだのに、契約が終わったら何も戻ってこないのは損」
という心理がはたらく。それに応えるために、保障に必要な金額よりも多めに保険料を徴
収し、差額を保険期間中積み立てていき、満期が来たら返す、という仕組みの保険が生み
出された。増えていく積立金は、毎年の保険金にも充てられていく。その代表的な商品が、
養老保険である。
 養老保険はかつての大手生保の主力商品であった。たとえば三十歳から六十歳までを保
険期間として、途中で亡くなった場合は五〇〇万円が支払われ、無事に満期を迎えたら五
〇〇万の満期金を受け取ることができる、というタイプの保険である。
 これは、最初は、保険金五〇〇万円の「死亡保障」と「貯蓄」で始まる。年数が経って、
たとえば三〇〇万円積み立てられた時点では、この三〇〇万円の積み立て金と、差額の二
〇〇万円分の死亡保険の保険料を支払うことで、合計五〇〇万円の保障を確保しているこ
とになる。
 養老保険は、かけ捨ての死亡保険と貯蓄を組み合わせた商品であることがわかる。
 高金利の時代には、期間中の保険料を一括で払い込んで、高い利回りで運用される「一
時払い養老」が大人気となった。
●終身保険
 終身保険は「一生涯の死亡保障」を提供する保険だが、養老保険の一種と考えることも
できる。もっとも、保険期間は十年、二十年といった期間ではなく、男性が百六歳、女性
が百四歳を満期とするように、五十〜七十年と引き伸ばした超長期の養老保険である。
 六十歳、七十歳、八十歳と高齢になると死亡する確率は一気に高まり、その分、保険料
第二章 煙に巻かれる消費者

も高くなる。そこで、高齢になってからの保険料負担を軽くするために、将来必要となる
保険料を計算し、若いうちからその分を多く払い込み、積み立てておく。若いうちに払い
込む保険料の大部分は、将来の保険料を払うための積立金に充当されることになる。
お金が必要となったら、契約を解約することで積み立てていた保険料を返還してもらう
 
ことができる (解約返戻金)
。つまり、終身保険の積立金は貯蓄代わりにも使える。

87
 したがって、終身保険は死亡保障と貯蓄を合体させた商品と考えることもできる。
88
 以上見てきたように、複雑な生命保険も、「保障」、「貯蓄」の二つに分けて整理して考
えるとわかりやすい。保険の商品をみて、わかりにくいな、と思ったら、この基本に立ち
返って考えれば、すっきり整理できるはずだ。
 また、これとは別の区分として、「配当がある保険」と「無配当の保険」がある。
 配当がある保険は、保険料をいくらか多めに取る代わりに、当初想定した死亡率や運用
利回りよりも好ましい結果が出た場合 (つまり想定していたほど死亡者が出ないとか、運用が
、事後的に配当という形で契約者に返すものである。これに対して、無配
上手くいくなど)
当型は当初の段階で保険料を安めに設定する代わりに、その後の死亡率や運用利回りの結
果については保険会社がリスクを取るものである。
一生涯の死亡保障は必要ない
 死亡保障には、保障期間を限定することで保険料を割安に抑える「定期保険」と、一生
涯保障が続くとされる「終身保険」とがあるが、わが国では、これらを組み合わせた「定
期付終身保険」という商品が、長らく主力となってきた。
 終身型の死亡保障がどのような商品性を有するのか、米国の人気マネーサイト “Smart
に、
Money” 「定期保険か、終身保険か?」( http : //www.smartmoney.com, September 29,
)という興味深いエントリーがあったので、要点を紹介する。断っておくが、保険会
2000
社の人が書いているものではないので、自社の商品を勧めるために一定の見方を示す、い
わゆる「ポジション・トーク」ではない。
・定期保険は死亡保障しか提供しない。被保険者が亡くなると、受取人に対して、契約
の額面金額が支払われる。定期保険は一年から三十年の期間で契約することができる。
・これに対し、終身保険は、死亡保障に投資部分を合わせもっている。払い込まれた保
第二章 煙に巻かれる消費者

険料の一部はキャッシュ・バリュー (貯蓄)として積み立てられていき、契約者はこ
れを担保に貸し付けを受けることができる。
・死亡保障を求めている人にとって終身保険は、割高である。あなたは純粋な保険の部
分についてだけでなく、投資の部分についても保険料を払い込むことになるから。
・この余計に払うコストも、終身保険が投資商品として魅力的なものだったら、割に合

89
うだろう。しかし、多くの場合、これらは魅力的な投資商品とはなっていない。
・保険のセールスマンは、これらの契約を「老後の貯蓄プラン」と呼びたがる。毎月の

90
保険料のうち、一定部分を強制的に貯蓄して、老後に備えるからだ。しかし、老後に
向けた資産形成をするには、より有利な方法がいくらでもある。終身保険は、高い手
数料と販売コミッションを伴う。これらはときには、毎年の利回りから三%も引き去
ることになる。
  こ れ に 加 え て、こ れ ら の 保 険 に は アップ フ ロ ン ト で の (し か し 隠 さ れ た)販 売 コ ミ
ッション、典型的には一年目の保険料の一〇〇%だが (筆者注:米国の例) 、こ れ が 差
し引かれている。さらに困ったことに、投資の利回りがいくらかを知ることはできず、
支払った保険料のうちどれだけが保険に行って、どれだけが投資に振り分けられてい
るのかが、不明である。
・したがって、ほとんどの人にとって、もっとも適した生命保険は定期保険である。
・とはいえ、終身保険がすべての人にとって不利な商品、というわけではない。富裕層
は、相続対策として「保険信託」を作り、保険金から直接、相続税を支払うことがで
きる。また、四十代後半や五十代の人で家族ができたばかりの人にとっては、終身保
険も、一度は見てみる価値があるだろう。
 以上、私の個人的な意見ではなく、あくまでも米国の有力なマネーサイトで示された見
解であるが、まだまだ終身保険がメジャーなわが国においても、違う見方をするための参
考になるかと思う。
「保険料はどこでも同じ」ではない
 ある朝、新聞を開くと、こんな保険の広告が大きく出ていた。
 三五歳、一五〇〇万円の死亡保障が、毎月の保険料二八五〇円!
第二章 煙に巻かれる消費者

 入院日額一万円で一生涯の医療保障が、月々三三七〇円!
 一見、「安そう」という印象を持たれるかもしれないが、実際にこれらの保険が安いか
高いか、自信をもって判断できる人はほとんどいないのではないだろうか。
 生命保険の特徴の一つに、このような「適正な価格がわかりにくい」ということがある。

91
ほかの商品であれば、ある値段が高いのか安いのか、感覚的にわかる。それが生命保険に
ついては、まったく見当がつかない。

92
理由は、いくつか考えられる。
 
 まず、生命保険は頻繁に買うものではない。一生に一度か二度の出来事であるため、私
たちが「相場感」を持っていない。たまにしか食材の買い物に行かない男性が、八百屋で
ネギの値段を見ても、安いか高いかわからないのに似ている。
 また生命保険には様々な種類があり、似たような商品でも条件を少し変えるだけで保険
料がガラリと変わるため、複数の商品を比較するのが難しい。たとえば、同じ保障金額の
死亡保険でも、保障期間が十年か終身かによって、保険料は三〜四倍も変わってくるので
ある。前提条件を同じにして比較することを、英語では「アップル・トゥ・アップルで比
較する」と表現するが、生命保険の場合は、まさに、りんごとみかんとバナナを比較させ
られているようなことが多いのだ。
 さらに、生命保険にはあとから戻ってくる「満期金」「払戻金」「配当」などがあるため、
払い込んだ保険料のうち、「正味の」保険料がいくらなのかわからないということもある。
 総額一五万円を払い込んで一〇万円が戻ってくる保険と、総額二五万円を払い込んで二
〇万円が戻ってくる保険があったとしよう。支払総額は異なるが、正味の保険料はいずれ
も五万円であり、実質的に同等とみなすことができる (厳密に言うと、後者の方が運用する
。このような場
元本が大きく、わずかに多くの運用収益を見込めるので割高といえなくもないが)
合、どちらが高いか安いかは、一概にはいえない。
 このような理由から、生命保険は「適正価格」を理解するのが難しい商品になっている。
 そもそも、「生命保険なんて、どこから買ってもたいして変わらないのでは?」、こんな
ふうに考えている人も少なくないのではないか。
 かつては旧大蔵省の規制の下、商品や保険料はほぼ同一であり、大きな差はなかった。
このような時代には、もっぱら営業職員の人柄や熱意で生命保険商品を選ぶことが、ある
意味では合理的な選択だった。
第二章 煙に巻かれる消費者

 しかし、過去十五年間で生命保険業界の規制は緩和され、多様な商品と保険料が認めら
れるようになっている。保障内容がほぼ同じ商品でも、保険料は大きく異なる。ライフネ
ット生命の出口の言葉を借りれば、「生保は社会主義の世界から自由主義の世界に足を踏
み入れた」(『生命保険入門』岩波書店)のである。

93
 次頁の表⑥を見てほしい。三十歳男性、保険金三〇〇〇万円、保険期間十年という条件
表⑥ 各社保険料の比較
契約条件:30 歳男性、期間 10 年、保険金額 3000 万円、月
払口座振替扱い

保険会社 年保険料 注

A社 79, 265 円 A 社と B 社は有配当保険のた


め、両社開示の類似商品配当例
の直近配当率から配当額を推定
し、年間保険料から減額した

B社 81, 117 円

C社 74, 520 円
D社 60, 840 円

E社 71, 640 円
健康体割引

C社 37, 440 円 非喫煙条件あり


D社 57, 240 円
出所:日本経済新聞 2007 年 10 月 24 日「金融研究報告──
日本経済研究センター理事長深尾光洋氏(経済教室)」より
「十 年 以 内 に 死 ん だ ら、三 〇
十年間では四三万円の差だ。
B社の半額以下の割引となる。
引」を使えば、C社の場合、
などを条件とした「健康体割
 また、非喫煙者であること

価格が二〇万円も違うのだ。
性能は同じ商品であるのに、
〇〇万円が払われる」という

ら、総額二〇万円の差になる。
ある。支払いは十年間続くか
保険料に年二万円以上の差が
 たとえば、B社とD社では、

を比較したものである。
で、各社の死亡保険の保険料

94
性能がほぼ同じ商品が、八〇万円と四〇万円で売られているということになる。
保険に「ボーナス」はない
 保障内容がほとんど同じ商品において、これほど大きな価格差が出る理由は何か? そ
れは保険料が決まるカラクリをみることで、明らかになる。
 生命保険会社の保険料を決めるのは、以下の三つの要素である。
①死亡や入院などの発生確率と、保障の範囲
②預かった保険料の運用利回り
第二章 煙に巻かれる消費者

③保険会社の経費や利益に充てられる手数料
 ①については、たとえば死亡保障については、三十歳よりも四十歳のほうが、死亡率が
高いため、保険料は高い。また、死亡保険金額を二倍にすればその分、保険料は高くなる。
 医療保障についていえば、すべての病気を保障する保険と、ガンのみに限定して保障す

95
る保険であれば、その他の条件が同一の場合、後者の方が保険料は安い。「七大疾病につ
いては安心の百二十日保障!」と、一定の病気については入院給付限度日数を二倍に拡大

96
している商品があるが、これも保障を広げている分、多く保険料を支払っていることにほ
かならない。しかも、実際は七大疾病だからといって、必ずしも平均入院日数が二倍に延
びるわけではないので、保険会社からすると、消費者の心配事の琴線に触れるキャッチコ
ピーで追加の保障を売るために、上手いセールストークを行っていることになる。
「一生涯の保障!」
「割安な保険料!」など、わが国ではよく見かける保険のキャッチコ
ピー。欧米では、こんな広告は見られない。保険というものは、保険料をたくさん支払え
ば、保障範囲を広げることができる。「一生涯の保障」は、その分保険料を多く払うこと
に、同様に、
「割安な保険料」はその分、保障範囲が狭くなることを意味している。
 ②の運用利回りについては、保険会社は高齢になってからの負担を軽くするために長期
で平準化して保険料を預かるため、若いうちは必要よりも多めにもらっておいて、そのお
金を運用して増やして、後年の保険料に一部を充当する仕組みになっている。したがって、
将来に向けて運用で増やせる部分が多いのであれば、その分保険料は安くなる。とくに貯
蓄性の要素が強い商品であればあるほど、そういう傾向がある。もっとも、現在の超低金
利の環境下では、保険料で予定されている運用利回りは非常に低いため、保険料の引き下
げには寄与していない。
最後に、③の手数料部分は保険会社が保険制度を運営するための必要経費である。つま
 
り、保険を販売し、契約の引き受けを審査し、毎月の保険料を収納し、保険事故があった
ときに保険金を支払う、そのオペレーションのためにかかる経費をいう。
 このように、
「保障の対価」として保険料が徴収されている以上、純粋に「お得な保険」
というものは存在しえないことがわかる。例えば、「六十歳以降は安心の保険料半額」と
うたった終身型の医療保険であれば、実態は「六十歳以降の保険料を、それ以前に前倒し
で払い込んでいる」という意味にほかならない。
 一般的な商品で考えると、たとえば定価一万円のものを三割引で提供するようなセール
第二章 煙に巻かれる消費者

が行われたり、あるいは隣の店で六〇〇〇円で売っているからうちでは五五〇〇円で売り
ますよ、といった競争がある。保険商品にもこうした「セール」「割引」があるのではな
いか? そのように考える人もいるかもしれない。
 しかし、保険商品の場合、こうした「セール」や「割引」は法律によって禁じられてい
る。以下、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を禁止している保険業法第三百

97
条を引用する。
98
(保険契約の締結又は保険募集に関する禁止行為)
第三百条 保険会社等 (略)は、保険契約の締結又は保険募集に関して、次に掲げる行
為をしてはならない。(略)
五 保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供
を約し、又は提供する行為
 このように、保険会社は契約者に対して、提供するサービスの対価として、必ずそのサ
ービスに相当する保険料を徴収している。ここで思い出してほしいのが「無事故だったら
健康ボーナスとして三年毎に一五万円」といった「ボーナス」を売りにした商品。人気が
ある商品なので、実際に目にされたことのある人、また契約している人もいるかもしれな
い。
「ボーナス」という言葉を聞くと、あたかもプレゼントがもらえるような気持ちになり、
「自分へのご褒美」として消費者の心理に刺さるように思える。がしかし、これもまた上
記の保険業法に照らし合わせるまでもなく、実質は決してボーナスではない。保険会社に
対して一五万円近く、余分に払い込んでいるにすぎず、それを何年か後にまとめて取り戻
しているというカラクリなのである。
 お得なボーナスなど存在せず、あくまでも自分自身が払い込んだお金を、手数料を抜か
れた上で返してもらっている……そうした生保のお金のカラクリは、営業マンは詳しく説
明してはくれない。「キャッシュバックされます」とだけ聞けば、魅力的に思えてしまっ
てもいた仕方ないことである。だが、こうした基本的な保険料のカラクリを知っているか
どうかで、保険に対する考え方がずいぶんと変わってくると思う。
 繰り返すが、保険会社が提供する保障に対しては、必ずその対価を払わなければならな
いというのが保険の原則である。保険に「無償のサービス」は存在しない。すべては自分
第二章 煙に巻かれる消費者

が支払っているのである。
 このルールは生命保険商品に限らず、すべての金融商品に該当することである。買い手
にとって、「お得な商品」など存在しない。すべては、トレードオフ (複数の要件を同時に
充たすことのできない、二律背反の関係)である。利回りが高い商品は、その分リスクも高く
なっている。保障範囲を広くすればするほど保険料は高くなるが、自分はどの程度の保障

99
内容と保険料に均衡点を見出すか。
 ネットや通販のような手数料が安い保険会社は事業経費が安い分、対面営業によるきめ

100
細やかなサービスはない。その分を、安い保険料として顧客に還元しているからである。
したがって、割高の保険料を払っても手厚いサービスを望むのか、あるいは自分でいくら
か手を動かすことで、その分の保険料を浮かせるか。その「選択」が迫られているわけで
ある。
「途中でやめたら損」とは限らない
 就職したばかりの新入社員に対して、生保セールスがよく使う口説き文句がある。
「若くて保険料が安いうちに入っておいた方がお得ですよ」
という言葉、これは本当なのだろうか?
 
 確かに、保険料は平準化して払うから若いうちに保険料を確定させたほうが、毎月払う
保険料は安くなる。
しかし、先に見たように、保険会社が提供する保障については、それに相当する保険料
 
を収受しなければならない。したがって、二十二歳で加入したときの保険料が三十歳で加
入したときの保険料よりも安いのは、二十二歳から三十歳の八年間で、その分多く将来分
の保険料まで払い込んでいるからだ。
したがって、
「若いうちに入ったほうがお得」ということはない。
 
 もっとも、若いうちに加入しておくメリット、というものはある。それは将来、健康を
害して、保険に入れなくなるリスクを回避することである。実際に社会人になって数年た
ったときに病気になってしまい、その後、結婚を控えても、子供が生まれても、生命保険
に入ることができずに困っている、という人を何人も知っている。
 とすると若くて、独身で、まだ多額の保険が不要な段階においても、「健康で、保険に
入れる」という権利を行使して、将来に備えて生命保険に加入しておく方がよい、という
考え方は十分に成り立ちうる。そしてこの限りにおいて、「保険には、若いうちに入って
第二章 煙に巻かれる消費者

おいた方がいい」といえる。
 次に、生保の営業職員が使うセールストーク、
「生命保険は解約すると損ですよ」
 について。これは、(バブル期に加入した予定利率が高い契約を除いては)生命保険の多くの
商 品 で、
「早 期 解 約 ペ ナ ル ティ (業界用語では「解約控除」)
」と も い う べ き 条 項 が 盛 り 込 ま

101
れていることが主な理由である。
 生命保険会社は、自社の営業職員や代理店などに対して、契約が成立すると一括して成

102
約手数料を支払うなどしており、新契約獲得にかかわる費用が非常に大きい。契約から五
年、十年と長期にわたって保険料を収受することで、この費用を回収していく。つまり契
約初期に大きなコストが生じ、これを長期の契約期間にわたって回収していくというビジ
ネスモデルなのである。
 だからこそ、大きな契約獲得費用を払って獲得した契約を早期で解約されると、保険会
社側には「損」が発生してしまう。その損について、契約者に負担を求めるのが、「解約
控除」と呼ばれる解約ペナルティである。
 しかし、このような制度は、はたして公平といえるのだろうか。
生保に限らず、一般に、長期の金融商品 (たとえば五年、十年の定期預金商品など)につい
 
て満期前に解約をした場合に、一定のペナルティを取られることはよくある。これは、銀
行側が長期に固定された資金を借りることによって、より高い金利を支払うことが可能に
なるからである。銀行が長期の運用を前提として高い金利を払っていると考えれば、契約
者側に早期解約による損失を一定程度、負担してもらうことは妥当かもしれない。
 これに対して生保の場合は、銀行のような運用面ではなく販売面の話であり、営業職員
や代理店へのコミッション (成功手数料)をどのように支払うかは、保険会社と売り手の
力関係いかんによって決まる。
 この解約控除制度については、保険会社からみれば、「新契約にかかった費用を確実に
回収する」という合理性を持つが、加入者側からみると、生命保険会社側が自らの判断に
よってコストを前倒しで使っているにも拘わらず、その回収リスクの一部が加入者側に転
嫁されるという不合理な仕組みだとする指摘もある。
 もっとも、この解約控除も、典型的には十年も経てばコストは回収されるため、消滅す
る。したがって、十年以上経過した契約は (過去に高い予定利率を保証する契約でなければ)

「解約すると損」ということがあてはまらないことになる。
第二章 煙に巻かれる消費者

医療保険は入ってはいけない!?
ファイナンシャル・プランナーの内藤眞弓氏による『医療保険は入ってはいけない!』
 
(ダイヤモンド社、二〇〇六)は十万部を超えるベストセラーとなった。
 テレビや新聞では保険会社による医療保険の広告が大量に流され、「とにかく医療保険

103
に入らないと困るのでは?」という漠然とした不安が国民の間では蔓延するなか、同書は
「(必ずしも)民間医療保険には入らなくてもいい」という一石を投じた。

104
以下で説明するように、将来予想される医療費の出費については民間の医療保険ではな
 
く、貯蓄を中心に備えるという考え方も、十分に成り立つ。
 大切なのは、漠然とした不安やイメージで判断するのではなく、
 ・実際に自分が病気にかかったときにどれくらい医療費がかかるのか
 ・医療保険に入っているといくらお金がもらえるのか
 といった基本的な事項について、客観的な事実やデータを理解したうえで、自分の懐具
合や嗜好に合った保険を選ぶことである。
 まず、医療保障の中核には国の健康保険があり、民間の医療保険はそれを補完するもの
にすぎない、という大前提の理解が必須である。
 すべての国民は、手厚い保障を提供する医療保険にすでに加入している。国が運営する、
健康保険である。民間の保険会社が提供する医療保険は、あくまでも健康保険で不足する
部分を補完する、副次的な保険に過ぎない。
かい
 健康保険は国民全員が加入する皆保険制度であり、所得に応じた保険料が徴収される
。医療サービスの基本となる部分は公的医療保険が担い、
(会社員であれば給与から天引き)
個人が負担するのは以下の費用である。
 ①治療費の自己負担部分 (現役世代などであれば三割)
 ②差額ベッド代
(病院の個室料金)
 ③大衆薬
④自由診療の費用
 
そして、これらを一定割合で備えるのが民間医療保険の役割になる。
 
 それでは、大きな病気にかかってしまったときに、実際にどれくらい自己負担費用がか
第二章 煙に巻かれる消費者

かるのだろうか?
実 際 に は、ほ と ん ど の ケース に お い て、医 療 費 の 自 己 負 担 額 は そ れ ほ ど 大 き く な い。
 
「高額療養費制度」という制度のおかげである。この制度によって、自己負担額には上限
が設けられている。標準的な所得層の人であれば、ひと月当たりの自己負担の上限は一〇
万円弱である。したがって、何百万円という医療費が仮にかかったとしても、原則として

105
ひと月当たりは一〇万円前後でおさまる。
 例えば、がんで入院して、治療に三〇〇万円がかかったとする。自己負担である三割を

106
計算すると九〇万円となるが、この場合であっても、自己負担はひと月あたり一〇万円+
αが上限となる。
 残念なことに、この高額療養費制度はあまり知られていない。内閣府の調査によると、
この制度の認知度は二十〜三十代で二割前後、四十〜五十代でも三割前後にとどまってい
る (内閣府「家計の生活と行動に関する調査」二〇〇六)

 このことは、大きな問題である。公的な健康保険を補完する民間医療保険を選ぶにあた
って、そもそもその公的な保障内容を理解していなければ、きちんと選ぶことは難しい。
 この自己負担部分に、健康保険適用の対象にならない「差額ベッド代」を加えた金額が、
実際の自己負担額となる。差額ベッド代の平均値は、約七割が日額五〇〇〇円以下で収ま
っている。残りの三割が、五〇〇〇円から一万円となっている。
 制度上、個室の利用については患者が選べることとなっており、またやむを得ずに利用
する場合は病院側が費用負担することとなっている。しかし、実際には病院側はこの差額
ベッド代を重要な収入源としており、実質的には利用を拒むことは難しい、とも言われて
いる。
 では、平均的な入院日数はどうか。
 近年では入院の短縮化が進んでおり、平均入院日数は三五・七日となっている。精神病
床等をのぞいた一般病床の平均入院日数はさらに短く、一九・八日。件数ベースでは、六
十日未満の入院が、全体の九割を超えている (以上、厚生労働省「平成十七年医療施設調査・
病院報告」
)。
 入 院 が 長 期 化 し や す い 病 気 と し て は、く も 膜 下 出 血 (平 均 八 十 二 日)
、高 血 圧 性 心 疾 患
、脳梗塞 (百六日)
(七十日) 、脳内出血 (百二十四日)などがある。がんは二四・六日となっ
ており、意外と短いと感じるかも知れないが、がんの場合は通院による治療を受けたり、
第二章 煙に巻かれる消費者

再入院を繰り返すことが多いようである。
 この点、標準的な医療保険の給付内容は、例えば以下のようになっている。
 ・入院給付金:入院一日あたり五〇〇〇円/一万円
▼一回の入院は六十日まで支払い (百二十日、百八十日などのタイプもある)

107
▼退院してから百八十日を過ぎてからの再入院については、通算で一〇九五日まで保障
 ・手術給付金:手術一回あたり入院給付金の十倍/二十倍/四十倍
(手術類型による)

108
 そして、実際に支払われた医療保険給付金の一件当たりの平均額を調べてみると、入院
給付金が約一四万円、手術給付金が約一一万円だった。
 つまり、一四万〜二五万円をもらうために、毎月四〇〇〇〜五〇〇〇円の保険料、すな
わち年間五万〜六万の保険料を払い込んでいることになる。人によっては、これはあまり
必要ない、と思われるかも知れない。
 以上について、病院の現場で患者さんの医療費支払いなどの相談に乗る「ソーシャルワ
ーカー」の方に、現場の声を聞いてみた。
まず、仮にがんと診断されて治療を受けたとしても、高額療養費制度があるため、
 
「患者さんが実際に窓口で負担する医療費は『月一一万〜一二万円と差額ベッド代』とい
う理解で、実際の現場と乖離していません」
 とのことであった。
 次に、一部の抗がん剤など「保険適用外の医療」を受けることについては、「東京で勤
務しているときはかなりの頻度で受けている人がいましたが、現在の勤務先は地方なので
そのような機会がないため、非常にレアなケースです」とのことだった。住まれている地
域によって、受ける医療もかかる費用も異なってくる。
 なお、最近では「先進医療」を特約で保障対象とする商品も増えているが、例えば三〇
〇万円前後の技術料がかかる「粒子線治療」が行われた件数はがん患者の〇・〇七%程度
と、確率としては (がんにかかったとしても)極めて低い。
最後に、「医療費の支払いで困っている患者さんはいますか?」と聞いてみたところ、
 
以下のような回答を受けた。
「民間保険の過剰なあおりを受けているためか、がんになると高額な医療費がかかると思
っている方が多いです。しかし、医療費の支払いに関する殆どの相談は制度の紹介で解決
第二章 煙に巻かれる消費者

します。制度の紹介で解決しないケースは、高額療養費すら支払うことのできない低所得
の場合なので、民間保険の対象者からは外れると思われます」
 米国では医療費によって自己破産をするケースがいくつもあると聞くが、このように公
的保険が手厚いわが国の場合は、そこまでの心配はなさそうである。
 考えてみれば、たまにテレビなどで見る「移植をするために海外へ渡航」などのケース

109
は一〇〇〇万を超える費用がかかるものであり、そもそも民間保険でも支払われるもので
はない。

110
月数千円から一万円までかかる医療保険の保険料も、数十年と払い続けると一〇〇万円、
 
数百万円近い金額になる。まずは実際にどの程度医療費がかかるのかを正確に理解し、そ
していざというときのための貯蓄を準備した上で、本当に必要な医療保険は何かを考えて、
準備する必要がある。
保険のありがたみを痛感した職安通い
 私自身は幸いにも、国内で保険会社から保険金を受け取るような事故にあったことはな
い。しかし、保険金にまつわる体験談は二つほどある。
 はじめて「保険金」なるものの支払いを受け、保険のありがたさを、身をもって知った
のは、社会人四年目の二〇〇一年夏のこと。転職したベンチャー企業がITバブルの崩壊
に伴い、開業からわずか一年であえなく店じまいしてしまい、次の就職先が決まるまでの
あず
間、失業保険の恩恵に与かることになった。
 渋谷区の職業安定所は、渋谷駅から徒歩十分、原宿方面に歩いたところにある。失業手
当をもらうのに必要な手続きを行うために、ここに数か月間、月に一回、指定された日時
に「出頭」した。
フロアには老若男女さまざまな人たちが、壁に張り出されている求人情報を必死の面持
 
ちで眺めたり、設置された専用端末を慌ただしく叩きながら職を探したり、はたまたのん
びり本を読みつつ待っていたりする。
 私はといえば、失業手当をもらう立場になってみてはじめて、保険というセーフティネ
ットの仕組みの大切さを痛感した。失業すると、心理的に少しずつ不安定になっていく。
私も最初は平気なつもりでいたのだが、自分がおかれている「失業+求職中」という状況
を人に説明するのがだんだん億劫になり、飲みの席に誘われても、出不精になっていった
ことを覚えている。
第二章 煙に巻かれる消費者

 そんななか、自分の口座に定期的にお金が振り込まれるのは、とても頼もしかった。当
時は独身で、家族の生活費や返済する住宅ローンがあるわけでもなく、当面の生活には困
らない程度の貯蓄もあったのだが、それでも嬉しかったし、救われた気持ちになった。こ
わら
れがもし、家族と住宅ローンなどを抱えて不意に失業してしまった人ならば、本当に藁に
もすがる気持ちなのではないか、そんなことを考えさせられた。

111
 失業保険はご存じのとおり、国が運営する公的な保険であり、営利目的でないことや強
制加入という特殊性はあるが、大勢の加入者から保険料を徴収し、不慮の保険事故 (この

112
場合は失業)にあった人にそのお金を振り分けるというその機能において、民間企業が運
営する「保険」となんら変わらない。
 たとえば、失業保険は「対価の支払い」を受けずに、無料で受給できるわけではない。
普段は意識していないが、われわれの毎月の給与から天引きされる形で、数千円の保険料
を支払っているのである。この払い込まれた保険料を集めて、失業という「事故」に直面
した人に対して「保険金」たる失業手当が支払われる、そういう仕組みになっている。
 この制度が健全に運営されるためには、制度を悪用しようとする人に対応するための策
が不可欠である。失業保険の場合、就職できるにもかかわらず、失業手当をもらえる期限
まで再就職しない人は少なくないだろうし、こっそりアルバイトをしながら失業手当をも
らおうとする人もいると聞いたことがある。このような、いわゆる「モラルハザード」を
防ぐためのチェック機能が必要な点も、民間の保険制度に似ている。
 保険金にまつわる二つめの体験は、留学先のアメリカで加入した医療保険だった。二年
間を過ごしたボストンが所在するマサチューセッツ州では、大学に合格した外国人が入学
を正式に許可されるためには、医療保険へ加入することが義務づけられていた。公的な医
療保険が存在しないアメリカでは、これは珍しくない。わが国で自動車保険の自賠責の強
制加入が義務づけられているのに似ているといえようか。
 大学が勧める保険に、ウェブ上のページを通じてクレジットカードで申し込んだのだが、
一括年払いで数十万円の保険料を支払うことに「高い!」と驚いたことを覚えている。し
かしふたを開けてみると、留学中、何度となく病院にお世話になることになり、帰国する
頃には「あの高い保険料は、すっかり元をとった」と、どこか得意気でさえあった。
 留学中に子どもが産まれたので、そのときにかかった出産費用もこの保険で支払われた。
入院・出産したのはハーバード大学の関連病院で、全国でも有数な小児科があるところだ
ったのも幸運だった。ホテルのような個室で、出産後はメニューから食事を選んで注文で
第二章 煙に巻かれる消費者

きたのが、印象的だった。
 これに加えて一度、韓国からの留学生仲間と夜の韓国料理屋でかなり真剣な「日韓戦」
に挑み、倒れて病院に運ばれる、という事件があった。後日、数十万円の請求書が送られ
てきたのだが、よく見れば救急車の費用だけで、「ずいぶん高いタクシー代だな」と思っ
たものだ。さらに、もう一枚請求書が送られてきて、入院時の検査と治療などで計一〇〇

113
万円近くかかっただろうか。医療費がこのように高騰している米国の医療制度は、大きな
問題を抱えているのは明らかなのだが、いずれにせよ、これらの医療費がすべて保険で払

114
われたので、ほっとした。
 アメリカで加入した民間の医療保険は、「かかった医療費・入院費を原則としてすべて
負 担 (場合によっては一部自己負担あり)す る」と い う、き わ め て 明 快 な も の だった。こ ち
らに心配させずに、「かかった費用はすべて払ってくれる保険」こそが、利用者のニーズ
にかなったものだと感じた。
 アメリカには公的な医療保険制度が存在せず、医療保険は民間の保険会社によって提供
されている。その結果、低所得者層を中心に、医療保険に加入していない人が約四千万人
もいると言われ、大きな社会問題になっている。
 たとえば、救急車で緊急入院しようとしたが、医療保険に加入していないために門前払
いにあい、複数の病院をたらい回しにされたあげく亡くなってしまう、そんな悲惨なケー
スが全米中で始終起こっていると、メディアはしばしば報じている。民間の病院は、経営
の効率化を求めてキャッシュフローの改善策として、保険未加入者の治療費未払いをなく
すよう、精力的に取り組む。その結果、基本的な権利である「医療を受ける権利」すら保
障されない人々が増えており、経済的な格差は助長されるばかりである。
 これに対して、わが国の公的な健康保険制度は、諸外国の中でももっともよく整備され
ているものの一つであるといわれる。まるで空気のように存在しているため、改めてあり
がたみを実感する機会が少ないのだが、医療費はほとんどが健康保険でまかなわれ、自己
負担分にも一定の上限が設けられている。
 このように、私たちは、そもそも国が運営する「公的保険」によって守られているので
ある。
民間の生命保険がすべてではない
 民間の生保以外の保障について、たとえば、死亡保障について考えてみよう。
第二章 煙に巻かれる消費者

仮に今日、私たちが亡くなったとしても、残された家族は無一文になってしまうわけで
 
はない。残された家族には、「遺族年金」なるものが用意されており、年齢や家族構成に
もよるが、たとえば年額約一〇〇万円の年金が、子どもが独立するまでの間に支払われる
ことになっている。
ちようい きん
 また大企業では、福利厚生制度の中で、亡くなった従業員の家族に対して弔慰金 (お見

115
舞い金)のようなものを準備している。労働組合によっては、遺児年金のようなものを用
意しているところもあるそうだ。

116
同様に医療保障についても、公的な健康保険が手厚く守ってくれている。企業の福利厚
 
生にも、病気などの休職期間中も一定割合の給与を保証してくれる場合が多く、これも一
種の医療保障といえる。
 そして、もっともよい「保険」となるのは、自身の貯蓄である。貯蓄は保険と違って、
資金を自由に引き出せ、使途は制約されない。もちろんすぐにはそんなに大きなお金を準
備できないので、いわば「時間を買う」ために保険があるわけだが、これらの社会保障を
基礎に、足りない部分を補うのが、民間の生命保険会社の保険商品である。
 表⑦は、社会保障と民間生保会社の事業規模を比較したものである。遺族への保障とい
う点では、公的保険が四兆六〇〇〇億円なのに対して、民間保険が三兆四〇〇〇億円と、
大きな存在感を示していることがわかる。
 医療費は、社会保険が約一五兆円で民間の医療保障が八〇〇〇億円。老後保障つまり年
金については、社会保険から三四兆円が支払われており、民間の六兆円はこれを補完して
いる。また、障害者や労働災害に向けられる資金は二兆七〇〇〇億円で、民間の高度障害
保険金などは三〇〇〇億円弱にすぎない。
第二章 煙に巻かれる消費者

表⑦ 社会保障と民間生保会社の事業規模(2001 年度)

①民間生命保険 (①/②) ②社会保険

死亡保険金 遺族
遺族保障
3 兆 4, 110 億円(74%) 4 兆 6, 118 億円

入院・手術給付金 保健医療
医療保障
   8, 118 億円( 6%) 14 兆 7, 392 億円

高齢(介護保険)
介護保障
(不明)
 ( ─ ) 4 兆 1, 228 億円
老後(生 年金・満期保険金 高齢(除く介護保険)
存)保障 6 兆 3, 360 億円(18%) 34 兆 3, 440 億円

災害・高度障害保険金・障 障害・労働災害
災害・障
害給付金
害等
   2, 806 億円(10%) 2 兆 6, 796 億円
失業
その他
3 兆 4, 680 億円( ─ ) 2 兆 7, 636 億円

合計 14 兆 3, 074 億円(23%) 63 兆 2, 609 億円

出所:金融庁 HP・金融審議会金融分科会第 2 部会資料(2004.


01. 16)出口治明『生命保険入門』より
は民間保険の役割が期
な保障が薄いところに
くてよく、他方、公的
ては、民間保険は少な
較的手厚い部分につい
ない。公的な保障が比
それを補完するにすぎ
生命保険はあくまでも
いるのであり、民間の
たちの生活は守られて
な社会保険によって私
ないということ。公的
民間がすべてなのでは
かることは、保険とは
 つまり、ここからわ

117
待される。

118
このように、民間の保険は公的保険と表裏一体の関係にある。
 
 生活上のリスクはすべての生活者が直面するものであり、人間社会においては古くから、
集団でそのような事態に備えるための仕組みが発達してきた。みなで少しずつお金を積み
立てて、親を失った子供に支払うという仕組みは、ローマ時代からあったといわれる。
 近代に入り、国家が市民の生活を守るための重要な制度として、社会保障の仕組みが整
備されるようになった。国が保険制度を運営することで、生活リスクに対する備えを提供
するのが、いわゆる社会保険である。
 もっとも、これらの給付を受けるためには、所定の条件を満たしていなければならない。
 サラリーマンであれば「社会保険料」が給与から天引きされているが、ここには年金保
険や失業保険、健康保険などの保険料が含まれている。
 仮に、国の社会保障の給付が完全であれば、民間の保険会社などは必要ないことになる。
世帯主が亡くなった家庭に対して、子どもを養育するのと、残された家族が生活していく
上で十分な金額の遺族年金が支給されるなら、生命保険に加入する必要はない。医療費が
すべて国の健康保険によって払われるのであれば、それに上乗せして保険会社の医療保険
に加入する必要は薄い。同様に、老後の生活費についてはすべて国が用意してくれるので
あれば、貯金も年金保険も不要かも知れない。
 しかし、実際にはこのようなことはなく、社会保障による給付は、生活をしていく上で
の最低水準に近いレベルであることが普通である。その理由の一つは、十分すぎる給付を
提供して、自助努力による補完を求めなければ、努力することなく給付を受け続ける、と
いうモラルハザードを招くからである。失業した人が、自らにとって十分安心して生活で
きるだけの金額の失業保険給付を受けられるとしたら、彼らの求職活動の意欲はそがれる
だろう。
第二章 煙に巻かれる消費者

 したがって多くの場合、人々は国による保障を補完するために、保険会社の生命保険に
加入するのである。

119
第三章 儲けのカラクリ ──生命保険会社の舞台裏
第三章 儲けのカラクリ

121
122
保険会社をゼロから作ったら
 突然だが、あなたが一〇〇億円の出資を受けて、新しい生命保険会社を立ち上げること
になったとしよう。何からはじめるだろうか?
 まずは、売るための商品を作らなければならない。保険商品はどのようにして作るのだ
ろうか?
 そもそも、保険商品には姿も形もない。あるのは、「保険事故にあっやた ら、ある金額を
つかん
支払う」という契約者との約束だけだ。その契約の内容、すなわち「約款」が保険の商品
そのものとなる。したがって、約款を作る必要がある。
 ひな形を入手するために、他社の営業所に行って、お客のふりをして約款が欲しいと申
し 出 て み た。す る と、「約 款 は 契 約 者 の 方 に し か お 渡 し し て お り ま せ ん」と 断 ら れ た。
え? 「加入するまではお見せできません」とのことだが、商品そのものである約款を見
ないで、どうやって加入を決めればいいのだろう? 保険会社の約款は、分厚くてきれい
なデザインで印刷されているから、一部あたりのコストが結構かかっている。だから、正
式に契約すると決まった人にしか渡さないそうだ。
しようがないので、保険に入っている友人に頼んで、何とか保険約款のひな形は手に入
 
れることができた。厚くて読むのが大変だったが、必要な部分だけを抜き出して、似たよ
うな内容の約款を作ることにした。商品パンフレットも申込用紙も、センスのいいデザイ
ンのものを作って、印刷した。これで、商品ができたことになる。
 この保険の値段はいくらに設定すべきなんだろう?
 通常の商品やサービスであれば、原材料や設備の費用、人件費を計算して、そこに販売
費用と一定の利益を上乗せして、価格設定をする。約款を作るための原価は、自分の人件
費と、パソコンと印刷費用くらい。これだと、ずいぶん安くなってしまうなぁ。
 調べてみたら、保険の「原価」は人件費や印刷費用ではないようだ。保険事故が発生し
第三章 儲けのカラクリ

たときに保険金を支払うために、保険会社は十分な保険料を集めておく必要があり、それ
が「保険の原価」になるそうだ。そのためには「保険数理」という専門的な数学の計算が
必要らしい。というわけで、保険料の計算を行う専門家を雇って、保険事故の発生確率と
その他の経費などを計算してもらい、保険料を決めてもらった。

123
開業して、必死に宣伝をしてチラシを配り歩いたら、申し込みが続々と入ってきた。オ
 
フィスにたまってくる申込用紙。これをどう処理しよう? ここで保険は、申込用紙が送

124
られて来てからが本当の勝負だということに気がつく。
 とりいそぎ、申込書のうち、保険契約として受けることができるものと、一定の病気を
持っている人など、やむを得ず断らなければならないものとに仕分けていくことにした。
査定を専門とする人間が必要だ。病気について詳しい知識と判断が必要なので、医師や看
護師もいた方がいいかもしれない。引き受けの可否については主観的に判断するのではな
く、一律の基準が必要となる。そこで、契約引き受けのためのルールブックを作らなけれ
ばならない。
 それから、引き受けることになった契約については、契約者のデータを入力し、保険料
の収納の手続きを取る必要がある。口座振替用紙を送ってもらったり、クレジットカード
の決済手続きを準備したり。はじめてみて分かったのは、口座にお金を入れ忘れていて保
険料が引き落とせない人や、引き落とし口座を変えたいという人が結構いること。その手
続きについても処理のルールを定めて、それにしたがって契約者に入金を督促したり、社
内のデータベースの変更をしていかなければならない。
数か月経ったとき、契約者から「スキーをしていて、転倒してけがをした。入院したの
 
で、医療保険の給付金を請求したい」という電話があった。確認するために、正式な請求
書と診断書のコピーを送ってもらう手続きを取る。届いたら、診断書の内容を確認して、
約款に定められた支払事由に該当するかを再度確認し、経理に振り込みの手続きを取って
もらう。
 この引き受けから料金の収納、そして保険金支払までの一連の手続きも、契約が少ない
うちは紙ベースで処理できたが、件数が多くなるにつれて、パソコンを使ってやりたいと
考えるようになる。査定のフローを電子化したり、顧客データの管理・変更や、保険料の
収納、保険金支払などの手続きもITでできるようにしたい。そこで、IT会社の人に頼
んで、システムを作ってもらう。
 一方、保険料として預かったお金は、運用して一定の利率で増やすことを前提に保険料
第三章 儲けのカラクリ

を計算しているから、資産運用をしていかなければならない。これも資産運用のプロを雇
って、社内でそれを管理する仕組みも作っていく必要がある。
は し よ
 少し端折って書いたが、生命保険会社には何が必要か、どのように動いているか、イメ
ージをつかんでもらえたのではないだろうか。

125
 本章では、申込を受け付けてから、生命保険会社が何をしているか、運営の舞台裏を覗
き見してみよう。それによって、また違った視点から生保のカラクリが見えてくるはずだ。

126
あなたが死ぬ確率は?──契約査定
 新たに保険契約を申し込む際に、保険会社は申込者の健康状態などから死亡・入院など
のリスクを判断する。これを「契約査定」という。
 査定の方法には、書面による自己申告 (告知書)や健康診断書を提出してもらうものか
ら、生保面接士や医師が面接をすることもある。その結果、契約を引き受けるか、保険料
を上乗せしたり、一部の部位について保障の対象外とするなどの条件をつけた上で加入を
認めるか、または加入を拒否するかを決定する。
告知については、契約者は、保険会社が尋ねる事柄について事実をありのままに答えな
 
ければならない。いわゆる「告知義務」が、保険契約者には定められているのだ。ありの
ままに正しく告知することが義務づけられており、仮に申告しなかった病気が理由となっ
て、後から支払い事由が発生した場合でも、保険金は支払われないことがある。この手続
きを行うのは、契約時点から健康状態がよくない人や、危険度の高い職業に従事している
人が被保険者として無条件に加入すると、保険契約者間の負担の公平性を保つことができ
ないため、と考えられている (前掲『現代の生命保険』参照)

生命保険契約における査定のポイントは大きく二つある。
 
 ひとつは体格、病気、職業などに関するチェック。もうひとつは、保険金を不法に取得
する目的がなさそうかといった「モラル・リスク」に対するチェックである。
 たとえば体格という点では、身長に対して体重が著しく重い人、または軽い人は標準体
に比べて死亡する確率が高いことが統計的に明らかになっている。BMIと呼ばれる標準
体重インデックスなどを用い、保険リスクの高い申込者が洗い出される。
病気に関しては、過去に病気やケガで入院したことがあるか、高血圧かどうか、心臓疾
 
患があるか、あるいは糖尿、タンパク尿があるかどうか、肝臓病になっていないかどうか、
腫瘍があるかどうか、胃腸や十二指腸の潰瘍になっていないかどうか、といった点を細か
第三章 儲けのカラクリ

く把握していく。
 それに加え、統計的に災害の危険度が高い職業、あるいは病気の危険性が高い職業につ
いては、加入に際して一部、制限を設けている保険会社が多い。
 これらはいずれも、過去の保険会社の統計データなどから、保険事故の発生確率が高い

127
ことが明らかになっている類型について、事前に審査を行うものである。ローンやクレジ
ットカードの審査に類似している。

128
保険会社に限らず、金融機関一般にとって「リスクの引き受け」は重要事である。住宅
 
ローンや企業向けのローンであれば、貸し倒れの確率を計算したうえで、金利を取ってい
る。その後、実際の貸し倒れが想定した範囲であれば、収益がでる。これが、貸付という
「リスク引き受け」に対応する収益となる。
 保険会社の場合、死亡、あるいは病気の際の支払いをいかに抑えることができるかで、
「リスク引き受け」における収益が変わってくる。本来、相対的に支払いの可能性が低い
人は安い保険料で十分であり、リスクが高い人からは高い保険料を取ることが必要となる。
いかにして、保険事故の確率が低い人と高い人を見極めるかによって、予定している死亡
率や入院発生率を下回り、利益を得ることができる。そのような「目利き」能力とリスク
評価能力が、
「リスク引き受け業」たる保険業の基本中の基本といえよう。
 もっとも、保険会社は、将来保険金を支払うにたりる保険料を集めるという、財務の安
定性が要求されることから、保険料を計算する際に用いる死亡率などの確率は、ある程度
安全を見て設定することになる。
保険会社が保険料を算出する際に、各社が使用している共通の死亡率をまとめたのが、
 
「標準生命表」である。日本アクチュアリー会という、保険数理の専門家集団が作成して
いる。
 少しだけ脱線して、ここで保険料の計算や、将来のために積み立てる責任準備金を計算
する作業を行う、保険数理のプロ「アクチュアリー」(日本語では「保険数理人」)について
触れておこう。
 私は学生時代、弁護士になりたいと考えており、司法試験に挑戦すべく勉強していた。
当時、「司法試験はもっとも難しい国家試験だ」と言われていたが、最近になって、司法
試験よりもっと、難しい試験があることを知った。それが、「アクチュアリー資格試験」
と呼ばれる、
「保険数理・年金数理」の専門家の試験である。
 毎年の合格者は数十人のみ、すべての試験に合格した後に入会が認められる「日本アク
第三章 儲けのカラクリ

チュアリー会」の正会員は、現役で約千百人しかいないという。少数精鋭のギルドのよう
なイメージである。
 生命保険会社の歴史のなかでは、契約獲得競争のために保険料を引き下げ、その結果、
将来のための責任準備金の積み立てが不足し、経営が破たんする、ということが幾度とな

129
くあった。だからこそ、保険会社の経営の健全性を守る手段として、保険数理のプロとし
て高い専門性とプロフェッショナル倫理を有
死亡保険用 第三分野 年金開始用

130
37
48
90
241
642
1, 411
3, 357
8, 318
17, 469

したアクチュアリーの存在が重要なのである。
 さて、アクチュアリー会が作った死亡率の
2007 年標準生命表

表をみてみよう (表⑧)

43
40
88
259
658
1, 798
4, 877
14, 272
38, 974
 まず、一番左の「完全生命表」が厚生労働
省が発表している数値であり、国民全体の死
亡率を取ったものだ。それに対して「標準生
84
86
148
365
834
2, 193
6, 039
17, 900
47, 877
命表」は、事実上、生命保険業界が保険料を
設定する際に使うもの、と理解するといい。
表を見ると分かるが、国民平均より、より多
完全生命表 くの人が死亡するという前提にたち、保険業
第 20 回
56
74
143
357
883
2, 123
5, 998
16, 453
34, 869
界は保険料を設定している。
 保険会社の場合、基本的には、全国民の中

〈男 子〉
り)を表す
から健康な人たちを選択して、契約者集団を

20 歳
30 歳
40 歳
50 歳
60 歳
70 歳
80 歳
90 歳
100 歳
形成することになる。したがって、国民全体
第三章 儲けのカラクリ

表⑧ 完全生命表と標準生命表(2007 年度版)
数字は各年齢における、1 年間の死亡者数(10 万人あた

〈女 子〉
完全生命表 2007 年標準生命表
第 20 回 死亡保険用 第三分野 年金開始用
20 歳 26 31 13 10
30 歳 37 49 22 16
40 歳 75 98 50 47
50 歳 176 216 135 118
60 歳 364 379 264 218
70 歳 890 914 670 410
80 歳 2, 898 2, 960 2, 266 1, 275
90 歳 10, 563 10, 878 8, 726 4, 851
100 歳 28, 088 37, 022 31, 611 12, 540
出所:日本アクチュアリー会、厚生労働省
長を務めた岩佐寧氏が、以前から次のような
 この件に関して、外資系生命保険会社で医

図が見えてくる。
っかっている、そんな批判さえ免れえない構
分が、割高な保険料となって消費者の肩に載
はないか、という結論が浮かんでくる。その
題のもと、高い死亡率の設定で守られすぎで
 日本の保険会社は「経営安定」という大命

算定している。
値上の安全を見込んだ上で、独自の死亡率を
者の選択によって危険が減じている分と、数
アクチュアリー会では、保険会社による契約
程度の安全弁は必要である。そこで実際には、
険会社の経営安定性の観点からすれば、ある
の死亡率よりも低くなる。もっとも、生命保

131
警鐘をならしていた。

132
「日本の生保各社の用いている生保標準生命表の死亡率は実際よりも %以上も高い (筆

20
。この差が現
者注:本論文は二〇〇二年時点。標準生命表二〇〇七ではいくらか改善されている)
在の日本の生保会社の利益の大半である死差益をもたらしている。この大きな差により、
ぎやくざや
莫大な逆鞘が埋められて余りあるのである。果たしてこれは妥当であろうか。日本経済の
現状ではやむを得ないであろう。しかし、将来までも許されるとは思えない。この差があ
るからこそ、幾ばくかの条件体を標準体扱いしたり、条件の軽減を行っても、経営上の脅
こうへいせい
威にはならないのである。しかし、これは負担の衡平性から見ると問題であろう。さらに
は、低保険料の商品を市場に投入しようとすると、この死差益率を削らないわけにはいか
いわゆる
ない。所謂、優良体商品 (筆者注:非喫煙割引などのリスク細分型商品)の投入である。おお
くの会社は優良体商品のもつ合理性、競争力の強さは十分認識しながらも、現況の国内経
済状態及び自社の状況から優良体投入を避けている。しかし、彼らは十分な検討を既に終
えている。自社や国内の経済状況が良くなればいつでも投入できる。先見性のあるこれら
の動きを知らずに、現状の甘い汁がいつまでも吸えるかのごとく、護送船団時代の認識の
まま、既存の危険評価情報収集法、既存の査定標準、既存の査定標準運用法に甘んじてい
ては時代に取り残されてしまうであろう。
 現状のように、莫大な死差益が標準体から得られる状況は早晩霧散せざるを得ないので
ある。異常に高い死差益率に経済評論家が気がつくのは時間の問題であろう」(〈 世紀の

21
保険医学──保険医学の医学と危険選択情報収集・評価の課題〉「日本保険医学会誌」第百巻第二号、
二〇〇二)
 生保業界にとっては幸いなことに、この論文から七年経った今も、経済評論家たちはこ
の事実に気がついていないようだ。
第三章 儲けのカラクリ

保険金詐欺との戦い
 この仕事をはじめてから、「生命保険とは一体何なのか?」あと

いう問いに対して、自分
なりの答えを探そうと、努力してきた。数多くの文献を読み漁り、業界のベテランたちと
意見を交わしてきたが、いまだ答えは見えない。

133
 古くは、ローマ時代に由来する組合的な相互扶助の仕組みとして、組合員が各自少しず
つ資金を拠出し、事故にあった人のためにそのお金が使われる、というもの。その本質は、

134
「何かがあったときのために、皆で備えておきたい」という、人びとの素朴な気持ち、そ
して人間の生活の知恵があるだけだった。
 それが、いつしか現代の巨大かつ複雑な金融機関に成長していった。加入者が増えて支
払保険金も多額になり、期間が長期にわたるようになると、合理的な運営の担い手として
保険会社が登場する。
 生命保険は、保険料を前払いで納めてもらい、長期にわたって預かり続け、期間が経過
した後に保険金が支払われる、というビジネスである。大きなお金がプールされているた
め、歴史的に多くの詐欺まがいの事件を伴ってきた。
 保険会社の収益性は、契約後、保険金の支払いが発生するか否かによって大きく変って
くるが、つねに詐欺や詐取の恐れがつきまとう。
 最近の例として裁判になったケースでは、以下のような事例がある (最高裁平成九年二月

二十五日〈福岡高裁宮崎支部平成八年八月二十八日より引用〉)
「被告保険者は、保険に加入していなかったところ、昭和六十二年には多数の保険 (九
件、入院日額六万八千円)に加入したもので、その保険の加入動機をみても、もともと、
保険は不時の病気などに備えるものであるが、被告はそれまで入院したこともなかった
こと、また、加入者は生活維持のための支出もあり、保険料との兼ね合いもあって、収
入は貯蓄に見合う保険に加入するのが普通であるところ、昭和六十二年十月現在で一か
月平均十一万円の保険料の支払いとなる各保険に加入したのであるから、これらの保険
加入は、被告の生計とはそぐわず、不自然なものと言わざるを得ない」
 つまり、被告は九件の医療保険に加入し、毎月一一万円の保険料を支払うことによって、
入院すると一日当たり六万八〇〇〇円の給付金を確保した上で、数か月後に偽装と思われ
る百二十日の入院をして多額の給付金を請求した、というのである。
第三章 儲けのカラクリ

 この裁判判決では、病気がいずれも他覚症状に乏しく、ほとんど被告の主訴のみによる
入院であること、保険会社が不正を理由に契約を解除することができなくなる二年間を過
ぎてから行っていること、三つの入院が給付最大の百二十日に合致していることなどから、
「当初から保険事故を作出する意図のもとに締結されたと認めざるを得ない」としている。

135
 保険金支払担当者は、支払い請求を受けた時点でこのような不正がないか、厳しくチェ
ックすることが要求されるわけだ。

136
不払い問題はなぜ起こったか
 第一章でも触れた保険金の不払い問題は、業界への信頼を根本から揺るがした。国民生
活センターへの苦情・相談件数は、過去最高の一万六千件超、生命保険協会への苦情も約
一万件と過去最高に達した。
 このような保険金の「不払い」は、なぜ起こったのだろうか。まず、不払いには、大き
くわけて三つの類型がある。
 ①不適切な不払い
 ②支払漏かれ
んしよう
③請求勧 奨 漏れ
 
 ①の「不適切な不払い」とは、たとえば「告知事項とは因果関係のない保険事故である
に も か か わ ら ず、因 果 関 係 を 認 定 し て 告 知 義 務 違 反 を 理 由 に 支 払 を 拒 否」し た り、ま た
「査定者が医師に十分な確認を取ることなく、保険責任開始以前に発病したものとして保
険会社の免責を適用」した例である。
 ②の「支払漏れ」は、主契約に基づく保険金請求があったときに特約部分については請
求がなかったため、その分の支払いを行わなかった事例。
 ③の「請求勧奨漏れ」は、入院給付金の請求があった場合に通院給付金が請求できる可
能性があるにもかかわらず、保険契約者に案内しなかった事例をいう。
 ここで、保険金の「不適切な不払い」とされた具体的な事例を見てみよう。
生命保険に加入するに際して、被保険者は病歴や現在の健康状態、職業など、保険契約
 
の引き受けを判定するにあたり、重要な事実を告げることを求められてい る。こ れ を、
「告知義務」ということは先述した。
第三章 儲けのカラクリ

 告げるべき過去の病歴などを告げない「告知義務違反」があり、その告知しなかった病
気と死亡との間に因果関係があった場合に限って、保険会社は契約を解除し、保険金を支
払わなくてもよいことになっている。保険金の不払いが問題となった事例のいくつかは、
この告知義務に違反があったか否か、過去の病気と保険金請求の原因となった病気との間

137
に因果関係があったか否かが争点となっている (なお、以下の事例については、「保険金・給
付 金 の 不 適 切 な 取 扱 い に つ い て の 点 検 結 果 等 に 関 す る ご 報 告」
、明治安田生命保険HP、二〇〇五年

138

十月二十一日から一部抜粋)
 ある事例では、被保険者が加入の一年後に「急性虚血性心疾 患」で死亡。保険金請求を
すいえん
受けて、会社が行った調査の結果、加入する四年前に「急性膵炎」で入院し、その後も通
院・投薬を受けていた事実を告知していなかったことが判明した。
 これをもって保険会社は、「既往症である急性膵炎が、その後の継続的な飲酒により慢
性化し、糖尿病を併発して急性虚血性心疾患に至った」と判断し、告知義務違反により契
約を解除、不払いと査定した。つまり、告知がなかった既往症が原因で死亡した、と判断
したのである。
 しかし、この査定結果について改めて精査した結果、「被保険者の飲酒習慣や日頃の言
動などから、膵機能の低下や糖尿病併発は推測できるものの、これをもって直ちに死亡の
原因 (心疾患)と既往症 (膵炎)に因果関係があるとした点が不適切」と判断され、「不適
切な不払い」に該当するとされた。
 もうひとつ、別の例を見てみよう。
 多くの保険会社は、災害などで死亡した場合に通常の死亡保険金に上乗せして保険金を
支払う、いわゆる「災害割増特約」というものを提供している (余談ながら、個人的には災
害で亡くなろうが病気でなくなろうが、残された家族などが必要な資金に変わりはないのだから、

この特約がどのような意味を持つのか、なかなか理解できずにいる)
 この特約に基づいて支払われる「災害死亡保険金」は、被保険者に「重大な過失」があ
る場合には、支払いを免責されることになっている。したがって、どの場合がこの「重大
な過失」に当たるか、という認定が問題となった事案である。
被保険者が夜道を自転車で走行中、運転を誤って田んぼに転落し、「頚椎挫傷」で死亡。
 
被保険者が血中アルコール濃度から「深酔状態」にあったことが分かったことから、保険
会社はこのような状態での自転車走行が、総合的に判断して「重大な過失」にあたると判
断し、普通死亡保険金は支払った上で、災害保険金は不払いと査定した。
第三章 儲けのカラクリ

だが、その後の調査で、保険会社は不払いの認定を覆した。
  まば
 その理由は、
「事故現場は人通りも疎らな田園地帯で、酔った状態で自転車を運転する
という行為もありふれたものであり、『重大な過失』の適用範囲を限定するよう査定基準
を見直したことから、今回の事実は『重大な過失』には該当するとまではいえず、災害保

139
険金をお支払いするべきであると判断して査定を変更しました」と説明されている。
 不払い問題が起こった背景には、保険業界全体において、適切な支払いこそが保険事業

140
の根幹をなすという「保険の原点」が見失われており、「契約者軽視」の風潮が蔓延して
いたことが指摘されている。不適切な不払いが発生した会社では、全社の利益目標達成の
ために、保険金部門が具体的な支払抑制目標を設定・管理し、それにより「不払い優先の
風土」が醸成されていった、という極端な例まで明らかにされた。
 ②の支払漏れや③の請求勧奨漏れについては、『契約者から請求がなければ支払わない』
といった意識が、「経営者や社員の中で半ば常識となっていた (大手生保首脳)
」(ニッキン、
二〇〇八年一月十一日)ことが、原因のひとつに挙げられるだろう。
これに加えて、保険商品が複雑化し、加入者自身もどんな契約に入っているのか、どん
 
な特約がついているのかをよく理解していないため、請求漏れが生じるということもある。
 不払い問題に取り組むため、生命保険会社が大きなコスト負担を余儀なくされたことは、
第一章で触れたとおりである。最大手の日本生命では、不払い調査要員として五千八百人
の社員および人件費・物件費など七八億円を投入して、不払いだった保険金、計一〇五億
円を支払った。業界全体でも、徹底した調査を経て判明した二〇〇六年三月までの不払い
金、計九六四億円のうち約八五%が、二〇〇七年十一月末までに支払われたという。
 一方、将来的な不払いを防ぐための対策として、生命保険協会は「支払専門士」の資格
を導入した。二〇〇七年十月、第一回「生命保険支払専門士試験」が実施され、生保三十
八社の支払い査定担当部門から約三千人が受験している。また、営業職員の評価体系を従
来のような新規契約の獲得数だけではなく、既存契約のアフターサービスへ軸足を移そう
という試みもされつつある。
契約者が取るべき自衛策──単品主義のススメ
 このような「漏れ」を防ぐために、保険会社ができることをすべきであることは言うま
でもない。けれど、保険会社側の努力だけでは、限界があるかもしれない。不払いを防ぐ
ためにも、加入者の側も生命保険に対して、普通の買い物をするときのような注意を払い、
第三章 儲けのカラクリ

自衛の策を講じる必要がある。
そこで、金融庁が公表した調査結果をもとに、支払・請求漏れにあわないための手立て
 
を考えてみたい (保険業界では死亡保険は「保険金」、医療保険は「給付金」と呼ぶが、いちいち

141

保険金「等」とつけるのがわずらわしいので、以下では両者を併せて「保険金」と表記する)
142
 ●類型 :保険金の請求案内漏れ (総計約四十五万件、約七〇五億円)
1

 一件当たりの金額がもっとも大きいのがこのタイプ。一件当たり平均約十五万円。診断
書を見れば、請求を受けた保険金以外にも支払える可能性があることがわかるにもかかわ
らず、その案内が行われず、結果的に他の保険金が支払われなかったもの。
金額ベースで特に多いのが、
 
 ①三大疾病保険金(四五%)
 ②高度障害保険金(二一%)
 ③通院給付金+入院給付金(一七%)
 である。
 たとえば、三大疾病 (ガン、心筋梗塞、脳卒中)を患った契約者に対して、主契約たる入
院給付金は支払っていたが、三大疾病については特に請求がなく、会社側も請求可能であ
る旨の案内をしなかったため、三大疾病保険金が支払われなかった、というもの。全体の
契約件数に対する発生率は七%というから、極めて高い。
 ●類型 :保険金の支払漏れ (総計約九万七千件、約九二億円)
2

 不払い金額は一件当たり、平均約一〇万円。診断書に記載された入院、手術に関する情
報を見落としたり、見誤ったことなどにより、本来支払われるべき保険金が支払われなか
ったものをいう。
 金額ベースで多いのは、
 ①手術給付金(五〇%)
 ②入院給付金(二二%)
例えば、診断書に手術の記載が「手術欄」ではなく、「病状等の経過欄」にあったため、
 
手術名を見落として手術給付金を支払っていなかった事例や、入院期間を見誤って支払金
額が不足した事例がある。
第三章 儲けのカラクリ

 ●類型 :失効返戻金の案内不足 (総計約八十万件、約一七五億円)


3
 総金額は大きいが、一件当たりは平均約二万円と、前の二つと比べると小粒ではある。
これは保険料を滞納して契約が失効した場合に、請求がなかったために払わなかったもの

143
や、遅延利息の計算を間違えて過少に支払ったものである。
 類型 については、すでに各社とも、自動返金ができるような措置を講じつつある。た
3

144
だ、契約者の側も、解約をするならほったらかしにして失効させるのではなく、面倒でも
きちんと解約手続きをする、ということが大切だ。
 類型 、類型 に関して、もっとも簡単で、すぐにできる防衛策は、
1

「加入する保険は給付内容がシンプルで、自分が百パーセント理解できるものにとどめる
こと」
具体的には、
 
「特約はつけないで、シンプルな単品商品にのみ加入すること」
 である。
そうすれば、支払いがあったときに、「あれっ、他にも保障されていたはずだけど、な
 
んで支払われてないの?」とすぐ気がつくはずだ。ふだん買い物をして、商品を持って帰
る段になって、買ったものが買い物袋に入ってない (しかも一〇万〜一五万円分足りない!)
のに気がつかないのは、変だろう。そのとき買い物袋に入っているものが一個なら、忘れ
ようがない。ピザでもアイスでも、トッピングをたくさんつけて、お店側が忘れてしまっ
ても気がつかないくらいなら、最初から頼まなければいい。
 どうしても特約に入りたいなら、自分にとっては、それがないことに気がつかないこと
が な い く ら い、大 切 な も の に 限 定 す べ き で は な い か。た だ し、三 大 疾 病 特 約 な ど で「ガ
ン」の場合は、契約者本人が告知されておらず、請求も案内もできないという例もあり、
難しいこともある。
私たちの保険料、二八兆円のフロー
私たち契約者が払いこんだ保険料は、どのように使われているのだろうか? 生命保険
 
会社の仕組みを理解するためには、お金の流れを見るのがわかりやすい。
 次頁の図 は、複雑な生命保険会社のお金の流れを、民間生命保険会社のデータを用い
4
て、単純化したものである。少し話が細かくなるが、生保のカラクリを理解する上では本
第三章 儲けのカラクリ

質的なところなので、お付き合い頂きたい (なお、データは二〇〇六年度のものを用いたため、

かんぽ生命は含まれない)
 まず、保険契約者である私たちが生命保険会社に支払った保険料等が、二八兆円 (①)

これが、保険会社の中核をなす収入源である。

145
 このうち九兆円が、将来の保険金支払に備えるために、「責任準備金」として会社に積
み 立 て ら れ る (②、③)
。生 命 保 険 会 社 の 資
出所:インシュアランス生命保険統計号より著者作成

146
産、二二〇兆円のうち、このように将来の保
険契約支払のために、過去から長年にわたっ
て積み立てられてきた資金が、一八八兆円あ
る。このほとんどが、将来は契約者に返され
るものであるが、銀行と違って、比較的長期
に運用できる点と、個人からの小口資金を集
めたものである点に特色がある。
図 4 生命保険会社の資金フロー

 この資産は、主に公社債や株式などの有価
証券、企業への貸付、不動産などへの投資で
運用される。このような資産運用から得られ
た 利 益 が、こ の 年 は 五 兆 円 あった (④)
。こ
のうち一部が当年度に配当として契約者に払
い 戻 さ れ る が (⑤)
、大 半 は 会 社 に 蓄 積 さ れ
て 再 び 投 資 さ れ る (⑥)
。な お、保 険 料 が 計
算される際には、預かった保険料からこうした一定の資産運用益が得られることが織り込
まれている。したがって、資産運用は保険リスクの引き受けと並んで生命保険会社の中核
を占める業務となる。
 当年受け取った保険料の一部 (⑦)と、過去から積み立てられた資金、運用で得た利益
などを原資として (⑧)
、保険契約者に対してお金が払い戻される (⑨)
。これには、保険
事故が発生したときに支払われる保険金や給付金、満期などが来たときに支払われる払戻
金、運用益などを支払う配当金など、さまざまなものが含まれる。すべてを合わせたこの
金額が、一九兆円だった。
 最後に、保険料のうち六兆円が、会社がこのような保険事業を営むためにかかる「事業
費」として使われ (⑩)
、一兆円が利益剰余金として会社に蓄積される (⑪)。
第三章 儲けのカラクリ

 以上、お金の動きを簡単にまとめると、契約者は二八兆円の保険料を会社に支払い、一
九兆円の払い戻しを受ける。六兆円が保険会社の経費として使われ、差分の三兆円が保険
会社の自己資本の純増となっている。
 こうして大まかなお金の流れをみると、いろいろなことがわかる。

147
 まず、生命保険のお金の流れは一年単位で完結するものではなく、将来への積み立てと、
過去から積み立ててきたものからの払い戻しのような「時間を超えたやり取り」が多いこ

148
と。長期にわたって資産を預かり、運用し、払い戻していくという、生命保険事業の特徴
を表している。
 毎年一九兆円を払い戻すために、運用費用と利益として毎年六兆円が費消されているこ
と。これは、いわば一〇〇万円を支払ってもらうために、約三〇万円の手数料が徴収され
ているに等しい。この手数料水準が適正か否かについては、何と比較するのが適正かはか
りかねるものの、高いという印象を受けるかもしれない。
世界最高の投資家は保険屋
 何度か触れてきたように生命保険料は、保険会社が預かった保険料の運用で一定の利益
をあげることを前提として、計算されている。
生命保険会社では、保険料を払い込む期間中は保険料が上がらない、「平準保険料」と
 
いう方式を採用している。年を取るごとに死亡や病気の確率は高まるため、保険料は本来、
毎年上がっていってもおかしくないはずだが、保険料負担をある程度ならすために、若い
うちには実際の死亡率よりも多めに支払い、年を取ってからは少なめに払う、という方式
である。
この場合、若年の頃は保険料を当該年度に費消される金額以上に多めに、預かっている
 
ことになる。保険会社はこの保険料を将来の保険金支払いに備えて積みたて (これを「責
、この資金を運用する。生命保険会社は長期の資金を前もって預かるこ
任準備金」と呼ぶ)
とを前提とするため、この責任準備金の運用は重要な業務である。運用利回りの設定が高
いほど保険料は安くなり、利回りが低ければ保険料は高くなる。
 全米でもっとも成功した投資家であり、敬愛される経営者であるウォーレン・バフェッ
トの本業は、保険業であることは序章にて紹介した。バフェットの投資実績を支える資金
源となったのが、この保険業で集めた保険料なのである。運用資金としての保険料につい
て、バフェットは二〇〇八年の「株主への手紙」の中でこう述べている。
第三章 儲けのカラクリ

「保 険 の “float”
(保 険 料 積 立 金)……保 険 事 業 の な か で 一 時 的 に 保 有 す る お 金 で、我々
に属しない負債性のもの……が、われわれの五九〇億ドルの投資資金を供給している。
この は、保険の引き受け事業が赤字でない限り、つまり『受け取る保険料=支払
float

149
う保険金+発生する費用』である限りは、資本コストゼロの投資資金となる。
 もちろん、保険の引き受け事業というのは浮き沈みが激しいものであり、利益と損失

150
のあいだを不規則に行き来する。もっとも、当社の歴史上、保険の引き受けは常に黒字
できており、これからも、少なくとも収支トントンか、それよりもよい結果は出せると
考えている。それさえできれば、我々の投資はバークシャー (・ハサウェイ。バフェット
が代表を務める世界最大の投資持株会社:筆者注)の株主の皆さんにとっては、コスト負担
ゼロの、価値の源泉となる」
 バフェットの言葉は、資金の調達と使途、資本コストと価値創出という観点から見た保
険業の本質をついている。
 バークシャー・ハサウェイの場合は、主たる事業は損保と再保険であるため、生保のよ
うに超長期で潤沢な資金が貯まるわけではない。しかし、金利の変動によって大幅に負債
の価値がぶれるような契約をしているわけではないので、株式や為替でリスクの高い投資
を行ってこられたのかもしれない。
生保はリスクを取りすぎか
金融機関としての生命保険会社は、資金量においては約一割のシェアを占めており、銀
 
行勘定 (約三割)に次いで、民間第二位の地位にある。
 生命保険の資金は、七割が個人保険の責任準備金、つまり小口契約の集積であり、長期
安定的なものである。そのため、戦後は長期の設備資金や住宅建設資金の供給者として、
政策的に活用されてきた。
資金運用の内訳は、従来は企業への長期貸付が中心であり、一九八〇年度末には貸付金
 
六割、有価証券三割であったのが、二十年後の二〇〇〇年前後には逆転して、有価証券が
六割、貸付金が三割となっている。有価証券の中では、株式の構成比が大きく低下し、公
社債や外国証券等に移っている。
第三章 儲けのカラクリ

このように企業への貸付が大きく減少した理由としては、高度成長経済の終焉に伴い、
 
企業の長期資金需要が減退したこと、直接金融の発展や国際化に伴う資金調達手段の多様
化などがあげられている。つまり、生保から資金を借りなくても、資本市場で増資や社債
発行ができるようになったのである。

151
 しかし、生保はいまだ、わが国最大の株式投資家であり、巨大ビルのオーナーでもある。
その運用については国内株式が一般勘定の三〇%以内、外貨建て資産が三〇%以内、不動

152
産が二〇%以内、という規制がある (「 ・ ・ 規制」)

3

2
 生命保険会社の責任準備金は自己資本ではなく、将来は契約者に対して支払われるべき
負債性のものであるため、安定運用が重要となる。したがって、本来であれば公社債を中
心とした低リスク商品で運用がなされるべきであり、そのため運用のパフォーマンスは金
利情勢によって、大きく左右される。各社の運用力はもちろん大切だが、第一義的には金
利の高低によって保険料が影響を受ける。
 かつてのような高金利時代は、少ない保険料を払い込んで、大きな満期金を受け取るこ
とができた。これに対し、現在のように低金利の時代では、生保の貯蓄性商品はそれほど
大きなメリットを感じるような利回りにはなっていない。
 二〇〇八年十月、大和生命が更生特例法を申請し、七年ぶりに生命保険会社が破たんし
た。資産運用で過剰なリスクを取っていたこと (資産の三割をヘッジファンドなどオルタナテ
ィブ投資に向けていた)が原因といわれている。また、長引く株価の低迷により生保各社が
含み益がゼロとなる日経平均の水準についても、報道がなされている。
 それでは生命保険会社の運用資産の構成とは、どうあるべきなのだろうか?
 大手生保九社の二〇〇八年三月期決算データによると、一般勘定 (運用実績にかかわらず
保険金額が一定である「定額保険」に対応する資産。「変額保険」の「特別勘定」とは分離されてい
る)の資産配分は以下の通りである。
〈円金利資産〉
  .貸付金:二一%
1

.公社債:三八%
 
2

〈相対的にリスクの高い資産〉
  .株式:一〇%
第三章 儲けのカラクリ

.外国証券:一四%
 
4
.その他リスク性資産(不動産など):四%
 
5
 つまり、 〜 の「相対的にリスクの高い資産」が全体の二八%を占めていることがわ

3
5

153
かる。読者の皆さんが生命保険会社の資産運用を任せられたとしたら、どのような配分で
投資を行うだろうか。

154
生命保険会社の一般勘定に対応する負債 (将来の支払に備える責任準備金の予定利率)は、
 
長期の確定利回りのものである (保険料は国債と近い水準の利回り〈十年で約一・五%など〉を
。したがって、安定した利息配当金等を得られる円金利資産を運用
前提として計算される)
ポートフォリオの中核に置くことは、正しい選択だろう。
 リスク性資産が三割近くあるのは、配分として適切なのだろうか。参考までに、米国の
生保一般勘定のポートフォリオを紹介する。
  公社債:七三%
  株式:五%
  抵当貸付:一〇%
  契約者貸付:四%
  その他:九%
 つまり、株式は五%、その他の九%を全部足してもリスク性資産は一四%にすぎない。
 本来、生命保険の一般勘定の運用は安全を徹底すべきなのだから、リスク性資産の比率
も米国程度でよいのかもしれない。
 にもかかわらず日本の生保が三割近くも抱えているのは、戦後の右肩上がりの高度成長
の時期から株式を保有し続けてきた (ときには対象企業の従業員に保険を売るために戦略的な
意図をもって)長い歴史と、長期間つづく超低金利下である程度の利回りを上げるために
は、リスク性資産の配分を高めざるをえない、という事情があるのだろう。
 だがいずれにせよ、このような歴史的経緯と生命保険会社側の事情は、契約者には関係
ないことだ。生命保険会社の運用のあるべき姿を考えれば、契約者は保険において予期せ
ぬリスクを取るべきではないし、保険と運用をわけて、保険は保障性の商品に絞るほうが
賢明、という考えも成り立つ。
第三章 儲けのカラクリ

引きこもりのザ・セイホ

『ザ・セイホ』という言葉をはじめて使いだしたの、僕じゃないかなぁ」
 ある日、社内で打ち合わせをしていると、社長の出口が言った。スケールが大きい話な

155
ので、さすがに聞き返した。「本当ですか?」
「ちょうどその言葉が普及しはじめる頃、僕は業界のスポークスパーソン的な役割をやっ

156
ていて、海外メディアとの窓口も担当してたんだよ。あるとき、『日本の生命保険業は、
日本固有の業態だ。したがって、ライフ・インシュアランスではない。ザ・セイホとでも
呼ぶべきだ』といったことを話したんだ。それからかな、マーケットでの生保の影響力が
大きくなるにつれて、海外メディアが『ザ・セイホ』と呼ぶようになったのは」
 真偽のほどはさだかではないが、キャッチーなネーミングを得意とする出口のこと、あ
ながち嘘ではなさそうだ。同じ頃、別の大手生保で財務企画を担当として活躍していた人
に聞いてみると、
「確かに。ありうるよ、出口さんだったら」との返事だった。
 日本の生保が資産を増やしたのは、一九八〇年代半ばから後半のバブル期にかけてであ
る。一九七九年の時点ではまだ二〇兆円超であったが、一九八五年に予定利率を六%前後
まで引き上げたことで、「一時払い養老保険」が爆発的に売れ、八五年には五〇兆円、八
九年には一〇〇兆円、九二年には一五〇兆円を突破するなど、急速に膨張した。
 そして、高い運用利回りを求め、生保マネーは海外にも積極的に進出、国際資本市場へ
の影響力の大きさから、「ザ・セイホ」は一躍世界に名をはせた。
 この時代、出口は日本生命の英国現地法人の社長を務めていたが、彼の経歴からは、当
時の生保業界の活況ぶりがうかがえる。
【一九九二年四月〜一九九五年三月】
 ロンドン事務所長、ロンドン現地法人 (日本生命保険相互会社のロンドンにおける資産運用
子会社)社長
・各国政府・自治体向けの円建て融資業務に従事。北欧の政府や、バルセロナ、コペンハ
ーゲンといった欧州の大都市に対し二〇〇〇億円以上の融資を行う。
・証券運用にも従事。タックス・ヘイブンであるジャージー島に設立した資産運用子会社
を通じて、約五〇〇億円の資産を、欧州の証券・株式に投資。
第三章 儲けのカラクリ

・かたわら、ロンドンにおける各種会議・パリのOECD会議・フィレンツェのヨーロッ
パ大学院等において、生命保険業界・日本の金融経済情勢に関する講演を多数実施。
・これらに加えて、一九九二年七月に倒産したイタリアのEFIM社に対する、総額三〇
〇億円に及ぶ日本の債権団十社の代表となる。イタリア政府と交渉の末、全額を一九九四

157
年五月に回収。
158
 近年、生保マネーは再び、海外に向かっているようだ。二〇〇七年七月二十四日付の日
経金融新聞の記事によると、

『生保マネー』が再び海外に進出している。生命保険全三十八社の外国証券の運用残高
は合計四十兆円で、
『ザ・セイホ』が市場で影響力を発揮したバブル期より二十兆円増え
た。生保の総資産に占める割合も二〇%と当時より五ポイント高い」
「ようやく自己資本の積み増しや株価持ち直しで財務回復に一定のメドがつき、海外投資
を再び重視している。長期金利が二%前後の状況では国債中心の運用で利回りは高まらな
い。『契 約 者 向 け 配 当 の 充 実 や 貯 蓄 商 品 の
予 定 利 率 (保 証 利 回 り)引 き 上 げ に つ な が
損保・再保
収入割合
46%
48%
33%
29%
14%
60%
40%
69%
7%
0%
る運用が求められている』(日本生命の財務

企画部)
 しかし、日本の生保をとりまく状況はけ
海外地域
収入割合
49%
73%
72%
62%
85%
75%
57%
57%
1%
13%
っして甘いものではない。表⑨は、一九八
九年と二〇〇六年の、世界の保険グループ
の上位十社を示したものである。
ミュンヘン再保険(独)
チューリッヒ(スイス)

一九八九年には、わが国の大手四社はい
 
2006 年の保険料順位

ずれも世界のトップ十社に名前を連ね、日
アリアンツ(独)
表⑨ 世界の保険グループ 保険料収入ランキング

ゼネラリ(伊)

日本生命(日)
AVIVA(英)

本生命と第一生命に至っては、一位・二位
アクサ(仏)

CNP(仏)
AIG(米)

ING(蘭)

を 飾って い た。ま さ に、「ザ・セ イ ホ」が、


わが世の春を謳歌していた最後の時代とい
える。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
➡  それから二十年弱、更新されたランキン
ステートファーム(米)
グを見ると、上位十社の中には、日本生命

プルデンシャル(米)

オールステート(米)
メトロポリタン(米)
が九位にかろうじてランクインしているの
第三章 儲けのカラクリ

1989 年の保険料順位

アリアンツ(独)
日本生命(日) み。日本の生命保険会社の相対的地位の低
第一生命(日)

住友生命(日)

明治生命(日)
エトナ(米)
下は明らかである。
 保険料全体の順位だけではない。損保に

著者調べ
代表される他業種への展開、そして海外展

159
開の遅れも目立つ。世界の大手保険グルー

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
プの売上の四〜五割が損保・再保険によるものであるのに対して、日本生命は一割以下。

160
本国以外の売上が占める国際展開の割合をみても、ほとんどの会社が五割以上なのに、日
本生命はたった一%だ。
 もちろん、欧州市場はEUに統合されてひとつになりつつあるので、ランキング上位の
各社について、「欧州以外」という区分にすれば、この比率もいくらか変わってくるかも
しれない。とはいえ、一時期は世界中に拠点を持ち、アジアでも出資・買収を進めようと
していた日本の生保のかつての勢いはどこへ消えてしまったのか。
 生保に限らず、銀行にもあてはまる傾向ではあるが、この二十年、海外展開を怠ってき
たつけは大きい。
シサ、リサ、ヒサ──保険会社の収益源
 最後に、生命保険会社がどのようにして収益をあげているのか、そのカラクリを見てい
こう。
 保険料を決める要因として、①死亡や入院などの発生確率、②運用の利回り、③手数料、
の三つがあることは前の章で述べたが、生命保険会社の収益源も、これらに対応した三つ
の要素からなる。
各社ディスクロージャー資料より

まず、①の保険料を決定する際に織り込まれてい
 
る、死亡や入院などの発生確率と比べて、実際の支
払いが少なかったことによって得られる利益がある。
これが保険の本業である「リスクの引き受け」から
図 5 シサ・リサ・ヒサ(2006 年度の業績)

し さ えき
生まれる利益であり、「死差益」ないし「危険差益」
という。
 次に、②の預かった保険料などの運用が、保険料
に織り込まれた利率よりも高い利回りを出すことに
よって得られた利益、あるいは損失がある。これを、
第三章 儲けのカラクリ

り さ えき り さ そん
「利差益」あるいは「利差損」という。
 最後に、③の事業費として保険料に織り込まれて
いるコストを、経営努力を通じて下回ったことによ
ひ さ えき
る利益がある。これを「費差益」という。

161
 図
は、大手生命保険会社の、二〇〇六年度の利

5
益構造をまとめたものである。特筆すべきは、利益の大半が「死差益」であることと、そ

162
れをもって大きな「利差損」、すなわち逆ざやの穴埋めをしてきたことである。八社を合
計すると、死差益は二兆一〇〇〇億円にのぼり、基礎利益の合計に等しい。保険業界最大
手の日本生命は、一五〇〇億円の「逆ざや」を五八〇〇億円の「死差益」と二一〇〇億円
の「費差益」で補い、基礎利益は六〇〇〇億円を超えた。この「利差損」については、二
〇〇七年度でようやく脱出することができたが、バブル崩壊後、長らく生命保険業界を苦
しめ続けてきたのである。
第四章 かしこい生保の選び方

第四章 かしこい生保の選び方

163
164
サブプライム危機の余波
 二〇〇八年九月十五日、米大手証券リーマンブラザーズが破綻したことが引き金となっ
て世界的に広がった金融危機は、わが国の生命保険業界にも大きな影響を与えた。
 まず、世界最大手の保険グループであったアメリカン・インターナショナル・グループ
(AIG)が米政府の公的管理下に入り、最大約一八〇〇億ドル (約一八兆円)の支援を受
けた。
 引き金となったのは本業である保険事業ではなく、グループの高い格付けを背景に大規
模な債務保証デリバティブ取引を続けてきたロンドンの子会社だった。金融危機を引き金
にAIGグループの債務格付けが引き下げられると、それらの保証取引について巨額の追
加担保を要求され、現金が不足する流動性危機に直面したのである。
 当初、必要な支援額は最大八〇〇億ドルと見積もられていたが、損失の範囲は拡大し、
金額は膨れ上がった。年が明けると、同社は政府からの借入を返済するために、中核事業
である損害保険以外の資産の売却を発表。日本では、アリコジャパン、及び〇九年はじめ
に合併が予定されていたAIGエジソン生命、AIGスター生命が売却対象となった。ほ
ぼ準備が完了していた両社の合併は、期限を定めず延期されることとなった。
 本社があるニューヨークを中心に大手保険会社や投資ファンドによる対象企業の買収査
定と交渉が行われ、日本国内の現場は蚊帳の外におかれていた。他社も財務内容が急速に
悪化していくなか、買い手は見つからないまま時間が過ぎていった。
 困惑する契約者から殺到する「自分の契約はどうなるのか」という問い合わせに対し、
各社は「保険事業の支払い余力とは無関係」という点を強調した。また、AIGエジソン
生命はAIGのネガティブな風評リスクを回避すべく、ホームページから「AIG」の名
前 を 外 し た「エ ジ ソ ン 生 命」で の 企 業 ブ ラ ン ディン グ を 試 み た。契 約 者 の 問 い 合 わ せ は
第四章 かしこい生保の選び方

「ア メ リ カ ン」と い う 名 前 が 類 似 す る ア フ ラック (ア メ リ カ ン ファミ リー生 命)に ま で 殺 到


し、
「当社はAIGとは関係ありません」という異例の声明を出すに至った。
〇八年十月には、大和生命が破綻した。国内生保の破綻は実に七年ぶりのことだった。
 
二〇〇〇年前後に相次いだ中堅生保の破綻が逆ざやを要因としていたのに対して、同社は
本業の構造的な赤字を穴埋めするために、投資対象をヘッジファンドなどの高利回り・高

165
リスク資産へ傾斜させていたところに、金融危機の影響でこれら資産の価値が大幅下落し
債務超過に陥った。

166
同社の契約者は約束されていた利回りが平均三・四%から一%に減額され、結果として
 
終身保険や年金保険などを中心に、保険金額は大幅に減額された。債務超過を解消すべく、
業界によって作られた契約者保護機構より三〇〇億円の支援を受けたものの、なかなか買
い手がつかなかったが、〇九年三月、米プルデンシャルグループのジブラルタ生命の傘下
に入ることとなった。
 変額年金は契約者から預かった保険料を株式や債券で運用し、その成績に応じて受取額
がかわる商品であるが、〇二年に銀行窓口販売が解禁されて以来、退職後の生活資金を準
備するための商品として急成長してきた。株価の下落は、この変額年金保険市場にも大打
撃を与えた。
〇九年五月には最大手である米ハートフォード生命が、日本国内での新規販売を停止す
 
ると発表した。契約件数は五十五万五千件、総資産三兆二六七〇億円に上るが、米国本社
は運用の悪化により、公的資金による資本注入を米政府に要請していた。地方銀行や証券
など八十社を通じ販売しており、全国に幅広く契約者が広がっているため、その影響は大
きい。
背景には、金融危機の影響で、元本保証のための再保険のコストが著しく高くなったこ
 
とがある。
 解禁後、数年して市場は頭打ちになっていた。そこで、売り手である銀行の求めに応じ
て、高利回りをうたいつつ、元本を保証する商品を次々と投入した。しかし、「利回りも
高く、元本も保証」などという「おいしい話」が長続きするはずがない。もともと、生保
が過度の運用リスクを取っていた、ということである。運用環境が良好なうちはいいが、
今回のように相場の変動幅が激しくなると、生保各社が再保険のために支払うコストは極
めて高くなってしまう。
第四章 かしこい生保の選び方

 その後、アイエヌジー生命、アクサフィナンシャル生命、住友生命、三井生命など各社
が相次いで新規販売の停止を発表した。急成長した変額年金市場は、米国発の金融危機に
よって、一気に小さくなってしまったのである。
はじまった地殻変動

167
国内の業界再編を促すきっかけとなったのが、一九九五年、五十五年ぶりに行われた保
 
険業法の大改正。価格規制と参入規制の緩和をその核とし、

168
①保険会社に新たな事業領域への拡大を促し (生損保への相互乗り入れの解禁)
、飽和した
保険事業を活性化させること
②商品や販売チャネルの多様化によって顧客利便性を向上させること
③競争促進によって保険料率の低下をもたらし、業界内にレントとして留保されている
余剰利益を消費者に還元すること
 を主な狙いとした。
 改正から十四年、生命保険業界の状況は大きく変わった。個人保険の新契約件数はピー
ク時から四割近く減少した。個人保険の新契約高 (その年に新たに契約した保険金の総額)で
見ても、十年前と比べて、半分近い水準にまで落ち込んでいる (図 参照)
。保有契約高自

6
体はまだ七割の水準にとどまっているものの、このままいけば、さらに下降線をたどるこ
とは間違いない。
 死亡保障から生存保障へ顧客のニーズが決定的にシフトしたことで、医療保険など「第
三分野」商品が新契約件数の四割を占めるに至った。
大手生保が軒並み契約件数を減らすなか、契約件数や保険料収入を大幅に伸ばした勢力
 
がある (次頁表⑩参照)
。まず、アメリカンファミリー生命 (アフラック)やアリコジャパン
といった、医療保険など「第三分野」に主軸をおいた勢力。第三分野とは、保険の法律上
の区分で、生命保険が第一分野、損害保険が第
二分野と呼ばれるのに対し、医療保険や傷害保
険など生保・損保のどちらでも取り扱うことの
図 6 個人保険契約高の推移

出所:インシュアランス生命保険統計号
できる保険の分野をいう。
 二〇〇一年に第三分野の完全自由化が実現す
第四章 かしこい生保の選び方

るまでは、これら外資系が拡大する市場を独占
し、契約件数を伸ばしてきた。ガン保険を中心
に拡大してきたアフラックも、その伸びが頭打
ちとなる二〇〇二年頃には、ヒット商品となる
短期入院型の医療保険「EVER」を発売し、

169
一気に医療保険マーケットの首位に踊り出た。
医療保険は、従来国内では中堅生保が主力商品とし

170
ており、大手生保は本腰を入れていなかった。解禁
出所:インシュアランス生命保険統計号より著者作成
9. 2 倍
2. 5 倍
9. 5 倍
30. 5 倍
5. 9 倍
−9%
−14%
増減
表⑩ 大手生保と外資系生保の保険料収入の推移

後もしばらくの間、大手生保は単価が安い医療保険
やガン保険を積極的に販売しようとしなかった。
保険料等収入(億円)

 次に、ソニー生命やプルデンシャル生命といった、
2007 年

48, 543
32, 937
14, 902
10, 691
6, 055
4, 283
35, 931 男性の営業職員を主体とした「カタカナ生保」の伸
長が挙げられる。
既存顧客に見込み客を紹介してもらい、従来の生
1992 年

53, 242
38, 448
1, 468
3, 032

5, 211
  575
  136
 
保商品の無駄を論理的に説く、「コンサルティング
セールス」が人気を博し、都市部の知識層を中心に

アメリカンファミリー

プルデンシャル生命
拡大した。

アリコジャパン

外資系 4 社合計
会社名  主に異業種から採用された爽やかな男性セールス

ソニー生命
日本生命
第一生命
部隊が豊富な商品知識を持って丁寧に説明するとこ
ろが受けたものだが、一社専属で自社商品しか販売
できないという点では、大手生保の女性セールスと
本質的に変わらない。ただし、継続率や解約失効率 (顧客の満足度や納得感を示す一つの指
標)は大手に比べて良好のようである。
 最後に、東京海上日動あんしん生命、損保ジャパンひまわり生命などの損保系子会社。
「長割り終身」に代表される新しい低解約返戻金型商品の開発と、全国に張り巡らされた
代理店網を活用して、一気にシェアを高めた。
既存の生保会社がゆっくりと保有契約を減少させていく中、外資系生保や新規参入した
 
損保の子会社は着実に成長を続け、保険料収入ベースの市場シェアは三割を超えている。
 また、一七二〜一七三頁の図 は、過去二年以内に結婚した人千六百名を対象に、生保

7
の見直しに関する意向を聞いた調査結果である。
第四章 かしこい生保の選び方

結婚をきっかけに、「加入している生命保険会社を乗り換えた」と答えた約四百名に、
 
具体的に、どこの会社からどこへと変更したのかを聞いたところ、驚いたことに、大手四
社に加入していた百五十五名のうち半数近い七十三名が、他の生命保険会社へ乗り換えて
いることがわかった。
 この調査によると、乗り換えた先は、大きくわけて三つある。アフラック、アリコなど

171
の外資系、ソニー、プルデンシャルなどの男性コンサルティング営業、そして共済を含む
通販系のシンプルで安い保険。顧客の大手生保離れが加速しているのは間違いない。

172
ピーク時には五十万人いたといわれる生保レディの数は、この十年で約三十五万人から
 
二十五万人まで三割近く減少し、九四年には八八%を占めていた加入チャネルのシェアに
おいても、
「一社専属モデルの営業」は、通信販売・代理店・銀行窓販など新しいチャネ
ルの台頭によって、二〇〇八年時点では六八%にまで低下している。
 二一世紀に入って経済は低迷し、可処分所得も伸びないため、家計の節約を目的に保険
の見直しが進む。国内の保険会社も、低金利下では、バブル期の「一時払い養老保険」の
ような魅力的な貯蓄性の商品は作りようがないし、保険料も高くなる。少子高齢化によっ
て、市場のパイは縮小する。女性の社会進出も進み、共働き家庭が増えたため、かつてほ
ど「死亡保障」ニーズも強くない。
 また、インターネットの普及による情報革命も、生命保険ビジネスのありようを根本的
に変えつつある。売り手と買い手の間の情報の格差によって生み出されていた保険会社の
利潤が、どんどん小さくなり、消費者

歳の結婚後
は賢く、合理的になっていく。
金融分野では投資信託を中心に、消
 
費者の間で手数料に対する関心と感度
が高まっている。突き詰めて考えると、
出所:マクロミルモニターを対象としたネットアンケート(20〜34
どこか一社の商品がずば抜けて「得」
ということではなく、十分に効率的な
市場の下では、金融商品を差別化する
要素は、手数料と税金しかない。従来

2 年以内の男女 約 1600 名 2007 年 6 月実施)


は必ずしも当たり前ではなかったその
ような知識も、ネットの普及などによ
り、消費者に少しずつ常識となりつつ
第四章 かしこい生保の選び方

図 7 日系生保の乗り換え先

ある。
 このような時代の流れをうけ、保険
業界では、販売チャネルのコスト構造
の変化を反映した保険料設定が進み、
ほぼ同等の内容の商品でも、販売形態

173
によって保険料に大きなバラツキがみ
られるようになった。

174
定 期 保 険 を 例 に と れ ば、伝 統 的 な、営 業 職 員 を 主 軸 と す る 大 手 生 保 の 保 険 料 は、代 理
 
店・通信販売などを主軸とする会社より、最大三割程度、割高となっている。ネットを販
売チャネルとする生命保険会社の保険料平均も加えて比較してみると、最大二倍程度の保
険料格差がみられる。
 宿敵、簡保の民営化
 二〇〇七年十月一日、世界最大級の生命保険会社がわが国で誕生した。日本郵政公社の
民営化によりうまれた「かんぽ生命」である。保険料収入は八兆円に達し、総資産は一〇
七兆円にのぼる (平成二十年度)

 銀行業界が郵貯に対して「民業圧迫」と批判の声を強めるのに対して、保険業界は長年
の宿敵であるこの簡保に対して、協調姿勢をとっている。約二万四千という郵便局の販売
網と、五千五百万件の保有契約件数という顧客基盤は、成長分野を探すのに悩む生保業界
にとっては、大きな魅力に映る。
 簡易保険は養老・学資といった貯蓄性商品が主力だった。長引く低金利に合わせて保障
性商品へシフトを試みているが、なかなか進んでいない。
民営化された日本郵政は①ゆうちょ銀行、②かんぽ生命、③郵便局、④日本郵便の四つ
 
の事業に分社化されたが、民間生保は四社が「ゆうちょ銀行」に変額年金保険商品の販売
を委託し、八社が「かんぽ生命」に法人向け商品の供給を行うことになった。また、ゆう
ちょ銀行・かんぽ生命、双方から商品の販売を委託される「郵便局」会社自身も、医療保
険とがん保険では民間生保の商品を採用することが決まっている。
 さらに二〇〇八年二月、かんぽ生命は日本生命と保険商品開発やシステム構築で提携す
ることで合意したと発表した。民間最大手の日生と国内最大手のかんぽの提携により、寡
占化が進むことを業界は警戒している。
第四章 かしこい生保の選び方

 歴史をひも解けば、生保業界における本当の意味での「競争」は、保険会社間での競争
よりも、簡易保険 (郵政省管轄)や農協共済 (農水省管轄)との貯蓄商品における「利回り
競争」に他ならなかった。予定利率をどんどん高く設定していった簡保に対抗した結果が、
逆ざやにもつながった。
 業界はそのような「宿敵」簡保と正面から競争するのではなく、むしろ彼らを上手に活

175
用できないかと考えている。
 おそらく、かんぽ側の意図もそう違わないだろう。元から貯蓄性の高い養老保険を主力

176
商品としてきたが、現在の超低金利下で販売は低迷している。新しい時代のニーズに合っ
た商品開発が求められているが、取り扱う保険は、「保障限度額一〇〇〇万円」と上限を
決められているため、柔軟に動きにくい。
 また、旧日本郵政公社時代の杜撰な内部管理の実態も明らかになりつつある。〇九年八
月三十一日に発表された中間報告によると、不払いの可能性が高い契約が三十五万件。満
期保険金などの未請求・未受領は五十四万件、総額一九三六億円にも上った。
 さらに、民営化以前に郵便局職員らが顧客の貯金や保険金を着服した総額が、〇五〜〇
七年度上半期の二年半で二〇億円以上に達した (読売新聞、〇九年九月三日)
。わずか二年
半で二〇億円だとしたら、その前の数十年間で、どれだけのお金が不正に着服されてきた
のだろう。
 民営化された簡保は保険会社同様、金融庁の監督下に入り、同じ水準での顧客サービス
や内部管理体制を求められる。巨大な契約ベースや全国に配置された店舗網を活用して大
きくビジネスを成長させられるか否かは、同社の保険会社としての業務遂行能力にかかっ
ている。
銀行窓販の全面解禁
 生命保険会社が営業職員モデルを真っ向から脅かされる可能性があるともっとも恐れる
のが、銀行窓口での保険販売である。この解禁に業界は十年近く抵抗をしてきたが、つい
に二〇〇七年十二月二十二日、銀行の窓口で、生命保険、損害保険のあらゆる商品を販売
できるようになった。銀行窓販の全面解禁である。
 これまで、変額年金を含む個人年金保険や養老保険、火災保険の販売が許されていたが、
死亡保険や医療保険、自動車保険が加わった。これにより、銀行、証券、保険という従来
の業界縦割の販売規制がなくなり、「日本版金融ビッグバン」が完成したことになる。
第四章 かしこい生保の選び方

 保険の銀行窓販は、欧米諸国では「バンカシュランス」と呼ばれ、広く普及している。
特に盛んなフランスでは、生命保険のじつに八割以上が貯蓄系商品ということもあり、銀
行チャネルが全体の六割を占めている。
 大手生保各社は、この全面解禁に激しく抵抗してきた。銀行での保険販売が一般化すれ
ば、大手各社、数万人といわれる営業職員の仕事が奪われる可能性も高い。生保の営業職

177
員で構成される生保労連は、銀行での年金販売に関する問題事例を集め、銀行による圧力
販売などの弊害を訴え続けてきた。

178
そういう背景もあり、これまで銀行窓販の活用については、大手生保は外資系と損保系
 
生保に後れを取っていた。二〇〇二年十月の銀行窓販第二次解禁を機に、変額個人年金は
毎年五〜七割も伸び続けていたが市場をリードしてきたのは、ハートフォード生命やアイ
エヌジー生命などの外資系と、三井住友海上メットライフや東京海上日動フィナンシャル
など損保系の勢力である。
生保が共済に敗れる日
保険業法改正後、猛烈な勢いでシェアを高めていったのは、外資系生保だけではない。
 
「日経ビジネス」二〇〇六年十一月二十日号には、「日生が共済に敗れる日」というショ
ッキングなタイトルの特集が掲載された。三十七都道府県で事業展開する都道府県民共済
グループが扱う「生命共済」の個人契約件数が二〇〇六年三月末に千二百三十八万件に達
し、日本生命の千三百四十一万件に迫る勢いだというのだ。
 県民共済グループは、一九七三年に埼玉県で産声を上げた。当時労働組合の書記長を務
めていた正木萬平氏が、「ロンドンやニューヨークと比べ割高な物価を引き下げる仕事こ
そ、本当は重要ではないか」と考え、一万円の共済金に対し三円三〇銭という低料金を掲
げてはじめたのだ。
 共済は、構成員が掛け金を出し合う非営利組織という点で、営利事業の保険とは異なる
が、加入者から見ると、一定の保険料を拠出して保障を受けるという機能になんら変わり
ない。スタートから三十三年で、埼玉県民共済の生命共済加入者数は約二百十五万人と、
県内人口の七百七万人の三割を占めるまでになっている。
 生保市場全体が縮小するなか、「うまい、やすい、はやい」の吉野家のキャッチフレー
ズのような「共済」が大躍進していることは、多くの人がシンプルで、安価な商品を支持
していることを物語っている。
第四章 かしこい生保の選び方

来店型代理店の台頭
 さらに一社専属が大前提だった保険業界にも、流通改革がゆっくりと起こりつつある。
アドバンスクリエイト、アイリック、ライフプラザ、リンク・トラストといった来店型の
代理店の台頭である。ある代理店では都心部の店舗の予約は一か月待ちだそうだ。

179
家電業界においては、かつての松下に代表される専属の代理店制度から、家電量販店の
 
出現により流通の大変革が起きた。生命保険業界でも、これらの保険代理店側は自らがい

180
わば量販店である、といった発想で、この業界の流通でのバーゲニングパワーを握ろうと
している。
 代理店最大手のひとつである、アドバンスクリエイト社の濱田佳治社長は、流通構造の
変革について、以下のように語っている。
「保険会社が売りたい物を売りたい値段で売る統制経済から、ユーザーが買いたい物を買
いたい値段で買う市場経済への移行が起きている」
「知識がどんどんメーカー側から消費者側に移ってきている。情報を持つ者が能動的に購
買活動を行う。これは資本主義の原理原則だ」(「日経ビジネス」二〇〇六年十一月二十日号)

自分にとって最適な保険を選ぶためには、複数の商品を比較して加入することがとても
 
大切になる。乗合代理店が保険会社の販売代理でなく、また自社の手数料収入を考えるだ
けでなく、買い手たる消費者の真の代理人になることができれば、業界はよい方向へ変わ
るはずだ。
保険料の自由化と新規参入の促進
かつて、旧大蔵省が金融業界に対して行っていた「護送船団行政」の特徴は、「業態別
 
に行政組織を編成し、銀行局、証券局、保険部それぞれの業態で新規参入を認めないこと
によって、つまり競争させないことによって、つまりつぶさないことによって、預金者、
投資家、保険契約者を守る」という考えが根底にあった ( New Finance
二〇〇八年七月号一

〇〜一一頁 参照)
 生命保険業界における競争を阻害してきた、大きな二つの規制、そのひとつが、参入規
制であり、もうひとつが保険料率の許認可である。つまり、誰がゲームに参加するかは政
府 が 決 め、そ の ゲーム に お い て もっと も 重 要 な ルール で あ る 商 品 の 値 段、す な わ ち「料
第四章 かしこい生保の選び方

率」も、国が決めるというのだ。
 資本主義のもとでは、自由市場下で競争が行われることで、需要と供給のバランスによ
って価格が決定し、市場が効率化していく、という考えがあるはずだが、いわばそれを否
定していたのが、従来の保険行政だった。
 しかし二〇〇五年、当局は競争を促進する方向に、大きく舵を切った。それが、保険料

181
率の弾力化と、新規参入の奨励である。
 同年十一月に金融庁が発表した「保険業法施行規則の改正案」の中には、さりげなくで

182
はあるが、今後の保険業界に大きな影響を与えることになる変更が含まれていた。
「算出方法書の記載事項より、予定事業費率に関する事項を削除し、予定事業費に係る具
体的詳細な記述を求めないものとする」。すなわち商品の審査時に提出する保険料の算出
方法を記した「保険料及び責任準備金の算出方法書」の中から、保険料のうち手数料部分
(付加保険料)に関する記述 (予定事業費率)が不要とされたのである。
 つまり、保険料のうち死亡率や予定利率に係る「純保険料」部分については、これまで
と同様、前提となる係数について具体的詳細な記述を求めるが、付加保険料については
「係数によらず定性的な表現で記載する」ことが可能となったのである。また、その後に
寄せられたパブリックコメントに対する回答で当局は、「商品内容を変更することなく予
定事業費のみを変更する場合は、金融庁の認可を得ることなく予定事業費を変更すること
は可能」との見解を表明した。
 金融庁の認可対象となっていたものが、認可不要となったことは、事実上、価格競争の
自由化の幕開けを意味していた。この改正は、二〇〇六年四月一日から施行された。
 生命保険業界の歴史では、より多くの資金獲得を目指す競争者が激しい値下げ (あるい
は 高 利 回 り の 保 証)を 行った こ と が も と で、経 営 が 立 ち 行 か な く なって 破 た ん す る、と い
うことが繰り返されてきた。したがって、当局も競争促進の規制緩和とともに、責任準備
金が十分積まれているか、事後のモニタリングにより実際の事業費に見合わない付加保険
料の値下げが行われていないかを確認することになっている。
 この頃と時を同じくして、閉鎖的と言われてきた日本の保険市場に、新規参入のラッシ
ュが起きた。
 まず、外資による変額個人年金市場への参入。フランス最大手のクレディ・アグリコル
は二〇〇七年に認可を取得し、十月から営業を開始。約五年ぶりに日本に誕生した新しい
生命保険会社となった。世界大手保険グループのひとつであるドイツのアリアンツも、二
第四章 かしこい生保の選び方

〇〇八年三月に免許を取得、営業を開始した。オランダに本社を置き、欧州大手であるエ
イゴンも、ソニー生命と合同で準備会社を立ち上げたが、二〇〇九年八月にようやく許可
を取得した。
 二〇〇八年春には、ネット事業の生命保険会社の設立がつづいた。われらがライフネッ
ト生命は、マネックスグループ (ネット証券)
、三井物産、新生銀行、セブン&アイ・フィ

183
ナンシャル・グループ、朝日ネット、リクルートなどの異業種企業を株主に持つ。また、
ネット金融グループのSBIは、アクサ生命と合同でSBIアクサ生命を立ち上げ、営業

184
を開始している。
 また、無認可共済の二社が生保免許を取得し、アイリオ生命、みどり生命として生まれ
変わった。さらに、ネットビジネスの雄、楽天がアイリオ生命に一四・九%出資すること
が報じられた。
 このように急ピッチで新規免許が出されたのは、競争促進の点からは望ましい。各社い
ずれも、ビジネスモデルにおいて特徴をもった会社である。契約者保護はきちんと図りつ
つ、多様なビジネスモデルの参入を許し、消費者に選択肢を増やす。それが、望ましい保
険行政の方向である。
消費者不在の業界再編
 以上、ここ二十年の、生保業界をめぐるさまざまな動きをみてきた。
 しかし残念ながら、こうした新勢力の躍進やシェアの入れ替わりは、必ずしも保険料の
低下という形で国民にメリットとなって還元されていない。
たとえば、自由化後の十年間、保険料収入を保有契約件数で割った一件当たりの平均保
 
険料の推移をみると、自動車保険が年率一%の割合で低下
してきたのに対して、生命保険ではまったく下がっていな
保有契約件数 保有契約件数
表⑪ 生命保険保有契約 1 件あたりの事業費の推移

(100 万件) (1000 円)


事業費÷

いことがわかる。
出所:インシュアランス生命保険統計号より著者作成
33
32
34

 保険料と裏表でもある事業効率の指標として、業界全体
の事業費を保有契約件数で割った数字を比較すると、十年
*事業費は全体、契約件数は個人保険のみ

前 は お ろ か、二 十 年 前 か ら も 事 業 効 率 は 改 善 し て い な い
個人保険


(表⑪)
92
130
109
つまり、生命保険会社が進めて来た事業費削減は、保有
 
契約の低下のスピードに追いついておらず、結果として契
第四章 かしこい生保の選び方

(10 億円)

3, 040 約一件当たりについて、加入者が負担している事業経費は
4, 204
3, 715
事業費

減っていないのである。
 そして一番大きな問題は、保険の売り手と買い手との大

1986 年
1996 年
2006 年
きな情報格差を活用して販売しようとする、業界の体質が
変わっていないことである。商品の比較情報に対して、い

185
まだに強い心理的抵抗があるため、十分な比較情報を入手
することは困難である。

186
また、急成長した医療保険の広告において、実際の給付金額や必要となる費用など、公
 
的な健康保険との違いを十分に説明していないことも多い。個人の自己負担金額には「高
額療養費制度」によって上限が設けられているのだが、広告でみる「病気になったときの
自 己 負 担 額」と い う データ に は、下 に 小 さ な 文 字 で「高 額 療 養 費 制 度 に よ る 還 付 前 の 数
字」と注釈がつけられているのにお気づきだろうか。
 消費者の生命保険に関する意識や満足度も高まったとは言いがたい。ライフネット生命
が実施した生保加入者千名の調査 (二〇〇八年十月)によると、自分の生命保険の理解度
について、
「不安を感じている」と回答した人が八八%にも上った。加入している生命保
険に「不満がない」と回答した人は二八%にとどまり、七割が「加入している保険を見直
したい」と回答している。
改正業法によって、生命保険会社をとりまく環境には大きな変化が起きたかもしれない
 
が、そこで生まれた価値の再分配は供給者間でなされたにすぎず、消費者はその恩恵を受
けていない。とりわけ業界の慣習たる「高い販売手数料」は、そのまま新しいチャネルに
も引き継がれたままという側面も否めない。
付加保険料開示の衝撃
 典型的な死亡保険 (かけ捨て型の定期保険)の「付加保険料」(生命保険料のうち事業の運営
経費に充てられる手数料の部分)が三〜六割とされていることは前に述べた。一般に死亡保
険の付加保険料がこのように高いとなると、証券仲介や、投資信託商品を選ぶ際に、必ず
「手数料」が重要な比較ポイントとなるように、生命保険においても、契約者は「付加保
険料が安い保険会社を選ぶ」ことが大切になってくる。
生保業界において、この手数料部分を開示することは、いわば「タブー」とされ、公表
 
されることはなかった。しかし住宅を購入する場合、手数料は必ず明示される。銀行の窓
第四章 かしこい生保の選び方

口で投資信託や変額個人年金保険を購入する場合も、こちらが尋ねれば手数料を教えてく
れる。だとしたら、なぜ生命保険業界だけが手数料を開示しないのか?
生命保険が他の商品と比べ、売り手である保険会社と買い手である消費者の間の情報格
 
差が大きいことを考えると、付加保険料を開示し、消費者の判断材料を提供することはと
ても重要だと思われる。

187
 そこでライフネット生命は二〇〇八年十一月二十一日に、インターネット等を介して直
接販売する保険商品に関して、保険料のうち付加保険料率の全面開示に踏み切った。

188

「純保険料の一五%+二五〇円+α」、より正確には、
・契約一件あたり二五〇円 (月あたり)
・月額二五〇円の定額部分控除後の営業保険料の一五%
・予定支払保険金・給付金の三%です〉
 日本経済新聞 (二〇〇八年十二月四日付)は、すぐにこのニュースを、「生命保険『原価』
わかります─ライフネットが開示」という見出しで、「透明性を高めるとともに、営業職
員を持たず経費を抑えられるネットの強み」と伝えた。
 このニュースがテレビ並みの視聴率を誇るYahoo!のトップページを飾ると、ライ
フネット生命のホームページにアクセスが殺到し、閲覧数は二十八万ページビューにのぼ
った。
 また、
「AERA」(二〇〇八年十二月八日号)でジャーナリストの山田厚史氏は、死亡保
険を「素うどん」
、特約を「うどんのトッピング」に例えて、保険商品から特約を全廃し
た当社を指して「素うどん専門」と呼んだ。「ライフネット生命は他社の素うどんと比較
する情報を公開した。さあ大手はどう応える。立ち食いうどん屋でも、イカ天やキツネの
値を表示しているぞ」とも。
 この動きは業界他社からは歓迎されなかった。ダイヤモンドオンライン (二〇〇八年十
二月八日)は、
「ただでさえ収益が悪化している生保各社には、価格引き下げ競争になりか
えんさ
ねない付加保険料の開示は避けたい事態。そのため『余計なことをしてくれた』と怨嗟の
声が上がっている」ことにも触れた上で、「金融商品の手数料開示は世界的な流れ。いつ
までも非開示のままではいられないだろう」とまとめている。
第四章 かしこい生保の選び方

生保業界の生きる道
 これから生保業界はどうなっていくのだろうか。
 現状がどうであれ、売り手である保険会社と買い手である国民との間に、大きな情報格
差があることを前提としてきた既存のビジネスモデルでは、この先立ち行かないだろう。
インターネットやブロードバンドの普及による新しい情報化の流れは、ひとりひとりの消

189
費者に多くの知識と情報を与え、個人が企業と対等に向き合う力をつける。これからは、
消費者の理解不足に頼った価格設定ではなく、対価にみあった付加価値を提供しなければ、

190
淘汰されていくだろう。
 具体的には、保険会社の手数料にあたる「付加保険料」を引き下げる方向へ向かうだろ
うと予想される。
 保険に「サービス」や「セール」が存在しないことは、前に述べた。保険料を引き下げ
るといっても、営業活動の効率化や、事業費削減のための新しい取り組みなど、何らかの
実質的なコスト削減に裏打ちされたものでない限り、それは会社の財務基盤を毀損するダ
ンピングにほかならない (一九八〇年代のバブル期、ヒット商品「一時払い養老保険」などでは
貯蓄性商品としての魅力を高めるべく、高い金利と高い配当をつけることで各社競争を激化させた
が、一社が資産運用において持続的に他社を出し抜くことができるはずはない。
「資 産 運 用 を が ん ば
る」といった実質的な裏づけのない過当競争が、その後の「逆ざや問題」をより深刻なものとした

ことをいま一度、強調しておきたい)
 過去の教訓を踏まえれば、これからは従来よりも効率のいい営業手法が前提となってい
くだろう。効率の悪い訪問販売や、大量の広告・宣伝や電話セールスなど、低いレスポン
ス率を想定した販売は、すべて保険料に上乗せされるものであり、消費者には支持されな
いだろう。
また、純保険料部分の価格も適正化の必要がある。現状においては、引き受け不可とな
 
る一部の契約者を除いては、同一の保険料が適用されている。これにはかなり保守的に見
積もった死亡率が用いられていることで、生保会社は膨大な危険差益をあげている。いま
のままで二倍の保険料をとれるのなら、それを半額に引き下げる誘因は保険会社の側には
ない。だが今後、アメリカのように非喫煙割引や健康優良体割引などの導入が進むことで、
より個人の健康リスクに応じた保険料設定がなされていくべきである。
近年、ニーズの高い医療保障についても、現状の入院日数をベースにした短期入院の医
第四章 かしこい生保の選び方

 
療保険商品は、本当に必要なものだろうか? 割高な保険料を払ってまで、日帰り入院に
対する五〇〇〇円、一万円の給付を求める、消費者の不合理な心理を刺激するのは適切な
ことなのだろうか。
自由競争に任せた結果の、いまの医療保険商品の乱立については、有識者の間でも「カ
 
オスに近い」という懸念の声もあがっており、「耳ざわりのいい、売りやすい商品」から

191
「本当に必要な商品」への転換が必要な時期にきていると考える。判断軸となるべきは、
国の保険も含め、貴重な国民医療費をいかにして、最も効率的に使うかであろう。

192
また、公的年金や企業年金の支給が不安定な中、生命保険会社が老後資金の準備や運用
 
において果たす役割もますます高まる。これまでのように、保障部分と貯蓄部分を明確に
わけることなく、渾然一体なまま、契約者に提示することは望ましくない。他の運用商品
と同様、運用と販売に関する「手数料」について開示するべきである。
保険にかしこく入るための七か条
 さて、本書を通じて述べてきた生命保険のカラクリを踏まえた上で、もう一度、皆さん
が生命保険をかしこく選ぶためのポイントをおさらいしておきたい。
一、死亡・医療・貯金の三つに分けて考えよう
 複雑なようにみえる生命保険も、第二章で見た通り、「何のために備えるか」という観
点から見れば、すっきり三つに整理することができる。
・死亡保障
・医療保障
・貯蓄
それぞれについて、実際にどれだけのお金が必要かを押さえた上で、どうやって備える
 
かを考える。また、複数の機能を一つにバンドルした商品ではなく、できるだけ単品で選
ぶようにする。
「保障と貯蓄は分ける」という観点から、満期金やボーナス金などがつい
ていない、シンプルな保障商品を選ぼう。
 ポイントは、「生命保険がすべてではない」ということ。国による保障 (遺族年金、健康
、企業の福利厚生 (弔慰金など)
保険など) 、共済などの非営利事業を上手に活用して、そこ
で不足する部分のみを生命保険で補うようにしよう。
 また、貯金こそが最大の備え (いつ、どんな用途に使ってもいい、手数料がかからないお金)
第四章 かしこい生保の選び方

になることを忘れずに、保険料を払いすぎるよりも、まずは堅実に貯蓄をしていくことを
心がけよう。
二、加入は必要最小限、を心がけよう
生命保険は、ほとんどの人にとっては、かけ捨てに終わる可能性が高い出費である。に
 

193
もかかわらず、入り方によっては、生涯にわたって一〇〇〇万円近い保険料を払い込むこ
とになる、とても高い買い物である。そして、本書で何度も述べてきたように、手数料は

194
極めて高い (定期保険では三割〜六割)

 したがって、生命保険への加入は必要最小限にするべきである。国や企業による保障を
確認し、不必要な特約はつけず、期間は限定して加入するなど、できるだけ工夫をして、
保険料を節約し、差額を貯蓄に回すべきである。
三、まずは中核の死亡保障を、安い定期保険で確保する
 生命保険の基本は、残された家族のための保障である。「時間を買うための高い買い物」
という視点から、子どもが独立するまで、老後の生活費が準備できるまでなど、期間を限
定した「定期保険」に加入しよう (十年、二十年定期など)

「亡くなったら保険金が払われる」という機能は、どこの会社もさして変わらない。し
 
たがって、特約などがついてないシンプルな商品を、できる限り安い直販チャネル (通販、
ネットなど)で買うべきである。
 必要保障額は人によって異なるが、平均的な世帯の保障額は三〇〇〇万円、子ども一人
当たりの教育費が一〇〇〇万円、という数字をひとつの目安とする。自営業の人は、サラ
リーマンよりも年金が少ないので、少し多めに保障を上乗せしておく。それ以外も、不安
であれば保障を多めに (四〇〇〇万〜五〇〇〇万円)確保しておこう。ネット生保などの割
安な生保であれば、多少保障金額が多めであっても、保険料はそれほど高くならない。
 もっとも、高齢になると定期保険には加入できないか、加入できても保険料がとても高
くなる。それでも死亡保障が必要な人は、終身保険を選ぶのも、一つの手である。
四、医療保障はコスト・リターンを冷静に把握して、好みに合ったものを選ぶ
 いざというときの医療費がいくら必要なのか、また医療保険にいくら保険料を払って、
いくら給付金として戻ってくるのか、冷静に把握した上で、自身がしっくりくるコスト・
第四章 かしこい生保の選び方

リターンの商品を選ぶようにしよう。
 まず、第二章で見た通り、わが国における健康保険の保障は手厚く (特に高額療養費制
、医療費の自己負担というのは意外と多くない。見えないリスクを過度に恐れるより
度)
も、冷静に、払い込む保険料と期待できる給付金とのバランスをよく見て選ぶべきである。
 まず、標準的な医療保険。売れ筋となっている「入院一日一万円、一泊二日から」とい

195
ったタイプの短期入院保険は、払い込む保険料と期待される給付金の倍率がそれほど高く
ない。例えば、年四万〜五万円を保険料として払い込んで、平均して一〇万〜二〇万円の

196
給付金をもらう、といったものである。
 このような商品構造を理解した上で、それでもこのタイプの医療保険が必要かどうか、
決めるべきである。なお、専門家の中には、「短期入院の保険よりは、貯蓄をして備えよ
う」と主張する人も少なくない。「安心を買うお守り」という心理的な効果とのバランス
を考えて、選ぶべきである。
 仮に加入するとしたら、「日額一万円、一入院六十日限度、終身タイプ」のものを標準
として考える。これで大半の入院による出費は無駄なくカバーできる。やはり通販かネッ
トの、手数料が安い商品を選ぶべきである。先進医療も保障に含まれていれば、なおよい。
 がん保険は、がん以外の病気では支払われない (しかも上皮内がんのように治療の見込みが
あるものは給付対象外のものが多い)という欠点はあるが、家系などでがんが心配な方は、
加入を検討すべきである。診断一時金などで一〇〇万円、三〇〇万円などの大きな金額を
もらえるものもある。入院日数が長いものよりも、診断一時金が高いものを選ぶようにす
る。
なお、若いうちの思わぬ病気・怪我には保険で備えるべきだが、高齢になってからの医
 
療は、保険でカバーすべき「不慮の事態」というよりは、誰しもいつかは直面するものだ
から、保険に頼りすぎることなく、自身の貯金でも医療費を用意しておく必要がある。
五、貯蓄は金利が上がるまで、生保で長期の資金を塩漬けにしてしまうのは避けよう
 生保を通じて貯蓄することには、一括収納で強制的に貯蓄してくれることと、長期で高
い利回りを期待できる、というメリットがある。
 他方で、途中で解約しづらい (ペナルティを取られる)ため資金を他の用途に使えないこ
と、他の金融商品と比べて手数料が高いこと、そして低金利の環境下では長期で低い利率
で固定してしまうことになる、というデメリットがある。
第四章 かしこい生保の選び方

 したがって、現在のような低金利が続く間は、保険は保険、貯蓄は貯蓄で分けて準備す
べきである。具体的には、保障は保険で確保して、貯蓄は自身で給与の一部を自動積立す
るなどして準備すべきである。
 再び金利が高くなり、生保から高利回りの貯蓄性商品が出てきたタイミングで、再度、
保険で貯蓄をすることも考えよう。

197
六、すでに入っていても「解約したら損」とは限らない。見直そう

198
すでに保険に加入してしまっている人でも、「解約したら損」とは限らない。以下の二
 
つを書き出してみて、古い保険を継続するのと、新しい保険にスイッチするのがどちらが
有利か、冷静に比較してみよう。
①このまま続けたら、満期まで総額いくらの保険料を払い込むか
②解約して新しい保険に加入したら、( )いくらの解約返戻金が戻ってきて、( )満

2
期まで総額いくらの保険料が節約できるか
 なお、一九九三年三月以前に終身保険や養老保険に加入した人は、予定利率が五・五%
から、九三年四月から九九年三月までに加入した人は二・七五%〜四・七五%と、比較的
高い予定利率を享受できる可能性がある。
 これらの人は、少なくとも終身保険部分を残すことが望ましい。ほかの特約や定期保険
については、前記に従って新しい商品と比較することで、選ぶべきである。
 また、高い予定利率の保険が更新時期を迎え、保険料が高くなってしまう場合には、保
険料が安い保険に乗り換える (「転換」)のではなく、以前の保険を「払い済み」(積み立て
られたお金を使って、将来の保険料を払い込んでしまう)にすることで、高い予定利率を残す
ようにしよう。
七、必ず複数の商品 (営業マンではない)を比較して選ぼう
 同一商品・同一料率が標準だった時代には、どこの会社を選んでも、さほど差はなかっ
た。したがって、もっとも感じがいい営業職員から買う、というのが、ある意味、もっと
も合理的な選択ではあった。
しかし、本書でも見てきたように、ほぼ同等の保障でも、いまや保険会社によって保険
 
料には大きな違いがある。無料なら、手厚いサポートをしてくれる営業職員がいてくれた
方がいいに決まっている。問題は、そのコストが決して無視できないほど大きいことであ
第四章 かしこい生保の選び方

る。どの商品を選ぶかによって、長期にわたって数十万円、あるいは一〇〇万円近い保険
料の差が出ることもある。
 したがって、事前にインターネットなどで情報収集をした上で、必ず二つ以上の保険商
品を比較するようにしよう。営業職員にコンサルティングをしてもらった場合には、同等
の保障を通販やネットでいくらで確保できるか、そして目の前の営業職員は、その差額分

199
の価値だけのサービスを提供してくれるのか、よく考えよう。
 GNP
(義理・人情・プレゼント)で自分のマイホームを選ぶような人はいない。だとし

200
たら、知り合いだとか、いい人だという理由で、保険を選ぶべきではないことが分かるだ
ろう。
生保をさらによく知るためのコラム集
コラム❶【生命保険契約者のセーフティネット】
 
生保をさらによく知るためのコラム集

 はじめて生保の「不倒伝説」が大きく揺らいだのは、一九九七年にわが国を襲った未
曾有の金融危機だった。証券、地銀、長信銀と、金融機関の破たんが相次ぎ、ついには
生保が破たんする事態になった。一九九七年四月、戦後初となった日産生命の破たんに
ついて、当時の三塚博大蔵大臣は、「こういうケースは最初で最後」と語っていた。
 戦後、生命保険会社が破たんすることは想定されていなかったため、契約者を守るた
めのセーフティネットは準備されていなかった。業界は慌てて共同で資金を拠出し、九
八年の十二月、
「生命保険契約者保護機構」を発足させた。国内で営業するすべての生

201
命保険会社が会員として加入し、財源として八三八〇億円が拠出された。もっとも契約
者の間では生保不信が募り、各社のコールセンターの電話は鳴りやまず、解約が相次い

202
だ。
 そして、一九九九年六月、東邦生命が資産運用の失敗が原因で破たんした。その後、
二〇〇一年までの間に、計七社が破たんに追い込まれた。
 要因は、いずれも共通している。バブル期に契約獲得のために高利回りの保険を躍起
になって販売したものが、バブル崩壊後のゼロ金利政策のもとで運用面で「逆ざや」が
生じて、財務基盤が危うくなったのだ。なかには、銀行の取り付け騒ぎに近い事例もあ
った。
 もっとも、これらの中堅生保が破たんしたのは、市場環境の変化といった外部要因の
みならず、破たんリスクを高めるような経営を行った内部にこそ問題があると、保険業
界の格付けアナリスト・植村信保氏は著書『経営なき破綻 平成生保危機の真実』(日
本経済新聞出版社、二〇〇八)で明らかにしている。
 氏によれば、破たんを回避した中堅生保の特徴として、一時払いの貯蓄性商品に傾斜
しなかったこと、運用と営業部門が分離できていたためにバブル期にハイリスクな運用
を行わなかったこと、そして経営者がデータや経営指標を重視し、「アクチュアリー」
と呼ばれる保険数理のプロをはじめとした専門家の意見を聞く企業風土を持っていたこ
とがあげられる。
 生保商品は契約時に顧客に一定の利回りを保証するが、これを「予定利率」という。
責任準備 引き下げ後
社名 破綻年月 現社名
金削減  の予定利率
戦後初の生保破綻。「こういうケース
日産生命 年 月 なし % あおば

2. 75
97

は最初で最後」と三塚博蔵相(当時)
4

日 産 生 命 破 綻 後 に で き た「生 保 契 約
東邦生命 ・ % % GEエジソン
生保をさらによく知るためのコラム集

1. 5
99

10
者保護機構」から資金援助うける
6

朝日新聞 2003 年 5 月 2 日記事より


第百生命 ・ % % マニュライフ 保護機構から資金援助
00

10
5

1
や ま と 保 護 機 構 か ら 資 金 援 助。東 邦 以 後
大正生命 ・ % % 大和

3
00

10
破たんした生保 7 社

社の破綻で、残額約 億円に減る

200
更生特例法を初めて適用、保護機構か
千代田生命 ・ % % AIGスター

1. 5
00

10

10
ら資金援助受けず。以後の 社も同様

3
協栄生命 ・ % % ジブラルタ 千代田生命の翌週に破綻

1. 75
00

10

8
買 収 に 名 乗 り を あ げ た 社 を 競 わ せ、

203
東京生命 ・ なし % T&Dフィナンシャル

2. 6
01
責任準備金削減を回避

3
逆ざやとは、生保各社の実際の利回りが予定利率を下回り続けたことによる、損をいう。

204
一九九〇年代末には一兆四〇〇〇億円 (国内主要九社ベース)まで膨らんだ逆ざやも、
 
ゼロ金利政策が終わりを告げたことや、保有株式の配当収入拡大などが運用環境の改善
を背景に縮小基調に乗ったことで一旦は収束に向かった (日経金融新聞二〇〇七年五月二
。二 〇 〇 八 年 三 月 決 算 で は 国 内 大 手 九 社 の 逆 ざ や は 合 計 二 五 五 六 億 円、ピー
十 三 日 付)
ク時の九九年三月期 (一兆四〇〇〇億円)と比べると五分の一以下になり、出口がみえて
きた。しかし、金融危機によって再び逆ざやは広がっている。
 生命保険契約者保護機構は、その後、日産生命に二〇〇〇億、その後の資金援助額と
して五三八〇億円が使われており、実際に活用できる枠は一〇〇〇億円程度まで減って
いる。
 契約者からみたときの安全指標であるはずの「ソルベンシー・マージン比率」(支払
余力)がいずれの会社も破たん時に、安全とされる二〇〇%以上であったため、この指
標の計算方法を見直す必要があるのではないか、という意見が多かった。現在、適正な
ソルベンシー・マージンのあり方について、金融庁は新しい指針を発表している。
やつかん
 コラム❷【生命保険の約款】
 生命保険の商品は姿も形もない。あるのは、「保険事故があったときに保険金が支払
われる」という、契約者と生命保険会社との約束だけである。その約束の内容を取りま
とめた「約款」が、生命保険の商品そのものである。
どんな商品を買うときも、その内容を確認せずに買うことはない。家や自動車のよう
 
に高額な品であれば、実際に商品を自分の目で確認し、隅々まで調べ、いくつもの選択
生保をさらによく知るためのコラム集

肢を比較検討し、納得した上で選ぶだろう。同様に、非常に高額である生命保険という
商品を買うにあたっては、商品内容であるところの約款の内容をよく理解しておくこと
が、とても大切である。
 しかし、多くの保険会社は契約に加入するまでは約款を交付してくれない。これは約
款の内容が複雑であるため、一般人にはなかなか理解が難しいだろうというあきらめと、
分厚い約款を印刷するコストが高くつくため、実際に契約をしてもらえるかどうかわか
らない、無数の見込み客には配りたくない、というコスト節約の意識があるようだ。

205
これでは本末転倒である。竣工前の新築マンションが購入時に実物を見ることができ
 
ないのはやむをえないとしても、生命保険の約款は印刷物に過ぎない。必ず買う前に入

206
手し、理解しておくべきものだと買う側が心得ることが大切だ。
 生命保険の約款とは、契約者と保険会社との間で、それぞれの権利・義務を取り決め
るものである。
 契約者の主な義務には、申込み時に質問に対して健康状態などを正確に答える「告知
義務」と、保障を受けるために必要な保険料を払い込む義務がある。他方、権利には、
保険会社の責任が開始した時点から保険期間が終了するまでの間、契約に定められた保
険事故が発生した場合に、保険金や給付金の支払いを受けることができる、ということ
がある。
 契約者の義務が免除される例として、契約者が重度の障害状態になってしまった場合
に、以後は保険料の支払いを続けなくとも保障を継続することができる「保険料払込免
除」がある。逆に、契約者としての権利を失ってしまう例として、告知義務に違反して
健康状態などを正確に伝えなかったときに保険契約を解除されてしまうことなどがある。
契約者が保険金の請求をしても保険会社が期待通りに払ってくれないという事例は、
 
契約者側が自らの義務を果たしていないか、保険事故が支払条件に該当していない、と
いうことが多い。たとえば、申込み時に持病を持っていることや通院歴などがあること
を隠して加入した場合には、「告知義務」の違反を問われ、契約を解除されてしまうこ
とがある。
 そして契約者側が自らの義務を果たしていたとしても、事故が保障対象外である場合
には、やはり保険金は支払われない。典型的な例は、一泊以上の入院を伴わない手術で
へんとうせん
あるとか (日帰り手術でも支払われる商品もある)
、扁桃腺など保障対象から一部除外され
生保をさらによく知るためのコラム集

ている病気に該当する場合である。
 せっかく契約し、長らく保険料を払い続けたにもかかわらず、事故が発生したときに
期待していた通りの支払いを受けられない、という状況を避けるためにも、保険の約款
はきちんと読み、理解しておくことをお勧めする。
 約款が複雑すぎて読めない、理解できない、ということであれば、その保険には加入
を思いとどまった方がいいのかもしれない。
 ポイントは、契約者である自分の義務が何であり、権利が何であるか、どういう場合

207
に保険金などが支払われて、どういう場合には支払われないか、ということを明確に意
識し、理解することである。

208
基本的には、「一つのリスクに対して一つの給付がある」というシンプルな商品構成
 
のものを選ぶことが望ましい。
 コラム❸【生命保険会社が倒産したら】
 二〇〇八年十月十日、大和生命が更生特例法の申請を東京地裁に提出した。国内生保
が破たんしたのは、実に七年ぶりのこと。報道によると、本業での赤字を補てんしよう
と高利回りを狙ってヘッジファンドなど高リスク資産への投資へ傾斜していたところ、
昨今の金融危機の影響で資産価格が大幅に下落し、債務超過に陥ったとのことである。
 二〇〇〇年前後に相次いだ中堅生保の破たんが「逆ざや」という構造的な要因に基づ
いていたのに対して、今回は「特殊な運用」という同社固有の事情に基づく、と理解さ
れている。
さて、この事例のように、加入している生保が破たんした場合、保険契約はどうなる
 
のだろう?
 ま ず、保 険 契 約 は 原 則 と し て、国 内 で 運 営 す る す べ て の 生 命 保 険 会 社 の 出 資 に よ る
「生命保険契約者保護機構」(以下、「保護機構」)によって保護される。新たなスポンサー
の元で業務が再開されるまでは、契約の変更手続などは行えないが、加入者が保険料を
払い続ければ、保険金などは支払われることになっている。
 保護されるといっても、補償の対象は「払い込んだ保険料の九〇%」ではなく、「責
任準備金として積み立てられた金額の九〇%」である。ここで「責任準備金」とは、払
い込んだ保険料から保険金の支払いや契約の維持管理費用を差し引いたのちに、将来の
生保をさらによく知るためのコラム集

保険金等の支払いのために積み立てられた費用をさす。
 また、補償される契約には例外があり、たとえば破たん時から過去五年間の予定利率
が全生保の平均利回りから決まる「基準利率」を上回っていた「高利回り契約」につい
ては、この補償の対象が挟まり、予定利率が引き下げられることもある。
 その結果、契約の種類によるけれども、結果的に保険金や満期保険金の三割から五割
近くまでが削減されるケースもあるので、注意されたい。
 一方、貯蓄性がない、「かけ捨て」の定期保険については、もともと責任準備金の額

209
が少ないため、「責任準備金等の削減や予定利率の引下げの影響が比較的軽微で、一般
に保険金額の減少幅も小さくなる (または減少しない)傾向」がある、とされている (保

210

護機構のHPより)
 したがって、保険はかけ捨てのみにして貯蓄・運用は自分で行う、すなわち「貯蓄・
運用と保険は分ける」という考え方は、昨今のようにマーケットの動きが激しい時代に
は、望ましい対応といえるかもしれない。
加入していた生命保険会社が破たんした場合に、新たに別の会社の保険に加入し直す
 
場合と比較してどちらが有利かといったことは、一概にはいえない。新たな保険に申し
込んでも、年齢や健康状態などによっては、加入できないこともあるし、解約する場合
には、早期解約控除制度が適用され、解約返戻金等が削減される可能性があるのでご注
意を。
  *なお、具体的な運用については細かい取り決めがあるため、ここではあくまでも読者に、
イ メージ を もって も ら う た め の 説 明 に と ど め て い る。詳 し く は 保 護 機 構 の ホーム ページ
( )を参照してほしい。
http : //www.seihohogo.jp/
 コラム❹【保険料の決まり方】
 生命保険の心臓部分が、保険料の決まり方である。このカラクリを理解しておくと、
保険の仕組みがよりよく理解できるし、自分自身の生命保険の選び方などを賢く行うこ
とができる。
保険料の基本は、保険事故の発生確率である。たとえば、ある契約者グループについ
 
て、毎年、千人のうち一人が平均的に死ぬものと仮定しよう。亡くなった人の遺族に一
生保をさらによく知るためのコラム集

〇〇〇万円を支払いたいと思えば、千人から一人あたり年一万円、保険料として集めれ
ば、一〇〇〇万円の支払いの財源を確保することができる。
ここで、保険で保障する範囲を広く取れば取るほど、保険事故が発生する確率が高く
 
なるから、保険料は高くなる。また、保険金の金額を高くすると、同様に一人あたりの
保険料は高く取らなければならない。
 保険事故は年齢を重ねるごとに発生確率が高くなるので、本来、保険料は年をとるご
とに高くなっていく。たとえば、三十歳と六十歳の死亡確率は約十二倍違うから、年齢

211
ごとに保険料を上げていったら、おそらく約十二倍という大きな金額になってしまう。
若いうちは少ししか払わず、年をとってからの保険料負担が非常に重くなるわけだ。

212
そこで、保険会社では「若いうちに多めに取っておいて、年を取ってからの保険料を
 
安くする」という「平準保険料方式」を取っている。これによって、若い頃から将来の
保険金払いのための金額を積み立てておけるのだ。
 このような平準保険料方式によって、保険料は一定期間、上げずにすむ。そして、徴
収した保険料のうち、一部をその年の保険金払いに使い、残りを将来の保険金払いのた
めに貯蓄しておくことになる。これは責任準備金 (通称「せきじゅん」)という。
このようにプールされた保険料は、保険会社が運用することでいくらかの運用利益を
 
得ることができる。これらは資産を増やすことが目的の資金ではないので、あくまでリ
スクの小さな範囲での運用を行い、期待される利回りはさほど高くない。だが、それで
も生命保険契約は十年、二十年と長きにわたるため、長期運用による資産増加効果は小
さくない。いくらか安定的に運用利回りが期待できるのであれば、その分、保険料は安
くすることができる。
 このように、保険料を将来の分まで若干多く徴収し、それを運用することによって得
られる利回りのことを「予定利率」という。期待利回りが高ければ高いほど、徴収する
保険料は少なくてすむことになる。
保険という制度を維持・運営するためには、さまざまな活動が必要である。それは保
 
険契約者を募る行為に始まり、契約者の審査や加入後の保険料徴収、そして保険事故が
発生したときの請求処理業務。企業体としてこれらの業務を運営していく上では、IT
システムを構築する必要があるし、人事労務管理などの機能も必要である。オフィスが
あれば家賃がかかる。このような一連の費用も、保険料に上乗せして契約者から徴収す
る必要がある。これを、「付加保険料」という。
生保をさらによく知るためのコラム集

 ち な み に わ が ラ イ フ ネット 生 命 保 険 の 死 亡 保 険 (定期)
「か ぞ く へ の 保 険」を 例 に あ
げれば、三十歳男性、保険期間十年、保険金額三〇〇〇万円の場合、月額保険料三四八
四円のうち、約二三%にあたる八一五円が「付加保険料」になっている。年間では九七
八〇円、保険期間の十年を通じては一〇万円近くになることを考えれば、保険選びをす
る上で無視できない金額である。
 以上をまとめると、保険料を決定する要素は大きくわけて三つある (実際には、契約
者の解約率や、保険料払込免除になる人の人数なども計算して、その分保険料を修正する必要な

213

どもあるが、ここでは触れない)
214
①保険事故の発生確率 (確率が高いほど保険料も高くなる)
②預かった保険料の予定利率 (利率が高いほど保険料は安くてすむ)
③事業運営のための経費・利益 (経費が少ないほど、保険料は安くてすむ)
 この三つの要素を理解すれば、保険選びのポイントが分かってくる。
 まず、保障の対象をどこまで広げるか? あ
らゆる保険事故を対象にしたり、保障す
る期間をきわめて長期にしたり、発生した場合に支払われる保険金などの金額を高く設
定したならば、当然、保険料は高くなる。
 どの金融商品もそうだが、「お得な商品」というものは存在しない。そこにあるのは、
トレードオフである。手厚いサービスのために高いお金を払うか、費用を節約するため
に、サービスの範囲を限定するか、である。保険の営業職員に何度も通ってきてもらい、
丁寧に説明してもらうのは、通販やネットで自分で調べて購入するのに比べて、人件費
がかかる。保険料を上乗せしてまで説明を受けたいか、その説明を受けるために、いく
らまで高い保険料を覚悟するか。これが選択のポイントとなる。
 コラム❺【生保会社に値段をつける──バリュエーション】
 生命保険の「商品」を買うのではなく、生命保険「会社」を買おうと考えたとしよう。
生命保険会社の価値はどのように算定すればいいか? 以
下、生保も相互会社ではなく
株式会社であるという前提で話をしたい。
「普通」の会社であれば、たとえば当年度の純利益に十五〜二十倍といった倍率をかけ
生保をさらによく知るためのコラム集

た指標 (PER)を概算値として使う。これは、将来にわたって生み出されるキャッシ
ュフローを現在価値に割り引いたものと理解されている。
 これに対して、生命保険会社のバリュエーションでは、PERといった指標は適して
いない。ある一年の売上と費用を見ても、正確に事業の収益性を反映していないからだ。
もう少し詳しく言えば、ある時点で契約者は将来、数十年にもわたって保険料を払い
 
続ける約束をしているので、すでに将来にわたっての売上/キャッシュフローは、ある
程度、確定している。

215
しかし、この顧客に加入してもらうためにかかった費用は当年度にすでに発生してい
 
るので、

216
・売上=将来にわたってずっと発生
・費用=一年で発生
 という条件を揃えずに単年度の損益だけをみても、エコノミクスを正確に捉えられな
いのだ。
エンベデイツド バリユー
 そ こ で、保 険 会 社 の バ リュエーション で よ く 使 わ れ て い る の が、 embedded value
(E V)と い う 概 念。こ れ は、一 つ 一 つ の 契 約 が 将 来 に わ たって 生 み 出 す キャッシュフ
ローの「現 在 価 値」を 算 出 し、こ れ に 年 度 末 に 会 社 に あ る「(実 質)純 資 産」を 足 し た
ものである。保有している契約から生まれるキャッシュフローの総和に近い。
 ただ、これだけではある一定の時点における契約価値の総和を求めたにすぎず、むし
ろ解散価値 (会社が解散・倒産したとき、総資産から負債分を差し引いたもの)に近い。実際
に、会社が事業を継続する限り、新契約が増えるにしたがって、EV自体が毎年増えて
いくことになる。
 したがって、当年度の利益を何倍かするのではなく、当年度末のEVを何倍かしなけ
ればならないわけだ。欧米の例で、前年度から増加した分を八〜十倍して足すことが多
いようだ。もっとも国内の例では、成長性に対する懸念や、保有資産の内容によっては
EVの〇・九倍などの例もあるようである。
 コラム❻【生保の未来──リスク細分】
 自動車保険では「リスク細分型」と呼ばれる保険が一般的になりつつある。「走行距
離に応じて保険料が変わる」「過去の事故歴・違反歴 (ゴールド免許か否か)によって、
生保をさらによく知るためのコラム集

保険料が変わる」という仕組みは、自動車の走る距離が短いほど事故にあたる確率が低
かったり、過去に無事故であった人は、将来も事故を引き起こす確率が低いことから、
成り立つものである。
欧米の生命保険では、喫煙者と非喫煙者を分けて保険料を算出するのが標準的になっ
 
ている。喫煙者と非喫煙者では、死亡率が大幅に異なることが知られているが、そのほ
かにも、たとえば過去に病気をしたことがある人は、その内容いかんによっては、ずっ
と健康である人と比べて、将来も病気になる可能性が高いと考えられる。

217
したがって、身長・体重、喫煙・非喫煙、血圧、コレステロールなどを基準に、「健
 
康優良体」から「標準体」にまで四等級くらいにわけて、保険料を設定している。健康

218
な人と、健康でない人との間では、保険料が倍くらい違うといわれている。
 わが国の生命保険業界では、まだこのようなリスク細分型は極めて限定的にしか販売
されていない。「非喫煙割引」の商品を取り扱っている会社はいくつもあるが、積極的
に販売している会社は少ないようだ。実際の保険引き受けの現場で行われているコント
ロール は、
「謝 絶」と い う 形 で 加 入 を 断 る か、一 部 の 病 気 に つ い て は 保 障 を 除 外 す る
「部位不担保」
「条件付き引受」のみである。
 最近のアメリカの保険会社では、喫煙/非喫煙以上にリスクを細分化して、保険料を
設定するのが一般化している。たとえば健康状態によって、申し込み時に加入者を優良
健康体から標準体まで四クラスぐらいに分けて、それぞれに保険料を設定している。も
ちろん優良健康体の人は、健康でない人と比較してずいぶん割安の保険料で済んでいる。
 たとえば、左頁の図を見てみよう。二〇〇七年の金額を見ると、同じ商品に対して普
通体が約四五〇ドル支払っているところを、低血圧で、非喫煙で、コレステロールも低
いような健康優良体は約二〇〇ドルしか払っていないのがわかる。
さらに過去十年で、保険料が下がっていることがわかる。健康優良体の場合は約四〇
 
〇ドルから約二〇〇ドルまで、普通体でも約六〇〇ドルから約四五〇ドルまで下がって
いる。
 リスクの細分化および、競争の激化により、アメリカでは消費者のニーズにより合っ
た保険商品が生まれているこ
とがおわかりいただけるので
はないか。
 日本でも最近、一部の会社
生保をさらによく知るためのコラム集

アメリカの定期保険の保険料推移

で非喫煙割引商品を売り出し
てはいるが、たとえば、ホー

出所:http : //www.term4sale.com
ムページで検索しようとして
も、なかなかそのページが出
てこなかったりする。その分
保険料が安くなるので、会社
としては、現時点でそうした

219
商品を積極的に売る必要性を
感じていないのだろうと推測される。

220
 コラム❼【民間医療保険の将来】
 医療保険を上手に使いこなすには、公的な医療保障や医療費の実態などについて、き
ちんと理解をしておく必要がある。以下、業界関係者向けの研究書である『民間医療保
険の戦略と課題』(堀田一吉編著)を参考書にして、整理してみた。
 ○国民
 医療費は三二兆円、自己負担の医療費は六兆四〇〇〇億円
国が負担している国民医療費は約三二兆円。このほぼ四割の一二兆四〇〇〇億円は七
 
十歳以上の高齢者が消費した。費用の大半は、現役世代からの所得移転によってまかな
われている。三二兆円のうち、患者の自己負担費用は四兆七〇〇〇億円 に 達して い る
。内訳は、入院外の医療費が二兆一〇〇〇億円 (四六%)
(二〇〇二年度) 、入院医療費が
一兆三〇〇〇億円 (二八%)
、薬局調剤七〇〇〇億円 (一五%)
、歯科診療五〇〇〇億円。
 これに含まれない「医療周辺サービス」が、さらに一兆七〇〇〇億円もある。内訳は
差額ベッド代が約四〇〇〇億円で、大衆薬が約七六〇〇億円、歯科自由診療費が約四五
〇〇億円、人間ドックが約六〇〇億円とのこと。これらをすべて足すと、医療費の自己
負担額は約六兆四〇〇〇億円。国民一人当たりに直すと、年間五万三〇〇〇円になる。
 ○民間医療保険は公的保険を補完するものにすぎない
 では、民間医療保険の役割とは何か?
 アメリカなどと違って国民皆保険制度が整備されているわが国では、民間医療保険は
生保をさらによく知るためのコラム集

公的保険を補完する役割を果たすにすぎない。すなわち、医療サービスの基本となる部
分は公的医療保険が担い、個人が負担するのは、①治療費の自己負担、②差額ベッド代
など、③大衆薬など、④自由診療の費用となるが、これを一定割合でカバーするのが民
間医療保険である。
 入院一日当たりで給付される民間医療保険は、「所得補償」の意味もあるといわれて
いる。もっとも、企業勤めをしているなど、被雇用者保険や国保組合に加入している場
合は、病気で休んだ期間も「傷病手当金」という名目で、標準報酬の六割が一年六か月

221
を限度として支払われるので、この必要性は薄れる。これに対して自営業者など、市町
村国保は傷病手当金が給付されないため、逸失所得のリスクを自身が負担する必要があ

222
る。
 ○医療保険、いくらもらえるの?
 民間医療保険による入院給付金等支払額は、簡保・JA共済を含めると一兆三〇〇〇
億円程度 (二〇〇二年度)
。マクロでみると、患者負担費用に対する支払割合は約二割。
これを見ると、一定の割合は果たしているとも考えられるし、他方、まだ八割の部分で、
医療保険が活躍するポテンシャルがあるとも考えられる。
 もっとも、現在の標準的な医療保険商品は「一入院当たり」という給付が標準となっ
ているため、入院を伴わない費用については担保されるわけではない。また、入院日数
の短縮化に伴い、給付金額が少なくなる可能性がある。
 二〇〇八年、実際に支払われた医療保険の平均金額を計算してみると、入院給付金が
六一九〇億円÷四百五十九万件=一三万五〇〇〇円、手術給付金が二四五七億円÷二百
二十一万件=一一万一〇〇〇円。二つ合わせて、平均の給付金額は約二五万円となって
いる。もちろん、この数字は五万円もらった人が九人と、二〇五万円をもらった人が一
人いても同じ結果となるため、保険の世界では平均は意味をなさない、とも考えられる
が。
 また、なかには冷静にペイバックを計算する人もいるだろう。平均二五万円をもらう
ために、毎月三〇〇〇円 (=年間三万六〇〇〇円)も払うのは馬鹿らしい、と思う人もい
るだろうし、六十日限度で六〇万円しかもらえないなら貯金があるからいい、という人
もいるだろう。
 結局、言えることは、医療保険が万能ではないし、すべての人に必ず必要なものでも
生保をさらによく知るためのコラム集

ない、ということである。公的な保障でカバーされる範囲を理解し、民間医療保険でい
くらもらえて、そのためにいくら保険料を支払うのかを理解した上で、貯金で備えるか、
保険で備えるか、を判断すべきだろう。
○民間医療保険の限界
 
 そもそも、民間の医療保険には公的保険と比べて限界があり、「お得」な商品が作り
にくい構造になっている。

223
公的保険は、社会保障費の名目での税金の投入と、世代間や世代内の所得の再分配が
 
できる。同じ年齢で同じ収入であれば、医的リスクの大小にかかわらず保険料は一定で

224
ある。つまり、低リスク者から高リスク者へ、所得の再分配が行われていることになる。
 また、話題になった後期高齢者医療制度のように、高齢者の医療費のほとんどは現役
世代及び税金によってまかなわれている。
 これに対して民間の医療保険は、このような再分配も公金投入もできない。高齢にな
ればなるほど、多くの人が医療保険の給付を受けることになるため、ひとりひとりが自
分の将来の給付分を積み立てていく必要がある。死亡保険などと比べると「保険」が利
かない、積立方式に近い構造になっているのである。
 とすれば、民間医療保険商品はレバレッジ効果が低いわけだから、常に貯蓄とのバラ
ンスで考えるべきことになる。年を取れば必ず体にガタがくるのだから、老後の医療費
はある程度は、自分で貯蓄で備える必要がある。もっとも、誰もが上手に貯金をして、
一生涯にわたって自身の資金管理ができるわけでもないので、保険にはそれを補完する
意味合いがあるのかも知れない。
ネット生命保険の可能性 ──あとがきにかえて
 ネットを主要な販売チャネルとする私たちの「ライフネット生命保険株式会社」は、二
〇〇八年五月十八日に営業を開始した。保険会社の資本が入っていない「独立系」の保険
会社としては、七十四年ぶりとなる。
 私とパートナーの出口が「ネット生保」という業態を選んだのは、決して生保の営業を
すべてネットに置き換えることができる、といった単純な考えからではない。生命保険と
ネット生命保険の可能性

いう目に見えない、必要性も効用もすぐに感じることができない商品には、長くて複雑な
購買プロセスが伴うものであり、何らかの形で「人間の関与」が不可欠であることは、よ
く理解している。対面セールスが主流であり続けるのは、それなりの訳がある。
「非対面で生保が売れるはずがない」という業界の通説に反して、新しいネット生保に挑

225
戦しようと考えたのは、インターネットを活用することによって、本書でも指摘してきた
現代の生保業界が抱えるさまざまな問題点を解決することができるかもしれない、と考え

226
たからである。
 ひとつは、本書でも何度も触れた、構造的な高コスト体質である。
 営業職員が一軒一軒回って見込顧客の開拓を行い、断られながらも話を聞いてくれる一
人のお客さまに出会えるまで行脚を続ける──この従来型の人海戦術モデルは、メリット
もあるが、高いコストを伴う。そのコストは保険料として、お客さまに転嫁されることに
なる。対面で買いたいという人は引き続き多いだろうが、生命保険を人生のリスクヘッジ
のための「経費」であると考えるならば、機能は必要最低限に抑え、セルフサービスにす
ることでコストダウンしようというニーズが出てくるのも自然である。
 営業プロセスのすべてがネットに置き換わる必要はない。私たちが行っているのは、ネ
ットを使える部分では効率化し、本当に人間が介在する必要があるプロセス (保険相談や
商品に関する質問など)や、必要がある場合のみ「対面系」を用いるビジネスモデルである。
 私たちはネットを通じた直販モデルにすることで、保険料は大手生保の半額にできると
考えている。
 もうひとつの生保業界の構造的な問題点は、売り手と買い手との間に存在する、情報の
非対称である。対面であれば、目の前にいる人が提供してくれる情報 (それは多くの場合、
自社の商品を販売するために都合がいい情報にすぎない)のみを前提に、加入の意思決定をし
なければならない。
 これに対して、インターネットであれば、時間や紙面の制約を気にすることなく、情報
提供を行うことができる。複数の会社の営業マンを比較するには手間と時間がかかるが、
ウェブサイトを飛び回るだけであれば、さほど手間はかからない。
これに対して、ネット生保を利用する際の注意点として、以下の三点が指摘されている。
①問い合わせが基本的にはインターネットと電話でしかできないため、既存生保のよう
ネット生命保険の可能性

に商品の詳しい説明をしてくれない?
②新設の会社だから、破たんリスクが判定しづらい?
③ネット上の必要保障額の試算が正確でない?

227
 ①については、営業職員からバイアスのない説明を聞くことができ、時間に余裕があり、
かつ、対面で説明を受けるための対価が安価であれば、面談の時間を取って、きっちり説

228
明してもらえるにこしたことはない。
 しかし、対面型営業の場合、目の前にいる営業員は、あなたに生保を売ろうとする強力
なインセンティブを負っている。セールスの給与体系が歩合制に近ければ近いほど、その
誘因は大きい。あるサイトによると、外資系生保のコミッションは初年度保険料の三割か
ら五割という。保険料が毎月二万円の商品であれば、保険に加入してもらうことで営業職
員は一〇万円を手にすることになる。
 あなたは、百戦錬磨の生保営業マンと対峙して、自分が必要な情報だけを、中立公平な
商品説明を引き出すことができるだろうか?
 そして、そもそも保障商品が極めてシンプルであれば、コンサルティングは必要ないは
ずである。米国でも、コンサルティングが行われるのは富裕層に対してである。一般顧客
に対しては、そんなコストはかけられないため、乗り合い代理店が商品を紹介するにすぎ
ない。死亡保険であれば、本質的にはいくら保険をかけたいか、保険料はいくら払っても
いいか、期間をどう設定するか、の選択だけである。保険料一三〇〇円で一〇〇〇万円か、
保険料三五〇〇円で三〇〇〇万円を選ぶか。まずは十年にするか、いまから二十年入って
おくか。そういったことを選ぶ作業にほかならない。
 ちなみに、欧米のように生命保険が資産運用の重要な役割を占める場合は、ポートフォ
リオ管理や相続対策、税務問題など、コンサルティングが必要となる。わが国の生保のコ
ンサルティングは、中小企業の経営者や富裕層などを相手にするような場合を除いては、
このような資産コンサルティングまで踏み込んでは行われていない。
 この点について、ある凄腕保険セールスマンから「アメリカの同業者と意見交換して、
コミッションの大半を死亡保障ではなく、資産運用商品で稼いでいると聞いて、目からウ
ロコだった。これからは我々も資産管理の提案力を身につけていかなければならない」と
いった趣旨のことを聞いたことがある。
ネット生命保険の可能性

 ②の「破たんリスク」については、ネット生保は大手生保に比べると、スケール面で財
務基盤が劣る点は否めない。確かに、自己資本は数兆円もない。ただ、ソルベンシー (支
払余力)と い う の は あ く ま で も 保 有 し て い る 契 約 (負債)に 対 し て、ど れ だ け 自 己 資 本 が
あるか、という点である。保有件数がそれほど多くないライフネットの場合、一三二億円

229
の資本は当面は十分と考えている。
 どんな業界であっても、新設会社は将来どうなるかわからないし、抽象的に「破たんリ

230
スク」を論じてもわかりにくい。生保について具体的にみると、ポイントは三つある。
 ( )まず、過去に破たんした生命保険会社は、高すぎる予定利率を長期にわたって保
1

証したことや、資産運用を失敗したことによる。ライフネット生命は予定利率が問題にな
る貯蓄性の商品はなく、運用は高格付けの債券で行っている。
( )次に、生保業界には、「生命保険契約者保護機構」なるものがあり、破たんした時
 
2

点 の 補 償 対 象 契 約 の 責 任 準 備 金 等 ( 払 い 込 ん だ 保 険 料、と い う 点 は 注 意 が 必 要 だ が)の 九


〇%までが補償されることになっている。
 ( )そして、かけ捨ての保険だけを取り扱っている場合、仮にX年後に経営が厳しく
3

なったとしても、そのX年間は払い込んだ分の保障を受けてきたのであり、貯蓄性の商品
と比べると損失は限られている (二一〇頁参照)

 このように、抽象的に「破たんの可能性」を心配するのではなく、どのような場合に破
たんが起こるのか、その場合にどういう処理がなされるのかは、理解した上で判断する必
要があるだろう。
③については、シミュレーションはあくまでも予想なので、前提条件を少し変えただけ
 
で、結果は大きく変わってくる。一つの目安にすぎないし、対面の営業職員が行うシミュ
レーションも、
「精度」にはさして違いはない。そもそも、二十年、三十年の家計を正確
に予想できる人がいるのだろうか?
 私は、ネット生保にデメリットが一切ない、と言っているのではない。百年続いている
会社のもつ安心感、対面営業マンのかゆいところに手が届くサービスは、それはそれで貴
重であるし、価値は高いと思われる。
 問題は、それに対していくらの対価を払うか、である。生命保険は長期にわたって支払
う商品なため、月に数千円の違いが、一年では数万円、十年では数十万円の差になりうる。
生命保険について何か聞きたいことがあったときに対面で来てもらえる、そのサービスに
ネット生命保険の可能性

対して、十年で数十万円の手数料を余分に支払うか。あるいはちょっとは面倒だが、ネッ
トで情報収集をして、わからないことがあったら電話で聞くことでよしとし、差額の数十
万円を保険のような「守り」のためでなく、投資・運用や、旅行や食事といった、もっと
前向きなことに使って、人生を楽しむか。

231
──そういう選択ができる時代がきているのだ。
 
 いまの時代、本当にかしこい消費者であれば、来店型の代理店に行って無料でプランを

232
作ってもらい、それを自宅に持ち帰って、割安な通販やネット系で同じ内容の保障をオー
ダーすることだろう。
 そのような選択肢が、ひとりひとりに与えられている。
 本書を通して見てきたように、生保はある面において、戦後の日本社会経済の繁栄と低
迷の象徴である。この生保業界でひとりひとりの加入行動が変わることは、巨大な個人マ
ネーの動きを適正化することであり、ひいては日本を変革することである。そんな想いを
もって私はライフネット生命を起業し、本書を記した。
 最後に、本書の執筆に際してお世話になった方々にお礼を述べたい。出口治明、大西又
裕、伊佐誠次郎、沖田俊幸各氏には生命保険の歴史と本質を理解する上で有益な視座を戴
いてきた。また、データ収集や草稿の確認については堅田航平、川越あゆみ、片田薫、矢
作亜矢子、小林美恵、青木美佐子、片切嘉各氏の多大な協力を得た。
 なお、本書の内容に関する一切の責任は筆者にあり、筆者が所属する組織の見解を代表
するものではない。
ネット生命保険の可能性

 二〇〇九年九月
岩瀬大輔

233
●参考文献

234
植村信保 『経営なき破綻 平成生保危機の真実』日本経済新聞出版社 二〇〇八
   
ニッセイ基礎研究所(編)『生命保険の知識』日本経済新聞社 二〇〇一
内藤眞弓 『医療保険は入ってはいけない!』ダイヤモンド社 二〇〇六
堀田一吉編著 『民間医療保険の戦略と課題』勁草書房 二〇〇六
久保英也 『生命保険業の新潮流と将来像』千倉書房 二〇〇五
 
刀禰俊雄・北野 実 『現代の生命保険』東京大学出版会 二〇〇〇
江澤雅彦 『生命保険会社による情報開示』成文堂 二〇〇二
   
H・ブラウン/水島一也(訳)『生命保険史』明治生命 ‌ ‌周‌年記念刊行会(非売品)

1
0
0
東洋経済新報社 週刊東洋経済臨時増刊「生保・損保特集」二〇〇八
米山高生 
『戦後生命保険システムの変革』同文館出版 一九九七
山下友信 
『保険法』有斐閣 二〇〇五
大森泰人 
『金融システムを考える』社団法人金融財政事情研究会 二〇〇七
出口治明 『直球勝負の会社』ダイヤモンド社 二〇〇九
 
出口治明 『生命保険はだれのものか』ダイヤモンド社 二〇〇八
出口治明  『生命保険入門』岩波書店 二〇〇四

Scott E. Harrington, Gregory R. Niehaus, “Risk Management & Insurance ) ”, McGraw
second edition
Hill, International Edition, 2003
( Eleventh Edition Revised
Kenneth Black, Jr., Harold D. Skipper, Jr., “Life Insurance ) ”, Prentice Hall
参考文献

235
岩瀬大輔(いわせ だいすけ)
1976 年埼玉県生まれ。東大法学部
在学中に司法試験に合格。1998 年
卒業後、ボストン・コンサルティン
グ・グループ、リップルウッド・ジ
ャパ ン を 経 て、米 国 に 留 学。2006
年ハーバード大学経営大学院修了。
帰国して、ライフネット生命保険設
立に参画、2008 年、同社取締役副
社 長 に 就 任。著 書 に『超 凡 思 考』
『金融資本主義を超えて』等がある。
ライフネット生命 HP http : //www.
lifenet-seimei.co.jp/

文春新書
723

せいめい ほ けん
生命保険のカラクリ
2009 年(平成 21 年)10 月 20 日 第 1 刷発行
2010 年(平成 22 年)2 月 5 日 第 6 刷発行
著  者 岩 瀬 大 輔
発 行 者 木 俣 正 剛
発 行 所 ㍿ 文 藝 春 秋
〒102─8008 東京都千代田区紀尾井町 3─23
電話(03)3265─1211(代表)

印 刷 所 理 想 社
付物印刷 大 日 本 印 刷
製 本 所 大 口 製 本
定価はカバーに表示してあります。
万一、落丁・乱丁の場合は小社製作部宛お送り下さい。
送料小社負担でお取替え致します。

ⒸIwase Daisuke 2009 Printed in Japan


ISBN978─4─16─660723─5
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神谷秀樹 リーマン、AIG、ベアー、大手金融機関の
強欲資本主義 ウォール街の自爆

文藝春秋刊
破たんが続く。米国経済はいかにして間違っ

663
たか。邦人投資銀行家が抉る「失敗の本質」
佐々木俊尚 編集・編成権に支えられたマスコミのビジネ
  年
 新聞・テレビ消滅
スモデルが危機を迎えた。ジャーナリズムは

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東谷 暁 竹中平蔵、中谷巌、リチャード・クーからグ
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森 健 JR東海、全日空、三井物産など超人気企業
 
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文春新書好評既刊

材」と「面接の裏」。究極の就活バイブル誕生
木野龍逸 ハイブリッド車プリウスの開発をわずか二年
ハイブリッド で 成 し 遂 げ た ト ヨ タ の 技 術 者 た ち。「 %無

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理」を形にした奇跡の車の誕生から現在まで

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