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第3章 歳出の内容

1。政府支出の大きさ
公共部門の役割と政府支出の最適規模
公共部門の果たす役割として重要なものは、第1章でも述べた次の4つの機
能である。
(a) 資源配分機能
(b) 所得再配分機能
(c) 経済活動の安定化機能
(d) 将来世代への配慮
(a) は、資源配分の効率性のための政府支出だから、望ましいと考えられる
公共財の供給量が大きいほど、その最適規模も大きくなる。 (b) は、社会的公
平性のための政府支出だから、望ましいと考えられる再分配の規模が大きいほ
ど、その最適規模も大きくなる。 (c) は、市場の調整メカニズムを円滑にする
ための政府支出だから、外的なショックが大きく、市場が不安定であるほど、
その最適規模は大きくなる。 (d) は世代間の公平を確保するための支出だから 、
民間の市場や経済活動が将来世代を重視していない程度が大きいほど、その最
適規模も大きくなる。
時代とともに、また、国に応じてこれらの状態が異なれば、当然政府支出の
最適規模も異なる。

政府支出の評価
政府支出の評価は、次の3つの視点から検討すべきだろう。
(1)政府支出の及ぼす便益の範囲を確定すること(便益の範囲の確定)。
政府支出は、公共財的な性格のものが多いので、便益の大きさを正確に確定
することは、困難である。しかし、誰がその便益を受けているのかという、質
的な範囲については大まかでも確定することができる。ある支出が実際にどれ
だけの範囲の地域や人々にどの程度の便益を及ぼしているのかを明確にするこ
とは重要である。本来、純粋公共財に近い支出として意図されたものが、経済
情勢の変化とともに、特定の人々だけに便益を与える私的財に近い性格に変化
してしまうことは十分に考えられる。
歳出面では、たとえば、景気対策のために、90年代に積極的な予算編成が
なされた結果、あまり利用価値が高いとも思われない公共投資が引き続き行わ
れるという弊害ももたらしている。従来型の景気対策を行いやすくするためで
はなくて、財政構造改革を進めやすくするために、経済政策の方向を再検討す
る必要がある。小泉内閣の財政構造改革もこうした考えに基づいている。
既得権化した歳出を見直すためには、数量化した客観指標にしたがって、
そのメリットに序列をつけることが必要であろう。たとえば、公共投資の配分
を効率的に行うためには、個別公共投資の定量的な評価が不可欠である。それ
ぞれの公共投資の定量的な評価にしたがって、効果の大きなものから順に配分

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先を決定することで、既得権にとらわれない見直しが可能になる。2001年
から中央省庁が再編成されたのをきっかけとして、公共投資に限ら ず すべての
政策に 関して、その政策効果を定量的に数 字 で 表すことが 求められている。こ
うした 試み はまだはじまったばかりであるが、政策の数量的効果が国民に 広く
情報開示 されると、 より効率的で公平な歳出へ見直すことも進 みやすくなる。
ある公共支出を実行することが社会的に望ましいかどうか、どの規模の公共
支出を実 施することが望ましいのか、という公共支出の評価を 取り 扱 う最も 有
力な方 法が、 「費 用便益分 析」 である。第 5節 で説 明する ように、これは、公
共支出の 生み 出す社会的便益の 現在 から将来までの 流列の割引 現在 価値が、公
共支出の 費用を 上回 る限り、その公共支出 計画 を実行するのが望ましいという
ものである。
な お、公共支出の場 合には市場で 販売 することができ ず,何 らかの外部性も
排除 できない。民間 企業 にお ける利 潤原理 をそのまま適用することは困難であ
る。市場メカニズムを用いないで利 潤原理 を間 接的に適用し よ うというのが ,
費用 = 便益分 析の基本的な考え方である。

(2)政府支出の 目的がそもそも適 切なものなのか、特に公平性の観点から検


討すること(適 切 な目的)。
一般 に、所得再分配のための支出は、私的財に近い性格を 持 っているから、
それを正当化するには、公平性の基 準に よるほかはない。 固定化された 制 度の
もとでは、経済情勢の変化に対応して、当 初 は必要とされても 現在 では正当化
されない所得再分配も 生じる。
地方 交付税交付金 、社会保 険費 、公共 事業等 を用いた 後 進部門への資 金 投入
など 補助金 という性格の 強い支出には、経済 環境 の変化の中で既得権化して、
今や正当化しえないものも多い。たとえば、地域間での再分配を 例 にとると、
都道 府県別の 生活の質にかかわるいくつかの指標で みて、 北陸 地方など地方の
県が、 住環境 の面でも公的な 学校・病院 その 他 の設備 の面でも高 水準以上 であ
るのに対して、もっとも 生活 環境 の 立ち後 れているのは、 埼玉 、千葉県 などの
大都 市周辺県 である。しかし、地域間の財政的資 金 は未 だ 都市 圏から地方 県へ
と流 れて おり、地方 県ではそうした資 金 を持 て 余して、あまり 有効とも思われ
ない ホール などの 「箱 もの 」 が建設 され続けている。
農家 世帯の所得は、 今では 都 市 勤労者 世 帯 の所得を 上回 っている。 農業 に
対する所得 移転 は、経済的に 恵まれていない地域、 産業 への 補助金 とは 言 えず 、
社会的に正当化しがたい。これは、政 治家 の配分が地方に重く配分されている
という、 現行選挙制 度に よって 生 じる地方の既得権の結果である。

(3)政府支出の意図する 目 的自体 は正当化されるものだとしても、その量的


水準 が適 切にコン トロール されているのか、 主 として効率性の観点から検討す
ること(量的最適性)。
一般 行政 サービス 及び全 国 レベル での公共支出を考えて みよ う。これらは純

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粋公共財であるから、 上述の第1、第2の視点からは、当然正当化される支出
である。しかし、第3の視点から、すなわ ち 量的最適性に 関しては 問題 がある 。
日本の社会資本は、 短期 間のう ち に 急速 に蓄 積した民間資本や私的 消費水準 に
対し、高度成 長期 においては、その 相対的不 足 が常 に生 じていた。しかし、最
近では 無駄 な公共 事業 や過剰 な公共資本(特に 農業関連 の公共 事業 )もある。
これらは、公共財を適 切に供給することの困難さを 示す 例 といえる。
また、公 務員 の配 置も適 切 になされているとは 言 えない。 農水関係 の公 務員
が過剰 である 反面、 金融 行政を 監 視する公 務員 は過 小である。また、 法曹界 で
は、 裁判官 、弁護士 など 司法関係者 の人 員が不 足しているために、経済活動に
かかわる 紛争 の処理 に膨大な時間と人的な コス トを要する。 司法制 度は、 広く
国民が便益を受ける公共 サービス であるが、その 相 対的不 足が 深刻 な サービス
でもある。これは、経済 環境 の変化に 伴 い、 司法 に対する 需要が 増加 してきた
にもかかわら ず、 司法試験 の 合格人数を 抑制 することで、既 存司法関係者 の既
得権を 擁護 してきた結果である。

主要経 費別分 類
一般 会計歳出予算がその年度の政府に要 請 される政策にいかに配分されてい
るかを、もっとも よく示すものが 主 要経 費別分 類である。
戦前 の歳出でもっとも大きな ウェイ トを 占 めていたのは、 防衛関係費 で、こ
の費目 だけで歳出 総額 の半分近くを 占めていた。これに対して、 戦後 の予算で
は、社会保 障関係費 、文教 及 び科学振興費 、地方財政 関係費 、公共 事業関係費
など国民の 生活水準 の向 上に直 接密接 に 関係 する 費目 の 占 める割 合 が大きくな
っている。
表 1,2は、2001年度 一般 会 計予算の 枠組み と歳出内容を 示 している。
主要経 費別分 類から みた、最近の 一般 会 計予算の 主 な動向について 簡単 に みて
おこう。 以下 の4点に 注目 したい。
(a) 社会保 障関係費 は、歳出 総額 に 占める割 合 も高くなっている。
(b) 地方財政 関係費 のう ち、地方 交付税交付金 は、所得 税 、法 人税 、 消費税 、
たばこ 税及び酒税 の収入 見込み額 に対し 法定の割 合 を乗 じた 額 が計上 される。
実際には、この 交付税 財源 以上 の 金額 が地方 自治体 に交付税 として 交付 されて
おり、その 差額 が 交付税 特別会 計 の 赤字 になっている。この 赤字額 は 増加傾 向
にあり、財政 赤字拡 大の大きな要 因 である。
(c) 公共 事業関係費 は、わが国経済の高度成 長 にともなう経済基 盤強 化の要 請
や国民 生活充実などのため、高度成 長期 にはかなり大 幅 な 増加 を示 したが、1
98 0年代に 入ってき びしい財政 事 情から 抑制 されてきた。しかし、1990
年代に 入ると、景気対策として特に 補正予算に おけて積極的な公共投資政策が
採用された。
(d) 公債費 は、 一般 会計の負担 に 属 する公 債 及 び借入金 の 償還並び に公 債 、借
入金 及び一 時借入金 の支 払に必要な経 費 であって、国 債 整 理基 金特別会 計 へ繰
り入 れるものである。最近では、1990年代 後半 に公 債 が大量に 発 行された

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ことから、公 債費 も増大している。
一般 会計歳出のう ち、国 債費 、地方 交付税交付金 (地方財政 関係費 )など
を除 いた経 費の総称 を、 一般 歳出という。 一般 歳出は、国が 裁 量的に行う政策
に関 する経 費と見なされる。 一般 歳出は 一般 会 計歳出と 混同 しやすい用 語 であ
るが、 一般 歳出は 一般 会計歳出の 一 部である。
一般 会計の主要経 費別分 類 のう ち 、1970 年代に社会保 障関係費 が、 1980 年代
に国 債費 がそれぞれ大きく構成 比 を 伸ばしている。公共 事業関係費 は高度成 長
期は高いシ ェア であったが、 1970 ~ 80年代を 通 じて 低下傾 向となり、近年では
4番目 に大きい経 費である。最近では、 一般 歳出の中で多い順に 並 べると、社
会保 障関係費 、公共 事業関係費 、 文教 及 び科学振興費 、 防衛関係費 の順になっ
ている。
一般 会計歳出と 一般 歳出の対 前 年度 伸び 率の 推移 (当 初 予算 ベース )を見る
と、高度成 長期 から第1次 石油 ショック 後までは1 5~ 2 5% の伸び を示 して
いる。高度成 長期 は税収 の高い 伸び に支えられたものである。第1次 石油 ショ
ック 後は不 況対策のために国 債を大量 発 行して積極的な財政政策をしたための
ものである。その 後増税 なき財政再 建のため歳出 抑制 が行われた結果、 一般 歳
出の 伸び 率は19 83~88 年度まで0 %となった。その 後は景気 後退 で 税収
が落ち込む 中、景気対策のために 一般 歳出の 伸び は 抑え ず 、財政 赤字 を拡 大さ
せる予算編成を行った。

2。社会保 障費
わが国の社会保 障費
次に、わが国の 一般 歳出のう ち で最も高い ウェイ トを 占 めている社会保 障費
を取 り上げよ う。社会保 障関係費 は、大きく分けると、 生 活保 護、社会 福祉 、
社会保 険、保 健衛生および 失 業対策の 5 つに分けられる。
わが国の社会保 障制 度は、国民 生 活の安定や国民の 健 康 の確保を 目 的にした
ものであり、 具体 的には、その方 法 によ り公的 扶助 (生 活保 護 )、社会 福祉
(児童 福祉 、身体障 害者福祉 、老 人 福祉等 )、社会保 険 ( 健康 保険 、年 金 保険 、
雇用保 険等 )、公 衆衛生および 医療 (結 核、 精神 保 健、 伝染 病 予防等 )、 老人
保健 (老人医療 等 )などに分 類される。 広い意 味で 恩給 制 度も社会保 障の 一環
をなしている。
図1に 示すように、社会保 障給 付費 は、 少子 化・ 高齢 化が進 展するにつれ、
急速 に増加 している。 真に必要なニ ーズには適 切に対応しつつ、社会保 障制 度
が二 一世紀にも安定的かつ効率的に機能する よ う社会保 障制 度の構造改革を 早
急に進める必要がある。
これらの 主要経 費別に みた社会保 障関係費 の 歴史 的な 推移 を みると、 傾 向的
には、 生活保 護費 、保 健衛生 及び 失 業対策 費 が 相対的に 低下 したのに対し、社
会保 険、社会 福祉費 が上昇している。これは、 戦後 、ご く 一部の 恵 まれない人
びとの 救済を 目的とする 救貧 的な 色彩 の 強い 生 活保 護や 失 業対策を中 心に 始め
られたわが国の社会保 障制 度が、 広 く国民 全体 にかかわってくる社会保 険 や社

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会福祉 などの 総合 的なものに、 制 度的に 発展 していったことを 反映 している。
現在 の社会保 障制 度をまとめると、 表3の よ うになる。
社会保 険制 度は、 生活の 上 でのさま ざ まな 危 険に対して、本人または 家 族の
生活を保 障するため、社会的な 制 度として 強制 的に 掛金 を 拠出しあい、 相 互扶
助を行う 制度である。社会保 険は、わが国の社会保 障制 度の中 核であり、大き
く医療 保険と年 金 保険に分けられる。

(a) 医療 保険
医療 保険は、 被 保険者 やその 扶養 者が 病気や 事故 の場 合 に、その 医療 費 や休
業に よる収入 減を 補填するために、 医療 そのほかの保 険 給 付をするものである 。
医療 保険にはいくつかの 種類 があり、国民はそのい ずれかに 加入 することにな
っている。 各保険 の給 付は、 原則 として 加入者 と事業者 の 納める保 険 料などに
よりまかなわれるが、国民 健 康保 険 などに対しては、多 額 の国 庫補助 が行われ
ている。
(b) 年金保険
年 金保険は、 被 保険者 が老齢 、 障 害あるいは 死亡 などに よって経済能 力 を喪
失した場 合に、 被 保険者 またはその 家族 に対して 毎 年一 定の 金額 を支給するも
のである。年 金保 険にはいくつかの 制度があり、年 金支給に必要な 費 用は、 加
入者 と雇用主が納 める保 険料 のほか、基 礎年 金 部分については、その3分の1
が国 庫からの 補助 によってまかなわれている。

社会保 障の必要性
医療 、年 金ともに、基本的には私的財に近いものと考えられる。したがって 、
両者 とも、政府が供給することの積極的な 根拠 が示 され ね ばならない。

(a) 医療 保険
もし 医療 サ-ビス の性質が 一般 の財 ・サ - ビス と変わりないならば ,医療 サ
-ビス だけを特別 扱いにする必要はなく ,消費 量の決定や 費用 負担 のあり方も
一般 の財 ・サ -ビス と同じく、民間の市場に 任 せて おけば よい。
しかし、 医療 サ -ビス の特性として , 医師 と 患者 との間には 傷病・ 診療 に関
して 知識 (=情報 )の 非対称 性が 存在 している。 患 者には 自分の 罹 った 傷 病が
何なのか ,そして ,それに対してどの よ うな , どの程度の 治療 が必要なのか ,
といった 知識 が欠けている。 一方で ,医師 は 医 学上 の専 門的な 知識 ・ 能力 をも
っている。
この ように ,実際の 患者には十分な 医 学上 の 知識 がないため ,実際に 患 者に
よって 選択される 消費 量は、必 ず しも 患 者にとって本当の意 味 の最適 消費 量と
は一 致しない。 知識 の不 足から ,自 分の 健康 を 過信 し,自 分が 罹った 病気を み
くび る人もいる。 早期発 見・ 早期治 療を行えば 治癒 できたものが , 手遅 れとな
る場 合もある。また ,早期発 見・ 早 期治 療で対 処した方が、 治 療に要する資源
量も社会的に 節約 される場 合 もあるだろう。

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さらに、 医療 については、 家族 に 長期 の病 人が出たときに 家計 の 破滅 を 防止
するという 危険回 避の役割が考えられる。どの人もい ず れは高 齢という意 味の
弱者 になる可能性をも ち,加 えて , 子供 ,病 弱 者といった 弱者 を家 族 の中に 抱
える可能性をもつ。そこで , かりにその本人の 傷病 に罹 る確率が小さくても ,
国民 全体 にリ スクを分 散するという考え方から ,あらかじめ所定の保 険料 を負
担してもらうことも、正当化される。その結果 ,自 分が高 齢で 傷病 状態に 陥っ
た場 合でも ,家 族 の者が傷病 状態に 陥った場 合 でも ,大きな 追 加負担 なしで十
分な 診療 を受けることができる。
私的保 険では、 病気が ちの人が 排除 されるという 逆選 択 の問題 がある。 病気
がち の人が 医療 保 険に入ると、当人の 負担 料 よ りも保 険 給 付の方が大きくなる 。
採算を重視する私的保 険では、そうした人は 歓迎 されない。したがって、 全員
加入 の公的保 険が必要になる。この場 合, 保 険 料額 がその人の 過去 の 病歴 に基
づいた 傷病に罹る確率に 厳密 に対応してはいないから、実質的に 健 康 な人から
病弱 な人への所得再分配が行われる。これは , リス ク分 散 という 広 い意 味 の保
険的な考え方で、あるいは、社会的公平性の観点から正当化できる。
しかし、 現在 の 医療 制度がこの 目 的を実 現 しているかどうかは、 疑 問である 。
また、便益と 負担 とが分 離されることから、 風邪 などの 軽 い病 気に対する 治療
が過 大に供給されやすく、 モラ ル ハザ ー ドの可能性もある。さらに、 老人 医療
では、 自己負担 の 比重が 少ない分だけ、 医療 サービス への 需要が 過 大に 形 成さ
れる。 今後 、高 齢 化社会では 老人 医療 の 増加 が予 想 されるだけに、それをいか
に効率的で適正なものとして、 維 持 していくかは大きな 課 題である。

(b) 年金保険
年 金保険の財政方 式として、積 立 方式 と賦課 方式 の2つのやり方がある。積
立方 式では、 就業期 に賃金と 比例 的な保 険料 を積 み立 て、 退職 した 後 で、積 み
立てた 額に応じた年 金給付を受けとる。世代間の分配には、中 立的である。 賦
課方 式では、 就業 中の世代の保 険 料 負担 で退 職 した世代の年 金 給付 にあてる。
世代間での再分配が 生じる。
したがって ,積 立方式と賦課 方 式 の違 いは , 年金 財源として ,その世代が 過
去に 拠出した保 険 料の利 子運 用分を用いるか , それとも次世代が 拠 出した保 険
料を用いるか ,また ,それと 関連 することでもあるが , 積 立金 があるかないか
という点にある。
ここで、公的年 金の存在 意 義を考えて みよ う。高 齢期 にはいくつかのリ スク
が存在 している。そうしたリ スクを 減少 できれば , 人々の 生活は よ り安定的な
ものとなる。民間の市場で 提 供する私的保 険 を 購入 したり ,各 個人が行う 貯蓄
だけで対応できるリ スクもある。しかし ,その場 合 でも , 人々が 自主 的にその
ような私的保 険を 購入したり ,貯 蓄 という行動を実行しなけれならない。
人間はど ちらかというと近視 眼 的であるため ,若 い人た ちは 自分の高 齢 期の
リス クに対して十分な考慮をはらうとは限らない。高 齢 期 のリ スクに対する 準
備をして おいた方が 各個人にとって 好ましいならば ,政府が 各 個人に対して 強

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制力 を用いて保 険 の購入や貯 蓄を行わ せ る政策が正当化される。その 根拠 は,
「温 情主義(パタ-ナ リズム) 」 である。政府は個人の意思決定とは別の 判断
を、結 局は本人のためになると み なして 各個人に実行さ せ る。つまり ,高 齢期
のリ スクを 減少 さ せる目的で資 金 を 老後 に備 えさ せ ることが、結 局 は本人のた
めになると考え , 保険購入や 貯蓄 を 強制 させ る。 「 温情 主 義」 は強制加入 を正
当化する重要な 根拠 である。
ところで、 今日 先進国では ,困 窮 状態に 陥 った人々は公的 扶 助制 度( 生 活保
護)に よって最 低生 活水準 を保 障 されている。しかし、その際の財源は保 障を
受ける人々 以外から 租税の形 で徴 収 されている。それを見 越して、私的な 貯蓄
をしない人がいるかもしれない。 モラ ル・ ハザ ード の1つである。そうすると 、
正直に 老後のために 貯蓄をする人が、 損 をする。したがって、ある最 低水準 の
貯蓄 を公的年 金として整 備するのは、それなりの 理 由がある。
わが国も 含めて多くの国では、公的年 金は、 賦課 方式 でしかも確定 拠出方 式
で運 用されている。 賦課 方式 下の年 金給 付は次世代が 拠 出する保 険 料 から 賄わ
れる。そのため ,イン フレ- ショ ン や一般生 活 水準 の上 昇 によ って当 初予定し
ていた高 齢期の生 活費よ りも 費用が 増加 してしまい ,その結果年 金 給 付で保 障
しよ うとしていた当 初の高 齢 期の 生 活水準 を保 障できなくなってしまったとい
うリ スクに対しても ,必要となる 費 用増加 分の資 金 を次世代の保 険 料 から 賄う
ことに よって対応できる。これは , 次世代からの所得 移転 という世代間の所得
再分配に よってはじめて可能となる。
しかし、 賦課 方 式の場 合には、年 金保 険料 がそのときの 老年世代の給 付 に回
されるため、資本 蓄積の 原資にならない。私的 貯蓄 は年 金 給付 によ って 減少 す
る。公的 貯蓄は存在 しないから、私的 貯 蓄の 減少 分が、そのまま経済 全体 の貯
蓄の 減少 になる。
また、積 立方式 と異なり、 賦課 方 式では人 口 変動のリ ス クが年 金負担 に大き
く影響 する。高 齢 化・少子 化が 急速 に進 展しているわが国では、 今後 年金 の受
給人 口が飛躍 的に 増大する。 彼らの年 金 給付 をその時点での(人 口 規模の小さ
い) 勤労 世代が支えきれないという、 深刻 な財政 問題 が 生 じる。

私的年 金との役割分 担
これからは、公的年 金は老 後の 生 活に必要な最小限の給 付水準 ( = 基礎 年
金)に限定して、それ 以上 の年 金 給 付は私的年 金の 拡充 に よって対応すべきで
あろう。この ように公的年 金 と私的年 金 の守 備 範囲をす み 分けるには、公的年
金の2 階部分( 厚 生年金の報 酬比例 部分)を私的年 金に ゆ だね るべきである。
報酬比例 部分は ,現 役時代に 比 べて所得が大きく 落ち込 まない よ うに ,現
役時代の 賃金に応じた年 金を支給するという 仕 組み (従 前生 活の保 障 )であり ,
個人的な 貯蓄に近い。この部分を世代間 扶養 の考え方で正当化するには 無理 が
ある。2 階部分は むしろ ,現 役時に 納めた保 険 料と高 齢 時に受け 取 る年 金 を比
較するという ,損 得勘定の考え方が スト レー トに適用できる。 現在 の受給 者の
給付水準 を削減 し、 過去債務 を軽減 して、 厚 生 年金 の報 酬 比例 部分は 段階 的的

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に積 立方式に移行するのが望ましい。
積立方式への 移行は、公的年 金 としての積 立方 式ではなくて、個人 勘 定の
民営 化された私的年 金の方が望ましい。 今後 わが国でも中 途退 職が 一般 化し、
終身雇 用、年 功序列 賃金を前 提として 制 度設計 がなされている 現行 税制 や年 金
制度が、 労働市場での効率的な市場機能の活用に 障 害となる。 現行 制 度は、
人々が 同じ企業 、 同じ職業、 同じ社会 生 活を 長期 にわたって行うことを 暗黙 に
前提 としている。しかし、 転 職が 一般 化し、 フ ルタ イムで 働いたり、 パー トで
働いたりする時 期 があったり、 家 庭 と仕 事の 形 態が 流動化すると、こうした 現
行制 度では不利益を受ける人が 増加 する。 労 働 市場の 流 動化に 現行年 金制 度は
対応できていない。
こうした観点から 自由度の高い年 金制 度は、確定 拠 出の個人 勘 定方 式 であ
る。 2階部分を積 立方式に移 行する場 合, 幾 つかの バリ エ ーショ ン があり得る 。
たとえば ,政府がこれまでと 同様 に保 険 料を 強制 的に 徴 収 し, 年金 資 金を 一括
して 運用するという 「政府 管 理型 」 がある。この方 法については ,ス ケール メ
リットが 働いて資 金運用の コス トが 軽減 できるという利点がしばしば指 摘 され
る。ただし、 運営 面の スケール メリットや コス ト面に お ける , 政府に よる年 金
資金 の一括運 用の 優位 性は , IT の進 展 などに よる 金融取 引の効率化に よ って
今後 次第に 薄れていくだろう。その 一方で , 完 全に個人の 自由 に委ね るべきだ
という 「自 由放任 型」もあり得る。政府は基 礎 年金 部分を保 障 すれば十分であ
り, それ 以上 のことからは 手 を引いても よいという考え方である。この面での
制度 設計 の在り方は ,個人に 自己責任 をどの程度 負 わせ るか , 逆に 言 えば ,政
府にどの程度の 「 温情主義」 を期 待 するか , という価値 判 断に 左右 される。
「政府 管理型 」でもなく ,完 全 な「自 由放任 型 」でもなくて , ある程度
の強制力 や優遇措 置を付加 する 形 が、 現 実的である。すなわ ち 、(1)保 険
料の積 み立 ては 強制 するが、 運営 は民間に 任 せ る。(2) 税制 面の 優遇措 置
をつけて年 金積み立 てへの イン セ ン ティブ を 働 かせ る。といった 仕 組み が望
ましい。 年金は数十年先の将来のリ スクに 備 える 仕 組み であり ,いくら政府
が基 礎年金によって最 低限度の所得を保 証したとしても , それを 超 える部分
について、年 金の 運用リ スクをすべて個人に 背 負わ せることは望ましくない 。
たとえば、リ スクのある資 産 で運 用して、もし 失敗 すれば、あとで政府が 救
済してくれると考えて、最 初 から 過 度にリ ス ク資 産 に偏 った 運 用をするかも
しれない。
したがって , 毎年の保 険 料に 上 限を 設定して、それに対して 何 らかの 税
制上 の優遇措 置を用意し ,個人の 老 後への 備 えを政策的にある程度支 援する
ことは望ましい。また ,株式 や外 貨 建て資 産 の ようにリ ス クの高い資 産運 用
については ,一 定の 制約を設 定すべきである。さらに、 運 用機 関の情 報開示
の徹底 や,運用機 関が破綻 した場 合 の消費者 保 護の 強化も必要であろう。
ただし ,税制等 の面で 優遇措 置 を検討する場 合, そのメリットは 全ての
職種 ・業 種に一律 に及 ぶべきである。 今後, 就 労形 態はますます多 様 化する 。
基本的には ,人々がどの ような 選 択 をし ようが ,年 金制 度のメリットは平 等

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に発 揮できることが望ましい。この点から 言 えば , 2001年の 6月 に成 立
した 「日 本版 401k 」の枠組み は、世代という視点が 抜 けて お り、不 徹底 な
ものに 終わっている。公 務員 、サ ラ リー マン 、 専業主 婦 や 自営 業者 間での不
公平 感を調整する よりも むしろ、年 齢を意 識 した対応が必要である。つまり 、
若い世代から順次、 包括 的な個人 勘 定に 入っていける 仕 組み を検討すべきで
ある。
個人 勘定では年 金保険料が実質的に 貯 蓄に 相 当するため、確定給 付 型でシ ス
テムを構 築できない。確定 拠 出で 自 己責任 という 原 則に大多数の国民が 合 意で
きる ように、 若年世代から 段階 的に 移行するべきだろう。

社会保 障の経済効果
社会保 障が経済に与える効果は、メリットと デメリットの2つの 側 面から評
価する必要がある。ま ず、社会保 障 のメリットであるが、国民の 文 化的で 健康
な生 活を 維持する 上で、 セー フティ ー・ ネット(安 全網 )として大きな役割を
果たしている。社会保 障制 度が整 備 されると、さま ざまなリ ス クへの 備えが 準
備されるので、国民は安 心して経済活動に 専念 できる。
しかし、社会保 障制 度にも デメリットがある。次の3つが大きな 問題 点であ
る。
(a )労働供給への効果
社会保 障が充実すれば、人々の 勤労 意 欲が 損 なわれるかもしれない。社会保
障負担 の増加 で、実質的な可 処分所得が 低下 するために、 勤労 意欲 は 阻害され
る。また、 失業保 障が充実すれば、人々は 失 業 のコス トをあまり気にしなくな
る。したがって、 より条件 の よい 職 を求 めたり、た んに 余 暇( レジャ ー)を 追
求するために、 簡単 に離職 するかもしれない。
さらに、社会保 障の充実に よって、 退 職する時 期 がどう 影響 されるかも、重
要な 問題 点である。 老後の生 活を公的に みてもらう割 合 が高くなれば、その分
自分で 蓄える必要がなくなり、 退 職 する年 齢 が 早くなる。
(b )資本 蓄積への効果
社会保 障が充実すれば、私的な 貯 蓄が 減少 し、結果として経済 全体 の資本 蓄
積も 減少 する。特に、公的年 金の資本 蓄 積に与える効果は、 理 論的にも実 証的
にも、大きな 関心 を集めている。
積 立方式の場 合 には、私的な 貯 蓄 と年 金積 立金 である公的な 貯蓄 とは 完 全な
代替 関係 にある。 両方の 収益率が 等 しいとすれば、 家計 にとっては、ど ち らで
貯蓄 をしても 同じになる。公的年 金 の分だけ私的 貯 蓄は、 減少 するだろう。し
かし、経済 全体 の資本 蓄積は、年 金 積立金 も資本 蓄 積にまわされるため、変化
しない。
これに対して、 賦課 方式の場 合 は、年 金保 険 料がそのときの 老年世代にまわ
され、資本 蓄積の 原資にならない。したがって、公的年 金 が充 実すれば、経済
全体 の貯蓄は、ある程度は 減少 する。
ただし、年 金制 度が 充実すれば、 老後 の生 活の重要性に対する人々の 認識 が

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より高くなるかもしれない。これは、 老 後の 生 活に 備える 貯蓄 の意 義 を高める 。
この ような 心理的な効果があれば、公的な年 金 はむ しろ資本 蓄 積を 促 進する。
(c) モラ ル・ ハザ ード: 社会保 障 の 充実に よ って、個人的に 危 険を 回 避する 努
力をないがしろにするかもしれない。たとえば、 医療 保 険 があるために、 病気
に対する 備えを お ろそかにする 危 険 がある。
わが国の社会保 障給付費 (対国民所得 比率)は , 先進 諸 国間で 比 較 すると、
まだ小さい。 イギ リス, ドイ ツ, フラ ンス,スウェ -デ ン など ヨーロ ッパ諸 国
では ,社会保 障給 付費 の水準 が高い。その 背 景には ,高 齢 化の進 展 の程度や年
金成 熟度( 老齢 年 金受給 者の 加入者 に対する割 合)の 違 いといった要 因がある 。
わが国でも ,今後 は高 齢化が 急速 に進 展 するため , 社会保 障給 付やその 負担水
準は 徐々に大きくなっていく。
今後 の社会保 障 のあり方を考える場 合 には , たん に社会保 障 給付 の大きさが
どうなるかだけでなく ,その中 味 も検討する必要がある。実際に社会保 障 の大
きな ヨーロ ッパ諸 国に おける社会保 障制 度の内容に 目を向け , それらのメリッ
トと デメリットを 冷静 に理解 することで ,それらを 一つの 鏡として ,今後 のわ
が国の社会保 障のあり方を考えるべきであろう。わが国の ような人 口 大国では 、
特に、政府が国民に 提供する サ- ビス の範囲と質という受益の 側面と、そのた
めにどれだけの 負担 を国民に 求めるかという 負担 の 側面とを対にして考えるこ
とが大 切である。

3。 防衛費
わが国の 防衛費
国 防費 あるいは 防衛関係費 は、その国の 防衛 努力 を表 す 一つの指標である。
わが国に おいては、 防衛関係費 の 上 限をどの程度にするかについて、さま ざま
な議論 がなされてきた。19 77 年度 以 降に お いては、 各 年度の 防衛関係費 の
総額 が国民 総生産 の1%を超えないことを 目途 として行うという、 「 対 GNP 比1%
枠の 原則」が守られてきた。しかし、19 8 7 年度の予算からは、当 初予算と
しては 1%の枠を超 える ようになった。(実際には、 GDP の増加 が予 想以上 で
あったため、決算 段階 では 1% 枠を 超 えなかった)。1990年度からは当 初予
算の 想定でも、また 1%の枠に おさまっている。
わが国の国 防の基本方 針は、19 76 年以 来、 「防衛計画 の大 綱 」 の枠組み
の下 で防衛力 の整 備が行われてきた。この大 綱 では、基 盤 的防衛力 構 想を 採用
して、平時に おけるわが国の保 有 すべき 防衛力 のあり方、規模などを別 表 に示
している。それを受けて、19 85 年に中 期防衛力 整備計画 が決定された。こ
の計画 は、1992年度までを 計画期 間とし、大 綱 の基本的 枠組み のもとで、
それに定める 防衛力 の水準 の 達成をはかることを 目 標としている。しかし、 7
6年に策定された 「防衛計画 の大 綱 」策定 後 約 20年 以上 が経 過し、 冷戦 の終
結等 により東西 間の 軍事的対 峙の構造が 消滅 し、代わりに、2001年の アメ
リカ 同時テロのよ うなリ スクが 増 大する。国際情勢が大きく変化するとともに 、
自衛 隊に期待される役割も多 様化している。

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今後 の防衛力 整 備は、2000年に決定された 「 次期 中 期防衛力 整 備計画
(2001年度から200 5 年度) 」に 沿って行われるが、その 概 要は 以下 の
通りである。歳出 総額 2 5 兆100 億 円、正面 装 備の 契 約額 4 兆 円。図2
に示 すように、 防衛 予算は、 義務 的経 費 である人 件 ・糧食 費( 自衛 隊 員の給与
及び 営内で 生活している 隊員 の食 費 など)や 過 去の 契約 にかかる歳出化経 費が
8割を 占めていて、 硬直的である。
防衛費 の国際 比 較をして みよ う。 防衛費 、国 防費 については、国に よってそ
の定 義が必 ずしも 同じではないが、 イギ リス の国際 戦略研究 所に よ ると、わが
国の 防衛関係 予算の 金額 は、最近では世 界第 6位 の 水準 にあるとされている。
その国民 総生産 に 占める 比率で み ると、世 界 各 国の中では、まだ 低 い方である 。
しかし、 一般 歳出に 占める 比 率は19 8 0年代に 入 って 上 昇した。

防衛費 の内容
防衛費 の内容には、次の よ うなものがある。

正面 装備 陸上 装 備 、艦船 、 航空 機、地対 空誘導弾 などであ


る。
教育訓練 自衛 隊 の平時に お ける 日 々の活動の中 心 は、 教 育訓
練 である。そのための 費 用として、 教育訓練 費 、油
購 入費 、 修理費 などがある。
指揮 通信・情報機能 通 信施設 、レー ダ ー 装置 など 航空警戒 監 視能 力 を向
上 するために 使われる。
隊員 対策 隊 員の 士 気を確保するために、 隊舎 、宿舎 、厚 生施
設 などの 生活 関連施設 に 使われる。
基地 周辺 対策 事業 基地 周辺 の住 宅の 防 音を中 心 とする 騒音 防 止事業 な
どに 使 われる。
在日 米軍駐留 経費 の日 最近の 日 米関係 を考慮して、 在日 米軍 の 駐留 経 費
本側 負担 を、 労務費 を中 心 に 日本 側が 負担 している。

防衛費 の最適 水準
ここで、どれだけ 防衛費 を支出すべきかについて、考えて みよ う。 防衛費 の
最適 水準 は、 他の経 費同 様、 防衛費 の限 界便益と限 界費 用とが 等しくなる点で 、
決められる。ただし、 具体的に 防衛費 の最適な大きさを 求 めるには、 防衛費増
加のもたらす限 界 便益を 金銭 表示 する必要がある。しかし、これには、次の よ
うな 問題 点がある。
第 一に、 防衛費 の増加 によ って限 界的にどれだけ国の安 全が確保され、人 命
が救 えるのか、明確ではない。しかも、たとえこれが明確になったとしても、
人命 を金銭表示 するという別の 厄介 な問題 がある。第 二 は、 相 手に よ る報 復の
可能性をどう みるかである。 仮想 敵 国が、わが国の 防衛費 の増加 にどう 反 応す

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るかは、わが国の 防衛費 の限 界便益を評価する際に重要な ポイン トである。 相
手も 防衛費 を増加 させるなら、 お 互 いに 相殺 し 合って、 戦争 の 危険 性だけが 増
加することにもなりか ねない。これが 軍 拡競 争 のデ メリットである。90年代
に冷 戦構造が 崩壊 したのも、この デ メリットに 米ソ ともに 耐えきれなかったか
らである。
また、 防衛費 の調 達にもいくつかの 問題 がある。ま ず 、 兵器 の調 達 に関 して
は、最先 端の技術 を用いた 巨 額の 金額 のかかる 兵器 を購 入 しが ちである。した
がって、 技術 の開発 に大きなリ ス クがかかる。また、特定の 企業 しか 納入業者
として 参加しにくいので、市場での客観的な評価が困難になる。リ ス クの 負担
を企業 と政府でどの ように配分するかも 曖昧 になったり、しばしば、 兵器 の調
達に 関する不明 朗 な会 計処理・ 汚 職 が発生 したりする。さらに、人の調 達 に関
しては、 徴兵制で調 達するのか、 志願 制 で調 達 するのかという大きな 選択 肢が
ある。わが国を 含 めて先進 諸 国の多くでは、 志願 制 が採 用されている。これは 、
強制 的に人を調 達 することの資源配分 上 のコス トが大きくなってきたためであ
る。

4。 教育費
わが国の 教育費
教 育費は、 文教 政策のための 諸 経 費の予算のことで、 防衛 予算、公共 事業 予
算、社会保 障予算などとともに予算の 一 大部門をなす。わが国の 教 育 費は、国
の一般 会計総額 の 約10% 程度を 占 めて お り、そのう ち約 半 分が 義務教 育費 の補
助金 である。これは、 義務教 育費 国 庫負担法 に基づき、 義 務教 育諸 学校 に 教職
員給与 費などの 1/2 を国が 負担 するものである。そのほかの 項 目には、国 立学
校特別会 計への 繰 り入れ、 科学 技術 振興費 、 文教施設費 、 教育 振興助 成費 や育
英事業費 がある。

義務教 育費国庫負担 教 職員 の定数を改 善 するのが、大きな 目 的である。


19 5 9年度 以来 5 次にわたる改 善 計画 に よって、
公 立小中 学校 の学 級 規模、 教員 の配 置水準 は改 善さ
れ、 教員 1人当たりの 児童 生 徒 数で みれば、 欧米 諸
国とほぼ 同じ 水準 となっている。
国立学校 特別会 計 への 国 立学校 の拡充 整 備 を促 進し、その円滑な 運営 をは
繰り 入れ かり、国 立学校 の経 理を明確にするため 設置 されて
いる特別会 計 に対して、その財源の 一部を 一般 会計
から 繰 り 入れるものである。
科学 技術 振興費 宇宙 開発 、海洋 開発 、大型 工 業 技術 関係 、 電子 計算
機 産業振興 対策、 科学 技術 振興 対策、 各 省 試験 研究
機 関経 費 、科学 技術研究 費補助金 などのために 使わ
れている。

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文教施設費 国 立文教施設 の改 善 に使 われている。
教育 振興助 成費 公 立養 護学校教 育 費 の国 庫負担 、義 務教 育 教科 書の
無償 給与、 生 涯教 育 の振興 、私 立学校教 育 のための
助 成などに 使 われている。
育英 事業 優 秀な 学生 で経済的 理由 によ り 修学 困難な 者に対し
て、 学 資の 一 部を 貸 し付 けるための資 金 を 日本 育英
会に 貸 し 付ける経 費 や、 日本 育英 会の 運営 を補助 す
る経 費 などに 使われている。

地方財政に おける 教育費の割 合 と 合わ せると、国と地方を 通ず る 教 育費 の財


政に 占める割 合は、 約20% となっている。このう ち 、義 務教 育 費はその 半 分く
らいである。 教育 費は、国民所得の 6%程度を 占 めている。

公的 教育の根拠
教 育を政府がやらなければならないことは、わが国では当然のこととされて
いるが、その 根拠 を整 理して みよ う。
市場の 失敗 の観点から公共的な 教 育の必要性を 主 張するとすれば、外部性と
いう 概念が重要になる。 教育 をすることの利益は、その人だけでなく社会 全体
にとっても大きい。たとえば、誰もが 読 み書 きできれば、社会的な意 志の 疎通
が円滑に進 む。
教 育は個人所得の 収益に 影響 を与えるため 、 私的投資の意 味 合いを 持つもの
の、 義務教 育として外部性をもつとともに 、 基 礎的な人的資本の平 等 化を 通じ
た所得格 差是正の役割も 担っている。公的 教 育 によ って所得の不 均衡 は解 消さ
れる可能性もあるし、また 、 高等教 育も 含めた政府 教育 支出は人的資本の 形成
を通 じて 、 経済成 長に寄与すると予 想される。
また、資本市場が不 完全 であれば、将来の 教育 投資 収 益を 担保にして 教育
費用を 借りることができない。人的資本 形成に外部性がある場 合ほど、そうし
た資本市場の不 完 全のもたらす弊害 =人的資本 形成の 遅 れの デ メリットも大き
くなる。
また。 教育に対する公的な 援助 は、公平性の観点からも正当化できる。もし 、
教育 がまったく私的に行われるなら、 金持ち の 親は、 子 供の 教 育に多くの お金
をつ ぎ込む ことができる。 子 供がどれだけの 教 育を受けられるかは、本人にと
って将来の所得機会を決める 上で重要なものである。その ような重要な機会が 、
親の所得や資 産のあるなしで決められるのは、あまり公平な社会ではない。 努
力すれば、 上流 階 層へいくことができる可能性を 持 つことが社会を活性化する
ために必要であり、そのために、 教 育に対する公的な 援 助 が必要となる。

教育 費の最適配分 :効率性と公平性のト レー ド ・オ フ
次に、政府がある決まった 教育 費 をどの よ うに配分すべきか考えて みよ う。

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大きく分けて、高 等教 育に対する 援 助と、 福祉教 育 に対する 援 助の2 通りの政
策目 標を 想定して みよ う。これは、効率性と公平性のト レー ド ・オ フ の問題 で
もある。もし、効率性が重要であり、たとえば、国民所得を最大にすることが
重要であれば、限 界的な 収益の高い高 等教 育 施設 を 援助 すれば よい。しかし、
この政策は不公平と みられるだろう。政府が、能 力 のあるなしにかかわら ず、
等しく 教育施設 を 援助したとしても、結果としては、高 等教 育 を受けている、
より限 界的な 収益の高い 学生 の方が得をする。したがって、公平性を 追求 する
なら、 援助の大きさではなく、 教 育 の結果で み てある程度平 等 になる ように、
福祉教 育を受けている、な ん らかの ハン デキ ャ ップ を持 った 学生 に 集 中的に 援
助する 補償 的な 援 助も考えられる。
福祉教 育施設 に より援助すればするほど、社会的な公平性は 増大するが、 全
体としての 産出量は 減少 する。したがって、効率性と公平性との間には、ト レ
ード ・オフの関係 (一方の 目 標を 優 先すると、もう 一方の 目標を 犠牲 にせ ざる
を得ない 関係 )がある。このト レー ド・ オフ のどこを 選 択 するかは、効率性と
公平性に 関する社会 全体 の価値 判 断 に依 存する。

5。公共 事業関係費
公共 事業関係費 の内容
図3と4に 示す ように、公共部門の投資規模は、 一般 政府 レベル で みて、わ
が国では国民 総支出の およ そ 7% 程度であり、国際的に高い 水準 にある。そし
て、民間部門 全体 が行う資本 形成 総額 の およ そ3分の1に 相当する 巨 額なもの
である。ただし、 ストック面から み ると、公 園 、住 宅、 下水道 などな お立ち後
れているものも多い。
河川 、道路、港湾 、空港 などの公共 土木 事業 や住 宅、 下水道 、公 園 など国民
の生 活に直結した 施設 の整 備 を行うための 事業 のう ち、国の 一般 会 計 予算 等で
つくるものを 一般 に公共 事業 という場 合 が多い。わが国の公共投資予算では、
短期 的な 需要拡大効果を重視する従来型のばらまき予算でいくのか、 長期 的な
利用価値を重視する評価シ ス テムを 採用するのかで、 揺 れ動いている。
な お国の公共 事業関係費 は、 事業 の実 施主体 との 関係 で、国が直 接 実施 する
事業 のための経 費 (直 轄事業費 )と、地方 団 体 が実 施する 事業 に補助 を与える
ための経 費(補助事業費 )とに分かれている。
ま ず、公共 事業費 の内容から み ていき おこう。

治山 治水 対策 事業費 治水事業 は、 河川 の 氾濫 などに よ る災 害を 防 止するた


めの 河川 事業 や多 目 的 ダム 事業 、 治水 のみ を 目的とす
る治水 ダ ム 事業 などに 使われている。 治山 事業 は、 森
林の 維持 造成を 通じて 山地に 起 因 する 災害を 防止 する
とともに、 生活 環境 の保 全 を目 的にした国 土 保全 対策
として 使 われている。

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道路 整備事業費 道路 交通 の安 全 確保をはかる 交通 安全事業 、地方 道路
整備 などに 使われている。
港湾漁港空港 整備事 港湾 と漁港 の整 備や 首 都圏 と近 畿 圏の 空港 処理 能 力の
業費 向上 、地方 空港 の整 備 のために 使 われている。
住宅 市街地対策 事業 地方公共 団 体が行う公 営住 宅の 建設 などへの 補助 や、
費 住宅 金融 公 庫に 補給 金 を交付 するために 使 われてい
る。
下水道環境衛生等施 下水道 、公 園及 び市 街 地の再 開発事業 に対する 補助 な
設整 備費 どに 使われている。これらは、 都 市の 健全 な 発達 、過
密の 解消 、 生活 環境 や公 衆 衛生 の向 上 などに役 立 つも
のである。
農業農 村基盤整備事 農業 の生産 性向 上、 農業 構造の改 善を 目的として、 農
業費 地の再編整 理、 開発 、改 良 保全 や 集団 化を行う 事業
と、これに 付随 する 事業 の経 費 である。
森林 保全都 市幹線鉄 森林 環境 を整 備士 、 都 市の 鉄道 や 新幹線 を 建設 するた
道等 整備事業費 めの経 費 あるいはその 補助 に使 われている。
災害 復旧 等事業費 自然 災害に対して、 被 災した公共 土木 施設 などの 復旧
や再度の 災 害防 止のための改 良 事業 などのために 使わ
れている。

公共 事業 の目的別配分
第2章で 説明した ように、国の行う公共 事業 の内容は、そのときどきの社会
の要 請を反映して、 絶えず変化している。すなわ ち 、19 50年代までは 災害
復旧 や国 土保全といった極めて基 礎 的な 事業 の支出が高かったが、19 6 0年
代から 道路整備の 比重が 上昇 し、19 7 0年代からは、 住 宅対策、 下水道環境
整備 などの 比重が 上昇している。
19 80年代に 入って、 目 的別配分の変化が 少なくなってきた。これはき び
しい財政 事情のもとで、 一律 に抑制 がはかられたためである。 下水道事業 や公
園事業 については、社会的必要が高くなっているが、そのために 他 の経 費 を削
ることには、 抵抗 が強い。たとえば、 治 山・治水事業 については、国 土保 全を
安定的に実 施するという大 義 名分があるし、 道 路事業 については地域の活性化
や地域に おける 生 活改 善という観点から、また、 農業 基 盤事業 については、 生
産性向 上の要 請に応じるなどの観点が 主 張されている。

費用便益分 析
ある公共 事業 を実行することが社会的に望ましいかどうか、どの規模の公共
投資を実 施することが望ましいのかを 取 り扱 う方 法 として、 費 用便益分 析 があ
る。これは、公共投資の 生み 出す社会的便益の 現在 から将来までの 流 列の割引
現在 価値が、公共投資の 費用を 上回 る限り、その投資 計画 を実行するのが望ま

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しいというものである。
たとえば、 今期建設費 用が10かかり、来 期便益が11 発生 する公共 事業
プロ ジェクトを 想 定する。割引率が10 %であれば、 今期 の10の価値は来 期
の11の価値と 等 しいから、 現在 価値で みて、この プロ ジ ェクトの 費 用と便益
はともに10である。もし、割引率が10 %以下 であれば、 今期 の10 よ りも
来期 の11の方が 現在 価値が高くなり、この プ ロジ ェクトの便益の 現在 価値は
費用を 上回 る。したがって、この プ ロジ ェクトを実 施することは望ましい。し
かし、割引率が10 %以上 になると、来 期の便益11の 現在 価値は 費 用10 よ
り小さくなるから、この プロ ジェ クトを実 施 することは望ましくない。
社会的便益を 推 定するのは、困難な 問題 である。それと 同時に、異時点間の
便益を 比較する際に用いられる割引率を、どの ように決定するかも重要な 問題
点である。 上の数値 例が示す ように、社会的便益の 現在 価値の大きさは、割引
率の 水準 に大いに 依存する。いま、意図的に 低 い割引率が用いられれば、社会
的便益の割引 現在 価値は 過大に 推 定され、公共投資はど ん どん 実行されてしま
う。 逆に、高す ぎ る割引率が用いられると、公共投資はほと ん ど実行されなく
なる。
公共投資の場 合 には、 費用を 負担 する 現在 世代の人と便益を受ける将来世代
の人とは、異なる世代の人である。このとき、異時点間の世代間での資源配分
をどの ように評価するかという 問題 が出てくる。 現在 世代が近視 眼 的ならば、
将来 よりも 現在 を重視するので、その割引率は高い値をとるだろう。このとき 、
将来世代のことまで考慮にいれながら、政府は より望ましい割引率を 選択 しな
ければならない。
関 西空港 、アク アライン や本 四 連 絡橋 など最近の大型 プ ロジ ェクトでは、 計
画当 初の予 想よりも利用率が 低く、当 初 の便益 推計 が事後 的には 過 大だったと
判明している。大きな公共 事業 に 関 してはこれまでも、便益と 費用を数量化し
て比 較する 費用便益分 析が用いられてきたが、定量的な評価が 甘す ぎ るという
問題 がある。とくに、便益を算定する際に、将来の 需要予 測を 過大に見積もっ
たり、地域経済や 日本全体 に及ぼす間 接 的な 波 及効果を 過 大に 推計 したりする
傾向が みられる。これが、 無駄 な大規模公共 事業 を 生む 土壌 になっている。
こうした 現状を改革するには、 同じ ような公共 事業 間での便益 推計 の 精度
を相 対的に 比較することで、 過大 推計 の バイアス をもたない よ うに、 官僚 や各
部局 がき ちんと推計 する 仕組み を検討すべきである。そのためにも、公共 事業
の便益評価の 手法 や具体的な 推計上 の前 提、用いた デー タ など、政策決定の プ
ロセ スについて 幅広 い情 報開示 が 有 益である。

公共投資の評価
本来 建設 公債原 則は、公共投資の将来便益を重視するものであり、構造政策
として公共 事業 を 位置づけるものである。したがって、 短期 的な景気変動とは
独立 に、将来の 生産 性に 注目 して、 着実に公共投資を実 施 する 立場である。実
際にも、 戦後 の復 興期 から高度成 長 の前期 までは、この 原 則が 優先されてきた

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と考えられる。
しかし、高度成 長期 の後期 である19 70年代 以 降わが国では、 む しろこの
原則 のもとで、社会資本としての便益評価 よ りは景気対策としての 需 要面が重
視されてきた。公共資本の 生産 性が次第に 低下 したにもかかわら ず 、景気対策
という大 義名分が 追加されて、 現 実と 現 実との ギャ ップ は大きくなった。
現在 の経済 環境 が苦しいので、それを公的 需 要で支えるという景気対策は、
本来、 現在 重視の政策である。 建設 公債原 則 は、公共投資の将来に お ける便益
を重視するものであり、将来重視の 原則 である。2つの 立 場は 両立 しがたい。
「本 音」は現在 重視でありながら、将来重視という 「建前」 にこだわることで 、
将来の 生産 性や便益効果を 過 大評価する 傾向が 生じた。
需 要サイ ドからの公共投資のメリットは小さくなったにもかかわら ず、いま
だに景気対策として公共 事業 に依 存 する 体質が続いている。その1つの 背 景に 、
公共 事業 の将来便益をき ちん と評価することが、そもそも容 易 でない点がある 。
わが国の場 合、 ケイン ズ的な 需 要面での公共投資の 刺激 策に より大きな 関心
が向けられてきた。 事実、1990年代の度重なる景気対策でも み られる よう
に、これまで景気対策としてもっとも重要視されてきたのが、 補正予算での公
共投資 拡大政策であった。この よ うな 需 要面での公共投資の 有 効性を図る指標
が、公共投資 乗数である。公共投資 乗数は、1 兆円の公共投資に よ って 何 兆円
のGDP (=国内 総生産 )が 増加 するかを 表す大きさであり、これは 需 要面から
の公共投資の 刺激 効果の大きさを 測 っている。
ところが、この 乗数の値が最近ではかなり小さくなっている。高度成 長期 に
は4から 5程度もあった 乗数が、最近では1を 少し 上回 る程度に 低下 している 。
事後 的な データで みる限り、1990年代に 入 っての度重なる積極的財政政策
も、 目立 った効 力 を発揮して おら ず 、景気対策の 有 用性が 疑問 視される。

地方分権の 推進
一般 に、公共 事業 は2つの タ イ プに分 類 できる。1つは、地域限定の ロー
カル な公共 事業 であり、もう1つは、 全 国に便益の 拡散 する大規模公共 事業 で
ある。 前者 については、地方 自治体 の守 備範囲であり、 後者 は中央政府の 守備
範囲である。 現在 の公共 事業 の進め方では、 前者 についても国の 関 与 ・責任 の
度合 いが大きい。それが地域 住民にとって、受益と 負担 の 乖離 をもたらし、 無
駄な公共 事業 を増加 させている。したがって、公共 事業 改革の第1 歩 は、地方
分権を 推進して、地域限定の公共 事業 に受益 者負担 の原 則 を確 立することであ
る。
地方 交付税制 度を 段階 的に スリム化し、最 終 的には、 各 地方 自治体 がその地
域に 居住する 住民の 税負担 で、必要な公共 事業 の財源をまかなうことが基本で
ある。財政面でも地方 自治体 が自立 するには、 各地域がこれからの経済構造、
産業 構造の変化を先 取りする必要がある。 日 本経済が 全体 として 豊 かになり、
少子 高齢化社会になるにつれて、 製 造業 から サービス業 へ、また、 ハ ード から
ソフ トへと 産業 構造が変化している。従来、地域経済が得意としてきた安価な

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労働 力を投 入する 製造業は、 海外の 途上 国にその地 位を 奪 われつつある。 今後
はよ り付加 価値の高い 産業 を 発展 さ せることが重要になってくる。
そのためには、 各地方 自治体 は 柔軟 な 発想 と 新鮮 な試み が可能な 若 い人 材を
育成し、活用することが不可欠である。公共 事業 の財源を中央政府に 依存 して 、
量的に地域経済を支えるだけでは、やる気のある人 材を地 元に引き 留 めること
はできない。地方分権が財源面も 含 めて機能し、地方経済でも十分に 独創 的な
試み を追求できる可能性があって、 若い人 材 も 育っていく。地方経済に お ける
公共 事業 の役割も、 「ハコもの 」 の 建設 ではなくて、その地域の実情に 合 う社
会資本を 魅力的に活用することにあるべきだ。

6。そのほかの政府支出
経済 協力費
政府 開発 援助(ODA) は、 開発 途 上 国への2国間 無償 援 助, 2国間 技術協 力,
国際機 関への分 担金, 拠出金,交付金 などに 使 われている。 日 本経済の国際的
な地 位が上昇するにつれて , 経済 協 力費 は増加 する 傾向にある。 防衛費 の面で
国際的な 協力に制 約のある 日 本としては ,世 界 経済を安定的に 発展 さ せるため
に, 経済 協力はこれからも重要となる。ただし ,これまでは 金額 の大きさの方
に関 心があったが ,これからは経済 協力 の中 身 についても ,よ りきめの 細 かい
配慮が必要となるだろう。
図3に 示すように、 日本の 海外 援 助は、 金額ベース では 着実に 増 大し、世 界
でも 有数の 援助国になっている。 日 本の 援助 の大きな特 徴 は、 贈与ではなく 借
款の 比重が大きいことである。すなわ ち 、贈 与の場 合には 100% 相手 の国に所得
が移転 され、 相手 国がそれを 自由 に 使ってかまわない。これに対して、 借 款の
場合 には、 低利であっても 有償 の資 金提 供であるから、 長期 間かかっても、最
終的には 全額日 本へ 返済される。
日 本の 借款方式 は、 紐付きの 援 助 であるとの 批判 もある。とくに、資 金 提供
の見 返りとして、 日本の 企業 と契 約 することが 義務 づけられている場 合には、
日本の 企業 が現地で 道路建設 などの 作業 を行うことになり、 日 本国内での公共
事業 とほと んど変わらない構図になる。 日本の資 金 で日 本の 企業 が 儲 かってい
るだけだという 批 判もある。
しかし、 長期 的な観点で みると、 日 本の 援 助の中 心 となってきた ASEAN 諸
国では経済 発展がめ ざましいのに対して、 ア メリカや ヨ ーロ ッ パ諸 国の 援 助の
中心 となってきた アフリカなどでは、それほどの経済 発 展 はみ られない。その
1つの 理由として、 日本の 援 助が公共 事業 など、経済の基 盤整 備を中 心として
長期 的に 発展に役 立つものであったのに対して、 他 国の 贈 与の場 合 には、 飢餓
対策など 消費 的な支出に 使われる 傾 向があり、その場しの ぎで 終わってしまっ
て、 長期 的な経済の 発展にはあまり役 立 たなかったという 側面も指 摘 されてい
る。
援 助する国は、当然 援助される国の意向を最大限に 尊 重する必要があるが、
援助 される国の 現在 の政府が 常に 長期 的な視点で、資 金 を 有効に、効率的に活

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用しているとは限らない。そうした状 況 では、 借款 方式 の ような 長期 的な資 金
の提 供は、 援助が適 切に使われているかを モ ニ ター する機能を 持って おり、そ
れなりの役割を果たしている

中小 企業 対策
中小 企業 の近代化 ,構造改 善を 促 進していくため ,国民 金融 公庫 の 貸付金 へ
の補 給などに 使われている。大 店 法 の規 制緩和 などに よ り ,中小 企業 をとりま
く環境 はこれからき びしくなるだろう。最近では、外資 系 のスー パ ー マー ケッ
トや小 売業者 もわが国に進出している。こうした動きを規 制するのは、 有 益で
はない。た んなる中小 企業 の 救済ではなく ,消費者 にも便益の及 ぶ よ うな構造
的な改革が必要だろう。な お 、税制 面からの中小 企業 対策については、第 5章
で取 り上げ る。

エネ ルギー対策
わが国の エネ ル ギーの安定供給や地 球 温暖 化 防止 などの地 球 環境 保 全のため
に, 使われている。また ,原 子力 の平 和 利用の 促進にも 使 われている。

農林漁 業対策
農 林水産関係 の予算である。 農業 の生産 性を向 上 させ るために 使 われている 。
しかし ,コ メの 輸 入問題 に代 表される よ うに ,今日 の農業 政策は , 大きな 壁に
直面している。市場メカニズムをなるべく 速 やかに 導入 し ,競 争原理 のもとで ,
生産者 も消費者 もともに利益を受ける よ うな政策への 転 換 が必要である。
国際化とともに、国内 産業 が国際的な 競争 にさらされる結果、 競 争力 の 弱い
農業 や漁業では 失 業などの調整が 起 きる。こうした 産業 間での資源配分の変化
は、国際化が進 展 するにつれて大きくなる。わが国では 農産 物 の輸 入自 由 化に
対する外国からの 圧力が高くなり、 コメも 含 めて国内の 農産 物 が外国との 競争
に直面する ようになってきている。その結果 生 じる国内 農家 の不 満 を 緩和 する
ために、財政的な支出も 増加 する。
この ような財政支出の 増大は、国際化に 伴 う国内的な調整を円滑に行うため
に、ある程度はや むを得ないものであろう。しかし、国際化に よって得られる
メリットを国民 全体 で共 有するために、こうした財政支出が適 切に配分されて
いるかについて、 厳しい点検が必要である。

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