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社会保障論

第3回 医療保険②

※ この授業資料を目的以外に使用することは禁止します。また、この資料を不特定多数の他人と
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前回講義での質問・感想へのコメント

⚫ 日本人はなんらかの医療保険に加入しなければならないというのは今まで知らずに生き
ていたので、まだまだ知らないことがたくさんあるのだとわかりました。均等割は平等
で平和かもしれないけど、お金がない人や貧困の人たちは厳しいだろうなと講義を聞い
ていて感じました。でも、私がお金持ちだった場合は自分達ばっかり多く払ってて不平
等だ!と思うかもしれないので難しい問題だなと感じました。

⚫ 今回の講義では、1.医療サービスを保障する仕組みが印象に残りました。なぜなら、金
銭給付で紹介されていた、傷病手当金の計算が細かくて、簡潔にしてほしいと感じたか
らです。具体例として、支給されることとなった日から最長1年6ヵ月間、休業1日につ
き直近12ヵ月間の標準報酬月額平均額÷30×2/3相当額と書いてあり、字で書かれてい
ると難しそうな計算に見える、内容が細かいと感じたことが挙げられます。以上のこと
から、今回の講義では、1.医療サービスを保障する仕組みが印象に残りました。

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前回講義での質問・感想へのコメント

⚫ 私は中学三年生の時に側弯症で背中の手術をしたのですがその時に高額療養費を利用し
ました。当時は、お金を補助してくれるものと認識していたのですが、今回の授業資料
を見てどのような仕組みなのかをなんとなく理解したので今度の授業でちゃんと聞きた
いなと思いました。

⚫ 自傷行為は保険適用か否かの解説で、過去に高額な医療費の請求でトラブルが生じ「故
意」でなくても保険給付の対象とする内容に変えたことから、介護でもそうだが社会保
障の制度は一度制定してから時間が経って顕在化した課題を修正してはまた出てきた問
題を解決する策を練るといういたちごっこのような方法で、地道な労力をかけて向き合
う必要があることを改めて理解しました。またくまモンが人気になった理由の一つであ
る「KANSAI戦略」とはどのような内容なのか興味を抱きました(関西?完済?)。

画像出所:くまもんオフィシャルホームページ

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くまもん「KANSAI戦略」

⚫ 熊本色、行政色を控え、連日、大阪の観光地や市民公園などに、パンフレットを配らな
い“出没”を繰り返す「神出鬼没大作戦」

⚫ WEB、交通広告、ツイッター、新聞、ラジオといったメディアを活用し、大阪に出張
中のくまモンが知事からのミッション「名刺 1 万枚を配ること」が嫌になり失踪した
ので、知事が捜索を呼びかけ、みんなに励まされながらミッションを達成するというス
トーリ性を持たせた「くまモン話題化計画」

⚫ ゆるキャラ史上初、一週間吉本新喜劇の舞台に立ち熊本を PR(知事とスザンヌ熊本県
宣伝部長とも共演)

⚫ 「ゆるキャラ」から「売るキャラ」へ 楽市楽座戦略

画像出所:
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社会保障論
第3回 医療保険②

1. 診療報酬制度の概要 10. 国民医療費の推移

2. 医療費支払の流れ 11. 国民医療費の構造

3. 診療報酬明細書(レセプト) 12. 病院と診療所の施設数・病床数

4. 診療報酬改定:入院から地域医 13. 医療提供体制の各国比較


療へ
14. 医療供給体制の課題と対応
5. 薬価基準の概要
15. インフォームドコンセント
6. 後期高齢者医療制度
16. 医療は誰が行うのか
7. なぜ後期高齢者医療制度が必要
なのか

8. 後期高齢者医療制度の財政

9. 後期高齢者医療制度の運営

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3.保険給付

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保険給付の概要

保険給付とは
⚫ 健康保険では、被保険者とその家族が業務以外で発症した病気やけがに対して、医療機
関で診療を提供したり(現物給付)、出産や死亡したときに各種の給付金を支給(金銭
給付)する。これらを「保険給付」という
⚫ 医療サービスの現物給付のことを法律用語で「療養の給付」という
⚫ 昔は制約が多かったが、現在では医療行為に必要な一般的なものは対象となる

保険の対象外となるもの
① 美容整形
② 通常の出産(ただし、出産一時金の支給あり)
③ 眼鏡、補聴器
④ 研究段階の先端医療
⑤ 陶製の材料を使ったものなど特殊な歯科補綴(ほてつ)
⑥ 薬局で買う風邪薬などの売薬

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保険給付の問題点

画一的給付と混合診療とのせめぎあい
⚫ 保険外併用療養費の制度創設
⚫ 将来的に保険診療への導入を検討する「評価療養」と、保険導入を前提としない「選定
療養」の2つに区分

患者の一部負担導入
⚫ 老人医療費無料化(1973)→老人保健法に一部負担導入(1983)
①公平性の確保、②コスト意識、③財源の確保

定額負担から定率負担へ
⚫ 老人医療費(定額負担)から後期高齢者医療制度(定率負担)へ
※ 定率負担の問題点:支払えなくなる人がでる、受診抑制

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高額療養費

⚫ 医療保険の自己負担額は原則3割(小学生から70歳未満)
⚫ ケガや病気で高額な医療費がかかったときでも上限を設けて負担を抑えてくれる

総医療費80万円の場合の高額療養費による払い戻しイメージ

総医療費80万円(例) 最終的な自己負担額

7割 15万4570円
超過分の払い戻し
健康保険の給付分 56万円
総医療費
80万円

3割 自己負担限度額 8万5430円
窓口支払額
24万円

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高額療養費

◼ 自己負担額の計算式
区分 所得区分 自己負担限度額

健保:標準報酬月額※1 83万円以上 252,600円+(総医療費※3-842,000円)×1%



国保:賦課基準額※2 901万円超 [多数回該当※4140,100円]

健保:標準報酬月額 53万~79万円 167,400円+(総医療費-558,000円)×1%



国保:賦課基準額 600万円~901万円超 [多数回該当93,000円]

健保:標準報酬月額 28万~50万円 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%



国保:賦課基準額 210万円~600万円 [多数回該当44,400円]

健保:標準報酬月額 26万円以下 57,600円



国保:賦課基準額 210万円以下 [多数回該当44,400円]

35,400円
オ 住民税の非課税者等
[多数回該当24,600円]

*1 標準報酬月額:会社員等における健康保険と厚生年金保険の保険料を計算するための区分のこと
例えば標準報酬月額50万円とは、月収48.5万円以上~51.5万円未満の範囲
*2 賦課基準額:国民健康保険加入者の要件で、所得から住民税基礎控除額33万円を差し引いた金額
*3 総医療費:保険適用される診療費用の総額(10割)のこと
*4 多数回該当:直近12か月間に3回以上高額療養費に該当している場合に4回目から適用

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高額介護合算療養費

⚫ 医療保険と介護保険のどちらも利用する世帯が、著しく高額な自己負担になる場合の負
担を軽減する仕組み
⚫ 限度額を超えた場合は、医療保険と介護保険の制度別に按分計算され、それぞれの保険
者から支給される

基準額

一般 低所得(市町村民税非課税)

現役世代(70歳未満) 67万円 34万円

後期高齢者医療制度 56万円 31万円

負担軽減の例
○ これまでは、1年間で医療保険で30万円、介護保険で30万円を支払い、年間の負担が60万
円であったものが、
○ 制度開始後は、年間60万円を支払ったあとに支給の申請をすると、基準額:31万円(世帯員
全員が市町村県民税非課税の場合)を超えた金額(29万円)を返すことで、年間の負担額が3
1万円になる

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高額介護合算療養費

高額介護合算療養費の自己負担限度額(年額)

高額介護合算療養費の自己負担限度額(年額)
区分
70~74歳のみ 70歳未満を含む

標準報酬月額83万円以上
212万円 212万円
(70歳以上:現役並み所得者Ⅲ)

標準報酬月額53~79万円
141万円 141万円
(70歳以上:現役並み所得者Ⅱ)

標準報酬月額28~50万円
67万円 67万円
(70歳以上:現役並み所得者Ⅰ)

標準報酬月額26万円以下
56万円 60万円
(70歳以上:一般)

市町村民税 低所得者Ⅱ 31万円


34万円
非課税世帯 低所得者Ⅰ 19万円

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保険給付の種類と内容

給付の種類 内容

● 診察、薬剤の支給、処置・手術・その他の治療、在宅療養・看
護、入院・看護など(人間ドックなどの健康診査や眼鏡代は対
療養の給付/ 象外)
(健)家族療養費 ● 医療費に下記給付割合を乗じた額を支給
→ 義務教育就学後から70歳未満は7割、義務教育就学前は
8割、70歳から75歳未満は8割(現役並み所得者は7割)

65歳未満は1食につき460円を超えた額(住民税非課税で、長期
入院時食事療養費
入院の場合は91日目以降の入院は160円を超えた額)を支給

● 療養病床に入院する65歳以上の者の生活療養に要した費用に
ついて、保険給付として入院時生活療養費を支給
● 被扶養者の入院時生活療養にかかる給付は、家族療養費として
給付
入院時生活療養費
● 2017(平成29)年から、医療と介護の負担の公平化を図るた
め、生活療養標準負担額のうち、居住費にかかる部分について
段階的に見直され、2018(平成30)年4月から難病患者や老
齢年金受給者を除いて1日370円の負担となる

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保険給付の種類と内容

給付の種類 内容
一般の保険診療に準じて3割(義務教育就学前までは2割)を自
己負担して、残額は保険外併用療養費として保険給付

● 評価療養:(保険適用外の療養を受けると、保険が適用される
療養にかかる費用も含めて、医療費の全額が自己負担となる)
一定の条件を満たしたもの(例:保険外適用の新薬療法や新薬
など) ※従来の治験など医療機関が起点

保険外併用 ● 患者申出療養:高度の医療技術を用いた療養であって、当該療
療養費 養を受けようとする者の申し出に基づき、療養の給付の対象と
すべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供
を図る観点から評価を行うことが適用な療養として厚生労働大
臣が定めるもの ※患者の申し出が起点(2015年新設)

● 選定療養:保険との併用が認められ、保険の枠を超えた部分に
ついてを自己負担とし、保険が適用される療養にかかる費用は
保険診療に準じた保険給付となる(例:医療上の必要がある差
額ベット、歯科の金合金等)

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保険給付の種類と内容

給付の種類 内容
● かかりつけ医の指示に基づいて指定訪問看護事業者より看護師
等が訪問看護を行う
訪問看護療養費/
● 対象は、難病や末期のがん、初老期の脳卒中等で自宅療養中の
(健)家庭訪問
患者
看護療養費
● 義務教育就学後から70歳未満は7割、義務教育就学前は8割、
70~75歳未満は8割(現役並み所得者は7割)
海外で診療をうけたときの医療費など、患者が一時立替払いした
療養費
場合、一定基準の現金を払い戻し
医師が病気やけがで転院等が必要と認め、以下の全ての条件に該
当した場合に、その要した費用の範囲内で支給
移送費/
● 保険診療として適切
(健)家族移送費
● 療養の原因である病気・ケガで移動が困難
● 緊急その他、やむを得ないこと

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保険給付の種類と内容④

給付の種類 内容

被保険者が療養のため3日以上連続して仕事を休み、給料を受け
られないとき、4日目から休業1日につき直近12か月間の標準報
傷病手当金*1 酬月額を平均とした額を30で割った3分の2相当額を1年6カ月
を限度として支給(労災保険が適用される場合は、全額が支給さ
れない)
出産一時金*2/
被保険者または被扶養者が出産したとき、1児につき原則42万円
(健)家族出産
を支給
育児一時金
被保険者が出産のため仕事を休み、給料を受けられないとき、出
産の日以前42日間、出産の日後56日間を限度として、休業1日に
出産手当金
つき直近12か月間の標準報酬月額を平均した額を30で割った額の
3分の2相当額を支給(出産育児一時金も支給)
埋葬料(費)・ 被保険者が死亡した場合、埋葬を行った家族に5万円を埋葬料と
葬祭費/ して支給
(健)家族埋葬料 被扶養者が死亡したとき、被保険者に5万円を支給
*1 市町村の場合は条例、国民健康保険組合の場合は規則で定める場合は保険給付可。
*2 市町村の場合は条例、国民健康保険組合の場合は規則で定めるところにより保険給付を行う。
(特別の理由がある場合は、全部または一部を行わないことがある)

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自傷行為に保険は適用される?

問 健康保険法では、「故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わ
ない」と規定されている。自傷行為は保険適用になるか、ならないか?

※ 「精神疾患等に起因するものと認められる場合は…保険給付等の対象としております」という規
定もある

⚫ 精神疾患に起因しない自殺未遂」「精神疾患に罹患していたことが証明できない自殺未
遂」は保険給付の対象とならないとの解釈もありうる。
⚫ 自殺未遂者本人や家族に高額な医療費を請求、トラブルとなる事例が国内各所で発生

自殺未遂による傷病について、その傷病の発生が精神疾患等に起因するものと認められる
場合は、「故意」 に給付事由を生じさせたことに当たらず、保険給付等の対象とする
「自殺未遂による傷病に係る保険給付等について」(2010年5月21日付厚生労働省保険課長他通知)

⚫ 社会背景を踏まえて通知を読まないと、見誤る

16
4.診療報酬と薬価基準

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診療報酬制度の概要

診療報酬とは
⚫ 医療機関を受診した際に、患者(被保険者)の自己負担分とは別に、医療機関に支払わ
れる報酬。もともとは保険料として拠出したもの
⚫ 主に人件費や医薬品費、医療機器費、その他のランニングコストといった、医療機関が
運営をおこなうための費用に使用
⚫ 診療報酬があることで、患者は経済的な負担が軽減され、安心して医療機関に通うこと
ができ、医療機関も運営するための資金を得られる

診療報酬の種類
⚫ 「医科診療報酬」「歯科診療報酬」「調剤報酬」の3種類
⚫ 診療報酬点数表に基づいて計算、全国一律1点10円。単価は2年に1度改定

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診療報酬制度の概要

点数設定の方法
⚫ 社会保障審議会医療保険部会と医療部会で決定した基本方針に基づき、厚生労働大臣が
中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問して決定
⚫ 診療報酬は2年ごとに改定

診療報酬の支払い方法の種類
支払い方式種類 内容

⚫ 医療行為ごとに点数を合計して計算する方法
出来高払い方式
⚫ 外来診療は基本的に出来高払い
⚫ 病名や診療内容別に、入院1日当たりの費用が定められた計算
包括払い方式 方式
(DPC/PDPS*) ⚫ 診療内容にかかわらず一定の金額を支払う
⚫ 特定機能病院などを中心に導入されている
* DPC/PDPSは、 Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System
(診断群分類に基づく1日当たり定額報酬算定制度)の略

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医療費支払の流れ

⚫ 前回の講義を思い出してみよう

保険診療をめぐる法律関係

保険医療サービス
患者
医療機関 (=被保険者)
②一部負担金の支払い






保険者

20
医療費支払の流れ

⚫ 法律とは異なり、実務上は支払審査基金が医療機関からの請求をチェックしている

保険医療サービス
患者
医療機関 (=被保険者)
一部負担金の支払い
の高被
診 診 給額保 保
療 療 付療険 険
報 報 養者 料
費証 支
酬 酬 な引
請 支 払
ど渡 い
求 払 し
診療報酬払込

支払基金 保険者
診療報酬請求

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医療費支払の流れ

医療費支払の流れ
⚫ 加入者本人(被保険者)やその家族(被扶養者)が病気やケガをして、病院(保険医療
機関)に行って治療を受けると、その医療費(1日から末日まで)は診療報酬明細書
(レセプト)という形で病院から支払基金に請求される

⚫ 支払基金では、この病院から請求されたレセプトが適正であるかどうかを審査したうえ
で、健康保険組合に診療報酬請求を行う

⚫ 健康保険組合は、事業主と従業員から納められた保険料により支払基金に診療報酬を払
い込み、支払基金は、毎月一定の期日までに保険医療機関に診療報酬を支払う

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診療報酬明細書(レセプト)

レセプトとは
⚫ 保険 者に 請求 する 「診 療報 酬明細
書」のこと
⚫ レセプト業務とは、組合健保や協会
けんぽ、市区町村などの健康保険の
保険者に診療報酬(7割分)を請求
する業務のことを指す
⚫ レセプトには、患者の氏名や診療報
酬点数などが記載されている。審査
支払機関は提出された内容を審査し、
請求内容に不備がなければ、審査支
払機関を通して保険者から医療機関
に診療報酬が支払われる

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診療報酬改定:入院から地域医療へ

2014年改定
⚫ 「地域包括診療料」「地域包括ケア病棟入院料」「在宅復帰機能強化加算」の新設

⚫ 有床診療所入院基本料の見直し

2018年改定
⚫ 介護保険との同時改定となり、ともに「地域包括ケアシステムの推進」等が強調される

⚫ 一般病棟入院基本料を再編・統合。入院医療の評価を急性期医療、急性期医療~長期療
養、長期療養の機能に大別

⚫ かかりつけ医機能の強化として、機能強化加算を新設し、地域包括診療料等の施設基準
や小児かかりつけ診療料の算定用件を緩和

⚫ 「退院支援加算」を「入退院支援加算」に名称変更。地域連携診療計画加算の算定対象
を拡大

⚫ 特別養護老人ホーム等におけるターミナルケアを含む訪問診療・訪問看護の評価を充実

⚫ 地域支援機能を有する訪問看護ステーションの評価を新設

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薬価基準の概要

薬価基準とは
⚫ 薬価基準は、医療保険から保険医療機関や保険薬局(保険 医療機関等)に支払われる
際の医薬品の価格を定めたもの
⚫ 薬価基準には、現在1万6,000の薬が収録

薬価差益
⚫ 医療機関・薬局にとっては、卸からの仕入れ値と公定価格である薬価の差額はそのまま
利益になる(これを薬価差益という)
⚫ このため、医療機関や薬局は卸と交渉し、可能な限り安い価格で薬を仕入れようとする
⚫ 生活習慣病領域などのように、競合品が多ければ価格競争も激しくなり、実際に市場で
流通する価格は下がりやすくなる
⚫ 薬価基準は2年に1度、改定されているがイタチごっこが続いている

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診療報酬と薬価基準のポイント

⚫ 診療報酬とは、医療機関を受診した際に、患者(被保険者)の自己負担分とは別に、医
療機関に支払われる報酬。もともとは保険料として拠出したもの

⚫ 医科・歯科・調剤の3種類。診療報酬点数表に基づいて計算、全国一律1点10円。
単価は2年に1度改定

⚫ 支払審査基金が医療機関からの請求をチェックしている

⚫ 最近の改定では、 地域で患者が暮らすことができるように「地域包括ケアシステムの
推進」が強調されている

⚫ 薬価基準は、医療保険から保険医療機関や保険薬局(保険 医療機関等)に支払われる
際の医薬品の価格を定めたもの。こちらも単価は2年に1度改定

⚫ 薬価差益を減らすために改定が続くが追いつかず、イタチごっこが続いている

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5.高齢者医療制度

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後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度とは
⚫ 後期高齢者医療制度は、75歳(寝たきり等の場合は65歳)以上の者が加入する独立し
た医療制度のこと。自己負担は、原則1割(所得により3割の場合もある)
⚫ 従来の老人保健制度に代わり、平成20年4月より開始された。対象となる高齢者は個人
単位で保険料を支払う
⚫ そのほか高額療養費等、従来の老人保健制度と基本的に同じ給付を受けることができる

対象者
⚫ 退職して特例退職被保険者もしくは国民健康保険(市町村)の被保険者となった人で、
次のいずれにも該当する人と、その同居している被扶養者
✓ 75歳以上の者(75歳の誕生日当日から資格取得)
✓ 65歳以上74歳以下の方で、寝たきり等一定の障がいがあると認定された者(認定
日から資格取得) ただし、本人の意思により、被保険者とならないことができる
⚫ これらの方々は、加入中の医療保険から脱退し、後期高齢者医療制度に加入する。加入
するときに、1人に1枚ずつ後期高齢者医療被保険者証が交付される
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なぜ後期高齢者医療制度が必要なのか

⚫ 国民健康保険の被保険者は無職・高齢者が中心で単独での制度運営は困難

出所:ニッセイ基礎研究所「国保保険料の現状:都道府県単位で保険料を統一する場合、何に注意すべきか?」(2018.9.5)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=59530&pno=2?site=nli
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後期高齢者医療制度の財政

⚫ かかった医療費から患者負担分を除き、国・都道府県・市区町村の公費(約5割)、現
役世代からの支援(約4割)のほか、高齢者から広く保険料(約1割)を徴収
⚫ 現役世代からの支援は、国民健康保険・被用者保険者の加入者数に応じた保険者からの
支援金となる

調整前 調整後
204人 204人

101人 101人
40人 40人
18人 18人
政 健 国 全 政 健 国 全
管 保 国 管 保 国
健 組 平 健 組 平
保 合 保 均 保 合 保 均
*人数は、2007年度推計1000人当たり老人加入数を示す。 出所:厚生労働省『厚生労働白書 平成19年度版』

30
後期高齢者医療制度の運営

⚫ 後期高齢者医療広域連合:都道府県単位ごとの市区町村で構成
⚫ 広域連合の役割:被保険者証の交付などの資格管理、保険料の決定、医療の給付など
⚫ 市区町村の役割:保険料の徴収及び申請や届出受付などの窓口業務

保険医療サービス
患者
医療機関 (=被保険者)
一部負担金の支払い

診 診 保 保
療 療 険 険
報 報 者 料
酬 酬 証 支
引 払
請 支 渡
求 払 し い
情報提供・保険料納付
後期高齢者医療
市区町村
広域連合
被保険者証交付
保険料賦課決定

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後期高齢者医療制度のポイント

⚫ 後期高齢者医療制度は、75歳(寝たきり等の場合は65歳)以上の者が加入する独立し
た医療制度。自己負担は、原則1割(所得により3割の場合も)

⚫ 従来の老人保健制度に代わり、平成20年4月より開始

⚫ そのほか高額療養費等、従来の老人保健制度と基本的に同じ給付を受けることができる

⚫ 国民健康保険の被保険者は無職・高齢者が中心で単独での制度運営は困難なため、他の
保険制度からの拠出を受けて運営されている

⚫ 患者負担を除いた費用の内訳は、75歳以上の後期高齢者の保険料(1割)、 現役世代
からの後期高齢者支援金(約4割)および公費(約5割)でまかなわれる

⚫ 制度運営は、各都道府県の広域連合と市区町村とが連携して事務を行う

32
6.国民医療費

33
国民医療費の推移

国民医療費の負担増
⚫ 国民医療費は毎年約1兆円ずつ増加、
2015(平成27)年で約42兆円
⚫ 国民一人当たりにすると約33万円、国
民所得の10.9%、国内総生産の8.0%
を占める
⚫ バブル崩壊後、国民所得や国内総生産
と医療費のバランスが崩れる

出所:厚生労働省「平成29年度 国民医療費の概況」

医療サービスを削減して社会保障費の増加を抑えるか、
国民全体で医療費の負担増を受けれるかの二択を迫られている状態

34
国民医療費の構造

出所:厚生労働省「平成29年度 国民医療費の概況」
35
国民医療費の構造

国民医療費の現状

⚫ 制度分別でみると、後期高齢者医療給付分が全体の34.3%を占める

⚫ 財源別でみると、公費の割合が38.4%を占める

⚫ 診療種類別でみると、入院医療費が37.6%を占める

⚫ 年齢階級でみると、65歳以上が60.3%を占める

国民医療費のなかで、高齢者の占める医療費が高く、入院医療費の
割合が高くなっている。保険料収入だけでは制度運営がままならず、
公費(税金)が相当投入されている

36
病院と診療所の施設数・病床数

⚫ 一般病床のほかに、療養病床、精神科病床が多いのが日本の特徴
⚫ 高齢者や精神障害者が地域で暮らす体制が整っておらず、社会的入院が多い

2017年10月1日現在

施設数 病床数
総 数 178,492 1,653,303

病 院 8,412 1,554,879
一般病院(床) 7,353 890,865
療養病床 ー 325,228
感染症病床 ー 1,876
精神(科)病院(床) 1,059 331,700
結核療養所(病床) ー 5,210
一般診療所 101,471 98,355
歯科診療所 68,609 69

出所:厚生労働省「平成29年医療施設(動態)調査・病院報告」

37
医療提供体制の各国比較

⚫ 日本は平均在院日数(入院日数)が他国に比べて長い
⚫ 一方で、病床千床数あたりの医師数は少なくなっている
⚫ このため、入院施設がある医療機関の医師の業務負担が大きくなっている

(2013年)

人口千人 病床千床 人口千人 人口千人 総医療費


平均在院
国名 あたり あたり 当たり看 当たり看 の対GDP
日数
病床数 医師数 護職員数 護職員数 比(%)

日本 30.6 13.3 17.1 2.3 10.5 10.2


フランス 10.1 6.3 52.9 3.3 9.4 10.9
ドイツ 9.1 8.3 48.9 4.1 13.0 11.0
イギリス 7.1 2.8 100.4 2.8 8.2 8.5
アメリカ 6.1 2.9 85.3 2.6 11.1 16.4

出所:OECD Health Data 2015.

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医療供給体制の課題と対応

1960年代の課題
⚫ 不足する病院や医師、医療を受ける際の患者の経済的負担の軽減
⚫ 高度成長期の給付改善と医療機関の増加でおおむね解消

新たな課題
⚫ 医療機関の機能分化と体系化、相互の連携(特に在宅生活の支援)
⚫ 「3時間待って3分間診療」

大学病院をはじめとする大規模病院への外来者を減らし負担を軽減、
社会的入院を減らし入院期間を短縮、医療費の削減を目指す

39
医療供給体制の課題と対応

1985年 第一次医療法改正
⚫ 都道府県ごとに医療計画を定め、医療機関の適正配置を推進

1992年 第二次医療法改正
⚫ 特定機能病院(最先端医療)と療養型病床群(介護を提供)

1998年 第三次医療法改正
⚫ 地域医療支援病院(診療所の支援と地域の中核)

2000年 第四次医療法改正
⚫ 一般病棟から療養病棟を切り離し(一般看護師配置 4:1→3:1へ)

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医療供給体制の課題と対応

2013年8月「社会保障制度改革国民会議」
⚫ 急性期医療を中心に人的・物的資源を集中投入、入院期間を短縮
⚫ 在宅医療・在宅介護を拡充し、地域包括ケアシステムを構築

2014年6月 医療介護総合確保推進法制定 ※医療法改正


⚫ 各都道府県が地域医療構想を策定(~2016年度)
⚫ 医療提供体制の改革へ…!?

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医療供給体制の課題と対応

国の地域医療構想に対する主な反対意見
⚫ 医療が必要な高齢者を丸投げする行為ではないか(医療難民)
⚫ 都市部など地域によっては病床の数が足りないことも
⚫ 民間病院は利益を出さなければ存続できない(病床を減らせない)
⚫ 都道府県などの自治体には病床の新設や増加を認めないという権限こそあるものの、現
在ある病床を減らす権限はない
⚫ 在宅医療の担い手不足。2025年に245万人が必要となる介護職員も、33万人ほど不足
する見通し

医療費を削減したい国と、必要な供給体制を確保したい現場
この対立は、医療だけでなく社会保障制度全体に共通するもの

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インフォームドコンセント

インフォームドコンセントとは
⚫ 患者が治療などの内容を十分に説明を受け、理解し納得したうえで方針に合意すること
⚫ 医師が医療者側の判断を強制するパターナリズム(家父長主義)からの脱却を目指す

病気について
理解

処方薬の内容
治療方針 納得

同意
セカンドオピニオン
の利用もできます

手術のリスク

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医療は誰が行うのか

業務・名称独占
医 師 の仕事が多い
看護師 理学療法士

保健師 作業療法士

助産師 患者・障害者 言語聴覚士

臨床心理士 歯科医師

技師装具士 歯科衛生士
ソーシャル
ワーカー

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国民医療費のポイント

⚫ 国民医療費は毎年約1兆円ずつ増加、2015(平成27)年で約42兆円

⚫ 医療サービスを削減して社会保障費の増加を抑えるか、国民全体で医療費の負担増を受
けれるかの二択を迫られている状態

⚫ 国民医療費のなかで、高齢者の占める医療費が高く、入院医療費の割合が高くなってい
る。保険料収入だけでは制度運営がままならず、公費(税金)が相当投入されている

⚫ 国の方針は、大学病院をはじめとする大規模病院への外来者を減らし負担を軽減、社会
的入院を減らし入院期間を短縮、医療費の削減を目指す

⚫ 医療費を削減したい国と、必要な供給体制を確保したい現場。この対立は、医療だけで
なく社会保障制度全体に共通するもの

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「医療保険」のまとめ

⚫ 医療保険は、誰もが一度はお世話になったことがある、もっとも身近な社会保障制度の
ひとつである

⚫ ただし、若いうちはその有難さがわかりにくい

⚫ 中高年から高齢者にかけて有難さがわかるようになると、制度改正により「改悪」され
ているのに気づく。生活に身近であるがゆえに不満も大きくなる

⚫ 社会保障費は国の財政の中で最も大きな割合を占めており、「財政の健全化」という名
の削減を検討する際に最初にやり玉にあげられる

⚫ 利用者サイドからの制度の充実にむけた要求と財政サイドからの削減圧力の板挟みが、
社会保障の宿命ともいえる(これは、医療保険に限ったことではない)

⚫ 二つの主張の双方に耳を傾け、よりよい制度にしていく方法を粘り強く探っていくのが、
社会保障を学ぶことの苦しさであり、醍醐味でもある

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