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281-289(2020)
doi: 10.5057/jjske.TJSKE-D-19-00052
原著論文
ライフスタイルの類型化にみるファッション感性価値行動
松岡 依里子*, 山本 ひとみ**
* 国際ファッション専門職大学‚ ** 神戸国際大学
* Professional Institute of International Fashion, 1-7-3 Nishi-Shinjyuku, Shinjyuku-ku, Tokyo 160-0023, Japan
** Kobe International University, 9-1-6 Koyocho-naka, Higashinada-ku, Kobe, Hyogo 658-0032, Japan
Abstract : The growth environment for University students has changed dramatically due to the widespread of developed IT
usage and the relationship between human and surrounded objects, which significantly impacted their current lifestyle. In this
study, Clarification of two clarified how university students are related to lifestyle and fashion sensibility behavior. Firstly, analysis
of factors of lifestyle which extracted into two types. There are “Active factor” and “Emotional factor”. After Cluster analysis, it
was classified into three: “Rich-Emotional type”, “Enjoy type” and “Stable type”. The Findings from the analysis of variance was
that their “Behavior of Fashion Emotional Value” differs depending on their type of lifestyle. As a result, there was a degree of
statistical significance among the three types of lifestyle and within the “fashion awareness” and “purchasing behavior”. This study
could elucidate the “Behavior of Fashion Emotional Value” from the characteristics of fashion awareness and purchase behavior
by its type.
Keywords : Lifestyle, Emotional value, Fashion value awareness, Purchasing behavior
消費者の好み等のデータ,マーケティングのノウハウ,また
1. は じ め に 服づくりに関する技術的な知見は重要な資源であると指摘し
ている.
1.1 研究の概要 『若年層の価値観・ライフスタイルに関する調査』
[注 2]で
近年,IT の発達による人やモノのつながり方は大きく は,
「いつも友人とつながり,見知らぬ人とも交流し,他人の
変わり,大学生の生活意識や行動も変化している.例えば, 目を気にする『ソーシャルよいこ』が存在している」と結論
アプリからのコーディネート検索やオンライン購入のシステ づけている.特に,16 ∼ 21 歳では,他人が自分のことをどう
ム化による E コマースの発達により,店頭での購入情報だけ 思 っ て い る か な ど「 人 の 目 が 気 に な る 」人 が 4 割 を 超 え,
ではなく,多様な情報をいつでもどこでも得られるように 「人づきあいが苦手」とする人も 3 割近く存在しており,SNS
なった.そのため,スマホでの検索による情報収集が手軽に に囲まれながら,身近な人間関係に苦慮する姿も垣間見える
いつでも行えるようになり,ソーシャルメディアが世界的に としている.若者は,人生経験が浅く生き方や考え方が明確
普及した現在,人々のライフスタイル[注 1]に影響を及ぼ 化できないモラトリアムな世代であり,複雑な社会環境にお
し,常に人とつながり,コトを共有する生活が進んでいる. ける多様な意識や行動についてとらえにくいと言われている.
総務省「平成 26 年版情報通信白書」
[1]の調査結果から, このように,SNS の普及による若者のライフスタイルの
スマートフォンの保有率は 20 代 64.5% で,SNS の中でも普及 変化は,人とのつながりや購買行動,若者の感性価値にまで
率の高い LINE は,20 代の利用率が 8 割を超え,Facebook や 影響を及ぼしているのではないかと推察される[注 3].
Twitter などにおいても利用率が高まっていることがわかる. ところで,感情には,その当人にしかわからない主観的な
この結果を踏まえると,LINE を中心としたチャットアプリの 側面と,外部から観察可能な側面がある.後者は,感情が生
利用が増え,コミュニケーションのあり方が大きく変化し,他者 じている時に示す行動を通じて客観的にとらえることができ
との関係性を常に確認している状況にあることが推察される. るので,情動とは,感情の下位概念である[注 4].
IoT などのデジタルツールを活用し,データ収集し分析す 本研究で取り上げる感性価値とは,情動(心を動かされる
ることは,ファッションにおける課題解決や体験価値などに という喜怒哀楽や共感などを客観的にとらえたもの)に価値
新しい付加価値が生み,生活の質の向上に貢献できる.経済 を置くという意味で,感性価値行動は情動に価値をおいた
産業省の研究報告[2]では,B to C に関連するファッショ 行動のことである.ファッション感性価値行動は,ファッショ
ンテックの先行事例を概観している.異分野連携の促進のた ンに対する情動的(感動や共感)な価値行動のことである.
めに,従来型の繊維・アパレル産業が有するトレンド分析や 態度と行動との関係については[注 5]に示す通りである.
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日本感性工学会論文誌 Vol.19 No.3
ライフスタイルの類型化にみるファッション感性価値行動
図 2 本研究の概念図式
を主体に生活している.買い物行動は良い物を安く買いたい,
図 1 ライフスタイル項目作成のためのポジショニングマップ
(既存の研究をもとに筆者ら作成) バリエーション豊富に選択したいと思うが実用性・機能性は
重視する.エンジョイ型は,人とのつながりを多くもって
になることができるのである.したがって大学生のファッション 楽しんで生活していきたいと思う層である.流行にも敏感で
生活もおしゃれスタイリング先導者と追随者により,購買システ SNS 等を通じて共感していくことに安心感を抱く.買い物行
ムの中にうまく取り込められており,大学生のファッションライ 動は認知度の高い企業に安心感を抱き,センスの良いモノを
フスタイルにも,感性価値格差が見られるのではないかと想定 値頃で買いたい,バリエーション豊富に選択したいと思って
される.また,SNS によるつながりや情報検索の増加のため, いる.ハイリッチ型は,親の教育が大きく影響し歴史や伝統
大学生の好きなブランドや好きな衣服のイメージ,ファッション を大切にし,比較的保守的な層である.ただ若者らしい今日
心理特性にも影響を与えていると推察される.そこで,本研究 的感性は持ち現代的スピリッツを取り入れながら友達と上手
では,大学生のライフスタイルについて,既存の研究で報告さ に付き合いができる.買い物行動は一流のものを見極める
れている生活文化度概念[注 5]を援用し,横軸は,合理性か 能力を持っているため,ただ価格が高い高級品であればよい
情動性,縦軸はグレード(価 格,ブランド,知名度)とした ということではなく,自己の好みに合ったものを見極めて
ポジショニングマップを作成した(図 1).このポジショニング 購入することができる.感性リッチ型は,交際範囲も広く
マップから,60 項目の質問を抽出し,大学生 112 名を対象に 向上心が高い層である.非常に活動的で未来のマーケット
因子分析を行い項目の選出を行った.さらに 29 項目からなる リーダーとして時代を担うタイプといえる.買い物行動は
項目に対する反応から類型化を試みた.ファッション感性価値 ハイセンスで数多く買いたい,非日常空間で楽しみたい,と
行動と購買行動については,筆者の若者のライフスタイルと いう思いがあり,流行にも敏感である.
ファッションとの関連を見た研究[13,
14]をもとに各々の尺度を
作成し,ライフスタイルとファッション行動との関連を見るため 2.3 調査概要
の予備調査を行った.その結果,ライフスタイルの類型化から 2.3.1 調査対象
みるファッション行動特性の間に有意差が確認できた[18]
. 関西の大学生 311 名(男子 160:有効回答率 81.9%,女子
本研究では,ライフスタイルの類型化とファッション感性価値 151 名:有効回答率 83.9%)を対象に,2015 年 7 月に質問紙
行動との関連性について考察することとした. による集合調査を行った.
2.3.2 基本属性に関する質問項目
2. 研 究 方 法 基本属性として性別,年齢,居住地,1 か月の洋服代,化粧
品代,イベントが好きか,ライブに行くかなどの計 7 項目を
2.1 調査項目の仮説設定 質問した.
調査にあたり,図 2 に示すように,概念図式を構成し,仮説 2.3.3 ライフスタイルについての質問項目
を設定した.この概念図式から,ライフスタイルの類型化を 男女大学生のライフスタイル特性を明らかにするために,
行い,ファッション感性価値行動特性との間に関連がみられ 買い方(2 項目)
,コミュニケーション(7 項目)
,価値観(7 項目)
,
ると仮説設定を行った.なお,本研究では,ファッション感性 情報収集(8 項目)
,美容・健康(3 項目)
,自尊感情(2 項目)の
価値行動について,3 つの側面(好きなファッションイメージと 29 項目について,AB1 対質問を用意し,A のほう,やや A の
ブランド,ファッション価値意識,ファッションの購買行動)
か ほう,やや B の方,B の方の 4 件法で回答してもらった.
ら測定することとした. 2.3.4 ファッション感性価値行動
普段好きなファッションイメージについては形容詞対 14 項目
2.2 ライフスタイルの類型化についての仮説 については,4 件法(はい,やや,あまり,いいえ),ブランドに
予備調査から,生活文化度概念[注 5]を援用しライフスタ ついては,1 位から 3 位について選択肢を選んでもらい,それ以
イルの 4 つの型について,下記のような類型仮説を設定した. 外のものは自由に記載してもらった.ファッション価値意識の
生活安定型は保守的で堅実な層である.庶民的で節約上手な 17 項目については 4 件法で回答してもらった.購買態度を測定
生活を送り,友達や家族といった狭い範囲での身近な人間関係 する項目として 15 項目(合理性,情緒性,流行,着こなしに関す
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3.2 ライフスタイルについての因子分析結果
ライフスタイルの特徴を把握するために,29 項目の回答 3.3 クラスタ分析による類型化
結果について,1 点から 4 点を与え,得点化した後,因子分 ライフスタイルについての質問項目 10 項目に対しての回答
析を行った.第 1 回目の因子分析にて男女ともほぼ類似した から,類似性の高い被験者のグルーピングを行うためにクラ
ものであったので,同じ因子構造をもつものと判断し男女分 スタ分析を行った.変数の類似性に基づき,ケースを順次分
けずに因子分析を行った. 類する階層的方法の中の Ward 法,平方ユークリッド距離を選
まず探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った. 択し,標準偏差を 1 とする標準化を行った.デンドログラム
因子に寄与している因子負荷量については,0.34 以下のものを から 3 グループに分類した.第 1 クラスタは 67 名,第 2 クラ
削除し,10 項目で再度因子分析を行った.その結果を表 2 に示 スタは 153 名,第 3 クラスタは 91 名であった.人数の偏りを
す.固有値1以上で 2 因子が妥当であると考え,
「活動価値因子」 検討するために,χ 2 検定を行った結果,有意な人数比率の偏
「情動価値因子」の 2 つの因子が抽出された.この結果を表 2 りがみられた(χ 2=37.99, df=2, p < .01)
.
に示す.第 1 因子は,
「24. 目立つ行動をする」
「6. 外出する方が 次に得られた 3 つのクラスタを独立変数,
「活動価値」
「情動
好き」
「26. 自信をもって行動する」
「27. 人とうまくコミュニケー 価値」を従属変数とし,分散分析を行った.
ションがとれる」など 8 項目から「活動価値」因子と命名した. その結果,
「活動価値」
「情動価値」ともに有意な群間差がみ
第 2 因子は,
「2. 衝動的に購入する」
「1. 気に入ったものがあれ られた(活動価値:F (2, 308)=164.43, p < 0.001,情動価値:
ば購入する」などの 4 項目から「情動価値」因子と命名した. F (2, 308)=130.25, p < 0.001).
表 1 基本属性
性別 男性 女性 年齢 18 歳 19 歳 20 歳 21 歳 22 歳以上
人数 160 151 84 19 92 75 40
% 51,4 48.6 27 6.1 29.6 24.1 12.9
居住地 大阪北部 大阪中央 大阪南部 京都 神戸 奈良 滋賀 その他
人数 54 28 13 130 21 7 26 21
% 17.4 9.0 4.2 41.8 6.8 2.3 8.4 6.8
洋服代 5 千円まで 5 千円∼ 1 万円 1 万円∼ 2 万円 2 万円以上
人数 78 119 79 28
% 25.1 38.3 25.4 9.0
化粧品代 5000 円まで 5000 ∼ 1 万 1万円以上
人数 198 35 8
% 63.7 11.3 2.6
イベントは好きか 好き まあまあ あまり 嫌い
人数 119 127 51 10
% 38.3 40.8 16.4 3.2
ライブによく行くか よく行く たまに 行かない
人数 71 113 123
% 22.8 36.3 39.5
n = 311
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ライフスタイルの類型化にみるファッション感性価値行動
(下表は平均値を記載したもの)
図 4 ライフスタイルと好きなファッションイメージ との関係
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表 4 好きなブランド(1 位,2 位)
業界カテ
ラグジュアリー デザイナーズ セレクトショップ ナショナル SPA ファストファッション
ゴリー
1位
シャネル 46 ヴィヴィアン 15 ユナイテッドアロウズ 14 組曲 2 ローリーズファーム 12 ユニクロ 20
ブランド名
3.5 ライフスタイルと好きなブランドについて 「自分らしさをだせるもの」
「気分を変えるもの」
「目立つため」
表 4 は,好きなブランド 1 位,2 位についてまとめたもので 以上 11 項目に関連が見られた.
ある.このことからもわかるように,シャネルやグッチなど 感性リッチ型とエンジョイ型との間に差が見られた項目は,
ラグジュアリーブランドは,1 位が 93 名,2 位にでも 78 名, 「イメージチェンジできるもの」
「異性にアピールするもの」
と圧倒的に支持されており,次にユニクロや H&M のような 「自信のもてるもの」
「人と違った服装を心掛けている」
「自分
ファストファッション( 1 位 62 名,2 位 56 名),ローリーズファー らしさを出せるもの」
「目立つもの」
「気分を変えるもの」とい
ムやジーナシスなどの SPA ブランド(1 位 31 名,2 位 31 名)が う項目で正の相関があった.すなわち,感性リッチ型のほうが
好まれている.ナショナルブランドを好む人は少ない. エンジョイ型よりもファッションを内外ともに充実させてい
表 5 は,ライフスタイルタイプと好きなブランドとの相関に ることがわかる.次に,安定型と感性リッチ型との間に差
おいては,好きなブランド 2 位との関係において 5% 有意に差が が見られたのは,
「褒められる手段である」
「異性にアピール
見られた.この結果から,感性リッチ型は,セレクトショップ系 するもの」
「センスを磨く手段である」
「他人と差をつけるもの」
やデザイナーズブランド系を好み,次にエンジョイ型は, 「劣等感を解消できるもの」
「自信のもてるもの」
「人と違った
ナショナルブランドや SPA ブランドを好んでいることが 服装を心掛けている」
「自分らしさを出せるもの」などの項目
わかる.また,安定型は,ブランドの好みがデザイナーズ に正の相関があった.
「自分」という内面を重視している項目
ブランド以外にタイプが割れていることがわかる. について差がみられる.エンジョイ型と安定型との相関はな
表 6 ライフスタイルとファッション意識との関係
3.6 ライフスタイルとファッション価値意識
クラスタータイプ 安定型 感性リッチ型 エンジョイ型
ファッション価値意識について 17 項目から得られた内容
平均値 F値
について,回答してもらった.一元配置分散分析の結果, 心の安定、癒しである 2.91 3.15 3.01 1.985
「イメージチェンジできるもの」
「褒められる手段」
「センス 褒められる手段 2.76** 3.18** 3.04 5.395**
を磨く手段」
「他人と差をつけるもの」
「劣等感を解消できる 異性にアピールするもの 2.75* 3.12* 2.62*** 10.634***
***
もの」
「自信をもてるもの」
「人と違った服装を心掛けている」 センスをみがく手段 3.00*** 3.39*** 3.14 6.195**
個性をあらわすもの
表 5 ライフスタイルと好きなブランド(2 位)との関連 3.15 3.38 3.23 2.236
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ライフスタイルの類型化にみるファッション感性価値行動
かった.すなわち感性リッチ型は,ファッションを積極的に この結果から,安定型とエンジョイ型に差が見られた項目は
自己安定と他者発信のものととらえているタイプであるとい 「自分の感性に合ったものを買う」
「素材はあまり気にしない」
うことがわかった. の 2 項目で,安定型は,感性よりも素材重視であるというこ
まとめてみると,感性リッチ型は,
「異性にアピールする とがわかった.次に安定型と感性リッチ型の間に有意差がみ
もの」
「人と違った服装を心掛けている」
「人と違った服装を られたのは,5 項目で,安定型は,
「高くて質の良いものを買
心掛けている」
「自分らしさをだせる」
「自信のもてるもの」と うのではなく,安い価格を重視する」
「実用性,機能性を重視
いう項目についてエンジョイ型や安定型と有意差が見られた. する」
「庶民的な感じを好む」
「今ある服を着用してから買う」
さらに「目立つもの」「気分を変えることができるもの」は 「流行や人並みのものを買う」などの項目について,感性リッチ
エンジョイ型との関連において有意差が見られた.また 型よりも平均値が高く,実用性を重んじていることがわかっ
「褒められる手段である」
「センスを磨く手段である」
「劣等感 た.また感性リッチ型とエンジョイ型で有意差があったのは
を解消できるもの」といった項目については,安定型との間 7 項目で,エンジョイ型は感性リッチ型よりも「実用性,機能
に有意差が見られた.このことから,安定型は,自己の内面 性を重視」
「庶民的な感じのもの」
「着心地,快適性を重視」
にファッションを活用していないことが推察される. 「感覚的にこれが良いと思ったものを買う」
「素材はあまり気に
しない」などであった.エンジョイ型は,安定型よりも情緒
3.7 ライフスタイルと購買行動との関連について 的なものを重視しているが,感性リッチは素材にこだわり
表 7 は,購買欲求動機についての単純集計結果である. リッチなものを求める傾向が推察された.
全般に雑誌を見て購入する人が多く,次に店頭の服,SNS,
街の人の服などであった.購買欲求動機について,ライフス 4. まとめと課題
タイルとの関連は見られなかった.
次にファッションの購買態度について,3 クラスタを独立変数 本研究では,大学生男女のライフスタイルについて,類型化
とし,一元配置分散分析を行った.その結果を危険率 5% 以上 を行い,ファッション感性価値行動との関連性について考察
で 11 項目において有意であった.その結果を表 8 に示す. した.男女含めて因子分析を行った結果,ライフスタイルに
ついて 2 つの因子(活動因子,情動因子)から構成された.
表 7 購買動機の傾向
それぞれの因子得点をもとにクラスタ分析を行った結果,
購買欲求動機 1位 2位 3位 合計 「感性リッチ型」
「エンジョイ型」
「合理型」の 3 つのタイプに
1.モデルの服 39 22 28 89
2.雑誌 95 60 39 194 類型化できた.この 3 タイプとファッション感性価値行動
3.電車の広告 5 10 13 28 (好きなファッションイメージとブランド,ファッション価値意識)
4.SNS 41 38 33 112 と購買行動について分 散 分析を行った. その 結果,ライフ
5.店頭の棚の服 49 37 39 125
6.マネキン 14 44 25 83 スタイルとファッションイメージとの関連においては,以下のよ
7.ショップスタッフ 2 20 25 47 うな結果が得られた.感性リッチ型は,
「洗練された」
「大胆な」
8.友人 14 20 34 68
「大人っぽい」など,また安定型は,
「田舎風な」
「落ち着いた」
9.街の人の服 30 42 52 124
10.その他 11 3 3 17 「平凡な」などのイメージ用語との関連が見られ,ライフスタ
合計 300 293 291 884 イルのちがいによるイメージの差を考察できた.次に好きな
ブランドにおいては 2 位に選出したブランドとの間に有意差
表 8 ライフスタイルと購買態度との一元配置分散分析
が,見られた.感性リッチ型は,セレクトショップ系やデザ
クラスタータイプ 安定型 感性リッチ型 エンジョイ型
平均値 F値 イナーズブランド系を好み,エンジョイ型は,ナショナル
高くて質の良いものを買う1 2.11** 2.53** 2.26 6.032** ブランドや SPA ブランドを好んでいることがわかった.
実用性、機能性を重視する2 2.33* 1.94* 2.36* 8.314**
ファッション価値意識については,11 項目において有意
庶民的な感じを好む方3 2.73* 2.41* 2.69* 5.221**
差があった.感性リッチ型は,「異性にアピールするもの」
流行にこだわらない4 2.64 2.6 2.79 1.279
「人と違った服装を心掛けている」
「人と違った服装を心掛け
バーゲンセールを利用しない5 2.13 2.21 2.29 0.603
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購買欲求動機について,ライフスタイルとの関連は見られな 価値観やライフスタイルを明らかにする調査を実施.
かった.ファッションの購買態度について,ライフスタイルとの 1995/1996 年以降に生まれた「Z 世代」は,中学生時代に
関連を見た結果,11 項目において有意であった.安定型は, ソーシャルメディアを使いはじめ,高校生になると同時に
エンジョイ型よりも素材重視であるということがわかった.次に スマートフォンを所有する環境で成長してた 16 歳から 35 歳
安定型と感性リッチ型の間に有意差がみられたのは,
「高くて のミレニアル世代の若者 2,824 名を対 象に,デバイスや
質の良いものを買うのではなく,安い価格を重視する」
「実用性, メディアとの接し方,コミュニケーションのあり方,ライフス
機能性を重視する」などの項目について,感性リッチ型よりも タイルに関する考え方などを尋ね,
「Z 世代」とその年長世代
安 定 型のほうが 重 視していた. またエンジョイ型は,感 性 である「Y 世代」との価値観の違いを明らかにしている.
リッチ型よりも「実用性,機能性を重視」
「庶民的な感じのもの」 http://looops.net/news/1723/(2019.09.22 アクセス).
「着心地,快適性を重視」
「感覚的にこれが良いと思ったものを [注 3]感性とは,何かを見たり聞いたりした時に深く心に感じ取るこ
買う」「素材はあまり気にしない」などであった.エンジョイ型 とや人の気持ちを感じる力や場の空気を読む力,芸術性や
は,安定型よりも情緒的なものを重視しているが,感性リッチ ファッションセンスなど感覚的に物事に対して感じていること
は素材にこだわりリッチなものを求める傾向が推察された. を意味する.本研究では,感性価値とは,情動(心を動かされ
以上のように,本研究では,大学生のライフスタイルのタイ ること.
「感動」や「共感」
)に対して評価することと定義する.
プにより,ファッション感性価値行動に差異がみられることが [注 4]情緒とは,現在では,情動という.心理学の専門用語で,
明らかになった.ライフスタイルとファッション意識や購買行動 英語では“emotion”といい,以前は「情緒」という言葉
との関係からタイプ別諸特性を明らかにすることができた. をこの訳語として使っていた.「情緒不安定」などという
人間にとって,ファッションとは自己実現や他者実現といっ 表現に使われる「情緒」は,他に日本語の表現として「下
た 2 面性をもつものとして複雑な様相を呈しているもので 町情緒」という表現があり,恐れや怒りなどの激しい心の
あるが,感性リッチ型がその 2 面性を安定させファッション 働きを表現する emotion の訳語としては不適切だというこ
をうまく取り入れて日常の生活を楽しんでいるということが とで,情動という言葉を使うようになった.本研究では,
この研究より推察された. emotion を情動と記載している.恐怖,怒り,悲しみ,喜び
ファッションAI の進化とともに,若者のファッション感性価 などの感情には,その当人にしかわからない主観的な側面
値行動特性のデータ集積や分析は,ファッション消費に関する と,外部から観察可能な側面がある.後者は,感情が生じ
画像分析との相関の基礎資料となりえる.今後も本稿の基礎 ている時に示す行動を通じて客観的にとらえることができ
データをもとに若者のファッション価値行動を予測できる資料 るので,客観的にとらえることのできる,感情の下位概念
の精緻化を試みたい.さらに手法を確立して,若者だけではな である「情動」を研究することとなる.
く,多様なライフステージを対象にして精巧な分析を試みたい. http://bsi.riken.jp/bsi-news/bsinews3/no3/special.html
二木宏明:情動のメカニズムの探求,理化学研究所,脳科
注 学総合研究センター,RIKEN BSI NEWS No.3,参照.
)
[注 1]1960 年以降,ライフスタイルという概念が日常的に用いら [注 5]M. J. ローゼンベルグと C. ホブランドは,態度についての
れるようになった.マーケティング分野の新しい市場細分 概念図式として,
感情,
認知,
行動の 3成分を説明している.
化戦略(マーケットセグメンテーション)の手法の 1 つとして また安田三郎は基礎社会学Ⅰ(1980)p.33 において態度の
アメリカから導入された.従来,消費行動の差異を説明す 5 成分をもとに,筆者は博士論文[4]p.20 で作成した図を
るのに人口学的要因(性別や年齢)
,社会,経済医学的要因 さらに改良して下図を作成した.この図から,本研究での
(三木崑,職業,収入,階層など)が用いられてきた.このよ ファッション感性価値行動は,情動的成分,
評価的成分(主
うな方法は,高度経済成長期における大量生産,大量消費, 体がある選択をしなければいけないときに価値判断の枠組
大量販売のメカニズムがなりたった時代には成功したが, みとなる成分で,経験による認知的,
情動的判断に加えて,
好みや価値観の多様化,個性化に伴い,同じような属性の人 対象のもつ価値が評価の基準とされる)が,行動への規定
でも違った行動をとるようになり,その説明力が弱まって をするという基礎概念のもとに,ファッションを選択する
きた.そこで注目されたのがライフスタイル(どういう考え 際の情動に基づく価値行動に焦点をあてた.この図に示す
方や生き方を原則として日々の生活を組み立てているか)と ように,認知的,情動的成分による評価に基づく行動を
いう概念である.すなわち,ライフスタイルとは,生活構造, ファッション感性価値行動としている.
生活意識,生活行動を包括的にとらえた概念である.
「村田昭治 他(編著)
:ライフスタイル全書,ダイアモンド
社,1979」参照.
[注 2]株式会社 dot,株式会社ループス・コミュニケーションズ,
株 式会社 4th が 運営 する「『Z 世代会議 』では,若 年層の
価値観・ライフスタイルに関する調査「Z 世代レポート2018」
を発表した.16 ∼ 35 歳の Z 世代・Y 世代の若者を対象に, 態度の 5 成分と行動との関係(筆者作成)
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ライフスタイルの類型化にみるファッション感性価値行動
[注 6]生活文化度とは,消費生活者の生き方や考え方・こだわりな [13]團丸哲麻:ライフスタイル研究における規範概念の位置づ
どの人 生観視点での文化 構造をとらえていくことである. けに関する研究 −男性ファッションの変容からの考察−,
山本ひとみ:生活文化度と感性工学,感性工学,11
(4)
, 関西学院大学博士論文,2011.
特集 最新のマーケティング(感性商学的アプローチ) [14]菅原正博,市川貢(編著):次世代マーケティング,中央経
pp.228-231,2013. 済社,p.38,1997.
[注 7]ショッププレスは,アパレルブランド「Ships」のショップ [15]川中美津子:服飾美学からファッション美学へ −ファッ
スタッフ(販売員)を活用した新しい職種である.インス ション美学と消費者行動論の関連性,宝塚造形芸術大学紀
タグラムなどに投稿することで,リアルなコーディネート 要,14,pp.129-137,2000.
を発信している.最近は,ショッププレスによる商品企画 [16]川中美津子:ファッション美学と感性分類,感性工学,11
(4)
も始まっている. (特集 最新のマーケティング(感性商学的アプローチ)),
https://www.shipsltd.co.jp/news/detail.aspx?news=shop190419 pp.213-217,2013.
[17]川中美津子:ファッション消費者文化構造の解読に対する
一考察:エスノグラフィとアートグラフィの統合,ファッ
参 考 文 献 ションビジネス学会論文誌,7,pp.11-21,2002.
[18]松岡依里子,山本ひとみ:ファッション行動と生活行動特
[1] 総務省:平成 26 年版情報通信白書,第 4 章第 1 節,p.169, 性との関連について−関西の大学生を事例として−,日本
2014. 家政学会関西支部第 37回研究発表会要旨集,B04,2015.
[2] 経済産業省:生活製品における IoT 等のデジタルツール活
用による生活の質の向上に関する研究会報告書,2018.
[3] 菅原正博,山本ひとみ,大島一豊(編著)
:メディア・ブラン
ディング −新世代メディア・コミュニケーション,中央経
済社,2012. 松岡 依里子(正会員)
[4] 松岡依里子:性 役 割 意 識 と 服 装 行 動 と の 関 連 に つ い て 1984 年 奈良女子大学家政学部生活経営学科卒
−男女差を中心に−,奈良女子大学大学院家政学研究科修 業.1988 年 同大学院修士課程家政学研究科被
士論文,1987. 服学専攻修了,修士(家政学)
.2003 年 文化
[5] 松岡依里子:性役割と着装行動,文化女子大学大学院家政 女子大学(現文化学園大学)大学院博士後期課
学研究科被服環境学専攻博士論文,2005. 程単位取得退学.2005 年 博士(被服環境学).
[6] 松岡依里子:性役割意識の変容が着装行動に及ぼす影響, 2012 年 大 阪 成 蹊 短 期 大 学 生 活 デ ザ イ ン 学 科 准 教 授 を 経 て,
ファッションビジネス学会論文誌,14,pp.37-49,2009. 2019 年 国際ファッション専門職大学国際ファッション学部
[7] 松岡依里子:ヘアカラー,ピアスにみる身体装飾意識の構造 ファッションビジネス学科教授・学科長,現在に至る.中高家庭科
−帰国生徒校と一般校の比較から−,日本家政学会誌, 教員,ファッション輸入商社(総合職,営業)などの実務経験あり.
62(2),pp.101-108,2011. 日本感性工学会(評議員),日本家政学会被服心理学部会(常任
[8] 中川早苗:衣生活システムの理論的,実証的研究(第 1 報) 委員),ファッションビジネス学会,日本繊維製品消費科学会,日本
−現代主婦のファッション意識の構造−,家政学雑誌, 家庭科教育学会など各正会員.
「被服心理学」「家庭科教育」など
32(10),pp.764-771,1981. 共著出版.多変量解析による消費者行動調査論文多数.
[9] 中川早苗:変わる現代女性のライフスタイル,日本繊維製
品消費科学誌,28(2),pp.56-60,1987. 山本 ひとみ(正会員)
[10]川端澄子,近藤信子,川本栄子,渡辺澄子,中川早苗: 神戸国際大学・経済学部・准教授.現在ファッ
女子学生のライフスタイル,衣生活スタイルと嗜好する服装 ションビジネスコース全般を受け持ち,キャリ
との関係,繊維機械学会誌,50
(10)
,pp.285-293,1997. ア支援部長も務める.また教鞭をとる傍らコン
[11]中川早苗,矢野いずみ:男子大学生のライフスタイルと サルタント業(有限会社フィールプラン代表)
被 服 行 動 に 関 す る 一 考 察, 繊 維 製 品 消 費 科 学,29
(6)
, も行っている.芸術学修士.日本感性工学会
pp.237-247,1988. (評議員)
,ファッションビジネス学会,日本繊維製品消費科学会,
[12]隅元美貴子,柳田元継:被服行動とライフスタイルの関連 正会員.その他中央経済社より次世代 MBA シリーズ(5 冊)
,
性,山陽論叢,21(0),pp.79-85,2015. 新世代ブランディングシリーズ(4 冊)等共著で多数出版.
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