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原著論文

観察的動作評価法を用いた十種競技者における円盤投の技術的課題の検討
岡室憲明 1) 前田 奎 2) 大山卞圭悟 3) 松林武生 4) 水島 淳 2) 木越清信 3)

Analysis of technical tasks for discus throws in decathletes using


a observational evaluation method
Noriaki Okamuro 1),Kei Maeda 2),Keigo Ohyama Byun 3),Takeo Matsubayashi 4)
Jun Mizushima 2) and Kiyonobu Kigoshi 3)

Abstract
The purpose of this study was to clarify technical tasks that affect discus throw performance in decathletes and
compare their performance with discus throwers with comparable performance. The subjects were 59 decathletes and
74 discus throwers with record throws ranging from 30 to 50 meters. The discus throwing movements were recorded
with two video cameras. Throwing movements were evaluated by the observational evaluation criteria. The evaluation
for each factor was made with two-options, satisfied or not. Subjects were divided into two performance groups based on
their throw distances within each specialty, decathletes or discus throwers. Interactions of throw distances were
examined between the performance and specialties with a two-way ANOVA. Differences in the achievement rate for
each factor were analyzed between performance groups with a chi-square test. No significant difference in throwing
distance was found between the two (higher and lower performance ) groups. The higher performance decathletes
showed significantly greater scores on factors related to the body drive in the throwing direction. On the other hand, the
higher performance discus throwers showed significantly greater scores on rotational motion and power position factors.
The results of this study suggest that techniques required for obtaining higher discus throw performance differs between
decathletes and discus throwers.

Key words: Decathlon, Discus throw, Observational evaluation method


十種競技,円盤投,観察的動作評価法

推奨されている(マラ,2004,関岡・尾縣,1989).十
Ϩ.緒 言
種競技でより高い成績を収めるためには全ての種目で
十種競技は,十種目(100 m 走,走幅跳,砲丸投, 満遍なく得点を獲得することが求められる.したがっ
走高跳,400 m 走,110 mH 走,円盤投,棒高跳,やり て,十種競技者は総合的な体力的要因の向上に加え
投および 1500 m 走)を決められた順序に従って競技を て,それぞれの種目の技術を向上させる必要がある.
行い,得られた記録を得点化し,その合計得点を競う しかし,十種競技者と単一種目を専門とする競技者
競技である(日本陸上競技連盟,2016).十種競技の得 (以下,専門種目競技者)との間には,形態および筋
点パターンに関する研究から,競技水準の高い競技者 力に差異が認められることが報告されている(福田ほ
ほどバランスの良い均等な得点構成であることが報告 か,1977;吉岡ほか,2010)
.体力と技術は密接に関係
されており(吉武,1989;内田・村木,1981),また, していることが指摘されている(グロッサー・ノイマ
指導書においてもバランス良く得点を獲得することが イヤー,1995;図子,2003)ことを考慮すると,十種

1)青山学院大学教育人間科学部
  Education, Psychology and Human Studies, Aoyama Gakuin University
2)筑波大学大学院
  University of Tsukuba, Graduate School of Comprehensive Human Sciences
3)筑波大学体育系
  Institute of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba
4)国立スポーツ科学センタースポーツ科学部
  Department of Sport Science, Japan Institute of Sport Science
32 コーチング学研究 第 33 巻第 1 号,31∼41.令和元年 10 月

競技者と専門種目競技者とでは理想とされる技術が異 考えられる.
なる可能性があり,特に技術的要因が記録に大きく影 そこで,本研究の目的は,観察的動作評価法を用い
響する種目においては,これが顕著である可能性も考 て,同程度の投てき距離を有する十種競技者と円盤投
えられる.したがって,十種競技者へのより効果的な 競技者との技術的課題を比較し,技術的課題の差異に
技術指導を行うためにはその差異を検討する必要があ ついて明らかにすることとした.
る.一方,十種競技者と専門種目競技者との動作を比
較した研究は,これまでも行われてきた.しかしなが
ϩ.方 法
ら,Kunz and Kaufmann(1983,1981)の研究では,十
種競技者と専門種目競技者との競技レベルが異なって 1.対象者
おり(100 m 走:世界トップレベル短距離走者 vs. スイ 国際大会で入賞するレベルから地区インターカレッ
ス国内レベルの十種競技者,やり投:やり投競技者 ジに出場するレベルの男性十種競技者 82 名(記録範
79.03 m vs. 十種競技者 54.29 m),示された動作の差異 囲:25.97-50.02 m)お よ び 男 性 円 盤 投 競 技 者 106 名
は競技レベルによる差異である可能性がある.した (記録範囲:28.67-68.94 m)から,投てき距離が 30-
がって,十種競技者と専門種目競技者との技術的課題 50 m の 範 囲 の 十 種 競 技 者 59 名( 記 録 範 囲:30.48-
の差を明らかにするためには同程度の記録水準を有す 46.85 m)および円盤投競技者 74 名(記録範囲:31.69-
る競技者同士を比較する必要がある. 49.91 m)を抽出した.また,全ての対象者が回転投法
なお,本研究では,より詳細に検討するために対象 を用いており,6 名が左利きであった.
とする種目を一種目に絞ることにした.十種競技にお
いてのパフォーマンスは,前述した通り総合得点で決 2.データ収集
定する.その総合得点との間に有意な相関関係が認め 十種競技者および円盤投競技者ともに,競技会にお
られる種目として円盤投が多くの研究で挙げられてい ける円盤投動作について撮影した.動作の撮影は,
る(小林ほか,1983;安田ほか,2013;吉村・関岡, DV カ メ ラ(Sony 社 製:DCR-VX2000,CASIO 社 製:
1981;吉岡ほか,2010).円盤投は限られた空間で, EX-100PRO,CASIO 社製:EXILIM EX-F1,撮影コマ
複雑な動作を高速で行う競技のため,技術的に難しい 数:60-300fps, 露 出 時 間:1 / 1000 − 1 / 2000sec)に
種目と言われており(Hay and Yu, 1995),十種目の中 よって,投てきサークル後方および側方の 2 か所から
でも技術性が高い種目(マラ,2004;村木ほか,1982; 行った.分析には,評価可能な最も良い記録の試技を
吉武,1989)とされている.さらに,円盤投は高校生 用いた.なお,本研究で用いたデータの一部は,日本
が行う混成競技である八種競技には含まれないため, 陸上競技連盟科学委員会バイオメカニクス研究班の活
十種競技者の多くはシニアレベルの円盤投初心者であ 動によって得られたものである.
り,その技術の習得に難渋する例が多く見受けられ
る.加えて,専門種目競技者とは形態および体力が大 3.データ処理
きく異なることから(福田ほか,1977;吉岡ほか, 先行研究(小野ほか,2014)で作成された 4 局面全
2010),十種競技者が目指すべき技術は,専門種目競 37 項目で構成される円盤投動作評価項目の合否判定
技者とは異なる可能性がある.それを明らかにするこ 規準(図 1 ,表 1 )をもとに,十種競技を専門とする評
とで十種競技者において効果的な指導が可能になると 価者 1 名(円盤投の自己記録:36.51 m)で観察的動作

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図1 円盤投動作の局面分け
観察的動作評価法を用いた十種競技者における円盤投の技術的課題の検討 33

表1 円盤投動作評価項目の合否判定基準
動作 下位動作 項目 番号時点 合否判定規準
下体を止めて上体をひねることで,大きな反動エネルギー
体幹のため 1 最大バックスイング時
を蓄えている
回転準備 上半身と下半身のひねり 2 最大バックスイング時 上半身と下半身が捻転している
最大バックスイングに至るまでに円盤を右⇒左⇒右へスイ
準備動作 重心移動 3 準備動作局面
ングし,身体重心を左右に移動させている
高い重心 4 最大バックスイング時 最大バックスイング時に身体重心の位置を高く維持している
姿勢保持 上半身の起こし 5 最大バックスイング時 骨盤が前傾した状態で上半身が起きている
体幹の安定(軸) 6 準備動作局面 回転の中心となる身体の中心を保っている
7 最大バックスイング∼ 最大バックスイングから右足離地にかけて,投てき方向へ
重心の落とし込み
  右足離地 重心を落とし込んでいる

投てき方向への推進 重心の水平移動 8 右足離地∼左足離地 腰の位置が上下動なく地面と水平に移動している


腰の先行 9 ファーストターン局面 上半身を腰が先行している
左脚の押し込み 10 ファーストターン局面 左脚が屈曲した状態から伸展している
右足踵が右膝水平よりも高い位置まであがり股関節が開い
ファースト 右脚の振込み 11 ファーストターン局面
た状態で右足を幅広く振り込んでいる
ターン
左脚に体重が十分乗り,身体の軸を保ったまま回転ができ
回転 左軸回転 12 ファーストターン局面
ている
右足離地寸前に左つま先が開き左半身は進んでいるが右半
股関節の開き 13 右足離地
身は残っており両者の間で股関節は開いている
体幹の安定(軸) 14 ファーストターン局面 体幹の安定を保ち,円盤を肩より後方に保持している
姿勢保持
左手リード 15 ファーストターン局面 地面と水平方向に体をリードし上体が開いてない
腰の先行 16 セカンドターン局面 上体より腰が先行している
投てき方向への推進
左足の畳み込み 17 セカンドターン局面 左足が間延びせずコンパクトに接地している
右足の方向付け 18 左足離地∼右足接地 振り込んだ右脚を投てき方向に回し込み方向付けしている
右足が接地してから左足が接地するまでの間,投てき方向
右足の回し込み 19 右足接地∼左足接地
セカンド 回転 に右足が曲がり続けている.
ターン
右半身先行で左足踵が左膝水平よりも高い位置まで挙がっ
左脚の振込み 20 セカンドターン局面
た状態で振り込んでいる
円盤の軌道を先行し上体が開かないように左手リードが行
左手リード 21 左足離地∼右足接地
姿勢保持 われている
体幹の安定(軸) 22 セカンドターン局面 体幹の安定を保ち,円盤を肩よりも後方に保持している
体幹のひねり(ため) 23 左足接地 体幹を中心に腰と肩のひねり姿勢ができている

パワーポジション 円盤の位置 24 左足接地 円盤が肩と水平かやや後方の位置に保たれている


(左足接地時姿勢) 地面に対する軸の後傾 25 左足接地 地面に対して身体の軸が後傾している
右脚重心 26 左足接地 右脚の上に身体重心が乗っている
腰の先行(投擲方向) 27 投げ局面前半 腰が円盤よりも投てき方向に先行している
右膝関節,右足関節の角度を変えずに倒し込むようにして
右脚の捻じり込み 28 投げ局面前半
右足が投てき方向に捻じりこんでいる
左脚のブロック 29 投げ局面 左脚でブロックしている
投てき方向への推進 パワーポジションから円盤を投げるまで身体の縦方向の軸
軸の安定(縦方向) 30 投げ局面
を保っている
投げ
左足接地から円盤をリリースするまでに,投てき方向へ身
軸の起こし 31 投げ局面
体の起こし動作を行っている
左手のブロック 32 円盤リリース直前 左腕を引き付けながら畳み込むブロック動作ができている
腰の先行(回転方向) 33 投げ局面前半 腰が円盤よりも回転方向に先行している
体幹と右腕が直交(90°)した状態で,円盤の投射角度は
円盤の軌跡 34 リリース時
35-40°で円盤の迎え角が負になるように投げ出している
右腕-肩-左腕の軸を保ち,投てき方向に対して左右の傾き
回転 軸の安定(横方向) 35 投げ局面
がない状態で円盤を振り切っている
身体の縦方向の軸を中心にして,左手を大きくリードでき
左手のリード 36 投げ局面
ている
指先のスナップ 37 円盤リリース直前 円盤を投げだす瞬間に,指先で円盤に回転を加えている
34 コーチング学研究 第 33 巻第 1 号,31∼41.令和元年 10 月

評価法を用い対象者の円盤投動作を主観的に評価し 動作総得点)の関係も検討した.最後に,妥当性につ
た.評価は,「達成(1)」および「未達成(0)」に 2 値 いては,投てき距離を妥当基準とする動作総得点の基
データ化した.なお,映像の観察には通常の再生,ス 準関連妥当性を用いて検討した.その後の分析は,客
ロー再生およびコマ送り再生を用い分析対象動作を 1 観性,信頼性および妥当性が確認されたデータを用い
つずつ観察する手法をとった.左利きの対象者につい て行った.
ては,評価規準の左右を逆にして評価した.
5. 十種競技者および円盤投競技者における上位群と
4.客観性,信頼性,妥当性の確認 下位群とへの分類
観察的動作評価法では,評価データの客観性,信頼 十種競技者および円盤投競技者における技術的課題
性,妥当性を検討する必要がある(松浦,1983).そこ の比較に際して,評価データが 2 値データであること
で本研究は,梶ほか(2017)および高本ほか(2003)に から,回帰直線による有意性の検討が不可能であるた
よる各指標の検討方法を参照した.客観性は,異なる め上位群と下位群とに分類し,上位群と下位群とを比
評価者が同一対象者を分析・評価した一致度から検討 較することで技術的課題を抽出した.上位群と下位群
されている.評価者の選定には,評価者の運動技能や とに分類する基準を決定する際には,オリンピックお
運動経験が評価に影響を及ぼす可能性があるため(野 よび世界選手権における十種競技入賞者の円盤投にお
田ほか,2009;大島・山田,2010),様々な属性の評価 ける投てき距離を参考にした(表 2 ).オリンピック
者によって客観性を検討する必要がある.本研におけ および世界選手権で入賞した競技者における円盤投
る評価者の属性は,十種競技を専門に行っている者 の記録は,2013 年モスクワ世界選手権 5 位の競技者
(円盤投の自己記録:36.51 m,十種競技の競技歴 7 年) (39.21 m)以外,全ての競技者が 40 m 以上の記録を有
および円盤投を専門に行っている者(円盤投の自己記 していた.したがって,十種競技者における円盤投で
録:54.56 m,円盤投の競技歴 14 年)であった.客観 40 m 以上投げることはオリンピックおよび世界選手
性は,多くの評価者によって評価し検討することが望 権などの世界レベルの試合において活躍する上で必要
ましいが,複数の先行研究(平嶋ほか,2014,2018; であるとみなし,本研究では 40 m を基準とし十種競
梶ほか,2017;松尾ほか,2017;鈴木ほか,2018;高 技者および円盤投競技者を上位群(40-50 m)と下位群
本ほか,2003)において,2 名で客観性を検討してい (30-40 m)とに分類した.
ることから,2 名であっても十分に客観性の担保が可
能であると考えられる.この 2 名の評価者が,無作為 6.統計処理
に抽出した 15 名の円盤投動作を評価し,各項目につ 客観性および信頼性を検討するためにκ係数を用い
いて評価結果の一致度を検討した.次に,信頼性は, た.一致の基準は Landis and Koch(1977)が示したカ
同一評価者が同一対象者を 1 ヶ月後に再分析・再評価 テゴリーの Fair(一致する)以上である 0.21 以上とし
する再テスト法を用い,その 2 回の評価における各項 た.また,再テスト法信頼性係数および基準関連妥当
目評価結果の一致度によって検討した.さらに,1 回 性係数には,ピアソンの積率相関係数を用いた.十種
目と 2 回目との動作についての評価の総得点(以下, 競技者および円盤投競技者における同程度の動作総得

表2 オリンピックおよび世界選手権の十種競技入賞者における円盤投の投てき距離
西暦 2017 2016 2015 2013 2012
開催地 ロンドン Ch リオ OG 北京 Ch モスクワ Ch ロンドン OG
十種競技での順位 円盤投の投てき記録(m)
1 47.14 45.49 43.34 45.00 42.53
2 51.17 46.78 44.99 46.44 48.26
3 45.06 44.93 50.17 44.13 45.75
4 42.11 43.25 44.53 45.37 48.28
5 40.67 42.25 41.53 39.21 45.90
6 48.79 42.39 40.08 45.84 49.11
7 45.39 47.07 44.58 48.74 46.72
8 44.71 49.42 45.95 44.06 47.43
観察的動作評価法を用いた十種競技者における円盤投の技術的課題の検討 35

点における投てき距離の差について検討するために, 適用した.上位群と下位群との項目を達成した人数割
十種競技者および円盤投競技者の動作総得点と投てき 合である達成率(以下,項目達成率)における比率の
距離との回帰式における切片の差を分析するために, 差は,χ2 検定を用い検討した.なお,有意性は危険
円盤の投てき距離を従属変数,十種競技者群と円盤投 率 5 %で判定した.
競技者群を要因,動作総得点を共変量とする共分散分
析を適用した.両群の両競技者間における投てき距離
Ϫ.結 果
の差の検討には,投てき距離を従属変数,十種競技者
群と円盤投競技者群の 2 水準から構成される種目要因 1.円盤投動作の評価における客観性,信頼性,妥当
および投てき距離の上位群と下位群との 2 水準から構 性の検討
成される記録要因とを要因とする二元配置分散分析を 表 3 は評価における客観性および信頼性の結果を示

表3 評価における客観性および信頼性の検討
局面 下位動作 項目 客観性 信頼性
体幹のため 0.06 −
回転準備 上半身と下半身のひねり 0.87 1.00
重心移動 0.93 1.00
準備動作
高い重心 0.66 0.84
姿勢保持 上半身の起こし 0.57 1.00
体幹の安定(軸) 0.12 −
重心の落とし込み 0.47 0.87
重心の水平移動 0.67 1.00
投てき方向への推進
腰の先行 −0.13 −
左脚の押し込み 0.73 1.00
ファーストターン 右脚の振込み 0.29 0.76
回転 左軸回転 −0.41 −
股関節の開き −0.17 −
体幹の安定(軸) 0.46 0.73
姿勢保持
左手リード 0.00 −
腰の先行 0.40 0.84
投てき方向への推進
左足の畳み込み 0.05 −
右足の方向付け 0.15 −
セカンドターン 回転 右足の回し込み 0.62 0.86
左脚の振込み 0.73 0.87
左手リード −0.06 −
姿勢保持
体幹の安定(軸) 0.82 1.00
体幹のひねり(ため) 0.70 1.00
パワーポジション 円盤の位置 0.15 −
(左足接地時姿勢) 地面に対する軸の後傾 0.93 1.00
右脚重心 0.73 1.00
腰の先行(投てき方向) 0.67 1.00
右脚の捻じり込み −0.10 −
左脚のブロック −0.10 −
投てき方向への推進
投げ 軸の安定(縦方向) 0.22 1.00
軸の起こし 0.22 1.00
左手のブロック 0.86 1.00
腰の先行(回転方向) 0.60 0.87
円盤の軌跡 0.15 −
回転 軸の安定(横方向) 0.57 1.00
左手のリード 0.73 1.00
スナップ 1.00 1.00
基準値を満たしている項目
36 コーチング学研究 第 33 巻第 1 号,31∼41.令和元年 10 月

۵ ༑✀➇ᢏ⪅㸦 㸧 ‫ڹ‬ ෇┙ᢞ➇ᢏ⪅㸦 㸧


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図2 各競技者における上位群と下位群間の項目達成率の差

したものである.客観性においては 37 項目中 24 項目 有意性の検定によって,動作総得点と投てき距離との


が客観性の有無を判定する基準であるκ係数 0.21 以上 間に有意性が認められた( t = 10.935, p<0.01).回帰
であった.信頼性の判断基準である再テスト法信頼性 式の平行性および有意性が認められたため,共分散分
係数は,全ての項目でκ係数 0.73 以上であった.ま 析によって検討した結果,両競技者の動作総得点と投
た,2 回の評価における 1 回目の動作総得点と 2 回目 てき距離との回帰式の切片に有意差が認められた( F
の動作総得点との関係を検討したところ動作総得点の = 6.994, p<0.01).
間に有意な正の相関関係が認められた(r = 0.985, 十種競技者と円盤投競技者との上位群および下位群
p<0.01).図 2 は,評価における妥当性の結果を示し の投てき記録の差を二元配置分散分析を用いて検討し
たものである.テストの基準関連妥当性係数は,十種 た結果,投てき距離に有意な交互作用は認められな
競 技 者 が r = 0.630( p<0.01),円盤投競技者が r= かった( F(1, 129)= 0.026, n.s.)
.主効果を検定した
0.737( p<0.01)であり,十種競技者および円盤投競技 結果,両競技者の上位群(44.05 ± 2.69 m)および両競
者ともに動作総得点と投てき距離との間に有意な正の 技 者 の 下 位 群(35.47 ± 2.76 m)の 間( F(1, 129)=
相関関係が認められた.κ係数を用いて評価項目の客 309.99, p<0.05)と円盤投競技者(40.35 ± 4.90 m)およ
観性および信頼性が確認され,ピアソンの積率相関係 び十種競技者(37.63 ± 4.79 m)の間( F(1, 129)= 5.31,
数によって信頼性と妥当性が確認されたことから,本 p<0.05)とに主効果が認められた.
研究では,この 24 項目を用いて分析を行った. 表 4 は,十種競技者および円盤投競技者における上
位群と下位群との各項目の達成率について示したもの
2. 十種競技者および円盤投競技者における投てき動 である.十種競技者は 6 項目,円盤投競技者は 11 項目
作の比較 において上位群が下位群よりも達成率が有意に高かっ
十種競技者と円盤投競技者との動作総得点と投てき た.セカンドターン局面の「右足の回し込み」のみ十
距離とにおける回帰式について,平行性の検定の結 種競技者および円盤投競技者に共通して差が認められ
果,十種競技者および円盤投競技者の動作総得点と投 ており,十種競技者の 5 項目と円盤投競技者の 10 項
てき距離とにおける回帰式(十種競技者:y = 1.0399x 目はそれぞれの競技者のみに差が認められた項目で
+ 25.482, 円 盤 投 競 技 者:y = 0.9643x + 24.87)に 平 あった.
行性が認められた( F = 0.159, n.s.)
.さらに,回帰の
観察的動作評価法を用いた十種競技者における円盤投の技術的課題の検討 37

表4 各競技者における上位群と下位群間の項目達成率の差
十種競技者 円盤投競技者
達成率(%) 達成率(%)
動作 下位動作 項目
上位群 下位群 χ2 値 上位群 下位群 χ2 値
n=19 n=40 n=38 n=40
上半身と下半身のひねり 94.74 80.00 2.20 97.37 83.33 4.25*
回転準備
重心移動 94.74 86.67 0.89 92.11 83.33 1.332
準備動作
高い重心 89.47 82.22 0.53 92.11 72.22 5.05*
姿勢保持
上半身の起こし 57.89 48.89 0.43 68.42 36.11 7.74*
重心の落とし込み 68.42 42.22 3.67 65.79 36.11 6.52*
投てき方向への推進 重心の水平移動 52.63 35.56 1.62 76.32 63.89 1.367
ファーストターン 左脚の押し込み 63.16 28.89 6.59* 65.79 52.78 1.298
回転 右脚の振込み 47.37 22.22 4.05* 28.95 19.44 0.907
姿勢保持 体幹の安定(軸) 42.11 35.56 0.25 60.53 50.00 0.829
腰の先行 73.68 53.33 2.29 92.11 63.89 8.69*
投てき方向への推進
右足の回し込み 52.63 22.22 5.75* 63.16 16.67 16.58*
セカンドターン
回転 左脚の振込み 36.84 33.33 0.07 78.95 69.44 0.875
姿勢保持 体幹の安定(軸) 84.21 44.44 8.58* 63.16 41.67 3.425
体幹のひねり(ため) 63.16 57.78 0.16 89.47 63.89 6.84*
パワーポジション
地面に対する軸の後傾 100.00 86.67 2.80 94.74 75.00 5.69*
(左足接地時姿勢)
右脚重心 42.11 40.00 0.03 73.68 38.89 9.12*
腰の先行(投てき方向) 57.89 44.44 0.97 50.00 30.56 2.9
軸の安定(縦方向) 57.89 37.78 2.20 42.11 27.78 1.665
投てき方向への推進
投げ 軸の起こし 31.58 11.11 3.93* 7.89 13.89 0.689
左手のブロック 57.89 28.89 4.80* 57.89 58.33 0.001
腰の先行(回転方向) 63.16 51.11 0.78 78.95 41.67 10.78*
軸の安定(横方向) 47.37 42.22 0.14 52.63 25.00 5.92*
回転
左手のリード 68.42 73.33 0.16 55.26 36.11 2.73
指先のスナップ 100.00 100.00 0.00 100.00 100.00 0
*;p<0.05

の有無を判定する基準であるκ係数 0.21 以上を満たし


ϫ.考 察
ており,13 項目はその基準を満たしていなかった.こ
本研究では,円盤投動作の分析および評価に観察的 れらの 13 項目が基準を満たさなかった原因としては,
動作評価法を用いた.観察的動作評価法の利点とし 小野ほか(2014)の円盤投動作における評価項目作成
て,動作分析する際にディジタイズなどを要するバイ 時に客観性の検討についての記述は見当たらず,小野
オメカニクス的手法と比較して短い時間で動作分析を ほか(2014)の評価項目に客観性の低い項目が含まれ
行うことが可能であること,キャリブレーションを行 ていたことが考えられる.また,客観性の基準を満た
うことなく動作分析が可能であることが挙げられる. さなかった準備動作局面の「体幹のため」および「体
そのため,ビデオカメラさえあれば,多くの幅広い競 幹の安定(軸)
」,ファーストターン局面の「腰の先
技水準の競技者の映像データを比較的容易に収集およ 行」および「左軸回転」は,体幹の動きおよび軸に関
び分析することができる.本研究では,観察的動作評 する項目である.基準を満たしている他の体幹の動き
価法を用いたことで,特に十種競技者において学生レ や軸に関する項目をみると,基準は満たしているもの
ベルから世界レベルの幅広い競技水準の競技者を対象 のκ係数が比較的低い傾向にある(表 3 ).これらのこ
にすることができた.したがって,本研究の結果は, とから,体幹の動きや軸に関する項目は合否判定が比
幅広い競技水準の競技者へ適用できると考えられる. 較的難しい項目であると考えられる.その他の項目に
観察的動作評価法で得た評価データは,客観性,信 ついては,円盤の投射角度および迎え角や身体部位間
頼性および妥当性を検討する必要がある(松浦,1983)
. の相対的な位置関係などで合否判定する項目であっ
まず,客観性については,37 項目中 24 項目が客観性 た.本研究で対象とした競技会は,それぞれ競技会場
38 コーチング学研究 第 33 巻第 1 号,31∼41.令和元年 10 月

が異なり観客席などの形状が異なっていたため,カメ 配置分散分析を用いて検討した.その結果,交互作用
ラの設置場所は一定ではなかった.すなわち,撮影す (群×種目)は認められなかったため,主効果を検定
る角度が異なることで評価者によって見え方が異なる した結果,群間および種目間ともに主効果が認められ
項目は,客観性を確保できなかったと考えられる.以 た.これは,下位群よりも上位群の投てき距離の値が
上のことから,本研究で抽出された 24 項目は,小野ほ 高く,十種競技者より円盤投競技者は投てき距離の値
か(2014)が示した項目の中でも比較的客観性が高く, が高いことを示している.しかし,交互作用が認めら
観察する条件が異なっても,十分対応できる項目で構 れないことから,十種競技者と円盤投競技者との上位
成されていると言える.次に,抽出された 24 項目の 群間および下位群間の投てき距離には差が認められな
信頼性および妥当性を検討した.まず,信頼性につい いと解釈できる.したがって,下位群と上位群との競
ては,全ての項目でκ係数 0.73 以上を示し信頼性の有 技レベルの差異は、種目に関わらず同程度であること
無を判定する基準であるκ係数 0.21 以上の基準を満た を示している.つまり,十種競技者および円盤投競技
しており,加えて 2 回の評価における 1 回目の動作総 者の上位群と下位群との間に差が認められた項目に差
得点と 2 回目の動作総得点との間に有意な正の相関関 異が認められた場合,この差異は記録の差による差異
係が認められたことから,これら 24 項目は評価の信 ではなく,専門とする競技種目による差異であると言
頼性が高い項目と言える.さらに,妥当性の検討につ える.
いては,十種競技者および円盤投競技者の動作総得点 十種競技者および円盤投競技者それぞれの上位群と
と投てき距離との間に有意な正の相関関係が認められ 下位群との円盤投動作評価項目それぞれの達成率にお
たこと,観察的動作評価法を用いて走,跳および投運 ける比率の差を,χ2 検定を用いて検討した結果,十
動の動作得点を出し,それぞれの記録と動作得点との 種競技者は 6 項目,円盤投競技者は 11 項目で差が認
関係について検討した研究(高本ほか,2003)におけ められ,セカンドターン局面の「右足の回し込み」の
る相関係数の範囲が 0.6−0.8 であり,本研究における 項目のみ十種競技者および円盤投競技者に共通して差
十種競技者の妥当性を検討した際の相関係数(r = が認められていた.ファーストターン局面の「左脚の
0.630)と同程度であったことから,本研究の評価にお 押し込み」および「右脚の振り込み」
,セカンドター
ける妥当性はある程度妥当であると判断した.次に, ン局面の「体幹の安定(軸)
」,投げ局面の「軸の起こ
十種競技者および円盤投競技者の動作総得点と投てき し」および「左手のブロック」の 5 項目は十種競技者
距離における回帰式が平行で,回帰式が有意であり, のみで差が認められ,準備動作局面の「上半身と下半
回帰式の切片に差が認められことから,十種競技者 身のひねり」,
「高い重心」および「上半身の起こし」,
は,円盤投競技者と同程度の投てき距離を投げるため ファーストターン局面の「重心の落とし込み」,セカ
には,より高い技術が必要であると考えられる.この ンドターン局面の「腰の先行」,投げ局面の「体幹の
ことから,十種競技者が円盤投競技者と同程度の投て ひねり」,
「地面に対する軸の後傾」,
「右脚重心」,「腰
き距離を投げるためには,技術の向上が不可欠である の先行(回転方向)」および「軸の安定(横方向)」の
ことが示唆された.円盤投技術については,前述した 10 項目は円盤投競技者にのみ差が認められた項目で
が十種競技者と円盤投競技者との形態および体力が異 あった.このことから,セカンドターン局面の「右足
なることが先行研究で指摘されていることから(福田 の回し込み」は十種競技者および円盤投競技者ともに
ほか,1977;吉岡ほか,2010),体力と密接に関係して 円盤を 40 m 以上投げるために習得が必要とされる項
いる技術(グロッサー・ノイマイヤー,1995;図子, 目であることが示唆された.セカンドターン局面の主
2003)においても異なる可能性がある.そのため,十 目的は,ファーストターン局面で生成した身体の角
種競技者と円盤投競技者との動作を比較することとし 運動量を投げ局面まで転移することである(Dapena,
たが,比較については,得られた知見をコーチングの 1993)
.そして,
「右足の回し込み」は回転動作に関す
現場で生かすことを考え,40 m 以上投げるための技術 る項目である.したがって,
「右足の回し込み」動作
的課題について比較することにした.技術的課題を比 が達成されることでセカンドターン局面の角運動量の
較するために,十種競技者および円盤投競技者を, 減少を最小限に抑え,投げ局面へ移行しやすいと推察
40 m を基準として上位群と下位群とに分類した.分類 される.これまでの指導書においては,下半身を先行
した後に,十種競技者および円盤投競技者と上位群お させて体幹の捻りを作り出し,左足接地時に円盤をで
よび下位群との投てき距離における交互作用を,二元 きるだけ後ろに残しておくことが重要であるとされて
観察的動作評価法を用いた十種競技者における円盤投の技術的課題の検討 39

きた(小野,1973;尾縣,1990;金子,1988;佐々木ほ 影響を受けていると考えられる.十種競技は十種目の
か,1991).
「右足の回し込み」動作がスムーズに行わ 合計得点である総合得点を競う競技であるため,一種
れることは下半身の先行を生み,体幹の捻転を生成す 目のミスを他の種目で補える反面,一種目でもファウ
ることに影響すると考えられ,それが投てき距離へ影 ルなどで記録なし( 0 点)の場合,高い総合得点は望
響する可能性も考えられる.その他の項目について, めない.そのため,十種競技者は特にファウルに対し
十種競技者のみに差が認められた 5 項目は,主に投て て敏感であると考えられ,指導書においてもファウル
き方向への推進に関する項目であった.なお,これら にならないようにすることの重要性について述べられ
5 項目は円盤投競技者では差が認められない項目で ている(関岡・尾縣,1989).競技会において,頻繁に
あった.この結果は,十種競技者と円盤投競技者とは 見受けられる円盤投のファウルの一つとして,円盤を
40 m 以上を投てきするための技術的課題に差異が認 投てきした後にサークル前方から身体が出ることが挙
められることを示しており,十種競技者に対しては, げられる.過度に身体を推進させることは,サークル
差異が認められた 5 項目に重点を置いて技術指導を行 の前方へ身体が出てしまうファウルを助長する可能性
うことでより早期に 40 m 以上を投げることができる がある.これらのことから,十種競技者の下位群は
可能性がある.技術的課題に差異が認められたことに ファウルにならないように身体の推進を制限していた
ついて,十種競技者と円盤投競技者とは形態および筋 ため,投てき方向への推進に関する動作について,上
力が異なることが報告されていることから(福田ほ 位群との間に差が認められたと考えられる.
か,1977;吉岡ほか,2010),本研究の十種競技者と円 さらに,円盤投は十種目の中で唯一競技者の周りが
盤投競技者とでも形態および筋力が異なることが考え 防護ネットで囲われている種目であるため,防護ネッ
られる.技術と体力とは密接に関係していることが多 トが競技者に圧迫感を与えていることが推察される.
くの指導書によって指摘されており(グロッサー・ノ この円盤投特有の競技環境も,十種競技者がファウ
イマイヤー,1995;図子,2003),十種競技者と円盤投 ルに対して敏感になる原因の一つになり得ると考えら
競技者との形態および筋力などの体力が異なったため れる.
技術的課題においても差異が認められたと考えられ 続いて,投てき方向への推進に関する項目である
る.以下,十種競技者の上位群と下位群との間に有意 ファーストターン局面の「左脚の押し込み」および投
差の認められた項目について考察し,十種競技者の下 げ局面の「左手ブロック」と「軸の起こし」における
位群に求められる技術的課題について検討する. 現場での指導の一例について述べる.
十種競技者は,ファーストターン局面の「左脚の押 まずファーストターン局面の「左脚の押し込み」動
し込み」および投げ局面の「左手ブロック」と「軸の 作は,砲丸投における回転投法の先行研究で示されて
起こし」のような,主に投てき方向への推進に関する いる「short sprint action」に類似している(McGill,
項目において,上位群が下位群よりも有意に達成率 2009)
.この「short sprint action」について大山(2010)
が高かった.投てき方向への推進について前田ほか は,歩行,スプリント,ジャンプなどの通常の移動運
(2017)は,ファーストターン局面の投てき方向への 動に近い動作であり,股関節の伸展や,足関節の底屈
並進速度および並進運動量と円盤のリリース時におけ を伴う母指球からつま先による蹴り離しを用いた動作
る初速度との間に有意な正の相関関係が認められたこ であると述べている.十種競技のトレーニングについ
とを報告している.このような背景とともに,本研究 て,指導書では種目間の類似性を考慮してトレーニン
の結果を見ると,ファーストターン局面において,適 グすることが推奨されている(マラ,2004)
.つまり,
度に身体を推進させることが記録の向上に関係してい 1 つのトレーニングが複数種目のトレーニングになる
ることがわかる.指導書において,円盤投は直線運動 ようにすることでより効果的にトレーニングできると
として指導するべきであると指摘されていることから いうことである.そのため,
「左足の押し込み」につ
も(ブッシュ,1979),下位群に対して投てき方向への いては,他の種目の動きと関連させながら指導するこ
推進について指導することで,記録が向上する可能性 とが可能であると考えられる.また,投げ局面の「左
があると考えられる.十種競技者において,投てき方 手ブロック」および「軸の起こし」ついて,十種競技
向への推進に関する項目に差が認められた理由として 者のみに当てはまることではないが,投げ局面はそれ
は,まず十種競技者の失敗試技(以下,ファウル)に までの局面にて並進および回転の運動速度が高められ
対する恐怖心が円盤投競技者よりも大きいことによる た状態で迎える局面である.このような局面では動作
40 コーチング学研究 第 33 巻第 1 号,31∼41.令和元年 10 月

を意識することが困難である.よって全習法での技術
ϭ.要 約
改善は難しい.したがって,投げ局面の項目について
は立ち投げ等の投げ局面のみを取り出してトレーニン 本研究は,観察的動作評価法を用いて,同程度の投
グする方法(分習法)による習得が有効であると考え てき距離を有する十種競技者と円盤投競技者との技術
られる. 的課題を比較し,技術的課題の差異について明らかに
本研究の結果から,十種競技者と円盤投競技者とで することを目的とした.対象者は,投てき距離が 30-
は円盤投における技術的課題が異なることが示唆され 50 m の範囲の十種競技者 59 名および円盤投競技者 74
た.これについては,形態および体力の差異が原因の 名であった.円盤投動作の評価を,観察的動作評価法
一つと考えられる.この形態および体力について,十 を用いて行った.観察的動作評価法を用いているため
種競技者は円盤投以外の種目に関しても,その専門種 評価データの客観性,信頼性および妥当性について検
目競技者と形態および体力において差異が認められる 討した.客観性,信頼性および妥当性が確認された
ことから(福田ほか,1977;吉岡ほか,2010),円盤投 データを用い,十種競技者および円盤投競技者の動作
以外の他の種目においても十種競技者と専門種目競技 総得点と投てき距離との回帰式における切片の差を検
者とに,その種目における技術的課題が異なることが 討した.また,各競技者を上位群と下位群に分類し,
考えられる.したがって,他の種目においても十種競 群間および種目間の投てき距離における差を検討した
技者と専門種目競技者とにおける動作の差異について 後に,上位群と下位群との項目達成率における比率の
の研究を行うことによって,今後十種競技者へより効 差を検討した.
果的な指導を行うための知見を得ることができる可能 本研究の結果は以下のようにまとめられる.
性がある. (1)先行研究によって示された 37 項目の円盤投動作
評価項目の客観性を検討した結果,24 項目が客観性
の高い項目として抽出された.また,24 項目の信頼
Ϭ.本研究の限界
性,妥当性を検討した結果,信頼性および妥当性が
本研究では,複数の評価者で同一対象者を評価する 確認された.
ことで客観性の検討をしているものの,評価者の目に (2)十種競技者および円盤投競技者における動作総得
よって定性的に動作を評価しているため,映像データ 点と投てき距離の回帰式の切片に有意な差が認めら
を通して,対象者の体格や服装などの付加的な要素が れた.
評価者の目に入り,評価に影響を及ぼす可能性がある (3)同程度の記録を有する十種競技者および円盤投競
(小野ほか,2014).この影響を減らすために,小野ほ 技者それぞれの上位群と下位群との各項目の項目達
か(2014)と同様に,映像データを通常再生,コマ送 成率に差が認められた項目は十種競技者が 6 項目,
り,スローモーション再生し,繰り返し動作の判定を 円盤投競技者は 11 項目であり,セカンドターン局
行った上に,対象者一人当たりの評価に十分に時間を 面の「右足の回し込み」の項目のみ共通して差が認
要した.しかしながら,投てき動作以外の付加的な要 められた.また,差が認められた項目は全て有意に
素による影響を 0 にすることは難しい.また,本研究 上位群が高い値であった.
のデータは 2 値データであることから,上位群と下位 (4)十種競技者において差が認められた項目は主に投
群とに分類し分析を行った.そのため,上位群と下位 てき方向への推進に関する項目であり,円盤投競技
群とを分類する基準を変更することで結果が異なるも 者では,パワーポジションおよび回転動作に関する
のになる可能性があることに留意する必要がある.さ 項目であった.
らに,本研究では客観性,信頼性,妥当性の検討に 以上の結果から,十種競技者は円盤投競技者と同程
よって 24 項目の評価項目が抽出された.しかし,こ 度の投てき距離を投げるためには,より優れた技術が
れらの項目だけでは,体幹の動きや見る位置が異なる 必要であり,40 m 以上投げるための技術的課題は,
場合でも技術の出来不出来を判定可能な熟練指導者の 十種競技者は投てき方向への推進,円盤投競技者はパ
ように,より詳細に円盤投動作の良し悪しを判別する ワーポジションと回転動作とであることが示唆され
ことは難しいことが考えられる.これらは本研究の限 た.本研究の結果,十種競技者と円盤投競技者とへの
界であると言える. 指導はそれぞれ変える必要があることが示唆された.
観察的動作評価法を用いた十種競技者における円盤投の技術的課題の検討 41

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in Athletics,24 : 45−54.
平成 30 年 7 月 20 日受付
村 木 征 人・ 室 伏 重 信・ 加 藤  昭: 大 石 三 四 郎・ 浅 田 隆 夫 編
令和元年 5 月 14 日受理

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