Vol.72, No .

2,1998〕 L−テアニ ンの ヒ トの 脳 波 に及 ぼ す 影 響153

報 文  〔Nippon Nogeikagaku Kaishi Vol.72, No.2, pp.153∼157,1998〕

Ｌ-テ ア ニ ン の ヒ ト の 脳 波 に 及 ぼ す 影 響

小 林 加 奈理,長 戸 有 希子,青 井 暢 之,L.R.ジ ュ ネ ジ ャ,金 武祚,山 本 武 彦,杉 本 助 男*

(太陽化学株式会社総合研究所,*愛 知淑徳大学)

平成9年7月18日 受理

Effects of L-Theanine on the Release of a-Brain Waves in Human Volunteers

Kanari KOBAYASHI,Yukiko NAGATO,Nobuyuki AoI, Lekh Raj JUNEJA,Mujo KIM,

Takehiko YAMAMOTO, and Sukeo SUGIMOTO*
Taiyo Kagaku Co.,Ltd, 1-3 Takara-machi, Yokkaichi,Mie 510
*Aichisyukutoku University, 9, Aza-katahira, Oaza-nagakute, Nagakute-cho,Aichi-gun,Aichi 480-11

L-Theanine is an amino acid found in green tea leaf and in its infusion, and is known to
control excitement caused by caffeine. It is also known that the oral administration of L-theanine
to rats results in a decrease of serotonin and increase of catecholamines in their brain. L-Theanine
has been confirmed to be safe in animal experiments.
We found recently that oral intake of L-theanine caused a feeling of relaxation among the
human volunteers examined. These observations led us to do experiments on the effects of
administration of L-theanine on the brain electric waves. Eight female university students were
selected as volunteers. Four of them were ranked to be Grade I (the highest anxiety) and the
remaining four, Grade V (the lowest anxiety) in an investigation done by the manifest anxiety
scale method. A dose of oral administration of 200mg of L-theanine dissolved in 100 ml of water
resulted in the generation of a-electric waves in the occipital and parietal regions of the brains of
the subjects. The emission intensity of a-brain waves (integrated as a function of investigation
times and area) was significantly greater in the group of Grade I than that of Grade V.
These results indicate the possibility for L-theanine to be applied to foods and beverages as a
new type of functional food ingredient for its relaxation effect.
(Received July 18, 1997)
Key words: L-theanine; green tea; a-brain waves; relaxation

類(カ フェ イ ンな ど),ポ リ フ ェ ノ ー ル 類(カ テ キ ン類

緒 言
な ど),糖 質,有 機 酸,脂 肪,色 素(クロロ フ ィ ル,カ

緑 茶 は,中国 か ら 日 本 に 伝 わ っ て 以 来,飲 料 と して ロチ ノ イ ド),ビ タ ミ ン類,そ して 各 種 ミネ ラ ルが含 ま

広 く親 し ま れ て い る.近 年,緑 茶 に 対 す る種 々 の 効 能 れ て い る.こ れ ら の う ち,緑 茶 の 味 に最 も深 く関 与 し

が 科 学 的 に 明 らか に さ れ る に つ れ て,日 本 だけで な く て い る 成 分 は カ テ キ ン類 と ア ミノ酸 で あ る.こ れ らの

国 際 的 に も 注 目 さ れ る素 材 と な っ た.そ の効能 の 多 く 成 分 は 茶 樹 の 種 類,そ の 栽 培 土 壌,気 候,茶 葉 の成熟

は ポ リ フ ェ ノ ー ル 類 に基 づ く もの で,現 在 ま で に抗 う 度に よ っ て 含量 が 変 化 し,少 な く と も旨 味 成 分 で あ る

蝕(1∼3),消臭(4,5),腸 内 フ ロ ー ラ の 改 善(6),大 腸 ガ ンの抑 ア ミノ 酸 は 一 番 茶,二 番 茶,三 番 茶 と後 に な る に つ れ

制(7),排 便 消 臭(8),血 中 コ レス テロー ル の 低 下(6),腎 不 減 少 す る.

全 の 改 善(9),抗 酸 化 作 用(10,11)など,多 くの 生 理 機 能 が 新 し くた て た お 茶 や,玉 露 の 旨 味 の 主 成 分 で あ るL

明 ら か に さ れ て い る. -テ ア エ ン(Fig.1)は,茶 に 含 ま れ る ア ミノ 酸 の 中 で そ

緑 茶 に は タ ンパ ク質,遊 離 ア ミノ酸,ア ル カ ロイ ド の 含 量 が 最 も多 い.Ｌ-テ ア ニ ンは 根 で 生 合 成 され,幹

(19)
 154小 林 加 奈 理、長 戸 有 希 子,青 井 暢 之,L.R.ジュ ネ ジ ャ,金 武祚,山 本 武 彦,杉 本 助 男(Nippon Nogeikagaku Kaishi

香 り 自 体 の 好 き 嫌 い が あ っ て,使 用 範 囲 が 限定 され

る.こ の た め 食 品 で は 嗜 好 に左 右 さ れ ず に リ ラ ッ ク ス

さ せ る 新 し い成 分 が 要 望 さ れ る.

昔 か ら 「お 茶 を 飲 む と ほ っ と す る」 と い わ れ て い る
が そ の 要 因 と な る物 質 に つ い て の研 究 は ほ と ん ど な さ
Fig.1 Structure of L-theanine
れ て い な か っ た.我 々 は固 定 化 酵 素 に よ るL-テ ア ニ ン
L-テ ア ニ ン の 構 造 式.
の 合 成 に 成 功 した が,こ の 利 用 開 発 の た めL-テ ア ニ ン

を通 っ て 葉 に 移 行 して 貯 え られ る が,日 光があ た る と の リラ ッ クス効 果 に つ い て生 理 心 理 学 的 検 討 を行 っ

カ テ キ ンに 転 換 さ れ る.そ の た め,玉 露 な ど高 級 茶 の た.

生 産 に は 覆 い を して,露 天 茶 葉 よ り もL-テ ア ニ ンを 多
実 験 方 法
く含 む よ う栽 培 さ れ る.

L-テ ア ニ ン は 旨 味 成 分 だ け で な く,1950年 に 酒戸 (1)材 料

に よ って 構 造 が 決 定 さ れ て 以 来(2),種 々 の 研 究 が 行 わ L-テ アニ ン と して は サ ンテ ア ニ ン(太 陽 化 学(株)製

れ て い る.木 村 らは 動 物 モ デ ル で カ フ ェ イ ンに よ る興 L-テ ア ニ ン98%以 上)を 用 い た.

奮 の 抑 制(13)を確 認 し,脳 関 門 を 通 過 す る こ とを 報 告 し ま た,サ ン テ ア ニ ン に つ い て は 急 性 毒 性 試 験・ 亜 急

て い る(14).し か し,L-テ ア ニ ン の 精 神 面 に対 す る影 響 性 毒 性 試 験・ 細 菌 を 用 い た 復 帰 突 然 変 異 試 験 で,安 全

につ い て は 調 べ られ て お らず,ヒ トの ボ ラ ン テ ィ ア実 な こ と が す で に 確 認 さ れ て い る.

験 に よ る研 究 は 現 在 ま で 報 告 され て い な い. (2)被 験 者 の選 定
私 た ち は,L-テ ア ニ ンを 緑 茶 よ り抽 出 ま た は酵 素 合 テ アニ ンの影響 を不 安程 度 の異 なる精神 状 態 で調 べ

成 に よ り 大 量 に 得 る 一 連 の 研 究 を 行 っ て き た(15,16). る た め,女 子 学 生50人 を対 象 に顕 在 性 不 安 傾 向 を検

本 報 で は,ヒ トの精 神 面 に対 す る影 響 に つ い て 検 討 査 した.顕 在 性 不 安 傾 向 を み る指 標 と して,そ れ ぞれ

を した(17,18)の
で 報 告 す る. の人 が もってい る不安 感 や その身 体的 な表 れを 自己評

脳 波 は頭 皮 上 か ら記 録 され る 電 位 の 周 波 数 の 差 異 か 定 法 に よ っ て 量 的 に と らえ て 評 価 す るMAS法(Man

ら,δ 波・ θ波 ・α波・ β 波 に 分 類 さ れ,δ 波 は 熟 睡 時, ifest Anxiety Scale(20)を 用 い た.こ れ で は65問 の質

θ波 は ま ど ろ み 状 態,α 波 は安 静 時,β 波 は興 奮 状 態 に 問 に回答 させ 精 神 や 身 体 的 な 徴 候 と して 表 出 さ れ る 不

そ れ ぞ れ 出 現 す る と い わ れ て い る(Fig.2). 安 度 を5段 階 に 分 け,1に 近 い ほ ど 不安 傾 向 が 高 い と

現 代 社 会 は 『リラ ッ ク ス 』 を 強 く求 め て お り,リ ラ した.そ して,高 不 安 域 群 に あ た る 段 階Iの4名 と低

ッ ク ス を 目 的 と した 香 料(19),音 楽,映 像 な どが市 場 に 不 安 域 群 に あ た る 段 階Ⅴ の4名 の 計8名(18∼22

出 回 って い る.し か し,リ ラ ッ ク ス を 目 的 と して 香 料 歳)を 被 験 者 に 選 定 し た.

を 用 い る場 合,香 料 で は 食000イ メ ー ジ と香 りの 相 性, (3)実 験手法
測 定 実 験 室 はFig.3に 示 す 閉 鎖 環 境 室 と記 録 室 と

に分 け,閉 鎖 環 境 室 は 室 温25℃,照 度40luxと し,

脳 波測 定 用 の 椅 子 を 設 置 した.

被 験 者 が 閉 鎖 環 境 室 に 入 室 し,脳 波 測 定 の ため の 電

極 を 装 着 した 後,暫 時 実 験 環 境 に 慣 ら し,つ い で水

(100ml)ま た は味 を 感 じな い 濃 度 の テ ア ニ ン50mg
を 含 む 水100ml,ま た は テ ア ニ ン200mgを含 水

100mlを 服用 さ せ,以 後60分 間 に わ た って 脳 波 を 記

録 し た.脳 波 は 頭 部12カ所 を左 右 の 耳 たぶ を基 準部

位 と して 単極 導 出 法 で 測 定 し,脳 波 計(NEC社 製SY-

Fig.2 Classification of brain waves NAFITlOO0)に 記 録 す る と と もに,デ ー タ レコー ダ

脳 波 の 種 類 と そ の 時 の 周 波 数 ・状 態 を 示 し た. ー(TEAC社 製XR -510)に 磁 気 記 録 した(Fig ..3).測

(20)
 Vo1.72, No.2,1998〕 レ テ ア ニ ンの ヒ トの 脳 波 に 及 ぼ す 影 響155

Fig.4-1 Typical example of brain waves topog

raphy
Fig.3 A diagram showing the position of EEG
トポ グ ラ フ ィー の 表 示 例.
electrodes settled and the equipment for
脳 波 出 現 量 は 赤 くな る ほ ど 多 く,青 くな
brain waves measurement
る ほ ど 少 な い.図 の 上 部 は 前 頭 部 側,下
電 極 を 装 着 す る 頭 部12カ 所(○ 印)と 脳 波 計 ・
部 は 後 頭 部 側 を 示 す.
デ ー タ レ コ ー ダ ー ・ コ ン ピ ュ ー タ ー の 配 置 図.

定 後,す べ て の 被 験 者 に対 して,飲 料 の 味の 匂 い ・そ
の ほ か 感 じ た こ と につ い て 内 省 記 録 を と っ た .

測 定 は 各 人 に対 して 水(100m1),次 週 に テ ア ニ ン50

mg,さ らに そ の 次 週 に テ ア ニ ン200mgの 順 で週 に
一 度 同 じ曜 日 の 同 時 刻 に 行 い
,こ れ を2回 反 復 した.

(4)解 析 方法 お よび統 計処 理

記 録 した α波 と θ波 の2帯 域 に つ い て10分 間隔ご

と に高 速 フ ー リ エ変 換(FFT)し,30.720秒 間 をEEG Fig. 4-2 Topographical changes in α-brain waves

マ ッ ピ ン グ し,研 究 用 プ ロ グ ラ ムATAMAPキ ッセ of volunteers administrated with water

(control group)
イ コ ム テ ッ ク を 用 い て 脳 波 トポ グ ラ フ ィー の 解 析 に 供
テ ア ニ ンOmg服 用 後 の10分 ご と の 脳 波 ト
した.
ポ グ ラ フ ィ ー の 典 型 例.

脳 波 トポ グ ラ フ ィ ー の 解 析 で は 後 頭 部 ・頭 頂 部 に α

波 の 出 現 が み られ た と き,リ ラ ッ ク ス パ タ ー ンが 生 じ
た と判 定 した.Fig.4-1は 脳 波 出 現 量 の 表 示 法 で あ る.

ま た,頭 頂 部2カ 所 の θ波(4∼7Hz),後 頭 部2カ

所 の α 波(α1波;8∼10Hz・ α2波;10∼13Hz)に
つ い て の パ ワ ー 値 を 帯 域 内 で 積 分 した 後,振 幅単 位

(μV unit)に 変 換 し,ス ペ ク トル ・デ ー タ と した.測 定

値 は,各 被 験 者 の 同 一 濃 度 に お け る2回 ずつ の平 均 を

測 定 開 始 後30分 ご とお よ び60分 間 の 累 積 で 表 し,
Fig.4-3 Topographical changes in a-brain waves
効 果 判 定 に 用 い,Fisherの 直 接 確 率 計 算 法 に よ り統
of volunteers administrated with theanine
計 処 理(21)を行 っ た. (200mg)

テ ア ニ ン200mg服 用 後 の10分 ご と の 脳
実 験 結 果
波 ト ポ グ ラ フ ィ ー の 典 型 例.

(1)テ ア ニ ン の 服 用 に よ る脳 波 トポ グ ラ フ ィ ー

水 ま た は テ ア ニ ン200mg含 有 水 を服 用 させ た と き Fig.4-2, Fig.4-3に 示 す.こ こ に お い て,水 服 用 で は

の 脳 波 トポ グ ラ フ ィ ー の 表 示 例 をFig.4-1に 示 す.高 測 定 を60分 間 行 っ て も α 波 の 出 現 は み られ な か っ た

不 安 域 群 の 被 験 者 に お け る トポ グ ラ フ ィ ー の 典 型 例 を (Fig.4-2)が,テ ァ ニ ン200mg含 有 水 服 用 で は後 頭

(21)
 156小 林 加 奈 理,長 戸 有 希 子,青 井 暢 之,L.R,ジ ュ ネ ジ ャ,金 武 酢,山 本 武 彦,杉 本 助 男 〔Nippon Nogeikagaku Kaishi

帯 域 パ ワ ー値 の 差 異 を 水 に対 す る比 に変換 し,Fig .6
に 示 した,低 不 安 域 群 で は50mg服 用 で1.0倍,20O

mg服 用 で1.03倍 で あ る の に 対 し,高 不 安 域群 で

は50mg・200mg服 用 で 最 大2.0倍 以 上 の α帯 域 パ ワ
ー値 の増 大 が観 測 され
,平 均 で も共 に1.2倍 以 上 のa

帯 域 パ ワ ー 値 の 増 大 が 観 測 さ れ た.水 に 対 し200mg

服 用 で は,両 不 安 域群 と も にFisherの 直接 確 率計 算

法 に よ り,確 率Pは0.065と な り6.5%の 危 険 率 で有

意 差 が あ っ た.

(4)内 省 記録
Fig.5 Brain waves observed of after oral admin
被 験 者8名 へ の 測 定 終 了 後 の 内 省 記 録 で は,テ アニ
istration of L-theanine

テ ア ニ ン 服 用 後 の 測 定1時 間 中 の 前 半30分, ン200mg服 用 に お い て 全 員 が 無 味 無 臭 と 感 じ,水

後 帯30分 の 脳 波 出 現 量 の 典 型 的 な1例. 服用.テ ア ユ ン50mg服 用 と何 ら差 異 が 感 じ られ な か

った.し か し,高 不 安 域 群 の 被 験 者 の 半 数 が 服 用 後,

部 ・頭 頂 部 に α波 の 出 現 が 認 め られ た(Fig.4-3).し 手 足 の 指 先 が 暖 か くな っ た と の 体 感 を 得 た.こ れ は,
か し,テ ア ニ ン50mg含 有 水 の 服 用 で は,200mg服 リ ラ ッ ク ス した こ と に よ り,末 端 の血 管 が 拡 が り,暖

用 に 比 べ 顕 著 な α 波 の 出 現 は 認 め ら れ な か っ た. か く感 じた も の と推 察 さ れ る.

(2)帯 域 パ ワー値 の時間 変動

考 察
服 用 後60分 間 の帯 域 パ ワ ー 値 の 時 間 変 動 をFig.5
に示 す.測 定 開 始 後30分 ご との 帯 域 成 分(α1波 ・α2 リ ラ ッ ク ス効 果 の測 定 方 法 と して は 皮 膚 電 位 反 応,

波 ・α1+α2)は 前 半30分 で はパ ワー値 は ほぼ等 しい 血 流 お よ び 脈 波,瞳 孔 反 応 お よ び フ リ ッカ ー テ ス ト,

の に 対 し,後 半30分 で は50mg服 用 で は ほ ぼ 等 しい 血圧,心 拍 数,反 応 時 間,脳 断 層 撮 像 な ど も考 え られ
が,200mg服 用 で は パ ワ ー 値 が 増 大 した.ま た,そ の るが,本 研 究 で は ボ ラ ン テ ィ ア8名 に 対 して,無 味無
と きの θ波 帯 域 成 分 は 前 半 お よ び 後 半 各30分 共 にほ 奥 で あ る水 ・テ アニ ン50mgま た は200mg服用 後
ぼ 等 し いパ ワ ー値 で あ っ た. の 脳 波 を 測 定 し た.そ の結 果,テ ア ニ ン200mg含 有

(3)不 安傾 向によ る帯域 パ ワー値 の差異 水 の 服 用 に よ り後 頭 部・ 頭 頂 部 に α波 の 出 現 が み ら

MASに よ って 群 別 した 低 不 安 域 群 と高 不 安 域 群 の れ,ま た,テ ア ニ ン50mg含 有 水 服 用 で も高 不 安 域 群

で は α帯 域 の パ ワ ー 値 の 増 大 が 観 測 さ れ た.こ のこと

に よ り,テ ア ニ ンが リ ラ ッ ク ス を も た らす こ と が 明 ら

か に な っ た.今 回,リ ラ ックス とま どろみ状 態 に関与

す る α 波,θ 波 の み に 着 目 して 解 析 した 結 果,帯 域パ

ワ ー 値 の 時 間 変 動 は θ帯 域 成 分 で は ほ と ん ど 変 動 が

み られ ず,α 帯 域 の み 変 動 す る こ とが わ か っ た ,本 研

究 で 服 用 した テ ア ニ ン量 は 煎 茶 を 約10杯 ま た は,約

40杯 に相 当 す る.し か し,緑 茶 に は カ フ ェ イ ンが 含 ま

れ て い る た め,テ ア ニ ンの 効 果 は著 し く相 殺 さ れ て い

る.

現 在 ま で に,テ ア ニ ンを 服 用 す る と,小 腸 で吸収 さ

Fig.6 Effect of L-theanine on intensity of a-waves
れ て 腸 管 に 入 り(22),血中 に 入 って,脳 関 門(L系)を 経
in brains of volunteers different in the
由 して 脳 に 入 る こ と が 確 認 さ れ て い る(23).そ の 際,脳
degree of anxiety level(n=8)
テ ア ニ ンOmg(水)服 用 時 の 帯 域 パ ワ ー 値 を 内 神 経 伝 達 物 質 で あ る セ ロ トニ ン の 減 少 と カ テ コ ー ル
1と し た と き の 異 な る 不 安 傾 向 群 へ の 影 響. ア ミン の増 加 を もた ら し(24),か つ 眠 気 を 減 少 さ せ る こ

(22)
 Vo1.72, No. 2,1998]  L-テ ア ニ ンの ヒ トの 脳 波 に 及 ぼ す 影 響157

と も知 られ て い る.こ れ らの こ と は,テ ア ニ ンの 服 用
(1) S.Sakanaka, M. Kim, M.Taniguchi, and T. Yama
は う と う と と し た ま ど ろ み 状 態 で は な く,安 静 時 の リ motor: Agric. Biol. Chem.,53,2307-2311(1989).

ラ ッ ク ス 状 態 に な る こ と と符 号 す る.ま た,脳 波測 定 (2) S.Sakanaka, T. Sato, M.Kim, and T. Yamamoto:

Agric. Biol. Chem., 54,2925-2929(1990).

40分 以降 でパ ワー値 が 増 大 した こ とは前 述 の ラ ッ ト
(3) S.Sakanaka, N. Shimura, M. Aizawa, M. Kim,
の 試 験(14)で約30分 後 に テ ア ニ ンが 脳 に 到 達 す る こ と
and T. Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem.,

か ら推 定 され る よ う に 約30分 ほ ど で α 波 が 励 起 され 56,592-594(1992).

る と考 え られ る.ま た,2時 間 後 に も テ ア ニ ンが 脳 内 (4)相 沢 正 巳,中 村 い ず み:食 品 と 開 発,27,43-45

(1992).
に 検 出 され だ(23)にと よ り,脳 波 測 定 は 服 用 後1時 間で
(5)青 井 暢 之,大 久 保 勉,津 田 憲:月 刊 フ ー ドケ ミ
終 了 した が,少 な く と も2時 間 は リラ ックス効果 が持 カ ル,ll,89-96(1995),

続 す る と考 え られ る. (6)津 田 憲: JAFAN,14,259-265(1995).

(7) T.Yamane, N. Hagiwara, M. Tateishi, S. Akachi,

今 回 の 研 究 に よ り,味 を 感 じ させ な い 量 の テ ア ニ ン
M.Kim, J. Okuzumi, Y. Kitao, M. Inagake, K.
の 服 用 は α波 の 出 現 を もた ら し,リ ラ ク ゼ ー ショ ン作
Kuwata, and T. Takahashi:Jpn. J. Cancer. Res.,

用 が あ る こ と を 明 らか に した.今 後 は テ アニ ン含 有 食 82,1336-1339(1991).

(8)大 久 保 勉,二 宮 学,青 井 暢 之:フ レ ッ シ ュ フ ー

品 を作 製 し,食 品 へ 応 用 した 場 合 に つ い て の 効 果 を 検
ド シ ス テ ム,25,22-29(1996).
討 す る つ も り で あ る.
(9) T.Yokozawa, H. Oura, S. Sakanaka, and M. Kim:

Biosci. Biotechnol. Biochem.,56,896-899(1992).

要 約
(10)纐 纈 守,佐 藤 祐 一:月 刊 フ ー ド ケ ミ カ ル,5.54-

60(1990).
L-テ ア ニ ン は緑 茶 の 葉 中 お よ び 抽 出 液 中 に 含 ま れ て
(11)津 田 憲:月 刊 フ ード ケ ミ カ ル,3,32-37(1995).
い る ア ミノ 酸 の 一 種 で,カ フ ェ イ ンに よ る興 奮 を 抑 制
(12)酒 戸弥 二郎: 農化, 23,262-267(1950).

す る こ と が 知 られ て い る.ま た,ラ ッ トへ のL-テ ア ニ (13) R.Kimura and T. Murata: Chem. Pharm. Bull.,19,

ンの経 口投 与 に よ り,脳 内 の セロ トニ ンが 減 少 し,カ 1257-1261(1971).

(14)本 村 良 平,栗 田,村田 敏郎:薬 誌,95, 892-895

テ コ ー ル ア ミンの 増 加 ず るこ と が 知 ら れ て い る.L-
(1975).
テア ニ ン は動 物 実 験 で 安 全 な こ と が す で に 確 認 され て い (15) Varuzhan H. Abelian, T. Okubo, K. Mutoh,

る. Djong-chi Chu, M. Kim, and T. Yamamoto: J.

Ferment. Bioeng.,76, 195-198(1993).

筆 者 らは L-テ ア ニ ン服 用 に よ る脳 波 へ の 影 響 に つ
(16) Varuzhan H. Abelian, T. Okubo, Mark M. Sham
い て検 討 した 結 果,リ ラ ッ ク ス を もた らすこ と を 確 認 tsian, K. Mutoh, Djong-chi Chu, M. Kim, and T.

した.L-テ ア ニ ンの 影 響 を 不 安 程 度 の 異 な る 精 神 状 態 Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem.,57,481-

483(1993).
で 調 べ る た め,MAS法 に従 っ て 段 階1(高 不 安 域 群)
(17)伊 藤 加 奈 理,大 久 保 勉,朱 政 治,武 藤 孝 次,金
の4名 と毅 階V(低 不 安 域 群)の4名 の 計8名 の 女子
武 詐,杉 本 助 男,山 本 武 彦:1995年 度日 本 農 芸 化 学

学 生 を 被 験 者 に 選 定 した. 会 講 演 要 旨 集,p.344(1995).

そ の 結 果,L-テ ア ニ ン200mgを 含 む 水100ml服 (18)伊 藤 加 奈 理,青 井 暢 之,杉 本 助 男:生 理 心 理 学 と 精

神 生 理 学,14,103(1996).
用に よ っ て 後 頭 部 ・頭 頂 部 にa波 の 出 現 が 認 め られ
(19)滝 口 俊 男:月 刊 フ ー ド ケ ミ カ ル,12,78-84(1994).
た.α 波 出 現 は 服 用 後40分 後 に観 測 され,少 な く と も (20)J.A. Taylor: Manifest Anxiety Scale(1953).

2時 間 は 持 続 す る と考 え ら れ る.α 波 の 出 現 に よ る リ (21)市 原 清 志:バ イ オ サ イ エ ン ス の 統 計 学,1990,pp.

126-127.
ラ ッ ク ス 作 用 は,段 階Vの 低 不 安 域 群 よ り段 階1の 高
(22) S.Kitaoka, H. Hayashi, H. Yokogoshi, and Y.
不 安 域 群 の 方 が 優 れ て い た.L-テ ア ニ ン服 用 後,被 験
Suzuki: Biosci, Biotechnol. Biochem.,60,1768-

者 は眠 気 を 感 じず,十 分 な リ ラ ッ ク ス を 感 じた.ま た, 1771(1996).

指 先 が 暖 か くな っ た と の 体 感 を感 じた 被 験 者 も い た. (23)斉 藤 琴 美,伊 藤 加 奈 理,金 武祚,横 越 英 彦:1996

年 度日 本 農 芸 化 学 会 講 演 要 旨 集,p,206(1996).
今 回 の 研 究 に よ り,L-テ ア ニ ン は新 しい タ イ プ の 添
(24) H.Yokogoshi, Y. kato, Yoko Sagesaka, T.
加 物 と して 食 品 や 飲 料 に 応 用 さ れ る可 能 性 が 示 唆 され Takihara-Matsuura, T. Kakuda, and N. Take

た.今 後 は さ ま ざ ま なL-テ ア ニ ン含 有 食 品 に つ い て の uchi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 59,615-618

(1995).
効 果 を 検 討 す る つ も り で あ る.

(23)