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NII-Electronic Library Service

『宗教研究』89巻別冊(2016年)

︻考察︼
  以上の事から、発表者の基本的な﹁現代﹂の括りは、一九七
  ひとは、実物の、木像の、微笑む円空仏を鑑賞することによ 〇 年 代 の 高 度 経 済 成 長 期 以 降 を 指 す も の の、 本 発 表 に 於 い て
って、祈りを込め彫った僧円空とその仏像に思いをはせ、四百 は、携帯電話に表出した怪異の在り方を﹃着信アリ﹄シリーズ
年の時を行き来する。その間、人々の苦しみに寄り添い続ける を題材として考察する為、二〇〇〇年前後を現代と表するもの
ひとの存在に思い至り、それが癒しにつながり、さらに自分を とする。
見 つ め 直 す こ と に つ な が る。 そ の た め に は、 会 場 の 照 明 や 配
  また、題材選出の理由については、発表者自身が、現代を象
置、静かさなどの舞台装置も欠かせない。仲間や家族、次世代 徴するものの一つは携帯電話で在ると考えて居る事が挙げられ
に伝えることで、心洗われる経験が完結することが示唆され、 る。其れは、二〇〇〇年代に飛躍的に進歩し、同時に現代の個
仏像拝観などの宗教的資源の活用が被災者の心の癒しに有用で 人との関わりが非常に近いツールで在ると考えられる為で在
あることの可能性をみた。 る。其の中で、携帯電話を怪異の表出場所として描く﹃着信ア
︵謝辞 京都大学大学院研修員の宮本圭子さんにアンケート分 リ﹄は、題材として適して居ると考える。更に、メディアミッ
析の協力いただきました︶ クス展開を積極的に行って居る事から、原作を読んで居なくと
も、﹁携帯電話に怪異が起こる﹂と云う情報は、広く共有され
Japanese Association for Religious Studies

現代に於ける怪異の表象について て居るのでは無いかと予想した為で在る。
古山
  美佳   更に、丁度同時期で在る二〇〇〇年代には、様々な都市伝説
  本 発 表 の 目 的 は、 現 代 に 於 い て 怪 異 が ど の 様 な 形 で 表 現 さ や怖い話の本が発売され、其の書籍の多くに携帯電話に纏わる
れ、また人々に提供されて居るのか、そして其れが現代社会と 怪談も内包されて居た。
どの様に関わって居るのかを考察する事に在る。
  本発表で携帯電話に着目したのは、髙岡弘幸や鈴木潤等が、
  抑々発表者は、現代と云う時代に於いて、日本人の宗教的な ﹃ リ ン グ ﹄ や﹃ 邪 願 霊 ﹄ を 題 材 に、﹁ メ デ ィ ア 系 ﹂ の 怪 異 と し
感情の発露が如何にして表象されるのか、其の一端を摑みたい て、ビデオテープに怪異の表象を見た研究は在るものの、携帯
と考えて居る。現在では其の中でも、怪異の表象と其れに纏わ 電話と怪異に関する研究は、余り着手されて居ないようで在る
る人々の在り方を、怪談やホラーと云ったものを題材として考 点が挙げられる。
察を進めて居る最中で在る。教団宗教や原始的な自然への畏れ
  携帯電話は、武田徹が﹁持ち運び可能な個室電話﹂と称した

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第9部会
とは異なる、世俗の中に現れ、また変化して来た様子・変化し よ う に、 よ り 個 人 的 で よ り 密 接 な メ デ ィ ア で 在 る と 云 え る。
て行く様子を見る事から、其の目標へ向かいたいと考えて居る。 ﹃着信アリ﹄本文中でも女子大生が左記の様に述べて居る。
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  気づくと、携帯電話を手にしてしまうのは、自分たちの 信仰者の語る被災地の霊的体験
第9部会

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世代の習癖だと思う。 ││ 東京近辺の仏教者の事例から ││
  一人暮らしのこの部屋に、電話は引いていない。 小川
  有閑
  里奈と世間を繋いでいるのは、この小さなツールだけだ   本発表は東京近郊の信仰者の東北被災地における霊的体験に
った。 関する見解についてのインタビュー調査にもとづく発表であ
  現代は、一人暮らしで固定電話を引いて居ない一方、携帯電 る。なお、本調査は堀江宗正との共同調査であり、堀江が既成
話は、電話やメールと云った基本的な連絡ツールとして使用さ 仏 教 以 外 の 信 仰 者 に つ い て、 発 表 者 が 既 成 仏 教 の 僧 侶 に つ い
れる以外にも、時計やアラーム、スケジュール帳、様々な店の て、それぞれ分担して報告をおこなう。調査対象者は、支援活
メンバーズ登録等、一個人のプライベートな情報が多く保存さ 動の経験が複数あることが望ましい、本人・家族・親族が被災
れて居る機器でも在る。 者ではない、被災地での霊的体験について聞いたこと、体験し
  併せて、固定電話に比べて遙かに個人との関わりが深く、自 たことがあり、話すことを了解している、教団名、個人名は出
己証明の手段の一つで在るとも云えるだろう。 さないという条件で、比較的自由に個人的見解を話していただ
  現代に於ける怪異の表象は、怪談やホラーと云った作品群や ける、インタビューの内容について教団からの介入を受けない
Japanese Association for Religious Studies

噂話を通して、世間に浸透して居るものと考えられる。其処で、 形で話が聞ける、という条件を満たす者を、縁故法により募る
特に人々の関心をそそるものが、携帯電話を始めとした身近な こととなった。協力を得られた仏教者は五名であった。
電子機器︵カーナビ等︶に、死者が現れる事だと考察される。
  質問項目は、活動内容、活動歴︵現地との関わりの深さ︶、
様々な都市伝説や﹃リング﹄﹃着信アリ﹄に共通して云えるの 被災地での霊的体験︵伝聞、体験者と面識あり、自分自身の実
『宗教研究』89巻別冊(2016年)

は、死者或いは霊が電波等の媒体を通じて電子機器に宿り、其 体験︶、震災についての宗教的な意味づけ、被災地の宗教者・
の持ち主を無差別に死に至らしめると云う点で在る。 信徒についての印象、震災による信仰・死生観の変化、霊、霊
詰まり、現代に於ける怪異は、目に見えない電波に近いもの 魂についての見解、所属する教団での死生観・霊魂観、霊的体

と考えられ、其の表出に際し電子機器に宿るものと考えられて 験への対応の仕方である。
居るのでは無いかと云う仮説が立つ。勿論、総ての怪異の表象
  二名の僧侶が、実際に霊的体験の相談・読経の依頼を受け、
がそうで在ると云うのでは無く、現代の﹁メディア系﹂怪異の 法 要 を つ と め た 経 験 が あ っ た。 両 者 に 共 通 す る 対 象 者 と の 関
表象の根本に在るのが、其の思想なのでは無いかと仮定し、今 わり方は、﹁特定の地区に限定して訪問を重ねる﹂+﹁地元の僧
後も考察を続けて行く。 侶・寺院を介さずに直接交流する﹂というものであった。霊的

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