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ショートレター 日本教育工学会論文誌 44(Suppl.

),61-64,2020

ゲームの虚構空間における L2相互行為:自作カードを用いた事例†

三野宮春子*1
東京大学大学院教育学研究科*1

本研究は,英語学習における相互行為の活発化に貢献する方法を模索する一つの試みとして,
現実の日常生活を話題とする談話と,カードゲーム What a day!!を使用して虚構の一日を物語る
談話の比較検討を行った.大学生ペアの事例を分析した結果,現実の出来事を話す際は事実陳述
が最小限で,それに続く質問と応答も表面的で発展しないまま相互行為が終結した.対照的に,
ゲームの虚構空間では,参加者どうしの意味交渉の過程で出来事の詳細が立ち現れた.また,虚
構では互いの社会的体面を気にせず率直な見解をぶつけ合うことが容易になる場面が見られた.
キーワード:虚構,L2相互行為,談話分析,自作カードゲーム

アの談話を分析し,「働きかけ‐応答‐評価(IRE)」
1. は じ め に
(MEHAN 1979)に代表される教授場面特有の非真正か
教育的意図に基づく娯楽性の高いゲームの開発・利 つ予定調和的な談話パタンや,L2熟達者と非熟達者の
用は,コンピュータの普及とともに教科教育への導入 非対称性が克服され,参加者が相互に意味交渉をする
も進み,1990年代にエデュテインメント(edutainment) 発展的な対話が実現されるか否か,現実と虚構を比較
という呼称も定着した(藤本 2017, pp. 2-4).ゲーム 検討することである.本研究は,結果の一般化ではな
は現実の自己と隔絶があり,安全に試行錯誤できる環 く,事例から示唆を得ることを目指している.
境を提供しやすいことが指摘されている(ibid., p. 10).
2. 方 法
一方,今日の第二言語(L2)教育では,概して娯楽
性と有用性が対置され,現実の情報を正確かつ効率的 2.1. 英語カードゲーム What a day!!
に伝達するスキルが重視される反面,虚構や遊びの中 What a day!!は,創造的ストーリーテリング活動のた
の学びは軽視される傾向にある(COOK 2000).コーパ めのゲームである.参加者は,カードの偶然の組み合
ス開発が進み,現実の使用言語の特徴が解明されるに わせに基づき,非常識的な時刻に奇妙な行動をする架
つれ,L2学習の「リアリズム」(BUENDGENS-KOSTEN 空の一日の出来事を,
「時刻+行動+補足説明」を基本
2014)は更に加速している.これに対し,L2習得研究 パタンとして即興で物語る.カードのせいで大抵は脈
を牽引する R. ELLIS は,日常生活を直接的に反映しな 絡のない行動の連続になる.無理に辻褄を合わせ尤も
い タ ス ク で も 「 相 互 行 為 の 真 正 性 ( authenticity of らしい説明を試みるのが,本ゲームの核心である.
interaction)」を刺激し得ると警鐘を鳴らす(ELLIS 2003). 制作したゲームの内容は,英語表現とイラストを配
L2教育への虚構の影響は,検証が待たれる課題である. したカード4種類(時刻,生活,場所,奇行)が各13
筆者は,虚構の積極活用に興味を抱き,即興ストー 枚(計52枚)である(表1を参照).プレイ方法や参加
リーテリングのためのカードゲーム What a day!! を 人数は,さまざまにアレンジ可能であるが,本事例で
開発した.本研究の目的は,これを使用した大学生ペ は時刻と生活のカードを使い,次の手順で行った.
(1) 時刻カードを4枚引いて,左から時系列に並べる.
2020年3月28日受理 (2) 生活カードを1枚引き,一番左の時刻カードに並

Haruko SANNOMIYA*1 : L2 Interaction in the べて置く.英語で「昨日(時刻カードの時刻)に(生
Fictional Space of a Game: A Case with Original
活カードの行動)をした.(追加の一言)」と表現す
Cards
*1
University of Tokyo, Graduate School of Education る.聞き手は,質問やコメントをする.
7-3-1 Hongo, Bunkyo, Tokyo, 113-0033 Japan (3) 上記(2)の要領で,残り3つの時刻と行動を説明

Vol. 44,Suppl.(2020) 61
する.各行動を関連づけ,筋の通った物語にする. [逐語記録1](斜体はカードに決定される陳述部分)
2.2. データの収集と分析 01 Facilitator: Aya, take one [daily routine] card, and put
2019年7月30日,アヤとヒロ(両者仮名)に約90分 that under your first [time] card. Okay. And make a
間ゲームをしてもらい,許可を得てビデオカメラで撮 sentence saying, I finished lunch at five five or five
影した.活動内容と所要時間(カードの配布・回収に past five yesterday. Okay, say it.
要した時間は除く)は,表2のとおりである.予め手 02 Aya: I finished lunch at five five.
順や条件を厳密に制御した実験状況ではなく,参加者 03 F: Yesterday. (04 A: Yesterday.)
の関心と自然な成り行きに任せてプレイしてもらった. 05 F: Okay. And add one more sentence to explain any-
ファシリテーションは筆者が務めた.参加者二人は筆 thing about what you did yesterday. It’s really
者の授業で互いに面識はあったが,気兼ねなく何でも strange isn’t it? It’s too early to finish lunch, so we
言い合えるほど親しい間柄ではなかった.収集したビ are curious about what happened.
デオ映像から逐語記録を作成する際は,作成者と点検 06 A: I, I finished lunch at five five because I, I study hard
者を変えてデータの信頼性を高めた. and uh, um, I forget my, f, f, feel hungry so I ate
本研究の分析単位はカード一組あたりの談話とした. lunch this time.
二人で5ゲーム中に虚構の談話を計40,事前事後には 07 F: Oh, so you studied all night? (08 A: Yes.)
現実生活についての談話を計6,生産した.各談話の 09 F: Wow, hard work.
基本形は,語り手による「時刻+行動+補足説明」の
陳述,それに対する聞き手(筆者も含む)の質問,語 表1 カード内容の例
り手の応答になると想定された.事前事後の会話では, 種類 内容(例)
「昨日何をしたか」のような質問への答が陳述に相当 時刻 1:45 a.m. / 4: 30 a.m. (時計の文字盤)
生活 eat breakfast / walk to school
した.本稿で分析すべき談話の選定にあたっては,本
場所 behind the police station / in the toilet
研究の主題である現実と虚構の比較に焦点が当たるよ 奇行 explore the world of cheese / apologize to
う,はじめにアヤが陳述部分を担当した談話に絞り, spinach
そこから話題が類似する談話を抽出した
(勉強・食事).
2.3. ファシリテータによる指示 表2 収集したビデオ映像
ゲーム初回は,筆者がプレイ方法を指示・説明しな 活動内容(使用カード) 所要時間
1 事前の会話―前日と週末の出来事 01’26’’
がら進行した.逐語記録1は,時刻カードを4枚並べ
2 ゲーム① 時刻 × 生活 11’03’’
終えた直後からの談話である.
「午前5時5分」と「昼 3 ゲーム② 時刻 × 生活 12’13’’
食を終える」が,アヤの最初の題材となった(01). 4 ゲーム③ 時刻 × 生活 12’59’’
筆者は,手本として「昨日5時5分に昼食を終えた」 5 ゲーム④ 時刻 × 奇行 17’52’’
6 ゲーム⑤ 場所 × 奇行 18’52’’
という英文を作り,アヤに復唱させた(01-04)
.そし
7 事後の会話―当日午後の予定 04’20’’
て,聞き手は「昼食にしては早すぎる」と思うはずな
ので説明を一文加えてほしいと指示した
(05).
アヤは,
表3 ゲーム③におけるアヤのカード組み合わせ
不完全な英語ではあるが,
「勉強に集中しすぎて昼食を
忘れていたが,この時刻になって空腹を感じた」と躊 1組目 2組目 3組目 4組目

躇なく説明し始めた(06)
.虚構の出来事を語り出すタ
スクが,抵抗なく受け入れられている. 時
この陳述に対して筆者は「
(昼から翌朝まで)一晩中 刻
勉強していたのですか」と質問し(07)
,アヤが肯定す
ると(08)
,「熱心ですね」とコメントした(09).これ
以降の談話ではヒロやアヤも相手の陳述に質問やコメ 生
ントをするが,陳述の「時刻+行動」部分以外につい 活
て筆者が内容や言語構造を指示することはなかった.

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人が来たとしても,夕食には早すぎないか」と自発的
3. 結 果
に質問した(02-06).アヤは辻褄を合わせるために,
3.1. 事前の会話 「友人は1時間後に仕事があったので」と理由も創作
ゲーム開始に先立ち,二人の前日の出来事について した(07).これに対しヒロは,信じられないというよ
簡単な会話を行った(逐語記録2)
.アヤは「英語を勉 うに事実確認の質問を続けたすえ(08-16),隙間時間
強した」と述べ(02)
,筆者に促されると(05)「寿司 を縫ってまで集うとは「パーティ人間なんだね」と結
を食べた」と付け加えた.しかし,さらに他の出来事 び(18),アヤも合意した(19).
「特別な夕食」は,質
を思い出そうとすると,4秒の長い間が生じた(06). 問‐応答の過程を通して,奔放な行動特性を象徴する
聞き手のヒロは,
寿司の味や種類を質問したが
(08), 行為へと発展的に意味づけられていったのである.
アヤの応答は
「美味しかった」と最小限に留まり
(09), [逐語記録3]
ヒロはそれ以上会話を発展させられなかった(10).筆 01 A: I enjoyed special dinner at three ten p.m. Uh, umm,
者も,特別な(お祝いなど)食事か尋ねてみたが(11), because my friend, uh, come, came to my house and
通常の食事だったようで(12),結局この話題はすぐ手 held, held party for me.
詰まりになった.この話題を引き延ばしたければ,ア 02 H: So your friend cooked your dinner? (03 A: Yes.)
ヤは例えば I ate tuna, shrimp, squid, egg... と寿司ネタ 04 H: Ok At three ten p.m.? (05 A: Yes.)
を羅列したり,My favorite sushi is... と好みを言ったり 06 H: Okay, it’s, it’s a little bit, little bit early for dinner,
できただろう.しかし,彼女はそうしなかった.もと you think so?
もと筆者が「他には?」と聞いたから「寿司を食べた」 07 A: Yeah, I think so, but my friend ha, have a job and
と答えただけで,努力して膨らませたいと感じる話題 they, they, they work at, uh, after, after 1 hour.
ではなかったのだろう.
また,聞き手のヒロと筆者も, 08 H: Really? (09 A: Yes, so...)
表面的な質問に終始している.食事や家族という個人 10 H: After one hour later? (11 A: Yes.)
的話題に深入りしにくいことも一因であると思われる. 12 H: Your friend needed to go job? (13 A: Yes.)
[逐語記録2] 14 H: But your friend held a party? (15 A: Yes.)
01 F: Aya, what did you do yesterday? 16 H: Really? (17 A: Very bu, busy.)
02 A: I study English. 18 H: Your friend must be party people.
03 F: You studied English? (04 A: Yes.) 19 A: I think so too.
05 F: Okay, what else? 20 H: Did you have um, did you have a fun?
06 A: What else. I ate sushi. And, and... (4.0) 21 A: Hm-hmm.
07 F: That’s it? Do you have any question or comment? アヤは次の3組目で「夕食を食べたら眠くなって寝
08 Hiro: Ah, how was sushi? What did you eat? た」と説明を付加して,
「12時に起床した」ことの辻褄
09 A: It’s very good. It was very good. を合わせた(Uh, I, I got up at twelve because I enjoyed
10 H: Was very good. Okay. special dinner at that, I feel, I felt sleepy so I go, I went
11 F: Was that any special occasion? to bed and I, I got up.).そして,4組目(逐語記録4)
12 A: Umm, in, in my house. I ate in my house, and, I ate では,
「午前1時45分に遊んだ」のは「仕事を終えた友
with my, with my parents. 人が再び家に来てパーティの続きをした」ためだと説
3.2. ゲーム③ 時刻カード × 生活カード 明した(01).両者とも2組目の「特別な夕食」と関連
3回目になると,二人ともゲームに慣れ,進行も自 づけられ,物語の一貫性が達成されている.
分たちで行っていた.アヤのカードの組み合わせは, 真夜中のパーティについて,ヒロが「誰か(近隣住
表3のようになった.前項と比較しやすいよう,食事 民)怒っていないか」と質問すると(02)
,アヤは「怒
の話題となった2組目と,それに関連した内容になっ っているかもしれない」が(03)
「いつものこと」だ(08)
た4組目の談話を分析する(逐語記録3および4)
. と応答した.そしてヒロが「近隣住民の怒りは気にし
アヤは,
「午後3時10分に特別な夕食を楽しんだ」と ないのか」と糾弾すると(09),
「私たちはパーティ人
述べ,
「友人が家に来て,私のためにパーティを開いて 間」と開き直った(10).最後にヒロは「私なら近くに
くれたので」と説明を加えた(01).すると,ヒロは「友 住みたくない」と批難し(11)
,筆者も追随した(12).

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虚構空間で忌憚なく意見衝突を楽しむ様子が見られる.
4. 結 論
[逐語記録4]
01 A: Okay. Uh, I played one forty-five a.m. uh, mm, uh, 現実の日常生活について話す事前事後の会話は,最
because uh, my friend when, when he held party for 小限の説明と当たり障りない質問やコメントから成り,
me, he, and they, um, they finished work uh, and 活発な意味交渉は見られなかった.聞き手のみならず
they, they came my home again, uh, so, so they held 話し手自身にとっても,さして興味ある話題が無かっ
the party again. たと推測できる.誰もが日々新規性や意外性に富む出
02 H: Well, okay, let me check, no one, no one got mad 来事に遭遇しているわけではなく,身近な出来事を話
about playing the, I mean about held, holding, し合う活動は取り組みにくい場合があるということを
holding a party at midnight. No one angry? 示唆している.また,現実の問題を扱うときは,どこ
03 A: Yeah, maybe angry bu, but uh. まで個人的事情に踏み込んで聞いたり言ったりすべき
04 H: Maybe angry okay. か気を遣い,話題を深めにくいことも考えられる.
05 F: But? (06 A: But, uh, it is, uh, always.) 対照的に,What a day!! ではカードの偶然の組み合
07 H: It’s always? (08 A: Always uh, hap, happen.) わせにより,常識的な生活とはかけ離れた出来事が即
09 H: Really? So you don’t care about neighbors getting 興で語り出された.また,聞き手は質問やコメントを
mad? Okay. 通して,結果的に物語の材料を更に提供していた.物
10 A: I think, I think, I think we, we are party people. 語の「私」は現実の自己ではないので,自堕落で無責
11 H: Okay, so I guess, yeah, I really don’t want to live 任な行動でも赤裸々に語ることができるし,聞き手も
your uh, yeah, near, near your house. 無遠慮な質問やコメントをぶつけて,共に楽しむこと
12 F: Me, neither. ができたのである.この虚構という協創空間で,参加
3.2. 事後の会話 者の誰かが話すごとに物語の意味が生成変化する談話
逐語記録5は,アヤ本人の当日午後の予定に関して は,熟達者が制御する非対称で予定調和的な IRE の対
の,ゲーム終了後の会話である.アヤは一時間後に試 極にあったと考えられる.本研究は,限定的ではある
験があると話した
(02).ヒロが試験科目を訊くと
(08), が,虚構を重視したゲームが言語的相互行為の真正性
「児童文化」と必要最低限の応答をした(09)
.さらに に貢献し得る可能性を示唆すると言えるであろう.
ヒロが「しっかり勉強したか」と質問すると(10),ア
謝 辞
ヤは「たぶん」と幾分歯切れが悪い(11).二人は同じ
学科に所属しているので,ヒロが担当教員は「X 先生」 ヒロとアヤ,ゲーム開発協力者,
査読者と編集委員,
だろうと言い当てて(12),会話が終了する.同じ勉強 東京大学藤江研究室メンバーに感謝を述べる.本研究
の話題でも,アヤの発話は前出の「勉強に集中しすぎ とゲーム制作には JSPS 科研費19K20793の助成を得た.
て昼食を忘れた」(2.3)という発話より単純で流れが
参 考 文 献
ない.質問者であるヒロも,一つの話題を掘り下げる
ことなく次の話題に移っているので,まるで一問一答 BUENDGENS-KOSTEN, J. (2014). Authenticity. ELT Journal,
のような談話で,発展性に乏しい. 68(4):457-459
[逐語記録5] COOK, G. (2000) Language Play, Language Learning. Oxford
01 F: Aya, what are you going to do this afternoon? University Press, Oxford UK
02 A: Uh after 1 hour, I, I have exam, test, I have test. ELLIS, R. (2003) Task-based Language Learning and
03 F: Oh, you are going to take a test? Teaching. Oxford University Press, Oxford UK
04 A: Yes, take a test. (05 F: Okay.) 藤本徹(2017) 教育工学分野におけるゲーム研究.藤本
06 H: Today? (07 A: Today.) 徹・森田雄介(編)ゲームと教育・学習.ミネルヴ
08 H: Which subject? (09 A: Uh, child culture.) ァ書房,京都,pp.1-15
10 H: Did you study hard? MEHAN, H. (1979) Learning Lessons. Harvard University
11 A: May, maybe, yeah, yeah, about Peter Rabbit. Press, Cambridge MA
12 H: Okay, so the, the teacher should be X sensei. (Received March 28, 2020)

64 日本教育工学会論文誌( Jpn.J.Educ.Technol.)

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