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札幌医科大学 総合診療医学講座 ジャーナルクラブ

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【批判的評価のテンプレート案 Ver.2 2021 年 1 月・図表入れたプレゼン版】
<自分用メモ>
選択理由  :最近出た RCT の中で、読んだことのないタイプ(予防接種)の論文を選択。
さらに、それを読みすすめる中で類似した先行研究の方を扱うことにした。
検索方法:ACP-ジャーナルクラブの最近のトピックスをななめ読みして4つの RCT を選択。
その中から、SIRS-CoV2 ワクチンについて最近出た RCT(モデルナ製)を選択し、本文・Editorial・関連
するエキスパートオピニオンを熟読。その上で、同様のワクチンのうち最初の RCT で、かつ先日
自分自身が接種を受けた昨年末の RCT(ファイザー/ビオンテック製)にした 

関連する CQ:健康な日本人医療従事者に対して、コロナワクチン接種者とプラセボ接種者とで比較して、
       COVID-19 発症率や重症化・死亡は抑制されるか、副反応の発現頻度・種類は増えるか

研究者・業界の背景:
 過去の SARS・MERS の流行で、コロナウィルスに対するワクチン開発は注目されていた。
 また、HIV ワクチン開発の過程で mRNA ワクチンの技術は発展しつづけており、DDS としての脂質
ナノ粒子などの技術も進歩しており、あとは実用レベルに持っていくための研究費や人員の問題だけ
というところまで来ていた。そこに COVID-19 の流行がやってきて、国家規模・世界規模での費用・
人員投入がおこなわれ、1年弱という短期間で実用化された。
第Ⅰ相試験はすでに報告され(論文未)、30μg の 2 回投与で CD8+と CD4+ T-cell の反応が確認され
ており、今回は安全性と有効性を確認する目的の第Ⅱ・Ⅲ相試験が論文化されたもの。

総合評価点 :9点。内容的にはほぼ問題が内容に見える。小児・妊婦などの情報が少ないだけ
学んだ教訓 :漠然とは聞いていた安全性と有効性の中身を理解できて良かった。
       また、業界の背景や前提情報を整理することで理解が深まり、ワクチン問診業務での
       患者説明に活かせる知識が身についた。
これだけ大きな差がでる研究は、複雑な統計学的処理もなく、シンプルで説得力のある
論文が書けることがわかった。
今後に向けて:自分自身で同じ介入研究をするのは不可能だが、きちんと差が出る試験を組むことは
       意識したい。
ワクチンに関する基本情報:
 一般名:コロナウィルス修飾ウリジン RNA ワクチン
(SARS-CoV-2)
有効成分名:トジナメラン(Tozinameran)
商品名:コミナティ(COMIRNATY)
≒Covid-19, mRNA, Community, immunity
     225μg/V≒7 回分/V(1 回 30μg)

 不活化ワクチンの製造…鶏卵培養ができないため細胞培養が必要。適切なワクチン株がない。
 mRNA…DNA から転写して作られ、リボソームでタンパク質を作るときの設計図となる。
     DNA→mRNA→タンパク質の流れは「分子生物学のセントラルドグマ」とも呼ばれる。
     m RNA ワクチンであれば、分子生物学の基本的な技術で速やかに作成自体は可能。
     変異ウィルス出現時も、塩基配列を作り直すことは比較的容易。

 プロリン置換…SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質の類縁体(1 塩基をプロリン置換したもの)


      ウィルスのスパイク蛋白は ACE2 に結合して感染を成立させる。今回の2ヶ所のペプチド
置換は、SARS・MERS ウィルスの研究で見つかった、β シート形成などを阻害することで
膜結合前の安定構造を維持させ、中和抗体の産生をより強く促すもの。
核酸修飾…全てのウリジン塩基が N-メチルシュードウリジン残基に置換されている。
     核酸修飾を受けた RNA は、細胞で大量に発現しても TLR の活性化(自然免疫の賦活)を
起こしにくくなる(RNA ウィルス感染では、短時間で膨大な RNA が酸性され、核酸修飾
される前にタンパク質が作られ、それを TLR で認識すると異物扱いされるらしい)
Cap 構造…5‘キャップ構造とポリ A 配列を含み、効率の良い転写に重要な領域。
     In vitro で作成した RNA には、mRNA 安定化や翻訳促進に重要な Cap 構造がない。
     Anti-Reverse Cap Analogues(ARCA)法で、Cap 構造を正確に付加できるようになった。

 LNP…脂質ナノ粒子(Lipid nanoparticle)。これにm RNA を入れることによって血中で分解されず、


細胞壁に取り込まれて導入される(Lipofection)。
筋注すると、周囲の筋細胞内に取り込まれ、その細胞質で直ちにタンパク質が作られる。
細胞内酵素でプロセッシングを受け、MHC classⅠ に提示され、細胞性免疫が活性化される。
また感染細胞の死後、抗原提示細胞が MHC classⅡ に提示し、液性免疫も活性化される。
     →免疫源性は、生ワクチンよりは弱いが、不活化ワクチンよりは強いと考えられる。
※LNP の構成成分に PEG(ポリエチレングリコール)が含まれている。化粧品や歯磨き粉にも
含まれており、多くの薬剤にも使われているため、アレルギー反応を起こす可能性がある。
 自己免疫疾患誘発の可能性
    ウィルス感染を起こしにくい細胞がウィルス感染を起こした場合、自己免疫疾患を発症する
ことがある(ウィルス感染に伴って抗原提示される細胞蛋白に対して、獲得免疫が発動する)
筋注によって、特に自己免疫性筋疾患が起こるかどうかは今後の動向を見る必要がある。
 
論文タイトル:Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine
掲載雑誌・IF:NEJM IF74
出版年月日 :December 31, 2020
論文著者名 :Fernando P. Polack, M.D., Stephen J. Thomas, M.D., Nicholas Kitchin, M.D., et al.
COI・資金提供:BioNTech・Pfizer(資金提供、試験運営、データ収集・分析・解釈、論文執筆に関与)
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研究目的:COVID-19 罹患歴のない成人を対象として、
COVID-19 発症予防を目的とした BNT162b2(SARS-CoV2 mRNA vaccine)とプラセボを比較した、
第2相・第3相の臨床試験として安全性と免疫原性、有効性を確認する。
研究デザイン:多国間、プラセボ対照、二重盲検 RCT の第Ⅱ・第Ⅲ相試験(Pivotal study)
セッティング:USA、アルゼンチン・ブラジル・ドイツ・南アフリカ・トルコの 152 ヶ所

【P】対象患者
・Inclusion criteria:16 歳以上。健康な人と安定した慢性疾患(HIV・HBV・HCV も含む)
・Exclusion criteria:主なものは COVID-19 の罹患歴(患者訴えのみで抗体検査必須ではない)、
免疫抑制治療中や免疫抑制状態の診断がされているもの。
 組入期間は、2020 年 7 月 27 日から 11 月 14 日まで(約 3 ヶ月半)
割付方法は web ベースでの中央割付で遮蔽 OK、盲検化は患者・担当医ともされている。
安全性評価を行う施設スタッフも割付は知らされず、投与後 30 分間の観察を行った。
【IC】介入内容の定義や具体的内容
 Intervention…BNT162b2、1 回 30μg を 21 日あけて 2 回、三角筋への筋肉内注射で接種。
        Day1 に1回目、Day21 に2回目接種し、Day28 以降の発症をカウントする。
        BNT126b2 は、LNP に封入され、構造変化前の安定した構造で膜固定された、
SARS-CoV-2 のスパイク蛋白全長をコードした核酸修飾 RNA。
 Control  …プラセボ(生理食塩水)投与。
 両群共通 …特になし。
【O】アウトカムの詳細な定義や内訳
安全性
Primary outcome…試験対象で特異的に指定された(Solicited, specific)局所または全身の副反応
         接種後 7 日以内の解熱 or 鎮痛薬の処方(参加者が入力する電子日誌記録)。
事前に指定されていないあらゆる副反応を、2回目の接種後から1ヶ月まで、
重篤な副反応は2回目の接種後から 6 ヶ月まで確認し、約 14 週後までみた。
HIV 患者は、別途 Per protocol 解析をして報告する予定(逆転写酵素?)
  試験中止ルール…理論的懸念から考えられるワクチン増強性疾患(Vaccine-enhanced disease)に
ついて、重症例の Split が片側確率で5%以下になったら発動し、11%以下で警告が発動される
 有効性
  First primary endpoint…ワクチン2回目投与の7日後までに血清学的 or ウィルス学的な感染証拠が
なかった(COVID-19 感染歴がない)参加者のなかで、それ以降に発症が確認された COVID-19
  Second primary outcome…既往感染歴のある参加者とない参加者両者における、同様の有効性。
  「発症が確認された COVID-19」とは、FDA の診断基準で定義された以下の両条件を満たすもの。
  ・1 つ以上の症状…発熱、悪寒、新規 or 増悪する咳嗽・息切れ・筋痛、
新規の味覚障害・嗅覚障害、咽頭痛、下痢、嘔吐
  ・有症期かその前後 4 日以内に採取された気道検体における、SARS-Cov-2 の拡散増幅検査陽性。
  Major secondary outcome…重症 COVID-19 の抑制効果。
  「重症 COVID-19」とは、上記の確定例に加えて、安静時の重症疾患の徴候、呼吸不全、
ショック、重要な急性腎障害・肝不全・神経不全、ICU 入室、死亡。

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【統計解析】
 安全性評価は、1 回でも接種を受けた全員を対照とした(2 回目接種できなくても評価)
  統計的な仮説に基づかずそのままの特徴を記述した。
  イベントの数とパーセントを求め、信頼区間は Clopper-Pearson 正確信頼区間を用いた。
 有効性評価は、100×(1-IRR)で求めた →≒(プラセボ-ワクチン)÷プラセボ×100
  IRR は、ワクチン接種群とプラセボ接種群それぞれの、COVID-19 確定例発症率の比
  ワクチン有効性の 95%確信区間と、有効性が 30%以上の確率は、ベイズの β2 項モデルで算出した。
  最終解析では第 1 種過誤を 2.5%とするために、ワクチン有効性が 30%以上である確率の成功境界
を 98.6%と設定した。
Primary と Secondary の有効性評価は順次評価し、Familywise のタイプ1エラーを 2.5%に抑えた?
 主要なサブグループについての記述的分析(有効性推定値と95%信頼区間)も求めた。
 症例数計算…プロトコル参照
ITT か? …ITT と PPA といろいろしている
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アウトカム
Figure 1. 組入と割付
44820 人(100%)をスクリーニング
 →1152 が基準非該当、64 は他の理由、13 はランダム化せず、
  5 は非特異的理由、4 は医師による脱落、1 はフォロー漏れ
43548 人(97.2%)がランダム割付へ
 →99 はワクチンうけず、1は同意書サインせず
43448 人(96.9%)が注射を受けた
 21720 人がワクチン
 21728 人がプラセボ
37706 人(84.1%)が、中央値 2 ヶ月以上の安全性データを取れた。
 18860 人が最低 1 回、18556 人が 2 回のワクチン接種
 18846 人が最低 1 回、18530 人が 2 回のプラセボ接種
  理由は脱落、フォロー不能、接種保留、基準から外れた、
  有害事象(24・18 名)、妊娠、医師による離脱、死亡 1 名ずつ

Table 1. 患者背景
37706 人のうち
 女性 49%
白人 83%・黒人 9%、アジア人 4%
 年齢中央値 52 歳(16-91 歳)、55 歳以上は 42%
BMI30 以上は 35%

併存症ありは 21%(比較的健康な集団)
内訳(TableS2)は
 AIDS/HIV 0.3、Any malignancy 3.7
Cerebrovascular disease 1.0,
Chronic pulmonary disease 7.8
Diabetes 7.8+0.6
PAD 0.6
Figure 2A. 安全性:局所反応

反応性 Reactogenicity を見たのは 8183 名(電子日誌で症状を記録した参加者)


 軽度から中等度の注射部疼痛が最も多い
 1 回目より 2 回目が、55 歳以下より 55 歳以上で疼痛が少ない
重度の疼痛は 1%以下。
  発赤と腫脹は非常に少なく、グレード4の局所反応はゼロだった。
 症状は 1-2 日で消失した。

Figure 2B. 安全性:全身反応

1 回目より 2 回目が多く、55 歳以上より


55 歳以下で出やすい
頻度が高いのは倦怠感と頭痛だが、プラ
セボでも多く認めた。

重篤な全身反応の頻度は、1 回目 0.9%
以下
ワクチン接種者で 2%以下

発熱の頻度は低いが、2 回目のワクチン接種者で少し増える
40 度 以 上 は 、 ワ ク チ ン・プラセボ両群で 2 名ずつでた。
解熱薬使用は、若い人 の 2 回目でより多い。

全身症状は、熱も含め 1-2 日以内に出現し、速やかに消失した

Table S3:Adverse event


43252 人全員で調査を行った。
あらゆる副反応で、ワクチン接種者のほうが多い。
 一過性の反応性イベントも含んでいる。
 副反応を起こした参加者は試験から離脱した。
 重篤な副反応が 4 名、死亡が 2 名(動脈硬化と心停止)
 プラセボでは 4 名死亡(2 名は不明、脳出血と心筋梗塞)
  調査者によって、ワクチンと関連した死亡はないと判断された。
  2 年後まで追跡調査をする予定である。
Table2. 有効性

過去の罹患歴のない 36523 人に限定するとワクチン群で 7 名、プラセボ群で 162 名で COVID-19 発症


 この場合の有効性は 95.0%(95% CI 90.3-97.6%)と判断した。
過去の罹患歴を問わず 40137 人(注射を受けた 43448 人の 92.4%)では、9 名と 169 名で発症した
 この場合の有効性も 94.6%(95% CI 89.9-97.3%)だった。

Table 3. 感染歴ナシの、全体とサブグループの有効性
全体で 95.0%
年齢が高いほど有効性は上昇
男女差・人種差・国による差はなく、同様の傾向

Figure 3. COVID-19 と重症 COVID-19 の初回投与後全症例


 初回投与後の脱落も含み、mITT 解析
 2 回目投与までにワクチン群 39 例・プラセボ群 82 名が発症
  →この期間のワクチン有効性は 52%(95% CI 29.5-68.4)
初回投与 12 日時点での早期予防効果を示唆している
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Discussion
研究目的:罹患歴のない成人で、BNT162b2 とプラセボ比較で、安全性と免疫原性、有効性を確認する。
研究結果:安全性は十分で、反応性は一定あり、有効性は想定を大きく上回る数値で確認された。

その他の結果サマリー:
・COVID-19 発症予防効果は 95%だった。
・事前に想定した有効性 30%以上という基準を上回る確率は 98.6%で、FDA の求める最低基準を超えた
・サブグループでの効果を確定するには検出力が足りないが、いずれの群でも高い有効性を示唆した
・1 回目投与 12 日後からの早期予防効果は、ウィルス増殖期間の 5 日を 7 日過ぎた頃であり、
ワクチンの効果と想定可能(1 回投与の効果を測定する研究デザインではないが)
・2 回目投与から 7 日以上経過すると、最大効果の 91%が観測された。
・重症例 10 例のうち、ワクチン投与群では 1 例しか発症しなかった。

Strong point:
・想定通りの安全性の範囲で、かなり大きな発症予防効果が得られた
・重症化予防効果や、早期予防効果も示唆され、どのサブグループでも予防効果が示唆された。
・2 年後まで追跡予定だが、この高い有効性を考慮すると、ワクチンが承認されて広く打てるように
なったあともプラセボ群に 2 年間予防接種しないことは、倫理的・実用的な問題がある。
 (打たなければ倫理的な問題、誰でも打つなら Cross over の問題や、3・4回目接種の問題がでる)
・無症候性感染症の予防については判断できない。後日、抗体検査で判断する計画がある。

Weak point:
<著者が Limitation で述べている問題>
・参加者が少なく、有害事象の検討としては検出力が不十分。
2 回投与後 2 ヶ月追跡できたのは 1 群あたり 19000 人と少ないため、発生率 0.01%の有害事象を
少なくとも 1 つ検出する確率は 83%あるものの、それより稀な有害事象は検出できない。
・観察期間が短く、長期の有害事象や、予防効果の持続期間はわからない。
・小児や思春期、妊婦、免疫不全者についても判断できない。今後そういった対照で追加調査を行う予定。
・超低温輸送の問題があるが、他の保存条件での評価や、製造方法の最適化後の追加調査で検討する。
・ワクチンを受けたと考えている参加者は、症状がでても日記に付けて副反応の一つと考えやすい。
COVID-19 発症を疑わないため、受診して検査をうけることなく発症率を過小評価しうる(両群とも)
<自分で読んでいて気づいた、主に臨床的な指摘>
・図表はシンプルでわかりやすい(ベイズについてはわからず、今後の課題)
・日本人でどの程度安全性と有効性が保証できるのかはわからず、妊婦や小児、超高齢者や複数疾患患者
では慎重な判断が必要。

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