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ヴォルフガング・モーツァルト
ナンネール
コンスタンツェ
ヴァルトシュテッテン男爵夫⼈
コロレド⼤司教
レオポルト
セシリア・ウェーバー
エマヌエル・シカネーダー
アントン・メスマー
アルコ伯爵
アマデ
第⼀幕
プロローグ ウィーン/聖マルクス墓
♪プロローグ♪
メスマー どこか⼼当たりは?マダム。
コンスタンツェ さあ、⻑い間来ていなかったものですから。
メスマー あなたはご主⼈の埋葬に⽴ち合われなかった。
コンスタンツェ ドクトル・メスマー、あなたまでそんな話を信じるなんて。どこか、あ
の向こうのような気がする。
メスマー ここから先に墓はありませんよ。⼗字架も墓⽯も。
コンスタンツェ 彼の墓に⼗字架は⽴っていないわ。
メスマー せめて墓⽯をおくべきだ、マダム・モーツァルト。
コンスタンツェ ニッセン!今の私はマダム・ニッセン。
メスマー そう、あなたは再婚なさった。
コンスタンツェ この辺りだわ!
メスマー 確かですな。
コンスタンツェ そろそろ私失礼するわ。
メスマー ここに埋葬されているんですね。ジャピエール!
メスマー おー、魔法のようだ。聞こえますか。
コンスタンツェ 早くして!私寒くて。
メスマー マダム、聞くのです。
コンスタンツェ 何を?
メスマー 果てしない⾳楽の宇宙。彼はそこからやってきた。星のように地球に落
ちてきた。神が使わした⼦供、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァ
ルト!
第1場 ウィーン/メスマー邸
♪ピアノソナタヘ⻑調(KV280)♪
♪奇跡の⼦♪
All 凄い!
All 素晴らしい!
All 本当か?
レオポルト 我が娘がこの布で⽬隠しします
All それで?
レオポルト ⾒ずに演奏します
男1 ⾃由な響きで誘う
⼥1 天使の奏でる⾳⾊
男2 稀に⾒る
⼥2 才能よ
レオポルト 残念ながらもうじき
ただの⼤⼈に なってしまうかもしれない
⼦供のままなら
男1 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに!
男1 ブラーボ!
レオポルト ありがとうございます。ありがとうございます。
ナンネール パパ、この⼦具合が悪いみたい。
レオポルト なに、疲れたんだな。私の⼦は天才だ。天才は感じやすいものだ。⼤丈
夫か?ゆっくり⽴って。
レオポルト 息⼦のために
All モーツァルト
アマデ ありがとうございます。
レオポルト この才能に
All モーツァルト
アマデ 慈悲深いお⽅。
レオポルト 感謝と報酬として。
アマデ お⼼ありがとうございます。
レオポルト アマデ、何を持っているんだ?誰にもらったんだ?
男爵夫⼈ それはその⼦のものよ。
レオポルト これはヴァルトシュテッテン男爵夫⼈。あなたが下さったのですか?
男爵夫⼈ いいえ、私があげたのではありません。⽣まれた時からアマデのもので
す。あなたの息⼦は天才よ。
レオポルト もちろんです。私が作り出し磨き上げたんですから。さあ、渡しなさい。
男爵夫⼈ いけません。その箱は彼だけのもの。アマデ、あなたが持っているのは、
⻩⾦よりも眩く、光よりも崇⾼なもの。
♪⼈は忘れる♪
第2場 ザルツブルク/タインツマイスターハウス(モーツァルトの家)
♪⾚いコート♪
ヴォルフガフ うわ〜、ナンネール。
ナンネール 誰!ヴォルフガング!
ヴォルフガフ 姉さん、外国へ⾏こう。昔みたいに。ねえ、覚えてる?
ナンネール 覚えているわ
ヴォルフガング 頂き物
ナンネール マリア・テレジア様
ナンネール 昔とおんなじデザイン
ヴォルフガング どうだい、よく似合うだろう
ヴォルフガング ママも⼀緒さ
レオポルト ヴォルフガング!
ヴォルフガング ボンソワール、パパ!
レオポルト ⼤司教様……。
なんだ その服
ヴォルフガング ⾃分の⾦で
レオポルト その⾦はどこで?
ヴォルフガング サイコロ⼀つ
レオポルト なに!
ナンネール またついてたのね
レオポルト 博打はやめろ
ヴォルフガング 楽勝なんだ
レオポルト ⾔うことを聞け
ヴォルフガング つぇ、たまには遊んだっていいでしょ?みんなやってるんだ。
レオポルト 我々は他の⼈間とは違うんだ。
ヴォルフガング でしょうとも。
レオポルト ⼤司教コロレド猊下に依頼された仕事は!
約束のセレナーデはできたのか?
レオポルト どこだ?
ヴォルフガング ここ、頭の中!
譜⾯に書いてないだけさ
レオポルト 私を狂わせたいのか
⼤司教様がお待ちだ 今書くんだ
ヴォルフガング はい、書きます。
レオポルト コートを脱ぎなさい
ヴォルフガング なぜ?
レオポルト 貴族だけが許されたコート
ヴォルフガング 奴らより僕の⽅が上
ナンネール、処分しておきなさい。
ナンネール でも!
レオポルト ほら!
ヴォルフガング パパ!
レオポルト いいか、我々⼀家はコロレド猊下にお使えしていることを忘れるな。
猊下は⼤司教様であらせられるだけでなく、このザルツウルグを治め
る、領主でもあるんだ。猊下のご機嫌を損じては仕事を失い、⽣きて
はいけないんだ。
ヴォルフガング 猊下、猊下、旅に出るにも許可がいる。まるで奴隷だよ。あんな奴の
ためにセレナーデ書くなんて……。
レオポルト 黙れ!お前が正しく⽣きてゆく道は、私が⽴てる。怠けずに曲を書く
んだ。今すぐだ。
ヴォルフガング ちっくしょう、もう、どうして分かってくれないんだ!まったく!
♪僕こそ⾳楽♪
分かってる。あいつは僕の親⽗。でも頭にくることもあるんだ。あり
のままの僕を⾒てくれないから。
メジャーとマイナー コードにメロディーも
僕は語ろう 感じる全てを⾳に乗せ
リズムにポーズ 響くハーモニー
フォルテにピアノ 紡ぐファンタジー
僕こそミュージック
ミュージックだけが⽣き甲斐
哲学なんて 何も知らないさ
⾺⿅騒ぎが⼤好き それが僕なんだ
礼儀知らず無礼者と⾔われても
訳もなく叫びたくなる 退屈ぶっ⾶ばす
爆発しそうなんだ ⾃由と輝き求め歩もうどこまでも
⾏く先は知らない 僕が誰かさえ知らない
このままの僕を愛して欲しい
メジャーとマイナー コードにメロディーも
僕は語ろう 感じる全てを⾳に乗せ
リズムにポーズ 響くハーモニー
フォルテにピアノ 紡ぐファンタジー
僕こそミュージック
このままの僕を愛してほしい
第 3 場 ザルツブルク/⼤司教のレジデンツ(居城)の⼤広間
♪何処だ、モーツァルト♪
コロネド⼤司教 さぼるなどこを⾒てるんだ
パラダイスじゃないぞ ここは
謙虚さと勤勉 規律 守れぬ奴は収容所へ
準備万端か ワインのデカント
シェフのコースメニューをチェックする
ミュージシャンは新曲さらったのか
何処だ モーツァルト!
レオポルト 只今 ここに
コロネド⼤司教 訊かれないのに答えるな
レオポルト そんなつもりは
ヴォルフガング ⼤有りだ
ヴォルフガング 決して忘れないぞ
レオポルド 黙るのだ
ヴォルフガング いいや、謝るのは彼の⽅だ。
レオポルト 私を殺す気か?
ヴォルフガング アルコ伯爵。
コロネド⼤司教 アルコ伯爵、拾うのだ。
♪セレナード第 6 番⼆⻑調(KV239)♪
驚異的だ。
アルコ伯爵 猊下。
コロネド⼤司教 これを、オーケストラにあたらせるように。
第 4 場 ザルツブルク/アーケード⼩路
ヴォルフガング 待って、パパ。あいつはパパをクビになんかしない。脅しただけだ。待
ってください、⽗上様。ひどい扱いから解放されると、僕の⼼は⽻根の
ように軽くなる。僕は⼤都会に出ます。⾃分⼀⼈の⼒で!パパ……。
レオポルト 構うな!お前の気の短さは、私を殺しかねない。⼀⼈旅だと靴の紐も結
べないくせに。
ヴォルフガング 僕には才能があるんだ、他の⼈にはない。それを埋もれさせたくないん
だよ。芸術家は⾃由でなければ。
レオポルト 芸術家は⾃らに厳しいものだ。お前の無分別は、私の築いたものを潰し
てしまう。
♪私ほどお前を愛するものはいない♪
レオポルト ⼤司教の⼿が!
第 5 場 ザルツブルク/野菜市場
♪まぁ、モーツァルトの娘さん!♪
⼥1 あら、ナンネール。
ナンネール おはよう。
⼥2 元気?
ナンネール ええ。
⼥3 聞いたよ弟が
⼥4 ⼤司教様に逆らって ⾸になった
⼥1 ホントかい?
ナンネール 弟から⾔い出したの ザルツブルクは⼩さすぎる
⼥2 親⽗さんも⼀緒?
ナンネール 残ったわ コロレド様のもと
⼥3 弟⼀⼈で?
ナンネール ママが⼀緒よ
⼥4 で?仕事は⾒つけたの?
ナンネール 今彼はマンハイムにいて 王様に気に⼊られたの
雇われればお⼿当ては⾼い 貴族と同じ 贅沢な暮らし
私も⾏くの 夢の王国
私がプリンセスで 弟はプリンスよ
魔法の国の物語よ
アルコ伯爵 あんなでくの坊雇う君主など何処を探してもいない
ナンネール 必ずいるわ
アルコ伯爵 今に分かる 愚かな⾏為だったと
ナンネール 正しかった
アルコ伯爵 コロレド様が裏で⼿を回せば 全て終わるのだ
All 奇跡の⼦ モーツァルト 故郷を捨て モーツァルト
ナンネール ヴォルフガング、あなたがマンハイムで成功すると、姉さん信じてるわ。
第 6 場 マンハイム/ウェーバー家の居間兼台所
セシリア ヨゼファ。ゾフィー。
はーい、ママー。……
セシリア ……コンスタンツェ!
アロイジア ただいまぁ。
セシリア お帰り、アロイジア。
アロイジア 歌ってきたわ。
セシリア どうだった?
♪マトモな家庭♪
アロイジア 伯爵の前で
セシリア それで?
セシリア それで!
アロイジア 逃げた!
セシリア なぜ?!
アロイジア キモい親⽗!
セシリア なんてバカな娘
誰⼀⼈⾦を貸してくれない 思いやりのない娘たち
歌えるくせにチャンス逃す 怠け者に不細⼯にノータリン
ウェーバー 救世主現る
セシリア 何?
セシリア 誰?
ウェーバー ⾦のロバ うちに招いた
セシリア アロイジア!
アロイジア 何よ
ウェーバー 若い作曲家だ
セシリア お前ならイチコロさ
コンスタンツェ 何で?
ウェーバー 別の⽟を
ウェーバー しぃー、親しい友よ。
ヴォルフガング こんにちは、ウェーバーさん。
ウェーバー あ〜、モナミーと呼んでくれたまえ。⾃分の家だと思って、くつろいで。
ヴォルフガング ⼀家団欒はうらやましいな
ウェーバー 慎ましい幸せな家族だ
セシリア 貧しいけど
ヴォルフガング お気の毒に
ウェーバー 勤勉実直
セシリア 誠実質素
ヴォルフガング こちらは?
ウェーバー 私の妻、セシリア・ウェーバー
ヴォルフガング ボンジュール・マダム。
セシリア エンジェルね
ウェーバー コンスタンツェ
セシリア よく働く
ウェーバー これはゾフィー
セシリア お利⼝さん
ウェーバー そしてアロイジア
セシリア カナリヤ
ウェーバー 君と同じようにモナミー、この⼦は⾳楽を愛している。
セシリア あなたの才能を尊敬してるわ。
ヴォルフガング 光栄です。マドモアゼル。
セシリア あの、マンハイムには、お1⼈で?
ヴォルフガング ⺟と⼀緒に。
セシリア まあお⺟様?!
ヴォルフガング でも、部屋で気⻑に待ってくれています。
セシリア あっそう。それじゃあ、アロイジアの歌をお聞かせしましょう。
アロイジア Ah〜
セシリア ブラボー!
All アロイジアに⾔うことは?
ウェーバー 語り合えば
セシリア 満⽉だよ
コンスタンチェ 寒そう
セシリア お⾷事の⽤意を
コンスタンチェ 材料もないのに
ウェーバー 少し借りれるかい
ヴォルフガング どうぞお使いください
コンスタンチェ ほんの少し運がよけりゃ
セシリア …かもね!
第7場 ザルツブルク/タインツマイスターハウスの⾳楽室
♪⼼を鉄に閉じ込めて♪
運命は私には味⽅しなかった
お前は勝てる 運命に 私は賭けよう
偽善者たちは妬むだろう お前の才能
強い⼼を 鉄に閉じ込め
第8場 パリ/コンサートホール〜パリの宿
♪ピアノ・ソナタハ短調(KV457)♪
♪残酷な⼈⽣♪
ただいま。⼼配しないで、ママ。早く元気になって。そうしたら、全て
うまく⾏くさ。僕の新しいシンフォニーです。⾃信作です。コンサート
で弾いたら、⼤きな反響にあるに決まってる。成功したら笑って暮らそ
う。ねぇ、ママ。ママ……、ママ?ママ!医者を……、医者を呼ばなき
ゃ。
ヴォルフガング ろうそくの⽕みたいに消えた。街はいつも通り、何事もなかったようだ。
⾵がロウソク吹き消し 夜の帳が降り
居酒屋の博打始まり 劇場のにぎわい
⾺⾞は通り過ぎて 教会の鐘の⾳
泉のほとりで 恋⼈たちがくちづけ
⼦供が⽣まれ出て 希望を託されるけど
いつかは傷つき 汚れて苦しみの中で 朽ち果てる
残酷な⼈⽣ 歪んだ世の中
希望を与えられても 深い淵に落とされる
ママは希望を 与えてくれた
命のぬくもりが 今はもう冷たい
涙こらえて 祈ろう 震える⼿で 拳握り
振り上げて気付く 虚しさに ⼈はいつか 息絶える
第9場 ザルツブルク/居酒屋
♪居酒屋♪
⼥1 ねぇ、聞いたかい?ヴォルフガングが帰ってきたとさ。
モーツァルトの息⼦は
男1 奇跡の息⼦
男2 今じゃただの⼈
⼥2 哀れな親⽗
⼥3 誰も⾒向きもしない
男3 パリから帰ってきた
⼥1 ⼀⽂なしで まるで乞⾷
男2 親⽗は復職を
All 願い出た
男1 ⼤司教様、お願いでございます。息⼦をもう⼀度雇ってください。で
ないと我が家は飢え死にしてしまいます。息⼦はパリで私の蓄えを使
い果たしました。⾼利貸しに借りた⾦までも。
男2 息⼦が私にひざまずくなら、無礼を忘れて、また使ってやらんでもな
い。
男1 悔い改めさせます 息⼦は天才
男2 博打に負けて
⼥2 ⼥をあさる
⼥3 ホラ吹きの天才
⼥1 パリで⺟親を死なせてしまった
男2 無駄遣いの天才
男3 ついに⼤司教に
All 媚び売る
男1 さぁ、ヴォルフガング。謝るのだ。
男3 私は、天才は貴族より偉いと思っていました。でも、今の私は波以下
の⼈間です。
男2 ひざまずけ、もっと低く。私の靴に⼝づけせよ。アルコ伯爵、並以下
の⼈間に仕事があるか?
⼥2 教会のオルガン弾きなどいかがでしょう。
男2 弾けるのか〜、へたくそが。
ヴォルフガング 弾けるとも!
市⺠ ヴォルフガング!
ヴォルフガング お前ら、この野郎!
シカネーダー ブラボー!!!盛り上がってるね〜!ここ、ザルツブルグの善良で温
和な市⺠の皆さん!芝居が好きな⼈、いる?おぉ、これはこれは、モ
ーツァルトくん⼀⼈か……。ふん、私がこの町で最⾼のエンターテイ
ンメントをご覧に⼊れよう。
♪チョッピリ・オツムに、チョッピリ・ハートに♪
シカネーダー 私が誰だか、ご存知か?
市⺠ 知らない!
シカネーダー 知らない!?無知蒙昧こそ⼈間の最⼤の悲劇なり。君たちの前にいるの
は、あの有名な俳優にして偉⼤な劇作家、演出家、そしてプロデューサ
ーでもある、エマニュエル・シカネーダー、その⼈である。
私の芸術は 観客の拍⼿が好き
客席満杯 懐いっぱい お客様は神様だ
エンターテイメントは 芸術じゃないと ⾔うけど
娯楽ほど 難しいものはない 作る側にたてば
チョッピリ・オツムに訴えて
チョッピリ・ハートにアピール
派⼿な仕掛 嘘とギャグ 悪⽟とヒーロー
チョッピリ・オツムにチョッピリハートに
チョッピリ・ドタバタに ケレンも
セットにコスチューム ライトに仕掛け
花形スター 総出演 オレモ
愛 嘘 苦しみ 陰謀に奇跡
本当の⼈⽣なんて みたくない
客電がおちて スポットライトきらめいて
芝居がはじまる
チョッピリ・オツムに チョッピリ・ハートに
チョッピリかちまけつけて
「ブルータスよ、お前もか」
全ては娯楽だ
亡霊と悲劇の王⼦ 魔⼥が告げる予⾔
こしょう少々 きかせて お代は⾒ての お帰り
シカネーダー どうだい、いつか俺と組んでオペラを作らないか。
ヴォルフガング 喜んで。
シカネーダー ああ、ただし⼤衆が喜ぶヤツだぞ。
ヴォルフガング おっけー、まかせて!
シカネーダー よし〜!
チョッピリ さ〜
オツムに チョッピリ・ハートに
チョッピリ・ドタバタいれて
第10場 ザンツブルク/⼤聖堂のパイプオルガンの前
♪オルガン・ソナタ(KV336)♪
レオポルト ヴォルフガング!どこにいるんだ!ヴォルフガング!
ヴォルフガング 何、パパ?
レオポルト そこで何をしているんだ?
ヴォルフガング あの……、作曲してたんだ。愛の喜びについて。
レオポルト せっかく⾒つけたオルガン奏者のん仕事をなくしたらどうする?少し
はわきまえろ!
ヴォルフガング 何、パパ?
レオポルト ヴァルトシュテッテン男爵夫⼈がお前にお話があるそうだ。何か新し
い仕事の依頼だといいのだが……。
ヴォルフガング パパ、そしたらパパからの借⾦すぐに返すよ。
レオポルト 借⾦、残額は 1236 ブルガン。しかし⽇増しに増え続けてる。⼀体いつ
になったらお前の才能をもっと⽣かすことができるんだ。
ヴォルフガング もっと?
レオポルト 最近の曲は複雑すぎる。もっと単純な曲を書け。
ヴォルフガング これ以上、単純には書けないよ。
ナンネール パパ、いらしたわ。
レオポルト これは、男爵夫⼈。
男爵夫⼈ 私は明⽇の朝早く、ウィーンに帰ります。ヴォルフガング、あなたを
ウィーンに連れて帰りたいのよ。
レオポルト 息⼦は、コロレド⼤司教様にお使えしています。
男爵夫⼈ コロレドの了解はとりつけました。私はあなたをウィーンで世に出し
たいのよ。
レオポルト 論外でございます。
男爵夫⼈ ウィーンの1流どころと才能を競ってみたいと思わない?皇帝陛下に
コンサートを聞いていただくこともできる。オペラを作曲してみたく
はないの?
ヴォルフガング もちろん、全部やってみたいです。⾏きます、ウィーンへ。
レオポルト 恐れながら、男爵夫⼈。私は息⼦にとって何が必要か承知いたしてお
ります。⽗親でございますから。
ヴォルフガング おとぎ話?
男爵夫⼈ 昔々、あるところに、魔法の森がありました。そこには勇気や希望、
恐れや憧れの精が⽣きていたのです。森の城には王様と王⼦様が住ん
でいました。
♪星から降る⾦♪
「道は険しい」と王様は⾔った
「この城に共に留まるのだ お前を守るため城を閉ざした」
王様は息⼦を愛していた
憧れの精はもう⼀度 王⼦に告げた「旅⽴て」と
愛とは解き放つことよ 愛とは離れてあげること
⾃分の幸せではなく 涙こらえ伝えよう
夜空の星から降る ⾦を探しに 知らない国へ
なりたいものになるため
星からの⾦を求め ⼀⼈旅に出るのよ
険しい道を越えて 旅に出る
レオポルト お前はここにいるんだ。借⾦もまだ残っているんだ。
ヴォルフガング ウィーンに⾏けば、1ヶ⽉でここの⼀年分は稼げるさ。
レオポルト パリではどうだった?⺟を亡くし、⾦を使い果たし、世間の信⽤を失
った。
ヴォルフガング ザルツブルクなんて⼤嫌いだ。
ナンネール そんなこと⾔わないで!
ヴォルフガング もし僕が旅⽴ったら。
レオポルト 私を殺す気か?
ナンネール 覚えてる?あんた、いつも⾔ってたじゃない。神様の次に⼤切なのは
パパだって。
♪私ほどお前を愛するものはいない(リプライズ)♪
ヴォルフガング 時が来たら僕は⾏く
ヴォルフガング ここから出ていくぞ
第11場 ウィーンへ向かうコロレドの⾺⾞
♪神が私に委ねたもの♪
コロネド⼤司教 アルコ伯爵。ミュンヘンから報告は。
アルコ伯爵 モーツァルトのオペラは⼤成功です。
コロネド⼤司教 当然だ。
アルコ伯爵 バイエルン国王は、モーツァルトを貸してくださった猊下に、感謝の
意を伝えてきました。
アルコ伯爵 王の返事はいつも同じです。空いている職はなし。
コロネド⼤司教 モーツァルトはいつウィーンに来るのだ。
アルコ伯爵 はい。すぐ準備をするように命じたので、まもなく到着する事でしょ
う。
コロネド⼤司教 ヴァルトシュテッテン男爵夫⼈が、彼をウィーンに連れてくるよう薦
めたのだ。
アルコ伯爵 モーツァルトは、ウィーンの話題を独占するでしょう。
コロネド⼤司教 私が独占するのだ。
彼のコンサートで都は沸きかえる ウィーンの町中が私を妬む
アルコ伯爵 あの若造、頭に乗りそうですな。念のためウィーン滞在中は猊下の館
に寄宿させ、しかた監督いたします。
コロネド⼤司教 お前に任せよう。
アルコ伯爵 は、はぁ……。もし、皇帝陛下が奴を譲れと⾔われたら……。
コロネド⼤司教 陛下の前では演奏させない。
アルコ伯爵 やつは、御前でフーガを演奏したいと切望しています。そして、⾃分
のオペラも……。
コロネド⼤司教 それは許さない。もーが書くのは、私の為のオペラだ。
神がこの私に委ねた 彼の⽣き⽅は私が決める
⾳楽の魔術に 神の摂理が敗北するはずはない
第12場 ウィーン/プラター公園の⾒世物⼩屋
♪全てがイカサマ♪
All 夜のウィーンで⼀番 ⾯⽩い場所 プラター公園
⾒世物⼩屋が軒を連ね 怖いものも⾒たいさ
スリルとサスペンス ⽕を吹く男に シャム双⽣児
この世は驚き 不思議だらけさ
コンスタンチェ ヴォルフガング!
シカネーダー おい!知り合いか!
セシリア わお、アトゥール〜!
♪セシリアとヴォルフガング♪
⾝上の快楽味わってみない? ⽣と死の境を経験
箱の中の美⼥を刺してみない?
エクスタシィをお約束するわ
勇気ある殿⽅ ⼿をあげてよ どこにいる?
コンスタンチェ はい!
セシリア モーツァルト!
ヴォルフガング ウェーバーの奥さん!
セシリア あの、ご主⼈は?
ヴォルフガング 死んだわ。新しい亭主。 現実
トーアバルトよ。
トーアバルト よろしく。 決意
ヴォルフガング あの、コンスタンチェは今……
ヴォルフガング コロレド⼤司教の館です。 弱み
セシリア 居⼼地は?
セシリア じゃ、うちに来れば。家庭の温もりが
たっぷり味わえるわよ。 ツボをくすぐる
ヴォルフガング いや無理だそんなこと。
セシリア なぜ? 我慢
ヴォルフガング ⽗が⼼配します。 煽る
コンスタンチェ ⼦供みたい。
ヴォルフガング もう⼤⼈だ。
セシリア それなら。
ヴォルフガング ああ。
アルコ伯爵 なにが、「ああ」だ。
シカネーダー アルコ伯爵、さては、あとをつけてきたな?
アルコ伯爵 こんなことだろうと思ってたんだ。館を出ることはまかりならん。
セシリア ご来場の皆様、忘れちゃいけない、美⼥の剣刺し。
アルコ伯爵 美⼥に剣を刺すって、やめてくれ、そんな残酷な。えっ、何、私が刺
されるの?
セシリア そうよ。
アルコ伯爵 助けてくれ〜。
ヴォルフガング ザルツブルクの皆に⾒せてやりたいよ。
アルコ伯爵 この〜、豚野郎!
ヴォルフガング 豚野郎?
♪並の男じゃない♪
僕が豚なら、あんたは⽼ぼれ
豚の⽅がまし 上等だよ 僕は並みの男じゃない
上品でナイーブ ⽣娘みたいに
コロレド様にも ケツむける 僕は並の男じゃない
⽯頭はマッサージ うるさい奴は真っ⼆つ
命乞いはきかないぞ 助けてほしけりゃ⾔うこときけ
僕を監視するな 後をつけるな
追い出したいなら 蹴⾶ばしてみろよ
その前に1つ⾔わせて欲しい
アルコ伯爵 なんだ?
ヴォルフガング くそくらえ!
アルコ伯爵 貴様、誰に向かって〜!
ヴォルフガング 並みの男じゃない
All 並じゃない!
シカネーダー ヴォルフガング。
セシリア コンスタンチェ。
コンスタンチェ アルコ伯爵っていう⼈をやつけるところ、かっこよかったよ。
ヴォルフガング 本当?いや、もっと前にやるべきだった。でも、早すぎるよりは遅い
⽅がマシで、しないよりは早すぎる⽅がマシだ。権⼒を持ってる奴と
才能を持ってる奴がいて、どっちも持ってない奴は何も持ってないの
と同じ。何も持ってないっていうのは、ほとんどないってことで、ほ
とんどないっていうのは、何もないよりほんのちょっと多めってくら
い。つまり僕は……。
コンスタンチェ やめて。何⾔ってんのかサッパリ分かんない。あんたって本当に波の
男じゃないんだね。
ヴォルフガング 僕はピエロだ。幕が降りる⼨前の役⽴たずだけど、作曲家でピアニス
トでほんのちょっと天才かも。
コンスタンチェ 私には、うん、誰にも⾒えないけど、あんたは凄い才能を持ってる。
それだけは確かよ。
♪このままあなた♪
他の⼈と全然違う ⼤⼈じゃないけど
はじけてる ⾵に唾を吐き いたずら好きで 戯けてばかり
やんちゃなの お⾦なんて持ってないけど
もっと⼤事なものを持ってる
純粋なこのままのあんたが好きなのよ
第13場 ザルツブルク/タインツマイスターハウス
レオポルト ナンネール、⼤司教様に、ヴォルフガングをザルツブルクに戻すよう
にお願いしてきた。
ナンネール でも、まだ皇帝陛下の前で演奏してないわ。
レオポルト あいつは⾃ら機会を逃してしまった。許可なく⼤司教様の館を出て、
ウェーバーの家に引っ越したんだ。
ナンネール マーハイムにいた、あのウェバー⼀家。
レオポルト 悪魔は奴らをウィーンに送り込んだんだ、息⼦を破滅させるために。
どうした、弟が帰ってきた⽅がいいだろう?
ナンネール ええ、でも……。
レオポルト 家族が揃えば、昔通りうまく⾏くようになる。
ナンネ・レオポル 昔通りになる
第14場 ウィーン/ドイツ館のコロレドの官邸