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急性網膜壊死
テーマ:ヘルペスウイルスが原因となる代表的な角膜・網膜疾患の病態と治療
M4 CC2 期 18 班
171041 小森雄太
単純ヘルペスウイルス (HSV)
ヒトヘルペスウイルス (HHV) ( dsDNA ウイルス、エンベロープ有)
HHV1: 単純ヘルペスウイルス 1 型
HHV2: 単純ヘルペスウイルス 2 型
HHV3: 水痘・帯状疱疹ウイルス
HHV4: Epstein-Barr ウイルス
HHV5: サイトメガロウイルス
HHV6
突発性発疹の原因ウイルス
HHV7
HHV8: Kaposi 肉腫関連ヘルペスウイルス
・初感染の後、宿主に潜伏感染し、回帰感染(再活性化)を繰り返しながら宿主に終生存続する。
・初感染による感染症
→ ヘルペス性歯肉口内炎、性器ヘルペス、 Kaposi 水痘様発疹症、単純ヘルペス脳炎
・回帰感染による感染症
→ 口唇ヘルペス、性器ヘルペス、 Kaposi 水痘様発疹症、単純ヘルペス脳炎、
単純ヘルペス角膜炎、ヘルペス性虹彩毛様体炎、急性網膜壊死
単純ヘルペスウイルス (HSV)
・ HSV のエンベロープ糖蛋白質と宿主細胞表面のレセプターが結合し、エンベロープ
と宿主細胞膜が融合し、カプシドが細胞内へ侵入する。
Zaichick, S. V., Bohannon, K. P., Hughes, A., Sollars, P. J., Pickard, G. E., & Smith, G. A. (2013). The herpesvirus VP1/2
protein is an effector of dynein-mediated capsid transport and neuroinvasion. Cell host & microbe, 13(2), 193-203.
・ダイニンはその構造の特性上、微小管をマイナス方向(細胞質辺縁から細胞核に
向かう方向)にしか移動しないため、ウイルスカプシドを核へと輸送できる。
Nishida, N., Komori, Y., Takarada, O., et al. (2020). Structural basis for two-way communication between dynein and
microtubules. Nature communications, 11(1), 1-11.
・ VP1/2 には核移行シグナルがあるため、核膜孔に到達したウイルスカプシドは
importin と結合し、ウイルス DNA が核内に注入される。
Abaitua, F., Hollinshead, M., Bolstad, M., Crump, C. M., & O'hare, P. (2012). A nuclear localization signal in herpesvirus
protein VP1-2 is essential for infection via capsid routing to the nuclear pore. Journal of virology, 86(17), 8998-9014.
Bloom, D. C., Giordani, N. V., & Kwiatkowski, D. L. (2010). Epigenetic regulation of latent HSV-1 gene
expression. Biochimica Et Biophysica Acta (BBA)-Gene Regulatory Mechanisms, 1799(3-4), 246-256.
単純ヘルペス角膜炎 Kaye, S., & Choudhary, A. (2006). Herpes simplex keratitis. Progress in retinal and eye research, 25(4), 355-380.
三叉神経節に潜伏していた単純ヘルペスウイルスの再活性化(回帰感染)によって発症する感染症
① 再活性化の誘因は過労・ストレス、ステロイド点眼など。
② 通常、上皮型角膜ヘルペスの形をとる。
・ HSV は神経細胞から出芽して角膜上皮細胞に感染し、アポトーシスを招く。
・ウイルスは角膜下基底神経叢のパターンに沿って枝状の病変を形成する。
・ウイルスの拡散が進行することで上皮障害はさらに進行し、地図状潰瘍を形成することがある。
・また、炎症細胞浸潤に伴って角膜神経の喪失なども起こし得る。
[ 症状 ] 眼痛、流涙、異物感、有痛性知覚麻痺
Yang AY, Chow J, Liu J. Corneal Innervation and Sensation: The
Eye and Beyond. Yale J Biol Med. 2018 Mar 28;91(1):13-21.
[ 角膜所見 ] フルオレセイン染色で観察可能
・点状→線状→樹枝状→地図状と発展する
・樹枝状病変の末端には terminal bulb (末端部の瘤状膨大部)が存在し、
ここには生きたウイルスが集積しているとされる。
[ 治療 ] アシクロビル眼軟膏(ステロイド点眼は禁忌!)
③ 再発を繰り返すと…
・神経障害によって神経栄養性角化症 ( 持続的角膜潰瘍・融解・穿孔 ) をもたらす可能性も
・実質型角膜ヘルペスに発展することがある
単純ヘルペス角膜炎
④ 実質型角膜ヘルペス
・上皮型角膜ヘルペスを繰り返す症例に起こりやすく、免疫介在性の炎症反応が起こる。
・角膜の菲薄化、角膜実質の瘢痕化および新生血管化が起こる。
・非壊死性間質性角膜炎 ( 免疫性間質性角膜炎 ) と壊死性間質性角膜炎の 2 つのタイプに分類される。
非壊死性間質性角膜炎 ( 円盤状角膜炎 ) 壊死性間質性角膜炎
⑤ 内皮型角膜ヘルペス Sahu, P. K., Das, G. K., Malik, A., & Sood, G. (2015). Herpes Simplex
Stromal Keratitis with Double Immune Corneal Ring. The Official
病態は上皮型・実質型に比較してよくわかっていない。内皮細胞障害を伴う。 Scientific Journal of Delhi Ophthalmological Society, 24(4), 273-274.
[ 角膜所見 ] 角膜後面沈着物、角膜浮腫
[ 治療 ] ステロイド点眼+アシクロビル眼軟膏
急性網膜壊死
① 急性網膜壊死は「桐沢型ぶどう膜炎」とも呼ばれ、単純ヘルペスウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルスも原因となりうる)
の眼内感染により生じるぶどう膜炎の一種である。
② 単純ヘルペスウイルスによるぶどう膜炎は虹彩炎 ( 全ぶどう膜炎の 4.2%) がより一般的であり、急性網膜壊死の頻
度は 1.4% と比較的稀である。
Ohguro, N., Sonoda, K. H., Takeuchi, M., Matsumura, M., & Mochizuki, M. (2012). The 2009 prospective multi-center epidemiologic survey of uveitis in Japan.
Japanese journal of ophthalmology, 56(5), 432-435.
③ 過半数に網膜剥離を合併し、発症時の免疫状態に関わらず視力予後は不良とされる。
④ 治療にもかかわらず、最初の網膜炎から数か月にもう片方の眼が侵されることがある。初期の研究では、抗ウイルス治療を
受けていない患者の 70 %、治療を受けた患者の 13 %で ARN が他方の眼に発症したと報告されている。
Bennett, J. E., Dolin, R., & Blaser, M. J. (2014). Mandell, douglas, and bennett's principles and practice of infectious diseases: 2-volume set (Vol. 2). Elsevier Health
Sciences.
急性網膜壊死
⑤ 病態はほとんどわかっていないが、急性期と後期に分けて考えられることが多い。
・急性期:網膜および硝子体中のウイルス粒子によって炎症反応が惹起され、網膜の細胞傷害が起こる。さらに、網膜動脈
にも炎症が起こり、その結果として血管閉塞が起こり、下流の網膜組織が急速に壊死する。脈絡膜血管系も同様 の
炎症性変化を起こすことがある。
・後期 :急性期の炎症の結果、硝子体内および薄くなった壊死性網膜の表面に収縮膜形成がされることがある。このため、
網膜剥離を発症しやすい。
⑥ その病態を反映して、治療は
抗ウイルス療法 ( アシクロビル ) 、抗炎症療法 ( ステロイド ) 、抗血栓療法 ( アスピリン )
を用いて行う。