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審 査 の 結 果 の 要 旨

氏 名 延命 朋希

本論文は「External Force Control of Electric Vehicles Focused on Encoder Allocation


Resolution - Robot-like Vehicle Motion Control and Tire Force Control -(エンコーダ配置と分
解能に着目した電気自動車の外力制御 -タイヤ力制御による自動車制御のロボット化-)
」と題し,
外力制御や光学式エンコーダ・負荷側情報の利用といった,産業ロボットで蓄えられた知見を自
「Robot-like な車両運動制御手法」を体系立てたものである.本文は全 11 章か
動車に反映し,
ら成っており,英文で記述されている.
第 1 章では電気自動車(EV)の利用や産業ロボットの制御を取り巻く動向が述べられている.
産業ロボットの制御では,センサ技術の急速な高性能化を背景に「人との協働」を目指した力ベ
ースの手法が次々に実用化されている.一方で自動車制御手法の多くは,EV の普及と共に「よ
り人と共存した利用」が提唱されているにも関わらず,旧来的な位置・速度ベースの手法が中心
である.本論文の内容は,これらロボット業界の外力制御技術の発展を背景に,自動車産業の新
たな要請に応えるべく執筆された旨が述べられている.
第 2 章では実験車両及びそのモデル化について記述されている.本論文で主に用いる実験車
両はダイレクトドライブ方式のインホイールモータ(IWM)を有する 1 人乗り小型車両と,減速
機方式 IWM を有する 4 人乗り乗用車両の 2 台である.その性質や緒元について言及し,ロボッ
ト関節を念頭に各車両がモデル化されている.
第 3 章ではモータ角度センサの分解能が高次状態変数,特に外力推定と密接に関連する角加
速度の取得に及ぼす影響が解析されている.離散リアプノフ方程式に基づいた角速度・角加速度
検出時のノイズ量見積もりの簡便な式を導出し,適切な角度センサの分解能が論じられている.
第 4 章では光学式エンコーダの自動車応用について述べられている.従来,車輪角度の検出
には信頼性の高い磁気式のセンサが用いられてきたが,その分解能は高々十数 bit 程度であり,
高速な制御周期を持つモータの性能を引き出すには不十分であった.本章では,近年急速な低価
格・高性能化を遂げている光学式エンコーダを車載センサとして用いることが提案されている.
本章では過去に提案されたスリップ率推定を題材に,実車実験によってその有用性と実用可能性
が提示されている.
第 5 章では負荷側エンコーダを搭載した減速機方式 IWM のタイヤ前後力制御が実現されてい
る.減速機を介したモータシステムは,軸ねじれを持つ 2 慣性系としてモデル化可能であり,
昨今では負荷側情報を積極的に利用する手法が研究されている.本章では駆動側・負荷側双方の
情報を用いた高精度なスリップ率推定およびタイヤ前後力の制御手法が実車実験を通じて検討
されている.
第 6 章では負荷側・駆動側双方のエンコーダを用いたバックラッシ補償制御について論じて
いる.減速機を介すると大トルクが出力できる一方で,駆動系のバックラッシは制御性能の劣化
や騒音,乗り心地の悪化を引き起こすことが知られている.提案手法では負荷側・駆動側双方の
角度情報を用いて,ギアとモータを相対速度零で接触させることでバックラッシを補償し,振動
や騒音が改善できることが示されている.
第 7 章ではインピーダンス制御による車体の外力制御手法が提案されている.インピーダン
ス制御は機械インピーダンスを変更する制御手法で,ロボットの衝突緩和やパワーアシストを目
的に用いられる.前章までに行ったタイヤ前後力の推定・制御を下位レイヤーに配置することで,
車体に働く外力の推定・制御が実現されている.本章では具体的なアプリケーションとして「手
で軽く押して駐車できる車」が実現されている.
第 8 章ではタイヤ横力の推定とそれに基づく車体横外力の推定法について述べられている.
タイヤ横力を制御することで車両運動制御の性能が向上することが知られているが,過去に開発
されたセンサでは低速度域でのタイヤ横力が検知できない点が問題となる.ここではステアリン
グモータに外乱オブザーバを適用することでタイヤの横力が推定されている.続いて,得られた
各輪のタイヤ力に基づき,拡張カルマンフィルタを用いて車体外力を推定する手法が提案・実証
されている.
第 9 章では事故時の衝突力を緩和する制御手法が述べられている.駆動力制御法を用いて正
面衝突時の被害を緩和する手法の他,オフセット衝突による被害を緩和する「受け身制御」が提
案されている.数値シミュレーションおよび予備実験を通じてその実現可能性が評価されている.
第 10 章では外力推定に基づく陸空両用ドローンの探査手法について述べられている.ドロー
ンによる探査には通常は視覚センサが用いられるが,洞窟等の探査においては暗闇や埃等の影響
でこれらセンサが機能しない場合がある.本章では衝突力を手掛かりに洞窟内を探査する手法が
提案されている.陸上と空中の両モードについて外力や接触点の推定法を提案され,それに基づ
く探査手法が数値シミュレーションや実験を通じて検証されている.
最後に第 11 章では本論文の各章を振り返り,得られた知見の総括と今後の見通しについて述
べられている.
以上これを要するに,本論文は産業ロボットで蓄えられた知見を巧みに取り入れ,ハードウェ
ア的な側面から困難であった車両の外力制御手法を機構と制御の両面から超克した革新的な研
究といえ,実社会の需要を鑑みてハードウェアから制御理論,実際のアプリケーションに至るま
で実現性が検討されていることから,学術研究に留まらず産業界の発展に大いに寄与するもので
あり,制御工学,電気工学,ロボット工学,自動車工学への貢献が少なくない.
よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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