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法学 II(憲法を含む) 文学部一年・人文社会・12314231 彭溢

文章の要約

1. はじめに:
- キャンセルカルチャー(CC)が米国と日本で SNS を中心に注目されており、表現の
自由に対する問題が議論されている。
- 本稿では CC の原理的な問題と生み出す弊害への対処方向性を検討する。

2. キャンセルカルチャーとは:

2.1. キャンセルカルチャ一の定義
英語圈において、CC は集団でのキャンセル実践や風潮として定義され、文化的に受容
できない思想に対して公然とボイコットや排斥を行う行為も含まれます。これは SNS 上
の批判からさまざまな手段に及ぶものです。

2.2. キャンセルカルチャ一の形成とその背景
2017 年の MeToo 運動や BLM 運動の一環として、「コールアウトカルチャ一」として
知られるようになり、フェミニズムや人権擁護運動が影響を与えている。これに対する
批判的な立場から「キャンセルカルチャ一」と呼ばれるようになった。

2.3. ポリティカルコレクトネスとの関係
CC にはポリティカルコレクトネス(PC)の概念が密接に関連しており、PC の進化型
として位置づけられた。PC は違法ではないが社会的に望ましくない表現に対する自制や
配慮を求める運動であり、CC はこれを先鋭化させたものと考えられる

2.4. キャンセルカルチャ一の事例
近年、米国や日本で CC が発生し、差別的言動を行ったとされる研究者や言論人の解
雇、出版中止、講演中止などが頻繁に起こっている。これには歴史的人物の銅像撤去や組
織名の変更も含まれ、国際的に注目を浴びている。

2.5. キャンセルとキャンセルの呼びかけ
キャンセルとキャンセルの呼びかけを区別する必要がある。キャンセルとは対象者の
発言権利、社会的地位を剥奪する行為であり、呼びかけは主体や社会に対して行われる
ものだけであり、その対象の解雇を必ずしも求めていない。

3. 表現の自由に対する CC の問題:

3.1 表現の自由の行使としてのキャンセルカルチャ一
CC は MeToo 運動や BLM 運動などの社会運動を SNS を通じて展開し、ハッシュタグ
アクティビズムを通じて声を上げる手法が重要な役割を果たしている。これにより、被
害者やマイノリティが声をあげやすくなり、表現の自由を行使しやすくなっている。キ
ャンセルの呼びかけは法的には表現の自由として保障され、炎上が生じたとしても個々
の批判や抗議は基本的には表現の自由の行使と見なされる。

3.2 キャンセルカルチャ一による表現の自由の事実上の抑制
一方で、CC に対する批判では表現の自由を脅かしているとの指摘もある。著名な言論
人や研究者らは CC により反対する意見への不寛容や恥をかくこと、報復への懸念が生
じ、情報と思想の自由な交換を抑制していると主張している。また、世論調査でも CC
は対象者を不当に罰しているとの意見が増大し、表現の自由の制約が懸念されています。
これらの問題は憲法上の表現の自由の侵害とは言い難いが、民主主義社会における価値
観として真剣に考慮すべきのである

3.3 表現の自由のジレンマ
CC(キャンセルカルチャー)の中で、表現の自由の行使という側面と表現の自由を抑
制する側面が同時に見られるジレンマがある。米国でも CC が広がり、世論やソーシャ
ルメディアが権力となりつつある。

3.4 表現の自由と世論:
ミルの理論
-危害原理:個人の自己利益ではなく、社会による個人の自由への干渉が正当化され
るのは他者の危害を防止するために行われる場合に限られる。
-思想の自由市場の擁護: 本人が誤りを犯す可能性を認め、誤りを正すために必要な
行為として他人による説得の必要性を強調していたのである。
-「世論の専制」:大衆の意見により社会的に優勢な意見としての世論か形成された
結果、世論が少数派の個人に対する精神的な強制として機能するというもの。

3.5 思想の自由市場とその前提:
ミルを起源とする思想の自由市場論に焦点を当て、一部の専門学者が CC に対する意
見は大体以下で捉えられる

「言論空間における批判」に対して擁護
-大屋:CC は強者を権力的に沈黙させることが、弱者の自由や平等を実質的に実現
するために必要なのもの
-志田:「気つきを促す対抗言論」として擁護する

「言論空間における排除」に対して問題視している
-志田:正当性が見出せない

また、CC における「攻撃」が内容への批判から発言者の地位の剥奪を要求し、沈黙を
強いる傾向があることが指摘されている。しかし、批判と排除の境界が明確でない場合
や、CC が過剰な反応を引き起こす可能性があることも論じられている。

3.6
では、特定の表現が他者の表現を排除する可能性を探り、過去の論者がヘイトスピーチ
やポルノグラフィによる沈黙効果を強調していた経緯が述べられています。CC による沈
黙効果や排除に対する法的救済も求められるている。

3.7. 表現の自由の私人間効力
-表現の自由の私人間効力において、米国では、憲法は主に政府の行為を制限するもの
とされ、私人の行為が公的な機能を担う場合や政府が関与する場合に憲法が適用される
可能性がある。しかし、最近では連邦最高裁のリバタリアン的な傾向が強まり、ステイ
トアクションが限定される傾向が見られている。
-一方、日本では憲法上の権利は直接に私人間の契約関係を規律するものとされが、私
法の一般条項の解釈・適用において憲法上の権利が私人の行為を規律する私人間効力が
認められている。しかし、裁判所は表現の自由に対しては慎重な立場をとり、少数者の
自由を保護する姿勢が乏しかっただと思われる。

3.8.表現・行為・責任
-表現、行為、責任において、CC においては SNS などでの非難や抗議がキャンセルを
引き起こすことがある。しかし、違法な解雇や会場の提供中止が行われた場合でも、批
判や抗議が即座に違法であるとは限らない。表現の自由と行為の責任を適切に調整する
難題がある。
-CC については、発見の文脈と決定の文脈の区別を無視する傾向があるから、したが
って表現を行った者とそれを受けて行動した者を区別し、前者の責任を限定する議論が
多い。表現者に対する教唆や助長責任についても慎重な判断が求められ、呼びかけと犯
罪・違法行為の結果との因果関係も、慎重な判断が求められることになる。

4. キャンセルカルチャーへの法的対応

4.1 名誉、プライバシー、忘れられる権利

4.1.1 名誉
キャンセル呼びかけが名誉毀損に該当する場合、表現の自由との調和を図るための規
定や判例法理が存在する。真実性や公益性を考慮して免責の余地を検討することが求め
られる。

4.1.2 プライバシー
キャンセル呼びかけが他者のプライバシーを侵害する可能性がある。日本のプライバ
シー侵害の判例は、SNS やフェミニズム、CC の影響により公私区分の相対化に対応できる
柔軟性を持っている。

4.1.3 忘れられる権利
キャンセルカルチャーにおいて過去の言動が問題視される中、「忘れられる権利」が
注目されている。日本ではそれを人格権の一環として保護しているが、法的に導入されてい
ない。一方で、忘れられる権利が持つジレンマや記憶の抹消に伴う問題も指摘されてい
る。
4.2 オンラインハラスメント
最近ではソーシャルメディアでのオンラインハラスメントが深刻化しており、その規
制に関する問題が浮上している。オンラインハラスメントの性質や法的な取り組みにつ
いて検討が必要であり、特に「炎上」や侮辱累積型の問題に焦点を当てて法制度の見直
しが求められている。
4.3.表现に起因 する第三者の行為による人格的利益の侵害
CC(キャンセルカルチャー)における懲戒請求の問題を取り上げ、特に光市母子殺害
事件に関連する弁護団への懲戒請求呼びかけ事件を紹介している。テレビ番組での弁護
士の発言が多数の懲戒請求を引き起こし、最終的には裁判で検討されした。最高裁は、
表現の自由や社会的な権利を考慮し、懲戒請求の違法性や人格的利益の侵害の程度を検
討し、絶妙な判断を下した。

4.4 文化機関・文化専門職の役割
CC との対峙において、文化機関や文化専門職の役割が重要である。「表現の不自由展
かんさい」事件の例が CC と対歧するいい参考になる。

4.5 表現の場を提供する民間事業者の役割
-すでに施設利用契約が成立しているにもかかわらず、抗議や不買運動をおそれて、施
設の利用を拒否することは、契約の内容や状況次第では債務不履行に当たる場合で、解除
事由に限定的に解される必要がある。
-インターネット上の表現の自由を支えるプラットフォーム事業者も、その運用の下で、
利用者の投稿を削除したり、アカウントを停止するではなく、モデレーションを透明化さ
せることが期待されている。

4.6 倫理と文化
CC を対応するとき、倫理や文化の役割も期待されることになる。
-論理的な面では、表現者の自己規律が期待されている。
-文化的な面では、企業、公的機関の働きも期待されている

5. まとめにかえて
- CC と呼ばれる現象や CC を巡る論争に対して、従来の議論との整合性も踏まえ、体系
的に検討し、多角的に議論していくことが求められる。
- CC という概念に含まれるさまざまな言動の当否(正当化の問題)は別途検討する必要
がある

自説

キャンセル文化の台頭は、少数派に発言の機会を提供する一方で、社会的プレッシャ
ーの問題を引き起こしている。キャンセル文化への対応策を考えるには、まず表現の自
由のジレンマを深く検討する必要がある。

表現の自由のジレンマ
表現の自由のジレンマについて、文章では言論空間における批判と言論空間における
排除を分けて論じた。檜垣宏太が政治ボイコットと表現の自由の研究でそう述べていた :
「それは、表現の受け手の「理性」の「自由」な働きによる「表現」内容の吟味を許さ
ず、強制的に従わせることで現状を変化させるからであり……結局表現活動をとりやめ
てしまうこととなり、表現の自由を窒息させるからであろう。』このことから、キャンセ
ル活動の表現の自由を窒息させ、他者の表現を排除させる側面がわかる。「しかし他方
で、このような萎縮への懸念から政治的ボイコットに表現の自由による保護が与えられ
ないということになると......その結果、問題のある権力行使や社会構造が野放しにされた
ままになりかねないという問題がある。」(檜垣 宏太 2023,46) からも、キャンセル活
動が多様性をもたらし、権力の使いすぎ問題を抑制できる良い面が見られる。
キャンセルがもたらした沈黙効果について,ミルの論説が参考になる。「これまで長い間、
法律による処罰をひとびとが恐れたのは、社会的に汚名が残るからであった。つまり、
本当に効き目があるのは刑罰でなく 汚名なのだ。じっさい、ほかの多くの国では法律に
よる処罰を恐れてひとび とは意見の発表を控えたりするが、イギリスではむしろ社会的
な非難を恐れ て発言を控える者が多い」(J.S. ミル〔斉藤悦則訳〕『自由論』(光文社
2012)80 頁)ここでミルが指摘する「社会的な非難」は、「社会的圧力」をかけるひとつ
の手段として理解できる。
つまり、キャンセルの平等を実現する効果も、沈黙効果や他者の表現を排除する効果
も、社会的圧力に帰結できるのだろう。キャンセル活動がもたらす弊害を避けるために、
キャンセル活動と社会的圧力との関係を検討する必要がある。

行き過ぎたキャンセル活動

キャンセル活動について、以下の調査のデータがある。「この三月末の世論調査では、広
がるキャンセル一カルチャーは自由への脅威と見る人が。64%なのに対して。自由への
脅威ではないと見るのは 36%と、圧倒的な多数が自体を懸念している。(米ハーバード大
学米国政治 研究センター・ハリス共同調査)」
以上のデータから、行き過ぎたキャンセル活動が、実は自由への脅威とみなされ、権力
のもう一つの象徴となっていることがわかる。また、「つまり PC とは,特定の主義·思
想の内容そのものではなく,その主義·思想を絶対的な正義とみなし,異論を徹底的に排
除することで相手に押し付けようとする姿勢のことを指すのである」 (加藤, 真人 ; 川端,
祐一郎 ; 藤井, 聡 2022,287)からも、PC の弊害を指摘していた。CC の原点である PC
も、最初は強力な旧体制への反対を唱え、新しいマイノリティのために発言していたが 、
結局誰も抵抗できないもうひとつの権力の象徴へと発展してしまったのである。

キャンセル活動の本来の目的

このことから、キャンセルの本来の目的、何を達成するはずだったのかを明確にしな
ければならない。PC の例を考えた上で、CC が達成すべきことは単に既存の秩序に反対す
ることだと単純に考えるべきではないということがわかる。CC の目的を考えるには、以
下論説が参考になる。「社会的マイノリティの「聲」は、その少数性ゆえにもとより不
可視化され、マジョリティには認知されない......「語り手の言葉や表現のあり方に社会
的·経済的な不平等や文化的な非対称性が深く刻まれており、そうした非対称性は聴くこ
とを阻み、聴きかたを歪める」。これはマイノリティの「聲」がマジョリティに届かな
いっまり、真剣なもの、真面目な訴えとして取り扱って貰えないという問題である。要
するに、マイノリティの「聲」は、多少荒々しく、あるいは集団で主張しなければ、も
とよりマジョリティの注意を惹けない一目にも留まらぬし、耳にも入らない性質を本質
的に持つのである。」(檜垣 宏太 2023,p48)
以上の論説から、マイノリティの声が出にくい問題の根本的な原因は、経済的 ・文化
的非対称性の問題であることが理解できる。マイノリティはマジョリティと同じ言論空間
で対等な権力を持つではないため、マジョリティとの権力関係を変えさせたり、黙らせ
たりするためには、集団としての社会的圧力の必要性が見出せる。
キャンセル文化の社会的圧力を取り除いて、その弊害をなくすことはできないが、キ
ャンセル文化の根本的な目的を再検討することによって、行き過ぎったキャンセル文化
を制限することができるのである。キャンセル文化の根本的な目的は平等で包摂的なコミ
ュニケーション空間を作り出すことのだから、キャンセル活動に対する評判標準も、権
力に反対する機能からだけではなく、その背後に反映される言論空間の構造的変容という
観点から判断すべきだと思うのである。

参考文献一覧
• 檜垣 宏太 「政治的ボイコットは表現の自由の保護を受けられるか : 近時のキャンセ
ルカルチャーをめぐる議論を契機として」廣島法學,2023 年 1 月 20 日
• 会田 弘継 「INSIDE USA 過激批判が映す不寛容 キャンセルカルチャーとは」週刊東
洋経済,2021 年 5 月 22 日
• J.S. ミル〔斉藤悦則訳〕『自由論』光文社,2012
• 加藤, 真人 ; 川端, 祐一郎 ; 藤井, 聡「計画議論適正化のためのポリティカル・コレク
トネス(PC)意識の規定要因に関する研究」土木学会論文集 D3(土木計画学),2022
• 成原 慧「キャンセルカルチャーと表現の自由」法政研究,2022 年 12 月 21 日

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