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絵本の読み聞かせによる母子相互行為が

子どもの語い発達に及ぼす影響
~子どもの社会情動的発達との関連から~

白百合女子大学大学院 文学研究科

博士後期課程 発達心理学専攻

岩崎 衣里子
目 次

序論
第 1 章 本論文の問題意識 1
第 2 章 背景 3
第 1 節 絵本の読み聞かせとは 3
1-1 読み聞かせの定義 3
1-2 母子の相互行為としての絵本の読み聞かせ 3
第 2 節 読み聞かせの構造と機能の発達及び子どもの発達への
影響に関する先行研究 8
2-1 読み聞かせの構造と機能が子どもの発達に対してもつ意義および
関連研究 8
2-2 絵本の読み聞かせと子どものについて言語発達について 10
2-3 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達について 16
第 3 章 理論および先行研究の評価について 19
第 4 章 本論文の目的と構成 22
第 1 節 目的 22
第 2 節 本論文の構成図 24

本論
第 5 章 研究Ⅰ 絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の横断的な
発達的変化について 26
第 1 節 読み聞かせによる母親から見た母子の変化(質問紙分析) 26
第 2 節 読み聞かせ時の母親の行動と子どもの行動の変化(評定分析) 33
第 3 節 研究Ⅰのまとめ 47
3-1 母親の読み聞かせ方針による子どもの行動の変化 47
3-2 読み聞かせ場面と展開場面での母子相互行為の変化 48
第 6 章 研究Ⅱ 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達と語い発達との
関連について 50
第 1 節 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連(評定分析) 51
第 2 節 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連(言語行動分析) 57
第 3 節 絵本の読み聞かせと子どもの語い発達との関連(評定分析) 67
第 4 節 絵本の読み聞かせと子どもの語い発達との関連(言語行動分析) 76
第 5 節 絵本の読み聞かせによる母子相互行為と子どもの社会情動的発達と
語い発達との関連 89
第 6 節 研究Ⅱのまとめ 97
第 7 章 研究Ⅲ 絵本の読み聞かせが子どもの社会情動的発達と語い発達に及ぼす
縦断的な発達的変化について 105
第 1 節 読み聞かせによる母子相互行為の変化過程の検討 105
第 2 節 研究Ⅲのまとめ 125

結論
第 8 章 本研究の概要 130
第 1 節 本研究の背景と目的 130
第 2 節 本研究の結果と示唆 133
第 9 章 本研究の結論と意義 145
第 1 節 本研究の結論 145
第 2 節 本研究の意義 147
第 10 章 本研究における今後の課題 150

要旨 151

引用文献 153

謝辞 158

附録 159
図一覧
第2章
Figure 2-1 Cole(1996)のモデル 7

第3章
Figure 3-1 本研究での読み聞かせが語い発達に関連するプロセスモデル 21

第4章
Figure 4-1 本論文における理論編の構成図 24
Figure 4-2 本論文における実証編の構成図 25

第5章
Figure5-1 撮影時の俯瞰図 34
Figure5-2 読み聞かせ場面での母親の行動の変化 39
Figure5-3 展開場面での母親の行動の変化 40
Figure5-4 読み聞かせ場面での子どもの行動の変化 41
Figure5-5 展開場面での子どもの行動の変化 42

第6章
Figure6-1 情動発達指標の年齢段階ごとの変化 53
Figure6-2 読み聞かせ場面での母親の情動調整行動の変化 59
Figure6-3 展開場面の母親の情動調整行動の変化 60
Figure6-4 読み聞かせ場面での子どもの情動調整行動の変化 61
Figure6-5 展開場面の子どもの情動調整行動の変化 62
Figure6-6 語い発達指標の年齢段階ごとの変化 70
Figure6-7 読み聞かせ場面の母親の言語行動の変化 81
Figure6-8 展開場面の母親の言語行動の変化 82
Figure6-9 読み聞かせ場面の子どもの言語行動の変化 83
Figure6-10 展開場面の子どもの言語行動の変化 84
Figure6-11 読み聞かせ場面の第 1 段階のパス解析結果 92
Figure6-12 読み聞かせ場面の第 2 段階のパス解析結果 93
Figure6-13 展開場面の第 1 段階のパス解析結果 94
Figure6-14 展開場面の第 2 段階のパス解析結果 95
第7章
Figure7-1 読み聞かせ場面の母親の注意喚起行動の変化 110
Figure7-2 読み聞かせ場面の子どもの注意喚起の変化 110
Figure7-3 読み聞かせ場面の母親の命名行動の変化 111
Figure7-4 読み聞かせ場面の子どもの命名行動の変化 111
Figure7-5 読み聞かせ場面での母親の質問行動の変化 112
Figure7-6 読み聞かせ場面の子どもの応答行動の変化 112
Figure7-7 読み聞かせ場面の母親の読み方の変化 113
Figure7-8 読み聞かせ場面の子どもの自己内対話活動の変化 113
Figure7-9 読み聞かせ場面の母親の応答行動の変化 114
Figure7-10 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化 114
Figure7-11 読み聞かせ場面の母親の情動調整行動の変化 116
Figure7-12 読み聞かせ場面の子どもの情動超背行動の変化 116
Figure7-13 読み聞かせ場面の母親の命名行動の変化 118
Figure7-14 展開場面の母親の命名行動 118
Figure7-15 読み聞かせ場面での母親の質問行動の変化 119
Figure7-16 展開場面の母親の質問行動の変化 119
Figure7-17 読み聞かせ場面の母親の情動調整行動の変化 120
Figure7-18 展開場面の母親の情動調整行動の変化 120
Figure7-19 読み聞かせ場面の子どもの応答行動の変化 121
Figure7-20 展開場面の子どもの応答行動の変化 121
Figure7-21 読み聞かせ場面の子どもの自己内対話活動の変化 122
Figure7-22 展開場面の子どもの自己内対話活動の変化 122
Figure7-23 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化 124
Figure7-24 展開場面の子どもの情動調整行動の変 124
Figure7-25 縦断データによる読み聞かせ場面と展開場面での発達的変化 129

第9章
Figure9-1 読み聞かせ場面と展開場面における母子相互行為の発達的変化 146
Figure9-2 読み聞かせによる母子相互行為が語い発達に関連するプロセスモデル 146
表一覧
第2章
Table 2-1 読み聞かせの構造・機能の発達段階 15

第5章
Table 5-1 母親の読み聞かせ方針についての因子分析結果 28
Table 5-2 子どもの行動の変化の因子分析結果 29
Table 5-3 母親の読み聞かせ方針の在り方と子どもの行動の変化の t 検定結果 31
Table 5-4 母親の行動の因子分析結果 37
Table 5-5 子どもの行動の因子分析結果 38
Table 5-6 読み聞かせ場面と展開場面の母親と子どもの行動の t 検定結果 43

第6章
Table 6-1 子どもの行動と子どもの社会情動発達の t 検定結果 55
Table 6-2 母親の分析項目 58
Table 6-3 子どもの分析項目 58
Table 6-4 読み聞かせ場面における母子の情動調整の相関 64
Table 6-5 展開場面における母子の情動調整の相関 66
Table 6-6 読み聞かせ場面と展開場面の子どもの行動と語い発達指標 73
Table 6-7 読み聞かせ場面と展開場面での母子行動の関連 73
Table 6-8 母親の分析カテゴリー項目 77
Table 6-9 子どもの分析カテゴリー項目 78
Table 6-10 母親の言語行動の因子分析結果 79
Table 6-11 子どもの言語行動の因子分析結果 80
Table 6-12 読み聞かせ場面における母子の言語行動の相関 86
Table 6-13 展開場面における母子の言語行動の相関 88

第7章
Table7-1 母親の分析カテゴリー項目 107
Table7-2 子どもの分析カテゴリー項目 108
序論

第1章 本論文の問題意識

日本における絵本の起源は,平安時代の絵巻物が絵本の起源と言われており,子ども向
けに作られた最初の絵本が,江戸時代の赤本であると言われている。第 1 次世界大戦後日
本では,中産階級の市民が台頭し,近代的な生活が謳歌されるようになった。このような
社会背景の下で,絵本の世界においても人々の文化レベルの向上を図るために,1920 年代
に社会的・教育的目標を掲げた絵本の全盛期を迎え,絵本が市民の生活の中に浸透し始め
(国際子ども図書館,2010),家庭で絵本の読み聞かせが行なわれるようになった。
このような流れを受け継ぎ現代においても絵本は,子どもにとって身近な存在であり,
家庭ばかりでなく幼稚園や保育所,児童館,幼児教育施設,小学校,中学校(読売新聞,2010)
においても盛んに絵本の読み聞かせ活動が行われている。さらに早期からの絵本の読み聞
かせが注目され,絵本の購入者や販売冊数も増加傾向にあり,中でも乳幼児対象の絵本が
多くなってきている(仲本,2004)。実際に筆者が働いていた幼児教育施設においても,プ
ログラムの中に絵本の読み聞かせの時間が設けられており,絵本の読み聞かせ活動に力を
いれて取り組んでいた。具体的な例として,日本公文教育研究会は子育て支援の一環とし
て 2007 年度より「こそだてちえぶくろ」プログラムを行っている(板橋・田島・小栗・佐々
木・中島・岩崎,2012)
。これは,未就園児の親子を対象とし,全国の公文式教室において,
指導者が「歌いかけ」や「読み聞かせ」のお手本を示しながら,参加親子と一緒に歌と絵
本で楽しい時間を過ごすというプログラムである。具体的には,家庭でも「読み聞かせ」
を親子で楽しめるようにアドバイスし,絵本や記録ツールなどが入ったセットを提供し,
教室での経験を家庭に持ち帰ってもらい日常的に読み聞かせを通した豊かな親子のふれあ
いをもってもらうことを主眼としたものであり,母子関係の基本的な良い土台作りに貢献
していることが示唆されている。
世界的にもブックスタートプロジェクトという運動が起こっており,絵本の読み聞かせ
に今注目が集まっている。ブックスタートプロジェクトとは,英国のブックトラスト(教
育基金団体)が中心となり,1992 年にバーミンガムで育児支援の一環として始まった運動
「赤ちゃんには絵本を読み聞かせる(read book to your baby)のでは
である。日本では,
なく,赤ちゃんと絵本とを通して楽しいひと時を共有する(share books with your baby)」
ことを基本理念とし,2001 年 4 月に 12 市町村が実施をはじめ,全国各地で広がっている(横
山・秋田,2002)。それに伴い,2001 年 12 月に「子どもの読書活動の推進に関する法律」
が公布され,この法律に基づき各市町村が

1
それぞれ「市町村こども読書活動推進計画」を策定することが求められるようになった
(文部科学省, 2001)

また,地域の生涯読書活動も進んでおり,長野県塩尻市においては,
「読書から始まる人
づくり」事業の一環として 2009 年度より,読み聞かせコミュニケーター育成講座と読み聞
かせ交流会が実践されている(宮下・佐々木・塩原・田中・田島,2010:宮下・田島・佐々
木・石川・伊東,2012)。これは,市民交流センター事業の一つとして,図書館,子育て支
援センター,塩尻市ロマン大学・大学院(高齢者のための社会教育の場)をつなぐ活動と
しての側面をもつだけでなく,小学生を介して間接的ではあるが,社会教育と学校教育を
つなぐ役割も担っている。内容としては,ロマン生(塩尻市ロマン大学生=高齢者)と小
学生とが,同じコミュニケーターとして幼児に対して絵本の読み聞かせを行うものである。
この交流会のねらいは,読み聞かせ活動を媒介としてロマン生と小学生,ロマン生同士,
小学生同士といった重層的な交流の機会を作り出すことであり,育成講座では,交流会で
の読み聞かせ活動を目標としながら,読み聞かせコミュニケーターとしての力量を形成し
ながらここでも様々な交流の機会をつくることがねらいとされている。そしてこの交流を
通じて,親子関係における読み聞かせから,社会的な関係に基づく読み聞かせへと発展し
ていることが示唆されている。
このように,今や家庭ばかりでなく子育て支援の一環として企業や地域においても注目
され活発に行なわれている絵本の読み聞かせ活動は,子どもの発達にどのような影響を及
ぼすのであろうか。
絵本の読み聞かせに関する発達心理学研究は,1970 年代後半より多くの研究者によっ
て報告されており,被験者は主に乳幼児と母親であった。また,それらの研究の多くは子
どもの言語獲得との関連においてであった(石川・前川,2000)。 Ninio & Bruner(1978)
は,絵本の読み聞かせ場面において,母親は子どもの言語発達の枠組みとなるフォーマッ
トを形成していると述べている。その後,Ninio(1983)は,このフォーマットを語い教授フ
ォーマットと命名し,絵本の読み聞かせ時のフォーマットが子どもの語い獲得に影響して
いると主張しており,絵本の読み聞かせは子どもの語い獲得のための足場作りをしている
と考えられる。
しかし,この絵本の読み聞かせと語い発達の研究の多くは,母子相互行為と捉えられて
いながらも養育者の発話に焦点があてられており,母親の発話や行動が子どもの発話や行
動にどのように影響し,子どもの語い発達へと関連しているのかというプロセスは捉えら
れていない。また,絵本の読み聞かせが果たして直接的に子どもの言語や語い獲得に影響
するのか,という疑問も考えられる。
以上の観点から,本論文において,母子相互行為としての絵本の読み聞かせ場面の中で
子どもと母親の双方の発話と行動に焦点をあて,子どもの語い発達に影響を与えていくプ
ロセスを実証的に検討していくことを通して,読み聞かせの構造と機能およびその発達に
ついての知見を深めることができると考えている。

2
第2章 背景

第1節 絵本の読み聞かせとは(定義と理論)

1-1 絵本の読み聞かせの定義
絵本の読み聞かせとは一体どのようなものであろうか。絵本の読み聞かせ活動について,
田島・中島・岩崎・佐々木・板橋・野村(2010)は,養育者を子どもの一番身近な存在である
母親として“発達初期の子どもと養育者間の「絵本」を介した記号媒介的相互行為で,養
育者の「語りかけ」活動の 1 種である”と述べている。本研究においても,この定義のも
と記号媒介的相互行為である読み聞かせが子どもの発達に及ぼす影響を検討していくこと
とする。それでは,この母子の記号的媒介相互行為である絵本の読み聞かせはどのような
構造と機能をもっているのであろうか。

1-2 母子の相互行為としての絵本の読み聞かせ
ⅰ)母子相互行為の構造
一般的な母子相互行為は,まず 3,4 ヵ月時では,母親は乳児に積極的に働きかけて注意を
ひきつけ,交替のやりとりが促され,向かい合って視線を交わすやりとり,つまり向かい
合いのやりとりが行われている(Beebe & Stern, 1977; Stern, 1977)。生後半年ごろになる
と,今までの養育者からの丁寧な対応を基盤とし,乳児は行動を予期できるようになるた
め,乳児が主導した働きかけが出現する。9 ヵ月になると,間主観性(Trevarthen & Hubley,
1978)が発達し,言語獲得や社会的相互交渉のスキル獲得などコミュニケーションの礎であ
る共同注意(Scaife & Bruner, 1975 ; Tomasello, 1995)も発達する。子どもが母親の意図を
理解し始め,共同注意が可能になってくると,指さしなどが出現し,母親と共有しようと
する場面がみられるようになってくる(Tomasello, 1995)。そして,母子が場面を共有する
ことを通し,子どもと対象の相互作用を母親が媒介する 3 項関係へと発達する。これは絵
本の読み聞かせにおいてもよくみられる行為である。
石崎(1996)は,実際に母子相互行為の会話パターンを絵本の読み聞かせ場面において検討
している。その結果,最初は母親主導型であったのが,子どもが 2 歳になるころから,母
親主導のみではなく,母子交代型が成立していると述べている。母親は子どもが能動的に
参加する足場を作り,次第に子どもが中心となって活動していくように導いているという
ことが示唆されている。
さらに読み聞かせ場面における母子相互行為として,棚橋・阿部・林(2005)は,文字を読
むことが出来ない子どもにとって,絵本を楽しむための橋渡しをしてくれる媒介者の存在
が必要であると述べている。媒介者としての大人が感じ取った「絵本の世界」は子どもに

3
伝わり,今度は子どもの感じ取った世界が大人に跳ね返ってくる。子ども独特の面白い読
みに大人も笑ったり共感し,絵本の世界を共有する楽しさが生まれると,大人は媒介者と
してだけでなく,一緒に絵本を楽しむ同志となる。子どもだけでなく大人にとっても,そ
れは至福のひと時となり,絵本を楽しむ醍醐味となることが示唆されている。
また,ブックスタートプロジェクトのパイロットスタディとして 3 歳までの乳幼児の追
跡調査を行った秋田(2004)の研究において,生後 4,5 ヵ月の赤ちゃんは追視が生じてくる
時期であり,赤ちゃんは絵本をじっと見ようとしており,赤ちゃんが養育者の読み声の心
地よさを聞いて楽しむことが指摘されている。そして,1 歳半の乳児の親 279 人に子どもの
様子をたずねた結果,絵本経験頻度の高い家庭と低い家庭では,絵本経験頻度が低い家庭
では,子どもが「なめる・かじる」
「集中しない」頻度が高く,反対に経験頻度が高いと「子
どもがじっと見る」などの集中や,
「絵本の言葉の繰り返し」,
「擬音語擬態語をまねる」と
いった言語反応や「指さし」,「登場人物と同じ身振り」をするという非言語活動を行って
おり「同じ絵本を何度も見ようとする」行動の頻度が高いことが指摘されている。乳児は
まず絵本をものとしてかじってみたり,さわってみたりするが,その後指さしや身振りな
ど,自らの身体を介して絵本の絵に関わり,そして絵本に描かれた言葉に出会い,こうし
た過程をどの家庭においても 2,3 歳ごろまでに通り,経験によってそれらの行動が消失し
ていることが示されている。このような経験を通して子どもは絵本の楽しみを感じ取り,
絵本の世界を母親と共有しながら我がものとしていくと言えよう。
読み聞かせ場面が母子のコミュニケーションの場となっていることと,さらに子どもの
年齢の特徴も示した横山(1997)の研究では,3 歳~4 歳代の子ども 4 名(男女各 2 名)とその
母親に,各家庭で日常的に行われている就寝前の読み聞かせを 1 年間カセットテープに録
音し,その対話をカテゴリーに分け分析したところ,日常的に行われている絵本の読み聞
かせ場面では,子どもにとって,単に絵本の内容を伝える場としてのみではなく,絵本を
挟んで母子が向き合い,子どもの興味に応じて,また登場人物に自分や家族を重ね合わせ
たり,時に子どもの日常や過去を振り返りながら,様々な対話が交わされるコミュニケー
ションの場として機能していることが明らかにされている。また,3~4 歳代の読み聞かせ
の特徴として,多様なやり取りが交わされ,特に 4 歳代に入ると絵本のストーリー以外の
対話が活発になることが示唆された。
また,母親の読み聞かせ方にも年齢によって差がみられることが,秋田・無藤(1996)
の研究の第 2 調査によって指摘されており,その研究によると,母親の絵本の読み聞かせ
方と子どもの年齢に伴う変化がみられ,子どもとの話し合いや内容の説明を重視する「会
話型」の読み聞かせ方と,読めるところは子どもに読ませたり,1 人で読めるように読み方
を教える「一人読み促進型」の読み聞かせ方という 2 タイプの読み聞かせ方が抽出され,
「一
人読み促進型」よりは「会話型」の読み聞かせのほうが 3 歳から 6 歳頃の幼児期に全般的
に行われることが多いこと,横断的に年齢変化を見ると「会話型」の読み聞かせは年長児
になると次第に減少し,
「一人読み促進型」の読み聞かせは増えていくという変化,子ども

4
の発達に合わせて読み聞かせ方が変わっていくことが示唆された,という報告がなされて
いる。
また,母親の読み聞かせ方だけでなく母子相互作用の対話を通した子どもの語りに焦点
をあてた,黒川(2009)の研究では,2 歳と 4 歳の子どもとその母親 10 組を対象に,母から
子どもへ子どもの気に入っている絵本を読み聞かせる「読み聞かせ場面」と子どもが語り
手となる「発展場面」を設定し,各場面をビデオ録画により記録し,母子対話の中で発展
「読み聞かせ場面」では 2 歳児
する子どもの「語り」の発達的変化を検討した。その結果,
は 4 歳児に比べ,絵本を介しての母子相互作用が活発であり,対話の中での母子の「共同
作業」としての 2 歳児の「語り」がみられ,4 歳児は母親と目に見える活発な相互作用は見
られないが,ストーリーを視線で追うなど内言活動が活発で,母親の「足場かけ」による
「語り」の形成,さらに言語だけでなく,動作を伴う多様な表現がみられ,4 歳児は考えな
がら語る「自己内対話」や文字を意識した「語り」が特徴的で,母親だけでなく不特定多
数への「語り」へつながることが示唆された。
これらのことから,絵本の読み聞かせをするさい,子どもの年齢によって母親は読み聞
かせ方を変化させ,それに伴い子どもとのやりとりにも年齢によって変化がみられること
が示された。そして,子どもが母親の媒介を通して,絵本からどのように情報を受け取っ
ているかをみるためには,黒川のように読み聞かせ場面だけでなく,その後の絵本を題材
として子どもが語り手となる「発展場面」も含める必要があると考えられる。
以上のように母子の相互作用としての絵本の読み聞かせに関する先行研究を外観したが
これらのことから,母子が共有している絵本の読み聞かせ場面の構造は,Vygotsky(1978)
の 3 項関係の典型的事例であるといえよう。Vygotsky の 3 項関係とは,田島(1996)による
と,
『人間が外界の対象に働きかけるときに道具使用(媒介)が単に活動を容易にするとい
うのではなく,道具使用が活動そのものを変形し,形作る,という意味で,人間の活動は
その媒体を考慮することなくしては理解できず,そのため人間活動は「主体-対象」とい
う二者関係ではなく,「主体-媒体(道具)-対象」という 3 者関係(3 項関係)と捉えな
ければならないこと。その意味で,
「道具に媒介された行為」は,人間活動を捉える上で分
離することのできない最小の分析単位とみなされるべきこと』であると述べている。つま
り,子どもが主体,対象が絵本,媒介を母親として,絵本を母子が共有することを通し,
子どもと絵本の相互作用を母親が媒介すると考えられる。この 3 項関係は,言語獲得の中
核となる人間独特の高次精神発達,あるいは文化獲得ないし,文化的学習の必須条件であ
ると捉えられており,子どもの様々な発達の基盤となり,その後の言語発達や認知発達と
関連してくると述べられている(Tomasello, 1986)。そして子どもは,他者や対象から直接
学ぶだけでなく,他者を介して自ら様々な理解を広げることができるようになると言われ
ている(Tomasello, 1995)。
さらにこれらは,Vygotsky(1978)の最近接発達領域の概念とも関連していると思われる。
子どもの発達には,現在のレベルと現在形成中のレベルがあり,現在形成中のレベルは未

5
完成のレベルとして潜在している。おとながその未完成のレベルに気づき,子どもが自力
でできないところを,支援や協力することで,子どもは次第に自力でできるようになって
いく。このことから,母子の絵本の読み聞かせが母子の共有場面であり,子どもの発達の
足場となっていると考えられるが,絵本の読み聞かせの構造について実証的に検討してい
る研究は少なく,絵本の読み聞かせの構造について実証的に明らかにすることは意義深い
ことであると言えよう。

ⅱ)母子相互行為の機能モデル
上記の L.S.Vygotsky の 3 項関係を,Cole(1996)のモデルに当てはめてみる(Figure 2-1
参照)。このモデルはどのような機能を果たしているのかというと,「子どもは母を介して
世界と相互作用することができる」ということを「A 」の図は表しており,
「B 」は「母は
絵本を通して世界との相互作用を媒介することができる」こと,そして「C 」は,
「子ども
が絵本を介して世界と相互作用することができる」というのが目標構造を表している。こ
の「C 」を可能にするためには A と B のシステムが存在していることを前提に,「A’:子
どもと世界の相互作用を母親が媒介し」
,「B’:母親は次に,絵本を用いて世界との相互作用
を行う」ことにより,子どもは 2 重システムを確立し,世界と絵本による情報を統合し,
目標の「C 」が獲得され「C’ 」になっていくと考えられる。これが絵本の読み聞かせの機
能のモデルであり,この絵本の読み聞かせの機能によって子どもは様々なものを獲得して
いくと考えられる。それでは,このような機能をもつ絵本の読み聞かせによる母子相互行
為は実際に子どもの発達にどのような意義をもたらすのであろうか。第 2 節において,読
み聞かせの構造と機能が子どもの発達にどのような意義をもたらすのかを先行研究と照ら
しあわせて概観していく。

6
Figure 2-1 Cole(1996)のモデル

7
第2節 読み聞かせの構造と機能の発達及び子どもの発達への影響

に関する先行研究

2-1 読み聞かせの構造と機能が子どもの発達に対してもつ意義および関連研究
読み聞かせが子どもの発達に対してもつ意義として,幼稚園教育要領(1998)では,「絵本
に親しむことによって,想像する楽しさを味わったり,イメージや言葉に対する感覚を養
う,保育者や友達と心を通わせる」ことが書かれている。実際に 4 ヵ月児の親 460 人(男
性 227 人,女性 232 人)を対象に質問紙調査を行った横山・秋田(2002)の研究では,
「子ど
ものゆったりとした情緒的な結びつきを大切にすること」を意義としてあげている。また
秋田・無藤(1996)の研究では,母親 293 名,年長児 118 名(男 64,女 54)
,年中児 120 名
(男 58,女 61)
,年少児の母親(男 32,女 22,不明1)を対象に質問紙調査を行ったとこ
ろ,幼児の母親の多くは「空想・ふれあい」という読み聞かせ過程の内生的意義や,
「本好
き・楽しむ」という感情的側面を重視していることが示されている。この結果より,
「空想
したり,また親子のふれあいをする」ことと「文字を覚え,文章を読む力や生活に必要な
知識を身につける」という 2 種類の意義を読み聞かせの意義としてあげている。これらの
ことから読み聞かせの意義は,大きく分けて「親子のふれあい」と「文字などの知識を身
につける」という 2 つがあると考えられる。
まず,その「親子のふれあい」としての意義に関連して,佐々木(2004)は,絵本の読み聞か
せの意義は,「絵本をめくりながら表情を通して,視線を通して,言葉の抑揚・音韻・リズ
ムを通して向き合う者の二つの心は通じ合い,その繰り返しの中でお互いの理解と信頼は
育まれていく。このことは,同じ経験内容を分かち合うことが可能になるための,コミュ
ニケーション回路を開発する」と述べている。
また,川井・高橋・古橋(2008)の研究では,幼稚園で「絵本の読み聞かせボランティア活
動」を実施している保護者へのインタビューをし,その結果,本の読み聞かせを行った親
子では,そうでない親子と比べ親子間の話題や身体接触を含むコミュニケーションの増加
が顕著にみられ,親子の絆を深め,本への親近感を増やし,知的な好奇心をもたらすこと
が明らかになった,という報告がなされている。
次に「文字などの知識を身につける」という意義に関連して,秋田ら(2004)は愛着尺度を
用いて値の高い親子と低い親子での読み聞かせによる言葉のやりとりの相違を検討した。
その結果,愛着が安定していると,「子どもの声をきく」「子どもの声や話を復唱する」と
いうように子どもの声を受け入れ応じながら,そこに「説明を加える」「生活経験を話す」
「身振り手振り」をつけるなどをして楽しんでいることが示され,子どもを主体にしなが
らも絵本を介して対話をしていることが示唆されている。
これらのことから,絵本の読み聞かせ場面は,母子が一つの絵本を共有するという母子

8
の共有場面であり,絵本を介し親子の良好なコミュニケーションがなされるための最適の
場であり,読み聞かせが親子のふれあいや情緒的コミュニケーションを促し親子の絆をふ
かめ,また本への興味を増やし知的好奇心を子にもたらし,それによって文字を覚え,言
語発達につながっていくと考えられる。実際に,絵本の読み聞かせと子どもの言語発達と
の関連は,1970 年代後半より多くの研究者によって報告されている(石川・前川,2000)。
それでは具体的に絵本の読み聞かせは子どもの言語発達にどのような影響を与えているの
であろうか。その知見をみていく。

9
2-2 絵本の読み聞かせと子どもの言語発達について
言語の基本形式というのは,話しことばによる相互行為が基本であり(Vygotsky, 2001),
子どもが言語を獲得するには,身近な養育者との相互作用,養育者のことばかけが極めて
重要な役割を果たしている(岩立・小椋, 2002)。そして,その基盤となる生後 9 ヵ月頃に成
立するといわれている母子の共同注意がみられることで,身振りでのコミュニケーション
や大人の模倣が可能となり,この共同注意が言語発達に大きく貢献すると考えられている
(Tomasello, 1995)。この共同注意行動は,Bruner (1983)によると,「対象に対する注意を
他者と共有する行動」であり,2 つの段階があると説明している。第 1 段階は生後 2 ヵ月の
ころで,乳児が養育者と直接視線を合わせる行動で,この段階は,乳児と養育者の 2 者間
での相互による注意の共有であり,注意共有の主導権は養育者であることが特徴である。
それに対して第 2 段階の 6,7 ヵ月以降では,ひとつの対象や出来事を乳児と養育者が一
緒に見るといった共同注意行動も成立するようになり,母子が 1 つの対象を見るという 3
者間での注意の共有であることが特徴である。そしてその主導権を乳児の側でももてるよ
うになることも第 2 段階の特徴であり,これがより確定的になるのは,指さし行動が見ら
れ始める 9 ヵ月から 1 歳の頃といわれている。そしてこの他者との注意の共有を基盤とし,
乳幼児の言語的コミュニケーションの発達へとつながっていくのである。言語的コミュニ
ケーションにはジェスチャーや発話などがあるが,発話は語いからなっており語いの学習
が不可欠である(吉田,2011)。Tomasello(1995)は,語い獲得は,先行,基礎,促進の 3 つ
のプロセスを経るとしている。先行プロセスとは,乳児の発話の分割処理と指示対象の概
念化である。モノや出来事についての感覚運動的相互行為によって,対象の理解である概
念化が進むのである。基礎プロセスとは,共同注意というおとなと子どもの共通のコミュ
ニケーションの土台を確立し,おとなの伝達の意図を理解する。促進プロセスは,語の対
比(同義語の対比較)と言語的文脈の理解が中心となる。よく似た 2 つの語の使い方の違
いを聞くことによって,2 つの語の示す概念が異なる広がりをもつことを理解するようにな
る。このようなプロセスを経て語の学習がほぼ完成する。このような語い獲得の背景にあ
るのはどのようなものなのか。
Cole, M. (1996) は,
「子どもが言語的コミュニケーションを得るためには,言葉を聞くだ
けでなく,その言葉が役だっている活動に参加しなければならず,日常的な活動において
言語は,互いの協調的な関係をつくり維持し,身振りと他の行為との間のギャップを埋め,
さらに予想や解釈を微調整することができるための必須の手段である。おとなは,子ども
が言語によって媒介される文化的に組織化された活動に参加するよう手はずを整え,それ
が可能になるようにすべきである。
」と述べている。この言語獲得のために必要な条件とし
て,Bruner(1988)は,人間には言語獲得の過程において社会的な相互作用を重視し,言語
獲得援助システム=LASS(Language Acquisition Support System)が備わっているとし
ている。養育者は子どもが言葉の機能,語い,統語的規則を発見しやすいように様々な手
がかりを与え,言語獲得の足場となるコミュニケーションの場を作っている。

10
さらに Bruner(1988)は,子どもが自分自身のコミュニケーションの意図を示し,他人の
意図をどのように図ればいいかを理解出来るようになるためには,そしてコミュニケーシ
ョンから発話へと連続するためには大人の発話や初期の発話の相互作用を調整する言語的
コミュニティが重要だとし,これを助ける媒体がフォーマット,つまり大人とこどもとが
共応して言語を伝え合うことが出来るようにするパターン化された場面であると考えた。
そしてその場面として,よく使用されているのが絵本の読み聞かせ場面であると考えられ
る。
フォーマット(型・形式の意味)とは,日常的な反復される相互作用のパターンであり,
それにのっとっておとなと子どもとは,お互いにあるいはものと,何かを行う。フォーマ
ットは,語い文法的発話の前に現れるため,それは,コミュニケーションから言語への過
程における重要な媒体となると考えられる。
実際に絵本場面での調査を行った Ninio & Bruner (1978)は,母親と 8 ヵ月から 1 歳 6 ヵ
月になるまでの子ども達を対象とし,絵本の読み聞かせ場面での母子のやりとりを縦断的
に調査した結果,母親の読み聞かせの仕方には一定のフォーマットが形成されており,母
親の会話は「注意喚起」
(みて!)
,「質問」(これは何?),
「ラベル付け」(それは○○よ),
(そうね)という 4 つの基本的会話に分類されるということを報告して
「フィードバック」
いる。そしてこのフォーマットは,言語発達や会話のやりとりを促すのに適した方法であ
ると考えられる。
さらに Ninio(1983)は,このフォーマットを語い教授フォーマットと命名し,1 歳 5 ヵ月
から 1 歳 10 ヵ月までの子どもと母親 20 組を対象として横断的に読み聞かせ場面の調査を
行った。その調査で,子どもがラベリングをすることができなかったものが再び現れると,
母親は自らラベリングをして,子どもに対し言ってみせるという行動が現れたが,子ども
が以前にラベリングをすることができたものには,
「これは何?」という質問を行ったりし
て,子どもに答えさせており,母親が教授フォーマットを使用・調節し,子どものラベリ
ング能力を産出しているということが認められ,絵本の読み聞かせ時のフォーマットが子
どもの語い獲得に影響していると主張した。
それに対し外山(1989)は,1 歳 5 ヵ月から 2 歳 2 ヵ月までの間の子どもとその母親 5 組を
対象に読み聞かせ場面を縦断的に調査した結果,絵本の読み聞かせにおいて,子どものラ
ベリングの正誤に関係なく,母親自らがラベリングを行う傾向にあり,母親が自分のペー
スで読み進めていく過程に子どもが自然と巻き込まれて名称を獲得していくこと,子ども
は絵本の読み聞かせ場面でのやりとりを通じて絵本の読み方のみならず,文化的諸要素を
習得していくということを示している。
また,村瀬・マユー・小椋・山下・Dale (1998)らは,10,12,15,18,21,24,27 ヵ
月の子どもとその母親 66 組を対象に,横断的に 3 冊の絵本を介して母子の会話を 5 分間観
察した。その結果,絵本場面での母子によるラベリングにおいて,子どもは月齢の増大と
共に,母親からの援助が少ないもとでのラベリング遂行者となり,母親は子どもの月齢増

11
大とともに,足場作りの度合いを弱め,より複雑な会話構造へ子どものラベリングを組み
込むという教授法をとる,ということを明らかにした。
さらに石崎(1984)は,1~3 歳の各 8 組の母子を対象に 4 冊の絵本での相互交渉場面を分
析し,1 歳児では「物の名前」が話題の中心であったが,2 歳児では「行動」に関する話題
が中心となり,3 歳児ではさらに話題の幅が広がっていくことを明らかにしている。そして,
絵本の読み聞かせ場面において母親はコミュニケーションを通じて子どもの語い発達を促
すフォーマットを作り,子どもの月齢の増大と共にそのフォーマットは変化していくとい
うことを示唆している。
これらのことから,絵本の読み聞かせ場面が子どもの語い獲得を促す足場を作り易い場
面であると考えられる。
これらの研究以外にも絵本の読み聞かせが母子の行動と子どもの語い発達へどのような
関連があるのかを年齢ごとに検討したものとして岩崎・田島・佐々木(2010)の研究がある。

この研究では,1 歳,3 歳,5 歳児とその母親 47 組を対象に,子どものお気に入りの絵


本を使用し,読み聞かせ場面における,母親の行動や子どもの行動および言語発達との関
係について母子の行動評定と語い発達(表出言語,理解言語,言語概念)の指標として KIDS
乳幼児発達スケールを使用して分析を行った。その結果, 1 歳児では,母親の足場作り行
動が多いほど子どものスムーズなやりとり行動が多くなり,母親の子どもを尊重する行動
が多いほど子どもの積極的行動も多くなることが認められており,母子相互交渉がより活
性化されていることが示唆されている。母親の行動と子どもの言語発達指標との関連にお
いては,母親の子どもを尊重する行動が多いほど,子どもの理解言語,表出言語,概念得
点が高くなることが示されている。母親は子どもを尊重した読み聞かせをすることにより,
子どもは,自分のペースで絵本に接することができるようになる。その結果,やりとりを
通じて自己の内部に他者とのやりとりを内面化するという自己内対話活動(Vygotsky,
2001)が起こり,言語発達へとつながっていくことが示唆された。1 歳児の読み聞かせ場面
は,構造的には母親と子どもがやりとりを通じて絵本を共有する共同注視の場面(Tomasello,
2006)であることが示唆されている。
3 歳児においては,1 歳児と違い,母親の足場作り行動および子どもを尊重した読み聞か
せ行動をしない方が,子どもの積極的参加行動が多くなることが認められている。母親の
行動と子どもの言語発達指標との関連においては,母親が子どもを尊重した読み聞かせを
しない方が,子どもの理解言語,表出言語,概念得点が高くなることが示されている。こ
のことから,3 歳児は自己内対話活動が活発に始まるため(Vygotsky,2001),母親は働きか
けを多くせず,淡々と読み聞かせをした方が,子どもの自己内対話活動が活発になり,言
語発達の基盤となっていくためではないかということが示唆されている。
5 歳児においては,3 歳児と同様に,母親が足場作り的な読み方をしない方が,子どもの
積極的参加行動が多くなることが認められている。母親の行動と言語発達指標との関連に

12
おいては,母親が子どもを尊重した読み方をしない方が,子どもの理解言語,表出言語得
点が高くなることが認められた。ただし,言語概念得点のみにおいては,母親が子どもを
尊重した方が,子どもの言語概念得点も高くなることが認められた。これは,5 歳児は自己
内対話活動と社会的対話を上手く使いこなしているため,子どもが自己内対活動をしてい
るときは,母親は足場作りや子どもを尊重しない読み聞かせ方をし,子どもが社会的対話
をしているときは,母子相互交渉が活発になっているので,子どもを尊重した読み聞かせ
をした方が,子どもの言語発達の基盤となっていくということが示唆されている。
また岩崎ら(2010)と一部同じ調査者を含む,田島ら(2010)の研究においても,1 歳,3 歳,
5 歳児とその母親計 53 ペアを対象に,乳幼児期における読み聞かせ活動の在り方の変容過
程と母子行動の変化との関連,子どもの認知的発達との関連について明らかにするために,
読み聞かせに関する質問紙による検討が行われている。その結果 1 歳児では,母親が何か
を教えようとする関わりである教育的志向をもって読み聞かせを行った方が,子どもは言
語を介した自己制御の獲得が増加することが示されている。これは,母親が子どもに読め
るところは子どもに読ませたり,字に注目させたり教えながら読むといった教育的志向に
基づく読み聞かせを行うことで子どもが絵本に興味をもつようになったり,新しい言葉が
わかったり,泣いたり癇癪をおこすことが少なくなるといった言語を介した自己制御の獲
得が多くなることを示している。このことから,1 歳は社会的対話プロセスが内部に内面化
されていく段階であることが報告されている。3 歳児と 5 歳児においては,母親の教育的志
向の低さが,子どもの言語を介した自己制御の獲得を増加させていることが認められてお
り,このことから子どもの内部での自己内対話活動が促進される段階であるということが
主張されている。さらにこの研究では,
「歌いかけ・読み聞かせ活動の構造と機能の発達過
程」を明らかにすることに着手し,
「2 段階・5 ステップ」の発達モデルを提起している(Table
2-1)。
この「2 段階・5 ステップ」発達モデルを詳細にみていくと,第 1 段階のステップ 1 の 0
歳代は前半と後半にわけられ,0 歳代前半をステップ 1-1「母子一体感をベースとした 2
,ステップ 1-2「共同注視の形成作りの時期」としている。これ
項関係の形成作りの時期」
は,前半は 2 項関係における母子一体感を楽しませる働きをもちながら,後半は共同注視
の形成作りに焦点化した働きが想定されているためである。ステップ 2 の 1 歳代において
「言語刺激の自己内対話的再構成の時期」としている。これは,ステップ 1 を基盤とし
は,
て,両活動ともに,共同行為で共有された言語刺激が,次第に子ども自身の内部に内面化
され始める状況が想定されているためである。
第 2 段階のステップ 3 の 2 歳代では,共有した言語刺激の自己内再構成を通して,さら
なることばの意識化・対象化とことばを使った自己表現活動の展開が想定されている。ス
テップ 4 の 3 歳代では,機能としてはステップ 3 と変わらないが,ステップ 3 に比べると
より個人的活動に重点がおかれている。ステップ 5-1 の 4 歳台では,ステップ 3 に比べて
個人的活動と自己表現活動を通した社会的活動の調整を計る行動が想定されている。そし

13
てステップ 5-2 の 5 歳代以降において,読み聞かせ活動がもつ機能(言語リテラシーの獲
得)が完成するとともに,積極的に社会的活動を展開していく時期を迎えると想定されて
おり,この「2 段階・5 ステップ」という段階を踏んで発達していくことの普遍性を仮定し
ている。本研究においても,大まかにはこの 2 段階・5 ステップモデルに沿った発達をして
いくと仮定することとする。
以上の研究や理論から,絵本の読み聞かせ場面は,母親が子どもの語い獲得を促すフォ
ーマットを作りやすい場面であり,子どもは母親とのコミュニケーションを通じて語いを
獲得していくと言えよう。そしてそのフォーマットは子どもの年齢に応じて変化していく
ものであると言えよう。しかし,読み聞かせ時の母親のフォーマットは直接子どもの語い
発達に影響するのであろうか。母親がフォーマットを作っても,子どもの方がそれを受け
取らなければ,子どもに影響を与えないのではないだろうか。母親がフォーマットを作り,
子どもと共有するためには,それを成立させるためのものが必要なのではないか。この謎
を紐とくものとして Vygotsky(2001)の一般的発生原理にそって考えてみたい。
Vygotsky(2001)は,理論の大前提として,人間独特の高次精神活動は文化獲得ないし文
化的学習であるととらえ,個人の発達を理解するためには,その個人の社会的関係を理解
しなければならないと述べている。この理論によれば,
「子どものことばというものは,精
神間的機能から精神内的機能への,すなわち,子どもの社会的集団的活動形式から個人的
機能への移行現象の一つである。これらの機能は,最初は,共同活動の形式として発生し,
その後でのみ,子どもによって自分自身の精神活動の形式に移される。」としている。また
田島(2003)においても,「子どもの文化的発達におけるすべての機能は,2 度,2 つの水準
に現れる。最初は社会的水準であり,後に心理的水準に,すなわち,最初は精神間機能と
して人々との間に現れ,後に精神内機能として子どもの内部に現れる」としている。つま
り,まず,母子間で実際のやりとりが行われ(精神間機能)
,子どもは次第にこのやりとり
を自分の中に取り込み,心内化し,頭の中で母とのやりとりを想定して自分ひとりで行動
できるようになってくる。そして今度は頭の中でもう一人の自分とのやりとりをしながら
(精神内機能)行動するようになるのである。この精神内機能を自己内対話活動(Vygotsky,
2001)といい,母親がフォーマットを作り子どもと共有するために必要なものであると考え
られる。そしてこの自己内対話活動の出現には母親とのやりとりである対人関係の成立が
重要であり,そのためには母子で対人関係が成立する基盤として,言語獲得以前にみられ
る前言語的コミュニケーションの重要性が指摘されている(岩立・小椋,2002)。
以上のことから,前述の母子相互行為の研究からの知見も含め,まず母子相互行為にお
ける読み聞かせによって前言語的なコミュニケーションが行われ,その後のコミュニケー
ションの成立につながるような相互作用のパターンがでてくる(岩立・小椋,2002)ことで対
人関係が成立する。そしてその対人関係を基盤として自己内対話活動がおこることで,は
じめて子どもの語い発達へとつながっていくのではないかと考えられる。子どもの自己内
対話活動,そして子どもの語い発達へと影響するための媒介物として,子どもの対人関係

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を作る前言語的コミュニケーションの発達があるのではないだろうか。次より,この前言
語的コミュニケーションの発達について概観していく。

Table 2-1 読み聞かせの構造・機能の発達段階 (田島ら, 2010)


<母子一体感をベースとした二項関係の体制作りの時期>
0歳代前半 母の語りかけや読み聞かせが子どもの注意や興味を引き、
母子の共鳴的発声やバブリングを通したやりとりを通して
母子の一体感を楽しむ。
Step1 <共同注視の体制作りの時期>
0歳代後半 本を介した対話的交流で、社会的対話・共同行為を通して
第1段階 母子が共同で世界をみるための体制(共同注視)を構築すると共に
母子の絆を完成させる。
<言語刺激の自己内対話的再構成>
読み聞かせ(親と子が本を介して共同で”実体験”に世界を見る行為)が、
Step2 1歳代
子の内部に内面化されつつある「自己内対話」のプロセスの段階(母語の
獲得が盛んになる)
<「言葉の対象化」と象徴遊びへの展開>
自己内対話的再構成の定着を基盤に、
Step3 2歳代
ことばそのものへの興味・関心が生まれ、本の内容の描画や
ごっこ遊びなどの象徴的活動・自己表現活動が盛んになる
<脱文脈的ことばの獲得と「素語り」活動への展開>
Step4 3歳代 物語を全場面を通して語る「素語り」活動や、作品活動などにより、
文脈に埋め込まれたことばが次第に脱文脈化されてくる。
第2段階 <文字を介した読書活動への展開>
絵日記活動などを通して、文字が描画などと同じ自己表現活動の
4歳代以降
一手段として定着し、読書が「自分自身への読み聞かせ」活動として
機能し始める。
Step5 <言語リテラシー獲得の完成の時期>
読書に必要な言語リテラシー能力の獲得が果たされるとともに、
5歳代以降
読書で蓄えられた認識や言語操作能力・知識を使って、
社会的なコミュニケーション能力の向上へとつながる。

15
2-3 絵本の読み聞かせと前言語的コミュニケーションとしての子どもの社会
情動的発達について
言語発達の前段階として,言語獲得以前にみられる前言語的コミュニケーションの重要
性が指摘されており,この前言語的コミュニケーションによって,その後のコミュニケー
ションの成立に必要な相互作用のパターンが生まれるのである(岩立・小椋,2002)。
そしてこのコミュニケーションの発達を促進するために,情動の共有を促すことが必要
であると捉えた吉井・長崎(2002)の研究では,自閉症児を対象にボールのやりとりゲームの
習得を目的とした情動を喚起させる援助をしながら,ボールのやりとりの始発を促す援助
をおこなった。その結果,ボールのやりとりの中で情動の共有が生じることが分かり,コ
ミュニケーションの発達の促進に加え,他者理解の発達を促進する役割があることが示唆
されている。このことから,前言語的コミュニケーションの発達を促進させるものとして
情動の発達が考えられ,その中でも他者との相互行為である社会情動的発達の存在に本研
究では焦点をあてたい。
一般的な子どもの社会情動的発達のプロセスは,まず乳児は生後 3 ヵ月ごろになると,3
ヵ月微笑(Spitz, 1965)がおこり,子どもと母親とがお互いに微笑みあうことで,一体感を感
じ,気持ちがつながったという経験となり情動が共有される。生後半年ごろになると,養
育者が自らの情動を変化させることによって,子どもの情動状態を養育者のねらうところ
にもっていこうとする無意識な活動である情動調律(Stern, 1985 ; 1989)が始まる。例えば,
子どもが泣くと,母親は子どもをあやすなどして注意喚起を行なう,すると子どもは泣き
やむ,などである。そして子どもが 9 ヵ月から 11 ヵ月頃になると,微笑みあいといったお
互いの情動を分かち合えるようになる第 1 次間主観性や,お互いに相手の意図を分かりあ
うやりとりといった第 2 次間主観性などの間主観性(Trevarthen, 1978),共同注意(Bruner,
1983 ; Tomasello, 2006)が発達し,情動を子どもと母親とで共有していく。また母親は,子
どものシグナルに感度良く気づき,その意味を正しく読み取ったり,母親が子どもの働き
かけにすぐに気付き,適した応答をするといった母親の感受性(maternal
sensitivity)(Ainsworth, Blehar, Waters, & Wall, 1978)が強くなることで,子どもの情動調
整の手がかりとなる母親の情動の存在が確立する。快,不快なものも含めて母親が情動に
応答的であることを繰り返すことで,子どもは情動調整の仕方を学び(Robinson, Emde, &
Korfmacher, 1997),子どもは適応のために,情動をうまく機能させるような健全なコミュ
ニケーションのやり方を獲得する(Campos & Barrett, 1984)。そして Stern(1989)は,この
時期に母子間で情動を共有することは,主に親による乳児への「映し出し」や共感的対応
をさし,乳児は自分の情動状態を認識することができると述べている。このような情動的
なコミュニケーションを通して子どもは養育者(母親)との初期の愛着関係を内的ワーキ
ングモデルとして内在化し(Bowlby, 1973),その後の対人関係の基となり(Damasio,2000)
子どもの社会情動は発達していく。
この社会情動的コミュニケーション発達を Saarni ら(2006)は,4 段階に分けている。ま

16
ず第 1 段階の生後 6 週間では情動的な抑揚のある発話への反応や,マザリ-ズ的な語りか
けにより,目を見開くなどの反応がみられる。 次に第 2 段階の 6 週間~6 ヵ月で 2 項関係
が成立し,母子の情動のやりとりに同調性がみられる。第 3 段階の 6 ヵ月~18 ヵ月になる
と 3 項関係が成立し,他者からの情動的な働きかけによる影響力が続き,行動調整の発達
がみられ,第 4 段階の 18 ヵ月以降になると他者の情動や意図に気づき始め他者の情動理解
の発達がみられる。また,大村ら(1989)は,この情動的コミュニケーション(対人関係)を
「対子ども社会性」と「対成人社会性」の 2 つに分類している。対子ども社会性(1 歳~)
とは,自分の欲求がほぼ全面的に受け入れられる親子関係とは異なり,仲間関係によって
「人の欲求とぶつかり合う」という経験を通して他人との協調行動を獲得していく発達,
対成人社会性(0 歳~)を,生まれてからすぐに親との関わりを持ち,自分とは異なる人と
の生活に適応するための方法を獲得していく発達としている。そしてこの情動的コミュニ
ケーションの行動の一つとして情動調整行動があげられる。
情動調整とは,須田(1999)によると,
「子どもが外界との関係を変化させながら自立的に
自身の身体システムを環境に適応させていく働きを指す」としている。この情動調整には,
外に表された行動,主観的体験,生物・生理的状態がシステムとして自己組織的に変化を
続けていく過程があり,実際には外に表された行動を観察して,コミュニケーションの機
能(対人的機能),対自然・対物的調整の機能,身体調整の機能を推定することができる。
須田はこのことから,情動調整として外に表された行動を,
「自己刺激(身体調整)系」
,「表
情・音色系」,
「身体動作系(道具的行動といえるもの)」
,「シンボル・言語系」の 4 群に分
けている。「自己刺激系」とは,自己刺激性のフィードバックをもたらす行動形態をとり,
自己沈静のために機能する。例えば手によって体をかいたりいじったりする「自己刺激」
や,「自分の体を触るという行動」である。「顔の表情・声の音色系」は,乳児初期からみ
られる顔の表情や声の音色などの情動表出である。
「身体動作系」とは,手や体の動作に見
られ,筋を用いた運動系の発達と周囲の情報に対する認知の発達とが関係して生まれた行
動系と考えられる。その起源はもともと「新生児反射」であった生得的な反射が,やがて
認知によって制御され循環的な繰り返しとして用いられるようになる乳児初期に遡る。こ
の行動の一部は乳児期からすでに情動的に動機づけられており,例えば寝返りできない乳
児も母親が近づいてくると,からだをバタバタさせるなどの行為である。そして生後 9 ヵ
月ごろから,動作系には意図的な性質がでてくる。この種の動作は,意志の表現として観
察されてきたが,認知の発達に助けられ,運動の随意的な制御が進んだことによりできる
ようになったものと考えられる。例えば,恐いときに顔を手で隠したり逃げたりする行動
「シンボル・言語系」は,生後 9 ヵ月ごろから出てくる動作の摸倣,おいでおいで
である。
のようなジェスチャー,発声摸倣のような象徴(シンボル)とともに,有意味語(言語)
などを指す。
また,Cole& Dennis(2004)によれば「情動調整」とは,
「喚起された情動に関連する変化
をさすものである。
」としており,これは喚起された情動によって他の心理的プロセスの変

17
化を引き起こすということと,喚起された情動そのものを変化させることの両方を含む。
そしてこの喚起された情動の変化は,
「個人間においても個人内においても生じるものであ
る。」としている。
そしてこれらの子どもの情動調整の前提には,母親の媒介によってしだいに調整的関係
を形成するものであると考えられ,情動調整とは,自己の情動を調整するものであるとと
もに,対人関係へとつながる他者とうまくやる機能でもある(須田, 2002)と言われている。
このような情動調整の発達に母親がどのような役割を果たしているのか検討したものと
して金丸,無藤(2004)の研究がある。この研究によれば,母子葛藤場面における 2 歳児の情
動調整プロセスを子どもの不快情動変化として捉え,2 歳児とその母親 41 組を対象に,母
子葛藤前場面,母子葛藤場面,母子葛藤後場面の 3 つの場面を設け,実験的観察を行って
いる。その結果,2 歳児の情動調整の特徴として,自立的な調整や,原因を排除しようとす
る能動性が可能になり始めるが,不快情動が沈静化するには,母親の助けを必要としてお
り自律性と他律性が混在するということが示唆されている。このことから,母親が子ども
の情動調整の「足場作り」を行う役割を果たしていることがわかる。子どもの情動調整の
発達には足場作りをしてくれる母親が必要であり,その母親とのやりとりの中で情動調整
行動を獲得し,このような母子の情動的コミュニケーションによって社会情動的発達が促
進されるのである。
そしてこの子どもと母親の情動的コミュニケーションの場として,絵本の読み聞かせ場
面が最適の場であると考えられる(古屋・高野・伊藤・市川,2000)

しかし絵本の読み聞かせと子どもの情動発達について検討されているものは,古屋ら
(2000)と磯辺・池田(2002)以外では見当たらない。そしてこれらの研究においても,絵本の
読み聞かせが子どもの情動発達と関連があるということは示唆されているが,母親の情動
には焦点があてられていない。母子相互の情動的コミュニケーションの場としての絵本の
読み聞かせ場面を検討していくためには,子どもの情動のみならず,母親の情動にも焦点
をあて母子相互行為として検討する必要があるであろう。

18
第3章 理論及び先行研究の評価について
以上,母子相互行為としての絵本の読み聞かせが子どもの社会情動的発達を介して語い
発達に与える影響に関する理論や先行研究を外観してきたが,いくつかの問題点があげら
れる。
読み聞かせと言語発達に関する実証的研究として代表的な Ninio & Bruner(1978)の研究
において,母親による絵本の読み聞かせ場面が,子どもの言語発達の枠組みとなるフォー
マットを形成しているということを主張しており,その後,Ninio(1983)は,このフォーマ
ットを語い教授フォーマットと命名し,絵本の読み聞かせは子どもの語い獲得のための足
場作りをしていると示唆している。
しかし,これらの研究の多くは,絵本の読み聞かせ場面を母子相互行為と捉えていなが
らも養育者の発話に焦点があてられており,母親の発話や行動が子どもの発話や行動にど
のように影響し,子どもの語い発達へと関連しているのかというプロセスは捉えられてい
ない。様々な経験が子どもの語い発達に影響を与えていると考えられるが,一体子どもの
語い発達のどのような側面に影響を与えているのかは明らかになっていない。これは情動
発達の先行研究においても言える。母子相互行為としての絵本の読み聞かせにおいて,や
りとりそのものについても,母親の発話や行動は,子どもの発話や行動に影響をあたえて
いる可能性があり,母子の相互交渉によるものなので,子どもの行動や発話も明確にする
必要があるだろう。
「理解-聞く・読む」と「表出-話す・書く」という 2 つの
語い領域には大きく分けて,
領域があり,理解はコミュニケーションの基本であり,乳幼児はまず言語を理解するとこ
ろから始め,次第に話すことへと進み,多くの言語が蓄積されて,初めて話すことができ
る。話し始めるに従って発声の方法やその修正など自分なりの力で獲得していく(大村・
高嶋・山内・橋本,1989)
。この理解言語領域と表出言語領域とともにさらに概念領域とい
うものがある。概念というのは,たとえば「大きい」があらわす意味の場合,その具体的
な大きさにかかわらず,大きいか小さいかという一つの基準を示すことで,見た目はどう
であれその共通性や異質性を理解獲得することである。このように大村らは,語い発達を
「理解言語」 「概念」という分類をしたうえで KIDS 乳幼児発達スケール(以
「表出言語」
下 KIDS とする)を開発している。この点から,読み聞かせが語い発達のどのような側面
に影響を与えているかを明らかにするため,この KIDS を採用することとする。
以上のことから,母子相互行為としての絵本の読み聞かせにおいて,子どもと母親の双
方の発話と行動に焦点をあて,子どもの語い発達のどの側面(表出言語・理解言語・語い
概念)に影響を与えているかということを検討していく必要があろう。
次に,年齢も 0 歳から 4 歳までの研究が多く,しかも 0 歳から 4 歳まで通してみたもの
は殆どなく,また 5 歳以上を対象にした研究も少ない。子どもの発達的変化をみるために
は,そして幼児後期の子どもの語い発達の特殊性(秋田・無藤,1996)をみるためにも,5

19
歳以上の子どもの発話や行動にも焦点をあて,0 歳~5,6 歳まで年齢の幅を広げ,さらに
年齢を通してみる必要があるであろう。
また,従来の絵本の読み聞かせ研究は,黒川(2009)のもの以外では読み聞かせ場面のみ分
析の対象となっていた。しかし読み聞かせが子どもの行動の変化に与える影響をみるため
には,絵本の読み聞かせ場面だけでなく,その後の展開場面も視野にいれなければ,子ど
もの行動の変化をみることはできないのではないか。なぜならば,まず 1 点目として,絵
本の読み聞かせ場面の中だけでは,母親や子どもが絵本から得たものが表出されにくい側
面がある。その絵本の読み聞かせによって得られたものは,その後の展開場面において応
用されるのではないかと考えられる。よって,絵本の読み聞かせによって得たものをその
後の展開場面を通して見ることによって初めて読み聞かせの成果というものが得られるの
ではないだろうか。2 点目としては,読み聞かせ場面に特有な母子相互作用と,展開場面に
特有な母子相互作用があり,2 つの場面では母子相互作用に違いがあるように考えられる。
その違いによって,2 つの場面比較を通して自己内対話という外からでは観察しづらいもの
を見るためにも,展開場面を通してみる必要があるであろう。
さらに,本研究のテーマである,絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす影響に
ついて,より質的に影響過程を明らかにするためには,ケーススタディであってもより詳
細な変化過程をみることが望まれる。そのためには1組の母子の行動を細かくみていく必
要がある。質的にさらに変化過程を詳細にみることができる方法として,縦断データを用
いて横断データの分析結果の補完を行う必要があろう。
Ninio(1983)は,絵本の読み聞かせ時の母親のフォーマットが子どもの語い獲得に影響し
ていると主張しており,石崎は,母親はコミュニケーションを通じて子どもの語い発達を
促すフォーマットを作ると主張している。
しかし,Ninio や石崎の主張のように,絵本の読み聞かせ時の母親のフォーマットがその
まま子どもの語い発達に影響を与えるのだろうか。絵本読み聞かせ時の母親のフォーマッ
トが,直接的に子どもの語い発達に影響しているとは考えにくい。母親のフォーマットが
子どもの語い発達まで影響するにはまだ他の媒介要因が考えられるのではないか。その絵
本の読み聞かせ時の母親のフォーマットが子どもの語い発達に影響するまでに考えられる
こととして,まず絵本の読み聞かせによる母子相互行為を基盤として子どもの社会的な情
動発達によって,母子間で対等な社会情動的な対話ができ対人関係が成立することがあげ
られる。そしてこの母親との対人関係を内面化することで(Vygotsky,2001),子どもは他者
の言葉を自分の言葉として使用し始め,子どもの自己内対話活動(Vygotsky,2001)が起こる。
このような過程で語い発達につながっていくのではないか。絵本の読み聞かせによる母子
相互行為は,社会情動的発達を基盤として子どもの中に内面化され自己内対話活動が活発
化されることで語い発達へと影響していくと考えられるため,社会情動的発達と語い発達
双方を視野にいれて検討する必要がある。
以上のような Vygotsky(2001)の理論から,絵本の読み聞かせは 3 項関係であり母親が絵

20
本と子どもとを媒介し足場作りをすることで,子どもの社会情動的発達を促し対人関係が
成立し,子どもの自己内対話活動が促進され,語い発達に与える影響の大きさが示唆され
る。絵本の読み聞かせ場面は,母子が一つの絵本を共有するという母子の共有場面(佐藤・
内山,2002)であり,絵本を介し親子の良好なコミュニケーションがなされるための最適の
場であり(横山,1997),読み聞かせが親子のふれあいや情緒的コミュニケーションを促し
親子の絆をふかめることで(川井ら,2008)社会情動的発達がおこり,これらのやりとり
を内化し自己内対話活動 Vygotsky (2001)を子どもが行うことで母親の示すフォーマットを
共有することができ,語い発達の基礎となるのではないかと考えられる。
これらのことから,絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に関連していくプロセスとして
「3 項関係である絵本の読み聞かせによる母子相互行為より,子どもの社会情動的コミュニ
ケーションが成立し,社会情動的発達により対人関係が成立する。そのことによって子ど
もの自己内対話活動が起こり,子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセスが
考えられる(Figure 3-1)。

語い発達
自己内対話的活動

社会情動的発達により対人関係が成立

社会情動的コミュニケーションの成立

Figure 3-1 本研究での読み聞かせが語い発達に関連するプロセスモデル

21
第4章 本論文の目的と構成

第1節 目的
以上のことから本研究では,0 歳から 6 歳を通して子どもと母親の双方の発話と行動の変
化に焦点をあて,絵本の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動的発達を介
して,子どもの自己内対話活動が促進され,語い発達のどの側面(表出言語・理解言語・
語い概念)に関連するのか,ということを絵本の読み聞かせ場面と展開場面を通して検討
していく。以下,本論文の目的を 3 つにわけて示す。

(1)絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の横断的な発達的変化について
絵本の読み聞かせとは,田島ら(2010)によると,
“発達初期の子どもと養育者間の「絵本」
を介した記号媒介的相互行為で,養育者の「語りかけ」活動の 1 種”であると定義されて
いる。このような,読み聞かせの構造と機能の検討を行うため, 田島ら(2010)では,1・3・
5 歳児とその母親を対象に,読み聞かせの態度に関する質問紙分析を行った。その結果,1
歳児では,母親が教育的志向をもつことで言語を介した自己制御の獲得が高くなることが
認められた。一方で 3 歳と 5 歳児においては,教育的志向でない方が子どもの言語を介し
た自己制御の獲得が高くなることが認められた。
そこで本研究では,年齢を 0 歳~6 歳まで通して,0 歳から 6 歳に至る変化過程の全体像
を明らかにするため,その中で子どもの年齢を乳児前期(0 歳代)
,乳児後期(1 歳代),幼
児前期(2,3 歳代)
,幼児後期(4,5,6 歳)に分け,母子相互行為がどのように変化して
いくのかを検討する。また,絵本の読み聞かせ場面における母子相互行為の成果をみるた
めに読み聞かせ場面の後に展開場面を設け検討する。

(2)絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達と語い発達との関連について
母親が絵本を介して子どもに語りかけ活動を行い,母子間で相互交渉を通して絵本に描
かれている記号を共有することで,共有されたものが子どもの行動へと反映していく活動
である読み聞かせ活動は,子どもの社会情動的発達と絡み合った語い獲得などの言語発達
(Ninio, 1983)や記号操作能力(Vygotsky, 1934)を中核とした様々な発達に影響を与えている
と考えられる。
そこで本研究においては,子どもの社会情動的発達と子どもの語い発達に焦点を当て,
絵本の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動的コミュニケーションを成立
させ,社会情動的発達により対人関係が成立することによって子どもの自己内対話活動が
起こり,子どもの語い発達へとつながっていくというプロセスを,絵本読み聞かせ場面と
その後の展開場面を設けて検討することを目的とする。

22
(3)絵本の読み聞かせが子どもの社会情動的発達と語い発達に及ぼす縦断的な発
達的変化について
絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす影響過程を明らかにするためには,ケー
ススタディによってより詳細に変化過程をみる必要がある。そのためには,横断データを
補完する形で縦断データの分析も検証する必要があろう。とくに幼児期の語い発達の土台
作りのところに焦点化するため 0 歳から 3 歳代が必要であると考えられる。
そこで本研究では, 0 から 3 歳代の縦断データをもとに, 読み聞かせ場面における母子相
互行為の変化過程を検討するとともに, 母親の読み聞かせが子どもの語い発達と情動調整
にどのように関係しているか検討することを目的とする。

23
第2節 本論文の概念的構成図
本論文の概念的構成図を理論編(Figure 4-1 )と実証編(Figure 4-2 )に分けて示す。

●理論編の構成図

問題意識

背景

• 絵本の読み聞かせとは
• 読み聞かせの構造と機能が子どもの発達に及ぼす意義
(母子相互行為・社会情動的発達・語い発達について)

理論及び先行研究の評価について

目的

• 絵本の読み聞かせによる母子相互行為の発達的変化について
• 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動発達と語い発達との関連
• 読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす縦断的な発達的変化
について

Figure 4-1 本論文における理論編の構成図

24
●実証編の構成図

研究Ⅰ 読み聞かせを通した母子相互行為の横断的な発達的変化について

• 読み聞かせによる母親から見た母子の変化(質問紙分析)
• 読み聞かせ時の母親の行動と子どもの行動の変化(評定分析)

研究Ⅱ 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達と語い発達との関連について

• 読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連
• 評定分析,言語行動分析
(年齢段階ごと読み聞かせ場面と展開場面における変化)
• 読み聞かせと子どもの語い発達との関連
• 評定分析,言語行動分析
(年齢段階ごと読み聞かせ場面と展開場面における変化)

研究Ⅲ 絵本の読み聞かせが子どもの社会情動発達と語い発達に及ぼす
縦断的な発達的変化について
• ケーススタディの縦断研究

結論

• 概要
• 結論と意義
• 今後の課題

Figure 4-2 本論文における実証編の構成図

25
本論

第5章 研究Ⅰ 絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の

横断的な発達的変化について

第1節 読み聞かせによる母親から見た母子の変化

問題と目的
絵本の読み聞かせとは,田島ら(2010)によると,“発達初期の子どもと養育者間の「絵本」
を介した記号媒介的相互行為で,養育者の「語りかけ」活動の 1 種”であると定義されて
いる。このような,読み聞かせの構造と機能の検討を行うため, 田島ら(2010)では,1・3・
5 歳児とその母親を対象に,読み聞かせの態度に関する質問紙分析を行った。その結果,1
歳児では,母親が教育的志向をもつことで言語を介した自己制御の獲得が多くなることが
認められた。一方で 3 歳と 5 歳児においては,教育的志向でない方が子どもの言語を介し
た自己制御の獲得が多くなることが示された。
そこで本研究では,年齢を 0 歳~6 歳まで通して,田島ら(2010)にならい,母子相互行為
がどのように変化していくのかを検討することを目的とする。

方法
調査対象者
関東在住の 0 歳から 6 歳の健常児とその母親計 129 ペアである。
0 歳児 17 名(平均年齢 0 歳 8 ヵ月:男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月:男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月:男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月:男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月:男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 18 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月:男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月:男児 7 名,女児 8 名)

尺度
秋田・無藤(1996)を参考にして作成した「読み聞かせ態度に関する質問紙」
(質問項目は
附録参照)を使用した。4 件法で母親に記入してもらうもので,本研究では,「母親の読み

26
聞かせ方針の在り方」に関する 11 項目と「読み聞かせに関わる子どもの行動の変化」に関
する 11 項目部分を使用した。
(1) 母親の読み聞かせ方針の在り方
①感想を述べるなど、子どもとお話しながら読んでいる
②字に注目させたり、字を教えたりしながら読んでいる
③あまり話しかけたりせず、どんどん読んでいる
④本に出てくる物の名前を教えながら読んでいる
⑤子どもの問いかけに答えながら読んでいる
⑥子どもが好きな本を読んでいる
⑦子どものペースに合わせて読んでいる
⑧声色を変えるなど読み方に工夫しながら読んでいる
⑨子どもが読めるところは、子どもに読ませながら読んでいる
⑩子どもが自分で読もうとするときには、読み方を教えてあげる
⑪子どもがひとりで本を見たり、読んだりしたときにはほめるようにしている

(2) 読み聞かせに関わる子どもの行動の変化
①新しいことばがわかったり、使えたりするようになった
②絵本にでてきたことばを口に出すようになった
③読み聞かせの時、絵本に集中するようになった
④文字に興味を示すようになった
⑤絵本にますます興味を持つようになった
⑥自分の要求をことばにして伝えられるようになった
⑦子どもが泣いたりかんしゃくを起こすことが少なくなった
⑧絵本の内容を「ごっこ遊び」するようになった
⑨絵本の内容を絵に描いたりお話するようになった
⑩経験したことや思ったことを親に話すようになった
⑪子ども一人で絵本を読むことが多くなった

手続き:2008 年 11 月~2010 年 7 月上旬に,対象児の自宅にて記入してもらい郵送にて回収


した。

27
結果
1.母親の読み聞かせ方針の在り方の内容
母親の読み聞かせ方針の在り方の内容を明らかにするために,最尤法・プロマックス回
転による因子分析を行った。その結果,3 因子が抽出された。第 1 因子は「教育的志向」
(α
=.713),第 2 因子は「工夫読み」
(α=.583),第 3 因子は「子のペース」
(α=.731)と
命名した。回転後の全分散を説明する割合は 50.21%であった(Table 5-1)
。各因子に高い
負荷量を示した項目の平均値を算出し「教育的志向得点」「工夫読み得点」「子のペース得
点」とし,
「子どもの年齢ごとの母親の読み聞かせ方針と子どもの行動の変化との関連」の
分析の独立変数として用いた。

Table 5-1 母親の読み聞かせ方針についての因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)


Ⅰ Ⅱ Ⅲ
因子1 「 教育的志向」
 子どもが自分んで読もうとするときには、読み方を教えてあげる .90 -.20 .04
 子どもが読めるところは、子どもに読ませながら読んでいる .72 .18 -.12
 子どもが一人で本を見たり、読んだりしたときは誉めている .47 -.14 .12
因子2「工夫読み」
 本に出てくる名前を教えながら読んでいる -.16 .76 -.01
 感想を述べるなど、子どもとお話しながら読んでいる -.09 .62 .16
 声色を変えるなど、読み方に工夫しながら読んでいる .05 .56 .11
 字に注目させたり、字を教えたりしながら読んでいる .43 .45 -.22
因子3「子のペース」
 子どものペースに合わせて読んでいる -.15 .08 .76
 子どもが好きな本を読んでいる .23 .01 .63
 子どもの問いかけに答えながら読んでいる .39 .11 .45

因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
Ⅰ ― .32 .39
Ⅱ ― .29
Ⅲ ―

28
2.読み聞かせに関わる子どもの行動の変化の内容
読み聞かせに関わる子どもの行動の変化の内容を明らかにするために,最尤法・プロマ
ックス回転による因子分析を行った。その結果,2 因子が抽出された。第 1 因子は「象徴活
動の獲得(α=.926)」
,第 2 因子は「絵本への興味」(α=.885)と命名した。回転後の全
分散を説明する割合は 68.84%であった(Table 5-2)。各因子に高い負荷量を示した項目の
平均値を算出し「象徴活動得点」「絵本への興味」得点とし,「子どもの年齢ごとの母親の
読み聞かせ方針と子どもの行動の変化との関連」の分析の従属変数として用いた。

Table 5-2 子どもの行動の変化の因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)


Ⅰ Ⅱ
因子1「 象徴活動の獲得」
 経験したことや思ったことを親に話すようになった 1.11 -.20
 自分の要求をことばにして伝えられるようになった .81 .13
 絵本の内容を絵に描いたり話したりするようになった .75 .11
 絵本の内容を「ごっこ遊び」するようになった .69 .20
 子ども一人で絵本を読むことが多くなった .50 .29
 文字に興味を示すようになった .46 .29
因子2「絵本への興味」
 新しい言葉がわかったり、使えたりするようになった .07 .87
 絵本にますます興味をもつようになった -.04 .76
 絵本に出てきた言葉を口に出すようになった .25 .70
 読み聞かせのとき、絵本に集中するようになった -.01 .69

因子間相関 Ⅰ Ⅱ
Ⅰ ― .76
Ⅱ ―

29
3.子どもの年齢ごとの母親の読み聞かせ方針と子どもの行動の変化との関連
母親が,自分の読み聞かせ方針によって,子どもの行動がどのように変化したと考えて
いるのかを検討するために,母親の読み聞かせ方針の下位尺度である「教育的志向得点」
「工
夫読み得点」「子のペース得点」を平均値で低群・高群(2 水準)に分けたものを独立変数
とし,子どもの反応の変化の下位尺度である「象徴活動の獲得得点」「絵本への興味得点」
を従属変数としたt検定を行った。その結果をまとめたものを Table 5-3 に示す。
(1) 乳児前期段階(0 歳)
母親の読み聞かせ方針の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親
(t (3)=0.14, n.s.)
の読み聞かせ方針と子どもの行動に有意差はみられなかった。
(2)乳児後期段階(1 歳)
母親の読み聞かせ方針の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親
(t (21)=3.18, p<.01)
の「教育的志向」が高い方が低い方よりもと子どもの「象徴活動の獲得」 ,
(t (21)=2.42, p<.05)が高くなった。母親の「読みの工夫」においては,
や「絵本への興味」
(t (21)=2.20, p<.05)が増し
読みの工夫が高い方が低い方よりも子どもの「絵本への興味」
(t
た。母親の「子のペース」においても高い方が低い方よりも,子どもの「絵本への興味」
(21)=3.27, p<.01)が多くなった。
(3)幼児前期段階(2,3 歳)
母親の読み聞かせ方針の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親
(t (36)=3.73, p<.01)との間に有意差
の「教育的志向」高群と子どもの「象徴活動の獲得」
が見られ,母親の教育的志向が高い方が子どもの象徴活動の獲得も増すことが示唆された。
(4)幼児後期段階(4,5,6 歳)
母親の読み聞かせ方針の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親の「教
育的志向」が高いと子どもの「象徴活動の獲得」
(t (47)=2, p<.10)や,
「絵本への興味」
(t (47)=2.44,
p<.05)も増した。母親の「読みの工夫」においても高い方が子どもの「象徴活動の獲得」
(t (47)=4.1,
p<.001),
「絵本への興味」
(t (47)=2.79, p<.01)が増した。さらに母親の「子のペース」におい
ても高い方が子どもの「象徴活動の獲得」
(t (47)=2.61, p<.05),
「絵本への興味」
(t (47)=3.02, p<.01)
が高くなった。

30
Table 5-3 母親の読み聞かせ方針の在り方と子どもの行動の変化のt 検定結果
読み聞かせ方針 教育的志向 読みの工夫 子のペース
低群 高群 低群 高群 低群 高群
年齢 子ども行動の変化 Mean(SD) Mean(SD) t値 Mean(SD) Mean(SD) t値 Mean(SD) Mean(SD) t値
乳児前期 象徴活動の獲得 1.24(0.33) ― ― 1.19(0.35) 1.28(0.32) 0.55 1.19(0.28) 1.44(0.51) 1.24
0歳 絵本への興味 2.04(0.72) ― ― 1.91(0.57) 2.17(0.85) 0.73 1.93(0.51) 2.58(1.38) 0.81

乳児後期 象徴活動の獲得 1.39(0.40) 2.02(0.53) 3.18** 1.44(0.52) 1.77(0.50) 1.54 1.46(0.50) 2.06(0.93) 1.16
1歳 絵本への興味 2.30(0.92) 3.25(0.72) 2.42* 2.23(1.04) 3.05(0.62)  2.20* 1.71(0.54) 3.16(0.63)  3.27**

幼児前期 象徴活動の獲得 2.27(0.38) 3.21(0.54) 3.73** 2.94(0.77) 3.15(0.52) 0.99 3.13(0.67) 3.08(0.6) 0.18
2,3歳 絵本への興味 3.15(0.63) 3.69(0.33) 1.9 3.66(0.46) 3.60(0.42) 0.39 3.53(0.23) 3.64(0.33) 0.67

幼児後期 象徴活動の獲得 2.77(0.61) 3.19(0.61) 2† 2.81(0.61) 3.45(0.46) 4.1*** 2.83(0.65) 3.29(0.57) 2.61*
4~6歳 絵本への興味 3.00(0.57) 3.50(0.61) 2.44* 3.18(0.67) 3.65(0.47) 2.79** 3.08(0.67) 3.59(0.51) 3.02**
†p <.10, *p <.05, **p <.01,***p<.001

31
考察
乳児前期において,母親の読み聞かせ方針と子どもの行動に有意差はみられなかったこ
とから,母親が方針に基づいて読み聞かせをすることが,この時期の子どもの行動として
直接的に表れていなかったためであると考えられる。これは,子どもはまだ言語的な反応
ができないが,母親の豊かな働きかけに対して非言語的に反応し,また絵本を注視すると
いった行動がみられる。そのため母親はある方針を持って子どもに読み聞かせをするとい
うよりも,絵本を母子で共有し一体感を楽しむ(田島ら, 2010)状態にあると考えられる。
乳児後期では,母親の「教育的志向」と子どもの「象徴活動の獲得」,
「絵本への興味」,
母親の「読みの工夫」と子どもの「絵本への興味」
,母親の「子のペース」と子どもの「絵
本への興味」とのあいだに関連がみられた。このことから,母親が教育的志向,工夫読み,
子どものペースにあわせた読み聞かせをすることで,母親が子どもと絵本の世界を媒介し
(Vygotsky, 1978)それが足場(Bruner, 1988)となり,子どもは母親を介して絵本の世界を知
る(Cole, 1996)ことで絵本への興味を持つ時期であると考えられる。
幼児前期においては,母親の「教育的志向」と子どもの「象徴活動の獲得」との間に関
連がみられたことから,母親が教育的志向をもつ読み聞かせをすることで,子どもは象徴
活動を獲得していくことが示され,母親は子どもが自ら読もうとしたときに読み方を教え
るといった行動をとることで,子どもは絵本に描かれているものと言葉とが結びつきさら
に言葉そのものへの興味がうまれ,本の内容のごっこ遊びなどの象徴的な活動が盛んにな
ることが示唆された(田島ら, 2010)。
幼児後期においては,母親の「教育的志向」と子どもの「象徴活動の獲得」
,「絵本への
興味」
,母親の「読みの工夫」と子どもの「象徴活動の獲得」,
「絵本への興味」
,母親の「子
のペース」と子どもの「象徴活動の獲得」
,「絵本への興味」の間に関連がみられた。この
ことより,全ての母親の方針と子どもの行動の変化に有意な差がみられたことから,幼児
後期になると,子どもは自己内対話活動が活発になるため,母親は子どもの自己内対話活
動を促進させる読み聞かせをすることにより,子どもは絵本の世界に入り易くなり,象徴
活動の獲得が促進され,絵本にもより興味をもつことが示唆された。

32
第2節 読み聞かせ時の母親の行動と子どもの行動の変化(評定分析)

問題と目的
第1節では,質問紙データによって絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの年
齢段階ごとにどのように変化しているのかを検討した。第 2 節では,実際の読み聞かせ場
面での母子相互行為がどのように変化しているのかを検討することを目的とする。
具体的には,岩崎ら(2010)のデータを再分析する形で,読み聞かせ時において母子相互交
渉の中で母親のいかなる行動が,子どもの行動とどのような関係を示すかを明らかにする
ことを第 1 の目的とする。また,第 2 の目的として,岩崎ら(2010)と田島ら(2010)では,1
歳,3 歳,5 歳児とその母親を対象としたが,本研究では 0 から 6 歳まで年齢を通して,田
島ら(2010)に基づき,年齢を「乳児前期段階」(0 歳),
「乳児後期段階」(1 歳),
「幼児前期
段階」
(2,3 歳), (4,5,6 歳)と 4 つの段階に区切り,関係をみること
「幼児後期段階」
で発達の変化の在り方を明らかにすることとする。

方法
対象者
関東在住の健常児とその母親,計 129 ペアである。
0 歳児 17 名(平均月齢 0 歳 8 ヵ月,男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月,男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月,男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月,男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 19 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月,男児 7 名,女児 8 名)
材料
家から持ってきてもらった,子どものお気に入りの絵本 1 冊である。読み聞かせ活動が
成立している条件を整えるために,その子どもが慣れ親しんだ絵本を使用した。
観察手続き
2008 年 11 月下旬から 2010 年 7 月中旬にできるだけ自然な場面にするために対象児の
家庭または,対象児が通う対象児にとってなじみ深い民間幼児教育施設の教室で観察を行
った。2 名の観察者のうち 1 名はビデオ撮影を行い, もう 1 名が進行を行った。ビデオの
正面に机を配置して座布団を 2 枚用意し,「こちらにお座りください。いつもご家庭でな
さっているようにリラックスして読み聞かせを行って下さい。」と教示し,ビデオ撮影を
行った。撮影時の俯瞰図を Figure 5-1 に示す。撮影に関してはあらかじめ母親の了解を得
ていた。絵本場面は以下の 2 場面にわけて行った。なお今後,読み聞かせ場面と展開場面

33
の双方込みの場面を表す場合は「絵本場面」と表記することとする。

① 読み聞かせ場面
子どもの大好きな絵本を 1 冊,できるだけ通常と同じような設定で母親から子どもへ絵
本を読み聞かせしてもらう。「それでは,お子様の大好きな絵本の読み聞かせをお願いし
ます。」と観察者が依頼し,母親が子どもに読み聞かせる態勢をとったところを始まりと
し,読み終えて絵本を閉じ,その後の母親の発言があれば,本を閉じた後の一言までを「読
み聞かせ場面」とする。具体的には,母親が絵本を開いた,またはタイトルを読んだ,子
どもに絵本の読み聞かせを促す言葉かけをしたところを始まりとした。終わりは,絵本を
閉じたところ,もしくは絵本を閉じた後に母親が子どもに対して言葉かけをした場合は,
その絵本を閉じた後の一言目までを読み聞かせ場面とした。
② 展開場面
読み聞かせの後に 5 分程度,読み聞かせをした絵本を題材に親子で自由なやりとりをし
てもらう。
「5 分間程度,お子様とお母様のやりとりを観察させて頂きたいので,この絵本
を題材に自由なやりとりをお願いします」と観察者が依頼した。母親か,子どものどちら
かが言葉を発したところを始まりとし,母親が絵本を「おしまい」と閉じ,その後の母親
の一言があればそこまで含めたところを「展開場面」とする。
ただし,読み聞かせ場面の流れのまま展開場面に入った場合は,絵本を閉じた一言目ま
でを読み聞かせ場面,二言目からを展開場面とした。展開セッションの終わりは母親の申
告によって終了とした。
分析手続き
ビデオ録画を再生し,2 名の評定者が,一緒にビデオをみて,以下に示すような評定項目
(田島,2003)に従い,母子の行動評定を行った。評定の対象とする絵本の読み聞かせ場

34
面の区切りは,母親が絵本について語るところから開始とし,終了は絵本をとじ,その後
発言がある場合絵本を閉じた後の一言めまでを含め終了とした。
評定を行った後,2 名の評定者間で不一致だった場合,再度ビデオを確認し協議を行った。
協議後の 2 名の評定者間の一致率は,κ=.75 であった。
母子の行動の評定項目
絵本の読み聞かせ場面を撮影したビデオをみて,調査者がその親子の母子相互作用の全
体的な印象を 4 件法(1 全くない-4 かなりあった)で母親と子どもの行動をそれぞれ
評定するものである。子どもの評定項目を次に示す。
(1) 子どもの評定項目
① 始めに,読み聞かせへの意欲・積極性がみられたか
② 母親の提案・指示に積極的に応じていたか(賛意)
③ 母親の提案・指示に積極的に応じていたか(抵抗)
④ 読み聞かせの途中で,積極的に質問したり,自分の方から提案や要求・注文をつけたり
したか
⑤ 黙って聞いているだけでなく,本に言及したり,自分の感想を述べるなど,自己表現が
多かったか
⑥ 読み聞かせの途中でも自分のペースで,頁をめくったり,遊んだりと,母親をリードし
がちであったか(賛意)
⑦ 読み聞かせの途中でも自分のペースで,頁をめくったり,遊んだりと,母親をリードし
がちであったか(抵抗)
⑧ 母親から質問されたり,感想を求められたとき,積極的に応答していたか
⑨ 絵本についての説明や,自身の読みなどについて,
(「あ,ちがう!」など)評価したり,
自分で訂正したりしていたか
⑩ 読み聞かせの間は楽しそうだったか,笑顔がみられたか
⑪ 全般的に,母親とのやりとりはスムーズだったか

(2) 母親の評定項目
① 始めに,子どもを読み聞かせに誘う動機づけや雰囲気(ラポール)づくりがあったか
② 子どもへの提案や指示が明確に出せていたか
③ 子どもの方からの積極的な質問や要望に即座に応答できていたか
④ 子どものペースや,やり方を尊重していたか
⑤ 子どもの立場に立って提案や指示,アドバイスができていたか
⑥ 子どもに考えさせるような問いかけ(自問自答含む)や指示などをしたり,読み方をし
ていたか
⑦ 子どもの発言や行動に「なるほど」と考えさせられ感激したような発言や行動があった

35
⑧ 途中で,読み聞かせを中断せざるをえないことがあったか
⑨ 子どもの活動(絵本の説明や読み)がうまくいかなかったり,注意がそれたとき,適切
に手助けが行えていたか
⑩ 読み聞かせ終了時に(次回につながるような)声かけがあったか
⑪ 母親自身,読み聞かせをしていて楽しそうだったか

36
結果と考察
1. 絵本場面での母子行動
絵本場面での母子行動を明らかにするために,母子それぞれについての行動を評定した
評定項目に対し,年齢(0 歳~6 歳)と絵本場面(読み聞かせ場面・展開場面)を込みにし
た因子分析を行った。その結果と考察を以下に示す。
(1)絵本場面時の母親の行動
「絵本場面での母親の行動」の構造について明らかにするために,母親の評定項目の 11
項目について最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。このうち,十分な因子
負荷量を示さなかった 1 項目を除外した 10 項目について,再度最尤法・プロマックス回転
による因子分析を行った。その結果 2 因子が抽出された(Table 5-4)。第 1 因子は,子ども
のペースや,やり方を尊重したり,子どもの立場に立って提案や指示ができていたことか
ら, 。第 2 因子は,母親自身読み聞かせをしていて楽し
「子尊重」と命名した(α=.856)
そうだといった読み聞かせを楽しむことや,読み聞かせを始める前にラポール形成を
行い子どもの足場作りをしていることから,
「読み聞かせの楽しさと足場づくり」と命名し
。回転前の 2 因子で 10 項目の全分散を説明する割合は 71.43%であった。各
た(α=.691)
因子に高い負荷量を示した項目の合計得点を各項目数でわった平均値を各下位尺度得点と
し,以下の分析に用いた。

Table5-4 母親の行動の因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)
項目内容  Ⅰ Ⅱ
因子1  「 子尊重」
 子どもの立場に立って提案や指示、アドバイスができていたか 1.055 -.155
 子どものペースや、やり方を尊重していたか .943 -.145
 子どもに考えさせるような問いかけや指示などをしたり、読み方をしていたか .939 -.189
 子どものほうからの積極的な質問や要望に即座に応答できていたか .630 .215
 子どもへの提案や指示が明確に出せていたか .613 .320
 子どもの発言や行動に「なるほど」と考えさせられ感激したような発言や .515 .253
行動があったか
因 子 2「 読 み 聞 か せ の 楽 し さ と 足 場 作 り 」
 母親自身、読み聞かせをしていて楽しそうだったか .096 .858
 始めに、子どもを読み聞かせに誘う動機付けや雰囲気(ラポール)作りが .114 .785
あったか
 子どもの活動がうまくいかないとき、適切に手助けが行えていたか .006 .671
 読み聞かせ終了時に(次につながるような)声かけがあったか -.291 .515

因子間相関 Ⅰ Ⅱ
Ⅰ ― .550
Ⅱ ―

37
(2)絵本場面時の子どもの行動
「絵本場面時の子どもの行動」の構造について明らかにするために,子どもの評定項目
の 11 項目について最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った結果,2 因子が抽出
された(Table 5-5)。第 1 因子は,積極的に質問したり,自分の方から提案や注文をつけた
りすることや,黙って聞いているだけでなく,自己表現が多くみられたことから「積極的
参加」因子と命名した。第 2 因子は,母親に抵抗を示さずに全体的にスムーズにやりとり
をしていたことから「スムーズなやりとり」と命名した。なお,回転前の 2 因子で 10 項目
の全分散を説明する割合は 76.97%であった。
各因子に高い負荷量を示した項目の合計得点を各項目数でわった平均値を各下位尺度得
点とし以下の分析に用いた。

Table5-5 子どもの行動の因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)
項目内容 Ⅰ Ⅱ
因子1  「 積極的参加」
 読み聞かせの途中で、積極的に質問したり、自分のほうから提案や要求、
1.034 -.336
注文をつけたり したか
 読み聞かせの途中でも自分のペースで頁をめくったり遊んだりと、
.926 -.125
母親をリードしがちであったか
 黙って聞いているだけでなく、本に言及したり、自分の感想を述べるなど、
.827 -.116
自己表現が多かったか
 母親から質問されたり、感想を求められたとき、積極的に応答していたか .611 .243
 母親の提案・指示に積極的に応じていたか .531 .516
 始めに、読み聞かせへの意欲・積極性が見られたか .527 .394
 読み聞かせの間は楽しそうだったか、笑顔が見られたか .470 .465
因 子 2「 ス ム ー ズ な や り と り」
 母親の提案・指示に抵抗を示さずにやりとりしていたか -.149 .964
 読み聞かせの途中でも自分のペースで頁をめくったり遊んだりと、
-.392 .885
読み聞かせに抵抗を示していなかった
 全般的に、母親とのやりとりはスムーズだったか .298 .759

因子間相関 Ⅰ Ⅱ
Ⅰ ― .438
Ⅱ ―

38
2. 年齢段階ごとの変化
絵本の読み聞かせ場面とその後の展開場面において,子どもの年齢段階ごとに,母子の
行動がどのように変化していくのかを検討するため,子どもの年齢段階(乳児前期・乳児
後期・幼児前期・幼児後期)を独立変数,子どもの行動と母親の行動各々を従属変数とし
た分散分析を行った。その結果を絵本場面ごとに示す。

(1)読み聞かせ場面での母親の行動の変化
母親の読み聞かせ時の行動評定値の平均と標準偏差を子どもの年齢段階ごと Figure 5-2
に示す。
母親の読み聞かせ場面において,「子尊重」行動に有意な差がみられ( F (3,61)=4.22,
p<.01),母親の「読み聞かせの楽しさと足場作り」行動に有意な差はみられなかった(F
(3,62)=0.17, n.s.)。母親の「子尊重」行動に有意な差がみられたため,多重比較(Tukey
の HSD(5%水準)法:以下省略)を行ったところ,乳児後期,幼児前期,幼児後期が乳
児前期よりも有意に高い得点を示した(乳児前期 < 乳児後期,幼児前期,幼児後期)

このことから,読み聞かせをするさい母親が子どもの立場に立って提案や指示やアドバ
イスをするといった子どもを尊重する行動は,乳児前期では低いことが示された。

(評定値)
4.00

3.50

3.00 子尊重

2.50

2.00
読み聞かせの楽しさと足場作り
1.50

1.00
乳 乳 幼 幼
児 児 児 児
前 後 前 後 (子年齢段階)
期 期 期 期

Figure 5-2 読み聞かせ場面での母親の行動の変化

39
(2)展開場面での母親の行動の変化
展開場面での母親の行動評定値の平均と標準偏差を子どもの年齢段階ごと Figure5-3 に
示す。
「子尊重」行動(F (3,82)=0.61, n.s.),
展開場面での母親の行動において, 「読み聞かせの
楽しさと足場作り」行動共に有意な差はみられなかった(F (3,100)=0.14, n.s.)。
このことから,絵本の展開場面において,母親の行動は年齢によって差が見られないこ
とが示された。

(評定値)
4.00

3.50

3.00
子尊重
2.50

2.00
読み聞かせの楽しさと足場作り
1.50

1.00
乳 乳 幼 幼
児 児 児 児 (子年齢段階)
前 後 前 後
期 期 期 期
Figure 5-3 展開場面での母親の行動の変化

40
(3)読み聞かせ場面での子どもの行動の変化
子どもの読み聞かせ場面の行動評定値の平均と標準偏差を子どもの年齢段階ごと Figure
5-4 に示す。
「積極的参加」行動(F (3,76)=5.92, p<.01)と「スム
子どもの読み聞かせ場面において,
ーズなやりとり」行動(F (3,116)=3.59, p<.05)に有意な差がみられた。多重比較を行った
ところ,
「積極的参加」行動において,幼児前期と幼児後期が乳児前期よりも有意に高い得
点を示した(乳児前期<幼児前期・後期)。
「スムーズなやりとり」行動においては幼児前
期と幼児後期が,乳児後期よりも有意に高い得点を示した(乳児後期<幼児前期・後期)。
このことから,読み聞かせ場面での子どもの質問したり自分から提案したり母親をリー
ドするといった積極的参加や,読み聞かせに抵抗せずにスムーズなやりとりを行う行動は,
2 歳以降に多くなることが示された。

(評定値)
4.00

3.50

3.00

2.50
積極的参加 スムーズなやりとり
2.00

1.50

1.00
乳 乳 幼 幼
児 児 児 児
前 後 前 後 (子年齢段階)
期 期 期 期

Figure 5-4 読み聞かせ場面での子どもの行動の変化

41
(4)展開場面での子どもの行動の変化
子どもの展開場面の行動評定値の平均と標準偏差を子どもの年齢段階ごと Figure 5-5 に
示す。
「積極的参加」行動(F (3,118)=8.14, p<.001)に有意な差が
子どもの展開場面において,
みられ,「スムーズなやりとり」行動(F (3,114)=2.26, p<.10)に有意な傾向がみられた。
多重比較を行ったところ,
「積極的参加」行動において,幼児前期と幼児後期が,乳児前期
と乳児後期よりも有意に高い得点を示した(乳児前期・後期<幼児前期・後期)
。スムーズ
なやりとりにおいては幼児後期が,乳児前期と乳児後期よりも有意に高い得点を示した(乳
児前期・後期<幼児後期)

このことから,展開場面での子どもの行動は,2 歳以降の幼児前期から変化することが示
された。

(評定値)
4.00

3.50

3.00
積極的参加
2.50

2.00

1.50 スムーズなやりとり

1.00
乳 乳 幼 幼
児 児 児 児
前 後 前 後 (子年齢段階)
期 期 期 期

Figure 5-5 展開場面での子どもの行動の変化

42
3. 絵本場面での母子行動の関連
絵本場面での母親の行動と子どもの行動との関連を明らかにするために,まず子どもの
年齢を,乳児前期段階(0 歳)
,乳児後期段階(1 歳),幼児期前期段階(2・3 歳),幼児期
後期段階(4・5・6 歳)の 4 段階にわけた。その段階ごとに,調査者による母親行動の評定
を平均値によって低群と高群にわけ独立変数とし,子どもの行動を従属変数とした t 検定を
行った。以下に読み聞かせ場面とその後の展開場面に分け,子どもの年齢段階ごとに結果
を示す。また読み聞かせ場面と展開場面の結果をまとめたものを Table 5-6 に記す。

(1) 読み聞かせ場面
(ⅰ) 乳児前期段階(0 歳)
母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,まず母親の「子
尊重」行動については,子どもの「積極的参加」行動(t (1)=3.12, n.s.)と「スムーズなや
りとり」行動には有意差はみられなかった(t (3)=0.14, n.s.)。
次に母親の「読み聞かせの楽しさと足場づくり」行動と子どもの行動では,母親の読み
聞かせの楽しさと足場作りの高い母親は低い母親に比べて,有意に子どもの「積極的参加」
行動(t (5)=2.65, p<.05)の増加がみられ,
「スムーズなやりとり」行動において有意な差
はみられなかった(t (7)=1.52, n.s.)。

43
(ⅱ) 乳児後期(1 歳)
母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親の「子尊重」
行動と子どもの「積極的参加」行動には有意な差はみられなかった(t (21)=2.51, p<.05)
が,子どもの「スムーズなやりとり」行動との間においては有意差がみられ,母親の子尊
重行動が高い方が低い方よりも有意に子どものスムーズなやりとり行動が多くなることが
示された(t (10)=2.74, p<.05)。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場づくり」行動において,高群の母親は低群の母親に
比べて,有意に子どもの「積極的参加」行動(t (10)=2.17, p<.10)と「スムーズなやりと
り」行動(t (15)=1.87, p<.10)が多くなる傾向が見られた。

(ⅲ) 幼児前期段階(2・3 歳)
母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親の「子尊重」
行動において,子どもの「積極的参加」行動(t (15)=0.07, n.s.)と「スムーズなやりとり」
行動には有意差はみられなかった(t (21)=0.61, n.s.)。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場づくり」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (13)=1.99,
p<.10)との間に有意差があることが認められ,読み聞かせの楽しさと足場作りをした方が
しない母親よりも有意に子どもの積極的参加行動も多くなる傾向が見られ,子どもの「ス
ムーズなやりとり」行動には見られなかった(t (14)=0.53, n.s.)

(ⅳ) 幼児後期段階(4・5・6 歳)
母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結果,母親の「子尊重」
(t (15)=5.1, p<.001)において有意差がみられ,母親の子尊
行動と子どもの「積極的参加」
重行動が高い方が低い方に比べて,有意に子どもの積極的参加行動の増加が認められた。
母親の「子尊重」行動と子どもの「スムーズなやりとり」行動においては,母親の子尊重
行動が高い方が低い方に比べて有意に子どものスムーズなやりとり行動が多く見られる傾
向にあった(t (22)=1.8, p<.10)。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場づくり」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (11)=4.07,
p<.01)において有意差がみられ,母親の読み聞かせの楽しさと足場作り行動が高い方が低
い方に比べて子どもの積極的参加行動が多く見られる傾向にあることが認められ,子ども
の「スムーズなやりとり」行動との間にはみられなかった(t (20)=1.22, n.s.)

44
(2) 展開場面での母親の行動と子どもの行動との関連
絵本読み聞かせした後に,絵本を題材として母子で自由なやりとりを行う展開場面での
母親の行動と子どもの行動との関連を明らかにするために,まず子どもの年齢を,乳児前
期段階(0 歳),乳児後期段階(1 歳),幼児期前期段階(2・3 歳),幼児期後期段階(4・5・
6 歳)の 4 段階にわけた。その段階ごとに,調査者による母親行動の評定を平均値によって
低群と高群にわけ独立変数とし,子どもの行動を従属変数とした t 検定を行った。
(ⅰ)乳児前期段階(0 歳)
展開場面において,母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結
果,子どもの「積極的参加」行動(t (7)=2.04, p<.10)において,母親の「子尊重」行動が
高い方が低い方に比べて,有意に子どもの「積極的参加」行動が多くなる傾向が見られ,
「ス
ムーズなやりとり」行動には有意差は見られなかった(t (7)=1.70, n.s.)。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場づくり」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (9)=2.71,
p<.05)に有意差が見られ,母親の「読み聞かせの楽しさと足場作り」行動が多い方が低い
方に比べて,有意に子どもの「積極的参加」行動が多く見られ,
「スムーズなやりとり」行
動において有意な差は見られなかった(t (9)=1.46, n.s.)。

(ⅱ)乳児後期(1 歳)
展開場面において,母親の「子尊重」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (13)=1.11, n.s.)
と「スムーズなやりとり」行動において有意な差は見られなかった(t (12)=1.07, n.s.)。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場作り」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (20)=2.27,
p<.05),
「スムーズなやりとり」行動(t (19)=2.16, p<.05)について有意差が見られ,母親
の読み聞かせの楽しさと足場作りが高い方が低い方に比べ,子どもの積極的参加行動やス
ムーズなやりとり行動も多く見られた。

(ⅲ)幼児前期段階(2・3 歳)
展開場面において,母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結
果,母親の「子尊重」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (27)=2.78, p<.05)と「スム
ーズなやりとり」行動(t (25)=3.26, p<.01)との間に有意な差が見られ,母親の子どもを
尊重する行動が高い方が低い方よりも,子どもの「積極的参加」行動と「スムーズなやり
とり」行動が見られた。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場づくり」行動と子どもの「積極的参加」行動に有意
差は見られなかった(t (14)=0.53, n.s.)が,子どもの「スムーズなやりとり」行動(t (30)=2.75,
p<.05)とでは有意差がみられ,母親の読み聞かせの楽しさと足場作りが高い方が低い方に
比べ,有意に子どもの積極的参加行動も多く見られた。

45
(ⅳ)幼児後期段階(4・5・6 歳)
展開場面において,母親の行動の低群・高群と子どもの行動の平均値の差を分析した結
果,子どもの「積極的参加」行動(t (29)=4.72, p<.001)と「スムーズなやりとり」行動(t
(28)=2.92, p<.01)において,母親の「子尊重」が高い方が低い方と比べて,有意に子ども
の「積極的参加」行動と「スムーズなやりとり」行動が多く見られた。
母親の「読み聞かせの楽しさと足場作り」行動と子どもの「積極的参加」行動(t (33)=5.06,
p<.001)
「スムーズなやりとり」行動(t (32)=3.85, p<.01)との間に有意な差が見られ,母
親の読み聞かせの楽しさと足場作り行動が高い方が低い方に比べて,有意に子どもの「積
極的参加」行動と子どもの「スムーズなやりとり」行動が多く見られた。

46
第3節 研究Ⅰのまとめ

3-1 母親の読み聞かせ方針による子どもの行動の変化
本研究の第1の目的は 0 歳~6 歳までの母子を対象に,その中で子どもの年齢を乳児前期
(0 歳代)
,乳児後期(1 歳代)
,幼児前期(2,3 歳代)
,幼児後期(4,5,6 歳)に分け,
母子相互行為がどのように変化していくのかを検証することであった。
その結果,乳児前期において,母親が様々な方針に基づいて読み聞かせをすることが,
この時期の子どもの行動として直接的に表れていないことが認められた。母親はある方針
をもって読み聞かせを行うよりも,母親は子どもに積極的に働き掛け活動を行い,向かい
合いながらやりとりを行う(Stern,1977)ことが中心となっていることが示唆された。
乳児後期においては,母親が教育的志向をもつことで,子どもは象徴活動の獲得や絵本
への興味がわくこと,母親が読みの工夫や子どものペースに合わせることで子どもの絵本
への興味が増すことが示された。このことから,子どもを褒めたり読み方を工夫したり,
子どもの好きな絵本を読んだりすることで,絵本と子どもを母親が媒介する 3 項関係
(Vygotsky,1978)となり,子どもは絵本に興味をさらにもち,絵本に集中するようになる
ことが示唆された。
幼児前期においては,母親が教育的志向をもった読み方をすることで子どもの象徴活動
の獲得が増加することが認められた。これは,母親が子どもに読み方を教えたりと足場を
作る(Bruner,1988)ことで,子どもは絵本の内容をさらに知ることができ,絵本の内容を絵
に描いたり親に話しをしたりして象徴活動を獲得していくのではないかと考えられる。 こ
のことは,田島(2010)の 2 段階 5 ステップモデルのステップ 3 の「自己内対話的再構成の
定着を基盤に,ことばそのものへの興味・関心がうまれ,本の内容の描画やごっこ遊びな
どの象徴活動や自己表現活動が盛んになる」というものと軌を一にすると考えられる。
幼児後期では,母親が教育的志向,読みの工夫,子のペースに合わせた読み方をするこ
とで子どもの象徴活動の獲得や絵本への興味が増すことが示された。このことから,幼児
後期になると,子どもは自己内対話活動(Vygotsky,2001)が活発になるため,母親は子ど
もの自己内対話活動を促進させる読み聞かせをすることにより,絵本の世界に入り易くな
り,象徴活動の獲得が促進され,絵本にもより興味をもつことが示唆された。

47
3-2 読み聞かせ場面と展開場面での母子相互行為の変化
第 2 の目的としては,母子の行動の変化をみるために,絵本の読み聞かせ場面とその後
の展開場面を設け,母子の相互交渉の中で母親のいかなる行動(子尊重行動・読み聞かせ
の楽しさと足場作り行動)が子どもの行動(積極的参加行動・スムーズなやりとり行動)
とどのような関係をしめしどのように変化していくのかを場面ごとに検討することであっ
た。
その結果,母親の「読み聞かせの楽しさと足場作り」行動と子どもの行動との間におい
て,読み聞かせ場面と展開場面の差はあまりみられず,年齢を通して母親が楽しそうに足
場作りをしながら読み聞かせをしたり,やりとりを行うことで子どもも積極的に参加する
行動をとるようになることが示唆された。そしてその中でもとくに,乳児後期と幼児後期
にその特徴が強くみられることが示された。このことから,母親自身が楽しんだりラポー
ル作りをするといった行動は読み聞かせ場面でもその後の展開場面でも年齢を超えてみら
れる行動であり,そのことによって子どもも絵本の世界を共有し,ともに楽しさを共有す
る場面がうまれ子どもとのやりとりがスムーズになったり子どもの方も積極的な行動をと
ることが示唆された。
続いて母親の「子尊重」行動についてみていくと,乳児前期の読み聞かせ場面では母子
の関連はみられず,展開場面においてはわずかではあるが,母親が子どもを尊重すること
で子どもも積極的参加行動が多くなることが示された。この時期の子尊重行動は,一般的
な子どもの行動を尊重して母親が後ろ手に回るという行動というよりも,母親主導ながら
も子どもの反応を見ながら子どもに合わせた働きかけをするという意味での子尊重行動で
あろう。そしてそのような子どもの反応に合わせた母主導の働きかけをすることにより,
子どもも母親との絵本の場を楽しみ積極的に反応している母子一体感を楽しんでいる場面
である(田島ら,2010)と考えられる。
乳児後期の読み聞かせ場面では,母親が子どもを尊重することで子どもの積極的参加行
動とスムーズなやりとり行動の増加がみられたが,展開場面ではみられなかった。しかし
幼児前期になると,読み聞か場面ではなく,展開場面において母親の子尊重行動が多くな
ることで子どもの積極的参加行動,スムーズなやりとり行動も多くなっていた。そして幼
児後期になると読み聞かせ場面,展開場面両方において,母親の子どもを尊重する行動が
多いほど子どもの積極的参加行動とスムーズなやりとり行動も増加することが示唆された。
以上のことから,乳児後期になると間主観性(Trevarthen&Hubley,1978)が発達し言語
獲得やその他の様々な社会的相互交渉のスキルの基礎である共同注意が発達する
(Tomasello,1995)。絵本の読み聞かせ場面においても共同注意の代表的な行動である指さし
行動がこの時期より多くみられるようになり(Tomasello,2006),子どもは母親とその場面を
共有しようと自分からも働きかけていると考えられる。そのため,読み聞かせ場面では母
親は子どもを尊重した行動をとった方が子どもとのやりとりもスムーズになることが示唆
される。しかし,展開場面においては,まだ子どもは相互交渉が完全ではないので子ども

48
を尊重するというよりも,母親が主導した働きかけをした方が子どもも絵本を共有しやす
いのではないかと考えられる。
しかし幼児前期ではそれが逆となる。幼児前期になってくると,乳児期の母子のやりと
りを基盤とし,子どもは絵本以外のものにも興味を示しまた歩行能力も発達するので,精
力的に探索行動を行うようになる(Bowlby, 1973) 。そのことにより,じっと読み聞かせを
聞いているという状況が困難になってくる。よって子どものペースに合わせるというより
も,絵本に興味を持たせるために母親から積極的に働き掛けをした方が絵本の読み聞かせ
場面ではやりとりはスムーズになるのではないか。それに対して展開場面は読み聞かせ場
面よりも,子どもは自己主張しやすい場面であると考えられる。子どもは自己内対話活動
が定着し始め言葉そのものに興味を持ち,自己表現活動が盛んになってくる(田島,2010)

そのため,展開場面においては,その子どもの自己表現を尊重した方が母子間のやりとり
がスムーズになるのではないかと考えられる。
幼児後期の読み聞かせ場面では,母親が子どもの立場にたった読み聞かせや子どものペ
ースややり方を尊重した方が,子どもは積極的に参加する行動や母子間のやりとりがスム
ーズになることが示された。これは,幼児後期の絵本読み聞かせ場面は,母子のやりとり
も子ども中心となっており,実際に石崎 (1996)の読み聞かせ研究においても母子の会話
パターンは子ども中心となっていることが示されている。そのため,子どもの立場にたっ
た読み聞かせや子どものペースややり方を尊重した方が,子どもは自分が主導権を握り,
自分の好きなように進めることができ,疑問に思ったことをすぐに母親に質問したり,感
想を述べたりするなど積極的に働き掛けやすい場となっているため,子どもは積極的に絵
本場面に参加する行動が多く見られたのではないだろうか。
そして展開場面においても読み聞かせ場面同様に,母親が子どもを尊重した方が子ども
も積極的参加行動やスムーズなやりとり行動になることが認められた。
以上,研究1では読み聞かせの年齢段階ごとの母子相互行為の変化と,読み聞かせ場面
と展開場面の母子の相互行為の変化過程を概観した。次は,このような母子相互行為が子
どもの社会情動的発達を介して語い発達にどのように関連していくのかを実際の読み聞か
せ場面と展開場面のデータを分析し検討していくこととする。

49
第6章 研究Ⅱ 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的

発達と語い発達との関連について(横断分析)

研究Ⅰでは,子どもの年齢段階ごとに絵本の読み聞かせによる母子相互行為の発達的変
化を読み聞かせ場面と展開場面に分けて検討した。この研究Ⅱにおいても読み聞かせ場面
と展開場面に分け,研究Ⅰで明らかにされた絵本の読み聞かせによる母子相互行為が,子
どもの社会情動的発達を介して語い発達へ影響を及ぼしているのかを検討し,
「絵本の読み
聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動的発達を促進させ対人関係を作り,自己
内対話活動が促されることで子どもの語い発達へとつながっていく」プロセスの検討を行
う。
具体的には,まず第 1 節にて行動評定分析による大まかな絵本読み聞かせ場面と展開場
面での子どもの行動と子どもの社会情動的発達との関連を検討し,第 2 節にて言語行動分
析によって表出された行動レベルでより詳細に,絵本読み聞かせ場面と展開場面での母親
の情動調整行動が子どもの情動調整行動とどのように関連するのかを検討する。
次に,第 3 節にて行動評定分析による大まかな絵本場読み聞かせ場面と展開場面での子
どもの行動と子どもの語い発達との関連を検討し,第 4 節にて言語行動分析によって表出
された行動レベルでより詳細に,母親の言語行動が子どもの言語行動と関連するのか検討
する。
ここでの第 1 節,第 3 節での子どもの行動とは,研究Ⅰで検討した絵本の読み聞かせに
よる母親の行動と子どもの行動との関連の結果をもとに,母親の行動が子どもの行動を媒
介として子どもの発達に影響を及ぼすということを検討するため,研究Ⅱでは「媒介され
る子どもの行動」という意味で,子どもの行動と子どもの社会情動的発達,語い発達との
関連を検討し考察にて研究Ⅰで行った母子相互行為の関連性の結果とあわせて考察する。
そして最後に第 5 節にて,
「絵本の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動
的発達を促進させ対人関係を作り,自己内対話活動が促されることで子どもの語い発達へ
とつながっていく」というプロセスの検討を行う。

50
第1節 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連
(評定分析)

問題と目的
絵本の読み聞かせが子どもの社会的な情動表出や情動認知の発達に影響を与える(磯辺
ら,2002)ことや,絵本を母子で共有することで子どもの情動を共有することが促される(佐
藤・内山,2012)ことから,母子が絵本を共有することが子どもの社会情動的発達に与え
る影響の大きさがうかがえる。しかし絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関
連を明らかにした研究はほとんどみられない。
そこで本研究では,子どもの社会的な情動発達に焦点をあて絵本の読み聞かせによる母
子相互行為と子どもの社会的情動発達との関連を明らかにするためにまず,実際の絵本場
面での子どもの行動と子どもの社会情動的発達との関連を明らかにすることを目的とする。

方法
対象者
研究Ⅰと同様の対象者で,関東在住の 0 歳から 6 歳までの健常児とその母親計 129 ペアで
ある。
0 歳児 17 名(平均月齢 0 歳 8 ヵ月,男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月,男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月,男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月,男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 19 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月,男児 7 名,女児 8 名)
材料
研究Ⅰと同様に,子どものお気に入りの絵本 1 冊を使用した。
観察手続き
研究Ⅰと同様に,2008 年 11 月下旬~2010 年 7 月中旬にできるだけ自然な場面にするた
めに対象児の家庭または,対象児が通う対象児にとってなじみ深い民間幼児教育施設の教
2 名の観察者のうち 1 名はビデオ撮影を行い, もう 1 名が進行を行った。
室で観察を行った。
ビデオの正面に机を配置して座布団を 2 枚用意し,
「こちらにお座りください。いつもご家
庭でなさっているようにリラックスして読み聞かせを行って下さい。
」と教示し,ビデオ撮
影を行った。撮影に関してはあらかじめ母親の了解を得ていた。絵本場面は読み聞かせ場
面と展開場面の2場面にわけて行った。

51
尺度
KIDS 乳幼児発達スケール(大村・高嶋・山内・橋本,1989)を使用した。この発達スケ
ールは,「運動操作」
「理解言語」「表出言語」
「言語概念」
「対子ども社会性」
「対成人社会
性」「しつけ」「食事」の項目から成り,乳幼児の自然な生活行動全般から発達を捉えるこ
とができるものである。本研究では,子どもの社会情動的発達の指標として,
「対子ども社
会性」と「対成人社会性」領域を使用した。検査は,A:0 歳 1 ヵ月~0 歳 11 ヵ月(言語概
,B:1 歳 0 ヵ月~2 歳 11 ヵ月,C:3 歳 0 ヵ月~6 歳 11 ヵ月にわかれており,
念を除く)
保護者に対象児の行為の有無について,明らかにできるもの,過去においてできたもの,
やらせたことはないがやらせればできるものには○を,明らかにできないもの,できたり
できなかったりするもの,やったことがないのでわからないものには×をつけて答えても
らうものである。○の数を 1 点として合計したものを項目数でわり平均値を算出した。KIDS
乳幼児発達スケールは,0 歳から 6 歳 11 ヵ月までを適応年齢としており,また母親を通すこ
とで場所や時間の制約を受けずかつ簡易に子どもの日常的な活動を捉えることができるこ
とから使用した。
分析手続き
研究Ⅰと同様にビデオ録画を再生し,2 名の評定者が,一緒にビデオをみて,以下に示
すような評定項目(田島,2003)に従い,母子の行動評定を行った。評定の対象とする絵
本の読み聞かせ場面の区切りは,母親が絵本について語るところから開始とし,終了は絵
本をとじ,その後発言がある場合絵本を閉じた後の一言めまでを含め終了とした。評定を
行った後,2 名の評定者間で不一致だった場合,再度ビデオを確認し協議を行った。協議後
の 2 名の評定者間の一致率は,κ=.75 であった。

52
結果
1, 年齢段階ごとの変化
子どもの社会情動的発達は一般的にどのように発達していくのか検討するために,子ど
もの年齢段階を独立変数,子どもの情動発達指標(対子ども社会性,対成人社会性)を従
(F (2,108)=41.96,
属変数とした分散分析を行ったところ,子どもの「対子ども社会性」
p<.001),「対成人社会性」(F (3,123)=29.30, p<.001)全てにおいて有意な差がみられた。
有意差がみられたため,多重比較を行ったところ,
「対子ども社会性」においては,乳児後
期よりも幼児前期,乳児後期と幼児前期よりも幼児後期の方が有意に高い得点を示した。
「対成人社会性」においては,乳児後期よりも乳児前期,幼児前期,幼児後期の方が有意
に高い得点を示した。子どもの年齢段階ごとに子どもの社会的情動発達指標の平均値と標
準偏差を Figure 6-1 に示す。
「対子ども社会性」は年齢があがるにつれて増加することが認められた。
「対成人社会性」
は,乳児後期でいったん減少するがその後幼児期には増加することが認められた。

(M)
1.00
.90
.80
.70
.60
.50
.40 対子ども社会性(M)
.30 対成人社会性(M)
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-1 情動発達指標の年齢段階ごとの変化

53
2, 読み聞かせ場面と展開場面での子どもの行動と情動発達の関連の比較
絵本読み聞かせ場面と展開場面において子どもの行動と子どもの社会情動的発達との関
連をみるために,子どもの年齢段階ごとに,研究Ⅰで示した子どもの行動の下位尺度であ
る「積極的参加得点」「スムーズなやりとり得点」を平均値で低群・高群に分けたものを独
立変数,子どもの情動発達指標(対子ども社会性,対成人社会性)を従属変数とした t 検定
を行った。その結果を場面ごと,年齢段階別に記す。読み聞かせ場面と展開場面の t 検定結
果をまとめたものを Table 6-1 に記す。

(1) 読み聞かせ場面
(ⅰ) 乳児前期段階(0 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達の平均値に有意な差はみられなかった。
(ⅱ)乳児後期段階(1 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
(t (13)=2.22, p<.05 )に有意差が
どもの「積極的参加」行動と子どもの「対成人社会性」
みられ,「対成人社会性」において,子どもの積極的参加行動の低群よりも高群の方が有意
に高い得点を示しており, (t (13)=0.17, n.s.)との間には有意な差はみ
「対子ども社会性」
(t (19)=0.04, n.s.)
られなかった。子どもの「スムーズなやりとり」行動と「対成人社会性」
と「対子ども社会性」(t (11)=0.49, n.s.)には有意な差はみられなかった。
(ⅲ)幼児前期段階(2・3 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
(t (28)=2.32, p<.05 )に有意差
どもの「積極的参加」行動と子どもの「対子ども社会性」
がみられ,子どもの積極的参加行動が低い方が高い方よりも有意に子どもの「対子ども社
会性」得点が高いことが認められ, (t (27)=1.45, n.s.)との間に有意な差
「対成人社会性」
(t (34)=1.10,
はみられなかった。子どもの「スムーズなやりとり」行動と「対子ども社会性」
n.s.),「対成人社会性」(t (33)=0.21, n.s.)とのあいだに有意な差は見られなかった。
(ⅳ)幼児後期段階(4・5・6 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,幼
(t (15)=3.47, p<.01)
児前期同様に,子どもの「積極的参加」行動と子どもの「対子ども社会性」
に有意差がみられ,子どもの積極的参加行動の低群の方が高群よりも有意に高い得点を示
「対成人社会性」(t (21)=1.41, n.s.)との間に有意な差はみられなかった。子ど
しており,
もの「スムーズなやりとり」行動と子どもの「対子ども社会性」の間に有意差がみられ,
子どものスムーズなやりとり行動の低い方が高い方よりも有意に高い得点を示していた。

54
(2) 展開場面
(ⅰ) 乳児前期段階(0 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達の平均値に有意な差はみられなかった。
(ⅱ)乳児後期段階(1 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達の平均値に有意な差はみられなかった。
(ⅲ)幼児前期段階(2,3 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達の平均値に有意な差はみられなかった。
(ⅳ)幼児後期段階(4,5,6 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの行動の低群・高群と子どもの情動発達の平均値に有意な差はみられなかった。

55
考察
本研究の目的は,子どもの社会的な情動発達に焦点をあて,絵本の読み聞かせによる母
子相互行為と子どもの社会的情動発達との関連を明らかにすることであった。具体的には,
まず始めに子どもの社会情動的発達指標である「対子ども社会性」と「対成人社会性」が
一般的に子どもの年齢段階ごとにどのように変化しているかを捉え,次に実際の絵本場面
である,読み聞かせ場面と展開場面において子どもの行動(積極的参加,スムーズなやり
とり)と子どもの情動発達がどのように関連するかを検討した。

1,年齢段階ごとの社会情動的発達の変化
子どもの社会情動的発達の指標である「対子ども社会性」と「対成人社会性」が子ども
の年齢段階ごとにどのように変化しているのか検討した結果,「対子ども社会性」は年齢が
あがるにつれて増加することが認められた。
「対成人社会性」は,乳児後期でいったん減少
するがその後幼児期には増加することが認められた。
このことから,子どもは乳児前期において母親との相互行為によって人間関係を築き,
乳児後期において,この乳児前期の母子相互行為を基盤として対子ども社会性である他人
との人間関係を築いていくことが示唆された。

2, 読み聞かせ場面と展開場面での子どもの行動と情動発達の関連の比較
絵本読み聞かせ場面と展開場面において子どもの行動と子どもの社会情動的発達との関
連を検討した結果,乳児前期においては子どもの行動と子どもの社会情動的発達とのあい
だに関連はみられなかった。
乳児後期では,子どもの積極的参加行動が多いほど対成人社会性も高くなり,幼児前期
では乳児後期と違って,子どもの積極席参加行動が多いほど対子ども社会性が高くなり,
そして幼児後期では子どもの積極的参加行動が多いと,対子ども社会性と対成人社会性の
双方が高くなることが示唆された。
これらのことから,読み聞かせは対人関係を成立させるもので読み聞かせから得たもの
がその後の子どもの社会性にまで発展していくことが示唆された。

56
第2節 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連
(言語行動分析)

目的
絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの社会情動的発達の行動の一つである情
動調整行動にどのように影響を与えるのかを,表出された行動レベルでより詳細に検討す
ることを目的とする。

方法
対象者
関東在住の 0 歳から 6 歳までの健常児とその母親計 129
研究Ⅰの第1節と同様の対象者で,
ペアである。
0 歳児 17 名(平均月齢 0 歳 8 ヵ月,男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月,男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月,男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月,男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 19 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月,男児 7 名,女児 8 名)
材料
研究Ⅰと同様に,子どものお気に入りの絵本 1 冊を使用した。
観察手続き
研究Ⅰと同様に,2008 年 11 月下旬~2010 年 7 月中旬にできるだけ自然な場面にするた
めに対象児の家庭または,対象児が通う対象児にとってなじみ深い民間幼児教育施設の教
2 名の観察者のうち 1 名はビデオ撮影を行い, もう 1 名が進行を行った。
室で観察を行った。
ビデオの正面に机を配置して座布団を 2 枚用意し,
「こちらにお座りください。いつもご家
庭でなさっているようにリラックスして読み聞かせを行って下さい。
」と教示し,ビデオ撮
影を行った。撮影に関してはあらかじめ母親の了解を得ていた。絵本場面は読み聞かせ場
面と展開場面の 2 場面にわけて行った。
分析手続き
ビデオ録画を再生し,2 名の分析者(発達心理学専攻の大学院生)が,一緒にビデオをみ
て,母子の行動を記録,抽出した。分析単位は時間間隔を 30 秒とし,分析対象行動(以下
に示すような母子の分析項目:Table 6-2, 6-3)がみられた場合にカウントし,母子の分析
対象行動の 30 秒間に対する生起比率を求めた。2 名の分析者間で不一致だった場合,再度
ビデオを確認し協議を行った。2 名の分析者間の一致率は.86 であった。

57
(1) 母親の分析項目
情動発達の過程を分析するために, 須田(1999)のカテゴリーを参考に観察可能な外に表
れた行動をカテゴリー化した。

Table 6-2 母親の分析項目
上位概念 分析項目 内容
顔の表情(笑顔になる・悲しい顔をする)と声の音色(マザリーズ)を変化させて
情動表出
情動を現わす。

情動調整 手や体の動作。母親の情動からくる身体的な動き。すごいねーと言って手を
身体動作
たたいたり、子どもの頭をなでたりするなど。

シンボル的な 動作や読み方の模倣や身振り、動物の鳴き真似といった発声模倣。子どもの表象
働きかけ を操作させるように促す。ワンワンと言いながら子を揺らす。ジェスチャー。

(2) 子どもの分析項目

Table 6-3 子どもの分析項目
上位概念 分析項目 内容
情動表出 顔の表情(笑顔になる・悲しい顔をする)と声の音色を変化させて情動を現出。

手や体の動作。その動作自身がある情動によって動機づけられている状態。
情動調整 身体動作
怖い時に顔を手で隠す。興奮して手をバタバタさせたり体をゆらす。
シンボル 動作の模倣やオイデオイデのような身振り(ジェスチャー)、発声模倣。絵本の
(象徴) 読み聞かせによって体験したことをイメージとして再現する動作。

58
結果と考察
1, 年齢段階ごとの変化
絵本の読み聞かせ場面とその後の展開場面において,子どもの年齢段階ごとに,母子の
情動調整行動がどのように変化していくのかを検討するため,子どもの年齢段階(乳児前
期・乳児後期・幼児前期・幼児後期)を独立変数,子どもの情動調整行動と母親の情動調
整行動各々を従属変数とした分散分析を行った。その結果を絵本場面ごとに示す。

(1)読み聞かせ場面での母親の情動調整の変化
母親の読み聞かせ場面での行動の生起比率と標準偏差を子どもの年齢段階ごと Figure
6-2 に示す。
母親の読み聞かせ場面において,「情動表出」(F (3,124)=7.41, p<.001)と「身体動作」
(F (3,124)=3.71, p<.05.), (F (3,124)=7.15, p<.001)行動に有意
「シンボル的な働きかけ」
な差がみられた。母親の情動調整行動全てに有意な差がみられたため,多重比較(Tukey
の HSD(5%水準)法:以下省略)を行ったところ,
「情動表出」行動においては,乳児前
期,乳児後期,幼児前期が幼児後期よりも有意に高い得点を示した(乳児前期・乳児後期・
幼児前期>幼児後期)。「身体動作」行動では,乳児後期が幼児後期よりも有意に高い得点
を示し(乳児後期>幼児後期),
「シンボル」行動においては,乳児後期が幼児前期,後期
よりも有意に高い得点を示した(乳児後期>幼児前期・後期)。
このことから,母親の「情動表出」行動は年齢が上がるにつれ減少し ,「身体動作」と
「シンボル的な働きかけ」は乳児後期で最も多く見られその後減少することが認められた。

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60 情動表出
.50 身体動作
.40 シンボル
.30
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-2 読み聞かせ場面での母親の情動調整行動の変化

59
(2)展開場面での母親の情動調整の変化
母親の展開場面での行動の生起比率と標準偏差を子どもの年齢段階ごと Figure 6-3 に示
す。
母親の読み聞かせ場面において, (F (3,124)=0.23, n.s.)には有意差はみられ
「情動表出」
な か っ た 。「 身 体 動 作 」( F (3,124)=8.14, p<.001. ) と 「 シ ン ボ ル 的 な 働 き か け 」( F
(3,124)=35.81, p<.001)行動には有意な差がみられたため,多重比較を行ったところ,「身
体動作」行動では,乳児前期と乳児後期が幼児前期と幼児後期よりも有意に高い得点を示
し(乳児前期・後期>幼児前・後期),
「シンボル」行動においても,乳児前期・後期が幼
児前・後期よりも有意に高い得点を示した(乳児前期・後期>幼児前期・後期)

このことから母親の「身体動作」行動は読み聞かせ場面と同様に乳児前期,後期には増
加傾向にあるが,その後幼児期から減少することが認められた。また「シンボル的な働き
かけ」は,読み聞かせ場面においては乳児後期に最も多くみられるが,展開場面では乳児
前期に多く見られている。しかし大まかには乳児期に多く見られ幼児期になると減少する
という点で,読み聞かせ場面とほぼ同じであるといえよう。

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60
情動表出
.50
.40 身体動作
.30 シンボル
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-3 展開場面の母親の情動調整行動の変化

60
(3)読み聞かせ場面での子どもの情動調整の変化
子どもの読み聞かせ場面での行動の生起比率と標準偏差を年齢段階ごと Figure 6-4 に示
す。
子ども読み聞かせ場面において, (F (3,124)=1.95, n.s.)と「シンボル」(F
「情動表出」
(3,124)=1.97, n.s.)行動において有意差はみられなかった。
「身体動作」行動(F
(3,124)=13.72, p<.001.)においては有意差がみられたため多重比較を行ったところ,乳児
前期・後期が幼児前期・後期よりも有意に高い得点を示した。
このことから,読み聞かせ場面において子どもの「身体動作」は年齢とともに減少する
ことが認められた。

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
情動表出
.60
.50 身体動作
.40 シンボル
.30
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-4 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化

61
(4)展開場面での子どもの情動調整の変化
子どもの展開場面での行動の生起比率と標準偏差を年齢段階ごと Figure 6-5 に示す。
子ども展開場面において,「情動表出」( F (3,124)=2.52, p<.10)と「身体動作」( F
(3,124)=9.03, p<.001.), (F (3,124)=3.79, p<.05)行動に有意な差
「シンボル的な働きかけ」
がみられた。母親の情動調整行動全てに有意な差がみられたため,多重比較を行ったとこ
ろ,「情動表出」行動においては,乳児後期が幼児後期よりも有意に高い得点を示した(乳
児後期>幼児後期)。「身体動作」行動では,乳児前期が乳児後期,幼児前期,幼児後期よ
りも有意に高い得点を示し(乳児前期>乳児後期,幼児前期,幼児後期),「シンボル」行
動においては,乳児前期が乳児後期よりも有意に高い得点を示した(乳児前期>乳児後期)。
このことから,展開場面において子どもの「情動表出」行動は読み聞かせ場面と違って,
年齢とともに増加していることが認められた。「身体動作」と「シンボル」行動は読み聞か
せ場面と同様に年齢とともに減少していることが認められた。

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60
情動表出
.50
.40 身体動作
.30 シンボル
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-5 展開場面の子どもの情動調整行動の変化

62
2, 読み聞かせ場面と展開場面の母子の情動調整行動の比較
絵本の読み聞かせ場面と展開場面において,母親の行動と子どもの行動がどのように関
連しているのか検討するために,母親の情動調整行動の下位尺度である,
「情動表出」,
「身
体動作」
,「シンボル的な働きかけ」と,子どもの情動調整行動の下位尺度である「情動表
出」
,「身体動作」
,「シンボル」に関して子どもの年齢段階において 2 変量の相関分析を行
った。その結果を場面ごとに示す。

(1) 読み聞かせ場面
読み聞かせ場面における母子の相互相関を Table 6-4 に示す。
乳児前期において,母親のシンボル的な働きかけと子どもの情動表出の間に正の有意な
相関がみられた。母親が子どもの表象を促すような動作,例えば絵本に犬がでてきたとき
ワンワンといいながら,その声に合わせて子どもの体を揺らしたりすることで,子どもは
母親を通して絵本の世界を共有でき,母子一体となり絵本の世界を楽しむことができるた
め,情動を表出することが示唆された。
乳児後期において,母親の身体動作と子どもの身体動作,母親のシンボル的な働きかけ
と子どものシンボルの間に正の有意な相関がみられた。このことから母親の行動を子ども
が模倣していることが示唆された。
幼児前期において,母親の情動表出と子どもの情動表出,母親のシンボル的な働きかけ
と子どもの身体動作,シンボルの間に正の有意な相関がみられた。このことから乳児後期
での母親の模倣行動をもとに,幼児前期では母親の働きかけの意味を理解しはじめ,模倣
ではなく自分なりの応答していることが示唆された。
幼児後期において,母親の情動表出と子どもの情動表出,母親の身体動作と子どもの情
動表出,母親のシンボル的な働きかけと子ども情動表出,シンボルの間に正の有意な相関
がみられた。今までの母子での情動調整の相互行為をもとに,子どもは母親の行動の意味
を理解することができるようになり,母親の働きかけに合わせた情動を表出していること
が示唆された。

63
Table 6-4 読み聞かせ場面における母子の情動調整の相関
母親の 母親の 母親の
年齢段階 子ども\母親
情動表出 身体動作 シンボル
子どもの *
.285 .297 . 4 9 9
情動表出
乳児前期 子どもの
-.086 -.301 -.013
身体動作
子どもの
.283 .283 -.040
情動表出
子どもの
乳児後期 身体動作 .295 .562** .311
子どもの
.183 -.166 . 4 7 5 * *
シンボル
子どもの **
. 4 0 5 .057 .074
情動表出
子どもの
幼児前期 身体動作 -.081 -.037 .275*
子どもの **
.155 .094 . 6 4 4
シンボル
子どもの * * *
情動表出
. 2 8 9 . 3 2 9 . 2 8 1
子どもの
幼児後期 身体動作 .152 .038 .217
子どもの
シンボル
.047 .134 .273*
*p <.05, **p <.01

64
(2) 展開場面
展開場面における母子の相互相関を Table 6-5 に示す。
乳児前期において,読み聞かせ場面と違って展開場面においては母子の有意な相関は
みられなかった。
乳児後期において,読み聞かせ場面と同様に母親の身体動作と子どもの身体動作の間に
正の有意な相関がみられた。一方で読み聞かせ場面では相関がみられなかった母親の情動
表出と子どもの情動表出との間において正の有意な相関がみられた。このことから,読み
聞かせ場面においてはどちらかというとジェスチャーや表象的なやりとりであるのに対し,
展開場面においてはより情動的なやりとりが行われていることが示唆された。
幼児前期においては,読み聞かせ場面と違って母子の有意な相関はみられなかった。こ
れは,乳児後期での模倣行動を基盤に幼児前期の読み聞かせ場面において母親の行動の意
味を理解しはじめ,それに対して自分なりの応答を示し,展開場面においてその行動をさ
らに自分のものにしている状態ためではないかと考えられる。
幼児後期において,読み聞かせ場面と違って,母親の情動表出と子どもの身体動作の間
に負の有意な相関がみられ,母親の身体動作と子どもの身体動作の間に正の有意な相関が
みられた。また読み聞かせ場面と同様に母親のシンボル的な働きかけと子どものシンボル
の間に正の有意な相関がみられた。このことから,子どもは今までの母子の情動調整的な
相互行為により母親の示す情動的な働きかけの意味を理解し,読み聞かせ場面ではその母
親の働きかけに応じた応答を行い,展開場面においては,読み聞かせ場面で学んだことを
だしつつ,さらに内化しているためではないかと考えられる。

65
Table 6-5 展開場面における母子の情動調整の相関
母親の情動 母親の 母親の
年齢段階 子ども\母親
表出 身体動作 シンボル
子どもの
.111 -.149 .318
情動表出
子どもの
乳児前期 身体動作 .016 -.060 .216
子どもの
.110 .023 -.087
シンボル
子どもの **
. 7 0 0 .296 .148
情動表出
子どもの
乳児後期 身体動作 .160 .463** .027
子どもの
.239 .179 .334
シンボル
子どもの
.182 .115 .212
情動表出
子どもの
幼児前期 身体動作 .215 -.105 -.131
子どもの
.007 .125 .000
シンボル
子どもの
.211 .052 .151
情動表出
子どもの
幼児後期 身体動作 -.399** .317* .077
子どもの
シンボル
.093 .030 .557**
*p <.05, **p <.01

66
第3節 絵本の読み聞かせと子どもの語い発達との関連(評定分析)

問題と目的
絵本の読み聞かせが母子の行動と子どもの言語発達へどのような関連があるのかを年齢
ごとに検討したものとして岩崎・田島・佐々木(2010)の研究や岩崎ら(2010)と一部同
じ調査者を含む,田島ら(2010)の研究があるが,これらの研究においては,読み聞かせ
時の母親の行動が,子どもの行動と言語発達に関連していることは明らかにしているが,
読み聞かせ時の,母子相互交渉場面での母親の行動が,どのような子どもの言語発達に影
響を及ぼすのかという過程については,明らかにされていない。母親の絵本の読み聞かせ
によって,子どもの言語発達へ影響を及ぼす過程には,両者を結ぶなんらかの媒介変数の
存在が考えられる。
この媒介変数を検討している研究として,Tajima&Miyake(1980)がある。この研究で
は,文化的要因にかかわる何らかの心理学的な媒介変数として有力なものの 1 つに,母子
相互交渉場面における母親行動に反応する子どもの行動があると考えており,4 歳児を縦断
的に約 10年もの間追い,子どもの発達指標において質問紙や行動評定など複数の測度を採
用して分析をした結果,母親行動が直接子どもの知的発達に影響を及ぼしているだけでは
なく,母親と子どもとの相互行為が子どもの知的発達に影響しているというように子ども
の行動を媒介とした間接的な影響の側面もあることが示唆されている。
以上の先行研究や理論により,絵本の読み聞かせ時の母子の相互交渉における母親の行
動は子どもの行動を媒介として,子どもの語い発達と関連していると考えられる。
そこで本研究では,Tajima&Miyake(1980)にならい,岩崎ら(2010)の分析を再分析
する形で,読み聞かせ時において母子相互交渉の中で母親のいかなる行動が,子どもの行
動とどのような関係を示すか,またその子どもの行動が,それまでの積み重ねとして測定
される,子どもの使用語いの個人差とどのように関連するのかを明らかにすることを第 1
の目的とする。また,第 2 の目的として,岩崎ら(2010)と田島ら(2010)では,1 歳,3
歳,5 歳児とその母親を対象とし間隔をおいての変化をみたが,本研究では 0~6 歳まで年
齢の幅を広げ,田島ら(2010)に基づき,年齢を「乳児前期段階」
(0 歳),
「乳児後期段階」
(1 歳),「幼児前期段階」 ,「幼児後期段階」(4,5,6 歳)と 4 つの段階に区切
(2,3 歳)
り,関係をみることで発達の変化の在り方を明らかにすることとする。

67
方法
対象者
関東在住の 0 歳から 6 歳までの健常児とその母親計 129
研究Ⅰの第1節と同様の対象者で,
ペアである。
0 歳児 17 名(平均月齢 0 歳 8 ヵ月,男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月,男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月,男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月,男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 19 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月,男児 7 名,女児 8 名)
材料
研究Ⅰと同様に,子どものお気に入りの絵本 1 冊を使用した。
観察手続き
研究Ⅰと同様に,2008 年 11 月下旬~2010 年 7 月中旬にできるだけ自然な場面にするた
めに対象児の家庭または,対象児が通う対象児にとってなじみ深い民間幼児教育施設の教
2 名の観察者のうち 1 名はビデオ撮影を行い, もう 1 名が進行を行った。
室で観察を行った。
ビデオの正面に机を配置して座布団を 2 枚用意し,
「こちらにお座りください。いつもご家
庭でなさっているようにリラックスして読み聞かせを行って下さい。
」と教示し,ビデオ撮
影を行った。撮影に関してはあらかじめ母親の了解を得ていた。絵本場面は読み聞かせ場
面と展開場面の 2 場面にわけて行った。
尺度
KIDS 乳幼児発達スケール(大村ら,1989)を使用した。この発達スケールは,
「運動操
作」「理解言語」「表出言語」「言語概念」「対子ども社会性」
「対成人社会性」「しつけ」
「食
事」の項目から成り,乳幼児の自然な生活行動全般から発達を捉えることができるもので
ある。本研究では,子ども使用語いの発達の指標として,使用された語いの理解について
の「理解言語」
,語いの自発的使用である「表出言語」
,一般的な語い概念の理解としての
「言語概念」領域を使用した。検査は,A:0 歳 1 ヵ月~0 歳 11 ヵ月(言語概念を除く),
B:1 歳 0 ヵ月~2 歳 11 ヵ月,C:3 歳 0 ヵ月~6 歳 11 ヵ月にわかれており,保護者に対象
児の行為の有無について,明らかにできるもの,過去においてできたもの,やらせたこと
はないがやらせればできるものには○を,明らかにできないもの,できたりできなかった
りするもの,やったことがないのでわからないものには×をつけて答えてもらうものであ
る。○の数を 1 点として合計したものを項目数でわり平均値を算出した。KIDS A,B,C の理
解言語,表出言語,言語概念の項目例を Table1 に示す。KIDS 乳幼児発達スケールは,0
歳から 6 歳 11 ヵ月までを適用年齢としており,また母親を通すことで場所や時間の制約を受
けずかつ簡易に子どもの日常的な語い獲得活動を捉えることができることから使用した。

68
分析手続き
研究Ⅰと同様にビデオ録画を再生し,2 名の評定者が,一緒にビデオをみて,評定項目
(田島,2003)に従い,母子の行動評定を行った。評定の対象とする絵本の読み聞かせ場
面の区切りは,母親が絵本について語るところから開始とし,終了は絵本を閉じ,その後
発言がある場合絵本を閉じた後の一言めまでを含め終了とした。評定を行った後,2 名の評
定者間で不一致だった場合,再度ビデオを確認し協議を行った。協議後の 2 名の評定者間
の一致率は,κ=.75 であった。

69
結果
1. 年齢段階ごとの変化
子どもの年齢段階ごとに子どもの語い発達指標の平均値と標準偏差を Figure 6-6 に示す。
子どもの年齢段階を独立変数,子どもの語い発達指標(表出言語,理解言語,概念)を従
属変数とした分散分析を行ったところ,子どもの「表出言語」(F (3,124)=43.89, p<.001)

(F (3,124)=57.13, p<.001)
「理解言語」 , (F (2,108)=108.41, p<.001)全てにおい
「概念」
て有意な差がみられた。有意差がみられたため,多重比較を行ったところ,
「表出言語」に
おいては,乳児後期よりも乳児前期と幼児前期(乳児前期>乳児後期<幼児前期)
,乳児前・
後期,幼児前期よりも幼児後期(乳児前期・後期・幼児前期<幼児後期)の方が有意に高
い得点を示した。
「理解言語」においては乳児後期よりも乳児前期(乳児前期>乳児後期)

乳児前期と乳児後期よりも幼児前期と幼児後期(乳児前期・後期<幼児前期・後期)の方
が有意に高い得点を示した。
このことから,子どもの語い獲得は表出言語と理解言語においては乳児後期にいったん
減少することが認められた。これは,この時期より自己内対話活動が行われ始めるため,
表に現れず内面化されるためではないかと考えられる。

(M)
1.00
.90
.80
.70 表出言語
.60
.50 理解言語
.40
.30
概念
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-6 語い発達指標の年齢段階ごとの変化

70
2. 読み聞かせ場面と展開場面における子どもの行動と語い発達との関連
絵本の読み聞かせ場面と展開場面での子どもの行動と子どもの語い発達との関連をみる
ために,まず子どもの年齢を,乳児前期段階(0 歳),乳児後期段階(1 歳),幼児期前期段
,幼児期後期段階(4・5・6 歳)の 4 段階にわけ,調査者による子どもの行動
階(2・3 歳)
の評定を平均値によって低群と高群にわけ独立変数とし,子どもの語い発達指標を従属変
数とした t 検定を行った(Table 6-6)。その結果を絵本場面ごと子どもの年齢段階に沿って示
す。

(1) 読み聞かせ場面
(ⅰ)乳児前期段階(0 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達指標との平均値の差を分析した結果,子
(t (8)=0.52, n.s.)と「理解言語」
どもの「積極的参加」行動と子どもの「表出言語」 (t (8)=0.2,
n.s.)には有意な差はみられなかった。子どもの「スムーズなやりとり」行動と子どもの「表
出言語」(t (11)=0.61, n.s.)と「理解言語」
(t (11)=0.03, n.s.)には有意な差はみられなか
った。
(ⅱ)乳児後期(1 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達指標の平均値との差を分析した結果,子
どもの「積極的参加」行動と子どもの「表出言語」(t (13)=1.38, n.s.)と「理解言語」(t
(13)=1.51, n.s.)との間に有意な差はみられなかった。しかし,子どもの「言語概念」(t
(13)=2.27, p<.05)においては,
「積極的参加」行動低群の子どもは高群の子どもに比べて得
点が有意に高くなることが示唆された。
(t (19)=1.96, p<.10),
子どもの「スムーズなやりとり」行動と「理解言語」 「言語概念」
(t (19)=2.72, p<.05)の間に有意な差がみられ,高群の子どもの方が低群の子どもに比べ
て有意に得点が高くなり, (t (19)=0.95, n.s.)には有意な差はみられなかった。
「表出言語」
(ⅲ)幼児前期段階(2・3 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達の平均値に有意な差はみられなかった。
(ⅳ)幼児後期段階(4・5・6 歳)
子どもの行動の低群・高群と言語発達の平均値の差においては,子どもの「表出言語」
(t (21)=2.10, p<.05)と「言語概念」
(t (21)=2.34, p<.05)において,子どもの「積極的参
加」行動が低い子どもは高い子どもに比べて有意に得点が高くなることが認められ,
「理解
言語」との間に有意な差はみられなかった。子どもの「スムーズなやりとり」行動と語い
発達との間に有意な差はみられなかった。

71
(2) 展開場面
(ⅰ)乳児前期段階(0 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達指標との平均値の差を分析した結果,子
(t (11)=1.96, p<.10)において,高群の子どもは
どもの「積極的参加行動」と「表出言語」
低群の子どもに比べて有意に得点が高くなる傾向がみられ, (t (11)=0.78, n.s.)
「理解言語」
には有意な差はみられなかった。子どもの「スムーズなやりとり」行動と子どもの「表出
(t (11)=1.27, n.s.)と「理解言語」(t (11)=0.79, n.s.)には有意な差はみられなかっ
言語」
た。
(ⅱ)乳児後期(1 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達の平均値に有意な差はみられなかった。
(ⅲ)幼児前期段階(2・3 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達指標との平均値の差を分析した結果,子
どもの「積極的参加」行動と「表出言語」(t (36)=2.46, p<.05)の間に有意な差がみられ,
子どもの積極的参加行動が高い方が低い方に比べて有意に得点が高くなることが認められ,
「理解言語」(t (36)=1.60, n.s.)と「言語概念」(t (36)=1.23, n.s.)には有意な差はみられ
なかった。子どもの「スムーズなやりとり」行動と子どもの語い発達指標には有意な差は
みられなかった。
(ⅳ)幼児後期段階(4・5・6 歳)
子どもの行動の低群・高群と子どもの語い発達の平均値に有意な差はみられなかった。

72
73
考察
本研究の第 1 の目的は,0 歳から 6 歳児とその母親を対象に,絵本の読み聞かせ時の母子
相互交渉の中で母親のどのような行動が,子どもの行動を媒介とし,子どもの語いの発達
へと関連するかを明らかにすることであった。第 2 の目的はそのような母子相互行為が子
どもの語い発達へ及ぼす影響に場面の違いはあるのかを明らかにすることであった。
その結果,以下のような特徴的な関連の在り方がみられた。母親と子どもの行動の関連
は研究Ⅰの結果(Table 6-7)より考察する。

(1) 乳児前期段階(0 歳)
読み聞かせ場面において,母親自身が読み聞かせを楽しみ足場作り行動をおこなうこと
で子どもも読み聞かせに積極的に参加しようとする行動がみられ,そのような行動が子ど
もの語い獲得とは関連しないことが示された。これは,乳児前期の読み聞かせ場面は母親
自身が楽しみながら子どもの足場づくりをすることで,母子の一体感を作り子どもも絵本
の世界に積極的に参加する体制を作る場面であるためではないかと考えられる。
それに比べ,展開場面においては,母親が楽しそうに働き掛け足場作りをすることで子
どもは積極的に参加する行動をとり,その母子相互行為が子どもの表出言語獲得を増加助
長させる傾向が見られた。これは,読み聞かせ場面での母子一体感を作り,子どもが絵本
の世界に積極的に参加できるような体制を基盤とし,子どもの中に内面かされ,展開場面
において子どもの表出言語となって現れるのではないかと考えられる。しかし乳児前期に
おいて子どもはまだ話すことができないため,表出言語といっても言葉というよりは発声
的なものであると考えられる。

(2) 乳児後期段階(1 歳)
読み聞かせ場面においては母親が子どもを尊重する読み方をすることで子どもは積極的
参加行動が増加し,そのことが子どもの概念獲得につながっていき,さらに母親が読み聞
かせを楽しみ足場作りをするような読み聞かせをすることで,やりとりがスムーズになり
子どもの理解言語と概念獲得が促されることが示された。これは,乳児前期での母子相互
行為をベースとして,母親は子どもがさらに絵本の世界に入り易いようにラポール形成を
行い,具体的に子どもへの提案や指示をだすといった子どもが読み聞かせへと入り易い場
を作ることで,子どもは自然と読み聞かせ活動に参加することができ,母子のやりとりが
スムーズになるためであると考えられる。このように母親と子どもとの共通のコミュニケ
ーションの土台が作られることで,母子間でスムーズな相互作用がうまれ,子どもは母親
の働きかけに意味を理解することで,子どもの言語の理解が進み,概念も獲得しやすくな
るのではないか。そしてこのことは,Tomasello(1995)の語い獲得のプロセスの基礎段階で
あると考えられる。
展開場面においては,母子相互行為と子どもの語い発達との関連はみられなかった。

74
(3)幼児前期段階(2,3 歳)
読み聞かせ場面において,母親自身が楽しみさらに子どもの足場作りをしながら読み聞
かせをした方が,子どもの積極的参加活動が多くなる傾向にあることが認められた。しか
し,そのような母子相互行為と言語概念獲得との間に有意な差はみられなかった。このこ
とから,読み聞かせ場面において,母親が子どもの足場づくりをすることで子どもも絵本
の世界に入りやすくなり積極的に参加できるようになることが示された。
一方,展開場面においては,母親が子どもを尊重することで子どもは積極的参加やスム
ーズなやりとりになったり,母親自身読み聞かせを楽しみながら子どもの足場作りもする
ことで,子どもとのやりとりがスムーズになり,そのことが子どもの表出言語へつながっ
ていくことが示された。これは読み聞かせ場面での母子相互行為が,今度は展開場面にお
いてさらに深まり,そして乳児後期の理解言語と語い概念獲得をベースとして,表出言語
が促されたのではないかと考えられる。

(4)幼児後期段階(4,5,6 歳)
読み聞かせ場面において母親が子どもを尊重し,かつ読み聞かせの場づくりをすること
で,子どもの積極的参加行動は増加するが,乳児前期段階とは逆にそのような子どもの積
極的参加行動が多いほど,子どもの語い概念の発達の低さを招くことが示された。つまり,
幼児後期段階では子どもの積極的参加行動が少ない方が,語い概念獲得の発達を導くので
ある。これは,幼児後期の読み聞かせ場面では,積極的に質問したりせずに,黙って母親
の読み聞かせを聞くことによって言語概念の獲得が導かれると考えられる。これは,子ど
もの自己内対話活動が定着しているためではないか。母親が子どもの自己内対話活動を促
進させるような読み方をすることで,子どもは母親と共有した読み聞かせ活動を自分の中
にとりこむ個人的活動が多くなる。そのため,子どもは積極的参加行動が少なくなり,子
どもの盛んな自己内対話活動によって言語概念獲得や表出言語の発達を導くのではないか
と考えられる。
展開場面においては母子相互行為と子どもの語い発達との関連はみられなかった。

75
第4節 絵本の読み聞かせと子どもの語い発達との関連

(言語行動分析)

目的
実際の絵本場面時の母親の言語行動が子どもの言語行動とどのような関連を示すのかを
検討するために,その変化過程を表出された行動レベルでより詳細に明らかにすることを
目的とする。
方法
対象者
研究Ⅰの第1節と同様の対象者で,関東在住の 0 歳から 6 歳までの健常児とその母親計
129 ペアである。
0 歳児 17 名(平均月齢 0 歳 8 ヵ月,男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月,男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月,男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月,男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 19 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月,男児 7 名,女児 8 名)
材料
研究Ⅰと同様に,子どものお気に入りの絵本 1 冊を使用した。
観察手続き
研究Ⅰと同様に,2008 年 11 月下旬~2010 年 7 月中旬にできるだけ自然な場面にするた
めに対象児の家庭または,対象児が通う対象児にとってなじみ深い民間幼児教育施設の教
2 名の観察者のうち 1 名はビデオ撮影を行い, もう 1 名が進行を行った。
室で観察を行った。
ビデオの正面に机を配置して座布団を 2 枚用意し,
「こちらにお座りください。いつもご家
庭でなさっているようにリラックスして読み聞かせを行って下さい。
」と教示し,ビデオ撮
影を行った。撮影に関してはあらかじめ母親の了解を得ていた。絵本場面は読み聞かせ場
面と展開場面の2場面にわけて行った。
分析手続き
ビデオ録画を再生し,2 名の分析者(発達心理学専攻の大学院生)が,一緒にビデオをみ
て,母子の行動を記録,抽出した。分析単位は時間間隔を 30 秒とし,30 秒間ごとに分析対
象行動(以下に示すような母子の分析項目:Table 6-8, 6-9)がみられた場合にカウントし,
母子の分析対象行動の 30 秒間に対する生起比率を求めた。2 名の分析者間で不一致だった
場合,再度ビデオを確認し協議を行った。2 名の分析者間の一致率は.88 であった。分析項

76
目は Ninio&Bruner(1978)を参考に作成したものである。
(1) 母親の分析項目

Table 6-8 母親の分析カテゴリー項目
上位概念 分析項目 内容
言語注意喚起 名前をよぶ、ほら、みてなど子どもの注意をひく。
注意喚起
非言語注喚起 指さし、子どものほうをみる(子どもの状態を確認している「見る」は省く)。
ラべリング 命名 対象にラベルづけをする(はら、ワンワンよ)。
What質問 これは何かな?など、子どもが名詞だけや、Yes/Noで答えられるような質問
質問 Which わんわんどれかな?どこが面白かった?など少し考えさせ選ばせるような質問
What-doing くまさん何しているの?など、子どもに考えさせるような発展的質問。
絵本と日常生 ○ちゃんもお片づけできるよね、といったように絵本の内容と子どもの行動や日
子結付け言及
活の関連づけ 常生活とを結び付けて説明する。質問形式も含む。
絵本にでてきたものや関連することを説明する。
説明 絵本説明
数唱や主人公の気持ちを説明する、最後に絵本のまとめをする行動も含む。
言語的応答 うん、そうだねといった言語的な応答。
応答
非言語的応答 うなずく、子どもの方をみるといった非言語的な応答。
母子共同 自問自答 自分で子どもに質問し、自分で答える。
発話構成 補償的係わり 子どもが言おうとしていることを母親が代弁する。
その他 朗読 絵本をたんたんと読んでいる様子。

77
(2) 子どもの分析項目

Table 6-9 子どもの分析カテゴリー項目
上位概念 分析項目 内容
言語注意喚起 名前をよぶ、ほら、みてなど言語的な注意喚起。
注意喚起
非言語注喚起 指さし、母のほうをみるなど、非言語的な注意喚起。
ラべリング 命名 対象にラベルづけをする(ワンワン)。
質問 これは何?くまさんどれかななどの質問
質問
発展的質問 くまさん何しているの?といった発展的な質問
くまさんこぼしちゃったねなど絵本にでてきたものや、関連するものの説明を
説明 絵本説明
子が能動的にする。
言語的応答 うん、そうだね、くまさんだよ、などのような言語的な応答。
発展的応答 くまさんが食べたからだよ、など母の質問に対して、発展的に応答する。
応答
うなずく、指さし、母の顔をみるなど非言語的な応答。
非言語的応答
母の働きかけに対して母親の顔を見る(目くばせ)。
母子共同
共話 子ども「ホットケーキ」母親「たべたね」
発話構成
自己内対話 母の読み聞かせに合わせて口を動かしたり、絵本にでてきたものを
つぶやき
活動 つぶやいたりする行動。
文字意識 文字注目 絵本に書かれている文字に注目したり、声にだして読んだりする。

78
結果
1. 絵本場面での母子の言語行動
絵本場面での母子行動を明らかにするために,母子それぞれについての言語行動を抽出
した分析カテゴリーに対し,年齢(0 歳~6 歳)と絵本場面(読み聞かせ場面・展開場面)
を込みにした因子分析を行った。その結果を以下に示す。

(1)絵本場面時の母親の言語行動
「絵本場面時の母親の言語行動」の構造について明らかにするために,母親の分析カテゴ
リーの 13 項目について最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。このうち,十
分な因子負荷量を示さなかった 6 項目を除外した 7 項目について,再度最尤法・プロマッ
クス回転による因子分析を行った。その結果 3 因子が抽出された(Table 6-10)。第 1 因子
。第 2 因子は,注意喚
は,応答的な行動であったことから「応答」と命名した(α=.756)
。第 3 因子は,子どもに言語
起行動であったことから「注意喚起」と命名した(α=.788)
(α=.542)と命名した。回転前の 3
的な手助けを行っていたことから「言語的な足場作り」
因子で 7 項目の全分散を説明する割合は 76.274%であった。

Table 6-10 母親の言語行動の因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)
項目内容 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
因 子 1「 応 答 」
 言語的応答 .987 .033 .042
 非言語的応答 .633 -.097 .156
 What質問 .524 .066 -.138
因 子 2「 注 意 喚 起 」
 言語注意喚起 .060 1.020 -.011
 非言語注意喚起 -.015 .649 .000
因 子 3「 言 語 的 な 足 場 作 り 」
 補償的関わり -.109 .077 1.054
 WD質問 .082 -.146 .417

Ⅰ ― -.367 .543
Ⅱ ― -.065
Ⅲ ―

79
(2)絵本場面時の子どもの言語行動
「絵本場面時の母親の言語行動」の構造について明らかにするために,母親の分析カテゴ
リーの 15 項目について最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。このうち,十
分な因子負荷量を示さなかった 6 項目を除外した 9 項目について,再度最尤法・プロマッ
クス回転による因子分析を行った。その結果 3 因子が抽出された(Table 6-11)。第 1 因子
(α=.662),第 2 因子はつぶやきや言語的な応答
は,注意喚起的な行動から「注意喚起」
(α=.523),第 3 因子は発展的な質問や応答がみ
がみられたことから「自己内対話活動」
(α=.445)と命名した。回転前の 3 因子で 9 項目の全分
られたことから「発展的関わり」
散を説明する割合は 62.358%であった。

Table6-11 子どもの言語行動の因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)
項目内容 Ⅰ Ⅱ Ⅲ
因 子 1「 注 意 喚 起 」
 言語注意喚起 .769 .083 .130
 非言語注意喚起 .765 -.169 .077
 共話 .431 .035 -.189
 質問 .386 .280 .098
因 子 2「 自 己 内 対 話 活 動 」
 つぶやき .133 .690 -.180
 言語的応答 -.232 .656 .234
 絵本説明 .254 .385 -.074
因 子 3「 発 展 的 か か わ り 」
 発展的質問 .043 -.012 .674
 発展的応答 -.085 .013 .665

Ⅰ ― .540 .494
Ⅱ ― .331
Ⅲ ―

80
2, 年齢段階ごとの母子の言語行動の変化
絵本の読み聞かせ場面とその後の展開場面において,子どもの年齢段階ごとに,母子の
言語行動がどのように変化していくのかを検討するため,子どもの年齢段階(乳児前期・
乳児後期・幼児前期・幼児後期)を独立変数,母子の各々の言語行動を従属変数とした分
散分析を行った。その結果を絵本場面ごとに示す。

(1)読み聞かせ場面での母親の行動の変化
母親の読み聞かせ場面での行動の平均値(M)と標準偏差(SD)を子どもの年齢段階ご
と Figure 6-7 に示す。
「応答」(F (3,124)=11.29, p<.001)と「注意喚起」
母親の読み聞かせ場面において, (F
(3,123)=19.59, p<.001.)行動に有意な差がみられ, (F (3,124)=2.01, n.s)行動
「足場作り」
では有意差は見られなかった。有意な差がみられたため,多重比較を行ったところ,
「応答」
行動においては,幼児前期が乳児前期,乳児後期,幼児後期よりも有意に高い得点を示し
た(幼児前期>乳児前期・乳児後期・幼児後期)。「注意喚起」行動では,乳児前期が幼児
後期よりも有意に高い得点を示し(乳児前期>幼児後期),乳児後期が幼児前期よりも有意
に高い得点を示した(乳児後期>幼児前期)

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60
.50 応答
.40 注意喚起
.30 足場作り
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-7 読み聞かせ場面の母親の言語行動の変化

81
(2)展開場面での母親の行動の変化
母親の展開場面での行動の平均値(M)と標準偏差(SD)を子どもの年齢段階ごと Figure
6-8 に示す。
母親の展開場面において,
「応答」(F (3,124)=26.86, p<.001)と「注意喚起」(F
(3,124)=10.00 p<.001.)と「足場作り」
(F (3,124)=8.88, p<.001)行動に有意な差がみらた
ため,多重比較を行ったところ,「応答」行動においては,幼児前期が乳児前期,乳児後期
よりも(幼児前期>乳児前期・後期)
,幼児後期が乳児前期,後期よりも(幼児後期>乳児
前期・乳児後期)有意に高い得点を示した。
「注意喚起」行動では,乳児前期・後期が幼児
後期よりも有意に高い得点を示した(乳児前期・後期>幼児後期)。「足場作り」行動にお
いては,幼児前期よりも乳児前・後期(幼児前期>乳児前・後期)
,幼児後期が乳児後期よ
りも有意に高い得点を示した(幼児後期>乳児後期)。

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60
応答
.50
.40 注意喚起
.30 足場作り
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-8 展開場面の母親の言語行動の変化

82
(3)読み聞かせ場面での子どもの言語行動の変化
子どもの読み聞かせ場面での行動の平均値(M)と標準偏差(SD)を子どもの年齢段階
ごと Figure 6-9 に示す。
子どもの読み聞かせ場面において, (F (3,124)=6.45, p<.001)と「自己内対
「注意喚起」
(F (3,124)=7.88 p<.001.)行動に有意な差がみられ,
話活動」 (F (3,124)=1.68,
「発展的関わり」
n.s)は見られなかった。有意差がみられたものに多重比較を行ったところ,
「注意喚起」行
動においては,幼児前期が乳児前期,乳児後期よりも有意に高い得点を示した(幼児前期
>乳児前期・後期)。
「自己内対話活動」行動では,幼児前期が乳児前期・後期よりも(幼
児後期>乳児前期・後期)
,幼児後期が乳児前期よりも(幼児後期>乳児前期)有意に高い
得点を示した。

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60 注意喚起
.50
自己内対話活動
.40
.30 発展的関わり
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-9 読み聞かせ場面の子どもの言語行動の変化

83
(4)展開場面での子どもの言語行動の変化
子どもの展開場面での行動の平均値(M)と標準偏差(SD)を子どもの年齢段階ごと
Figure6-10 に示す。
子どもの展開場面において, (F (3,124)=2.63, p<.10)に有意傾向,「自己内
「注意喚起」
(F (3,124)=43.51 p<.001)と「発展的関わり」
対話活動」 (F (3,124)=5.43, p<.01)行動に
有意な差がみられたので多重比較を行ったところ,
「自己内対話活動」行動では,幼児前期
が乳児前期・後期よりも(幼児後期>乳児前期・後期)
,幼児後期が乳児前期・後期よりも
(幼児後期>乳児前期・後期)有意に高い得点を示した。「発展的関わり」行動では,幼児
前期が乳児前期・後期よりも有意に高い得点を示した(幼児前期<乳児前期・後期)

(生起比率)
1.00
.90
.80
.70
.60
注意喚起
.50
.40 自己内対話活動
.30 発展的関わり
.20
.10
.00
乳児前期 乳児後期 幼児前期 幼児後期 (年齢段階)

Figure 6-10 展開場面の子どもの言語行動の変化

84
3, 場面ごとの母子の言語行動の関連
絵本の読み聞かせ場面と展開場面において,母親の言語行動と子どもの言語行動がどの
ように関連しているのかを検討するために,母親の言語行動である「応答」
「注意喚起」
「足
場作り」と,子どもの言語行動である「注意喚起」
「自己内対話活動」
「発展的関わり」に
関して,子どもの年齢段階ごとに 2 変量の相関分析を行った。その結果を場面ごとに示す。

(1) 読み聞かせ場面
読み聞かせ場面における母子の相互相関を Table 6-12 に示す。
乳児前期では,母親の言語行動と子どもの言語行動の間に有意な相関はみられなかった。
乳児後期において子どもの「自己内対話活動」と母親の「応答」の間に正の有意な相関
がみられた。
幼児前期において子どもの「注意喚起」と母親の「応答」,子どもの「自己内対話活動」
と母親の「応答」
,そして母親の「足場作り」と子どもの「発展的関わり」の間に正の有意
な相関がみられた。
幼児後期では,子どもの「注意喚起」と母親の「応答」
,子どもの「自己内対話活動」と
母親の応答」
,子どもの「発展的関わり」と母親の「応答」との間に正の有意な相関がみら
れた。また,母親の「注意喚起」と子どもの「自己内対話活動」
,母親の「足場作り」と子
どもの「言語注意喚起」
「自己内対話活動」「発展的関わり」それぞれの間において正の有
意な相関がみられた。
このことから,読み聞かせ場面での母子の言語的な相互行為は年齢段階があがるにつれ
活発になっていることが示唆された。
また子どもの自己内対話活動は乳児後期よりみられ始め,母親はそれに応答し子どもの
自己内対話活動の補助を行っていると考えられる。そしてその自己内対話活動のもと,今
度は幼児期において子ども自ら注意喚起行動をし母親に働きかけたり,発展的な関わりを
しており,母親もその手助けとなるような足場作り行動をしていることが示された。

85
Table 6-12 読み聞かせ場面における母子の言語行動の相関
母親の 母親の 母親の
年齢段階 子\母
応答 注意喚起 足場作り
子どもの ― ―
.127
注意喚起

子どもの ― ― ―
乳児前期
自己内対話活動

子どもの ― ― ―
発展的関わり
子どもの
.173 .070 -.058
注意喚起
子どもの
乳児後期 .455* -.102 .335
自己内対話活動
子どもの ― ― ―
発展的関わり
子どもの
.364* -.132 .097
注意喚起
子どもの
幼児前期 .626** -.154 .290
自己内対話活動
子どもの
.227 .200 .443**
発展的関わり
子どもの
.701** .267 .575**
注意喚起
子どもの
幼児後期 自己内対話活動 .800** .298* .589**

子どもの
.540** .245 .648**
発展的関わり

86
(2) 展開場面
展開場面における母子の相互相関を Table 6-13 に示す。
乳児前期では,読み聞かせ場面では母子の言語行動に関連はみられなかったが,展開場
面においては,子どもの「注意喚起」と母親の「応答」,子どもの「注意喚起」と母親の「足
場作り」との間に正の有意な相関がみられた。
乳児後期では,読み聞かせ場面と違って母子の言語行動の間に有意な相関はみられなか
った。
幼児前期では,読み聞かせ場面と同様に子どもの「自己内対話活動」と母親の「応答」,
母親の「足場作り」と子どもの「発展的関わり」の間に正の有意な相関がみられた。
幼児後期では,読み聞かせ場面と同様に子どもの「自己内対話活動」と母親の「応答」,
母親の「足場作り」と子どもの「発展的関わり」の間に正の有意な相関がみられた。そし
て読み聞かせ場面ではみられなかった母親の「注意喚起」と子どもの「注意喚起」の間に
も有意な正の相関がみられた。
このことから乳児前期では,読み聞かせ場面と違い,子どもからの働きかけがあり,母
親はそれに応答し子どもと絵本を共有できるように足場作りを行っていることが示唆され
た。
乳児後期では,読み聞かせ場面では子どもの自己内対話活動がみられたのだが,展開場
面においては見られなかった。これは,母親の言語行動が子どもの表だった言語行動とし
ては現れにくく,読み聞かせ場面において自己内対話活動を促進させるような母子相互行
為をベースとして,それをさらに自分の内面にとりいれ定着させようとしている状態にあ
るためではないかと考えられる。
幼児前期においては,読み聞かせ場面と同様に,子どもの自己内対話活動に対しての母
親の応答行動,母親が足場作りをすることで子どもが発展的な関わりをすることが示唆さ
れた。これは,乳児後期での自己内対話活動を定着させるような母子相互行為をベースと
し,幼児前期において子ども自ら言語的でより発展的な言語行動を行えるようになってい
るためであると考えられる。
幼児後期においては,読み聞かせ場面の方がやりとりが活発であり,展開場面では読み
聞かせ場面よりも母子の言語行動の関連が減少している。子どもは読み聞かせ場面での活
発な言語的母子相互行為で学んだことを展開場面においてさらに深めるため,思考してい
る状態にあるためではないかと考えられる。

87
Table 6-13 展開場面における母子の言語行動の相関
母親の 母親の 母親の
年齢段階 子\母
応答 注意喚起 足場作り
子どもの
.551* .245 .622*
注意喚起
子どもの ― ― ―
乳児前期 自己内対話活動
子どもの ― ― ―
発展的関わり
子どもの
.212 -.286 -.189
注意喚起
子どもの
乳児後期 .163 -.283 -.131
自己内対話活動
子どもの
-.226 -.216 -.042
発展的関わり
子どもの
.165 -.162 .230
注意喚起
子どもの
幼児前期 .552** -.315 .174
自己内対話活動
子どもの
.057 .226 .541**
発展的関わり
子どもの
.105 .398** .204
注意喚起
子どもの
幼児後期 .403** .118 .083
自己内対話活動
子どもの
.071 -.030 .408**
発展的関わり

88
第5節 絵本の読みかせによる母子相互行為と子どもの社

会情動的発達と語い発達との関連

目的
絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの語い発達に影響するその過程には,母
子の情動的なコミュニケーションの成立(Saarini, 2006)や子どもの自己内対話活動
(Vygotsky, 2001)が必須であると考えられる。そこで,「母子相互行為における絵本の読み
聞かせにより,子どもの社会情動的コミュニケーションが成立し,社会情動的発達により
対人関係が成立する。そのことによって子どもの自己内対話活動が起こり,子どもの語い
発達へとつながっていく」というプロセスが考えられる。
第 5 章では,絵本の読み聞かせによる母親と子どもの相互行為の変化を検討した。第 6
章の第 1 節と 2 節では,子どもの行動と子どもの社会情動的発達との関連を,第 3 節と第 4
節では子どもの行動と子どもの語い発達との関連を検討し,考察にて第 5 章で行った母子
相互行為の関連性の結果とあわせて,間接的に「母子相互行為における絵本の読み聞かせ
により,子どもの社会情動的コミュニケーションが成立し,社会情動的発達により対人関
係が成立する。そのことによって子どもの自己内対話活動が起こり,子どもの語い発達へ
とつながっていく」というプロセスを考察した。
そして最後にこの第 5 節にて,共分散構造分析によるパス解析を用いて直接的に「絵本
の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動的発達を促進させ対人関係を作り,
自己内対話活動が促されることで子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセス
の検討を行う

方法
対象者
関東在住の 0 歳から 6 歳までの健常児とその母親計 129
研究Ⅰの第1節と同様の対象者で,
ペアである。
0 歳児 17 名(平均月齢 0 歳 8 ヵ月,男児 11 名,女児 6 名)
1 歳児 23 名(平均年齢 1 歳 3 ヵ月,男児 8 名,女児 15 名)
2 歳児 19 名(平均年齢 2 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 8 名)
3 歳児 21 名(平均年齢 3 歳 4 ヵ月,男児 11 名,女児 10 名)
4 歳児 15 名(平均年齢 4 歳 5 ヵ月,男児 8 名,女児 7 名)
5 歳児 19 名(平均年齢 5 歳 5 ヵ月,男児 11 名,女児 7 名)
6 歳児 15 名(平均年齢 6 歳 4 ヵ月,男児 7 名,女児 8 名)

89
材料
研究Ⅰと同様に,子どものお気に入りの絵本 1 冊を使用した。
観察手続き
研究Ⅰと同様に,2008 年 11 月下旬~2010 年 7 月中旬にできるだけ自然な場面にするた
めに対象児の家庭または,対象児が通う対象児にとってなじみ深い民間幼児教育施設の教
2 名の観察者のうち 1 名はビデオ撮影を行い, もう 1 名が進行を行った。
室で観察を行った。
ビデオの正面に机を配置して座布団を 2 枚用意し,
「こちらにお座りください。いつもご家
庭でなさっているようにリラックスして読み聞かせを行って下さい。
」と教示し,ビデオ撮
影を行った。撮影に関してはあらかじめ母親の了解を得ていた。絵本場面は読み聞かせ場
面と展開場面の 2 場面にわけて行った。
尺度
KIDS 乳幼児発達スケール(大村ら,1989)の中の語い発達の指標として,
「表出言語」
「理
解言語」「概念」領域を,社会情動的発達領域として「対成人社会性」
「対子ども社会性」
領域を使用した。
分析手続き
ビデオ録画を再生し,2 名の分析者(発達心理学専攻の大学院生)が,一緒にビデオをみ
て,母子の行動を記録,抽出した。分析単位は時間間隔を 30 秒とし,30 秒間ごとに分析対
象行動がみられた場合にカウントし,母子の分析対象行動の 30 秒間に対する生起比率を求
めた。2 名の分析者間で不一致だった場合,再度ビデオを確認し協議を行った。2 名の分析
者間の一致率は.88 であった。
分析項目
同章の第 2 節で使用した情動調整項目,第 4 節で使用した言語行動項目(因子分析結果
によりまとめたもの)と同様である(下記参照)
。さらに,母親の読み方の違いもみるため
に,母親の情動調整項目の中に,言語行動の下位項目である「朗読」も加えた。
○母親の情動調整項目
情動表出:顔の表情と声の音色を変化させて情動をあらわす。
身体動作:母親のの情動からくる身体的な動き。すごいね,と言って手をたたいたり,
子どもの頭をなでたりするなど。
シンボル的な働きかけ:動作や読み方の模倣や身振り,動物の泣きまねといった発声模倣。
子どもの表象を操作させるように促す。ワンワンと言いながら子どもを揺らし
たり,ジェスチャーをする行動。
朗 読:情動表出をせず淡々と朗読的な読み方や働きかけをする行動。
○子どもの情動調整項目
情動表出:顔の表情や声の音色を変化させて情動を現出。乳児期にみられる興奮による
発声も含む。
身体動作:その動作自身がある情動によって動機づけられている状態。興奮して手を

90
バタバタさせたり体をゆらす。怖い時に顔を手でかくすなど。
シンボル:動作の模倣や「おいでおいで」のような身振り(ジェスチャー)
,発声模倣。
絵本の読み聞かせによって体験したことをイメージとして再現する動作。
○母親の言語行動項目
応 答:うんなどの言語的応答や,うなずくなどの非言語的応答。
注意喚起:名前をよんだりする言語的な注意喚起や,指さしなど非言語的注意喚起。
言語的な足場作り:子どもが言おうとしていることを母親が代弁するといった補償的関わ
りや子どもに考えさせるような質問をする行動。
○子どもの言語行動項目
注 意 喚 起:ほら,みてなどの言語注意喚起や指差しなどの非言語的注意喚起。
自己内対話活動:1 人でつぶやいたり,言葉で絵本に言及しながら聞く行動。
発展的関わり:子どもが簡単な質問ではなく,
「くまさんはどうして泣いているんだろうね」
といった少し考える事が必要な発展的な質問をしたり,母親の質問に対
して「はい,いいえ」で答えるのではなく,
「くまさんがお腹すいていた
から食べたからだよ」など発展的に応答する行動。

結果
絵本の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動的発達を介して子どもの語
いの発達に及ぼす影響を検討するため,共分散構造分析によるパス解析を行った。まず,
ダイナミックな関係性のあり方の変化過程を検討するため,田島ら(2010)の発達モデル
に沿って,子どもの発達段階を大きく第 1 段階(0,1 歳)と第 2 段階(2,3,4,5,6 歳)
に分け,母親の情動調整項目(情動表出,身体動作,シンボル的働きかけ,朗読)の4つ
が,子どもの情動調整項目(情動表出,身体動作,シンボル)を媒介して子どもの言語行
動項目(注意喚起,自己内対話活動,発展的関わり)と子どもの社会情動的発達指標(対
成人社会性,対子ども社会性)と言語発達指標(理解言語,表出言語,言語概念)に影響
を及ぼすことを仮定して分析を行った。その結果を場面別に年齢段階ごと記す。

(1) 読み聞かせ場面の第 1 段階
パス係数が有意でなかったものを削除した最終的なモデルを Figure 6-11 に示す。適合度
指標は,GFI =.885,AGFI =.617,RMSEA=.196 であった。母親の身体動作が子どもの身
体動作に正の有意なパスを示しており,子どもの身体動作が子どもの表出言語と対子ども
社会性に負の有意なパスを示していた。
適合度はやや低いものの,このことから,0,1 歳の母子のやりとりは身体動作的な情動的
関わりであるが,そのようなやりとりによって,子どもの表出言語と対子ども社会性の獲
得は低くなること示唆された。

91
χ 2 =5.647 df=3 p=.103
GFI =.885
AGFI =.617
RMSEA=.196
*p<.05, **p<.01

Figure 6-11 読み聞かせ場面の第 1 段階のパス解析結果

92
(2) 読み聞かせ場面の第 2 段階
パス係数が有意でなかったものを削除した最終的なモデルを Figure 6-12 に示す。適合度
指標は,GFI =.997,AGFI =.982,RMSEA=.000 であった。母親の朗読から子どもの情動
表出へのパス係数が負の有意なパスを示しており,子どもの情動表出から子どもの自己内
対話活動へのパス係数が正の有意なパスを示していた。
このことから,母親が朗読的な読み方ではない方が子どもの情動表出も多くなり,その
ような情動的コミュニケーションによって子どもの自己内対話活動が促進されることが示
唆された。

e1 e2

.20 .23
-.44** .48*** 子の
母親の朗読 子の情動表出
自己内対話活動

χ 2 =0.379 df =1 p =.538
GFI =.997
AGFI =.982
RMSEA=.000
***p<.001

Figure 6-12 読み聞かせ場面の第 2 段階のパス解析結果

93
(3) 展開場面の第 1 段階
パス係数が有意でなかったものを削除した最終的なモデルを Figure 6-13 に示す。適合度
指標は,GFI =1.000,AGFI 0.997,RMSEA=.000 であった。母親の身体動作から子ども
の身体動作へのパス係数が正の有意なパスを示しており,子どもの身体動作から子どもの
発展的関わりが正の有意なパスを示していた。
このことから,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても 0,1 歳のやりとりは身体動作
的な情動的コミュニケーションであり,そのことが子どもの発展的な関わりと関連してい
ることが示唆された。

e1 e2
.21 .23
.46** .48*** 子の
母親の身体動作 子の身体動作
発展的かかわり
χ 2 =.015 df =1 p =.903
GFI =1.000
AGFI 0.997
RMSEA=.000
*p<.05, **p<.01
Figure 6-13 展開場面の第 1 段階のパス解析結果

94
(4) 展開場面の第 2 段階
パス係数が有意でなかったものを削除した最終的なモデルを Figure 6-14 に示す。適合度
指標は,GFI =.997,AGFI =.990,RMSEA=.000 であった。母親の情動表出から子どもの
情動表出へのパス係数が正の有意なパスを示しており,子どもの情動表出から子どもの自
己内対話活動へのパス係数が正の有意なパスを示しており,さらに子どもの自己内対話活
動から子どもの表出言語へのパス係数が正の有意なパスを示していた。
このことから,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても 2 歳以降の母子相互行為は
情動的コミュニケーションとなっており,そのことが子どもの自己内対話活動を促進させ,
さらに子どもの表出言語の獲得へとつながっていることが示された。

e1 e2 e3
.05 .20
.09
母親の .21* 子の .45*** 子の .30**
表出言語
情動表出 情動表出 自己内対話

χ 2 =.513 df =3 p =.916
GFI =.997
AGFI =.990
RMSEA=.000
*p<.05, **p<.01, ***p<.001
Figure 6-14 展開場面の第 2 段階のパス解析結果

95
考察
以上の結果から,読み聞かせ場面の第 1 段階は母子のやりとりは身体動作的な情動的関
わりであるが,そのようなやりとりによって,子どもの表出言語と対子ども社会性の獲得
は低くなることが示唆された。これは,この時期の子どもは母子での密着的なやりとりの
ベースを作る段階であり,外へと人間関係が広がり始める時期のため,まだ対子ども社会
性としては表れにくく,また語いの表出も言葉が出始める時期のため負の値となっている
と考えられる。
第 2 段階は,母親が朗読的な読み方ではない方が子どもの情動表出も多くなり,そのよ
うな情動的コミュニケーションによって子どもの自己内対話活動が促進されることが示唆
された。
そして展開場面の第 1 段階においては,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても身
体動作的な情動的コミュニケーションが行われていることが認められ,これは読み聞かせ
場面で得たものが子どもの発展的な関わりとなって表れていることが示唆された。
第 2 段階では,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても 2 歳以降の母子相互行為は
情動的コミュニケーションとなっており,そのことが子どもの自己内対話活動を促進させ,
さらに子どもの表出言語の獲得へとつながっていることが示された。
以上のことから第 1 段階の母子の情動的なやりとりによって社会情動的な対人関係が成
立し,それを子どもが内面化することで自己内対話活動が起こり,第 2 段階になるとその
ことが基盤となって子どもの語い発達が促されることが示され,
「母子相互行為における絵
本の読み聞かせにより,子どもの社会情動的コミュニケーションが成立し,社会情動的発
達により対人関係が成立する。そのことによって子どもの自己内対話活動が起こり,子ど
もの語い発達へとつながっていく」というプロセスは支持されたと考えられる。

96
第6節 研究Ⅱのまとめ

1 読み聞かせによる母子相互行為と子どもの社会情動的発達との関連
本研究では,まず始めに評定分析によって子どもの年齢段階(乳児前期,乳児後期,幼
児前期,幼児後期)ごとに絵本の読み聞かせ場面と展開場面各々においての子どもの行動
と子どもの社会情動的発達との関連を検討した。
まず,絵本読み聞かせ場面と展開場面において子どもの行動と子どもの社会情動的発達
との関連を検討した結果,読み聞かせ場面の乳児前期においては子どもの行動と子どもの
社会情動的発達とのあいだに関連はみられず,乳児後期では,子どもの積極的参加行動が
多いほど対成人社会性も高くなり,幼児前期では乳児後期と違って,子どもの積極席参加
行動が多いほど対子ども社会性が高くなり,そして幼児後期では子どもの積極的参加行動
が多いと,対子ども社会性と対成人社会性の双方が高くなることが示唆された。展開場面
においては子どもの行動と社会情動的発達との間に関連はみられなかった。
これらのことから,絵本の読み聞かせによる母子相互行為は,子どもの社会情動的発達
を促し対人関係を成立させるものであり,母子相互行為としての読み聞かせから得たもの
がその後の子どもの社会性にまで発展していくことが示唆された。
次に,言語行動分析によって絵本の読み聞かせ場面と展開場面において,社会情動的発
達の行動の一つである情動調整行動の母子相互行為の関連を表出された情動調整行動によ
って詳細に検討することを目的とした。
その結果,読み聞かせ場面の乳児前期において,母親のシンボル的な働きかけと子ども
の情動表出の間に関連がみられ,展開場面においてはみられなかった。
このことから,母親が子どもの表象を促すような動作,例えば絵本に犬がでてきたとき
ワンワンといいながら,その声に合わせて子どもの体を揺らしたりすることで,子どもは
母親を通して絵本の世界や情動を共有でき 3 項関係が作られ(Vygotsky, 1978 ; Sarrini,
2006)ると考えられる。そのことによって母子一体となり絵本の世界を楽しむことができ
るため,子どもは情動を表出するのではないか。母親は子どもと絵本を共有するためにシ
ンボル的な情動調整を行い(Stern, 1985;1989),子どももそれに情動的に応答しているこ
とが示唆された。
乳児後期の読み聞かせ場面において,母親の身体動作と子どもの身体動作,母親のシン
ボル的な働きかけと子どものシンボルの間に関連がみられ,展開場面においても同様に母
親の身体動作と子どもの身体動作との関連が見られ,さらに母親の情動表出と子どもの情
動表出の間でも関連が見られた。
このことから,乳児後期は母親の行動を子どもが活発に模倣していることが考えられる。
これは,乳児前期での母親の情動調整的働きかけに子どもも応答し,母子で絵本場面を共
有することで,乳児後期になると子どもは,母親の情動調整的な働きかけの意図に気付き

97
(Sarrini, 2006)はじめ,乳児はその行動を活発に模倣しはじめる(Tomasello, 2008)の
ではないかと考えられる。そして読み聞かせ場面では,シンボル的な母親の働きかけと身
体動作的な働きかけの模倣を子どもがしていることからより表象的なものを促すやりとり
が行われており,展開場面においては,身体動作と情動表出の模倣を子どもがしているこ
とから,より情動調的なやりとりとなっていると考えられる。そしてこのような模倣活動
的な母子相互行為が子どもの中に内在化され内的作業モデル(Bowlby, 1973)となってい
ると考えられる。
幼児前期の読み聞かせ場面において,母親の情動表出と子どもの情動表出,母親のシン
ボル的な働きかけと子どもの身体動作,シンボルの間に関連がみられたが,展開場面にお
いては,読み聞かせ場面と違って母子の有意な相関はみられなかった。
このことから乳児期の模倣より学んだことを基盤として,幼児前期では母親のシンボル
的な働きかけの意味を理解し,身体動作として自分なりの応答していると考えられ,乳児
期で内在化された内的作業モデルを発揮していることが示唆された。
幼児後期の読み聞かせ場面において,母親の情動表出と子どもの情動表出,母親の身体
動作と子どもの情動表出,母親のシンボル的な働きかけと子ども情動表出,シンボルの間
に関連みられた。展開場面においては,読み聞かせ場面と違って,母親の情動表出と子ど
もの身体動作の間に負の関連がみられ,母親の身体動作と子どもの身体動作の間に関連が
みられた。
このことから,読み聞かせ場面では,今までの母子相互行為を内的作業モデルとして自
分のものとし,活発な情動調整が行われていることが示唆された。またこのことは,発達
過程の中で,子どもが同種の情動体験を繰り返し経験すると,その前後の文脈を含めて情
動的スクリプトが形成される(Oatley & Jenkins, 1996)という指摘と関連があると考えら
れる。遭遇した出来事やそれに対する認知的評価,生じた情動,母親の対応などが一定の
連鎖をなした認知的構成体として子どもの中に取り込まれるのである。そしていったんこ
うしたスクリプトが形成されると,それは特定の関係性の文脈を超えて,さまざまな状況
に般化適用され,その子ども特有の情動的ふるまいを導くことになると言われている。つ
まり,今までの乳児期からの情動調整的な母子相互行為を通して情動的スクリプトが形成
され,幼児後期の読み聞かせ場面においてそのことが般化適用されていると考えられる。
しかしその一方で,展開場面においては母親が身体動作的な働きかけをすると子どもも
身体動作的な応答をするが,母親が情動表出をすると子どもの身体動作が少なくなること
が示唆された。つまり,母親が自分の情動からくる身体的な動作をすると子どもも情動を
伴った身体動作で応答するが,母親が情動表出のみであると子どもは情動を伴った身体動
作が少なくなるのだ。これは一体どういうことなのだろうか。考えられることとして,子
どもが思考状態にあるのではないか,ということがあげられる。つまり,乳児期からの母
子の情動調整的相互行為により情動的スクリプトが形成され,幼児後期に実を結び,読み
聞かせ場面においてはそれが般化された母子相互行為が行われており,展開場面において

98
はそれをより深めるために,子どもは自己内対話活動である思考活動(Vygotsky, 2001)を
行っているということが示唆された。

99
2 読み聞かせによる母子相互行為と子どもの語い発達との関連
本研究目的は,まず始めに評定分析によって子どもの年齢段階ごとに絵本の読み聞かせ
場面と展開場面において母子相互交渉の中で母親のどのような行動が,子どもの行動を媒
介とし,子どもの語いの発達へと関連するかを明らかにすることであった。
その結果,読み聞かせ場面の乳児前期段階(0 歳)において,母親自身が読み聞かせを楽
しみ足場作り行動をおこなうことで,子どもも読み聞かせに積極的に参加しようとする行
動がみられることが示唆されたが,そのような行動が,子どもの語い獲得(表出言語と理
解言語)とは関連しないことが示された。このことから,乳児前期の読み聞かせ場面は母
親自身が楽しみながら子どもの足場づくりをすることで,母子の一体感を作り子どもも絵
本の世界に積極的に参加する体制を作る場面である(田島ら,2010)ことが示唆された。
それに比べ,展開場面においては,母親が楽しそうに働き掛け足場作りをすることで子
どもは積極的に参加する行動をとり,その母子相互行為が子どもの表出言語獲得を増加助
長させる傾向にあることが示された。これは,読み聞かせ場面での母子相互行為を基盤と
し,子どもの中に内面化させる(Vygotsky, 2001)ことで展開場面において,子どもの表出
言語へとつながっていくのではないかと考えられる。しかし乳児前期において子どもはま
だ話すことができないため,ここでは表出言語というよりは発声的なものであると考えら
れる。
乳児後期段階(1 歳)の読み聞かせ場面においては,母親が子どもを尊重する読み方をす
ることで子どもは積極的参加行動が増加し,そのことが子どもの概念獲得につながってい
き,さらに母親が読み聞かせを楽しみ足場作りをするような読み聞かせをすることで,や
りとりがスムーズになり子どもの理解言語と概念獲得が促されることが認められた。この
ことから,乳児前期での母子相互行為をベースとして,乳児後期の読み聞かせ場面で母親
は子どもがさらに絵本の世界に入り易いようにラポール形成を行い,具体的に子どもへの
提案や指示をだすといった子どもが読み聞かせへと入り易い足場を作ることで,子どもは
自然と読み聞かせ活動に参加することができる。このような母子相互行為によって母親と
子どもとの共通のコミュニケーションの土台が作られることで,母子間でスムーズな相互
作用がうまれ(岩崎ら,2011),子どもは母親の働きかけの意味を理解する(Tomasello, 1995)。
そして母親の働きかけの意味を理解することで,子どもの言語の理解が進み,語い概念も
獲得しやすくなるのではないかと考えられる。つまり母親との共通の土台がつくられるこ
とで母親の伝達の意図を読み取っているのであり,これは Tomasello(1995)の,子どもは語
い獲得の基礎プロセスにおいて,おとなとこどもの共通のコミュニケーションの土台を確
立し,おとなの伝達の意図を理解するようになることであると考えられる。
その一方で展開場面においては,母子相互行為と子どもの語い発達との関連はみられな
かったことから,乳児後期段階の読み聞かせでの効果は展開場面においてまだ内在化され,
表に表れていないので母子行動と語い発達との関連がみられなかったと考えられる。

100
幼児前期段階(2,3 歳)の読み聞かせ場面において,母親自身が楽しみさらに子どもの
足場作りをしながら読み聞かせをした方が,子どもの積極的参加活動が多くなる傾向にあ
ることが認められた。このことから読み聞かせ場面で母親が子どもの足場づくりをするこ
とで子どもも絵本の世界に入りやすくなり,子どもは積極的に絵本の読み聞かせ活動に参
加できるようになり,母子間で活発なやりとりが行われていることが示唆され,黒川(2009)
の 2 歳児は絵本を介して母子相互行為が活発である結果と同様の結果であった。しかし活
発な母子のやりとりと子どもの語い概念獲得との間に関連はみられず,これは乳児後期の
展開場面と同様に,子どもの中で内面化されている段階であるためではないかと考えられ
る。
一方,展開場面においては,母親が子どもを尊重することで子どもは積極的参加やスム
ーズなやりとりになったり,母親自身読み聞かせを楽しみながら子どもの足場作りもする
ことで,子どもとのやりとりがスムーズになり,そのことが子どもの表出言語へつながっ
ていくことが認められた。これは乳児前期でのやりとりが乳児後期段階で内面化され
(Vygotsky, 2001),幼児前期段階の読み聞かせ場面においてさらに子ども中で内面化され
(Vygotsky, 2001),そして乳児後期の理解言語と語い概念獲得をベースとして,言葉の理
解が進みそれを自分のものとして,幼児前期段階の展開場面において表出言語が促された
のではないかと考えられる。
幼児後期段階(4,5,6 歳)の読み聞かせ場面では子どもの積極的参加行動が少ない方が,
語い概念獲得の発達を導くことが認められ,積極的に質問したりせずに,黙って母親の読
み聞かせを聞くことによって言語概念の獲得が導かれている状態と考えられる。これは,
子どもの自己内対話活動が定着しているためではないか。母親が子どもの自己内対話活動
を促進させるような読み方をすることで,子どもは母親と共有した読み聞かせ活動を自分
の中にとりこむ個人的活動が多くなる。そのため,子どもは積極的参加行動が少なくなり,
子どもの盛んな自己内対話活動によって言語概念獲得の発達を導くのではないかと考えら
れる。
ke 次に,言語行動分析によって,絵本の読み聞かせ場面と展開場面において,母親の言語
行動と子どもの言語行動がどのように関連しているのかを表出された言語行動によって詳
細に検討した。
その結果,乳児前期の読み聞かせ場面では母子の言語行動に関連はみられなかったが,
展開場面においては,子どもの「注意喚起」と母親の「応答」,子どもの「注意喚起」と母
親の「足場作り」との間に関連がみられた。
このことから乳児前期の読み聞かせ場面は,言語的なやりとりではなくより情動的なや
りとりになっているため言語行動として表れていないことが示唆された。一方展開場面で
は,子どもからの注意喚起がみられ,母親もそれに応答し子どもと絵本を共有できるよう
に足場作りを行っていることが示唆された。このことから評定分析と同様言語行動分析に
おいても,乳児前期段階の読み聞かせ場面は,母子相互行為のベースを作る場面であり,

101
それを基盤として展開場面において,言語行動へとつながっていくことが示唆された。
乳児後期の読み聞かせ場面では,子どもの「自己内対話活動」と母親の「応答」の間に
関連がみられたのだが,展開場面においては見られなかった。
このことから乳児後期の読み聞かせ場面において子どもの自己内対話活動が活発に行わ
れるようになり母親も子どもの自己内対話活動が促進するように応答的に反応している。
そして展開場面においては,母親の言語行動が子どもの表だった言語行動としては現れに
くく,読み聞かせ場面において自己内対話活動をさらに促進させるような母子相互行為を
ベースとして,それをさらに自分の内面にとりいれ定着させようとしている状態にあると
考えられ,評定分析と同様の結果であったことが示唆された。
幼児前期においては,読み聞かせ場面では,子どもの「注意喚起」と母親の「応答」
,子
どもの「自己内対話活動」と母親の「応答」
,母親の「足場作り」と子どもの「発展的関わ
り」の間に関連がみられ,同様に,展開場面においても子どもの「自己内対話活動」に対
しての母親の「応答」行動,母親の「足場作り」と子どもが「発展的な関わり」の間に関
連が見られた。これは,幼児前期の子どもは,乳児後期での自己内対話活動を定着させる
ような母子相互行為をベースとし,さらに自ら言語的でより発展的な言語行動としてだし
てきていることが示唆された。
幼児後期の読み聞かせ場面では,子どもの「注意喚起」と母親の「応答」
,子どもの「自
己内対話活動」と母親の「応答」,子どもの「発展的関わり」と母親の「応答」との間に関
連がみられた。また,母親の「注意喚起」と子どもの「自己内対話活動」
,母親の「足場作
り」と子どもの「言語注意喚起」「自己内対話活動」「発展的関わり」それぞれの間におい
ても関連がみられた。展開場面においても読み聞かせ場面と同様に,子どもの「自己内対
話活動」と母親の「応答」
,母親の「足場作り」と子どもの「発展的関わり」の間に関連が
みられさらに,読み聞かせ場面ではみられなかった母親の「注意喚起」と子どもの「注意
喚起」の間にも関連がみられた。
このことから,幼児後期においては,読み聞かせ場面において子どもの自己内対話活動
が活発に行われており母親も子どもの自己内対話活動を促進させるような行動であること
が示された。展開場面でも読み聞かせ場面と同様な関連が見られるが,読み聞かせ場面に
比べると母子行動の関連が少ない。これは読み聞かせ場面での自己内対話的な母子相互行
為で学んだことを展開場面においてさらに深めているためではないかと考えられる。

102
3 読み聞かせによる母子相互行為が子どもの語い発達へと関連していくプロセスの
検討
本研究においては,ダイナミックな関係性のあり方の変化過程を検討するために,子ど
もの年齢段階を田島ら(2010)に基づき,第 1 段階(0,1 歳)と第 2 段階(2,3,4,5,
6 歳)に分けた。そして絵本の読み聞かせ場面と展開場面各々において「絵本の読み聞かせ
による母子相互行為が,子どもの社会情動を発達させ対人関係を作り,自己内対話活動が
促されることで子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセスの検討を行った。
その結果,読み聞かせ場面の第 1 段階は母子のやりとりは身体動作的な情動的関わりで
あるが,そのようなやりとりによって,子どもの表出言語と対子ども社会性の獲得は低く
なることが認められた。これは,この時期の子どもは母子での密着的なやりとりのベース
を作る段階であり,外へと人間関係が広がり始める時期のため,まだ対子ども社会性とし
ては表れにくく,また語いの表出も言葉が出始める時期のため少ないと考えられる。
第 2 段階は,母親が朗読的な読み方ではない方が子どもの情動表出も多くなり,そのよ
うな情動的コミュニケーションによって子どもの自己内対話活動が促進されることが示唆
された。このことから,情動的な母子のコミュニケーションの土台が作られることで子ど
もの自己内対話活動へと繋がっていくことが示唆された。
そして展開場面の第 1 段階においては,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても身
体動作的な情動的コミュニケーションであり,これは読み聞かせ場面で得たものが子ども
の発展的な関わりとなって表れていることが示唆された。
第 2 段階では,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても 2 歳以降の母子相互行為は
情動的コミュニケーションとなっており,そのことが子どもの自己内対話活動を促進させ,
さらに子どもの表出言語の獲得へとつながっていることが認められた。
これらのことから,第 1 段階の読み聞かせ場面では,情動を伴った身体動作的な母子相
互行為によって,母子の社会情動的な土台が作られることが示された。そして,その母親
との相互作用によって得た社会情動的な土台を基にして,子どもは内面に自分のものとし
て取り込み,展開場面においてその自分のものとして取り込んだものを発展的な関わりと
して表出していると考えられ,情動的なコミュニケーションを通して子どもは母親との初
期の愛着関係を内在化し(Bowlby, 1973),その後の人間関係の基礎(Damasio,2000)と
なっていくことと関連していると言えよう。
また,母子間での相互作用によって社会情動的な土台が作られることから,田島ら(2010)
の 2 段階 5 ステップモデルの,Step1-2 の「本を介した対話的交流で社会的対話を通して母
子が共同で世界をみるための体制を構築すると共に母子の絆を完成させる」段階であるこ
とと,社会情動的基盤をもとに展開場面において自分のものとして内面化させた上で発展
的な関わりとして表出させることから,Step2「読み聞かせが子どもの内部に内面化されつ
つある」段階であると考えられる。
そして第 2 段階の読み聞かせ場面において,第 1 段階をベースとしてさらに情動的な母

103
子相互行為が深められ,子どもの自己内対話活動へとつながっていっている。さらに展開
場面において,読み聞かせ場面の自己内対話活動が子どもの表出言語へとつながっている
ことが示唆された。
このことは,第 1 段階で精神間機能として対人関係が成立し(Vygotsky, 2001)
,そして
精神間機能が精神内機能として子どもの中に取り込まれることで,第 2 段階において精神
内機能としての自己内対話活動が活発になる(Vygotsky, 2001)ことで,母親のフォーマッ
トが子どもに受け取られ母子で共有することができて初めて子どもの表出言語として現れ
るためではないかと考えられる。
以上のように第 1 段階おいて母子間で社会情動的な土台が作られ,その母子相互行為を
子どもが自分の中で内面化することで自己内対話活動がおこり始め,第 2 段階において自
己内対話活動が活発になり子どもの表出言語が促進されることから,
「母子相互行為におけ
る絵本の読み聞かせにより,子どもの社会情動的コミュニケーションが成立し,社会情動
的発達により対人関係が成立する。そのことによって子どもの自己内対話活動が起こり,
子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセスは,
「絵本の読み聞かせによる母子
相互行為により,子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子どもの自己内対話活動が起
こることで,子どもの表出言語が促進される」という形で支持されたと考えられる。
この結果から,実際に家庭や保育所や幼稚園などで読み聞かせを行う場合には,どの年
代においても子どもが絵本の読み聞かせを求めてきた場合には,情動的に関わる必要があ
ると考えられる。しかし子どもが絵本の読み聞かせを聞きながら自己内対話活動をしてい
るときにはそれを阻害しないような接し方をすることで,子どもの中で自己内対話活動が
活発化し,それが語い発達や認知発達のベースとなるのではないだろうか。
そして,第 2 段階になると展開場面で子どもの表出言語が見られたことから,第 2 段階
では読み聞かせ場面だけでなく,その後の展開場面での活動も子どもの発達にとって重要
なものとなってくることが示唆された。
今まで実践場面において絵本の読み聞かせというものは,主活動というよりも,それを
つなぐサブ的な活動として使用されることが多かった。しかしこの結果より,読み聞かせ
場面とその後の展開場面も行うことが重要であることが示され,実践場面においても,主
要な活動に読み聞かせとその後の展開活動を設ける必要があると考えられる。

104
第7章 研究Ⅲ 絵本の読み聞かせが子どもの社会情動的発

達と語い発達に及ぼす縦断的な発達的変化について

研究Ⅱにおいて,横断データによる絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの情
動発達を介して語い発達へと関連していくプロセスの吟味を行い,
「絵本の読み聞かせによ
る母子相互行為が,子どもの社会情動的な対人関係を成立させ,子どもの自己内対話活動
が起こることで,子どもの表出言語が促進される」というプロセスが示された。このプロ
セスをもとに研究Ⅲでは,縦断データにより質的に検討し,より詳細な吟味を行う。また,
研究Ⅱにおいては 0 歳から 6 歳までを通して検討したが,研究Ⅲにおいては,幼児期の語
い発達の土台作りに焦点化するために 0 歳から 3 歳に焦点をあてることとする。

第1節 読み聞かせによる母子相互行為の変化過程の検討

問題と目的
絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす影響過程を明らかにするためには,ケー
ススタディによってより詳細に変化過程をみる必要がある。そのためには,横断データを
補完する形で縦断データの分析も検証する必要があろう。とくに幼児期の語い発達の土台
作りのところに焦点化するため 0 歳から 3 歳代が必要であると考えられる。
そこで本研究では, 0 歳から 3 歳代の縦断データをもとに, 読み聞かせ場面における母子
相互行為の言語行動と情動調整行動の変化過程を検討し,読み聞かせによる母子相互行為
が子どもの語い発達と社会情動的発達の基盤をどのように作っているのか検討することを
目的とする。

方法
対象者
関東と在住の健常な男児 1 名とその母親である。対象児が以下の月齢の時点で撮影を行
った。
1 回目:0 歳 5 ヵ月,2 回目:0 歳 7 ヵ月,3 回目:0 歳 8 ヵ月,4 回目:0 歳 9 ヵ月,
5 回目:0 歳 11 ヵ月,6 回目:1 歳 1 ヵ月,7 回目:1 歳 2 ヵ月,8 回目:1 歳 3 ヵ月,
9 回目:1 歳 4 ヵ月,10 回目:1 歳 6 ヵ月,11 回目:1 歳 8 ヵ月,12 回目:1 歳 9 ヵ月,
13 回目:1 歳 10 ヵ月,14 回目:1 歳 11 ヵ月,15 回目:2 歳 1 ヵ月,
16 回目,2 歳 2 ヵ月,17 回目:2 歳 3 ヵ月,18 回目:2 歳 5 ヵ月,19 回目:2 歳 6 ヵ月,
20 回目:3 歳 0 ヵ月,21 回目:3 歳 2 ヵ月,22 回目:3 歳 9 ヵ月
材料:子どもの好きな絵本 1 冊

105
観察手続き
観察は,2009 年 2 月~2012 年 9 月の間に 22 回に渡り,対象児の家庭で行われた。観察
者が対象者の自宅に伺い,
「子どものお気に入りの絵本を,いつものようにリラックスし
て読み聞かせをして下さい。」と教示し,ビデオ撮影を行った。絵本場面は研究Ⅱと同様
に読み聞かせ場面と展開場面に分けた。母親には事前に母子の読み聞かせ場面と展開場
面についての様子を撮影する説明をし,撮影に関しては予め了承を得ていた。
分析手続き
研究Ⅱと同様に,ビデオ録画を再生し,2 名の分析者(発達心理学専攻の大学院生)が,
一緒にビデオをみて,母子の行動を記録,抽出した。分析単位は時間間隔を 30 秒とし,
30 秒間ごとに以下に示すような分析対象行動(Table 7-1, 7-2)がみられた場合にカウント
し,母子の分析対象行動の 30 秒間に対する生起比率を求めた。2 名の分析者間で不一致
だった場合,再度ビデオを確認し協議を行った。2 名の分析者間の一致率は.89 であった。
分析カテゴリーは須田(1999)と Ninio&Bruner(1978)を参考に作成したものである。

106
Table 7-1 母親の分析カテゴリー項目
上位概念 分析項目 内容
言語注意喚起 名前をよぶ、ほら、みてなど子どもの注意をひく。
注意喚起
非言語注喚起 指さし、子どものほうをみる(子どもの状態を確認している「見る」は省く)。
ラべリング 命名 対象にラベルづけをする(はら、ワンワンよ)。
What質問 これは何かな?など、子どもが名詞だけや、Yes/Noで答えられるような質問
質問 Which わんわんどれかな?どこが面白かった?など少し考えさせ選ばせるような質問
What-doing くまさん何しているの?など、子どもに考えさせるような発展的質問。
絵本と日常生 ○ちゃんもお片づけできるよね、といったように絵本の内容と子どもの行動や日
子結付け言及
活の関連づけ 常生活とを結び付けて説明する。質問形式も含む。
絵本にでてきたものや関連することを説明する。
説明 絵本説明
数唱や主人公の気持ちを説明する、最後に絵本のまとめをする行動も含む。
言語的応答 うん、そうだねといった言語的な応答。
応答
非言語的応答 うなずく、子どもの方をみるといった非言語的な応答。
母子共同 自問自答 自分で子どもに質問し、自分で答える。
発話構成 補償的係わり 子どもが言おうとしていることを母親が代弁する。
その他 朗読 絵本をたんたんと読んでいる様子。
顔の表情(笑顔になる・悲しい顔をする)と声の音色(マザリーズ)を変化させて
情動表出
情動を現わす。

手や体の動作。母親の情動からくる身体的な動き。
情動調整 身体動作
すごいねーと言って手をたたいたり、子どもの頭をなでたりするなど。

シンボル的な 動作や読み方の模倣や身振り、動物の鳴き真似といった発声模倣。子どもの表
働きかけ 象を操作させるように促す。ワンワンと言いながら子を揺らす。ジェスチャー。

107
Table 7-2 子どもの分析カテゴリー項目
上位概念 分析項目 内容
言語注意喚起 名前をよぶ、ほら、みてなど言語的な注意喚起。
注意喚起
非言語注喚起 指さし、母のほうをみるなど、非言語的な注意喚起。
ラべリング 命名 対象にラベルづけをする(ワンワン)。
質問 これは何?くまさんどれかななどの質問
質問
発展的質問 くまさん何しているの?といった発展的な質問
くまさんこぼしちゃったねなど絵本にでてきたものや、関連するものの説明を
説明 絵本説明
子が能動的にする。
言語的応答 うん、そうだね、くまさんだよ、などのような言語的な応答。
発展的応答 くまさんが食べたからだよ、など母の質問に対して、発展的に応答する。
応答
うなずく、指さし、母の顔をみるなど非言語的な応答。
非言語的応答
母の働きかけに対して母親の顔を見る(目くばせ)。
母子共同
共話 子ども「ホットケーキ」母親「たべたね」
発話構成
自己内対話 母の読み聞かせに合わせて口を動かしたり、絵本にでてきたものを
つぶやき
活動 つぶやいたりする行動。
文字意識 文字注目 絵本に書かれている文字に注目したり、声にだして読んだりする。
情動表出 顔の表情(笑顔になる・悲しい顔をする)と声の音色を変化させて情動を現出。
手や体の動作。その動作自身がある情動によって動機づけられている状態。
身体動作
情動調整 怖い時に顔を手で隠す。興奮して手をバタバタさせたり体をゆらす。
シンボル 動作の模倣やオイデオイデのような身振り(ジェスチャー)、発声模倣。絵本の
(象徴) 読み聞かせによって体験したことをイメージとして再現する動作。

108
結果と考察
1 読み聞かせ場面における月齢ごとの母子の言語行動,情動調整行動の変化
読み聞かせ場面において母子の言語行動と情動調整行動が子どもの月齢とともにどのよ
うに変化しているのかを検討するために,子どもの月齢を,5 ヵ月,8 ヵ月,9 ヵ月,11 ヵ
月,1 歳前期,1 歳中期,1 歳後期,2 歳前半,2 歳後半,3 歳前半,3 歳後半の 11 段階に
分け母子の言語行動の項目の頻度を算出しグラフに表した。その結果を場面ごとに記す。

(1) 読み聞かせ場面での母子の注意喚起行動の変化
母親の注意喚起行動の変化を Figure 7-1 に,子どもの注意喚起行動の変化を Figure 7-2
に示す。
「言語注意喚起」行動が 8 ヵ月で一気に上昇し,その後次
まず母親の方からみてみると,
第に下降しており,
「非言語注意喚起」行動は,波は見られるがあまり変化がないことが認
められた。
「言語注意喚起」行動が 1 歳代で上がり,2 歳代になり徐々に下がっ
一方子どもの方は,
ていることが示された。
「非言語注意喚起」行動も1歳にかけて上昇しその後減少している。
このことから,母親の言語的な働きの成果が1年ほどずれて出ていることが示唆された。
これは,子どもは母親の働きかけの意味は理解はしているが表に現れるまでには時間がか
かっていると考えられる。

109
(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5 言語注意喚起
0.4
0.3 非言語注意喚起
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-1 読み聞かせ場面の母親の注意喚起行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 言語注意喚起
0.3
非言語注意喚起
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-2 読み聞かせ場面の子どもの注意喚起の変化

110
(2) 読み聞かせ場面での母子の命名行動の変化
母親の命名行動の変化を Figure 7-3 に子どもの命名行動の変化を Figure 7-4 に示す。
まず母親の「命名」行動は1歳前期で多くみられることが示された。
それに対し,子どもの「命名」行動は1歳後期でみられることが示された。
これらのことから,1歳代という点においては母子ともに命名行動は同じ時期にみられ
るが,母親が1歳前期,子どもが1歳後期と少しずれがみられ,これも子どもは母親の命
名行動を理解しているが表に現れるまで少しずれがあると考えられる。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3 命名
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-3 読み聞かせ場面の母親の命名行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 命名
0.3
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-4 読み聞かせ場面の子どもの命名行動の変化

111
(3) 読み聞かせ場面での母親の質問行動と子どもの応答行動の変化
母親の質問行動の変化を Figure 7-5 に子どもの応答行動の変化を Figure 7-6 に示す。な
お,母親の「What doing 質問」は見られなかったため除外している。
「Which 質問」は 3 歳後半よ
母親の「What 質問」は2歳前半よりみられ上昇しており,
り出現している。
それ対応して子どもの「言語的応答」行動は 2 歳前半にみられる。
これらのことから子どもが 2 歳になると,母親は子どもに質問を行い子どもはそれに言
語的に応答するといった言語的なやりとりが行われることが示された。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 What質問
0.3
Which質問
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-5 読み聞かせ場面での母親の質問行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 言語的応答
0.3
発展的応答
0.2
0.1 非言語的応答
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-6 読み聞かせ場面の子どもの応答行動の変化

112
(4) 読み聞かせ場面での子どもの自己内対話活動(つぶやき)と母親の読み方の変化
母親の読み方の変化を Figure 7-7 に子どものつぶやきの変化を Figure 7-8 に示す。
子どものつぶやきが 2 歳後半にみられ,その子どものつぶやきにひかれて母親の朗読行
動が出現していることが示唆された。
このことから,2 歳後半より自己内対話活動が活発に行われ,母親はその子どもの自己内
対話活動を阻害しないように朗読的な読み方になっていることが示唆された。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
朗読
0.4
0.3 情動的な読み方
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-7 読み聞かせ場面の母親の読み方の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3 つぶやき
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-8 読み聞かせ場面の子どもの自己内対話活動の変化

113
(5) 読み聞かせ場面での子どもの情動調整行動と母親の応答の変化
母親の応答行動の変化を Figure 7-9 に子どもの情動調整行動の変化を Figure 7-10 に示
す。
子どもの「情動表出」行動が 11 ヵ月のころからみられ,母親はそれに同じく 11 ヵ月で
言語的にも非言語的にも応答していることが示唆された。
このことから,11 ヵ月時の母子は情動的なやりとりを行っていることが示唆された。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 言語的応答
0.3
非言語的応答
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-9 読み聞かせ場面の母親の応答行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6 情動表出
0.5
0.4 身体動作
0.3
0.2 シンボル
0.1 (象徴)
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-10 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化

114
(6) 読み聞かせ場面での母子の情動調整行動の変化
母親の情動調整行動の変化を Figure 7-11 に子どもの情動調整行動の変化を Figure 7-12
に示す。
母親の情動表出行動は月齢を通して多くみられ,読み聞かせ場面での母親は常に情動表
出を行いながら読み聞かせをしていることが示唆された。それに対し子どもの「情動表出」
は 1 歳中期で一気に下がっていることが示された。これはどういうことなのであろうか。
考えられることとして,この後の 1 歳後期でまた情動表出が上がり,さらにシンボルも出
現することから,この 1 歳中期は子どもの中で今までの母親からの働きかけ,そして母親
とのやりとりで学んだことが一致し始める時期であり,それまでの母子相互行為を内化
(Vygotsky,2001)している時期なのではないかということがあげられる。つまり自分の
中での思考が始まり,自己内対話活動がおこり始めているため情動表出が少なくなるので
はないかと考えられる。
母親の「身体動作」が 1 歳中期に見られるのに対し,子どもの「身体動作」は 2 歳から
みられ遅れて出現していることが示唆された。このことから,母親の行動をいったん取り
込んで習得し,専有として現れるまでには時間がかかるため,少し遅れて子どもの行動と
して現れることが示唆された。
母親の「シンボル的な働きかけ」が 8 ヵ月で見られ,子どもの「シンボル」活動は 1 歳
後期でみられる。これは,母親は子どもが 8 ヵ月のときから子どもの表象を操作させるよ
うに促す言葉かけやジェスチャーを行う(須田,1999)ことで子どもはその言葉の意味と
動き,絵本に描かれたものとが一致し始め,それが 1 歳後期になると子どもも母親のシン
ボル的な働きかけの意味を理解し自らシンボル的な応答をすると考えられる。

115
116
2 読み聞かせ場面と展開場面の比較
今までは読み聞かせ場面において,母子の言語行動と情動調整行動が,どのように変化
しているのかを検討した。ここでは,その読み聞かせ場面と比較して,展開場面において
母子それぞれの言語行動と情動調整行動がどのような状態にあるのか,変化はみられるの
かを,母親は「命名行動」
,「質問行動」
,「情動調整行動」に絞って,子どもは「応答行動」,
「自己内対話活動」,
「情動調整行動」に絞って検討する。

(1) 母親の命名行動
母親の読み聞かせ場面での命名行動の変化を Figure 7-13 に,展開場面での命名行動の変
化を Figure 7-14 に示す。
母親の「命名」行動は,初期を除けば読み聞かせ場面,展開場面とものほぼ同じであり,
1 歳代に共通して多くみられることが示された。

117
(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3 命名
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-13 読み聞かせ場面の母親の命名行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
命名
0.3
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-14 展開場面の母親の命名行動

118
(2) 母親の質問行動
母親の読み聞かせ場面での質問行動の変化を Figure 7-15 に,展開場面での質問行動の変
化を Figure 7-16 に示す。
読み聞かせ場面では,母親の「What 質問」は子どもが 2 歳前半から,
「Which 質問」は
3 歳後半のみにみられるのに対し,展開場面においては,子どもが 11 ヵ月より出現してお
り,展開場面の方が早くみられ,また活発に質問行動が行われていることが示唆された。
このことから,母親は読み聞かせ場面においては質問をするのは 2 歳になってからであ
るが,展開場面において 11 ヵ月よりみられ,読み聞かせ場面と展開場面では「質問」の機
能が違っていると考えられる。読み聞かせ場面において 2 歳代より質問が出現するのは絵
本の内容をより子どもに理解させるためであり,展開場面においては子どもとのコミュニ
ケーション手段の一つとして質問をしていると考えられる。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 What質問
0.3 Which質問
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-15 読み聞かせ場面での母親の質問行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
What質問
0.3
0.2 Which質問
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-16 展開場面の母親の質問行動の変化

119
(3) 母親の情動調整行動
母親の読み聞かせ場面での情動調整行動の変化を Figure 7-17 に,展開場面での情動調整行
動の変化を Figure 7-18 に示す。
「情動表出」
,「身体動作」行動は,読み聞かせ展開場面ともに変わらないが,
「シンボル
的な働きかけ」行動は,読み聞かせ場面では 8 ヵ月で,展開場面では 1 歳代で多くみられ
た。
(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6 情動表出
0.5
0.4
身体動作
0.3
0.2
0.1 シンボル的な働きかけ
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Fifure 7-17 読み聞かせ場面の母親の情動調整行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7 情動表出

0.6
0.5 身体動作
0.4
0.3 シンボル的な働き
0.2 かけ
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-18 展開場面の母親の情同調性行動の変化

120
(4) 子どもの応答行動
子どもの読み聞かせ場面での応答行動の変化を Figure 7-19 に,展開場面での応答行動の
変化を Figure 7-20 に示す。
「言語的応答」は読み聞かせ場面よりも展開場面の方が多くみられており,読み聞かせ
場面においてはだまって聞いている状態にあると考えられる。これは読み聞かせ場面での
成果を展開場面において言語的にだしているためではないかと考えられる。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 言語的応答
0.3
発展的応答
0.2
0.1 非言語的応答
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-19 読み聞かせ場面の子どもの応答行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
言語的応答
0.3
発展的応答
0.2
0.1 非言語的応答
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-20 展開場面の子どもの応答行動の変化

121
(4) 子どもの自己内対話活動(つぶやき)
子どもの読み聞かせ場面での自己内対話活動(つぶやき)の変化を Figure 7-21 に,展開
場面での自己内対話活動(つぶやき)の変化を Figure 7-22 に示す。
読み聞かせ場面においては 2 歳前半から,展開場面においては 1 歳後期から自己内対話
活動(つぶやき)がみられ,展開場面の方が自己内対話活動(つぶやき)がはやくみられ
ることが示された。

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3 つぶやき
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-21 読み聞かせ場面の子どもの自己内対話活動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4 つぶやき
0.3 文字注目
0.2
0.1
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半
Figure 7-22 展開場面の子どもの自己内対話活動の変化

122
(5) 子どもの情動調整行動
子どもの読み聞かせ場面での情動調整行動の変化を Figure 7-23 に,展開場面での情動調
整行動の変化を Figure 7-24 に示す。
「情動表出」行動は読み聞かせ場面,展開場面ともに同じようにみられ,1 歳中期で一気
に減少するという点も同じである。
「身体動作」「シンボル(象徴)
」は,読み聞かせ場面よりも展開場面でのほうが多く,
また早期からみられることが示唆された。
これらのことから,展開場面においても自己内対話活動が始まるのは 1 歳中期ごろである
ことが示唆された。そして読み聞かせ場面と違い,展開場面の方が情動的なやりとりが多
く行われていることが示唆された。

123
(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6 情動表出
0.5
0.4 身体動作
0.3
0.2 シンボル
0.1 (象徴)
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-23 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化

(生起比率)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
情動表出
0.5
0.4
身体動作
0.3
0.2 シンボル
0.1 (象徴)
0
5 8 9 1 1 1 1 2 2 3 3
ヶ ヶ ヶ 1 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳
月 月 月 ヶ 前 中 後 前 後 前 後
月 期 期 期 半 半 半 半

Figure 7-24 展開場面の子どもの情動調整行動の変化

124
第2節 研究Ⅲのまとめ
1 読み聞かせ場面における月齢ごとの母子の言語行動,情動調整行動の変化
本研究の目的は,0 歳から 3 歳代の縦断データをもとに, 読み聞かせ場面と展開場面にお
ける母子相互行為の言語行動と情動調整行動の変化過程を検討するとともに,読み聞かせ
による母子相互行為が子どもの語い発達と社会情動的発達の基盤をどのように作っている
のか検討することであった。
その結果,まず言語行動をみてみると,
「注意喚起」行動において,母親の言語的な働き
の成果が1年ほどずれて出ていることが認められた。また「命名」行動においても,母親
と子どもとの間に少しずれがみられ,石崎(1996)の 1 歳代において母親が注意喚起をおこな
った後に命名行動を示すようなフォーマットを作ることで,しだいに子どもも自ら命名を
するようになってくるという結果と同様であると言えよう。それではなぜ,このように母
親の働きかけが,目に見える子どもの行動として表出されるまで時間がかかっているのだ
ろうか。それは,目に見えない間もそのプロセスは続いており,これは子どもが母親の働
きかけを専有しているプロセスであると考えられるためである。ただしその期間は,半年
や 1 年とは限らず,観察では見えにくい状態から頻繁に見られる状態があるため,行動に
よってその期間は変化するものであると考えられる。
母親の「質問」行動においては,子どもが 2 歳になると,母親は子どもに質問を行い子
どもはそれに言語的に応答するといった言語的なやりとりが行われていることが示された。
そして 2 歳後半より自己内対話活動(Vygotsky, 2001)が活発に行われ,母親はその子ども
の自己内対話活動を阻害しないように朗読的な読み方になっていることが示唆された。
これらのことから,8 ヵ月より母親は子どもの言語行動の足場作りとなるフォーマット
(石崎,1996)を形成しており,子どももその意図に気付き始めているがまだそれを表出する
1 歳ごろからその成果が見られ始め,
ことはできず, 2 歳ごろから言語的なやりとりとなり,
子どもの自己内対話活動へとつながっていくことが示唆された。
次に情動調整行動をみてみると,子どもの「情動表出」行動が 11 ヵ月のころからみられ,
母親もそれに同じく 11 ヵ月で言語的にも非言語的にも応答していることから,11 ヵ月時は
母子は情動的なやりとりが行われていることが示唆された。
母親の情動表出行動は月齢を通して多くみられ,読み聞かせ場面での母親は常に情動表
出を行いながら読み聞かせをしていることが示唆された。それに対し子どもの「情動表出」
は 1 歳中期で一気に下がっていることが示された。これは,この後の 1 歳後期でまた情動
表出が上がり,さらに「シンボル」も出現することから,この 1 歳中期は子どもの中で今
までの母親からの働きかけ,そして母親とのやりとりで学んだことが一致し始める時期な
のではないか。つまり自己内しそれまでの母子相互行為を内化(Vygotsky,2001)してい
る時期なのではないか。つまり自分の中での思考が始まり,自己内対話活動がおこり始め
ているため情動表出が少なくなるのではないかと考えられる。
母親の「身体動作」が 1 歳中期に見られるのに対し,子どもの「身体動作」は 2 歳から

125
みられ遅れて出現していることが示された。このことから,母親の行動をいったん取り込
んで習得し,専有として現れるまでには時間がかかるため,少し遅れて子どもの行動とし
て現れることが示唆された。
母親の「シンボル的な働きかけ」が 8 ヵ月で見られ,子どもの「シンボル」活動は 1 歳
後期でみられた。これは,母親は子どもが 8 ヵ月のときから,子どもの表象を操作させる
ように促す言葉かけやジェスチャーを行う(須田,1999)ことで,子どもはその言葉の意
味と動き,絵本に描かれたものとが一致し始め,それが 1 歳後期になると子どもも母親の
シンボル的な働きかけの意味を理解し,自らシンボル的な応答をするためであると考えら
れる。
そして 1 歳中期より,子どもの中で今までの母親からの働きかけ,そして母親とのやり
とりで学んだことが一致し始め自己内対話活動が活発に行われることが示唆された。
そしてこの自己内対話活動(Vygotsky, 2001)をベースとして母親の行動をいったん取り
込んで自分のもととする(Wertsch, 2002)ことで 2 歳においてそれを表出していくというこ
とが示唆された。

126
2 読み聞かせ場面と展開場面の比較
本研究では,読み聞かせ場面と展開場面を比較して,母子それぞれの言語行動と情動調
整行動がどのような状態にあるのか,変化はみられるのかを,母親は「命名行動」,「質問
行動」,
「情動調整行動」に絞って,子どもは「応答行動」,「自己内対話活動」,「情動調整
行動」に絞って検討した。
その結果まず言語行動において,母親の「命名」行動は,初期を除けば読み聞かせ場面,
展開場面ともほぼ同じであり,1 歳代に共通して多くみられることが示唆された。
母親の「質問」行動においては,読み聞かせ場面では 2 歳になってからであったが,展
開場面において 11 ヵ月よりみられ,読み聞かせ場面と展開場面では「質問」の機能が違っ
ていると考えられる。0 歳代の展開場面において母親は子どもが応えられないことを分かっ
ていながらも質問をするというのは,まず一つはコミュニケーションの手段であること,
そして子どもの語い獲得を促す足場作りであると考えられる。そしてそのことを基盤とし,
子どもの言語的応答が可能となる 2 歳代より質問が出現するのは,絵本の内容をより子ど
もに理解させるためであると考えられる。
子どもの「言語的応答」は読み聞かせ場面よりも展開場面の方が多くみられており,読
み聞かせ場面においてはだまって聞いている状態にあると考えられる。これは読み聞かせ
場面での成果を展開場面において言語的にだしているためではないかと考えられる。
その一方で,子どもの「自己内対話活動」は,読み聞かせ場面においては 2 歳前半から,
展開場面においては 1 歳後期から自己内対話活動がみられ,展開場面の方が自己内対話活
動がはやくみられた。これは,読み聞かせ場面で学んだことを展開場面においてさらに内
化させているためではないかと考えられる。
これらのことから,言語行動において,0 歳代の展開場面において母親はコミュニケーシ
ョンの手段として質問行動をし,また子どもの語い獲得を促す足場作りも行っていること
が示唆された。そして 1 歳代においては,読み聞かせ場面においても展開場面においても,
母親はフォーマットを形成しており,その母親のフォーマットの中で子どもは,展開場面
において読み聞かせ場面での言語的なやりとりを内化させる自己内対話活動を行っている
ことが示唆された。
そしてそのことを基盤とし,2 歳代より絵本の内容をより子どもに理解させるための質問
行動が出現し,そのことで子どもは母親の読み聞かせをききながら自己内対話活動を行い,
展開場面でそれを表出させていることが示唆された。
次に情動調整行動では,まず母親の情動調整行動は,「情動表出」,「身体動作」行動は,
読み聞かせ展開場面ともに変わらないが,「シンボル的な働きかけ」行動は,読み聞かせ場
面では 8 ヵ月で,展開場面では 1 歳代で多くみられた。
このことから,母親は読み聞かせ場面では 0 歳代より子どもの表象を促すような働きか
けが行われ,展開場面においては 1 歳代で多く見られることが示唆された。
子どもの情動調整行動においては,
「情動表出」行動は読み聞かせ場面,展開場面ともに

127
同じようにみられ,1 歳中期で一気に減少するという点も同じであり,
「身体動作」
「シンボ
ル(象徴)
」は,読み聞かせ場面よりも展開場面でのほうが多く,また早期からみられるこ
とが認められ,展開場面においても自己内対話活動が始まるのは 1 歳中期ごろであること
が示唆された。そして読み聞かせ場面と違い,展開場面の方が情動的なやりとりが多く行
われていることが示唆された。
これらのことから,母親は年齢と場面を超えて常に情動的に働きかけを行っていること
が示された。その一方で子どもにおいては 1 歳代で読み聞かせ場面においても展開場面に
おいても情動表出が減少することが示唆された。このことから,1 歳代において子どもは自
己内対話活動を活発に行っていることが示唆された。
母親は読み聞かせ場面では 0 歳代より子どもの表象を促すような働きかけを行い,その
成果が表れはじめるのが 0 歳代後半の展開場面であることが示唆された。このことから情
動調整行動は,0 歳代の読み聞かせ場面が準備期でありその成果が 0 歳代後半の展開場面で
発揮され始めることが示唆された。
以上のことをまとめると Figure 7-25 のようになる。子どもが 0 歳のころより母親は,読
み聞かせ場面において,子どもの表象を操作させるように促す言葉かけやジェスチャーを
行う情動調整的な働きかけ(須田,1999)や,子どもの言語行動の足場作りとなるフォー
マットを形成しており(石崎,1996),展開場面においても母親はコミュニケーションの手段
として質問行動をし,また子どもの語い獲得を促す足場作りも行っていることが示唆され
た。それに対し子どもは母親の意図に気付き始めており,展開場面において情動調整行動
によって応答していることが示唆された。
そして 1 歳の読み聞かせ場面において自己内対話活動(Vygotsky, 2001)が始まり,展開
場面においてさらに自己内対話活動が活発になっている。
そのような母子相互行為をベースとし 2 歳の読み聞かせ場面から言語的なやりとりとな
り,さらに絵本の内容をより子どもに理解させるための母親の質問行動が出現することで,
子どもの思考活動である自己内対話活動も活発におこなわれていることが示唆された。こ
のように読み聞かせ場面で母親の行動をいったん取り込んで自分のもととし専有する
(Wertsch, 2002)ことで,展開場面でそれを言語的に表出させていることが示唆された。
また,母親の情動表出行動は月齢を通してまた読み聞かせ場面でも展開場面でも多くみ
られ,母親は常に情動的に子どもに働きかけていると考えられる。
これらのことから,0 歳代では母子で情動的なやりとりが行われており,1 歳になると活
発な自己内対話活動がみられ,これらをベースとして 2 歳で言語的な母子相互行為が行わ
れていることが示唆された。また同時に読み聞かせ場面でのやりとりベースとして展開場
面において,子どもはさらに深化させたり,読み聞かせ場面で得たことを言語として表出
させたりしていることが示唆された。このような示唆から,横断データによる研究Ⅱの結
果と同様な結果が得られたと考えられ,「母子相互行為による絵本の読み聞かせによって,
子どもの社会情動的な対人関係を介して自己内対話活動が起こり,子どもの語い獲得へと

128
つながっていく」というプロセスが,縦断データによっても明らかにされたといえよう。

Figure 7-25 縦断データによる読み聞かせ場面と展開場面での発達的変化

129
結論

第8章 本研究の概要

第1節 本研究の背景と目的の要約

絵本の読み聞かせに関する発達心理学研究は,1970 年代後半より多くの研究者によって
報告されており,被験者は主に乳幼児と母親であった。また,それらの研究の多くは子ど
もの言語獲得との関連においてであった(石川・前川,2000)。 絵本の読み聞かせと子ども
の言語獲得との関連を研究した Ninio & Bruner(1978)は,絵本の読み聞かせ場面において,
母親は子どもの言語発達の枠組みとなるフォーマットを形成していると述べている。その
後,Ninio(1983)は,このフォーマットを語い教授フォーマットと命名し,絵本の読み聞か
せ時のフォーマットが子どもの語い獲得に影響していると主張しており,絵本の読み聞か
せは子どもの語い獲得のための足場作りをしていると考えられる。
しかし,この絵本の読み聞かせと語い発達の研究の多くは,絵本の読み聞かせを母子相
互行為と捉えていながらも養育者の発話に焦点があてられており,母親の発話や行動が子
どもの発話や行動にどのように影響し,子どもの語い発達へと関連しているのかというプ
ロセスは捉えていない。また,絵本の読み聞かせが直接的に子どもの言語や語い獲得に影
響するのか,という疑問も考えられる。
ここで絵本の読み聞かせの構造について考えてみたい。絵本の読み聞かせは,
,母親が子
どもと絵本との間を媒介することで母子が絵本を共有するといった Vygotsky(1978)の 3 項
関係であると考えられる。また Vygotsky(2001)の一般的発生原理によれば,
「子どものこと
ばというものは,精神間的機能から精神内的機能への,すなわち,子どもの社会的集団的
活動形式から個人的機能への移行現象の一つである。これらの機能は,最初は,共同活動
の形式として発生し,その後でのみ,子どもによって自分自身の精神活動の形式に移され
る」としている。田島(2002)においても,
「子どもの文化的発達におけるすべての機能は,2
度,2 つの水準に現れる。最初は社会的水準あり,後に心理的水準に,すなわち,最初は精
神間機能として人々との間に現れ,後に精神内機能として子どもの内部に現れる」として
いる。これは,母子間で精神間機能として実際のやりとりが行われ,子どもは次第にこの
やりとりを自分の中に取り込み,心内化し,精神内機能として頭の中で母とのやりとりを
想定して自分ひとりで行動できるようになってくる。そして今度は頭の中でもう一人の自

130
分とのやりとりをしながら行動するようになるのである。この精神内機能を自己内対話活
動(Vygotsky,2001)といい,母親の作ったフォーマットが子どもに受け取られ共有するた
めに必要なものであると考えられる。そしてこの自己内対話活動の出現には母親とのやり
とりである対人関係の成立が重要であり,そのためには母子で対人関係が成立する基盤と
して,他者との相互行為である社会情動的発達の存在があげられる。
これらのことから,絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの語い発達に影響を
及ぼすプロセスとして次のようなことが考えられる。まず「3 項関係である絵本の読み聞か
せによる母子相互行為より,子どもの社会情動的コミュニケーションが成立し,社会情動
的発達により対人関係が成立する。そのことによって子どもの自己内対話活動が起こり,
子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセスである。このプロセスを実証的に
吟味するために,以下の 3 つの目的を設定した。

目的 1:絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の横断的な発達的変化について
絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の 0 歳から 6 歳に至る変化過程の全体像を明ら
かにするため,その中で子どもの年齢を乳児前期(0 歳),乳児後期(1 歳)
,幼児前期(2,
3 歳),幼児後期(4,5,6 歳)の 4 段階に分け,絵本の読み聞かせ場面における母子相互
行為の成果をみるために,その後の展開場面を設け,絵本の読み聞かせ場面と展開場面の 2
場面より検討することを課題とする。(第 5 章,研究Ⅰ)

目的 2:絵本の読み聞かせと子どもの語い発達と社会情動的発達との関連について
絵本の読み聞かせがどのようなプロセスで子どもの語い発達へ影響するか検討すること
を目的とする。詳細には,子どもの社会情動的発達と子どもの語い発達に焦点を当て,絵
本の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情動的コミュニケーションを成立さ
せ,社会情動的発達により対人関係が成立することによって子どもの自己内対話活動が起
こり,子どもの語い発達へとつながっていくというプロセスを,絵本読み聞かせ場面とそ
の後の展開場面を設けて検討することを課題とする。(第 6 章,研究Ⅱ)

目的 3:絵本の読み聞かせが子どもの社会情動的発達と語い発達に及ぼす縦断的な発達
的変化について
絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす影響過程を明らかにするためには,横断
データの分析による目的 2 で明らかにされた「絵本の読み聞かせによる母子相互行為によ
り,子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子どもの自己内対話活動が起こることで子
どもの表出言語が促進される」というプロセスを,ケーススタディによってより詳細に変
化過程をみる必要がある。そのためには,横断データを補完する形で縦断データの分析も
吟味する必要があろう。とくに幼児期の語い発達の土台作りのところを検討するために 0
歳から 3 歳代に焦点化する必要があると考えられる。

131
そこで目的 3 では,0 歳から 3 歳代の縦断データをもとに, 読み聞かせ場面における母子
相互行為の変化過程を検討するとともに, 母親の読み聞かせが子どもの語い発達と情動調
(第 7 章,研究Ⅲ)
整にどのように関係しているか検討することを課題とする。
以上の 3 つの目的に対して,第 1 章から第 3 章にわたる研究によって吟味が試みられ,
以下の知見が得られた。

132
第2節 本研究の結果と示唆

目的 1:絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の横断的な発達的変化について(第 5
章,研究Ⅰ)

1 母親の読み聞かせ方針による子どもの行動の変化
本研究の第1の課題は 0 歳~6 歳までの母子を対象に,子どもの年齢を乳児前期(0 歳)

乳児後期(1 歳),幼児前期(2,3 歳)
,幼児後期(4,5,6 歳)に分け,母親の読み聞か
せ方針によって子どもの行動がどのように変化していくのかを検討することであった。得
られた結果と示唆は以下の通りであった。
乳児前期において,母親の読み聞かせ方針と子どもの行動の変化との間に関連はみられ
ず,田島ら(2010)も指摘するように母親はある方針をもって子どもに読み聞かせをするとい
うよりも,絵本を母子で共有し一体感を楽しむ状態にあることが示唆された。
乳児後期では,母親が教育的志向をもつことで子どもの象徴活動の獲得や絵本への興味
が促されること,母親が読みの工夫をすることで子どもの絵本への興味がわくこと,母親
が子のペースに合わせた読み方をすることで子どもの絵本への興味がわくことが認められ
た。このことから,母親が教育的志向,工夫読み,子どものペースにあわせた読み聞かせ
をすることで,母親が子どもと絵本との世界を媒介し(Vygotsky, 1978),それが足場(Bruner,
1988)となり,子どもは母親を介し絵本の世界を知る(Cole, 1996)ことで絵本への興味を持
つ時期であると考えられる。
幼児前期においては,母親が教育的志向をもつ読み方をすることで子どもの象徴活動の
獲得がみられたことから,母親は子どもが自ら読もうとしたときに読み方を教えるといっ
た行動をとることで,田島ら(2010)の指摘するように,子どもは絵本に描かれているものと
言葉とが結びつきさらに言葉そのものへの興味がうまれ,絵本の内容のごっこ遊びなどの
象徴的な活動が盛んになることが示唆された。
幼児後期においては,母親が教育的志向な読み方をすることで子どもの象徴活動が獲得
されたり,絵本への興味をもつこと,母親が読みの工夫をすることで子どもの象徴活動が
獲得されたり絵本への興味をもつこと,母親が子どものペースに合わせた読み方をするこ
とで子どもの象徴活動の獲得や絵本に興味をもつことが示された。このように全ての母親
の方針と子どもの行動の変化に関連がみられたことから,幼児後期になると,子どもは自
己内対話活動が活発になるため,母親は子どもの自己内対話活動を促進させる読み聞かせ
をすることにより,子どもは絵本の世界に入り易くなり,象徴活動の獲得が促進され,絵
本にもより興味をもつことが示唆された。
以上のことから,乳児前期は母子で絵本の読み聞かせを共有して楽しみ母子相互行為の
基盤作りを行い,乳児後期において 3 項関係の確立により子どもは絵本の世界を知り興味

133
をもち,幼児前期において母親が言語的にも足場を作ることで子どもの象徴活動や自己表
現が盛んになり,幼児後期において自己内対話活動が活発になることで,象徴活動の獲得
がさらに促進されることが示唆された。

2 読み聞かせ場面と展開場面での母子相互行為の変化
第 2 の課題は,絵本の読み聞かせ場面とその後の展開場面の 2 つの場面を設定し,各々
の母子相互行為の中で,母親のいかなる行動(子尊重行動・読み聞かせの楽しさと足場作
り行動)が子どもの行動(積極的参加行動・スムーズなやりとり行動)とどのような関係
を示し,どのように変化していくのかを場面ごとに検討することであった。そして以下の
ような結果と示唆が得られた。
まず,母親自身が楽しんだりラポール作りをするといった行動は読み聞かせ場面でもそ
の後の展開場面でも年齢を超えてみられる行動であり,そのことによって子どもも絵本の
世界を共有し,共に楽しさを共有する場面がうまれ子どもとのやりとりがスムーズになっ
たり子どもの方も積極的な行動をとることが示唆された。
続いて乳児前期の読み聞かせ場面では母子の関連はみられず,展開場面においては,母
親が子どもを尊重することで子どもも積極的に参加する傾向にあることが示された。これ
は,子どもの反応に合わせた母主導の働きかけをすることにより,子どもも母親との絵本
の場を楽しみ積極的に反応している母子一体感を楽しんでいる場面である(田島ら,2010)
と考えられる。
乳児後期では,読み聞かせ場面では,母親が子どもを尊重する読み方をすることで子ど
もの積極的参加行動も増加しやりとりもスムーズになることが認められたが,展開場面で
は母子行動の関連はみられなかった。しかし幼児前期になると幼児後期と違って,読み聞
かせ場面ではなく展開場面において,母親の子どもを尊重する行動が多くなることで子ど
もの積極的参加行動やスムーズなやりとり行動も増加することが認められた。さらに幼児
後期になると,読み聞かせ場面,展開場面両方において,母親の子どもを尊重する行動が
多いほど子どもの積極的参加行動とスムーズなやり取り行動も増加することが認められた。
以上のことから乳児後期は,乳児前期での母子のやりとりによって作られた第 1 次間主
観性(Trevarthen & Hubley,1978)をベースとして,乳児後期において子どもの第 2 次間
主観性が発達し,子どもは他者の意図に気付き始める時期であると考えられる。そして,
この第 2 次間主観性によって,様々な社会的相互交渉のスキルの基礎である共同注意が発
達する(Tomasello, 1995)ため,絵本の読み聞かせ場面において,共同注意の代表的な行動
である指さし行動が,この時期より多くみられるようになり(Tomasello, 2006),子どもは
母親とその場面を共有しようと自分から働きかけているのではないか。そのため,乳児後
期の読み聞かせ場面において母親は,子どもが自ら母親とその場面を共有しようとする行
動を尊重した方が,母子のやりとりもスムーズになると考えられる。
幼児前期になってくると,乳児期の母子相互行為を基盤とし安全基地が成立し

134
(Ainsworth & Blehar & Waters & Wall, 1978),子どもは絵本以外のものにも興味を示し,
また歩行能力も発達するので,精力的に外の世界へと探索行動を行うようになる。そのこ
とにより子どもは,母親の読み聞かせをじっと座って聞いているという状況が困難になっ
てくるため,絵本に興味を持たせるために母親の方から積極的に働きかけをした方が,絵
本の読み聞かせ場面ではやりとりはスムーズになるのではないか。それに対して展開場面
は絵本を題材として母子でのやりとりが中心となるため,読み聞かせ場面よりも,子ども
は自己主張や自己表現がしやすい場面であると考えられる。そして幼児前期になると子ど
もは自己内対話が定着し始め,言葉そのものに興味を持ち,自己表現活動が盛んになって
くる(田島, 2010)ため,展開場面においては,そのような子どもの自己表現を尊重した方
が,母子間のやりとりがスムーズになるのではないかと考えられる。
幼児後期になると,子どもは母親の読み聞かせを聞きながら自己内対話活動を活発に行
っており,読み聞かせ場面においても展開場面においても今までの絵本の読み聞かせによ
る母子のやりとりから学んだことを自分でコントロールし,子ども中心のやりとり(石崎,
1996)となっていることが 示唆された。
さらに以上のことより,年齢段階を通してみてみると,乳児前期においては読み聞かせ
場面,展開場面ともに母子の一体感を楽しむための母子共有場面であり,その楽しさを通
した情動的なやりとりをベースとし,乳児後期では読み聞かせ場面において母子の相互行
為の基盤づくりが行われるのではないか。そして幼児前期においては,その乳児期の母子
相互行為を基盤とし展開場面においてその乳児期で学んだことを表出していると考えられ
る。さらに幼児後期においては読み聞かせ場面,展開場面双方において,今までの母子の
やりとりから学んだことを自分でコントロールし,自己内対話しながら,さらにそれを社
会的対話として外へ表出でき,今まで母親が中心であったやりとりが子ども中心のやりと
りへと移行していることが示唆された。

目的 2:絵本の読み聞かせと子どもの語い発達と社会情動的発達との関連について
(第 6 章,研究Ⅱ)

1 読み聞かせによる母子相互行為と子どもの社会情動的発達との関連
本研究では,まず 0 歳から 6 歳までの子どもの年齢を乳児前期(0 歳),乳児後期(1 歳),
幼児前期(2,3 歳),幼児後期(4,5,6 歳)に分け,絵本の読み聞かせ場面と展開場面各々に
おいての子どもの行動と子どもの社会情動的発達との関連を検討した。その結果,読み聞
かせ場面の乳児前期では子どもの行動と子どもの社会情動的発達とのあいだに関連はみら
れないのだが,乳児後期になると,子どもの積極的参加行動が多いほど対成人社会性も高
くなり,乳児後期において対成人的な対人関係が成立することが示唆された。そして,幼
児前期では乳児後期と違って,子どもの積極的参加行動が多いほど対子ども社会性が高く
なり,対子ども的な対人関係が成立することが示唆された。そして幼児後期では子どもの

135
積極的参加行動が多いほど,対子ども社会性と対成人社会性の双方が高くなることが認め
られ,乳児後期,幼児前期での対人関係をベースに幼児後期において完成されることが示
唆された。
これらのことから,絵本の読み聞かせによる母子相互行為によって,子どもの社会情動
的発達が促され対人関係を成立させ,母子相互行為としての読み聞かせから得たものがそ
の後の子どもの社会性にまで発展していくことが示唆された。
次に,より詳細な表出された行動レベルで絵本の読み聞かせ場面と展開場面での母子の
情動調整行動の関連を検討した結果,年齢段階ごとに述べると,以下のような特徴がみら
れた。
乳児前期の読み聞かせ場面において,母親がシンボル的な働きかけをすることで子ども
もシンボル的な応答をすることが認められ,展開場面では母子の情動調整行動の関連はみ
られなかった。これは,母親が子どもの表象活動を促すような対話的な働きかけをするこ
とで,絵本の読み聞かせ場面が,子どもが母親を通して絵本の世界や情動を共有できる共
同注視の場面(田島ら,2010)となり,3 項関係が作られる(Vygotsky, 1978 ; Sarrini, 2006)
ためと考えられる。そしてこの 3 項関係によって,母子が一体となり絵本の世界を一緒に
楽しむことができるため,子どもも母親と同調しシンボル的な応答を行い情動を表出する
ことが示唆された。乳児前期の読み聞かせ場面は,母親が子どもと絵本を共有するために
シンボル的な情動調整を行い(Stern, 1985;1989)
,子どももそれに情動的に応答すること
で社会情動的発達が促され,その後の対人関係のための土台作りのための準備をしている
ことが示唆された。そして展開場面においては,読み聞かせ場面での情動調整的なやりと
りをさらに子どもの中で深める土台作りをする場面であるため,情動的な母子相互行為と
して表面に現れず,直接的な関連としてみられなかったのではないかと考えられる。
乳児後期の読み聞かせ場面では,母親が自分の情動からくる身体動作を行うことで子ど
もも身体動作を行い,母親がシンボル的な働きかけをすることで子どももシンボル的な行
動をし,展開場面においても読み聞かせ場面同様に,母親が自分の情動からくる身体動作
を伴った働きかけをすることで子どもも身体動作を行い,母親が情動表出することで子ど
もも情動表出をすることが認められ,読み聞かせ場面でも展開場面でも母親の行動を子ど
もが活発に模倣していることが示唆された。これは,乳児前期での情動的な母子相互行為
による対人関係の土台作りにより,乳児後期になると子どもは,母親の情動調整的な働き
かけの意図に気付き(Sarrini, 2006)はじめ,子どもは母親の行動を活発に模倣しはじめ
(Tomasello, 2008)る。そして,このような模倣活動的な母子相互行為が子どもの中に内
在化され,内的作業モデル(Bowlby, 1973)となり,対人関係が成立するためだと考えら
れる。そして読み聞かせ場面での母子のやりとりは,母親が子どもの表象的なものを促す
ようなやりとりが中心的に行われており,展開場面においては,読み聞かせ場面よりも情
動調整的なやりとりとなっていると考えられる。
幼児前期においては,読み聞かせ場面では,母親が情動表出をすることで子どもも情動

136
表出をし,母親がシンボル的な働きかけをすることで子どもはシンボル的動作や身体動作
を行うことが認められ,展開場面においては母子の情動調整行動の関連はみられなかった。
これは,乳児期の模倣より学んだことをベースとして幼児前期の読み聞かせ場面において,
母親のシンボル的な働きかけの意味を理解し,身体動作として自分なりの応答をしている
ことが示され,乳児期で内在化された内的作業モデルを幼児前期において発揮しているこ
とが示唆された。そして展開場面において,それをさらに深化させていることが示唆され
た。
幼児後期の読み聞かせ場面において,母親の情動表出と子どもの情動表出,母親の身体
動作と子どもの情動表出,母親のシンボル的な働きかけと子ども情動表出,シンボルの間
に関連みられ,今までの母子相互行為を内的作業モデルとして自分のものとして取り込み,
活発な情動調整が行われていることが示唆された。またこのことは,発達過程の中で,子
どもが同種の情動体験を繰り返し経験すると,その前後の文脈を含めて情動的スクリプト
が形成される(Oatley & Jenkins, 1996)という指摘と関連があると考えられる。遭遇した
出来事やそれに対する認知的評価,生じた情動,母親の対応などが一定の連鎖をなした認
知的構成体として子どもの中に取り込まれるのである。そしていったんこうしたスクリプ
トが形成されると,それは特定の関係性の文脈を超えて,さまざまな状況に般化適用され,
その子ども特有の情動的ふるまいを導くことになると言われている。つまり,今までの乳
児期からの情動調整的な母子相互行為を通して情動的スクリプトが形成され,幼児後期の
読み聞かせ場面においてそのことが般化適用されていると考えられる。
その一方で展開場面においては,読み聞かせ場面と違って,母親が情動からくる身体動
作をすると子どもも情動を伴った身体動作で応答するが,母親が情動表出のみであると子
どもは情動を伴った身体動作が少なくなるということが示された。この読み聞かせ場面と
展開場面の違いにおいて考えられることとして,子どもが思考状態にある(Vygotsky, 2001)
ためではないか,ということがあげられる。つまり,今までの情動調整より情動的スクリ
プトが形成され幼児後期に実を結び,読み聞かせ場面においてはそれが般化された母子相
互行為が行われており,展開場面においてはそれをより深めるために子どもは自己内対話
活動(Vygotsky, 2001)をしているため,子どもの情動を伴なった身体動作が少なくなると
考えられる。そのため,幼児後期においては,母子の情動的なやりとりは乳児期同様に必
要なのだが,展開場面において子どもは自己内対話活動を活発に行うことでより自分のも
のとして深化させ,思考活動が活発になるため,母親は情動表出はしつつも,子どもの自
己内対話を阻害しないような働きかけをする必要があると考えられる。
以上のことから絵本の読み聞かせによる母子相互行為は,子どもの社会情動的発達を促
し対人関係を成立させるものであり,その社会情動的な対人関係を子どもの中に内的作業
モデルとして内化し,さらに展開場面において自己内対話活動をしながら深めていくこと
で,母子相互行為としての読み聞かせから得たものが,その後の子どもの社会性にまで発
展していくと考えられる。

137
2 読み聞かせによる母子相互行為と子どもの語い発達との関連
本研究では,子どもの年齢段階(乳児前期,乳児後期,幼児前期,幼児後期)ごとに絵
本の読み聞かせ場面と展開場面において母子相互交渉の中で母親のどのような行動が,子
どもの行動を媒介とし,子どもの語い発達へと関連するかをダイナミックに検討した。得
られた結果と示唆を以下に年齢段階ごとに示す。
乳児前期段階(0 歳)の読み聞かせ場面では,母親自身が読み聞かせを楽しみ足場作り行
動をおこなうことで子どもも読み聞かせに積極的に参加しようとする行動がみられたが,
そのような行動が,子どもの語い獲得とは関連しないことが示された。これは,母親自身
が楽しみながら子どもの足場づくりを行い情動的なやりとりをすることで,母子の一体感
を作り,子どもも絵本の世界に積極的に参加する体制を作るという場面であり(田島ら,
2010),乳児前期の子どもはまだ話すことができないため語い獲得との関連がみられなかっ
たと考えられる。
それに比べ,展開場面においては,母親が楽しそうに働きかけ足場作りをすることで子
どもは積極的に参加する行動をとり,その母子相互行為が子どもの表出言語獲得を増加さ
せる傾向にあることが示された。これは,読み聞かせ場面での母子相互行為を基盤とし,
読み聞かせ場面よりもやりとりが中心となる展開場面においてさらに深めることで,子ど
もの表出言語へとつながっていくのではないかと考えられる。より詳細な言語行動におい
ても,子どもの注意喚起行動と母親の応答行動,子どもの注意喚起行動と母親の足場作り
行動との間に関連がみられており,展開場面では読み聞かせ場面よりも,子どもの方から
の働きかけがみられており,母子間のやりとりが活発であると考えられる。しかし乳児前
期において子どもはまだ話すことができないため,表出言語といっても言葉というよりも
発声的なものであると考えられる。
乳児後期段階(1 歳)の読み聞かせ場面においては,母親が子どもを尊重する読み方をす
ることで子どもは積極的参加行動が増加し,そのことが子どもの概念獲得につながってい
き,さらに母親が読み聞かせを楽しみ足場作りをするような読み聞かせをすることで,や
りとりがスムーズになり子どもの理解言語と概念獲得が促されることが示された。このこ
とから,乳児前期での母子相互行為をベースとして,乳児後期の読み聞かせ場面で母親は,
子どもがさらに絵本の世界に入り易いようにラポール形成を行い,具体的に子どもへの提
案や指示をだすといった子どもが読み聞かせへと入り易い足場を作ることで,子どもは自
然と読み聞かせ活動に参加することができ,母子のやりとりがスムーズになる(岩崎ら,
2011)ことが示唆された。このように母親と子どもとの共通のコミュニケーションの土台
が作られることで,母子間でスムーズな相互作用がうまれ,子どもは母親の働きかけの意
味を理解する(Tomasello, 1995)ことで,子どもの言語の理解が進み,語い概念も獲得しや
すくなるのではないか。つまり,Tomasello(1995)の語い獲得の基礎プロセスでも示されて
いるように,読み聞かせを通じて母親との共通の土台がつくられることで母親の伝達の意
図を読み取り,今までの母子のやりとりを自分の中で内化することで自己内対話が活発に

138
なされ,子どもの語い獲得が促されるのではないか。詳細な言語行動においても子どもの
自己内対話活動と母親の応答行動がみられたことから,子どもの自己内対話活動が活発に
行われており,母親も子どもの自己内対話活動が促進するように応答的に反応しているこ
とが示唆された。
その一方で展開場面においては,母子相互行為と子どもの語い発達との関連はみられな
かった。これは,母親の言語行動が子どもの表だった言語行動としては現れにくく,読み
聞かせ場面において自己内対話活動をさらに促進させるような母子相互行為をベースとし
て,それをさらに自分の内面にとりいれ定着させようとしている状態にあると考えられ,
評定分析と同様の結果であったことが示唆された。この読み聞かせでの効果は展開場面に
おいてまだ内在化され,表に表れていないので母子行動と語い発達との関連がみられなか
ったと考えられる。
幼児前期段階(2,3 歳)の読み聞かせ場面において,母親自身が楽しみ,さらに子ども
の足場作りをしながら読み聞かせをした方が,子どもの積極的参加活動が多くなる傾向に
あることが認められた。しかし,そのような母子相互行為と言語概念獲得との間に有意な
差はみられなかった。詳細な言語行動の関連においては,子どもの注意喚起行動と母親の
応答行動,子どもの自己内対話活動と母親の応答行動,母親の足場作り行動と子どもの発
展的関わりの間に関連がみられた。このことから活発な母子のやりとりが行われているが,
その中で子どもの自己内対話活動を促進させるようなやりとりが行われている傍ら,母親
の足場作り的なやりとりも同時に行われていることが示された。そしてこのようなやりと
りをベースとして子どもは発展的な関わりができるようになったことが示唆された。この
ような母子相互行為は,展開場面で子どもの語い獲得へと実を結ぶための土台作りをする
ためのやりとりであると考えられる。
展開場面においては,母親が子どもを尊重することで子どもは積極的に参加したり,や
りとりもスムーズになることや,母親自身読み聞かせを楽しみながら子どもの足場作りも
することで,子どもとのやりとりがスムーズになり,そのことが子どもの表出言語へつな
がっていくことが示された。詳細な言語行動の関連においても,子どもの自己内対話活動
と母親の応答行動,母親の足場作りと子どもが発展的な関わりの間に関連が見られた。こ
れは,読み聞かせ場面での母子相互行為が,今度は展開場面においてさらに深まり,そし
て乳児後期の理解言語と語い概念獲得をベースとして,言葉の理解が進みそれを自分のも
のとしてそれを取り込み,さらに自ら言語的でより発展的な言語行動として,表出言語が
促されたのではないかと考えられる。
幼児後期段階(4,5,6 歳)の読み聞かせ場面において母親が子どもを尊重し,かつ読み
聞かせの場づくりをすることで,子どもの積極的参加行動は増加するが,乳児後期段階と
は逆にそのような子どもの積極的参加行動が多いほど,子どもの語い概念の発達の低さを
招くことが示された。つまり,幼児後期段階では子どもの積極的参加行動が少ない方が,
語い概念獲得の発達を導くのである。このことから,積極的に質問したりせずに,黙って

139
母親の読み聞かせを聞くことによって言語概念の獲得が導かれると考えられた。これは,
子どもの自己内対話活動が定着しているためではないか。母親が子どもの自己内対話活動
を促進させるような読み方をすることで,子どもは母親と共有した読み聞かせ活動を自分
の中に取り込む個人内的活動が多くなる。そのため,子どもは積極的参加行動が少なくな
り,子どもの盛んな自己内対話活動によって言語概念獲得の発達を導くのではないかと考
えられる。詳細な言語行動の関連においても,子どもの自己内対話活動と母親の応答行動
との間に関連がみられており,子どもの自己内対話活動が活発に行われており母親も子ど
もの自己内対話活動を促進させるような行動をとっていることが示されている。そしてこ
れらのことは,Wertsch(2002)の「専有」という概念と関連していると考えられる。Wertsch
は Vygotsky(2001)の文化的道具が自分のものになる「内化」という概念を,さらに「習得
(mastery)
」と「専有(appropriation)」という概念によって説明している。田島(2003)によ
「習得」とは,媒介手段をすらすらと使用するための方法を知る(Ryle, 1949)ことで
ると,
あり,
「専有」とは,他者に属する何かあるものを取り入れ,自分のものとする過程である
と述べている。このことから,子どもは今までの母子相互行為を幼児後期において専有し,
自分のものとしていることが示唆された。言語行動の関連においても,子どもの発展的関
わりと母親の応答行動がみられたことから,子どもが専有したことで発展的な関わりとし
て表出したのではないかと考えられる。

3 読み聞かせによる母子相互行為が子どもの語い発達へ影響をあたえるプロセスの検討
目的 2 の 1 と 2 では,絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの社会情動的発達
と語い発達とどう関連するかを分けて検討したが,本研究においては,絵本の読み聞かせ
場面と展開場面各々において「絵本の読み聞かせによる母子相互行為が,子どもの社会情
動を発達させ対人関係を作り,自己内対話活動が促されることで子どもの語い発達へとつ
ながっていく」というプロセスの検討を行った。検討を行うにあたり,ダイナミックな関
係性のあり方の変化過程を検討するために,子どもの年齢段階を第 1 段階(0,1 歳)と第
2 段階(2,3,4,5,6 歳)に分け検討を行ったところ,以下のような結果と示唆が得られ
た。
読み聞かせ場面の第 1 段階は母子のやりとりは身体動作的な情動的関わりであるが,そ
のようなやりとりによって,子どもの表出言語と対子ども社会性の獲得は低くなることが
認められた。これは,この時期の子どもは母子での密着的なやりとりのベースを作る段階
であり,外へと人間関係が広がり始める時期のため,まだ対子ども社会性としては表れに
くく,また語いの表出も言葉が出始める時期のため少ないと考えられる。
第 2 段階は,母親が朗読的な読み方ではない方が子どもの情動表出も多くなり,そのよ
うな情動的コミュニケーションによって子どもの自己内対話活動が促進されることが示唆
された。このことから,第 1 段階で作られた情動的な母子のコミュニケーションの土台を
ベースとして第 2 段階において子どもの自己内対話活動がうながされることが示唆された。

140
そして展開場面の第 1 段階においては,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても身
体動作的な情動的コミュニケーションであり,これは読み聞かせ場面で得たものが子ども
の発展的な関わりとなって表れていることが示唆された。
第 2 段階では,読み聞かせ場面と同様に展開場面においても,2 歳以降の母子相互行為は
情動的コミュニケーションとなっており,そのことが子どもの自己内対話活動を促進させ,
さらに子どもの表出言語の獲得へとつながっていることが示された。
これらのことから,第 1 段階の読み聞かせ場面によって情動を伴った身体動作的な母子
相互行為によって土台が作られ,それを子どもは自分のものとして取り込み展開が面にお
いて発展的関わりとして表出していると考えられる。そして第 2 段階の読み聞かせ場面に
おいて読み聞かせ場面をベースとしてさらに情動的な母子相互行為が深められ,子どもの
自己内対話活動へとつながっていっている。そして展開場面において,読み聞かせ場面の
自己内対話活動が子どもの表出言語へとつながっていることが示唆された。
以上のことから,「母子相互行為における絵本の読み聞かせにより,子どもの社会情動的
コミュニケーションが成立し,社会情動的発達により対人関係が成立する。そのことによ
って子どもの自己内対話活動が起こり,子どもの語い発達へとつながっていく」というプ
ロセスは,
「絵本の読み聞かせによる母子相互行為により,子どもの社会情動的な対人関係
が成立し,子どもの自己内対話活動が起こることで子どもの表出言語が促進される」とい
う形で支持されたと考えられた。

目的 3:絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす縦断的な発達的変化についての
検証
本研究の目的は,
「絵本の読み聞かせによる母子相互行為により,子どもの社会情動的な
対人関係が成立し,子どもの自己内対話活動が起こることで子どもの表出言語が促進され
る」という目的 2 で明らかにされたプロセスを,0 歳から 3 歳代の縦断データをもとに, 読
み聞かせ場面と展開場面における母子相互行為の言語行動と情動調整行動のより詳細な変
化過程を検討し,目的 2 で明らかにされた絵本の読み聞かせが子どもの語い発達に及ぼす
影響のプロセスの補完を行うことであった。そして以下のような結果と知見が得られた。

1 読み聞かせ場面における月齢ごとの母子の言語行動,情動調整行動の変化
まず読み聞かせ場面における母子の言語行動をみてみると,
「注意喚起」行動においては,
母親の言語的な働きかけの成果が1年ほどずれて子どもに出ており,
「命名」行動において
も,母親の「命名」行動と子どもの「命名」行動との間に少しずれがみられた。これは,
実際に母親の働きかけが子どもに受け取られ自分のものとして表出されるまでに時間がか
かるが,目に見えない間もずっとそのプロセスというものは続いており,子どもが「専有」
しているためのプロセスであると考えられる。
母親の「質問」行動においては,子どもが 2 歳になると,母親は子どもに質問を行い子

141
どもはそれに言語的に応答するといった言語的なやりとりが行われていることが示された。
そして 2 歳後半より自己内対話活動(Vygotsky,2001)が活発に行われ,母親はその子ども
の自己内対話活動を阻害しないように朗読的な読み方になっていることが示唆された。
これらのことから,8 ヵ月より母親は子どもの言語行動の足場作りとなるフォーマット
(石崎,1996)を形成しており,子どももその意図に気付きはじめているがまだそれを表出す
ることはできず,1 歳ごろからその成果が見られはじめ,2 歳ごろから言語的なやりとりと
なり,子どもの自己内対話活動へとつながっていくことが示唆された。
次に情動調整行動をみてみると,子どもの「情動表出」行動が 11 ヵ月のころからみられ,
母親もそれに同じく 11 ヵ月で言語的にも非言語的にも応答していることから,11 ヵ月時に
おいて,母子は情動的なやりとりが行われていることが示唆された。
母親の情動表出行動は月齢を通して多くみられ,読み聞かせ場面での母親は常に情動表
出を行いながら読み聞かせをしていることが示唆された。それに対し子どもの「情動表出」
は 1 歳中期で一気に下がっていることが示された。これは,この後の 1 歳後期でまた情動
表出が上がり,さらに「シンボル」も出現することから,この 1 歳中期は子どもの中で今
までの母親からの働きかけ,そして母親とのやりとりで学んだことが一致しはじめる時期
なのではないか。つまり自己内化しそれまでの母子相互行為を内化(Vygotsky,2001)し
ている時期なのではないか。つまり自分の中での思考がはじまり,自己内対話活動がおこ
りはじめているため情動表出が少なくなるのではないかと考えられる。
母親の「身体動作」が 1 歳中期に見られるのに対し,子どもの「身体動作」は 2 歳から
みられ遅れて出現していることが示唆された。このことから,母親の行動をいったん取り
込んで習得し,専有として現れるまでには時間がかかるため,少し遅れて子どもの行動と
して現れることが示唆された。
母親の「シンボル的な働きかけ」が 8 ヵ月でみられ,子どもの「シンボル」活動は 1 歳
後期でみられる。これは,須田(1999)も指摘しているように,母親は子どもが 8 ヵ月のとき
から子どもの表象を操作させるように促す言葉かけやジェスチャーを行うことで子どもは
その言葉の意味と動き,絵本に描かれたものとが一致しはじめ,それが 1 歳後期になると
子どもも母親のシンボル的な働きかけの意味を理解し自らシンボル的な応答をするためで
あると考えられる。
これらのことから,母親は子どもが 8 ヵ月のときから子どもの表象を操作させるように
促す言葉かけやジェスチャーを行う(須田,1999)ことで子どもはその言葉の意味と動き,
絵本に描かれたものとが一致しはじめ,それが 1 歳後期になると子どもも母親のシンボル
的な働きかけの意味を理解し自らシンボル的な応答をすることが示唆された。
そして 1 歳中期より,子どもの中で今までの母親からの働きかけ,そして母親とのやり
とりで学んだことが一致しはじめ自己内対話活動が活発に行われることが示唆された。
そしてこの自己内対話活動(Vygotsky, 2001)をベースとして母親の行動をいったん取り
込んで自分のもととする(Wertsch, 2002)ことで 2 歳においてそれを表出していくというこ

142
とが示唆された。

2 読み聞かせ場面と展開場面の比較
続いて読み聞かせ場面と展開場面において母子の言語行動と情動調整行動が,子どもの
年齢ごとにどのように変化しているのかを記す。
まず,0 歳代の読み聞かせ場面において,母親は子どもが 8 ヵ月のときに「シンボル的な
働きかけ」行動が多くみられ,それに対し子どもは,11 カ月時から「情動表出」がみられ
たことから母子で情動的なやりとりが行われていることが示唆された。
展開場面においては,母親の「情動表出」は多く見られ,子どもが 11 カ月のときに母親
の「質問」行動が出現している。母親は子どもが応えられないことを分かっていながらも
質問をするというのは,まず一つは子どもへの語りかけ活動としての質問行動であること,
そして子どもの語い獲得を促す足場作りであると考えられる。それに対し子どもは,
「情動
表出」「身体動作」が 11 カ月よりみられており,展開場面においても読み聞かせ場面同様,

母子で情動的なやりとりが行われているが,読み聞かせ場面よりもより活発なやりとりで
あることが示唆された。
1 歳代の読み聞かせ場面では,母親の「命名」行動が多く見られ,それに対し子どもは,
「情動表出」が少なくなる,「シンボル」的な行動が多くみられたことから,母親は子ども
に絵本の中に出て来るものの名前を命名することで子どもに絵とものとの一致を促し,子
どもの語い獲得の足場作りをしていると考えられる。それに対し子どもは,情動表出が少
なくなる。これは子どもは母親の命名行動の意図を理解し,自分の中で自己内対話を行っ
ているため情動表出が減少しているのではないか。また母親の意図を理解し表出したいが,
まだ言葉を上手く話すことができないため,シンボル的な行動で応答しているのではない
かと考えられる。
展開場面において,母親は「命名」
,「シンボル的な働きかけ」が多く見られ,子どもは,
「文字に注目」,
「自己内対話活動」,
「シンボル」行動が多く見られ,
「情動表出」が少なく
なるということが示され,読み聞かせ場面同様に自己内対話活動が活発に行われており,
子どもは文字にも注目し始めているということが示唆された。
2 歳以降の読み聞かせ場面においては,母親は「質問」行動が多く見られ,子どもは「言
語的応答」,
「自己内対話活動」,
「身体動作」が多く見られ,母子間で言語的なやりとりが
中心となっていることが示唆された。
展開場面においては母親の「身体動作」
,子どもの「言語的応答」と「身体動作」が多く
見られ,情動調整的なやりとりと言語的なやりとり双方が行われていることが示唆された。
また年齢と場面を超えて,母親は常に情動的に働きかけを行っていることが示された。
以上のことをまとめると,まず 0 歳代の読み聞かせ場面において,母子で情動的なや
りとりが行われており,展開場面においても読み聞かせ場面同様に,母子で情動的なやり
とりが行われているが,読み聞かせ場面よりもより活発なやりとりが行われており,0 歳代

143
は母子間の情動発達の土台作りを行っていると考えられる。
1 歳代の読み聞かせ場面において,母親は子どもの語い獲得の足場作りを行っており,子
どもは母親の働きかけの意図を理解し,自分の中で自己内対話を行っていると考えられる。
展開場面も読み聞かせ場面同様に,子どもは自己内対話活動を活発に行っており,さらに
子どもは文字にも注目し始めていることが示唆された。
2 歳以降の読み聞かせ場面においては,母子間で言語的なやりとりが中心となっており,
展開場面においては,情動調整的なやりとりと言語的なやりとり双方が行われていること
が示唆された。これは,0 歳代での母子の情動的な土台作りを基盤とし,1 歳代でそれを自
分の中に内化し自己内対話活動が行われることで,2 歳代になって子どもの語い発達を促し,
言語的なやりとりが行われるようになったのではないか。そしてこれは,Vygotsky (2001)
の精神間機能が精神内機能へ移行し,さらに深められ今度は社会的対話として現れている
ことであると考えられる。
これらのことから,絵本の読み聞かせによる母子相互行為は,0 歳代で情動的な対人関係
を作り,これを基盤として 1 歳代において自己内対話活動を活発化させることで,2 歳以降
に子どもの語い発達を促し言語的なやりとりが中心となることが示唆され,横断データと
同様な結果が得られたと考えられる。よって「母子相互的な絵本の読み聞かせによって,
子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子どもの自己内対話活動が起こることで子ども
の表出言語がうながされる」というプロセスが,縦断データによっても示されたのではな
いだろうか。

144
第9章 本研究の結論と意義

第1節 本研究の結論
本研究では,0 歳から 6 歳を通して子どもと母親と子どもの双方の発話と行動に焦点を当
て,さらに絵本の読み聞かせ場面による母子相互行為の成果をみるために展開場面を設け
た。そして絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子ども語い発達へと影響を及ぼすその
過程には,子どもの社会情動的発達と子どもの自己内対話活動が関連しているのではない
「絵本の読み聞かせによる母子相互行為が 3 項関
かという以下のようなプロセスを考えた。
係を作り,子どもの社会情動を発達させ対人関係を成立させ,自己内対話活動が促される
ことで子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセスである。
そしてこのプロセスを検討するため,研究 1 においてまず絵本の読み聞かせ場面とその
後の展開場面における母子相互行為を検討し,研究 2 において絵本の読み聞かせ場面とそ
の後の展開場面を通して,母子の相互行為が子どもの社会情動的発達を介した語い発達へ
と関連していくプロセスを検討した。そして研究 3 の縦断データの分析により研究 1 と 2
の横断データより得られたプロセスの補完を行った。
これら研究 1,2,3 の結果を総合し以下のような結論が得られた。
第 1 段階の読み聞かせ場面では,情動を伴った身体動作的な母子相互行為によって母親
が足場作りをする(Bruner, 1988)ことで 3 項関係の土台が作られ,それを子どもは自分のも
のとして取り込んで専有 (Wertsch, 2002)する。その専有したものをさらに子どもは発展さ
せ展開場面において表出していることが示唆された。
そしてこの第 1 段階をベースに,第 2 段階の読み聞かせ場面においてさらに情動的な母
子相互行為が深められ,子どもの自己内対話活動(Vygotsky, 2001)が促進され,展開場面
において子どもの表出言語へとつながっていることが示唆された。
以上のことから,第 1 段階の土台づくりをへて,第 2 段階で子どもの発達へと実を結び,
子どもは読み聞かせ場面で得たものを展開場面において表出させることが示唆され(Figure
9-1),「母子相互行為における絵本の読み聞かせにより,子どもの社会情動的コミュニケー
ションが成立し,社会情動的発達により対人関係が成立する。そのことによって子どもの
自己内対話活動が起こり,子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセスは,
「絵
本の読み聞かせによる母子相互行為により,子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子
どもの自己内対話活動が起こることで子どもの表出言語が促進される」(Figure 9-2)という
形で支持されたと考えられた。

145
第1段階(0,1歳) 第2段階(2歳以降)
土台作りの段階 実を結ぶ段階

読 読
み み 情動的な母子相互行為が
聞 聞
情動的な母子相互行為に か さらに深められ、

せ よって土台が作られる せ 子どもの自己内対話活動が
場 場 促進される
面 面

展 読み聞かせ場面での 展 今までの母子相互行為を
開 母子相互行為を子どもは 開 基盤とし表出言語として
場 自分の中に取り込み、 場
実を結ぶ
面 面
展開場面において表出する

Figure 9-1 読み聞かせ場面と展開場面における母子相互行為の発達的変化

Figure 9-2 読み聞かせによる母子相互行為が語い発達に関連するプロセスモデル

146
第2節 本研究の意義
以上本稿の結論について,これまでの諸研究との関係を位置づけることにより,本研究
のもつ意義について述べる。
これまでの,絵本の読み聞かせと子どもの言語発達に関する心理学研究の多くは,養育
者の発話にのみ焦点があてられており,母親の発話や行動が子どもの発話や行動にどのよ
うに影響し,子どもの語い発達へと関連しているのかというプロセスは捉えていなかった
といえるだろう。
本研究においては,子どもの発話や行動に影響をあたえている母親の発話や行動のみな
らず,子どもの行動や発話も明確にしていることから,絵本の読み聞かせを母子相互行為
として捉えられたのではないかと考えられる。
また,読み聞かせが子どもの語い発達に影響を与えることは Ninio&Bruner(1978)の研究
などから明らかにされているが,語い発達のどの側面に影響を与えているということは明
らかにされていない。大村ら(1989)は,子どもの語い発達の領域を「理解言語」
「表出言語」
「概念」の 3 つに分類しており,語い発達の中にも様々な側面があり,絵本の読み聞かせ
による母子相互行為が子どもの「理解言語」「表出言語」「概念」のどの側面に影響を与え
ているのかを検討する必要があり,本研究においては,絵本の読み聞かせによる母子相互
行為が最終的に子どもの表出言語に影響を与えているという結果を得ることができ,語い
発達をより詳細な側面で捉えられたのではないかと考えられる。
次に,子どもの対象年齢も 0 歳から 4 歳まで通してみたものは殆どなく,また 5 歳以上
を対象にした研究も少ない。本研究においては,幼児後期の子どもの語い発達の特殊性(秋
田・無藤,1996)をみるため,5 歳以上の子どもの発話や行動にも焦点をあて,0 歳~6 歳
まで年齢の幅を広げ,さらに年齢を通して検討することができ,子どもの発達的変化を捉
えることができたと考えられる。
また,元来の絵本の読み聞かせ研究は,黒川(2009)のもの以外では殆どが読み聞かせ場面
のみ分析の対象となっていた。しかし読み聞かせが子どもの行動の変化に与える影響をみ
るためには,絵本の読み聞かせ場面だけでなく,その後の展開場面も視野にいれなければ,
子どもの行動の変化をみることはできないのではないか。絵本の読み聞かせ場面の中だけ
では,母親や子どもが絵本から得たものが表出されにくい側面がある。その絵本の読み聞
かせによって得られたものは,その後の展開場面において応用され,発揮されると考えら
れるため,本研究においては,絵本の読み聞かせ場面とその後の展開場面とを設け,それ
らの場面での母子相互行為がどのように変化していくのかを検討し,絵本の読み聞かせに
よって得られたものをその後の展開場面を通してみることができ,読み聞かせの成果とい
うものを得られたと考えられる。
さらに, Ninio(1983)や石崎(1996)の研究から,絵本の読み聞かせ場面において母親はコ
ミュニケーションを通じて子どもの語い発達を促すフォーマットを作ると主張しているが,

147
母親のフォーマットが,直接子どもの語い発達に影響しているとは考えにくい。母親のフ
ォーマットが子どもの語い発達に影響するまでには,まず子どもにその母親の示すフォー
マットが受け取られなければならない。母親がフォーマットを作りそれを子どもと共有す
るためには,母子での共有を成立させるものが必要であると考えられる。その共有を成立
させるものが,子どもの社会情動的発達による対人関係の成立であり,そのことによって
母子でフォーマットを共有できると考えられる。そしてさらに子どもの語い発達に影響す
るためには,子ども側がフォーマットを共有して受け取り自分の中でそれを自分のものと
して獲得しなければならない。そのために,子どもの内面で行われる自己内対話活動
(Vygotsky, 2001)も必須のものとなってくると考えられる。これらをまとめてみると,まず
絵本の読み聞かせによる母子相互行為を基盤とした子どもの社会情動的発達によって対人
関係が成立することがあげられる。そしてこの母親との対人関係を内面化することで
(Vygotsky, 2001),子どもは他者の言葉を自分の言葉として使用し始め,子どもの自己内対
話活動(Vygotsky, 2001)が起こると考えられる。
そこで本研究では,絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの語い発達に及ぼす
影響過程を,「母子相互行為における絵本の読み聞かせにより,子どもの社会情動的コミュ
ニケーションが成立し,社会情動的発達により対人関係が成立する。そのことによって子
どもの自己内対話活動が起こり,子どもの語い発達へとつながっていく」というプロセス
のもと,子どもの年齢を 0 歳から 6 歳までを通して,読み聞かせ場面とその後の展開場面
との関連において実証的にとらえようとしてきた。そして,第 1 段階(0,1 歳)の母子の
情動的な土台づくりをへて,第 2 段階(2,3,4,5,6 歳)で子どもの発達へと実を結び,
子どもは読み聞かせ場面で得たものを展開場面において表出させることが示唆された。子
どもの年齢段階別に読み聞かせ場面と展開場面においてみられる特徴は以下の通りであっ
た。
第 1 段階の読み聞かせ場面では,情動を伴った身体動作的な母子相互行為によって母親
が足場作りをする(Bruner, 1988)ことで 3 項関係の土台が作られ,それを子どもは自分のも
のとして取り込んで専有 (Wertsch, 2002)する。その専有したものをさらに子どもは発展さ
せ展開場面において表出していることが示唆された。
そしてこの社会情動的な対話活動が盛んに行われる第 1 段階をベースに,第 2 段階の読
み聞かせ場面においてさらに情動的な母子相互行為が深められ,子どもの個人内活動とし
ての自己内対話活動が促進され,展開場面において子どもの表出言語へとつながっている
ことが示唆された。
以上のような特徴がみられたことから,絵本の読み聞かせによる母子相互行為は,母子
の社会情動的なやりとりが基盤となって,子どもの自己内対話活動を導き,子どもの語い
発達が促されることが示唆され,「絵本の読み聞かせによる母子相互行為により,子どもの
社会情動的な対人関係が成立し,子どもの自己内対話活動が起こることで子どもの表出言
語が促進される」という形でプロセスは示されたと考えられ,絵本の読み聞かせによる母

148
子相互行為が子どもの語い発達へ与える影響のプロセスをより深く捉える分析結果を得る
ことができたと考える。
そしてこれらの示唆によって,絵本の読み聞かせを実際に家庭などで行うさいには,ま
ず始めは,対話的に感情豊かに絵本を読んであげることを提案したい。それによって母子
の間で社会情動的なコミュニケーションがとれ対人関係が成立すると考えられるためであ
る。そして,この対人関係の成立の後,子どもは自分の頭の中で想定した母親像と対話を
し考えながら,母親の絵本の読み聞かせを聞いている自己内対話を行っている状態となる。
そのため,子どもの様子を見ながら,子どもが求めるときには情動的で対話的に絵本を読
んだり,子どもが自己内対話活動をしているときは,それを阻害しないように,あまり対
話的ではない読み方をしたりと,子どもの状態をよくみて読み方を変えていくことを提案
したい。
次に,読み聞かせをするさいに,ただ絵本の読み聞かせしてお終いではなく,その後絵
本を題材としたやりとりを行う展開活動も行うことを提案したい。具体的には,絵本の内
容を一緒に振りかえったり,子どもにどこが面白かったのか聞いてお話をしてもらったり,
絵本の内容を絵に描いてみたり,などである。絵本の読み聞かせ場面で得たものを子ども
が表出しやすいこの展開活動によって,より母子の社会情動的なやりとりが深められ,子
どもの認知発達を促す土台となると考えられるからである。
最後に,幼稚園や保育園のプログラムの中で,絵本の読み聞かせはサブ的な役割である
ことが多いと思われるが,それをメインプログラムにもっていき,絵本の読み聞かせのあ
とに,その絵本を題材として皆で絵本を共有しながら,先生が園児にどこが面白かったの
か聞いてみたり,描画活動をしたりという展開活動も込みにしたプログラムを行うことを
提案したい。

149
第 10 章 本研究における今後の課題
本研究において残された検討課題を,以下に述べる。
今回材料として子どもの慣れ親しんだ好きな絵本に絞って検討したが,子どもに読み聞
かせを行う絵本というのは何回も慣れ親しんだものばかりではなく,新たに出会う絵本も
ある。初めて出会った絵本と何回も慣れ親しんだ絵本とでは,母親の読み方や子どもの反
応やにも違いがあると考えられる。今後は子どもの好きな絵本に加えて新規絵本について
も検討していく必要があろう。
また本研究において,第 1 段階の情動的な相互行為の土台づくりを経て,子どもの自己
内対話活動が促進され,第 2 段階で子どもの語い発達である表出言語へと実を結び,子ど
もは読み聞かせ場面で得たものを展開場面において表出させることが示唆されたが,これ
らの読み聞かせ活動をベースとして,さらに今後子どもの自分への読み聞かせ活動である
読書へとつながっていくと考えられる。森・谷出・乙部・竹内・高谷・中井(2011)の研
究においても乳児期のブックスタート経験が小学 1 年生時点での読書活動を増加させてい
ることが述べられている。本研究では対象者を未就学児の 6 歳までとしたが,読み聞かせ
が読書へとつながっていく過程を検討するために,今後は就学以降の子どもも対象とし年
齢の幅を広げ,読み聞かせが子どもの一人読みである読書へとつながっていく過程を検討
していきたいと考えている。
さらに本研究では,家庭における母親の絵本の読み聞かせを検討してきたが,保育園や
幼稚園における外での絵本体験も同時に関連付けて捉える必要があると考えられる。なぜ
ならば,子どもの生活の場は家庭だけではなく保育園や幼稚園などの外の場も行き来して
おり,それらの経験をもとに発達していくものだからである。幼稚園とでの絵本の関わり
と家庭での絵本体験との関連を報告している研究はいくつかあるが(横山, 2006),検討は
いまだ不十分であり,こうした家庭と保育の相互の関連性についてより詳細に検討してい
くことは必須であると考えられる。また絵本の読み聞かせを家庭で行うのは母親ばかりで
はない。近年では父親も子育てに意欲的に参加する傾向にあり,父親による絵本の読み聞
かせ活動もそれに伴い増加していると考えられる。そして父親と母親では読み聞かせの効
果に違いがあると考えられるため,父親による絵本の読み聞かせ活動においても検討して
いきたい。
最後に,近年電子書籍などの開発が進み,子どもに与えるおもちゃの一つとしてスマー
トフォンやタブレット型の電子機器が用いられるケースが多くなってきている。そして電
子絵本を使用した読み聞かせも家庭において日常的に行われているという現状がある。電
子絵本と紙媒体の絵本とではその効用に違いがあるのではないだろうか。そのことについ
ても今後検討していきたいと考えている。

150
要 旨

本研究は,絵本の読み聞かせによる母子相互行為が子どもの語い発達に影響するプロセ
スを検討することを総合的な目的とした。具体的には,絵本の読み聞かせを,読み聞かせ
場面と展開場面の 2 つに分け,それらの場面における母子相互行為の発達的変化の検討に
ついて,そして「絵本の読み聞かせ場面と展開場面における母子相互行為が,子どもの社
会情動的発達をを促し対人関係が成立することで子どもの自己内対話活動がおこり,子ど
もの語い発達へ影響を与える」プロセスを明らかにするという,2 つの点について実証的に
検討することを目的とした。
研究Ⅰでは,0 歳から 6 歳までの子どもの年齢を,乳児前期(0 歳)
,乳児後期(1 歳),
幼児前期(2,3 歳),幼児後期(4,5,6 歳)の 4 段階に分け,絵本の読み聞かせ場面と展
開場面において,母子相互行為がどのように発達的に変化しているのかを横断的に検討す
ることを目的とした。その結果,乳児前期においては読み聞かせ場面,展開場面ともに母
子の一体感を楽しむための母子共有場面であり,その楽しさを通した情動的なやりとりを
ベースとし,乳児後期では読み聞かせ場面において母子の相互行為の基盤づくりが行われ
ることが示唆された。そして幼児前期においては,その乳児期の母子相互行為を基盤とし
展開場面においてその乳児期で学んだことを表出しており,さらに幼児後期においては読
み聞かせ場面,展開場面双方において,今までの母子のやりとりから学んだことを自分で
コントロールし,子ども中心のやりとりになっていることが示唆された。
研究Ⅱでは,子どもの年齢段階ごと読み聞かせ場面と展開場面において,
「絵本の読み聞
かせによる母子相互行為が子どもの社会情動的発達を促し,対人関係を成立させ,子ども
の自己内対話活動が活発になることで,語い発達へと関連していく」プロセスを横断的に
検討することを目的とした。
その結果,第 1 段階(0 歳,1 歳)の読み聞かせ場面によって情動を伴った身体動作的な
母子相互行為によって母親が足場作りをする(Bruner, 1988)ことで 3 項関係の土台が作られ,
それを子どもは自分のものとして取り込んで専有 (Wertsch, 2002)する。その専有したもの
をさらに子どもは発展させ展開場面において表出していることが示唆された。
そしてこの第 1 段階をベースに,第 2 段階(2,3,4,5,6 歳)の読み聞かせ場面にお
いてさらに情動的な母子相互行為が深められ,子どもの自己内対話活動が促進され,展開
場面において子どもの表出言語へとつながっていることが示唆され,絵本の読み聞かせが
子どもの語い発達へと影響を及ぼすプロセスは「母子相互的な絵本の読み聞かせによって,
子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子どもの自己内対話活動が起こることで子ども
の表出言語がうながされる」という形で支持されたと考えられる。
研究Ⅲでは,0 歳から 3 歳に焦点をあて,横断データの分析結果である研究Ⅱで得られた
「母子相互的な絵本の読み聞かせによって,子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子

151
どもの自己内対話活動が起こることで子どもの表出言語がうながされる」というプロセス
を 1 事例の縦断データをもとに,絵本の読み聞かせ場面と展開場面においてより詳細に検
討することを目的とした。
その結果,子どもが 0 歳のころより母親は,読み聞かせ場面において,子どもの表象を
操作させるように促す言葉かけやジェスチャーを行う情動調整的な働きかけ(須田,1999)
や,子どもの言語行動の足場作りとなるフォーマットを形成しており(石崎,1996),展開場
面においても母親はコミュニケーションの手段として質問行動をし,また子どもの語い獲
得を促す足場作りも行っていることが示唆された。それに対し子どもは母親の意図に気付
き始めており,展開場面において情動調整行動によって応答していることが示唆された。
そして 1 歳の読み聞かせ場面において自己内対話活動(Vygotsky, 2001)が始まり,展開
場面においてさらに自己内対話活動が活発になっており,そのような母子相互行為をベー
スとし 2 歳の読み聞かせ場面から言語的なやりとりとなり,さらに絵本の内容をより子ど
もに理解させるための母親の質問行動が出現することで,子どもの思考活動である自己内
対話活動も活発におこなわれていることが示唆された。このように読み聞かせ場面で母親
の行動をいったん取り込んで自分のもととし専有する(Wertsch, 2002)ことで,展開場面で
それを言語的に表出させていることが示唆された。
これらのことから,横断データと同様な結果が得られたと考えられ,
「母子相互的な絵本
の読み聞かせによって,子どもの社会情動的な対人関係が成立し,子どもの自己内対話活
動が起こることで子どもの表出言語がうながされる」というプロセスが,縦断データによ
っても示されたのではないだろうか。
今回は絵本の読み聞かせの材料として,子どもがお気に入りの絵本に絞って検討したが,
子どもが出会う絵本というのは何回も慣れ親しんだものばかりではなく,新たに出会う絵
本もある。初めて出会った絵本と何回も慣れ親しんだ絵本とでは,母親の読み方や子ども
の反応やにも違いがあると考えられる。今後は子どもがお気に入りの絵本に加えて新たに
出会う新規絵本についても検討していく必要があろう。

152
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157
謝 辞
今回,博士論文を完成するにあたり,ご指導,ご協力をいただきました沢山の方々へ,

この場をお借りして,感謝の意を表したいと思います。

まず初めに本研究の主査であり,終始親身になり厳しくも温かいご指導してくださり,

数々の貴重な知見をご教授くださった田島信元教授に深く御礼申し上げます。絵本の読み

聞かせの研究をしたいと研究室訪問させて頂いてから 6 年間,研究のいろはをご指導いた

だきました。途中で心折れそうなときも温かい声援を送って下さったことは,決して忘れ

ません。田島教授には研究の方法だけでなく,研究者としての心得もご教授頂きました。

また,副査をしていただき,指導委員会では貴重なご意見をいただきました,宮下孝広

教授,鈴木忠教授に心より感謝申し上げます。宮下教授と鈴木教授より承った多様な観点

により,論文が明晰な流れになりました。

また,本研究のデータとりに,快くご協力頂いたお母様,お子様方,そして協力者への

依頼の際お世話になりました方々に,心より御礼申し上げます。

本論文は,日本公文教育研究会との共同研究のデータを使用させて頂いております。ご

協力してくださった,橋口健氏,佐々木丈夫氏に心より感謝しております。

また,本研究の分析にご協力頂いた,渡部朗代さん,弓気田美香さん,島村正和さん,

そして多大なる貢献をして下さり,ずっと温かく見守り私の心のオアシスであった板橋利

枝さんに深く御礼申し上げます。

最後まで応援してくれ,共に学んだ同期の高橋彩さん,齋藤香恵子さん,浅沼由美子さ

ん,小玉陽士さん,そしてデータ取りや分析など様々なことを共にし乗り越えてきた戦友

のような存在の中島文さん,論文執筆にあたり様々にご配慮いただきました先輩・後輩の

皆様,本論文執筆にあたりご協力いただきました全ての方々に万謝申し上げます。誠にあ

りがとうございました。

そして最後に,家族に感謝します。祖母,父,母は,ずっと見守り応援し続けてくれ,

様々な面でサポートして下さいました。妹と弟は書き上げたときはまるで自分のことのよ

うに喜んでくれました。そして夫には一番迷惑をかけたと思います。沢山我慢させてしま

いましたが,いつも傍でサポートしてくれてありがとう。

早春 平成 25 年 3 月 28 日

158
付録

KINDER INFANT DEVELOPMENT SCALE


<1ヶ月~11ヶ月児用> (A)

*これはあなたのお子さんの日常のご様子を調べるものです。
記入欄は3ページあります。
よく読んで○印か×印のどちらかをマルで囲んで下さい。

【○印】
1) 明らかにできるもの。
2) 過去においてできたもの。
3) やったことはないがやらせればできるもの。

【×印】
1) 明らかにできないもの
2) できたりできなかったりするもの。
3) やったことがないのでわからないもの。

*この項目の中にはすでにできる項目も含まれていますし、また明らかにでき
ない項目も含まれています。ですから、これだけできなければならないとい
う基準は全くありません。いつもお子さんと接していることを思い出してあ
りのままに記入して下さい。
制限時間はありませんが、だいたい10分くらいでできると思います。

氏名 ( )
性別 ( )
生年月日( 年 月 日)
記入日 ( 年 月 日)
生活年齢( 歳 ヶ月)
所属 ( )

159
付録

①操作

1 ○ × 音がすると動きが止まる。
2 ○ × いろいろな表情をする。
3 ○ × 音のする方に顔を向ける。
4 ○ × 手を開いたり閉じたりする。
5 ○ × 抱っこされて歩くと、周りをきょろきょろ見回す。
6 ○ × 手に触れたものを握っている。
7 ○ × 手に握らせたものを持ち上げようとするとしっかり握って離さない。
8 ○ × 授乳時に母親の服などをひっぱる。
9 ○ × 両手を触れ合わせたり、からめたりする。
10 ○ × ガラガラなどを握らせると振り回す。
11 ○ × 顔の上にかかった布などを手でどかす。
12 ○ × ガラガラなどをさしだすと手を出してつかむ。
13 ○ × 紙を引っ張ってやぶる。(読んでいる新聞など)
14 ○ × ボタンなど小さな物に注意を向ける。
15 ○ × 両手に持った物を打ち合わせる。
16 ○ × 物を何度も落として喜ぶ。
17 ○ × 小さなものをつまみあげる。
18 ○ × 落ちている小さな物をひろう。
19 ○ × 棒やおもちゃのハンマーなどで何かをたたく。
20 ○ × 引き出しの中に興味を持つ。
21 ○ × 箱のふたなどを開けようとする。
22 ○ × テレビのスイッチなどを入れたり切ったりする。
23 ○ × ボールを与えると、投げ返す。
24 ○ × 自動車などを手で走らせて遊ぶ。
25 ○ × 鉛筆でめちゃくちゃ書きをする。
26 ○ × 積み木を2つ積み重ねる。

160
付録

②理解言語

1 ○ × 大きな音に反応する。
2 ○ × 人の声に注意する。
(動きが一時止まる)
3 ○ × 人の声のする方に首を回す。
(目が動く)
4 ○ × 母親の声を聞き分ける。(泣き声が静まるなど)
5 ○ × 歌うとじっと聞き入り、母親の目や口を見つめる。
6 ○ × 子どもの出した声を親が真似ると喜ぶ。
7 ○ × ○○ちゃんと名前を呼ぶと、こちらを見る。
8 ○ × お気に入りの音楽がかかると泣き止んだり体を動かしたりする。
9 ○ × 親の話し方で、感情を聞き分ける。
(禁止など)
10 ○ × 聞きなれない音や声を怖がる。
11 ○ × 「ちょうだい」と言うと手に持っている物をくれる。
12 ○ × 「ブーブーはどこ?」とたずねると、そちらを見る。
13 ○ × そこに無いも物の名前を言われるとキョロキョロと見回す。

③表出言語

1 ○ × 元気な声で泣く。
2 ○ × いろいろな泣き声をだす。
3 ○ × ア、エ、オ、ウのような発声をする。
4 ○ × 声をだして笑う。
5 ○ × 不快な感情を声であらわす。
(鼻をならすなど)
6 ○ × 親の声が聞こえるとそれにつられて声を出す。
7 ○ × 要求がある時、声を出して親の注意を引く。
8 ○ × おもちゃを手にして「オーオー」などと声を出しながら遊ぶ。
9 ○ × ママ・ママ、タタ・タタなどをくりかえす。
10 ○ × 何かをしながら一人でムニャムニャおしゃべりする。
11 ○ × マンマなどと言って食べ物のさいそくをする。
12 ○ × 音をまねてそのまま言う。(バーバー、バイバイなど)
13 ○ × 2 語以上のことばを使い分ける。

161
付録

④対成人社会性

1 ○ × 泣いてる時、抱き上げると泣きやむ。
2 ○ × 気持ちの良い時はスヤスヤ眠る。
3 ○ × 人の顔をじっと見つめる。
4 ○ × 気分の良い時はニコニコしている。
5 ○ × 人の声がする方向へ向く。
6 ○ × あやされても気に入らないとぐずる。
7 ○ × 母親の顔を見ると安心する。
8 ○ × あやされると声を出して笑う。
9 ○ × 周りに人がいないとぐずる。
10 ○ × 人を見ると笑いかける。
11 ○ × イナイイナイバーをすると喜ぶ。
12 ○ × 眠たくないのに寝かしつけられるとぐずる。
13 ○ × 何かを与えようとすると喜びを表わす。
14 ○ × 親しみの顔と、怒りの顔がわかる。
15 ○ × おもちゃをとりあげられると不快を表わす。
16 ○ × 人見知りをする。
17 ○ × 好きな人に積極的に抱っこされようとする。
18 ○ × 人の顔を見て笑いかけたり、話しかけたりする。
19 ○ × 親がいなくなろうとすると親の後追いをする。
20 ○ × 母親にまとわりつく。
21 ○ × 「ダメっ」と言うとビクッとして親の顔を見る。
22 ○ × 拍手などの身振りを真似ようとする。
23 ○ × 親の話しかけに答えようとする。
24 ○ × ほめられると同じことをくり返す。
25 ○ × 「いい子、いい子」とまねる。
26 ○ × 鏡に映った親の顔を見てパパ・ママとおしえる。

162
付録

KINDER INFANT DEVELOPMENT SCALE


<1 歳 0 ヶ月~2 歳 11 ヶ月> (B)

*これはあなたのお子さんの日常のご様子を調べるものです。
記入欄は3ページあります。
よく読んで○印か×印のどちらかをマルで囲んで下さい。

【○印】
4) 明らかにできるもの。
5) 過去においてできたもの。
6) やったことはないがやらせればできるもの。

【×印】
4) 明らかにできないもの
5) できたりできなかったりするもの。
6) やったことがないのでわからないもの。

*この項目の中にはすでにできる項目も含まれていますし、また明らかにでき
ない項目も含まれています。ですから、これだけできなければならないとい
う基準は全くありません。いつもお子さんと接していることを思い出してあ
りのままに記入して下さい。
制限時間はありませんが、だいたい15分くらいでできると思います。

氏名 ( )
性別 ( )
生年月日( 年 月 日)
記入日 ( 年 月 日)
生活年齢( 歳 ヶ月)
所属 ( )

163
付録

①操作
1 ○× 箱の蓋を開けて中のものを取り出す
2 ○× おもちゃの電話で遊ぶ
3 ○× 高いところから物を落とす
4 ○× 鉛筆でめちゃくちゃ書きをする
5 ○× 積み木を 2 つ積み重ねる
6 ○× おもちゃの自動車を引っ張って歩く
7 ○× 幼児用の自動車にまたがって運転ごっこをする
8 ○× ドアを一人で開閉する
9 ○× 自動販売機のボタンなどを押したがる
10 ○× ぐるぐる書きができる
11 ○× 人形を使って遊ぶ
12 ○× 積み木を 3 つ積み重ねる
13 ○× 砂場でスコップを使って穴を掘る
14 ○× 物をハンカチや新聞紙に包んで遊ぶ
15 ○× ままごと遊びでいろいろなもの作るまねをする
16 ○× 砂場で山を作る
17 ○× 鉛筆で短いながらも直線を引く
18 ○× 水鉄砲で遊ぶ
19 ○× むすんでひらいてを歌いながらできる
20 ○× まねて円が描ける
21 ○× ハサミを使って紙を切る
22 ○× 2 ピースのはめ絵のジグソーパズルができる
23 ○× 折り紙を半分に折ることができる
24 ○× 自分でのりをつけて、紙をはる
25 ○× 砂場で水を使って池を作る

②理解言語
1 ○× 「ちょうだい」と言うと手に持っているものをくれる
2 ○× 絵本をみて「ワンワン(いぬ)はどこ?」とたずねると指をさす
3 ○× 「新聞を持ってきて」など簡単な指示に従う
4 ○× 本を読んでもらいたがる
5 ○× 目、耳、口など身体部分の名称が 2 つ以上わかる
6 ○× 物の名前を聞いて、その絵を指摘する
7 ○× 次の品物の用途が 3 つ以上わかる。
(くつ・帽子・鏡・カップ・鉛筆)
8 ○× 「机の上に置いてある新聞を持ってきて」などという指示に従う

164
付録

9 ○× 指定した本を 1 冊持っている
10 ○× 「たべもの」の名前が 9 つ以上正しくわかる
11 ○× テレビの主人公の名前がわかる
12 ○× 何度も聞いた昔話などの一文を覚えている
13 ○× 赤、青、黄、緑の全てが正しくわかる

③表出言語
1 ○× 名前を呼ばれると「ハイ」と返事をする
2 ○× 動物を見て「ワンワン」「ニャーニャー」と言う
3 ○× 2 語以上のことばを使い分ける
4 ○× 3 語以上のことばを使い分ける
5 ○× 代名詞を使う
6 ○× 2 語文を言う
7 ○× 5 語以上のことばを使い分ける
8 ○× 3 語文を言う
9 ○× 同年齢の子どもとふたりで会話できる
10 ○×「あの子なにしてるのかな?」とたずねると、正しい答える
11 ○× 次のことばをすべて正しく発音する(椅子・自動車・箱・スプーン)
12 ○× 次のことばをすべて正しく発音する(傘・メガネ・はさみ・イス・机・時計)
13 ○× 自分のことを自分の名前でなくボク、ワタシとはっきり言える

④概念
1 ○× 「熱い」がわかる
2 ○× 「冷たい」がわかる
3 ○× 「怖い」がわかる
4 ○× 「暗い・明るい」がわかる
5 ○× 「大きい・小さい」がわかる
6 ○× 「多い・少ない」がわかる
7 ○× 「昼と夜」がわかる
8 ○× 「良い・悪い」がわかる
9 ○× 「高い・低い」がわかる
10 ○× 「長い・短い」がわかる
11 ○× 「遠い・近い」がわかる
12 ○× 「広い・狭い」がわかる
13 ○× 「浅い・深い」がわかる

165
付録

⑤対子ども社会性
1 ○× 鏡に映った自分に興味を持つ
2 ○× 同じ年の子どもとおもちゃの取り合いをする
3 ○× 子ども達のなかにいると一人で遊んでいられる
4 ○× 自分より小さい子どもを見ると近づいていく
5 ○× 親から少し離れて遊ぶ
6 ○× 友達におもちゃを貸してあげる
7 ○× 友達と手をつなげる
8 ○× 自分より年下の子どもにちょっかいを出す
9 ○× 子ども同士で追いかけっこをする
10 ○× 友達の名前が言える
11 ○× 電話ごっこができる
12 ○× 友達とケンカをすると親に言いつけにくる
13 ○× ままごと遊びで何かの役を演じる

⑥対成人社会性
1 ○× 母親の膝に他の子どもがのると怒る
2 ○× ほめられると同じことを繰り返し
3 ○× 親の反応をうかがいながら、いたずらをする
4 ○× 難しいことに出会うと助けを求める
5 ○× 簡単な手伝いをしようとする
6 ○× 親に「ワンワン」などを描けとせがむ
7 ○× 自分にでいない工作など、親に作れとせがむ
8 ○× 買ってほしいものがあっても、言い聞かせれば我慢できる
9 ○× 親に馬になれとせがむ
10 ○×「やってはいけない」と言うとやらない
11 ○× 電話が鳴ると、親の許可があれば、
「もしもし」と電話にでる
12 ○×「アメは明日食べなさい」と言うと翌日食べる
13 ○× 親と外へ遊びに行くと約束して実行しないとしつこく言う

166
付録

KINDER INFANT DEVELOPMENT SCALE


<3歳0ヶ月~6歳11ヶ月児用> (C)

*これはあなたのお子さんの日常のご様子を調べるものです。
記入欄は3ページあります。
よく読んで○印か×印のどちらかをマルで囲んで下さい。

【○印】
7) 明らかにできるもの。
8) 過去においてできたもの。
9) やったことはないがやらせればできるもの。

【×印】
7) 明らかにできないもの
8) できたりできなかったりするもの。
9) やったことがないのでわからないもの。

*この項目の中にはすでにできる項目も含まれていますし、また明らかにでき
ない項目も含まれています。ですから、これだけできなければならないとい
う基準は全くありません。いつもお子さんと接していることを思い出してあ
りのままに記入して下さい。
制限時間はありませんが、だいたい15分くらいでできると思います。

氏名 ( )
性別 ( )
生年月日( 年 月 日)
記入日 ( 年 月 日)
生活年齢( 歳 ヶ月)
所属 ( )

167
付録

①操作
1 ○ × 自分でのりをつけて、紙をはる。
2 ○ × ハサミで紙を直線に切る。
3 ○ × まねて十字が書ける。
4 ○ × ハサミで簡単な形を切る。
5 ○ × 人などを描く。
6 ○ × クレヨンで色を使い分けて絵を描く。
7 ○ × 砂場で砂山にトンネルを通す。
8 ○ × 自動車、花など思ったものを絵にする。(それらしく見えればよい)
9 ○ × 20ピースのジグソーパズルができる。
10 ○ × クレヨンと絵の具を使い分ける。
11 ○ × 経験したことを絵にする。(それらしく見えればよい)
12 ○ × カセットテープデッキを操作できる。
13 ○ × ひし形(◇)が書ける。
14 ○ × 聞いたことを絵にする。(それらしく見えればよい)
15 ○ × 地図や地球儀に興味を持つ。
16 ○ × 折り紙で鶴が折れる。

②理解言語
1 ○ × 友達の名前がわかる。
2 ○ × 次の品物の用途がすべてわかる。(くし・帽子・鏡・カップ・鉛筆)
3 ○ × 何度もきいた童話などの一文を覚えている。
4 ○ × 「おなかがすいたらどうする?」という質問に正しく答える。
5 ○ × 10 まで数えられる。
6 ○ × 目と耳は両方ともどんな働きをするか知っている。
7 ○ × 歌が10曲以上歌える。
8 ○ × 指の数がいくつあるかを知っている。
9 ○ × ひらがなで書かれた自分の名前が読める。
10 ○ × わからない字があるとたずねる。
11 ○ × なぞなぞ遊びができる。
12 ○ × 5 以下の足し算ができる。(1+1、1+2など)
13 ○ × 自分の誕生日(生年月日)がわかる。
14 ○ × ひらがな 46 文字がすべて読める。
15 ○ × 何月何日かがわかる。
16 ○ × 時計の時刻がわかる。(デジタル表示を除く)

168
付録

③表出言語
1 ○ × 同年齢の子どもとふたりで会話ができる。
2 ○ × 見聞きしたことを親に話す。
3 ○ × 遊びながらよくしゃべる。
4 ○ × 絵本を見ながら楽しそうに一人でしゃべる。
5 ○ × 同年齢の子ども何人かで会話ができる。
6 ○ × 両親の名前が言える。
7 ○ × きゃ、きゅ、きょなどはっきりと発音できる。
8 ○ × 幼児語を使わない。
9 ○ × 昨日のことの話ができる。
10 ○ × 自分の発音が間違っていた時、修正できる。
11 ○ × しりとり遊びができる。
12 ○ × 曜日をすべて言える。
13 ○ × 3つの数字を逆に言える。(295、816 など)
14 ○ × 絵本の文章をハッキリ声を出して読む。
15 ○ × 公園へ行く道などを正しく説明できる。
16 ○ × 早口ことばが言える。

④概念
1 ○ × 「汚い・きれい」がわかる。
2 ○ × 「良い・悪い」がわかる。
3 ○ × 「硬い・軟らかい」がわかる。
4 ○ × 「約束」がわかる。
5 ○ × 「強い・弱い」がわかる。
6 ○ × 「勝ち・負け」がわかる。
7 ○ × 「太い・細い」がわかる。
8 ○ × 「くやしさ」がわかる。
9 ○ × 「厚い・薄い」がわかる。
10 ○ × 「右・左」がわかる。
11 ○ × 「親切」がわかる。
12 ○ × 「成功」がわかる。
13 ○ × 「無駄」がわかる。
14 ○ × 「勇気」がわかる。
15 ○ × 「冒険」がわかる。
16 ○ × 「生活」がわかる。

169
付録

⑤子どもの社会性
1 ○ × ままごと遊びで何かの役を演じる。
2 ○ × テレビの主人公遊びをする。
3 ○ × ブランコなど自分から順番を待つ。
4 ○ × 砂場で2人以上の子どもでひとつの山を作る。
5 ○ × かくれんぼで、見つからないようにする。
6 ○ × グループがひとつとなって、ごっこ遊びができる。
7 ○ × グループの中で妥協しながら遊ぶ。
8 ○ × 友達を家に誘う。
9 ○ × 小さいこの世話をする。
10 ○ × おにごっこのルールがわかる。
11 ○ × 2~3人でないしょ話をする。
12 ○ × 紅白の競技で勝敗がわかる。
13 ○ × じゃんけんで順番を決める。
14 ○ × 禁止行為をした子どもに注意する。
15 ○ × シール、人形などを友達と交換する。
16 ○ × 野球遊びなど組織だった遊びをする。

⑥対成人社会性
1 ○ × 自分にできない工作など、親に作れとせがむ。
2 ○ × 「やってもいい?」と許可を求める。
3 ○ × 自分が作ったものを見せたがる。
4 ○ × ほめられると、もっとほめられようとする。
5 ○ × 「おもちゃを貸してあげなさい」と言うと指示に従う。
6 ○ × 幼稚園や保育園の先生の指示に従う。
7 ○ × 公園などで知らない人にいたずらを注意されたらすぐにやめる。
8 ○ × 交差点の信号を見て正しく渡る。
9 ○ × 親に行き先を言って遊びに行く。
10 ○ × 「これいくら?」と値段を聞く。
11 ○ × 買い物でおつりをもらうことができる。
12 ○ × イタズラをして叱られると次からやらない。
13 ○ × かわいそうな話を聞くと涙ぐむ。
14 ○ × 初対面の人に自分からあいさつができる。
15 ○ × 道に迷ったとき、人に道をたずねることができる。
16 ○ × 自動販売機で飲み物などを自分で買える。

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