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行動障害指導法特講

素行症の症状と背景要因

人間系障害科学域
佐々木 銀河(SASAKI Ginga)
sgalaxy@human.tsukuba.ac.jp
素行症(CD)とは?
lConduct Disorder(CD)
– 素行障害とも呼ばれる精神疾患
• 昔は「行為障害」
– DSM-5(秩序破壊的・衝動制御・素行症群)での
診断基準
• A:他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規
範または規則を侵害することが反復し持続する行動様
式で、15の基準のうち、どの基準群からでも少なくと
も3つが過去12カ月の間に存在し、基準の少なくとも1
つは過去6カ月の間に存在している
• B:その行動の障害は、臨床的に意味のある社会的、学
業的、または職業的機能の障害を引き起こしている
• C:その人が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ
障害の基準を満たさない
DSM-5におけるCDのA項目基準群
l 人および動物に対する攻撃性
1. しばしば他人をいじめ、脅迫し、または威嚇する
2. しばしば取っ組み合いの喧嘩を始める
3. 他人に重大な身体的危害を与えるような凶器を使用したことがある(例:バット、
煉瓦、割れた瓶、ナイフ、銃)
4. 人に対して身体的に残酷であった
5. 運動に対して身体的に残酷であった
6. 被害者の面前での盗みをしたことがある(例:強盗、ひったくり、強奪)
7. 性行為を強いたことがある
l 所有物の破壊
8. 重大な損害を与えるために故意に放火したことがある
9. 故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で)
l 虚偽性や窃盗
10. 他人の居住、建造物、または車に侵入したことがある
11. 物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(だます)
12. 被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、た
だし破壊や侵入のないもの、文書偽造)
l 重大な規則違反
13. 親の禁止にもかかわらずしばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる
14. 親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくと
も2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった
15. しばしば学校をなまける行為が13歳未満から始まる
反抗挑発症(ODD)とは?
lOppositional Defiant Disorder(ODD)
– 反抗挑戦性障害とも呼ばれる
– DSM-5(秩序破壊的・衝動制御・素行症群)での診断
基準
• A:怒りっぽく/易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、
または執念深さなどの情緒・行動上の様式が少なくとも6ヶ
月間は持続し、以下のカテゴリーのいずれか少なくとも4症
状以上が、同胞以外の少なくとも1人以上の人物とのやりと
りにおいて示される
• B:その行動上の障害は、その人の身近な環境 (例:家族、
同世代集団、仕事仲間)で本人や他者の苦痛と関連している
か、または社会的、学業的、職業的、または他の重要な領域
における機能に否定的な影響を与えている
• C:その行動上の障害は、精神病性障害、物質使用障害、抑
うつ障害、または双極性障害の経過中にのみ起こるものでは
ない。同様に重篤気分調節症の基準は満たさない
DSM-5におけるODDのA項目基準群
l怒りっぽく/易怒的な気分
1. しばしばかんしゃくを起こす
2. しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい
3. しばしば怒り、腹を立てる
l口論好き/挑発的行動
4. しばしば権威ある人物や、または子どもや青年の場合で
は大人と口論する
5. しばしば権威ある人の要求、または規則に従うことに積
極的に反抗または拒否する
6. しばしば故意に人をいらだたせる
7. しばしば自分の失敗、または不作法を他人のせいにする
l執念深さ
8. 過去6ヶ月間に少なくとも2回、意地悪で執念深かった
ことがある
ODDと環境要因の関連
l渕上(2022)
– 全国の少年鑑別所に観護措置で入所した少年
1,643名を調査対象
– 指標:ODDの診断基準8項目、4件法
– 危険な運転の有無
• まったくなかった<数回あった,よくあった
– 家庭内暴力
• まったくなかった<1回だけ<数回<よくあった
– 自殺企図
• まったくなかった<数回あった,よくあった
– いじめ被害体験
• まったくなかった<数回あった,よくあった
注意欠如・多動症と素行症
l注意欠如・多動症(ADHD)の二次障害併存
– 疫学研究
• ADHDの30%〜45%が反抗挑発症(ODD)を
• ADHDの18%〜23%が素行症(CD)を併存

– 反抗挑発症(ODD)
• 個々の診断基準項目が指導上の問題となる
• 10歳以下の児童が主

– 素行症(CD)
• 診断基準は刑法に抵触する、あるいは近い行動
• 18歳以下の児童生徒が主
注意欠如・多動症と素行症
lADHDに起因する行動+不適切な環境要因
– ADHDの行動特徴(不注意、多動性、衝動性)に対
して周囲からの周囲・叱責を受けやすい
– それらの不快な経験が自尊感情や攻撃性にネガ
ティブな影響を与えやすい

– それらが反抗的な態度、すなわち反抗挑発症へと
つながり、素行症のリスクとなりやすい
• DBD(Disruptive Behavior Disorder)マーチ

– 家庭環境(不適切な養育)の影響も受けやすい
DBDマーチの発達経路

中村(2005)より引用
素行症に影響する要因
l渕上(2023)
– 素行症症状数に与える影響について重回帰分析
– 少年鑑別所で看護措置で入所した少年1,339名
– 養育態度
• 「親子不和」「身体的虐待」「放任」などの養育態度
が素行症症状数と正の関連
– いじめ被害体験
• 「いじめ被害体験」と素行症症状数に正の関連
– 多次元共感性
• 他者の視点にたってその他者の気持ちを考える程度で
ある「視点取得」と、他者の苦痛の観察により自己に
生起される不安や恐怖にとらわれてしまう程度である
「個人的苦痛」が素行症症状数と負の関連
素行症と発達障害の合併例調査
l症例報告(横山ら,2009)
– 10年間に東北大学病院小児科等の知的発達支
援外来で、発達障害およびCDと診断され、1年
以上加療した症例13例
– 対照例として、年齢層・性別・CD以外の診断
名が同じでODDがある症例13例を無作為に選択

– 愚犯行為が認められた平均年齢は8.9歳
– 第3者による警察への通報を参考として、CDと
確定診断した平均年齢は12.5歳
素行症と発達障害の合併例調査
l非行内容
素行症と発達障害の合併例調査
l発達障害との合併
– ADHDが12/13例
– うち3例は学習障害(LD)の合併疑い

l措置状況
– 刑務所・少年院への措置が4例
– 児童養護施設や情緒障害児短期治療施設入所が5例
– 入所理由
• 子どもの非行に対して、保護者がしつけと称して身体的虐待
を行うため
• ネグレクトにより子どもの衣食住を保障できないため
• 保護者の精神障害の悪化
– 施設入所後、5例中4例がCDから離脱
• 平均入所期間3.2年
素行症と発達障害の合併例調査
l保護者の状況
– 知的・発達・精神障害のある保護者は9/13例
• 軽度知的障害、ADHD、解離性障害、人格障害、う
つ病など
• 重複あり
– 保護者による何らかの虐待は13例すべてあり
• 身体的虐待5例
• ネグレクト6例
• 心理的虐待7例
• 性的虐待なし
– 保護者の離婚は7/13例
• 保護者の離婚が行動障害の悪化を招いたと思われ
る症例が2例
素行症と発達障害の合併例調査
l関係機関との連携
– 11/13例
– 児童相談所、学校、ボランティア施設、警察、
子育て支援センター、市町村の福祉課、民生
員、各種団体など

– 2例では連携が取れなかった
• 各種機関と相談・ケース会議等を行うと保護者が
連携を妨害する行動をとり、連携を断念せざるを
得なかった
素行症と発達障害の合併例調査
lCD群と対照群(ODD)の比較

「保護者による虐待」
「保護者の離婚」
はCD群の方が有意に多い

「保護者への治療的介入」
はCD群の方が有意に少ない
ASDと素行症
lASDと犯罪
– いくつかの犯罪例においてASDが指摘(宮川,2016)
• 佐世保女子高生殺人事件(2014年7月)
– 高校1年の16歳少女がクラスメイトの少女を殺害
– 犯行の様態が猟奇的であった
– 「遺体をばらばらにしてみたかった」
– 精神鑑定の結果、ASDと素行障害の診断
• 名古屋大学女子学生殺人事件(2014年12月)
– 77歳の女性を部屋に招き入れて殺害
– 「人を殺してみたかった」
– その後、高校時代に同級生にタリウムを飲ませた等の余罪
– 精神鑑定では「他者の気持ちを理解できないとか、特定の物事に
異常に執着するという精神発達上の障害」が認められた
– いずれも特殊事例ではあるが、ASDと犯罪の関係性は
議論となることが多い
• ASDの未診断・未対応とも言えるし、不適切な養育環境の結
果とも言える
素行症への介入
l有効な介入(原田,2011)
– 薬物療法
– ソーシャルスキルトレーニング(SST)
• 感情の表現や、困ったときの助けの求め方、アンガーマネージ
メントなど問題行動を引き起こすような状況で対処するための
スキルを教える
• 子ども本人を対象
– ペアレントトレーニング(PT)
• 行動理論に基づき養育者に子どもへの関わり方を教える
• 親や施設職員等を対象
– 関係機関との連携
l厚生労働省(2018)児童相談所で行うプログラム
– 保護者支援プログラムの充実に関する調査研究 報告書
– https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000520457.pd
f
ソーシャルスキルトレーニング
lセカンドステップ
– 1980年代に米国の「Committee for Children」と
いうNPO法人により開発されたプログラム
• 全米で最も有効なプログラムとして2001年に米国教育
省より最優秀賞を受賞
– 日本ではNPO法人「日本こどものための委員会」
が普及活動を実施
• 300を超える学校や保育園、児童養護施設などで実施
– 感情理解、問題解決、アンガーマネージメントで
主に構成
– Youtubeニュース映像(2008)
• https://youtu.be/7xTQBC565_A
– セカンドステップ紹介映像(2022)
• https://youtu.be/mGcqZmA73C4
ペアレントトレーニング
lコモンセンスペアレンティング(CSP)
– 米国最大の非営利児童自立支援施設「ボーイズタウン」で
開発された行動理論に基づく子育て支援プログラム
• 被虐待児の養育者支援として用いられてきた
– いくつかのプログラムがある
• ボーイズタウン・コモンセンスペアレンティング
– CSP幼児版とCSP学齢期版
• 神戸少年の町版CSP
– 2時間のセッションを6〜7回実施
• 具体的なコミュニケーション
• 良い結果、悪い結果
• 効果的なほめ方
• 予防的教育法
• 問題行動を正す教育法
• 自分をコントロールする教育法
– 受講者の声(2020)
• https://youtu.be/tLipsLAn_Ak
ペアレントトレーニング

野口(2009) 野口(2012) 野口(2015)


むずかしい子を育てる むずかしい子を育てる むずかしい子を育てる
ペアレント・トレーニング コモンセンス・ペアレンティ ペアレント・トレーニング
ング・ワークブック 【思春期編】
https://www.amazon.co.jp/d
p/4750329347 https://www.amazon.co.jp/d https://www.amazon.co.jp/d
p/4750335800 p/4750342009
ペアレントトレーニング
l親子相互交流療法(PCIT)
• Parent-Child Interaction Therapy
– 遊戯療法と行動療法に基づいた親支援の心理療法
• 1970年代に米国のSheira Eybergが開発
– 発達障害のある子どもや虐待を受けた子どもと親の
関係改善が対象
• 子どもの対象は2.5〜7歳が最適
– プログラムは1回60〜90分で計12〜20回
• 前半:子ども指向相互交流(CDI)
– 親が子どものリードにしたがうことで親子関係を促す
– https://youtu.be/X8mP3UjLzsQ
• 後半:親指向相互交流(PDI)
– CDIでのスキルを維持しながら、子どもが親の指示に従えるような
方法を教える
– デモンストレーション動画(2019)
• https://youtu.be/co_QNTs30kY
ペアレントトレーニング

加茂(2020)
1日5分で親子関係が変わる!
育児が楽になる!
PCITから学ぶ子育て

https://www.amazon.co.jp/d
p/4093114250/
引用・参考文献
l 素行障害関連
– 渕上(2022)項目反応理論を用いた反抗挑発症の検討
• https://doi.org/10.20754/jjcp.60.1_31
– 渕上(2023)素行症に影響を与える養育態度といじめ被害体験
• https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcp/61/1/61_610101/_article/-char/ja/
– 原田(2011)反抗挑戦性障害・素行障害診断治療ガイドライン
• https://www.ncchd.go.jp/kokoro/medical/pdf/03_h20-22guide_14.pdf
– 宮川(2016)DSM-5による素行障害と反社会性パーソナリティ障害:自閉症スペクト
ラム障害との併存例の鑑定を巡る
• https://lib.sugiyama-
u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=2018&item_no=1&a
ttribute_id=44&file_no=1
– 中村(2005)行為障害:早期診断と早期介入について
• https://doi.org/10.11251/ojjscn1969.37.157
– 横山ら(2009)発達障害がある児(者)における行為障害の要因
• https://doi.org/10.11251/ojjscn.41.264
– セカンドステップ
• http://cfc-j.org/
– コモンセンスペアレンティング
• https://www.csp-child.info/
– PCIT
• http://pcit-japan.com/

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