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第 3 項 「内的聴感」の育成に向けた提言

「意識的に聴こうとする耳」を育成するための練習課題として、ウィレムスは『音楽的な耳
第 2 巻』の中で「いかにして内的聴感を発達させるか(Comment développer l’audition
intérieure?)」
という節題を設け、その教育方法について具体的に言及している 111。その内容は大きく 8 つに
分類することができる。
①# 指導者が、ある簡単な歌のリズムを手で叩き、学習者に何の歌のリズム
であるかを考えさせる。音をリズムに乗せて考えるようになることで、
内的な耳が育まれる。
②# 指導者が、ある歌の歌詞を、声を出さずに唇で言い、学習者に歌を想像
させる。この時、どんなに小声であっても歌詞を声に出してしまうこと
は音を想像させることを妨げる。
③# 学習者に、ある歌のある一つのフレーズを歌わせ、直後にそのフレーズ
を心の中で唱えさせる。
④# 短い歌を何度か歌い、繰り返す度に、終わりの 1 音節、次に 2 音節…と、
次第に言葉を消しながら歌う。例えば、“Napoléon avait cinq cents soldats,”
という元の歌詞から、まずは “Napoléon avait cinq cents sol-,” のように
“dats” の部分のみを内的に補完する。2 回目は “Napoléon avait cinq
cents--” 続けて “Napoléon avait cinq---” というように、内的に補完する
音節を増やしていく。この後、一つのフレーズを頭の中で思い浮かべて
から声に出して歌わせる。この学習は、音の記憶のために効果的なもの
である。
111 Edgar Willems. op. cit., p. 87.
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⑤# 一つの音への聴覚を強くするために、ある音を 10 秒間、声に出し続け
させる。次第に声に出す時間を延ばしていく。学習者がその音を保って
いる間、指導者はピアノで別の音を弾く。まずは子どもの歌っている音
とそれほど不協和ではないものから、徐々に生徒を惑わせるために不協
和な音を増やしていく。
⑥# 学習者がある曲を歌っている途中で、指導者が ‘hop’ と合図する。この
合図を機に、学習者は声に出さずに読むよう変更する。また、次の ‘hop’
の合図を機に、再びその続きを声に出して歌う。
⑦# 学習者にとって音を想像することが難しい場合には、そっと口笛を吹か
せる。可能であれば、息を吸いながら口笛を吹く。音を内面化するため、
音を吸い込むイメージを持つことができるためである。
⑧# 指導者が黒板に 2 小節ほどのリズムを書き、学習者はそのリズムを基に
任意の旋律を付ける。これを、最初は声に出して歌い、次に声に出さず
に読む。
⑨# ⑧ の反対も実施する。つまり、ひとつの旋律を構成することができる一
連の音高のみを指導者が黒板の五線上に書き連ね、学習者にリズムを付
けさせる。これを、声に出して歌い、次に声に出さずに読む。
これらの実践を分類すると、①サイレント・シンギング、②音とリズムを分離すること、③
音に対する意識を強化すること、の 3 つの傾向が見られる。知っている歌から入ろうとする観
点はウィレムス独自のものであるが、内的聴感に向けた教育実践は、ジャック=ダルクローズ
やリディー・マランが先立って行っていたことをウィレムス自身も記述しており 112、その影響
も受けていると考えられる。
上記の実践はいずれも、物理的な音に先立って音楽を聴こうとする「意識」に働かけること
ができる。物理的には聞こえていないものを内的に聴くことができるということを知り、その
意識をもつことによって、子どもたちの音の聴き方を変化させることができる。これらの実践
の教育効果は即座に目で見て確認できる類のものではないが、学習者たちが早い時期に内的な
耳の存在を知り、音の聴き方を習得することによって、長期的に「よい耳」を育てていくこと
に貢献するであろう。他にもウィレムスは、「楽器を演奏する者は、自分の楽器の音を出さず
112 Ibid., p. 88.
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に演奏することによって、同様の効果が期待できる」113 と述べている。つまり、ピアニストは
鍵盤の音を出さずにピアノを弾く、ヴァイオリニストは弓を用いずにヴァイオリンを弾くこと
によって、聴覚的な想像力をはたらかせることができる。この練習課題では実際に身体も動か
すため、聴覚を鍛えるだけでなく、楽器の演奏技術の向上にも直接的に結びつく。さらにウィ
レムスは、読譜を習得した後には二声のメロディの響きを想像しながら楽譜を読むという練習
課題にも同様の効果が期待できると述べている 114。まずは 3 度と 6 度の音程で書かれたものか
ら、その後はさまざまな音程で書かれた楽譜を読み、最終的には四声のコラールの楽譜を見て
ソプラノとバスの二声部の響きを聴き取り、次第に内声を補完して四声体を内的に聴きながら
読み進められるようになることを期待している。

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