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CQ:アルコール使用障害同定テスト
「AUDIT」の⾧期予後調査
A U D I T
表紙・タイトルを大きく貼る
開催日:2024年2月20日
発表者:佐藤 健太
目次
論文背景の紹介
論文本体の解説
感想、質疑応答
令和3年(2021年)の主な死因順位、構成割合と年次推移:「令和3年(2021年)人口動態統計月報年計(概数)」(厚生労働省) – 健康づくりポータルサイト(healthy-life21.com)
死亡疾患のリスクの重みづけ(Preventable risk factors)
疾患の薬物療法
+
嗜癖物質の制限
+
体重・食事・運動の管理
南欧式飲酒(オリエンタルスタイル)
平日夜に、食中酒としてゆっくり楽しむ
総飲酒取量が増え、内臓疾患で死亡しやすい
北欧式飲酒(ビンジスタイル)
週末夜に、盛り上がるためにまとめて飲む
精神症状が出やすく、自殺・事故や虐待が増える
アルコール依存症 –
西日本民間救急(日本民間救急総合受付センター) (wj-pam.jp) ストロング系チューハイに薬物依存研究の第一人者がもの申す
「違法薬物でもこんなに乱れることはありません」 (buzzfeed.com)
アルコール消費量は減っているが内訳が変化した
酒税が高く、飲みにくい、ビール・発泡酒が減り、
酒税が安く、飲みやすい、ストロング系飲料が増えている
→ビンジスタイルになりがちで、精神症状や社会的問題を後押し
ストロング系チューハイに薬物依存研究の第一人者がもの申す
第2回 アルコール(1) ストロング系チューハイというモンスタードリンク | 松本俊彦 「違法薬物でもこんなに乱れることはありません」 (buzzfeed.com)
「身近な薬物のはなし」 | web岩波 (iwanami.co.jp)
アルコールは他者への有害性がでやすい
普通の違法ドラッグは、オーバードーズや合併症で救急搬送される
問題飲酒者は、迷惑をかけた他者に連れてこられるか
独りで、何食わぬ顔で飲酒歴を隠して受診する
al3siryo1-1.pdf (osaka.lg.jp)
非専門医・一般外来でもできる介入セット
AUDITで見つけて、簡易介入まではする。
重症者・依存症では適切な専門外来・自助グループへ
広めようSBIRTS.docx (dansyu-renmei.or.jp)
AUDIT:アルコール使用障害同定テスト
SBIRTSの第一歩「スクリーニング」のツール
AUDIT : the Alcohol Use Disorders Identification Test : guidelines for use in primary health care (who.int)
飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT) | 適正飲酒のススメ
キリンホールディングス (kirinholdings.com) 飲酒習慣をチェックしてみましょう|DRINK SMART
お酒の正しい付き合い方を考えよう|サントリー (suntory.co.jp)
目次
論文背景の紹介
論文本体の解説
Abstruct
Introduction
Methods
Results
Discussion
感想、質疑応答
目的
アルコール使用障害識別テスト(AUDIT)の結果が
20年後の死亡率を予測できるかどうかを検証する
方法
北ドイツの、18~64歳の一般人口サンプルに対する、観察研究
①1996~1997年のベースライン調査
評価前12ヵ月間にアルコール摂取歴のある3581人に、AUDITで調査
②2017~2018年のフォローアップ調査
保健当局の公式記録と死亡証明書で、死亡時期・死因を調査
結果
死亡率は、飲酒量 最小群 対 最大群でHR1.70(95%CI:1.43~2.02)
死亡原因別分析で、心血管死亡をSHR1.84で予測(95%CI:1.49 - 2.27)
結論
成人一般集団サンプルにおいて、
AUDITは総死亡率および心血管系死亡率を予測した
アルコール使用障害識別テスト
Alcohol Use Disorders Identification Test: AUDIT
WHOから、1989年に発表された
スクリーニングと短期介入に推奨
AUDITの目的
世界中のさまざまな環境で実施可能な
簡単でコストのかからない方法で
アルコール使用障害をスクリーニングすること。
AUDITに関連する原著論文やSRは増加傾向
アフリカ(Atkinsら、2021年)
中国(Liら、2011年)
ロシア(Neufeldら、2021年)版など
参考:日本の厚労省
・保健指導におけるAUDITとその評価結果に基づく減酒支援の手引き(医療者向け情報)
・ AUDIT | e-ヘルスネット (mhlw.go.jp) (一般住民向け健康情報サイト)
さまざまな医療現場や一般成人集団サンプルにおいて
妥当で信頼できる評価ツールであることが証明された
AUDITの質問項目(日本語版から)
①
飲
酒
量
②
依
存
症
状
③
有
害
事
象
A U D I T アルコール使用障害特定テスト 使用マニュアル
監訳・監修 小松 知己・吉本 尚. 三重大学大学院医学系研究科環境社会学講座 家庭医療学分野 who-audit-jp.pdf (oki-kyo.jp)
AUDITの構造
全部で10問あり、3つのドメインと4つのゾーンからなる
ドメイン 10問の内容を3つに分類
①飲酒量(飲酒の頻度や量など)
②依存症状(止められない、期待に応えられない、役割義務を果たせなど)
③有害事象(罪悪感、前夜の記憶喪失、怪我、他人に心配された)
ゾーン 合計スコアで、低リスク/危険/有害/依存に分類
View of The Alcohol Use Disorders Identification Test (AUDIT): A review of graded severity algorithms and national adaptations (ijadr.org)
飲酒の一般論 と AUDITでわかっていること
アルコール使用障害は早期の死亡に関係している
AUDITは簡潔で実用的であ
AUDITの総得点と、5年後時点での生存率は調べられている
過去のSystematic review (Kuitunen-Paul & Roerecke, 2018)
・1989年から2016年の研究を統合し死亡のRR1.24(95%信頼区間1.12~1.36)
・限界として、追跡期間が5年未満、成人集団サンプルを用いていない
AUDITでわかっていないこと
より⾧期の死亡リスク、死亡までの時間予測
ゾーンやドメインのより細かい性能
・ゾーン(合計点の4分類)
アルコール使用障害の重症度を示す単純な尺度として役立つか
・ドメイン(10の質問の3分類)
3項目必要なのか、依存・結果ドメインが不要か(短縮版で十分か)
簡易版AUDIT(AUDIT-C)
3ドメインのうち、飲酒量(Consumption)の3項目のみ
メイン
無作為の成人一般集団サンプルを対象にAUDITを実施し、
20年後の総死亡率および疾患特異的死亡率を分析すること
サブ
1.ゾーン(合計点)は総死亡率を予測するか
2.ゾーンは心血管疾患、がん、その他の死亡を予測するか
3.ドメインの3つすべてを評価することで
ドメインどれか1つ・2つのみよりも死亡率予測能が改善するか
Sample
北ドイツで無作為に抽出された、18歳から64歳の一般住民
すべての人は、個人世帯に住んでいた(公的施設ではない?Private household)
インタビュアーは面接の訓練を受けた
参加者は手紙で招待され、回答者の自宅か希望する場所で面接を受けた
ベースライン調査対象
5829人をランダムに抽出
4093人(70.2%)の面接を実施
4075人が分析対象となった
死亡率追跡調査
4028人(98.8%)の生死が確認できた(47人・1.2%は生死の確認不能)
447人はベースライン評価前に禁酒していたため除外。
3581人が、最終評価対象
Assessments① Baseline
AUDITの質問票を研究参加者に提示。
面接者と参加者で面接を行い、
面接者が同席している間に自分で記入
AUDITの合計得点は1~40点
スコアは原法通り4ゾーンに分類し、追加対応を実施
久里浜医療センター (hosp.go.jp)
Assessment② Mortality Follow-Up
総死亡率 人口動態統計データ(住民登録ファイル)の死亡日を確認
疾患特異的死亡率
死亡診断書に記載されている4つの病名欄のすべての病名を組み入れた
・死亡を誘発した疾患・障害
・死亡に寄与した疾患・障害
・基本的健康状態
・それ以外の健康障害・基礎疾患
以下の26疾患に該当する病名があれば、分析対象とした。
・心血管系疾患 …心臓疾患、血管障害、脳血管障害に分類
・がん …すべてがんに分類した。
・その他 …消化器疾患、呼吸器疾患、脳疾患
急性疾患(傷害、自殺、事故、暴力によるその他の死亡症例)
診断なし
すべてICD-10に従って記録した
Data Analysis
①AUDITの総得点とゾーンを、総死亡の予測因子として分析
低リスク飲酒を定義するために、ゾーン1を2つに分けた。
②AUDITのゾーンを、診断特異的死亡の予測因子として分析
死亡例454人のうち、25例は死亡診断書入手不能、1例は情報記載なく除外
診断特異的死亡率は、競合リスク回帰分析を用いた。
サブハザード比(SHR)と95%信頼区間(CI)を指定した。
③AUDITのドメインを、総死亡の予測因子として分析
各ドメインの得点を、死亡症例の割合が類似した4つのランクに分類。
Cox比例ハザード分析で、ハザード比と95%信頼区間を示した。
シェーンフェルド残差を用いて検定した。
すべてのハザード比とサブハザード比は年齢と性別で調整した。
Table 1. 参加者のAUDIT ゾーン
最終的なサンプルは3581人(女性1758人)
Model 1 3つのドメインを別々に検証した場合
Model 2-4 2つのドメインをまとめて1つのモデルで検証した場合
→AUDITの3つのドメインは、それぞれ総死亡率を予測した。
Model 5 3つのドメインをまとめて1つのモデルで検証した場合
→ドメイン1と2は予測因子として残ったが、ドメイン3(有害事象)は残らなかった。
Table 4. AUDITの各ドメインの人数
4つのドメインの各ランクの組み合わせには、最低1人以上の参加者が含まれていた
Summary
この研究では主に4つの発見があった。
①AUDITのゾーンは、用量反応的に死亡率を予測した。
②AUDITの総点数は、
心血管死亡率との間に強い関係があった。
③低リスク飲酒においても、
心血管死亡率の増加が認められた。
④AUDITのドメインも、死亡率を予測した。
AUDITは、総死亡を用量依存的に予測した
・過去のメタアナリシス(Kuitunen-Paul & Roerecke, 2018)の報告を裏付ける
・20年間の調査を行うことで、より⾧期的な予後のエビデンスを追加した
AUDITと心血管死亡との間に強い関係が認められた
・治療後のアルコール使用障害患者の死亡例に関する
メタアナリシスの知見を裏付ける(最も多い死因は心血管障害だった)
・飲酒は不整脈、心房細動、アルコール性心筋症、アテローム性動脈硬化症
高血圧を含むさまざまな心血管障害を起こす
AUDITスコア5~7(ゾーン1b)でも死亡リスクが上昇した
・男性では1日24gの飲酒が高血圧発症リスクが上昇するという
メタアナリシスの結果と一致する
がんの死亡率との関係は示されなかった。
・アルコール摂取が30年後のがん死亡を予測する報告と矛盾する
→比較的若年層の多い対象で観察期間20年は
短かったのかもしれない
(癌を発症した患者自体も93人と少なかった)
・女性ではAUDITゾーン2~4が少なく(50/1758人≒2.8%)
女性癌死亡の多くが(アルコールと関連の薄い)生殖器がんだった。
(比較的若い女性は子宮頚癌・乳癌が多く、飲酒との関連が薄まる)
・癌の種類別に解析するには症例数が不足していた
その他の死因は、
AUDITスコア8~15(ゾーン2)で関連がみられた
その他…自殺、事故、暴力などによる死亡を含む
補足:佐藤仮説
・総飲酒量が低いことで、体を壊さずに⾧く飲める結果として、
精神疾患や社会的問題からの自殺・事故・暴力などが多い?
・飲酒量が少ない≒ビンジスタイルの飲酒習慣が多いかもしれず
自殺・事故・暴力が増えやすいのかもしれない?
ビンジスタイル(北欧式・日本式)
週末夜に、盛り上がるためにまとめて飲む
精神症状が出やすく、自殺・事故や虐待につながりやすい
ゾーン1a(1-4点)と1b(5-7点)で死亡率に差がでた
・中程度飲酒の男性で、高血圧などの心血管障害が増加する報告を指示
・飲酒量が少なくても健康障害が増える報告(Jカーブの否定)を裏付ける
このデータは、以下のことを支持する
・低リスク飲酒者でも、ゾーン1aまで下げたほうが良い
・過去に我々が提示したとおり、カットオフスコアは8点でなく5点がよい
AUDITのドメイン別分析の結果から(Table 3)
飲酒量は、依存症状・有害事象に優先しない可能性がある
・3領域すべてを1つのモデルに含めて分析しても、
依存症状は飲酒量に加えて有意なままであった。
・飲酒量と依存症状、飲酒量と有害事象を1つのモデルで検証した場合も、
両方の領域が優位に関連していた。
→飲酒量に加えて、依存症状と有害事象も把握することは
死亡予測に付加的な情報を提供するようである。
ほぼすべてのドメインランクの組み合わせに、
1人以上が該当していた(Table 4)
→AUDITの3領域すべてを活用すべき
Strength
追跡期間が5年以上あった。
無作為の一般成人集団サンプルを対象としていた。
適格者のうち、研究参加者の割合は70.2%あった。
Limitation
ベースラインデータは自己申告のみ →報告バイアス
飲酒の過少申告はおきやすいが、差を薄める方向になるため説得力は増す
一般成人サンプルであり、アルコール使用障害患者よりも報告バイアスは少ない
Webや郵送ではなく面接者によって実施された。
アルコール使用障害に罹患している住民は参加しない傾向がある
よりリスクの低い集団での検討で優位な結果がでたので問題ない
AUDIT単体の死亡予測力の検証のみを目的としている
死亡予測の精度を上げるために必要な、喫煙などの健康関連行動や社会経済的地位のデータは
考慮されていない。
Conclusions
20年間の死亡率追跡を行ったこの一般成人集団研究の結果は、
AUDITが総死亡率および心血管死亡率を用量反応的に予測していた。
低リスク飲酒群でも、死亡リスクの上昇が認められた。
消費量・依存症状・有害事象の3ドメインそれぞれが死亡率を予測した。
AUDITのような、低コストのアルコール使用障害スクリーニング方法の
実施可能性と有用性を確認できた。
アルコール使用障害のスクリーニングと早期介入を支持するものであり、
低リスク飲酒群でも、死亡リスク等のフィードバックを行う妥当性は、
今回の結果によって裏付けられた。
目次
論文背景の紹介
論文本体の解説
感想、質疑応答
感想
「WHOが開発した」と聞いて鵜呑みにしていたが
AUDITの性能をきちんと把握できてよかった。
短縮版のAUDIT-C(飲酒量のみ確認する簡易版)だけでは
⾧期死亡予測能が劣ることがわかった。
→AUDIT-Cスクリーニング後のモニタリングに使うものと理解できた。
「病的ではないが、危険な飲酒(ゾーン2)」で
「その他」の死亡が増えているのは気になった。
→内訳を明記してほしかった
(n=8と少ないのでなんとも言えないが、精神疾患や職業・社会的問題は増えそう)
自分自身の仕事への応用
臨床面
・外来担当患者には年1回、ルーチンで飲酒状況を確認する
・飲酒ありなら待ち時間や次回外来までにAUDIT記入を提案する
(外来にAUDIT判定ツールを印刷しておいておく+QRコードも)
教育面
・学生~専攻医向けレクチャーで、定期的にAUDIT自己評価を行う
・専門研修修了までに、標準的な飲酒・喫煙・食事・運動などの
スクリーニングツール、介入方法、カウンセリング技法を伝える
研究面
・AUDITなど特定の項目に絞って⾧期フォローする気にはなれない…
・地域別のアルコール消費量や消費アルコール種別を調査して、
アルコール関連疾患の浅在患者数の算出をして
実際の受診患者数とのギャップをみてみるのは有意義かもしれない。
22点 = ゾーン4 6点 = ゾーン1b
→死亡率は上がる
ストレスマウンテン (stressmountain.jp)