You are on page 1of 21

           慢性精神障害者の臨床

■ 初めに…精神障害の定義:その人に現れる精神的な現象
表1 
(精神症状)、によりその人の社会生活に支障を来すようなこ
精神障害=原因不明の精神機能不全
とを指す。その場合、発達障害(精神遅滞を含む)や人格障害と
 病名=症状群           精神障害
はとりあえず区別される。精神的な正常・異常には、科学的な絶
神経症症状(ノイローゼ)
対の基準はない。精神障害の診断は、社会常識的なコンセンサス
躁鬱症状        発達障害
にすぎず、操作的(どの辺が、どの程度偏っているかを示す)な
精神病症状
ものである。
「精神的に健康」、の定義は 、WHO では、
「自分の 能
サイコーシス
力を理解し、生活上のストレスに対処出来、生産的に仕事をし、
現実検討力(=病識) 人格障害
社会に貢献する事が出来ること」、と定義されているが、この 定
( GAF QOL)
義で自分は常時健康である、と断言できる人は少ないであろう。
つまり、全ての人は何らかの精神障害の傾向をもっていて(ストレス脆弱性)、その傾向の程度が極端な場合を障害(病
気)として扱うことにしているのである。その障害の程度は本人の生活適
表2 GAF と症状 応レベルに並行すると仮定される。GAF ではその程度を 0 から 10 0 点であ
らわし、常時健康、時々軽い精神障害、大抵軽い精神障害、時々中程度以上
の精神障害、大抵中等度以上の精神障害、と並ぶ。軽いとはまた、神経症レ
ベル、とも言われ、重症は精神病的レベル、とも言われる。この客観的な適
応レベルは QOL としても評価される。QOL(Quality of Life)は、WHO の定
義によれば、その人の置かれている文化的環境における、心理社会的な主
観的な満足度とされていて、仕事や家庭や社会的地位での生きがい感や充実感を評価している。精神障害の DALY s
(WHO:障害のための社会的な損失)はかなり高率である。
ストレス脆弱性仮説の根拠となる身体的な異常が本当に実在するかは現在のところ不明である(詳しくは参考1)。
                
表3 ストレス脆弱性仮説        

表 4 機能の全体的評定尺度(GAF)

91 - 100:広範囲の行動にわたって最高に機能しており、生活上の問題で手におえないものはなにもなく、その人の多数の長所
があるために他の人々から求められている。症状は何もない。
81 - 90:症状が全くないか、ほんの少しだけ(例:試験前の軽い不安)、全ての面で良い機能で、広範囲の活動に興味をもち参
加し、社交的にはそつがなく、生活に大体満足し、日々のありふれた問題や心配以上のものはない(例:たまに家族と
口論する)。 
71 - 80:症状があったとしても、心理的社会的ストレスに対する一過性で予想される反応である(例:家族と口論した後の集
中困難)、社会的、職業的または学校の機能にごくわずかな障害以上のものはない(例:学校で一時遅れをとる)。
61 - 70:いくつかの軽い症状がある(例:抑うつ気分と軽い不眠)、または社会的、職業的または学校の機能にいくらかの困
難がある(例:時にずる休みしたり、家の金を盗んだりする)が、全般的には機能はかなり良好であって、有意義な対
人関係もかなりある。
51 - 60:中等度の症状(例:感情が平的で、会話がまわりくどい、時にパニック発作がある)、または社会的、職業的または学
校の機能における中等度の障害(例:友達がほとんどいない、仕事の同僚との葛藤)。
41 - 50:重大な症状(例:自殺の考え、強迫的儀式がひどい)、または社会的、職業的または学校の機能において何か重大な障
害(例:友達がない、仕事が続かない)。
31 - 40:現実吟味か意志伝達にいくらかの欠陥(例:会話は時々、非論理的、あいまい、または関係性がなくなる)、または学
校、家族関係、判断、思考、または気分などにいくつかの面での粗大な欠陥(例:抑うつ的な男が友人を避け、家族を無
視し、仕事が出来ない。子供が年下の子供を殴り、家で反抗的で、学校では勉強が出来ない)。
21 - 30:行動は幻覚や妄想に相当影響されている、または意志伝達か判断に粗大な欠陥がある(例:時々、滅裂、ひどく不適切
にふるまう、自殺の考えにとらわれている)、またはほとんど全ての面で機能することが出来ない(例:一日中、床に
ついている、仕事も家庭も友達もない)。
11 - 20:自己または他者を傷つける危険がかなりあるか(例:死をはっきりと予期することなしに自殺企図、しばしば暴力的

1
躁病性興奮)、または時には最低限の身辺の清潔維持ができない(例:大便を塗りたくる)か、意志伝達に粗大な欠
陥(ひどい滅裂か無言症)。
1 - 10:自己または他者をひどく傷つける危険が続いている(例:何度も暴力をふるう)、または最低限の身辺の清潔維持が
持続的に不可能、または死をはっきり予測した重大な自殺行為

2
 表 5 精神機能の 3 態

正常範囲内 神経症レベル 精神病レベル→現実検討力低下


             良 ←       社会適応          → 不良
攻撃性 正当防衛、夫婦喧嘩、 切れる(解離性の暴力)、家庭内暴力、Wrist 突発性の自殺・傷害・他殺、放火、アルコール
亢進 戦争 Cut、服薬自殺 複雑酩酊、急性薬物中毒
“もしか 予期不安、宗教的・ 不適応感、自己不全感、病気恐怖、外出恐怖 妄想性不安、強迫行為
し て 人 実存的不安 パニック発作
を 殺 し
た の で
は な い
か”と
思う(妄
想性不安
不安
情 動 性 元気、爽快感、歓喜 根拠のない優越感、上機 多弁多動、多干渉 乱買、観念奔逸、社会的逸脱行為、興奮・
亢進 嫌、不機嫌 多幸感 乱暴
情 動 性 意気消沈、一過性の 困惑、悲哀、喪、劣等感、離 不快感、不幸感、 希死念慮、亜昏迷、貧困妄想、罪責妄想
低下 衰弱・消耗 人 絶望感
妄想 夢、嫉妬、勘違い、偏 空想、思い込み(被害関係念慮)、憑依、根拠 行動化される 誇大妄想、妄想体系、願望即
見、宗教 のない不信感、迷信 被害妄想 現実
幻聴 空耳、良心の声、宗教 錯覚、聞き間違い、自生思考、フラッシュバ 行動化される 感覚特性の弱い、メッセー
的現象 ック 幻聴 ジ性の強い幻聴
思考障害 思考怠慢、忘却、記憶 集中困難、記憶錯誤、作話、催眠、思考停止、 超覚醒、迂遠(locker)、保続、思考奪取、思考途
の美化 全生活史健忘 絶、思考吹入
精 神 運 むら、だるい、おっく 怠慢、無気力、引きこもり、疲労、倦怠 発動性貧困、無為・寡動、自己の清潔への無関
動低下 う感、 心
精 神 運 群集心理、ランナー 焦燥感、内的不穏、短絡的行為、酔っ払い、 反復強迫、徘徊、独語、奇声、運動錯誤(常同行
動亢進 ズハイ 天変地異・災害時 為)
2 重世界 本音/ 建前、公/ 私、神話/ 歴史、自己/ 自我、理想/ 現実、自由/ 平等、 自閉、カプグラ症状、年齢妄想
尊王/ 攘夷、敵/ 味方、政治/ 宗教
頭痛 偏頭痛、風邪 心気症性頭痛、不定愁訴 “脳みそが腐ったような”頭痛(心気妄想)

■精神症状の定義:精神障害の傾向のことで、類型的に分類され定義される。個々の症状を個別に評価することは余り意
味がない。ICD - 1 0 とか DSM - Ⅳ では、身体病に倣って一定の症状群に1つの病名を付けている。症状は大きく分けて陽
性症状、陰性症状、思路障害、認知障害、気分症状、などに分かれ、
Manchester Scale では、抑うつ、不安、妄想、幻覚、感情の
平板化・不適切な感情、精神運動減退、滅裂思考、寡言・無言、に分かれ、
BPRS では、心気、不安、情動的引きこもり、思考解
体、罪業感、緊張、衒奇的な行動や姿勢、誇大性、抑うつ気分、敵意、猜疑心、幻覚、運動減退、非協調性、思考内容の異常、情動
鈍磨、興奮、失見当識に分かれ評価される。
 症状として幻覚や妄想があるだけでは精神障害者ということにはならない。幻覚や妄想は、基本的には誰でも体験しう
る状態であると考えられている(夢は幻覚であり、嫉妬は妄想である)。種々の宗教体験もその宗教を理解しない人から
見れば、妄想となるであろう。精神障害も症状も、多分に歴史・社会的な現象なのである。

■精神病的状態(サイコーシス,psycho sis)の定義:精神障害の程度が、神経症レベル以上にあることを意味する。法律上
では心神喪失・減弱と言われ、より一般的には、現実検討力の欠如または減弱をいうが、精神科臨床的には、もう少し限定
し、意識障害のない場合で、症状として幻覚や妄想があって、その異常体験に基づく行動化のために現実検討力が低下し、
問題行動の出現する場合を指す。患者が問題となる行動を理性的・論理的に説明できない時にそう判断される。全ての精
神障害の症状は、その程度が軽いうちは現実検討力に問題はないが、程度が重くなると精神病状態となりうると考えられ
ている。精神障害者は、たいていの場合は、幻覚や妄想があっても理性的に行動することは可能であり、従ってたいていの
場合は精神病的状態ではない。

3
以上が慢性精神病者の臨床の前置きである。

4
◎ 慢性精神病の定義:

今までに精神障害と診断されたことがあり、現在日常生活に重大な支障を来している成人。
大半の慢性精神病患者は統合失調症であるが、躁鬱病、分裂感情障害、てんかん精神病など器質性脳障害も慢性化す
る。神経症症状者や精神遅滞者や人格障害者も短期なら精神病的状態になることがあるが、それが長期化・慢性化するこ
とはまずないと言って良いので、医学的にはこれらの患者は慢性精神病には含めないが、社会行政的にはこれらの患者も
含まれていることが多い。
以前は精神病的状態であれば先ず、入院してもらい、寛解(症状が軽くなること)すれば退院させていた。寛解しない
患者は、半ば強制的に精神病院に持続的に入院させていたので、慢性精神病患者は一般社会には認知度が低かった。最近
では、長期入院の弊害が言われ、また、コスト・エフェクティヴの観点より、慢性 表 6 慢性期の症状
精神病患者も地域で生活しながら治療される場合が多くなり、それに伴い入院中 ① 寛解 …22%(97 名)
には分からなかった患者の問題がはっきりしてきている。慢性精神病患者は入退
② 引きこもり …13%(56 名)
院を繰り返し、治療からドロップアウトしやすい。医療先進国のアメリカでも、地
③ 心気症・強迫 …11%(49 名)
域に慢性精神病患者の多くは貧困で、ホームレス、また、薬物中毒合併し、エイズ
④ 思考散乱・滅裂 …11%(46 名)
の合併も多いという。犯罪の加害/ 被害者にも多く、病院に入院中の 3 倍の人が刑
⑤ 発動性貧困 …7%(32 名)
務所に入所中で、刑務所に入所中の人の 1 / 3 が精神障害者であるという。きめの
⑥ 幻覚妄想自我障害…7%(30 名)
細かい治療が不可欠であるが、NAMI はいずれのケアマネージも不充分としてい
⑦ 抑うつ …6%(25 名)
る。ケネディの行った 1 96 0 年代のアメリカの患者開放は一般に賞賛されている
⑧ 不眠・食思不振 …4%(19 名)
が、明らかに失敗である。
⑨ 内的不穏 …4%(17 名)
⑩ 注意集中困難 …4%(16 名)
 慢性を発病 1 0 年後とすると、表に慢性精神病の患者の慢性
⑪ 情動貧困 …4%(16 名)
統合失調症の患者 4 3 6 名(平均 5 2.0 才)で 1 回の診察において ⑫ 衒奇・常同 …4%(15 名)
1 つ目立つ症状を AMDP 簡略版で挙げてみたが、症状は病初 ⑬ 自己不全感 …3%(14 名)
⑭ その他 …1%(4 名)
期(発病 5 年以内)の患者とは明らかに違っている。病初期
は病名ごとに症状の違いは明らかであるが、慢性化すると現在症としては区別できなくな
る場合が多い。精神障害は非常に慢性化しやすい。

表7 統合失調症患者の病初期と慢性期の症状比較
病初期:初発後 5 年以内 慢性期:初発後 10 年以後
エピソード(幻覚・妄想・気分
基本病理 変化) 自閉(2 重見当識:現実世界と妄想世界の並立)
患者の訴え 強烈な異常体験・自己変容感 奇妙な身体的症状・現実不適応感
症状 陽性症状・不眠・不穏 陰性症状・思考障害・自閉・短絡行為(暴力)
妄想 自我違和的、被害関係妄想的、行動化される 自我親和的、体系化された妄想世界、コーピング可
幻聴 感覚性明瞭・意味不明瞭、空間的定位可能 音声不明瞭・意味明瞭、空間的・時間的定位不明覚、ノイズ
症状の関連 各症状はそれぞれ独立した領域を持つ 各症状は関連・融合し、患者の内的世界を構成

病識 エピソード前後で急激に変化 常に病識不充分
人柄変化 目立たない 明らか/突発的な短絡的・衝動的行為
類型 破瓜型/緊張病型/妄想型 受動型/能動型/引きこもり型
孤立・貧困・犯罪(加害・被害)・薬物中毒・
随伴問題 抑うつ・希死念慮 糖尿病等
ノーマライゼーション・患者の犯罪・ホームレ
社会的関心 患者の人権・救急医療 ス化

表8 1 0 年以上フォローしている患者の慢性化率(常時 GAF70 以下)

5
患 者 非 寛 慢 性 平 均
総 数 解 者 化率 GAF
(人) (人)
SZ 130 99 7 6% 6 4.0
Aty py 22 13 5 9% 6 9.7
MD 89 60 6 7% 7 2.3

慢性精神病の目立つ症状は引きこもり、思考散乱、発動性貧困、などであり、社会的には怠
慢、甘え、わがままなどと思われていることが、精神科医の見る病気の症状なのである。
表 9  症状の医学的評価と常識的評価
医学的評価 常識的評価
非現実的な要求 個人神話(残遺性幻覚・妄 甘え
想)
引きこもり 陰性症状・自閉 怠け
計画性のなさ 思考障害 飽きっぽい、だらしない
自罰的 抑うつ 努力、根性が足りない
同じ失敗を繰り返す 解離、病識欠如 嫌がらせ、低能、がんこ
易怒的・衝動的 人格変化・幻覚妄想の行動 わがまま

慢性精神病患者の示す症状と治療の基本的特徴を C.R.Gol d m a n は以下のようにまとめた。


  
  表 1 0  慢性患者の特徴

6
Ⅰ 症状:
陽性症状…①幻覚・妄想、②滅裂思考、③不安定な不適切な感情、④奇妙 Bizar re な
     行動;判断の障害
  陰性・欠陥症状…①ある種のストレスに弱い、②極端な対人依存、時に敵意を伴う
       ③対人関係困難、④コーピングの未熟、⑤学習の応用困難、新しい状況を
       恐れる、⑥情緒的反応が少ない、楽しめない、⑦会話が少なく、抽象的思
       考が不充分、⑧注意集中困難、動作がにぶい、⑨アパシー;動機欠如;引
       きこもり、⑩刺激に過敏、鈍感
Ⅱ 正常な反応:重症な、治らない病気に罹ってしまったという事実への反応。喪の症状に
       類似。①一般ストレス反応(戦う・恐れる・逃げる)、②悲哀;否認;我慢
       不能(受容困難)、③怒り、戦う、④罪責感、自責の念、⑤うつ;絶望、虚
       脱感、士気阻喪、⑥退行、⑦内閉(自己への集中、他人への興味消失)、⑧
       正常な発達の中断(未熟)
Ⅲ ホスピタリズム:社会的孤立による機能障害、施設症に類似。家族の過保護や長すぎる 
       入院で、社会的機能の障害が起る。
Ⅳ コーピング・適応:治療やリハビリや家族サポートやセルフヘルプはこれを目標にする。

○治療・リハビリの条件
  一般的…①個別、②持続、③教育、④安全で心地よいサポート、⑤危機介入の計画、
      ⑥家族のサポートと教育、⑦患者の精神力をつける、⑧地域で、⑨段階的で
      長期的なアプローチ、⑩スティグマへの対応
Biological…① 薬、②効果や副作用のモニター、③新しい身体的・精神的合併症の対応、
      ④陽性・陰性症状に両方共に注意、⑤薬物中毒注意、⑥再発の早期発見、
      ⑦充分な休養と適度な運動、⑧バランスの取れた栄養
  Psych ological…① 治療同盟、② Nor m al re actio n の扱い、③適度に活動的に、
      ④適度の刺激、⑤リラックス出来る環境、⑥毎日のルーチーンワーク、
      ⑦責任ある大人の行動をする、⑦自立と忍耐、⑧アルコール依存の治療
  Social…① サバイバルスキルの学習、②コミュニケーションと問題解決のスキル、
      ③ソーシャルネットワークの構築、④日常生活訓練(金、移動、住、など)
  
                          

7
■慢性精神病の症状の特徴:慢性期で
表 11 慢性精神障害者のメタ・症状
も再発(急性増悪)時は発病初期と全
く同じ症状が出現するが、そうでない ① 初発・再発症状(エピソード関連症状、残遺)
場合はこれらの症状分類だけでは不充 ② 気分変化(躁・うつ・焦燥・不機嫌)
分である。患者の個々の症状の輪郭は ③ 陰性症状、自閉(2 重見当識、個人神話)
ぼやけ、互いに融合し、拡散する。さら ④ 突発的短絡行動(反社会的行為・暴力/自殺)
に症状とそのコーピング(症状に対抗 ⑤ 痴呆類似症状、滅裂状態
する技術)も融合する。症状と患者の
習慣と意識的な生活態度の区別も着き難くなる。
 筆者は慢性期精神病の特徴をメタ症状として、大きくまとめてみた。表 1 1 にはエピソー
ド、と自閉、というメタ・症状用語(複雑な構造をした症状群)を使っている。
先ず、①であるが、が、初発・再発エピソードとは、適応レベルの変化を伴った、症状の全
般的な一時的な急激な悪化と回復を指し、以前は p h a se とか、sc h u b 、と言われていた現象
である。コンラートの初発 sc h u b の分析が有名である(表 1 2 、詳しくは参考2)。

表 12:前兆→アポフェニー→乗り越え不能・逆回転→アポカリプス→コペルニクス的変換→回復の構造を持つ。臨床
的には乗り越え不能とコぺルニクス的変換が大切な指標となる。アポフェニーは妄想知覚
のことで、乗り越え不能とは現実検討力が欠如した妄想世界に陥ってしまうこと、アポカ
リプスは緊張病性の昏迷、コぺルニクス的変換とは現実検討力が回復し、妄想世界から抜
け出すこと。
             筆者のデータでは、再発 Episo de は初発後の 1 0 年で平均 2.9 回で、治療へのアドヒアラ
ンスに関係なかった。加齢に伴い頻度は減少する傾向にある。再発回数が増えるにつれ、幻
覚妄想は目立たなくなり、変わりに気分変化や衝動行為が目立つようになってくる。

彼によれば問題は中身(症状)でなく形式(構造)であり、エピソードとは患者の意識に
おける世界性の変容なのである。慢性期でも再発(急性増悪)時は発病初期と全く同じ症
状変化が出現するが、再燃(症状変化が小ぶり)、微小再燃(症状も期間も小ぶり)もエピ
ソードであり、さらに、数時間で終息する発作のようなもの(単発性の幻覚妄想状態)も起る。
そして慢性期は病初期と違い、エピソードが終息してもエピソード時と類似の非現実的な
言動が残るようになる。(残遺性の症状)。陰性症状や思考障害(滅裂)は常時目立つよう
になる。陽性症状は程度は弱まるが、症状の輪郭はぼやけ互いに融合し拡散してくる。

次に②であるが、慢性精神障害者の気分変化は、躁鬱病患者だけでなく、統合失調症患者
においてもエピソードと考えられる。患者に幻覚妄想がなくても、気分変化は幻覚妄想と同
等の社会適応レベルの低下が起る。気分変化が、ディスチミーのような、軽い不機嫌状態と
して現れることもある。

③ 最近は陰性症状、と言われることが多いが、以前は自閉と呼ばれていた。自閉は Bleuler
によれば、患者が外部の現実世界とは接触を絶って自分だけの内的な世界に閉じこもって
しまうように見える現象である。自閉は多くの研究者が統合失調症の基本的な症状として
種々の角度から研究されているが、原因は不明のままである。そして、その自閉患者の内的
な妄想世界と外的な現実世界が衝突することなく並存しているように見えることを 2 重見
当識と呼んでいる。医学的に精神症状、と呼ばれる現象は、患者の内的な世界では全く別の
意味を持っている。自閉の殻の中で、妄想は他の異常体験と結びつき体系的となり、願望充

8
足的なもの(願望即現実的傾向、夢と現実の混同)が多くなり、患者はその妄想体系の中で
の主人公となる。筆者はこの患者が主人公となった物語を個人神話と名づけて収集してみ
たが、ヒーロー受難物語、変身譚、入院譚、家族物語、退院譚、薬・食事の話、など、ギリシア神
話やインド神話さながらの話が集まった(表 1 3 )。

表 13 慢性統合失調症患者の個人神話
Ⅰ(再発・寛解)期
○ 神話 の否 認 …精神病は酒・交通事故・職場のせい/ あの時おかしかったのは自分でなくて父・妻・隣人だ/ 今は
何でもない・もう大丈夫・昔の事は忘れた/ 今を一生懸命生きるだけ/ 家族はやさしい(実は勘当状態)
○ 神話 の予 感…夢と現実がごっちゃになる・変な空想が勝手に浮かぶ/ 時々恐ろしい事(殺人・首絞め)を思いつ
く/ 意に反して人を憎まされてしまうよう
○ 薬へのこ だ わり ( 心気 的訴え ) …薬は副作用が強い・効いたり効かなかったりする / 自分は特異体質・身体が
弱い/ 自分は弱者なのだから優遇されるべき
Ⅱ a (現実世界優位の 2 重世界)期
○ 強烈 な劣 等 感(嫌 われ 者 ・の ろ ま・ 出 来そ こ ない ・悲運) …手が鈍いので悪口言われてもしょうがない / 仕
事に自信がない/ 勘違いが多く、自分で考えるとろくなことにならない/ 病気に負けて僕は駄目な人間・親不孝/ 根拠
はないが、とてつもなく悪い事をしてしまったようだ / 周りの人間に謝りたくなってしまう / 何をやっても上手く行
かない運命/ 生まれてこなければ良かった
○被害関係 念慮(いじめ ・悪意) …不当に貶められている気がする/ 周りの人が胡散臭い・怖い・信用できない/
気のせいかも知れないけれど悪口・陰口・噂が気になる / 何かやろうとすると必ず邪魔が入る/ 皆にいじめられてる
気がする/ 家族が皆で何か企んで自分をどうかするのではないかと心配 / 酒の中に毒でも入っていて精神病になった
のかとも思う/ 院長に催眠術を掛けられておかしくなった気がする/ 父が死んでしまったと考えてしまう/ 親が本当
の親でないような気がする/ 何かに祟られている気がする/ 狐に憑かれた気がする/ ご飯の時、毒殺という言葉が頭か
ら離れない/ 寝ている時にいじめられている気がする/ 夜中に殺されるンじゃないかと心配/ 皆わざと肩をぶつけて
歩くようなので腹が立つ/ 人間世界には黒幕がいて、皆その人たちに操られているような気がする / テレビでやって
るのは全部偽物のような気がする
○誇大的夢想…自分が神様・預言者・救世主・宇宙人になったと考えることがある/ 不死身だ・超能力、神通力があ
ると思えてくるのが不思議/ これは内緒だが、私は神を見たことがある / 匂いでその人が考えていることが分る気が
する/ 偉くなれる自信がある/ 絶対に儲かる仕事がある/ 社会の事は何でも知ってるし、大抵のことは出来る/ いつで
も仕事はやれる・結婚は出来る
○ 心気的訴 え …昔罹った身体病の後遺症で神経が病んでいる/ 自分はエイズ・梅毒・癌ではないかと不安/ 頭の中
にビー玉でも入っているようだ/ 胸が苦しいのでなくて心臓が苦しい
Ⅱ b (妄想世界優位の 2 重世界)期
○ヒーロー受難物語 …舞台は世界大混乱(宇宙戦争・政治戦争・宇宙収縮・世界破滅・陰謀・裏切り・原爆・毒ガ
ス・伝染病)で、自分は英雄(救世主・預言者・超能力戦士・徳川家末裔・織田信長の生まれ変わり・皇族・院長・
金持ち・政治家・競馬の騎手・オリンピック選手・死刑囚)で、敵(宇宙人・アメリカ・自衛隊・警察・中曽根一派
家族親戚・近所・医師看護師・他の患者・マスコミ・放送局・電波機械・犬猫狐・水子・悪霊・有名人・超能力者 ・
神・悪魔)に狙われ(殴られ・いじめられ・操られ・呪われ・祟られ・監視され・盗まれ・殺され・切られ・死ん
で蘇り・解剖され・糞尿を飲まされ・耳に水を入れられ・電気を掛けられ・火で炙られ・強姦され・フェラチオさ
れ・血を抜かれ・精子を抜かれ・書類に署名させられ金を取られ・缶づめにされ・剥製にされ・裸にされて写真撮
られ・三億円強奪犯人に仕立てられ)る/ 人類は皆殺し・焼かれて食われる・共食いで全滅 病院は倒産
○変身譚…女になって子を産む/ 違う名前になった/ 婦長と結婚している/ 歌手になってテレビで歌う/ 月になった
/ 歩ける様になった(両下肢完全麻痺)/ 眼が見えるようになる(本当は絶望的)
○入院譚 …家族・政敵・神様・国家に騙されて・操られて・誤解されて・無実の罪で・悪い事(自転車泥棒・傘泥
棒・結婚詐欺)して・秘密を知ってしまったので入院している/ 酒・薬・毒・蓄膿の手術・交通事故・☆☆に殴られ
て・催眠術、超能力のために頭をおかしくさせられて入院している / 学校で勉強しなくて・ちびで入院している / 楽
して美味いもの食べるために入院している/ ここはお城、自分で買って住んでいる、医者は家来で看護婦は妾/ 自分は
院長で、ここは自分の病院/ 精神病者の治療をしている/ 医者として薬の開発をしている/ ここで宇宙旅行・冒険旅行
タイムマシン旅行をしている/ ここで 神の仕事の手伝いをしている
○家族物語…有名人・看護婦・他の患者と結婚している、子供は☆☆/ 今の父母は偽者・育ての親/ 本当の親は☆☆
/ 兄は母の浮気の子供/ 兄の子供は私の本当の子供/ (母親のことを)この人は私の妻
○退院物語 …煙草の火の付いた方を吸うと退院/ 14 万円払えば退院/ 爪を噛む癖が・便秘が・痔が・皮膚病が治る

9
と退院/ 家族と上手に話が出来れば・暗号を解読できれば・勉強が出来る様になれば退院/ ○月○日に・あと 3 0 年
で・60 歳で・順番で・病院定年で退院/ 誰か・政府の要人・死んでる父が迎えに来て退院 / 家族が迎えに来ている
のに看護師に邪魔されて退院できない / 迎えにきても、私がボーッとしている間に帰ってしまう / 退院して水前寺清
子になる・他の病院で看護師になる・医師として開業する・神武天皇と国を作る
○ 薬・ 食事 譚 …相手の気持ちが読める薬がある/ 話し方が上手になる薬が欲しい/ 政治が分るようになる薬が欲し
い/ 私は頭の良くなる薬を作った/ 飲んだ薬に青酸カリが入っていた/ イライラさせる・変な匂いを感じさせる・頭
痛がする・幻聴がする薬を飲まされた / 食事に変な匂いがする/ 今朝の味噌汁の中に毒・糞尿・死んだ父の骨が入っ
ていた/ 死んだ弟の肉の刺身がでた/ 患者から抜いた血をケチャップにして出している/ 病院食の原料は人間の肉と
糞だ
○奇妙な心気的訴え …頭痛(脳が圧迫される・神経が内部から湧き出す・頭の線が切れた・頭の後ろに紙を貼りつ
けられたような・頭に穴・脳みそが揺すぶられる・脳みそがだるい・中に手を突っ込んで掻き回される・頭を取り
替えられる・こめかみにミソを付けると治る・ポマードと歯磨き粉を混ぜて塗ると治る・妨害が入って頭を痛くさ
せられている)腰痛(らい殿筋が暴れる・背骨の折れた所に風が当たるとヒリヒリする・ 15 年前に尾瀬に行き歩き
すぎたので)便秘(糞が身体中に染み渡る・足の裏のかさぶたから糞が出る・立っていないと便秘になる) / 肉や血
管が痛い/ 髪の毛を引っ張っても痛くない/ 太陽見ても眩しくない/ ペニスに穴が2つある/ 肛門に寄生虫がいる/
身体が溶ける・腐る・電気がかかる / 解剖される・顎が外される・鼓膜が破られる / 身体に変な匂い・糞の匂い・お
ならの匂いがする/ 片目が泣きたくなる・左半身が柔らかい・心臓が冷たい・鼻が大きくなった / 妊娠した/ キモを
取り替えられた/ 腕の中に狐がいる・ペニスの中に中曽根さんがいる        … →Ⅱ c(断片化)期へ

精神症状、と現実世界で呼ばれる現象は、自閉の殻の中(患者の内的な世界)では全く別の
意味を持っている。妄想は他の異常体験と結びつき体系的となり、願望充足的なもの(願望
即現実的傾向、夢と現実の混同)が多くなり、患者はその妄想体系の中での主人公となる。
神話化された妄想は現実的な異常行動としては出現しにくくなってくる。

表 1 4  自閉の内的世界
神話の中では神様の助手として日夜人類救済にはげんでいる患者が、他患のお菓子を盗もうとして失敗し殴られる現
実の病棟生活とどう折り合いをつけているのか、実に不思議であるが、これが 2 重見当識と言われる現象である。“毒
を盛られて殺される”と言いながら、カレーのお代わりをする患者がいる。本当の母親を“にせもの”と言って周囲
を驚かせるカプグラ症状も、この 2 重見当識の 1 つであろう。筆者の例では、背景に、自分は高貴な一族の後胤であり
(誇大妄想)、小さい頃悪いヤツらに拉致されて(被害妄想)…という家族物語がある場合が多かった。自閉患者に
は、脳みそがくさる、とか、目が潰される、とか言った奇妙な心気的な訴えが多いが、これらの訴えは、自己の身体感覚
までもが妄想世界のものになっていることを示す。幻聴は強度、方向性、同時性など、感覚としての性質が薄れ、記憶や
自生思考・思考伝播などに類似してきて、他の症状と同様に自我親和的となり(“テレパシーがないと動けない”)
患者の願望や絶望を表すものとなる。患者は幻聴の内容を真実のメッセージとして受け取っている一方、ノイズと化
す例も多い。患者の内的世界の空間的時間的構造は次第に崩れてくる。自閉患者の世界には、偶然はない。全ての出来
事は患者に関連して何らかのメッセージを語っているのである。自閉患者は自分の自閉に気づかない。それどころか、
自分はどこも悪い所はないと信じるようになる。病識がないとされることが多いが、部分的な病感は残っている患者
の方が多い。この現象を病態失認ととらえるか、病態否認ととらえるかは意見の分かれる所である。過去の異常体験は
否認され、問題行動は合理化される。退院したくなると、“幻聴は消えた”と言う患者は多い。否認されるのは異常体
験だけでない。ある患者は胃穿孔時に痛みを否認したが、後で聞くと禁食になるのがいやだったから我慢した、と言っ
ている。患者の言動には一貫性はなく、記憶は殆ど当てにならなくなってしまう。2 階から飛び降りた患者に理由を聞
くと、“生きているのがやになった”、“「今だ、飛び降りろ」と聞こえた”、“幻聴が虐める”、“皆が悪口いうので”
などと色々弁明していたが、その後は、“足を滑らせた”→“○○に押された”→“そんな怪我したことはない”、と
訂正していった。他患者にお湯をかけた患者は、聞かれる度に、“あいつがおれをバカにした”“幻聴で「お湯をかけ
ろ」と聞こえた”“先に向こうがかけて来た”“おもしろそうだったから”と答えが違っていた。
幻聴は強度、方向性、同時性など、感覚としての性質が薄れ、記憶や自生思考・思考伝播などに類似してきて、他の症状
と同様に自我親和的となり(“テレパシーがないと動けない”)、患者の願望や絶望を表すものとなる。患者の内的
世界の空間的時間的構造が崩れるに従って、幻聴の感覚としての特性は失われてくるが、患者は幻聴の内容を真実の
メッセージとして受け取っている(カセットテープレコーダーを準備してある患者と半日議論して、幻聴は外部から
の感覚でなく、自分の内部からのメッセージであることを納得したかに見えたが、次の日、その患者が、“幻聴はやは
り外部からくる”、と意見を訂正した。意見を変えた理由は“幻聴が「外部からだ」と言った”と言うことであった)。
一方ノイズと化す例も多い。また、幻聴はそのコーピングと融合する(声を出せば幻聴が弱くなる、と言っていた患者
がそのうち、神の声を聞きたい時は声を出す、と言いだす)。
最近の統計学的な症状論では、自閉、という言葉は主観的・多義的であるとの理由で使われない(自閉の内側は、治

10
療的に深く関与した人でないと分からない)。今まで論じた自閉、の外見は陰性症状として把握は可能であろうが、陰
性症状、としてしまうと、患者の症状の力動が把握出来なくなってしまう、という反論は多い。

自閉には程度がある。筆者は自閉の基本症状を 2 重見当識とし、経過を追って 2 重世界の


ゲシュタルトの変化を6つのステージに類型化している(表 1 5)。初めは現実世界はかなり
尊重されているように見える(Ⅱ a 期:自閉軽度)が、次第に無視されるようになり(自閉
中等度)、遂には本人の内的妄想世界のみが重視されるようになってしまう(Ⅱ b 期:自
閉重度)。患者の自閉がさらに強くなると、症状と患者の習慣や意識的な生活態度との区別
も曖昧になってしまう(Ⅱ c 期:昼夜逆転・奇妙な服装・社会的孤立など)。

表 1 5  統合失調症の経過ステージ表
病初期(Ⅰ) 再発・寛解期 … 例:再発時に「おれは神」・寛解時に「錯覚だった 」
慢性期(Ⅱ) 2 重見当識期(妄想世界と現実世界の並立)
a現実世界優位の 2 重世界 … 例:「おれは普通の人間だ。世の中神も仏もない」:劣等感・被害関係念慮
b妄想世界優位の 2 重世界 … 例:「おれは神。看護婦は妾。人類の敵と戦っている」:妄想体系
c断片化された 2 重世界 … 例:「サタンの崇り」・「地球滅亡」:心気、思考の貧困 化
晩期(Ⅲ) 滅裂・痴呆(荒廃)期 … 独語・奇妙なポーズ

④ は、慢性精神障害者は突発的な反社会的な短絡行動で周囲を驚かせることが稀ならず
起きる。上記のストレス反応としての短絡反応とは質がちがって、因果関係のはっきりしな
い場合が多く、また、普段の患者からはちょっと考えられない行動である。最大の問題は暴
力である。以前は漠然と慢性患者は非暴力的、と考えられていたが、最近では一般市民より 3
~5 倍程度暴力的である、とされる。筆者のデータでは、2 年間で慢性長期入院統合失調症患
者の 3 5.4%(2 8 / 7 9 )が暴力を振るっていた。慢性患者の引き起こす重大犯罪や自殺もこ
こに分類される。以前は人格崩壊が原因とも言われたが、性格変化が目立たたず、異常行動
が突出することも稀でない。これらの行動が命令性の幻聴や被害者が妄想的加害者になっ
ている場合の被害妄想などと密接な関連が疑われる場合も確かにあるが(再発代理行為)
幻覚や妄想などの異常体験との関連がはっきりしない場合も多い。ここでは、症状=行為の
原因、といった直線的な症状論は成り立たない。慢性患者にはそういうことが起きるものだ、
という認識が大切と考える。

⑤ の痴呆類似症状は、精神病の末期・終末状態として特徴的である。この結論は 、
Krae pelin や E.Bleuler の結論であるが、M.Bleuler 以降の長期予後フォロー者たちは原則
的に痴呆に至ることは否定している。アルツハイマー病の様な脳の病変は見られない。患者
は奇声をあげゴミを集め無言で徘徊し廊下で脱糞する。彼らが全くの痴呆でないことは、時
に全く理性的に行動し、スタッフと意味のある会話が可能になることで確認される。生死に
係わるような重大な身体病になると、症状が消失する、という現象は有名である。患者が年
齢誤認(年齢妄想:患者が自分の年齢を間違って信じている現象)という症状のフォロー
をしたことがあるが、誤認自体は回復可能な例が多かったが、その後思考障害(滅裂)が進
行してゆく傾向にあった。滅裂症状は患者の日記などで早期から見られる。

        表 1 6  患者の日記より…

11
憲法
1 、 材木屋顔にて子供の時切られる恩田昇る 材木屋、又幼ない子供の時遊にていきなり手のつめにて折れ奴打りし我れ
には解からなかったその面むき 家に帰り父にて怒られる 又彼の家にて今材木屋があるか彼の家にてこの場合には
少なくも今じ眠しているが古い病院にて退院した時点眠っているが ひどく父にて怒られた 又その材木は父にて又
我れにて警察所にて行けば解ると思って見たが我れの家にてだいぶ長屋に対し何故父
2 、 最近くるみに対し出来なくなったがもっと裁倍してほしい 又我れ1号室にていた時荷物1つつみ盗まれびっくりし
て先生に語そと思ったが忘れてしまった 又昨日姉にて面会にて持って来て来れお喜びした
3 、 当院にて最初にては餅もでたが我れ代表者にてのどつかえてる石島さんいて今少しで死んで行く所餅を出した事があ
りました
4 、 当院火にて固く禁止されています 見つかると千円取られてしまう
5 、 ラッパ民旅、いろゝと当院にていろゝとお面白い所があるが自分も1日早く退院生をしてしまいたい
6 、 人に迷惑かける事は不用です 又当院死匹氏の集まりだが 何故自分をこんな所におく事は不用です 又小林敏子2
人きりいない人殺しやにて今つい永です8人なんにて暴行関係は少ない 今四百二十四名当院にいます 又東篠秀樹
にてソビエットロシヤ島にて飲で打った方もいます 又餅にては面会に家から来るがなにして遠い場所から何故来る
まったく不用です だが父に対してはいい金もうけになると当院よこされました
7 、 八人殺せば支那にて火にあぶられます 当院は死匹者二百人います
8 、 自分少ない頃屋根にあがってはしごから下ちた時に不があるが いきなり布団の中に寝てた時がありました
9 、 自分の愛棒にて剣術が強いと云っているが何故自分にてジャキがいつ来るか解りません
10 、憲法いかに国民は考えている様だが退院して1日も早く仕事したい
11 、マッチ棒にて夜る煙草なんか吸うことは禁止されています
12 、自分骨が悪かった なにしろ二十九回便所にてあげてしまった
13 、いろゝ工夫はあるが当院にて自分四人殺したなどという本当に姉にて工夫学にて本当に姉にてしっかりと自分 教育
状がたりないと思うがいい姉でした
14 、憲法できめられている事柄本当の事申せぬと神にての許しがまとまらい 又頑張る力さえ忘れて仕事もだんだんと人
柄が止まと沢(訳?)して書取る
15 、日本の人遠二十才にて結婚を許す物ときまり頑る事でしてはこれ以親は子供に知気おこす親もいますどうか注意して
下さい
16 、 自分妹敏子にて妹があるか過去市役所事務員にてずい分旗をさてしまったがこを云う所にても一生の人が作られる
又がまんしてしんぼする物だ

12
精神障害患者の LIFE CHART を例示し、表 1 7 にまとめた。

             表 1 7 慢性患者の経過表
初期:発病後 1 0 年位 中期:1 0 年~2 5 年 晩期:3 0 年~
■ 再 発 Sch u b (緊 張病 状態 ・幻 覚 Sch u b ・Micro sc h u b ・単発性の幻 不機嫌・行動異常
Episo de 妄想)、躁・うつ 覚妄想、気分変化
経過 前駆期・回復期が明瞭 前駆期・回復期が不明瞭 安定期との差ない
  自覚 自我違和感・変容感 自己不全感・被害的→誇大的気分 なし
■安定期 寛解~不全寛解 2 重見当識(個人神話) 認知障害
中心症状 陽性 陰性・残遺・自閉など複雑な症状 滅裂/ 不潔/ 人格崩壊
幻聴 目立たない 幻聴と交渉可能(コーピング) 目立たない
妄想 目立たない 妄想内容は自己の願望に類似し、行 行動で現わされる
動化することは少ない(神話化)
類型 破瓜型/緊張病型/妄想型 受動型/能動型/引きこもり型 滅裂/ 痴呆
病識 否認・過剰・病勢で変化 現実不適応感→自己の誇大化 欠如
暴力 Epis p d e の前後 一部に、短絡・易怒的傾向 短絡的・衝動的
自殺 症状に圧倒されて グロテスクな自傷行為 偶発的な事故
人生に絶望して 突発的な心中行為
随伴併症 抑うつ・希死念慮 貧困・犯罪・薬物 身体疾患
性格変化 なし 徐々に目立ってくる 明瞭
治療 ガイドラインに添って、医学 セルフ・ヘルプ中心、個別のケアマ 痴呆者の介護に似。
的介入(薬物)中心。再発予防。 ネージ。リハビリテーション。 生活のケア中心。
社会的関心 患者の人権・救急医療 ノーマライゼーション・患者の 施設での Q.O.L.
社会参加・就職 犯罪・ホームレス化 虐待

□ 診察のポイント:

慢性患者では、何をもって症状とするかが難しいが、治療者の立場 表 1 8  本当に症状?
からすれば、治療のターゲットになりうる現象が症状となりうる。表 症状(変化)
再発・再発前駆
1 1 に示したようなメタ・症状に関連した現象をなるべくたくさん把
個人神話的な反応
握すべきであろう。患者の精神的な現象がすべて症状とはならない。 コーピング
患者が何時も正直に熱心に自分の事を伝えてくれる訳でもない。隠さ 準症状
正常なストレス反応
れる症状もあるし、ウソを吐くこともある。症状と鑑別が必要なもの
性格反応 長期経過
として、宗教文化的・心理性格的・習慣的現象をはじめ、詐病・疾病 非症状
利得・身体病の症状・薬副作用・正常範囲の状況反応(疲労 / 倦怠/ 習慣・疲労・倦怠
怠慢)・自閉的反応(患者の内的妄想世界内での出来事への対応)、 甘え・怠慢
詐病・疾病利得
が挙げられよう。さらに、患者のある行為が症状の行動化であるか、自 身体的合併症
由意志的な随意的行為であるのかは、患者自身も分からないことが多 薬副作用
い。患者の無意識的な症状ということも有り得る。その種々な症状様
の現象の日々の変化から、再発の予想をし、社会的不適応や生活障害の程度の変化を知り、

13
対人関係上の問題を推理し、適切なアドバイスを行わなければならない。症状に患者からの
何らかのメッセージ(自己主張、願望)が付随することも多い。また、長期経過としての痴
呆化・荒廃化過程はその時には分からないものである。
■症状と治療
精神障害の原因は不明であるので、何をもって治療と定義するかは、実は難しい問題
である。現在では、精神障害をコスト・ベネッフィットで捕らえ、個人の障害を社会経済
的な不利益に換算し、その不利益を減らすことが治療ということになっている。 
臨床では、患者の悩みを軽減することが治療である。治療の評価は何よりまず本人の満
足度である。患者の悩みを、医学的な病気の症状として捉えることで、治療ををポリシーを
持って行うことが可能になるのではないかと考えている。たとえ症状自体が変化しないに
しても、症状と日常生活がうまく折り合えるように患者を教育・訓練することも治療であ
ろう。

■慢性精神障害者の症状の捉え方。           
患者の定常状態を知り(症状評価)、その自覚の程度を知り(病識)、患者の生活レベル
と症状との関連を知る。2重見当識の内容と形式を理解し、ストレスに対して患者がどう対
応したか(既往歴)調べておく。症状の人間学的意味の理解(弱点としての症状、自己主張
としての症状、疾病利得としての症状)。症状変化は、メタレベルで、再発か、個人神話的な
反応か、コーピングか、コーピングの失敗か、正常なストレス反応か、はたまた詐病か、を見
極めながら対応を検討する。患者の自己理解と客観的状況の両方の情報が必要であろう。江
熊や湯浅は患者の生活障害を症状の延長として理解した(表 1 9,20 )。

□ 表 1 9  患者の症状・メタ症状による種々の精神障害の生活への影響(自閉反応の影
響)。
■慢性患者の症状の変化  慢性患者症状も変化する。慢性患者の症状変化は、エピソードでない場合には、慢性
患者の独特のストレス反応として把握出来ることが多い。ある患者が急に働かなくなった。理由を聞くと、“疲れた”
ともいうし、“時給が安い”、“皆が悪口をいう”、“神が「働くな」と言う”、“働かせないように仕組まれてい
る”、とも言い出し、独語・空笑が目立つようになった。また、ある患者が、“俺は医者になる”と受験勉強を始めた
患者は終日参考書の同じページを眺めて暮し作業を拒否するようになった。こういった場合は、行動を個々の症状
や事件に還元分析することはむずかしい。自閉患者には独特の行動様式があると考えたほうが良い。この独特の行
動は、しばしば患者の個人神話に関係している。慢性患者の個人神話的な特徴を湯浅は、分裂病かたぎ、と名づけ、①
名目や世間体に敏感、②変化にもろい、③枝葉のこと目先のことにとらわれる、④短絡的、⑤手加減できない、⑥自己
決定ができない、としている。そしてこれらの反応の結果として現れるのが、①生活のしかたのまずさ、②人付き合
いのまずさ、③生活経過の不安定さ、④就労能力の不足、⑤生きがいのなさ、という生活障害であるとしている。Aス
トレス→B症状→C障害、Dストレス→E症状→F障害、のような直線的な障害理解でなくて、患者の生活を、障害
という面から見ると C Fで、症状という面から見るとBEで、ストレスにはADがある、というように総合的な捉え
方をする必要がある。

           表 2 0  統合失調症患者の生活障害 江熊
1、 生活障害…生活の仕方のまずさ。人づきあいのまずさ。就労能力の不足。生活経過の不安定さ。生きがいのなさ
(課題選択・遂行能力の減退。行動の統制の疎通化・可能性の欠如。共感・人間関係保持困難)
2、障害受容の困難
3、再発のしやすさ(同じ失敗を繰り返す。経験から学べない)

14
治療総論

基本は慢性患者の自立支援・援助:治療(薬物維持療法、精神療法)、危機介入、ケース
マネージ、リハビリ、生活の潤い、基本的人権の擁護、ベーシックサポート(衣・食・住)、
リラクゼーション、セルフ・ヘルプ(自立支援)、サポートグループ 
□ ケース・マネージのポイント             トータルに、システマティックに

         表 2 1  ケースマネージの概要
自傷他害の危険性の判断・安全確保…鎮静の必要性,的確なアセスメント
治療構造の決定         …GP,精神科病院,薬物中毒,精神科救急
診断 …診断・治療的介入方法の検討
Disability の評価         …ニーズの把握・認知機能,学習機能の欠陥の有無
長所・スキル          …有効な社会的機能・治療へのモチベーション
持続援助の可能性        …持続的ケアの可否,援助者の有無
文化的側面           …人種,言語,性別,地域特性
関連問題            …お金,法律,仕事,住所,家庭,身体病,育児
回復へのステージ        …○急速鎮静,治療契約,モチベーションを高める ○継続的治療 ○維持・再発予防
                 ○リハビリ・回復・成長  ○モチベーションの維持

◎薬物療法:
■薬は何に効くのか?
医学一般では EBM の方法が確立し、薬物に関しては無作為2重盲検試験でのプラセボと
の効果の差があれば、効果あり、とされるが、精神障害においては、①症状の評価に主観が入
る、②副作用の多さで実薬が分かる、③プラセボ効果がかなり高い、④ドロップアウトが多
い、⑤同じ病名でも均一のグループにならない、⑥障害のナチュラルコースが分からない、
など、問題を挙げられ、統計学的な結論がすぐ臨床的ではない。薬理作用にしても、有効とさ
れる薬からの類推であり、薬効のメカニズムの解明は出来ていない。

表 2 2  薬のターゲット

興奮 幻覚妄想 認知 心理的機能
攻撃 思考障害 モティベーション 社会的機能
暴力 滅裂行動 感情・気分 就労能力
治療へのアドヒアラアンス
 自殺/ 暴力
再発
人格崩壊
 
□ 薬物の種類
抗不安薬・睡眠薬、抗精神病薬(FGA /SGA)、気分調整剤、抗うつ薬(TCA /SSRI)、
精神刺激薬、β
‐ブロッカー、脳代謝改善剤・脳血流増加薬
  抗副作用薬…(抗パーキンソン剤・抗便秘・抗口渇・抗アカシジア)

□ 抗精神病薬の副作用 (長嶺による)

15
A)早期発見必要…不整脈、肺塞栓、誤嚥・窒息・誤嚥性肺炎・イレウス・敗血症・糖尿病・
水中毒・悪性症候群、横紋筋融解症、高プロラクチン血症、転倒・骨折、日
光皮膚炎、薬疹、顆粒球減少
B)抗コリン作用…口渇、悪心、便秘、イレウス、熱中症、排尿困難、視力調整障害、頭痛、眠気、記
憶障害、気分高揚
C)飲み合わせ…

16
―以下はイギリス・アメリカのパンフレットからのセルフマネージメントの要約である。

セルフ・マネージメント
○士気を高く…質の高い生活態度(信念、希望、向上心、忍耐、リアリスティックに)
自分の経験の説明と理解、読書、宗教
○他人との人間関係…家族、友人、同病者、同僚、地域の人、治療スタッフ
○日常生活への適応…人間関係の調整、基本的生活スキル(財産管理、住居、買物、食事)、健康管理、個人管理
(現状評価、目標・段階設定、ストレスケア)
○発展…仕事、レクレーション、社会参加
○病気の管理…病気の学習、話しあう(症状へのコーピング等の経験の共有)、併用療法、
専門家との付き合い(症状の伝え方、自己主張のし方、副作用チェック)、再発管理、症状管理、
薬物管理

Remission から Reco v er y へ リカバリーとは…病気や症状と戦うのでなく、自分の健康度を上げることを意識する。


障害者の心理的態度の変化(自尊心を高め、障害を受容し、自立)を促し、目標は生活に満足できること。生活は平和に、
静かに、清潔に。毎日のストレスを下げる。Negative 思考を Positive に変えて。先ず信じる。一進一退一歩一歩。
リカバリープロモート…再発予防、再発徴候のモニター、ストレスコーピング、症状のコーピング、危機介入
ソーシャルサポート…生活の安定、安全な環境、目的意識をもって、家族・友人・知人、
自己の病気の理解、身体的な健康…食事・運動、副作用のない、有効な薬、将来への現実的な希望(自尊心大切。健康的な
ポジティブ思考トレーニング)、自己主張の練習(問題を一人で抱え込まない。説明すれば理解が深まる。お金のことも
含んだ訓練)

A 再発予防:日常のストレス減らす、再発徴候・トリガーの理解(個人特有、強いストレス、早期対応)、薬の調整、症状
のマネージング(幻覚・妄想、作業能率、自殺、否認、心気、薬物乱用)、健康増進、飲酒控えめ

再発徴候:集中困難、忘れっぽい、決断不能、考えが纏まらない、心配事↑、妄想・空想↑、知覚過敏、幻聴↑、酒↑、不安・
緊張、うつ、焦燥、躁、イライラ、恐れ、脅威、自己不全、自殺、気分変化、引きこもり、興味喪失、不眠、体重変化、不潔、嘔吐
怒り、登校拒否
トリガー:薬減量・変更・断薬、薬物乱用、恐怖、家庭内トラブル、圧倒される体験、生活パターンの変化、人間関係、過
労、不眠、お金、身体病、不愉快な体験、非現実的な目標

Bストレスマネージメント
 ストレスの症状…身体的:発汗、寒気、貧乏揺すり、食欲変化、不眠、疲労、頭痛、肩こり、動悸、過飲酒
        精神的:注意集中困難、不決断、余裕消失、不安、神経質、怒り、欲求不満、心配、易刺激性、攻撃
性亢進
      原因…環境(社会 集団 混雑)、規則、日常的混乱、混雑、生活習慣、カフェイン、睡眠不足、多忙、
心配事(悲観的 自己非難 考えすぎ 過剰な期待 責任感 真面目)、性格(完璧主義 仕事中
毒)
ストレスマネージメント 原因に気づいて行動・考え方・生活習慣・生活状況を変える
             コーヒ・たばこを控え、食事・運動・リラクゼーション
             〈状況から逃げる〉…充分な休息

F 症状のマネージング
○うつ…自信を高める方向で、ムリしない。服薬。周りは支持的に。
○幻覚…他人に話す。自分の中の問題と理解(現実でないことを確認)。無視する。時間限定で聞く。音楽を聴く。自分に
自信を持って対応。持続し増強する時は急性増悪を考える。
○妄想…気分を落ち着かせて、よく考える。理性的になって良く考える。信頼する人に判断してもらう(周りの人はバカ
にしたり、無視しないで、真剣に相談に乗る。不安を取除く。互い感情的にならないように)。
○躁…行動をゆっくりさせる。限界設定し、超えたら入院。
○引きこもり…交際を広げる方向で、トライ&エラー。出来るところから。自信をつけるように、サポート大切(自信
のなさを理解して、期待レベルを下げて)
○無為…日常生活の自立から
○興奮…トリガーの理解。ストレス下げる。冷静に明瞭に落ち着いて話す。議論しない。お互いの安全が第一距離を置
く。周りは同じように興奮しない。行動制限はなるべくしない。危険を感じたら警察を。
○迷惑行為…話し合って、してはいけないことのルールを決める。動機の理解 自己コントロールの援助

17
○その他…独立心を高め、自己評価を高める。身嗜みを清潔に、友人作り、金銭管理、身体病管理、食事、運動、趣味
E 副作用を考える    眠気、自発性欠如、やる気のなさ、振戦、落ち着かない、筋緊張、体重↑、空腹感、
  自分の薬の管理は自分で       記憶困難、協調困難、光線過敏、まぶしい、インポテンツ
  副作用チェック、副作用への対応の仕方、薬の知識の仕入れ方、相談の仕方

D 危機介入 ‐それでも急性増悪(再発)は起りうる‐
起った時は安全第一、「危機介入」の要請。安全に不安があれば入院。自殺に注意。そぶりがあったら話合う 。

家族の接し方
 患者の状態に一喜一憂し、感情的なジェットコースター状態にならない。個人的な非難はしない。苦労は皆で分かち合
う。副作用のチェック。バーンアウトに注意。
 診断がつくと、否認・怒り・無力→罪責感・悲哀・喪失感(治療費に関しても)。そこを乗り越えて、新しい期待と希
望をつかむ。
  日常会話が大切。しかりっぱなしにはしない。まず良く聞く(アクティブリスニング)。
短い・簡単・明瞭な言葉で、冷静に落ち着いて、静かな声で話す。1 回に1つの短いテーマ。非難しない。分かるまで辛抱
強く、繰り返して言う。議論になったらタイム・アウト(中断)。非言語的コミュニケーションも大切。
スキル:相手を誉めるように話す。相手にイヤな事を伝える時は、しっかりと、分かりやすく。小言にならないように。
相手が行動を選べるような提案をするとさらに良い。
○アクティブリスニング:注意深く、共感して、相手をはげまし、相手が感情を表せるように
○争い:感情を抑えて。問題を1つ1つ考えなおす。争いの原因を個別に追求する。
○問題解決のアプローチ:問題の同定→あらゆる事を考えてみる→1つ1つ評価して→
最適な物を1つ選んで→段階に分けて→実行→レヴュー
○変化の6段階:企画前→企画(アンビバレンス、賛成&反対、よく考える)→
準備(宣言)→行動に移す→再企画/ 行動の維持
○家族の出来る事
まず自分を大切に        自分に寛容に/ 自分の気持ちを大切に/ 日常生活を大切に/ 休養を充分に
自分が出来る事には限度がある→自分が実際に何をしてあげられるか?
自分の感情とケアは分けて考える。病気と本人も別である。   助けを求めるのを躊躇しない
希望を見失わず、一歩一歩の前進を。
ケアの限界を決める…暴力や脅かしは許さない。サポートのルールを決める

患者用パンフレット

A 準備 健康管理は自分で。自分の健康状態を理解しよう。
    精神病の知識。障害を受け入れ、ポジティブに対応しよう。
    再発への意識。リアリストになろう。
B 経験から学ぶ
    きっかけ(トリガー)は何だった? どんなストレスがかかっていたか。
    早期徴候は何だった?…集中困難、心配事、幻聴、不安、緊張、うつ、イライラ、不眠、引きこもり、酒量
    どう対応した? 役に立った?
C まとめ 医療関係者や家族とも話し合って、以前の再発を以下のようにまとめる。
   ストレス(トリガー) → 早期徴候 → 危機(再発)
  ・           ・      ・
  ・           ・      ・
  ・           ・      ・

D 今後の計画
1. ストレスに対抗する。→常にストレスを最小限にする。心配事は皆に相談する。服薬。楽しい
                事をする。気に入った仲間とすごす。酒はひかえる。症状のモニター。
2. 早期徴候に対応する。→変化を皆に知らせる。薬調整。安静。日常生活は続ける。酒は中止。
症状への対応。やけを起こさない。48 時間は重大な決断はしない。早めに援助を求める。
3. 危機(再発)時の行動。→静養、診察、入院?

18
E 実行                               NHS

 
 

19
 患者用 WRAP s(SAMHSA より) 症状管理ではなくて、健康管理

健康になるための手段:  体に良く、リラックス出来ること、もの。
日常の健康管理:     レクレーション、気持ち良い事。
トリガー:        ストレス、記念日、お金、薬
早期徴候:        無気力、引きこもり、不眠、心気
急性増悪:        自殺企図、滅裂、援助求める
危機時の計画:      助けて欲しい人。して欲しい事。して欲しくない事。入院は?
反省:          危機脱出後に良く反省

障害(幻覚妄想)→機能障害(適応困難)→不能(ホームレス・無職)→不利(偏見、貧困)
治療       リハビリ         SST           アドボカシー

             セルフマネージメント
A)元気をだす ①希望もって、目標もって、自分の力を信じて。忍耐し、現状理解し
リスクは覚悟。②病気の理解、説明。③宗教・スピリチュアリティー
B)他人との関係 ①家族・友人(具合の悪い時に頼れる人)②同病者 ③主治医・
専門家・サポーター・地域の人
C)日常生活 ①基本的な生活技術(お金・買物・住居・家事・食事・料理・清潔)
 ②健康(運動・食事・摂生・睡眠)
③ 自己管理(自分の個性の理解・ストレス管理)④孤立しない
D)成長する ①仕事 ②レクレーション ③社会的な交流
E)病気の管理 ①服薬、副作用 ②専門家との付き合い(是々非々で) ③再発予防 
④ 症状管理(幻聴・妄想・不安・パニック) 
⑤ 話し合い ⑥補助的治療(栄養・ヨガ)

○自尊心を高める…自分の気持ちを尊重し、自分の身体を大切に(食事、運動、気晴らし)。自分の才能に気づく。
自分を誉める。人と交わる。創造的な生活を。技術を磨く。楽しい事をする。
○友達を作る…一緒に何処かへ行って何かをする仲間作り。ムリしない(時間、お金、電話)。興味の同じ人達と。
平和に、良く話しを聞き、良く話す。イヤな事は我慢しない。独りの時間も大切に。
人間関係のトラブルは→自省してみる。別の人に話してみる。
○自己主張する…冷静に、自尊心をもって、自分のことを話す。自分の権利を知る。日記をつける。
危機の時の計画をたてる。
○治療のアクティブパートナーとなる…インフォームドコンセント、アドバンス ディレクティブ。   
       ■アセスメント:問題設定、情報交換
→ゴールセッティング:評価可能な、現実的な、タイムリーなもの
→ディシージョンメイキング:薬、お金、患者の文化を考慮
→モニタリング:症状評価、治療評価  
○幻聴へのコーピング…幻聴日記をつけて、トリガーを知る。幻聴は自分の中にあることを認める。
           自分が幻聴の言う事に反応しなければ害は何もないことを知る。
           庭いじり、音楽、口笛、深呼吸、別の事を話す。
         役に立たない事は…TV、声との議論、酒、引きこもり
○妄想へのコーピング…本当かどうか良く考え直してみる。信用できる人に聞いてみる。
           薬、診察、心理療法、救急 
○病気の理解…メンタルヘルスプロブレムとは?   精神障害、現実検討力、生活適応 
       原因は神経の脆弱性(遺伝)+ストレス(環境)。   再発は繰り返すもの。
        診断? 再発の前兆?  治療者…医師、N s、ケースワーカー、カウンセラー、

20
◎参考 1: 精神病は本当に病気なのか?…精神医学の歴史は 1 9 世紀の、社会的な異常者(辺縁者・非市民)の囲い込
みの現象に始まっている。Kraepelin や Bleuler などの精神医学の創設者たちは、囲い込まれた人の中で、特徴的な精神状
態を類型化していったのであるが、彼らは精神病を脳性梅毒に類似した身体的な病気と信じ、原因は身体的な異常であり
いずれその原因が判明することを疑っていなかった。しかし、その後 1 00 年経つ現在においても、原因は不明のままであ
る。
精神病は本当に病気なのであろうか?そもそも精神が病気になる、とはどういうことなのであろうか?そういったあ
いまいさが常に付きまとうため、精神病(psycho tic illness)、という言葉は余り使われなくなっている。かわって、現代的
にコンセンサスを得た概念として、精神障害(psycho tic disor der)という概念であるが、これは、精神機能の機能不全とい
うことであり、原因を問わずに現象を整理出来るので便利であるが、知的障害や発達障害と同様に、ただレッテルを貼っ
ているだけ、ということでしかない。いずれにしろ実態は曖昧であり続けているのである。
同性愛は昔は犯罪であった。その次には精神病で治療の対象とされていたが、最近は個性ということになっている。ヒ
ステリーは子宮が上昇する為に起る病気とされていたが、フロイドにより性欲の抑圧が原因とされたが、今この病名は消
滅してしまっている。てんかんはギリシア時代は精神病であったが、今はそうは考えられていない。
 精神病が慢性化する理由も不明である。仮説として、中井…回復過程の遷延化、Wing…ホスピタリズム、Krae pelin…後
遺症様状態、Crow…器質性変化等が考えられている。

◎参考 2:Episo de の客観的な定義は難しいが、特徴的な症状変化を伴う適応レベルの急変である。初発 Episo de は


Conra d の Sch ub の定義が良い。再発 Episo de は安定期と相的に区別される初発 Episo de 類似の急性の症状変化と定義
できる。担当医の主観が入るが、それはしかたのないことと考える。
○Episode 期: Conra d の Sch ub (前兆:トレマ→異常意味意識:アポフェニー→乗り越え不能・逆回転→緊張病
状態:アポカリプス→コペルニクス的変換→回復の構造を持つ)が典型的で、全経過は 2 週間~2 ヶ月位であるが、2 年
以上の例もある。臨床的には乗り越え不能とコぺルニクス的変換が大切な指標となる。同じ構造をもつが、持続期間が 3
日~2 週間以内のものを Microsch u b と定義する。数時間乗り越え不能という Episo de も知られているが、筆者はそれを
単発性幻覚妄想状態とした。Sch ub 以外の Episo de には、躁鬱状態、不機嫌・興奮状態、短絡反応(社会的逸脱行為を含
む)がある。これらは確かにアポフェニーという現象はないが、Sch ub と原理的に同じもの、と考えられるからである。再
発 sc hu b は、主治医の見る限りでは明かに初発 Episo de に類似する事態が起っているのであるが、なぜか本人にはそう
理解されない(解離)。再発後安定期にかなりの病識を持ったと判断された例でも、病識は再発に先だって変化してしま
い、再発予防には役立たないようである。患者は同じ声で、同じ姿で、同じ事を話す悪魔に同じように騙されるように見え
る。
非 sc hu b 性の Episo de は現象的には sc h u b ではないが、内容的には彼らの持つ内的な非現実世界(幻覚・妄想)との関
連は明かで、sc h u b 代理の状態と考えられる
人間が精神病的 (Psycho tic) になるある1つの過程があり、その過程の段階的な症状が、非特異的→精神病的
→Schub(幻覚妄想)的→Katato nie と仮定している。
○安定期:Sch ub からの回復が停止し、前後 2 ,3 ヶ月で症状や適応レベルが変わらない状態。Schu b がはっきりしてい
る例では、Sch ub と Schu b の間の時期。
○初期…初発 Episo de から 1 0 年ほど続き、Episo de 期(再発)、安定期の 2 相が繰り返し現れる。症状は教科書的な
Schizo p h re nia や MDI の状態変化であるが、2つの類型の重なる状態は少なくない。シュープ回復中にコンラートの乗
り越え現象が急速に起き、寛解する。安定期では非・精神病者として扱って良い。慢性精神病者としての対応は必要ない
が、再発予防の対策は不可欠である。
○中期…Episo de 期には前景・中心にある異常体験が次第に背景化、辺縁化、浅薄・拡散化、身体症状化すると回復して
くると安定期にはいる。再発回数が進むにつれ安定期からの変化は目立たなくなり、自我違和感も減少してくる。前駆期・
回復期が目立たなくなり、期間も短期になる。Schu b→MicroSch u b→単発性の幻覚・妄想となってくる傾向にあるが、何
回再発しても初発時とまったく同じ状態を示す例も多い。Episo de 期が終わっても現実検討力に問題が残り、慢性精神病
者としての対応が必要になる時期で、症状の合理化・理論化が起り、症状とコーピング、症状と生活態度、症状と病識、が
融合し、家族・地域を巻き込んだ問題が山積するようになる。再発予防と障害受容、生活訓練が必要になる。主治医が妄想
に取りこまれると回復後も治療関係が怪しくなる。精神病の否認になることもある。患者の日常は、リハビリしながら治
療しながら生活をする、という複雑なことになる。○晩期…シュープは形骸化する。良く観察していても Episo de 期と非
Episode 期を区別するのは難しい。筆者が 1,2 時間の不機嫌状態を Episo de と見なすのは、そういった時に以前の再発時
に示したような言動があることが多いからである。安定期は以前は荒廃状態と言われたが、最近は痴呆に類似した認知障
害と捉えることが多い。一見してそれと分かるような常同行為や衒奇症状が目立つケースは少なくなっているが、介護が
難しい例は依然として多い

21

You might also like