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ジェンダーと現代社会I/

④ 労働分野における ジェンダー論入門
202 . 6.10
ジェンダー格差 担当:古久保さくら
1)日本の女性たちの労働状況
 (1)労働力率

本講義の  (2)稼働所得のジェンダー格差
 (3)賃金格差の原因とは

構成  

2)理解度チェック
  
1)日本の女性たちの
労働状況
GGI における
経済分野での
日本評価
経済分野での評価が低い日本
経済分野;
労働力率、
同じ仕事の賃金の同等性、
所得の推計値、
管理職に占める比率、
専門職に占める比率
で評価されている。
=労働状況についての評価低い
では、具体的に日本の労働状況とは?
(1)労働力率
労働力率とは
労働力率とは、
15 歳以上の人口のうち、就業者と完
全失業者の割合を示す。
ちなみに、完全失業者とは、
収入になる仕事を少しもしなかった
人のうち,仕事に就くことが可能で
あって,かつ,職業安定所に申し込
むなどして積極的に仕事を探してい
た人
を意味します。
労働力率についてみてみよう
女性の年齢階級別労働力率の推移をみれば、
  1975 年の労働力率が最も低く、
( 1968 年の方が高いことに注目)
 それ以降、日本の女性たちは
     より一層働くようになっている

参照:
トピック1当時の時代背景
経済や働き方,女性のライフコースを中心に
 
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r
01/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html
女性の労働力率の
OECD 諸国との比較
OECD 諸国と比較すると、
 日本の女性たち
( 15 歳- 64 歳)の労働力率
 は平均以上
「主要国」と
     年齢階級別労働力率を比較すると
スウェーデンやフランスは台形型
 台形型:
  女性たちが子供をもったとしても、
  生産年齢期に仕事し続けているライフコース
  を送る人が多いことを示している。

M 字型が顕著なのは韓国、日本もやや M 字型
  M 字型:
  子育てなどで一時的に労働市場から撤退し、
  かつその後労働市場に復活するライフコース
  を送る人が多いことを示している。  
国内でも
都道府県別で
女性の就業率には
格差がある。
必ずしも都市部で就業率が高い
わけではない
福井県・山形県・鳥取県・
富山県の女性就業率の高さ

神奈川県・兵庫県・奈良県・
大阪府の女性就業率の低さ

=子育て期の女性の就業拡大の
状況は,地域差が大きい
福井や富山の女性労働力率は北欧並み…

三世代同居や親世代との近居、
職住接近などの条件により、
女性が働き続けられる環境が
存在するとして政府は評価。
一方、
「働かざるを得ない」環境という
指摘も。
稼働収入が女性個人の自由に
なっているかにも疑問符があると。
女性労働に対するコロナの影響
女性労働に対するコロナの影響
(2)稼働所得の
ジェンダー格差
男女別平均月額賃金の推移 100 :
74.3
1964 年から 2018 年までの推移において、
高度経済成長期後のほうが男女の賃金水準格差が拡大
2005 年以降やや格差が縮小傾向に見える
資料出所
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
注1
産業計、企業規模計、学歴計の所定内給与額
注2
1975 年以前は民営及び国・公営の事業所の集計、 76 年以降
は民営事業所の集計。 75 年については、時系列比較用の試
算値( 76 年と同じ調査対象で特別集計されたもの)が計算
されている。図では、 1975 年の公表値に加えてこの試算値
を 1976 年の値と接続して掲載した。
注3
1972 年以前はサービス業を除く産業計
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0406.htm
l
年齢階級別賃金をみれば
令和元年において
 男性のピークは
   50 - 54 歳  423.7 (千円)/

 女性のピークは
   50 - 54 歳  275.8 (千円)/

厚生労働省発表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/ro
udou/chingin/kouzou/z2019/dl/02.pdf
学歴別年齢階級別賃金を見れば
男性のピークは(単位千円/月)
大学・大学院卒: 50 - 54 歳  532.2
高専・短大卒: 55 - 59 歳  400.0
高校卒: 55 - 59 歳  349.2
女性のピークは
大学・大学院卒: 50 - 54 歳  399.2
高専・短大卒: 50 - 54 歳  291.5
厚生労働省発表
高校卒: 50 - 54 歳  231.3
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/ro
udou/chingin/kouzou/z2019/dl/03.pdf
(3)賃金格差の原因とは
賃金格差の原因とは
1)勤続年数のジェンダー差
「一般労働者」(右図に説明あり)
 においても女性の勤続年数は
 短い傾向
→ 賃金上昇する=昇進昇格
    の機会にジェンダー差
 ただし、このことが
 ジェンダー差別といえるかは?
同じ勤続年数で昇進昇格のチャンスに違い
があるのであれば「差別」と言えるだろう
が…
賃金格差の原因とは
2)非正規雇用率の男女格差
          ( 2020 年度)
男性 22.2 %、女性 54.4 %非正規
年齢階級別でみれば
男性:
  65 歳以上非正規率際立って高い
  64 歳までなら 8.2 %~ 26.5 %
女性
  65 歳以降非正規率 82.0 %
  64 歳以下でも 27.4 ~ 66.7 %
正規と非正規の違いとは
正規雇用とは:
 雇用主に直接雇用されているもの
 期間を定めないで雇用されているもの
 フルタイム勤務( 1 日 8 時間で週 5 日など)で雇用されているもの

参照:立場の弱い非正規労働者襲う「コロナ禍」 
2020 年 4 月労働力調査など統計にもくっきり
https://mainichi.jp/articles/20200529/k00/00m/020/259000c?fbclid=IwAR2a8WN_
NdiPQGaa7pkp2pP5dwDVNZyam56TJwVy0woCKSluzC5cnrinZAA
正規と非正規の格差とは
日本の非正規雇用者は
1)賃金水準が低い
フルタイム労働者に対するパートタ
イム労働者の賃金水準は 60% 未満
2)正規への移動率が低い
非正規雇用者から正規雇用者への移
動率 20 数%
参照:平成 27 年度年次経済財政報告
=いったん非正規雇用者になると正               P.82 の図
規雇用者になりにくい
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je15/pdf/
p02012_1.pdf
3)コロナパンデミックでも明らかになった非正規職の立場の弱さ
 たとえば、
 ★非正規妊婦に対して、自宅勤務が認められない職場も
 参照:非正規社員襲うテレワーク差別 妊娠、持病ですら認められず
 
https://www.tokyo-np.co.jp/article/31884?fbclid=IwAR13p6j22arzutvPzW9UlFssy2
gWB49_H3wsPDv6wvLYLGOX9UZx0hgTqRc
 ★失職の危険性の高さ
 参照:急増する女性自殺者:
  データが物語る「非正規雇用の雇い止め」との残酷な関係
  フォーサイト - 新潮社ニュースマガジン
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00337_202103190001
すべての人が
「好きで」非正規を
選んでいるわけでは
ない

2018 年第 14 半期で男性の
20.9 %、
女性の 9.6 %は、不本意非正規

状態
  2013 年以降、減少はしている
ものの…

平成 30 年労働経済の分析
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusy
o/roudou/18/backdata/1-2-16.html
女性の非正規率が高いわけ
年齢階級別労働力率における M 字型の特徴でみたように、
日本の場合、子育てでいったん労働市場を離脱しがち
いったん離脱すると、非正規雇用しかない状況

歴史的背景が関連
高度経済成長期の「日本型経営」:
 その特徴として:終身雇用・年功序列型賃金・企業別労働組合
  その前提として、家族賃金制(夫の稼ぎで家族が食べられる水準)の大衆レベルでの確立
 →男性=稼ぎ手/女性=主婦 という位置づけが固定化
 → 1960 年代主婦パートが台頭するが、
   主婦パート=「家計補助」的賃金水準=低賃金が固定化
    =最低賃金水準も低位固定化される傾向に
   子供が学校に行っている時間に働けるシステム=部分的労働=パート労働
    =「景気の調整弁」として扱われるように 
1990 年代半ば以降の非正規拡大
1990 年代以降「日本型経営」は再編される
1995 年日経連が経営改革ビジョン「新時代の日本的経営」を発表
 「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」
                 という 3 種類の雇用形態を提唱
  →「雇用柔軟型」=非正規労働力 の利用を進める
   「非正規労働力」の賃金は、「主婦パート」の賃金水準を基準に
     =「非正規雇用」状態では人生設計しにくい状況に
   女性の多くが(特に育児で就労中断した場合)
                   「雇用柔軟型」の状態に
     =女性の多くが非正規雇用率が高く・賃金が低い状況で固定化 
 
 

非正規雇用を含めた就業所得推計値における
ジェンダー格差はより大きい
大阪府下 A 市の国勢調査から 男女別にみた就業所得の要約統計 

推計した就業所得の
ジェンダー格差(万円/年) 性別  Mean  Median  Gini  N  n  DK  DK.r 

「就業構造基本調査」による
結果よりもはるかに大きい 男  446.7  381.2  0.360  59219  51681  7538  0.127 

就業所得格差が明らかに
女  213.2  170.7  0.411  43743  36656  7087  0.162 

Mean: 平均値
Median: 中央値 Sum  349.8  281.0  0.417  102962  88337  14625  0.142 
賃金格差の
原因とは
3)専門職におけるジェンダー格差
OECD 加盟国の女性医師の割合
2015 年データによると
日本は、医師の女性比率は際立って
低い
医師などにおける
女性比率は

医師
  1976 年 9.4 %→ 2016 年 21.1 %
薬剤師
  1976 年 53.3 %
      → 2016 年 65.9 %
司法分野における
女性比率は

検察官
  1977 年 1.7 %→ 2018 年
24.6 %
裁判官
  1977 年 2.1 %→ 2018 年
21.7 %
弁護士
  1976 年 3.2 %→ 2018 年
18.7 %
「指導的地位」
における女性比率

薬剤師は女性比率高い
国家公務員採用者・
国の審議会委員は1/3以上に
管理的職業
における
女性比率の
国際比較
就業者における女性比率 44.2 %
管理的職業従事者における
       女性比率 14.9 %
ほかの国と比較すれば際立って
低い
(韓国とは類似している傾向)
民間企業の
管理職
民間企業の管理職における
女性比率をみれば、
1989 年以降上昇傾向にある。
とはいえ、
2018 年⇒ 2020 年
係長級で 18.3 %→ 21.3 %
課長級で 11.2 %→ 11.5 %
部長級で 6.6 %→ 8.5 %
賃金格差の
原因とは
研究者における女性比率の国際
比較日本は 15.7% で最下位…
ちなみに
全高等教育を通しての女性教員
の割合は、 2010 年の 19% から
2017 年には 28% にまで上昇し
たにもかかわらず、依然として
OECD 諸国の中で最も低い。
参照:図表でみる教育 2019 年版
http://www.oecd.org/education/
education-at-a-glance/
EAG2019_CN_JPN-Japanese.pdf
国家公務員の管理職

国家公務員の管理職における
女性比率を見れば
係長相当職で 25.0 %
国の地方機関課長・本省課長補佐
相当職で 10.8 %

係長相当職の女性比率データは平
成 27 年からだけですが…
なぜ専門的・管理的職業従事者が少ないのか
・「職業と家庭の両立」の困難
   →「家族とジェンダー」の回に詳しくやります。
・職場文化
  補助的仕事ばかり与えられる→成功へのアスピレーションの低下
  成功のチャンスが少ない現状=ガラスの天井
                 →「積極的格差是正策」の必要性
・女性自身が先回りして「成功」をあきらめてしまう傾向も
 必見: Why we have too few women leaders | Sheryl Sandberg
https://www.youtube.com/watch?v=18uDutylDa4
(字幕があるので安心してみてください)
専門職タイプ 2 型 専門職タイプ 1 型
専門職タイプによる賃金格差 山口一男氏の研究から  
一般に「教育・養育」「医療・保健・看護」「社会 タイプ 2 型以外の専門職
福祉」の分野の専門職を、「人間サービス( human
service )系専門職」という。
これらは理容・美容、家政婦、給仕などサービス労 実は、タイプ 1 型では男性が圧倒的に多く、
働に分類される「個人サービス」とは区別され、前 タイプ 2 型では女性の進出が目立つ。
者は人間の成長やウェル・ビーイングに関する専門
職と考えられている。
女性の進出・活躍の目覚しいのもこれらの人間サー ******************************
ビス系専門職である。
しかしわが国では、これらの人間サービス系専門職
でも、特に地位の高い職種には、男性が圧倒的に多
いという非常に特異な特性がある。
賃金格差を見ると、
具体的には、教育部門で最も地位の高い大学の教員 タイプ 1 型では、相対的に賃金水、かつ、そ
と医療・健康・看護部門で最も地位の高い医師・歯 の賃金においてジェンダー格差準が高くは小
科医師については、他の先進国と異なり、男性割合 さい。
が非常に高い。
タイプ 2 型では、相対的に賃金水準があまり
「人間サービス系専門職」のうち、でかつ最も地位
の高い職(医師・歯科医師、大学教授)を除くタイ
高くなく、かつ男性>>女性というように
プを専門職タイプ 2 型とする。 ジェンダー格差が大きい傾向がある。
賃金格差の原因とは
専門職におけるジェンダーによる「水平分離」
かつ
女性が多い「専門職タイプ 2 型」において賃金水準が低い
 なぜか?:ケアの領域は、近代的ジェンダー秩序においては
            女性がアンペイドワークで担当してきた
 →「専門性」にもかかわらず、賃金評価が低くなる傾向があるのでは?
 参照:竹信三恵子( 2013 )『家事ハラスメント』 岩波新書
(4)職場のハラスメント問題も…
これは来週に。
もっと学びたい
あなたのための情報
・権丈英子「ジェンダーギャップ指数に見る男女の雇用格差」
https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2020/04-4.html
・山口一男「男女の職業分離の要因と結果
         ― 男女平等の今一つの大きな障害について」
https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/19121701_yamaguchi.pdf
・不平等の複雑な問題 東京フォーラム 2019 パラレルセッション「地球時代の不平等」レポート
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z0508_00168.html?fbclid=IwAR3-DhpXU-H3MLsw-BPdq8YQ
o9PQ69mAyeAinbGr5OjUb0cK_wC3nrFH_hM

・本日の資料(各ページに出典がない図表)
内閣府「男女共同参画白書」令和 3 年度を中心に(適宜別の年の情報も参照している)
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html
2)理解度チェック
以下の設問に答え、理解度チェッ
クレポートを提出して下さい。
1)コロナ禍が女性の労働状況に与えた影響についてまとめてください。

2)経済分野のジェンダー格差を解消するために一番必要なこととは何だと
考えますか。

3)授業を受けての感想や考えたことなどを自由に述べてください。

400 字以上、 2000 字未満で提出して下さい。


また「提出」確認ボタンをお忘れなく。

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