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クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

本作は「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二


次創作物です。Call of Cthulhu is copyright ©︎1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ; all rights reserved.

1.はじめに

このシナリオは“クトゥルフ神話TRPG”と“新クトゥルフ神話TRPG”に対応したシナリオ
だ。作りたての探索者、3~4人向けにデザインされている。プレイ時間は探索者の作成時
間を含まずに3時間程度だろう。
また、このシナリオはPC/スマートフォン向けデジタルゲーム『Cthulhu Mythos ADV 闇
に囁く狂気』の特定エンディングの後日譚となっており、ゲームのキャラクターがNPCと
して登場する。セッションは同タイトルをプレイしていなくても問題なく遊ぶことができる
が、キーパー向け情報にはゲームのネタバレが多分に含まれるため注意されたい。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

Steam/DLsite/App Store/Google Playにて配信中


公式ツイッター:https://twitter.com/YSKyouki

2.キーパー向け情報

本シナリオは、とある街を舞台に、ミ=ゴの菌糸に感染した人間がゾンビのように襲ってく
るパニックホラーである。

▼『Cthulhu Mythos ADV 闇に囁く狂気』の概要(ゲームのネタバレあり)


見知らぬ廃病院で目を覚ました主人公が、異形に立ち向かい、謎を解いて脱出を目指すゲー
ムだ。その病院「隠岐津クリニック」では、ミ=ゴの菌糸を人体に植えつけるおぞましい実
験が行われており、主人公(以下『A』とする)はその実験体だったことが明らかになって
いく。本セッションに登場する嘉河レイジもまた、彼の持つ食屍鬼の因子に目を付けられ、
実験の対象とされていた。もう1人の実験体、天沙環ハツミと3人で協力し脱出を目指して
いく。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

▼『闇に嗤う冥王』開始までの出来事(ゲームのネタバレあり)

ゲームとセッションの時系列

ゲームにおいて謎を解けなかった場合、Aは自身に宿ったミ=ゴの菌糸と融和し、ミ=ゴの
王となってしまう(図のEnd2)。このセッションはその後の出来事である。

テレパシーによってミ=ゴたちを統制下に置いたミ=ゴの王は、次いで地上全体をも支配し
ようとする。レイジはAを助けるため、病院内を1人で探索した。そして幸運にも、ミ=ゴ
と融合した人間を切り離すための手段が記録された記憶装置を発見し、これを奪った。レイ
ジは病院内にいるAの元に向かおうとするが、レイジの動きを察知したミ=ゴの王は警戒を
強め、部下のミ=ゴをレイジに差し向ける。レイジは病院から出ざるを得なかった。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

ミ=ゴの王は菌類であるという、自身の種族の性質を強大に発揮させ、その影響を病院外に
も拡大させた。薄赤色をしたカビに似たものが、驚異的な速度で街を覆ったのだ。このカビ
のようなものは異界の菌で構成されたミ=ゴの体組織だ。この菌に侵されたものは、ゾンビ
めいた存在へとなり果ててしまう。街は既にカビによる汚染が広がり、多くの人々がゾンビ
と化していたが、病院近くの山はまだ被害が少なかったため、レイジは山道に入って追っ手
のミ=ゴを撒こうとした。しかし道中、ミ=ゴの電気銃に撃たれて倒れてしまう。ミ=ゴは
レイジを殺したと思って立ち去ったが、食屍鬼の因子を持つレイジの生命力は強く、死には
至らず気絶する程度で事なきを得た(あるいはラヴクラフトの描写にある食屍鬼の『ゴムの
ような肌』とは、すなわちゴムそのものであり、電流に耐性があったのかもしれない)。レ
イジは電気ショックにより、一時的な記憶喪失に陥ってしまう。

そこへ偶然一般人が軽トラックで通りかかる。彼らは街に蔓延るミ=ゴから逃げ、山の奥に
あるキャンプ場へ避難しようと車を走らせていたのだ。善良な彼らは倒れているレイジを車
の後部シートに乗せ、再びキャンプ場を目指した。しかし不幸なことに、助手席にいた人物
はカビの汚染を受けていた。彼らがキャンプ場の駐車場に到着する寸前、助手席の人物が運
転手に襲い掛かってしまう。キャンプ場では街の異変など知る由もない探索者が、平和なバ
ーベキューを楽しんでいるのだった。

3.プレイヤー向け情報

舞台は現代日本、季節は晩秋。友人同士である探索者が、山中にあるキャンプ場にてバーベ
キューを楽しんでいるところから、物語は始まる。
だが楽しい時間は前触れもなしに終わり、代わって神話的恐怖が訪れることとなる。

推奨技能

〈こぶし〉〈キック〉などの近接戦闘(6版)、〈近接戦闘(格闘)〉(7版)。
また、〈医学〉か〈応急手当〉があると心強いだろう。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

4.導入

季節は晩秋。探索者はとあるキャンプ場に来ている。キャンプ場は麓の街から車で1時間ほ
どの山中にある。探索者の他に客はおらず、貸し切り状態だ。探索者以外にキャンプ場にい
る人間といえば、管理棟にいる管理人1人だけのようで、都会の喧騒から離れた探索者は楽
しい時間を過ごしている。
キャンプ場のバンガローを一泊二日で予約した探索者は、今現在、二日目の昼食となるバー
ベキューを楽しんでいる。持参した食材(牛肉、ウインナー、イカ、ホタテ、ピーマン、ニ
ンジンなど)が炭で焼かれており、香ばしく漂う匂いは探索者の鼻孔をくすぐるだろう。

★このシーンではプレイヤー達に自由にロールプレイさせるとよい。調理や食事を楽しむ中
で、探索者たちはお互いの性格などをつかむことができるだろう。

5.異変

そんな探索者の充実したひと時は、唐突に終わりを告げる。一台の軽トラックが、キャンプ
場の駐車場に猛スピードで突っ込んでくるのだ。暴走する軽トラックは探索者と管理人の自
動車に衝突し、車は全て使い物にならなくなる。軽トラックの様子を伺う探索者が〈目星〉
ロールに成功すれば、運転席と助手席の人物の姿を見るだろう。

衝撃音に気づいた管理人が管理棟から飛び出し、軽トラックへと駆け付けていく。管理棟は
キャンプ場と駐車場を挟んで建っているため、探索者よりも管理人の方が早く軽トラックに
辿り着く。間をおかずして、軽トラックの助手席から人影がよろよろと降りてくる。管理人
はその人影に声をかけようと近づくが、人影は突如その首にかじりつく。管理人は首から赤
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

い血を飛び散らせて、その場に崩れ落ちてしまう。管理人に喰らいついたその人影は、体中
が薄赤色に覆われており、その姿はまるでグロテスクなゾンビを思わせる。

医学の知識を持たない探索者であろうと、大きく首をえぐられた管理人はもう手遅れだと一
目で判断できるだろう。異形の存在と人の死を目撃した探索者は1/1D8の正気度ポイント
を失う。管理人に喰らいついていたゾンビは頭を上げ、今度は睨むような視線を探索者に向
けながら近づいてくる。その様を見て〈博物学〉(6版)〈自然〉(7版)や〈知識〉ロー
ルに成功した探索者は、ゾンビを覆う薄赤色をした何かはカビの一種なのではないかと思い
至る。探索者はカビのゾンビに対処しなければならない。戦闘ラウンドが開始される。

▼戦闘ラウンド
ゾンビの耐久力を0にするか、ロープで拘束して無力化することなどで戦闘は終了する。

カビのゾンビ ミ=ゴの菌糸に侵されたもの

・6版データ
STR 12 CON 4 POW 10 DEX 6 SIZ 8 INT 2
耐久力 6 MP 10
DB:±0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)50%、ダメージ1D3+カビの汚染(後述)
回避 5%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D8

・7版データ
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

STR 60 CON 20 POW 50 DEX 30 SIZ 40 INT 10


耐久力 6 MP 10
DB:±0 ビルド:0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)50%(25/10)、ダメージ1D3+カビの汚染(後述)
回避 5%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D8

ゾンビの攻撃手段は噛みつきのみ。
攻撃を受けて1ポイントでもダメージを受けた探索者はゾンビに噛みつかれたことになる。

★キーパーはゾンビに噛みつかれた探索者を覚えておくこと。
(以降、該当探索者を「汚染探索者」と呼ぶ)

〔また、これは重要ではないが、攻撃を受けた探索者は1D4をロールし、噛まれた部位を決
定しても面白いだろう。ダイスの目が1であれば右腕、2は左腕、3は右足、4は左足だ。
部位の差によるペナルティはないが、探索者に負傷した箇所を意識させることで、面白いロ
ールプレイが生まれるかもしれない。〕

★探索者全員がその場から周囲の森に逃げるなどの行動をした場合
〈隠密〉ロールを行う。失敗した探索者はゾンビに見つかり、強制的に戦闘ラウンドが開始
される。全員が成功した場合、ゾンビはフラフラとその場を立ち去ることとなる。

★探索者がこのゾンビを生きたまま無力化した場合
ゾンビは自我を失っているため、意思の疎通は出来ない。持ち物を調べれば、財布に入った
身分証からこの人物の住所が、山の麓の街であることがわかるだけで、それ以外特に得られ
る情報はない。

▼戦闘終了後
汚染探索者がふと自分が噛まれた箇所を見ると、その傷口の異常に気がつく。自身の傷の周
囲が、薄赤色したまだら模様になっているのだ。それはゾンビを覆っていた薄赤色のカビと
同じもののように見える。『ゾンビに噛まれた者は、自身もゾンビになる』。そんな考えが
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

頭をよぎった汚染探索者は、自分に起きた状況に寒気を覚え、1/1D4の正気度ポイントを
失う。

探索者が助手席のゾンビを凌いだのもつかの間、管理人の死体が突然立ち上がり、探索者に
襲い掛かる。探索者が倒れた管理人を警戒していない限り、この攻撃は不意打ちとなるた
め、回避することは出来ない。対象となる探索者はゾンビとなった管理人に噛みつかれるこ
ととなる。この噛みつきによるダメージは1ポイントだ。

管理人ゾンビに1点でもダメージを負わせたり、探索者から引きはがそうと[STR×5]ロ
ール(6版)、STRロール(7版)ロールなどに成功すれば、管理人ゾンビは衝撃で胴体か
ら首がゴトリと落ち、行動不能となる。

★この時点で汚染探索者が1人でもいる場合⇒5-1へ
★この時点で汚染探索者が0人の場合⇒5-2へ

▼5-1
探索者が助手席ゾンビと管理人ゾンビの対処をし終えた後、軽トラックの運転席から1人の
人物が転がり出てくる。この人物は先のゾンビとは違って意識があるが、朦朧としつつ息も
絶え絶えといった様子だ。首からは大量の血が流れている。この人物は探索者の問いかけに
も反応せず、次の言葉を口にする。
「そ、そこに……誰かいるんですか? 街が……変なカビで覆われて……大変なことに……
私達は逃げてきて……。そうだ、山道の途中に……倒れてる人がいて、荷台に乗せたんで
す。……誰か、安全な病院に……」
そこまで言うと、この人物は息絶える。身体を調べれば首が抉れており、その周辺にカビが
生えていることがわかる。

〔運転席の人物はゾンビ化してしまった助手席の友人に、首を噛まれてしまったのだ。そし
てカビによる汚染が進行していると同時に、死に瀕している。そのため視力や聴力の機能が
低下しているため、探索者との意思の疎通が出来ないのだ。〕

★「6.嘉河レイジ」へ進む
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

▼5-2
※このシーンでは探索者の内、最低でも誰か1人を汚染探索者にする必要がある。探索者が
軽トラック助手席のゾンビとの戦闘を難なく突破してしまったり、管理人ゾンビを警戒して
いた場合、5-1のドライバーとの会話イベントは起こらない。代わりにドライバーが即座に
ゾンビ化したものとして、以下のイベントが起こる。

探索者が軽トラックを調べると、運転席にいたはずの人影が姿を消していることに気がつ
く。次の瞬間、いつの間にか背後に迫ったゾンビが探索者に襲い掛かる。虚を突いた行動の
ため探索者は避けることは出来ず、カビに汚染される。
運転席のゾンビは管理人ゾンビと同様、1ポイントでもダメージを負わせたり、襲われた探
索者から引きはがそうと[STR×5]ロール(6版)、STRロール(7版)などに成功すれ
ば、衝撃で胴体から首がゴトリと落ち、行動不能となる。

★「6.嘉河レイジ」へ進む

カビの汚染について

ゾンビの攻撃を受けた探索者は、傷口からカビ(ミ=ゴの菌)に侵されることで、ミ=ゴの
知覚を部分的に得る。汚染は時間と共に広がり、進行するにつれて正気度ロールが課せられ
るが、後述のレイジが持つオブジェの解読を進めることが出来るメリットもある。

汚染探索者の狂気について

本来ミ=ゴはテレパシーで意思疎通をする存在だ。ミ=ゴの菌に侵された汚染探索者は、ミ
=ゴの影響による負の側面が表れる。精神が不安定になってしまった際、自制が効かず、そ
の狂気を周囲に拡散してしまうのだ。
汚染探索者が狂気に陥った場合、正気の汚染探索者も同様の狂気が発症する。複数の汚染探
索者が同時に狂気に陥った場合、狂気の内容は全員が同一のものとなる。汚染されてない探
索者に狂気が感染することはない。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

6.嘉河レイジ

軽トラックへの〈聞き耳〉に成功すると、荷台から浅い呼吸音が聞こえてくる。
荷台を覗くと、20歳ほどの1人の青年が横になっている。

外傷はなく、カビが生えている様子もない。〈医学〉や〈応急手当〉に成功した探索者は彼
が動かず、脈は弱く、呼吸が浅くなっていることから、眠っているのではなく、気絶してい
るのだとわかる。青年の手には金属製と思われるオブジェが大事そうに抱えられている。

オブジェは複雑に入り組んだ幾何学的な立体で構成されており、じっと見ていると遠近感が
乱れ、視覚がおかしくなってしまいそうだ。探索者がオブジェに触れると、探索者の知るど
の言語とも類似しない言葉が、脳内に直接響く。しかし聞いたことのない言語であるにも関
わらず、汚染探索者にはその言葉の意味が断片的に理解出来る。汚染探索者がわずかに認識
できたのは、『菌の放逐』という意味の言葉だ。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

〔このオブジェはミ=ゴ独自の記憶装置で、ミ=ゴの知識を収めてある。神格ダオロスを模
したもので、神の似姿を用いることで、複雑な情報を保存し、膨大な記憶容量を持つことを
可能としているのだ。レイジはこれが手がかりになると考え、病院から盗み出した。ただ
し、ミ=ゴ以外の生物はこのオブジェから情報を得られることは出来ない。ミ=ゴのカビに
汚染された探索者はミ=ゴに近しい存在となるため、シナリオが進むごとに断片的ではある
が、情報が直接流れ込んでくるのだ。〕

探索者が青年を揺り起こそうとすると、彼のポケットから財布が転がり落ちる。財布の中身
を確認すると、理系大学の学生証と病院の保険証などが入っている。学生証を確認すると、
名前は『嘉河レイジ』で、年齢は21歳とある。保険証は『隠岐津(おきつ)クリニック』
という病院のものだ。この病院名を見た探索者は、このキャンプ場へ向かう途中に、その建
物を見かけたことを思い出す。山から降りて、街中をほどなく歩いた場所にある病院だ。探
索者はそこを訪れたことはないが、病院名を携帯端末などで検索すると、ホームページが見
つかる。内容に目を通してもごく普通の病院で、不審な点は見つけられない。

〔本シナリオでは重要ではないが、探索者がより詳細な情報を求めた場合、サイトには『院
長の挨拶』というページがあるため、キーパーはここから院長の情報を与えても良いだろ
う。院長は隠岐津マサミチ、51歳。『幼い頃に大病を患ったことがきっかけで医療の道を
志す』などの来歴と、輝かしい功績が並んでいる。〕

青年の持ち物は奇妙なオブジェと財布くらいしかない。
身体を調べ終えた時点で、彼はハッとした様子で起き上がる。その第一声は
「早く助けないと!」
というものだ。彼は混乱しており、探索者を見るなり
「ここは……どこだ!? なんでこんな所に? あんたらは誰だ?」
と質問する。探索者が事情を話すと
「軽トラの荷台に乗っていた? なんでそんなところに?」
と本人も理解できていない様子を見せる。
青年に対して名前を尋ねたり、身分証を見て名前を知っている探索者が名前で呼びかける
と、困惑した表情で
「名前? ……え? いや、思い出せない……」
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

「嘉河レイジ……? それが俺の名前なのか? そうか……言われてみれば確かにそんな気


がする」
青年のこの言葉を聞いた探索者は彼が一時的な記憶喪失なのではないかと察するだろう。
探索者がレイジの財布を調べていないのであれば、彼自身が自分の持ち物を確認して財布に
気づき、中身を確認する。
「嘉河レイジ……? そうだ、俺の名前は嘉河レイジだ。 こっちは診察券か? 隠岐津ク
リニック……何か嫌な感じがするな……」

彼は自身の頭をさすると、痛みに顔をしかめてうめき声を上げる。
「痛っつ……俺の後頭部どうなってるんだ? なんか……頭を強く打ったような覚えがある
んだが……」
探索者がレイジの後頭部を調べると、熱傷の痕跡を見つける。〈応急手当〉か〈医学〉に成
功すると、大した傷ではないが、感電による外傷だとわかる(これはミ=ゴの電気銃による
ものだ)。これが記憶喪失の原因なのかもしれない。

奇妙なオブジェについて尋ねると、以下のように答える。
「わからない……これはあいつを助けるため、なにか大切なものだったと思う。……あい
つ? あいつって誰だ? わからない……思い出せない」
「でも俺はそいつを助けようとしてた気がする」
「そうだ、思い出した! 街中にカビが広がってるんだ! 俺はそれを解決しようとしてた
……気がする……」
「病院だ。俺は病院に向かうつもりだったんだ。そこに何かがあるはずだ」
「記憶喪失の俺がこんなこと言っても信じてもらえないだろうが、病院に行けば事態を解決
する手段がある……はずだ。悪いが、手伝ってくれないか」

レイジに対して〈心理学〉に成功した探索者は、記憶喪失は演技ではなく、彼自身も混乱し
ていることがわかる。

〔これ以降、レイジも探索者と同行することとなる。キーパーは探索者と同様にレイジのダ
イスロールを行うこと。また、食屍鬼の因子を持つレイジは、ミ=ゴとは相容れない体質で
あるため、彼がカビに汚染されることはない。〕
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

▼嘉河レイジ
(6版)
STR 8 CON 12 SIZ 12 INT 12 POW 6 DEX 10 APP 14 EDU 10 耐久力 12 MP
6
ダメージボーナス:なし
こぶし/パンチ 60% ダメージ1D3+DB
回避 60%
技能:応急手当 50%、鍵開け 40%、隠す 55%、忍び歩き 30%、登攀 50%、図書館 7
5%、目星 35%、跳躍 45%、説得 45%

(7版)
STR 40 CON 60 SIZ 60 INT 60 POW 30 DEX 50 APP 70 EDU 50 耐久力 12
MP 6
DB:+0
近接戦闘(格闘)60%(30/12) ダメージ1D3+DB
回避 60%(30/12)
技能:応急手当 50%、鍵開け 40%、手さばき 55%、隠密 30%、登攀 50%、図書館 7
5%、目星 35%、跳躍 45%、説得 45%

レイジとの会話がひと段落した所で、汚染探索者はゾンビに噛まれた部位が、燃えるように
痒さを増してくるのを感じる。そして無意識のうちに、その部位を強く掻き始めてしまう。
引っ搔くごとに血はじくじくと滲み、雫となって垂れていく。出血するほどの傷にも関わら
ず、不思議なことに痛みは感じない。出血に比例するように薄赤色のカビは広がり、痒みは
どんどん強くなっていく。血をダラダラと流しながらも、傷口を掻く仲間の奇行を見た探索
者は、0/1D3正気度ポイントを失う。
他の探索者がその振る舞いを指摘すれば、汚染探索者はすぐに我に返って掻くことを止める
ことができる。

〔ミ=ゴの体組織であるカビは超常的な存在であるため、汚染探索者のカビを水などで洗い
流したり、〈応急手当〉や〈医学〉を試みて治療を施そうとしても無駄なことだ。カビは既
に汚染探索者の内部にまで侵入している。たとえカビに覆われた皮膚をメスなどで取り除い
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ても、汚染探索者を傷つけるだけで、ある程度時間が経過すればカビは再発してしまう。常
識的な治療ではカビの進行を拡大するだけでなく、治療者にも感染するかもしれない。〕

そんな汚染探索者の様子を見たレイジは、手に持っていたオブジェを差し出し、以下の言葉
を口にする。
「そのカビの治療法なんだが……はっきりしたことは言えないが、この妙なオブジェに隠さ
れてる気がするんだ。そうだ、これは確か病院にあったはずだ。なんで俺がこれを持ってき
たのかは思い出せないが……」
探索者が既にレイジの財布を調べているのであれば、すぐにレイジの言う病院とは隠岐津ク
リニックを指すのだろうと思い至る。
探索者は異変を解決するため、また、汚染探索者は自身の治療法を探るため、隠岐津クリニ
ックに向かわなければならない。車は壊れているため使うことは出来ず、街まで歩いて行く
必要がある。街までは徒歩で3時間ほどだ。

電話やネットの情報について

探索者がスマートフォン等の携帯端末を操作してWebニュースやSNSを確認すると、山の
麓の街が大変なことになっていることが分かる。ニュースでは暴徒化した市民が街を襲撃し
ていると報じられている。SNSではゾンビに似た人物が、人々を襲っている動画や写真など
がアップされている。麓の街だけでなく、周辺の地域でも同じようなニュースやSNSの投稿
が見られる。警察や消防に電話をかけても、呼び出し音が鳴るばかりで電話が出られること
はない。間もなくインターネットと電話は不通となる。
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7.山道

探索者は曲がりくねった山道を歩いていくことになる。道はアスファルトで舗装された下り
坂ではあるものの、探索者に少なからず疲労が溜まっていくだろう。探索者は1時間ほど道
を歩いた位置に、展望台を兼ねた売店があることを思い出し、そこで小休憩が取れるだろう
と考えつく。
そんな探索者の行く道を塞ぐように、10体を越えるゾンビが現れる。探索者は既にゾンビ
に遭遇しているが、中には口にするのもはばかられる、見るも無残な姿となった者もいる。
そんなゾンビの群れを目撃した探索者は0/1D6の正気度ポイントを失う。

〔キーパーはこの正気度ロールによって探索者が狂気に陥った場合、その内容は"一時的狂
気"などを参照せず、『思わず悲鳴を上げてしまう』と処理すること。ここで汚染探索者が
狂気に陥った場合、他の汚染探索者も同様の狂気に陥る。〕

▼ゾンビの群れをやり過ごす
探索者はこのゾンビ達から気づかれず、やり過ごす必要がある。幸いなことにゾンビ達は探
索者に気づいていない。だが、狂気に陥った探索者が悲鳴を上げていれば、気づかれてしま
うだろう。多数のゾンビによって塞がれた道を正面突破しようとするのは無謀な試みだ。迂
回するため、山肌の急な斜面を降りるのが無難な選択だ。探索者は〈忍び歩き〉(6版)、
〈隠密〉(7版)に成功すれば怪物に気づかれずに済み、慎重だが確実に斜面を降りること
が出来る。このロールに失敗した探索者、あるいは狂気による悲鳴で、既に怪物に気づかれ
ている場合は探索者全員は、急いで降りる必要があるため、〈登攀〉ロールをする。成功す
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れば無事に降りることができるが、失敗した探索者は、高く急な斜面を転がり落ちることと
なり、1D4のダメージを受ける。

上記のロールにはレイジも参加する。
レイジの〈忍び歩き〉(6版)、〈隠密〉(7版)は 30%、〈登攀〉は50%だ。

▼道なき道を突破する
探索者が全員斜面を下りると、草木が生い茂った林に出る。幸いなことにゾンビの群れが追
ってくる様子はない。舗装された道に出るには数十メートル歩くことになりそうだ。辺りを
見渡すと、草木や木の葉の所々に、薄赤色のカビが生えていることに気づく。闇雲に進んで
肌を傷つけた場合、カビの汚染を受ける可能性があるだろう。
探索者がこの道なき道を突破するには、[DEX×5]ロール(6版)、DEXロール(7版)
を行う必要がある(レイジのDEXは10(6版)、50(7版)だ)。
失敗した探索者はうっかりカビの生えた草で肌を切ってしまったり、カビを吸い込んでしま
うことで1ポイントのダメージを受ける。この時ダメージを受けた探索者は、汚染探索者と
なる。ここで初めて汚染探索者となった者は、間もなくその傷の周囲の肌が、薄赤色したま
だら模様になっていることに気づくだろう。自身もゾンビになってしまうかも知れないとい
う考えが頭をよぎった汚染探索者は、自身に起きた状況に寒気を覚え、1/1D4の正気度ポ
イントを失う。

この時、キャンプ場で汚染した探索者はふと気が付くことがある。それは自身の傷口の周囲
に、カビが広がっていることだ。状況が悪化していることを理解した汚染探索者は0/1正
気度ポイントを失う。

★このシーンにおいて、探索者が怪物の対処に有効な提案をした場合、キーパーは積極的に
それを採用すると良いだろう。
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8.展望台の売店

林を抜けると、舗装された道に出る。そして目の前には展望台を兼ねる売店がある。周囲に
怪物の姿は見えない。見晴らしの良い展望台では、下界の街の様子を一望できる。しかしそ
れは皮肉なことに、街の不穏な情景を探索者に知らしめることとなる。街は所々に火の手が
上がり、黒い煙がそこかしこで立ちのぼっている。多くの建物が薄赤色で覆われ、上空には
鳥より遙かに大きい、得体の知れない何かが飛び回っている。この世の終わりにも似た光景
を見た探索者は1/1D4の正気度ポイントを失う。

▼望遠鏡
探索者が街の詳細を確認しようと、展望台の望遠鏡を使った場合、〈目星〉に成功すること
で、街全体を覆う薄赤色のカビが、とある建物を中心に密度を増していることに気づく。そ
してその建物の壁面には『隠岐津クリニック』という文字が記されている。
望遠鏡を使った探索者は、〈目星〉の成否に関わらず、街の全景を見た時に上空を飛んでい
た鳥より遙かに大きい存在を目にする。
その大きさは1.5メートルほどで、薄赤色をしており、甲殻類や昆虫に似ていた。キチン質
めいた胴体に、膜のような翼に似た器官と、節足動物のような足が生えている。体表は汚染
探索者の傷口に広がるカビに似ている。望遠鏡越しとはいえ、この世の物とは思えない生物
を目撃した探索者は、0/1D3の正気度ポイントを失う。

★この正気度ロールの結果、探索者は狂気に陥る可能性があるだろう。複数人の汚染探索者
が狂気に陥った場合、キーパーは「5.異変」内の「汚染探索者の狂気について」の項目に従
って処理すること。
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▼売店
売店はショーウインドーとなっている大きな窓から、中の様子をうかがうことが出来る。人
影は見えず、客も店員もいないようだ。店内に荒らされた形跡などは見て取れず、食料品や
土産物などが陳列されている。店内を探せば、傷の手当てに役立つ絆創膏や消毒液などが見
つかるだろう。武器になるものを探すなら、土産物の木刀といったものがあるかも知れな
い。木刀のダメージは1D8+DBだ。
土産物の食料品を口にするなどで一息ついた探索者は、しばらく続いた緊張から解放され
る。それは一時的ではあるものの、探索者の心に安堵をもたらすだろう。探索者の正気度が
1D3ポイント回復する。

レイジは徐々に記憶を取り戻しつつあるのか、この小休憩中に探索者に思い出したことにつ
いて話してくる。
「まだ少し曖昧なんだが、自分のことははっきり思い出したぜ。俺の名前は確かに嘉河レイ
ジだ。21歳、理系大学の三年生だ。バーテンのバイトをやってる。だが、こんな事態が起
きて、単位やバイトどころの話じゃなくなっちまったな」
「それで……俺は確か、病院にいたんだ」
「閉じ込められていて……それから……ああ、思い出せない……」
「とにかく俺はそこから誰かに助けられて……」
「地下に行って……それで……ダメだ、思い出そうとすると、頭が痛くなってきちまう」

探索者が一休みしていると、
得体のしれない言葉が、脳内に直接響く。探索者はその言葉の発生源が、レイジの持ってい
たオブジェだと直感的に理解する。相変わらず聞いたことのない言語であったが、汚染探索
者はその言葉の意味を断片的に理解する。汚染探索者がわずかに認識できたのは、『ユゴス
よりのもの』『ミ=ゴ』『実験』という意味の言葉だ。
この言葉について何か知っていないかとレイジに尋ねた場合、以下のように答える。
「ミ=ゴ? 聞き覚えがあるような……。確か……病院で何かを読んだときに、そこに書い
てあった気がする……」

9.売店の襲撃
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

売店での休憩が終わり、探索者がそろそろ下山を再開しようとする頃、店のショーウィンド
ーを叩く音に驚かされる。窓の外を見ると、4体の異様な存在が立っていた。

ヒト型のシルエットをしており、体はゾンビと同じ薄赤色をしたカビで覆われている。た
だ、指先は甲殻類や昆虫めいたかぎ爪となっており、これまで見たゾンビとは異なってい
た。この怪物はおそらくはゾンビであった存在が変化したのだろう。そのことに気づいた探
索者は1/1D6の正気度ポイントを失う。

かぎ爪ゾンビ

6版データ
STR 14 CON 8 POW 10 DEX 8 SIZ 8 INT 2
耐久力 8 MP 10
DB:±0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)50%、ダメージ1D3+カビの汚染(前述)
回避 5%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D6

7版データ
STR 70 CON 40 POW 50 DEX 40 SIZ 40 INT 10
耐久力 8 MP 10
DB:±0 ビルド:0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)50%(25/10)、ダメージ1D3+カビの汚染(前述)
回避 5%
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D6

〔この怪物は元は人間で、カビによる汚染が深く進行したため、ミ=ゴの姿に変貌しようと
している。しかし知性はゾンビ程度しかない。〕

▼挟み撃ち
窓の外の怪物が敵意を持っているのは明らかで、今にも探索者に襲い掛かろうとしている。
窓にはヒビが入り始めており、このまま店内に留まっていては危険だ。探索者はすぐにこの
場から離れる必要がある。正面のドアから逃げようとすれば、怪物とすぐに出くわしてしま
うため、探索者は裏口から逃げることとなる。裏口へはバックヤードを通る必要がある。
探索者がバックヤードの扉を開けると、そこには店員と思しきゾンビが立っている。

店員ゾンビはすぐに探索者に襲い掛かってくる。それと同時に、ショーウィンドーが割られ
てかぎ爪ゾンビ達が店内に飛び込んでくる。怪物達は素早く、探索者を目がけて迫ってく
る。探索者はバックヤードの店員ゾンビと、ショーウィンドーから侵入してきたかぎ爪ゾン
ビ達との挟み撃ちに合っている状況だ。

▼バックヤードの封鎖
探索者が最後尾の人物を決めずにバックヤードへ入った場合、全員が幸運をロールする。こ
のロールに失敗した探索者の中で、最も出目が高い者が最後尾にいるものとする。
最後尾となった探索者は、売り場とバックヤードを仕切る扉を閉じる必要がある。この探索
者は[STR×5]ロール(6版)、STRロール(7版)を行う。扉のある場所は狭いため、
他の探索者が手助けすることはできない。ロールに成功すれば、問題なく扉を閉めることが
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

出来る。失敗した場合は、扉を閉めることはどうにか出来るが、その直前、探索者の手に怪
物の爪が食い込んでしまい、1D3のダメージを受け、汚染探索者となる。怪物は閉じた扉を
力づくで開けようとするが、すぐさま扉が壊されることはない。しばらくは時間が稼げるだ
ろう。しかし、最後列の探索者は扉を抑えることに専念しなければならないため、他の行動
をとることはできない。バックヤード内の店員ゾンビとの戦闘ラウンドが開始する。

店員ゾンビ ミ=ゴの菌糸に侵されたもの

6版データ
STR 12 CON 4 POW 10 DEX 6 SIZ 8 INT 2
耐久力 6 MP 10
DB:±0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)50%、ダメージ1D3+カビの汚染(後述)
回避 5%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D8、既にゾンビに
遭遇している探索者はこの正気度ロールを行わなくてよい

7版データ
STR 60 CON 20 POW 50 DEX 30 SIZ 40 INT 10
耐久力 6 MP 10
DB:±0 ビルド:0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)50%(25/10)、ダメージ1D3+カビの汚染(後述)
回避 5%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D8、既にゾンビに
遭遇している探索者はこの正気度ロールを行わなくてよい

▼車で山を下りる
店員ゾンビを倒した探索者は、その腰のウォレットチェーンに車の鍵が着けられていること
に気づく。売り場のゾンビ達にいつ扉が破られるかわからない。すぐにこの場を後にするの
が賢明だろう。バックヤードの裏口から外に出ると、1台の乗用車が駐車されている。店員
ゾンビから取った鍵を使えば車を運転出来るだろう。かぎ爪ゾンビ達は皆売り場に留まって
いるのか、周囲にゾンビの姿はない。探索者は車に乗り、売店を離れることが出来る。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

車を進めるほどに山を覆う木々の青々とした色に交じって、薄赤色が目立つようになってく
る。その様は不気味さを醸し出しており、先に進もうとする探索者に胸騒ぎを感じさせるこ
とだろう。そんな探索者の乗る車に複数体のゾンビが迫ってくる。一直線に体当たりをして
くるゾンビを避けるため、運転手の探索者は〈運転(自動車)〉、運転手以外の探索者は
〈ナビゲート〉ロールをする(レイジの〈ナビゲート〉は10%だ)。この時だれか1人で
も成功すれば、ゾンビにぶつからずに進むことができる。全員が失敗してしまった場合、車
と複数体のゾンビが激しく衝突するため、車に乗る探索者全員が1ポイントのダメージを受
ける。車体は損傷を受けるが、運転に支障はなく、ゾンビを引いたまま突き進むことができ
る。

このゾンビ達を突破した探索者は、どうにか下山することができる。

10.崩壊した街

山道を下りた街に入った探索者は、路上のあちこちに人間の死体が、積み木のように折り重
なって積まれているという、凄惨な光景を目にする。死体の様子はどれもが体が潰されてい
たり、切り刻まれていたり、殴打された痕があるなど、様々な外傷を受けている。数々の死
体がそこかしこに倒れている惨状に遭遇した探索者は1/1D4+1の正気度ポイントを失う。
積み木のように積み上げられた死体を見て、〈アイデア〉(6版)、INTロール(7版)に
成功した探索者は、死体の状態からこれらはゾンビに殺されたのではなく、酷く悪趣味な拷
問の果てに、いたずらに殺害されて放置されたと感じる。人体を弄んで楽しむ、おぞましい
知的生物の存在を予感した探索者は、1/1D3の正気度ポイントを失う。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

凄惨な光景に反して、街は不気味なほどに静かだ。時おりゾンビと化した者が路上をさ迷っ
ているのを目撃するが、隠れたり道を迂回するなどで容易にやり過ごすことが出来る。

▼病院へ向かう
そんな中、「グ~」という緊張感のない音が車中に響く。音の方に目を向けると、外を眺め
ていたレイジの腹の音だとわかる。レイジはばつが悪そうに以下のように答える。
「い、いや、すまん、腹が減っちまって……」
「仕方ないだろ、さっきの展望台の売店じゃゆっくり飯を食べてる余裕なんてなかったし、
覚えてないけど、多分ずっとなにも食ってないんだよ」
この際、汚染探索者が〈目星〉に成功した場合、レイジの姿が、涎を垂らした犬に似た怪物
のように見える。だがそれは一瞬のことで、見間違いのように思えるだろう。
レイジは話をそらすように以下の提案をする。
「俺の腹のことはさておき、いいのか? このまま直接病院に行っちまって。何が起こるか
わからないんだ。役立つものを用意していった方が良いんじゃないか?」

★このシーンでは探索者が怪物に襲われるなどの危険なイベントは起こらない。探索者が向
かうのは隠岐津クリニックだが、その途中にコンビニやホームセンター、あるいは探索者が
必要とするものがある施設などに寄って装備品を整えたり、傷の手当てを行うと良いだろ
う。キーパーは、寄り道をすることで怪物に襲われるリスクは生じないと、プレイヤーに説
明してよい。プレイヤーが持ち物の準備に時間をかけ過ぎるようであれば、この後のシーン
でも幸運ロールに成功すれば、任意の準備をしていたということにしても構わない。

探索者が装備品の調達の最中や、あるいは直接病院に向かう道中、得体のしれない言葉が探
索者の脳内に直接響く。その発生源は言うまでもなく、奇妙なオブジェだ。これまでは断片
的な情報だったが、今回はかなり具体的な文章として、汚染探索者はその言葉を知覚でき
る。それは以下のような内容だった。
『思想を統一し、情報を共有し、行動を一元化するのが、我々全ての個体の正しい姿だ』
『だが我々を支配下に置く個体が現れた』
『≪菌の放逐≫の儀を行わなければならない』

オブジェの情報の後、レイジはまた記憶を断片的に取り戻す。そして、その内容を探索者に
話してくる。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

「なあ、思い出したことがあるんだが……」
「またはっきりとしたことじゃなくて悪いんだが、俺は病院で何かを見た……。それがあま
りに恐ろしくて、俺は逃げ出したんだ。……地下だ。病院の地下に何かがある……」
「あいつは、俺を助けてくれたんだ。名前も、男だったのか女だったのかも思い出せないが
……とにかく、今度は俺があいつを助けないと……」

さらにこの時、汚染探索者はふと気が付くことがある。自身の体にびっしりとカビが広がっ
てきていることだ。状況が悪化していることを理解した汚染探索者は0/1正気度ポイント
を失う。

11.病院

目的地である隠岐津クリニックは、薄赤色の建物となっているが、近くで見れば壁面が全て
カビで覆われていると分かる。建物以外にも、地面や敷地内に植えられた植物までもが薄赤
色に染まっている。周辺の建造物に比べても病院のカビの量は尋常ではなく、明らかにこの
場所が異変の発端の地だと察することができる。

敷地の外から建物の様子を注視しただけでも、正面入り口には多数のゾンビの姿が確認でき
る。見つからずに入るのは至難の業だろう。それを見たレイジは裏口から入ることを提案す
る。
「あんなにゾンビどもがいるんじゃ、正面入り口を強行突破するのは流石に難しいだろう。
俺は裏口を使って病院を出てきたんだと思う。そっち側のゾンビどもは手薄だった記憶があ
る」
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

▼裏口から侵入する
探索者がレイジの助言に従い、病院の裏手に回ると、裏口の扉は閉められている。ガラス窓
などはなく、中の様子を見ることは出来ない。扉はオートロック式で、カード認証で開ける
タイプの電気錠となっている。もちろん、探索者はそのカードを持っていない。内側から開
けるのに鍵は不要だったため、レイジは扉がオートロック式の電気錠だと気づかなかったの
だ。
この鍵を開けるには、〈鍵開け〉〈電気修理〉などに成功する必要がある(レイジの〈鍵開
け〉は40%だ)。[STR×5]ロール(6版)、STRロール(7版)に成功することで、無
理やりこじ開けることも出来るだろうが、大きな音を立ててしまい、それに気づいたゾンビ
が背後から襲ってくる。このゾンビを戦闘で倒しても良いが、余計な戦闘を避けたい探索者
が[DEX×5]ロール(6版)、DEXロール(7版)に成功すれば、すぐさま建物内に入
り、扉を閉めることができる。失敗した探索者は扉の外に締め出されてしまうかもしれな
い。そうなった場合、ゾンビの攻撃を受けることになるだろう。

▼鼻のゾンビの襲撃
探索者が建物内に入ると長い廊下が続いており、左右には幾つかの扉がある。病院内は外壁
に比べて薄赤色のカビは少なく、不気味なほど静かだ。
裏口から入ってすぐ近くの扉には、『薬剤室』というネームプレートが貼られている。扉は
開け放たれており、廊下にいても中の様子をうかがうことが出来る。薬剤室に怪物はいない
が、部屋で乱闘があったのか、床には血がべったりと付着している。薬品の多くがあちこち
に散らばっており、無傷のものは少ない。医学に心得のある者、あるいは知識量が豊富な探
索者であれば、何か役立つものを見つけられるかもしれない。
薬品棚を見た探索者が〈医学〉か、〈薬学〉(6版)〈科学(薬学)〉(7版)、知識ロー
ルなどに成功すると、無傷の状態のアンモニアの薬瓶が落ちているのを見つける(レイジの
知識は50%だ)。失敗した探索者は、まだ探す余地はありそうだと感じるだけで、何も見
つけられない。

探索者が薬剤室を調べるロールを行うか、あるいは薬剤室に入らず先を急ごうとすると、
『眼科』と記された扉からゾンビが飛び出してくる。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

そのゾンビはこれまで見てきたものと比べて、異質な容姿をしていた。体表を覆うカビは
所々肥大化し、人としてのシルエットが失われている。目はカビに埋もれており、肥大化し
た鼻をクンクンと鳴らして嗅ぎまわっていることから、嗅覚で周辺の状況を感知していると
思われる。そして鼻先を探索者に向けたかと思うと、口の端を醜く吊り上げてこちらに向か
ってくる。異様な姿のゾンビを見た探索者は1/1D6の正気度ポイントを失う。

鼻のゾンビ

6版データ
STR 14 CON 4 POW 10 DEX 8 SIZ 4 INT 2
耐久力 4 MP 10
DB:±0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)70%、ダメージ1D3+カビの汚染(前述)
回避 5%
聞き耳 90%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D6

7版データ
STR 70 CON 20 POW 50 DEX 40 SIZ 20 INT 10
耐久力 8 MP 10
DB:±0 ビルド:0 移動:8
近接戦闘(噛みつき)70%(25/10)、ダメージ1D3+カビの汚染(前述)
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

回避 5%
聞き耳 90%
正気度喪失:カビに汚染されたゾンビを見て失う正気度ポイントは1/1D6

鼻のゾンビに対して戦闘を試みた場合、戦闘ラウンドが開始される。ゾンビの耐久力を0に
するか、ロープなどで拘束して無力化するか、後述のアンモニア瓶を使うことなどで戦闘ラ
ウンドは終了する。

先ほど薬剤室で探索者がアンモニアの薬瓶を見つけていた場合、薬瓶を鼻のゾンビに投げつ
けて割るなどして、ゾンビの嗅覚を惑わす行動を取れば、その隙を突けるだろう。賢明な探
索者は鼻が肥大化して嗅覚が鋭くなったゾンビには、強力な刺激臭を放つアンモニアが有効
だと思いつくかもしれない。このことは〈アイデア〉(6版)INTロール(7版)で気づけ
るとしても良いし、レイジにそのことを言わせてもよい(レイジは嗅覚が鋭いので気が進ま
ない様子で提案する)。
薬瓶を割ったり、投げつけるだけであればダイスロールは不要だ。鼻のゾンビはアンモニア
の強力な刺激臭に耐え切れず、その場でもがき始める。鼻のゾンビはしばらくの間、無力化
されて探索者はこの場を突破することが出来る。レイジは鼻をつまみ、いち早く部屋から出
ていくだろう。

アンモニアの薬瓶を見つけていない探索者は、薬棚を調べるロールを何度でも行うことが出
来るが、戦闘中であればロールには1ラウンドの時間を要するため、その間に鼻のゾンビは
探索者を攻撃するだろう。

鼻のゾンビをやり過ごして先を進むと、地下に降りる暗い階段が現れる。レイジは階段を前

「この先に何かがあるはずだ……。多分、カビの元凶になった奴が……」
とつぶやく。探索者は光の届かない地下へと、慎重に降りていくことになる。

▼植物ゾンビの突破
階段の踊り場には奇妙なものが立っていた。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

大きさは1メートルほどで、背の高い植物を思わせる。しかしその表面は甲殻類や昆虫のキ
チン質に似ており、その薄赤色は今まで見てきたカビと同じだった。頂部は花弁のような形
状になって脈動し、中央の穴から断続的にカビを巻き散らしている。空気中に広がったカビ
は踊り場周辺の床に積もり、足を踏み入れればくっきりとした足跡が残るだろう。怪物の床
に面した部分は、根が這うようにぴったりと張り付いていたため、移動して襲い掛かってく
るようには見えない。しかしそのグロテスクな存在は、これまで異常な存在を見続けた探索
者であっても、その身の毛をよだたせるには十分だった。この怪物と遭遇した探索者は0/
1D3の正気度ポイントを失う。

探索者が服の袖で口を覆うなどしても、カビの悪臭は強く鼻を刺激してくる。探索者はこの
正体不明の菌類に常識は通じず、並みのマスク程度では気休めにしかならないことに気づく
だろう。カビが充満した場所を進むには、息を止め続けなければならない。探索者が階段を
降りるまで息を止め続けるには[CON×5]ロール(6版)、CONロール(7版)に成功
する必要がある(レイジのCONは12(6版)、60(7版)だ)。成功した場合、無事に階
段を降り切ることが出来るが、失敗した場合はカビを吸い込むことで1D3ダメージを受け
る。また、汚染探索者でなければカビの汚染を受ける。

この怪物を観察した探索者が〈アイデア〉(6版)INTロール(7版)に成功した場合、探
索者の発する声や足音に反応して、頂部からカビが噴霧されていることに気づく。つまり、
しばらく音を立てずに待ち、空気中のカビが薄くなった時点で静かに階段を降りれば、ここ
を突破出来るということだ。この場合、階段を降りる探索者全員が〈忍び歩き〉(6版)
〈隠密〉(7版)に成功する必要がある(レイジの〈忍び歩き〉(6版)、〈隠密〉(7
版)は30%だ)。探索者のうち誰か1人でも失敗した場合、探索者は前述と同様に[CON
×5]ロール(6版)、CONロール(7版)を行う。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

階段を降り切れば、カビの霧の影響下から逃れることが出来る。踊り場を振り向いて見て
も、怪物は静かにカビを噴霧するのみで、追ってくるような様子は全くない。

12.クライマックス

地下を降りた通路の先には、扉が一つだけあった。その扉の隙間からは薄赤色のカビが漏れ
るように周囲の壁に伸びている。
その時、探索者の脳内に直接、奇妙なオブジェから言葉が響く。それは以下のような内容だ
った。
『菌を放逐させるには、精神を集中させ、次の文言を複数回唱えること。
よぐ・そとーす おえうく はくむん
うくむ ゔぉす るおど ぶつぬ はくす
ざいくぉずくめあく えあくむる』

〔≪菌の放逐≫の詳細は後述する。現時点でこの呪文を唱えても効果はない。〕

▼椅子に座った人物
扉を開けるとそこには薄赤色のカビで覆われた、異様な光景が広がっていた。広い空間に、
4つの石柱がそびえ立っており、中央には石造りのモノリスがある。モノリスの下には、薄
赤色のカビで構成された椅子に座る人物がいた。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

頭部はシーツに覆われているため、その表情を推し量ることは出来ない。そのシーツの隙間
からキノコのようなものが枝分かれし、うねうねと這うように頭上へと伸びている。表面は
甲殻類に似ており、枝分かれした内の一つに口腔と思われる器官が備わっていた。

椅子に座った人物から生えるキノコは口を開き、探索者に語り掛けてくる。
「やあ、いらっしゃい」
「外で起きていることは大体わかっているよ。僕らにはそういう機能が備わっているからね。
些末なことを除けば、大抵の情報はここ座っていても得られるんだ」
「僕らは石を掘るしか能がない宇宙人さ。ただ僕はちょっと特別なんだ」
「僕のことかい? この世界をこんな風に変えた張本人と言えばいいかな?」
「なんでこんなことするのかって? そりゃあ楽しいからさ。人間の脳みそを生きたまま取り
出して、死なない場所を狙って針を刺したり、積み木みたいに死体を積んで崩したり、そんな
遊びが大好きなんだ」
「僕はこの地下で静かに暮らしながら、この星が僕に支配されていく光景を眺めているという
わけだ。椅子の座り心地も悪くないしね」

レイジ「あいつの声で変なことしゃべってんじゃねぇぞ……。お前をブチ倒して、あいつを取
り戻す……」

「ふふ、レイジか。君は何か勘違いをしているようだね」
「それに君達、菌に汚染されているね? 大方、僕を倒せば全て丸く収まる……なんてこと
を、そこのレイジにでも言われてノコノコついてきたのかな? まあ、確かにそれは正解だ」
「僕を倒せば菌は死滅し、君達の汚染も浄化されるだろうね」
「でも残念ながらそれは不可能だ。とてもじゃないが、君達程度では僕を倒すことなど到底で
きない。お帰り願いたいところだが、また舞い戻って来られても迷惑だしね。君達にはここで
死んでもらおうかな」

その時、モノリスの周辺の床を覆っていたカビがもぞもぞと蠢き始める。菌は粘土細工のよ
うに奇怪な形を取り、複数の怪物の姿となった。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

その大きさは1.5メートルほどで、甲殻類や昆虫に似ていた。キチン質めいた胴体に、膜の
ような翼に似た器官と、節足動物のような足が生えている。鉤爪となった鋭い足に引き裂か
れれば、手ひどいけがを負うのは間違いない。体表は汚染探索者の傷口に広がるカビに似て
いる。とてもこの世の物とは思えない生物に遭遇した探索者は、0/1D6の正気度ポイント
を失う。

★ここで汚染探索者が狂気に陥った場合、他の汚染探索者も同様の狂気に陥る。この時、一
時的狂気に陥った探索者は1D3をロールし、狂気の内容を下記の表から決定する。狂気の時
間は1D3ラウンド続く。狂気に陥った汚染探索者が複数人いた場合、全員が同じ狂気の内容
となる。
1.ヒステリーを起こして感情を爆発させる。
2.心を落ち着けようと、一心不乱に祈り続ける。
3.恐怖のあまり、金切り声を上げ続ける。

▼ミ=ゴとの戦闘
ここで現れるのは本来の姿を取ったミ=ゴだ。ミ=ゴの出現と同時に戦闘ラウンドが開始さ
れる。ミ=ゴは探索者の人数より1体多い数で現れ、探索者とレイジに襲いかかる。これら
のミ=ゴを倒すことは出来るが、すぐに床の菌糸から新たなミ=ゴが作られるため、時間稼
ぎにしかならない。

ミ=ゴ

6版データ
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

STR 10 CON 10 POW 13 DEX 20 SIZ 10 INT 13


耐久力 10 MP 13
DB:±0 移動:7 /飛行 9
ハサミ 45%、ダメージ1D6
正気度喪失:ミ=ゴを見て失う正気度ポイントは0/1D6

7版データ
STR 50 CON 50 POW 65 DEX 100 SIZ 50 INT 65
耐久力 8 MP 10
DB:±0 ビルド:0 移動:7 /飛行 9
近接戦闘(かぎ爪)45%、ダメージ1D6
正気度喪失:ミ=ゴを見て失う正気度ポイントは0/1D6

この状況を打開する方法は、オブジェより得た≪菌の放逐≫を唱えるのが最も有効だ。探索
者はミ=ゴの攻撃を交わしつつ、呪文を唱えるための[POW×5]ロール(6版)、POW
ロール(7版)に成功しなければらない。狂気に陥っている探索者はパニック状態になって
いるため、≪菌の放逐≫を唱えることは困難だろう。6版はPOWロール-20%のペナルティ
を受ける。7版はPOWロールにペナルティダイスを1つ加える。探索者がレイジに≪菌の
放逐≫を教えていれば、彼も呪文の詠唱に加わる(レイジのPOWは6(6版)、30(7版)
だ)。

呪文を唱え始めると、キノコのような存在は
「なんでお前らがソレを知ってるんだよ!?」
と、うろたえた様子を見せる。

≪菌の放逐≫を成功させた時点で戦闘ラウンドは終了する。

菌の放逐

コスト:2D3マジックポイント、1D3正気度ポイント
必要時間:1ラウンド
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

呪文が効果を表すには、術者がPOWロールに合計(探索者の人数)回成功しなければなら
ない。複数の術者がこのロールに参加してよい。
POWロールに失敗した場合、マジックポイント、正気度は減少しない。

〔≪菌の放逐≫に関して、6版の場合はコストのマジックポイントを払う際、2D3のロール
結果が探索者の残りマジックポイントより高くても唱えることは出来るものとする。その場
合、探索者はマジックポイントが0になり、呪文を唱えた後に気絶する。7版の場合はコス
トのマジックポイントが足らない際、耐久力で代用される。〕

★≪菌の放逐≫を成功させられず探索者が行動不能になった場合⇒エンディング.Cへ

探索者が(探索者の人数)回POWロールに成功すると、部屋全体に広がっていた薄赤色の
カビが洪水のように溢れ出し、空間全体を埋め尽くしていく。探索者は菌の奔流に飲み込ま
れ、次第に意識を失っていく。この時、探索者は全員汚染探索者となる。「13.エンディン
グ」へ進む。

13.エンディング

探索者はたった1人、奇妙な浮遊感の中で目覚める。360°の全周囲に薄赤色のカビが広が
っており、仲間の姿はない。まるで菌で構成された球体の中心に、自分1人が浮かんでいる
ような光景だった。重力の感覚もなく、どちらが上下なのかも分からない。辺りを見回すと
いつの間に現れたのか、先のキノコが目の前にいた。椅子に座っていた人物の姿はない。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

「呪文が成功したと思ったかい? 残念だったね。僕はこうして生きている。君達は失敗し
たわけだ」
「今僕は君の精神に直接語りかけている。君はカビに汚染されているんだろう? 僕は全て
のカビ……つまり全てのミ=ゴの菌にアクセスできるんだ。だからこういう空間を疑似的に
作り出して、君とお話することも可能なんだよ」
「まあそんなことはいいんだ。あまり時間もないことだし、さっさと本題に入ろうか。この
ままだと君は汚染が進んで、化け物になってしまうという話だ」
「君も外で見てきただろう? 君達の言葉で言うところの……なんだったかな……ああ、そ
うそう、ゾンビだ。君はそのゾンビになりつつある。困ったねえ」
「そこで、取引しようじゃないか。君には二つの選択肢がある。意志を持たないゾンビと化
し僕の手駒となるか、僕と一つになって世界を支配するかだ」
「もちろん君の自我は残してあげるよ。お互いの信頼がなければ、一つになることはできな
い。一応君の自由意思を尊重しているんだよ。僕は優しいだろう?」
「では改めて、もう一度聞こうか。このまま黙って哀れなゾンビとなるか、僕と一つになっ
て世界を支配するかだ」

★このシーンでは、ミ=ゴはそれぞれの汚染探索者に対して別々に語りかけているのだが、
ほぼ同時に起きていることでもある。上記のミ=ゴの問いかけの後、キーパーはプレイヤー
同士に相談をさせず、それぞれの探索者自身の選択としてミ=ゴの問いに答えてもらおう。
〔結論から言ってしまえば、このミ=ゴと一つになる提案を拒否するのが正解だ。ミ=ゴは
嘘をついている。呪文は成功したため、探索者がゾンビ化する心配はない。また、呪文の効
果によりミ=ゴは元の宿主(椅子に座っていた人物)から切り離され、この宇宙とは異なる
次元へと放逐されようとしている。それを防ぐため、ミ=ゴは新たな宿主として探索者に取
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

引を持ちかけているのだ。ただし、寄生するためには、放逐しようとしている探索者全員が
このミ=ゴを受け入れなければならない。探索者の誰か1人でも拒否すれば、ミ=ゴの目論
見ははずれ、放逐は成功することとなり、“エンディング.A”へと移行する。全員が受け入れ
てしまった場合、ミ=ゴは探索者の身体を乗っ取り、“エンディング.B”へと移行する。〕

探索者がミ=ゴと一体化する選択すると、ミ=ゴは
「なるほど、素晴らしい。いやあ、君は聡明な人間なんだね。君の仲間もそうだといいんだ
けど」
と言って会話を切り上げる。

探索者がミ=ゴと一体化することを拒否すると、ミ=ゴは
「なんて人間はこうも愚かなんだ! こんな会話なんて無意味だ!」
と言って会話を切り上げる。

探索者が選択を迷ったり、どちらの選択も選ばなかった場合、ミ=ゴは
「もういい。他の奴に聞こう」
と会話を切り上げてしまう。精神世界での会話とはいえ時間は有限であり、完全に放逐され
る瞬間が迫っているミ=ゴは焦っているのだ。この探索者はミ=ゴの提案を拒否したものと
して扱う。

探索者が提案を受け入れようとする際、なんらかの条件を付けるかもしれない。その条件に
ついてミ=ゴは
「それで構わないよ」
「まあそれは考えておこう」
などと、肯定する返事をするだろう。しかしどのような条件であろうとも、ミ=ゴにとって
は探索者と一体化してしまえばいつでも反故に出来てしまう。ミ=ゴは嘘を付き、口約束す
るだけで、最初から探索者の条件を飲むつもりなどない。

全ての探索者が答えを選んだ後、再び探索者は意識を失っていく。

★探索者の誰か1人でもミ=ゴとの融合を拒否した場合⇒エンディング.Aへ
★探索者全員がミ=ゴとの融合を受け入れてしまった場合⇒エンディング.Bへ
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

エンディング.A
クライマックスで探索者の内1人でもミ=ゴの提案を拒否した場合、このエンディングとな
る。

探索者はレイジの呼びかける声で意識を取り戻す。
「おい、しっかりしろ!」
探索者が体を起こすと、部屋を覆っていたカビは黒い色へと変色していることに気づく。自
分達の身体を確認すると、肌に広がっていたカビも消えている。レイジはカビの椅子に座っ
ていた人物を揺さぶって起こそうとしている。その人物の息はあるようだが目覚めそうにな
い。キノコやカビなどが付着しているようには見えず、外傷もないようだ。
「息はあるみたいだが、起きそうにない。こいつはきちんとした病院で診てもらわないと」
「コイツはきっと、ミ=ゴって奴に操られてたんだろう」
「ともかく、ここから出よう。外の様子がどうなっているのかを知りたい」

〔レイジは菌に飲み込まれた時点で、そのショックにより記憶を取り戻している。〕

レイジに呪文を唱えた後のことを尋ねれば、以下のように答える。
「例の呪文を唱えた後、カビが部屋中に溢れ出したろ。その時俺は気を失ってたみたいで、
起きたらお前らも倒れてたんだ」

〔ミ=ゴはレイジには交渉を持ち掛けていない。〕

探索者が外に出ると、街を覆っていた薄赤色のカビが黒ずみ、ゆっくりと霧散していく光景
を眺めることが出来るだろう。しかし山積みとなった死者はそのままであるため、万事解決
というわけではない。わずかに救いがあるとすれば、これは後日分かることだが、薄赤色の
カビが広まっていた地域は思っていたより狭く、この街とその近辺だけであったことだ。街
の復興には、かなりの時間を要するとはいえ、探索者がいなければ、被害はより広範囲に広
がっていたことは間違いない。

探索者たちに礼を言うレイジ。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

「ありがとな。アンタたちがいなかったらコイツを助けることはできなかった」
「バーテンのバイトをしてるって話、したよな? よかったら、俺が働いてる店に遊びに来
てくれよ。オーナーがいない日ならサービスするぜ」
レイジはバイトしているバーのショップカードを探索者に手渡す。
「まぁ、街が大変なことになっちまったから落ち着いたらだな。もう1人、探したいやつも
いるし……」
「探したいやつ」について尋ねると
「もう1人いるんだ、病院で出会った仲間が。あんな元気なやつがくたばってるワケねぇ。
絶対探し出す……」
レイジは自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと、「じゃあな」と一言告げて、カビの椅
子に座っていた人物を背負い、その場を後にするのだった。

悪夢のような病院から生還し、被害の拡大を未然に防いだ探索者は2D10の正気度ポイント
を獲得する。

エンディング.B
クライマックスで探索者全員がミ=ゴの提案を受け入れた場合、このエンディングとなる。

ミ=ゴの意識が探索者の精神に侵入してくる。脳がまさぐられるような不快な感覚はしばら
く続いたが、ふと気がつくと、探索者はカビで構成された椅子に腰かけていた。探索者はす
ぐにその視点が、例のシーツを被っていた人物と同じものだと気がつく。足元には自分達の
肉体が転がっている。全身が薄赤色のカビで覆われた身体はピクリとも動かず、呼吸をして
いる様子もない。それは明らかに死体だった。レイジも倒れていたが、まだ意識はあるよう
で、呼吸を荒げながら這ってこちらへと進んでくる。
「くそ…っ!そいつらを……アイツを……返せ……!」
いつからいたのか、一体のミ=ゴが現れ、虫の息となっているレイジの喉にその鋭いかぎ爪
を突き刺す。探索者は動こうとするが、指先一つ動かすことは出来ない。唯一出来た行為
は、声を上げることだけだったが、それは喉から発せられるものではなく、心の声だった。
声はテレパシーのように、探索者同士に通じ、意思の疎通が出来る。
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

間もなく探索者は気づく。これはテレパシーなどではなく、自分達はひとまとまりのカビと
なり、意識をやりとりしてるだけに過ぎないのだと。探索者が何を言おうとも、あの取引を
持ち掛けたキノコが返事をすることはない。探索者は騙されたのだ。探索者は何の自由もな
く、死ぬことも出来ず、この薄暗い地下で地上が滅んでいく様を、永遠に見続けさせられる
のだった。

エンディング.C
≪菌の放逐≫を成功させられずに探索者が行動不能になってしまった場合、残念ながら事態
を覆す手段はない。キノコのような存在の邪悪な笑い声が響く中、探索者は永遠に意識を失
うこととなる。

「闇に嗤う冥王」©︎2022 Gotcha Gotcha Games

2023年2月15日発行

▽シナリオ、敵イラスト、アイコン
九畝くぜ https://twitter.com/kuzunouraha

▽嘉河レイジイラスト
TAKOLEGS https://twitter.com/takolegs

▽編集・発行
株式会社Gotcha Gotcha Games

▽参考文献
『クトゥルフ神話TRPG』、『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』
クトゥルフ神話TRPGシナリオ 「闇に嗤う冥王」

本シナリオの無断転載 ・ 複製およびインターネットへのアップロード、オークションへの
出品等は禁止しています。
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プレイ動画を作成することは問題ありません。その際は概要欄に以下のテキストを掲載願い
ます。

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「闇に嗤う冥王」©︎2022 Gotcha Gotcha Games

▽シナリオ、敵イラスト、アイコン
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▽嘉河レイジイラスト
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▽編集・発行
株式会社Gotcha Gotcha Games

本シナリオはPC/スマートフォン向けデジタルゲーム
「Cthulhu Mythos ADV 闇に囁く狂気」の特定エンディングの後日譚です。
一部ゲームのネタバレを含みます。

「Cthulhu Mythos ADV 闇に囁く狂気」


https://twitter.com/YSKyouki
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